説明

アノード支持型ハーフセルおよびその製造方法、ならびに、アノード支持型セル

【課題】アノード支持型ハーフセルの製造方法において、固体電解質膜の貫通孔を低減することができる製造方法を提供する。
【解決手段】アノード支持基板と、前記アノード支持基板上に形成されたアノード層と、前記アノード層上に形成された電解質層とを有するアノード支持型ハーフセルを製造する方法であり、ペースト調製工程、解砕工程、および、成層工程を有しており、前記解砕工程において、グラインドメーターにより計測される凝集物の最大粒子径が10μm以下になるまで解砕することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アノード支持型ハーフセルおよびその製造方法に関するものである。特に、アノード層をスクリーン印刷で形成した後、アノードグリーン層上にスクリーン印刷により電解質層を形成する場合における、電解質層の貫通孔を抑制する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料電池はクリーンエネルギー源として注目されており、その用途は家庭用発電から業務用発電、さらには自動車用発電などを主体にして、急速に改良研究および実用化研究が進められている。
【0003】
固体酸化物形燃料電池の代表的な構造は、平板状固体電解質膜の片面側にアノード電極、他方面側にカソード電極を設けたセルを縦方向に多数積層したスタックが基本となっている。上記のように、燃料電池はアノード電極/固体電解質膜/カソード電極を有するセルと、燃料ガスと空気を分離、流通させるためのセパレータとを交互に多数積層した構造のもので、固体電解質膜には大きな積層荷重がかかるほか、作動温度は700〜1000℃程度で相当の熱ストレスを受けるので、高い強度と耐熱性が要求される。このような要求特性から、固体電解質膜の素材としては主としてジルコニア主体のセラミックシートが使用されており、該セラミックシートの両面にスクリーン印刷などによってアノード電極とカソード電極を形成した自立膜型セルが使用されている。
【0004】
燃料電池の発電性能を高めるには、固体電解質膜を緻密かつ薄肉化することが有効とされている。これは、固体電解質膜には発電源となる燃料ガスと空気の混合を確実に阻止する緻密性と、導電ロスを極力抑えることのできる優れたイオン導電性が求められ、そのためには極力薄肉でかつ緻密質であることが求められるからである。
【0005】
しかしながら、自立膜型セルでは、固体電解質膜を薄肉化するほど、セルを多数積層した場合に積層荷重によって割れを生じやすくなる傾向がある。そこで、固体電解質膜をより薄肉化するために、固体電解質膜のアノード電極側に、アノードおよび固体電解質を支持するアノード支持基板を設けたアノード支持型セルが提案されている。このようなアノード支持型セルの製造方法としては、アノード支持基板上にアノード電極をスクリーン印刷により形成し、その上に固体電解質膜をスクリーン印刷により形成した後、さらにその上にカソード電極をスクリーン印刷により形成する方法を採用することにより、固体電解質膜を一段と薄肉化し、導電ロスをさらに低減させる方法が提案されている。
【0006】
ここで、固体電解質、アノード電極、カソード電極などを構成するセラミック層を形成する技術として、例えば、ペースト中のセラミックス粉末の平均粒径やセラミックス粉末とバインダーとの質量比を調節する技術(特許文献1(請求項1、請求項2)参照);ペーストの粘度を調節する技術(特許文献2(請求項1、段落0011)参照);が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−332273号公報
【特許文献2】特開2001−325973号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のように、アノード支持型セルを採用することにより、固体電解質膜をより薄肉化することができ、導電ロスをさらに低減することができる。しかしながら、固体電解質膜を薄肉化するためには、アノード電極上にスクリーン印刷する電解質用ペーストも、より薄く成膜する必要がある。このように、薄く成膜された電解質ペーストは、焼結する際に貫通孔が発生しやすいという問題がある。
【0009】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、アノード支持型ハーフセルの製造方法において、固体電解質膜の貫通孔を低減することができる製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、アノード支持型セルを製造する際に、固体電解質膜に生じる貫通孔についてさらに研究を進めた。その結果、スクリーン印刷に使用するアノード用ペースト中に原料由来の凝集物が存在すると、成膜後のペースト層にもこの凝集物が残存し、この凝集物がアノード層および電解質層の焼結時にひずみの原因となり、貫通孔が発生することを見出して本発明を完成した。
【0011】
上記課題を解決することができた本発明の製造方法は、アノード支持基板と、前記アノード支持基板に積層されたアノード層と、前記アノード層上(前記アノード支持基板が接している面と反対の面)に積層された電解質層とを有するアノード支持型ハーフセルを製造する方法であり、少なくともセラミックス粉末、溶媒およびバインダーを混合してアノードペーストを調製するペースト調製工程;前記アノードペースト中の凝集物を解砕する解砕工程;および前記アノードペーストを用いて、スクリーン印刷により前記アノード支持基板上にアノードグリーン層を形成する成層工程;スクリーン印刷により前記アノードグリーン層上に電解質グリーン層を形成する成層工程;を有し、前記解砕工程において、グラインドメーターにより計測される凝集物の最大粒子径が10μm以下になるまで解砕することを特徴とする。
