説明

アミノ酸誘導体およびその中間体並びにそれらの製造方法

【課題】収率が良く、かつ大量生産の応用が容易である新規なアミノ酸誘導体、その合成中間体、及びそれらの製造方法を提供する。
【解決手段】一般式(IV)


(式中、Rは前記の通り、Rは炭素数1〜4のアルキル基を意味する。)で示されるアミノ酸誘導体、および一般式(IV)の前駆体であるN−ベンジルオキシカルボニル誘導体を還元することによって、一般式(IV)で示される前記化合物を得る方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Boc型機能性分子導入アミノ酸誘導体等を合成する際の塩基、機能性分子導入用基体として好適に用いられるアミノ酸誘導体およびその合成中間体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下式(I)
【化1】

(式中、Rは水素原子または炭素数1〜5の直鎖状若しくは分枝鎖状のアルキル基を意味する。以下、同じ。)で示されるアミノ酸誘導体は、Boc型PNAを合成するためのモノマーユニットやBoc型機能性分子導入アミノ酸誘導体等を合成する際の塩基、機能性分子導入用基体として多岐に渡る用途を有する。
【0003】
特に、PNA(Peptide Nucleic Acid;ペプチド核酸)は、図1に示すように、DNA等の天然の核酸の糖リン酸骨格をN−(2−aminoethyl)glycine骨格に変換した構造を有し、天然の核酸に比べて二重鎖形成能および塩基配列認識能が高く、さらに生体内ヌクレアーゼやプロテアーゼに安定であるため、アンチセンス分子として遺伝子治療への応用が検討されており、近年注目を集めている。PNAの上記の特徴は、天然の核酸の糖リン酸骨格が中性条件で負電荷を有するため、相補鎖間で静電的な反発が生じるのに対し、電荷を有さないN−(2−aminoethyl)glycine骨格を有するPNAにおいては、相補鎖間で静電的な反発が生じないことによる。
【0004】
PNAの合成は、DNAまたはRNAを構成する4種の塩基(A、T(U)、CおよびG)のいずれかを導入したアミノ酸(特にグリシン)誘導体(モノマーユニット)を、目的とする塩基配列に従って、通常の固相ペプチド合成法を用いて順次結合していくことにより行われる。PNAを合成するためのモノマーユニットには、図2(Bは塩基を表す。)に示すように、Fmoc型とBoc型の2種があるが、モノマーユニットの合成方法が確立されており、PNAオリゴマーを合成するのに一般的なDNA自動合成機を利用することができるFmoc型の使用が現在主流となっている。しかしながら、Boc型モノマーユニットを使用してPNAを合成する場合には、Fmoc型を用いる場合とは異なる塩基性条件に不安定な機能性分子をPNAに導入できるという利点があるため、Boc型モ
【0005】
ノマーユニットを使用したPNA合成法の確立が急務となっている。
【0006】
Boc型モノマーユニットを使用したPNA合成法の確立を妨げる障害の一つとして、塩基を導入する前のモノマーユニット、すなわち塩基導入用基体として用いる式Iで示されるBoc型アミノ酸誘導体の簡便かつ安価な合成法が確立されていないことが挙げられる。また、式Iのアミノ酸誘導体は、塩基の代わりに他の機能性分子を導入するための機能性分子導入用基体としても用途を有するため、その簡便かつ安価な合成法が確立されれば、機能性分子導入アミノ酸誘導体の合成も容易になる。
【0007】
式Iのアミノ酸誘導体の合成法は、通常、エチレンジアミンを出発物質とし、その一方の窒素原子にt−ブトキシカルボニル基(Boc)を導入する工程と、他方の窒素原子に−CHR−COOHを導入する工程を含む。
【0008】
エチレンジアミンの一方の窒素原子にBocを導入してt−ブトキシカルボニルアミノエチルアミンを得る方法としては、例えば(a)エチレンジアミンに無水t−ブトキシカルボン酸を、クロロホルム、メタノール、ジオキサン等の反応溶媒中で直接反応させる方法(J.Med.Chem.,38(22),4433−8;1995、Bull.Korean Chem.Soc.,15(12),1025−7;1994、Eur.J.Med.Chem.,26(9),915−20;1991、Synth.Commun.,20(16),2559−64;1990、Aust.J.Chem.,39(3),447−55;1986)、
【0009】
【化2】


