説明

アミノ酸輸送蛋白及びその遺伝子

【課題】 生体を構成する種々の正常細胞並びに種々の腫瘍細胞などの病態関連異常細胞の生存及び増殖に必須な栄養素であるアミノ酸の細胞内への輸送を媒介するアミノ酸トランスポーター分子であって、特に正常細胞に比べ腫瘍細胞に特異的に発現の見られる新規アミノ酸トランスポーター分子を同定、単離し、該分子の生物活性及び/または該分子の発現を阻害する薬剤を同定することにより、腫瘍(癌)等の種々の病態を治療することができる薬剤を提供する。
【解決手段】 未知のアミノ酸トランスポーターの活性化において重要な役割を担うと考えられていた細胞膜表面4F2分子と共役または相互作用する腫瘍細胞膜表面分子の同定に関して鋭意研究することにより、種々の中性アミノ酸をはじめ、種々の薬剤あるいは生理活性物質の細胞内への取り込みを媒介する新規なアミノ酸トランスポーター分子をコードする遺伝子を見出すとともに、該分子を介したアミノ酸の細胞内への取り込みを阻害し、腫瘍細胞の増殖を阻害する物質を見出した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アミノ酸輸送タンパク若しくはその一部、該タンパクをコードするDNA若しくはその一部、該タンパクをコードするRNA若しくはその一部、該DNAにハイブリダイズするDNA、該DNAを含む発現ベクター、該DNA若しくは該ベクターで形質転換された形質転換細胞、該RNAが導入された細胞、該タンパク若しくはその一部に反応性を有する抗体若しくはその一部、該抗体を産生する細胞、該DNAの一部を放射性標識してなる標識DNA、該RNAの一部を放射性標識してなる標識RNA、該抗体または該抗体の一部を標識してなる標識抗体、該標識DNAからなるキット、該標識RNAからなるキット、該標識抗体からなるキット、該DNAの一部を含んでなる医薬組成物、該RNAの一部を含んでなる医薬組成物、該抗体若しくは該抗体の一部を含んでなる医薬組成物、該タンパクの発現の有無若しくはその発現量を測定する方法、該タンパクの生物活性を阻害する能力を有する物質の同定方法、該タンパクをコードするDNAのmRNAへの転写を阻害する能力を有する物質の同定方法、該タンパクの発現を阻害する能力を有する物質の同定方法、該同定方法により同定された物質、並びに本発明のタンパクをコードするDNAが導入されたトランスジェニックマウスに関する。
【背景技術】
【0002】
アミノ酸は、蛋白質合成の基質となるだけでなく、糖の新生、並びにポルフィリン、プリン及びピリミジンをはじめとする多くの生体分子の生合成における前駆物質となっており極めて重要な役割を担っている。
そのような生合成反応は主に細胞内で行われるため、細胞は、アミノ酸を細胞外から細胞内へ取り込むためのアミノ酸輸送タンパク(アミノ酸トランスポーター;amino acid transporter)と総称される種々のタンパクを細胞膜に備えている。
【0003】
該アミノ酸トランスポーターは、個々の細胞へのアミノ酸の供給のために機能するだけでなく、さらに、組織の中に組み込まれ小腸や腎尿細管におけるアミノ酸の上皮輸送並びに神経組織における神経伝達物質の再吸収を担い、組織の特異的機能発現のための重要な位置に配置されている。
アミノ酸輸送機構(アミノ酸トランスポーターを介したアミノ酸輸送系)については、1960年代頃から培養細胞や細胞膜標本を用いてその同定及び分類がなされ、アミノ酸分子の多様性を反映して、異なった基質特異性を有する種々のアミノ酸トランスポーターを介したアミノ酸輸送系が同定されている(Physiol. Rev., Vol.70, p.43-77, 1990)。
しかしながら、それらの輸送系は個々のアミノ酸に対して各々独立して機能するものではなく、各々の分子が複数のアミノ酸を基質とし、該複数のアミノ酸の細胞内輸送を担っている。
【0004】
アミノ酸は、正の電荷を有する塩基性アミノ酸(ジアミノ/モノカルボン酸)、負の電荷を有する酸性アミノ酸(モノアミノ/ジカルボン酸)並びに中性アミノ酸(モノアミノ/モノカルボン酸または塩基性アミノ酸若しくは酸性アミノ酸以外)に分類される。アミノ酸のこの荷電のため、例えば、中性アミノ酸や負の電荷を有する酸性アミノ酸が、負電位を有する細胞内に濃度勾配に逆らって輸送されるためには、何らかのエネルギー消費と共役した能動輸送を行う必要がある。
このような点から、アミノ酸トランスポーターには、糖輸送系と同様に、ナトリウム(Na)依存性を示すものと、Na非依存性を示すものとが存在する。Na依存性トランスポーターは、アミノ酸輸送とNa輸送とを共役させることによりアミノ酸を濃度勾配に逆らって輸送することができるため大きな濃縮能力を有することから、生体内で細胞膜を介した大きな濃度差を形成することが要求される部位で重要な役割を果たしている(Annual Rev.腎臓, 「腎特異的有機溶質トランスポーターの構造と機能」, p.91-100, 1995, 中外医学社発行)。このようなNa依存性トランスポーターは、さらに2種類のファミリー、即ち、Na/Cl依存性トランスポーターファミリーとNa/K依存性トランスポーターファミリーに大別することができる(Annual Rev. Neurosci., Vol.16, p.73-93, 1993及びFASEB J., Vol.7, p.1450-1459, 1993)。
また、アミノ酸トランスポーターは、そのような荷電の性質と合わせて、その基質特異性の点で、塩基性アミノ酸(ジアミノ/モノカルボン酸)を基質とする分子、酸性アミノ酸(モノアミノ/ジカルボン酸)を基質とする分子、及び中性アミノ酸(モノアミノ/モノカルボン酸または塩基性アミノ酸若しくは酸性アミノ酸以外)を基質とする分子に分類することができる。
【0005】
例えば、アルギニン、リジン及びヒスチジン(中性に近い塩基性アミノ酸)などのように側鎖にアミノ基やイミダゾール基を有する塩基性アミノ酸は、主にNa非依存性アミノ酸トランスポーターyによって輸送されることが知られている(J. Membrane Biol., Vol.66, p.213-225, 1982)。グルタミン酸やアスパラギン酸のように側鎖にカルボキシル基を有する酸性アミノ酸は、Na依存性アミノ酸トランスポーターXA,Gによって輸送されることが知られている(Biochim. Biophys. Acta, Vol.732, p.24-31, 1983)。また、多くのアミノ酸が属する中性アミノ酸の輸送では、Na非依存性アミノ酸トランスポーターL(Ann. Rev. Physiol., Vol.46, p.417-433, 1984)、Na依存性アミノ酸トランスポーターA及びASC(Ann. Rev. Physiol., Vol.46, p.417-433, 1984並びにJ. Membrane biol., Vol.52, p.83-92, 1980)が重要な役割を担うことが知られている(Physiol. Rev., Vol.70, p.43-77, 1990並びに最新医学, Vol.50, p.1997-2004, 1995)。
前述のとおり、アミノ酸は、細胞内で行われる種々の生体成分の生合成における原料として極めて重要な役割を有していることから、このアミノ酸の細胞内への輸送の異常は、種々の病態に関与していると推察することができる。
【0006】
これまでの研究から、アミノ酸の細胞内への輸送機構の異常が関与する病態としては、腎尿細管からのアミノ酸再吸収の障害が出るアミノ酸尿症や、グルタミン酸取り込み障害と神経細胞死が関与する筋萎縮性側索硬化症などが知られている(Annual Rev.腎臓, 「腎特異的有機溶質トランスポーターの構造と機能」, p.91-100, 1995, 中外医学社発行;最新医学, Vol.50, p.1997-2004, 1995;並びに最新医学, Vol.51, p.64-70, 1996)。
【0007】
アミノ酸トランスポーターは、あらゆる細胞の発生、分化、増殖及び維持に必要なアミノ酸の取り込みに必須且つ極めて重要な役割を担うことから、上述のような病態だけでなくさらに多くの病態の発症において関係するものと考えられる。また、アミノ酸トランスポーターの生体における必須性を考えると、種々のアミノ酸の取り込みが、これまでに同定された幾つかのトランスポーターのみで媒介されているとは考えにくく、さらに多くの未知のアミノ酸トランスポーターが存在するものと考えられる。
【0008】
そのような細胞、組織及び臓器、ひいては生体の生存及び維持に必須な役割を担う未知のアミノ酸トランスポーターを同定することは、未だ原因が解明されていない種々疾患の発症の原因を解明できる可能性を有する。さらに該アミノ酸トランスポーターと種々疾患との関連性が解明されれば、該アミノ酸トランスポーターの生物学的機能あるいは発現を調節することにより、該疾患の有効な治療を行うことが可能となるものと考えられることから、新たなアミノ酸トランスポーターの同定し、該トランスポーター分子と病態との関連性を解明することが急務となっている。
しかしながら、このような医学的並びに社会的ニーズにも拘らず、アミノ酸トランスポーターの同定並びにアミノ酸輸送機構の解明は未だあまり進んでいないのが現状である。
即ち、アミノ酸トランスポーター分子を同定するためには、該分子の精製する必要があるとともに、該精製物の活性を解析するために、該精製物を細胞膜に再構成させアミノ酸輸送活性を再現する必要がある。しかしながら、アミノ酸トランスポーター分子は、膜蛋白としての発現量が相対的に少ない上に、活性の再現効率も十分ではないことから、新たな分子の同定における技術上の困難性が存在する。
【0009】
また、例えば、癌細胞(腫瘍細胞)のような病態に直接関係する非正常細胞(異常細胞)に特異的に発現し、該異常細胞へのアミノ酸の供給を担うようなアミノ酸トランスポーターを同定することは、そのような病態関連細胞の生存及び増殖のメカニズムの解明、並びに癌などの疾患の治療方法の開発において極めて重要な意義を有するが、アミノ酸トランスポーターは、もともと正常な細胞の生存に必須の分子であり幅広い細胞種に存在すると考えられることから、そのような異常細胞特異的に発現するアミノ酸トランスポーター分子を同定することは容易なことではない。
【0010】
中性アミノ酸トランスポーターとしては、ナトリウム依存的なトランスポーターとして、ASCT1およびASCT2がクローニングされている(Kanai, Curr. Opin. Cell Biol., 9, 565 (1997))。しかし、これらは、アラニン、セリン、システイン、スレオニン、グルタミンを主な基質とするものであり、中性アミノ酸輸送系Lとは基質選択性が異なっている。また、グリシントランスポーターとプロリントランスポーターがクローニングされているが、中性アミノ酸輸送系Lとは基質選択性が異なる。(Amara and Kuhar, Annu. Rev. Neurosci., 16, 73 (1993))。
【0011】
トランスポーター自体ではないが、アミノ酸トランスポーターの活性化因子であると考えられている膜貫通構造を一回しか持たない二型膜糖タンパク質であるrBAT及び4F2hcのcDNAがクローニングされており、それらをアフリカツメガエル卵母細胞で発現させると中性アミノ酸とともに塩基性アミノ酸の取り込みを活性化することが知られている(Palacin, J. Exp. Biol., 196, 123 (1994))。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従って、そのような病態に深く関連する異常細胞に特異的に発現の見られる未だ同定されていないアミノ酸トランスポーター分子を同定し、該分子と該異常細胞の生存及び増殖との関連性を解明することは、該病態及び疾患の治療方法を提供するための有効な手がかりとなる。
即ち、該アミノ酸トランスポーター分子の生物活性、または該分子の発現を制御することにより、該疾患を治療することが可能である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、そのような病態関連異常細胞、特に腫瘍細胞に特異的に発現が見られる新規アミノ酸トランスポーターの探索を行うために、腫瘍細胞の増殖に必須と考えられている既知の細胞膜表面分子4F2(CD98)に注目することにより正常細胞での発現に比べ腫瘍細胞に特に有意に発現の見られるLAT1(L-type amino acid transporter-1)と命名した新規アミノ酸トランスポーター分子を同定することに成功した。
【0014】
即ち、腫瘍細胞は、急速に細胞分裂し、継続的に成長、増殖するためには、アミノ酸や糖などの栄養素が細胞内に供給される必要があり、この供給は、該栄養素に特異的なアミノ酸トランスポーターのアップレギュレーションにより担われていると考えられる(Physiol. Rev., Vol.70, p.43-77, 1990)。腫瘍細胞の成長、増殖及び維持のためには細胞内で蛋白生合成が行われる必要があるため、必須アミノ酸の細胞内への取り込み(細胞外から細胞内への輸送)は特に重要である。
【0015】
これまでの研究から、腫瘍細胞の増殖には、未だ同定されていないアミノ酸トランスポーターを活性化する機能を有すると考えられるタイプII膜糖タンパクに分類される4F2(CD98)と命名された既知の細胞膜表面抗原が重要な役割を担うのではないかと考えられてきた(J. Immunol., Vol.126, p.1409-1414, 1981;J. Immunol., Vol.129, p.623-628, 1982;Proc. Natl. Acad. Sci. USA., Vol.84, p.6526-6530, 1987;Cancer Res., Vol.46, p.1478-1484, 1986;J. Biol. Chem., Vol.267, p.15285-15288, 1992;Proc. Natl. Acad. Sci. USA., Vol.89, p.5606-5610, 1992; Biochem. J., Vol.324, p.535-541, 1997;及び J. Exp. Biol., Vol.196, p.123-137, 1994)。
そこで、本発明者らは、4F2分子と共役または相互作用するヒト腫瘍細胞膜表面分子の同定に関して鋭意研究した結果、下記のような特徴を有する新規なアミノ酸トランスポーターLAT1をコードする遺伝子を見出し本発明を完成するに到った。
【0016】
本発明に係るアミノ酸トランスポーターLAT1は、とりわけヒト由来アミノ酸トランスポーターLAT1は下記のような特徴を有する。
(1)ヒト由来の腫瘍細胞及びヒト正常組織由来のmRNAを用いたノーザンブロッティング(Northern Blotting)により、胃印環細胞癌細胞株(stomach signet ring cell carcinoma (KATOIII))、黒色腫細胞株(malignant melanoma (G-361))及び肺小細胞癌細胞株(lung small cell carcinoma (RERF-LC-MA)をはじめとする幅広い範囲のヒト由来腫瘍細胞に約4.8kbのバンドとしてその発現が見られる。また、ヒト正常組織においては、細胞の新生と増殖が激しい特定の限られた組織(胎盤、胎児肝臓、骨髄、精巣、脳、及び末梢血白血球)においてのみ同様に約4.8kbのバンドとして発現が確認される。
(2)オープンリーディングフレーム(ORF、終始コドンを含む)は、1,524個の塩基からなる塩基配列を有し(配列番号1に記載の塩基配列の塩基番号66乃至1589番目の塩基配列)、該ORFは、全体として507個のアミノ酸から構成されるアミノ酸配列をコードし、約55kDa(計算値)の分子量を有する(配列番号2)。
【0017】
(3)疎水性プロット分析により、ヒトLAT1は、12個の膜貫通領域を有し、細胞内領域に、チロシンプロテインキナーゼによるリン酸化部位(配列番号2のアミノ酸配列の119番目のTyr)並びにプロテインキナーゼCによるリン酸化部位(配列番号2のアミノ酸配列の189番目のSer及び346番目のSer)を有する膜表面分子であると同定される。
(4)ヒトLAT1とヒト4F2hc(4F2 heavy chain)を共発現させた細胞において、中性アミノ酸であるロイシン(Leu)、イソロイシン(Ile)、フェニルアラニン(Phe)、メチオニン(Met)、チロシン(Tyr)、トリプトファン(Trp)及びバリン(Val)、並びに中性に近い塩基性アミノ酸であるヒスチジン(His)の極めて強い取り込みが確認される。また、他の中性アミノ酸であるスレオニン、システイン、アスパラギン及びグルタミンの有意な取り込みが確認される。
【0018】
(5)ヒトLAT1とヒト4F2hcとの共発現させた細胞においては、前述のアミノ酸の取り込みだけでなく、パーキンソン治療薬であるL−DOPAなどの既知の薬剤、並びにトリヨードサイロニン(甲状腺ホルモン)等の生理活性物質の取り込みが確認される。さらに、中性アミノ酸取り込み阻害薬として知られるBCH(2-amino-2-norbornane-carboxylic acid)の取り込みも確認される。
(6)ミカエリス−メンテン動力学試験において、ヒトLAT1と前述のような種々の基質との親和性を表すKm値は約21μMである。
(7)前述のLAT1を介する種々アミノ酸、薬剤及び生理活性物質の細胞内への取り込みは、NaイオンやClイオンには依存しない。
【0019】
即ち、本発明は、正常細胞に比べ、幅広い範囲の腫瘍細胞に特異的な発現が見られ、且つ幅広い基質特異性を有する種々の腫瘍細胞の生存及び増殖において必須であると考えられるアミノ酸トランスポーターを世界で初めて開示するものである。
本発明のアミノ酸トランスポーター分子の上述のような特徴から、該分子は、例えば抗腫瘍薬(抗癌剤)の開発におけるターゲットとして極めて有望である。即ち、該分子の生物活性あるいは該分子の発現を抑制する活性を有する薬剤(アンチセンスDNA医薬品、アンチセンスRNA医薬品、抗体医薬品、抗体フラグメント医薬品、あるいはペプチドアンタゴニスト医薬品、低分子化合物等の非ペプチドアンタゴニスト医薬品など)を用いて、該分子を介した栄養素(種々のアミノ酸や生理活性物質)の腫瘍細胞内への取り込みを阻害することにより、腫瘍細胞を飢餓状態とし腫瘍細胞の生存及び増殖を阻害することが可能である。
【0020】
従って、本発明のタンパク若しくはその一部、該タンパクをコードするDNA若しくはその一部、該タンパクをコードするRNA若しくはその一部、該DNAにハイブリダイズするDNA、該DNAを含む発現ベクター、該DNA若しくは該ベクターで形質転換された形質転換細胞、該RNAが導入された細胞、該タンパク若しくはその一部に反応性を有する抗体若しくはその一部、該抗体を産生する細胞、該DNAの一部を放射性標識してなる標識DNA、該RNAの一部を放射性標識してなる標識RNA、該抗体または該抗体の一部を標識してなる標識抗体、該標識DNAからなるキット、該標識RNAからなるキット、並びに該標識抗体からなるキットは、そのような抗腫瘍効果を有する薬剤として、及び/またはそのような薬剤開発における試薬として極めて有用である。
また、上記のような本発明のDNA、RNAあるいは形質転換細胞等の種々の物質を用いることにより、そのような種々の薬剤を同定するための種々の方法(あるいはアッセイ方法)を提供することが可能である。
【0021】
本願における種々の発明は、具体的には、各々下記のような有用性を有する。
本発明のDNA、RNA及び形質転換細胞は、遺伝子組換え技術を用いて本発明のタンパクを組換えタンパクとして製造することにおいて有用であるのみならず、本発明タンパクの生物活性を制御する(活性化、抑制、阻害)薬剤、本発明のタンパクのmRNAへの転写を阻害する薬剤、該mRNAから本発明のタンパクへの翻訳を阻害する薬剤、あるいは該タンパクの他の分子との相互作用を阻害する薬剤などの薬剤設計、スクリーニング、並びに同定のための試薬(ツール)として極めて有用である。
【0022】
具体的には、本発明のDNAは、本発明のタンパクの生物活性を制御する薬剤の同定のためのアッセイだけでなく、並びに本発明のタンパクの発現を調節する薬剤の同定のためのアッセイにも用いることができる。
前者のアッセイは、該本発明のアミノ酸トランスポーター分子をコードするDNAで哺乳動物等の細胞を形質転換することにより細胞に該分子を発現させ、該形質転換細胞を、被験物質と該分子の基質(アミノ酸等)との共存下で培養することにより、細胞内に取り込まれる基質の量を対照細胞での取り込みと比較することにより本発明のアミノ酸トランスポーターの生物活性の制御に対する該被験物質の活性を評価するものである。
【0023】
後者のアッセイは、そのような薬剤のアッセイ、スクリーニング及び同定において慣用される所謂レポータージーンアッセイ(reporter gene assay)並びに該レポータージーンアッセイを原理としスクリーニングを機械(ロボット)を用いて自動で行う所謂ハイスループットスクリーニング(High Throughput Screening)(組織培養工学, Vol.23, No.13, p.521-524;米国特許第5,670,113号)に代表される。
【0024】
本発明においては、本発明のアミノ酸トランスポーター分子をコードするDNA、該DNAの発現調節制御領域をコードするDNA、及びルシフェラーゼなどの蛍光を発するレポータータンパク分子をコードするDNAを、該トランスポーター分子の発現に依存して該レポータータンパク分子が発現可能なように挿入した発現ベクターで、遺伝子組換えタンパクの製造で一般的に使用される細胞を形質転換することによって得られた形質転換細胞に、被験化合物を接触させ、該化合物の作用に依存して発現されるトランスポーター分子の量を、該分子の発現と同時に発現される該レポータータンパクが発する蛍光の量を測定することにより間接的に測定することにより、該化合物が、トランスポーター分子の発現に影響を与えるか否かを分析することができる(米国特許第5,436,128号;米国特許第5,401,629号)。
また、本発明のRNAの場合には、本発明のアミノ酸トランスポータータンパク分子の生物活性を制御する薬剤の同定のためのアッセイにおいて用いることができる。
【0025】
本アッセイは即ち、本発明のアミノ酸トランスポーター分子をコードするRNAを、例えばアフリカツメガエルの卵母細胞に注入することにより該細胞に該トランスポーター分子を発現させ、被験物質と該分子の基質(アミノ酸等)との共存下で培養することにより、細胞内に取り込まれる基質の量を対照細胞での取り込みと比較することにより本発明のアミノ酸トランスポーターの生物活性の制御に対する該被験物質の活性を評価するものである。
【0026】
本発明のDNAの一部並びにRNAの一部は、コロニーハイブリダイゼーション法あるいはプラークハイブリダイゼーション法を用いてそれらとハイブリダイズするDNAあるいはRNAを同定する場合のプローブとして用いることができる。さらに、本発明のDNAの一部は、PCR法(Polymerase-chain reaction)を用いて本発明のDNAあるいは本発明のトランスポーター分子をコードする遺伝子を増幅するためのプライマーとして用いることができる。
さらに、本発明のDNAの一部、該DNAに相補的なDNA、あるいは本発明のRNAの一部は、前述の試薬としての有用性のみならず、いわゆるアンチセンスDNA医薬あるいはアンチセンスRNA医薬として有用である。
【0027】
即ち、アンチセンス医薬とは、DNAの塩基配列の一部、該DNAの塩基配列に相補的な塩基配列の一部、あるいはRNAの塩基配列の一部が、各々が有する塩基配列と相補的な配列を有するDNAまたはRNAに結合する性質を利用して、DNAからmRNAへの転写または該mRNAからタンパクへの翻訳を阻害するメカニズムによる薬剤である。このアンチセンス医薬は、該アンチセンス配列の一部を化学修飾することにより、血中での半減期の増大、細胞内への透過性あるいは疾患標的部位へのターゲッティング効率等の性質を改変することが可能である。
【0028】
