説明

アナターゼ型及び/又はブルッカイト型酸化チタン皮膜形成方法

【課題】常温又は大気圧で成膜でき、基材サイズ、基材種類、基材形状、及び成膜場所の制約がなく、しかも短時間に成膜でき、更には乾式成膜法(ドライ)で後施工が可能な光触媒成膜方法を提供する。
【解決手段】含水・酸化チタン粉末を溶融することなく、0.45MPa以上の圧縮ガスにより100m/sec以上の速度で基材に噴射することを特徴とする、アナターゼ型及び/又はブルッカイト型酸化チタン皮膜形成方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、汚染物質の無害化、抗菌、及び殺菌を行うことが可能な超親水性の光触媒機能皮膜の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化チタン(TiO)は、優れた紫外線吸収性および吸着性等の特性を有しているため、従来から、顔料、塗料、化粧料、紫外線遮蔽材、触媒、触媒担体、および各種のエレクトロニクス材料等に活用されている。さらに、近年では、酸化チタンそのものが持つ光触媒活性に大きな関心が寄せられている。
【0003】
光触媒酸化チタン(TiO)は汚れの付着防止、殺菌、抗菌、異臭成分の分解、有機有害物質、難分解物質の分解などのさまざまな分野への応用が図られている。将来、自動車分野でも臭い対策等多くの可能性を含んでいる上、排ガスにより汚染されている大気浄化(NOx分解等)の目的で市中のインフラに短時間簡易に大面積に低コストで処理されることも期待されている。
【0004】
ここで、光触媒とは、その伝導帯と価電子帯のバンドギャップエネルギーより大きい光エネルギーが照射されると励起状態となり、電子−正孔対を生成して酸化及び還元反応を引き起こす触媒物質(光半導体物質)のことである。
【0005】
このような酸化チタンの光触媒活性については、正方晶系のルチル型構造よりも、同じく正方晶系のアナターゼ型構造のものの方が高いことが知られている。なお、ブルッカイト型構造の酸化チタンは光触媒活性を有するものの、定法では作製が困難とされている。
【0006】
光触媒の成膜方法としては、大別して乾式法と湿式法がある。乾式法を用いた成膜方法(以下、乾式成膜法ともいう)は、主として真空装置を使用し、基材に直接、原子又は分子をコーティングする方法であり、その方法としては、例えば、スパッタリング法、アークイオンプレティング(AIP)やマグネトロンスパッタリング法(UBMS)に代表されるようなPVD(physical vapor deposition)法、又はCVD(chemical vapor deposition)法がある。また、湿式法を用いた成膜方法(以下、湿式成膜法ともいう)は、一般に光触媒溶質を含んだ溶液を基材に塗布し、その後これを乾燥させる方法であり、その方法としては、例えば、ゾル−ゲル法又は塗布コーティング法がある。また、粉末をコンクリートに練り込んだり、さらには、活性である金属Tiをセラミック等の硬質基盤にショットピーニングのように吹き付けて(ショットコーティング)、衝突後すぐ酸化させで酸化チタンを形成する技術がある。
【0007】
乾式成膜法は、湿式成膜法と比較して、膜自体の耐久性及び膜厚精度の点で優れているが、高価な真空装置が必要であり、またこの真空装置の例えば、大きさ、機能、及び性能によって成膜できる化学種が制約され、更に基材の例えば、大きさ、形状、及び種類も制約される。一方、湿式成膜法は、常温常圧で成膜できるメリットがあるが、塗布溶液並びに乾燥工程の品質管理、及び膜厚の精度確保が難しいといった制約がある。
【0008】
そこで、酸化チタン(TiO)粉末を溶射して皮膜形成する試みも研究されている。この方法を実現する手段として、プラズマ溶射又は高温ガス(例えば、3000℃程度)のフレーム溶射といった溶射法を用いた成膜方法が開示されている。なお、この方法においては、二酸化チタンが高温に加熱された後に基材に被覆される(例えば、特許文献1参照)。
【0009】
具体的には、各方法は下記のような欠点を有する。