および、(b)無水t−ブトキシカルボン酸を活性エステル体に変換し、次いでエチレンジアミンと反応させる方法(特開平11−012234号公報)。
【化3】


が報告されている。
【0010】
また、t−ブトキシカルボニルアミノエチルアミンに−CHR−COOHを導入して式Iのアミノ酸誘導体を得る方法としては、t−ブトキシカルボニルアミノエチルアミンの保護されていない窒素原子にベンジル基を導入し、(c)ブロモ酢酸ベンジルエステルと反応させた後、接触還元する方法が報告されている(J.Org.Chem.,62(2),411−416;1997)。
【化4】

【0011】
さらに、一方の窒素原子に−CHR−COOHを導入したエチレンジアミン誘導体の他方の窒素原子にBocを導入して式Iのアミノ酸誘導体を得る方法として、(d)N−(2−アミノエチル)グリシンに無水t−ブトキシカルボン酸を反応させる方法が報告されている(Heimer,E.P.;Gallo−Torres,H.E.;Felix,A.M.;Ahmad,M.;Lambros,T.J.;Scheidl,F.;Meienhofer,J.,Int.J.Pept.Protein Res.23(2),203−211,1984)。
【化5】

【0012】
しかしながら、t−ブトキシカルボニルアミノエチルアミンを製造する方法として、(a)の方法では、比較的収率良く目的物を得ることができるものの、ジ−(t−ブトキシカルボニルアミノ)エチレンとt−ブトキシカルボン酸が副生成物として生じ、クロロホルム、メタノール、ジオキサン等の反応溶媒中に存在する。そのため、分配抽出操作や分配クロマトグラフィーが必要となり、t−ブトキシカルボニルアミノエチルアミンを効率よく大量かつ安価に製造するのは困難である。
【0013】
また、(b)の方法は、副生成物としてジ−(t−ブトキシカルボニルアミノ)エチレンが生じないという利点を有するものの、多段階反応であるため約60%と総収率が低く、また、用いた試薬を分配クロマトグラフィーにより除去しなければならないため、(a)の方法と同様に、t−ブトキシカルボニルアミノエチルアミンを効率よく大量かつ安価に製造するのは困難である。
【0014】
したがって、(a)および(b)の方法とも、t−ブトキシカルボニルアミノエチルアミンを工業的に製造する方法としては適さないものである。
【0015】
また、t−ブトキシカルボニルアミノエチルアミンから式Iのアミノ酸誘導体を得る方法として、(c)の方法は、多段階反応であること、また、分液抽出操作が必要であることにより、工業的な製造には適さない。
【0016】
さらに、式Iのアミノ酸誘導体を得る方法として、(d)の方法は、分配クロマトグラフィーによる精製が不要であるという利点はあるものの、収率が60%前後と低く、工業的な製造には適さない。すなわち、式Iのアミノ酸誘導体合成の効率の低さなどに起因して、光機能性PNA分子を得る効率的な方法は確立されていない。したがって、式Iのアミノ酸誘導体を効率よく得る方法、および式Iのアミノ酸誘導体を用いた場合より高効率な光機能性PNA分子の合成を可能にするアミノ酸誘導体の開発が求められている。
【0017】
【特許文献1】WO97/30053A1
【特許文献2】WO99/31121A2
【特許文献3】米国特許第1595741号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明はかかる状況に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、煩雑な操作を要さないとともに収率が良く、かつ大量生産への応用が容易な後述する一般式IVによって示される、新規なアミノ酸誘導体、その合成中間体およびそれらの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者らは、前記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、その解決手段を見出し、以下のような本発明を完成するに至った。
(1)一般式(IV)
【化6】

