説明

アナトー色素製剤

【課題】耐酸性、耐塩性および耐熱性が顕著に改善されたアナトー色素製剤を安全性が高い形で提供すること。
【解決手段】アナトー色素とポリグリセリン脂肪酸エステルとを少なくとも含み、上記ポリグリセリンが平均重合度が8から12のポリグリセリンであり、上記脂肪酸が炭素数14から18の飽和脂肪酸であることを特徴とするアナトー色素製剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐酸性、耐塩性および耐熱性に優れたアナトー色素製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アナトー色素はアルカリ性溶液に可溶であるが、中性から酸性の水溶液に対する溶解性は悪いことから、使用方法としてはナトリウムまたはカリウム塩にして使用するか、アルカリ性にて溶解後中性に戻して不溶化させて使用するか、あるいは乳化剤を使用して可溶化させて使用されてきた(特許文献1)。
【0003】
しかし、アナトー色素のナトリウムまたはカリウム塩は指定添加物扱いになり、一般消費者のイメージが悪い。また、アナトー色素を一旦アルカリ性にて溶解後、中性に戻してアナトー色素を不溶化させた場合、該不溶化させたアナトー色素は色調が変わってしまい、鮮明なオレンジ色を呈さなくなる。また、従来のアナトー色素製剤は、低pHや高濃度食塩水などの条件下で加熱した場合、アナトー色素が不溶化あるいは沈殿するという問題があった。
【0004】
【特許文献1】特開平11−209642号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に記載の方法では、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸およびオクテニルコハク酸からなる群から選択される不飽和カルボン酸のポリグリセリンエステルを用い、pHを7.5から12としてアナトー色素を乳化することにより、アナトー色素の耐酸性および耐塩性を高めていた。しかし、この方法ではアナトー色素製剤のpHをアルカリ性に保持する必要があり、そのことにより製剤中に人体にとって有害なメタノールが経時的に発生するという問題があった。
【0006】
従って、本発明の目的は、耐酸性、耐塩性および耐熱性が顕著に改善されたアナトー色素製剤を安全性が高い形で提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的は以下の本発明によって達成される。すなわち、本発明は、アナトー色素とポリグリセリン脂肪酸エステルとを少なくとも含み、上記ポリグリセリンが平均重合度が8から12のポリグリセリンであり、上記脂肪酸が炭素数14から18の飽和脂肪酸であることを特徴とするアナトー色素製剤を提供する。該アナトー色素製剤においては、前記ポリグリセリン脂肪酸エステルが、製剤中に全体の5から30質量%含有されていること;pHが6から8であること;およびポリグリセリン脂肪酸エステルの脂肪酸の平均エステル化度が0.5から1.5であることが好ましい。
【0008】
本発明者らは、前記した課題を解決すべく鋭意努力して実験を重ねた結果、アナトー色素の耐酸性、耐熱性および耐塩性が非常に悪いという欠点のために使用できなかった食品、例えば、タレ類、ソース類、製菓などの塩分を含み、および/または中性か酸性状態で加熱工程を経る食品であって、なおかつ沈殿が発生しては好ましくない食品において、上記本発明の構成によりアナトー色素の耐酸性、耐熱性および耐塩性を大幅に向上させることが可能になり、これらの食品の着色にアナトー色素が使用できることを見出した。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、耐酸性、耐塩性および耐熱性に優れたアナトー色素製剤が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
次に好ましい実施の形態を挙げて本発明をさらに詳しく説明する。本発明で使用するアナトー色素とは、ベニノキ科ベニノキ(Bixa orellana LINNE)の種子の被覆物より得られる色素であり、例えば、油脂若しくはプロピレングリコールにより熱時抽出する方法、ヘキサン若しくはアセトンによる室温時抽出後、溶媒を除去する方法、またはアルカリ性水溶液で熱時抽出し、加水分解し、中和する方法などにより得られたものである。アナトー色素は主としてビキシンおよび/またはノルビキシンからなるが、好ましくはノルビキシンからなるアナトー色素が用いられる。また、上記抽出液をそのまま用いてもよいが、抽出した色素成分を精製して乾燥した高純度の粉末品を用いることが望ましい。
【0011】
上記アナトー色素製剤の製造に際しては、通常、親水性の乳化剤として一般的には、ポリグリセリン脂肪酸エステルの他、ショ糖脂肪酸エステル、加工澱粉、酵素処理レシチンおよびアラビアガムなどが広く用いられている。しかし、上記ポリグリセリン脂肪酸エステルでは、その脂肪酸が炭素数14から18の飽和脂肪酸であり、ポリグリセリンの重合度が平均して8から12のポリグリセリン脂肪酸エステル以外は製剤として成り立たないか、あるいは成り立ったとしても酸性水溶液および/または高濃度塩溶液に対し、アナトー色素は一時的に澄明に着色するが、加熱した場合、澄明性が損なわれ色素成分が沈殿するという問題があった。