(1)ゾル−ゲル法は、焼成する炉が必要があり、in−situでは不可能であり、アナターゼ型が主である。
(2)PVD法は、炉が必要であり、in−situでは不可能であり、コスト高い。完成品の面粗度が小さく、従って表面積も小さく、単位面積あたりの効果が大きくない。炉に入らない大物は処理不可能。アナターゼ型。
(3)塗装法は、塗料に覆われ、浄化したいものと接触する面積が小さく、効果は限られている。多くのTiOを被覆できない。長期に使用すれば、塗料まで分解してしまい脱落する。アナターゼ型。
【0010】
(4)溶射法は、表面がポーラスで表面積が大きいが、溶融して基材上で急冷凝固するため、多くがルチル型となってしまう。従って、光触媒の効能は表面積のわりに大きくない。HVAF溶射のように低温と言われている方法でもプラズマ溶射のような画期的な変化は無く、低温であるがゆえに材料歩留まりも低くコストがさらに高くなる。ルチル型+アナターゼ型である。
(5)コンクリートやセラミックヘの練りこみ法は、練りこむために使用する粉末の量に対して、実際製品の表面に現れ、働きをするTiOの量が少なく、効率が非常に悪い。
(6)金属Tiショット法は、完成品は繊密で面粗度が小さいがゆえに表面積も小さく、単位面積あたりの効果が大きくない。Ti粉末を扱うため、粉末供給装置などが爆発の危険性が高く安全性低く、防爆システムや不活性ガスで吹き付ける等の工夫必要。基材としてはセラミックのような硬度の高い部材に限られる(アルミや軟鋼には処理不可)。Ti粉末が高価なわりに、歩留まりが極端に悪い。アナターゼ型。
【0011】
【特許文献1】特開2000−300999号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述のように、いずれの成膜方法を使用しても、その成膜条件に制約があるため、汎用性のある成膜方法、例えば、常温又は大気圧で成膜でき、基材サイズ、基材種類、基材形状、及び成膜場所の制約がなく、しかも短時間に成膜でき、更には乾式成膜法(ドライ)で後施工が可能な光触媒成膜方法の開発が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、特定のチタン化合物を高温プロセスを使わず低温で高速で基材に衝突させ、その衝突エネルギーでTiO皮膜を形成することで、上記課題が解決されることを見出し、本発明に到達した。
【0014】
即ち、第1に、本発明は、アナターゼ型及び/又はブルッカイト型酸化チタン皮膜形成方法の発明であり、含水・酸化チタン粉末を溶融することなく、0.45MPa以上の圧縮ガスにより100m/sec以上の速度で基材に噴射することを特徴とする。
【0015】
第2に、本発明は、同じく、アナターゼ型及び/又はブルッカイト型酸化チタン皮膜形成方法の発明であり、含水・酸化チタン粉末のコロイド粒子を含むゾルを固体粉末に含浸させ乾燥させた後、該含水・酸化チタン粉末のコロイド粒子を含むゾルが含浸された固体粉末を溶融することなく、0.45MPa以上の圧縮ガスにより100m/sec以上の速度で基材に噴射することを特徴とする。
【0016】
第1及び第2の本発明により、高温プロセスを使用せずに、in−situで、大面積化が容易で、安全で、且つ低コストで、光触媒能を有するアナターゼ型及び/又はブルッカイト型酸化チタン皮膜を形成することができる。
【0017】
ここで、含水・酸化チタン粉末のコロイド粒子を含むゾルを含浸させる固体粉末としては、各種有機又は無機の粉末を用いることができる。具体的には、固体粉末として、スポンジゴム粉末又は亜鉛粉末が好ましく例示される。
【0018】
これらの固体粉末は、再利用が可能であり、本発明に使用後に回収されたものを用いる場合も本発明に含まれる。
【0019】
本発明のアナターゼ型及び/又はブルッカイト型酸化チタン皮膜形成方法は出発物質が含水・酸化チタン粉末である点に最大の特徴がある。該含水・酸化チタン粉末としては、メタチタン酸(βチタン)及び水酸化チタン(αチタン)から選択される1種以上が好ましく例示される。メタチタン酸(βチタン)は、例えば、イルミナイト鉱石からTiOを硫酸法で製造する過程で生成する安価なものが利用できる。
