説明

アニオン重合による重合体の製造方法

【課題】アニオン重合性不飽和結合を有する化合物をアニオン重合する場合において、所望の分子量の重合体を副反応を抑えて製造する方法を提供すること。
【解決手段】重合性単量体を非プロトン性極性溶媒中重合開始剤の存在下でアニオン重合して重合体を製造する方法において、
(A)重合体アニオンが存在する非プロトン性極性溶媒溶液に、該重合体アニオンと反応しない有機アルカリ金属を添加する工程、
(B)該有機アルカリ金属が有する重合性単量体の重合開始能力を失活させる工程、及び、
(C)重合体アニオンが存在する非プロトン性極性溶媒溶液に、工程(A)における重合性単量体と同一の又は異なる重合性単量体を添加して重合体鎖を伸長する工程
を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アニオン重合法により重合体を製造する方法、特に、アニオン重合法において所望する分子量の単独重合体又は共重合体を安定的に得る方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アニオン重合法において、分子量が制御された重合体を製造するため、単量体を添加していく途中段階で重合体の分子量を測定し、追加する単量体の量を正確に計算して、相当する量の単量体をさらに添加して重合することにより、所望する分子量の重合体を得る方法が知られている。例えば、特許文献1には、アニオン重合において目的とする分子量を有する単分散高分子を製造する方法であって、生成した重合体の分子量をサンプリングして測定しながら単量体の添加を複数回に分けて行うことにより分子量を制御する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第6218485号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1による方法を、テトラヒドロフラン等の非プロトン性極性溶媒中で、アニオン重合性不飽和結合を有する化合物を重合する場合に適用すると問題が生じた。該溶媒中におけるアニオン活性種の安定性が悪いため、アニオン活性種が失活されやすく、そのような反応条件下で、上記で述べた分子量を制御する方法を用いると、途中段階で分子量を測定している最中に一部のアニオン活性種が失活してしまう。その結果、分子量を測定した時点での分子量を有する重合体が最終重合物に含まれてしまうこととなる。
この問題点は、反応系内におけるアニオン活性種の安定性を向上させることにより、解決し得ると考えられる。アニオン重合法では、トルエンやヘキサン等の低極性溶媒をテトラヒドロフラン等の極性溶媒に混合して使用すると、アニオン活性種の安定性が向上することが知られている。低極性溶媒の割合を多くするほど、アニオン活性種の安定性を向上させることが可能となるが、その反面、重合速度が遅くなるという欠点が生じる。そのような反応条件下で重合反応を行うと、重合反応を完結させるために長時間が必要となるため、反応系内に微量に含まれている酸素等又は重合反応中に系内に入り込む空気中の微量の酸素等とアニオン活性種との副反応が起こりやすくなる。その結果、目的とする分子量の約2倍の重合体が最終生成物に含まれるという問題が生じる場合がある。
また、使用する溶媒、単量体等を厳密に精製して使用し、反応装置を完全に密閉し、さらに、途中段階で分子量を測定する際に空気中の酸素、水分等が系内に入ることを完全に防止すること等により、その問題点を解決することができると考えられる。しかしながら、あまりに厳密な反応条件が必要になると、工業的製造方法としては採用することができない。
本発明の課題は、非プロトン性極性溶媒を用いて、アニオン重合性不飽和結合を有する化合物をアニオン重合する場合において、所望の分子量の重合体を副反応を抑えて製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行った。その結果、アニオン重合性不飽和結合を有する化合物を非プロトン性極性溶媒中でアニオン重合する際に、重合体アニオンが存在する反応系内に、該重合体アニオンと反応しないアルキルリチウム等の有機アルカリ金属を加えることにより、重合阻害物質を迅速にトラップし、重合体アニオンの反応系内における安定性を著しく向上し得ることを見出した。反応系内の重合体アニオンの安定性を向上させたことにより、重合反応の途中段階で、重合体アニオンを失活又は不活性化させることなく、また、副反応を抑制しながら、分子量を測定することが可能となった。さらに、分子量測定する等、一定の時間を経過した後に、該有機アルカリ金属が有する重合開始能力を不活性化させる工程を経た後、必要量のアニオン重合性単量体を再度添加していくことにより、アニオン重合を再び進行させることができることを見出した。その結果、所望の分子量を有し、副反応による不純物が少ない重合体を製造する簡便な方法を完成するに至ったものである。