本発明のタンパクは、該タンパク分子が細胞表面上に発現させた状態を利用することにより、前述したように、本発明のタンパクの生物活性または該タンパクの発現を制御する薬剤の同定を行うことができる。また、該タンパクのアミノ酸配列を基に、該タンパクの生物活性を阻害する能力を有するペプチドアンタゴニストを設計することができる。このように設計されたペプチドアンタゴニストは、本発明のタンパクであるアミノ酸トランスポーターの種々の基質との結合、あるいは本発明のタンパクの他の分子との結合を競合的に阻害することにより、本発明のタンパクの生物学的機能が発揮されないようにする医薬品として有用である。
【0029】
本発明のタンパク及びその一部並びに該タンパクを発現する形質転換細胞等の細胞は、本発明のタンパクに対する抗体(抗血清、モノクローナル抗体)の作成における免疫感作抗原として有用である。
本発明のタンパクであるアミノ酸トランスポーター分子に反応性を有する抗血清(ポリクローナル抗体)並びにモノクローナル抗体は、該分子に結合することにより該分子の生物活性の発揮を阻害(中和)することによる抗体医薬品として有用である。
さらに、該抗体は、検出可能なシグナルをもたらすことができる種々の物質で標識することにより、種々の生体試料(細胞、組織、臓器あるいは体液など)での本発明のタンパクの発現状態の分析(免疫組織染色、ウェスタンブロット、ELISAなど)における試薬として有用である。
【0030】
このような標識抗体と同様に、本発明のDNAまたはその一部を検出可能なシグナルをもたらすことができる種々の物質で標識した標識DNAは、本発明のタンパクをコードする遺伝子の同定における試験(例えば、サザンブロッティング、FISHなど)における試薬として有用である。
また、同様に発明のRNAまたはその一部を、放射性同位体で標識した放射性標識RNAは、細胞、組織あるいは臓器における本発明のタンパクをコードするmRNAの発現状態の分析(ノーザンブロッティングなど)における試薬として有用である。
また、本発明のDNAについては、例えば、本発明の態様の1つであるヒト由来のアミノ酸トランスポーターのDNAをマウス等のヒト以外の哺乳動物に導入することによりモデル動物としてのトランスジェニック動物を作製することができる。
【0031】
さらに、該本発明のヒト由来のアミノ酸トランスポーターをコードする遺伝子をプローブとして用いてウサギあるいはマウス由来のホモログタンパクをコードする遺伝子をクローニングし、選られた遺伝子情報をもとに、マウスやウサギの該ホモログタンパクをコードする内在性遺伝子を破壊(不活性化)することによりモデル動物(ノックアウト動物)を作成することが可能である。これらのモデル動物の物理学的、生物学的、病理学的及び遺伝子的特徴を分析することにより、本発明に係るアミノ酸トランスポーターの機能をさらに詳細に解明することが可能となる。
【0032】
さらに、そのようにして内在性遺伝子が破壊された該モデル動物と該トランスジェニック動物を交配することにより、本発明のヒト由来アミノ酸トランスポーターをコードする遺伝子(DNA)のみを有するモデル動物を作成することが可能である。このモデル動物に、前述した本発明のアミノ酸トランスポーター分子の生物活性あるいは該分子の発現を制御する薬剤(アンチセンス医薬、ペプチドアンタゴニスト、低分子非ペプチド化合物、抗体等)を投与することにより、その薬剤の治療学的効果を評価することが可能となる。
【0033】
本発明は、即ち、上述のような産業上極めて高い有用性を有する下記<1>乃至<55>に各々記載した物質、医薬、試薬並びに方法を提供するものである。
<1> アミノ酸の細胞内への輸送を媒介する能力を有する細胞表面タンパクであって、ロイシン(Leu)、イソロイシン(Ile)、フェニルアラニン(Phe)、メチオニン(Met)、チロシン(Tyr)、トリプトファン(Trp)、バリン(Val)及びヒスチジン(His)からなる群から選ばれる少なくとも1種類のアミノ酸の細胞内への取り込みをNa非依存性で媒介する能力を有するタンパク。
<2> タイプII膜糖タンパクに分類される4F2タンパク又はその一部と共存したとき、中性アミノ酸及びその類似物質を輸送する能力を有するタンパクである<1>に記載のタンパク。
<3> タイプII膜糖タンパクに分類される4F2タンパクが、配列番号6若しくは8に記載のアミノ酸配列、又は、その一部のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有するタンパクである <2>に記載のタンパク。
<4> ヒト又はラット由来のタンパクである<1>〜<3>のいずれかに記載のタンパク。
<5> 下記(1)または(2)のいずれかのアミノ酸配列を有する<1>〜<4>のいずれかに記載のタンパク。
(1)配列番号2若しくは4に記載のアミノ酸配列;または
(2)配列番号2若しくは4に記載のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列。
<6> 配列番号2又は4に記載のアミノ酸配列中の部分アミノ酸配列を含み、抗原性を有するポリペプチド。
<7> <1>〜<5>のいずれかに記載のタンパクをコードするDNA。
<8> ヒト又はラット由来のDNAである<7>に記載のDNA。
<9> 配列番号1に記載の塩基配列の塩基番号66乃至1586の塩基配列又は配列番号3に記載の塩基配列の塩基番号64乃至1599の塩基配列を有するDNAにストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、少なくとも1種類のアミノ酸の細胞内への取り込みを媒介する能力を有する細胞表面タンパクをコードするDNA。
<10> アミノ酸の細胞内への取り込みが、タイプII膜糖タンパクに分類される4F2タンパク又はその一部と共存下において媒介される細胞表面タンパクをコードする<9>に記載のDNA。
<11> タイプII膜糖タンパクに分類される4F2タンパクが、配列番号6若しくは8に記載のアミノ酸配列、又は、その一部のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有するタンパクである<10>に記載のDNA。
<12> <7>〜<11>に記載のDNAから誘導され得るRNA。
<13> RNAが配列番号26又は27に記載の塩基配列を有するRNAである<12>に記載のRNA。
<14> 前記<7>乃至前記<11>のいずれかに記載のDNAを含む発現ベクター。
<15> 前記<14>に記載の発現ベクターで形質転換された形質転換細胞。
<16> 該形質転換細胞が、さらに配列番号5に記載の塩基配列の塩基番号110乃至1696の塩基配列及び該塩基番号1696の塩基に隣接するTAG、TGA若しくはTAAで表されるいずれか1つのナンセンス塩基配列からなる塩基配列を含むDNAで形質転換されていることを特徴とする前記<14>又は<15>に記載の形質転換細胞。
<17> 該形質転換細胞が、さらにレポータータンパクをコードするDNAにより形質転換されていることを特徴とする前記<14>〜<16>のいずれかに記載の形質転換細胞。
<18> 前記<12>又は<13>に記載のRNAが導入されていることを特徴とする非ヒト由来の細胞。
<19> 該細胞が、アフリカツメガエルの卵母細胞であることを特徴とする前記<18>に記載の細胞。
<20> 前記<1>〜<5>のいずれかに記載のタンパクまたは前記<6>に記載のポリペプチドに反応性を有する抗血清またはポリクローナル抗体。
<21> 前記<1>〜<5>のいずれかに記載のタンパクまたは前記<6>に記載のポリペプチドに反応性を有するモノクローナル抗体または該モノクローナル抗体の一部。
<22> 当該モノクローナル抗体が、ヒト以外の哺乳動物由来のイムノグロブリンの可変領域、及びヒト由来のイムノグロブリンの定常領域とからなる組換キメラモノクローナル抗体であることを特徴とする前記<21>に記載のモノクローナル抗体または該モノクローナル抗体の一部。
<23> 当該モノクローナル抗体が、ヒト以外の哺乳動物由来のイムノグロブリンの超可変領域の相補性決定領域の一部または全部、ヒト由来のイムノグロブリンの超可変領域の枠組領域、及びヒト由来のイムノグロブリンの定常領域とからなる組換ヒト型モノクローナル抗体であることを特徴とする前記<21>に記載のモノクローナル抗体または該モノクローナル抗体の一部。
<24> 当該モノクローナル抗体が、ヒトモノクローナル抗体であることを特徴とする前記<21>〜<23>のいずれかに記載のモノクローナル抗体または該モノクローナル抗体の一部。
<25> 前記<21>〜<24>のいずれかに記載のモノクローナル抗体を産生する細胞。
<26> 該細胞が、該モノクローナル抗体を産生する能力を有する非ヒト哺乳動物由来のB細胞と哺乳動物由来のミエローマ細胞とを融合して得られる融合細胞であることを特徴とする前記<25>に記載の細胞。
<27> 該細胞が、該モノクローナル抗体の重鎖をコードするDNA若しくはその軽鎖をコードするDNAのいずれか一方のDNA、または両方のDNAが細胞内に導入されることにより形質転換された遺伝子組換え細胞であることを特徴とする前記<25>に記載の細胞。
<28> 前記<7>〜<11>のいずれかに記載のDNA及び薬学的に許容され得る担体を含んでなる医薬組成物。
<29> 該医薬組成物が、腫瘍細胞の増殖を抑制するために用いられることを特徴とする前記<28>に記載の医薬組成物。
<30> 前記<12>又は<13>に記載のRNA及び薬学的に許容され得る担体を含んでなる医薬組成物。
<31> 該医薬組成物が、腫瘍細胞の増殖を抑制するために用いられることを特徴とする前記<30>に記載の医薬組成物。
<32> 前記<20>に記載の抗血清若しくはポリクローナル抗体、及び薬学的に許容され得る担体を含んでなる医薬組成物。
<33> 該医薬組成物が、腫瘍細胞の増殖を抑制するために用いられることを特徴とする前記<32>に記載の医薬組成物。
<34> 前記<21>〜<24>のいずれかに記載のモノクローナル抗体若しくは該モノクローナル抗体の一部、及び薬学的に許容され得る担体を含んでなる医薬組成物。
<35> 該医薬組成物が、腫瘍細胞の増殖を抑制するために用いられることを特徴とする前記<34>に記載の医薬組成物。
<36> 前記<21>〜<24>のいずれかに記載のモノクローナル抗体を、単独でまたは他の物質と反応することにより検出可能なシグナルをもたらすことができる標識物質で標識してなる標識モノクローナル抗体。
<37> 標識物質が、酵素、蛍光物質、化学発光物質、ビオチン、アビジン、または放射性同位体であることを特徴とする前記<36>に記載の標識モノクローナル抗体。
<38> 配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するタンパクまたはその断片を検出するためのキットであって、前記<36>または前記<37>に記載の標識モノクローナル抗体からなることを特徴とするキット。
<39> 試料中のタンパクの発現の有無または発現量を調べる方法であって、
(1)試料に前記<36>または<37>に記載の標識モノクローナル抗体を接触させる工程;及び
(2)該試料に結合した該標識モノクローナル抗体の量を、該標識モノクローナル抗体に結合している標識物質の種類に応じて、蛍光、化学発光若しくは放射活性を検出することにより測定する工程、
を含むことを特徴とする方法。
<40> 試料が、腫瘍細胞、腫瘍組織または腫瘍を有する臓器若しくはその一部であることを特徴とする前記<39>に記載の方法。
<41> 前記<7>〜<11>のいずれかに記載のDNA又はその断片を、酵素、蛍光物質、化学発光物質、ビオチン、アビジンまたは放射性同位体で標識してなる標識DNA。
<42> 前記<12>または前記<13>に記載のRNAを放射性同位体で標識してなる放射性標識RNA。
<43> 前記<1>〜<5>のいずれかに記載のタンパクをコードする遺伝子を検出するためのキットであって、前記<41>に記載の標識DNAまたは前記<42>に記載の放射性RNAからなることを特徴とするキット。より詳細には、配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するタンパクをコードする遺伝子を検出するためのキットであって、前記<41>に記載の放射性DNAまたは前記<42>に記載の放射性RNAからなることを特徴とするキット。
<44> 前記<1>〜<5>のいずれかに記載のタンパクを用いて、当該タンパクの有する中性アミノ酸類を輸送する能力に対する被検物質の基質としての作用を検出する方法。
<45> 前記<7>〜<11>のいずれかに記載のDNAで形質転換された細胞を用いる前記<44>に記載の方法。
<46> アフリカツメガエルの卵母細胞を用いる前記<44>に記載の方法。
<47> 被検物質が、アミノ酸以外の物質である前記<44>〜<46>のいずれかに記載の方法。
<48> 前記<1>〜<5>のいずれかに記載のタンパクを用いて、当該タンパクの有する中性アミノ酸及びその類似物質を輸送する能力を阻害する作用を有する被検物質をスクリーニングする方法。より詳細には、配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するタンパクの生物学的機能であって、ロイシン(Leu)、イソロイシン(Ile)、フェニルアラニン(Phe)、メチオニン(Met)、チロシン(Tyr)、ヒスチジン(His)、トリプトファン(Trp)及びバリン(Val)からなる群から選ばれるいずれか1種類のアミノ酸の細胞内への取り込みを媒介する能力を阻害する能力を有する物質を同定する方法であって、該方法が、下記(1)並びに(2)の工程を含むことを特徴とする方法:
(1)下記(a)乃至(d)のいずれかの細胞を、該物質、並びにロイシン(Leu)、イソロイシン(Ile)、フェニルアラニン(Phe)、メチオニン(Met)、チロシン(Tyr)、ヒスチジン(His)、トリプトファン(Trp)及びバリン(Val)からなる群から選ばれるいずれか1種類のアミノ酸を放射性同位体により標識してなる放射性標識アミノ酸との共存下、または該放射性標識アミノ酸のみの存在下で培養する工程:
(a)配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するタンパク及び配列番号6に記載のアミノ酸配列有するタンパクを共発現している天然に存在する細胞;
(b)配列番号1に記載の塩基配列の塩基番号66乃至1586の塩基配列及び該塩基番号1586の塩基に隣接するTAG、TGA若しくはTAAで表されるいずれか1つのナンセンス塩基配列からなる塩基配列を含むDNA、並びに配列番号5に記載の塩基配列の塩基番号110乃至1696の塩基配列及び該塩基番号1696の塩基に隣接するTAG、TGA若しくはTAAで表されるいずれか1つのナンセンス塩基配列からなる塩基配列を含むDNAで共形質転換することにより、配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するタンパク及び配列番号6に記載のアミノ酸配列有するタンパクを共発現している組換え細胞;
(c)配列番号26に記載の塩基配列の塩基番号1乃至1521の塩基配列及び該塩基番号1521の塩基に隣接するUAG、UGA若しくはUAAで表されるいずれか1つのナンセンス塩基配列からなる塩基配列を含むRNA、並びに配列番号27に記載の塩基配列の塩基番号1乃至1587の塩基配列及び該塩基番号1587の塩基に隣接するUAG、UGA若しくはUAAで表されるいずれか1つのナンセンス塩基配列からなる塩基配列を含むRNAが共に導入することにより、配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するタンパク及び配列番号6に記載のアミノ酸配列有するタンパクを共発現している非ヒト由来の組換え細胞;または
(d)ヒト由来の腫瘍細胞;並びに
(2)該物質と該放射性標識アミノ酸との共存下で培養した細胞が有する放射活性、並びに該放射性標識アミノ酸のみの存在下で培養した細胞が有する放射活性を測定し、各々の値の差異を比較する工程。
<49> 前記<7>〜<11>のいずれかに記載のDNAで形質転換された細胞を用いる<48>に記載の方法。
<50> アフリカツメガエルの卵母細胞を用いる<48>に記載の方法。
<51> 前記<7>〜<11>のいずれかに記載のDNAのmRNAへの転写又は前記<1>〜<5>のいずれかに記載のタンパクの発現を阻害する能力を有する物質を同定する方法。
<52> 前記<44>〜<51>のいずれかに記載の方法により検出、スクリーニング又は同定された物質。
<53> 当該物質が、腫瘍細胞の増殖を阻害する能力を有する物質であることを特徴とする前記<52>に記載の物質。
<54> 外来性遺伝子を有するトランスジェニックマウスであって、該マウスは、その内在性遺伝子上に配列番号2又は4に記載のアミノ酸配列を有するタンパクをコードするDNAが組み込まれることにより、該タンパクを発現する細胞を体内に有することを特徴とするトランスジェニックマウス。
<55> 当該DNAが、配列番号1に記載の塩基配列の塩基番号66乃至1586の塩基配列及び該塩基番号1586の塩基に隣接するTAG、TGA若しくはTAAで表されるいずれか1つのナンセンス塩基配列からなる塩基配列、又は配列番号3に記載の塩基配列の塩基番号64乃至1599の塩基配列及び該塩基番号1599の塩基に隣接するTAG、TGA若しくはTAAで表されるいずれか1つのナンセンス塩基配列からなる塩基配列を含むDNAであることを特徴とする前記<54>に記載のトランスジェニックマウス。
【発明の効果】
【0034】
本発明のアミノ酸トランスポーター分子は、細胞の製造及び増殖に必須な栄養素である種々のアミノ酸の取り込みを媒介する重要な生物学的機能を有し、また、正常細胞での発現に比べ、幅広い種類の腫瘍細胞に発現が認められることから、該分子は、例えば抗腫瘍薬(抗癌剤)の開発におけるターゲットとして極めて有望である。
即ち、該分子の生物活性あるいは該分子の発現を抑制する活性を有する薬剤(アンチセンスDNA医薬品、アンチセンスRNA医薬品、抗体医薬品、抗体フラグメント医薬品、あるいはペプチドアンタゴニスト医薬品、低分子化合物等の非ペプチドアンタゴニスト医薬品など)を用いて、該分子を介した栄養素(種々のアミノ酸や生理活性物質)の腫瘍細胞内への取り込みを阻害することにより、腫瘍細胞を飢餓状態とし腫瘍細胞の生存及び増殖を阻害することが可能である。
従って、本発明のタンパク若しくはその一部、該タンパクをコードするDNA若しくはその一部、該タンパクをコードするRNA若しくはその一部、該DNAにハイブリダイズするDNA、該DNAを含む発現ベクター、該DNA若しくは該ベクターで形質転換された形質転換細胞、該RNAが導入された細胞、該タンパク若しくはその一部に反応性を有する抗体若しくはその一部、該抗体を産生する細胞、該DNAの一部を放射性標識してなる標識DNA、該RNAの一部を放射性標識してなる標識RNA、該抗体または該抗体の一部を標識してなる標識抗体、該標識DNAからなるキット、該標識RNAからなるキット、並びに該標識抗体からなるキットは、そのような抗腫瘍効果を有する薬剤として、及び/またはそのような薬剤開発における試薬として提供されることができる。
また、本発明のDNA、RNAあるいは形質転換細胞等の種々の物質を用いることにより、本発明タンパクの生物活性を制御する(活性化、抑制、阻害)薬剤、本発明のタンパクのmRNAへの転写を阻害する薬剤、該mRNAから本発明のタンパクへの翻訳を阻害する薬剤、あるいは該タンパクの他の分子との相互作用を阻害する薬剤などの薬剤設計、スクリーニング(例えば、レポータージーンアッセイなど)、並びに同定が可能となる。
さらに、本発明のDNAの一部並びにRNAの一部は、コロニーハイブリダイゼーション法あるいはプラークハイブリダイゼーション法を用いてそれらとハイブリダイズするDNAあるいはRNAを同定する場合のプローブとして提供可能である。さらに、本発明のDNAの一部は、PCR法を用いて本発明のDNAあるいは本発明のトランスポーター分子をコードする遺伝子を増幅するためのプライマーとして提供可能である。
さらに、本発明のDNAの一部、該DNAに相補的なDNA、あるいは本発明のRNAの一部は、前述の試薬として提供されるのみならず、いわゆるアンチセンスDNA医薬あるいはアンチセンスRNA医薬として提供可能である。
本発明のタンパクは、該タンパク分子が細胞表面上に発現させた状態を利用することにより、前述したように、本発明のタンパクの生物活性または該タンパクの発現を制御する薬剤の同定を行うことができる。また、該タンパクのアミノ酸配列を基に、該タンパクの生物活性を阻害する能力を有するペプチドアンタゴニストを設計することができる。このように設計されたペプチドアンタゴニストは、本発明のタンパクであるアミノ酸トランスポーターの種々の基質との結合、あるいは本発明のタンパクの他の分子との結合を競合的に阻害することにより、本発明のタンパクの生物学的機能が発揮されないようにする医薬品として提供可能である。
本発明のタンパク及びその一部並びに該タンパクを発現する形質転換細胞等の細胞は、本発明のタンパクに対する抗体(抗血清、モノクローナル抗体)の作成における免疫感作抗原として提供可能である。
本発明のタンパクであるアミノ酸トランスポーター分子に反応性を有する抗血清(ポリクローナル抗体)並びにモノクローナル抗体は、該分子に結合することにより該分子の生物活性の発揮を阻害(中和)することによる抗体医薬品として提供可能である。
さらに、該抗体は、検出可能なシグナルをもららすことができる種々の物質で標識することにより、種々の生体試料(細胞、組織、臓器あるいは体液など)での本発明のタンパクの発現状態の分析(免疫組織染色、ウェスタンブロット、ELISAなど)における試薬として提供可能である。
このような標識抗体と同様に、本発明のDNAまたはその一部を検出可能なシグナルをもたらすことができる種々の物質で標識した標識DNAは、本発明のタンパクをコードする遺伝子の同定における試験(例えば、サザンブロッティング、FISHなど)における試薬として提供可能である。
また、同様に発明のRNAまたはその一部を、放射性同位体で標識した放射性標識RNAは、細胞、組織あるいは臓器における本発明のタンパクをコードするmRNAの発現状態の分析(ノーザンブロッティングなど)における試薬として提供可能である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】ヒトアミノ酸トランスポーターLAT1とラットアミノ酸トランスポーターLAT1の各々のアミノ酸配列の相同性を示す図である。
【図2】疎水性プロット分析によるヒトアミノ酸トランスポーターLAT1の親水性及び疎水性領域を示す図である。
【図3】ノーザンブロッティングによる種々のヒト組織でのヒトアミノ酸トランスポーターLAT1のmRNAの発現状態を示す図である。
【図4】ヒトアミノ酸トランスポーターLAT1及びヒト細胞膜表面分子4F2hcを共発現させたアフリカツメガエル卵母細胞での細胞内へのロイシンの取り込み活性を示す図である。
【図5】ヒトアミノ酸トランスポーターLAT1及びヒト細胞膜表面分子4F2hcを共発現させたアフリカツメガエル卵母細胞を種々の塩の存在下で培養した場合の細胞内へのロイシンの取り込み量を示す図である。
【図6】ミカエリス・メンテン動力学試験によるヒトアミノ酸トランスポーターLAT1の基質に対する親和性を示す図である。
【図7】ヒトアミノ酸トランスポーターLAT1及びヒト細胞膜表面分子4F2hcを共発現させたアフリカツメガエル卵母細胞を種々のアミノ酸の存在下で培養した場合の、基質としての放射性標識ロイシンの細胞内への取り込み量を示す図である。
【図8】ヒトアミノ酸トランスポーターLAT1及びヒト細胞膜表面分子4F2hcを共発現させたアフリカツメガエル卵母細胞をアミノ酸または薬剤の存在下で培養した場合の、基質としての放射性標識フェニルアラニンの細胞内への取り込み量を示す図である。
【図9】ヒトアミノ酸トランスポーターLAT1及びヒト細胞膜表面分子4F2hcを共発現させたアフリカツメガエル卵母細胞をアミノ酸または生理活性物質の存在下で培養した場合の、基質としての放射性標識ロイシンの細胞内への取り込み量を示す図である。
【図10】ヒトアミノ酸トランスポーターLAT1及びヒト細胞膜表面分子4F2hcを共発現させたアフリカツメガエル卵母細胞への、基質としての種々の放射性標識アミノ酸の細胞内への取り込み量を示す図である。
