説明

アパーチャを備えたレーザ発振器

【課題】簡易かつ安価な構成でありながら、レーザ光軸のズレ等により生じる問題点を解決するアパーチャ構造を備えたレーザ発振器を提供する。
【解決手段】モード制限用アパーチャを保護するために、ガードアパーチャ41〜43が配置される。各ガードアパーチャの内径は、該ガードアパーチャを挟むモード制限用アパーチャの内径よりもいくらか大きく設定される。この場合、経路36は、ガードアパーチャ41及び43によって遮断され、モード制限用アパーチャ31及び34に到達する所望のレーザプロファイル35に属さない周辺光は減殺される。図3のように光軸がずれた場合においても、アパーチャ31及び34の発熱が少なくなることになるので、アパーチャの溶融破損は起こりにくくなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体又は個体を媒質とする高出力レーザ発振器に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に軸流型ガスレーザ発振器等のレーザ発振器は、切断、溶接等のレーザ加工に用いられる。近年、切断性能向上等のためにレーザ発振器は高出力化される傾向にあるが、高出力化されたレーザ発振器においては、増幅自然光(ASE)が発生しやすくなるため一般にビームの品質は低下する。上述の不具合を解消するために、共振器内にアパーチャを設ける方法がある。
【0003】
図1は、従来の軸流型ガスレーザ発振装置の概略構成の一例を示す図である。ガラス等の誘電体よりなる放電管1の周辺には、電極2、3が設けられる。電極2、3には電源4が接続される。電極2、3間に挟まれたレーザ媒質を含む放電空間5の両端には、実質全反射鏡であるリア鏡6及び部分反射鏡である出力鏡7が対向配置され、光共振器を形成している。出力鏡7からは、レーザビーム8が出力される。
【0004】
レーザガスは、矢印9に従ってレーザガス流路10内を、13〜27kPa程度の圧力で循環する。ガスレーザ流路10には熱交換器11、12が設けられ、放電空間5における放電と送風機13の運転により温度上昇したレーザガスの温度を下げる働きをする。送風機13により、放電空間5にて約100m/sec程度のガス流が得られる。レーザガス流路10及び放電管1は、レーザガス導入部14にて接続されている。
【0005】
以上が従来のガスレーザ発振装置の構成であり、次にその動作について説明する。送風機13より送り出されたレーザガスは、レーザガス流路10を通り、レーザガス導入部14より放電管1内へ導入される。この状態で、電源4に接続された電極2、3から放電空間5に放電を発生させる。放電空間5内のレーザガスは、この放電エネルギーを得て励起され、その励起されたレーザガスはリア鏡6及び出力鏡7により形成された光共振器で共振状態となり、出力鏡7からレーザビーム8が出力される。このレーザビーム8が切断・溶接に代表されるレーザ加工等の用途に用いられる。
【0006】
上述のようなレーザ発振装置の放電管内には、多くの場合、レーザビームの発振モードを制限するためのアパーチャが設けられる。例えば特許文献1には、共振器内のビームプロファイルに合わせてナイフエッジ形状のアパーチャを複数枚設けたガスレーザ発振器が開示されている。
【0007】
アパーチャに係る構成についての開発、改良も種々行われている。例えば特許文献2には、アパーチャの温度をセンサにより測定し、アパーチャの昇温からレーザ光軸のズレを判断するアライメント装置が開示されている。また特許文献3には、ビームウェストの両側にアパーチャを設けて不都合な回折光の低減を図ったレーザ発振器が開示されている。さらに特許文献4には、アパーチャベースに複数の光検出板を設け、光検出板の昇温を測定することにより、アパーチャに対してレーザビーム軸がずれた方向及び程度を知るための装置が開示されている。
【0008】
【特許文献1】特開平6−350166号公報
【特許文献2】特開2001−53370号公報
【特許文献3】特開2006−196827号公報
【特許文献4】特開平11−274614号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
レーザ共振器内に設けたアパーチャは、レーザ発振するビーム径を制限することで、レーザビームの特性を容易に制御することができる。しかし高ゲインの高出力レーザにあっては、アパーチャで遮られたレーザ媒質においてもレーザ光が増幅され、アパーチャへの熱負荷となる。そこで、複数のアパーチャが共振器内に設けられるが、光軸調整された状態では、このアパーチャへの熱負荷が過度にならないような設計がなされる。すなわち、一般的なレーザ発振器では、放電管内の各位置における所望のビーム伝播形状に合わせた内径のアパーチャが該各位置に配置され、運転状態での各々のアパーチャで吸収または散乱されて制限されるレーザのエネルギーに極端に大きな差異はないようになっている。
