説明

アデノシン三リン酸を増幅させるための反応器およびアデノシン三リン酸の増幅方法、並びにその利用

【課題】本発明は、微量なATPを定量するために利用可能なATPを増幅させるための反応器およびATPの増幅方法、並びにその利用を提供する。
【解決手段】アデニル酸キナーゼが固定された第1領域と、ADPをATPに変換するADPリン酸化酵素が固定された第2領域とが設けられた流路に沿って、ATPとAMPとADPリン酸化酵素の基質とを、上記第1領域および第2領域の順に通過させる。これにより、ATPを定量的に増幅させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アデノシン三リン酸を増幅させるための反応器およびアデノシン三リン酸の増幅方法、並びにその利用に関するものであり、特に、微量なアデノシン三リン酸を定量するために利用可能なアデノシン三リン酸を増幅させるための反応器およびアデノシン三リン酸の増幅方法、並びにその利用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、アデノシン三リン酸(以下、「ATP」ともいう)の測定法としては、ホタルルシフェラーゼを用いた生物発光による測定法が一般的に用いられている(非特許文献1を参照)。また、該測定法は、HACCP(Hazard Analysis Critical Control Point)において、生命体に含まれるATPを指標とした衛生検査の標準法となっている。
【0003】
上記測定法によれば、幅広い濃度範囲でATPを定量的に検出することができる。しかし、超微量のATPや、1,000個体以下の微量の微生物を検出対象とする場合、そのような微量のATPから生じる発光は市販のルミノメーターの検出可能域を大きく下回っているため、感度が不十分であるという問題がある。
【0004】
そのような問題を解決するために、本発明者らは、これまでに、微量のATPを、アデニル酸キナーゼ(以下、「ADK」ともいう)およびポリリン酸キナーゼ(以下、「PPK」ともいう)を用いた共役反応(連鎖的ATP増幅反応)により、ATPを人為的に増幅するATP増幅法を開発している(特許文献3を参照)。
【0005】
具体的には、特許文献3のATP増幅法では、ADKの触媒下でATPとアデニル酸(以下、「AMP」ともいう)とから2分子のアデノシン二リン酸(以下、「ADP」ともいう)を生成する反応(以下、「ADK反応」ともいう)と、PPKの触媒下で該2分子のADPとポリリン酸(以下、「Pn」ともいう)とから2分子のATPを生成する反応(以下、「PPK反応」ともいう)とを、1つの反応系内で行う。
【0006】
該ATP増幅法において、上記ADK反応とPPK反応とを1サイクルとして、反応をnサイクル行うと、ATPを2倍に増幅することができる。
【0007】
また、本発明者らは、特許文献1に開示されるATP増幅法において、不純物としてのADPを含まない酵素を用いることにより外因性のATPのみを増幅できることを見出している(非特許文献2を参照)。
【0008】
また、非特許文献2には、該ATP増幅法によれば、ATP検出感度は、ATPを増幅しない従来法と比較して、10,000倍以上に感度が向上し、数amolレベルのATPを検出できることが記載されている。さらに、非特許文献2には、該ATP増幅方法によれば、細胞1個レベルの微生物のATPを増幅、検出できることが記載されている。
【0009】
さらに、本発明者らは、標的微生物特異的抗体を用いて、試料に含まれる微生物のうち標的微生物のみを分離した後に、非特許文献2に開示されるATP増幅法を行うことにより、微生物の検出と微生物種の同定とを同時に行うことが可能であることを見出している(非特許文献3、特許文献2を参照)。具体的には、非特許文献3および特許文献2には、このような方法によれば、大腸菌や、牛乳中の黄色ブドウ球菌、ふき取り検査または環境水中に含まれる微生物を、1個体レベルで検出できることが記載されている。
【特許文献1】特開2001−299390号公報(平成13(2001)年10月30日公開)
【特許文献2】特開2006−81506号公報(平成18(2006)年3月30日公開)
【特許文献3】特開2006−223163号公報(平成18(2006)年8月31日公開)
【非特許文献1】DeLuca, M. and McElroy, W.D. Kinetics of the firefly luciferase catalyzed reactions. Biochemistry, 26, 912-925 (1974)
【非特許文献2】T. Satoh, J. Kato, N. Takiguchi, H. Ohtake, A. Kuroda ATP amplification for ultrasensitive bioluminescence assay: detection of a single bacterial cell Biosc. Biotechnol. Biochem. 68, 1216-1220 (2004).
【非特許文献3】Y. Asami, T. Satoh,A. Kuroda Polyphosphate-ATP amplification technology:principle and its application to specific bacteria detection J. Environ. Biotechnol. 6, 2, 105-108 (2006).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1および2、非特許文献2および3に開示されるATP増幅法は、上述したように、微生物の有無を試験する1次的なスクリーニング等に有効である。
【0011】
また、上記ATP増幅法では、連鎖的ATP増幅反応をバッチ内で行うため、連鎖的ATP増幅反応は、AMPを消費し終わるまで増幅を続け、最終的には一定のATP量に収束する(図12を参照)が、反応系に加えるATP量に応じて増幅速度に差があるため、一定の反応時間で区切ることにより、相対的なATP測定を行うことができる。
【0012】
具体的には、本発明者らは、ATP増幅法を用いたATP定量法として、特許文献3に開示される技術を開発している。特許文献3に開示される方法では、上述したようなATP増幅法により増幅したATPをヘキソキナーゼ法により、試料中のATPを定量的に検出することができる。
【0013】
しかしながら、特許文献3も含め、従来のATP増幅法を用いたATP定量では、図2に示すように、連鎖的ATP増幅反応をバッチで行うため、ATPは指数関数的に増幅される。そのため、比較する両者で、酵素活性(または酵素量)に僅かな相違があるだけで、大きな誤差が生じる。その結果、微量ATPを定量する場合、ある程度の定量を行うことは可能であるが、高精度な定量は困難であるという問題がある。
【0014】
本発明は、上記問題点に鑑みなされたものであって、その目的は、微量なATPを定量するために利用可能なATPを増幅させるための反応器およびATPの増幅方法、並びにその利用を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、アデニル酸キナーゼ、およびアデノシン二リン酸をアデノシン三リン酸に変換する酵素を固定化したフロー系によれば、ATPの増幅回数を所望に制御できることを独自に見出し、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明は、以下の産業上有用な発明を包含する。
【0016】
(1)アデノシン三リン酸を増幅させるための反応器であって、アデニル酸キナーゼが固定された第1領域と、アデノシン二リン酸をアデノシン三リン酸に変換する酵素が固定された第2領域とが設けられた流路を備えていることを特徴とする反応器。
