説明

アポトーシス検出方法及び装置

【課題】細胞自身の処理を必要とせず、培養液を測定することで培養槽内のアポトーシスの状態を検出する。
【解決手段】動物細胞を培養した培地に含まれるサイトケラチン18のカスパーゼ分解物を検出する工程を含み、上記培地中の上記カスパーゼ分解物の量を指標にして上記動物細胞のアポトーシスを測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、医薬品等の主原料となる物質を生産する動物細胞を培養する際に適用できるアポトーシス検出方法及びアポトーシス検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
抗体医薬をはじめとする医薬品は、細胞が産生する物質を主成分として含有している。このような物質は、例えば動物細胞により分泌生産されるため、動物細胞を培養し、培養液中に分泌された目的物質を分離精製することで得ることができる。細胞を培養する工程では、細胞は分裂を繰り返すことにより増殖するが、培養環境が悪化すると細胞死を起こす細胞が増大し、環境の悪化が持続すると最終的にはすべての細胞が死滅する。培養環境の悪化の要因には、攪拌による力学的な破砕、栄養素の枯渇、細胞によって分泌されるアンモニア、乳酸の蓄積等が挙げられる。
【0003】
細胞死にはアポトーシスとネクローシスに分類される。アポトーシスは核内構造の変化とそれに伴う細胞の縮小を第一の特徴としており、アポトーシス初期段階では細胞表面微絨毛が消失し、細胞が縮小してクロマチンが正常の網膜構造を失い核膜周辺に凝集し、核の断片化が起こる。その後、細胞の表面に突起が出現し(blebbing)、細胞膜構造を維持したままちぎれてアポトーシス小体を形成する。一方、ネクローシスでは、まず、ミトコンドリアなどの細胞内小器官の膨大化が起こり、細胞が徐々に膨化し、最後には浸透圧を制御できなくなり細胞溶解が起こり破裂する。
【0004】
アポトーシスの検出には様々な方法がある。以下、主な検出法を挙げる。DAPI(4',6-diamidino-2-phenylindole)染色法はアポトーシスに伴うクロマチン凝集を検出する方法である。細胞を固定し、DNAに特異的に結合する蛍光色素DAPIで染色し、蛍光顕微鏡で観察する。生きている細胞はクロマチンDNAの網目状の構造が観察され、アポトーシス細胞では大小多数の球状のクロマチン凝集像が観測される。別の方法では、アポトーシスに伴ってクロマチンDNAがオリゴヌクレオソーム単位で切断されるため、DNA断片を検出する方法がある。このDNA断片の検出方法には、アガロースゲル電気泳動法、TUNEL(terminal deoxynucleotidyl transferase-mediated dUTP-biotin nick end-labeling)アッセイ、SubG1アッセイがある。アガロースゲル電気泳動法では、細胞からDNAを抽出し、アガロースゲル電気泳動で泳動する。アポトーシスを起こした細胞では180〜200bpの整数倍のラダーとして検出される。TUNELアッセイでは、アポトーシスに伴って切断されたDNAの末端をラベルする方法で、末端デオキシヌクレオチジル転移酵素(TdT)を用いてDNA末端にビオチン標識dUTPを結合させ、さらにFITC(fluorescein isothiocyanate)−アビジン複合体を結合させて蛍光顕微鏡で観察したりフローサイトメトリー(FACS)で測定する。SubG1アッセイでは、DNA断片を細胞外に洗い流した後、DNAをPI(ヨウ化プロピジウム)で染色し、FACSで測定して、アポトーシス細胞を生きたG1期細胞よりDNA量の少ない細胞(SubG1 cell)として同定する。また、アポトーシスによる細胞膜の変化を検出する方法もある。正常な細胞膜の内膜と外膜ではリン資質成分が不均一に分布しており、たとえばスフィンゴミエリンやフォスファチジルコリンは外膜に局在し、一方、ホスファチジルセリン(PS)やホスファチジルエタノールアミンは主として内膜に存在している。アポトーシス過程の早期に、内膜のホスファチジルセリンやホスファチジルエタノールアミンは細胞表面に移行し露出する。アネキシンVはカルシウム存在下にホスファチジルセリンと結合するタンパク質であるため、FITCなどで標識したアネキシンVを細胞表面に露出したホスファチジルセリンと結合させFACSで測定することでアポトーシス細胞を検出する。さらに、アポトーシスが生じるときのシグナル伝達を測定する方法もある。活性化の過程で切断された種々のカスパーゼの断面に対する抗体を用いて免疫組織染色法や酵素免疫定量法(ELISA法)により検出する。
【0005】
また、アポトーシスの初期イベントにおいて、サイトケラチン18がカスパーゼによって切断されることが知られている。アポトーシスに伴って産生されるサイトケラチン18のカスパーゼ分解物は、細胞の原形質内に広範囲に存在することが知られている(非特許文献1)。サイトケラチン18のカスパーゼ分解物に対して特異的に結合する抗体として、M30抗体(M30サイトデス(商品名))が市販されている。このM30抗体は、原形質におけるサイトケラチン18のカスパーゼ分解物を検出することができ、アポトーシスの初期段階を決定するものとして利用されている。なお、サイトケラチン18は、上皮細胞特異的に存在するものとして知られている(非特許文献2)。
【0006】
【非特許文献1】J. Cell. Biol. 2000 Mar 20;148(6):1239-54.