【0010】
しかし、調整段階においては、光軸のズレにより、設計で意図された複数のアパーチャでレーザ光の増幅が抑制されず、媒質中を比較的長距離伝播する光路が存在し、強度の高いレーザ光がアパーチャを破壊することがある。また、稼動中にも、何らかの理由によって光軸がずれ、同様の事態を起こすことがある。さらに、発振器外部でレーザ光が反射され、発振器に戻ることがある。この場合、戻った光は、正確に元のレーザ光路を辿るものではなく、発振器内部のレーザ媒質で増幅され、予期せぬ高いエネルギー密度となることもある。このような発振器外部からの戻りレーザ光がアパーチャを破壊することもある。
【0011】
また、アパーチャの内径部分は、ナイフエッジ状に鋭角な形状であることが、レーザのモード選択性を高める上で有利であるが、高出力レーザにあっては、個々のアパーチャに対する熱負荷が大きいので、アパーチャ内径のレーザビームを遮る部分が著しい温度上昇に晒され、アパーチャの損傷に至る場合もある。上述のようにレーザ光軸のズレを検出して補正する技術もあるが、そのための検出手段や補正手段が必要となり、装置全体が大型化かつ高コスト化する傾向がある。
【0012】
そこで本発明は、簡易かつ安価な構成でありながら、レーザ光軸のズレ等により生じる問題点を解決するアパーチャ構造を備えたレーザ発振器を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、レーザ媒質を挟んで対向する反射鏡の間でレーザ発振を行い、レーザ光軸の周囲を遮りレーザビームの径を制限するモード制限用アパーチャを配置したレーザ発振器であって、前記モード制限用アパーチャの内径よりも大きい内径を備え、該モード制限用アパーチャを保護するガード用アパーチャを設けたことを特徴とするレーザ発振器を提供する。
【0014】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のレーザ発振器において、光学的経路に沿って配列される、複数の同一内径のモード制限用アパーチャを有し、前記複数のモード制限用アパーチャの間に、該モード制限用アパーチャの内径よりも大きい内径を備え、該複数のモード制限用アパーチャの少なくとも1つを保護するガード用アパーチャを設けた、レーザ発振器を提供する。
【0015】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載のレーザ発振器において、光学的経路に沿って配列される、複数の同一内径のモード制限用アパーチャを有し、前記複数のモード制限用アパーチャの少なくとも1つに隣接し、該モード制限用アパーチャよりも大きい径を持ち該モード制限用アパーチャを保護するガード用アパーチャを設けた、レーザ発振器を提供する。
【0016】
請求項4に記載の発明は、請求項1に記載のレーザ発振器において、光学的経路に沿って配列される、レーザビームの外周部分の伝播形状に応じた内径を有する複数のモード制限用アパーチャを有し、前記複数のモード制限用アパーチャの間に、該モード制限用アパーチャの内径よりも大きい内径を備え、該複数のモード制限用アパーチャの少なくとも1つを保護するガード用アパーチャを設けた、レーザ発振器を提供する。
【0017】
請求項5に記載の発明は、請求項1に記載のレーザ発振器において、光学的経路に沿って配列される、レーザビームの外周部分の伝播形状に応じた内径を有する複数のモード制限用アパーチャを有し、前記複数のモード制限用アパーチャの少なくとも1つに隣接し、該モード制限用アパーチャよりも大きい径を持ち該モード制限用アパーチャを保護するガード用アパーチャを設けた、レーザ発振器を提供する。
【0018】
請求項6に記載の発明は、請求項1〜5のいずれか1項に記載のレーザ発振器において、前記モード制限用アパーチャを前記反射鏡に隣接するモード制限用アパーチャを設けた、レーザ発振器を提供する。
【発明の効果】
【0019】
光軸調整等でレーザビームの光軸がずれた状態に陥ったときは、モード制限用アパーチャで回折した光は、共振器内を比較的長距離を伝播する間に強度を増していくが、本発明によれば、モード制限用アパーチャの内径よりも大きい内径を備えたガードアパーチャを設けたことにより、光の一部がガードアパーチャにより遮られるので、モード制限用アパーチャに入射する量は少なくなり、モード制限用アパーチャが保護される。特に、光路経路あたりのレーザ発振利得の大きい発振器では、アパーチャに挟まれたレーザ媒質でも自然に発振するレーザ光が出現してしまうが、ガードアパーチャは、このような望ましくない発振を抑制する効果がある。一方レーザ発振器が正しく光軸調整された状態にあるときは、ガードアパーチャには僅かに回折したレーザ光が照射されるのみである。
