説明

アミド脱水反応用触媒及びそれを用いるニトリルの製造方法

【課題】工業的規模でアミドからニトリルを製造するための触媒を提供する。
【解決手段】第一級アミドを脱水することによりニトリルを製造するために用いる触媒であって、金属バナジウム及びバナジウム化合物の少なくとも1種のバナジウム成分がハイドロタルサイト様化合物に担持されてなるアミド脱水反応用触媒及びこの触媒を用いたニトリルの製造方法に係る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アミド脱水反応用触媒及びそれを用いるニトリルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ニトリルは、溶媒、合成樹脂、染料、医薬中間体等の多くの用途に利用されている。ニトリルの合成方法の一つとして、NaCN、KCN等の青酸塩とハロゲン化物を用いる方法が知られているが、危険な青酸塩を用いる点、廃棄物として多量の無機塩が副生する点等で問題がある。一方、アミドの脱水によるニトリルの合成もあるが、実際にこの方法でニトリルを合成することは非常に難しく、四塩化チタン、塩化チオニル、無水トリフルオロ酢酸等を用いる量論反応がわずかに報告されているにすぎない。
【0003】
これに対し、アミドの脱水反応において、触媒としてレニウムオキソ錯体((HO)ReO)を用いる反応系も知られており、最高194の触媒回転数が達成されている(非特許文献1)。
【0004】
しかしながら、レニウムは、希少金属の中で最も希少な金属になるため、より入手し易い材料を用いた反応系でアミドの脱水反応を実現することが必要とされる。また、上記のレニウムオキソ錯体を用いる方法は均一系であることから、ニトリル合成後の精製、触媒の分離等の後工程が煩雑となる。
【非特許文献1】K. Ishihara et al., Angew. Chem. Int. Ed. 2002,41, 2983
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明の主な目的は、アミドの脱水反応によるニトリル製造を工業的規模で実現できる触媒を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、従来技術の問題点に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、特定成分と特定の担体との組み合わせにより上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、下記のアミド脱水反応用触媒及びそれを用いるニトリルの製造方法に係る。
【0008】
1. 第一級アミドを脱水することによりニトリルを製造するために用いる触媒であって、金属バナジウム及びバナジウム化合物の少なくとも1種のバナジウム成分がハイドロタルサイト様化合物に担持されてなるアミド脱水反応用触媒。
2. ハイドロタルサイト様化合物が、下記の一般式(1)
2+1−x3+(OH2+x−y(An−y/n …(1)
(式中、M2+は二価の金属イオンを示し、M3+は三価の金属イオンを示し、An−はn価の陰イオンを示す。xは0.1≦x≦0.5の範囲の正数、yは0.1≦y≦0.5の範囲の正数であり、nは1又は2の整数である。)で示される、前記項1に記載のアミド脱水反応用触媒。
3. M2+がMg2+であり、M3+がAl3+である、前記項1又は2に記載のアミド脱水反応用触媒。
4. 二価の金属イオンと三価の金属イオンとのモル比(M2+:M3+)がM2+:M3+=2〜7:1である、前記項1〜3のいずれかに記載のアミド脱水反応用触媒。
5. 少なくともバナジウム成分として5価のバナジウムを含む、前記項1〜4のいずれかに記載のアミド脱水反応用触媒。
6. バナジウムイオンを含む溶液をハイドロタルサイト様化合物に含浸した後、乾燥することにより得られる、前記項1〜5のいずれかに記載のアミド脱水反応用触媒。
7. 前記項1〜6のいずれかに記載の触媒の存在下、第一級アミドを加熱して脱水反応させることによりニトリルを製造することを特徴とするニトリルの製造方法。
8. 有機溶媒の存在下又は有機溶媒中で脱水反応を行う、前記項7に記載の製造方法。
9. 加熱温度が160〜200℃である、前記項7又は8に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明のアミド脱水反応用触媒によれば、これまで困難とされていたアミドの脱水を効率的に進行させることができるので、アミド(酸アミド)を原料として用いたニトリルの製造が工業的規模で実現可能となる。