(式中、Rは水素原子又は炭素数1〜5の直鎖状若しくは分枝鎖状のアルキル基、nは1〜11の何れかの整数を意味する。)
で示される、アミノ酸誘導体。
(2)一般式(V)
【化7】

(式中、Rは水素原子又は炭素数1〜5の直鎖状若しくは分枝鎖状のアルキル基、nは1〜11の何れかの整数を意味する。)
で示される、前記(1)に記載の一般式(IV)で示されるアミノ酸誘導体の中間体。
(3)一般式(VI)
【化8】

(式中、Rは水素原子又は炭素数1〜5の直鎖状若しくは分枝鎖状のアルキル基、Rは炭素数1〜4の直鎖状若しくは分枝鎖状のアルキル基、nは1〜11の何れかの整数を意味する。)
で示される、前記(1)に記載の一般式(IV)で示されるアミノ酸誘導体の中間体。
(4)下記一般式(IV)
【化9】

(式中、Rは水素原子又は炭素数1〜5の直鎖状若しくは分枝鎖状のアルキル基、nは1〜11の整数を表す。)
で示されるアミノ酸誘導体の製造方法であって、一般式(V)
【化10】

(式中、R及びnは前記と同様の意味を有する。)
で示される化合物を還元することによって、一般式(IV)で示される化合物を得る工程を含む、前記製造方法。
(5)一般式(V)で示される化合物の還元が、触媒としてパラジウムカーボンを含むメタノール溶液中で行われることを特徴とする、前記(4)に記載の製造方法。
(6)一般式(VI)
【化11】

(式中、R及びnは前記と同様の意味を有し、Rは炭素数1〜4の直鎖状若しくは分枝鎖状のアルキル基を意味する。)
で示される化合物を加水分解することによって、式(V)で示される化合物を得る工程をさらに含むことを特徴とする、前記(5)に記載の製造方法。
(7)一般式(VI)で示される化合物の加水分解が、水酸化アルカリ金属塩水溶液によってなされることを特徴とする、前記(6)に記載の製造方法。
(8)カウンターカチオンとしてピリジニウムイオンを用いた陽イオン交換クロマトグラフィーにてアルカリ金属イオンを除去する工程をさらに含むことを特徴とする、前記(7)に記載の製造方法。
(9)アルカリ金属が、リチウム、ナトリウム又はカリウムであることを特徴とする、前記(7)又は(9)に記載の製造方法。
(10)一般式(VI)で示される化合物が、下記一般式(VII)
【化12】

(式中、nは前記と同様の意味を有する。)
で示されるベンジルオキシカルボニル−ω−アミノ酸及び一般式(II)
【化13】

(式中、R及びRは前記と同様の意味を有する。)
で示される化合物との反応により得られたものであることを特徴とする、前記(6)〜(9)の何れかに記載の製造方法。
(11)一般式(II)及び(IV)〜(VII)の何れかで示される化合物において、Rが水素原子であり、Rがエチル基であり、nが1であることを特徴とする、前記(4)〜(10)の何れかに記載の製造方法。
(12)一般式(IV)で示されるアミノ酸誘導体が、Boc型PNAモノマーユニット合成のための塩基導入用基体であることを特徴とする、前記(4)〜(11)の何れかに記載の製造方法。
(13)一般式(II)で示される化合物が、エチレンジアミンから製造されたt−ブトキシカルボニルアミノエチルアミンと一般式(III)
【化14】

(式中、Rは水素原子又は炭素数1〜5の直鎖状若しくは分枝鎖状のアルキル基、Rは炭素数1〜4の直鎖状若しくは分枝鎖状のアルキル基、nは1〜11の何れかの整数を意味する。)
で示される化合物との反応により得られたものであることを特徴とする、前記(10)〜(12)の何れかに記載の製造方法。
(14)一般式(V)
【化15】

