説明

アニオン重合開始剤の製造方法

【課題】多官能アニオン重合開始剤の製造後も長期間にわたって安定であり、長期間保存されたアニオン重合可能な単量体を用いて所望の重合体を製造しても、安定した分子量の重合体を得る為の極めて有用なアニオン重合開始剤の製造方法を提供する。
【解決手段】1分子中に2個以上のエーテル結合を有する化合物の存在下、反応最高温度が少なくとも75℃以上で、有機リチウム化合物を用いてリビングアニオン重合可能な単量体及びポリビニル芳香族系単量体を共重合する製造方法によって、長期期間の貯蔵安定に優れる多官能アニオン重合開始剤を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は工業的に利用可能な安定したアニオン重合開始剤の製造方法に関し、更に詳しくは、共役ジエン系単量体及び又は芳香族ビニル系単量体のアニオン重合に適した重合用開始剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機リチウム化合物でブタジエンやイソプレン、スチレン等の単量体をリビングアニオン重合して得られた重合体は、熱可塑性エラストマー、タイヤ用ゴム、耐衝撃性ポリスチレン用ゴムやマスABS用ゴムなど、様々な分野で工業的に用いられている。
従来、このようなポリブタジエンやスチレンーブタジエン共重合体を製造する際、重合開始剤としては、n−ブチルリチウムやsec−ブチルリチウム等のモノ有機リチウム化合物が一般的に使用されている。また、モノ有機リチウム化合物とジビニルベンゼン等のポリビニル芳香族化合物の二者を反応して得られる多官能アニオン重合開始剤も知られている。
【0003】
特許文献1にはジビニルベンゼンとsec−ブチルリチウムを20〜50℃で反応させた多官能アニオン重合開始剤が報告されている。
また、テトラヒドロフランを含む溶媒中、ブタジエンとジビニルベンゼンの混合物をn−ブチルリチウムと75℃で反応させて多官能アニオン重合開始剤を製造する方法も提案されており、この触媒を使用して製造された共役ジエン系ゴムを耐衝撃性ポリスチレン用ゴムとして用いた場合、耐衝撃性と外観特性に優れた耐衝撃性スチレン系樹脂となることが知られている(特許文献2参照)。
また、ブタジエンとジビニルベンゼンの混合物をn−ブチルリチウムと反応させて得られた多官能アニオン重合開始剤を用いて共役ジエン系単量体の重合を行い、その後に、グリシジルアミノ基等の変性剤によって変性することにより、官能化された重合体末端数を増やして、ジエン系ゴムとシリカとにより構成される組成物の性能、すなわちシリカ分散性を向上させ、ヒステリシスロスを低減化させる技術も提案されている(特許文献3参照)。このように多官能アニオン重合開始剤は、様々な分野での応用が期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭43−103690
【特許文献2】特開平10−158315
【特許文献3】特開2006−306962
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1〜3の製造方法で得られた多官能アニオン重合開始剤は貯蔵安定性が悪く、保存期間が長い重合開始剤を用いて重合した重合体は分子量が上昇し、安定した分子量の重合体が製造できないという問題がある。
そこで本発明は、多官能アニオン重合開始剤の製造後も長期間にわたって安定であり、長期間保存されたアニオン重合可能な単量体を用いて所望の重合体を製造しても、安定した分子量の重合体を製造することが可能な極めて有用なアニオン重合開始剤の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは前記課題を解決するため、アニオン重合開始剤を特定の重合温度で、特定の化合物の存在下で、重合する製造方法が上記従来技術の課題を解決できることを見出し、本発明をなすに至った。
すなわち、本発明は下記の通りである。
[1]
有機リチウム化合物を用い、リビングアニオン重合可能な単量体及びポリビニル芳香族系単量体を共重合して得られるアニオン重合開始剤の製造方法において、1分子中に2個以上のエーテル結合を有する化合物の存在下、反応最高温度が少なくとも75℃以上で重合することを特徴とするアニオン重合開始剤の製造方法。