【非特許文献2】Biomed. Pharmacother. 2005 Oct;59 Suppl 2:S359-62.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上述したような如何なるアポトーシス検出方法においても、細胞自身を破砕して細胞内成分を抽出したり、細胞を固定して染色液で処理する工程が必要となる。特に、M30抗体を利用したアポトーシス検査方法は、定法に従って固定したパラフィン包埋組織切片等の組織サンプルに対して適用されるものであった。
【0008】
一方、培養槽を用いた細胞培養において、細胞のアポトーシスを検査する際に上述した手法を適用すると、FACSや電気泳動装置等の計測装置までに、培地から抜き取った細胞に対して破砕処理や染色処理等を行う必要があり、非常に煩雑な処理が必要であった。そこで、本発明は、上述した実情に鑑み、細胞自身の処理を必要とせず、培養液を測定することで、培養槽内のアポトーシスの状態を測定するアポトーシス検出方法及びアポトーシス検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した目的を達成した本発明に係るアポトーシス検出方法は、動物細胞を培養した培地に含まれるサイトケラチン18のカスパーゼ分解物を検出する工程を含み、上記培地中の上記カスパーゼ分解物の量を指標にして上記動物細胞のアポトーシスを測定する。一方、本発明に係るアポトーシス検出装置は、動物細胞を培養した培地を供給する反応部と、上記反応部に供給された培地に含まれるサイトケラチン18のカスパーゼ分解物を検出する検出手段とを備え、上記検出手段で上記反応部に供給された培地に含まれるカスパーゼ分解物を測定して、当該カスパーゼ分解物の量を指標にして上記動物細胞のアポトーシスを検出するものである。
【0010】
本発明に係るアポトーシス検出方法及び検出装置は、培養中の動物細胞を無菌的に取り出して種々の処理を行う必要が無い。ここで、上記カスパーゼ分解物はM30抗体で検出することが好ましい。また、動物細胞としてはチャイニーズハムスター卵巣細胞及び/又はハイブリドーマCRL-1606細胞とすることができる。
【0011】
本発明に係るアポトーシス検出方法及び検出装置は、動物細胞のアポトーシスの初期段階において、サイトケラチン18のカスパーゼ分解物が細胞外の培地中に分泌されるといった新規知見に基づいている。よって、上記カスパーゼ分解物の検出には何ら限定されず、培地に含まれるカスパーゼ分解物を検出できる手段であれば如何なる方法及び装置を適用することができる。一例としては、培地に含まれるカスパーゼ分解物をELISA法を用いることで検出することができる。
【0012】
また、本発明に係るアポトーシス検出方法では、上記培地に含まれるカスパーゼ分解物をマイクロ流路内で検出しても良い。例えば、マイクロ流路の内壁に、カスパーゼ分解物に対して特異的に結合する抗体(例えば、M30抗体)を結合させ、ELISA法を適用して培地に含まれるカスパーゼ分解物を検出することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るアポトーシス検出方法及び検出装置によれば、従来必要であった分析前の煩雑な細胞の前処理を必要とせず、非常に簡便な処理によって動物細胞のアポトーシスを検出することができる。また、本発明に係るアポトーシス検出方法及び検出装置によれば、従来必要であった分析前の煩雑な細胞の前処理を必要としないため、従来細胞の前処理等に数時間かかっていた過程を省略でき、アポトーシス検出の時間を大幅に短縮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明に係るアポトーシス検出方法及びアポトーシス検出装置を図面を参照して詳細に説明する。本発明に係るアポトーシス検出装置の使用用途はなんら限定されるものではなく、培養槽内のアポトーシスモニタリング、組織培養中のアポトーシスモニタリング、培養細胞の保存溶液のアポトーシス分析等挙げることができる。
【0015】
本発明に係るアポトーシス検出方法及びアポトーシス検出装置では、動物細胞を培養した培地に含まれるサイトケラチン18のカスパーゼ分解物を検出する。これは、動物細胞のアポトーシスの初期段階において、サイトケラチン18のカスパーゼ分解物が細胞外の培地中に分泌されるといった新規知見に基づいている。したがって、サイトケラチン18のカスパーゼ分解物の検出には何ら限定されず、培地に含まれるカスパーゼ分解物を検出できる手段であれば如何なる方法及び装置を適用することができる。