(式中、Rは水素原子又は炭素数1〜5の直鎖状若しくは分枝鎖状のアルキル基、Rは炭素数1〜4の直鎖状若しくは分枝鎖状のアルキル基、nは1〜11の何れかの整数を意味する。)
で示される化合物の製造方法であって、一般式(VI)
【0020】
【化16】

(式中、Rは水素原子又は炭素数1〜5の直鎖状若しくは分枝鎖状のアルキル基、Rは炭素数1〜4の直鎖状若しくは分枝鎖状のアルキル基、nは1〜11の何れかの整数を意味する。)
で示される化合物を加水分解することによって、一般式(V)で示される化合物を得る工程を含むことを特徴とする、前記製造方法。
(15)一般式(VI)
【化17】

(式中、Rは水素原子又は炭素数1〜5の直鎖状若しくは分枝鎖状のアルキル基、Rは炭素数1〜4の直鎖状若しくは分枝鎖状のアルキル基、nは1〜11の何れかの整数を意味する。)
で示される化合物の製造方法であって、一般式(VII)
【化18】

(式中、nは1〜11の何れかの整数を意味する。)
で示されるベンジルオキシカルボニル−ω−アミノ酸及び一般式(II)
【化19】

(式中、Rは水素原子又は炭素数1〜5の直鎖状若しくは分枝鎖状のアルキル基、Rは炭素数1〜4の直鎖状若しくは分枝鎖状のアルキル基を意味する。)
で示される化合物との反応によって、一般式(VI)で示される化合物を得る工程を含むことを特徴とする、前記製造方法。
(16)前記(1)に記載の、一般式(IV)で示される化合物の、Boc型PNAモノマーユニットの製造における使用。
(17)前記(2)に記載の、一般式(V)で示される化合物の、Boc型PNAモノマーユニットの製造における使用。
(18)前記(3)に記載の、一般式(VI)で示される化合物の、Boc型PNAモノマーユニットの製造における使用。
【発明の効果】
【0021】
一般式(IV)で示される化合物には予めリンカーが結合しているため汎用性に富んでおり、活性エステル体を当該化合物と反応させることによって、1工程で目的とするPNAモノマーユニットが得られる。したがって、本発明による式(IV)で示される化合物によれば、従来法より少ない合成工程数によって光機能性分子をPNAモノマーユニット化することもできるため、当該化合物は比較的高価な光機能性分子を対象とする場合にとくに有効である。
【0022】
一方、スルホン酸クロリド系および立体障害が大きい光機能性分子等のPNAモノマー化は、一般式(I)で示される化合物を用いることによって行われる。したがって、本発明によれば、多種多様な機能性PNAモノマーを合成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下に本発明の実施の態様をさらに詳細に記述する。
【0024】
本発明においては、前提をなす工程として以下の一般式(II)で示されるアミノ酸誘導体を製造する。
【化20】

【0025】
本発明の式(IV)で示されるアミノ酸誘導体は、前記一般式(II)で示される化合物を用いて、以下に示す工程によって製造される。
【化21】

【0026】
第一の工程は、下記のように、一般式(II)で示される化合物BocPNA−ORに一般式(VII)で示されるベンジルオキシカルボニル−ω−アミノ酸を、ジメチルホルムアミド(DMF)などを溶媒として使用し、トリエチルアミンを用いて反応させ、一般式(VI)で示されるベンジルオキシカルボニル−ω−アミノ酸−BocPNA−ORを製造する工程である。
【化22】

【0027】
溶媒DMF、化合物(II)(VII)及びEDCI由来生成物はすべて分液操作によって目的物(VI)と分離可能である。理論的には目的物(VI)のみが有機層に残るのでカラムによる精製を必要としないが、念のため精製した。この方法により定量的に目的物を得ることができた。
【0028】
次の工程は、一般式(VI)で示されるベンジルオキシカルボニル−ω−アミノ酸−BocPNA−ORを加水分解することによって、一般式(V)で示されるベンジルオキシカルボニル−ω−アミノ酸−BocPNA−OHを製造する工程である。
【化23】