【図11】ラットC6グリオーマ由来mRNA及び/又はラット4F2hc遺伝子のcRNAを注入した卵母細胞によるロイシン取り込み実験の結果を示す図である。
【図12】ラット中性アミノ酸トランスポーターLAT1の疎水性プロットを示す図である。
【図13】ラットの各臓器組織におけるLAT1遺伝子mRNAの発現をノーザンブロッティングにより解析した結果を示した図面に代わる写真である。
【図14】ラットの各培養細胞株におけるLAT1遺伝子mRNAの発現とラット肝臓におけるLAT1遺伝子mRNAの発現をノーザンブロッティングにより比較した結果を示した図面に代わる写真である。
【図15】ヒトの各培養細胞株におけるLAT1遺伝子mRNAの発現をノーザンブロッティングにより解析した結果を示した図面に代わる写真である。
【図16】ラットLAT1遺伝子のcRNA及び/又はラット4F2hc遺伝子のcRNAを注入した卵母細胞によるロイシン取り込み実験をcRNA注入後2日又は5日で行った結果を示す図である。
【図17】ラットLAT1遺伝子のcRNA及びラット4F2hc遺伝子のcRNAを注入した卵母細胞によるロイシン取り込み実験において添加する塩の影響を調べた結果を示す図である。
【図18】ラットLAT1遺伝子のcRNA及びラット4F2hc遺伝子のcRNAを注入した卵母細胞によるロイシン取り込み実験において基質ロイシンの濃度の影響を調べた結果を示す図である。
【図19】ラットLAT1遺伝子のcRNA及びラット4F2hc遺伝子のcRNAを注入した卵母細胞によるロイシン取り込み実験において、系への各種アミノ酸もしくはその類似化合物添加の影響を調べた結果を示す図である。
【図20】培養ラット肝細胞株において、培地へのD−ロイシン又はBCH添加の細胞増殖への影響を調べた結果を示す図である。
【図21】ヒト培養腫瘍細胞株におけるLAT1遺伝子mRNA及び4F2hc遺伝子mRNAの発現をノーザンブロッティングにより解析した結果を示した図面に代わる写真である。
【図22】ヒト培養腫瘍細胞株(白血病細胞)におけるLAT1遺伝子mRNA及び4F2hc遺伝子mRNAの発現をノーザンブロッティングにより解析した結果を示した図面に代わる写真である。
【図23】T24細胞のロイシン取り込みのNa依存性を調べた結果を示す図である。
【図24】上:T24細胞のロイシン取り込みの濃度依存性(Michaelis−Menten動力学試験)を示した図。下:T24細胞のロイシン取り込みの濃度依存性のEadie-Hoffstee plot よる解析の結果を示した図である。
【図25】T24細胞によるロイシン取り込み実験において、系への各種アミノ酸もしくはその類似化合物添加の影響を調べた結果を示す図である。
【図26】T24細胞によるロイシン取り込み実験において、BCHの効果を二重逆数プロットを用いて解析した結果を示す図である。
【図27】T24細胞(A)とDaudi細胞(B)の増殖に対するBCHの効果示した図である。
【図28】ICRマウスにマウスsarcoma180細胞を腹腔内移植し、BCH、D−Leu及びD−Alaの延命効果を検討した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明で用いる語句の意味、並びに本発明のDNA、タンパク、抗体、抗体産生細胞、形質転換体、標識DNA、標識RNA、標識抗体、医薬組成物、並びにトランスジェニックマウスなどの一般的製造方法を明らかにすることにより、本発明を詳細に説明する。
【0037】
本発明において用いられる「哺乳動物」なる用語は、ヒト、ウシ、ウマ、ブタ、ヤギ、ヒツジ、イヌ、ネコ、ニワトリ、ウサギ、ラット、ハムスター、モルモット、及びマウスなどのあらゆる哺乳動物を意味し、好ましくは、ヒト、ウシ、ウマ、ブタ、ヤギ、ヒツジ、イヌ、ネコ、ニワトリ、ウサギ、ラット、ハムスター、モルモット、及びマウスであり、特に好ましくは、ヒト、ラット、ハムスター、モルモット、及びマウスである。
本発明で用いられる「ヒト以外の哺乳動物」及び「非ヒト哺乳動物」なる用語は各々同義であり、前述に定義した哺乳動物におけるヒト以外のあらゆる哺乳動物を意味する。
【0038】
本発明において用いられる「アミノ酸」とは、自然界に存在するあらゆるアミノ酸を意味し、好ましくは、アミノ酸を表記するために用いられるアルファベットの三文字表記法または一文字表記法に従って各々下記のように表されるアミノ酸を意味する。
グリシン(Gly/G)、アラニン(Ala/A)、バリン(Val/V)、ロイシン(Leu/L)、イソロイシン(Ile/I)、セリン(Ser/S)、スレオニン(Thr/T)、アスパラギン酸(Asp/D)、グルタミン酸(Glu/E)、アスパラギン(Asn/N)、グルタミン(Glu/Q)、リジン(Lys/K)、アルギニン(Arg/R)、システイン(Cys/C)、メチオニン(Met/M)、フェニルアラニン(Phe/F)、チロシン(Tyr/Y)、トリプトファン(Trp/W)、ヒスチジン(His/H)、プロリン(Pro/P)。
【0039】
アミノ酸は、それが有する電荷及び極性の状態に従って、酸性アミノ酸、塩基性アミノ酸及び中性アミノ酸に分類される。上記のアミノ酸を、当該分類に従って分類するなら下記のように分類されるが、電荷及び極性の程度をさらに細分化する場合、あるいは他のパラメーターも考慮して分類する場合には、必ずしも下記のような分類が適さないアミノ酸も存在する。
(酸性アミノ酸)
アスパラギン酸(Asp/D)、グルタミン酸(Glu/E)
(塩基性アミノ酸)
リジン(Lys/K)、アルギニン(Arg/R)、ヒスチジン(His/H)
(中性アミノ酸)
ロイシン(Leu/L)、イソロイシン(Ile/I)、フェニルアラニン(Phe/F)、メチオニン(Met/M)、チロシン(Tyr/Y)、トリプトファン(Trp/W)、バリン(Val/V)、ヒスチジン(His/H)、スレオニン(The/T)、システイン(Cys/C)、アスパラギン(Asn/N)、グルタミン(Gln/Q)、グリシン(Gly/G)、アラニン(Ala/A)、セリン(Ser/S)、プロリン(Pro/P)
【0040】
本発明において用いられる「タンパク」なる用語は、前述した哺乳動物に由来し、また上述したアミノ酸からなる固有のアミノ酸配列を有する分子を意味する。
本発明の「タンパク」は、前記<1>〜<5>のいずれかに記載したとおりのタンパクである。より詳細には、
「アミノ酸の細胞内への輸送を媒介する能力を有する細胞表面タンパクであって、該タンパクは、下記(1)または(2)のタンパクを発現している細胞において、ロイシン(Leu)、イソロイシン(Ile)、フェニルアラニン(Phe)、メチオニン(Met)、チロシン(Tyr)、ヒスチジン(His)、トリプトファン(Trp)及びバリン(Val)からなる群から選ばれるいずれか1種類のアミノ酸の細胞内への取り込みを媒介する能力を有するものであることを特徴とするタンパク:
(1)配列番号6又は8に記載のアミノ酸配列を有するタンパク;または
(2)配列番号6又は8に記載のアミノ酸配列を有するタンパクの相同タンパクであって、配列番号5又は7に記載の塩基配列を含むDNAにストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAによりコードされるタンパク。」
上記本発明のタンパクは、即ち、本発明のタンパクが、配列番号6に記載されるアミノ酸配列を有するヒト由来細胞膜表面分子4F2hcまたは非ヒト動物由来のその相同タンパクが発現している細胞膜上に共に発現している場合に、該細胞に対して、上記少なくともいずれか1つのアミノ酸の細胞内への取り込みを誘導するような性質を与えることができるタンパクを意味する。
ここで「相同タンパク」とは、ヒト由来細胞膜表面分子4F2hcのアミノ酸配列(配列番号6)に配列相同性を有し、進化的に共通の祖先タンパクに由来したものと考えられ、該ヒト由来4F2hcと同様の生理学的機能を有するヒト以外の動物種由来のタンパクを意味する。
【0041】
本発明のタンパクは、好ましくは下記(1)または(2)のいずれかのタンパクである。
(1)配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するタンパク;または
(2)配列番号2に記載のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有するタンパクであり、該タンパクは、配列番号6に記載のアミノ酸配列を有するタンパクを発現している細胞において、ロイシン(Leu)、イソロイシン(Ile)、フェニルアラニン(Phe)、メチオニン(Met)、チロシン(Tyr)、ヒスチジン(His)、トリプトファン(Trp)及びバリン(Val)からなる群から選ばれるいずれか1種類のアミノ酸の細胞内への取り込みを媒介する能力を有するものであることを特徴とするタンパク。
【0042】
ここで「数個のアミノ酸」とは、複数個のアミノ酸を意味し、具体的には1乃至40個のアミノ酸、好ましくは1乃至30個のアミノ酸であり、さらに好ましくは1乃至20個のアミノ酸であり、特に好ましくは1乃至10個のアミノ酸である。
上記のような本発明のタンパクのアミノ酸配列中のアミノ酸の部分的改変(欠失、置換、挿入、付加)は、該タンパクをコードする塩基配列を部分的に改変することにより導入することができる。この塩基配列の部分的改変は、既知の部位特異的変異導入法(Site specific mutagenesis)を用いて常法により導入することができる(Proc. Natl. Acad. Sci., USA, Vol.81, p.5662-5666, 1984)。
【0043】
本発明における「部分アミノ酸配列」とは、前述した本発明のタンパクの一態様であり、当該アミノ酸配列中の任意の部分アミノ酸配列(タンパクフラグメント)を意味する。好ましくは、本発明のタンパクがその生物学的機能を発揮するために必要な部位、または本発明のタンパクが他のタンパク分子(受容体やリガンド)と結合若しくは相互作用する部位を含む部分配列を挙げることができる。
また、本発明における「部分アミノ酸配列を含み、抗原性を有するポリぺプチド」とは、前記の部分アミノ酸配列を含むポリペプチドであって、該ポリペプチドを、前述の哺乳動物の体内に投与したとき、該哺乳動物の免疫応答機構により非自己または異物と認識され、該哺乳動物の体内に該ポリペプチドに対する抗体を産生させることができるポリペプチドを意味する。
【0044】
本発明のタンパクまたは本発明のタンパクのアミノ酸配列中の部分アミノ酸を含むポリペプチドは、後述するような遺伝子組換え技術のほか、化学的合成法、細胞培養方法等のような当該技術的分野において知られる公知の方法あるいはその修飾方法を適宜用いることにより発現させることができる。
また、本発明のタンパクは、後述する本発明のRNAを、例えば、アフリカツメガエルの卵母細胞のような種々の細胞に注入することにより、DNAからmRNAへの転写を経ずに、細胞内に注入したRNAから直接タンパクへの翻訳を行うことによっても発現させることができる(実験医学増刊, 「バイオシグナル実験法」, Vol.11, No.3, p.30-38, 1993)。
【0045】
本発明の「DNA」は、前記<7>〜<11>のいずれかに記載されたとおりのDNAである。好ましい態様としては、前述の本発明のタンパクまたはポリペプチドコードするDNAであり、また本発明のタンパクをコードし得るDNAであれば、cDNA、該cDNAに相補的なDNA、及びゲノミックDNAなどいかなる塩基配列を有するDNAも包含する。さらに、本発明のDNAには、同一のアミノ酸をコードするコドンであればどのようなコドンから構成されるDNAも含まれる。また、本発明のDNAの好ましい態様の1つは、本発明のヒト由来のタンパクをコードするDNAである。
【0046】
より詳細には、本発明のDNAは、下記(1)乃至(3)のいずれかに記載のDNAである。
(1) 前記<1>〜<5>のいずれかに記載のタンパクをコードするDNA。
ここで、該DNAには、当該タンパク、例えば配列番号2又は4に記載のアミノ酸配列からなるタンパクをコードするDNAであれば、cDNA、該cDNAに相補的なDNA、及びゲノミックDNAなどいかなる塩基配列を有するDNAも包含される。
【0047】
(2) 配列番号1に記載の塩基配列の塩基番号66乃至1586の塩基配列及び該塩基番号1586の塩基に隣接するTAG、TGA若しくはTAAで表されるいずれか1つのナンセンス塩基配列、又は配列番号3に記載の塩基配列の塩基番号64乃至1599の塩基配列及び該塩基番号1599の塩基に隣接するTAG、TGA若しくはTAAで表されるいずれか1つのナンセンス塩基配列からなる塩基配列からなる塩基配列を含むDNA。
ここで、「ナンセンス塩基配列」とは、終止コドン、終結コドン、ナンセンスコドン、ターミネーションコドンあるいはターミネーションシグナルとも呼ばれるTAG、TGA若しくはTAAのいずれかの塩基配列を意味し、タンパク質の合成の終止点をコードしている塩基配列である。
【0048】
(3) 配列番号1に記載の塩基配列の塩基番号66乃至1586の塩基配列、又は配列番号3に記載の塩基配列の塩基番号64乃至1599の塩基配列及び該塩基番号1599の塩基に隣接するTAG、TGA若しくはTAAで表されるいずれか1つのナンセンス塩基配列からなる塩基配列を有するDNAに、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、少なくとも1種類のアミノ酸の細胞内への取り込みを媒介する能力を有する細胞表面タンパクをコードするDNAであって、該アミノ酸の細胞内への取り込みが下記(イ)又は(ロ)のいずれかのタンパクの共存に依存することなく媒介されることを特徴とするDNA:
(イ)配列番号6又は8に記載のアミノ酸配列を有するタンパク;
(ロ)配列番号6又は8に記載のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有するタンパク。
【0049】
ここで、「数個のアミノ酸」とは、前述での定義したとおりの意味を有する。
また、ここで「ストリンジェントな条件下」とは、ハイブリダーゼーションを行わせるための条件を意味し、具体的には温度並びに塩濃度を意味する。該温度は、一般的に約36乃至約42℃が用いられるが、用いられるプローブの長さ及び相補性の程度に従って、下記のようにして設定することもできる。
例えば、50塩基以上のプローブを用い、0.9%NaCl下でハイブリダイゼーションを行う場合には、50%の解離を生ずる温度(Tm)の目安を下記計算式から求め、ハイブリダイゼーションの温度を下記計算式のように設定することができる。
【0050】
Tm=82.3℃+0.41×(G+C)%−500/n−0.61×(フォルムアミド)%
(nはプローブの塩基数を示す。)
温度=Tm−25℃
また、100塩基以上のプローブ(G+C=40〜50%の場合)を用いる場合には、Tmが下記(1)及び(2)のように変化することを目安する。
(1)1%ミスマッチ毎に、Tmが約1℃下がる。
(2)フォルムアミド1%毎に、Tmが0.6〜0.7℃下がる。
従って、完全相補鎖の組み合わせの場合の温度条件は下記のようにすることができる。
(A)65〜75℃(フォルムアミド無添加)
(B)35〜45℃(50%フォルムアミド存在下)
また、不完全相補鎖の組み合わせの場合の温度条件は下記のようにすることができる。
(A)45〜55℃(フォルムアミド無添加)
(B)35〜42℃(30%フォルムアミド存在下)
また、23塩基以下のプローブを用いる場合の温度条件は、37℃とすることもできるし、また下記計算式を目安とすることもできる。
温度=2℃×(A+Tの数)+4℃×(C+Gの数)−5℃
また、塩濃度は、通常5×SSCまたはこれと同等の塩濃度が設定される。
従って、本発明におけるハイブリダイゼーションにおける温度は、例えば約37℃に設定することができる。また塩濃度は、5×SSCまたはこれと同等の塩濃度に設定することができる。
上述した本発明のDNAは、いかなる方法で得られるものであってもよい。例えばmRNAから調製される相補DNA(cDNA)、ゲノムDNAから調製されるDNA、化学合成によって得られるDNA、RNAまたはDNAを鋳型としてPCR法で増幅させて得られるDNAおよびこれらの方法を適当に組み合わせて構築されるDNAのいずれもが、本発明のDNAに包含される。
【0051】
本発明のタンパクをコードするDNAは、常法に従って本発明のタンパクのmRNAからcDNAをクローン化する方法、ゲノムDNAを単離してスプライシング処理する方法、化学合成する方法等により取得することができる。
(1)例えば、本発明のタンパクのmRNAからcDNAをクローン化する方法としては以下の方法が例示される。
まず、本発明のタンパクを発現・産生する前述のような組織あるいは細胞から該本発明のタンパクをコードするmRNAを調製する。mRNAの調製は、例えばグアニジンチオシアネート法(チャーグウィン(Chirgwin)ら、バイオケミストリー(Biochemistry)、第18巻、第5294頁、1979年)、熱フェノール法もしくはAGPC法等の公知の方法を用いて調製した全RNAをオリゴ(dT)セルロースやポリU−セファロース等によるアフィニティクロマトグラフィーにかけることによって行うことができる。
【0052】
次いで得られたmRNAを鋳型として、例えば逆転写酵素を用いる等の公知の方法、例えばオカヤマらの方法(モレキュラーセルバイオロジー(Mol.Cell.Biol.)、第2巻、第161頁、1982年及び同誌、第3巻、第280頁、198 3年)やホフマン(Hoffman)らの方法(ジーン(Gene)、第25巻、第263 頁、1983年)等によりcDNA鎖を合成し、cDNAの二本鎖cDNAへの変換を行う。このcDNAをプラスミドベクターもしくはファージベクターに組み込み、大腸菌を形質転換して、あるいはインビトロパッケージング後、大腸菌に形質移入(トランスフェクト)することによりcDNAライブラリーを作製する。
【0053】
ここで用いられるプラスミドベクターとしては、宿主内で複製保持されるものであれば特に制限されず、また用いられるファージベクターとしても宿主内で増殖できるものであれば良い。常法的に用いられるクローニング用ベクターとしてλZipLox、pUC19、λgt10、λgt11等が例示される。ただし、後述の免疫学的スクリーニングに供する場合は、宿主内で本発明のタンパクをコードする遺伝子を発現させうるプロモーターを有したベクターであることが好ましい。
プラスミドにcDNAを組み込む方法としては、例えばマニアティス(Maniatis)らの方法(モレキュラークローニング、ア・ラボラトリー・マニュアル(Molecular Cloning, A Laboratory Manual, second edition)、コールドスプリングハーバーラボラトリー(Cold Spring Harbor Laboratory)、第1.53頁、1989年)に記載の方法などが挙げられる。また、ファージベクターにcDNAを組み込む方法としては、ヒュン(Hyunh)らの方法(DNAクローニング、プラクティカルアプローチ(DNA Cloning, a practical approach)、第1巻、第49頁、1985年)などが挙げられる。簡便には、市販のクローニングキット(例えば、GIBCO製あるいは宝酒造製等)を用いることもできる。このようにして得られる組換えプラスミドやファージベクターは、原核細胞(例えば、E.Coli:HB101、DH5αまたはMC1061/P3等)等の適当な宿主に導入する。
【0054】
プラスミドを宿主に導入する方法としては、(モレキュラークローニング、ア・ラボラトリー・マニュアル(Molecular Cloning, A Laboratory Manual, second edition)、コールドスプリングハーバーラボラトリー(Cold Spring Harbor Laboratory)、第1.74頁、1989年)に記載の塩化カルシウム法または塩化カルシウム/塩化ルビジウム法、エレクトロポレーション法等が挙げられる。また、ファージベクターを宿主に導入する方法としてはファージDNAをインビトロパッケージングした後、増殖させた宿主に導入する方法等が例示される。インビトロパッケージングは、市販のインビトロパッケージングキット(例えば、ストラタジーン製、アマシャム製等)を用いることによって簡便に行うことができる。
【0055】
上記の方法によって作製されたcDNAライブラリーから、本発明のタンパクをコードするcDNAを単離する方法は、一般的なcDNAスクリーニング法を組み合わせることによって行うことができる。
例えば、別個に本発明のタンパクのアミノ酸配列をコードする塩基配列の一部または全部を含むDNA、あるいは該塩基配列と相同性を有するDNAを調製したのち、これを32Pまたは[α-32P]dCTPで標識してプローブとなし、公知のコロニーハイブリダイゼーション法(クランシュタイン(Crunstein)ら、プロシーディングスオブナショナルアカデミーオブサイエンス(Proc. Natl. Acid. Sci. USA)、第72巻、第3961頁、1975年)またはプラークハイブリダイゼーション法(Molecular Cloning, A Laboratory Manual, second edition, Cold Spring Harbor Laboratory、第2.108 頁、1989年)により、目的のcDNAを含有するクローンをスクリーニングする方法、あるいはPCRプライマーを作製し本発明のタンパクの特定領域をPCR法により増幅し、該領域をコードするDNA断片を有するクローンを選択する方法等が挙げられる。
【0056】
また、cDNAを発現しうるベクター(例えば、λZipLox、λgt11ファージベクター)を用いて作製したcDNAライブラリーを用いる場合には、本発明のタンパクに反応性を有する抗体を用いる抗原抗体反応を利用して、目的のクローンを選択することができる。大量にクローンを処理する場合には、PCR法を利用したスクリーニング法を用いることが好ましい。
この様にして得られたDNAの塩基配列はマキサム・ギルバート法(マキサム(Maxam)ら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA.、第74巻、第560頁、1977年)、ファージM13を用いたジデオキシヌクレオチド合成鎖停止の方法(サンガー(Sanger)ら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA.、第74巻、第546 3〜5467頁、1977年)、あるいはダイターミネーターサイクルシーケンシング法(Applied Biosysytems社製)によって決定することができる。本発明のタンパクをコードする遺伝子は、その全部または一部を上記のようにして得られるクローンから制限酵素等により切り出すことにより取得できる。
【0057】
(2)また、前述のような本発明のタンパクを発現する細胞に由来するゲノムDNAから本発明のタンパクをコードするDNAを単離することによる調製方法としては、例えば以下の方法が例示される。該細胞を好ましくはSDSまたはプロテナーゼK等を用いて溶解し、フェノールによる抽出を反復してDNAの脱蛋白質を行う。RNAを好ましくはリボヌクレアーゼにより消化する。得られるDNAを適当な制限酵素により部分消化し、得られるDNA断片を適当なファージまたはコスミドで増幅しライブラリーを作成する。そして目的の配列を有するクローンを、例えば放射性標識されたDNAプローブを用いる方法等により検出し、該クローンから本発明のタンパクをコードする遺伝子の全部または一部を制限酵素等により切り出し取得する。
【0058】
(3)また、本発明のDNAの一態様である配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するタンパクをコードするcDNAの製造は、配列番号1に記載される塩基配列をもとにして、常法に従って行うことができる。
【0059】
