説明

アトルバスタチンを用いて患者を治療する際の、変化したバイオトランスフォーメーションについての、および不所望の薬剤作用の発生についての患者素因の測定方法

本発明は、アトルバスタチンを用いて患者を治療する際の、筋疾患の発生についての患者素因、および/または変化したバイオトランスフォーメーションについての患者素因の測定方法に関する。その際、患者の生体試料において、UGT1A3遺伝子(ウリジン二リン酸グルクロノシルトランスフェラーゼ遺伝子 1A3)中の少なくとも1つの単一ヌクレオチド多型(SNP)の存在、および/または高められたUGT1A3遺伝子発現が測定される。さらに、本発明は、本方法の際に使用できるオリゴヌクレオチド、並びにこのオリゴヌクレオチドを使用する診断キットに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スタチンを用いて患者を治療する際の、変化するバイオトランスフォーメーションについての、および不所望の薬剤作用の発生についての患者素因を、同じバイオトランスフォーメーションする能力の遺伝的に決定される変化の結果として、測定する方法に関する。
【0002】
筋疾患、例えばミオパシーおよび横紋筋融解症は、例えばスタチンの投与によって引き起こされることがある筋肉の疾患である。
【0003】
作用物質アトルバスタチンが包含されるスタチンは、3−ヒドロキシ−3−メチルグルタリル−コエンザイム−A−レダクターゼ−(HMG−CoA−レダクターゼ)−阻害剤である薬剤である。他方で、HMG−CoAは、ヒトのコレステロール合成の中間生成物であり、そのため、スタチンは主に、脂肪物質代謝不全の際にコレステロール低下剤として使用される。その際、スタチンは、HMG−CoA−レダクターゼの阻害によって、血液中で脂質低下を引き起こす。HMG−CoAはコレステロールの生合成に関与する物質なので、スタチンの作用下では、スタチンを投与しない場合よりも少ないコレステロールが体内で形成される。スタチンの代表には、とりわけ、アトルバスタチン、セリバスタチン、フルバスタチン、ロバスタチン、プラバスタチン、ロスバスタチンおよびシンバスタチンが包含される。
【0004】
スタチンが一般に有用な薬剤としてみなされているにもかかわらず、療法の際には問題がある、即ち、一方では、定められた用量に相応する作用の予想における不確実性に関して、および他方では、不所望の薬剤作用(ここで「UAW」とも略され、一般に副作用としても称される)の発生のリスクにおいてである。
【0005】
全てのスタチン、さらにアトルバスタチンは、不所望の薬剤作用を引き起こすことがあり、最も重大なものに、いわゆる中毒性ミオパシーが挙げられ、その際、骨格筋組織の構造的および機能的変化が問題である。中毒性ミオパシーの最も重大な形態は、横紋筋融解症であり、それはとりわけ、4つの手足全ての完全な麻痺の形で現れ、且つ、しばしば致命的に進行することがある。文献内には、2003年までに、脂質低下剤によって引き起こされた横紋筋融解症の約3350の症例が記載された。
【0006】
この場合、種々の現在市販のスタチンにおける作用の強さは様々であり、例えば、フルバスタチンはわずかなミオパシー頻度を有するのだが、しかしながら他方では最も高い用量でも最も弱い脂質低下作用しか示さない。
【0007】
スタチン、例えばアトルバスタチン服用の際のさらなる不所望の薬剤作用として、肝障害、記憶力および注意力の低下、並びに攻撃性の高まり、および被刺激性の高まりが観察され、並びに、頭痛、吐き気、貧血症、神経毒、脱毛等が観察された。
【0008】
コレステロール含有率の低下のために、スタチンを用いた、殊にアトルバスタチンを用いた治療を受ける全ての患者が不所望の薬剤作用を発生するわけではないので、且つ、患者が特定のスタチン、殊にアトルバスタチンおよびその用量に異なって反応するので、スタチン療法、殊にアトルバスタチン療法の前段階で、不所望の薬剤作用が発生するか、または、望み通りではなく治療に反応する、患者素因を測定できることが望ましい。
【0009】
従って、本発明の課題は、スタチンを用いた患者の治療の際の不所望の薬剤作用の発生についての、もしくは変化した有効性についての、患者素因の測定方法を提供することである。
【0010】
本発明によれば、この課題は、患者の生体試料において、UGT1A3遺伝子(ウリジン二リン酸グルクロノシルトランスフェラーゼ遺伝子 1A3)中の少なくとも1つの単一ヌクレオチド多型(SNP)の存在、および/または高められたUGT1A3遺伝子発現が測定されることによって解決される。
【0011】
本発明の基礎をなす課題は、このやり方で完全に解決される。
【0012】
本発明者らは、多数のヒトの肝臓試料の調査を用いた独自の試みにおいて、UGT1A3遺伝子における遺伝的変異が、高められたUGT1A3遺伝子発現を導いたことを示すことができた。さらに、本発明者らは、高められた遺伝子発現は、スタチン アトルバスタチン(ATV)の高められたラクトン化を伴うことを示すことができた。
【0013】
ATV−ラクトンについて高められた含有率は、アトルバスタチンのヒドロキシ代謝物質について高められた濃度と同様に、ミオパシーに罹患しているアトルバスタチン患者の際に見出される (Hermann et al., "Exposure of atorvastatin is unchanged but lacton and add metabolite are increased several−fold in patients with atorvastatin−induced myopathy", Clin. Pharmacol. Ther., 2006, 79:532〜539参照)。加えて、細胞培養モデルについて、スタチン−ラクトンは、それぞれのスタチン酸と比較して14〜37倍だけ高められた筋毒性を有することが証明された (Skottheim et al., Statin induced myotoxicity: the lactone forms are more potent than the acid forms in human sceletal muscle cells in vitro; Eur. J. Pharm. Sci. 33:317−25 (2008))。
【0014】