【0017】
(2)上記アデノシン二リン酸をアデノシン三リン酸に変換する酵素は、ピルビン酸キナーゼ、ポリリン酸キナーゼ、酢酸キナーゼ、クレアチンキナーゼ、またはヘキソキナーゼであることを特徴とする(1)に記載の反応器。
【0018】
(3)上記流路が複数連結されており、上記第1領域および第2領域が交互に配置されていることを特徴とする(1)に記載の反応器。
【0019】
(4)液体を、上記流路に沿って、上記第1領域から第2領域の方向に送液し、上記第1領域および第2領域を順に通過させ、該第2領域を通過した液体を、再び、上記第1領域の上流から第2領域の方向に送液することを可能にする溶液循環機構をさらに備えていることを特徴とする(1)に記載の反応器。
【0020】
(5)アデニル酸キナーゼが固定された第1領域と、アデノシン二リン酸をアデノシン三リン酸に変換する酵素が固定された第2領域とが設けられた流路に沿って、アデノシン三リン酸とアデニル酸と上記酵素の基質とを、上記第1領域および第2領域の順に通過させることを特徴とするアデノシン三リン酸の増幅方法。
【0021】
(6)上記アデノシン二リン酸をアデノシン三リン酸に変換する酵素と該酵素の基質との組み合わせは、ピルビン酸キナーゼとホスホエノールピルビンとの組み合わせ、ポリリン酸キナーゼとポリリン酸との組み合わせ、酢酸キナーゼとアセチルリン酸との組み合わせ、クレアチンキナーゼとホスホクレアチンとの組み合わせ、またはヘキソキナーゼとヘキソースリン酸との組み合わせであることを特徴とする(5)に記載のアデノシン三リン酸の増幅方法。
【0022】
(7)アデニル酸キナーゼが固定された担体、およびアデノシン二リン酸をアデノシン三リン酸に変換する酵素が固定された担体の少なくとも一方を含むことを特徴とするアデノシン三リン酸の増幅キット。
【発明の効果】
【0023】
本発明にかかる反応器は、以上のように、ATPを増幅させるための反応器であって、ADKが固定された第1領域と、ADPをATPに変換する酵素が固定された第2領域とが1つずつ設けられた流路を備えている。
【0024】
したがって、上記流路に沿って、ATPと、AMPと、上記酵素の基質とを、上記第1領域および第2領域の順に通過させることにより、ATPを2倍に増幅することができる。さらに、同じ操作を繰り返し行うことにより、ATPを2の累乗倍に増幅することができる。
【0025】
つまり、上記構成によれば、試料に含まれるATPの増幅回数(増幅倍率)を所望に制御することができる。それゆえ、試料中に含まれるATPを定量的に増幅することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明の一実施形態について、図1および図2に基づき説明すると以下の通りであるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0027】
<I.ATP増幅反応器>
本発明にかかる反応器は、ATPを増幅させるための反応器(以下、「ATP増幅反応器」ともいう)である。具体的には、該ATP増幅反応器は、図1に示すように、ADKが固定された第1領域と、ADPをATPに変換する酵素(以下、「ADPリン酸化酵素」ともいう)が固定された第2領域とが設けられた流路を備えている。
【0028】
なお、上記ADPリン酸化酵素は特に限定されるものではないが、具体的には、例えば、ピルビン酸キナーゼ(以下、「PK」ともいう)、ポリリン酸キナーゼ(以下、「PPK」ともいう)、酢酸キナーゼ、クレアチンキナーゼ、およびヘキソキナーゼ等を挙げることができる。
【0029】
上記構成によれば、ATPと、AMPと、上記ADPリン酸化酵素の基質とを、上記流路に沿って、上記第1領域および第2領域の順に通過させることにより、ATPを2倍に増幅することができる。
【0030】
この点について、図2を参照しながら、より詳細に説明する。なお、図2では、ADPリン酸化酵素としてPKを用いているが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0031】
ATPと、AMPと、PKの基質であるホスホエノールピルビン酸(以下、「PEP」ともいう)とを、上記流路に沿って第1領域を通過させる。第1領域には、ADKが固定されているため、1分子のAMPと1分子のATPとが反応して、2分子のADPが生成される(図2を参照)。
【0032】
この第1領域で生成された2分子のADPを、PEPと共に、上流路に沿って第2領域を通過させる。第2領域には、PKが固定されているため、2分子のADPと2分子のPEPとが反応して2分子のATPと2分子のピルビン酸とが生成される(図2を参照)。
【0033】
このようなメカニズムにより、上記流路を通過したATPは2倍に増幅される。この一連の反応を連鎖的ATP増幅反応ともいう。この連鎖的ATP増幅反応を繰り返し行うことにより、ATPを2の累乗倍に増幅することができる。
【0034】
このように、本発明にかかるATP増幅反応器によれば、試料に含まれるATPの増幅回数(換言すれば、増幅倍率)を所望に制御することができる。そのため、試料中に含まれるATPを定量的に増幅させることができる。
【0035】
上記流路上に、第1領域および第2領域を形成する方法は特に限定されるものではないが、具体的には、例えば、ADKおよびADPリン酸化酵素をそれぞれ固定した担体を、上記流路上に配置(固定)することにより、上記第1領域および第2領域を形成することができる。
【0036】
より具体的には、ADKおよびADPリン酸化酵素をそれぞれ固定した担体を用いて作製した中空カラムまたは充填カラムにより、上記第1領域および第2領域を形成することができる。
【0037】
ADKおよびADPリン酸化酵素をそれぞれ担体に固定する方法は特に限定されるものではない。例えば、吸着法、化学修飾法、包括固定化法など、「固定化生体触媒」(千畑 一郎 編、講談社、1986年、ISBN-10: 4061396730)に例示されるような方式や、ポリイオンコンプレックス、抗原抗体反応を用いる方法、自己組織化膜法等から選択して用いればよい。また、これらの方法は、単独で用いてもよいし、複数を組み合わせて用いてもよい。
【0038】
中でも、ADKまたはADPリン酸化酵素を、共有結合法に代表される強固な固定化法により担体に固定する方法が好ましい。このような方法によれば、連鎖的ATP増幅反応中に、酵素が担体から解離して漏出することを防止することができる。それゆえ、連鎖的ATP増幅反応によるATPの回数をより精密に制御することができる。
【0039】
また、上記担体は特に限定されるものではなく、タンパク質を固定することができる担体であれば、従来公知のものを用いることができる。
【0040】
例えば、上記第1領域および第2領域を充填カラムにより形成する実施形態では、固定化担体には樹脂、ガラス、セラミックス、金属、多糖類など、充填カラムの充填剤として知られている各種部材を用いることができる。
【0041】
充填カラムにより第1領域および第2領域を形成する実施形態では、固定化担体が、上記流路から漏出しないことが重要である。そのため、ADKまたはADPリン酸化酵素が固定された担体は、上記流路の送液方法の少なくとも下流側に向けてしっかりとせき止められていることが好ましい。
【0042】
また、充填カラムにより第1領域および第2領域を形成する実施形態では、固定化担体は酵素固定化後に充填してもよいし、充填後に酵素を固定化してもよい。さらに、本発明ではカラム内での酵素固定化量濃度分布は特に限定されるものではない。
【0043】
