説明

アダマンタンポリエステルの製造方法

【課題】フルオロアダマンンタン構造を有する新規なアダマンタンポリエステルの製造方法を提供とする。
【解決手段】下記化合物(1)と、ヒドロキシ基を2個以上有する多価化合物とを、非プロトン性溶媒の存在下に重縮合反応させて、該化合物(1)の式−COXで表される基と、該多価化合物のヒドロキシ基との反応により形成されたエステル結合を2個以上有するアダマンタンポリエステルを得ることを特徴とするアダマンタンポリエステルの製造方法(Q:−CHF−または−CF−であって、6個のQは同一であっても異なっていてもよい。X:OH、ハロゲン原子、または式−ORで表される基(ただし、Rは特定の有機基。)。Y:H、F、または式−COXで表される基であって、2個のYは同一であっても異なっていてもよい。)。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アダマンタンポリエステルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アダマンタンの炭素原子にフッ素原子が結合した化合物としては、アダマンタンの水素原子の1〜4個がヒドロキシ基、フルオロカルボニル基、またはフルオロアルキルカルボニルオキシ基に置換され残余の水素原子の1個以上がフッ素原子に置換された化合物が知られている(特許文献1参照。)。また、該化合物のうち下式(x)で表される化合物とメタクリル酸を反応させて得られる下式(y)で表される化合物が、短波長光に対する透明性とエッチング耐性に優れる重合体の単量体として特許文献1に記載されている。
【0003】
【化1】

【0004】
【特許文献1】国際公開第2004/052832号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、カルボキシル基またはその類縁基を複数有するフルオロアダマンタンと、ヒドロキシ基を複数有する多価化合物とを、特定の条件下に重縮合反応させるフルオロアダマンンタン構造を有するアダマンタンポリエステルの製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明は下記の発明を提供する。
<1>;下式(1)で表される化合物と、ヒドロキシ基を2個以上有する多価化合物とを、非プロトン性溶媒の存在下に重縮合反応させて、該化合物の式−COXで表される基と、該多価化合物のヒドロキシ基との反応により形成されたエステル結合を2個以上有するアダマンタンポリエステルを得ることを特徴とするアダマンタンポリエステルの製造方法。
【0007】
【化2】

【0008】
ただし、式中の記号は下記の意味を示す(以下同様。)。
Q:モノフルオロメチレン基またはジフルオロメチレン基であって、6個のQは同一であっても異なっていてもよい。
X:ヒドロキシ基、ハロゲン原子、または式−ORで表される基(ただし、Rは炭素数1〜10の炭化水素基または炭素数2〜10の炭素原子−炭素原子間にエーテル性酸素原子を含む炭化水素基を示す。)。
Y:水素原子、フッ素原子、または式−COXで表される基であって、2個のYは同一であっても異なっていてもよい。
【0009】
<2>;多価化合物が、ヒドロキシ基を3または4個有する多価化合物である<1>に記載の製造方法。
<3>;多価化合物が、多価フェノールである<1>または<2>に記載の製造方法。
<4>;重量平均分子量が、1×10〜1×10である<1>〜<3>のいずれかに記載の製造方法。
<5>;<1>〜<4>のいずれかに記載の製造方法で得たアダマンタンポリエステルをプロトン性溶媒で洗浄する精製されたアダマンタンポリエステルの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の製造方法によれば、フルオロアダマンタン構造を有する新規なアダマンタンポリエステルを製造できる。本発明の製造方法により得たアダマンタンポリエステルは、耐熱性、離型性、耐薬品性、透明性、耐光性、撥水性、撥油性、低誘電率性、および低屈折率性に優れた化合物である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本明細書においては、式(1)で表される化合物を化合物(1)とも記す。他の式で表される化合物も同様に記す。
【0012】
本発明の製造方法においては、下式(1)で表される化合物(以下、単にアダマンタン化合物ともいう。)とヒドロキシ基を2個以上有する多価化合物(以下、単に多価化合物ともいう。)とを重縮合反応させる。
【0013】
【化3】