【0010】
また、本発明のアミド脱水反応用触媒は、バナジウム成分として比較的入手し易いバナジウムを採用しているので、希少なレニウム系触媒を用いる場合等に比べて安定供給が可能であり、しかもレニウム系触媒に比して安価であるという点でも有利である。
【0011】
さらに、本発明のアミド脱水反応用触媒は固体触媒であることから、液相で脱水反応させることにより反応系を不均一系とすることができる。これにより、反応終了後の触媒の回収が容易となり、均一系の場合に比べて生産効率にも優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
1.アミド脱水反応用触媒
【0013】
本発明のアミド脱水反応用触媒(本発明触媒)は、第一級アミドを脱水することによりニトリルを製造するために用いる触媒であって、金属バナジウム及びバナジウム化合物の少なくとも1種のバナジウム成分がハイドロタルサイト様化合物に担持されてなることを特徴とする。
【0014】
本発明触媒は、第一級アミドを脱水反応させることによりニトリルを製造するために用いるものである。すなわち、下記の反応によりニトリルを製造する場合に用いられるものである。
【0015】
R−CONH→R−CN+HO(但し、Rは炭化水素基を示す。)
【0016】
バナジウム成分としては、金属バナジウム及びバナジウム化合物の少なくとも1種を用いる。バナジウム化合物としては、バナジウムの供給源となるものであれば限定されず、例えばバナジウムの酸化物、バナジウムの塩化物、バナジン酸、バナジン酸塩、バナジル含有化合物等の少なくとも1種が挙げられる。より具体的には、五酸化バナジウム、三酸化バナジウム、四酸化二バナジウム、塩化バナジウム、メタバナジン酸ナトリウム、メタバナジン酸カリウム、メタバナジン酸アンモニウム、酸化硫酸バナジウム(硫酸バナジル)、塩化酸化バナジウム、臭化酸化バナジウム、バナジルアセチルアセトネート等の1種又は2種以上を用いることができる。本発明触媒では、バナジウム成分として5価のバナジウムを含むことが望ましい。例えば、メタバナジン酸ナトリウム等を用いることができる。なお、担持されているバナジウム成分の価数は、V K-edge XAFS法により確認することができる。
【0017】
バナジウム成分の担持量は、当該成分の種類、用いるアミドの種類等に応じて適宜設定できるが、一般的には本発明触媒中0.1〜20重量%程度、特に1〜10重量%とすることができる。本発明触媒の元素分析は、ICP測定により行うことができる。
【0018】
なお、本発明触媒では、その触媒活性を妨げない範囲内で、前記のバナジウム成分のほか(バナジウム及びバナジウム化合物以外)の成分が存在しても良い。
【0019】
ハイドロタルサイト様化合物は、公知又は市販のものを使用することができる。また、公知の製法によって得られるものも使用することができる。天然ハイドロタルサイト様化合物又は合成ハイドロタルサイト様化合物のいずれであっても良いが、合成ハイドロタルサイト様化合物を用いることが好ましい。
【0020】
本発明では、特に、下記の一般式(1)
2+1−x3+(OH2+x−y(An−y/n …(1)
(式中、M2+は二価の金属イオンを示し、M3+は三価の金属イオンを示し、An−はn価の陰イオンを示す。xは0.1≦x≦0.5の範囲の正数、yは0.1≦y≦0.5の範囲の正数であり、nは1又は2の整数である。)
で示されるハイドロタルサイト様化合物を好適に用いることができる。
【0021】
上記の二価の金属イオンとしては、例えばMg2+、Ca2+、Fe2+、Zn2+及びCu2+等の少なくとも1種を採用することができる。本発明では、特にMg2+及びCa2+の少なくとも1種が好ましく、この中でもMg2+がより好ましい。なお、M2+は、一種の金属イオンから構成されていても良いし、二種以上の金属イオンから構成されていても良い。また、上記の三価の金属イオンとしては、例えばAl3+及びFe3+の少なくとも1種を採用することができる。この中でもAl3+が好ましい。また、M2+と同様に、M3+も1種の金属イオンから構成されていても良いし、また2種以上の金属イオンから構成されていても良い。
【0022】