例えば、ラットC6グリオーマ細胞を遺伝子源として用い、これからmRNA(ポリ(A)RNA)を調製する。これを、分画し各画分について、4F2hcのcRNAとともに、アフリカツメガエルの卵母細胞に導入する。
4F2hcの遺伝子のcDNAはすでに報告されている[Broerら、Biochem.J.、第312巻、863項、1995年]ので、この配列情報から、PCR法などを用いて、容易に4F2hcの遺伝子を得ることが可能である。得られた4F2hcのcDNAから、T3又はT7RNAポリメラーゼ等を用いて、これに相補的なRNA(cRNA)(キャプ化されたもの)を合成できる。
【0060】
mRNAと4F2hcのcRNAを導入した卵母細胞について、例えば、ロイシンなどを基質として、細胞内への基質の輸送(取り込み)を測定し、高い取り込み活性を示したmRNA画分を選択することにより、LAT1のmRNAを濃縮できる。この濃縮されたmRNAをもとにcDNAライブラリーを作製する。ライブラリーのcDNAから、約500クローンを一グループとして、cRNA(キャップ化されたもの)を調製し、各々のグループについて、4F2hcのcRNAとともに卵母細胞に導入し、基質の取り込み活性を指標として、陽性グループを選択する。陽性グループが見い出せたら、それをさらにサブグループに分け、同様の操作を繰り返すことにより、LAT1遺伝子のcDNAを含むクローンを得ることができる。
【0061】
得られたcDNAについては、常法により塩基配列を決定し、翻訳領域を解析して、これにコードされるタンパク質、すなわち、LAT1のアミノ酸配列を決定することができる。
得られたcDNAが、中性アミノ酸トランスポーター遺伝子のcDNAであること、すなわち、cDNAにコードされた遺伝子産物が中性アミノ酸トランスポーターであることは、例えば次のようにして検証することができる。すなわち、得られたLAT1遺伝子のcDNAから調製したcRNAを4F2hcのcRNAとともに卵母細胞内に導入して発現させ、中性アミノ酸を細胞内へ輸送する(取り込む)能力を、前記と同様、適当な中性アミノ酸を基質とする通常の取り込み試験(Kanai and Hediger, Nature, 360, 467-471 (1992))により、細胞内への基質の取り込みを測定することにより確認できる。
【0062】
また、発現細胞について、同様の取り込み実験を応用して、LAT1の特性、例えば、LAT1がアミノ酸の交換輸送を行っているという特性や、LAT1の基質特異性などを調べることができる。
得られたLAT1遺伝子のcDNAを用いて、異なる遺伝子源で作製された適当なcDNAライブラリー又はゲノミックDNAライブラリーをスクリーニングすることにより、異なる組織、異なる生物由来の相同遺伝子や染色体遺伝子等を単離することができる。
また、開示された本発明の遺伝子の塩基配列(配列番号1に示された塩基配列、もしくはその一部)の情報に基づいて設計された合成プライマーを用い、通常のPCR(Polymerase Chain Reaction)法によりcDNAライブラリー又はゲノミックDNAライブラリーから遺伝子を単離することができる。
【0063】
後記の配列表の配列番号3は、ラットC6グリオーマ細胞株由来の中性アミノ酸トランスポーター(ラットLAT1)の遺伝子の全長cDNA塩基配列(約3.5kbp)、及びその翻訳領域にコードされたタンパク質のアミノ酸配列(512アミノ酸)を表わす。配列表の配列番号4には、ラットC6グリオーマ細胞株由来の中性アミノ酸トランスポーター(ラットLAT1)のアミノ酸配列(512アミノ酸)を表わす。
【0064】
cDNAライブラリー又はゲノミックDNAライブラリー等のDNAライブラリーは、例えば、「Molecular cloning」(Sambrook,J.,Fritsh,E.F.及びManitis,T.著、Cold Spring Harbor Pressより1989に発刊)に記載の方法により調製することができる。あるいは、市販のライブラリーがある場合はこれを用いてもよい。
【0065】
ヒト由来タンパクをコードするcDNAを取得する場合には、さらにヒトゲノムDNA(染色体DNA、ゲノミックDNA)が導入されたコスミドライブラリー(「ラボマニュアルヒトゲノムマッピング」、堀雅明及び中村祐輔 編、丸善出版)を作製し、該コスミドライブラリーをスクリーニングすることにより、目的のタンパクのコーディング領域のDNAを含む陽性クローンを得、該陽性クローンから切り出したコーディングDNAをプローブとして用い、前述のcDNAライブラリーをスクリーニングすることによっても調製することもできる。
【0066】
後記の配列表の配列番号1は、ヒト由来の中性アミノ酸トランスポーター(ヒトLAT1)の遺伝子の全長cDNA塩基配列(約4.5kbp)、及びその翻訳領域にコードされたタンパク質のアミノ酸配列(507アミノ酸)を表わす。配列表の配列番号2には、ヒト由来の中性アミノ酸トランスポーター(ヒトLAT1)のアミノ酸配列(507アミノ酸)を表わす。
なお、配列表の配列番号5は、ヒト由来の4F2hc蛋白質の遺伝子の全長cDNA塩基配列(約1.8kbp)、及びその翻訳領域にコードされたタンパク質のアミノ酸配列(529アミノ酸)を表わし、配列表の配列番号6には、ヒト由来の4F2hc蛋白質のアミノ酸配列(529アミノ酸)を表わす。配列表の配列番号7は、ラット由来の4F2hc蛋白質の遺伝子の全長cDNA塩基配列(約1.8kbp)、及びその翻訳領域にコードされたタンパク質のアミノ酸配列(527アミノ酸)を表わし、配列表の配列番号8には、ラット由来の4F2hc蛋白質のアミノ酸配列(527アミノ酸)を表わす。
【0067】
本発明の「発現ベクター」は、上述の本発明のDNAを含有する組換えベクターを意味する。本発明の組換えベクターとしては、原核細胞及び/または真核細胞の各種の宿主内で複製保持または自己増殖できるものであれば特に制限されず、プラスミドベクターおよびファージベクターが包含される。
【0068】
当該組換えベクターは、簡便には当業界において入手可能な組換え用ベクター(プラスミドDNAおよびバクテリアファージDNA)に本発明のDNAを常法により連結することによって調製することができる。用いられる組換え用ベクターとして具体的には、大腸菌由来のプラスミドとして例えばpBR322、pBR325、pUC12、pUC13、pUC19など、酵母由来プラスミドとして例えばpSH19、pSH15など、枯草菌由来プラスミドとして例えばpUB110、pTP5、pC194 などが例示される。また、ファージとしては、λファージなどのバクテリオファージが、さらにレトロウイルス、ワクシニヤウイルス、核多角体ウイルスなどの動物や昆虫のウイルス(pVL1393、インビトロゲン製)が例示される。さらには、pZL1を挙げることができる。
【0069】
本発明のタンパクを発現させる目的においては、発現ベクターが有用である。発現ベクターとしては、原核細胞および/または真核細胞の各種の宿主細胞中で本発明のタンパクを発現させることのできる能力を有するものであれば特に制限されない。例えば、pMAL C2、pEF−BOS(ヌクレイックアシッドリサーチ(Nucleic Acid Research)、第18巻、第5322頁、1990年等)あるいはpME18S(実験医学別冊「遺伝子工学ハンドブック」、1992年等)等を挙げることができる。
【0070】
宿主細胞として細菌、特に大腸菌を用いる場合、一般に発現ベクターは少なくともプロモーター−オペレーター領域、開始コドン、本発明のタンパクをコードするDNA、終止コドン、ターミネーター領域および複製可能単位から構成される。
宿主として酵母、動物細胞または昆虫細胞を用いる場合、発現ベクターは少なくともプロモーター、開始コドン、本発明のタンパクをコードするDNA、終止コドンを含んでいることが好ましい。またシグナルペプチドをコードするDNA、エンハンサー配列、本発明のタンパクをコードする遺伝子の5’側および3’側の非翻訳領域、スプライシング接合部、ポリアデニレーション部位、選択マーカー領域または複製可能単位などを含んでいてもよい。また、目的に応じて通常用いられる遺伝子増幅遺伝子(マーカー)を含んでいてもよい。
【0071】
細菌中で本発明のタンパクを発現させるためのプロモーター−オペレーター領域は、プロモーター、オペレーターおよび Shine−Dalgarno(SD) 配列(例えば、AAGGなど)を含むものである。例えば宿主がエシェリキア属菌の場合、好適にはTrpプロモーター、lacプロモーター、recAプロモーター、λPLプロモーター、lppプロモーター、tacプロモーターなどを含むものが例示される。酵母中で本発明のタンパクを発現させるためのプロモーターとしては、PH05プロモーター、PGKプロモーター、GAPプロモーター、ADHプロモーターが挙げられ、宿主がバチルス属菌の場合は、SL01プロモーター、SP02プロモーター、penPプロモーターなどが挙げられる。また、宿主が哺乳動物細胞等の真核細胞である場合、SV40由来のプロモーター、レトロウイルスのプロモーター、ヒートショックプロモーターなどが挙げられる。好ましくは、SV−40、レトロウイルスである。しかし、特にこれらに限定されるものではない。また、発現にはエンハンサーの利用も効果的な方法である。
好適な開始コドンとしては、メチオニンコドン(ATG)が例示される。
終止コドンとしては、常用の終止コドン(例えば、TAG、TGA、TAA)が例示される。
【0072】
ターミネーター領域としては、通常用いられる天然または合成のターミネーターを用いることができる。
複製可能単位とは、宿主細胞中でその全DNA配列を複製することができる能力をもつDNAを言い、天然のプラスミド、人工的に修飾されたプラスミド(天然のプラスミドから調製されたDNAフラグメント)および合成プラスミド等が含まれる。好適なプラスミドとしては、E.ColiではプラスミドpBR322、もしくはその人工的修飾物(pBR322を適当な制限酵素で処理して得られるDNAフラグメント)が、酵母では酵母2μプラスミド、もしくは酵母染色体DNAが、また哺乳動物細胞ではプラスミドpRSVneo(ATCC 37198)、 プラスミドpSV2dhfr(ATCC 37145)、プラスミドpdBPV−MMTneo(ATCC 37224)、プラスミドpSV2neo(ATCC 37149)等があげられる。
エンハンサー配列、ポリアデニレーション部位およびスプライシング接合部位については、例えばそれぞれSV40に由来するもの等、当業者において通常使用されるものを用いることができる。
【0073】
選択マーカーとしては、通常使用されるものを常法により用いることができる。例えばテトラサイクリン、アンピシリン、ネオマイシンまたはカナマイシン等の抗生物質耐性遺伝子等が例示される。
遺伝子増幅遺伝子としては、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)遺伝子、チミジンキナーゼ遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、グルタミン酸合成酵素遺伝子、アデノシンデアミナーゼ遺伝子、オルニチンデカルボキシラーゼ遺伝子、ヒグロマイシン−B−ホスホトランスフェラーゼ遺伝子、アスパルラートトランスカルバミラーゼ遺伝子等を例示することができる。
【0074】
本発明の発現ベクターは、少なくとも、上述のプロモーター、開始コドン、本発明のタンパクをコードするDNA、終止コドンおよびターミネーター領域を連続的かつ環状に適当な複製可能単位に連結することによって調製することができる。またこの際、所望により制限酵素での消化やT4DNAリガーゼを用いるライゲーション等の常法により適当なDNAフラグメント(例えば、リンカー、他のリストリクションサイトなど)を用いることができる。
本発明の「形質転換細胞」は、上述の本発明のDNAまたは発現ベクターで形質転換された細胞であり、宿主細胞としての原核細胞あるいは真核細胞に該DNAまたは発現ベクターを導入することにより調製することができる。
【0075】
本発明で用いられる宿主細胞としては、前記の発現ベクターに適合し、形質転換されうるものであれば特に限定されず、本発明の技術分野において通常使用される天然細胞あるいは人工的に樹立された組換細胞など種々の細胞(例えば、細菌(エシェリキア属菌、バチルス属菌)、酵母(サッカロマイセス属、ピキア属など)、動物細胞または昆虫細胞などが例示される。
好ましくは大腸菌あるいは動物細胞であり、具体的には大腸菌(DH5α、TB1、HB101等)、マウス由来細胞(COP、L、C127、Sp2/0、NS−1またはNIH3T3等)、ラット由来細胞(PC12、PC12h等)、ハムスター由来細胞(BHK及びCHO等)、サル由来細胞(COS1、COS3、COS7、CV1及びVelo等)およびヒト由来細胞(Hela、2倍体線維芽細胞に由来する細胞、HEK293細胞、ミエローマ細胞およびNamalwa等)などが例示される。
【0076】
発現ベクターの宿主細胞への導入(形質転換(形質移入))は従来公知の方法を用いて行うことができる。
例えば、細菌(E.coli、Bacillus subtilis 等)の場合は、例えばCohenらの方法(Proc. Natl. Acad. Sci. USA., Vol.69, p.2110, 1972)、プロトプラスト法(Mol. Gen. Genet., Vol.168, p.111, 1979)やコンピテント法(J. Mol. Biol., Vol.56, p.209, 1971)によって、Saccharomyces cerevisiaeの場合は、例えばハイネン(Hinnen)らの方法(Proc. Natl. Acad. Sci. USA., Vol.75, p.1927, 1978)やリチウム法(J. Bacteriol., Vol.153, p.163, 1983)によって、動物細胞の場合は、例えばグラハム(Graham)の方法(Virology, Vol.52, p.456, 1973)、昆虫細胞の場合は、例えばサマーズ(Summers) らの方法(Mol. Cell. Biol., Vol.3, p.2156-2165, 1983)によってそれぞれ形質転換することができる。
【0077】
本発明の「タンパク」は、上記の如く調製される発現ベクターを含む形質転換細胞(以下、形質移入体を包含する意味で使用する。)を栄養培地で培養することによって発現させることができる。
栄養培地は、宿主細胞(形質転換体)の生育に必要な炭素源、無機窒素源もしくは有機窒素源を含んでいることが好ましい。炭素源としては、例えばグルコース、デキストラン、可溶性デンプン、ショ糖などが、無機窒素源もしくは有機窒素源としては、例えばアンモニウム塩類、硝酸塩類、アミノ酸、コーンスチープ・リカー、ペプトン、カゼイン、肉エキス、大豆粕、バレイショ抽出液などが例示される。また所望により他の栄養素(例えば、無機塩(例えば塩化カルシウム、リン酸二水素ナトリウム、塩化マグネシウム)、ビタミン類、抗生物質(例えばテトラサイクリン、ネオマイシン、アンピシリン、カナマイシン等)など)を含んでいてもよい。
【0078】
培養は当業界において知られている方法により行われる。培養条件、例えば温度、培地のpHおよび培養時間は、本発明のタンパクが大量に発現されるように適宜選択される。
なお、下記に宿主細胞に応じて用いられる具体的な培地および培養条件を例示するが、何らこれらに限定されるものではない。
宿主が細菌、放線菌、酵母、糸状菌である場合、例えば上記栄養源を含有する液体培地が適当である。好ましくは、pHが5〜8である培地である。
宿主がE.coliの場合、好ましい培地としてLB培地、M9培地(ミラー(Miller)ら、 Exp. Mol. Genet, Cold Spring Harbor Laboratory, p.431, 1972)等が例示される。かかる場合、培養は、必要により通気、撹拌しながら、通常14〜43℃、約3〜24時間行うことができる。
【0079】
宿主がBacillus属菌の場合、必要により通気、撹拌をしながら、通常30〜40℃、約16〜96時間行うことができる。
宿主が酵母である場合、培地として、例えばBurkholder最小培(ボスチアン(Bostian), Proc. Natl. Acad. Sci. USA, Vol.77, p.4505, 1980)が挙げられ 、pHは5〜8であることが望ましい。培養は通常約20〜35℃で約14〜144時間行なわれ、必要により通気や撹拌を行うこともできる。
宿主が動物細胞の場合、培地として例えば約5〜20%の胎児牛血清を含むMEM培地(Science, Vol.122, p.501, 1952)、DMEM培地(Virology, Vol.8, p.396, 1959)、RPMI1640培地(J. Am. Med. Assoc., Vol.199, p.519, 1967)、199培地(proc. Soc. Exp. Biol. Med., Vol.73, p.1, 1950) 等を用いることができる。培地のpHは約6〜8であるのが好ましく、培養は通常約30〜40℃で約15〜72時間行なわれ、必要により通気や撹拌を行うこともできる。
宿主が昆虫細胞の場合、例えば胎児牛血清を含むGrace’s培地(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, Vol.82, p.8404, 1985)等が挙げられ、そのpHは約5〜8であるのが好ましい。培養は通常約20〜40℃で15〜100時間行なわれ、必要により通気や撹拌を行うこともできる。
【0080】
本発明のタンパクは、前述した本発明のDNAまたは発現ベクターを用いて上述のようにして作製した形質転換体を前記のような培養条件下で培養することにより発現させることができる。
本発明のタンパクを可溶性タンパクとして調製する場合には、該細胞培養後、細胞を集め、適当な緩衝液に懸濁し、例えば超音波やリゾチーム及び凍結融解などの方法で細胞等の細胞壁および/または細胞膜を破壊した後、遠心分離やろ過などの方法で本発明のタンパクを含有する膜画分を得る。該膜画分をトライトン−X100等の界面活性剤を用いて可溶化して粗溶液を得る。該粗溶液を蛋白質を精製並びに単離するために一般に用いられる精製方法に供することにより、本発明のタンパクを可溶性タンパクをして単離することができる。
【0081】
単離、精製方法としては、例えば塩析、溶媒沈澱法等の溶解度を利用する方法、透析、限外濾過、ゲル濾過、ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動など分子量の差を利用する方法、イオン交換クロマトグラフィーやヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィーなどの荷電を利用する方法、アフィニティークロマトグラフィーなどの特異的親和性を利用する方法、逆相高速液体クロマトグラフィーなどの疎水性の差を利用する方法、等電点電気泳動などの等電点の差を利用する方法などが挙げられる。
【0082】
本発明の「RNA」は、前記<5>に記載した下記のとおりのRNAである。
「配列番号26に記載の塩基配列の塩基番号1乃至1521の塩基配列及び該塩基番号1521の塩基に隣接するUAG、UGA若しくはUAAで表されるいずれか1つのナンセンス塩基配列からなる塩基配列を含むRNA。」
ここで、「ナンセンス塩基配列」とは、終止コドン、終結コドン、ナンセンスコドン、ターミネーションコドンあるいはターミネーションシグナルとも呼ばれるUAG、UGA若しくはUAAのいずれかの塩基配列を意味し、タンパク質のへの翻訳の終止点をコードしている塩基配列である。
該本発明のRNAは、前記<1>に記載のDNA、即ち「配列番号1に記載の塩基配列の塩基番号66乃至1586の塩基配列及び該塩基番号1586の塩基に隣接するTAG、TGA若しくはTAAで表されるいずれか1つのナンセンス塩基配列からなる塩基配列を含むDNA。」に相補的なDNA配列を鋳型として、市販のRNAポリメラーゼ(例えば、T7RNAポリメラーゼなど)を用いて常法により調製することができる。
該本発明のRNAは、種々細胞で本発明のタンパクを発現させるために使用することができる。即ち、該本発明のRNAを、例えば、アフリカツメガエルの卵母細胞に注入することにより、DNAからmRNAへの転写を経ずに、注入したRNAから直接本発明のタンパクを細胞に発現させることができる(実験医学増刊, 「バイオシグナル実験法」, Vol.11, No.3, p.30-38, 1993)。
【0083】
本発明の他の1つは、前記<4>に記載した下記のとおりのDNAである。
「配列番号1に記載の塩基配列中の部分塩基配列を含むDNA若しくは該DNAの一部が化学修飾されているDNA、または該部分塩基配列に相補的な塩基配列を含むDNA若しくは該DNAの一部が化学修飾されているDNAであって、下記(1)及び(2)の特徴を有するDNA:
(1)該部分塩基配列は配列番号3に記載の塩基配列中の部分塩基配列とは完全には一致しない塩基配列である;及び
(2)該DNAまたは該化学修飾されているDNAは、配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するタンパクをコードする遺伝子にハイブリダイズする。」
【0084】
ここで、「配列番号1に記載の塩基配列中の部分塩基配列」とは、配列番号1に記載の塩基配列中に含まれる任意の部位における任意の数の塩基からなる部分塩基配列を意味する。
当該DNAは、DNAハイブリダーゼーションまたはRNAハイブリダイゼーションの操作におけるプローブとして有用である。当該DNAをプローブとして用いる目的においては、該部分塩基配列としては、連続した20塩基以上の部分塩基配列が挙げられ、好ましくは、連続した50塩基以上の部分塩基配列、さらに好ましくは連続した100塩基以上の部分塩基配列、より好ましくは連続した200塩基以上の部分塩基配列、特に好ましくは連続した300塩基以上の部分塩基配列が挙げられる。
【0085】
また、上記DNAは、PCRにおけるプライマーとしても有用である。該DNAをPCRプライマーとして用いる目的においては、該部分塩基配列としては、連続した5乃至100塩基の部分塩基配列が挙げられ、好ましくは、連続した5乃至70塩基の部分塩基配列、さらに好ましくは連続した5乃至50塩基の部分塩基配列、より好ましくは連続した5乃至30塩基の部分塩基配列が挙げられる。
さらに、上記DNAは、アンチセンス医薬としても有用である。即ち、該DNAは、配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するタンパクコードするDNAまたはRNAにハイブリダイズすることにより、該DNAのmRNAへの転写あるいは該mRNAのタンパクへの翻訳を阻害することもできる。
【0086】
上記DNAをアンチセンス医薬として用いる目的においては、該部分塩基配列としては、連続した5乃至100塩基の部分塩基配列が挙げられ、好ましくは、連続した5乃至70塩基の部分塩基配列、さらに好ましくは連続した5乃至50塩基の部分塩基配列、より好ましくは連続した5乃至30塩基の部分塩基配列が挙げられる。
また、このDNAをアンチセンス医薬として用いる場合には、該DNAが患者の体内に投与された場合の血中半減期の増大(安定性)、細胞内膜の透過性の増大、あるいは経口投与の場合の消化器官での分解耐性の増大若しくは吸収の増大などの目的のために、該DNAの塩基配列の一部に化学修飾を施すことが可能である。化学修飾としては、例えば、オリゴヌクレオチドの構造中のリン酸結合、リボース、核酸塩基、糖部位、3’及び/または5’末端等の化学修飾が挙げられる。
リン酸結合の修飾としては、1以上の該結合を、ホスホジエステル結合(D−オリゴ)、ホスホロチオエート結合、ホスホロジチオエート結合(S−オリゴ)、メチルホスホネート結合(MP−オリゴ)、ホスホロアミデート結合、非リン酸結合及びメチルホスホノチオエート結合のいずれかまたはそれらの組み合わせへの変更を挙げることができる。リボースの修飾としては、2’−フルオロリボースあるいは2’−O−メチルリボースへなどへの変更を挙げることができる。核酸塩基の修飾としては、5−プロピニルウラシルまたは2−アミノアデニンなどへの変更が挙げられる。
【0087】