[2]
更に1分子中に1個のエーテル結合を有する化合物が重合溶媒中に存在することを特徴とする[1]に記載のアニオン重合開始剤の製造方法。
【0007】
[3]
1分子中に2個以上のエーテル結合を有する化合物([A])と有機リチウム化合物([Li])のモル比[A]/[Li]が0.001〜3であることを特徴とする[1]又は[2]に記載のアニオン重合開始剤の製造方法。
[4]
1分子中に1個のエーテル結合を有する化合物が重合溶媒に対して1〜1000ppm存在することを特徴とする[2]又は[3]のに記載のアニオン重合開始剤の製造方法。
[5]
[1]〜[4]のいずれかに記載のアニオン重合開始剤を用いて共役ジエン系単量体及び/又は芳香族ビニル単量体を重合する共役ジエン系重合体又は芳香族ビニル一共役ジエン系共重合体の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の製造方法によって得られたアニオン重合開始剤は、製造後も長期間にわたって安定であることから、長期間保存されたアニオン重合可能な単量体を用いて所望の重合体を製造しても、安定した分子量の重合体を製造することが可能な極めて有用なアニオン重合開始剤を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」と言う。)について説明するが、本発明は以下に示す形態に限定されるものではない。
本発明のアニオン重合開始剤の製造は、アニオン重合可能な単量体及びポリビニル芳香族系単量体の混合物を、有機リチウム化合物と1分子中に2個のエーテル結合を有する化合物の存在下で反応させる方法で製造され、その反応生成物が、共役ジエン系単量体や芳香族ビニル系単量体等のアニオン重合開始剤として使用される。
【0010】
本発明のアニオン重合開始剤の製造方法は、炭化水素溶媒、もしくは1分子内に1個のエーテル結合を有する化合物を含む炭化水素溶媒中、アニオン重合可能な単量体及びポリビニル芳香族系単量体の混合物を、有機リチウム化合物と1分子中に2個のエーテル結合を有する化合物の存在下、特定の温度で重合させることで製造される。
本発明の製造方法によると、ポリビニル芳香族系単量体のビニル基の反応が促進され、アニオン重合開始剤に存在するポリビニル芳香族系単量体に由来する不安定なビニル基の量が比較的少なくなる。したがって、本発明の方法で製造されたアニオン重合開始剤は、長期間に亘って安定であり、この長期間保存された開始剤を用いて重合してもポリマーの分子量が変動することなく安定した重合体を製造することができる。
【0011】
本発明のアニオン重合開始剤の製造に用いる有機リチウム化合物としては、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、tert−ブチルリチウム、n−プロピルリチウム、iso−プロピルリチウム、ベンジルリチウム等のモノ有機リチウム化合物、1,4−ジリチオブタン、1,5−ジリチオペンタン、1,6−ジリチオヘキサン、1,10−ジリチオデカン、1,1−ジリチオジフェニレン、ジリチオポリブタジエン、ジリチオポリイソプレン、1,4−ジリチオベンゼン、1,2−ジリチオ−1,2−ジフェニルエタン、1,4−ジリチオ−2−エチルシクロヘキサン、1,3,5−トリリチオベンゼン、1,3,5−トリリチオー2,4,6−トリエチルベンゼン等の多官能性有機リチウム化合物、ポリスチリルリチウム、ポリブタジエニルリチウム等のリビングアニオン重合体のリチウム化合物があるが、好ましくは、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウムが用いられる。
【0012】
リビングアニオン重合可能な単量体としては、1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、3−メチル−1,3−ペンタジエン、1,3−ヘプタジエン、1,3−シクロヘキサジエン等の共役ジエン系単量体や、スチレン、p−メチルスチレン、α−メチルスチレン、ビニルエチルベンゼン、ビニルキシレン、ビニルナフタレン、ジフェニルエチレン等のスチレン系単量体が上げられ、一種又は二種以上を組み合わせて用いられる。好ましい単量体としては、1,3−ブタジエン、イソプレン、スチレン等が挙げられる。