【0020】
本発明によれば、複数のモード制限用アパーチャが、同一内径を備える場合、及び所望のレーザビームプロファイルの外形に応じた内径を備える場合のいずれについても、それぞれ好適な実施形態が提供される。
【0021】
また、ガードアパーチャをモード制限用アパーチャに隣接して設けることにより、モード制限用アパーチャの内径に近い部分以外の、ガードアパーチャの陰になる部分は、レーザ媒質による発振がないために、全くレーザ光が当たらない。従って、モード制限用アパーチャへの熱負荷が著しく抑えられる。
【0022】
ガードアパーチャを反射鏡に隣接配置することによっても、反射鏡に到達する光の一部が遮られるので、望ましくない発振を抑制する効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
図2は、図1に示したガスレーザ発振装置の光学系の従来例を示す図である。ここでは、理解を助けるために、特に、レーザ発振に寄与する構成要素のみを抜き出して示している。図示例では、リア鏡6及び出力鏡7がレーザ共振器を構成し、リア鏡6と出力鏡7との間にレーザ媒質となるレーザガスを含む放電管21〜26が並べられ、各放電管内でレーザガスが放電励起される。なお、いわゆる長尺の共振器では、発振器を小さくするために折返し鏡でレーザ光の向きを反転させることもあるが、ここでは明瞭化のため直列に配列されたものとして図示している。
【0024】
図2の例では、4つのアパーチャ31〜34がレーザビーム35の外周部分の伝播形状に沿うように配置され、各アパーチャがレーザビーム35の外周部を制限することで、レーザビームの発振モードが制限される。しかしながら、例えば点pのような、レーザビームの強度の大きいところから外れた場所においても、レーザ媒質の内部であればある程度のレーザ発振が生じる。これは、アパーチャの内径部分すなわちナイフエッジ部分において生じる回折光が回り込むことにより生じたり、レーザ媒質の長手方向に自然に発振して生じたりするものであり、一般に高出力レーザが高ゲインであるがために生じるものである。
【0025】
このようにして発光した所望のレーザビーム経路35に収まらないレーザ光は、結局はアパーチャに照射され反射・吸収されることになる。例えば、図2に示す経路36がこれに相当する。このために、アパーチャはレーザ発振時に熱せられることになる。また、このアパーチャの発熱はレーザ光軸が精確に調整されていても生じ得るものである。
【0026】
ところで、レーザの光軸は、レーザの調整作業時や意図しない障害等のために、図3のように傾く場合がある。この場合、レーザビームプロファイルは例えば経路37及び38で画定されるようなものとなり、レーザ光がアパーチャに接する箇所は、参照符号31a及び34aで示すアパーチャ31及び34の一部のみとなる。すると、それらの部分31a及び34aのすぐ外側の領域では、共振器長にほぼ等しい距離に亘ってレーザ光を遮るものがなく、故にこれらの部分で相当に強いレーザ光が発光し、アパーチャ部分31a及び34aに照射される。結果として、これらの部分は強く熱せられ、場合によっては溶融破損してしまう。
【0027】
そこで、本発明では、図4に示す第1の実施形態のように、モード制限用アパーチャを保護するためのガードアパーチャ41〜43が配置される。各ガードアパーチャの内径は、該ガードアパーチャを挟むモード制限用アパーチャの内径よりもいくらか大きく設定される。この場合、上述の経路36は、ガードアパーチャ41及び43によって遮断され、モード制限用アパーチャ31及び34に到達する所望のレーザプロファイル35に属さない周辺光は減殺される。図3のように光軸がずれた場合においても、アパーチャ31及び34の発熱が少なくなることになるので、アパーチャの溶融破損は起こりにくくなる。
【0028】
図5に示す第2の実施形態では、モード制限用アパーチャ31〜34に隣接してガードアパーチャ51〜56が配置される。各ガードアパーチャの内径は、隣接するモード制限用アパーチャの内径よりもいくらか大きく設定される。ガードアパーチャ51〜56を用いない場合、図2のように、広範な範囲の周辺光がアパーチャ31に照射されることになるが、この実施形態においては、各モード制限用アパーチャの露出部分は、内径部分近傍の極狭い部分に限定されるので、モード制限用アパーチャ自体の発熱は極めて少なくなる。
【0029】
上述の2つの実施形態では、レーザプロファイル35は光路の中央付近にビームウェストを有する形態として図示されているが、一般にレーザ光の伝播形状は、図6に示すレーザプロファイル35′に示すように、平行線(立体的にみると円筒)に近いものである。このような事情から、市販のレーザ発振装置においては、レーザ光の伝播形状に厳密に合わせてアパーチャ径を構成することは経済的でないので、全てのアパーチャを同一内径として構成することが多い。図6及び図7は、同一内径のアパーチャ31′〜34′を有するレーザ発振器に、上述の第1及び第2の実施形態の実質同様のアパーチャ41′〜43′及び51′〜56′をそれぞれ適用した例を示す。