アトルバスタチンがインビボで、とりわけ、2−(オルト−)および4−(パラ)−ヒドロキシ−ATV酸(薬理学的に作用する代謝物質)に生体内変化されることが公知である。選択的に、その遊離した酸側鎖が環式ATV−ラクトンに転換されることがある。ATV−ラクトンの高められた親油性に基づき、これはATV自体よりも遙かに早くヒドロキシル化される (Jacobsen et ah, Drug Metabol. Dispos. 28(11):1369−78 (2000)参照)。本発明者らは、従って、本知見を用いて、ATV−ラクトンについて、およびヒドロキシ−ATV−ラクトンについて高められた含有率が、酵素 ウリジン二リン酸グルクロノシルトランスフェラーゼの高められた活性に、もしくはむしろ、この酵素のアイソフォーム1A3の、遺伝的変異によって引き起こされた高められた活性に、起因するとみなされることを初めて示すことができた。
【0015】
ATVのラクトン化は、たしかに、いくつかのUGTアイソフォームによって触媒され得るのだが (例えばGoosen et al.: "Atorvastatin glucoronidation is minimally and nonselectively inhibited by the Fibrates Gemfibrozil, Fenofibrate, and Fenofibric Acid", Am. Soc. Clinic. Pharma. Therap., 2007: 35 (8) 1315−1323参照)、ただし今まで、どのアイソフォームがインビボで主要な機能を占めているのかが今までわかっていなかった。既に言及した通り、UGTs(UDP−グルクロノシルトランスフェラーゼ)は、とりわけスタチン、例えばアトルバスタチンのラクトン化を引き起こす酵素である。ラクトン化されたスタチンは再度、スタチン自体に対して、好ましくは酵素CYP3Aにより、ヒドロキシ−スタチン−ラクトンに転換される。
【0016】
UGT1A3遺伝子とは、ここで常に、この遺伝子のコーディング配列、並びにイントロン配列および遺伝子の5’−および3’−非翻訳/調節領域であると理解される。
【0017】
今、本発明の方法を用いて、スタチン治療、殊にアトルバスタチン治療を受けるべき患者、もしくは、既にスタチン治療を受けた患者が、遺伝的に、アイソザイムUGT1A3のより高い活性についての素質をもっているかどうか、且つ、それによって、増加したスタチン−ラクトンおよびヒドロキシ−スタチン−ラクトンが形成される危険(スタチン−ラクトンが薬理的に無効な代謝物質を作り出すので、このことは言及された筋疾患がみちびかれ得るか、または部分的な療法の断念がみちびかれ得る)があるかどうかをスクリーニングすることが初めて可能になる。従って、アトルバスタチンは、この場合、もしくはこの患者の際、この多型を有さない場合の患者の際と同一ではない有効性を高い確率で有している。有利には、多型の測定によってまさに、アトルバスタチンが高められた程度で生体内変化され、ひいてはその用量において、多型を有さない患者より効果がなくなるかどうかを予測できる; 本発明によって多型が同定される場合であれば、野生型の患者と類似するアトルバスタチンの有効性に達するために、アトルバスタチンの実際の用量、または計画された用量のいずれかを相応して適合でき、つまり、高めることができ、もしくは、不所望の薬剤作用を回避するために、他のスタチンまたは他の療法の試みを用いることができる。
【0018】
本発明によれば、UGT1A3遺伝子内の少なくとも1つのSNPの測定によって、これに取り組んでいる。それによって、スタチンで治療される患者の療法を個々に合わせることができ、従って、スタチンの完全な他の代替物を使用するか、または、用量、ひいては特定の投与されるスタチンの有効性を、患者について個々に考慮するかのいずれかである。
【0019】
アトルバスタチンの他に、現在、他のスタチン、例えばセリバスタチン、フルバスタチン、ロバスタチン、プラバスタチン、ロスバスタチンおよびシンバスタチンも使用されている。
【0020】
上記のスタチンは、市場において現在、例えばSortis(登録商標)、Lipitor(登録商標) (アトルバスタチン), Baycol(登録商標)、Zenas(登録商標) (セリバスタチン)、Cranoc(登録商標)、Lescol(登録商標)、Locol(登録商標)、Fractal(登録商標) (フルバスタチン)、Mevinacor(登録商標) (ロバスタチン)、Mevalotin(登録商標)、Pravasin(登録商標)、Pravachol(登録商標) (プラバスタチン)、Crestor(登録商標) (ロスバスタチン)、Gerosim(登録商標)、Simvabeta(登録商標)、Zocor(登録商標) (シンバスタチン)およびそのそれぞれの後発医薬品の名の下で販売されている。
【0021】
今や、本発明の方法を用いて、有利にも、狙い通り且つ個別化されたコレステロール合成抑制剤療法を、かかる療法を受けねばならない患者が上記の薬剤を用いた治療前、またはその間のいずれかでUGT1A3遺伝子内のSNPの存在について調査されることによって、提供することができる。それらの遺伝子の高められた発現、ひいてはUDP−グルクロニルトランスフェラーゼの高められた活性をみちびくSNPが存在すれば、スタチンの代替物を用いた治療か、または予定されたスタチン以外を用いた治療か、または当初の、もしくは当初予定された以外の用量を用いた治療のいずれかを行う、もしくは先に進めることができる。
【0022】
さらなる実施態様において、好ましくは、本発明よる方法においては少なくとも1つの以下のハプロタイプが測定される: UGT1A3*2、UGT1A3*3、UGT1A3*6、および殊にUGT1A3遺伝子中の以下のSNP:

【0023】
用語「AF297093内の遺伝子位置(Pos.)」とは、ここで、使用可能なrs番号がないSNPを意味し、UGT1遺伝子座(公に利用できるデータバンクに従いアクセス番号AF297093を用いて示される)中でのその位置が相応して述べられている。(UGTI遺伝子座については、例えばEMBL−EBIデータバンク http://www.ebi.ac.uk/cgi−bin/expasyfetch7AF297093またはNational Center for Biotechnology Information NCBIのデータバンク GenBank http://www.ncbi.nlm.nih.gov/を参照)。