【0016】
本発明に係るアポトーシスの検出方法及び検出装置においては、サイトケラチン18のカスパーゼ分解物と特異的に結合する抗体を使用することが好ましい。具体的に、サイトケラチン18のカスパーゼ分解物は、特に限定されないが、M30抗体(ロシュ社製、商品名:M30サイトデス)を使用することができる。なお、このM30抗体が特異的に結合するサイトケラチン18のカスパーゼ分解物をM30と称する場合もある。
サイトケラチン18のカスパーゼ分解物と特異的に結合する抗体を用いて当該分解物を検出する場合、一例としてはELISA法を用いることができる。より具体的には、当該個体を用いたサンドイッチELISA法を用いて、検出する。アポトーシスの検出にはM30に限定されるものではなく、アポトーシスに伴って分泌される物質であれば検出可能である。また、M30の検出においてサンドイッチELISA法を用いてサイトケラチン18のカスパーゼ分解物を検出することができる。なお、検出方法としてはELISA法に限定されず、ウェスタンブロッテリング等の方法を用いても構わない。
【0017】
液体培地に培養する動物細胞としては、特に限定されず、従来においてアポトーシスの初期段階に上述のカスパーゼ分解物が原形質に蓄積されることが知られている上皮細胞であっても良いし、このような知見が未知であったその他の動物細胞であってもよい。例えば、本発明に係るアポトーシスの検査方法及び検査装置では、チャイニーズハムスター卵巣細胞や、特定の抗体を産生するハイブリドーマを培養対象の動物細胞とすることができる。これえら細胞系におけるアポトーシスにおいて、培地中にサイトケラチン18のカスパーゼ分解物が検出されるといった知見は新規知見である。
【0018】
アポトーシス検出装置の一例としては、図1及び2に示すようにマイクロ流路5を反応場とする装置を例示することができる。培養液に含まれるサイトケラチン18のカスパーゼ分解物は微量であるため、マイクロ流路を反応場とする検出装置によれば検出時間の大幅な短縮を図ることができる。しかし、検出時間が問題とならない場合は、プレートを用いたELISA法を適用した検出装置を用いることも可能である。
【0019】
図1及び2に示すようにアポトーシス検出装置13内には、マイクロ流路5内に1次抗体(抗サイトケラチン18抗体;M5抗体)を結合させたチップ6を設置しておく。チップ6は、図2に詳細に示すように、マイクロ流路5に液を供給するための送液入口17及びマイクロ流路5から液を排出するための送液出口18が形成された上部部材と、マイクロ流路5が一主面に形成された下部部材とを、一主面が対向するように張り合わされた構成を有している。
【0020】
アポトーシス検出装置13でアポトーシスを検出する際には、先ず、培養槽1から細胞が混入しないようにフィルター2を通した培養液を、ポンプ3を用いてマイクロ流路5内に送液する。細胞死がアポトーシスであると培養液中にはサイトケラチン18のカスパーゼ分解物(M30)が存在し、このM30が流路内壁の1次抗体に結合する。次にビオチンを結合させたM30抗体を、マイクロシリンジ4及びポンプ3を用いて送液する。洗浄液を送液した後、アルカリフォスファターゼを結合させたストレプトアビジンを送液する。洗浄液を送液した後、NBT基質 (nitro-blue tetrazolium chloride基質)を送液し、吸光度計7により405nmでの吸光度を測定する。なお、吸光度計7は、吸光度を検出するためのディテクター8、マイクロ流路5を通過した溶液を送液するためのセル9、所望の波長(405nm)の光を通過させるための波長フィルタ10及び光源11から構成されている。
【0021】
以上により、培養液に含まれるM30を測定することができ、動物細胞におけるアポトーシスを検出することができる。アポトーシス検出装置で測定した培地中のM30濃度、或いはアポトーシスの段階を示す情報を記録装置14に記録することができる。解析装置15は、記録装置14に記録された培地中のM30濃度或いはアポトーシスの段階を示す情報を解析し、適切な培養条件となるように解析を行う。具体的には、培養槽1の培養温度条件、撹拌培養の場合には撹拌翼の回転数条件、培地成分の濃度条件、培養液のpH条件等に関して制御値を算出する。制御装置16は、解析装置15で算出された制御値を出力して培養槽1内の培養を制御する。具体的に制御装置16は、解析装置15から出力された培養槽1の培養温度条件に従って培養槽1の温度調節装置を制御し、撹拌培養の場合には撹拌翼の回転数条件に従って撹拌翼を駆動する駆動装置を制御し、培地成分の濃度条件に従って培地成分供給装置を制御し、培養液のpH条件に従ってpH調製溶液供給装置を制御する。これにより、動物細胞にとって適切な環境下で培養ができ、生産性も向上する。また、記録装置14に保存したデータは、品質管理の1つの指標として用いることもできる。
