説明

アゾ化合物、インク組成物、記録方法及び着色体

【課題】インクジェット記録用、筆記用具用として用いた場合、記録物の耐光性、耐オゾンガス性の堅牢度、かつ水を主要成分とする媒体に対する溶解性に優れ、記録画像がブロンジングを起こさず、記録液としての保存安定性が良好な黒色の化合物及びそれを含有するインク組成物の提供。
【解決手段】下記式(1)で表されるアゾ化合物又はその塩、それを含有するインク組成物
【化34】


(式(1)中、R1及びR2はそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、カルボキシル基、スルホ基、スルファモイル基等)を、
mは0又は1を、
nは0又は1を、
Xはスルホ基を、
Aは置換フェニル基又は置換ナフチル基(置換基として、ハロゲン原子、シアノ基、カルボキシル基、スルホ基、スルファモイル基等をもつ)を、
それぞれ表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なアゾ化合物又はその塩、これらを含有するインク組成物およびそれによる着色体に関する。
【背景技術】
【0002】
各種のカラー記録法の中でも代表的方法の一つであるインクジェットプリンタによる記録方法は、インクの小滴を発生させこれを種々の被記録材料(紙、フィルム、布帛等)に付着させ記録を行うものである。この方法は、記録ヘッドと被記録材料とが直接接触しないため音の発生が少なく静かであり、また小型化、高速化が容易という特長の為近年急速に普及しつつあり、今後とも大きな伸長が期待されている。従来、万年筆、フェルトペン等用のインク及びインクジェット記録用インクとしては、水溶性染料を水性媒体中に溶解した水性インクが使用されており、これらの水性インクにおいてはペン先やインク吐出ノズルでのインクの目詰まりを防止すべく一般に水溶性有機溶剤が添加されている。そしてこれらのインクにおいては、十分な濃度の記録画像を与えること、ペン先やノズルの目詰まりを生じないこと、被記録材上での乾燥性がよいこと、滲みが少ないこと、保存安定性に優れること等が要求される。また使用される水溶性染料には特に水への溶解度が高いこと、インクに添加される水溶性有機溶剤への溶解度が高いことが要求される。更に、形成される画像には耐水性、耐光性、耐オゾンガス性、耐湿性等の画像堅牢性が求められている。
【0003】
これらのうちで、耐オゾンガス性とは、空気中に存在する酸化作用を持つオゾンガスなどが記録紙中で染料に作用し、印刷された画像を変退色させるという現象に対する耐性のことである。オゾンガスの他にも、この種の作用を持つ酸化性ガスとしては、NOx、SOx等が挙げられるが、これらの酸化性ガスの中でもオゾンガスがインクジェット記録画像の変退色現象をより促進させる主原因物質とされている。写真画質インクジェット専用紙の表面に設けられるインク受容層には、インクの乾燥を早めまた高画質でのにじみを少なくする為に、多孔性白色無機物等の素材を用いているものが多く、このような記録紙上でオゾンガスによる変退色が顕著に見られる。この酸化性ガスによる変退色現象はインクジェット画像に特徴的なものであるため、耐オゾンガス性の向上はインクジェット記録方法における最も重要な課題の1つとなっている。
【0004】
今後、インクを用いた印刷方法の使用分野を拡大すべく、インクジェット記録用に用いられるインク組成物及びそれによって着色された着色体には、耐光性、耐オゾンガス性、耐湿性、耐水性の更なる向上が強く求められている。
【0005】
種々の色相のインクが種々の染料から調製されているが、それらのうち黒色インクはモノカラーおよびフルカラー画像の両方に使用される重要なインクである。これら黒色インク用の染料として今日まで多くのものが提案されているが、市場の要求を充分に満足する製品を提供するには至っていない。提案されている多くの色素はアゾ色素であり、そのうちC.I.Food Black2等のジスアゾ色素については、画像の光学濃度が低い、演色性(光源により色相が変化する性質)が大きい、耐水性や耐湿性が不良である、耐ガス性が十分でない等の問題がある。共役系を延ばしたポリアゾ色素については、一般に水溶性が低く記録画像が部分的に金属光沢を有するブロンジング現象が発生しやすい、耐ガス性が十分でない等の問題がある。ブロンジングについては、黒色インクでは光学濃度を上げるために、インク中の色素含有率を高く設計する場合が多く、ブロンジングが発生しやすいという問題があり、たとえばインク受容層の薄いフイルム光沢紙ではインクの吸収力が小さいため特に発生しやすい。また、同様に数多く提案されているアゾ含金色素の場合、金属イオンを含むため生物への安全性や環境問題に対し好ましくない、耐オゾンガス性が極めて弱い等の問題がある。
【0006】
近年最も重要な課題となっている耐オゾンガス性について改良されたインクジェット用黒色インク用化合物(色素)としては、例えば特許文献1に記載の化合物が挙げられる。しかし、これらの化合物の耐オゾンガス性は市場要求を十分に満たすものではない。また、本発明の黒色インク用色素化合物に構造的に近似する化合物として、H酸(4−アミノ−5−ナフトール−2,7−ジスルホン酸)又はK酸(4−アミノ−5−ナフトール−1,7−ジスルホン酸)のアミノ基側にγ酸(6−アミノ−4−ナフトール−2−スルホン酸)又はJ酸(7−アミノ−4−ナフトール−2−スルホン酸)残基がアゾ結合し、ヒドロキシル基側にフェニル基又はナフチル基誘導体がアゾ結合している特許文献2、3に記載の化合物が挙げられるが、市場の要求、特に耐オゾンガス性に関しての要求を十分に満たしているものではない。
【0007】
【特許文献1】特開2003−183545号公報
【特許文献2】特開昭62−109872号公報
【特許文献3】特開2003−201412号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、水を主要成分とする媒体に対する溶解性が高く、高濃度水溶液及びインクを長期間保存した場合でも安定であり、印字された画像の濃度が非常に高く、写真画質インクジェット専用紙に高濃度溶液を印字した場合でもその画像にブロンジングを起こさず、印字された画像の堅牢性、特に耐オゾンガス性に優れた黒色の記録画像を与え、また、合成が容易でありかつ安価である黒色インク用色素化合物とそのインク組成物を提供する事を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは前記したような課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、特定のテトラキスアゾ化合物が前記課題を解決するものであることを見出し、本発明に至ったものである。即ち本発明は、
(1)下記式(1)で表されるアゾ化合物またはその塩
【0010】
【化3】

(式(1)中、R1及びR2はそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、カルボキシル基、スルホ基、スルファモイル基、N−アルキルアミノスルホニル基、N−フェニルアミノスルホニル基、ヒドロキシル基で置換されても良い(C1〜C4)アルキルスルホニル基、ホスホ基、ニトロ基、アシル基、ウレイド基、(C1〜C4)アルキル基(ヒドロキシル基又は(C1〜C4)アルコキシ基で置換されていても良い)、(C1〜C4)アルコキシ基(ヒドロキシル基、(C1〜C4)アルコキシ基、スルホ基又はカルボキシル基で置換されていても良い)、アシルアミノ基、アルキルスルホニルアミノ基又はフェニルスルホニルアミノ基(フェニル基はハロゲン原子、アルキル基又はニトロ基で置換されていても良い)を、
mは0又は1を、
nは0又は1を、
Xはスルホ基を、
Aは置換フェニル基又は置換ナフチル基(置換基として、ハロゲン原子、シアノ基、カルボキシル基、スルホ基、スルファモイル基、N−アルキルアミノスルホニル基、N−フェニルアミノスルホニル基、ヒドロキシル基で置換されても良い(C1〜C4)アルキルスルホニル基、ホスホ基、ニトロ基、アシル基、ウレイド基、(C1〜C4)アルキル基(ヒドロキシル基又は(C1〜C4)アルコキシ基で置換されていても良い)、(C1〜C4)アルコキシ基(ヒドロキシル基、(C1〜C4)アルコキシ基、スルホ基又はカルボキシル基で置換されていても良い)、アシルアミノ基、アルキルスルホニルアミノ基又はフェニルスルホニルアミノ基(フェニル基はハロゲン原子、アルキル基又はニトロ基で置換されていても良い)をもつ)を、
それぞれ表す。)
(2)結合bの結合位置が2位又は3位であり、結合bの結合位置が2位の場合、Xの置換位置は3位であり、結合bの結合位置が3位の場合、Xの置換位置は4位である(1)に記載のアゾ化合物又はその塩
(3)結合bの結合位置が3位、Xの置換位置は4位であり、m及びnが1である(1)および(2)のいずれか一項に記載のアゾ化合物又はその塩
(4)Aが置換フェニル基(置換基として、ハロゲン原子、シアノ基、カルボキシル基、スルホ基、スルファモイル基、N−アルキルアミノスルホニル基、N−フェニルアミノスルホニル基、ヒドロキシル基で置換されても良い(C1〜C4)アルキルスルホニル基、ホスホ基、ニトロ基、アシル基、ウレイド基、(C1〜C4)アルキル基(ヒドロキシル基又は(C1〜C4)アルコキシ基で置換されていても良い)、(C1〜C4)アルコキシ基(ヒドロキシル基、(C1〜C4)アルコキシ基、スルホ基又はカルボキシル基で置換されていても良い)、アシルアミノ基、アルキルスルホニルアミノ基又はフェニルスルホニルアミノ基(フェニル基はハロゲン原子、アルキル基又はニトロ基で置換されていても良い)をもつ)である(1)から(3)のいずれか一項に記載のアゾ化合物又はその塩
(5)R1がスルホ基であり、R1の置換位置がアゾ基に対しオルト位の場合、ニトロ基の置換位置がアゾ基に対しパラ位であり、R1の置換位置がアゾ基に対しパラ位の場合、ニトロ基の置換位置がアゾ基に対しオルト位であり、R2が水素原子である(1)から(4)
のいずれか一項に記載のアゾ化合物又はその塩
(6)前記式(1)で示されるアゾ化合物又はその塩が下記式(2)で表されるアゾ化合物又はその塩である(1)に記載のアゾ化合物又はその塩
【0011】
【化4】