本発明の他の1つは、前記<6>に記載した下記のとおりのRNAである。
「配列番号26に記載の塩基配列に相補的な塩基配列を有するRNAの塩基配列中の部分塩基配列を含むRNAまたは該RNAの一部が化学修飾されているRNAであって、該RNAまたは該化学修飾されているRNAは、配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するタンパクをコードするRNAにハイブリダイズすることを特徴とするRNA。」
【0088】
ここで、「部分塩基配列」とは、任意の部位における任意の数の塩基からなる部分塩基配列を意味する。
上記DNAは、アンチセンス医薬として有用である。即ち、該RNAは、配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するタンパクをコードするDNAまたはRNAにハイブリダイズすることにより、該DNAのmRNAへの転写あるいは該mRNAのタンパクへの翻訳を阻害することができる。
上記RNAをアンチセンス医薬として用いる目的においては、該部分塩基配列としては、連続した5乃至100塩基の部分塩基配列が挙げられ、好ましくは、連続した5乃至70塩基の部分塩基配列、さらに好ましくは連続した5乃至50塩基の部分塩基配列、より好ましくは連続した5乃至30塩基の部分塩基配列が挙げられる。
【0089】
また、このRNAをアンチセンス医薬として用いる場合には、該RNAが患者の体内に投与された場合の血中半減期の増大、細胞内膜の透過性の増大、あるいは経口投与の場合の消化器官での分解耐性の増大若しくは吸収の増大などの目的のために、該RNAの塩基配列の一部に化学修飾を施すことが可能である。化学修飾としては、例えば、前述のアンチセンスDNAに適用されるような化学修飾を挙げることができる。
【0090】
本発明の「抗体」とは、ポリクローナル抗体(抗血清)あるいはモノクローナル抗体であり、好ましくはモノクローナル抗体である。
具体的には、本発明のタンパクまたはその一部に反応性を有する抗体である。
本発明の「抗体」は、本発明のタンパク若しくはその一部(天然体、組換体、化学合成物を含む)、または該タンパクを発現している細胞(天然細胞、形質転換細胞、正常細胞または腫瘍細胞等の種類を問わない)を免疫原(抗原)として用い、常法に従って、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ニワトリ、ウサギ、ヤギあるいはヒツジ等の非ヒト哺乳動物に免疫することにより得られる天然型抗体、遺伝子組換技術を用いて製造され得る組換えキメラモノクローナル抗体及び組換えヒト型モノクローナル抗体(CDR-grafted抗体)、並びにヒト抗体産生トランスジェニック動物等を用いて製造され得るヒト抗体を包含する。
またモノクローナル抗体の場合には、IgG、IgM、IgA、IgDあるいはIgE等のいずれのアイソタイプを有するモノクローナル抗体をも包含する。好ましくは、IgGまたはIgMである。
【0091】
本発明で言うポリクローナル抗体(抗血清)あるいはモノクローナル抗体は、既存の一般的な製造方法によって製造することができる。
即ち、例えば、前記のような免疫原(抗原)を、必要に応じてフロイントアジュバント(Freund's Adjuvant)とともに、哺乳動物、好ましくは、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、ニワトリ、ネコ、イヌ、ブタ、ヤギ、ウマあるいはウシ、より好ましくはマウス、ラット、ハムスター、モルモットまたはウサギに免疫することにより製造できる。
ポリクローナル抗体(抗血清)は、該免疫感作動物から得た血清から取得することができる。
またモノクローナル抗体は、該免疫感作動物から得た該抗体産生細胞(脾臓、リンパ節、骨髄あるいは扁桃等、好ましくは脾臓のB細胞)と自己抗体産生能のない骨髄腫系細胞(ミエローマ細胞)からハイブリドーマを調製し、該ハイブリドーマをクローン化し、哺乳動物の免疫に用いた抗原に対して特異的親和性を示すモノクローナル抗体を産生するクローンを免疫学的測定法(ELISAなど)により選択することによって製造される。
【0092】
モノクローナル抗体は、具体的には下記のようにして製造することができる。即ち、本発明のタンパク若しくはその一部(天然体、組換体、化学合成物を含む)、または該タンパクを発現している細胞(天然細胞、形質転換細胞、正常細胞または腫瘍細胞等の種類を問わない)を免疫原として、該免疫原を、必要に応じてフロイントアジュバント(Freund's Adjuvant)とともに、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ニワトリあるいはウサギ、好ましくはマウス、ラットあるいはハムスター(ヒト抗体産生トランスジェニックマウスのような他の動物由来の抗体を産生するように作出されたトランスジェニック動物を含む)の皮下内、筋肉内、静脈内、フッドパッド内あるいは腹腔内に1乃至数回注射するかあるいは移植することにより免疫感作を施す。通常、初回免疫から約1乃至14日毎に1乃至4回免疫を行って、最終免疫より約1乃至5日後に免疫感作された該哺乳動物から抗体産生細胞を取得することができる。
【0093】
モノクローナル抗体を分泌するハイブリドーマの調製は、ケーラー及びミルシュタインらの方法(ネイチャー(Nature)、第256巻、第495〜第497頁、1975年)及びそれに準じる修飾方法に従って行うことができる。
即ち、前述の如く免疫感作された哺乳動物から取得される脾臓、リンパ節、骨髄あるいは扁桃等、好ましくは脾臓に含まれる抗体産生細胞と、好ましくはマウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウサギまたはヒト等の哺乳動物、より好ましくはマウス、ラットまたはヒト由来の自己抗体産生能のないミエローマ細胞との細胞融合させることにより調製される。
【0094】
細胞融合に用いられるミエローマ細胞としては、例えばマウス由来ミエローマP3/X63−AG8.653(653;ATCC No.CRL1580)、P3/NSI/1−Ag4−1(NS-1)、P3/X63−Ag8.U1(P3U1)、SP2/0−Ag14(Sp2/0、Sp2)、PAI、F0あるいはBW5147、ラット由来ミエローマ210RCY3−Ag.2.3.、ヒト由来ミエローマU−266AR1、GM1500−6TG−A1−2、UC729−6、CEM−AGR、D1R11あるいはCEM−T15を使用することができる。
【0095】
モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマクローンのスクリーニングは、ハイブリドーマを、例えばマイクロタイタープレート中で培養し、増殖の見られたウェルの培養上清の前述のマウス免疫感作で用いた免疫抗原に対する反応性を、例えばRIAやELISA等の酵素免疫測定法によって測定することにより行なうことができる。
ハイブリドーマからのモノクローナル抗体の製造は、ハイブリドーマをインビトロ、またはマウス、ラット、モルモット、ハムスターまたはウサギ等、好ましくはマウスまたはラット、より好ましくはマウスの腹水中等でのインビボで行い、得られた培養上清、または哺乳動物の腹水から単離することにより行うことができる。
インビトロで培養する場合には、培養する細胞種の特性、試験研究の目的及び培養方法等の種々条件に合わせて、ハイブリドーマを増殖、維持及び保存させ、培養上清中にモノクローナル抗体を産生させるために用いられるような既知栄養培地あるいは既知の基本培地から誘導調製されるあらゆる栄養培地を用いて実施することが可能である。
【0096】
基本培地としては、例えば、Ham’F12培地、MCDB153培地あるいは低カルシウムMEM培地等の低カルシウム培地及びMCDB104培地、MEM培地、D−MEM培地、RPMI1640培地、ASF104培地あるいはRD培地等の高カルシウム培地等が挙げられ、該基本培地は、目的に応じて、例えば血清、ホルモン、サイトカイン及び/または種々無機あるいは有機物質等を含有することができる。
モノクローナル抗体の単離、精製は、上述の培養上清あるいは腹水を、飽和硫酸アンモニウム、ユーグロブリン沈澱法、カプロイン酸法、カプリル酸法、イオン交換クロマトグラフィー(DEAEまたはDE52等)、抗イムノグロブリンカラムあるいはプロテインAカラム等のアフィニティカラムクロマトグラフィーに供すること等により行うことができる。
また、当該ハイブリドーマからモノクローナル抗体をコードする遺伝子をクローニングし、トランスジェニック動物作製技術を用いて当該抗体コーディング遺伝子が内在性遺伝子に組み込まれたトランスジェニックなウ、ヤギ、ヒツジまたはブタを作製し、当該トランスジェニック動物のミルク中から当該抗体遺伝子に由来するモノクローナル抗体を大量に取得することも可能である(日系サイエンス、1997年4月号、第78頁乃至84頁)。
【0097】
本発明の「組換えキメラモノクローナル抗体」は、遺伝子工学的に作製されるモノクローナル抗体であって、具体的には、例えば、その可変領域がマウスイムノグロブリン由来の可変領域であり、かつその定常領域がヒトイムノグロブリン由来の定常領域であることを特徴とするマウス/ヒトキメラモノクローナル抗体等のキメラモノクローナル抗体を意味する。
ヒトイムノグロブリン由来の定常領域は、IgG、IgM、IgA、IgD及びIgE等のアイソタイプにより各々固有のアミノ酸配列を有するが、本発明における組換キメラモノクローナル抗体の定常領域はいずれのアイソタイプに属するヒトイムノグログリンの定常領域であってもよい。好ましくは、ヒトIgGの定常領域である。
【0098】
本発明におけるキメラモノクローナル抗体は、例えば以下のようにして製造することができる。しかしながら、そのような製造方法に限定されるものでないことは言うまでもない。
例えば、マウス/ヒトキメラモノクローナル抗体は、実験医学(臨時増刊号)、第1.6巻、第10号、1988年及び特公平3−73280号公報等を参照しながら作製することができる。
【0099】
即ち、マウスモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマから単離した該マウスモノクローナル抗体をコードするDNAから取得した活性なV遺伝子(H鎖可変領域をコードする再配列されたVDJ遺伝子)の下流に、ヒトイムノグロムリンをコードするDNAから取得したC遺伝子(H鎖定常領域をコードするC遺伝子)を、また該ハイブリドーマから単離したマウスモノクローナル抗体をコードするDNAから取得した活性なV遺伝子(L鎖可変領域をコードする再配列されたVJ遺伝子)の下流にヒトイムノグロムリンをコードするDNAから取得したC遺伝子(L鎖定常領域をコードする C遺伝子)を、各々発現可能なように配列して1つ又は別々の発現ベクターに挿入し、該発現ベクターで宿主細胞を形質転換し、該形質転換細胞を培養することにより作製することができる。
【0100】
具体的には、まず、マウスモノクローナル抗体産生ハイブリドーマから常法によりDNAを抽出後、該DNAを適切な制限酵素(例えばEcoRI、HindIII等)を用いて消化し、電気泳動に付して(例えば0.7%アガロースゲル使用)サザンブロット法を行う。泳動したゲルを例えばエチジウムブロマイド等で染色し、写真撮影後、マーカーの位置を付し、ゲルを2回水洗し、0.25MのHCl溶液に15分間浸す。次いで、0.4NのNaOH溶液に10分間浸し、その間緩やかに振盪する。常法により、フィルターに移し、4時間後フィルターを回収して2×SSCで2回洗浄する。フィルターを十分乾燥した後、ベイキング(75℃、3時間)を行う。ベイキング終了後に、該フィルターを0.1×SSC/0.1%SDS溶液に入れ、65℃で30分間処理する。次いで、3×SSC/0.1%SDS 溶液に浸す。得られたフィルターをプレハイブリダイゼーション液と共にビニール袋に入れ、65℃で3〜4時間処理する。
【0101】
次に、この中に32P標識したプローブDNA及びハイブリダイゼーション液を入れ、65℃で12時間程度反応させる。ハイブリダイゼーション終了後、適切な塩濃度、反応温度および時間(例えば、2×SSC−0.1%SDS溶液、室温、10分間)のもとで、フィルターを洗う。該フィルターをビニール袋に入れ、2×SSCを少量加え、密封し、オートラジオグラフィーを行う。
上記サザンブロット法により、マウスモノクローナル抗体のH鎖及びL鎖を各々コードする再配列されたVDJ遺伝子及びVJ遺伝子を同定する。同定したDNA断片を含む領域をショ糖密度勾配遠心にて分画し、ファージベクター(例えば、Charon 4A、Charon 28、λEMBL3、λEMBL4等)に組み込み、該ファージベクターで大腸菌(例えば、LE392、NM539等)を形質転換し、ゲノムライブラリーを作製する。そのゲノムライブラリーを適当なプローブ(H鎖J遺伝子、L鎖(κ)J遺伝子等)を用いて、例えばベントンデイビス法(サイエンス(Science)、第196巻、第180〜第182頁、1977年)に従って、プラークハイブリダイゼーションを行い、再配列されたVDJ遺伝子あるいはVJ遺伝子を各々含むポジティブクローンを得る。得られたクローンの制限酵素地図を作製し、塩基配列を決定し、目的とする再配列されたV(VDJ)遺伝子あるいはV(VJ)遺伝子を含む遺伝子が得られていることを確認する。
【0102】
一方、キメラ化に用いるヒトC遺伝子及びヒトC遺伝子を別に単離する。例えば、ヒトIgG1とのキメラ抗体を作製する場合には、C遺伝子であるCγ遺伝子とC遺伝子であるCκ遺伝子を単離する。これらの遺伝子はマウス免疫グロブリン遺伝子とヒト免疫グロブリン遺伝子の塩基配列の高い相同性を利用してヒトCγ遺伝子及びヒトCκ遺伝子に相当するマウスCγ遺伝子及びマウスCκ遺伝子をプローブとして用い、ヒトゲノムライブラリーから単離することによって得ることができる。
【0103】
具体的には、例えば、クローンIg146(プロシーディングスナショナルアカデミーオブサイエンス(Proc. Natl. Acad. Sci. USA)、第75巻、第4709〜第4713頁、1978年)からの3kbのHindIII−BamHI断片とクローンMEP10(プロシーディングスナショナルアカデミーオブサイエンス(Proc. Natl. Acad. Sci. USA)、第78巻、第474〜第478頁、1981年)からの6.8kbのEcoRI断片をプローブとして用い、ヒトのラムダCharon 4A のHaeIII−AluIゲノムライブラリー(セル(Cell)、第15巻、第 1157〜第1174頁、1978年)中から、ヒトCκ遺伝子を含み、エンハンサー領域を保持しているDNA断片を単離する。また、ヒトCγ遺伝子は、例えばヒト胎児肝細胞DNAをHindIIIで切断し、アガロースゲル電気泳動で分画した後、5.9kbのバンドをλ788に挿入し、前記のプローブを用いて単離する。
【0104】
このようにして単離されたマウスV遺伝子とマウスV遺伝子、及びヒトC遺伝子とヒトC遺伝子を用いて、プロモーター領域及びエンハンサー領域などを考慮しながらマウスV遺伝子の下流にヒトC遺伝子を、またマウスV遺伝子の下流にヒトC遺伝子を、適切な制限酵素及びDNAリガーゼを用いて、例えばpSV2gptあるいはpSV2neo等の発現ベクターに常法に従って組み込む。この際、マウスV遺伝子/ヒトC遺伝子とマウスV遺伝子/ヒトC遺伝子のキメラ遺伝子は、一つの発現ベクターに同時に配置されてもよいし、各々別個の発現ベクターに配置することもできる。
このようにして作製したキメラ遺伝子挿入発現ベクターを、例えばP3X63・Ag8・653細胞あるいはSP210細胞といった、自らは抗体を産生していない骨髄腫細胞にプロトプラスト融合法、DEAE−デキストラン法、リン酸カルシウム法あるいは電気穿孔法等により導入する。形質転換細胞は、発現ベクターに導入された薬物耐性遺伝子に対応する薬物含有培地中での培養により選別し、目的とするキメラモノクローナル抗体産生細胞を取得する。
このようにして選別された抗体産生細胞の培養上清中から目的のキメラモノクローナル抗体を取得する。
【0105】
本発明の「ヒト型抗体(CDR-grafted抗体)」は、遺伝子工学的に作製されるモノクローナル抗体であって、具体的には、例えば、その超可変領域の相補性決定領域の一部または全部がマウスモノクローナル抗体に由来する超可変領域の相補性決定領域であり、その可変領域の枠組領域がヒトイムノグロブリン由来の可変領域の枠組領域であり、かつその定常領域がヒトイムノグロブリン由来の定常領域であることを特徴とするヒト型モノクローナル抗体を意味する。
【0106】
ここで、超可変領域の相補性決定領域とは、抗体の可変領域中の超可変領域に存在し、抗原と相補的に直接結合する部位である3つの領域(Complementarity-determining residue;CDR1、CDR2、CDR3)を指し、また可変領域の枠組領域とは、該3つ相補性決定領域の前後に介在する比較的保存された4つの領域(Framework;FR1、FR2、FR3、FR4)を指す。
【0107】
換言すれば、例えばマウスモノクローナル抗体の超可変領域の相補性決定領域の一部または全部以外の全ての領域が、ヒトイムノグロブリンの対応領域と置き代わったモノクローナル抗体を意味する。
ヒトイムノグロブリン由来の定常領域は、IgG、IgM、IgA、IgD及びIgE等のアイソタイプにより各々固有のアミノ酸配列を有するが、本発明におけるヒト型モノクローナル抗体の定常領域はいずれのアイソタイプに属するヒトイムノグログリンの定常領域であってもよい。好ましくは、ヒトIgGの定常領域である。また、ヒトイムノグロブリン由来の可変領域の枠組領域についても限定されるものではない。
【0108】
本発明におけるヒト型モノクローナル抗体は、例えば以下のようにして製造することができる。しかしながら、そのような製造方法に限定されるものでないことは言うまでもない。
例えば、マウスモノクローナル抗体に由来する組換ヒト型モノクローナル抗体は、特表平4−506458号公報及び特開昭62−296890号公報等を参照して、遺伝子工学的に作製することができる。
即ち、マウスモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマから、少なくとも1つのマウスH鎖CDR遺伝子と該マウスH鎖CDR遺伝子に対応する少なくとも1つのマウスL鎖CDR遺伝子を単離し、またヒトイムノグロブリン遺伝子から前記マウスH鎖CDRに対応するヒトH鎖CDR以外の全領域をコードするヒトH鎖遺伝子と、前マウスL鎖CDRに対応するヒトL鎖CDR以外の全領域をコードするヒトL鎖遺伝子を単離する。
【0109】
単離した該マウスH鎖CDR遺伝子と該ヒトH鎖遺伝子を発現可能なように適当な発現ベクターに導入し、同様に該マウスL鎖CDR遺伝子と該ヒトL鎖遺伝子を発現可能なように適当なもう1つの発現ベクターに導入する。または、該マウスH鎖CDR遺伝子/ヒトH鎖遺伝子とマウスL鎖CDR遺伝子/ヒトL鎖遺伝子を同一の発現ベクターに発現可能なように導入することもできる。このようにして作製された発現ベクターで宿主細胞を形質転換することによりヒト型モノクローナル抗体産生形質転換細胞を得、該形質転換細胞を培養することにより培養上清中から目的のヒト型モノクローナル抗体を得る。
【0110】
本発明の「ヒト抗体」とは、イムノグロブリンを構成するH鎖の可変領域及びH鎖の定常領域並びにL鎖の可変領域及びL鎖の定常領域を含む全ての領域がヒトイムノグロブリンをコードする遺伝子に由来するイムノグロブリンである。
ヒト抗体は、常法に従って、例えば、少なくともヒトイムノグロブリン遺伝子をマウス等のヒト以外の哺乳動物の遺伝子座中に組込むことにより作製されたトランスジェニック動物を、抗原で免疫感作することにより、前述したポリクローナル抗体あるいはモノクローナル抗体の作製法と同様にして製造することができる。
【0111】
例えば、ヒト抗体を産生するトランスジェニックマウスは、Nature Genetics, Vol.15, p.146-156, 1997);Nature Genetics, Vol.7, p.13-21, 1994;特表平4-504365号公報;国際出願公開WO94/25585号公報;日経サイエンス、6月号、第40〜第50頁、1995年;Nature, Vol.368, p.856-859, 1994;及び特表平6-500233号公報に記載の方法に従って作製することができる。
本発明における「抗体の一部」とは、前述の本発明における抗体、好ましくはモノクローナル抗体の一部分の領域を意味し、具体的にはF(ab')、Fab'、Fab、Fv(variable fragment of antibody)、sFv、dsFv(disulphide stabilised Fv)あるいはdAb(single domain antibody)である(Exp. Opin. Ther. Patents, Vol.6, No.5, p.441-456, 1996)。
【0112】
ここで、「F(ab')」及び「Fab'」とは、イムノグロブリン(モノクローナル抗体)を、蛋白分解酵素であるペプシンあるいはパパイン等で処理することにより製造され、ヒンジ領域中の2本のH鎖間に存在するジスルフィド結合の前後で消化されて生成される抗体フラグメントを意味する。例えば、IgGをパパインで処理すると、ヒンジ領域中の2本のH鎖間に存在するジスルフィド結合の上流で切断されてV(L鎖可変領域)とC(L鎖定常領域)からなるL鎖、及びV(H鎖可変領域)とCHγ(H鎖定常領域中のγ1領域)とからなるH鎖フラグメントがC末端領域でジスルフィド結合により結合した相同な2つの抗体フラグメントを製造することができる。これら2つの相同な抗体フラグメントを各々Fab'という。
【0113】
またIgGをペプシンで処理すると、ヒンジ領域中の2本のH鎖間に存在するジスルフィド結合の下流で切断されて前記2つのFab'がヒンジ領域でつながったものよりやや大きい抗体フラグメントを製造することができる。この抗体フラグメントをF(ab')という。
【0114】
本発明の「モノクローナル抗体を産生する細胞」とは、前述した本発明のモノクローナル抗体を産生する任意の細胞を意味する。具体的には、例えば、下記(1)乃至(3)のいずれかに記載される細胞を挙げることができる。
(1)前述したとおりの、本発明のタンパク、その一部または該タンパクを発現する細胞等で非ヒト哺乳動物を免疫して得られる本発明のタンパクまたはその一部に反応性を有するモノクローナル抗体を産生する該非ヒト哺乳動物由来のモノクローナル抗体産生B細胞。
(2)そのようにして得られた抗体産生B細胞を哺乳動物由来のミエローマ細胞と細胞融合して得られる前述のハイブリドーマ(融合細胞)。
(3)該モノクローナル抗体産生B細胞またはモノクローナル抗体産生ハイブリドーマから単離される該モノクローナル抗体をコードする遺伝子(重鎖をコードする遺伝子若しくは軽鎖をコードする遺伝子のいずれか一方、または両方の遺伝子)により該B細胞及びハイブリドーマ以外の細胞を形質転換して得られるモノクローナル抗体産生形質転換細胞(遺伝子組換え細胞)。
【0115】
ここで、前記(3)に記載のモノクローナル抗体産生形質転換細胞(遺伝子組換え細胞)は、即ち、前記(1)のB細胞または(2)のハイブリドーマが産生するモノクローナル抗体の遺伝子組換え体を産生する遺伝子組換え細胞を意味する。この組換えモノクローナル抗体産生細胞は、前述したキメラモノクローナル抗体及びヒト型抗体の製造において使用される方法と同様にして製造することができる。
【0116】
本発明の「医薬組成物」とは、例えば下記(a)乃至(c)のいずれかと薬学的に許容され得る担体とからなる医薬組成物である。
(a)前述で定義される抗体(好ましくはモノクローナル抗体。天然由来の抗体若しくは組換え抗体に限らない。)または該抗体の一部。
(b)アンチセンス医薬として有用なDNA断片:例えば下記のようなDNA:
「配列番号1又は3に記載の塩基配列中の部分塩基配列、好ましくは14塩基以上の部分塩基配列を含むDNA若しくは該DNAの一部が化学修飾されているDNA、または該部分塩基配列に相補的な塩基配列を含むDNA若しくは該DNAの一部が化学修飾されているDNA」