【0020】
該含水・酸化チタン粉末は、高速で基材に衝突させられる際の、衝突エネルギーで利用して、脱水反応と皮膜形成が同時に行われる。
【0021】
本発明において、含水・酸化チタン粉末を高速で基材に衝突させる手段としては、圧縮エアーを用いたスプレーガンが好ましく例示される。
【0022】
高面積基材にアナターゼ型及び/又はブルッカイト型酸化チタン皮膜を形成するためには、該スプレーガンを所定ピッチで所定回パスさせるスプレーガントラバース法が好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明のアナターゼ型及び/又はブルッカイト型酸化チタン皮膜形成方法は、常温又は大気圧で成膜でき、基材サイズ、基材種類、基材形状、及び成膜場所の制約がなく、しかも短時間に成膜でき、更には乾式成膜法(ドライ)で後施工が可能な光触媒成膜方法である。即ち、高温プロセスを使用せずに、in−situで、大面積化が容易で、安全で、且つ低コストで、光触媒能を有するアナターゼ型及び/又はブルッカイト型酸化チタン皮膜を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
[実施例1]
含水・酸化チタン粉末として、平均粒径150μm以下のメタチタン酸(Ti(OH))粉末を使用した。
【0025】
図1に、本実施例のアナターゼ型及び/又はブルッカイト型酸化チタン皮膜形成方法に用いられる粉末スプレー装置の概要を示す。圧縮エアー発生装置1からコンプレッサー圧力を0.6MPaにて発生させた高圧エアーはホースを通って、スプレーガン2に運ばれる。エアーはスプレーガン中のエアー加熱ヒーター3により200℃まで加熱され、最細部4を通りノズル5から噴出させる。
【0026】
粉末供給装置6はバイブレーター自由落下式で、内径3mmのゴムホース7により粉末をノズル5まで送給される。エアーは最細部から出た後なので、自由落下した粉末は噴出するエアーに吸い込まれるようにノズル内部に供給され、外部にエアーと共に噴出する。このときの粉末飛行速度は200m/secである。ここでは粉末供給量は5g/minとした。
【0027】
ノズル5から5mm離れた位置に基材9を設置し、ロボットにて3mm/secのスピードで1mmピッチでスプレーガンをトラバース(1mmピッチ×10パス)させ、TiO(光触媒)皮膜10を形成した(図2参照)。今回の基材は厚さ3mmの軟鋼SS41を用いた。
【0028】
図3に、このように処理して得られた皮膜の外観(図3(a))及び断面(図3(b))の写真を示す。最厚部の厚さは約100μmであった。なおこの皮膜の断面はポーラスであり、そのため断面硬度はHV0.01kgで32であった。また表面粗さは約40μRzであった。
【0029】
図4に、この皮膜のX線回折結果を示す。図4の結果より、この皮膜はわずかにルチル型の痕跡が見られるものの、主にブルッカイト型のTiOとアナターゼ型のTiOを主成分とする皮膜であることが判明した。
【0030】
特に光触媒効果の高いブルッカイト型のTiOは人工的に製作することは困難と言われているが、本発明の簡易な方法にて、形成できることが確認できた。
【0031】
[実施例2]
含水・酸化チタン粉末として、平均粒径150μm以下のメタチタン酸(Ti(OH))粉末を使用した。
【0032】
図5に、本実施例のアナターゼ型及び/又はブルッカイト型酸化チタン皮膜形成方法に用いられる粉末スプレー装置の概要を示す。圧縮エアー発生装置1からコンプレッサー圧力0.6MPaにて発生させた高圧エアーはホース7を通って、スプレーガン2に運ばれる。エアーはスプレーガン中のヒーター3により200℃まで加熱し、最細部4を通りノズル5から噴出させる。
【0033】