【0014】
アダマンタン化合物における6個のQは、同一であっても異なっていてもよく、4個以上がジフルオロメチレン基であるのが好ましく、6個のQのすべてがジフルオロメチレン基であるのが特に好ましい(以下同様。)。
アダマンタン化合物における2個のYは、それぞれ独立に、フッ素原子または式−COXで表される基が好ましい。
【0015】
Xは、ハロゲン原子、または式−ORで表される基(ただし、Rは炭素数1〜4のアルキル基またはフェニル基を示す。以下同様。)が好ましく、フッ素原子、塩素原子、メトキシ基、tert−ブトキシ基、またはフェニル基が特に好ましい。
【0016】
アダマンタン化合物は、下記化合物(12)、下記化合物(13)、または下記化合物(14)が好ましい(ただし、Xはハロゲン原子または式−ORで表される基を示す。)。
【0017】
【化4】

【0018】
アダマンタン化合物の具体例としては、下記化合物が挙げられる。
【0019】
【化5】

【0020】
本発明における多価化合物は、高分子量のアダマンタンポリエステルが得られる観点から、ヒドロキシ基を3個以上有する多価化合物がより好ましく、ヒドロキシ基を3または4個有する多価化合物が特に好ましい。多価化合物は、高分子量のアダマンタンポリエステルが得られる観点から、多価フェノールが好ましい。
【0021】
ヒドロキシ基を2個有する多価化合物としては、エチレングリコール,ジエチレングリコール,プロピレングリコール,ジプロピレングリコール,2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール,1,4−ブタンジオール,1,5−ペンタンジオール,1,6−ヘキサンジオール,4,4’−ジヒドロキシトラン,3,3’−ジヒドロキシトラン等の2価アルコール;ジヒドロキシベンゼン,ジヒドロキシビフェニル,ジヒドロキシターフェニル,ジヒドロキシナフタレン,ジヒドロキシビナフチル,ジヒドロキシアントラセン,ジヒドロキシフェナントラセン,ジヒドロキシジベンゾフラン,ジヒドロキシジフェニルエーテル,ジヒドロキシジフェニルチオエーテル,ジヒドロキシベンゾフェノン,ジヒドロキシ−2,2−ジフェニルプロパン,ジヒドロキシ−2,2−ジフェニルヘキサフルオロプロパン,1,4−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン,2,2’−ビス(フェニルエチニル)−5,5’−ジヒドロキシビフェニル,2,2’−ビス(フェニルエチニル)−4,4’−ジヒドロキシビフェニル,1,4−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン,ジヒドロキシ−9,9−ジフェニルフルオレン等の2価フェノールが挙げられる。
【0022】
ヒドロキシ基を3または4個有する多価化合物の具体例としては、グリセリン,トリメチロールプロパン,ペンタエリスリトール,ジグリセリン等のヒドロキシ基を3個以上有する多価アルコール;ヘキサフェニルジヒドロキシビフェニル,トリヒドロキシベンゼン,トリヒドロキシビフェニル,トリヒドロキシナフタレン等の3価フェノール;テトラヒドロキシベンゼン,テトラヒドロキシビフェニル,テトラヒドロキシビナフチル,テトラヒドロキシスピロインダン等の4価フェノールが挙げられる。
【0023】
本発明におけるアダマンタンポリエステルは、アダマンタン化合物の式−COXで表される基(以下、単に−COXとも記す。)と、多価化合物のヒドロキシ基とのエステル化反応により生成するポリエステルであって、該エステル化反応により形成されたエステル結合を2個以上有するポリエステルである。アダマンタンポリエステルは、アダマンタン化合物から2個以上の−COXを除いた残基と、多価化合物から2個以上のヒドロキシ基を除いた残基とがエステル結合を介して交互に連結した構造を有する。たとえば、前記化合物(12)と2価アルコールを用いた場合のアダマンタンポリエステルは、下式(P2)で表される繰返し単位(ただし、Eは2価アルコールから2個のヒドロキシ基を除いた残基を示す。)を含むポリエステルである。
【0024】
【化6】