本発明にかかるATP増幅反応器は、上記流路が複数連結されていてもよい。このとき、上記第1領域と第2領域とが交互に配置されるように連結する。このような構成によれば、この連結された流路に沿って、ATPと、AMPと、上記ADPリン酸化酵素の基質とを、第1領域、第2領域、第1領域、第2領域、・・・の順に通過させることにより、上記流路の連結数に応じて、1回の操作でATPを2の累乗倍に増幅することができる。
【0044】
本発明にかかるATP増幅反応器は、上記流路以外の部材を備えていてもよい。具体的には、例えば、液体を、上記流路に沿って、上記第1領域から第2領域の方向に送液し、上記第1領域および第2領域を順に通過させ、該第2領域を通過した液体を、再び、上記第1領域の上流から第2領域の方向に送液することを可能にする溶液循環機構をさらに備えていてもよい。
【0045】
上記溶液循環機構としては、具体的には、例えば、上記流路をループ状にして、第2領域を通過した液体を再び第1領域の上流に戻し、再び、該液体を上記第1領域から第2領域の方向に送液する機構が挙げられる。
【0046】
また、別の実施形態として、第2領域を通過した液体を、第2領域から第1領域の方向に逆流させて、第2領域および第1領域を通過させ、該第1領域を通過した液体を、再び、上記第1領域から第2領域の方向に送液する機構が挙げられる。なお、連鎖的ATP増幅反応の逆向きの反応は実質的に無視できる程度であるため、第2領域を通過した試料を同一流路上を逆流させても、繰り返し行う連鎖的ATP増幅反応に影響を与えることはない。
【0047】
このような構成によれば、上記流路の連結数に制限されることなく、連鎖的ATP増幅反応を繰り返し行うことができる。また、上記流路の連結数を低減することができるため、ATP増幅反応器を小型化することができる。
【0048】
また、本発明にかかるATP増幅反応器は、上記流路に液体を送液するための送液部や、上記流路にATP等の物質を注入するための注入部、第2領域を通過した液体を回収する回収部、上記流路の温度を制御するための温度制御部等を備えていてもよい。
【0049】
上記送液部には、ポンプ、配管、インジェクター、コネクター、カラム、カラム充填剤、フラクションコレクター、検出器などが含まれうるが、これらは、耐圧性が高いことが好ましい。具体的には、0.1MPa以上の耐圧性能を有することが好ましい。
【0050】
上記流路が複数連結された構成では、流路の全長が長くなり、送液時に圧力が上昇するが、上記構成によれば、そのように複数の流路を連結した場合であっても、液体を送液することができる。
【0051】
本発明にかかるATP増幅反応器は、以上のような構成を備えているため、ATPを効率的に増幅することができる。さらに、本発明にかかるATP増幅反応器は、任意の試料中に含まれるATPを定量性よく増幅することができる。したがって、本発明にかかるATP増幅反応器は、任意の試料中に含まれる微量なATPを検出したり、定量したりする用途に好適に用いることができる。
【0052】
ここで、本発明にかかるATP増幅反応器を用いてATPを増幅させる方法(すなわち、本発明にかかるATP増幅方法)について説明する。
【0053】
本発明にかかるATP増幅方法では、上記ATP増幅反応器が備える上記流路に沿って、ATPとAMPとADPリン酸化酵素の基質とを、第1領域および第2領域の順に、通過させる。
【0054】
なお、その具体的な手段は特に限定されるものではないが、具体的には、例えば、ATPとAMPとADPリン酸化酵素の基質とを含む試料溶液を、上記流路の第1領域上流に供し、ATP、AMP、およびADPリン酸化酵素の基質のいずれも含まない緩衝液を第1領域から第2領域の方向に送液することにより、上記流路に沿って、ATPとAMPとADPリン酸化酵素の基質とを、第1領域および第2領域の順に、通過させることができる。
【0055】
また、別の実施形態として、例えば、ATPを含む試料溶液を、上記流路の第1領域上流に供し、AMPおよびADPリン酸化酵素の基質を含む緩衝液を第1領域から第2領域の方向に送液することにより、上記流路に沿って、ATPとAMPとADPリン酸化酵素の基質とを、第1領域および第2領域の順に、通過させることができる。
【0056】
上記構成によれば、第1領域において、1分子のAMPと1分子のATPとを反応させ、2分子のADPを生成することができる。さらに、この2分子のADPは、第2領域を通過する際、ADPリン酸化酵素の基質と反応し、2分子のATPを生成することができる。つまり、上記工程を1回実施することにより、ATPを2倍に増幅することができる。また、この操作を複数回繰り返すことにより、ATPを2の累乗倍に増幅することができる。
【0057】
上記ATP増幅反応器に導入する試料溶液の導入量は、あらかじめ試料(ATP含有試料)と他の反応基質(AMPとADPリン酸化酵素の基質)を混合後にATP増幅反応器に導入する実施形態では、検出、あるいは回収されるまで、試料セグメントの一部が希釈されないだけ十分多量な試料を導入することが好ましい。このような必要量は、例えば、ダミーで色素をATP増幅反応器に導入して送液して、該色素を検出、回収することにより実験的に知ることができる。
【0058】
一方、ATP増幅反応器内で試料(ATP含有試料)が試料セグメントの流れ方向前後にある他の基質(AMPとADPリン酸化酵素の基質)と混合される実施形態では、最初の第1領域に到達するまでに混合可能なように十分少量な試料を導入することが好ましい。このような必要量は、例えばダミーで混合して発色するような色素を、ATP増幅反応器に導入して送液して第1領域の手前で検出、回収することにより実験的に知ることができる。ATP増幅反応器内で試料(ATP含有試料)が、その他の基質(AMPとADPリン酸化酵素の基質)と並走して、送液し合流させることにより両者を混合する実施形態では、試料導入量は任意である。
【0059】
上記ADPリン酸化酵素の基質は、上記第2領域に固定されているADPリン酸化酵素の種類に応じて異なる。例えば、上記ADPリン酸化酵素がPKである場合、上記基質は、PEPである。また、上記ADPリン酸化酵素がPPKである場合、上記基質は、ポリリン酸(以下、「Pn」ともいう)である。さらに、上記ADPリン酸化酵素が酢酸キナーゼである場合、上記基質は、アセチルリン酸である。上記ADPリン酸化酵素がクレアチンキナーゼである場合、上記基質は、ホスホクレアチンである。上記ADPリン酸化酵素がヘキソキナーゼである場合、上記基質は、ヘキソースリン酸である。
【0060】
上記Pnは特に限定されるものではなく、Pnあるいはその塩を好適に用いることができる。好ましくは10個〜1000個、より好ましくは10個〜100個のリン酸が直鎖状に重合したものを用いる。Pnは細菌由来でもよく、化学合成で得られたものでもよい。あるいは、ポリリン酸合成酵素を用いてATPから合成したものでもよい。
【0061】
本発明にかかるATP増幅方法に用いるAMPおよびADPリン酸化酵素の基質は、ATPを含まないことが好ましい。AMP、PEP、Pnはリン酸系物質であるため、通常、市販品には、極めて多量のATPが含まれている。したがって、AMPおよびADPリン酸化酵素の基質を精製し、ATPを除去して用いることが好ましい。より具体的には、AMPおよびADPリン酸化酵素の基質を含む試料溶液または緩衝液中の、AMPおよび該基質に由来するATP濃度が、1mM以下となるようにすることが好ましく、1μM以下となるようにすることがより好ましい。
【0062】
上記流路に送液する緩衝液、およびATPを含む試料溶液の調製に用いる緩衝液は、特に限定されるものではなく、適切な緩衝液、例えば、Tris緩衝液、HEPES緩衝液、リン酸緩衝液を用いればよい。また、上記緩衝液には、例えばMgイオン等の二価金属イオンが含まれていることが好ましい。
【0063】
上記緩衝液は、増幅されたATPを検出する方法に応じて適切な緩衝液を選択することが好ましい。ATPの検出方法として最も一般的に用いるルシフェラーゼ発光法を用いる場合、上記緩衝液は、ルシフェラーゼ反応の阻害剤をできる限り含まないことが好ましい。