【0013】
ポリビニル芳香族単量体としては、o,m及びp−ジビニルベンゼン、o,m及びp−ジイソプロペニルベンゼン、1,2,4−トリビニルベンゼン、1,2−ビニル−3,4−ジメチルベンゼン、1,3−ジビニルナフタレン、1,3,5−トリビニルナフタレン、2,4−ジビニルビフェニル、3,5,4’−トリビニルビフェニル、1,2−ジビニル−3,4−ジメチルベンゼン、1,5,6−トリビニル−3,7−ジエチルナフタレン等であり、一種または二種以上組み合わせて用いることかできる。特にジビニルベンセン、ジイソプロペニルベンゼンが好ましいが、ジビニルベンゼン、ジイソプロペニルベンゼンには、o−,m−,p−の異性体があり、これら異性体の混合物であるジビニルベンゼン、ジイソプロペニルベンゼンでも事実上満足される。
【0014】
ポリビニル芳香族単量体([V])と有機リチウム化合物([Li])のモル比([V]/[Li])は0.01〜0.5が好ましく、更に好ましくは0.03〜0.4の範囲である。ポリマーの機械的特性の点から[V]/[Li]が0.01以上が好ましい。アニオン重合開始剤の溶媒への溶解性の点から0.5以下が好ましい。
1分子中に2個以上のエーテル結合を有する化合物としては、ビス(2−オキソラニル)エタン、2,2−ビス(2−オキソラニル)プロパン、1,1−ビス(2−オキソラニル)エタン、2,2−ビス(2−オキソラニル)ブタン、2,2−ビス(5−メチルー2−オキソラニル)プロパン、2,2−ビス(3,4,5−トリメチル−2−オキソラニル)プロパン、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、トリエチレングルコール・ジメチルエーテル、テトラエチレングリコール・ジメチルエーテル、ジメトキシベンゼン等が挙げられ、一種又は二種以上を組み合わせて用いられる。好ましい1分子中に2個以上のエーテル結合を有する化合物としては、2,2−ビス(2−オキソラニル)プロパンが挙げられる。
【0015】
1分子中に2個以上のエーテル結合を有する化合物([A])と有機リチウム化合物([Li])のモル比([A]/[Li])は0.001〜3が好ましく、更に好ましくは0.005〜1の範囲であり、更により好ましくは0.01〜0.5の範囲である。0.001未満の場合は、アニオン重合開始剤の貯蔵安定性とポリマーの物性(分子量とムーニー粘度等)の変動を抑制する観点から0.001以上が好ましい。また触媒製造時の反応速度を早めず、温度制御を容易にする観点から3以下が好ましい。
【0016】
本発明のアニオン重合開始剤の製造は、反応を昇温下で実施する方法や定温で反応する方法等が採用される。「定温」とは±10℃の範囲で上下する温度を含むものとする。昇温下で反応する方法においては、通常、反応開始温度を10〜60℃とし、重合終了温度、すなわち「反応最高温度」を少なくとも75℃以上にすることが好ましい。更に好ましくは77〜120℃の範囲である。
また、できる限り定温で反応する方法においては、その反応最高温度を少なくとも75℃以上にすることが好ましい。更に好ましくは77〜120℃の範囲である。
75℃以上の場合は、ポリビニル芳香族系単量体のビニル基の反応が促進され、アニオン重合開始剤に存在するポリビニル芳香族系単量体に由来する不安定なビニル基の量が少なくなり、アニオン重合開始剤の安定性が向上するので好ましい。活性リチウムの失活抑制の観点から120℃以下が好ましい。
貯蔵安定性に優れたアニオン重合開始剤を製造する為には、少なくとも75℃以上の温度で1分以上の時間で反応させることが好ましい。更に好ましくは10分以上である。
【0017】
本発明の製造方法では、更に1分子中に1個のエーテル結合を有する化合物が存在してもよい。1子中に2個以上のエーテル結合を有する化合物及び1分子中に1個のエーテル結合を有する化合物を併用することで、アニオン重合開始剤を製造する際にポリビニル芳香族系単量体のビニル基の反応が更に促進され、重合開始剤に存在するポリビニル芳香族系単量体に由来する不安定なビニル基の量が非常に少なくなる。このような製造方法とすることで、アニオン重合開始剤は、長期間に亘って更に安定となり、長期間保存されたアニオン重合開始剤を用いて重合体を重合してもポリマーの分子量が変動することなく安定した重合体を製造することができる。
