説明

アテローム硬化ポテンシャルを評価するためのバイオマーカー

本発明は、ピオグリタゾンおよびロシグリタゾンに応答して差別発現する68の遺伝子のセットから選択される遺伝子の発現レベルに基づいて将来のアテローム硬化を推定するのに有用な方法、装置および試薬をも提供する。本発明は、対象において抗糖尿病療法により誘発されるアテローム硬化の進行を推定するための試薬セットおよびバイオマーカーをも開示する。特定の1態様において、本発明は、亜急性処置からの遺伝子発現データを用いて化合物が被験対象においてアテローム硬化を誘発するかどうかを推定するための方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リポタンパク質粒子の数および分布に対して有害なアテローム硬化促進作用をもつ療法化合物と抗アテローム硬化保護作用をもつ化合物とを識別するための新規手段を提供する。
【背景技術】
【0002】
肥満症および糖尿病は、アテローム硬化進行の加速によるものと思われる心血管事象について独立したリスク因子である。両疾患とも、いわゆるアテローム形成脂質三つ組(低HDL−コレステロール、トリグリセリド増加、および小さい緻密なLDL粒子の優勢)を生じる血清リポタンパク質粒子レベルの変化を特徴とする。これらの代謝障害のための療法薬の開発は、一般に、増加した体重、空腹時および食後血糖値、筋肉、肝臓および脂肪組織のインスリン感受性障害、ならびに膵機能不全の症状の治療に注目している。アテローム硬化症の動物モデルは、ヒトのリポタンパク質代謝ならびに斑の増殖および発達の生理を厳密には表わしておらず、さらにそれらは糖尿病のための前向き療法薬候補を前臨床評価する際には一般に使用されない。このため、臨床試験中および市販後に、肥満症および糖尿病に対する療法介入が斑エンドポイントに対して認められる効果をほとんど生じない(リモナバント(rimonabant)、欧州でアコンプリア(Acomplia)として販売)か、あるいは逆説的に心血管事象のリスクを増大させる(ロシグリタゾン(rosiglitazone)、AVANDIA(登録商標)として販売)状況になっている。
【0003】
核内ホルモン受容体であるアルファ、ガンマおよびデルタまたはベータサブタイプのペルオキシソーム増殖剤応答性受容体(peroxisome proliferator activated receptor)(PPAR)は、脂質、グルコースおよびエネルギーの恒常性を制御するための標的である。効力の高いPPARγアゴニスト、PPARα/γ二重アゴニスト、PPAR汎アゴニスト(PPARpan agonist)、および代替PPARリガンド、たとえば部分アゴニストまたは選択的PPARモジュレーター(SPPARM)が、インスリン感受性を改善するために設計された療法薬として追求されている。臨床試験データの最近のメタ解析は、両薬物とも糖尿病エンドポイントに対して類似の作用をもつにもかかわらず、PPARγアゴニストであるAVANDIA(登録商標)(ロシグリタゾンマレテート)は心血管事象の増大を伴う(Nissen and Wolski, “Effect of rosiglitazone on the risk of myocardial infarction and death from cardiovascular causes.” N Engl J Med. 2007 356(24): 2457-71)が、構造的に関連するPPARγアゴニストであるActos(登録商標)(塩酸ピオグリタゾン(pioglitazone))は心血管事象の低下を伴うことを示した(Lincoff, et al. “Pioglitizone and risk of cardiovascular events in patients with type 2 diabetes mellitus: a meta-analysis of randomized trials.” JAMA 2007 298(10): 1180-8)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Nissen and Wolski, “Effect of rosiglitazone on the risk of myocardial infarction and death from cardiovascular causes.” N Engl J Med. 2007 356(24): 2457-71
【非特許文献2】Lincoff, et al. “Pioglitizone and risk of cardiovascular events in patients with type 2 diabetes mellitus: a meta-analysis of randomized trials.” JAMA 2007 298(10): 1180-8