【0012】
本発明の製造方法では、アノードグリーン層の形成に用いられるアノードペースト中の凝集物を10μm以下にまで解砕するため、アノード支持基板またはアノード支持基板グリーンシート上に印刷されたアノードペースト中に粒子径10μm超の凝集物が存在しなくなる。従って、アノードグリーン層と電解質グリーン層を共焼成する際に、凝集物に起因して生じる電解質層の貫通孔を抑制することができる。
【0013】
前記解砕工程において、凝集物の解砕は3本ロールミルを用いて行うことが好ましい。3本ロールミルを用いることにより、短時間で効率よく凝集物を解砕することが可能となる。前記3本ロールミルの各ロールの隙間は、1μm以上、10μm以下に設定することが好ましい。
【0014】
本発明には、上記製造方法により得られるアノード支持型ハーフセルおよび、該アノード支持型ハーフセルにカソード層を形成したアノード支持型セルも含まれる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、固体電解質膜の貫通孔を低減したアノード支持型ハーフセルが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】凝集物の最大粒子径とアノード支持型ハーフセルの合格率の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の製造方法は、アノード支持基板と、前記アノード支持基板に積層されたアノード層と、前記アノード層上(前記アノード支持基板が接している面と反対の面)に積層された電解質層とを有するアノード支持型ハーフセルを製造する方法であり、少なくともセラミックス粉末、溶媒およびバインダーを混合してアノードペーストを調製するペースト調製工程;前記アノードペースト中の凝集物を解砕する解砕工程;および前記アノードペーストを用いて、スクリーン印刷により前記アノード支持基板上にアノードグリーン層を形成した後、さらにスクリーン印刷により前記アノードグリーン層上に電解質グリーン層を形成する成層工程;を有するアノード支持型ハーフセルの製造方法であって、前記解砕工程において、グラインドメーターにより計測される凝集物の最大粒子径が10μm以下になるまで解砕することを特徴とする。
以下、本発明を工程ごとに説明する。
【0018】
1.アノードペースト調製工程 アノードペーストの調製工程では、少なくともセラミックス粉末、溶媒およびバインダーを混合してアノードペーストを調製する。
【0019】
前記セラミックス粉末は、常法により製造してもよいし、あるいは市販のものを使用してもよい。前記セラミックス粉末は、還元雰囲気で導電性を示す導電性成分と、アノード層の耐積層荷重強度と耐レドックス性を確保する上で重要な成分である骨格成分との混合体であり、通常アノード層の導電性成分および骨格成分として用いられるものであればとくに限定されない。
【0020】
例えば、導電性成分としては、酸化鉄、酸化ニッケル、酸化コバルトのように燃料電池稼動時の還元性雰囲気で導電性金属に変化する金属の酸化物、あるいはこれらの酸化物を2種以上含有するニッケルフェライトやコバルトフェライトのような複合金属酸化物が挙げられる。一方、骨格成分としては、酸化イットリウム、酸化セリウム、酸化スカンジウム、酸化イッテルビウムなどで安定化されたジルコニア;酸化イットリウム、酸化サマリウム、酸化ガドリニウムなどでドープされたセリア;ランタンガレート、およびランタンガレートのランタンまたはガリウムの一部がストロンチウム、カルシウム、バリウム、マグネシウム、アルミニウム、インジウム、コバルト、鉄、ニッケル、銅などで置換されたランタンガレート型ペロブスカイト構造酸化物などを使用することができる。
【0021】
特に、骨格成分粉末として、3モル%以上10モル%以下の酸化イットリウムで安定化されたジルコニア、4モル%以上12モル%以下の酸化スカンジウムで安定化されたジルコニア、8モル%以上12モル%以下の酸化スカンジウムと4モル%以上15モル%以下の酸化イッテルビウムで安定化されたジルコニア、あるいは8モル%以上12モル%以下の酸化スカンジウムと0.5モル%以上5モル%以下の酸化セリウムで安定化されたジルコニアを骨格成分として用いることが好ましい。また、これらの安定化ジルコニアに、アルミナ、シリカ、チタニアなどを焼結助剤や分散強化剤として添加した材料も好適に用いることができる。
【0022】
前記導電性成分粉末は、平均粒子径が0.5μm以上、3μm以下のものを用いることが好ましい。なお、本発明における平均粒子径とは、粒度分布から求められるメジアン径、すなわち50体積%径(D50)をいうものとする。具体的には、平均粒子径が0.5μm以上、3μm以下であり、かつ、90体積%径(D90)が5μm以下であるものが好ましく、より好ましくは平均粒子径が0.7μm以上、2.5μm以下であり、90体積%径が4μm以下である。これら平均粒子径と90体積%径は、堀場製作所製のLA−920などのレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置を用い、0.2質量%メタリン酸ナトリウム水溶液を分散媒として測定した粒度分布から求めることができる。
【0023】