【0012】
これに対して本発明に用いられるポリグリセリン脂肪酸エステルでは、上記のような問題点が解消されている。すなわち、本発明で用いるポリグリセリン脂肪酸エステルは、ポリグリセリンの平均重合度が8から12のポリグリセリンであり、脂肪酸が炭素数14から18の飽和脂肪酸であることを特徴としている。
【0013】
上記ポリグリセリン脂肪酸エステルにおいては、ポリグリセリンの平均重合度が8よりも低いか12を超えると、得られる製剤の耐酸、耐塩、耐熱性が十分でない。最も好ましいポリグリセリンの平均重合度は10(デカグリセリン)である。なお、ここでいう「平均重合度」とは、ポリグリセリンは通常異なる重合度のポリグリセリンの混合物であるので、混合物全体の平均の重合度を意味する。
【0014】
また、上記脂肪酸は、炭素数14から18の飽和脂肪酸であり、特に好ましいものはミリスチン酸、パルミチン酸またはステアリン酸である。炭素数が14よりも低いと、得られる製剤の耐酸、耐塩、耐熱性が十分でない。また、炭素数が18を超えると製剤中におけるアナトー色素の可溶化が十分でない。
【0015】
前記ポリグリセリン脂肪酸エステルの配合量は特に限定されないが、製剤全体の5から30質量%の範囲であることが好ましい。ポリグリセリン脂肪酸エステルの配合量が5質量%よりも少ないと、アナトー色素に対する十分な乳化剤の効果が得られにくく、また、ポリグリセリン脂肪酸エステルの配合量が30質量%を超えると、得られるアナトー色素製剤を食品に添加した際、乳化剤特有の味が食品の味に影響を与えるため好ましくない。
【0016】
本発明のアナトー色素製剤の必須成分は、前記アナトー色素、前記ポリグリセリン脂肪酸エステルおよび親水性溶媒であり、本発明のアナトー色素製剤は、親水性溶媒中にアナトー色素がポリグリセリン脂肪酸エステルによって乳化されている乳化液である。使用に際してはノルビキシン含有量が30〜100質量%のアナトー色素を用いることが好ましい。該製剤におけるアナトー色素の好ましい濃度はノルビキシン含有量50質量%のアナトー色素として1〜10質量%であることが好ましい。使用する親水性溶媒としては特に限定されないが、水を主成分とする親水性溶媒が好ましい。水と併用してもよい親水性溶媒としては、例えば、プロピレングリコール、グリセリン、糖アルコールおよびエタノールなどが挙げられる。上記親水性溶媒は単独で使用してもよいが、2種以上を組み合わせても使用することができる。
【0017】
本発明のアナトー色素製剤には、前記必須成分に加えて必要に応じて各種の添加剤を添加してもよい。該添加剤としては、例えば、酸化防止剤、キレート剤、保存料、日持ち向上剤、香料、着色料、増粘安定剤、ゲル化剤および甘味料などが挙げられる。これら添加物は1種単独で使用してもよいが、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0018】
次に本発明のアナトー色素製剤の製造方法について説明する。先ず、アルカリを添加した親水性溶媒を作成し、該アルカリ性親水溶媒にアナトー色素を添加して溶解する。その後、ポリグリセリン脂肪酸エステルを添加し、pH調整剤を用いてpHを6から8とすることが好ましい。
【0019】
上記で使用するアルカリとしては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、リン酸水素二ナトリウムおよびリン酸水素二カリウムなどが挙げられる。また、上記で使用するpH調整剤とは、水に溶解して酸性を示す物質をいい、例えば、クエン酸、L−酒石酸、グルコン酸、グルコノデルタラクトン、乳酸およびフィチン酸などが挙げられる。なお、ポリグリセリン脂肪酸エステルは通常常温では固体のため加温し溶解してから用いることが望ましい。
【0020】
上記本発明のアナトー色素製剤は、耐酸性、耐塩性および耐熱性に優れているので、従来は、アナトー色素の耐酸性、耐熱性および耐塩性が非常に悪いという欠点のために使用できなかった食品、例えば、タレ類、ソース類、製菓などの塩分を含み、および/または中性か酸性状態で加熱工程を経る食品であって、なおかつ沈殿が発生しては好ましくない食品の着色に有用である。
【実施例】
【0021】
次に実施例および比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に制約されるものではない。なお、以下の文中「部」または「%」とあるのは特に断りのない限り質量基準である。
[実施例1]
水57部に99%水酸化ナトリウム0.5部を添加し、アルカリ性親水溶媒を得た。次いで該溶媒にアナトー色素(ノルビキシン濃度45%)2.3部を加え、撹拌してアナトー色素を溶解しアナトー色素溶液を得た。次いで、デカグリセリンモノミリスチン酸エステル20部と95度アルコール10部を加温後上記色素溶液に添加し、該溶液が均質になるように撹拌した。一方、クエン酸0.2部を水10部に溶解しクエン酸水溶液を得、該溶液を上記色素溶液に撹拌しながら添加し、pHを7に調整し、橙黄色で澄明な本発明のアナトー色素製剤を得た。