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、代謝障害の処置に用いたどの化合物が心血管事象のリスクを増大させたかを確認するための方法が求められている。代謝障害に対する有効性をもつほか心血管事象のリスクを低下させることができる化合物を同定するための方法も求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の1観点は、患者のリポタンパク質粒子の数および分布を変化させる療法薬から生じる、心血管リスクに対する有害作用を推定する方法を提供する。
本発明の1観点は、対象において抗糖尿病療法のアテローム硬化ポテンシャルを評価するためのバイオマーカーであって、表2に挙げたものから選択される複数の遺伝子それぞれの発現の測定を含むバイオマーカーを提供する。好ましくは、複数の遺伝子は、表2から選択される少なくとも3つ、少なくとも5つ、または少なくとも8つの遺伝子を含む。好ましくは、複数の遺伝子は、リンゴ酸酵素1(寄託No.M30596)、ペリリピン(perilipin)(寄託No.AI406700)、ピルビン酸カルボキシラーゼ(寄託No.BG376902)、アセチル−コエンザイムAアシルトランスフェラーゼ2(ミトコンドリア3−オキソアシル−コエンザイムAチオラーゼ)寄託No.BI282488)、3−ヒドロキシ−3−メチルグルタリル−コエンザイムAレダクターゼ(寄託No.BM390399)、およびアポリポタンパク質E(寄託No.J02582)のうち少なくとも1つを含む。
【0007】
本発明の他の観点は、化合物が被験対象においてアテローム硬化を誘発するかどうかを試験するための方法を提供し、この方法は、ある量の化合物を少なくとも1被験対象に投与し;選択した期間後に、生物試料をこれらの少なくとも1被験対象から入手し;生物試料において、表2に挙げたものから選択される少なくとも複数の遺伝子の発現レベルを測定し;発現レベルが測定されるこれらの少なくとも複数の遺伝子を含むバイオマーカーを用いて、その試料がアテローム硬化の誘発に関して陽性クラスにあるかどうかを判定することを含む。複数の遺伝子は、好ましくは後記の表2から選択される少なくとも3つ、少なくとも5つ、または少なくとも8つの遺伝子を含む。1実施態様において、生物試料は肝組織を含む。この方法の他の実施態様において、発現レベルを、化合物処理していない生物試料に対する化合物処理した生物試料のlog10比として測定する。特定の実施態様において、選択した期間は約7日またはそれ未満、より好ましくは約3日またはそれ未満、最も好ましくは約1日またはそれ未満である。特定の実施態様において、選択した期間は3時間、1時間、またはさらに30分という短いものであってもよい。
【0008】
本発明の他の観点は、表2に挙げたものから選択される少なくとも複数の遺伝子の発現量を評価できる複数のポリヌクレオチドまたはポリペプチドを含む試薬セットを提供する。特定の実施態様において、複数の遺伝子は、表2に挙げたものから選択される少なくとも3つの遺伝子、より好ましくは少なくとも5つの遺伝子、よりさらに好ましくは少なくとも8つの遺伝子を含む。他の実施態様において、試薬セットは本質的に、表2から選択される遺伝子の発現量を評価できるポリヌクレオチドまたはポリペプチドからなる。
【0009】
前記にまとめた態様をいずれか適切な組合わせで一緒に用いて、前記に明確に示さなかった他の態様を作成できること、およびそのような態様が本発明の一部とみなされることは、当業者には認識されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、ロシグリタゾン(中実四角)またはピオグリタゾン(中空四角)による処置を反映するプロファイルをもつ仮想患者についての5年間にわたる推定アテローム体積パーセント(predicted percent atheroma volume)(PAV)の変化を示す。
【図2】図2は、ロシグリタゾン(中実四角)またはピオグリタゾン(中空四角)による処置を反映するプロファイルをもつ仮想患者についての5年間にわたる斑安定性の推定変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