【0006】
すなわち、本発明は、
(1)重合性単量体を非プロトン性極性溶媒中重合開始剤の存在下でアニオン重合して重合体を製造する方法において、
(A)重合体アニオンが存在する非プロトン性極性溶媒溶液に、該重合体アニオンと反応しない有機アルカリ金属を添加する工程、
(B)該有機アルカリ金属と反応し、該有機アルカリ金属が有する重合性単量体の重合開始能力を不活性化させる化合物を添加する工程、及び、
(C)重合体アニオンが存在する非プロトン性極性溶媒溶液に、工程(A)における重合性単量体と同一の又は異なる重合性単量体を添加して重合体鎖を伸長する工程
を含むことを特徴とする重合体の製造方法や、
(2)該重合体アニオンと反応しない有機アルカリ金属が、該重合体アニオンを製造するために用いた重合開始剤と同じ化合物であることを特徴とする上記(1)に記載の重合体の製造方法や、
(3)該重合体アニオンと反応しない有機アルカリ金属が、アルキルリチウムであることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載の重合体の製造方法や、
(4)重合性単量体が、スチレン系単量体または共役ジエン系単量体であることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載の重合体の製造方法や、
(5)非プロトン性極性溶媒が、エーテル系溶媒であることを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれかに記載の重合体の製造方法や、
(6)エーテル系溶媒が、テトラヒドロフランであることを特徴とする上記(5)に記載の重合体の製造方法や、
(7)該有機アルカリ金属と反応し、該有機アルカリ金属が有する重合性単量体の重合開始能力を不活性化させる化合物が、有機マグネシウム化合物、有機亜鉛化合物、及び有機アルミニウム化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする上記(1)〜(6)のいずれかに記載の重合体の製造方法や、
(8)工程(A)〜(C)を複数回繰り返すことを特徴とする上記(1)〜(7)のいずれかに記載の重合体の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の製造方法を用いることにより、重合阻害物質を微量含むアニオン重合性単量体や溶媒を用いる場合であっても、また、反応系外から重合阻害物質が微量混入する条件下であっても、アニオン重合による重合が安定化し、副反応を伴わないで重合体を合成することが可能となった。得られた重合体は、分子量や分子量分布がよくコントロールされているため、レジスト材料や各種重合体の添加剤などの材料として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施例1で得られたサンプルAのGPC曲線図を示す。
【図2】実施例1で得られたサンプルBのGPC曲線図を示す。
【図3】実施例1で得られたサンプルCのGPC曲線図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明をより詳しく説明する。
本発明の重合体の製造方法は、
工程(A):重合性単量体を重合開始剤の存在下でアニオン重合させて得られた重合体アニオンが存在する非プロトン性極性溶媒溶液に、該重合体アニオンと反応しない有機アルカリ金属を添加する工程、
工程(B):該有機アルカリ金属と反応し、該有機アルカリ金属が有する重合性単量体の重合開始能力を不活性化させる化合物を添加する工程、及び、
工程(C):重合体アニオンが存在する非プロトン性極性溶媒溶液に、工程(A)における重合性単量体と同一の又は異なる重合性単量体を添加して重合体鎖を伸長する工程
を含む。
【0010】
〔工程(A)〕
工程(A)において、有機アルカリ金属を添加する際には重合性単量体は実質的に残存していないことが必要である。
【0011】
重合性単量体としては、アニオン重合性不飽和結合を有する化合物である限り特に限定されないが、具体的には、スチレン系単量体、共役ジエン系単量体等を好ましく例示することができる。