【0024】
SNP(英語のSingle Nucleotide Polymorphism)とは、特定の母集団において野生型と比較したDNAストランド内での個々の塩基対の変異を意味する。SNPは、ヒトのゲノムにおける全ての遺伝的変異の約90%であり、且つ、ゲノム内の特定の領域で不均一な強さで生じる。それは、突然変異、即ち、母集団の遺伝子プール内である程度の度合いで認められる遺伝的変化である。その際、SNPsは、塩基、例えばシトシンと他の塩基、例えばチミンとを交換する際の置換として、または欠失あるいは挿入として生じることがある。
【0025】
その際、SNPは常に、2つまたは非常に稀には、さらにはより多くの状態の1つを有し、且つ、対立遺伝子により伝えられる。公知のSNPの大半は、ゲノム内のノンコーディング領域、即ち、遺伝子の間または個々の遺伝子のエクソン領域の間のいずれかにある範囲に関係する。原則的に、ノンコーディング領域内でのこの遺伝子変異体は制御配列、例えばプロモーター、エンハンサーまたはスプライシング部位(Spleissstellen)にも関係することがあり、ひいては遺伝子発現への作用を有する。直接、コーディング配列に関係するSNPは、静止したままであることがあり、即ち、塩基交換は、類似のアミノ酸中で相応するトリプレットコードの翻訳を変更せず、したがって、ペプチド配列への影響も有さない。たしかに、特別な塩基トリプレットについての等価のt−RNAの異なる頻度から、翻訳効率についての差が生じ、従って、特定の遺伝子の発現は、転写後、静止SNPによって影響されることがある。いくつかのSNPは、コーディング機能を有し、即ち、種々の対立遺伝子が、生じるペプチド内への種々のアミノ酸の取り込みをみちびき、その結果、その機能が変えられることがある。
【0026】
ゲノム内で、SNPは、それが二対立遺伝子で存在する場合に、3つの可能な遺伝子型で発生でき、つまり、2つの可能なホモ接合体の形態の1つで(対立遺伝子1/対立遺伝子1または対立遺伝子2/対立遺伝子2)、または、ヘテロ接合体の形態で(対立遺伝子1/対立遺伝子2)、発生できる。隣接したSNPは、種々の程度で互いに連結され得る。即ち、ある程度のパーセンテージまで、それは集団の中で、特定の組み合わせで、一緒にのみ生じ、従って、いわゆるハプロタイプを形成する。「連鎖」とはこの場合、その都度、染色体上の2つの異なる位置で存在する対立遺伝子が(同一の染色体に)一緒に転送される、即ち、連鎖して遺伝される傾向のことであると理解される。その際、一般に、対立遺伝子の際に、これが一緒に遺伝される傾向がある場合、「連鎖不平衡」(英語での「Linkage Disequilibrium」)のことを述べている。
【0027】
ゲノムDNAが二重のストランドなので、個々のSNPを個々の両者のストランドに関して同定できる。本願において好ましいSNPは、たしかに、SNPの多型の箇所での他のものによるヌクレオチド(Nuclotid)の置換を含むが、しかし、SNPはより複雑であることがあり、且つ、2つの対応する配列の1つからのヌクレオチド欠失、または2つの対応する配列の1つへのヌクレオチドの挿入を有することがある。
【0028】
例えばここでSNPの測定について利用されている用語「測定する」は、ゲノム中の特定の箇所についての1つまたはそれより多くのSNPの分析のための種々の手段および方法を包含し、その際、該用語は、直接的な測定、即ち、例えばシーケンシングと同様に、間接的な測定、従って例えば増幅および/またはハイブリダイゼーションも含める。
【0029】
本発明者らは、今回、意外にも、UGT1A3遺伝子内の特定のSNPに基づいて、スタチン投与の際の筋疾患の発生または変化した有効性についての遺伝的素因の診断が可能であることを見出した。
【0030】
新規の方法を用いて、今回、アトルバスタチン投与の際、個々に可能性のある筋疾患の発症、もしくは個々に可能性のあるアトルバスタチンの有効性低下を予想することが初めて可能となる。
【0031】
その際、さらなる実施態様において、少なくとも1つのSNPがUGT1A3*2、UGT1A3*3および UGT1A3*6ハプロタイプのSNPと連鎖不平衡であるSNPから選択される場合が好ましい。
【0032】
これは、本発明による方法の枠内で、UGT1A3*2、UGT1A3*3およびUGT1A3*6のハプロタイプのマーカーとして同様に使用でき、ここでは明示的に挙げられていないが、しかしそれはまさに上記のSNPと連鎖不平衡であるSNPも検出できることを意味する(例えば、Menard V. et al,"Analysis of inherited genetic variations at the UGTl locus in the French−Canadian population" Hum Mutat. 2009年2月8日 参照)。
【0033】
本発明による方法のさらなる実施態様において、高められたmRNAレベルおよび/または高められたタンパク質レベルを介して、高められたUGT1A3遺伝子発現が測定される場合が好ましい。
【0034】
UGT1A3遺伝子内での遺伝的変異が、高められたUGT1A3発現、ひいてはこの酵素の高められた活性をみちびくという、本発明者らによってもたらされた証拠は、遺伝的変異が通例、低下した機能と関連付けられた、今まで(ただし単に組み換えアイソザイムを用いて)得られた知見とは逆である (例えばChen et al., "Genetic Variants of Human UGTl A3: Functional Characterization and Frequency Distribution in a Chinese Han Population", Drug Metabolism and Disposition 2006, 34:1462−1467; Caillier et al., "A pharmacogenomics Study of the human estrogen glucuronosyltransferase UGT1A3", Pharmacogenet. Genomics 2007, 17(7):481−95参照)。
【0035】
