説明

アミロイド前駆体タンパク質の切断を誘導して新規断片を形成させる方法

本発明は、アミロイド前駆体タンパク質の約17キロダルトンのカルボキシ末端断片を生成するためにアミロイド前駆体タンパク質の切断を誘導する方法を提供し、該方法は、複素環化合物、又はその薬学的に許容可能な塩、水和物又はプロドラッグを、それを必要とする被験者に投与することを含み、約17キロダルトンの断片は、アミロイド前駆体タンパク質のカルボキシ末端アミノ酸配列及びアミロイド-βアミノ酸配列を含む。また提供されるものは、アミロイド前駆体タンパク質の約17キロダルトンのカルボキシ末端断片を生成するためにアミロイド前駆体タンパク質の切断を誘発する化合物を同定するためのスクリーニング方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、アミロイド前駆体タンパク質(APP)のプロセシングの調節、特にAPPの切断を誘導して新規タンパク質断片を形成させることに関する。
【背景技術】
【0002】
アルツハイマー病(AD)は、限られた効能の対症療法だけしかない神経変性疾患である。APPのある種のアミロイド-β(Aβ)断片、特にAβ1−40及びAβ1−42は、ADの病態に関連している。Aβの減少度合いは、ADの経過を修正するためのアプローチとして追跡される(Barten, D. 及び C. Albright, Mol. Neurobiol. 37: 171-186 (1998))。しかしながら、今日まで、このアプローチに由来して承認された治療法はない。
【0003】
Aβに対して能動及び受動免疫を用いてADを治療する試みがなされている。一つのそのような免疫アプローチ法は、ヒトでの試験で既に失敗している(Holmes, C.ら, Lancet 372: 216-23 (2008))。Aβ免疫療法の限界は、それが既に形成されているAβのみを標的としていることである。その療法は、新規のAβの生成を遅延させ又は停止させることはなく、実は、新規のAβの生成を増加させるおそれすらある。
【0004】
ADを治療するための他の試みは、有害なAβ断片が生成される前に、既知の酵素がAPPのプロセシングに関与することを妨害することに関連している。これらの酵素標的はγ-セクレターゼ及びβ-セクレターゼである。γ-セクレターゼインヒビターは、多くのこのようなインヒビターが他のγ-セクレターゼ基質の切断に影響を及ぼし、その結果、毒性になる場合があるため、有用であることは証明されなかった(Czirr, E. 及び S. Weggen, Neurodegenerative Dis. 3: 298-302 (2006); Tomita, T., Nauyn-Schmiedegerg's Arch. Pharmacol. 377: 295-300 (2008)); Milano, Jら, Toxicological Sciences 82: 341-358 (2004))。
【0005】
また、γ-セクレターゼモジュレーターも有用であるとは証明されていない。γ-セクレターゼモジュレーターの例には、γ-セクレターゼのアロステリックモジュレーターである非ステロイド系抗炎症剤(NSAIDs)が含まれる。このような化合物に毒性はないが、臨床試験段階に入っている化合物は、高マイクロモルのインビトロ効力を持つのみであり、十分な臨床効果を示すには弱すぎる(Czirr, E. 及び S. Weggen, Neurodegenerative Dis. 3: 298-304 (2006))。プロトタイプのγセクレターゼモジュレーターであるフルリザン(Flurizan)は最近、第3相臨床試験に失敗した。
【0006】
さらに、β-セクレターゼインヒビターを用いたADの治療における以前の試みでは、β-セクレターゼの大きな結合ポケットが、その膜位置と併せて、有用であるのに十分な濃度で血液脳関門を通過するインヒビターを設計するという課題をもたらすため、有用であることは証明されていない(Barten, D. 及び C. Albright, Mol. Neurobiol 37: 171-186 (1998); John, V., Curr. Top. Med. Chem. 6: 569-78 (2006); Venugopal, Cら, CNS & Neurological Disorders - Drug Targets 7: 278-294 (2008))。
【0007】
よって、当該分野ではADの効果的な治療に対する必要性が残っている。
【発明の概要】
【0008】
本発明は、APPの約17キロダルトン(kDa)のカルボキシ末端断片を生成するためにAPPの切断の誘導に使用される一般式(I):

の複素環化合物、又はその薬学的に許容可能な塩、水和物又はプロドラッグであって、約17kDAの断片が、APPのカルボキシ末端アミノ酸配列及びアミロイド-βアミノ酸配列を含み、各R、R、R、R、Rがここに定義された通りであるものを提供する。
【0009】
また本発明は、APPのカルボキシ末端アミノ酸配列及びアミロイド-βアミノ酸配列を含む、約17kDaのAPP断片を提供する。
【0010】
また本発明は、APPの約17キロダルトンの断片を生成するためにAPPを切断する化合物をスクリーニングする方法であって、(a)アミロイド前駆体タンパク質又はその断片を生成する細胞を試験化合物に曝露し、(b)約17キロダルトンの断片の量を検出することを含んでなり、ここで、約17キロダルトンの断片が、アミロイド前駆体タンパク質のカルボキシ末端アミノ酸配列及びアミロイド-βアミノ酸配列を含み、化合物に曝露されていない細胞における約17キロダルトンの断片の量に対して、化合物に曝露された細胞中における約17キロダルトンの断片の量が増加していることが、該化合物がアミロイド前駆体タンパク質の切断を誘導して約17キロダルトンの断片を生成することを示す方法を提供する。
【0011】
さらに本発明は、APPの約17キロダルトン(kDa)のカルボキシ末端断片を生成するためにAPPの切断の誘導に使用される一般式(I):