【0022】
なお、培養液中のM30の測定終了後、酸性溶液又はアルカリ溶液をマイクロ流路5に送液することで、1次抗体を除くタンパクを廃液タンク12へと洗い流すことができる。洗浄液を流し、ブロッキング液を送液することで、同一チップ6で再度アポトーシスの測定を行なうことが可能となる。
【0023】
1次抗体を結合したチップ6は、流路内壁にはアミノ基処理を施してある。図3に示すように、まずグルタルアルデヒド溶液を送液し、アミノ基を活性化し(a1)、純水による洗浄の後、M5抗体を送液する(a2)ことで、M5抗体を流路内壁に共有結合させることができる(a3)。洗浄の後、ブロッキング液を送液し、送液入口17及び送液出口18を閉じることで乾燥を防止することができる。また、チップ6は、図示しない温度調整装置によって4℃で保存することができる。培養槽1を運転する前にアポトーシス検出装置13に設置すれば、再利用可能であるので運転終了までチップ6の交換は必要ない。抗体のマイクロ流路5への共有結合の方法は、図3(b1)〜(b3)に示すようにカルボキシル基を用いた結合でも構わない。また、共有結合を用いた結合はチップ6を再利用する際に望ましい方法であるが、再利用の必要性のない場合などは疎水結合を用いた結合でも構わない。
【実施例】
【0024】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
【0025】
〔実施例1〕チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)及びハイブリドーマ細胞でのサイトケラチン18の発現確認
(実験方法)
本実施例ではマウスマウスハイブリドーマであるCRL-1606細胞(American Type Culture Collectionより購入)及びチャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO-S細胞;インビトロジェンより購入)を用いた。CRL-1606細胞は抗フィブロネクチン抗体を分泌する浮遊系の細胞であり、培養にはIscove's Modified Dulbecco's Medium(IMDM培地)に5%濃度になるようにFetal bovine serum(FBS)を添加した培地を用いた。以下、血清培地と呼ぶ。CHO-S細胞は付着細胞であるCHO-K1細胞を遺伝子改変して浮遊細胞にした細胞であり、組み換えタンパク生産でよく使用される細胞である。CHO-S細胞の培養では、CD-CHO培地(インビトロジェン社製)を用いた。これら2種の細胞について、上皮細胞特有とされるサイトケラチン18の存在確認を行った。
【0026】
まず、CHO-S細胞について示す。CHO-S細胞をCD-CHO培地を用いて、インキュベータ内(37℃、5%CO、>95%湿度)にて培養した。この培養細胞を細胞数が2×105cellsになるようにマイクロチューブに分注し、遠心器により、5000 rpm、5分遠心し、上澄み液を取り除くことで細胞を回収した。回収した細胞に4%ホルムアルデヒド溶液を加え、15分間静置した。5000rpm、5分遠心を行い、ホルムアルデヒド溶液を取り除き、洗浄のためPBS溶液を加え、5000rpm、5分遠心を行い、PBS溶液を取り除いた。0.5%TritonX-100溶液を加え、室温で5分間静置した。5000rpm、5分遠心を行い、0.5%TritonX-100溶液を取り除き、洗浄のためPBS溶液を加え、5000rpm、5分遠心を行い、PBS溶液を取り除いた。3%BSA溶液を加え、室温で1時間静置した。遠心でBSA溶液を取り除いた後、抗サイトケラチン18抗体(M5)を37℃で1時間インキュベーションした。
【0027】