加水分解は、水酸化アリカリ金属塩水溶液にて行うことが好ましい。アルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム又はカリウムが好ましく、ナトリウムがとくに好ましい。また、加水分解の条件は、氷冷下又は室温とすることが好ましい。
【0029】
続いて、最終工程である、一般式(V)で示される化合物を還元することによって一般式(IV)で示される化合物を得る工程が行われる。
【化24】

【0030】
この工程は、触媒としてパラジウムカーボンを含むメタノール溶液中において好適に行われる。
【0031】
化合物(VI)から(IV)を合成する方法としては、(V)を経由する方法が唯一の方法である。例えば下図のように(VI)を先に接触還元すると、中間体を経て環状化合物になってしまう。
【化25】

【0032】
上記反応により、式(IV)で示されるアミノ酸誘導体はナトリウム塩の形で得られるが、ナトリウムイオンは陽イオン交換クロマトグラフィーで容易に除くことができる。なお、t−ブトキシカルボニル基は陽イオン交換樹脂に不安定であるため、収率低下を防ぐ観点より、カウンターカチオンとして、プロトンの代わりにピリジニウムイオンを用いた陽イオン交換クロマトグラフィーにてアルカリ金属イオンを除去することが好ましい。
【0033】
この工程は、加水分解という簡易な一段階反応であり、かつ大量生産への適用が困難なカラムクロマトグラフィーによる精製を要しないため、高収率で式(IV)で示されるアミノ酸誘導体を製造することができ、さらに工業的生産への応用が容易である。
【0034】
本発明のアミノ酸誘導体の製造方法は、アルカリ条件を使用しないものである。一方、核酸を構成する塩基を除く機能性分子にはアルカリ条件に不安定なものが多い。したがって、本発明の製造方法は、機能性分子導入用基体として使用する目的でアミノ酸誘導体を製造する場合にも好適に用いられる。
【0035】
式(VI)で示されるエステル体のRの種類およびnの値により、最終生成物である式(IV)で示されるアミノ酸誘導体がいずれのアミノ酸の誘導体となるかが決まる。
【0036】
の種類によっては立体障害により上記の反応の収率が低下する。したがって、Rは好ましくは水素又は炭素数1〜5、より好ましくは水素又は炭素数1〜4の直鎖状若しくは分枝鎖状のアルキル基であり、さらに好ましくは水素、メチル基又はエチル基である。また、Rは、次反応で加水分解を行うという理由により、炭素数1〜4の直鎖状若しくは分枝鎖状のアルキル基であることが好ましいが、より好ましくはメチル基、エチル基、n−プロピル基又はイソプロピル基であり、さらに好ましくはエチル基である。
【0037】
また、nが異なる一般式(IV)を合成するためには、対応するベンジルオキシカルボニル−ω−アミノ酸を用いればよい。一般的には、n=1〜11までのベンジルオキシカルボニル−ω−アミノ酸が市販されているので容易に入手可能である。それらの名称は、以下に示すとおりである。
【表1】

【0038】
これらのうち、n=1であるZ−グリシンは、特に好適に用いることができる。
【0039】
一般にPNAはDNAとのハイブリッドを期待しているので立体的にDNAに類似している誘導体化が望ましい。ω−アミノ酸をリンカーとして利用する場合、この点を考慮してZ−グリシンが最適である。
【0040】