従って、技術水準においてUGT1A3並びにUGT1A3多型はたしかに既に同定されてはいるにもかかわらず、本知見および提供される方法は、新規且つ驚くべきことであり、なぜなら、該多型がUGT1A3の低下した活性または発現と関連づけられたからである。しかし、本願の発明者らは、今回、該多型が、高められたUGT1A3発現、その結果、高められた活性を伴い、そのことがさらに上述の通り、増加したATVのラクトン化をみちびくことをまさに見つけ出した。
【0036】
殊に、本発明による方法の際、UGT1A3遺伝子内の少なくとも1つのSNPの検出のために、オリゴヌクレオチドが使用され、該オリゴヌクレオチドが表1および2に示されるオリゴヌクレオチドから、もしくは配列ID番号1ないし27を有するオリゴヌクレオチドから選択される場合が好ましい。
【0037】
【表1】

その際、配列ID番号1、3、5、7を有するオリゴヌクレオチドは、順方向(「f」)プライマーを表し、配列ID番号2、4、6および8を有するオリゴヌクレオチドは、逆方向(「r」)プライマーを表す。
【0038】
【表2】

遺伝子位置はGenBankアクセス番号(Acc.番号)AF297093.1を有するデータに相応。
【0039】
本発明者らは、このオリゴヌクレオチドを用いて、SNP含有領域を増幅し、並びにこのオリゴヌクレオチド(プライマー)の伸長を介してSNPを同定することに成功できた。従って、本発明はこのオリゴヌクレオチド自体にも関する。
【0040】
さらなる実施態様においては、少なくとも1つのSNPの測定のために、以下の方法の少なくとも1つを使用する場合が好ましい: PCRに基づく方法、DNAシーケンシング法、ハイブリダイゼーション法、質量分析、HPLC法、プライマー伸長法。
【0041】
これらの方法は、従来技術において充分に知られており、且つ、既にSNPの同定のために使用されている。これに関して、例としては、Graham R.TaylorおよびIan N.M.Dayの「Guide to Mutation Detection」 (Wiley & Sons, 2005)が教示され、その中にこれらの方法が充分に記載されている。
【0042】
さらなる実施態様において、SNP含有領域の増幅のために、以下のPCRサイクルを使用する場合が好ましい:
約95℃で15分間の変性、次に、約95℃で20秒間、約65℃で30秒間、および約72℃で1分間の段階で5サイクル; 次に、約95℃で20秒間、約62℃で30秒間および約72℃で1分間の段階で40サイクル; 次に、約72℃で10分間の最終の伸長段階。
【0043】
さらに、本発明は、スタチンを用いた患者の治療の際の筋疾患発生についての患者素因測定のための診断キットにも関し、その際、該キットは少なくとも1つの上述の通りのオリゴヌクレオチドを有する。
【0044】
本発明によるキットを用いて、単純な道具が提供され、それを用いて迅速に少なくとも1つの相応するSNPをUGT1A3遺伝子内で検出でき、それを通じて、スタチンを用いた療法の際に、高い確率で副作用としての筋疾患を発生する患者を同定できる。
【0045】
本発明はさらに、ヒトのUGT1A3遺伝子内の少なくとも1つのSNP、殊にSNP rs55772651、rsl983023、rs56304713、rs45507691、rs3806597、rs3806596、rs3821242、rs6706232、rs6431625、rs17868336、rs7574296; g.146356 (AF297093内の遺伝子位置)、rs45449995、並びにさらにUGT1A3*2、UGT1A3*3およびUGT1A3*6ハプロタイプと連鎖不平衡であるSNPを、スタチン治療の際の筋疾患の発生についての患者素因の測定のために用いる使用にも関する。
【0046】
本発明のさらなる利点および特徴は、以下の記載および添付の図から明らかになる。
【0047】
前述の特徴、および以下にさらに説明される特徴は、それぞれ上述の組み合わせだけでなく、別の組み合わせまたは単独でも、本発明の範囲を逸脱することなく使用可能であることが理解される。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】人体中でのスタチン アトルバスタチンのバイオトランスフォーメーションについての概要である。
【図2】種々のUGTアイソザイムの活性についてのグラフであり、これによればアイソザイム1A3が、ATVのラクトン化に関して最高の活性を示す。
【図3】患者の試料内でのUGT1A3タンパク質の分布についてのグラフ、およびアトルバスタチンのラクトン化の活性の、ヒトの肝臓内のタンパク質含有率に対する相関についてのグラフである(右)。
【図4】ヒトの肝臓内のUGT1A3ハプロタイプの構造についての概要図である。
【図5】遺伝子型−表現型(UGT1A3−mRNAについて)の相関である。
【図6】遺伝子型−表現型(UGT1A3−タンパク質について)の相関である。
【図7】遺伝子型−表現型(UGT1A3のラクトン化活性について)の相関である。
【0049】
図1は、スタチン アトルバスタチンの代謝についての概要図を示し、名称の下部にその構造式が示されている。「HMGCR」は、酵素3−ヒドロキシ−3−メチルグルタリル−コエンザイム−A−レダクターゼ−(HMG−CoA−レダクターゼ)についての略記であり、それはスタチンによって抑制される。
【0050】
該図面から、酵素UGT(および本発明者らが検出できたような、主にUGT1A3)が、アトルバスタチン(ATV)の、ATV−ラクトン(図面の下−端、中央)へのラクトン化を担っていることが察知される。
【0051】
さらに、図面において、シトクロムP450の酵素の亜群CYP3A(それはとりわけCYP3A4およびCYP3A5である)が、2−ヒドロキシアトルバスタチンまたは4−ヒドロキシアトルバスタチンのいずれかへのアトルバスタチンのヒドロキシル化を触媒するが、ただし、ATVラクトンのヒドロキシル化よりも効果が少ないことが示されている(反応を明示する矢印の太さの違いによって明示)。
【0052】
図2は、棒グラフ(左; 2A)内に、2つの異なる基質濃度の際(0.6μM、白色のバー、および6μM、黒色のバー)の種々の組み換えUGTアイソザイムの測定された酵素活性を示す。これによれば、アイソザイム1A1および1A3のみが、ATVのラクトン化に関する測定可能な活性を有し、その際、より高い基質活性の際のUGT1A3が、遙かにより高い活性を示す。反応速度パラメータであるミハエリス−メンテン定数Kmおよび最大活性Vmaxは、組み換えUGT1A3酵素を用いて、ラクトン化活性(v)の測定によって、異なる基質濃度(cs)で計測され(右; 2B)、試験バッチおよびVmaxについての結果は図2Cに示されている。