(式(2)中、R10及びR20はニトロ基またはスルホ基であり、R10がニトロ基の場合R20がスルホ基、R10がスルホ基の場合R20がニトロ基である。R30及びR40は、それぞれ独立して水素原子、カルボキシル基、スルホ基、スルファモイル基、ニトロ基、メチル基、エチル基、メトキシ基、エトキシ基であり、R30とR40のどちらか一方がカルボキシ基又はスルホ基である。)
(7)(1)から(6)のいずれか一項に記載のアゾ化合物又はその塩を少なくとも1種を含むことを特徴とするインク組成物、
(8)(7)に記載のインク組成物を用いることを特徴とするインクジェットプリント記録方法、
(9)インクジェットプリント記録方法における被記録材が情報伝達用シートである(8)に記載のインクジェットプリント記録方法、
(10)情報伝達用シートが多孔性白色無機物を含有するものである(9)に記載のインクジェットプリント記録方法、
(11)(7)に記載のインク組成物を含む容器を装填したインクジェットプリンタ、
(12)(1)から(6)のいずれか一項に記載のアゾ化合物又はその塩によって着色された着色体、
に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明のアゾ化合物又はその塩(以下両者を纏めて単にアゾ化合物という)は水溶解性に優れるので、インク組成物製造過程でのメンブランフィルターによるろ過性が良好であり、記録液の保存時の安定性や吐出安定性にも優れている。又、このアゾ化合物を含有する本発明のインク組成物は長期間保存後の結晶析出、物性変化、色変化等もなく、貯蔵安定性が良好である。又、本発明のアゾ化合物を含有するインク組成物は、インクジェット記録用、筆記用具用として好適に用いられ、普通紙及びインクジェット専用紙に記録した場合の記録画像の印字濃度が非常に高く、高濃度溶液を印字した場合でもその画像にブロンジングを起こさず、さらに各種堅牢性、特に耐オゾンガス性に優れている。マゼンタ、シアン及びイエロー染料を用いたインク組成物と共に用いることで各種堅牢性に優れ、保存性の優れたフルカラーのインクジェット記録が可能である。このように本発明のインク組成物はインクジェット記録用ブラックインクとして極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
式(1)におけるR1、R2及びAの置換基において、N−アルキルアミノスルホニル基の例としては例えば、N−メチルアミノスルホニル基、N−エチルアミノスルホニル基、N−(n−ブチル)アミノスルホニル基、N,N−ジメチルアミノスルホニル基、N,N−ジ(n−プロピル)アミノスルホニル基等のN−(C1〜C4)アルキルアミノスルホニル基が挙げられる。
【0014】
式(1)におけるR1、R2及びAの置換基において、ヒドロキシル基で置換されても良い(C1〜C4)アルキルスルホニル基の例としては例えば、メチルスルホニル、エチルスルホニル、プロピルスルホニル、ブチルスルホニル、ヒドロキシエチルスルホニル、2−ヒドロキシプロピルスルホニル等が挙げられる。
【0015】
式(1)におけるR1、R2及びAの置換基において、アシル基の例としては例えば、アセチル、プロピオニル、ブチリル、イソブチリル、ベンゾイル、ナフトイル等が挙げられる。
【0016】
式(1)におけるR1、R2及びAの置換基において、ヒドロキシ基若しくは(C1〜C4)アルコキシ基で置換されても良い(C1〜C4)アルキル基の例としては例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、2−ヒドロキシエチル、2−ヒドロキシプロピル、3−ヒドロキシプロピル、メトキシエチル、2−エトキシエチル、n−プロポキシエチル、イソプロポキシエチル、n−ブトキシエチル、メトキシプロピル、エトキシプロピル、n−プロポキシプロピル、イソプロポキシブチル、n−プロポキシブチル等が挙げられる。
【0017】
式(1)におけるR1、R2及びAの置換基において、ヒドロキシ基、(C1〜C4)アルコキシ基、スルホ基又はカルボキシル基で置換されても良い(C1〜C4)アルコキシ基の例としては例えば、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、イソプロポキシ、n−ブトキシ、sec−ブトキシ、tert−ブトキシ、2−ヒドロキシエトキシ、2−ヒドロキシプロポキシ、3−ヒドロキシプロポキシ、メトキシエトキシ、エトキシエトキシ、n−プロポキシエトキシ、イソプロポキシエトキシ、n−ブトキシエトキシ、メトキシプロポキシ、エトキシプロポキシ、n−プロポキシプロポキシ、イソプロポキシブトキシ、n−プロポキシブトキシ、2−ヒドロキシエトキシエトキシ、カルボキシメトキシ、2−カルボキシエトキシ、3−カルボキシプロポキシ、3−スルホプロポキシ、4−スルホブトキシ等が挙げられる。
【0018】
式(1)におけるR1、R2及びAの置換基において、アシルアミノ基の例としては例えば、アセチルアミノ、プロピオニルアミノ、ブチリルアミノ、イソブチリルアミノ、ベンゾイルアミノ、ナフトイルアミノ等が挙げられる。
【0019】
式(1)におけるR1、R2及びAの置換基において、アルキルスルホニルアミノ基の例としては例えば、メチルスルホニルアミノ、エチルスルホニルアミノ、プロピルスルホニルアミノ等が挙げられる。
【0020】
式(1)におけるR1、R2及びAの置換基において、ハロゲン原子若しくはアルキル基若しくはニトロ基で置換されても良いフェニルスルホニルアミノ基の例としては例えば、ベンゼンスルホニルアミノ、トルエンスルホニルアミノ、クロロベンゼンスルホニルアミノ、ニトロベンゼンスルホニルアミノ等が挙げられる。
【0021】
式(1)における好ましいR1及びR2は、水素原子、塩素原子、臭素原子、シアノ基、カルボキシル基、スルホ基、スルファモイル基、N−メチルアミノスルホニル基、N−フェニルアミノスルホニル基、メチルスルホニル基、ヒドロキシエチルスルホニル基、リン酸基、ニトロ基、アセチル基、ベンゾイル基、ウレイド基、メチル基、メトキシ基、エチル基、エトキシ基、プロピル基、プロポキシ基、2−ヒドロキシエトキシ基、2−メトキシエトキシ基、2−エトキシエトキシ基、3−スルホプロポキシ基、4−スルホブトキシ基、カルボキシメトキシ基、2−カルボキシエトキシ基、アセチルアミノ基、ベンゾイルアミノ基等であり、より好ましくは、水素原子、塩素原子、シアノ基、スルファモイル基、アセチル基、メチルスルホニル基、ヒドロキシエチルスルホニル基、ニトロ基、カルボキシル基、スルホ基であり、さらに好ましくは、水素原子、カルボキシル基、スルホ基である。さらに好ましいR1は、カルボキシル基又はスルホ基であり、スルホ基が特に好ましい。R2は水素原子が特に好ましい。置換位置は、R1の置換位置がアゾ基に対しオルト位の場合、ニトロ基の置換位置がアゾ基に対しパラ位であり、R1の置換位置がアゾ基に対しパラ位の場合、ニトロ基の置換位置がアゾ基に対しオルト位であることが好ましい。
【0022】
式(1)における好ましいAの置換基は、水素原子、塩素原子、臭素原子、シアノ基、カルボキシル基、スルホ基、スルファモイル基、N−メチルアミノスルホニル基、N−フェニルアミノスルホニル基、メチルスルホニル基、ヒドロキシエチルスルホニル基、リン酸基、ニトロ基、アセチル基、ベンゾイル基、ウレイド基、メチル基、メトキシ基、エチル基、エトキシ基、プロピル基、プロポキシ基、2−ヒドロキシエトキシ基、2−メトキシエトキシ基、2−エトキシエトキシ基、3−スルホプロポキシ基、4−スルホブトキシ基、カルボキシメトキシ基、2−カルボキシエトキシ基、アセチルアミノ基、ベンゾイルアミノ基等であり、より好ましくは、水素原子、塩素原子、シアノ基、カルボキシル基、スルホ基、スルファモイル基、ヒドロキシエチルスルホニル基、ニトロ基、メチル基、メトキシ基、エチル基、エトキシ基であり、更に好ましくは水素原子、カルボキシル基、スルホ基、スルファモイル基、ニトロ基である。
【0023】
より好ましい化合物の例としては次の式(2)で表されるアゾ化合物が挙げられる。
【0024】
【化5】