臨床データは、ロシグリタゾンが循環LDL粒子の増加およびHDL粒子の減少を引き起こし、一方、ピオグリタゾンが逆の作用をもつことを示唆する。ヒト心血管疾患のインシリコ(in silico)機械的モデル、Cardiovascular PhysioLab(登録商標)プラットホーム(特許出願公開2008−0249751 A1にさらに詳細に記載)を用いて、これらの相異が心血管事象率に対するロシグリタゾンとピオグリタゾンの逆の作用の原因であるという仮説を試験した。ロシグリタゾンおよびピオグリタゾンで処置した患者に相当するベースラインリポタンパク質プロファイルをもつ仮想患者において、5年間にわたる斑の進行をシミュレートした。シミュレーションにより、ロシグリタゾン処置した仮想患者は、ピオグリタゾン処置した仮想患者より大きなアテローム体積およびより不安定な斑を示し、したがってより高い心血管リスクを示すと推定された。初期臨床試験中の循環リポタンパク質プロファイルの初期変化は、斑の増殖および進行を促進する化合物を斑の増殖および進行を低下させる化合物から識別するためのバイオマーカーとして使用できる。
【0012】
ロシグリタゾンおよびピオグリタゾンで処置したラットからの肝遺伝子発現のDrugMatrix(登録商標)(数百のラット前臨床試験からの遺伝子発現プロファイルを含む分子毒物学基準データベースおよび情報システム,lconix Biosciences)を用いた分析により、観察臨床データと一致する遺伝子発現差が見出された。PPARγについての分子標的は肝臓にはないが、それは肝リポタンパク質の産生およびクリアランスに影響を及ぼす動物全身の代謝における変化の作用に対応する。これらの遺伝子は、糖尿病または肥満症の症状を処置するために使用する予定のいずれかの分子に対して、ヒトにおいて観察されるリポタンパク質粒子の変化を推定し、心血管リスクを推定するための、バイオマーカーとして使用できる。
【0013】
リポタンパク質粒子の数およびサイズにおける規定した変化の作用を、リポタンパク質代謝ならびに斑の増殖および発達の数学的モデルであるCardiovascular PhysioLab(登録商標)プラットホームでシミュレートした。表1はLDLコレステロールおよびHDLコレステロールにおける変化ならびにLDL粒子およびHDL粒子におけるシフトを示す;これらは、Deeg et al (Pioglitazone and rosiglitazone have different effects on serum lipoprotein particle concentrations and sizes in patients with type 2 diabetes and dyslipidemia. Diabetes Care. 2007 Oct;30(10): 2458-64)によるロシグリタゾンとピオグリタゾンの接近比較(head to head comparison)からのデータに基づいて処理された。ロシグリタゾンまたはピオグリタゾンによる24週間の処置が斑の増殖および安定性に及ぼす作用を、下記の最終リポタンパク質プロファイルを表わす2人の仮想患者について比較した;ロシグリタゾン処置の平均患者−対−ピオグリタゾン処理の平均患者。処置計画から生じるリポタンパク質の差による作用を分離するために、斑の増殖および安定性に影響を及ぼす他のすべての因子(開始時の斑の体積、組成、炎症など)を、両患者について同一に維持した。表1は、仮想患者についてシミュレートした6カ月間の処置後のリポタンパク質計測値を示す。
【0014】
【表1】

【0015】
図1は、ロシグリタゾン(中実四角)またはピオグリタゾン(中空四角)による処置に特徴的なリポタンパク質プロファイルをもつ仮想患者について推定した5年間にわたる推定アテローム体積パーセント(PAV)の変化の比較を示す。ロシグリタゾン処置した糖尿病の仮想患者において、PAVはピオグリタゾン処置した糖尿病の仮想患者におけるより速やかに進行すると推定される。
【0016】
斑体積のほか、ロシグリタゾンおよびピオグリタゾンが斑安定性に及ぼす作用、すなわち療法により誘発される幾何学変化および組成変化に起因する斑破裂の可能性も推定した。図2は、ロシグリタゾン(中実四角)またはピオグリタゾン(中空四角)による処置を反映するプロファイルをもつ仮想患者についての5年間の療法後の斑安定性の推定変化を示す。斑破裂の可能性は、ロシグリタゾン処置に対応する仮想患者において、ピオグリタゾン処置に対応する仮想患者よりはるかに大きいと推定される。
【0017】
さらに、ロシグリタゾンおよびピオグリタゾンで処置したラットからの肝遺伝子発現のDrugMatrixデータベース(600種類以上の異なる化合物で処理したラットからの心臓、腎臓および肝臓などの組織の遺伝子発現プロファイルを含む)を用いた分析により、これら2種類の薬物間で差別調節された遺伝子のパネルが明らかになった(表2)。68プローブのセットのこのパネルは、脂質の恒常性、代謝および輸送を調節する遺伝子が富化されていた(p値=7e−64)。これらの遺伝子発現パターンは臨床データと一致し、長期の心血管リスクおよび毒性を推定する有用な短期バイオマーカーとなることができる。