前記骨格成分粉末は、平均粒子径が0.3μm以上、0.7μm以下と微細なものを用いることが好ましい。なお、本発明における平均粒子径とは、粒度分布から求められるメジアン径、すなわち50体積%径(D50)をいうものとする。また、骨格成分粉末としては、粒径分布の小さいものが好適である。具体的には、平均粒子径が0.3μm以上、0.7μm以下であり、かつ、90体積%径(D90)が1.2μm以下であるものが好ましく、より好ましくは平均粒子径が0.4μm以上、0.6μm以下であり、90体積%径が1.0μm以下である。
【0024】
前記溶媒としては、特に限定されず、アルコール類、グリコールエーテル類、脂肪族炭化水素系、ケトン類、エステル類など多種の有機溶剤を使用することができる。前記有機溶剤としては、具体的には、α−テルピネオール、ジヒドロターピネオール、ターピネオールアセテート、ジヒドロターピネオールアセテート、ケロシン、1−ブタノール、1−ヘキサノール、2−ブタノン、イソプロピルアルコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、ブチルカルビトールアセテート、ブチルカルビトール、トルエン、シクロヘキサン、メチルエチルケトンなどが挙げられる。これらは単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。溶媒の使用量は、特に限定されず、スクリーン印刷を行う際のアノードペーストの粘度を考慮して適宜調節すればよい。
【0025】
前記アノードペーストには、セラミックス粒子および溶媒に加えて、バインダー、分散剤、可塑剤、界面活性剤、消泡剤などを添加してもよい。また、必要に応じて気孔形成剤を添加しても良い。
【0026】
前記バインダーは、特に限定されず、従来公知の有機質のバインダーを適宜選択して使用することができる。有機質バインダーとしては、例えば、エチレン系共重合体、スチレン系共重合体、アクリレート系およびメタクリレート系共重合体、酢酸ビニル系共重合体、マレイン酸系共重合体、ビニルブチラール系樹脂、ビニルアセタール系樹脂、ビニルホルマール系樹脂、ビニルアルコール系樹脂、ワックス類、エチルセルロースなどのセルロース類などが挙げられる。
【0027】
前記分散剤はセラミックス粉末の解膠や分散を促進するものである。前記分散剤としては、例えば、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸アンモニウムなどの高分子電解質;クエン酸、酒石酸などの有機酸;イソブチレンまたはスチレンと無水マレイン酸との共重合体およびそのアンモニウム塩あるいはアミン塩;ブタジエンと無水マレイン酸との共重合体およびそのアンモニウム塩などが挙げられる。
【0028】
前記可塑剤は、アノードグリーン層に柔軟性を付与するものである。前記可塑剤としては、フタル酸ジブチル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジトリデシルなどのフタル酸エステル類;プロピレングリコールなどのグリコール類やグリコールエーテル類;フタル酸系ポリエステル、アジピン酸系ポリエステル、セバチン酸系ポリエステルなどのポリエステル類が挙げられる。
【0029】
前記可塑剤の量は、前記アノードペースト中のセラミック粉末を100重量部として、0.5部以上、30部以下の量を添加することが好ましい。より好ましくは、2部以上、15部以下の量である。
【0030】
前記気孔形成剤は、焼成後のアノード層に、燃料ガスが拡散するのに必要な気孔を与える。前記気孔形成剤としては、アノードグリーン層の焼成時に焼失するものであればその種類は問わず、アクリル系樹脂などからなる架橋微粒子集合体;小麦粉、トウモロコシ澱粉(コーンスターチ)、甘藷澱粉、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉などの天然有機質粉体;メラミンシアヌレートなどの熱分解性もしくは昇華性の樹脂粉体;カーボンブラックや活性炭などの炭素質粉体などが挙げられる。
【0031】
前記気孔形成剤は、平均粒子径が1μm以上、10μm以下のものを用いることが好ましい。より好ましくは平均粒子径が 2μm以上、5μm以下である。なお、本発明における平均粒子径とは、粒度分布から求められるメジアン径、すなわち50体積%径(D50)をいうものとする。また、前記気孔形成剤の量は、前記アノードペースト中のセラミック粉末を100重量部として、1部以上、10部以下の量を添加することが好ましい。より好ましくは、2部以上、5部以下の量である。
【0032】
アノードペーストは、上記成分を適量混合することにより調製する。その際、各粒子を細かくしたり粒子径を均一化するために、ボールミルなどを用いて粉砕しつつ混合してもよい。また、各成分の添加の順番は特に制限されず、従来方法に従えばよい。
【0033】
2.解砕工程 解砕工程では、前記アノードペースト中の凝集物を解砕する。特に、本発明の製造方法においては、前記解砕工程において、グラインドメーターにより計測されるアノードペースト中の凝集物の最大粒子径が10μm以下になるまで解砕することが重要となる。アノードペースト中の凝集物の最大粒子径を10μm以下とすることで、アノード支持基板上に形成したアノードグリーン層上に、さらに電解質グリーン層を形成し、アノードグリーン層と電解質グリーン層を同時に焼成する共焼成時において、凝集物が起因となる貫通孔の形成を抑制することができる。
【0034】