【0022】
[実施例2]
水61.9部に85%水酸化カリウム0.6部を添加し、アルカリ性親水溶媒を得た。次いで該溶媒にアナトー色素(ノルビキシン濃度45%)2.3部を加え、撹拌してアナトー色素を溶解しアナトー色素溶液を得た。次いで、デカグリセリンモノパルミチン酸エステル15部と95度アルコール10部を加温後上記色素溶液に添加し、該溶液が均質になるように撹拌した。一方、クエン酸0.2部を水10部に溶解しクエン酸水溶液を得、該溶液を上記色素溶液に撹拌しながら添加し、pHを7に調整し、橙黄色で澄明な本発明のアナトー色素製剤を得た。
【0023】
[実施例3]
水67部に99%水酸化ナトリウム0.5部を添加し、アルカリ性親水溶媒を得た。次いで該溶媒にアナトー色素(ノルビキシン濃度45%)2.3部を加え、撹拌してアナトー色素を溶解しアナトー色素溶液を得た。次いで、デカグリセリンモノステアリン酸エステル10部と95度アルコール10部を加温後上記色素溶液に添加し、該溶液が均質になるように撹拌した。一方、クエン酸0.2部を水10部に溶解しクエン酸水溶液を得、該溶液を上記色素溶液に撹拌しながら添加し、pHを7に調整し、橙黄色で澄明な本発明のアナトー色素製剤を得た。
【0024】
[比較例1]
水53部に99%水酸化ナトリウム0.5部を添加し、アルカリ性親水溶媒を得た。次いで該溶媒にアナトー色素(ノルビキシン濃度45%)2.3部を加え、撹拌してアナトー色素を溶解しアナトー色素溶液を得た。次いで、デカグリセリンモノオレイン酸エステル24部と95度アルコール10部を加温後上記色素溶液に添加し、該溶液が均質になるように撹拌した。一方、クエン酸0.2部を水10部に溶解しクエン酸水溶液を得、該溶液を上記色素溶液に撹拌しながら添加し、pHを7に調整し、橙黄色で澄明な比較例のアナトー色素製剤を得た。
【0025】
[比較例2]
デカグリセリンモノオレイン酸エステルに代えて、ヘキサグリセリンモノミリスチン酸エステルを用いた以外は、比較例1と同様に操作を行い、比較例のアナトー色素製剤を得た。
【0026】
[比較例3]
デカグリセリンモノオレイン酸エステルに代えて、デカグリセリンモノラウリン酸エステルを用いた以外は、比較例1と同様に操作を行い、比較例のアナトー色素製剤を得た。
【0027】
[比較例4]
デカグリセリンモノオレイン酸エステルに代えて、ヘキサグリセリンモノオレイン酸エステルを用いた以外は、比較例1と同様に操作を行い、比較例のアナトー色素製剤を得た。
【0028】
[比較例5]
デカグリセリンモノオレイン酸エステルに代えて、デカグリセリンモノリノール酸エステルを用いた以外は、比較例1と同様に操作を行い、比較例のアナトー色素製剤を得た。
【0029】
[比較例6]
デカグリセリンモノオレイン酸エステルに代えて、ショ糖パルミチン酸エステルを用いた以外は、比較例1と同様に操作を行い、比較例のアナトー色素製剤を得た。
【0030】
[比較例7]
デカグリセリンモノオレイン酸エステルに代えて、ショ糖ミリスチン酸エステルを用いた以外は、比較例1と同様に操作を行い、比較例のアナトー色素製剤を得た。
【0031】
上記実施例および比較例で得られたそれぞれのアナトー色素製剤について、下記に従って評価を行った。
[アナトー色素製剤の評価基準]
上記実施例および比較例で得られたそれぞれのアナトー色素製剤を、クエン酸緩衝液(pH3)に食塩を10%添加した溶液に0.1%添加してアナトー色素溶液を作成し、80℃で30分間加熱した。加熱前後の上記アナトー色素溶液を目視観察し、下記評価基準に従って評価を行った。評価結果を下記表1に示す。
○:アナトー色素溶液は澄明であった。
△:アナトー色素溶液は濁りが見られた。
×:アナトー色素溶液は沈殿していた。
【0032】

上記表1から明らかであるように、本発明のアナトー色素製剤は、耐酸性、耐塩性および耐熱性に優れている。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明によれば、耐酸性、耐塩性および耐熱性が非常に改善されたアナトー色素製剤を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アナトー色素とポリグリセリン脂肪酸エステルとを少なくとも含み、上記ポリグリセリンが平均重合度が8から12のポリグリセリンであり、上記脂肪酸が炭素数14から18の飽和脂肪酸であることを特徴とするアナトー色素製剤。
【請求項2】
前記ポリグリセリン脂肪酸エステルが、製剤中に全体の5から30質量%含有されている請求項1に記載のアナトー色素製剤。
【請求項3】
pHが6から8である請求項1に記載のアナトー色素製剤。
【請求項4】
ポリグリセリン脂肪酸エステルの脂肪酸の平均エステル化度が0.5から1.5である請求項1に記載のアナトー色素製剤。

【公開番号】特開2007−277471(P2007−277471A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−108326(P2006−108326)
【出願日】平成18年4月11日(2006.4.11)
【出願人】(593157910)株式会社タイショーテクノス (10)
【Fターム(参考)】