本願発明を実施例を用いてさらに詳細に説明するが、本願発明はこれら実施例に限定されものではない。
【0041】
以下、本発明に係るアミノ酸誘導体の製造に関する具体例につき、実施例として説明する。
【実施例1】
【0042】
Z−gly−BocPNA−OEtの合成
Benzyloxycarbonylglycine(Z−glycine;6.75g,33mmol)とethyl N−(2−aminoethyl)glycine(4.06g,17mmol)のジメチルホルムアミド溶液(DMF;25mL)にトリエチルアミン(TEA;4.78mL,35mmol)を加えて0℃で撹拌した。これに、1−ethyl−3−(3−dimethylaminopropyl)carbodiimide(EDCI;6.79g,35mmol)を加えて0℃で2時間、さらに室温で15時間撹拌した。反応液に酢酸エチル(EtOAc;300mL)を加え、これを5%炭酸水素ナトリウム水溶液(NaHCO;300mL x 3)・5%クエン酸水溶液(300mL x 3)・飽和食塩水溶液(300mL x 3)の順番に洗浄し、EtOAc層を無水硫酸マグネシウム(MgSO)で乾燥後濾過し、濾液を濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(3% MeOH/dichloromethane)に付し、Z−gly−BocPNA−OEtを無色オイルとして定量的に得た。H NMR(CDCl)δ7.4−7.2(m,5H),5.77(brt)and 5.68(brt)(1H),5.39(brs)and 4.97(brs)(1H),5.27(s)and 5.09(s)(2H),4.19(m,2H),4.07(s)and 3.91(s)(2H),4.01(s,2H),3.51(brs)and 3.40(brs)(2H),3.34(brs)and 3.25(brs)(2H),1.40(s,9H),1.26(t,J=7.2Hz,3H);13C NMR(CDCl)δ169.71 and 169.31(d),169.20 and 168.79(d),156.11 and 155.85(d),136.39 and 136.32(d),128.44,128.27,127.98,127.90,79.80 and 79.37(d),66.86 and 66.77(d),62.05 and 61.58(d),49.43 and 48.73(d),48.52 and 48.05(d),42.49 and 42.34(d),38.48,28.27,14.03;FABMS m/z 438[(M+H)].
【実施例2】
【0043】
Z−gly−BocPNA−OHの合成
Z−gly−BocPNA−OEt(4.0g,9.2mmol)のテトラヒドロフラン溶液(20mL)に1規定水酸化リチウム水溶液(20mL,20mmol)を0℃で滴下し、反応液を0℃で1時間撹拌した。反応終了後、反応液を直接陽イオン交換カラムクロマトグラフィー(DOWEX 50W x 8,pyridinium form)に付し、MeOHで溶出した。溶出液を減圧濃縮し、さらに真空乾燥することにより、無色オイルとしてZ−gly−BocPNA−OH(3.09g,82%)を得た。H NMR(DMSO−d6)δ7.4−7.2(m,5H),6.84(brt)and 6.73(brt)(1H),5.03(s,2H),4.11(brs)and 3.94(brs)(2H),3.92(brs)and 3.77(brs)(2H),3.33(brs)and 3.29(brs)(2H),3.09(brs)and 3.02(brs)(2H),1.37(s,9H);13C NMR(DMSO−d6)d 171.07 and 170.02(d),169.39 and 169.07(d),156.42(brd),155.70 and 155.61(d),137.14,128.35,127.77,127.67,78.04 and 77.76(d),65.38,48.99,47.43 and 46.70(d),41.92 and 41.52(d),38.13 and 37.81(d),28.23;FABMS m/z 410[(M+H)];HRMS(FAB)calcd for C1928[(M+H)]410.1849,observed 410.1926.
【実施例3】
【0044】
Gly−BocPNA−OHの合成
Z−gly−BocPNA−OH(4.09g,10mmol)のMeOH溶液(20mL)にパラジウムカーボン(5%Pd/C;100mg)を加えて室温で接触水素還元を行った。反応終了後セライトろ過した。濾液を減圧濃縮し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(5%MeOH/dichloromethane)に付し、白色粉末としてGly−BocPNA−OH(2.08g,75%)を得た。H NMR(DMSO−d6)d3.72(brs)and 3.69(brs)(2H),3.58(brs)and 3.54(brs)(2H),3.3−3.2(m,2H),3.06(brs)and 2.94(brs)(2H);FABMS m/z 276[(M+H)].
【実施例4】
【0045】
Dabcyl−Gly−BocPNA−OHの合成
Gly−BocPNA−OH(100mg,0.39mmole)のdimethylformamide溶液(10mL)にdabcyl N−hydroxysuccinimide ester(145mg,0.40mmole)とtriethylamine(60μL,0.45mmole)を順番に加え、室温で15時間撹拌した。反応終了後減圧濃縮し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(0−4%MeOH/dichloromethane)に付し、赤褐色粉末としてDabcyl−Gly−BocPNA−OH(184mg,90%)を得た。H NMR(DMSO−d6)d8.18(d,J=7Hz,2H),7.91(d,J=7Hz,2H),7.88(d,J=7Hz,2H),6.77(d,J=7Hz,2H),5.76(s)and 5.30(s)(2H),4.22(brs)and 4.05(brs)(2H),3.73(brs)and 3.49(brs)(2H),3.47(brs)and 3.29(brs)(2H),1.26(s,9H);FABMS m/z 527[(M+H)].
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の製造方法は、煩雑な操作を要さないとともに高収率でt−ブトキシカルボニルアミノエチルアミンおよびBoc型アミノ酸誘導体を合成でき、さらに大量生産への応用が容易である。
したがって、t−ブトキシカルボニルアミノエチルアミンおよびBoc型アミノ酸誘導体の工業的合成に好適に用いることができ、Boc型モノマーユニットを使用したPNA合成法の確立および機能性分子を導入したBoc型アミノ酸誘導体の工業的合成、およびそれを用いたPNAモノマーユニットの工業的合成等の産業において利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】核酸の構造を比較して示す説明図面であって、(a)は天然核酸を示しており、(b)はペプチド核酸を示している。
【図2】Fmoc型およびBoc型モノマーユニットを比較して示す説明図である。
【符号の説明】
【0048】
1:糖リン酸骨格
2:N−(2−aminoethyl)glycine骨格