アノードペーストを解砕する方法は、特に限定されず、3本ロールミル、遊星ボールミル、ボールミル、ビーズミルなどを用いることができる。これらの中でも、解砕に要する時間が短く、1バッチあたりに処理できるペースト量が多いことから、3本ロールミルが好ましい。
【0035】
3本ロールミルとは、3本のロールをそれぞれの回転軸が水平または傾斜するように配された装置である。3本ロールミルは、隣り合うロールをそれぞれ異なる回転方向、回転速度にて回転させ、ロール間圧力を利用した圧縮作用と、速度の異なるロール間でのせん断作用により分散を行う。本発明において、3本ロールミルを用いる場合、3本ロールミルを構成するロールの材質は、アルミナ、窒化珪素、炭化珪素などのセラミックス材料;鉄鋼などの金属材料;などが用いられるが、金属不純物の混入を防止するために、セラミックスロールを用いることが好ましい。
【0036】
3本ロールミルを用いてアノードペーストの解砕を行う場合、解砕作業回数(3本ロールミルを通す回数)は1回でもよいが、2回以上が好ましく、3回がより好ましい。解砕作業を2回以上行うことで、より確実にアノードペースト中の凝集物の最大粒子径を10μm以下にすることができる。なお、解砕作業を4回以上行っても、解砕作用は飽和となり経済的でない。
【0037】
3.成層工程 前記成層工程では、前記アノードペーストを用いて、スクリーン印刷によりアノード支持基板グリーンシート上にアノードグリーン層を形成した後、さらにアノードグリーン層上に電解質グリーン層をスクリーン印刷で形成する。
【0038】
アノード支持基板グリーンシート上にアノード層および電解質層を形成する態様としては、アノード支持基板グリーンシート上にスクリーン印刷によりアノード層用ペーストを成膜、乾燥し、アノードグリーン層とアノード支持基板グリーンシートの積層体を作製する。その後、該積層体のアノードグリーン層上にスクリーン印刷により電解質ペーストを成膜、乾燥した後、電解質グリーン層、アノードグリーン層およびアノード支持基板グリーンシートを同時に焼成する態様(態様1);アノード支持基板グリーンシートを焼成し、得られたアノード支持基板上にアノードグリーン層をスクリーン印刷で形成した後、アノードグリーン層上に電解質ペーストをスクリーン印刷により成膜、乾燥し、電解質グリーン層を焼成する態様(態様2)などが挙げられる。これらの中でも、前記態様1は、電解質グリーン層、アノードグリーン層およびアノード支持基板グリーンシートを同時に焼成でき、作業を簡略化できるため最も好ましい。
【0039】
以下、成層工程の一例として前記態様1を説明する。まず、前記アノードグリーン層およびアノード支持基板グリーンシートの積層体の製造方法について説明する。前記アノード支持基板グリーンシートは、導電成分、骨格成分および気孔形成剤を、バインダーと溶媒、および必要により分散剤や可塑剤などと共に均一に混合してスラリーを調製し、調製したスラリーを、ドクターブレード法、カレンダーロール法、押出し法など任意の方法で平滑なシート(例えばポリエステルシートなど)上に適当な厚みで敷き延べ、乾燥して溶剤を揮発除去することにより得られる。
【0040】
前記導電成分は、アノード層およびアノード支持基板に導電性を与える上で必須の成分であり、その素材となる導電成分粉末とは、酸化鉄、酸化ニッケル、酸化コバルトのように燃料電池稼動時の還元性雰囲気で導電性金属に変化する金属酸化物、あるいはこれらの酸化物を2種以上含有するニッケルフェライトやコバルトフェライトのような複合金属酸化物が挙げられる。これらは単独で使用し得るほか、必要により2種以上を適宜組み合わせて使用できる。
【0041】
前記骨格成分は、アノード層およびアノード支持基板の耐積層荷重強度と耐レドックス性を確保する上で重要な成分である。前記骨格成分は、アノード層およびアノード支持基板と電解質層との熱膨張を極力一致させるため、ジルコニア、アルミナ、チタニア、セリア、アルミニウムマグネシウムスピネル、アルミニウムニッケルスピネルなどが使用される。これらは単独であるいは2種以上を混合して使用される。
【0042】
前記気孔形成剤としては、グリーンシート焼成時に焼失するものであればその種類は問わず、アクリル系樹脂などからなる架橋微粒子集合体;小麦粉、トウモロコシ澱粉(コーンスターチ)、甘藷澱粉、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉などの天然有機質粉体;メラミンシアヌレートなどの熱分解性もしくは昇華性の樹脂粉体;カーボンブラックや活性炭などの炭素質粉体などが挙げられる。
【0043】
前記バインダー、溶媒、分散剤や可塑剤は、塗工作製するグリーンシートの材料に合わせて、前記アノードペーストの材料として挙げたものから選択して使用することができる。また、特に溶媒については、アノードペーストと同様のものを使用してもよいが、塗工後の乾燥を早めるために、酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸ブチル、メタノール、エタノール、アセトン、キシレン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタンなどを用いてもよい。
【0044】
なお、アノード支持基板用スラリーの各原料の配合量は、所望の物性に応じて適宜調製すればよい。またスラリーから得られたシートの乾燥条件は、溶媒を蒸発できる程度にすればよく、例えば70℃以上120℃以下程度で1時間以上10時間以下程度加熱すればよい。ここで、アノード支持基板グリーンシートの厚さは100μm以上500μm以下が好ましい。