【0064】
ルシフェラーゼ反応は、例えば、後述の実施例に示すように、リン酸イオンや塩化物イオンにより阻害される。したがって、本発明にかかるATP増幅方法で増幅されたATPをルシフェラーゼ発光法により検出する場合、上記緩衝液のリン酸イオンおよび塩化物イオンの濃度はできるだけ低くすることが好ましい。
【0065】
具体的には、リン酸イオン濃度は、1M以下とすることが好ましく、1mM以下とすることがより好ましい。また、塩化物イオン濃度は、1M以下とすることが好ましく、1mM以下とすることがより好ましい。
【0066】
また、本発明にかかるATP増幅方法を行う温度は特に限定されるものではなく、連鎖的ATP増幅反応に用いる酵素の至適温度を越えない範囲で行えばよい。具体的には、4℃〜98℃の温度範囲で実施することが好ましい。連鎖的ATP増幅反応に用いる酵素の至適温度より低いと酵素活性が低くATPが充分増幅されなくなる傾向がある。一方、連鎖的ATP増幅反応に用いる酵素の至適温度を超えると酵素が失活することによりATPが充分増幅されなくなる傾向がある。
【0067】
したがって、本発明にかかるATP増幅反応器が上記温度制御部を備える構成では、該温度制御部は、上記流路を室温〜連鎖的ATP増幅反応に用いる酵素の至適温度の温度範囲で制御できるものであることが好ましい。
【0068】
上記流路に沿って、上記緩衝液を送液するときの送液方式は特に限定されるものではなく、連続送液方式であってもよいし、ストップトフロー方式であってもよい。また、そのときの流速は特に限定されるものではなく、上記第1領域および第2領域において、連鎖的ATP増幅反応が十分に進行可能な流速であればよい。該流速は、上記第1領域および第2領域に固定化した酵素量や酵素活性に依存するものであり、用いる流路に応じて適切に設定することが好ましい。具体的には、後述の実施例に示すような方法により、適切な流速を設定することができる。
【0069】
特に、適切な流速範囲の中でも、できるだけ高い流速を選択することが好ましい。フロー系内の、反応に寄与しない部分をデッドボリュームといい、流速低減に伴いデッドボリューム分の送液時間は流速に反比例して増える。そのため、場合によっては、上記第1領域および第2領域への十分な滞留時間を確保するために、ストップトフロー方式をとることが好ましい。
【0070】
上記第1領域および第2領域における反応は、ほぼ平衡状態に達することが好ましい。これにより、再現性よくATPを増幅することができる。具体的には、第1領域および第2領域における反応での分析対象側基質、すなわち第1領域にあってはATPが、第2領域にあってはADPが、ほぼすべて消費されることが好ましい。なお、再現性よくATPを増幅することが可能であれば、この限りではない。
【0071】
本発明にかかるATP増幅反応器では、固定化酵素量が多いほど、また、その酵素の比活性が高いほど、平衡状態には早く達する。また、第1領域および第2領域での滞留時間が長ければ、より確実に平衡状態に達する。第1領域および第2領域の長さ(換言すれば、カラム長)は長く、また、第1領域および第2領域の、流れの軸方向に垂直な断面積が大きいほうが同じ流速でも滞留時間が長くなる。また、送液する流速は遅いほど滞留時間が長くなる。これらのフロー系設計条件および実施条件は、選択可能なフロー系部材の耐圧条件や、酵素活性などの制約に基づき、実験的に定めることができる。
【0072】
また、本発明にかかるATP増幅方法においては、上記流路にATPを供する前(換言すれば、連鎖的ATP増幅反応を行う前)に、上記ADPリン酸化酵素の基質を含む緩衝液を上記流路に送液することが好ましい。
【0073】
上記ADPリン酸化酵素は、反応基質であるADPと複合体を形成するものが多い。具体的には、ADPリン酸化酵素であるPKおよびPPKはいずれも、ADPと複合体を形成することが知られている。
【0074】
ADPリン酸化酵素がADPとこのような複合体を形成していると、連鎖的ATP増幅反応において、該ADPがATPに変換されるため、定量的なATP増幅を行うことが困難になる。
【0075】
しかしながら、上記ADPリン酸化酵素の基質を含む緩衝液を上記流路に予め送液することにより、第2領域に固定されたADPリン酸化酵素がADPと複合体を形成していたとしても、該ADPを除去することができる。つまり、上記構成によれば、定量的にATPを増幅させることができる。
【0076】
また、本発明にかかるATP増幅反応器を使用後、上記流路に上記ADPリン酸化酵素の基質を含む緩衝液を送液することにより、容易にADPリン酸化酵素と結合しているADPを除去することができる。それゆえ、本発明にかかるATP増幅反応器は、容易なメンテナンス処理により、繰り返し使用することができる。
【0077】
本発明にかかるATP増幅方法では、さらに、上記流路にATPを供する前(換言すれば、連鎖的ATP増幅反応を行う前)に、上記流路にリン酸を送液することが好ましい。
【0078】
上記構成によれば、流路中にATPが付着(滞留)していたとしても、該ATPを洗い流すことができる。それゆえ、ATPを定量的に増幅させることができる。
【0079】
また、本発明にかかるATP増幅反応器を使用後、上記流路にリン酸を送液することにより、容易に、流路上のATPを除去することができる。それゆえ、本発明にかかるATP増幅反応器は、容易なメンテナンス処理により、繰り返し使用することができる。
【0080】
本発明にかかるATP増幅方法は、上記構成を備えているため、上記流路に供するATPのみを定量性よく増幅することができる。したがって、本発明にかかるATP増幅反応器、および本発明にかかるATP増幅方法は、試料中に含まれる微量なATPの高感度検出や、高感度定量に好適に用いることができる。もちろん、ATPの合成生産の目的に利用することも可能である。
【0081】
したがって、本発明には、本発明にかかるATP増幅反応器を用いてATPを検出する方法(以下、「ATP検出方法」ともいう)、およびATPを定量する方法(以下、「ATP定量方法」ともいう)も含まれる。なお、ATP検出方法およびATP定量方法については、後述する。
【0082】
また、本発明には、本発明にかかるATP増幅方法、ATP検出方法、およびATP定量方法を実施するために好適に利用することが可能なATP増幅キット、ATP検出キット、ATP定量キット(以下、これらのキット総称して「本発明にかかるキット」ともいう)も含まれる。
【0083】
本発明にかかるキットには、ADKが固定された担体、およびADPリン酸化酵素が固定された担体のうち、少なくとも一方が含まれていればよく、その他の具体的な構成は特に限定されない。
【0084】
また、上記ADKが固定された担体、およびADPリン酸化酵素が固定された担体は、該担体にADKおよびADPリン酸化酵素のそれぞれが既に固定されている状態で本発明にかかるキットに含まれていてもよいが、該担体にADKおよびADPリン酸化酵素のそれぞれを固定するための試薬セットとして含まれていてもよい。
【0085】
本発明にかかるキットには、連鎖的ATP増幅反応に用いられる試薬、ATPの検出に用いられる試薬がさらに含まれていることが好ましい。
【0086】
上記連鎖的ATP増幅反応に用いられる試薬としては、具体的には、例えば、PEP、ポリリン酸化合物、AMP等を挙げることができる。
【0087】
上記ATP検出に用いられる試薬としては、ルシフェラーゼ、ルシフェリン等を挙げることができる。
【0088】
本発明にかかるキットには、上記例示したもの以外に、上記化合物等を溶解するための緩衝液、ATP標準液、試料からATPを抽出するための試薬、反応に用いるプレート等が含まれていてもよい。