【0025】
本発明の製造方法においては、アダマンタン化合物と多価化合物を、非プロトン性溶媒の存在下に重縮合反応させる。重縮合反応における重合溶媒として非プロトン性溶媒を用いることにより、アダマンタン化合物の−COXが分解することなく多価化合物中のヒドロキシ基とエステル化反応するため高分子量のアダマンタンポリエステルが生成すると考えられる。
【0026】
非プロトン性溶媒は、アダマンタン化合物と多価化合物に対する溶解性が高い観点から、非プロトン性極性溶媒が好ましい。非プロトン性極性溶媒の比誘電率は、15以上が好ましく、30以上が特に好ましい。比誘電率の上限は特に限定されない。
非プロトン性溶媒の具体例としては、テトラヒドロフラン、ジクライム、アセトニトリル、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、スルホラン、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。
【0027】
重縮合反応における反応諸条件(温度、圧力、時間等。)は、特に限定されず、公知の方法を適用するのが好ましい。反応温度は、−10℃〜+90℃が好ましく、0〜60℃が特に好ましい。
【0028】
重縮合反応において、アダマンタン化合物に対する多価化合物の量は、(1.1〜5.0)n/m倍モルが好ましく、(2.0〜4.0)n/m倍モルが特に好ましい(ただし、nはアダマンタン化合物中の−COXの数を示し2〜4の整数を、mは多価化合物中のヒドロキシ基の数を示し2以上の整数を、示す。)。このように重縮合反応において−COXに対するヒドロキシ基の量を過剰にした場合には高分子量のアダマンタンポリエステルが得られる効果がある。本発明におけるアダマンタンポリエステルの重量平均分子量は、1×10〜1×10が好ましい。
【0029】
本発明の製造方法により得たアダマンタンポリエステルは、−COXまたはその類縁基を含みうる。たとえば、これらの基はアダマンタンポリエステルの重合末端に存在しうる。また−COXを3または4個有するアダマンタン化合物を用いた場合のアダマンタンポリエステルには、該アダマンタン化合物から2個の−COXを除いた残基中にこれらの基が存在しうる。アダマンタンポリエステルの諸物性(特に電気特性と光学特性。)の観点からは、アダマンタンポリエステルは−COXまたはその類縁基を実質的に含まないのが好ましい。
【0030】
−COXまたはその類縁基を実質的に含むアダマンタンポリエステルの製造方法としては、本発明の製造方法により得たアダマンタンポリステルを、さらにプロトン性溶媒で洗浄する方法が挙げられる。
【0031】
プロトン性溶媒は、アダマンタンポリエステルに対する溶解性が高い観点から、プロトン性極性溶媒が好ましい。プロトン性極性溶媒の比誘電率は、15以上が好ましく、30以上が特に好ましい。比誘電率の上限は特に限定されない。
プロトン性溶媒は、アンモニア、硫化水素、および水からなる群から選ばれる1種以上のプロトン性極性溶媒が好ましく、水が特に好ましい。
【0032】
洗浄における温度は、100℃以下が好ましく、−50℃〜50℃がより好ましく、0℃〜30℃が特に好ましい。また容積効率の観点から、アダマンタンポリエステルの1gに対するプロトン性溶媒の量は、10mL〜10Lが好ましく、10mL〜5Lが特に好ましい。また洗浄の回数は、特に限定されない。
【0033】
プロトン性溶媒で洗浄された精製されたアダマンポリエステルが実質的に−COXまたはその類縁基を含まない理由は必ずしも明確ではないが、アダマンタンポリエステル中のアダマンタン化合物の残基に結合する−COXまたはその類縁基は、プロトン性溶媒に対して化学的に不安定であって、プロトン性溶媒により脱カルボニル化するためと考えられる。たとえば、プロトン性溶媒が水である場合、該−COXまたはその類縁基は脱炭酸反応して水素原子に置換されると考えられる。
【0034】
本発明における精製されたアダマンタンポリエステルは、耐熱性、離型性、耐薬品性、透明性、耐光性、撥水性、撥油性、低誘電率性、および低屈折率性に優れ、透明性、耐光性、低誘電率性に特に優れた化合物である。
【実施例】
【0035】
本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
[例1(実施例)]アダマンタンポリエステルの製造例
窒素ガス雰囲気下のフラスコ(内容積200mL)に、3価フェノールである下記化合物(p−1)(0.919g)、テトラヒドロフラン(30mL)、ピリジン(1.07mL)を順に加えた。フラスコ内を0℃に保持し、つぎに下記化合物(13−1)(4.72g)を含むテトラヒドロフラン(30mL)を10分間かけて滴下した。滴下終了後、フラスコ内を25℃に保持し、フラスコ内を62時間撹拌した。
【0036】
【化7】