(c)アンチセンス医薬として有用なRNA断片:例えば下記のRNA:
「配列番号26又は27に記載の塩基配列に相補的な塩基配列を有するRNAの塩基配列中の部分塩基配列を含むRNAまたは該RNAの一部が化学修飾されているRNAであって、該RNAまたは該化学修飾されているRNAは、配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するタンパクをコードするRNAにハイブリダイズすることを特徴とするRNA。」
【0117】
ここで「薬学的に許容され得る担体」とは、賦形剤、希釈剤、増量剤、崩壊剤、安定剤、保存剤、緩衝剤、乳化剤、芳香剤、着色剤、甘味剤、粘稠剤、矯味剤、溶解補助剤あるいはその他の添加剤等が挙げられる。そのような担体の一つ以上を用いることにより、錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、注射剤、液剤、カプセル剤、トロー剤、エリキシル剤、懸濁剤、乳剤あるいはシロップ剤等の形態の医薬組成物を調製することができる。
これらの医薬組成物は、経口あるいは非経口的に投与することができる。非経口投与のためのその他の形態としては、一つまたはそれ以上の活性物質を含み、常法により処方される外用液剤、腸溶内投与のための坐剤およびペッサリーなどが含まれる。
【0118】
投与量は、患者の年齢、性別、体重及び症状、治療効果、投与方法、処理時間、あるいは該医薬組成物に含有される活性成分(前記タンパクや抗体など)の種類などにより異なるが、通常成人一人当たり、一回につき10μgから1000mg(あるいは10μgから500mg)の範囲で投与することができる。しかしながら、投与量は種々の条件により変動するため、上記投与量より少ない量で十分な場合もあり、また上記の範囲を越える投与量が必要な場合もある。
とりわけ注射剤の場合には、例えば生理食塩水あるいは市販の注射用蒸留水等の非毒性の薬学的に許容され得る担体中に0.1μg抗体/ml担体〜10mg抗体/ml担体の濃度となるように溶解または懸濁することにより製造することができる。
【0119】
このようにして製造された注射剤は、処置を必要とするヒト患者に対し、1回の投与において1kg体重あたり、1μg〜100mgの割合で、好ましくは50μg〜50mg の割合で、1日あたり1回〜数回投与することができる。投与の形態としては、静脈内注射、皮下注射、皮内注射、筋肉内注射あるいは腹腔内注射のような医療上適当な投与形態が例示できる。好ましくは静脈内注射である。
また、注射剤は、場合により、非水性の希釈剤(例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブ油のような植物油、エタノールのようなアルコール類など)、懸濁剤あるいは乳濁剤として調製することもできる。
そのような注射剤の無菌化は、バクテリア保留フィルターを通す濾過滅菌、殺菌剤の配合または照射により行うことができる。注射剤は、用時調製の形態として製造することができる。即ち、凍結乾燥法などによって無菌の固体組成物とし、使用前に無菌の注射用蒸留水または他の溶媒に溶解して使用することができる。
本発明の医薬組成物は、例えば、本発明のアミノ酸トランスポーター分子の生物活性または該分子の発現を阻害し、腫瘍細胞の生存または増殖に必須な栄養素としてのアミノ酸の細胞内への取り込みを阻害することが可能であり、例えば、癌の治療のために用いることができる。
【0120】
本発明の「トランスジェニックマウス」は、本発明のタンパクに包含されるヒト由来のタンパクをコードするDNA(cDNAまたはゲノミックDNA)が、マウスの内在性遺伝子座上にインテグレート(integrate)されており、体内に該本発明のタンパクを発現するトランスジェニックマウスである。
具体的には、前記<52>または<53>に記載のした下記(1)または(2)のとおりのトランスジェニックマウスである。
(1)外来性遺伝子を有するトランスジェニックマウスであって、該マウスは、その内在性遺伝子上に配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するタンパクをコードするDNAが組み込まれることにより、該タンパクを発現する細胞を体内に有することを特徴とするトランスジェニックマウス。
(2)該DNAが、配列番号1に記載の塩基配列の塩基番号66乃至1586の塩基配列及び該塩基番号1586の塩基に隣接するTAG、TGA若しくはTAAで表されるいずれか1つのナンセンス塩基配列からなる塩基配列を含むDNAであることを特徴とする前記(1)に記載のトランスジェニックマウス。
【0121】
該トランスジェニックマウスは、トランスジェニック動物の製造において通常使用されるような常法(例えば、最新動物細胞実験マニュアル、エル・アイ・シー発行、第7章、第361〜第408頁、1990年を参照)に従って作製することができる。
具体的には、正常マウス胚盤胞(blastcyst)のから取得した胚性幹細胞(Embryonic Stem Cell, ES Cell)を、本発明の配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するタンパクをコードする遺伝子及びマーカー遺伝子(例えば、ネオマイシン耐性遺伝子)が発現可能なように挿入された発現ベクターで形質転換する。該タンパクをコードする遺伝子が内在性遺伝子上にインテグレートされたES細胞を、マーカー遺伝子の発現の有無に基づいて常法により選別する。次いで、選別したES細胞を、別の正常マウスから取得した受精卵(肺盤胞)にマイクロインジェクションする(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, Vol.77, No.12, pp.7380-7384, 1980;米 国特許第4,873,191号公報)。該胚盤胞を仮親としての別の正常マウスの子宮に移植する。そうして該仮親マウスから、ファウンダーマウス(子マウス)が生まれる。該ファウンダーマウスを正常マウスと交配させることによりヘテロトランスジェニックマウスを得る。該ヘテロ(heterogeneic)トランスジェニックマウス同士を交配することにより、メンデルの法則に従って、ホモトランスジェニックマウス(homogeneic transgenic mouse)が得られる。
【0122】
また、本発明に包含されるマウスに由来するタンパクをコードするDNA(特にゲノミックDNA)、即ち、配列番号2に記載されるアミノ酸配列を有するヒト由来アミノ酸トランスポーターのマウスホモログをコードするDNA(特にゲノミックDNA)の塩基配列に基づいて、いわゆる「ノックアウトマウス」を作製することができる。
該ノックアウトマウスとは、該マウスホモログタンパクをコードする内在性遺伝子がノックアウト(不活性化)されたマウスであり、例えば相同組換えを応用したポジティブネガティブセレクション法(米国特許第5,464,764号公報、同5,487,992号公報、同5,627,059号公報 、Proc. Natl. Acad. Sci. USA, Vol.86, 8932-8935, 1989、Nature, Vol.342, 435-438, 1989など)を 用いて作製することができる。このようなノックアウトマウスも本発明の一態様である。
【0123】
本発明の「標識DNA」とは、後述の「標識モノクローナル抗体」の標識に用いられる、酵素、蛍光物質、化学発光物質、ビオチン、アビジン、または放射性同位体(H、14C、125I若しくは131I等)などで標識してなるDNAである。
例えば、放射性同位体で標識した放射性標識DNAは、本発明のタンパクをコードする遺伝子の同定における試験種々の試験方法、例えば、サザンブロッティング(実験医学・別冊、「遺伝子工学ハンドブック」、羊土社発行、p.133-140、1992年)における試薬として用いることができる。
また、放射性物質またはビオチンなどの非放射性物質で標識した標識DNAは、本発明のタンパクをコードするゲノミックDNAの染色体上の位置を解析するためのin situハイブリダーゼーション(例えば、FISH(Fluorescence in situ hybridization)、実験医学・別冊、「 遺伝子工学ハンドブック」、羊土社発行、1992年、第271頁〜第277頁)における試薬として用いることができる。
【0124】
本発明の「放射性標識RNA」とは、本発明のRNAを、H、14C、125I若しくは131I等の放射性同位体で標識してなるDNAである。
該放射性標識RNAは、細胞、組織あるいは臓器における本発明のタンパクをコードするmRNAの発現状態の分析、例えば、ノーザンブロッティング(実験医学・別冊、「遺伝子工学ハンドブック」、羊土社発行、p.133-140、1992年)などにおける試薬として有用である。
【0125】
本発明の「標識モノクローナル抗体」を標識するための「単独でまたは他の物質と反応することにより検出可能なシグナルをもたらすことができる標識物質」とは、それらを、前記に定義したモノクローナル抗体抗体に物理化学的結合等により結合させることにより該モノクローナル抗体の存在を検出可能にするために用いられる物質を意味する。
具体的には、酵素、蛍光物質、化学発光物質、ビオチン、アビジンあるいは放射性同位体等である。
【0126】
さらに具体的には、ペルオキシダーゼ(例えば、horseradish peroxidase)、アルカリフォスファターゼ、β−D−ガラクトシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、グルコ−ス−6−ホスフェートデヒドロゲナーゼ、アルコール脱水素酵素、リンゴ酸脱水素酵素、ペニシリナーゼ、カタラーゼ、アポグルコースオキシダーゼ、ウレアーゼ、ルシフェラーゼ若しくはアセチルコリンエステラーゼ等の酵素、フルオレスセインイソチオシアネート、フィコビリタンパク、希土類金属キレート、ダンシルクロライド若しくはテトラメチルローダミンイソチオシアネート等の蛍光物質、H 、14C、125I若しくは131I等の放射性同位体、ビオチン、アビジン、または化学発光物質が挙げられる。
【0127】
ここで、放射性同位体及び蛍光物質は、単独で検出可能なシグナルをもたらすことができる。一方、酵素、化学発光物質、ビオチン及びアビジンは、単独では検出可能なシグナルをもたらすことができないため、さらに1種以上の他の物質と反応することにより検出可能なシグナルをもたらす。例えば、酵素の場合には少なくとも基質が必要であり、酵素活性を測定する方法(比色法、蛍光法、生物発光法あるいは化学発光法等)に依存して種々の基質が用いられる。例えば、ペルオキシダーゼの場合には、基質として過酸化水素を用いる。また、ビオチンの場合には少なくともアビジンあるいは酵素修飾アビジン(例えば、ストレプトアビジン−β−ガラクトシダーゼ(Streptoavidin-β-galactosidase))を基質として反応させるのが一般的であるが、この限りではない。必要に応じてさらに該基質に依存する種々の発色物質が用いられる。例えば、ビオチンの基質としてストレプトアビジン−β−ガラクトシダーゼを用いる場合には、発色物質として4−メチル−ウンベリフェリル−β−D−ガラクトシド(4-Methyl-umbelliferyl-β-D-galactoside)を用いることができる。
【0128】
本発明の「標識モノクローナル抗体」及び前述した「標識DNA」とは、各々前記のような種々標識物質で標識されたモノクローナル抗体及びDNAを意味する。
該標識モノクローナル抗体は、前述した本発明のタンパクを検出あるいは定量するために用いることができる。具体的には、種々の生体試料、例えば、細胞(正常細胞、疾患に罹患している生体由来の腫瘍細胞等の異常細胞、天然細胞、あるいは遺伝子組換え細胞等の種類を問わない)、組織(健常な生体または疾患に罹患している生体等の由来を問わない)または臓器(健常な生体または疾患に罹患している生体等の由来を問わない)での本発明のタンパクの発現の有無または発現量の測定に用いることができる。該測定は、慣用されている免疫組織学的技術を用いて常法に従って実施することができる(実験医学別冊、「細胞工学ハンドブック」、羊土社、p.207-213、1992年)。
また、本発明の標識モノクローナル抗体は、前記の免疫組織学的試験だけでなく、被験試料としての該細胞、組織または臓器若しくはその一部から、常法にしたがって可溶性膜タンパクを調製し、該可溶性膜タンパクに該標識モノクローナル抗体を反応させることにより該可溶性膜タンパク中での本発明のタンパクの存否を確認することからなるウェスターンブロッティング法においても用いることができる(実験医学別冊、「細胞工学ハンドブック」、羊土社、p.201-206、1992年)。
前記のような免疫学的測定方法においては、上記のいずれの標識物質で標識した標識モノクローナル抗体をも使用可能であるが、検出感度あるいは定量感度の高さ及び操作の利便性の点を考慮すると、ペルオキシダーゼ等の酵素あるいはビオチンで標識したモノクローナル抗体を用いるのが好ましい。
【0129】
本発明はまた、上述の標識モノクローナル抗体を用いた免疫組織学的技術により本発明のタンパクを検出または定量する方法に関する。具体的には、前記したとおりの方法であり、例えば下記(1)及び(2)の工程を含む方法である。
(1)試料に本発明の標識モノクローナル抗体を接触させる工程;及び
(2)該試料に結合した該標識モノクローナル抗体の量を、該標識モノクローナル抗体に結合している標識物質の種類に応じて、蛍光、化学発光若しくは放射活性を検出することにより測定する工程。
【0130】
ここで、「細胞」には、ヒト生体から取得した初代培養細胞(primary culture cell)、継代可能なように株化した細胞株、あるいは遺伝子操作が施された遺伝子組換え細胞(形質転換細胞)を含み、好ましくは初代培養細胞である。また、該細胞には、正常細胞及び疾患に罹患している患者の生体から取得される異常細胞が包含される。該異常細胞としては、例えば種々の腫瘍細胞が挙げられる。また、「組織」とは、健常動物または疾患に罹患している患者の生体に由来する任意の組織を意味し、該患者の生体に由来する組織としては、腫瘍組織を挙げることができる。また、「臓器若しくはその一部」とは、健常動物または疾患に罹患している患者の生体に由来する任意の臓器またはその一部を意味する。該患者に由来する臓器としては、腫瘍を有する臓器が挙げられる。
該本発明の方法は、さらに具体的には、例えば下記のような工程を含むことができるが、この限りではない。
【0131】
(工程1)例えば、外科手術時に切除され排除されるような健常人に由来する正常細胞、正常組織または正常臓器若しくはその一部、あるいは癌患者に由来する腫瘍細胞、腫瘍組織または腫瘍を有する臓器若しくはその一部(臓器若しくはその一部は、必要に応じ薄切して切片とすることができる)を、パラフォルムアルデヒド等により固定化し、固定化試料を作製する工程;
(工程2)該固定化試料に、ビオチンあるいはペルオキシダーゼ等の酵素により標識した本発明の標識モノクローナル抗体を加え抗原抗体反応を行わせる工程;
(工程3)次いで、該固定化試料を必要に応じ洗浄した後、用いた酵素の種類に依存して種々の基質またはアビジン若しくはストレプトアビジン−β−ガラクトシダーゼ等の酵素修飾アビジンを加え、該基質、アビジンまたは酵素修飾アビジンと標識抗体上の標識物質とを反応させる工程(基質については、例えば、工程2でペルオキシダーゼ等の酵素で標識した標識抗体を用いた場合には、diaminobenzidine、4-chloro-1-naphthol若しくはaminoethylcarbazoleのいずれかと共に過酸化水素を加えることができる。また、アビジンまたは酵素修飾アビジンは、工程2でビオチンで標識した標識抗体を用いた場合に用いられる);
(工程4)工程3で酵素修飾アビジンを加えた場合には、該修飾に用いた酵素の種類に依存して種々の基質(例えば、4−メチル−ウンベリフェリル−β−D−ガラクトシドなど)を加え、アビジンに結合した酵素と基質を反応させる工程;
(工程5)必要に応じ、固定化試料を洗浄し、酵素反応及び発色反応を停止させる工程;及び
(工程6)固定化試料を、顕微鏡下で観察することにより、比色強度、蛍光強度あるいは発光強度を測定する工程。
本発明のアミノ酸トランスポータータンパクは、正常細胞での発現に比べ、幅広い種類の腫瘍細胞に特異的な発現が観察されることから、上記のような免疫組織学的方法を用いて生体由来の種々細胞または組織での該タンパクの発現の有無を検出することにより、該被験細胞あるいは被験組織が正常細胞であるかあるいは腫瘍細胞等の異常細胞であるかを判断できる可能性がある。
【0132】
本発明の他の1つは、本発明のタンパクの生物活性を阻害する能力を有する物質を同定する方法である。具体的には、例えば前記した方法である。
「配列番号2又は4に記載のアミノ酸配列を有するタンパクの生物学的機能であって、ロイシン(Leu)、イソロイシン(Ile)、フェニルアラニン(Phe)、メチオニン(Met)、チロシン(Tyr)、ヒスチジン(His)、トリプトファン(Trp)及びバリン(Val)からなる群から選ばれるいずれか1種類のアミノ酸の細胞内への取り込みを媒介する能力を阻害する能力を有する物質を同定する方法であって、該方法が、下記(1)並びに(2)の工程を含むことを特徴とする方法:
(1)下記(a)乃至(d)のいずれかの細胞を、該物質、並びにロイシン(Leu)、イソロイシン(Ile)、フェニルアラニン(Phe)、メチオニン(Met)、チロシン(Tyr)、ヒスチジン(His)、トリプトファン(Trp)及びバリン(Val)からなる群から選ばれるいずれか1種類のアミノ酸を放射性同位体により標識してなる放射性標識アミノ酸との共存下、または該放射性標識アミノ酸のみの存在下で培養する工程:
(a)配列番号2又は4に記載のアミノ酸配列を有するタンパク及び配列番号6に記載のアミノ酸配列有するタンパクを共発現している天然に存在する細胞;
(b)配列番号1又は3に記載の塩基配列のうちの翻訳領域の塩基配列を含むDNAで共形質転換することにより、配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するタンパク及び配列番号6又は8に記載のアミノ酸配列有するタンパクを共発現している組換え細胞;
(c)配列番号26に記載の塩基配列の塩基番号1乃至1521の塩基配列及び該塩基番号1521の塩基に隣接するUAG、UGA若しくはUAAで表されるいずれか1つのナンセンス塩基配列からなる塩基配列を含むRNA、並びに配列番号27に記載の塩基配列の塩基番号1乃至1587の塩基配列及び該塩基番号1587の塩基に隣接するUAG、UGA若しくはUAAで表されるいずれか1つのナンセンス塩基配列からなる塩基配列を含むRNAが共に導入することにより、配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するタンパク及び配列番号6に記載のアミノ酸配列有するタンパクを共発現している非ヒト由来の組換え細胞;または
(d)ヒト由来の腫瘍細胞;並びに
(2)該物質と該放射性標識アミノ酸との共存下で培養した細胞が有する放射活性、並びに該放射性標識アミノ酸のみの存在下で培養した細胞が有する放射活性を測定し、各々の値の差異を比較する工程。」
本方法は、即ち、本発明のアミノ酸トランスポータータンパク(配列番号2に記載のアミノ酸配列を有する)とヒト由来細胞膜表面分子4F2hc(配列番号6に記載のアミノ酸配列を有する)とを共発現している細胞が、少なくともロイシン(Leu)、イソロイシン(Ile)、フェニルアラニン(Phe)、メチオニン(Met)、チロシン(Tyr)、ヒスチジン(His)、トリプトファン(Trp)またはバリン(Val)のいずれかのアミノ酸を取り込む能力を有するという性質を利用することを特徴とする方法である。
【0133】
即ち、該被験物質の阻害活性は、該細胞を、放射性同位体(H、14C、125I若しくは131I等)により標識した上記いずれかのアミノ酸と被験物質との存在下での培養において該細胞が取り込む該標識アミノ酸の量を、被験物質を含まず該標識アミノ酸のみの存在下で培養した細胞が取り込む該標識アミノ酸の量とを比較することにより測定することができる。
該細胞としては、該2つのタンパク分子を共発現している細胞である限りどのような細胞をも利用し得る。例えば、上記(a)に記載されるような天然の細胞、(b)に記載されるような該両タンパク分子を各々コードする2つのDNAで形質転換された形質転換細胞(遺伝子組換え細胞)、(c)に記載されるような該両タンパク分子を各々コードするRNAが導入された細胞、あるいは(d)に記載されるとおりのヒト由来の腫瘍細胞のいずれかを用いることができる。
該形質転換細胞の調製に用いられる宿主細胞としては、前述の本発明のDNAを用いて本発明のタンパクを発現させる方法について詳述した部分に記載された種々の細胞を用いることができる。
【0134】
例えば、本発明の技術分野において通常使用される天然細胞あるいは人工的に樹立された組換細胞など種々の細胞(例えば、細菌(エシェリキア属菌、バチルス属菌)、酵母(サッカロマイセス属、ピキア属など))、動物細胞または昆虫細胞などが例示される。
好ましくは大腸菌あるいは動物細胞であり、具体的には大腸菌(DH5α、TB1、HB101等)、マウス由来細胞(COP、L、C127、Sp2/0、NS-1またはNIH3T3等)、ラット由来細胞(PC12、PC12h等)、ハムスター由来細胞(BHK及びCHO等)、サル由来細胞(COS1、COS3、COS7、CV1及びVelo等)およびヒト由来細胞(Hela、2倍体線維芽細胞に由来する細胞、HEK293細胞、ミエローマ細胞およびNamalwa等)などが例示される。
該RNAの注入する細胞としては、例えば、アフリカツメガエルの卵母細胞を挙げることができる(実験医学増刊, 「バイオシグナル実験法」, Vol.11, No.3, p.30-38, 1993)。
該ヒト由来の腫瘍細胞としては、いずれの腫瘍細胞であっても良いが、配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するタンパク並びに配列番号6に記載のアミノ酸配列を有するタンパクを共に発現していることが確認されている腫瘍細胞を用いるのが好ましい。
【0135】
ここで、「物質」とは、自然界に存在する天然の物質あるいは人工的に調製される任意の物質を意味する。該物質は、「ペプチド性物質」と「非ペプチド性物質」に大別することができる。
該「ペプチド性物質」としては、前記の詳述した本発明の抗体(好ましくはモノクローナル抗体、特に好ましくは組換えヒト型モノクローナル抗体若しくはヒトモノクローナル抗体)、オリゴペプチドまたはそれらいずれかの化学修飾体を挙げることができる。オリゴペプチドとしては、5乃至30個のアミノ酸、好ましくは5乃至20個のアミノ酸からなるペプチドを挙げることができる。該化学修飾は、生体に投与された場合の血中半減期の増大あるいは経口投与時における消化管での分解に対する耐性若しくは吸収性の増大の目的等の種々の目的に応じて設計することができる。
【0136】
該「非ペプチド性物質」としては、前述の<4>の発明の定義において詳述したアンチセンス医薬として有用な「部分塩基配列を含むDNAあるいはそれらを化学修飾した化学修飾DNA」、前述の<6>の発明の定義において詳述したアンチセンス医薬として有用な「部分塩基配列を含むRNAあるいはそれらを化学修飾した化学修飾RNA」あるいは化学的に合成された任意の「化合物」を挙げることができる。ここで、該「化合物」とは、DNA、RNA及び上記ペプチド性物質を除く化合物であって、分子量約100乃至約1000以下の化合物、好ましくは分子量約100乃至約800の化合物であり、より好ましくは分子量約100乃至約600の化合物を挙げることができる。
該本発明の同定方法により同定された物質としては、ヒト生体の任意の組織に発生するいずれかの腫瘍細胞の増殖を阻害する能力を有する物質であることが望ましい。該組織としては、例えば、脳、頚部、肝臓、膵臓、腎臓、大腸、小腸、十二指腸、前立腺、肺、胃、心臓、皮膚、骨髄、子宮、卵巣、精巣、口腔、舌、骨あるいは胸部などを挙げることができる。