粉末供給はノズルと同軸上の最細部前にて行い、エアーと共に最細部4を通り、ノズル5から噴出される。ここでノズル最細部前つまり圧力が高い空間で粉末供給するため、粉末供給装置内の圧力は、圧縮エアーと同等以上の圧力にしなければ粉末を供給することができない。今回はエアーボンベ11から供給した。このときの粉末飛行速度は250m/secである。なおここでは粉末供給量は5g/minとした。
【0034】
ノズル5から5mm離れた位置に基材9を設置し、ロボットにて3mm/secのスピードで1mmピッチでスプレーガンをトラバースさせ、皮膜を形成した。なお、ここでも基材は厚さ3mmの軟鋼SS41を用いた。
実施例1と同等のブルッカイトとアナターゼ皮膜が形成された。
【0035】
[実施例3]
含水・酸化チタン粉末として、平均粒径100nmのメタチタン酸(Ti(OH))コロイド粒子を含むゾルをスポンジゴム(100〜300μm)に含浸させた後、自然乾燥させたスポンジゴム粉末を使用した。
【0036】
図1に示される粉末スプレー装置を用いた。
圧縮エアー発生装置で、コンプレッサー圧力を0.6MPaにて発生さぜた高圧エアーはホースを通って、スプレーガン2に運ばれる。エアーはスプレーガン中のヒータ3により200℃まで加熱し、最細部4を通りノズル5から噴出させる。
【0037】
粉末供給装置6はバイブレータ自由落下式で、内径3mmのゴムホース7により粉末をノズルまで送給する。
【0038】
エアーは最細部から出た後なので、自由落下した粉末は噴出するエアーに吸い込まれるようにノズル内部に供給され、外部にエアーと共に噴出する。このときのスポンジ粉末飛行速度は150m/secである。ここでは粉末供給量は3g/minとした。
【0039】
ノズルから5mm離れた位置に基材9を設置し、ロボットにて3mm/secのスピードで1mmピッチでスプレーガンをトラバースさせ、皮膜を形成した。今回の基材は厚さ3mmの軟鋼SS41を用いた。
【0040】
実施例1と同等のブルッカイトとアナターゼ皮膜が形成された。但し皮膜厚さは5μmであった。
【0041】
[実施例4]
含水・酸化チタン粉末として、平均粒径100nmのメタチタン酸(Ti(OH))コロイド粒子を含むゾルを亜鉛粉末(ガスアトマイズ粉、10〜150μm)表面に塗布した後、強制乾燥させた粉末を使用した。
【0042】
図1に示される粉末スプレー装置を用いた。
圧縮エアー発生装置1で、コンプレッサー圧力を0.6MPaにて発生させた高圧エアーはホースを通って、スプレーガン2に運ばれる。エアーはスプレーガン中のヒーター3により200℃まで加熱し、最細部4を通りノズル5から噴出させる。
【0043】
粉末供給装置8はバイブレーター自由落下式で、内径3mmのゴムホース7により粉末をノズルまで送給する。エアーは最細部から出た後なので、自由落下した粉末は噴出するエアーに吸い込まれるようにノズル内部に供給され、外部にエアーと共に噴出する。このときの粉末飛行速度は300m/secである。ここでは粉末供給量は8g/minとした。
【0044】
ノズルから5mm離れた位置に基材9を設置し、ロボットにて10mm/secのスピードで3mmピッチでスプレーガンをトラバースさせ、皮膜を形成した。なお今回の基材は厚さ3mmの軟鋼SS41を用いた
実施例1と同等のブルッカイトとアナターゼ皮膜が形成された。但し皮膜厚さは2μmであった。皮膜厚さが少ない理由は元々鉄粉末の表面にコティングできる量がそもそも少ないことに加え、一度基材に形成されたTiOが次の粒子によりエロージョンされてしまうからと思われる。
【0045】
実施例3,4はTiOがナノレベルの粒子で存在するとき、または実施例1,2で用いる粉末の大きさにすることを避けたい場合に有効な手法と言える。ただし面粗度は実施例1,2に比べかなり小さい。
【0046】
[実施例5]
含水・酸化チタン粉末として、平均粒径150μm以下のメタチタン酸(Ti(OH))粉末を使用した。
【0047】
図1に示される粉末スプレー装置を用いた。
圧縮エアー発生装置1で、コンプレッサー圧力を0.7MPaにて発生させた高圧エアーはホースを通って、スプレーガン2に運ばれる。最細部4を通りノズル5から噴出させる。実施例5ではエアー加熱は行わなかった。