【0089】
<II.ATP検出方法およびATP定量方法>
本発明にかかるATP検出方法は、試料中に含まれるATPを本発明にかかるATP増幅方法によって増幅し、該増幅したATPを検出することにより、上記試料中のATPを検出する方法である。
【0090】
一方、本発明にかかるATP定量方法は、試料中に含まれるATPを本発明にかかるATP増幅方法によって増幅し、該増幅したATPを定量することにより、上記試料中のATPを定量する方法である。
【0091】
本発明にかかるATP検出方法およびATP定量方法により、ATPを検出または定量する対象となる試料は、特に限定されるものではなく、ATPを含む可能性があるものであればよい。ATPは、動物、植物、微生物等の全ての生物に存在するエネルギー物質であるので、生物由来の試料が本発明の対象試料となり得る。
【0092】
本方法は超微量のATPを検出および定量することができるため、本方法の適用対象としては、例えば、抗ガン剤の薬効試験として、アポトーシスが起きて死滅した細胞の検出、生物が存在した痕跡として残るATPの検出、衛生検査現場における将来微生物が生息するであろう食品残渣の検査、極少数の微生物の検出等を挙げることができる。なかでも微生物の検出に適用すれば、非常に簡便に、かつ、極少数の微生物の存在を確認することができるため、微生物を含む可能性のある試料が本発明の対象試料として好適である。
【0093】
試料からATPを抽出する方法は特に限定されるものではなく、試料の種類に応じて公知の方法から適宜選択して用いればよい。例えば、細胞を含む試料や微生物を含む試料からATPを抽出する場合には、物理的手段(例えばホモジナイザー、超音波等)により細胞または微生物を破砕する方法、酵素(例えばリゾチーム等)により細胞または微生物の膜を破砕する方法、界面活性剤(例えばTritonX-100(商品名)、Tween20(商品名)等)により細胞または微生物の膜を破砕する方法等を用いることができる。
【0094】
ただし、細胞を破砕等するのみでは、細胞中に含まれるピルビン酸キナーゼ、ポリリン酸キナーゼ、およびアデニル酸キナーゼ等の酵素が、連鎖的ATP増幅反応に影響を及ぼす可能性がある。そのため、細胞を破砕等してATPを抽出した後に加熱処理を行って酵素を失活させたり、細胞を加熱処理したりすることによりATPを溶出させる方法を用いることが好ましい。
【0095】
本発明にかかるATP検出方法およびATP定量方法において、本発明にかかるATP増幅方法により増幅されたATPを検出および定量する方法は特に限定されるものではなく、ATP検出法およびATP定量法として従来公知のあらゆる方法を用いることができる。
【0096】
ATPの検出および定量に用いられる最も一般的な方法として、ルシフェラーゼとATPとの反応による発光量の測定を挙げることができる。本発明においても、該方法を好適に用いることができる。このような発光量の測定によりATPを測定する場合には、市販のルシフェラーゼを用いるATP測定キットを用いてもよい。
【0097】
なお本発明は、以上説示した各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0098】
本発明について、実施例および図3〜図11に基づいてより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。当業者は本発明の範囲を逸脱することなく、種々の変更、修正および改変を行うことができる。
【0099】
〔実施例1:酵素固定化カラムを用いたATP増幅〕
(1)酵素固定化カラムの作製
ADK固定化カラムおよびPK固定化カラムを、以下の手順で作製した。
【0100】
まず、リガンド固定化用カップリングカラム(商品名:HiTrap NHS-activated HPカラム1ml(GE Healthcare))に、あらかじめ氷上で冷やしておいた1mM HClをシリンジで6ml通液した。
【0101】
直ちに、ADK固定化カラムについては結合緩衝液(0.2M NaHCO−NaOH、0.5M NaCl、pH8.4)で調製したニワトリ筋由来Myokinase(=ADK、SIGMA)30μg/ml酵素溶液を、PK固定化カラムについては上記結合緩衝液で調製したウサギ筋由来Pyruvate kinase(SIGMA)144μg/ml酵素溶液を、それぞれ1mlずつを通液し、25℃で30分間保温した。
【0102】
次に、それぞれのカラムに結合停止液(0.5Mエタノールアミン、0.5M NaCl、pH8.0)を6ml通液し、25℃で30分間保温した。最後に、それぞれのカラムに移動緩衝液(50mM HEPES−NaOH、5mM MgCl、pH7.4)を6ml通液した。これにより、ADK固定化カラムおよびPK固定化カラムを得た。
【0103】
(2)基質の精製
連鎖的ATP増幅反応において基質として用いるAMP、PEPを以下の手順で精製した。
【0104】
まず、市販のAMP(東京化成工業)およびPEP(SIGMA)を用いて、10mM AMP水溶液および500mM PEP水溶液を調製した。調製したAMP水溶液およびPEP水溶液をそれぞれ100μlずつ、緩衝液A(10mMクエン酸、5mM NaCl、pH2.85)で平衡化した陰イオン交換カラム(商品名:DEAE−2SW(東ソー社))に供した。
【0105】
その後、緩衝液Aおよび緩衝液B(10mMクエン酸、1M NaCl、pH4.40)を用いて、緩衝液B濃度0%〜100%のリニアグラジエントによりAMPおよびPEPをそれぞれ溶出した。なお、カラムに送液する流速は、1.0ml/minとした。
【0106】
また、AMPについては、溶出された溶液の254nmの吸光度(A254)をモニターして、ピークの吸光度が2.5以上の画分を分取した。一方、PEPについては、溶出された溶液の250nmの吸光度(A250)をモニターして、ピークの吸光度が2.0以上の画分を分取し、精製したAMPおよびPEPを得た。
【0107】
こうして分取したAMPおよびPEPの画分について、それぞれ濃度検定を行ったところ、AMP画分の濃度は、2.8mM、PEP画分の濃度は、25.8mMであった。
【0108】
(3)酵素固定化カラムに送液する基質溶液の流速の検討
上記(1)で作製したADK固定化カラムおよびPK固定化カラムに基質溶液を送液したときに反応を十分に進行させることが可能な流速を、以下の手順で検討した。
【0109】
a)PK固定化カラムに送液する基質溶液の流速の検討
上記(1)で作製したPK固定化カラムを自動送液装置(商品名:AKTA explorer 100 : GE Healthcare)に連結し、流速1.0ml/minで移動緩衝液(50mM HEPES−NaOH、5mM MgCl、pH7.4)を2ml以上通液し、平衡化した。
【0110】
平衡化後、PK反応液(50nM ATP、1.0mM PEP、50mM HEPES−NaOH、5mM MgCl、pH7.4)1mlを、流速0.1、0.2、0.5、1.0、2.0、または4.0ml/minで通液し、フラクションコレクターで96穴マイクロプレートに100μlずつ計5ml分取した。次に、分取した各フラクションのATP量およびADP量を測定した。
【0111】
ATP量の測定は、サンプル20μlに対して、ルシフェラーゼ溶液(ルシフェラーゼ(商品名:ルシフェラーゼFM(バイオエネックス社))0.025mg/ml、ルシフェリンカリウム2mM、50mM Tricin−NaOH、1mM酢酸マグネシウム、5%トレハロース、pH7.8)20μlを加え、発光値をプレートリーダー(商品名:Wallac 1420 Arvo SX(Perkin Elmer社))で測定することにより行った。
【0112】