【0025】
(式(2)中、R10及びR20はニトロ基またはスルホ基であり、R10がニトロ基の場合R20がスルホ基、R10がスルホ基の場合R20がニトロ基である。R30及びR40は、それぞれ独立して水素原子、カルボキシル基、スルホ基、スルファモイル基、ニトロ基、メチル基、エチル基、メトキシ基、エトキシ基であり、R30とR40のどちらか一方がカルボキシ基又はスルホ基である。)
【0026】
前記式(1)及び(2)で示されるアゾ化合物の塩は、無機又は有機の陽イオンの塩である。そのうち無機塩の具体例としては、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩およびアンモニウム塩が挙げられ、好ましい無機塩は、リチウム、ナトリウム、カリウムの塩およびアンモニウム塩であり、又、有機の陽イオンの塩としては例えば下記式(3)で示される化合物の塩があげられるがこれらに限定されるものではない。
【0027】
【化6】

【0028】
式(3)におけるZ1、Z2、Z3、Z4のアルキル基の具体例としてはメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチルなどが挙げられ、ヒドロキシアルキル基の具体例としてはヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、3−ヒドロキシプロピル基、2−ヒドロキシプロピル基、4−ヒドロキシブチル基、3−ヒドロキシブチル基、2−ヒドロキシブチル基等のヒドロキシ−(C1〜C4)アルキル基が挙げられ、ヒドロキシアルコキシアルキル基の例としては、ヒドロキシエトキシメチル基、2−ヒドロキシエトキシエチル基、3−ヒドロキシエトキシプロピル基、2−ヒドロキシエトキシプロピル基、4−ヒドロキシエトキシブチル基、3−ヒドロキシエトキシブチル基、2−ヒドロキシエトキシブチル基等ヒドロキシ(C1〜C4)アルコキシ−(C1〜C4)アルキル基が挙げられ、これらのうちヒドロキシエトキシ−(C1〜C4)アルキル基が好ましい。特に好ましいものとしては水素原子;メチル基;ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、3−ヒドロキシプロピル基、2−ヒドロキシプロピル基、4−ヒドロキシブチル基、3−ヒドロキシブチル基、2−ヒドロキシブチル基等のヒドロキシ−(C1〜C4)アルキル基;ヒドロキシエトキシメチル基、2−ヒドロキシエトキシエチル基、3−ヒドロキシエトキシプロピル基、2−ヒドロキシエトキシプロピル基、4−ヒドロキシエトキシブチル基、3−ヒドロキシエトキシブチル基、2−ヒドロキシエトキシブチル基等のヒドロキシエトキシ−(C1〜C4)アルキル基が挙げられる。
【0029】
式(3)のZ1、Z2、Z3、Z4の具体例を表1に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
式(1)で示される本発明のアゾ化合物は、例えば次のような方法で合成することができる。また、各工程における化合物の構造式は遊離酸の形で表すものとする。
下記式(4)
【0032】
【化7】

【0033】
(式(4)中、mは式(1)におけるのと同じ意味を有する。)
とp−トルエンスルホニルクロライドとのアルカリ存在下での反応により得られる式(5)
【0034】
【化8】

【0035】
(式(5)中、mは前記と同じ意味を有する。)
で表される化合物を常法によりジアゾ化し4−アミノ−5−ナフトール−1,7−ジスルホン酸と酸性下カップリング反応し、生成した式(6)
【0036】
【化9】

【0037】
(式(6)中、mは前記と同じ意味を有する。)
で表される化合物に、式(7)
【0038】
【化10】

【0039】
(式(7)中、R1及びR2は式(1)におけるのと同じ意味を有する。)
で表される化合物を常法によりジアゾ化したものをカップリング反応させ、得られる式(8)
【0040】
【化11】

【0041】
(式(8)中、R1、R2及びnは前記と同じ意味を有する。)
で表される化合物をアルカリ条件下、加水分解し、式(9)
【0042】
【化12】

【0043】
(式(9)中、R1、R2及びnは前記と同じ意味を有する。)
で表される化合物を得る。ここに、式(10)
【0044】
【化13】

【0045】
(式(10)中、Aは式(1)におけるのと同じ意味を有する。)
で表される化合物を常法によりジアゾ化したものと、式(11)
【0046】
【化14】

(式(11)中、X及びnは式(1)におけるものと同じ意味を有する。)で表される化合物を中性からアルカリ条件下カップリングさせ、得られる式(12)
【0047】
【化15】

(式(12)中、A、X及びnは式(1)におけるものと同じ意味を有する。)で表される化合物を常法によりジアゾ化したものをカップリングさせることで、式(1)で表される本発明のアゾ化合物又はその塩を得ることができる。
【0048】
また、上記式(11)の化合物とp−トルエンスルホニルクロライドとのアルカリ存在下での反応により得られる式(13)
【0049】
【化16】

(式(13)中、X及びnは式(1)におけるものと同じ意味を有する。)を常法によりジアゾ化し、これを式(9)の化合物にカップリングさせ、得られる式(14)
【0050】
【化17】

(式(14)中、R1、R2、m、n及びXは前記と同じ意味を有する。)で表される化合物をアルカリ条件下、加水分解し、得られる式(15)
【0051】
【化18】

(式(15)中、R1、R2、m、n及びXは前記と同じ意味を有する。)で表される化合物に、式(10)で表される化合物を常法によりジアゾ化したものをカップリング反応させることでも、式(1)で表される本発明のアゾ化合物又はその塩を得ることができる。
【0052】
式(1)に示した本発明の化合物の好適な具体例として、特に限定されるものではないが、下記式で示される化合物が挙げられる。各表においてスルホ基及びカルボキシル基は遊離酸の形で表記するものとする。
【0053】
【表2】