スチレン系単量体としては、具体的に、スチレン、αメチルスチレン等のα−アルキルスチレン、核置換スチレン(芳香環に置換基を有するスチレン)等を例示することができる。核置換基としては、重合開始能力があるアニオン種及び重合開始能力がないアニオン種に対して不活性な基が好ましく、具体的には、アルキル基(好ましくは、メチル基、エチル基等のC1〜C6アルキル基)、アルコキシアルキル基(好ましくは、メトキシメチル基、エトキシエチル基等のC1〜C6アルコキシC1〜C6アルキル基)、アルコキシ基(好ましくは、メトキシ基、エトキシ基等のC1〜C6アルコキシ基)、アルコキシアルコキシ基(好ましくは、メトキシメトキシ基、エトキシエトキシ基等のC1〜C6アルコキシC1〜C6アルコキシ基)、アルコキシカルボニル基(好ましくは、t−ブトキシカルボニル基、t−ブトキシカルボニルメチル基等のC1〜C6アルコキシカルボニル基)、複素環基(好ましくは、テトラヒドロピラニル基等)を例示することができる。核置換スチレンとして、具体的には、α−メチル−p−メチルスチレン、p−メチルスチレン、m−メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−エチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、p−(1−エトキシエトキシ)スチレン、2,4−ジメチルスチレン、2,5−ジメチルスチレン、p−イソプロピルスチレン、2,4,6−トリイソプロピルスチレン、p−t−ブトキシスチレン、p−t−ブトキシ−α−メチルスチレン、m−t−ブトキシスチレン等を例示することができる。これらは1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、スチレン、アルキル基が核置換したスチレン、アルコキシ基が核置換したスチレン、α−アルキルスチレン、アルキル基が核置換したα−アルキルスチレン、又はアルコキシ基が核置換したα−アルキルスチレンが好ましい。
共役ジエン系単量体として、具体的には、共役ブタジエン系単量体を例示することができ、より具体的には、1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチルブタジエン、2−エチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエンまたはクロロプレン等を例示することができ、これらは1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0012】
重合開始剤としては、求核剤であって、アニオン重合性単量体の重合を開始させる働きを有するものであれば特に制限されるものではなく、具体的には、アルカリ金属、有機アルカリ金属化合物等を例示することができる。
アルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウム等が挙げられる。
有機アルカリ金属化合物としては、上記アルカリ金属のアルキル化物、アリル化物、アリール化物等が挙げられる。具体的には、エチルリチウム、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、t−ブチルリチウム、エチルナトリウム、リチウムビフェニル、リチウムナフタレン、リチウムトリフェニル、ナトリウムナフタレン、カリウムナフタレン、α−メチルスチレンナトリウムジアニオン、1,1−ジフェニルヘキシルリチウム、1,1−ジフェニル−3−メチルペンチルリチウム、1,4−ジリチオ−2−ブテン、1,6−ジリチオヘキサン、ポリスチリルリチウム、クミルカリウム、クミルセシウム等を例示することができる。これらのアニオン重合開始剤は、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0013】
本発明において用いられる非プロトン性極性溶媒は、重合反応には関与せず、かつ重合体と相溶性のある非プロトン性極性溶媒であれば、特に制限されず、具体的にはジエチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン、トリオキサン等のエーテル系溶媒;テトラメチルエチレンジアミン、ヘキサメチルホスホリックトリアミド等の第3級アミン;などを例示することができ、特にTHFを好ましく例示することができる。また、これらの溶媒は、1種単独で、または2種以上の混合溶媒として用いることができる。さらに、極性の低い脂肪族炭化水素化合物、芳香族炭化水素化合物又は脂環式炭化水素化合物であっても、極性溶媒と組み合わせることにより使用することができる。そのような組み合わせとして、具体的には、ヘキサンとTHF、トルエンとTHFの組み合わせを例示することができる。