【0137】
本発明のさらに他の1つは、本発明のタンパクをコードする遺伝子のmRNAへの転写または本発明のタンパクの発現を阻害する能力を有する物質を同定する方法である。具体的には、例えば前記した下記のとおりの方法である。
「配列番号2又は4に記載のアミノ酸配列を有するタンパクをコードする遺伝子のmRNAへの転写若しくは配列番号2又は4に記載のアミノ酸配列を有するタンパクの発現を阻害する能力を有する物質を同定する方法であって、下記の工程を含むことを特徴とする方法:
(1)下記(a)、(b)並びに(c)のDNAにより共形質転換された細胞であって、該細胞は、該(a)のDNAによりコードされる配列表番号2のアミノ酸配列を有するタンパクの発現に依存して、同時に該(c)のDNAによりコードされるレポータータンパクを発現するように形質転換されていることを特徴とする細胞を、該物質の存在下または非存在下で培養する工程:
(a)配列番号1又は3に記載の塩基配列の翻訳領域の塩基配列を含むDNA;
(b)配列番号5又は7に記載の塩基配列の翻訳領域の塩基配列を含むDNA;
(c)レポータータンパクをコードするDNA;並びに
(2)該物質の存在下で培養した細胞及び該物質の非存在下で培養した細胞の各々における該レポータータンパクの発現量を測定し、比較する工程。」
【0138】
本方法は即ち、所謂レポータージェーンアッセイ(reporter gene assay)と総称される方法であり、具体的には、本発明のアミノ酸トランスポーター分子をコードするDNA、該DNAの発現調節制御領域をコードするDNA、及び蛍光を発するレポータータンパク(蛍若しくはウミシイタケなどに由来するルシフェラーゼ、またはクラゲ由来のGFP(Green Fluorescence Protein)など)をコードするDNAを、該トランスポーター分子の発現に依存して該レポータータンパク分子が発現可能なように挿入した発現ベクターで、遺伝子組換えタンパクの製造で一般的に使用される細胞を形質転換することによって得られた形質転換細胞に、被験化合物を接触させ、該化合物の作用に依存して発現されるトランスポーター分子の量を、該分子の発現と同時に発現される該レポータータンパクが発する蛍光の量を測定することにより間接的に測定することにより、該化合物が、トランスポーター分子の発現に影響を与えるか否かを分析する方法である(例えば、米国特許第5,436,128号及び米国特許第5,401,629号を参照できる)。
【0139】
また、本アッセイを用いた該化合物の同定は、マニュアル作業でも可能であるが、機械(ロボット)を用いて自動で行う所謂ハイスループットスクリーニング(High Throughput Screening)(組織培養工学, Vol.23, No.13, p.521-524;米国特許第5,670,113号)を用いることによりより迅速、簡便に行うことができる。
上記方法で用いられる「細胞」及び「物質」なる用語は、前記に定義したとおりの意味を有する。
【実施例】
【0140】
以下、実施例を以て本発明をさらに詳細に説明するが、本発明が該実施例に記載される態様のみに限定されるものではないことは言うまでもない。
なお、下記実施例において、各操作は特に明示がない限り、「Molecular cloning」(Sambrook,J.,Fritsh,E.F.及びManitis,T.著、Cold Spring Harbor Pressより1989に発刊)に記載の方法により行うか、または、市販の試薬やキットを用いる場合には市販品の指示書に従って使用した。
【0141】
実施例1 ヒト細胞膜表面分子4F2hcのcDNAの単離とcRNAの調製
(1)ラット4F2hcをコードするcDNA断片のRT−PCRによる調製
常法に従って、ラット肝臓から精製したpoly(A)RNAを調製した。また、ラット4F2hcをコードするcDNA配列(Biochem. J., Vol.312, p.863, 1995)を基に、5’プライマー(配列番号9)及び3’プライマー(配列番号10)を合成した。
該poly(A)RNAを鋳型として、該2つのプライマー及びTaqポリメラーゼ(TAKARA製)を用いてRT−PCR(Reverse transcription−polymerase chain reaction;実験医学・増刊、「PCRとその応用」、第8巻、第9号、1990年;並びに「遺伝子増幅PCR法・基礎と新しい展開」、共立出版株式会社発行、1992年)を行った。反応は、DNAサーマルサイクラー(Perkin Elmer Cetus製)を用いて、該ポリメラーゼに添付のプロトコールに従って行った。
増幅されたcDNAをアガロースゲル電気泳動した後、DNA抽出キット(キアゲン製)を用いて精製し、ラット4F2hc遺伝子の断片(配列番号7に記載の塩基配列の34乃至479番目)を取得した。
なお、ラット4F2hcをコードするcDNA配列及び対応するアミノ酸配列を、各々配列番号7及び配列番号8に記載した。
【0142】
(2)ヒト4F2hcをコードするcDNAの取得及びcRNAの調製
cDNA合成用キット(商品名:Superscript Choice System、ギブコ社製)を使用し、該キットに添付の実験操作方法に従って、ヒト胎盤由来poly(A)RNA(Clontech製)からヒトcDNAを調製し、DNAリガーゼ(Gibco製)用いて、該cDNAをファージベクターλZipLox(Gibco社製)の制限酵素EcoRI切断部位に組み込みヒトcDNAライブラリーを作製した。
前記(1)で取得したラット4F2hcの遺伝子断片を32P−dCTPでラベルしてプローブとしてプラークハイブリダイゼーション用のプローブとした。
該プローブを用いて、前記で調製したヒトcDNAライブラリーを下記のようにしてスクリーニングした。
該cDNAライブラリーを寒天プレートに蒔き、市販のフィルター膜を用いてレプリカを作製した。このレプリカと該放射性プローブを用いて、ハイブリダイゼーション溶液中で37℃で一晩ハイブリダイゼーションを行った。ハイブリダイゼーション用溶液としては、5xSSC、3xデンハード液(Denhard's液)0.2%SDS、10%硫酸デキストラン、50%ホルムアミド、0.01%Abtiform B(消泡剤、シグマ社製)、0.2mg/mlサーモン精子変性DNA、2.5mMピロリン酸ナトリウム、及び25mM MESを含むpH6.5の緩衝液を用いた。フィルター膜は、37℃で0.1xSSC/0.1%SDSで洗浄した。
該ハイブリダーゼーションで選られた陽性クローンをシングルプラークで単離した後、in vivo excisionに供し、プラスミドpZL1(Gibco製)に組換えてプラスミドDNAとして回収した。該プラスミドDNAをさらにpBlueScriptII SK(−)(Stratagene製)にサブクローニングした。
得られたクローンに含まれるヒト4F2hcのcDNAの塩基配列を決定するため、7種類のプライマーを合成した(配列番号11乃至配列番号17)。該7種類の合成プライマー、並びに市販のユニバーサルプライマーであるT7プライマー及びSP6プライマー(Stratagene製)を用いて、ダイターミネーターサイクルシーケンシング法(Applied Biosystems社)により、cDNAの塩基配列を決定した。この結果、クローニングしたcDNAがヒト4F2hc遺伝子のものであることが確認できた。
なお、ヒト4F2hcをコードするcDNA配列及び対応するアミノ酸配列を、各々配列番号5及び配列番号6に記載した。
上記より得られたヒト4F2hcのcDNAを含むプラスミドから、T7RNAポリメラーゼ(Stratagene製)を用いて常法に準じてcRNA(cDNAに相補的なRNA、配列番号27)を調製した(実験医学増刊, 「バイオシグナル実験法」, Vol.11, No.3, p.33-34, 1993)。
【0143】
実施例2 ヒトアミノ酸トランスポーターLAT1のcDNAの単離とcRNAの調製
cDNA合成用キット(商品名:Superscript Choice System、ギブコ社製)を使用し、該キットに添付の実験操作方法に従って、ヒトテラトカルシノーマ細胞株PA−1由来ポリ(A)RNA(Clontech社から購入)からヒトcDNAを調製し、DNAリガーゼ(Gibco製)用いて、該cDNAをファージベクターλZipLox(Gibco社製)の制限酵素EcoRI切断部位に組み込みヒトcDNAライブラリーを作製した。
ラットアミノ酸トランスポーターLAT1をコードするcDNA(DDBJ/EMBL/GenBank登録番号:AB015432、配列番号3の塩基番号1135乃至1529番目に相当するセグメント)を制限酵素BamHIによって切り出した。なお、ラットアミノ酸トランスポーターLAT1のアミノ酸配列を、配列番号4に記載した。
このDNAセグメントを32P−dCTPでラベルしてプローブとしてプラークハイブリダイゼーション用のプローブとした。
該プローブを用いて、前記で調製したヒトcDNAライブラリーを下記のようにしてスクリーニングした。
該cDNAライブラリーを寒天プレートに蒔き、市販のフィルター膜を用いてレプリカを作製した。このレプリカと該放射性プローブを用いて、ハイブリダイゼーション溶液中で37℃で一晩ハイブリダイゼーションを行った。ハイブリダイゼーション用溶液としては、5xSSC、3xデンハード液(Denhard's液)0.2%SDS、10%硫酸デキストラン、50%ホルムアミド、0.01%Abtiform B(消泡剤、シグマ社製)、0.2mg/mlサーモン精子変性DNA、2.5mMピロリン酸ナトリウム、及び25mM MESを含むpH6.5の緩衝液を用いた。フィルター膜は、37℃で0.1xSSC/0.1%SDSで洗浄した。
該ハイブリダーゼーションで選られた陽性クローンをシングルプラークで単離した後、in vivo excisionに供し、プラスミドpZL1(Stratagene製)に組換えてプラスミドDNAとして回収した。該プラスミドDNAを、制限酵素PstIで切断し、1.8kb、2.5kb及び4.3kbの大きさを有する3つのcDNA断片を得た。該1.8kb及び2.5kbの断片は、各々pBlueScriptII SK(−)(Stratagene製)にサブクローニングした。また、該4.3kbのcDNA断片を自己ライゲーションさせた。
得られた該3つのcDNA断片を有する各々のプラスミドに含まれるヒトアミノ酸トランスポーターLAT1のcDNAの塩基配列を決定するため、8種類のプライマーを合成した(配列番号18乃至配列番号25)。該8種類の合成プライマー、並びに市販のユニバーサルプライマーであるM13フォワードプライマー及びM13Rリバースプライマー(Stratagene製)を用いて、ダイターミネーターサイクルシーケンシング法(Applied Biosystems社)により、cDNAの塩基配列を決定した。
得られたヒトアミノ酸トランスポーターLAT1をコードする全長cDNAの配列及び対応するアミノ酸配列を、各々配列番号1及び配列番号2に記載した。
さらに、得られたヒトアミノ酸トランスポーターLAT1をコードするcDNAを含むプラスミドから、T3RNAポリメラーゼ(Stratagene製)を用いてcRNA(配列番号26、cDNAに相補的なRNA)を調製した。
ラットアミノ酸トランスポーターLAT1及びヒトアミノ酸トランスポーターLAT1の各々のアミノ酸配列の相同性を解析したところ、ヒトLAT1は、ラットLAT1と約91%のアミノ酸相同を有していた。結果を、図1に示す。
ヒトアミノ酸トランスポーターLAT1のアミノ酸配列を疎水性プロット分析(Kyte-Doolittle hydropathy analysis)により分析した結果、ヒトLAT1は、12個の膜貫通領域(membrane-spanning domain)を有する細胞膜表面分子であることが推定された。結果を図2に示す。
【0144】
実施例3 ヒトの種々の組織におけるヒトアミノ酸トランスポーターLAT1のmRNAの発現の解析
ヒトアミノ酸トランスポーターLAT1をコードするcDNA(配列番号1の第649〜1128番目の塩基に相当するcDNA断片)を制限酵素SmaIで切り出し、32P−dCTPでラベルしてハイブリダイゼーションプローブとした。該プローブを用いて、ヒトの種々組織に対するノーザンブロッティングを以下のようにして行った。
ヒトpoly(A)RNAをブロッティングしたナイロンメンブラン(商品名:MTN Blot: Clontech製)を、該キットに添付のプロトコールに従い、該32P−dCTP標識ヒトLAT1プローブを用いてハイブリダイゼーション並びに洗浄を行った。結果を図3(分図(a)乃至(c))。
この結果、胎盤、脳、精巣、骨髄、及び胎児肝臓において約4.8kbの大きさを有するヒトLAT1のmRNAの発現が認められた。また、末梢血白血球においても弱いmRNAの発現が認められた。
【0145】
実施例4 ヒトアミノ酸トランスポーターLAT1の生物活性の解析
(1)細胞内へのアミノ酸の輸送を媒介する能力の解析
腫瘍細胞の増殖に関するこれまでの研究から、タイプII膜糖タンパクに分類される重鎖と軽鎖とのヘテロダイマーである4F2(CD98)と命名された既知の細胞膜表面抗原の重鎖(heavy chain; 4F2hc)が、未だ同定されていないアミノ酸トランスポーターを活性化において重要な役割を担うのではないかと考えられてきている(J. Immunol., Vol.126, p.1409-1414, 1981;J. Immunol., Vol.129, p.623-628, 1982;Proc. Natl. Acad. Sci. USA., Vol.84, p.6526-6530, 1987;Cancer Res., Vol.46, p.1478-1484, 1986;J. Biol. Chem., Vol.267, p.15285-15288, 1992;Proc. Natl. Acad. Sci. USA., Vol.89, p.5606 - 5610, 1992; Biochem. J., Vol.324, p.535-541, 1997;及び J. Exp. Biol., Vol.196, p.123-137, 1994)。
従って、本発明のアミノ酸トランスポーターLAT1が、細胞内へのアミノ酸の輸送を担うか否かを、ヒトLAT1のみを発現させた細胞と、ヒトLAT1及びヒト4F2hcを共に発現する細胞とも用いて、各々の細胞におけるロイシン(中性アミノ酸)の取り込み量を測定することにより分析した。
なお、本試験は、種々物質の細胞内への取り込み試験で汎用されるアフリカツメガエルの卵母細胞を用いる方法を原理とする(実験医学増刊, 「バイオシグナル実験法」, Vol.11, No.3, p.30-38, 1993)。
前記実施例で調製したヒトLAT1をコードするcRNA(25ng)単独、前記実施例で調製したヒト4F2hcをコードするcRNA(25ng)単独、またはヒトLAT1をコードするcRNA(17.5ng)及びヒト4F2hcをコードするcRNA(7.5ng)を、アフリカツメガエルの卵母細胞に注入して2日間あるいは5日間培養することにより、ヒトLAT1のみを発現する卵母細胞、ヒト4F2hcのみを発現する卵母細胞、並びにヒトLAT1及びヒト4F2hcを共発現する卵母細胞を調製した。
基質として14C放射性標識した放射性標識ロイシンを用い、各々の卵母細胞における該標識ロイシンの取り込みを、金井らの方法(Kanai and Hediger、Nature、第360巻、467-471貢、1992年)に準じて、以下のように行った。
具体的には、各々の卵母細胞を、14C標識ロイシン(50μM)を含む塩化コリン取り込み溶液(100mM 塩化コリン、2mM 塩化カリウム、1.8mM 塩化カルシウム、1mM 塩化マグネシウム及び5mM HEPESからなる。pH7.4)中で30分間培養することにより、細胞内に取り込まれた14C標識ロイシンの量を、該細胞が有する放射活性をシンチレーションカウンターで測定することにより求めた。なお、対照として、前記のいずれのRNAも注入せず水のみを注入した卵母細胞を用いて同様に実験を行った。結果を図4に示す。
この結果、ヒトLAT1のみを発現させた卵母細胞では、対照として水を注入した卵母細胞と同じく、ロイシンの取り込みがほとんど見られなかったが、ヒトLAT1とヒト4F2hcを共に発現させた卵母細胞では大きなロイシンの取り込みが確認された。この結果は、ヒトアミノ酸トランスポーターLAT1がアミノ酸の取り込みを媒介する機能を発揮するためには、ヒト4F2hcが必要であると考えられた。
【0146】
(2)細胞内へのアミノ酸の輸送の塩依存性の解析
ヒトアミノ酸トランスポーターLAT1が細胞内へのアミノ酸の輸送を媒介する能力の塩依存性の有無下記のようにして解析した。具体的には、前記実施例4(1)において卵母細胞を培養する取り込み溶液(uptake solution)の種類を変えることによって起こるロイシンの細胞内への取り込み量の変化を観察することにより解析した。
実施例4(1)で調製したヒトLAT1及びヒト4F2hcを共発現するアフリカツメガエル卵母細胞を、前述の14C標識ロイシン(50μM)を含む塩化コリン取り込み溶液、14C標識ロイシン(50μM)を含むナトリウム取り込み溶液(前述のコリン取り込み溶液の100mM 塩化コリンを100mM 塩化ナトリウムに変えたもの)、または14C標識ロイシン(50μM)を含むグルコン酸取り込み溶液(該ナトリウム取り込み溶液の100mM 塩化ナトリウムを100mM グルコン酸ナトリウムに変えたもの)中で30分間培養した。
細胞内に取り込まれた14C標識ロイシンの量を、該細胞が有する放射活性をシンチレーションカウンターで測定することにより求めた。結果を図5に示す。
この結果、細胞外のコリンをナトリウムに変えても、また細胞外の塩素イオンをグルコン酸イオンに変えても、細胞内へのロイシン取り込みには何ら影響を与えなかった。このことから、ヒトアミノ酸トランスポーターLAT1は、ナトリウムイオン及び塩素イオンに非依存性に働くトランスポーター分子であることが示された。
【0147】
(3)ヒトアミノ酸トランスポーターLAT1の基質への親和性
ヒトアミノ酸トランスポーターLAT1の基質への親和性を解析するために、ミカエリス−メンテン動力学試験(生化学辞典、第2版、1307‐1308、第4刷、1992)を行った。
本動力学的試験は、基質としてのロイシンの濃度の違い依存するロイシン取り込み率の変化を調べることにより行った。
ロイシンの取り込み実験は、ヒトLAT1及びヒト4F2hcを共発現するアフリカツメガエル卵母細胞を用い、前記実施例4(1)に記載の方法に準じて実施した。結果を図6に示す。
この結果、ミカエリス定数(Km)は、約21μMであった。
【0148】
(4)ヒトアミノ酸トランスポーターLAT1の基質特異性の解析(その1)
ヒトアミノ酸トランスポーターLAT1の基質特異性(LAT1を介して細胞内に取り込まれる基質の種類)を、競合的拮抗試験により解析した。
具体的には、ヒトLAT1及びヒト4F2hcを共発現するアフリカツメガエル卵母細胞を、被験物質(種々のアミノ酸、薬剤、生理活性物質あるいは他の低分子合成化合物)の存在下で培養した場合の該細胞内への基質としての14C標識ロイシンの取り込み量の変化を測定することにより解析した。被験物質を加えない場合の対照と比べ、14C標識ロイシンの取り込み量が減少した場合には、該被験物質は、ヒトアミノ酸トランスポーターLAT1を介して細胞内に取り込まれることが示される。
実施例4(1)で調製したヒトLAT1及びヒト4F2hcを共発現するアフリカツメガエル卵母細胞を、14C標識ロイシン(20μM)及び下記のいずれかの被験物質(2mM)を含む塩化コリン取り込み溶液中で30分間培養した。
なお、対照としていずれの被験物質をも含まない14C標識ロイシン含有コリン取り込み溶液中での培養を同様にして行った。
[被験物質]
グリシン、アラニン、セリン、スレオニン、システイン、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、メチオニン、チロシン、ヒスチジン、トリプトファン、バリン、アスパラギン、グルタミン、アスパラギン酸、グルタミン酸、リジン、アルギニン、プロリン、及びBCH(2-amino-2-norbornane-carboxylic acid)。細胞内に取り込まれた14C標識ロイシンの量を、該細胞が有する放射活性をシンチレーションカウンターで測定することにより求めた。結果を図7に示す。
さらに、前記14C標識ロイシンの代わりに、14C標識フェニルアラニンを用いて、前述の方法に準じて下記被験物質の細胞内への取り込みを調べた。なお、対照として、いずれの被験物質をも含まない14C標識フェニルアラニン含有コリン取り込み溶液中での培養を同様にして行った。
[被験物質]
L−DOPA(パーキンソン病治療薬)及びトリヨードサイロニン(甲状腺ホルモン)。
結果を図8及び図9に示す。
その結果、各種のアミノ酸、薬剤及び生理活性物質等で、14C標識ロイシンまたは14C標識フェニルアラニンの細胞内への取り込みのcis−阻害効果が観察された。特に、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、メチオニン、チロシン、ヒスチジン、トリプトファン、バリンはヒトLAT1を介した14C標識ロイシンの取り込みを強く阻害したことから、該いずれのアミノ酸もがヒトLAT1を介して細胞内に輸送されることが強く示唆された。また、中性アミノ酸取り込み阻害薬として知られていた2−amino−2−norbornane−carboxylic acid(BCH)も、14C標識ロイシンの取り込みを阻害した。また、14C標識フェニルアラニンの細胞内への取り込みが、L−DOPA(パーキンソン病治療薬)などの薬物、トリヨードサイロニン(甲状腺ホルモン)などの生理活性物質によって強く阻害された。一方、被験物質として酸性アミノ酸(グルタミン酸、アスパラギン酸)または塩基性アミノ酸(リジン、アルギニン)を用いた場合には、ヒトLAT1を介した14C標識ロイシンの取り込みに何ら影響を与えなかった。
この結果は、ヒトアミノ酸トランスポーターLAT1は、種々のアミノ酸(特には中性あるいは中性に近いアミノ酸)、種々の薬剤、種々の生理活性物質、並びに他の低分子合成化合物等の細胞内への輸送を媒介することを強く示唆するものである。
【0149】
(5)ヒトアミノ酸トランスポーターLAT1の基質特異性の解析(その2)
実施例4(4)での知見を基に、ヒトLAT1を介したロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、メチオニン、チロシン、ヒスチジン、トリプトファン及びバリンの細胞内への取り込みの有無を解析した。
本試験は、14C標識ロイシンの代わりに、上記各々のアミノ酸を14Cで標識した下記の14C標識アミノ酸を基質として用い、実施例2(1)と同様にして行った。
14C標識アミノ酸]
14C標識ロイシン、14C標識イソロシン、14C標識フェニルアラニン、14C標識メチオニン、14C標識チロシン、14C標識ヒスチジン、14C標識トリプトファン、または14C標識バリン。
なお、比較のために、14C標識グリシン、14C標識セリン、14C標識D−ロイシン、及び14C標識D−フェニルアラニンについても同様にして試験した。結果を図10に示す。
この結果、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、メチオニン、チロシン、ヒスチジン、トリプトファン及びバリンが、卵母細胞へ有意に取り込まれることが確認された。
【0150】
実施例5 各種ヒト由来腫瘍細胞におけるヒトアミノ酸トランスポーターLAT1のmRNAの発現の解析
ヒト由来の各種腫瘍細胞から、ISOGEN(商品名:ニッポンジーン製)を用いて、常法により全RNAを取得し、該RNAを常法に従いアガロース電気泳動に供し、ニトロセルロースメンブレンにブロッティングする。
実施例3で調製したヒトアミノ酸トランスポーターLAT1をコードするcDNA断片を32P−dCTPでラベルして作製したハイブリダイゼーションプローブを用いて、ノーザンブロッティングを行う。該ノーザンブロッティングは、種々のpoly(A)RNAがブロッティングされている市販のノーザンブロッティング用ナイロンメンブラン(例えば、商品名:MTN Blot: Clontech製)に添付のプロトコールに準じて行う。