【0053】
図3は、左(図3A)に、IKP−肝臓バンクの150の肝臓試料の母集団抜き取り検査におけるUGT1A3タンパク質の分布ヒストグラムを示す。該ヒストグラムの下で、例としてはウェスタンブロット分析が示されている(図3B)。特異的な抗体で標識された55kDaのタンパク質バンドは、タンパク質のグリコシル化によって引き起こされる現象において、二重バンドとして現れる。ヒストグラムにおける上昇カーブは、累積頻度を示し、且つ、波括弧は、高められた活性で可能性のある副群を示唆する。右のグラフ(図3C)は、アトルバスタチンのラクトン化の、ヒトの肝臓内のタンパク質計測に対する相関を示している。該相関は、統計的に評価された。グラフ下のボックス内に、スピアマンの順位相関係数rsおよび統計上の有意性をp値として示す。
【0054】
図4は、UGT1A3遺伝子の構造についての概要を、エクソンに関して(黒いボックス1〜5)、肝臓試料において調査された突然変異のおよその位置と共に示す(グレー: プロモーター領域; 白: コーディング領域におけるサイレント突然変異; 黒: アミノ酸交換)。その下に、ヒトの肝臓試料における調査の際に同定された、UGT1A3ハプロタイプおよびハプロタイプ変異体を表す。このために、肝臓試料に属するDNA試料を、UGT1A3遺伝子型同定法を用いて遺伝子型同定した。SNPデータ(上の領域において、ゲノム位置および/またはrs番号で示される)を、引き続き、Programm Phase (Version 2.1)を用いて分析した。下の領域に、それぞれ調査された位置に属する塩基を示す。
【0055】
図5は、調査された人間の肝臓試料(n=150)における、UGT1A3 mRNAについての遺伝子型と表現型との間の相関を示す。左のグラフ(図5A)に、測定された遺伝子型のそれぞれの肝臓試料が有するmRNA値を表す。右のグラフ(図5B)は、種々のUGT1A3*2 ハプロタイプ変異体のmRNA値を示す。有意差が、「マン-ホイットニー検定法」を用いて測定された。
【0056】
図6は、調査された人間の肝臓試料(n=150)のミクロソームフラクションにおける、UGT1A3 タンパク質についての遺伝子型と表現型との間の相関を示す。左のグラフ(図6A)に、測定された遺伝子型のそれぞれの肝臓試料が有するUGT1A3タンパク質値を表す。右のグラフ(図6B)は、種々のUGT1A3*2 ハプロタイプ変異体のタンパク質値を示す。有意差が、「マン-ホイットニー検定法」を用いて測定された。
【0057】
図7は、調査された人間の肝臓試料(n=150)のミクロソームフラクションにおける、アトルバスタチンのラクトン化についての遺伝子型と表現型との間の相関を示す。左のグラフ(図7A)に、測定された遺伝子型のそれぞれの肝臓試料が有するmRNA値を表す。右のグラフ(図7B)は、種々のUGT1A3*2 ハプロタイプ変異体のmRNA値を示す。有意差が、「マン-ホイットニー検定法」を用いて測定された。
【0058】
材料および方法
患者のDNAおよび肝臓試料
肝臓組織および付随する血液試料は、IKPシュトゥットガルトに設立された人間の肝臓バンクのものである。該試料は、1999〜2000年に、医学的な理由に基づき、肝臓の外科手術を受けた患者から取得された (Wolbold et al: Sex Is a Major Determinant of CYP3A4 Expression in Human Liver; Hepatology 2003, 38:978〜988内に記載)。全ての組織試料は、病理学者によって調査され、且つ、それにより組織学的に正常な組織のみが使用されたことが保証された。臨床上の患者の資料は、完全に匿名化され、且つ、性別、年齢、医学的診断、薬剤療法、アルコールおよび喫煙習慣、および測定された肝臓値についてのデータが含まれた。肝炎、硬変または慢性アルコール中毒を有する患者の試料は除外された。定性的に有価なRNAおよび完全な資料を供する、合計150の肝臓試料が、この調査のために使用された。ウェスタンブロットおよび酵素活性計測のために使用される肝臓ミクロソームは、標準的な方法に従って製造された (Lang et al.: Extensive genetic polymorphism in the human CYP2B6 gene with impact on expression and function in human liver; Pharmacogenetics 2001, 11:399−415内に記載)。遺伝子型調査のためのゲノムDNAは、それぞれの組織寄贈者の血液試料から単離された。該調査のために、局地的な倫理委員会の際に、相応の票が得られた。該調査は、ヘルシンキ宣言に適合して行われ、全ての患者は文書によって同意した。
【0059】
UGT1A3 mRNAの測定
全RNAを、RNeasy Midi Kit (Qiagen、ヒルデン、ドイツ)を用いて、肝臓組織から調製した。UGT1A3 mRNAの定量化は、自己発生の(selbstentwickelt)、特異的なTaqMan Real−Time Reverse−Transcriptions−PCR Assayを用い、7900HT Fast Real Time PCR System (Applied Biosystems、フォスターシティー、CA)において行われた。そのために、イントロン1にかかっているプライマー対 1A3_tq_neu_f/r(下記の表3を参照)およびFAM標識UGT1A3−MGBプローブを、濃度400nmol/lもしくは200nmol/lで使用した。UGT1A4に対する交差反応性を、テンプレートとしての両者の遺伝子のDNAプラスミドを調べることによって排除した(データ示さず)。PCR反応バッチは、2x universal PCR Master Mix (Applied Biosystems)を、12.5μlの最終用量で含み、且つ、次のPCRサイクル条件が使用された: 50℃で2分間; 95℃で10分間、次に、95℃で15秒間および60℃で1分間の段階で40サイクル。
【0060】
【表3】

【0061】