【0014】
本発明において用いられる重合体アニオンと反応しない有機アルカリ金属は、重合体アニオンと何らかの反応をすることにより重合体アニオンを失活又は不活性化させることがなく、また、重合体アニオンを失活させる原因となる物質と反応することができれば、特に制限されない。具体的には、重合体アニオンを生成させるために用いられた有機アルカリ金属を例示することができ、例えば、ポリスチレンアニオンであればアルキルリチウムを具体的に例示することができる。なお、重合体アニオンと反応するとは、重合体アニオンを失活または他の物質に変換する場合を含み、他の物質とは、金属アート錯体のような錯体も含むものとする。
【0015】
重合体アニオンと反応しない有機アルカリ金属としては、アルキルリチウム、アリールリチウム、アラルキルリチウム、アルキルナトリウム、アリールナトリウム、アラルキルナトリウム、アルキルカリウム、アリールカリウム、アラルキルカリウム、アルキルセシウム、アリールセシウム、アラルキルセシウム等が挙げられ、アルキルリチウムが好ましい。
アルキルリチウムとしては、メチルリチウム、エチルリチウム、n−プロピルリチウム、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、t−ブチルリチウム等を例示することができ、好ましくはn−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウムである。
重合体アニオンを製造するために用いた重合開始剤と、重合体アニオンと反応しないアルキルリチウム等の有機アルカリ金属は、同一の化合物であってもよいし、異なる化合物であってもよい。
【0016】
工程(A)において用いられる、重合体アニオンと反応しない有機アルカリ金属の使用量は、重合体アニオンの失活を抑えられれば特に制限されないが、通常0.01〜10当量、好ましくは0.3〜3当量である。この範囲の該有機アルカリ金属を添加することによって、反応系内のアニオン活性種を著しく安定化することができる。
【0017】
工程(A)後、次の工程(B)との間に、又は工程(B)と並行して、生成した重合体をサンプリングして重合体の分子量を測定し、追加する単量体の量を正確に計算して添加量を決定することができる。また、分子量の測定を行うことなく、いったん休止する必要のある場合にも、本発明の方法を採用することができる。
【0018】
〔工程(B)〕
工程(B)において、上記有機アルカリ金属が有する重合性単量体の重合開始能力を不活性化させる化合物(以下化合物(B)と略すことがある)としては、化合物(B)そのものが、または化合物(B)と該有機アルカリ金属とが反応または相互作用して得られる化合物が、後に添加する単量体の重合を阻害する物質を補足できる能力を有していることが必要である。
【0019】
化合物(B)としては、有機マグネシウム、有機亜鉛または有機アルミニウム等があげられ、ジアルキルマグネシウム、トリアルキルアルミニウム、ジアルキル亜鉛が好ましく、ジ低級アルキルマグネシウム、トリ低級アルキルアルミニウム、ジ低級アルキル亜鉛がより好ましい。
上記の低級アルキルとは、C1〜8アルキル基を意味する。
ジ低級アルキルマグネシウムとして具体的には、ジ−n−ブチルマグネシウム、ジ−t−ブチルマグネシウム、ジ−s−ブチルマグネシウム、n−ブチル−s−ブチルマグネシウム、n−ブチル−エチルマグネシウム、n−ブチル−n−オクチルマグネシウム等を例示することができ、特にジ−n−ブチルマグネシウムを好ましく例示することができる。
ジ低級アルキルアルミニウムとして具体的には、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリ−n−プロピルアルミニウム、トリ−n−ブチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリ−n−ヘキシルアルミニウム、トリ−n−オクチルアルミニウム等を例示することができる。
ジ低級アルキル亜鉛として具体的には、ジメチル亜鉛、ジエチル亜鉛、ジ−n−プロピル亜鉛、ジイソプロピル亜鉛、ジ−n−ブチル亜鉛、ジイソブチル亜鉛、ジ−n−ヘキシル亜鉛等を例示することができ、特にジエチル亜鉛を好ましく例示することができる。