【0045】
所望の強度を確保するためアノード支持基板を厚くする必要がある場合には、複数枚のアノード支持基板グリーンシートを積層し、アノード支持基板グリーンシート積層体としてもよい。アノード支持基板グリーンシート積層体は、複数枚のアノード支持基板グリーンシートを、加熱プレスすることにより得られる。この時、加熱プレスの条件は、特に限定されず、例えば30℃以上100℃以下程度で、0.2MPa以上2MPa以下、10秒間以上5分間以下プレスすればよい。
【0046】
得られたアノード支持基板グリーンシート上に前記アノードペーストをスクリーン印刷する。スクリーン印刷は、従来行われている方法と同様に行えばよい。
【0047】
スクリーン印刷時のアノードペースト粘度は、ブルックフィールド型粘度計を用いて、スピンドル14番、回転速度10rpm、測定温度24℃の条件で測定した値が、20Pa・s以上が好ましく、より好ましくは40Pa・s以上、さらに好ましくは60Pa・s以上であり、180Pa・s以下が好ましく、より好ましくは160Pa・s以下、さらに好ましくは100Pa・s以下である。アノードペーストの粘度が上記範囲内であれは、ペーストの成形性がよく、アノードグリーン層を容易に形成することができる。
【0048】
アノード支持基板グリーンシート上に成膜されるアノードペーストの厚さは5μm以上が好ましく、より好ましくは7μm以上、さらに好ましくは10μm以上であり、30μm以下が好ましく、より好ましくは25μm以下、さらに好ましくは22μm以下である。
【0049】
アノード支持基板グリーンシート上に印刷されたアノードペーストは、乾燥して溶剤を揮発除去する。アノードペーストの乾燥条件は、溶媒を蒸発できる程度にすればよく、例えば70℃以上120℃以下程度で15分間以上10時間以下程度加熱すればよい。乾燥後のアノードグリーン層の厚さは5μm以上25μm以下程度が好ましい。
【0050】
次に、得られたアノード層上に前記電解質ペーストをスクリーン印刷する。スクリーン印刷は、従来行われている方法と同様に行えばよい。
電解質ペーストは、少なくともセラミックス粉末、溶媒およびバインダーを混合して調製される。
【0051】
前記セラミックス粉末は、常法により製造してもよいし、あるいは市販のものを使用してもよい。前記セラミックス粉末は、通常電解質層の材料として用いられるものであればとくに限定されず、例えば、酸化イットリウム、酸化セリウム、酸化スカンジウム、酸化イッテルビウムなどで安定化されたジルコニア;酸化イットリウム、酸化サマリウム、酸化ガドリニウムなどでドープされたセリア;ランタンガレート、およびランタンガレートのランタンまたはガリウムの一部がストロンチウム、カルシウム、バリウム、マグネシウム、アルミニウム、インジウム、コバルト、鉄、ニッケル、銅などで置換されたランタンガレート型ペロブスカイト構造酸化物などを使用することができる。
【0052】
特に、セラミックス粉末として、3モル%以上10モル%以下の酸化イットリウムで安定化されたジルコニア、4モル%以上12モル%以下の酸化スカンジウムで安定化されたジルコニア、8モル%以上12モル%以下の酸化スカンジウムと4モル%以上15モル%以下の酸化イッテルビウムで安定化されたジルコニア、あるいは8モル%以上12モル%以下の酸化スカンジウムと0.5モル%以上5モル%以下の酸化セリウムで安定化されたジルコニアを骨格成分として用いることが好ましい。また、これらの安定化ジルコニアに、アルミナ、シリカ、チタニアなどを焼結助剤や分散強化剤として添加した材料も好適に用いることができる。
【0053】
前記セラミックス粉末は、平均粒子径が0.3μm以上、0.7μm以下と微細なものを用いることが好ましい。なお、本発明における平均粒子径とは、粒度分布から求められるメジアン径、すなわち50体積%径(D50)をいうものとする。また、セラミックス粉末としては、粒径分布の小さいものが好適である。具体的には、平均粒子径が0.3μm以上、0.7μm以下であり、かつ、90体積%径(D90)が1.2μm以下であるものが好ましく、より好ましくは平均粒子径が0.4μm以上、0.6μm以下であり、90体積%径が1.0μm以下である。これら平均粒子径と90体積%径は、堀場製作所製のLA−920などのレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置を用い、0.2質量%メタリン酸ナトリウム水溶液を分散媒として測定した粒度分布から求めることができる。
【0054】
前記溶媒としては、特に限定されず、アルコール類、グリコールエーテル類、脂肪族炭化水素系、ケトン類、エステル類など多種の有機溶剤を使用することができる。前記有機溶剤としては、具体的には、α−テルピネオール、ジヒドロターピネオール、ターピネオールアセテート、ジヒドロターピネオールアセテート、ケロシン、1−ブタノール、1−ヘキサノール、2−ブタノン、イソプロピルアルコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、ブチルカルビトールアセテート、ブチルカルビトール、トルエン、シクロヘキサン、メチルエチルケトンなどが挙げられる。これらは単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。溶媒の使用量は、特に限定されず、スクリーン印刷を行う際の電解質ペーストの粘度を考慮して適宜調節すればよい。
【0055】