【0030】
なお、ガードアパーチャは、モード制限用アパーチャの間に必ず設けなければならないものではなく、例えば図8に示すガードアパーチャ61及び62のように、出力鏡7又はリア鏡6に隣接又は近接して設けることもできる。このような構成によれば、リア鏡又は出力鏡に到達する光の一部が遮断されるので、望ましくない発振を抑制する効果が得られる。
【0031】
本発明に係るガードアパーチャの採用は、モード制限用アパーチャへの熱負荷を軽減し、アパーチャの水冷やセラミックなどの特殊材料の採用など、特別な設計的配慮を不要とするものである。また、モード制限用アパーチャの発熱は共振器の熱歪みの原因となるので、これを軽減する効果は安定したレーザ発振器を構成する上で有用なものである。さらには、ガードアパーチャを高温となる放電管下流部に構成することで、アパーチャによる発熱を共振器の発熱部に集約し、集中的かつ効果的に冷却することができる。これは、熱的に安定した共振器を得る上で重要な技術である。
【0032】
以上は、ガスレーザについて説明したが、固体レーザにあっては、図4〜図8の放電管をレーザ媒体とすることで、同一の作用効果が得られることは容易に理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】一般的なレーザ発振器の要部の概略構成を示す図である。
【図2】従来例におけるレーザビーム経路の一例を示す図である。
【図3】従来例におけるレーザビーム経路の他の例を示す図である。
【図4】本発明に係るレーザ発振器の第1の実施形態を示す図である。
【図5】本発明に係るレーザ発振器の第2の実施形態を示す図である。
【図6】第1の実施形態を、モード制限用アパーチャが同一内径の場合に適用した形態を示す図である。
【図7】第2の実施形態を、モード制限用アパーチャが同一内径の場合に適用した形態を示す図である。
【図8】ガードアパーチャを反射鏡に隣接させた例を示す図である。
【符号の説明】
【0034】
1 放電管
6 リア鏡
7 出力鏡
21〜26 放電管
31〜34 モード制限用アパーチャ
35 レーザビームプロファイル
41〜43、51〜56、61、62 ガードアパーチャ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ媒質を挟んで対向する反射鏡の間でレーザ発振を行い、レーザ光軸の周囲を遮りレーザビームの径を制限するモード制限用アパーチャを配置したレーザ発振器であって、
前記モード制限用アパーチャの内径よりも大きい内径を備え、該モード制限用アパーチャを保護するガード用アパーチャを設けたことを特徴とするレーザ発振器。
【請求項2】
光学的経路に沿って配列される、複数の同一内径のモード制限用アパーチャを有し、
前記複数のモード制限用アパーチャの間に、該モード制限用アパーチャの内径よりも大きい内径を備え、該複数のモード制限用アパーチャの少なくとも1つを保護するガード用アパーチャを設けた、請求項1に記載のレーザ発振器。
【請求項3】
光学的経路に沿って配列される、複数の同一内径のモード制限用アパーチャを有し、
前記複数のモード制限用アパーチャの少なくとも1つに隣接し、該モード制限用アパーチャよりも大きい径を持ち該モード制限用アパーチャを保護するガード用アパーチャを設けた、請求項1に記載のレーザ発振器。
【請求項4】
光学的経路に沿って配列される、レーザビームの外周部分の伝播形状に応じた内径を有する複数のモード制限用アパーチャを有し、
前記複数のモード制限用アパーチャの間に、該モード制限用アパーチャの内径よりも大きい内径を備え、該複数のモード制限用アパーチャの少なくとも1つを保護するガード用アパーチャを設けた、請求項1に記載のレーザ発振器。
【請求項5】
光学的経路に沿って配列される、レーザビームの外周部分の伝播形状に応じた内径を有する複数のモード制限用アパーチャを有し、
前記複数のモード制限用アパーチャの少なくとも1つに隣接し、該モード制限用アパーチャよりも大きい径を持ち該モード制限用アパーチャを保護するガード用アパーチャを設けた、請求項1に記載のレーザ発振器。
【請求項6】
前記モード制限用アパーチャを前記反射鏡に隣接するモード制限用アパーチャを設けた、請求項1〜5のいずれか1項に記載のレーザ発振器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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