【0018】
【表2−1】

【0019】
【表2−2】

【0020】
【表2−3】

【0021】
【表2−4】

【0022】
バイオマーカーは、疾患の容易には測定できない全身的複雑さを理解するために有用である。バイオマーカーの選択および解釈は、バイオマーカーと目的物(interest)の量との関係に依存する。さらに、バイオマーカーの推定値は、それを測定する条件(実験プロトコル、測定時間)に依存する。本発明は、糖尿病療法のアテローム硬化促進作用または抗アテローム硬化作用を測定評価するのに有用なわずか4遺伝子を含むバイオマーカーを提供する。これらのバイオマーカー(およびそれらを構成する遺伝子)は、改良された診断デバイスの設計にも使用できる。
【0023】
本発明のバイオマーカーは、表2に挙げたものから選択される複数の遺伝子それぞれの発現の測定を含む。好ましくは、複数の遺伝子は、表2から選択される少なくとも3つ、少なくとも5つ、または少なくとも8つの遺伝子を含む。好ましくは、複数の遺伝子は、リンゴ酸酵素1(寄託No.M30596)、ペリリピン(寄託No.AI406700)、ピルビン酸カルボキシラーゼ(寄託No.BG376902)、アセチル−コエンザイムAアシルトランスフェラーゼ2(ミトコンドリア3−オキソアシル−コエンザイムAチオラーゼ)寄託No.BI282488)、3−ヒドロキシ−3−メチルグルタリル−コエンザイムAレダクターゼ(寄託No.BM390399)、およびアポリポタンパク質E(寄託No.J02582)のうち少なくとも1つを含む。
【0024】
本明細書中で用いる“バイオマーカー”は、分類質問に回答することができるユニークな数値または関数を提供する変数、重み係数、および他の定数の組合わせを表わす。バイオマーカーは、わずか1つの変数を含むことができる。バイオマーカーには、遺伝子発現log比と重み係数およびバイアス項(bias term)の積の和を含む線形方程式が含まれるが、これらに限定されない。
【0025】
本明細書中で用いる“変数”は、変動する可能性のあるいずれかの数値を表わす。たとえば、変数は生体分子、たとえばmRNAもしくはタンパク質または他の生物代謝産物の相対量または絶対量を表わす場合がある。変数は、被験化合物の投与量を表わす場合もある。
【0026】
診断試薬セットは、68のセット中にみられる遺伝子のサブセットであって全遺伝子の50%、40%、30%、20%、10%未満、さらには5%未満からなるものに対応する試薬を含むことができる。好ましい1態様において、診断試薬セットは、十分または必要な本発明のセット中の特異的遺伝子に対応する複数のポリヌクレオチドまたはポリペプチドである。そのようなバイオポリマー試薬セットは、ポリヌクレオチドおよびポリペプチドのための周知のいかなる診断アッセイ法(および付随キット)にも直ちに適用できる(たとえば、DNAアレイ、RT−PCR、イムノアッセイ、またはポリペプチドもしくはたんぱく質のための他の受容体ベースのアッセイ)。
【0027】
前記のように、本明細書に記載する方法はポリヌクレオチドデータに限定されない。本発明は、他のタイプのデータセットにも適用できる。たとえば、タンパク質レベルを測定するプロテオミクスアッセイ技術、または酵母2−ハイブリッドなどのタンパク質相互作用技術、または質量分析からも大きなデータセットが得られ、これらを用いて本発明のバイオマーカーに対応するポリペプチドの相対発現を推論することができる。
【0028】
本発明の診断試薬セットはキット中において提供することができ、その際キットは、その試薬セットを利用する予定である特定の診断用途に必要な追加の試薬または構成要素を含む場合または含まない場合がある。たとえばポリヌクレオチドアレイ用途については、診断試薬セットはさらにマイクロアレイプローブまたはターゲットを増幅および/または標識するための1種類以上の追加必要試薬(たとえば、ポリメラーゼ、標識ヌクレオチドなど)を含むキット中において提供することができる。
【0029】
多様なアレイフォーマット(たとえばポリヌクレオチドおよび/またはポリペプチド)が当技術分野で周知であり、本発明により得られる方法およびサブセットについて使用できる。好ましい1態様において、フォトリソグラフィー法またはマイクロミラー法を用いてスペーサーユニットまたは機能性基の光誘導化学修飾を空間的に指向させて、支持体の表面の特定の局在領域に結合させることができる。化合物の反応性を制御して固体支持体に固定化する光指向性方法は当技術分野で周知であり、U.S.Pat.No.4,562,157、5,143,854、5,556,961、5,968,740および6,153,744、ならびにPCT公開WO 99/42813に記載されている。