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(IV)
【化1】

(式中、Rは水素原子または炭素数1〜5の直鎖状若しくは分枝鎖状のアルキル基、nは1〜11のいずれかの整数を意味する。)
で示される、アミノ酸誘導体。
【請求項2】
一般式(V)
【化2】

(式中、Rは水素原子または炭素数1〜5の直鎖状若しくは分枝鎖状のアルキル基、nは1〜11のいずれかの整数を意味する。)
で示される、請求項1に記載の一般式(IV)で示されるアミノ酸誘導体の中間体。
【請求項3】
一般式(VI)
【化3】

(式中、Rは水素原子または炭素数1〜5の直鎖状若しくは分枝鎖状のアルキル基、Rは炭素数1〜4の直鎖状若しくは分枝鎖状のアルキル基、nは1〜11のいずれかの整数を意味する。)
で示される、請求項1に記載の一般式(IV)で示されるアミノ酸誘導体の中間体。
【請求項4】
下記一般式(IV)
【化4】

(式中、Rは水素原子または炭素数1〜5の直鎖状若しくは分枝鎖状のアルキル基、nは1〜11の整数を表す。)
で示されるアミノ酸誘導体の製造方法であって、一般式(V)
【化5】

(式中、R及びnは前記と同様の意味を有する。)
で示される化合物を還元することによって、一般式(IV)で示される化合物を得る工程を含む、前記製造方法。
【請求項5】
一般式(V)で示される化合物の還元が、触媒としてパラジウムカーボンを含むメタノール溶液中で行われることを特徴とする、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
一般式(VI)
【化6】

(式中、R及びnは前記と同様の意味を有し、Rは炭素数1〜4の直鎖状若しくは分枝鎖状のアルキル基を意味する。)
で示される化合物を加水分解することによって、式(V)で示される化合物を得る工程をさらに含むことを特徴とする、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
一般式(VI)で示される化合物の加水分解が、水酸化アルカリ金属塩水溶液によってなされることを特徴とする、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
カウンターカチオンとしてピリジニウムイオンを用いた陽イオン交換クロマトグラフィーにてアルカリ金属イオンを除去する工程をさらに含むことを特徴とする、請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
アルカリ金属が、リチウム、ナトリウムまたはカリウムであることを特徴とする、請求項7または9に記載の製造方法。
【請求項10】
一般式(VI)で示される化合物が、下記一般式(VII)
【化7】