本発明触媒では、二価の金属イオンと三価の金属イオンとのモル比(M2+:M3+)がM2+:M3+=2〜7:1であることが好ましく、特にM2+:M3+=2〜4:1であることがより好ましい。この範囲内に設定することによって、より優れた触媒活性を得ることができる。
【0023】
上記の陰イオンとしては、CO2−、Cl、OH、NO、NO及びSO2−を例示することができる。この中でも、CO2−及びOHの少なくとも1種を挙げることができる。陰イオンも、1種から構成されていても良いし、また2種以上の任意の組み合わせで構成されていても良い。
【0024】
なお、本発明触媒で使用されるハイドロタルサイト様化合物は、水和物であっても良いし、無水物であっても良い。
【0025】
ハイドロタルサイト様化合物の具体例としては、例えば組成式としてMgAl(OH)16CO・4HO、Mg4Al(OH)12CO、Mg10Al(OH)24CO等で示されるものを好適に用いることができる。特に、本発明では、ハイドロタルサイト様化合物として、組成式MgAl(OH)16COで示されるものを好適に使用することができる。このようなハイドロタルサイト様化合物として、特にMg2+が酸化マグネシウム換算で34〜38重量%、Al3+が酸化アルミニウム換算で13〜19重量%含まれており、液性pHが約8〜10程度、乾燥減量10%以下という物性をもつハイドロタルサイト様化合物が好ましい。このようなハイドロタルサイト様化合物としては、例えば市販品「トミタ−AD 500NS」(富田製薬(株)製)がある。この製品は、Mg2+が酸化マグネシウム換算で37重量%、Al3+が酸化アルミニウム換算で16重量%含まれており、液性pHが約8.9程度、乾燥減量5.7%という物性を有し、第一級アミドの脱水反応をより効果的に進行させることができる。
【0026】
本発明で用いられるハイドロタルサイト様化合物の形状は限定されないが、通常は粉末状、粒子状のものを使用すれば良い。この場合、粉末状として平均粒径10μm以下のもの、粒子状として平均粒径10〜200μm程度のものを挙げることができるが、本発明では平均粒径5〜10μm程度のものを使用することが好ましい。平均粒径は、分級、粉砕等により適宜調節することができる。なお、前記の平均粒径は、レーザー回折測定法による値である。
ハイドロタルサイト様化合物の製造方法は特に限定されない。例えば、まず、二価の金属イオン及び三価の金属イオンを含む溶液(第1溶液)、陰イオン及びアルカリを含む溶液(第2溶液)をそれぞれ調製し、両者を混合することにより沈殿物を析出させた後、得られた沈殿物を乾燥することによりハイドロタルサイト様化合物を得ることができる。より具体的には、二価の金属イオンがMg2+、三価の金属イオンがAl3+、陰イオンがCO2−である場合は、水溶性マグネシウム塩及び水溶性アルミニウム塩を水に溶解して第1溶液を調製し、炭酸塩及び水酸化ナトリウムを水に溶解して第2溶液を調製し、両溶液を60〜70℃で12〜24時間加熱しながら攪拌・混合した後、析出した沈殿物を回収し、必要に応じて水で洗浄した後、100〜120℃程度で乾燥させることにより所定のハイドロタルサイト様化合物を得ることができる。
【0027】
本発明触媒の製造方法は、金属バナジウム及び/又はバナジウム化合物をハイドロタルサイト様化合物に担持(固定化)できる限り、特に限定されない。例えば、バナジウムイオンを含む溶液をハイドロタルサイト様化合物に含浸させた後、乾燥することによって本発明触媒を得ることができる。
【0028】
前記のバナジウムイオンを含む溶液は、バナジウムの供給源を溶媒に溶解することにより調製することができる。バナジウムの供給源としては、前記でバナジウム化合物として例示したものを採用することができる。すなわち、バナジウムの酸化物、バナジウムの塩化物、バナジン酸、バナジン酸塩、バナジル含有化合物等の少なくとも1種が例示される。より具体的には、五酸化バナジウム、三酸化バナジウム、四酸化二バナジウム、塩化バナジウム、メタバナジン酸ナトリウム、メタバナジン酸カリウム、メタバナジン酸アンモニウム、酸化硫酸バナジウム(硫酸バナジル)、塩化酸化バナジウム、臭化酸化バナジウム、バナジルアセチルアセトネート等の1種又は2種以上を用いることができる。また、前記溶液で用いる溶媒としては水が好適であるが、これに限定されない。溶液の濃度は、用いるバナジウム供給源の種類等に応じて適宜設定できるが、通常は1〜4重量%程度の範囲内とすれば良い。
【0029】