一方、ADP量の測定では、まず、サンプル40μlに対して、PK酵素溶液(ウサギ筋由来PK 10U/ml、50mM HEPES−NaOH、5mM MgCl、pH7.4)20μlを加え、37℃で60分間保温した。その後、反応液40μlに対して、上記ルシフェラーゼ溶液20μlを加え、発光値をプレートリーダー(商品名:Wallac 1420 Arvo SX(Perkin Elmer社))で測定した。こうして各フラクションのADPおよびATPを全てATPに積算した総ATP量から、上記ATP量の測定で得られたATP量を差し引くことにより、ADP量を算出した。
【0113】
上記方法により測定した各フラクションのATP量およびADP量から各流速でPK反応液を送液したときの反応率を求めた。
【0114】
その結果、図3に示すように、1.0ml/min以上の流速で上記PK反応液を送液すると、流速の上昇に伴って反応率の減少が見られた。この反応率の低下は、上記(1)で作製したPK固定化カラムに固定化されている酵素量では、1.0ml/min以上の流速で上記PK反応液を送液すると、該カラム通過中に十分に反応が進行するだけの反応時間が確保できないためと考えられる。
【0115】
b)ADK固定化カラムに送液する基質溶液の流速の検討
上記(1)で作製したADK固定化カラムを自動送液装置に連結し、流速1.0ml/minで上記移動緩衝液を2ml以上通液し、平衡化した。平衡化後、ADK反応液(100nM ADP、0.1mM AMP、50mM HEPES−NaOH、5mM MgCl、pH7.4)1mlを流速0.1、0.2、0.5、1.0、2.0、または4.0ml/minで通液し、フラクションコレクターで96穴プレートに100μlずつ計5ml分取した。次に、分取した各フラクションのATP量およびADP量を上記と同様の方法で測定した。
【0116】
そして、測定した各フラクションのATP量およびADP量から各流速でADK反応液を送液したときの反応率を求めた。
【0117】
その結果、図4に示すように、1.0ml/min以上の流速で上記ADK反応液を送液すると、流速の上昇に伴って反応率の減少が見られた。この反応率の低下は、上記(1)で作製したADK固定化カラムに固定化されている酵素量では、1.0ml/min以上の流速で上記ADK反応液を送液すると、該カラム通過中に十分に反応が進行するだけの反応時間を確保できないためと考えられる。
【0118】
このように、PK固定化カラムおよびADK固定化カラムのいずれのカラムについても、1.0ml/min以上の流速で基質溶液を送液すると、十分に反応させることができなかった。一方、0.5ml/min以下の流速で基質溶液を送液すると、図3および図4に示すように、反応率はほぼ100%であった。そのため、以下の実験では、PK固定化カラムおよびADK固定化カラムに送液する流速は、0.5ml/minとした。
【0119】
(4)酵素固定化カラムを用いた連鎖的ATP増幅反応
上記(1)の方法で作製したADK固定化カラムおよびPK固定化カラムをそれぞれ4本用意した。
【0120】
これら4本のカラムを用いて、(a)ADK固定化カラム−PK固定化カラムからなる連結カラム、(b)ADK固定化カラム−PK固定化カラム−ADK固定化カラム−PK固定化カラムからなる連結カラム、(c)ADK固定化カラム−PK固定化カラム−ADK固定化カラム−PK固定化カラム−ADK固定化カラム−PK固定化カラムからなる連結カラム、(d)ADK固定化カラム−PK固定化カラム−ADK固定化カラム−PK固定化カラム−ADK固定化カラム−PK固定化カラム−ADK固定化カラム−PK固定化カラムからなる連結カラムを作製した。
【0121】
上記(a)〜(d)の連結カラムをそれぞれ自動送液装置に装着し、流速1.0ml/minで移動緩衝液(50mM HEPES−NaOH、5mM MgCl、pH7.4)を2ml以上通液し、平衡化した。なお、同一の連結カラムを用いて複数回測定を行う場合、すべての測定間に、上記条件での平衡化を実施した。
【0122】
平衡化後、それぞれの連結カラムに、増幅反応液(65nM ATP、1.0mM PEP、0.1mM AMP、50mM HEPES−NaOH、5mM MgCl、pH7.4)2mlを流速0.5ml/minで通液し、フラクションコレクターで96穴マイクロプレートに200μlずつ計20ml分取した。なお、上記増幅反応液の調製には、上記(2)の精製法1で精製したAMPおよびPEPを用いた。
【0123】
次に、分取した各フラクションのATP量を測定した。ATP量測定はサンプル20μlに対して、ルシフェラーゼ溶液(ルシフェラーゼ(商品名:ルシフェラーゼFM(バイオエネックス社)) 0.025mg/ml、ルシフェリンカリウム2mM、50mM Tricin−NaOH、1mM酢酸マグネシウム、5%トレハロース、pH7.8)20μlを加え、発光値をプレートリーダー(商品名:Wallac 1420 Arvo SX(Perkin Elmer社))で測定することにより行った。
【0124】
さらに、ATPを含まない増幅反応液(バックグラウンド)を各連結カラムに供し、同様の操作を行った。分取した各フラクションについて、上記の方法を用いてATP量を測定し、該測定値を、上記ATPを含む増幅反応液を用いた場合の測定値から差し引くことにより、連鎖的ATP増幅反応後のATP量を算出した。
【0125】
その結果、図5に示すように、各連結カラム(増幅カラム)に増幅反応液を通液することで、2mlの反応液は希釈され、約5mlのATP濃度勾配を持ったピークで流出した。
【0126】
また、1回〜4回のいずれの増幅回数でも、ピークトップの約1.5mlは一定数値に収束していた。このことから、この画分は、希釈の影響を受けずに反応した溶液の画分であると考えられた。
【0127】
さらに、1回〜4回のいずれの増幅回数でも、ピークトップのATP濃度は、反応前のATP濃度と比較して、上昇が見られた。このことから、いずれの増幅回数であっても、連鎖的ATP増幅反応が進行することが確認された。
【0128】
加えて、連結するカラム数の増加に伴い、ATP濃度の増加が見られた。そこで、各増幅回数で増幅されたサンプル(ピークトップを含め、前後2フラクション、計5フラクション)の平均値と増幅回数の関係を片対数プロットした。
【0129】
その結果、図6に示すように、1.9で増幅し、理論値の2に近い値で指数関数的に増幅する傾向が見られた。以上の結果から、ADK固定化カラムおよびPK固定化カラムの連結数によって、増幅回数を制御し、その結果、ATP増幅を制御できることが明らかとなった。
【0130】
つまり、従来のバッチ法でのATP増幅反応では、増幅回数の制御が反応時間に依存していたため、微妙な酵素活性の違いでATP増幅度が大きく変動し、定量的な高感度測定が難しかった。しかし、本発明にかかるATP増幅方法では、固定化酵素を用いたフロー系での連鎖的ATP増幅反応を行う。このATP増幅方法では、ATPの増幅回数は、連結する酵素固定化カラムの数に依存する。そのため、増幅回数(換言すれば、ATPの増幅度)を増幅カラム数によって厳密に制御することができることが明らかとなった。
【0131】
〔実施例2:酵素固定化カラムを用いたATPの高感度定量〕
酵素固定化カラムを用いたATP増幅により、ATPの高感度定量が可能である否かを検証した。連結カラムとして、実施例1の(4)で作製した(d)ADK固定化カラム−PK固定化カラム−ADK固定化カラム−PK固定化カラム−ADK固定化カラム−PK固定化カラム−ADK固定化カラム−PK固定化カラムからなる連結カラムを用いた。すなわち、実施例2では、連鎖的ATP増幅反応によるATPの増幅回数を4回とした。
【0132】
上記連結カラムを自動送液装置に装着し、流速1.0ml/minで緩衝液A(10mMクエン酸、5mM NaCl、pH2.85)を2CV以上通液し、平衡化した。なお、以後すべての測定間では同様の条件で平衡化を実施した。