【0054】
【表3】

【0055】
【表4】

【0056】
式(4)の化合物とp−トルエンスルホニルクロリドとのエステル化反応はそれ自体公知の方法で実施され、水性又は水性有機媒体中、例えば20〜100℃、好ましくは30〜80℃の温度ならびに中性からアルカリ性のpH値で行うことが有利である。好ましくは中性から弱アルカリ性のpH値、たとえばpH7〜10で実施される。このpH値の調整は塩基の添加によって実施される。塩基としては、たとえば水酸化リチウム、水酸化ナトリウムのごときアルカリ金属水酸化物、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムのごときアルカリ金属炭酸塩、酢酸ナトリウムのごとき酢酸塩などが使用できる。式(4)の化合物とp−トルエンスルホニルクロリドは、ほぼ化学量論量で用いる。
【0057】
式(5)の化合物のジアゾ化はそれ自体公知の方法で実施され、たとえば無機酸媒質中、例えば−5〜30℃、好ましくは5〜15℃の温度で亜硝酸塩、たとえば亜硝酸ナトリウムのごとき亜硝酸アルカリ金属塩を使用して実施される。式(5)の化合物のジアゾ化物と4−アミノ−5−ナフトール−1,7−ジスルホン酸とのカップリングもそれ自体公知の条件で実施される。水性又は水性有機媒体中、例えば−5〜30℃、好ましくは5〜25℃の温度ならびに酸性から中性のpH値で行うことが有利である。カップリング浴は酸性化するが、好ましくは酸性から弱酸性のpH値、たとえばpH1〜4で実施される。このpH値の調整は塩基の添加によって実施される。塩基としては、たとえば水酸化リチウム、水酸化ナトリウムのごときアルカリ金属水酸化物、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムのごときアルカリ金属炭酸塩、酢酸ナトリウムのごとき酢酸塩、アンモニア又は有機アミンなどが使用できる。式(5)の化合物と4−アミノ−5−ナフトール−1,7−ジスルホン酸とは、ほぼ化学量論量で用いる。
【0058】
式(7)の化合物のジアゾ化もそれ自体公知の方法で実施され、たとえば無機酸媒質中例えば−5〜30℃、好ましくは0〜15℃の温度で亜硝酸塩、たとえば亜硝酸ナトリウムのごとき亜硝酸アルカリ金属塩を使用して実施される。式(7)の化合物のジアゾ化物と式(6)の化合物のカップリングもそれ自体公知の条件で実施される。水性又は水性有機媒体中、例えば−5〜30℃、好ましくは10〜25℃の温度ならびに弱酸性からアルカリ性のpH値で行うことが有利である。好ましくは弱酸性から弱アルカリ性のpH値、たとえばpH5〜10で実施され、pH値の調整は塩基の添加によって実施される。塩基としては、たとえば水酸化リチウム、水酸化ナトリウムのごときアルカリ金属水酸化物、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム又は炭酸カリウムのごときアルカリ金属炭酸塩、酢酸ナトリウムのごとき酢酸塩、あるいはアンモニア又は有機アミンなどが使用できる。式(6)と(7)の化合物は、ほぼ化学量論量で用いる。
【0059】
式(8)の化合物の加水分解による式(9)の化合物の製造もそれ自体公知の方法で実施される。有利には水性アルカリ性媒質中で加熱する方法であり、たとえば式(8)の化合物を含有する溶液に水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムを加えpHを9.5以上としたのち、例えば20〜150℃の温度、好ましくは30〜100℃の温度に加熱することによって実施される。このとき反応溶液のpH値は9.5〜11.5に維持することが好ましい。このpH値の調整は塩基の添加によって実施される。塩基は前記したものを用いることができる。
【0060】
式(10)の化合物のジアゾ化もそれ自体公知の方法で実施され、たとえば無機酸媒質中例えば−5〜30℃、好ましくは0〜15℃の温度で亜硝酸塩、たとえば亜硝酸ナトリウムのごとき亜硝酸アルカリ金属塩を使用して実施される。式(10)の化合物のジアゾ化物と式(11)の化合物のカップリングもそれ自体公知の条件で実施される。水性又は水性有機媒体中、例えば−5〜30℃、好ましくは5〜20℃の温度ならびに中性からアルカリ性のpH値で行うことが有利である。好ましくは中性から弱アルカリ性のpH値、たとえばpH7〜10で実施され、pH値の調整は塩基の添加によって実施される。塩基としては、たとえば水酸化リチウム、水酸化ナトリウムのごときアルカリ金属水酸化物、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム又は炭酸カリウムのごときアルカリ金属炭酸塩、酢酸ナトリウムのごとき酢酸塩、あるいはアンモニア又は有機アミンなどが使用できる。式(10)と(11)の化合物は、ほぼ化学量論量で用いる。
【0061】
式(12)の化合物のジアゾ化もそれ自体公知の方法で実施され、たとえば無機酸媒質中例えば−5〜30℃、好ましくは5〜25℃の温度で亜硝酸塩、たとえば亜硝酸ナトリウムのごとき亜硝酸アルカリ金属塩を使用して実施される。式(12)の化合物のジアゾ化物と式(9)の化合物のカップリングもそれ自体公知の条件で実施される。水性又は水性有機媒体中、例えば−5〜30℃、好ましくは10〜30℃の温度ならびに弱酸性からアルカリ性のpH値で行うことが有利である。好ましくは弱酸性から弱アルカリ性のpH値、たとえばpH6〜10で実施され、pH値の調整は塩基の添加によって実施される。塩基としては、たとえば水酸化リチウム、水酸化ナトリウムのごときアルカリ金属水酸化物、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム又は炭酸カリウムのごときアルカリ金属炭酸塩、酢酸ナトリウムのごとき酢酸塩、あるいはアンモニア又は有機アミンなどが使用できる。式(9)と(12)の化合物は、ほぼ化学量論量で用いる。
【0062】
式(13)の化合物のジアゾ化もそれ自体公知の方法で実施され、たとえば無機酸媒質中例えば−5〜30℃、好ましくは5〜25℃の温度で亜硝酸塩、たとえば亜硝酸ナトリウムのごとき亜硝酸アルカリ金属塩を使用して実施される。式(12)の化合物のジアゾ化物と式(9)の化合物のカップリングもそれ自体公知の条件で実施される。水性又は水性有機媒体中、例えば−5〜30℃、好ましくは10〜30℃の温度ならびに弱酸性からアルカリ性のpH値で行うことが有利である。好ましくは弱酸性から弱アルカリ性のpH値、たとえばpH6〜10で実施され、pH値の調整は塩基の添加によって実施される。塩基としては、たとえば水酸化リチウム、水酸化ナトリウムのごときアルカリ金属水酸化物、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム又は炭酸カリウムのごときアルカリ金属炭酸塩、酢酸ナトリウムのごとき酢酸塩、あるいはアンモニア又は有機アミンなどが使用できる。式(9)と(13)の化合物は、ほぼ化学量論量で用いる。
【0063】
式(14)の化合物の加水分解による式(15)の化合物の製造もそれ自体公知の方法で実施される。有利には水性アルカリ性媒質中で加熱する方法であり、たとえば式(14)の化合物を含有する溶液に水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムを加えpHを9.5以上としたのち、例えば20〜150℃の温度、好ましくは30〜100℃の温度に加熱することによって実施される。このとき反応溶液のpH値は9.5〜11.5に維持することが好ましい。このpH値の調整は塩基の添加によって実施される。塩基は前記したものを用いることができる。
【0064】
式(10)の化合物のジアゾ化物と式(15)の化合物のカップリングもそれ自体公知の条件で実施される。水性又は水性有機媒体中、例えば−5〜30℃、好ましくは10〜30℃の温度ならびに弱酸性からアルカリ性のpH値で行うことが有利である。好ましくは弱酸性から弱アルカリ性のpH値、たとえばpH6〜10で実施され、pH値の調整は塩基の添加によって実施される。塩基としては、たとえば水酸化リチウム、水酸化ナトリウムのごときアルカリ金属水酸化物、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム又は炭酸カリウムのごときアルカリ金属炭酸塩、酢酸ナトリウムのごとき酢酸塩、あるいはアンモニア又は有機アミンなどが使用できる。式(10)と(15)の化合物は、ほぼ化学量論量で用いる。
【0065】
本発明の式(1)で示されるアゾ化合物は、カップリング反応後、鉱酸の添加により遊離酸の形で単離する事ができ、これから水又は酸性化した水による洗浄により無機塩を除去する事が出来る。次に、この様にして得られる低い塩含有率を有する酸型色素(化合物)は、水性媒体中で所望の無機又は有機の塩基により中和することで対応する塩の溶液とすることが出来る。無機の塩基の例としては、例えば水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物、水酸化アンモニウム、あるいは炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどのアルカリ金属の炭酸塩などが挙げられ、有機の塩基の例としては、有機アミン、例えばジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどの前記した式(3)で表されるアルカノールアミン類等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0066】
本発明のインク組成物について説明する。本発明の前記式(1)で表されるアゾ化合物を含む水性組成物は、セルロースからなる材料を染色することが可能である。また、その他カルボンアミド結合を有する材料にも染色が可能で、皮革、織物、紙の染色に幅広く用いることができる。一方、本発明の化合物の代表的な使用法としては、液体の媒体に溶解してなるインク組成物が挙げられる。
【0067】
前記式(1)で示される本発明のアゾ化合物を含む反応液は、インク組成物の製造に直接使用する事が出来る。しかし、まずこれを乾燥、例えばスプレー乾燥させて単離するか、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、硫酸ナトリウム等の無機塩類によって塩析するか、塩酸、硫酸、硝酸等の鉱酸によって酸析するか、あるいは前記した塩析と酸析を組み合わせた酸塩析することによって本発明のアゾ化合物を取り出し、次にこれをインク組成物に加工することもできる。
【0068】
本発明のインク組成物は、本発明の式(1)で示されるアゾ化合物を通常0.1〜20質量%、好ましくは1〜10質量%、より好ましくは2〜8質量%含有する水を主要な媒体とする組成物である。本発明のインク組成物には、さらに水溶性有機溶剤を例えば0〜30質量%、インク調製剤を例えば0〜5質量%含有していても良い。なお、インク組成物のpHとしては、保存安定性を向上させる点で、pH5〜11が好ましく、pH7〜10がより好ましい。また、インク組成物の表面張力としては、25〜70mN/mが好ましく、25〜60mN/mがより好ましい。さらに、インク組成物の粘度としては、30mPa・s以下が好ましく、20mPa・s以下がより好ましい。本発明のインク組成物のpH、表面張力は後記するようなpH調整剤、界面活性剤で適宜調整することが可能である。
【0069】
本発明のインク組成物は、前記の式(1)で示されるアゾ化合物を水又は水溶性有機溶剤(水と混和可能な有機溶剤)に溶解し、必要に応じインク調製剤を添加したものである。このインク組成物をインクジェットプリンタ用のインクとして使用する場合、本発明のアゾ化合物としては、金属陽イオンの塩化物、硫酸塩等の無機物の含有量が少ないものを用いるのが好ましく、その含有量の目安は例えば1質量%以下(対色素原体)程度である。無機物の少ない本発明のアゾ化合物を製造するには、例えば逆浸透膜による通常の方法又は本発明のアゾ化合物の乾燥品あるいはウェットケーキをメタノール等のアルコール及び水の混合溶媒中で撹拌し、濾過分取、乾燥するなどの方法で脱塩処理すればよい。
【0070】
前記インク組成物の調製において用いうる水溶性有機溶剤の具体例としては、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、第二ブタノール、第三ブタノール等のC1〜C4アルカノール、N,N−ジメチルホルムアミド又はN,N−ジメチルアセトアミド等のカルボン酸アミド、2−ピロリドン、N−メチルピロリジン−2−オン等のラクタム、1,3−ジメチルイミダゾリジン−2−オン又は1,3−ジメチルヘキサヒドロピリミド−2−オン等の環式尿素類、アセトン、メチルエチルケトン、2−メチル−2−ヒドロキシペンタン−4−オン等のケトン又はケトアルコール、テトラヒドロフラン、ジオキサン等の環状エーテル、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−ブチレングリコール、1,4−ブチレングリコール、1,6−ヘキシレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、チオジグリコール、ジチオジグリコール等の(C2〜C6)アルキレン単位を有するモノマー、オリゴマー又はポリアルキレングリコール又はチオグリコール、グリセリン、ヘキサン−1,2,6−トリオール等のポリオール(トリオール)、エチレングリコールモノメチルエーテル又はエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル又はジエチレングリコールモノエチルエーテル又はトリエチレングリコールモノメチルエーテル又はトリエチレングリコールモノエチルエーテル等の多価アルコールの(C1〜C4)アルキルエーテル、γーブチロラクトン又はジメチルスルホキシド等があげられる。これらの有機溶剤は単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0071】