化合物(B)は、工程(A)において添加される有機アルカリ金属の種類、工程(C)において添加される単量体の種類によって適宜選択することができるが、例えば、工程(A)において添加される有機アルカリ金属がアルキルリチウム化合物であり、工程(C)において添加された単量体がスチレンの場合、ジ低級アルキルマグネシウムまたはジ低級アルキル亜鉛が好ましく、ジ−n−ブチルマグネシウムまたはジエチル亜鉛がより好ましい。
化合物(B)の使用量は、重合に影響しない範囲内で任意に使用できる。具体的には、工程(A)で添加した重合体アニオンと反応しない有機アルカリ金属1モルに対して化合物(B)を1モル当量以上20モル当量以下であるのが好ましい。1モルより小さい場合には、二段目に重合する単量体が残存する重合体アニオンと反応しない有機アルカリ金属と反応して単一な重合体を得ることができなくなる。従って、重合体製造の際に分子量や分子量分布が制御された重合体を安定的に再現性よく製造できなくなる。20モル当量より大きい場合には、重合反応に、成長速度が著しく低下する場合がある。
【0020】
〔工程(C)〕
工程(C)において添加する、単量体としては、工程(A)で得られた重合体アニオンに対して反応性を有するアニオン重合性不飽和結合を有する化合物である限り特に限定されないが、具体的には、前述のスチレン系単量体、共役ジエン系単量体等を好ましく例示することができ、これらは一種単独でまた二種以上混合して用いることができる。工程(C)において添加する単量体と、重合体アニオンを製造する際に用いられたアニオン重合性不飽和結合を有する化合物は、同一の化合物であってもよいし、異なる化合物であってもよい。
従って、本発明の製造方法は、単独重合体または共重合体の製造にも適用することが可能である。
工程(C)において用いられる単量体の重合溶媒に対する濃度は、特に制限されないが、通常1〜40重量%の範囲であり、特に2〜15重量%の範囲が好ましい。
工程(C)における、重合温度は、移動反応や停止反応などの副反応が起こらず、単量体が消費され重合が完結する温度範囲であれば特に制限されないが、−70℃以上、−20℃以下の温度範囲で行われることが好ましい。
【0021】
工程(C)後、再度工程(A)〜(C)を、複数回、その都度分子量の測定を行いながら繰り返し行うことにより、より正確に分子量を制御することができる。
【0022】
〔その他〕
本発明においては、必要に応じて添加剤を重合開始時、または、重合中に添加することができる。そのような添加剤として、具体的には、ナトリウム、カリウム、バリウム、マグネシウムの硫酸塩、硝酸塩、ホウ酸塩などの鉱酸塩やハロゲン化物を例示することができ、より具体的にはリチウムやバリウムの塩化物、臭化物、ヨウ化物や、ホウ酸リチウム、硝酸マグネシウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、などを挙げることができるが、これらの中でも、リチウムのハロゲン化物、例えば塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウムまたはフッ化リチウム、特に塩化リチウムを使用するのが好ましい。
また、添加剤として、チオールのアルカリ金属塩を添加することができる。そのような添加剤としては、重合溶媒に可溶であれば特に制限されるものではなく、チオールのアルカリ金属塩におけるアルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム等を挙げることができ、リチウムが好ましい。チオールのアルカリ金属塩におけるチオール類としては、脂肪族チオール類、芳香族チオール類が挙げられ、芳香族チオール類が好ましく、窒素芳香族チオール類がより好ましい。
具体的には、エタンチオール、プロパンチオール、ベンジルメルカプタン、2−メルカプトエチルエーテル及びシクロヘキシルチオールなどのC1〜C18のアルキルチオールやシクロアルキルチオール、メルカプトエタノールやp−メルカプトフェノール等の水酸基を含有するチオール、メルカプト酢酸メチルやメルカプトプロピオン酸エチルなどのカルボン酸エステルを含有するチオール、ベンゼンチオールやトルエンチオール及びナフタレンチオールなどの芳香族チオール、2−メルカプト−1−メチルイミダゾール、メルカプトピリジン、メルカプトチアゾリン、メルカプトベンズチアゾリン、メルカプトベンズオキサゾール及びメルカプトピリミジンなどの含窒素芳香族チオールなどを挙げることができる。チオールのアルカリ金属塩は、2種以上併用することもできる。
以下、実施例を用いて本発明を詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例1】