前記電解質ペーストには、セラミックス粒子および溶媒に加えて、バインダー、分散剤、可塑剤、界面活性剤、消泡剤などを添加してもよい。
【0056】
前記バインダーは、特に限定されず、従来公知の有機質のバインダーを適宜選択して使用することができる。有機質バインダーとしては、例えば、エチレン系共重合体、スチレン系共重合体、アクリレート系およびメタクリレート系共重合体、酢酸ビニル系共重合体、マレイン酸系共重合体、ビニルブチラール系樹脂、ビニルアセタール系樹脂、ビニルホルマール系樹脂、ビニルアルコール系樹脂、ワックス類、エチルセルロースなどのセルロース類などが挙げられる。
【0057】
前記分散剤はセラミックス粉末の解膠や分散を促進するものである。前記分散剤としては、例えば、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸アンモニウムなどの高分子電解質;クエン酸、酒石酸などの有機酸;イソブチレンまたはスチレンと無水マレイン酸との共重合体およびそのアンモニウム塩あるいはアミン塩;ブタジエンと無水マレイン酸との共重合体およびそのアンモニウム塩などが挙げられる。
【0058】
前記可塑剤は、電解質層に柔軟性を付与するものである。前記可塑剤としては、フタル酸ジブチル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジトリデシルなどのフタル酸エステル類;プロピレングリコールなどのグリコール類やグリコールエーテル類;フタル酸系ポリエステル、アジピン酸系ポリエステル、セバチン酸系ポリエステルなどのポリエステル類が挙げられる。
【0059】
電解質ペーストは、上記成分を適量混合することにより調製する。その際、各粒子を細かくしたり粒子径を均一化するために、ボールミルなどを用いて粉砕しつつ混合してもよい。また、各成分の添加の順番は特に制限されず、従来方法に従えばよい。
【0060】
次に、前記電解質ペースト中の凝集物を解砕する。特に、本発明の製造方法においては、電解質層中の凝集物に起因する焼成時の貫通孔の発生を防ぐため、解砕工程において、グラインドメーターにより計測される電解質ペースト中の凝集物の最大粒子径が10μm以下になるまで解砕することが重要となる。電解質ペースト中の凝集物の最大粒子径を10μm以下とすることで、アノードグリーン層と電解質グリーン層との共焼成時において、電解質層中の凝集物が起因となる貫通孔の形成を抑制することができる。
【0061】
電解質ペーストを解砕する方法は、特に限定されず、3本ロールミル、遊星ボールミル、ボールミル、ビーズミルなどを用いることができる。これらの中でも、解砕に要する時間が短く、1バッチあたりに処理できるペースト量が多いことから、3本ロールミルが好ましい。
【0062】
3本ロールミルを用いる場合、3本ロールミルを構成するロールの材質は、アルミナ、窒化珪素、炭化珪素などのセラミックス材料;鉄鋼などの金属材料;などが用いられるが、金属不純物の混入を防止するために、セラミックスロールを用いることが好ましい。
【0063】
3本ロールミルを用いて電解質ペーストの解砕を行う場合、3本ロールミルの隣り合うロール間の隙間は10μm以下が好ましく、より好ましくは8μm以下、さらに好ましくは6μm以下である。3本ロールミルのロール間の隙間が10μm以下であれば、電解質ペースト中の凝集物の最大粒子径をより容易に10μm以下にできる。なお、3本ロールミルの隣り合うロール間の隙間を狭くしすぎると、作業効率が低下するため、ロール間の隙間は1μm以上が好ましい。
【0064】
3本ロールミルを用いて電解質ペーストの解砕を行う場合、解砕作業回数(3本ロールミルを通す回数)は1回でもよいが、2回以上が好ましく、3回がより好ましい。解砕作業を2回以上行うことで、より確実に電解質ペースト中の凝集物の最大粒子径を10μm以下にすることができる。なお、解砕作業を4回以上行っても、解砕作用は飽和となり経済的でない。
【0065】
スクリーン印刷時の電解質ペースト粘度は、ブルックフィールド型粘度計を用いて、スピンドル14番、回転速度10rpm、測定温度24℃の条件で測定した値が、20Pa・s以上が好ましく、より好ましくは40Pa・s以上、さらに好ましくは60Pa・s以上であり、180Pa・s以下が好ましく、より好ましくは160Pa・s以下、さらに好ましくは100Pa・s以下である。電解質ペーストの粘度が上記範囲内であれは、ペーストの成形性がよく、電解質グリーン層を容易に形成することができる。アノードグリーン層上に印刷される電解質ペーストの厚さは5μm以上が好ましく、より好ましくは7μm以上、さらに好ましくは10μm以上であり、30μm以下が好ましく、より好ましくは25μm以下、さらに好ましくは20μm以下である。アノードグリーン層上に印刷された電解質ペーストは、乾燥して溶剤を揮発除去する。電解質ペーストの乾燥条件は、溶媒を蒸発できる程度にすればよく、例えば70℃以上120℃以下程度で15分間以上10時間以下程度加熱すればよい。乾燥後の電解質層の厚さは5μm以上25μm以下程度が好ましい。
【0066】
そして、電解質グリーン層、アノードグリーン層およびアノード支持基板グリーンシートを同時に焼成する。これらを焼成する際の焼成条件は、その原料および厚さに応じて適宜調節すればよいが、例えば、900℃以上1500℃以下程度で2時間以上10時間以下程度焼成すればよい。なお、前記態様2により成層工程を行う場合、アノード支持基板グリーンシートおよびアノードグリーン層の焼成は、上記焼成条件と同様に行えばよい。
【0067】