【0030】
あるいは、化学試薬の厳密な沈着により複数の分子を単一支持体に結合させることができる。たとえば、小体積の液体試薬を固体支持体に沈着させる際に高い空間分解能を達成するための方法は、U.S.Pat.No.5,474,796および5,807,522に開示されている。
【実施例】
【0031】
以下の実施例は、当業者のための指針として提供される。実施例は本発明の実施および態様を理解するのに有用な特定の方法を提示するにすぎないので、これらの実施例は本発明を限定するものと解釈すべきではない。
【0032】
A.実施例1:発現プロファイルの開発
体重が一致した7〜8週令の雄Sprague−Dawley(Crl:CD(登録商標)(SD)(IGS)BR)ラット(Charles River Laboratories、ミシガン州ポーティジ)を個別に、懸垂式ステンレス鋼製の金網底ケージ内で、温度(66〜77゜F)、明るさ(12時間の暗/明サイクル)および湿度(30〜70%)を制御した室内に収容した。5日間の順化期間および5日間の処置期間を通して、水およびげっ歯類飼料を適宜摂取させた。動物の収容および処置は、USDA Animal Welfare Act(9 CFR Parts 1、2および3)に概説された規則に従った。
【0033】
ラット(グループ当たり3匹)に毎日、低用量または高用量で投薬した。低用量は文献から推定した有効量であり、高用量は5日間の範囲探索試験中に対照と比較して体重増加を50%低下させる用量として経験的に判定した最大耐量であった。動物を0.25、1、3および5日目に屍検した。最高13の組織(たとえば、肝臓、腎臓、心臓、骨髄、血液、脾臓、脳、腸、腺胃および非腺胃、肺、筋肉、および性巣)を、組織病理学的評価、およびAffymetrix Rat Whole Genome RG230 v2プラットホームでのマイクロアレイ発現プロファイリングのために採集した。さらに、3および5日目に採集した血液試料から、37の臨床化学的および血液学的パラメーターからなる臨床病理パネルを作製した。
【0034】
推奨されたプロトコルに従って、遺伝子発現プロファイリング、データ処理および品質管理を実施した。要約すると、それぞれ処理グループおよび対照グループから各時点につき3匹のラットからの肝臓試料を、Affymetrix Rat Whole Genome RG230 v2マイクロアレイ(Affymetrix、カリフォルニア州サンタクララ)での発現プロファイル分析のためにランダムに選択した。すべてのプローブについてlog換算したシグナルデータを、Affymetrix MAS5アルゴリズムを用いてアレイ式に正規化した。各遺伝子について、正規化した平均実験シグナルおよび正規化した同時点の平均ビヒクル対照シグナルのlog間の差として、底10の発現log比(log(10)比)を計算した。
【0035】
表3は分析した実験を示す。
【0036】
【表3】

【0037】
各遺伝子から採取した一連のオリゴヌクレオチドプローブを、下記の基準を用いて選択した:(1)ロシグリタゾンで両実験において少なくとも2倍誘導されたが、ピオグリタゾンでは3実験中の少なくとも2実験において2倍未満誘導されたか、変化を生じなかったか、または抑制された遺伝子プローブ;(2)ロシグリタゾンで両実験において少なくとも2倍抑制されたが、ピオグリタゾンでは3実験中の少なくとも2実験において2倍未満抑制されたか、誘導されたか、または変化を生じなかった遺伝子プローブ;(3)ピオグリタゾンで3実験中の2実験において少なくとも2倍誘導されたが、ロシグリタゾンでは両実験において2倍未満誘導されたか、変化を生じなかったか、または抑制された遺伝子プローブ;(4)ピオグリタゾンで3実験中の少なくとも2実験において少なくとも2倍抑制されたが、ロシグリタゾンでは3実験中の少なくとも2実験において2倍未満抑制されたか、誘導されたか、または変化を生じなかった遺伝子プローブ。
【0038】
本発明の範囲および精神から逸脱することなく、記載したバイオマーカーおよび本発明方法の多様な改変および変更が当業者に自明であろう。本発明を特定の好ましい態様に関連して記載したが、特許請求の範囲に記載した本発明はそのような特定の態様に不当に限定されるべきでないことを理解すべきである。実際に、本発明を実施するために記載した様式の多様な改変であって当業者に自明のものは特許請求の範囲に含まれるものとする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象において抗糖尿病療法のアテローム硬化ポテンシャルを評価するためのバイオマーカーであって、表2に挙げたものから選択される複数の遺伝子それぞれの発現の測定を含むバイオマーカー。