前記インク組成物の調製において用いられるインク調製剤は、例えば防腐防黴剤、pH調整剤、キレート試薬、防錆剤、水溶性紫外線吸収剤、水溶性高分子化合物、染料溶解剤、酸化防止剤、界面活性剤などがあげられる。以下にこれらの薬剤について説明する。
【0072】
防黴剤の具体例としては、デヒドロ酢酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、ナトリウムピリジンチオン−1−オキシド、p−ヒドロキシ安息香酸エチルエステル、1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン及びその塩等が挙げられる。これらはインク組成物中に0.02〜1.00質量%使用するのが好ましい。
【0073】
防腐剤の例としては、例えば有機硫黄系、有機窒素硫黄系、有機ハロゲン系、ハロアリルスルホン系、ヨードプロパギル系、N−ハロアルキルチオ系、ニトリル系、ピリジン系、8−オキシキノリン系、ベンゾチアゾール系、イソチアゾリン系、ジチオール系、ピリジンオシキド系、ニトロプロパン系、有機スズ系、フェノール系、第4アンモニウム塩系、トリアジン系、チアジン系、アニリド系、アダマンタン系、ジチオカーバメイト系、ブロム化インダノン系、ベンジルブロムアセテート系、無機塩系等の化合物が挙げられる。有機ハロゲン系化合物の具体例としては、例えばペンタクロロフェノールナトリウムが挙げられ、ピリジンオシキド系化合物の具体例としては、例えば2−ピリジンチオール−1−オキサイドナトリウムが挙げられ、無機塩系化合物の具体例としては、例えば無水酢酸ソーダが挙げられ、イソチアゾリン系化合物としては、例えば1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン、2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンマグネシウムクロライド、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンカルシウムクロライド、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンカルシウムクロライド等が挙げられる。その他の防腐防黴剤の具体例として、ソルビン酸ソーダ、安息香酸ナトリウム等があげられる。
【0074】
pH調整剤としては、調合されるインクに悪影響を及ぼさずに、インクのpHを例えば5〜11の範囲に制御できるものであれば任意の物質を使用することができる。その具体例としては、例えばジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミンなどのアルカノールアミン、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物、水酸化アンモニウム(アンモニア)、あるいは炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウムなどのアルカリ金属の炭酸塩、酢酸カリウム、ケイ酸ナトリウム、リン酸二ナトリウム等の無機塩基などが挙げられる。
【0075】
キレート試薬の具体例としては、例えばエチレンジアミン四酢酸ナトリウム、ニトリロ三酢酸ナトリウム、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸ナトリウム、ウラシル二酢酸ナトリウムなどがあげられる。
【0076】
防錆剤の具体例としては、例えば、酸性亜硫酸塩、チオ硫酸ナトリウム、チオグルコール酸アンモニウム、ジイソプロピルアンモニウムナイトライト、四硝酸ペンタエリスリトール、ジシクロヘキシルアンモニウムナイトライトなどがあげられる。
水溶性紫外線吸収剤の例としては、例えばスルホン化したベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾ−ル系化合物、サリチル酸系化合物、桂皮酸系化合物、トリアジン系化合物が挙げられる。
水溶性高分子化合物の具体例としては、ポリビニルアルコール、セルロース誘導体、ポリアミン、ポリイミン等があげられる。
【0077】
染料溶解剤の具体例としては、例えばε−カプロラクタム、エチレンカーボネート、尿素などが挙げられる。
酸化防止剤の例としては、例えば、各種の有機系及び金属錯体系の褪色防止剤を使用することができる。前記有機系の褪色防止剤の例としては、ハイドロキノン類、アルコキシフェノール類、ジアルコキシフェノール類、フェノール類、アニリン類、アミン類、インダン類、クロマン類、アルコキシアニリン類、複素環類、等が挙げられる。
【0078】
界面活性剤の例としては、例えばアニオン系、カチオン系、ノニオン系などの公知の界面活性剤が挙げられる。アニオン界面活性剤の例としてはアルキルスルホン酸塩、アルキルカルボン酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩、N−アシルアミノ酸およびその塩、N−アシルメチルタウリン塩、アルキル硫酸塩ポリオキシアルキルエーテル硫酸塩、アルキル硫酸塩ポリオキシエチレンアルキルエーテル燐酸塩、ロジン酸石鹸、ヒマシ油硫酸エステル塩、ラウリルアルコール硫酸エステル塩、アルキルフェノール型燐酸エステル、アルキル型燐酸エステル、アルキルアリルスルホン塩酸、ジエチルスルホ琥珀酸塩、ジエチルヘキルシルスルホ琥珀酸、ジオクチルスルホ琥珀酸塩などが挙げられる。カチオン界面活性剤としては2−ビニルピリジン誘導体、ポリ4−ビニルピリジン誘導体などがある。両性界面活性剤の具体例としてはラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ポリオクチルポリアミノエチルグリシンその他イミダゾリン誘導体などがある。ノニオン界面活性剤の具体例としては、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアリルキルアルキルエーテルなどのエーテル系、ポリオキシエチレンオレイン酸、ポリオキシエチレンオレイン酸エステル、ポリオキシエチレンジステアリン酸エステル、ソルビタンラウレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンセスキオレート、ポリオキシエチレンモノオレエート、ポリオキシエチレンステアレートなどのエステル系、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3オールなどのアセチレングリコール系(例えば、日信化学社製サーフィノール104、105、82、465、オルフィンSTGなど)、などが挙げられる。これらのインク調製剤は、単独もしくは混合して用いられる。
【0079】
本発明のインク組成物は前記各成分を任意の順序で混合、撹拌することによって得られる。得られたインク組成物は、所望により、狭雑物を除く為にメンブランフィルター等で濾過を行ってもよい。また、インク組成物としての黒の色味を調整するため、本発明の式(1)で示されるアゾ化合物以外に、種々の色相を有する他の色素を混合してもよい。その場合は、他の色相を有する黒色や、イエロー色、マゼンタ色、シアン色、その他の色の色素を混合して用いることができる。
【0080】
本発明のインク組成物は、各種分野において使用することができるが、筆記用水性インク、水性印刷インク、情報記録インク等に好適であり、インクジェット用インクとして用いることが、特に好ましく、後述する本発明のインクジェット記録方法において好適に使用される。
【0081】
次に、本発明のインクジェット記録方法について説明する。本発明のインクジェット記録方法は、前記本発明のインク組成物を用いて記録を行うことを特徴とする。本発明のインクジェット記録方法においては、前記インク組成物を含有してなるインクジェット用インクを用いて受像材料に記録を行うが、その際に使用するインクノズル等については特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、公知の方法、例えば、静電誘引力を利用してインクを吐出させる電荷制御方式、ピエゾ素子の振動圧力を利用するドロップオンデマンド方式(圧力パルス方式)、電気信号を音響ビームに変えインクに照射して放射圧を利用してインクを吐出させる音響インクジェット方式、インクを加熱して気泡を形成し、生じた圧力を利用するサーマルインクジェット(バブルジェット(登録商標))方式等を採用することができる。なお、前記インクジェット記録方式には、フォトインクと称する濃度の低いインクを小さい体積で多数射出する方式、実質的に同じ色相で濃度の異なる複数のインクを用いて画質を改良する方式や無色透明のインクを用いる方式が含まれる。
【0082】
本発明の着色体は前記の本発明の化合物又はこれを含有するインク組成物で着色されたものであり、より好ましくは本発明のインク組成物を用いてインクジェットプリンタによって着色されたものである。着色されうるものとしては、例えば紙、フィルム等の情報伝達用シート、繊維や布(セルロース、ナイロン、羊毛等)、皮革、カラーフィルター用基材等が挙げられる。このうち情報伝達用シートとしては、表面処理されたもの、具体的には紙、合成紙、フィルム等の基材にインク受容層を設けたものが好ましい。インク受容層には、例えば上記基材にカチオン系ポリマーを含浸あるいは塗工することにより、また多孔質シリカ、アルミナゾルや特殊セラミックスなどのインク中の色素を吸収し得る多孔性白色無機物をポリビニルアルコールやポリビニルピロリドン等の親水性ポリマーと共に上記基材表面に塗工することにより設けられる。このようなインク受容層を設けたものは通常インクジェット専用紙(フィルム)、光沢紙(フィルム)等と呼ばれ、例えばピクトリコ(旭硝子(株)製)、プロフェッショナルフォトペーパー、スーパーフォトペーパー、マットフォトペーパー(いずれもキヤノン(株)製)、PM写真用紙(光沢)、PMマット紙(いずれもセイコーエプソン(株)製)、プレミアムプラスフォト用紙、プレミアム光沢フィルム、フォト用紙(いずれも日本ヒューレット・パッカード(株)製)フォトライクQP(コニカ(株)製)等として市販品が入手可能である。なお、普通紙も利用できることはもちろんである。
【0083】
これらのうち、特に多孔性白色無機物を表面に塗工した情報伝達用シートに記録した画像がオゾンガスによって変退色が大きくなることが知られているが、本発明のインク組成物は耐オゾンガス性が優れているため、このような被記録材への記録の際に特に効果を発揮する。
【0084】
本発明のインクジェット記録方法で、情報伝達用シート等の被記録材に記録するには、例えば上記のインク組成物を含有する容器をインクジェットプリンタの所定位置にセットし、通常の方法で、被記録材に記録すればよい。本発明のインクジェット記録方法では、黒色の本発明のインク組成物、公知公用のマゼンタインク組成物、シアンインク組成物、イエローインク組成物、必要に応じて、グリーンインク組成物、ブルー(又はバイオレット)インク組成物及びレッド(オレンジ)インク組成物と併用されうる。各色のインク組成物は、それぞれの容器に注入され、その容器を、本発明のインクジェット記録用水性ブラックインク組成物を含有する容器と同様に、インクジェットプリンタの所定位置に装填されて使用される。
【0085】
本発明のアゾ化合物は水溶解性に優れ、このアゾ化合物を含有する本発明のインク組成物は長期間保存後の結晶析出、物性変化、色変化等もなく、貯蔵安定性が良好である。又、本発明のアゾ化合物を含有する記録用ブラックインク組成物は、インクジェット記録用、筆記具用として用いられ、普通紙及びインクジェット専用紙に記録した場合、その記録画像は印字濃度の高い黒色を呈し、さらにその耐オゾンガス性、耐光性およびブロンジング性が優れている。
【実施例】
【0086】
以下、本発明を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。尚、本文中「部」及び「%」とあるのは、特別の記載のない限り質量基準である。又、下記の各式において、スルホン基は遊離酸の形で表記するものとする。
【0087】
実施例1
(1)2−アミノ−5−ナフトール−1,7−ジスルホン酸6.4部とp−トルエンスルホニルクロライド4.1部とをpH8.0〜8.5、70℃で1時間反応させた後、酸性にて塩析、ろ過分取して得られる式(16)の化合物8.8部を水90部中に、炭酸ナトリウムでpH6.0〜8.0に調整しながら溶解し、35%塩酸6.8部の添加後、0〜5℃とし、40%亜硝酸ナトリウム水溶液3.6部を添加し、ジアゾ化した。
【0088】
【化19】