【0048】
粉末供給装置8はバイブレータ自由落下式で、内径3mmのゴムホース7により粉末をノズルまで送給する。エアーは最細部から出た後なので、自由落下した粉末は噴出するエアーに吸い込まれるようにノズル内部に供給され、外部にエアーと共に噴出する。このときの粉末飛行速度は180m/secである。ここでは粉末供給量は5g/minとした。
【0049】
ノズルから5mm離れた位置に基材9を設置し、ロボットにて3mm/secのスピードで1mmピッチでスプレーガンをトラバースさせ、皮膜を形成した。今回の基材は厚さ3mmの軟鋼SS41を用いた
得られたTiOは実施例1と同様なものであったが、本実施例では皮膜中にメタチタン酸が40%程度残存した。
【0050】
[比較例]
含水・酸化チタン粉末として、平均粒径150μm以下のメタチタン酸(Ti(OH))粉末を使用した。
【0051】
粉末噴射方法としてショットコーティング法(通常のショットピーニング装置にて施工)を採用した。エアー圧力:0.3MPaと0.4MPa、エアー加熱無し、粉末の噴射速度85m/secとした。粉末供給量は5g/minとした。
【0052】
ノズルから5mm離れた位置に基材を設置し、ロボットにて3mm/secのスピードで1mmピッチでスプレーガンをトラバースした。基材は厚さ3mmの軟鋼SS41を用いた。
【0053】
エアー圧力0.3MPa、0.4MPa共、皮膜が形成できず。従って光触媒も形成できなかった。この原因としては、含水酸化チタンをTiOにするためには、ショットコーティング法ではエネルギー不足であったことが考えられる
【0054】
[参考例]
平均粒径150μm以下の水酸化アルミニウム(Al(OH))粉末を使用した。
圧縮エアー発生装置1で、コンプレッサー圧力を0.6MPaにて発生させた高圧エアーはホースを通って、スプレーガン2に運ばれる。エアーはスプレーガン中のヒーター3により200℃まで加熱し、最細部4を通りノズル5から噴出させた。
【0055】
粉末供給装置8はバイブレータ自由落下式で、内径3mmのゴムホース7により粉末をノズルまで送給する。エアーは最細部から出た後なので、自由落下した粉末ぱ噴出するエアーに吸い込まれるようにノズル内部に供給され、外部にエアーと共に噴出する。このときの粉末飛行速度は200m/secである。ここでは粉末供給量は5g/minとした。
【0056】
ノズルから5mm離れた位置に基材8を設置し、ロボットにて3mm/secのスピードで1mmピッチでスプレーガンをトラバースさせ、皮膜を形成した。今回の基材は厚さ3mmの軟鋼SS41を用いた。
基材に形成された皮膜は、γ−Alであった。
【0057】
[アセトアルデヒドガスの分解性能試験]
上記で得られた試験板を用い、アセトアルデヒドガスの分解性能試験を行った。
(試験項目)
無色透明のガラス容器2.5L内部に、実施例(今回の試作品各10x5cm角)を入れて密閉し、アセトアルデヒドガスを充填して、ガラス容器外側より紫外線の照射を行ない、経過時間ごとの資料ガス残留濃度を検知管法で測定した。
【0058】
(試験条件)
(1)紫外線:光源高圧水銀灯(8.7mW/cm
(2)酸化チタン:(実施例1〜5及び比較例)、アナターセ型のTiO粉末(10−45μm)を用いたHVOF溶射)
(3)照射面:資料表面光源より試料面まで300mm
【0059】
(結果)
図6に、実施例などの試験板のアセトアルデヒドガスの分解性能試験の結果を示す。図6の結果より、今回発明のものは、従来のものに対してアセトアルデヒドガスの分解効果が大きい。特に実施例1,2が大きいが、これは図3の写真に見られるように表面がポーラスであり光触媒の有効面積が大きいことに起因すると思われる。また比較のため試作で追加したαアルミナ基材へのTi粉末のショットコーティングに比べて、表面積が大きいことに加え、今回のものはブルッカイト型が形成されていることもその要因になっていることが可能性として考えられる。
【0060】