【請求項2】
複数の遺伝子が、表2から選択される少なくとも3つ、少なくとも5つ、または少なくとも8つの遺伝子を含む、請求項1に記載のバイオマーカー。
【請求項3】
複数の遺伝子が、リンゴ酸酵素1(寄託No.M30596)、ペリリピン(寄託No.AI406700)、ピルビン酸カルボキシラーゼ(寄託No.BG376902)、アセチル−コエンザイムAアシルトランスフェラーゼ2(ミトコンドリア3−オキソアシル−コエンザイムAチオラーゼ)寄託No.BI282488)、3−ヒドロキシ−3−メチルグルタリル−コエンザイムAレダクターゼ(寄託No.BM390399)、およびアポリポタンパク質E(寄託No.J02582)のうち少なくとも1つを含む、請求項1に記載のバイオマーカー。
【請求項4】
化合物が被験対象においてアテローム硬化を誘発するかどうかを試験するための方法であって、
ある量の化合物を少なくとも1被験対象に投与し;
選択した期間後に、生物試料をこれらの少なくとも1被験対象から入手し;
生物試料において、表4に挙げたものから選択される少なくとも複数の遺伝子の発現レベルを測定し;
発現レベルが測定されるこれらの少なくとも複数の遺伝子を含むクラシファイヤーを用いて、その試料がアテローム硬化の誘発に関して陽性クラスにあるかどうかを判定する
ことを含む方法。
【請求項5】
生物試料が肝組織を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
投与した量が約7日目、約14日目、または約21日目にアテローム硬化の組織学的または臨床的な証拠を生じない、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
発現レベルを、化合物処理していない生物試料に対する化合物処理した生物試料のlog10比として測定する、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
クラシファイヤーが線形クラシファイヤーである、請求項4に記載の方法。
【請求項9】
クラシファイヤーが非線形クラシファイヤーである、請求項4に記載の方法。
【請求項10】
選択した期間が約7日またはそれ未満である、請求項4に記載の方法。
【請求項11】
表4に挙げたものから選択される少なくとも複数の遺伝子に対応する複数のポリヌクレオチドまたはポリペプチドを含む試薬セット。
【請求項12】
複数の遺伝子が、表4に挙げたものから選択される少なくとも4つの遺伝子を含み、それら4つの遺伝子が表4の遺伝子すべての全インパクトの少なくとも2%を有する、請求項11に記載の試薬セット。
【請求項13】
複数の遺伝子が、表4に挙げたものから選択される少なくとも8つの遺伝子を含み、それら8つの遺伝子が表4の遺伝子すべての全インパクトの少なくとも4%を有する、請求項11に記載の試薬セット。
【請求項14】
試薬セットが表4からランダムに選択されるサブセットの遺伝子に基づき、その際、このサブセットが、全インパクトの少なくとも1、2、4、8、16、32または64%を有する少なくとも4つの遺伝子を含む、請求項11に記載の試薬セット。
【請求項15】
複数の遺伝子が、1000未満のポリヌクレオチドまたはポリペプチドからなる、請求項11に記載の試薬セット。
【請求項16】
複数の遺伝子が、200未満のポリヌクレオチドまたはポリペプチドからなる、請求項15に記載の試薬セット。
【請求項17】
複数の遺伝子が、8未満のポリヌクレオチドまたはポリペプチドからなる、請求項15に記載の試薬セット。
【請求項18】
試薬セットが本質的に、表4から選択されるポリヌクレオチドまたはポリペプチドからなる、請求項11に記載の試薬セット。
【請求項19】
化合物が被験対象においてアテローム硬化を誘発するかどうかを推定するための、請求項11に記載の試薬セットを含む装置。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2012−508028(P2012−508028A)
【公表日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−535790(P2011−535790)
【出願日】平成21年11月11日(2009.11.11)
【国際出願番号】PCT/US2009/064047
【国際公開番号】WO2010/056757
【国際公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【出願人】(500200535)エンテロス・インコーポレーテッド (18)
【Fターム(参考)】