【0133】
平衡化後、ATP希釈反応液(ATP、1.0mM PEP、0.1mM AMP、50mM HEPES−NaOH、5mM MgCl、pH7.4)2mlを流速0.5ml/minで通液し、フラクションコレクターで96穴マイクロプレートに200μlずつ計20ml分取した。なお、上記ATP希釈反応液の調製には、実施例1で精製したAMPおよびPEPを用いた。また、ATP希釈反応液のATP濃度は、500fM、5pM、50pM、500pM、5nM、および50nMとした。
【0134】
次に、分取した各フラクションのATP量を測定した。ATPはサンプル5μlに対して、上記ルシフェラーゼ溶液20μlを加え、発光値をプレートリーダー(商品名:Wallac 1420 Arvo SX(Perkin Elmer社))で測定し、ATP量を測定した。
【0135】
さらに、ATPを含まないATP希釈反応液(バックグラウンド)についても同様の操作を行った。そして、ATP希釈反応液を用いて得られた測定値から、バックグラウンドを得られた測定値を差し引き、連鎖的ATP増幅反応後のATP量を算出した。
【0136】
また、比較対照(連鎖的ATP増幅反応を行っていないコントロール)として、上記ATP希釈反応液を5μlに対して、上記ルシフェラーゼ溶液を20μl加え、発光値をプレートリーダー(商品名:Wallac 1420 Arvo SX(Perkin Elmer社))で測定し、発光値を測定した。
【0137】
その結果、図7に示すように、連鎖的ATP増幅反応による4回増幅によって、各ATP希釈反応液に含まれるATPは増幅され、発光値が50pM以上の各ATP濃度において増加した。より具体的には、ATP希釈反応液のATP濃度が50pM〜50nMの範囲で発光値とATP濃度との間に比例関係が成立し、定量可能域であった。
【0138】
これに対して、増幅前のATP希釈反応液をルシフェラーゼアッセイで測定すると、ATP濃度500pM〜50nMの範囲で発光値とATP濃度との間には比例関係が成立し、定量可能域であった。しかし、50pM以下のATP濃度では、プレートリーダー(商品名:Wallac 1420 Arvo SX(Perkin Elmer社))検出限界以下のため、発光値に差は見られなかった。
【0139】
つまり、上記条件でATPを増幅させると、ATP濃度が4回増幅によって約16倍に増幅され、ATP希釈反応液のATP濃度が50pMであっても、ATPは増幅され、増幅されたATPから生じる発光値は検出範囲内となった。
【0140】
以上の結果、固定化酵素を用いたATP増幅により、ATPのルシフェラーゼアッセイの定量感度を向上させることができることが明らかとなった。具体的には、ATPの4回増幅によって、従来のルシフェラーゼアッセイによるATP定量と比較して感度を10倍向上させることができた。
【0141】
また、本発明にかかるATP増幅方法によれば、ATPの増幅回数を所望に制御することができるため、該ATPの増幅回数を増加させることにより、ATPのルシフェラーゼアッセイの定量感度をより一層向上させることができる。
【0142】
〔実施例3:酵素固定化カラムを用いたATP増幅の反復処理〕
ADK固定化カラムおよびPK固定化カラムのセットを複数セット連結するのではなく、ADK固定化カラムおよびPK固定化カラムを1つずつ連結した連結カラムに複数回サンプルを通液することにより、複数回ATP増幅を行った。
【0143】
具体的には、ADK固定化カラムおよびPK固定化カラムを1つずつ連結した連結カラムを自動送液装置に装着し、流速1.0ml/minでrunning buffer(1mM PEP、0.1μM AMP、5mM MgCl、50mM HEPES−NaOH、pH7.4)を通液し、平衡化した。なお、上記running bufferの調製には、未精製のAMPおよびPEPを用いた。
【0144】
平衡化後、上記running bufferで調製した50pmolのATP溶液1mlをインジェクトし、0.1mlずつ、計5mlサンプリングした。
【0145】
次に、上記サンプリングしたサンプル5mlを、再び、同じ連結カラムにインジェクトし、同様の方法で、0.1mlずつ計10mlサンプリングした。
【0146】
さらに、上記サンプリングしたサンプル10mlを、再度、同じ連結カラムにインジェクトし、同様の方法で0.1mlずつ計15mlサンプリングした。
【0147】
これにより、50pmolのATP溶液1mlのATPを3回増幅させたサンプルを得た。さらに、ATPを含まないサンプル(バックグラウンド)についても同様の処理を行い、実施例1および2と同様の方法を用いて、1回増幅後、2回増幅後、3回増幅後のATP量を測定した。
【0148】
その結果、図8に示すように、1セットの連結カラムに試料を複数回通液することによっても、複数セットを連結した連結カラムの場合と同様に、ATPを増幅できることが明らかとなった。
【0149】
また、実施例1および実施例2では、連鎖的ATP増幅反応の基質となるAMPおよびPEPは、ATPを含むATP希釈反応液および増幅反応液に添加した。これに関し、実施例3では、ATP希釈反応液や増幅反応液にはAMPおよびPEPを加えず、running bufferに添加したが、この場合でも、連鎖的ATP増幅反応が進行することが確認できた。
【0150】
〔実施例4:KClによるルシフェラーゼ活性阻害〕
ルシフェラーゼアッセイによるATP定量において、KCl(換言すれば、塩化物イオン)がルシフェラーゼ活性に及ぼす影響を以下の方法により検証した。
【0151】
100、10、1、0.1、および0mM KClをそれぞれ含む反応液(50mM Hepes (pH7.4)、5mM MgCl、100nM ATP)を調製した。
【0152】
次に、25μg/mlのルシフェラーゼ溶液20μlと、上記反応液40μlとを混合し、ルミノメーター(商品名:ルミテスター C−100(キッコーマン社))で発光値を測定した。
【0153】
その結果、図9に示すように、反応液に10mM以上のKCl(換言すれば、塩化物イオン)が含まれていると、顕著にルシフェラーゼ活性が阻害され、100mMのKClが含まれると、KClが全く含まれない場合の約20%に発光値が低下することが分かった。
【0154】
〔実施例5:リン酸水素ナトリウムによるルシフェラーゼ活性阻害〕
ルシフェラーゼアッセイによるATP定量において、リン酸水素ナトリウム(換言すれば、リン酸イオン)がルシフェラーゼ活性に及ぼす影響を以下の方法により検証した。
【0155】
75、7.5、0.75、および0mMリン酸水素ナトリウムをそれぞれ含む反応液(50mM Hepes (pH7.4)、5mM MgCl、100nM ATP)を調製した。
【0156】
次に、25μg/mlのルシフェラーゼ溶液20μlと、上記反応液40μlとを混合し、ルミノメーター(商品名:ルミテスター C−100(キッコーマン社))で発光値を測定した。
【0157】
その結果、図10に示すように、反応液にリン酸水素ナトリウム(換言すれば、リン酸イオン)が含まれていると、ルシフェラーゼ活性が阻害され、7.5mMのリン酸水素ナトリウムが含まれると、リン酸水素ナトリウムが全く含まれない場合の約27%に発光値が低下し、75mMのリン酸水素ナトリウムが含まれると、ほとんど発光しないことが明らかとなった。
【0158】
〔実施例6:AMPおよびPEPの精製方法の検討〕
(1)各AMPにおけるADP、ATP量の測定
市販のAMP、市販のAMPを再結晶したAMP、実施例1で精製したAMPをそれぞれ1.0mMになるように調製した。各AMPサンプル10μlに対して、PK酵素溶液(ウサギ筋由来PK 10U/ml、50mM HEPES−NaOH、5mM MgCl、pH7.4)90μlを加え、37℃で保温した。反応開始から0、10、30、60分後に反応液5μlに対して、25μg/mlのルシフェラーゼ溶液45μlを加え、発光値をルミノメーター(商品名:ルミテスター C−100(キッコーマン社))で測定した。