位置は、GenBankアクセス番号(Acc. Number) CCDS2509.1 (UGT1A3)、CCDS33405.1 (UGT1A4)およびCCDS33404.1 (UGT1A5)を有するcDNA配列(「c位置」)に相応。
【0062】
ミクロソームUGT1A3タンパク質含有率の測定
UGT1A3タンパク質は、ウェスタンブロット分析を用いて、150の肝臓試料から定量化された。一次抗体として、単一クローン抗体(ab57400、abcam製)を使用した。二次抗体として、ヤギ抗マウス IRDye 800CW (LICOR Biosciences)を使用し、且つ、ODYSSEY赤外線画像化システム(LICOR Biosciences)を用いて検出を行った。20μgのヒトの肝臓ミクロソームを、SDS−PAGE(10% SDS分離ゲル)に供し、且つ、ニトロセルロースメンブレン上にブロットした。該ブロットを、3μg/mlの抗UGT1A3と共に、1%のスキムミルク/TBST内で2時間にわたり、インキュベートし、該インキュベート物を、二次抗体と共に、1%のスキムミルク(TBST)中で1:10,000に薄め、引き続き、30分間行った。
【0063】
ウェスタンブロットは、肝臓からの、組み換えUGT1A3について約55kDaで3つのバンドを、およびUGT1A3について2つのバンドをもたらした。試料の脱グリコシル化後、両者の場合においてそれぞれ1つのバンドが残っていた。肝臓ミクロソームにおける定量化のために、バンドの強度を組み合わせた。
【0064】
相対的な定量化を、ODYSSEYソフトウェアを用いて、組み換えUGT1A3(ヒトのUGT1A3−スーパーソーム; BDBiosciences; カタログ番号456413)の標準曲線(5点; 0.5〜8μg)に対して行った。種々のブロットからの結果を、それぞれのブロットの際に使用された、プールされたミクロソームの結果について規格化した。
【0065】
抗体の特異性を、10μgの組み換えUGT1A1、1A4、1A6、1A9、2B4および2B9に対して試験した。UGT1A6、1A9、2B4および2B9に関しては、交差活性を見出すことができず、UGT1A1および1A4に対しては、最高感度で軽度の、しかしながらデータ解析を妨げない、交差活性が識別可能であった。
【0066】
アトルバスタチンのラクトン化のためのUGT1A3活性の測定
ヒトの肝臓ミクロソームによるアトルバスタチン−ラクトン形成の計測のために、LC−MSアッセイを構築した:このために、25μgのミクロソームを、50mMのトリスHCl中、pH7.4で、5mMの塩化マグネシウム、25μg/mlのアラメチシンおよび10μMのアトルバスタチンを総容量100μlで用いて、10分間、37℃で、予備インキュベートする。該反応を、10mMのUDP−グルクロン酸を、UDPグルクロノシルトランスフェラーゼ(UGT)の補助基質に添加することによって開始させる。該試料を30分間インキュベートした。反応を、冷たい、25μlの250mMのギ酸をアセトニトリルに添加することにより停止させ、且つ、ボルテックスした試料をただちに氷上に置いた。LC/MS定量化を遂行できるように、10μlの内部標準を100μlの試料に対して添加した。試料を5分間、13,000rpmで遠心分離し、且つ、LC/MS計測のためにガラス容器中に添加した。
【0067】
LC/MS法を用いて、アトルバスタチン、アトルバスタチン−ラクトン、並びにそのパラ−およびオルト−ヒドロキシ形を、5nM〜5μMの範囲で組み合わせて定量化できる。該試料を、XBridge Shield RP18の、C8プレカラムを有する3.5μm−カラムにて、1mMのギ酸−およびアセトニトリル−勾配を用いて、23分間、30℃で分離する。該計測を、HCT Esquire plus質量分析計によって検出するが、ただし、該カラムにより分離された物質の電気スプレーイオン化法による。
【0068】
UGT1A座についての遺伝的分析
Caillier et al. (2007)は、シーケンシングによって、7つのプロモーター、および13のエクソン−1−SNP(4つのシノニム)を、249の患者試料中で検出した。UGT1Aファミリーは、エクソン1においてのみ異なり、且つ、同一のエクソン2〜5を有した。この試みは、この記載された18のプロモーター−およびエクソン−1−SNP、加えて1つのフレームシフト−SNPをエクソン1(rs45586035)中で検出するための方法を樹立することにある。このSNPを含む4つの領域を、Qiagen HotStarポリメラーゼを用いて、10ngのゲノムDNA内で、特異的にUGT1A3だけの増幅を形成するプライマーを用いて増幅した。全てのMALDI−TOF MS増幅プライマー(上記表1参照)は、より効率的な増幅を可能にするために、5’「タグ」配列(ACGTTGGATG)を有していた (ソフトウェアMassArray Assay Design (v3.0.0)の推奨)。高い特異性を保証するために、並びに高い収量を達成するために、特別なPCRプロトコルを使用した:384ウェルのマイクロタイタープレート内のMultiplex PCRバッチ(容積5μL)は、10ngの予備乾燥されたDNA、HotstarTaqポリメラーゼを有する4μlの「HotstarTaq Master Mix」(Qiagen GmbH、ヒルデン、ドイツ)、0.1μMの各増幅プライマー(上記表1を参照)および0.5mMのMgCl2(Qiagen)を含んでいた。PCR条件(Gene Amp PCR System 9700、Applied Biosystems、フォスターシティー、CA)は、以下の通りであった:95℃で15分間の変性、次に、95℃で20秒間、65℃で30秒間、および72℃で1分間の段階で5サイクル; 次に、95℃で20秒間、62℃で30秒間および72℃で1分間の段階で40サイクル; 次に、72℃で10分間の最終の伸長段階。特異性を確認するために、試料中のこの断片をシーケンシングし、且つ、いくつかの試料のPCR生成物を、常時、アガロースゲル上で、正確な増幅に関して、且つ水の汚染がないように制御して、試験した。
【0069】
この断片の増幅後、過剰なdNTPsを、最終容積7μlで、0.3μlのSAP(1.7U/μl)と共に、0.17μlの10×SAP緩衝剤(Sequenom、サンディエゴ、CA)および1.53μlの水中で、37℃、20分間、次に、10分間85℃で、そして20℃で1秒間、脱リン酸化した。
【0070】