今回の結果は、室内の消臭にも効果があると考えられ、特にエアコンによる臭い対策のため、エアコン通路に皮膜形成しておけば、臭いのひとつの原因を殺菌することも可能と言える。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明のアナターゼ型及び/又はブルッカイト型酸化チタン皮膜形成方法は、常温又は大気圧で成膜でき、基材サイズ、基材種類、基材形状、及び成膜場所の制約がなく、しかも短時間に成膜でき、更には乾式成膜法(ドライ)で後施工が可能な光触媒成膜方法である。これにより、高温プロセスを使用せずに、in−situで、大面積化が容易で、安全で、且つ低コストで、光触媒能を有するアナターゼ型及び/又はブルッカイト型酸化チタン皮膜を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】実施例1他で用いられるアナターゼ型及び/又はブルッカイト型酸化チタン皮膜形成方法に用いられる粉末スプレー装置の概要を示す。
【図2】トラバース法におけるスプレーガンの動作を示す。
【図3】実施例1得られた皮膜の外観(図3(a))及び断面(図3(b))の写真を示す。
【図4】実施例1得られた皮膜のX線回折結果を示す。
【図5】実施例2で用いられるアナターゼ型及び/又はブルッカイト型酸化チタン皮膜形成方法に用いられる粉末スプレー装置の概要を示す。
【図6】実施例などの試験板のアセトアルデヒドガスの分解性能試験の結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
含水・酸化チタン粉末を溶融することなく、0.45MPa以上の圧縮ガスにより100m/sec以上の速度で基材に噴射することを特徴とする、アナターゼ型及び/又はブルッカイト型酸化チタン皮膜形成方法。
【請求項2】
前記含水・酸化チタン粉末のコロイド粒子を含むゾルを固体粉末に含浸させ乾燥させた後、該含水・酸化チタン粉末のコロイド粒子を含むゾルが含浸された固体粉末を溶融することなく、0.45MPa以上の圧縮ガスにより100m/sec以上の速度で基材に噴射することを特徴とする、アナターゼ型及び/又はブルッカイト型酸化チタン皮膜形成方法。
【請求項3】
前記固体粉末が、スポンジゴム粉末又は亜鉛粉末であることを特徴とする請求項2に記載のアナターゼ型及び/又はブルッカイト型酸化チタン皮膜形成方法。
【請求項4】
前記スポンジゴム粉末又は亜鉛粉末は本発明に使用後回収されたものであることを特徴とする請求項3に記載のアナターゼ型及び/又はブルッカイト型酸化チタン皮膜形成方法。
【請求項5】
前記含水・酸化チタン粉末が、メタチタン酸(βチタン)及び水酸化チタン(αチタン)から選択される1種以上であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のアナターゼ型及び/又はブルッカイト型酸化チタン皮膜形成方法。
【請求項6】
前記圧縮ガスが圧縮エアーであることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載のアナターゼ型及び/又はブルッカイト型酸化チタン皮膜形成方法。
【請求項7】
スプレーガンを用い、該スプレーガンを所定ピッチで所定回パスさせるスプレーガントラバース法により大面積基材に皮膜形成することを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載のアナターゼ型及び/又はブルッカイト型酸化チタン皮膜形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−95748(P2009−95748A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−269290(P2007−269290)
【出願日】平成19年10月16日(2007.10.16)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】