(式中、nは前記と同様の意味を有する。)
で示されるベンジルオキシカルボニル−ω−アミノ酸及び一般式(II)
【化8】

(式中、R及びRは前記と同様の意味を有する。)
で示される化合物との反応により得られたものであることを特徴とする、請求項6〜9のいずれかに記載の製造方法。
【請求項11】
一般式(II)及び(IV)〜(VII)のいずれかで示される化合物において、Rが水素原子であり、Rがエチル基であり、nが1であることを特徴とする、請求項4〜10のいずれかに記載の製造方法。
【請求項12】
一般式(IV)で示されるアミノ酸誘導体が、Boc型PNAモノマーユニット合成のための塩基導入用基体であることを特徴とする、請求項4〜11のいずれかに記載の製造方法。
【請求項13】
一般式(II)で示される化合物が、エチレンジアミンから製造されたt−ブトキシカルボニルアミノエチルアミンと一般式(III)
【化9】

(式中、Rは水素原子または炭素数1〜5の直鎖状若しくは分枝鎖状のアルキル基、Rは炭素数1〜4の直鎖状若しくは分枝鎖状のアルキル基、nは1〜11のいずれかの整数を意味する。)
で示される化合物との反応により得られたものであることを特徴とする、請求項10〜12のいずれかに記載の製造方法。
【請求項14】
一般式(V)
【化10】

(式中、Rは水素原子または炭素数1〜5の直鎖状若しくは分枝鎖状のアルキル基、Rは炭素数1〜4の直鎖状若しくは分枝鎖状のアルキル基、nは1〜11のいずれかの整数を意味する。)
で示される化合物の製造方法であって、一般式(VI)
【化11】

(式中、Rは水素原子または炭素数1〜5の直鎖状若しくは分枝鎖状のアルキル基、Rは炭素数1〜4の直鎖状若しくは分枝鎖状のアルキル基、nは1〜11のいずれかの整数を意味する。)
で示される化合物を加水分解することによって、一般式(V)で示される化合物を得る工程を含むことを特徴とする、前記製造方法。
【請求項15】
一般式(VI)
【化12】

(式中、Rは水素原子または炭素数1〜5の直鎖状若しくは分枝鎖状のアルキル基、Rは炭素数1〜4の直鎖状若しくは分枝鎖状のアルキル基、nは1〜11のいずれかの整数を意味する。)
で示される化合物の製造方法であって、一般式(VII)
【化13】


(式中、nは1〜11のいずれかの整数を意味する。)
で示されるベンジルオキシカルボニル−ω−アミノ酸及び一般式(II)
【化14】


(式中、Rは水素原子または炭素数1〜5の直鎖状若しくは分枝鎖状のアルキル基、Rは炭素数1〜4の直鎖状若しくは分枝鎖状のアルキル基を意味する。)
で示される化合物との反応によって、一般式(VI)で示される化合物を得る工程を含むことを特徴とする、前記製造方法。
【請求項16】
請求項1に記載の、一般式(IV)で示される化合物の、Boc型PNAモノマーユニットの製造における使用。
【請求項17】
請求項2に記載の、一般式(V)で示される化合物の、Boc型PNAモノマーユニットの製造における使用。
【請求項18】
請求項3に記載の、一般式(VI)で示される化合物の、Boc型PNAモノマーユニットの製造における使用。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−22110(P2006−22110A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−231476(P2005−231476)
【出願日】平成17年8月10日(2005.8.10)
【分割の表示】特願2002−525093(P2002−525093)の分割
【原出願日】平成13年9月5日(2001.9.5)
【出願人】(503280961)株式会社クレディアジャパン (10)
【Fターム(参考)】