SNP位置の直前で終わる特異的なプライマーが設計された(上記表2参照)。増幅段階において、それをその都度、SNP塩基に合う、標識された塩基についてのみ伸長した。アッセイのプライマーを、その生成物が質量の点で少なくとも15Da異なるように設計した。検出可能な質量は、3000〜8500Daの範囲内である。
【0071】
特異的な増幅プロトコルを、iPlex酵素並びに特異的な緩衝剤条件と共に、この段階のために使用した:
プライマーの質量が6000Daより低いか高いかによって、シグナルノイズ比を最適に調整するために、0.2μlのiPLEX緩衝剤の添加後、0.2μLのiPLEX Terminator Mix、および0.041μlのiPLEX酵素 (iPLEX Gold Reaction Kit、Sequenom)を、0.0112もしくは00244μlの伸長プライマー(500μMに)添加する。伸長反応の条件は以下の通りであった:94℃で30秒間、次に、52℃で5秒間および80℃で5秒間の5つのサブサイクルを有する、94℃で5秒間の段階で40サイクル; 72℃で3分間の最終の伸長段階。
【0072】
妨げになるナトリウムおよびカリウム付加物を回避するために、その都度、6mgのClean Resin (Sequenom)および16μlの水を添加することによって試料を脱塩した。室温で20分のインキュベーション後、20分間、4000rpmで遠心分離した。その後、該試料を、ナノディスペンサーを使用しながら384 SpectroCHIP(登録商標)Arrays(Sequenom)に適用し、且つ、MassArray(商標)Compact Mass Spectrometer (Sequenom)において分析した。オートメーション化されたスペクトル記録を、MassArray Typerソフトウェアv 3.4.を用いて、ソフトウェアSpectroacquireおよびDatenanalyseを用いて実施した。自動式で分類されない試料は、マニュアルで後分析された。
【0073】
統計およびコンピュータ支援分析
遺伝的データの評価を、公に利用できるプログラムを用いて行った。肝臓バンクの母集団における、観察されたおよび期待される対立−および遺伝子型頻度を、ハーディ−バインベルク平衡からのずれについて、オンラインで使用可能な DeFinetti Programmsを用いて試験した (Strom TM and Wienker TF、ハーディ−バインベルク平衡についてのDiFinetti Programホームページ; http://ihg.gsf.de/cgi−bin/hw/hwal.pl)。ハロタイプの計算を、PHASE Programms、Version v2.1.1 (The Matthew Stephensのホームページ; http://stephenslab.uchicago.edu/home.html)を用い、並びにHaploview v.3.32 (The Broad Institute haploviewホームページ; http://www.broad.mit.edu/mpg/haploview/)を使用しながら実施した。
【0074】
統計的な分析を、統計プログラムPrism 4、Version 4.03 (GraphPad Software Inc.)を用いて実施した。スピアマンの順位相関係数を、mRNA、タンパク質および活性データの相関分析のために測定した。ハプロタイプの群間差を、「マン−ホイットニー検定法」を用いて測定した(パラメトリックではないT−試験)。全ての統計試験を、二面的に行い、且つ、統計的有意性はP<0.05として定義した。
【0075】
結果
LC−MS/MS分析を使用して、ATVのヒドロキシル化およびATVのラクトン化の際の個々の組み換え発現CYP−およびUGT−酵素の役割を調査した。この際、150の良好に文書化された外科の肝臓試料を有する、ヒトの肝臓組織のための大きなバンクを使用して、肝臓内でATVのラクトン化を主に担っているUGTアイソザイムを同定できた。さらに、ATVのバイオトランスフォーメーションを担っている、関連UGT遺伝子のSNP並びにハプロタイプを同定するために、遺伝的分析を行った。
【0076】
ATVのヒドロキシル化のための主酵素としてのCYP3A4の同定
最も重要な薬剤代謝CYP酵素の中で、CYP3A4とCYP3A5との両者のアイソザイムを有する、シトクロムP450のCYP3A亜群は、ATVのヒドロキシル化を触媒する唯一の関連P450酵素である。CYP3A4の触媒活性は、共発現シトクロムb5と比較して数倍増強されており、前記シトクロムb5は、CYP3A4バイオトランスフォーメーションの公知の触媒増強剤である。
【0077】
ATVのラクトン化のための主酵素としてのUGT1A3の同定
図2Aは、種々の組み換えUGT酵素の下で、UGT1A3が、ATVのラクトン化の触媒化について最も高い特異的な活性を有する酵素であることを示す。これに対して、UGT1A1は低い活性しか持っていない。反応速度分析により、組み換えUGT1A3について、アトルバスタチン−ラクトンの形成についてのKm値が12μMであることが判明した (図2BおよびC)。
【0078】
150の肝臓試料からのUGT1A3タンパク質データは、530倍の変異性、および異常分布を示し、並びに、より高い活性を有する副群の存在可能性を示した (図3A参照)。ミクロソームUGT1A3のラクトン化活性は、150の肝臓試料内で20倍の変異性を示した。ラクトン化は、UGT1A3のウェスタンブロットのタンパク質データとよく相関し(図3B参照)、且つ、リアルタイムPCR分析の定量的なUGT1A3 mRNAデータともよく相関した (rs=0.38; P<0.0001; データ示さず)。
【0079】
遺伝分析
UGT1A座のSNPについての選択性を、MALDI−TOFアッセイを用いて、肝臓試料に属するDNA試料内で測定した (n=19、図4参照)。さらに、UGT1A1遺伝子型を別途測定した。Haploviewを用いて示され得る通り、SNPの間で、連鎖不平衡が存在する。その連鎖は、UGT1A1*28対立遺伝子のキャリアが、ほとんどの場合、UGT1A3*2対立遺伝子のキャリアでもあるというものであり、即ち、高められたUGT1A3発現によって引き起こされる、アトルバスタチンの高められたラクトン化能力は、UGT1A1*28についての遺伝子型同定を用いても予測される。
【0080】