【0018】
1分子中に1個のエーテル結合を有する化合物としては、テトラヒドロフランのような環状エーテル、ジメチルエーテル、エチルメチルエーテル、ジエチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテルのような脂肪族エーテルおよび脂環エーテル等が挙げられ、一種又は二種以上を組み合わせて用いられる。好ましい1分子中に1個のエーテル結合を有する化合物としては、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテルが挙げられる。
1分子中に1個のエーテル結合を有する化合物は、反応開始前や反応途中、反応終了後のうち任意の時間に添加することができる。また1分子中に1個以上のエーテル結合を有する化合物は1〜数回に分けて逐次的に供給することも可能である。
1分子中に1個のエーテル結合を有する化合物の濃度は、溶媒に対して1〜1000ppmの範囲であり、好ましくは10〜500ppmの範囲であり、更に好ましくは50〜300ppmの範囲である。アニオン重合開始剤の安定性を改良する効果を著しく発現させる観点から1ppm以上が好ましい。また1000ppmを超えて使用すると、重合溶媒の回収工程で該極性化合物と重合溶媒の分離を容易にする観点から1000ppm以下が好ましい。
【0019】
本発明のアニオン重合開始剤の調製に用いる炭化水素溶媒としては、ブタン、ペンタン、ノルマルヘキサン等の脂肪族炭化水素、シクロペンタン、シクロヘキサン等の脂環族炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン等の芳香族炭化水素が用いられ、1種又は2種以上を任意に組み合わせても良い。好ましい例としては、ヘキサン、シクロヘキサンが挙げられる。
また本発明の製造方法により調製されあアニオン重合開始剤は通常50℃以下、好ましくは30度以下、更に好ましくは20℃以下で保存することが好ましい。
本発明の製造方法により得られたアニオン重合開始剤の分子量分布(Mw/Mn)は、1.1〜3.2の範囲が好ましく、更に好ましくは1.1〜2.4の範囲である。3.2を超えるとアニオン重合開始剤の貯蔵安定性が悪くなり好ましくない。
【0020】
本発明で製造されたアニオン重合開始剤は、少なくとも1種類の共役ジエン系単量体、又は少なくとも1種類の共役ジエン系単量体と少なくとも1種類の芳香族ビニル系単量体とを炭化水素溶媒中、溶液重合させる開始剤として非常に有用である。
共役ジエン系単量体の例としては、1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、3−メチル−1,3−ペンタジエン、1,3−ヘプタジエン、1,3−ヘキサジエン等であり、一種又は二種以上用いられる。好ましい単量体としては、1,3−ブタジエン、イソプレンが挙げられる。また、芳香族ビニル系単量体の例としては、スチレン、p−メチルスチレン、α−メチルスチレン、3,5−ジメチルスチレン、ビニルエチルベンゼン、ビニルキシレン、ビニルナフタレン等であり、一種又は二種以上用いられる。特にスチレンが好ましい。
溶液重合で用いる炭化水素溶媒としては、例えば、飽和炭化水素、芳香族炭化水素等の炭化水素系溶媒が挙げられる。具体的には、ブタン、ペンタン、ヘキサン等の脂肪族炭化水素、シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロペンタン、メチルシクロヘキサン等の脂環族炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素及びそれらの混合物からなる炭化水素等が挙げられる。好ましい例としては、ヘキサン、シクロヘキサンが挙げられる。
【0021】