【0089】
このジアゾ懸濁液に4−アミノ−5−ヒドロキシナフタレン−1,7−ジスルホン酸 5.8部を水60部に懸濁した液を添加した後、10〜20℃で溶液のpH値を炭酸ナトリウムにて2.4〜2.8に保持しながら懸濁状態で4時間攪拌した。次いで、pH値を炭酸ナトリウムにて7.0〜8.5として溶解し、式(17)のモノアゾ化合物を含む溶液を得た。
【0090】
【化20】

【0091】
(2)水50部に4−ニトロアニリン−2−スルホン酸ナトリウム5.2部を溶解し、ここに0〜5℃で35%塩酸6.4部、40%亜硝酸ナトリウム水溶液4.0部を添加しジアゾ化した。このジアゾ懸濁液を、上記反応にて得られた式(17)のモノアゾ化合物を含む溶液に10〜20℃、溶液のpH値を炭酸ナトリウムにて8.0〜9.0に保持しながら滴下した。滴下終了後、15〜30℃で2時間、pH8.0〜9.0で攪拌し、式(18)のジスアゾ化合物を含む溶液を得た。
【0092】
【化21】

【0093】
上記で得られた溶液を、70℃に加熱後、水酸化ナトリウムにてpH値を10.5〜11.0に保持しながら1.5時間攪拌した。室温まで冷却後、35%塩酸によりpH7.0〜8.0とし、塩化ナトリウムを加えて塩析を行い、濾過分取して式(19)の化合物を含むウェットケーキを得た。
【0094】
【化22】

【0095】
(3)式(16)の化合物7.5部を水80部中に、炭酸ナトリウムでpH6.0〜8.0に調整しながら溶解し、35%塩酸5.8部の添加後、0〜5℃とし、40%亜硝酸ナトリウム水溶液2.9部を添加し、ジアゾ化した。このジアゾ懸濁液を、水150部に式(19)の化合物を含むウェットケーキを溶解させた溶液に、15〜30℃、溶液のpH値を炭酸ナトリウムにて8.0〜9.0に保持しながら滴下した。滴下終了後、15〜30℃で2時間、pH8.0〜9.0で攪拌し、式(20)のトリスアゾ化合物を含む溶液を得た。
【0096】
【化23】

【0097】
上記で得られた溶液を、70℃に加熱後、水酸化ナトリウムにてpH値を10.5〜11.0に保持しながら1.5時間攪拌した。室温まで冷却後、35%塩酸によりpH7.0〜8.0とし、塩化ナトリウムを加えて塩析を行い、濾過分取して式(21)の化合物を含むウェットケーキを得た。
【0098】
【化24】