4.アノード支持型ハーフセル 本発明のアノード支持型ハーフセルは、アノード支持基板と、前記アノード支持基板に積層されたアノード層と、前記アノード層上(前記アノード支持基板が接している面と反対の面)に積層された電解質層とを有し、前記電解質層が上述の製造方法により形成されたものである。本発明の製造方法により得られたアノード支持型ハーフセルは、電解質層がより薄肉化されているにもかかわれず、貫通孔の形成が抑制されているため、カソードを形成してフルセルとした場合、出力や耐久性などの発電性能に優れたフルセルが得られる。
【0068】
前記電解質層の厚さは3μm以上が好ましく、より好ましくは5μm以上であり、20μm以下が好ましく、より好ましくは10μm以下である。前記アノード層の厚さは5μm以上が好ましく、より好ましくは7μm以上であり、25μm以下が好ましく、より好ましくは20μm以下である。前記アノード支持基板の厚さは100μm以上が好ましく、より好ましくは150μm以上であり、1500μm以下が好ましく、より好ましくは1000μm以下である。
【0069】
5.アノード支持型セル 本発明のアノード支持型セルは、前記アノード支持型ハーフセルにおいて、前記電解質上(前記アノード層が接している面と反対の面)に、カソード層が形成されている。 前記カソード層は、カソード層材料を、バインダーと溶媒、および必要により分散剤や可塑剤などと共に均一に混合してペーストを調製し、調製したペーストを電解質層上にスクリーン印刷などにより成膜し、乾燥、焼成することで形成できる。
【0070】
前記カソード層材料としては、電子導電性に優れ、酸化雰囲気下でも安定なペロブスカイト形酸化物からなるものが一般的に用いられる。具体的には、La0.8Sr0.2MnO3、La0.6Sr0.4CoO3、La0.6Sr0.4FeO3、La0.6Sr0.4Co0.2Fe0.8O3など、ランタンの一部をストロンチウムで置換したランタンマンガナイト、ランタンフェライトやランタンコバルタイトなどがカソード層材料として好ましい。また、カソード層に酸素イオン導電性を付与するために、希土類元素などをドープしたセリアやジルコニアを適宜混合してもよい。
【0071】
カソード層用のペーストに用いられるバインダー、溶媒、分散剤、可塑剤などは、電解質ペーストと同様のものを使用すればよい。なお、各原料の配合量は、所望の物性に応じて適宜調製すればよい。得られたペーストを電解質層上に成膜する方法は、特に限定されないが、スクリーン印刷が好適である。スクリーン印刷は、従来行われている方法と同様に行えばよい。
【0072】
電解質層上に成膜されたカソード層用ペーストを、乾燥、焼成してカソード層を形成する。カソード用ペーストの乾燥条件は、溶媒を蒸発できる程度にすればよく、例えば70℃以上120℃以下程度で15分間以上10時間以下程度加熱すればよい。またカソードグリーン層の焼成条件は、その原料および厚さに応じて適宜調節すればよいが、例えば、700℃以上1300℃以下程度で2時間以上10時間以下程度焼成すればよい。電解質上に形成されるカソード層の厚さは10μm以上80μm以下が好ましい。
【実施例】
【0073】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は、下記実施例によって限定されるものではなく、前・後記の趣旨に適合しうる範囲で適宜変更して実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0074】
評価方法1.
凝集物の最大粒子径 JIS K5400(1900) 4.7.2線条法に従い、グラインドメーターを用いて測定した。すなわち、グラインドメーター(BYK社製)の溝にアノードペーストを垂らし、スクレーバーを用いてしごき溝の中に厚さが連続して変化したアノードペースト層を作る。この時、アノードペースト中の凝集物による線条が、3本以上現れ始めた箇所の層の厚さを読み取り、凝集物の最大粒子径とした。なお、測定は3回行い、3回の平均値を求めた。
【0075】
2.貫通孔検出試験
12%アンモニア水(和光純薬工業社製)50mlを直径約10cmの開口部を持ったガラス瓶に入れた。そのガラス瓶の開口部を塞ぐように、製造例で作製したハーフセルを電解質面が上になるように載せて、周囲をOリングでシールして固定した。続いて、1.0w/v%フェノールフタレインエタノール溶液(和光純薬工業社製)を電解質面上に滴下し全体に薄くのばした後、アスピレータを用いて電解質面側を減圧状態にした。そして、ガラス瓶中のアンモニアが電解質層を通過し、電解質面上のフェノールフタレインが呈色反応を起こし赤色に変化した場合、電解質層に貫通孔が存在すると評価した。
【0076】
製造例1 1−1.
アノード支持基板グリーンシートの作製 導電成分としての酸化ニッケル(正同化学社製)60質量部、骨格成分としての8モル%イットリウム安定化ジルコニア粉末(第一稀元素社製、商品名「HSY−8.0」)40質量部、空孔形成剤としてのカーボンブラック(SECカーボン社製、SGP−3)10質量部、溶媒としてのトルエン60質量部とエタノール40質量部の混合溶剤、バインダーとしてのブチラール樹脂(積水化学社製、品名「BM−S」)10質量部、可塑剤としてのジブチルフタレート(和光純薬工業社製)3質量部、分散剤としてのソルビタン脂肪酸エステル系界面活性剤2質量部を、ボールミルにより混合し、スラリーを調製した。 得られたスラリーを使用し、ドクターブレード法によりシート成形し、70℃で5時間乾燥させて、厚さ300μmのアノード支持基板グリーンシートを作製した。
【0077】
1−2.