本発明の製造方法で製造したアニオン重合開始剤を用いて共役ジエン系重合体又は芳香族ビニル−共役ジエン系共重合体の製造方法としては、本発明のアニオン重合開始剤を調製し、その後共役ジエン系単量体及び/又は芳香族ビニル単量体を添加し重合反応を開始して製造する方法、又は共役ジエン系単量体及び/又は芳香族ビニル単量体の入った反応器に、本発明のアニオン重合開始剤を反応器に添加し、重合反応を開始して製造する方法等が用いられる。
芳香族ビニル−共役ジエン系共重合体は、ランダム共重合体であってもブロック共重合体であってもよい。ランダム共重合体としては、ブタジエン−イソプレンランダム共重合体、ブタジエン−スチレンランダム共重合体、イソプレン−スチレンランダム共重合体、ブタジエン−イソプレン−スチレンランダム共重合体などが挙げられる。共重合体鎖中の各単量体の組成分布としては、統計的ランダムな組成に近い完全ランダム共重合体、もしくはテーパー状に組成に分布があるテーパーランダム共重合体などがある。共役ジエンの結合様式、すなわち1,4−結合と1,2−結合などの組成は均一であっても分布があってもよい。
【0022】
ブロック共重合体としては、ブロックが2個からなる2型ブロック共重合体、3個からなる3型ブロック共重合体、4個からなる4型ブロック共重合体などがある。例えば、スチレン等の芳香族ビニル化合物からなるブロックをSで、ブタジエンやイソプレン等の共役ジエン化合物からなるブロック及び/又は芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物との共重合体からなるブロックをBであらわすと、S−B2型ブロック共重合体、S−B−S3型ブロック共重合体、S−B−S−B4型ブロック共重合体などであらわされる。上式において、各ブロックの境界は必ずしも明瞭に区別される必要はない。ブロックBが芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物との共重合体の場合、ブロックB中の芳香族ビニル化合物は均一に分布していても、またはテーパー状に分布していてもよい。またブロックBには、芳香族ビニル化合物が均一に分布している部分及び/又はテーパー状に分布している部分がそれぞれ複数個共存していてもよい。またブロックBには、芳香族ビニル化合物含有量が異なるセグメントが複数個共存していてもよい。共重合体中にブロックS、ブロックBがそれぞれ複数存在する場合、それらの分子量や組成等の構造は同一でも、異なっていても良い。
【0023】
ブロック共重合体の例として、より一般的には、例えば次の一般式で表されるような構造が挙げられる。
(S−B)n、S−(B−S)n、B−(S−B)n、(S−B)m−X
[(S−B)n]m−X、[(B−S)n−B]m−X、[(S−B)n−S]m−X
(nは1以上の整数、好ましくは1〜5の整数である。mは2以上の整数、好ましくは2〜11の整数である。Xはカップリング剤の残基又は多官能開始剤の残基を示す。また、Xに結合しているポリマー鎖の構造は同一でも異なっていても良い。)
【0024】
本発明のアニオン重合開始剤を用いて製造された重合体は、変性剤によって重合活性末端に水酸基、エポキシ基、アミノ基、アルコキシ基、カルボキシル基等の官能基を導入することができる。このような変性共役ジエン系(共)重合体と無機充填剤、特にシリカ系無機充填剤を混合し、さらに加硫物とした場合、低ヒステリシスロス性、実用上十分な耐摩耗性や破壊強度に優れる共役ジエン系ゴム組成物を得ることができる。
【実施例】
【0025】
以下、本発明を実施例に基づいて説明する。ただし、これらにより本発明は何ら制限を受けるものではない。なお、実施例・比較例に適用した物性の測定方法、評価方法について下記に示す。
(1)アニオン重合開始剤の分子量および分子量分布
測定機器 Waters社製 HPLC Waters717
溶媒 クロロホルム
カラム 昭和電工社製 Shodex K−803L 2本
カラム温度 35℃
送液流量 1.0ml/min
試料注入量 0.1ml
(2)SBRのムーニー粘度
JIS K 6300によって100℃、予熱1分で4分後の粘度を測定した。
【0026】
(3)SBRの分子量
測定機器 Waters社製 HPLC Waters717
溶媒 テトラヒドロフラン
カラム 昭和電工社製 Shodex K−803L 2本