本ノーザンブロッティングにより、ヒト由来の種々の腫瘍細胞でのヒトLAT1をコードするmRNAの発現を確認することができる。
【0151】
実施例6(ラット中性アミノ酸トランスポーターのクローニング)
(1)ラット4F2hcのcDNAの単離とcRNAの調製
cDNAライブラリーはラット肝から精製したポリ(A)RNAから、cDNA合成用キット(商品名:Superscript Choice System、ギブコ社製)を使用して作成し、ファージベクターλZipLox(ギブコ社製)の制限酵素EcoRI切断部位に組み込んだ。PCR法にて、ラット4F2hc遺伝子(Broerら、Biochem.J.、第312巻、863項、1995年)の第135〜580番目の塩基に相当するセグメントを増幅し、これを32P−dCTPでラベルしてプローブとして用いて、ラット肝cDNAライブラリーをスクリーニングした。ハイブリダイゼーションは、37℃のハイブリダイゼーション用溶液中で一晩行い、フィルター膜は、37℃で0.1xSSC/0.1%SDSで洗浄した。ハイブリダイゼーション用溶液としては、5xSSC、3xデンハード液(Denhard’s液)0.2%SDS、10%硫酸デキストラン、50%ホルムアミド、0.01%Abtiform B(商品名、シグマ社)(消泡剤)、0.2mg/mlサーモン精子変性DNA、2.5mMピロリン酸ナトリウム、25mM MESを含むpH6.5の緩衝液を用いた。cDNAを組み込んだλZipLoxファージのcDNA部分を、プラスミドpZL1に組み込み、さらにプラスミドpBluescriptIISK−(Stratagene社製)へサブクローン化した。
【0152】
得られたクローンすなわち、ラット4F2hcのcDNAを含むクローンについて、塩基配列決定のための合成プライマー、塩基配列決定用キット(商品名:Sequenase ver.2.0、アマシャム社製)を用いてダイデオキシ法により、cDNAの塩基配列を決定した。これにより、クローニングしたcDNAがラット4F2hc遺伝子のものであることが確認できた。得られた4F2hcの塩基配列を後記配列表の配列番号2に示した。
上記より得られたラット4F2hcのcDNAを含むプラスミドから、T7RNAポリメラーゼを用いて。cRNA(cDNAに相補的なRNA)調製した。
【0153】
(2)ラット中性アミノ酸トランスポーターLAT1のクローニング
金井らの方法(Kanai and Hediger、Nature、第360巻、467〜471貢、1992年)に準じて、発現クローニング法により、以下のようにして行った。
ゲル電気泳動によりラットC6グリオーマ細胞ポリ(A)RNA400μgを分画した。
分画により得られた各画分を、上記(1)で得られたラット4F2hcのcRNAと共に卵母細胞に注入し、2日間培養した。
RNAを注入した卵母細胞について、基質としてロイシンを用い、基質の取り込み実験を金井らの方法(Kanai and Hediger、Nature、第360巻、467〜471貢、1992年)に準じて、以下のように行った。基質として14C−ロイシン(50μM)を含む塩化コリン取り込み用溶液(uptake solution)(100mM塩化コリン、2mM塩化カリウム、1.8mM 塩化カルシウム、1mM塩化マグネシウム、5mM HEPES、pH7.4)中にて30分卵母細胞を培養して、細胞内に取り込まれた放射能のカウントで基質の取り込み率を測定した。なお、この系において、ラットC6グリオーマ細胞ポリ(A)RNA(mRNA)とラット4F2hcのcRNAを共に注入した卵母細胞は、それぞれを単独で注入した卵母細胞に比し、相乗的な取り込み亢進が見られることを確認した(図11)。
【0154】
分画により得られた各RNA画分のうち、RNAを注入した卵母細胞が、最も高いロイシンの取り込み率を示した画分を選択した。この画分のポリ(A)RNA(2.8〜4.0kb)について、cDNA合成及びプラスミドクローニング用キット(商品名:Superscript Plasmid System、ギブコ社製)を使用して、cDNAライブラリーを作成した。これらDNAはプラスミドpSPORT1(ギブコ社製)の制限酵素Sal1及びNot1認識部位に組み込み、得られた組み換えプラスミドDNAを大腸菌DH10B株のコンピテントセル(商品名:Electro Max DH10B Competent cell、ギブコ社製)に導入した。得られた形質転換体をニトロセルロース膜上で培養し、1プレート当たり約500個のコロニーが得られた。これらコロニーから、プラスミドDNAを調製し、これらを制限酵素NotIで切断した。得られたDNAを用いて、in vitro転写により、キャップ化されたcRNAを合成した。
【0155】
得られたcRNA(約45ng)を、上記(1)で得られたラット4F2hcのcRNA(5ng)と共に卵母細胞へ注入した。これら卵母細胞について、前記と同様にして、ロイシン取り込み実験を行うことにより陽性クローンのスクリーニングを行った。スクリーニングに際しては、複数のクローンから抽出したDNAをプールしたグループについて調べ、あるグループでロイシン取り込みが確認された場合、さらにそれを複数のグループに分割し、さらにスクリーニングを行った。
得られたクローン、すなわち、ラット中性アミノ酸トランスポーターLAT1のcDNAを含むクローンについて、基配列決定のための合成プライマー、塩基配列決定用キット(商品名:Sequenase ver.2.0、アマシャム社製)を用いてダイデオキシ法により、cDNAの塩基配列を決定した。
これにより、ラット中性アミノ酸トランスポーターLAT1遺伝子の塩基配列が得られた。また、cDNAの塩基配列を常法により解析して、cDNAの翻訳領域とそこにコードされるLAT1のアミノ酸配列を決定した。翻訳領域は第64−1599塩基である。
【0156】
これらの配列を、後記配列表の配列番号4(アミノ酸配列)及び3(塩基配列)に示した。
Kyte−Doolittle hydropathy analysis(疎水性プロット)により、LAT1のアミノ酸配列を解析した結果、図12に示したように、12個の膜貫通領域(membrane−spanning domain)が予想された。また、第2の親水性ループにチロシンリン酸化部位、第4と第8の親水性ループにプロテインキナーゼC依存性のリン酸化部位と考えられる部位が2つあった。
【0157】
(3)ラットの種々の組織及びラット培養細胞株におけるLAT1遺伝子の発現(ノーザンブロッティングによる解析)
ラットLAT1遺伝子の第202〜1534番目の塩基に相当するcDNA断片を32P−dCTPでラベルし、これをプローブとして用いて、ラットの種々の組織及びラット由来の培養腫瘍細胞株から抽出したRNAに対してノーザンブロッティングを以下のようにして行った。3μgのポリ(A)RNAを1%アガロース/ホルムアルデヒドゲルで電気泳動したのち、ニトロセルロースフィルターにトランスファーした。このフィルターを42℃で、32P−dCTP でラベルしたLAT1cDNA断片を含んだハイブリダイゼーション液で1晩ハイブリダイゼーションを行った。フィルターを、65℃にて、0.1%SDSを含む0.1xSSCで洗浄した。
ノーザンブロッティングの結果(図13)、C6グリオーマ細胞、胎盤、脳、脾臓、大腸、精巣において3.8kb付近に、胎盤ではそれに加えて2.6kb付近にバンドが検出され、発現が認められた。また、正常肝では発現は極めて弱いが、形質転換したラット肝細胞株、肝細胞癌細胞株においても3.8kb付近に強いバンドが検出され、発現が認められた(図14)。
さらに長時間感光で、その他の組織においても、3.8kb付近にかすかなバンドが検出された。
【0158】
(4)ヒト腫瘍細胞株おけるLAT1遺伝子の発現(ノーザンブロッティングによる解析)
ラットLAT1遺伝子の第202〜1534番目の塩基に相当するcDNA断片を32P−dCTPでラベルし、これをプローブとして用いて、ヒト由来の培養腫瘍細胞株から抽出したRNAに対してノーザンブロッティングを以下のようにして行った。3μgのポリ(A)RNAを1%アガロース/ホルムアルデヒドゲルで電気泳動したのち、ニトロセルロースフィルターにトランスファーした。このフィルターを37℃で、32P−dCTPでラベルしたラットLAT1cDNA断片を含んだハイブリダイゼーション液で1晩ハイブリダイゼーションを行った。フィルターを、37℃にて、0.1%SDSを含む0.1xSSCで洗浄した。
ノーザンブロッティングの結果(図15)、胃印環細胞癌細胞株、肺小細胞癌細胞株、黒色腫細胞株に4.0kbの強いバンド、神経芽細胞腫細胞株に4.0kbの弱いバンドが検出され、発現が認められた。
【0159】
実施例7(中性アミノ酸トランスポーターLAT1の特徴づけ)
(1)LAT1の輸送活性における4F2hcの役割
ラットLAT1遺伝子cRNAを単独で卵母細胞に発現させた場合と、ラットLAT1遺伝子cRNAと4F2hc遺伝子cRNAを共に卵母細胞に発現させた場合のロイシン取り込み活性を比較した。
ラットLAT1遺伝子cRNA25ng、ラット4F2hc遺伝子cRNA25ng、もしくはラットLAT1遺伝子cRNA12.5ng/ラット4F2hc遺伝子cRNA12.5ngを、卵母細胞に注入することによって発現させ、2日間あるいは5日間培養した。
ロイシンの取り込み実験は、前記実施例6(2)記載方法に準じ、以下のように行った。すなわち、ラットLAT1遺伝子cRNA、ラット4F2hc遺伝子cRNA、もしくはラットLAT1遺伝子cRNAとラット4F2hc遺伝子cRNAを注入した卵母細胞を、14C−ロイシン(50μM)を含む取り込み用溶液中にて30分培養して、細胞内への放射能の取り込みを測定した。
その結果(図16)、ロイシンの取り込みは、LAT1のみを発現させた卵母細胞では、対照として水を注入した卵母細胞と同レベルであったが、LAT1と4F2hcを共に発現させた卵母細胞ではおおきなロイシンの取り込みを示しており、LAT1が機能を発揮するためには、4F2hcが必要であると考えられた。
【0160】
(2)LAT1の輸送活性の塩依存性
ラットLAT1遺伝子cRNAと4F2hc遺伝子cRNAを共に卵母細胞によるロイシン取り込み実験において培地に添加する塩の影響を調べた。
ロイシンの取り込み実験は、ラットLAT1遺伝子cRNAとラット4F2hc遺伝子cRNAを共に注入した卵母細胞を用い、前記実施例6(2)記載方法に準じて実施した。但し、取り込み用溶液は、ナトリウムイオンの影響をみる場合は、塩化コリン取り込み用溶液にかえて、ナトリウム取り込み用溶液(100mM塩化コリンを100mM塩化ナトリウムに変えたもの)を用いた。塩素イオンの影響をみる場合は、ナトリウム取り込み用溶液にかえて、グルコン酸取り込み用溶液(100mM塩化ナトリウムを100mMグルコン酸ナトリウムに変えたもの)を用いた。
その結果(図17)、細胞外のコリンをナトリウムに変えても、細胞外の塩素イオンをグルコン酸イオンに変えても、ロイシン取り込みに何ら影響を与えなかった。このことから、LAT1はナトリウムイオン及び塩素イオンに非依存性に働くトランスポーターであることが示された。
【0161】
(3)LAT1のミカエリス−メンテン動力学試験
中性アミノ酸トランスポーターのミカエリス−メンテン動力学試験を行った。基質ロイシンの濃度の違いによるロイシン取り込み率の変化を調べることにより、中性アミノ酸トランスポーターのミカエリス−メンテン動力学試験を行った。
ロイシンの取り込み実験は、ラットLAT1遺伝子cRNAとラット4F2hc遺伝子cRNAを共に注入した卵母細胞を用い、前記実施例6(2)記載方法に準じて実施した。その結果(図18)、Km値は約24μMであった。
【0162】
(4)LAT1の基質選択性(アミノ酸及びその類似物質添加による阻害実験)
ラットLAT1遺伝子cRNAとラット4F2hc遺伝子cRNAを共に注入した卵母細胞によるロイシンの取り込み実験において、系への各種アミノ酸及びその類似物質添加の影響を調べた。
ロイシンの取り込み実験は、ラットLAT1遺伝子cRNAとラット4F2hc遺伝子cRNAを共に注入した卵母細胞を用い、前記実施例6(2)記載方法に準じて実施した。但し、コリン取り込み用溶液を用い、2mMの各種化合物(非標識)の存在下及び非存在下で、14C−ロイシン(20μM)の取り込みを測定した。
その結果(図19)、各種の中性アミノ酸で、cis−阻害効果が観察された。特に、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、メチオニン、チロシン、ヒスチジン、トリプトファン、バリンはLAT1を介した14C−ロイシンの取り込みを強く阻害した。また、標準アミノ酸以外の物質でも、L−DOPA(パーキンソン病治療薬)、メルファラン(melphalan)(抗腫瘍薬)、トリヨードサイロニン(甲状腺ホルモン)、サイロキシン(甲状腺ホルモン)などの薬物や生理活性物質もLAT1を介した14C−ロイシンの取り込みを阻害した。さらに中性アミノ酸取り込み阻害薬として知られていた2−アミノ−2−ノルボルナン−カルボン酸(2−amino−2−norbornane−carboxylic acid)(BCH)もLAT1を介した14C−ロイシンの取り込みを阻害した。酸性アミノ酸、塩基性アミノ酸は、LAT1を介した14C−ロイシンの取り込みに影響を与えなかった。
【0163】
(5)LAT1の基質選択性(各種アミノ酸及びその類似物質を基質とする取り込み試験)
各種アミノ酸及びその類似物質を基質として、LAT1による取り込みを調べた。
各種アミノ酸及びその類似物質の取り込み実験は、ラットLAT1遺伝子cRNAとラット4F2hc遺伝子cRNAを共に注入した卵母細胞を用い、前記実施例6(2)記載方法に準じて実施した。但し、基質としては、14C−ロイシンに変えて、放射能ラベルされた各種の化合物を用いた。
その結果、ロイシン(14C化合物)、イソロシン(14C化合物)、フェニルアラニン(14C化合物)、メチオニン(14C化合物)、チロシン(14C化合物)、ヒスチジン(14C化合物)、トリプトファン(14C化合物)、バリン(14C化合物)を基質とした場合に、卵母細胞への取り込みが認められた。
【0164】
実施例8 中性アミノ酸トランスポーターLAT1の抑制による細胞増殖の制御
(1)LAT1抑制の細胞増殖抑制効果
LAT1抑制薬によるLAT1抑制の細胞増殖に対する抑制効果を調べた。
LAT1を高発現するラット肝細胞株をWilliam’s培地で培養し、LAT1を介する取り込みを阻害するD−ロイシンもしくはBCHを20mM培地に添加し、48時間培養て、細胞数をCell Counting Kit−8(Dojindo Laboratories 社製)を用いて検討した。細胞数は、450nmにおける吸収(O.D.450)として測定した。
その結果(図20)、D−ロイシンもしくはBCHを添加した群は、D−ロイシンもしくはBCHを添加しない対照群に比較して、細胞数に低下が認められ、LAT1抑制による中性アミノ酸取り込み阻害により、細胞増殖が抑制されたと考えられた。
【0165】
実施例9 ヒトの種々の腫瘍細胞株におけるLAT1遺伝子及び4F2hc遺伝子の発現(ノーザンブロッティングによる解析)
hLAT1 遺伝子の第649〜1128番目の塩基に相当するcDNA断片を制限酵素SmaIで切り出し、32P−dCTP でラベルしてプローブとして、ヒト腫瘍細胞株に対するノーザンブロッティングを以下のようにして行った。ヒト各種腫瘍細胞株からpoly(A)RNA抽出し、32P−dCTP ラベルLAT1プローブによるハイブリダイゼーション及び洗浄を行った。
h4F2hc 遺伝子の第106−645番目の塩基に相当するcDNA断片を制限酵素PstIで切り出し、32P−dCTP でラベルしてプローブとして、ヒト腫瘍細胞株に対するノーザンブロッティングを同様にして行った。
ノーザンブロッティングの結果、図21及び図22に示す検討したすべての腫瘍細胞株において4.8kb付近に、LAT1の発現が認められた。4F2hcに関しては、ほとんどの腫瘍細胞株で2.2kb付近に発現が認められたが、発現に細胞よる強弱があり、特に白血病細胞株Daudi、CCRF−SB、P30/OHKでは、ノーザンブロッティングによるシグナルは検出されなかった(図22)。
【0166】
実施例10 LAT1阻害薬評価系としてのヒト膀胱癌由来T24細胞の意義
ヒト膀胱癌由来T24細胞は、10%牛胎児血清を含んだEagle's minimal essential medium中で培養維持した。T24細胞へのアミノ酸取り込み試験は、T24細胞を24穴プレートに培養し、confluent に達した状態で行った。アミノ酸取り込み試験は、培養液を取り除き、14C−アミノ酸を含むDulbecco's PBS(Gibco社製)を添加することにより開始し、それを取り除き氷冷、Dulbecco's PBSにより洗浄することにより終了した。洗浄後、0.1N NaOHで溶解し、液体シンチレーションカウンターにより放射活性を測定した。
【0167】
(1)T24細胞のロイシン取り込みのNa依存性
T24細胞によるロイシン取り込み実験において培地のナトリウムイオンの影響を調べた。
取り込み用溶液は、ロイシンの取り込みに対する培地のナトリウムイオンの影響を見る場合は、Dulbecco's PBSにかえて、コリン uptake solution(塩化ナトリウムを塩化コリンで置換したもの)を用いた。
その結果(図23)、細胞外のコリンをナトリウムに変えても、ロイシンの取り込みに何ら影響を与えなかった。このことから、T24細胞のロイシンの取り込みはナトリウムイオンに依存しない輸送系に担われていることが示された。
【0168】
(2)T24細胞のロイシン取り込みのミカエリス−メンテン動力学試験
T24細胞のロイシン取り込みのミカエリス−メンテン動力学試験を行った。基質ロイシンの濃度の違いによるロイシン取り込み率の変化を調べることにより、ミカエリス−メンテン動力学試験を行った。
その結果(図24)、Km値は100.3mM、Vmax値は23,870pmol/mg protein/minであった。
【0169】
(3)T24細胞のロイシン取り込みのアミノ酸及びその類似物質添加による阻害実験
T24細胞よるロイシンの取り込み実験において、系への各種アミノ酸及びその類似物質添加の影響を調べた。
ロイシンの取り込み実験において、2mM の各種化合物(非標識)の存在下及び非存在下で、14C−ロイシン(20mM)の取り込みを測定した。
その結果(図25)、メチニン、ロイシン、イソロイシン、バリン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、ヒスチジン及びシステインで、強いcis−阻害効果が観察された。アミノ酸輸送系 L特異的阻害薬 BCHは、ロイシン取り込みを強く阻害した。この阻害実験の結果は、Xenopus 卵母細胞にLAT1を発現させた場合の結果と一致する。
【0170】
(4)T24細胞のロイシン取り込みの取り込み阻害薬BCHによる阻害様式
T24細胞の14C−ロイシン取り込みの濃度依存性を、BCHの非存在下、BCH 50mM 存在下、BCH 100mM 存在下で測定し、二重逆数プロットを用いて阻害様式を検討した。
その結果(図26)、BCHによる阻害は競合阻害であることが明かになり、そのKi値は、156mMであった。
【0171】
実施例11 ヒト腫瘍細胞株増殖へのアミノ酸取り込み阻害薬BCHの効果
ヒト膀胱癌由来T24細胞は、10%牛胎児血清を含んだEagle's minimal essential medium中で培養維持した。ヒトDaudi細胞は、20%牛胎児血清を含んだRPMI培地で培養維持した。T24細胞あるいはDaudi 細胞を24穴プレートで(800/well)、20mM BCH添加した培地中あるいは添加しない培地中で5日間培養し、細胞数を計測した。
その結果(図27)、T24細胞はDaudi細胞に比し、細胞増殖が急速であること、及びBCHはT24の増殖を高度に抑制するが、Daudi細胞に対しては増殖抑制効果をほとんど示さないことが明かになった。
T24細胞はLAT1、4F2hcともに強発現しており(図21)、実施例10で示されるようにT24細胞においてはLAT1は強い機能活性を示す。それに対して、Daudi細胞においては、LAT1は強く発現するもののLAT1の機能発現に必要な4F2hcの発現は検出されず(図22)、従ってDaudi細胞においては、LAT1は機能していないと考えられる。LAT1の機能活性の強いT24細胞の増殖が速く、BCHが高度な細胞増殖抑制を示し、LAT1が機能していないと考えられるDaudi細胞の増殖が遅く、BCHが増殖抑制効果を示さないことは、LAT1を介する必須アミノ酸取り込みが細胞増殖のひとつの律速段階を形成し、その抑制が細胞増殖抑制を示すという仮説を支持するものである。
Daudi細胞と同様に4F2hcの発現が検出されないCCRF−SB細胞、P30/OHK細胞(図22)においては、Daudi細胞と同様に増殖が遅く、BCHの効果は弱く、T24細胞と同様LAT1と4F2hcが共に強発現する細胞では増殖が速く、BCHが強い抑制効果を示すことが確認された。
【0172】
実施例13 腫瘍接種マウスにおけるアミノ酸トランスポーター抑制薬BCHの延命効果
オスICRマウスにマウスsarcoma180細胞を腹腔内移植(1×10)し、移植翌日よりアミノ酸トランスポーター抑制薬BCH、アミノ酸トランスポーター抑制効果のあるD−Leu、及び抑制効果の無いD−Alaを300mg/kgの用量で10日間投与した。移植後毎日マウスの生死を確認した。
19日間の観察の結果、未処理の対照では全例生存したが、sarcoma180細胞接種群、sarcoma180細胞接種群及びsarcoma180細胞接種後ビヒクル投与群では対照に比べて、有意に生存期間が短縮された(図28)。これに対して、sarcoma180細胞接種後、BCHを投与した群、D−Leuを投与した群では、それらの薬物処理による有意な延命効果がみられた(図28)。D−Alaでは延命効果がみられなかった(図28)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(1)又は(2)のいずれかのアミノ酸配列の部分配列からなる抗原性ポリペプチドであって、かつ12個の膜貫通領域を有する膜表面タンパクである中性アミノ酸トランスポーターLAT1における少なくとも1つの細胞内ドメイン又は細胞外ドメイン領域を含む抗原性ポリペプチド(ただし、「KPELERPIKVNL」及び「WWKNKPKWILQ」を含む場合を除く);
(1)配列番号2若しくは4に記載のアミノ酸配列;又は
(2)配列番号2若しくは4に記載のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列。
【請求項2】
前記細胞内ドメイン領域が、LAT1タンパクのN末側から1〜5及び7番目の細胞内ドメイン領域から選ばれる領域であり、前記細胞外ドメイン領域が、1及び3〜5番目の細胞外ドメイン領域から選ばれる領域である、請求項1に記載の抗原性ポリペプチド。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の抗原性ポリペプチドをコードする核酸。
【請求項4】
請求項3に記載の核酸を含む発現ベクター。
【請求項5】
請求項4に記載の発現ベクターで形質転換された形質転換細胞。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【公開番号】特開2011−83284(P2011−83284A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−264655(P2010−264655)
【出願日】平成22年11月29日(2010.11.29)
【分割の表示】特願平11−248546の分割
【原出願日】平成11年9月2日(1999.9.2)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】