バナジウムイオンを含む溶液をハイドロタルサイト様化合物に含浸させる方法も限定的ではなく、例えば前記溶液にハイドロタルサイト様化合物を浸漬する方法、前記溶液をハイドロタルサイト様化合物に噴霧する方法等のいずれであっても良い。
【0030】
前記溶液をハイドロタルサイト様化合物に含浸させた後は、例えばろ過、遠心分離等の公知の固液分離方法によりバナジウム担持ハイドロタルサイト様化合物を回収すれば良い。その後、必要に応じて乾燥工程に供しても良い。
【0031】
2.ニトリルの製造方法
【0032】
本発明の製造方法は、本発明触媒の存在下、第一級アミドを加熱して脱水反応させることによりニトリルを製造することを特徴とする。
【0033】
第一級アミドとしては、アミド基(−CONH基)をもつ有機化合物であれば特に限定されない。また、第一級アミドは、アミド基を1つ又は2つ以上有していても良い。例えば、本発明では、アミド基が1つである第一級アミドを好適に用いることができる。第一級アミドとしては、例えば、1)アミド基の炭素原子が、置換基を有していても良い芳香環に結合したアミド(芳香族アミド)、2)アミド基の炭素原子が、置換基を有していても良いヘテロ環に結合したアミド、3)アミド基の炭素原子が、置換基を有していても良い縮合環に結合したアミド(多環式アミド)、4)アミド基の炭素原子が、置換基を有していても良い脂肪族炭化水素に結合した脂肪族アミド等のいずれにも活性を示し、効果的に脱水反応を行うことができ、これらに対応するニトリルを合成することができる。
【0034】
より具体的には、ベンズアミド、アミノベンズアミド、クロロベンズアミド、ブロモベンズアミド、ニトロベンズアミド、メトキシベンズアミド、トルアミド、1−ナフトルアミド、2−ナフトルアミド、ニコチンアミド、イソニコチンアミド、2−フルアミド、3−フルアミド、アセトアミド、プロピオンアミド、ブチルアミド、メタクリルアミド、アクリルアミド、ステアルアミド、シンナムアミド、ラクトアミド、グリセルアミド、2−チオフェンカルボキサミド、フェニルアセトアミド、シクロヘキサカルボキサミド、カプロン酸アミド等の第一級アミドを例示することができる。
【0035】
本発明の製造方法における反応系は、用いる第一級アミドの性状等に応じて適宜変更することができ、例えば液相反応、気相反応等のいずれであっても良い。特に、本発明の製造方法では、本発明触媒との関係で不均一系の反応系を形成できるという点で液相反応とすることが望ましい。この場合は、有機溶媒の存在下又は有機溶媒中で脱水反応を行うことができる。前記の有機溶媒としては、公知又は市販の有機溶媒を用いることができる。有機溶媒としては、用いる第一級アミドを溶解できるものであれば良いが、特に非極性溶媒が好ましい。このような有機溶媒としては、例えばメシチレン、p−キシレン等を用いることができる。
【0036】
脱水反応に際しては、本発明触媒を第一級アミドと反応系に併存させれば良い。特に、液相反応とする場合には、有機溶媒中に第一級アミド及び本発明触媒を共存させることにより脱水反応をより効果的に進めることができる。本発明触媒の使用量は限定的でないが、通常は第一級アミド1mmolに対して0.1g程度とすれば良い。また、有機溶媒中の第一級アミドの含有量(濃度)は、一般的に0.5〜30重量%(好ましくは0.5〜5重量%)の範囲内で、用いる第一級アミドの種類等に応じて適宜設定すれば良い。
【0037】
本発明の製造方法では、第一級アミドを本発明触媒の存在下で加熱する。加熱温度は特に限定されないが、通常は160〜200℃程度、より好ましくは170〜190℃、最も好ましくは175〜185℃とすれば良い。
【0038】
反応形式としては特に制限されず、連続式、回分式等のいずれであっても良い。例えば、回分式の場合は、反応系に第一級アミドと本発明触媒をともに仕込めば良い。連続式の場合は、反応装置に予め本発明触媒を充填しておくか、あるいは反応系に第一級アミドとともに本発明触媒を連続的に投入する。触媒は、固定床、流動床、懸濁床等のいずれも適用することができる。
【0039】
本発明の製造方法では、脱水反応により逐次生成する水を除去しながら行うことが望ましい。例えば、環流、蒸留しながら脱水反応を行うことが望ましい。
【0040】
脱水反応により生成したニトリルは、カラムクロマトグラフィー等の公知の方法に従って精製、回収することができる。