カラム温度 35℃
送液流量 0.35ml/min
試料注入量 40μl
次に、実施例及び比較例で使用したアニオン重合開始剤を下記に示す。
【0027】
<アニオン重合開始剤の調製>
[実施例1]
内容積10Lの撹拌装置及びジャケット付きのオートクレーブを洗浄乾燥し、窒素置換後、第1表に示した条件で、シクロヘキサン3.7kg、乾燥した1,3−ブタジエン553g、1分子中に2個以上のエーテル結合を有する化合物である2,2−ビス(2−オキソラニル)プロパン(BOP)8.6gとジビニルベンゼン15.1gを加え、次いでn−ブチルリチウムを74.4g加えて、40℃にて反応を開始し、反応最高温度が80℃で20分反応し、調整した。第1表の条件で調製したアニオン重合開始剤は、シクロヘキサンに可溶でありゲルは全くなかった。用いたジビニルベンゼンは、異性体混合物57重量%(m−ジビニルベンゼン=40重量%、p−ジビニルベンゼン=17重量%)を含有し、残部がエチルビニルベンゼン=44重量%からなる市販のジビニルベンゼン(新日鐵化学社製 ジビニルベンゼン570)を用いた。
【0028】
[実施例2〜6、比較例3]
ジビニルベンゼン及びBOPの添加量、反応最高温度を表1で示した条件で、それ以外は実施例1と同様の条件で重合させた。
【0029】
[実施例7]
内容積10Lの撹拌装置及びジャケット付きのオートクレーブを洗浄乾燥し、窒素置換後、表1に示した条件で、シクロヘキサン3.7kg、1分子中に1個のエーテル結合を有する化合物であるテトラヒドロフラン(THF)、乾燥した1,3−ブタジエン553g、2,2−ビス(2−オキソラニル)プロパン(BOP)8.6g、ジビニルベンゼン22.7gを加え、次いでn−ブチルリチウムを74.4g加えて、40℃にて反応を開始し、反応最高温度が83℃で15分反応し、調整した。用いたジビニルベンゼンは、異性体混合物57重量%(m−ジビニルベンゼン=40重量%、p−ジビニルベンゼン=17重量%)を含有し、残部がエチルビニルベンゼン=44重量%からなる市販のジビニルベンゼン(新日鐵化学社製 ジビニルベンゼン570)を用いた。
【0030】
[実施例8,9]
ジビニルベンゼン及びBOPの添加量、反応最高温度を表1で示した条件で、それ以外は実施例7と同様の条件で重合させた。
【0031】
[比較例1]
内容積10Lの撹拌装置及びジャケット付きのオートクレーブを洗浄乾燥し、窒素置換後、表1に示した条件で、シクロヘキサン3.7kg、乾燥した1,3−ブタジエン553g、ジビニルベンゼン30.2gを加え、次いでn−ブチルリチウムを74.4g加え、40℃にて反応を開始し、反応最高温度が77℃で30分反応し、調整し重合した。用いたジビニルベンゼンは、異性体混合物57重量%(m−ジビニルベンゼン=40重量%、p−ジビニルベンゼン=17重量%)を含有し、残部がエチルビニルベンゼン=44重量%からなる市販のジビニルベンゼン(新日鐵化学社製 ジビニルベンゼン570)を用いた。
【0032】
[比較例2]
内容積10Lの撹拌装置及びジャケット付きのオートクレーブを洗浄乾燥し、窒素置換後、第1表に示した条件で、シクロヘキサン3.9kg、テトラヒドロフラン、乾燥した1,3−ブタジエン553g、ジビニルベンゼン30.2gを加え、次いでn−ブチルリチウム74.4gを加え、40℃で開始し、反応最高温度が79℃で25分反応し、調整した。
用いたジビニルベンゼンは、異性体混合物57重量%(m−ジビニルベンゼン=40重量%、p−ジビニルベンゼン=17重量%)を含有し、残部がエチルビニルベンゼン=44重量%からなる市販のジビニルベンゼン(新日鐵化学社製 ジビニルベンゼン570)を用いた。
【0033】
【表1】

【0034】
上述した各アニオン重合開始剤を用いて下記の方法でSBRを製造した。
【0035】
<SBRの製造>
[実施例10〜18、比較例4〜6]