遠心で抗サイトケラチン18抗体を取り除いた後、洗浄液で2回洗浄した後、FITCラベルした抗IgG抗体を加え、37℃で1時間インキュベーションした。洗浄液で洗浄した後、蛍光顕微鏡(励起光490nm,蛍光520 nm以上)により、細胞の蛍光画像を観測した。結果を図4に示す。図4に示したように、CHO-S細胞では、抗サイトケラチン18抗体で蛍光が観測された(図中左上)のに対し、抗サイトケラチン18抗体を除いた場合では蛍光は観測されなかった(図中右上)。このことより、CHO-S細胞およびハイブリドーマ細胞にはサイトケラチン18が発現していることが確認された。
【0028】
CRL-1606細胞については、細胞自身がIgGを分泌するため、2次抗体にFITCラベルした抗IgG抗体を用いない方法をとる必要があり、蛍光標識(FITC)された抗サイトケラチン18抗体で直接染色する方法を用いた。ブロッキングまでの細胞の処理は上記CHO-S細胞のときと同様に処理し、ブロッキング後に抗サイトケラチン18抗体を37℃、1時間インキュベーションし、洗浄の後、蛍光顕微鏡にて観測した(励起光 490nm,蛍光520 nm以上)。結果を図5に示す。図5に示すように、抗サイトケラチン18抗体によってCRL-1606細胞は染色されていることがわかる(図中上)。
【0029】
以上より、CHO-S細胞及びCRL-1606細胞にはサイトケラチン18が細胞内に発現していることが確認された。上皮細胞に特異的に発現するとされていたサイトケラチン18が、これらCHO-S細胞及びCRL-1606細胞に発現しているといった知見は新規な知見であった。
【0030】
〔実施例2〕細胞破砕溶液を用いたアポトーシス誘導によるM30の確認
(実験方法)
培養細胞(CHO-S細胞もしくはCRL-1606細胞)にカスパーゼ3阻害剤であるAsp-Glu-Val-Asp-CHOを加えた場合、アポトーシス誘導剤であるスタウロスポリンを加えた場合、コントロールとしてジメチルスルホキシド(DMSO)を加えた場合(スタウロスポリンはDMSO中に溶解しているため)、それぞれ4時間、37℃、5%CO2の環境で培養した。それぞれの培養細胞を遠心(800rpm、5分)によって細胞と培養液に分離した後、細胞沈殿には0.5% NP-40溶液を加え、ボルテックスにより破砕溶解を行った。それぞれの培養条件において、細胞破砕溶液と細胞を取り除いた培養液とを以下のELISA法を用いて、M30の検出を行った。
【0031】
96ウェルプレートに抗サイトケラチン18抗体(M5抗体;ロシュ・ダイアグノスティックス)を結合させた。次にスキムミルクでブロッキングを行った後、上記調製した細胞破砕溶液、培養溶液を添加し、37℃、1時間インキュベーションを行った。3回の洗浄の後、ビオチンラベルされたM30抗体溶液(ロシュ・ダイアグノスティックス)を添加し、37℃、1時間インキュベーションを行った。3回の洗浄の後、HRPラベルされたストレプトアビジンを添加し、37℃、1時間インキュベーションを行った。3回の洗浄の後、TMB基質溶液を添加し、室温で20分インキュベーションを行い、その後、硫酸を添加し、450nmの吸光度を測定した。
【0032】
結果を図6に示す。図6(a)はCHO-S細胞における細胞破砕溶液について吸光度を測定した結果であり、図6(b)はCHO-S細胞における培養液について吸光度を測定した結果であり、図6(c)はCRL-1606細胞における細胞破砕溶液について吸光度を測定した結果であり、図6(b)はCRL-1606細胞における培養液について吸光度を測定した結果である。図6(a)及び(b)に示したように、CHO-S細胞において、細胞内および培養液ともにカスパーゼ3阻害剤の存在下においてが吸光度減少し、アポトーシス誘導剤によって吸光度が増大した。このことより、本方法による吸光度の変化は、アポトーシスによるものであることがわかる。CRL-1606細胞においても同様の結果(図6(c)及び(d))となり、本方法によってアポトーシスの検出が可能であることが示された。
【0033】
〔実施例3〕培養液でのM30の検出
(実験方法)
CRL-1606細胞を1L培養槽にて流加培養した。培養条件は37℃、60%飽和溶存酸素濃度にて攪拌培養を行った。12時間に1度、無菌的に細胞を含んだ培養液を5mLサンプリングし、そのうちの1mLを生細胞数計ViCell(ベックマンコールター)を用いて総細胞数および生細胞数を計測した。残りの培養液は遠心器(800rpm、5分)によって細胞を沈殿させ、上澄み液を凍結保存した。培養終了後、実施例2に記載した方法を用いて、培養液中のM30の検出を行った。
【0034】