【0159】
その結果、図11に示すように、実施例1で精製したAMPに含まれるATP(図11中、「HPLC」と記載)、ADP量は市販のAMP(図11中、「精製無」と記載)、市販のAMPを再結晶したAMP(図11中、「再結晶法」と記載)と比較して少なく、HPLCで精製することで効果的にATP、ADPを除去できることが示唆された。
【0160】
(2)実施例1の方法でAMPおよびPEPを精製する前後におけるATPおよびADP量の変化
市販のAMPおよびPEP、実施例1で精製したAMPおよびPEPに含まれるATPおよびADP量を測定した。ATP量は、市販のAMPおよびPEP、実施例1で精製したAMPおよびPEPをそれぞれ1.0mMになるように調製し、各サンプル5μlに対して、25μg/mlのルシフェラーゼ溶液45μlを加え、発光値をルミノメーター(商品名:ルミテスター C−100(キッコーマン社))で測定し、発光値からATP量を求めた。
【0161】
ADP量は各サンプルを10mMになるように調製し、各サンプル10μlに対して、PK酵素溶液(ウサギ筋由来PK 10U/ml、50mM HEPES−NaOH、5mM MgCl、pH7.4)90μlを加え、37℃で60分間保温後、反応液5μlに対して、25μg/mlのルシフェラーゼ溶液45μlを加え、発光値をルミノメーター(商品名:ルミテスター C−100(キッコーマン社))で測定した。
【0162】
発光値からATPおよびADP量を求め、上記方法で求めたATP量を差し引き、ADP量を求めた。
【0163】
その結果、表1に示すように、実施例1で得られたAMPおよびPEPに含まれるATP、ADPは効果的に除去され、それぞれ1pM以下であった。
【0164】
【表1】

なお本発明は、以上説示した各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態や実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態や実施例についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0165】
以上のように、本発明では、ATPを人為的に増幅する際、増幅回数を所望に制御できるため、試料に含まれるATP量が微量であっても、該ATPを定量的に増幅することができる。そのため、本発明は、試料に含まれるATPを定量することが必要なあらゆる産業分野に広く用いることができる。特に、微生物の検査が必要な食品産業、医薬品産業、臨床検査分野、環境衛生分野等に好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0166】
【図1】図1は、本発明の一実施形態にかかるATP増幅反応器の要部を示す図である。
【図2】図2は、本発明にかかるATP増幅方法の原理を示す図である。
【図3】図3は、PK固定化カラムの流速と反応率の関係を示す図である。
【図4】図4は、ADK固定化カラムの流速と反応率の関係を示す図である。
【図5】図5は、本発明にかかるATP増幅方法を用いた各増幅回数における流量とATP濃度との関係を示す図である。
【図6】図6は、本発明の一実施形態にかかるATP増幅反応器から排出された試料のATP濃度のピークトップの平均値と増幅回数との関係を示す図である。
【図7】図7は、各ATP希釈溶液の増幅後のATP濃度ピークトップ5サンプルの平均値の発光値と増幅前ATP濃度の関係を示す。
【図8】図8は、ADK固定化カラムとPK固定化カラムとを連結して形成された流路を複数回、通液することにより試料中のATPを増幅させた結果を示す図である。
【図9】図9は、KClによるルシフェラーゼの活性阻害を示す図である。
【図10】図10は、リン酸によるルシフェラーゼの活性阻害を示す図である。
【図11】図11は、市販のAMP、市販のAMPを再結晶したAMP、実施例1で精製したAMPにおけるADPおよびATP量を測定した結果を示す図である。
【図12】図12は、従来技術であるバッチ法による連鎖的ATP増幅反応における反応時間とATP増幅との関係を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アデノシン三リン酸を増幅させるための反応器であって、
アデニル酸キナーゼが固定された第1領域と、アデノシン二リン酸をアデノシン三リン酸に変換する酵素が固定された第2領域とが設けられた流路を備えていることを特徴とする反応器。
【請求項2】
上記アデノシン二リン酸をアデノシン三リン酸に変換する酵素は、ピルビン酸キナーゼ、ポリリン酸キナーゼ、酢酸キナーゼ、クレアチンキナーゼ、またはヘキソキナーゼであることを特徴とする請求項1に記載の反応器。
【請求項3】
上記流路が複数連結されており、
上記第1領域および第2領域が交互に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の反応器。
【請求項4】
液体を、上記流路に沿って、上記第1領域から第2領域の方向に送液し、上記第1領域および第2領域を順に通過させ、
該第2領域を通過した液体を、再び、上記第1領域の上流から第2領域の方向に送液することを可能にする溶液循環機構をさらに備えていることを特徴とする請求項1に記載の反応器。
【請求項5】
アデニル酸キナーゼが固定された第1領域と、アデノシン二リン酸をアデノシン三リン酸に変換する酵素が固定された第2領域とが設けられた流路に沿って、アデノシン三リン酸とアデニル酸と上記酵素の基質とを、上記第1領域および第2領域の順に通過させることを特徴とするアデノシン三リン酸の増幅方法。
【請求項6】
上記アデノシン二リン酸をアデノシン三リン酸に変換する酵素と該酵素の基質との組み合わせは、ピルビン酸キナーゼとホスホエノールピルビンとの組み合わせ、ポリリン酸キナーゼとポリリン酸との組み合わせ、酢酸キナーゼとアセチルリン酸との組み合わせ、クレアチンキナーゼとホスホクレアチンとの組み合わせ、またはヘキソキナーゼとヘキソースリン酸との組み合わせであることを特徴とする請求項5に記載のアデノシン三リン酸の増幅方法。
【請求項7】
アデニル酸キナーゼが固定された担体、およびアデノシン二リン酸をアデノシン三リン酸に変換する酵素が固定された担体の少なくとも一方を含むことを特徴とするアデノシン三リン酸の増幅キット。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図1】
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【公開番号】特開2009−60809(P2009−60809A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−229293(P2007−229293)
【出願日】平成19年9月4日(2007.9.4)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2007年8月2日 社団法人 日本生物工学会発行の「第59回日本生物工学会大会講演要旨集」に発表
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度、文部科学省、科学技術振興調整費「先端融合領域イノベーション創出拠点の形成 半導体・バイオ融合集積化技術の構築」プロジェクトに係る委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【Fターム(参考)】