mRNAのレベル、タンパク質のレベル、およびアトルバスタチンのラクトン化のレベルについての、UGT1A3についての遺伝子型と表現型との相関についての分析を、図5〜7に示す。UGT1A3*2−、*3−および*6−ハプロタイプは、ハプロタイプの最も広く行き渡った変異体であった。3つのハプロタイプの全ては、著しく高められたUGT1A3タンパク質発現を示した (図5参照)。ATVのラクトン化のための活性は、ホモ接合体の*2キャリアの際に、野生型の試料と比較して2倍高められていた。*3および*6ハプロタイプのキャリアは、高められたラクトン形成を示さなかった。その際、試料数が*2キャリアの際よりも少なく、且つ、ヘテロ接合体キャリアのみが同定され得ることを考慮すべきである。従って、ホモ接合体キャリアの際、酵素活性に及ぼす効果が計測可能であることができた。従って、当該図5〜7におけるデータは、変異体と、高められた機能とが関連づけられることを明らかに示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アトルバスタチンを用いて患者を治療する際の、筋疾患発生についての、および/または変化したバイオトランスフォーメーションについての患者素因の測定方法であって、患者の生体試料において、UGT1A3遺伝子(ウリジン二リン酸グルクロノシルトランスフェラーゼ遺伝子 1A3)中での、少なくとも1つの単一ヌクレオチド多型(SNP)の存在、および/または高められたUGT1A3遺伝子発現を測定する、測定方法。
【請求項2】
以下のハプロタイプ、変異体*2a、*2c、*2dを有するUGT1A3*2、UGT1A3*3またはUGT1A3*6を測定することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
UGT1A3遺伝子において、以下のSNP:
rs55772651、rs1983023、rs56304713、rs45507691、rs3806597、rs3806596、rs3821242、rs6706232、rs6431625、rs17868336、rs7574296、g.146356 (AF297093中での遺伝子位置)、rs45449995
の少なくとも1つを測定することを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
少なくとも1つの、UGT1A3*2、UGT1A3*3、およびUGT1A3*6ハプロタイプと連鎖不平衡であるSNPを測定することを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
高められたUGT1A3遺伝子発現を、高められたmRNAレベル、高められたタンパク質レベル、および/または酵素活性レベルを介して測定することを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
少なくとも1つのSNPの検出のために、付属の配列プロトコルからの配列ID番号1ないし27を有するオリゴヌクレオチドから選択されるオリゴヌクレオチドを使用することを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
少なくとも1つのSNPの測定のために、以下の方法:
PCRに基づく方法、DNAシーケンシング法、ハイブリダイゼーション法、質量分析、HPLC法、プライマー伸長法
の少なくとも1つを使用することを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
筋疾患が、ミオパシーおよび横紋筋融解症から選択されることを特徴とする、請求項1から7までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
請求項1から8までのいずれか1項に記載の方法においてSNPを検出するためのオリゴヌクレオチドであって、該オリゴヌクレオチドが付属の配列プロトコルからの配列ID番号1ないし27を有するオリゴヌクレオチドの少なくとも1つから選択されていることを特徴とする、オリゴヌクレオチド。
【請求項10】
アトルバスタチンを用いて患者を治療する際の筋疾患発生についての患者素因を測定するための診断キットであって、該キットが請求項8に記載の少なくとも1つのオリゴヌクレオチドを有する診断キット。
【請求項11】
アトルバスタチン治療の際の、筋疾患発生についての患者素因、および/または変化したバイオトランスフォーメーションについての患者素因の測定のための、ヒトのUGT1A3遺伝子中での少なくとも1つのSNPの使用。
【請求項12】
SNPが、以下:
rs55772651、rs1983023、rs56304713、rs45507691、rs3806597、rs3806596、rs3821242、rs6706232、rs6431625、rs17868336、rs7574296、g.146356(AF297093中での遺伝子位置)、rs45449995
の少なくとも1つから選択されることを特徴とする、請求項11に記載の使用。
【請求項13】
SNPが、UGT1A3*2、UGT1A3*3およびUGT1A3*6ハプロタイプと連鎖不平衡であるSNPから選択されることを特徴とする、請求項11に記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2012−521202(P2012−521202A)
【公表日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−501207(P2012−501207)
【出願日】平成22年2月23日(2010.2.23)
【国際出願番号】PCT/EP2010/052245
【国際公開番号】WO2010/108737
【国際公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(511231665)ローベルト ボッシュ ゲゼルシャフト フュア メディツィニッシェ フォルシュング ミット ベシュレンクテル ハフツング (1)
【氏名又は名称原語表記】Robert Bosch Gesellschaft fuer medizinische Forschung mbH
【住所又は居所原語表記】Auerbachstr. 112, D−70376 Stuttgart, Germany
【Fターム(参考)】