【0099】
(4)水40部に4−メトキシアニリン−2−スルホン酸3.0部を水酸化リチウムにてpH6.0〜7.0として溶解し、ここに0〜5℃で35%塩酸4.9部、40%亜硝酸ナトリウム水溶液2.7部を添加しジアゾ化した。このジアゾ懸濁液を、上記反応にて得られた式(21)の化合物を含むウェットケーキを水260部で溶解させた溶液に、15〜30℃、溶液のpH値を水酸化リチウムにて8.0〜9.0に保持しながら滴下した。滴下終了後、15〜30℃で2時間、pH8.0〜9.0で攪拌し、塩化リチウムの添加により塩析し、濾過分取した。得られたウェットケーキを水190部に溶解し、2−プロパノール600部の添加により晶析、ろ過分取した。更に得られたウェットケーキを水180部に溶解後、2−プロパノール600部の添加により晶析し、ろ過分取、乾燥して本発明の式(22)のアゾ化合物(表2におけるNo.2の化合物)14.8部をリチウムとナトリウムの混合塩として得た。この化合物のpH9の水溶液中での最大吸収波長(λmax)は582nmであり、溶解度は100g/l以上であった。
【0100】
【化25】

【0101】
実施例2
実施例1の(4)における4−メトキシアニリン−2−スルホン酸3.0部を4−ニトロアニリン−2−スルホン酸ナトリウム3.4部とする以外は実施例1と同様にして、本発明の式(23)のアゾ化合物(表2におけるNo.3の化合物)15.0部をリチウムとナトリウムの混合塩として得た。この化合物のpH9での水溶液中での最大吸収波長(λmax)は551nmであり、溶解度は100g/l以上であった。
【0102】
【化26】

【0103】
実施例3
実施例1の(4)における4−メトキシアニリン−2−スルホン酸3.0部をアニリン−2−スルホン酸2.5部とする以外は実施例1と同様にして、本発明の式(24)のアゾ化合物(表2におけるNo.4の化合物)13.9部をリチウムとナトリウムの混合塩として得た。この化合物のpH9での水溶液中での最大吸収波長(λmax)は558nmであり、溶解度は100g/l以上であった。
【0104】
【化27】

【0105】
実施例4
実施例1の(4)における4−メトキシアニリン−2−スルホン酸3.0部を5−スルファモイルアントラニル酸3.1部とする以外は実施例1と同様にして、本発明の式(25)のアゾ化合物(表2におけるNo.7の化合物)14.5部をリチウムとナトリウムの混合塩として得た。この化合物のpH9での水溶液中での最大吸収波長(λmax)は559nmであり、溶解度は100g/l以上であった。
【0106】
【化28】

【0107】
実施例5
実施例1の(2)における4−ニトロアニリン−2−スルホン酸ナトリウム5.2部を2−ニトロアニリン−4−スルホン酸ナトリウム5.2部とし、実施例1の(4)における4−メトキシアニリン−2−スルホン酸3.0部を4−ニトロアニリン−2−スルホン酸ナトリウム3.4部とする以外は実施例1と同様にして、本発明の式(26)のアゾ化合物(表2におけるNo.8の化合物)15.1部をリチウムとナトリウムの混合塩として得た。この化合物のpH9での水溶液中での最大吸収波長(λmax)は549nmであり、溶解度は100g/l以上であった。
【0108】
【化29】

【0109】
実施例6
実施例1の(2)における4−ニトロアニリン−2−スルホン酸ナトリウム5.2部を2−ニトロアニリン−4−スルホン酸ナトリウム5.2部とし、実施例1の(4)における4−メトキシアニリン−2−スルホン酸3.0部を2−ニトロアニリン−4−スルホン酸ナトリウム3.4部とする以外は実施例1と同様にして、本発明の式(27)のアゾ化合物(表2におけるNo.9の化合物)14.3部をリチウムとナトリウムの混合塩として得た。この化合物のpH9での水溶液中での最大吸収波長(λmax)は553nmであり、溶解度は100g/l以上であった。
【0110】
【化30】

【0111】
実施例7
実施例1の(2)における4−ニトロアニリン−2−スルホン酸ナトリウム5.2部を2−ニトロアニリン−4−スルホン酸ナトリウム5.2部とし、実施例1の(4)における4−メトキシアニリン−2−スルホン酸3.0部を5−スルファモイルアントラニル酸3.1部とする以外は実施例1と同様にして、本発明の式(28)のアゾ化合物(表2におけるNo.10の化合物)15.4部をリチウムとナトリウムの混合塩として得た。この化合物のpH9での水溶液中での最大吸収波長(λmax)は552nmであり、溶解度は100g/l以上であった。
【0112】
【化31】

【0113】
実施例8−14
(A)インクの作製
下記する各成分を混合することにより黒色の本発明のインク組成物を得、0.45μmのメンブランフィルターで濾過する事により夾雑物を除いた。
また水はイオン交換水を使用した。インク調製時のpHは8〜9に水酸化アンモニウムで調整した。
【0114】
表5
上記各実施例で得られた化合物 5.0部
グリセリン 5.0部
尿素 5.0部
N−メチル−2−ピロリドン 4.0部
イソプロピルアルコール 3.0部
ブチルカルビトール 2.0部
界面活性剤 0.1部
(サーフィノール105 日信化学社製)
水+水酸化アンモニウム 75.9部
計 100.0部
【0115】
表5において、上記実施例で得られた化合物とは、実施例8は実施例1で得られた式(22)の化合物を、実施例9は実施例2で得られた式(23)の化合物を、実施例10は実施例3で得られた式(24)の化合物、実施例11は実施例4で得られた式(25)の化合物を、実施例12は実施例5で得られた式(26)の化合物を、実施例13は実施例6で得られた式(27)の化合物を、実施例14は実施例7で得られた式(28)の化合物をそれぞれ示す。この水性インク組成物は、貯蔵中、沈殿分離が生ぜず、また長期間保存後においても物性の変化は生じなかった。
【0116】
(B)インクジェットプリント
上記で得られたそれぞれのインク組成物を使用し、インクジェットプリンタ(商品名 BJ−S630 Canon社製 )により、普通紙(キヤノン社製LBP PAPER LS−500)、専用光沢紙PR(キヤノン社製プロフェッショナルフォトペーパー PR−101)、専用光沢紙PM(EPSON社製PM写真用紙(光沢) KA420PSK)および光沢フイルム(エプソン社製MJA4SP6)の4種の紙にインクジェット記録を行った。
印刷の際は、反射濃度が数段階の階調が得られるように画像パターンを作り、ハーフトーンの黒色印字物を得た(印刷時はグレースケールモードを用いているため、黒色記録液以外のイエロー、シアン、マゼンタの各記録液は併用されていない)。以下に記す試験方法のうち、測色機を用いて評価する項目である「印字濃度」では、印刷物の反射濃度D値を測色する際にこのD値が最も高い部分を用いた。また、同様に測色機を用いて評価する項目である「耐光性」試験、「耐オゾンガス性」試験の測定の際には、試験前の印刷物の反射濃度D値が1.0に最も近い階調部分を用いて測定を行った。
【0117】
(C)記録画像の評価
本発明の水性インク組成物による記録画像につき、印字濃度(反射濃度)、耐光性試験後の濃度変化、耐オゾンガス性試験後の濃度変化およびブロンジング性の4点について評価を行った。尚、耐オゾンガス性試験は専用光沢紙PR,PMについてのみ行い、ブロンジング性試験は光沢フイルムのみで行った。その結果を(表6)に示した。具体的な試験方法は下記に示した。
1)印字濃度評価
記録画像の印字濃度(反射濃度)は測色機(SpectroEye GRETAG−MACBETH社製)を用いて測色し、反射濃度D値を算出した。以下に判定基準を示す。
○ 普通紙:1.2≦D 光沢紙:2.0≦D
△ 普通紙:1.0≦D<1.2 光沢紙:1.8≦D<2.0
× 普通紙:D<1.0 光沢紙:D<1.8
2)耐光性試験
キセノンウェザオメーター(Ci4000 ATLAS社製)を用い、印刷サンプルとの間に空気層が生じるように2mm厚のガラス板を設置して、0.36W/平方メートルの照度で湿度60%RH、温度24℃という条件で50時間照射した。試験終了後、上記の測色機を用いて測色した。色素残存率を(試験後の反射濃度/試験前の反射濃度)×100(%)で計算し評価した。判定は以下の基準で行った。
○ 残存率:95%以上
△ 残存率:95%未満で90%以上
× 残存率:90%未満
3)耐オゾンガス性試験
オゾンウェザーオメーター(スガ試験機社製)を用いてオゾン濃度を40ppm、湿度60%RH、温度24℃で印刷サンプルを8時間放置した。試験終了後上記の測色機を用いて測定した。色素残存率を(試験後の反射濃度/試験前の反射濃度)×100(%)で計算して求め評価した。判定は以下を基準に行った。
◎ 残存率:80%以上
○ 残存率:60%以上80%未満
△ 残存率:40%以上60%未満
× 残存率:40%未満
4)ブロンジング性試験
光沢フイルムの表面の最高濃度部の光沢状況を視感により観察し、下記の基準で評価判定した。
○ プリント部の表面が非プリント部の表面と同様の良好な光沢状況を示すもの
△ プリント部の表面が非プリント部の表面に比し光沢状況が少し劣化しているもの
× プリント部の表面が金属状のギラつきを示し光沢をなくしているもの
【0118】
比較例1
比較対象として水溶性インクジェット用色素として、特許文献1の表1−1の1の色素(下記式(29))を用いて実施例8−14と同様のインク組成でインク組成物を調製した。得られた記録画像の印字濃度評価、耐光性評価、耐オゾンガス性評価およびブロンジング性評価の結果を(表6)に示した。
【0119】
【化32】