【0037】
つぎにフラスコに、1mol/Lの塩酸水溶液(60mL)と酢酸エチル(60mL)を加え撹拌し、水相と有機相からなる2相分離液を得た。水相を酢酸エチル(60mL)で2回抽出して得た抽出液と、有機相とを併せて反応粗液とした。反応粗液を、1mol/Lの塩酸水溶液(60mL)で2回洗浄し、さらに飽和食塩水(60mL)で1回洗浄した。
【0038】
つづいて反応粗液を硫酸マグネシウムで脱水してから溶媒留去し、黄褐色の固体(3.72g)を得た。該固体とクロロホルム(10mL)を混合してから、ヘキサン(75mL)に滴下した。沈殿物を加圧濾過により回収し、60℃にて12時間真空乾燥して反応生成物(2.67g)を得た。
【0039】
反応生成物を赤外吸収スペクトルとNMRで分析した結果、化合物(13−1)の−COF基と化合物(p−1)のヒドロキシ基との反応により形成されたエステル結合の存在を確認した。さらに該反応生成物が、化合物(13−1)から2個の−COF基を除いた残基と、化合物(p−1)から2または3個のヒドロキシ基を除いた残基とがエステル結合を介して連結した構造を有するアダマンタンポリエステルであることを確認した。またアダマンタンポリエステル中に−COF基または−COOH基は存在しなかった。
【0040】
アダマンタンポリエステルの重量平均分子量は18000であり、ガラス転移点温度は150℃であった。アダマンタンポリエステルの5質量%減少温度は387.1℃であり、10質量%減少温度は411.9℃であった。アダマンタンポリエステルのNMRデータを以下に示す。
【0041】
H−NMR(300.4MHz,溶媒:CDCl,基準:TMS)δ(ppm):2.2(s,br),7.1(s,br)。
19F−NMR(282.7MHz,溶媒:CDCl,基準:CFCl)δ(ppm):−81.8(m),−96.6(s),−98.6(s),−108.4(s),−110.5(s),−120.1(s),−217.9(s),−219.2(s)。
【0042】
さらに25質量%のアダマンタンポリエステルを含むシクロヘキサノン溶液を調整し、スピンコート法を用いてアダマンタンポリエステルの塗膜(膜厚1000nm)が表面に形成されたシリコンウェハを得た。100℃にて90秒間、200℃にて90秒間、200℃にて12時間(窒素ガス雰囲気下)の順に該シリコンウェハを乾燥してから測定したアダマンタンポリエステルの誘電率は3.26であり、屈折率は1.45であった。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の製造方法で得られたアダマンタンポリエステルは、燃料電池用膜材料、フォトレジスト、光導波材料、被覆材、電子用部材、封止剤、オーバーコート剤、透明フィルム材、接着剤、繊維材、耐候性塗料、撥水剤、撥油剤、防湿コート剤、電子デバイス用絶縁膜(多層配線板用絶縁膜、バッファコート膜、パッシベーション膜、層間絶縁膜、アルファ線遮蔽膜等。)等として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下式(1)で表される化合物と、ヒドロキシ基を2個以上有する多価化合物とを、非プロトン性溶媒の存在下に重縮合反応させて、該化合物の式−COXで表される基と、該多価化合物のヒドロキシ基との反応により形成されたエステル結合を2個以上有するアダマンタンポリエステルを得ることを特徴とするアダマンタンポリエステルの製造方法。
【化1】

ただし、式中の記号は下記の意味を示す。
Q:モノフルオロメチレン基またはジフルオロメチレン基であって、6個のQは同一であっても異なっていてもよい。
X:ヒドロキシ基、ハロゲン原子、または式−ORで表される基(ただし、Rは炭素数1〜10の炭化水素基または炭素数2〜10の炭素原子−炭素原子間にエーテル性酸素原子を含む炭化水素基を示す。)。
Y:水素原子、フッ素原子、または式−COXで表される基であって、2個のYは同一であっても異なっていてもよい。
【請求項2】
多価化合物が、ヒドロキシ基を3または4個有する多価化合物である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
多価化合物が、多価フェノールである請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
重量平均分子量が、1×10〜1×10である請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法で得たアダマンタンポリエステルをプロトン性溶媒で洗浄する精製されたアダマンタンポリエステルの製造方法。

【公開番号】特開2007−126502(P2007−126502A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−318345(P2005−318345)
【出願日】平成17年11月1日(2005.11.1)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】