また、脱水反応を終えた後は、必要に応じて本発明触媒を回収することができる。特に、本発明の製造方法では、本発明触媒が固体触媒を用いることから、反応系がいわゆる不均一系となり、通常の固液分離方法により本発明触媒を容易に回収することができる。この点、本発明の製造方法では、触媒が液相である均一系に比べて後工程を非常に簡略化できる。
【実施例】
【0041】
以下に実施例を示し、本発明の特徴をより具体的に説明する。ただし、本発明の範囲は、実施例に限定されない。
【0042】
製造例1
本発明のアミド脱水反応用触媒を下記の通りにして製造した。
(1)ハイドロタルサイト様化合物の合成
前記一般式(1)において、二価の金属イオンとしてMg2+、三価の金属イオンとしてAl3+、陰イオンとしてCO2−をもつハイドロタルサイト様化合物(以下「HT」と略記する。)を合成した。このとき、Mg/Al比を2/1, 3/1, 5/1, 8/1に変化させたHT2-1, HT3-1, HT5-1,
HT8-1のそれぞれを以下のようにして調製した。
【0043】
まず、Mg(NO3)2・6H2OとAl(NO3)3・9H2Oを合計0.04 mol、所定の比で100 mLの水に溶かし、第1溶液を調製した。一方、Na2CO3(0.03 mol)とNaOH(0.07 mol)を60 mLの水に溶かし、第2溶液を調製した。大気中で常温にて第2溶液を激しく攪拌させながら第1溶液をゆっくり加えた。得られた混合物を65℃で18時間にわたり加熱しながら激しく攪拌させた。常温まで冷却した後、吸引ろ過した。ろ液が中性になるまで乾かさないように注意しながら水で洗浄した(1.5L程度で中性になった)。その後、110℃で12時間乾燥させることにより所定のハイドロタルサイト様化合物を得た。
【0044】
(2)バナジウム成分の担持
三塩化バナジウムVCl(0.4mmol)を100mLの水に溶解させた。得られた水溶液に前記(1)のハイドロタルサイト様化合物1g(平均粒径約7μm)を大気中で常温にて攪拌させながら加えた。3時間かけて攪拌した後、吸引ろ過し、500mLの水で洗浄した。洗浄後、ろ液が全て流れきってから2時間程度吸引し続けると表面が乾いた。その後、デシケーター中で24時間真空下にて乾燥させた。その後、得られた乾燥物をメノウ乳鉢で粉砕した。これによりバナジウム担持触媒を得た。
【0045】
なお、前記「HT2-1」、「HT3-1」、「HT5-1」、「HT8-1」を担体として用いて得られたバナジウム担持触媒をそれぞれ「V/HT2-1」、「V/HT3-1」、「V/HT5-1」、「V/HT8-1」と表記する。また、HTとして富田製薬(株)製の「トミタAD-500NS」を用いて得られたバナジウム担持触媒を「V/HT」と表記する。
【0046】
実施例1
前記「V/HT」触媒を用いてアミド脱水反応によりニトリルを製造した。ガラス製シュレンク管にオクタゴンスターラーとo-toluamide(1 mmol)とV/HT触媒(0.1g)を加え、還流管を付けて密閉した。次いで、管内を真空に引いた後、アルゴンガスを吸入して置換した。Mesitylene(3mL)を加え、180℃で24時間加熱、攪拌させて反応させた。その結果、表1に示すように、収率89%でo-tolunitrileが得られた。収率は、ガスクロマトグラフィーを用いて内部標準法(標準物質:ビフェニル)を用いて算出した。
【0047】
なお、表1には、比較のため、HTに代えて酸化マグネシウム(entry 2)、γ−リン酸ジルコニウム(entry 3)、HAPヒドロキシアパタイト (entry 4) 、アルミナ(entry 5)、FAPフルオロアパタイト(entry 6)、α−リン酸ジルコニウム (entry7)、バナジウム成分なし(ブランク)(entry 8)を用いたほかは前記製造例1(2)と同様にして製造した触媒を用いて、上記と同様に脱水反応させた結果も併せて示す。
【0048】
【表1】

【0049】
表1に示す通り、担体としてハイドロタルサイト様化合物を用いた場合(entry 1)は、他のものに比して高い収率を示すことがわかる。
【0050】
実施例2
前記の製造例1(2)において、バナジウム供給源として表2に示す各バナジウム化合物を用いて本発明触媒を製造し、実施例1と同様にしてアミド脱水反応を行った。その結果を表2に示す。
【0051】
【表2】

【0052】
表2では、NaVOを用いた場合の収率が91%であり(entry 1)、他のものを用いた場合に比べて優れていた。
【0053】
実施例3