1L培養槽での培養液中のM30の経時変化と総細胞数および生細胞数の経時変化のグラフを図7に示す。図7に示したように、生細胞数の減少、すなわち死細胞数の増加に伴い、M30の量が増加していくことがわかる。本アポトーシス検出法を用いることで、培養液からアポトーシスの検出を行うことが可能であることが明らかとなった。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明を適用したアポトーシス検出装置を模式的に示す概略構成図である。
【図2】マイクロ流路チップを模式的に示す概略構成図である。
【図3】抗体の流路への共有結合法を示す概略図である。
【図4】実施例におけるチャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)の免疫組織染色による発現確認を示す図である。
【図5】実施例におけるハイブリドーマ細胞(CRL-1606細胞)の免疫組織染色による発現確認を示す図である。
【図6】実施例におけるチャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)、ハイブリドーマ細胞(CRL-1606細胞) それぞれの細胞外、細胞内での本アポトーシス検出法における吸光度の結果を示す図である。
【図7】実施例におけるCRL-1606細胞の回分培養における培養液中のM30の検出を示した図である。
【符号の説明】
【0036】
1…培養槽、2…フィルター、3…ポンプ、4…シリンジ、5…マイクロ流路、6…チップ、7…吸光度計、8…ディテクター、9…セル、10…波長フィルタ、11…光源、12…廃液タンク、13…アポトーシス検出装置、14…記録装置、15…解析装置、16…制御装置、17…送液入口、18…送液出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動物細胞を培養した培地に含まれるサイトケラチン18のカスパーゼ分解物を検出する工程を含み、上記培地中の上記カスパーゼ分解物の量を指標にして上記動物細胞のアポトーシスを測定することを特徴とするアポトーシス検出方法。
【請求項2】
上記カスパーゼ分解物をM30抗体で検出することを特徴とする請求項1記載のアポトーシス検出方法。
【請求項3】
上記動物細胞がチャイニーズハムスター卵巣細胞及び/又はハイブリドーマCRL-1606細胞である請求項1記載のアポトーシス検出方法。
【請求項4】
上記カスパーゼ分解物の検出にELISA法を用いることを特徴とする請求項1記載のアポトーシス検出方法。
【請求項5】
上記培地に含まれるカスパーゼ分解物を検出する際の反応場にマイクロ流路を利用することを特徴とする請求項1記載のアポトーシス検出方法。
【請求項6】
上記カスパーゼ分解物の検出にELISA法を用い、当該ELISA法で測定する際に使用する1次抗体をマイクロ流路の壁面に共有結合させることを特徴とする請求項1記載のアポトーシス検出方法。
【請求項7】
動物細胞を培養した培地を供給する反応部と、上記反応部に供給された培地に含まれるサイトケラチン18のカスパーゼ分解物を検出する検出手段とを備え、
上記検出手段で上記反応部に供給された培地に含まれるカスパーゼ分解物を測定して、当該カスパーゼ分解物の量を指標にして上記動物細胞のアポトーシスを検出することを特徴とするアポトーシス検出装置。
【請求項8】
上記検出手段がM30抗体であることを特徴とする請求項7記載のアポトーシス検出装置。
【請求項9】
上記動物細胞がチャイニーズハムスター卵巣細胞及び/又はハイブリドーマCRL-1606細胞である請求項7記載のアポトーシス検出装置。
【請求項10】
上記検出手段はELISA法を適用したものであることを特徴とする請求項7記載のアポトーシス検出装置。
【請求項11】
上記反応部はマイクロ流路を備えることを特徴とする請求項7記載のアポトーシス検出装置。
【請求項12】
上記検出手段はELISA法を適用したものであり、当該ELISA法で測定する際に使用する1次抗体をマイクロ流路の壁面に共有結合させたことを特徴とする請求項7記載のアポトーシス検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−162564(P2009−162564A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−340605(P2007−340605)
【出願日】平成19年12月28日(2007.12.28)
【出願人】(000005452)株式会社日立プラントテクノロジー (1,767)
【Fターム(参考)】