内容積10Lの撹拌装置及びジャケット付きのオートクレーブを洗浄乾燥し、窒素置換後、予め精製、乾燥した1,3ーブタジエン592gとスチレン208g、シクロヘキサン5kgを加え、次いで1,2ービニル調整剤として2,2−ビス(2−オキソラニル)プロパンを1.47g添加し、更に表1に示した、調整後2時間25℃の環境下で保管した各アニオン重合開始剤0.54g(ノルマルブチルリチウム換算量)を加えて、52℃にて重合を開始した。重合終了後、1−[3−(トリエトキシシリル)プロピル]−4−メチル−ピペラジンを1.71g添加し、10分攪拌した後、メタノールを1ml添加してリビングポリマーを完全に失活させた。こうして得られたポリマー溶液に安定剤として、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートをポリマー100重量部当たり0.375重量部、4,6−ビス(オクチルチオメチル)−o−クレゾールをポリマー100重量部当たり0.15重量部添加し、スチームストリッピングすることにより溶媒を除去し、脱水後、引き続き熱ロール(110℃)により10分乾燥させ、SBRを得た。調整後3日間25℃の環境下で保管した各アニオン重合開始剤を用いて、同様な条件でSBRを重合した。得られたSBRの重量平均分子量(Mw)とムーニー粘度(ML)を表2に示す。
【0036】
【表2】

【0037】
表2の比較例4〜6のSBRは重量平均分子量(Mw)の上昇が5万以上であり、明らかにアニオン重合開始剤(J〜L)が2時間後〜3日後に変化しているのに対し、実施例10〜18のSBRは、2時間後のアニオン重合開始剤を用いた場合と3日後のアニオン重合開始剤を用いた場合を比較すると、重量平均分子量の上昇が3万以下であり、アニオン重合開始剤(A〜I)が安定していることが確認された。更にテトラヒドロフラン(THF)及び2,2−ビス(2−オキソラニル)プロパン(BOP)を添加し、温度を75℃以上にした実施例16〜18は上記の重量平均分子量の上昇が1万以下であり、アニオン重合用剤(G〜I)が非常に安定していることが確認された。
また表2に示すとおり、比較例4〜6のSBRのムーニー粘度の上昇は15ポイント以上であるのに対し、実施例10〜18のSBRは6ポイント以下であり、アニオン重合開始剤(A〜I)が安定していることが、ムーニー粘度からも確認された。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明のアニオン重合開始剤を用いて製造された重合体は、耐衝撃性スチレン系樹脂の強靱化剤、粘着特性に優れるホットメルト粘着剤組成物の材料、アスファルトとブレンドすることにより、道路舗装用、防水用、防錆用、自動車下地被覆用、ルーフイング用、パイプ被覆用、目地用途などに利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機リチウム化合物を用い、リビングアニオン重合可能な単量体及びポリビニル芳香族系単量体を共重合して得られるアニオン重合開始剤の製造方法において、1分子中に2個以上のエーテル結合を有する化合物の存在下、反応最高温度が少なくとも75℃以上で重合することを特徴とするアニオン重合開始剤の製造方法。
【請求項2】
更に1分子中に1個のエーテル結合を有する化合物が重合溶媒中に存在することを特徴とする請求項1に記載のアニオン重合開始剤の製造方法。
【請求項3】
1分子中に2個以上のエーテル結合を有する化合物([A])と有機リチウム化合物([Li])のモル比[A]/[Li]が0.001〜3であることを特徴とする請求項1又は2に記載のアニオン重合開始剤の製造方法。
【請求項4】
1分子中に1個のエーテル結合を有する化合物が重合溶媒に対して1〜1000ppm存在することを特徴とする請求項2又は3に記載のアニオン重合開始剤の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のアニオン重合開始剤を用いて共役ジエン系単量体及び/又は芳香族ビニル単量体を重合する共役ジエン系重合体又は芳香族ビニルー共役ジエン系共重合体の製造方法。

【公開番号】特開2011−219700(P2011−219700A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−93403(P2010−93403)
【出願日】平成22年4月14日(2010.4.14)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】