ハイドロタルサイト様化合物の種類及び触媒量を変えて実施例1と同様にしてアミド脱水反応を行った。その結果を表3に示す。なお、表3中「HT3-1(富田製薬)」(entry 5, 14)は、前記の富田製薬(株)製の「トミタAD-500NS」であり、これにバナジウム成分を担持したものを「V/HT3-1」と表記する。
【0054】
【表3】

【0055】
表3に示すように、本発明触媒は所定の活性を示し、とりわけV/HT2-1, V/HT3-1はより高い活性を示した。
【0056】
実施例4
前記「V/HT」を用い、アミドとして表4に示す化合物を用いたほかは、実施例1と同様にしてアミド脱水反応を行った。その結果を表4に示す。
【0057】
【表4】

【0058】
表4からも明らかなように、いろいろな第一級アミドに本発明触媒を適用できることがわかる。例えば、entry1-14に示すように、さまざまな置換基をもつ芳香族アミドに適用できた。toluamideについてはオルト位にメチル基がある方がメタ位やパラ位のものよりも高い反応性を示した(entry2,4,5)。aminobenzamideやchlorobenzamideにおいてもオルト位に置換基がある方が高い活性を示した(entry 6-10)。また、本発明触媒は、ヘテロ環を有するアミドにも適用でき、それらに対応するニトリルを高収率で得ることができる(entry 15-18)。また、多環式アミドは効率良く脱水された(entry19)。さらに、脂肪族アミドにも活性を示した(entry 22-26)。
【0059】
試験例1
ラージスケールでの使用の可能性を調べた。実施例4において、o-toluamideを基質として用いてラージスケールで反応を行った。10mmolスケールで89%の収率を得ることができた。
【0060】
試験例2
触媒の再使用の可能性についても調べた。実施例4において、o-toluamideの脱水(1 mmol スケール)において再使用を行ったところ、1回目は収率92%であり、2回目は収率84%となった。このことから、本発明触媒は反応中に大きく失活するものではなく、反復して使用できる実用的なものであることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一級アミドを脱水することによりニトリルを製造するために用いる触媒であって、金属バナジウム及びバナジウム化合物の少なくとも1種のバナジウム成分がハイドロタルサイト様化合物に担持されてなるアミド脱水反応用触媒。
【請求項2】
ハイドロタルサイト様化合物が、下記の一般式(1)
2+1−x3+(OH2+x−y(An−y/n …(1)
(式中、M2+は二価の金属イオンを示し、M3+は三価の金属イオンを示し、An−はn価の陰イオンを示す。xは0.1≦x≦0.5の範囲の正数、yは0.1≦y≦0.5の範囲の正数であり、nは1又は2の整数である。)で示される、請求項1に記載のアミド脱水反応用触媒。
【請求項3】
2+がMg2+であり、M3+がAl3+である、請求項1又は2に記載のアミド脱水反応用触媒。
【請求項4】
二価の金属イオンと三価の金属イオンとのモル比(M2+:M3+)がM2+:M3+=2〜7:1である、請求項1〜3のいずれかに記載のアミド脱水反応用触媒。
【請求項5】
少なくともバナジウム成分として5価のバナジウムを含む、請求項1〜4のいずれかに記載のアミド脱水反応用触媒。
【請求項6】
バナジウムイオンを含む溶液をハイドロタルサイト様化合物に含浸した後、乾燥することにより得られる、請求項1〜5のいずれかに記載のアミド脱水反応用触媒。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の触媒の存在下、第一級アミドを加熱して脱水反応させることによりニトリルを製造することを特徴とするニトリルの製造方法。
【請求項8】
有機溶媒の存在下又は有機溶媒中で脱水反応を行う、請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
加熱温度が160〜200℃である、請求項7又は8に記載の製造方法。

【公開番号】特開2009−213975(P2009−213975A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−58213(P2008−58213)
【出願日】平成20年3月7日(2008.3.7)
【出願人】(000237972)富田製薬株式会社 (30)
【Fターム(参考)】