【0120】
比較例2
同様に、比較対象として水溶性インクジェット用色素として、特許文献3の実施例1で説明される色素AN−250(下記式(30))を用いて実施例8−14と同様のインク組成でインク組成物を調製した。得られた記録画像の印字濃度評価、耐光性評価、耐オゾンガス性評価およびブロンジング性評価の結果を(表6)に示した。
【0121】
【化33】

【0122】
表6
印字濃度 耐光性 耐オゾンガス性 ブロンジング性
実施例8 (式(22))
普通紙 ○ ○ − −
専用光沢紙PR ○ ○ △ −
専用光沢紙PM ○ ○ ○ −
光沢フイルム − − − ○
実施例9 (式(23))
普通紙 ○ ○ − −
専用光沢紙PR ○ ○ ○ −
専用光沢紙PM ○ ○ ◎ −
光沢フイルム − − − ○
実施例10(式(24))
普通紙 ○ ○ − −
専用光沢紙PR ○ ○ ○ −
専用光沢紙PM ○ ○ ◎ −
光沢フイルム − − − ○
実施例11(式(25))
普通紙 ○ ○ − −
専用光沢紙PR ○ ○ △ −
専用光沢紙PM ○ ○ ◎ −
光沢フイルム − − − ○
実施例12(式(26))
普通紙 ○ ○ − −
専用光沢紙PR ○ ○ ○ −
専用光沢紙PM ○ ○ ◎ −
光沢フイルム − − − ○




実施例13(式(27))
普通紙 ○ ○ − −
専用光沢紙PR ○ ○ ○ −
専用光沢紙PM ○ ○ ◎ −
光沢フイルム − − − ○
実施例14(式(28))
普通紙 ○ ○ − −
専用光沢紙PR ○ ○ ○ −
専用光沢紙PM ○ ○ ◎ −
光沢フイルム − − − ○
比較例1 (式(29))
普通紙 ○ △ − −
専用光沢紙PR ○ △ × −
専用光沢紙PM ○ ○ △ −
光沢フイルム − − − ×
比較例2 (式(30))
普通紙 ○ △ − −
専用光沢紙PR ○ △ × −
専用光沢紙PM ○ ○ × −
光沢フイルム − − − △
【0123】
表6の結果より、又本発明のアゾ化合物を含有するインク組成物は印字濃度が高く、従来の黒色染料(比較例)と比較して耐光性、耐オゾンガス性およびブロンジング性が優れていることがわかる。
また本発明のアゾ化合物は溶解度が高く安定なので、高濃度のインクが設計できる。
【産業上の利用可能性】
【0124】
本発明のアゾ化合物を含有するインク組成物はインクジェット記録用、筆記用具用ブラックインク液として好適に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるアゾ化合物またはその塩
【化1】

(式(1)中、R1及びR2はそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、カルボキシル基、スルホ基、スルファモイル基、N−アルキルアミノスルホニル基、N−フェニルアミノスルホニル基、ヒドロキシル基で置換されても良い(C1〜C4)アルキルスルホニル基、ホスホ基、ニトロ基、アシル基、ウレイド基、(C1〜C4)アルキル基(ヒドロキシル基又は(C1〜C4)アルコキシ基で置換されていても良い)、(C1〜C4)アルコキシ基(ヒドロキシル基、(C1〜C4)アルコキシ基、スルホ基又はカルボキシル基で置換されていても良い)、アシルアミノ基、アルキルスルホニルアミノ基又はフェニルスルホニルアミノ基(フェニル基はハロゲン原子、アルキル基又はニトロ基で置換されていても良い)を、
mは0又は1を、
nは0又は1を、
Xはスルホ基を、
Aは置換フェニル基又は置換ナフチル基(置換基として、ハロゲン原子、シアノ基、カルボキシル基、スルホ基、スルファモイル基、N−アルキルアミノスルホニル基、N−フェニルアミノスルホニル基、ヒドロキシル基で置換されても良い(C1〜C4)アルキルスルホニル基、ホスホ基、ニトロ基、アシル基、ウレイド基、(C1〜C4)アルキル基(ヒドロキシル基又は(C1〜C4)アルコキシ基で置換されていても良い)、(C1〜C4)アルコキシ基(ヒドロキシル基、(C1〜C4)アルコキシ基、スルホ基又はカルボキシル基で置換されていても良い)、アシルアミノ基、アルキルスルホニルアミノ基又はフェニルスルホニルアミノ基(フェニル基はハロゲン原子、アルキル基又はニトロ基で置換されていても良い)をもつ)を、
それぞれ表す。)
【請求項2】
結合bの結合位置が2位又は3位であり、結合bの結合位置が2位の場合、Xの置換位置は3位であり、結合bの結合位置が3位の場合、Xの置換位置は4位である請求項1に記載のアゾ化合物又はその塩
【請求項3】
結合bの結合位置が3位、Xの置換位置は4位であり、m及びnが1である請求項1および2のいずれか一項に記載のアゾ化合物又はその塩
【請求項4】
Aが置換フェニル基(置換基として、ハロゲン原子、シアノ基、カルボキシル基、スルホ基、スルファモイル基、N−アルキルアミノスルホニル基、N−フェニルアミノスルホニル基、ヒドロキシル基で置換されても良い(C1〜C4)アルキルスルホニル基、ホスホ基、ニトロ基、アシル基、ウレイド基、(C1〜C4)アルキル基(ヒドロキシル基又は(C1〜C4)アルコキシ基で置換されていても良い)、(C1〜C4)アルコキシ基(ヒドロキシル基、(C1〜C4)アルコキシ基、スルホ基又はカルボキシル基で置換されていても良い)、アシルアミノ基、アルキルスルホニルアミノ基又はフェニルスルホニルアミノ基(フェニル基はハロゲン原子、アルキル基又はニトロ基で置換されていても良い)をもつ)である請求項1から3のいずれか一項に記載のアゾ化合物又はその塩
【請求項5】
1がスルホ基であり、R1の置換位置がアゾ基に対しオルト位の場合、ニトロ基の置換位置がアゾ基に対しパラ位であり、R1の置換位置がアゾ基に対しパラ位の場合、ニトロ基の置換位置がアゾ基に対しオルト位であり、R2が水素原子である請求項1から4のいずれか一項に記載のアゾ化合物又はその塩
【請求項6】
前記式(1)で示されるアゾ化合物又はその塩が下記式(2)で表されるアゾ化合物又はその塩である請求項1に記載のアゾ化合物又はその塩
【化2】

(式(2)中、R10及びR20はニトロ基またはスルホ基であり、R10がニトロ基の場合R20がスルホ基、R10がスルホ基の場合R20がニトロ基である。R30及びR40は、それぞれ独立して水素原子、カルボキシル基、スルホ基、スルファモイル基、ニトロ基、メチル基、エチル基、メトキシ基またはエトキシ基であり、R30とR40のどちらか一方がカルボキシ基又はスルホ基である。)
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載のアゾ化合物又はその塩を少なくとも1種含むことを特徴とするインク組成物
【請求項8】
請求項7に記載のインク組成物を用いることを特徴とするインクジェットプリント記録方法
【請求項9】
インクジェットプリント記録方法における被記録材が情報伝達用シートである請求項8に記載のインクジェットプリント記録方法
【請求項10】
情報伝達用シートが多孔性白色無機物を含有するものである請求項9に記載のインクジェットプリント記録方法
【請求項11】
請求項7に記載のインク組成物を含む容器を装填したインクジェットプリンタ
【請求項12】
請求項1から6のいずれか一項に記載のアゾ化合物又はその塩によって着色された着色体

【公開番号】特開2006−213742(P2006−213742A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−24688(P2005−24688)
【出願日】平成17年2月1日(2005.2.1)
【出願人】(000004086)日本化薬株式会社 (921)
【Fターム(参考)】