アノードペーストの作製 導電成分としての酸化ニッケル(キシダ化学社製)36質量部、骨格成分としての8モル%イットリウム安定化ジルコニア粉末(第一稀元素社製、商品名「HSY−8.0」)24質量部、気孔形成剤としてのカーボンブラック(SECカーボン社製、SGP−3)2質量部、溶媒としてのα−テルピネオール(和光純薬工業社製)36質量部と、バインダーとしてのエチルセルロース(和光純薬工業製)4質量部、可塑剤としてのジブチルフタレート(和光純薬工業社製)6質量部、分散剤としてのソルビタン脂肪酸エステル系界面活性剤4質量部を、乳鉢を用いて混合した後、3本ロールミル(EXAKT technologies社製、型式「M−80S」、ロール材質;アルミナ)を用いて解砕した。ここで、3本ロールミルの隣り合うロール間の隙間は20μmに調節し、3本ロールミルによる解砕は3回行った。解砕後のアノードペーストについて、凝集物の最大粒子径を測定し、表1に示した。
【0078】
1−3.
アノードグリーン層の形成 解砕後のアノードペーストをスクリーン印刷により、上記で得たアノード支持基板グリーンシートに、厚さ20μmとなるように印刷し、100℃で30分間乾燥させ、アノード層を形成した。
【0079】
1−4.
電解質膜の形成 セラミックス粉末として8モル%イットリウム安定化ジルコニア粉末(第一稀元素社製、商品名「HSY−8.0」、平均粒子径(D50)0.5μm、90体積%径(D90)0.9μm)60質量部、バインダーとしてエチルセルロース(和光純薬工業社製)を5質量部、溶媒としてα−テルピネオール(和光純薬工業社製)を40質量部、可塑剤としてジブチルフタレート(和光純薬工業社製)を6質量部、分散剤としてソルビタン酸エステル系界面活性剤(三洋化成社製、商品名「イオネットS−80」)5質量部を乳鉢を用いて混合した後、3本ロールミル(EXAKT technologies社製、型式「M−80S」、ロール材質;アルミナ)を用いて解砕した。ここで、3本ロールミルの隣り合うロール間の隙間は2μmに調節し、3本ロールミルによる解砕は3回行った。
【0080】
解砕後の電解質ペーストをスクリーン印刷により、上記で得たアノードグリーン層上に、厚さ15μmとなるように印刷し、100℃で30分間乾燥させた。乾燥後、直径100mmの円形状に打抜き、1300℃で2時間焼成してアノード支持型ハーフセルを20枚作製した。得られたアノード支持型ハーフセルについて電解質の貫通孔の有無を確認した。結果を表1に示した。
【0081】
製造例2〜7
アノードペーストを解砕する際において、3本ロールミルの隣り合うロール間の隙間を15μm、12μm、10μm、7μm、5μmまたは2μmに変更したこと以外は、製造例1と同様にして、アノード支持型ハーフセルを各20枚作製した。解砕後のアノードペースト中の凝集物の最大粒子径、および電解質の貫通孔を確認し、結果を表1に示した。
【0082】
【表1】

【0083】
表1および図1に示すように、アノードペースト中の凝集物最大粒子径が13μm以上の場合、作製されたアノード支持型ハーフセルは、半分以上の確率で電解質層に貫通孔が生じている。そのため、作製されたアノード支持型ハーフセルの合格率も30%以下と非常に低い値となり、生産性が非常に悪い。
【0084】
これに対して、アノードペースト中の凝集物最大粒子径が10μm以下の場合、作製されたアノード支持型ハーフセルは、電解質層に貫通孔が生じる割合が15%以下となっており、合格率も85%以上と飛躍的に向上していることがわかる。特に、アノードペースト中の凝集物最大粒子径が5μm以下の場合には、合格率が95%とさらに向上している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノード支持基板と、前記アノード支持基板上に形成されたアノード層と、前記アノード層上に形成された電解質層とを有するアノード支持型ハーフセルを製造する方法であり、
少なくともセラミックス粉末、溶媒およびバインダーを混合してアノードペーストを調製するアノードペースト調製工程; 前記アノードペースト中の凝集物を解砕する解砕工程; 前記アノードペーストを用いて、スクリーン印刷により前記アノード支持基板上にアノードグリーン層を形成する成層工程; および、形成されたアノードグリーン層をアノード層に焼結する焼成工程;を有するアノード支持型ハーフセルの製造方法であって、
前記解砕工程において、グラインドメーターにより計測される凝集物の最大粒子径が10μm以下になるまで解砕することを特徴とする製造方法。
【請求項2】
前記解砕工程において、凝集物の解砕を、3本ロールミルを用いて行う請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記3本ロールミルの各ロールの隙間を、1μm以上、10μm以下に設定する請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法により得られることを特徴とするアノード支持型ハーフセル。
【請求項5】
請求項4に記載のアノード支持型ハーフセルにカソード層を形成したことを特徴とするアノード支持型セル。

【図1】
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【公開番号】特開2012−59476(P2012−59476A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−200423(P2010−200423)
【出願日】平成22年9月8日(2010.9.8)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】