【0023】
窒素雰囲気下、2−メルカプトチアゾリン(0.1200g、1.01mmol)とテトラヒドロフラン(300g)中に、室温でn−ブチルリチウム(1.80g、4.00mmol(n−ヘキサン溶液1.60mol/L))を加え、30分間攪拌した。その後、−50℃に冷却し、n−ブチルリチウム溶液(1.22g、3.00mmol(n−ヘキサン溶液1.60mol/L))を加えた。テトラヒドロフラン(7.5g)にp−t−ブトキシスチレン(15.85g、90mmol)を加えた溶液を7分間滴下し、滴下終了後10分間攪拌した。反応系内の溶液の一部をサンプリングし、サンプルAとした。その後、n−ブチルリチウム(0.92g、2.00mmol(n−ヘキサン溶液1.60mol/L))を加え、1時間攪拌した。
その後、ジブチルマグネシウムヘキサン溶液(1.68g、2mmol)を加えた後、反応系内の溶液の一部をサンプリングし、サンプルBとした。テトラヒドロフラン(22.5g)にp−t−ブトキシスチレン(47.54g、270mmol)を加えた溶液を15分間滴下し、15分間攪拌後、メタノール(2.74g)でキリングした。溶液の一部をサンプリングし、サンプルCとした。
サンプルA、B、Cをガスクロマトグラフィーにて分析すると、サンプルA、B、Cいずれにも、p−t−ブトキシスチレンは観測されなかった。
サンプルA、B、CをGPC測定すると、サンプルA,Bは分子量(Mn)6400、分散度=1.21の重合体が生成していた。サンプルCは分子量(Mn)18500、分散度=1.08の重合体が生成していた。また、サンプルCには、分子量(Mn)が6400の重合体は含まれておらず、分子量(Mn=18500)の約2倍の分子量を有する重合体も含まれていなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合性単量体を非プロトン性極性溶媒中重合開始剤の存在下でアニオン重合して重合体を製造する方法において、
(A)重合体アニオンが存在する非プロトン性極性溶媒溶液に、該重合体アニオンと反応しない有機アルカリ金属を添加する工程、
(B)該有機アルカリ金属と反応し、該有機アルカリ金属が有する重合性単量体の重合開始能力を不活性化させる化合物を添加する工程、及び、
(C)重合体アニオンが存在する非プロトン性極性溶媒溶液に、工程(A)における重合性単量体と同一の又は異なる重合性単量体を添加して重合体鎖を伸長する工程
を含むことを特徴とする重合体の製造方法。
【請求項2】
該重合体アニオンと反応しない有機アルカリ金属が、該重合体アニオンを製造するために用いた重合開始剤と同じ化合物であることを特徴とする請求項1に記載の重合体の製造方法。
【請求項3】
該重合体アニオンと反応しない有機アルカリ金属が、アルキルリチウムであることを特徴とする請求項1又は2に記載の重合体の製造方法。
【請求項4】
重合性単量体が、スチレン系単量体または共役ジエン系単量体であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の重合体の製造方法。
【請求項5】
非プロトン性極性溶媒が、エーテル系溶媒であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の重合体の製造方法。
【請求項6】
エーテル系溶媒が、テトラヒドロフランであることを特徴とする請求項5に記載の重合体の製造方法。
【請求項7】
該有機アルカリ金属と反応し、該有機アルカリ金属が有する重合性単量体の重合開始能力を不活性化させる化合物が、有機マグネシウム化合物、有機亜鉛化合物、及び有機アルミニウム化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の重合体の製造方法。
【請求項8】
工程(A)〜(C)を複数回繰り返すことを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の重合体の製造方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−122046(P2011−122046A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−280373(P2009−280373)
【出願日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【出願人】(000004307)日本曹達株式会社 (434)
【Fターム(参考)】