の複素環化合物、又はその薬学的に許容可能な塩、水和物又はプロドラッグではない化合物であって、ここで、約17kDAの断片が、APPのカルボキシ末端アミノ酸配列及びアミロイド-βアミノ酸配列を含み、R、R、R、R、Rの各々がここに定義された通りであるものを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1A】図1A及び図1Bは、N2a細胞によるAβ生成に対する化合物ST101の効果を表す棒グラフである。図1Aは、処置から24時間後の、コントロールと比較した、細胞培養培地中のST101濃度の作用によるAβ濃度を示す棒グラフである。
【図1B】図1A及び図1Bは、N2a細胞によるAβ生成に対する化合物ST101の効果を表す棒グラフである。図1Bは、コントロールと比較したST101濃度の作用による、Aβ1-40に対するAβ-42の比を示す棒グラフである。
【図2A】図2A、2B及び2Cは、モーリス水迷路での3xTg-ADマウスにおけるST101の効果を表すグラフである。図2Aは、コントロールマウスと比較した、7日間にわたる訓練中の潜時(秒)を表す折れ線グラフである。
【図2B】図2A、2B及び2Cは、モーリス水迷路での3xTg-ADマウスにおけるST101の効果を表すグラフである。図2Bは、ST101で処置された動物とコントロールマウスの訓練から24時間及び72時間での潜時(秒)を表す棒グラフである。
【図2C】図2A、2B及び2Cは、モーリス水迷路での3xTg-ADマウスにおけるST101の効果を表すグラフである。図2Cは、ST101で処置された動物とコントロールマウスの訓練から24時間及び72時間でのプラットフォーム位置を横断した回数を表す棒グラフである。
【図3A】図3A及び3Bは、3xTg-ADマウスからの脳組織での、AβにおけるST101の効果を現す棒グラフである。図3Aは、コントロールマウスに対する、ST101で処置されたマウスの脳組織における、可溶性Aβ1−40とAβ1−42の量を表す。
【図3B】図3A及び3Bは、3xTg-ADマウスからの脳組織での、AβにおけるST101の効果を現す棒グラフである。図3Bは、コントロールマウスに対する、ST101で処置されたマウスにおける、不溶性Aβ1−40とAβ1−42(ギ酸抽出)の量を表す棒グラフである。
【図4】図4は、未処置(C)の3xTg-ADマウスに対する、ST101で処置された(S)3xTg-ADマウスの脳における、抗体CT20により検出されたAPPカルボキシ末端断片を表すウエスタンブロットである。
【図5】図5は、未処置(C)の3xTg-ADマウスに対する、ST101で処置された(S)3xTg-ADマウスの脳における、抗体CT20により検出されたAPP及び分解断片を表すウエスタンブロットである。*は完全長APP種を示し、**は主要な分解産物を示し、「アクチン」は、タンパク質添加コントロールとして抗β-アクチン抗体を表す。
【図6】図6は、新規のAPPカルボキシ末端断片を生じる提案アミロイドプロセシング経路を表す図である。
【図7A】図7Aは、未処置(C)の3xTg-ADマウスに対する、ST101で処置された(S)3xTg-ADマウスの脳における、抗体CT20により検出されたAPPC末端断片を表すウエスタンブロットである。
【図7B】図7Bは、未処置(C)の3xTg-ADマウスに対する、ST101で処置された(S)3xTg-ADマウスの脳における、抗体CT20により検出されたAPPC末端断片を表すウエスタンブロットである。
【図7C】図7Cは、未処置(C)の3xTg-ADマウスに対する、ST101で処置された(S)3xTg-ADマウスの脳における、抗体CT20により検出されたAPPC末端断片を表すウエスタンブロットである。
【図8】図8は、未処置(C)の3xTgマウス-ADに対する、ST101で処置された(S)3xTg-ADマウスの脳における、抗体1565-1(Epitomics Inc)により検出されたC末端断片を表すウエスタンブロットである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
別に定義していない場合、ここで使用される全ての技術及び科学用語は、この発明が属する技術分野の当業者により一般的に理解されるものと同じ意味を有する。
【0014】
本発明は、被験者においてAPPの約17kDaのカルボキシ末端断片を生成するためにAPPの切断を誘導する方法を提供し、該方法は、一般式(I):

の複素環化合物、又はその薬学的に許容可能な塩、水和物又はプロドラッグを、それを必要とする被験者に投与することを含み、ここで約17kDaの断片は、APPのカルボキシ末端アミノ酸配列及びアミロイド-βアミノ酸配列を含み、R、R、R、R、Rの各々がここに定義されたものである。
【0015】
また本発明は、APPの約17キロダルトン(kDa)のカルボキシ末端断片を生成するためにAPPの切断の誘導に使用される次の一般式(I):

の複素環化合物、又はその薬学的に許容可能な塩、水和物又はプロドラッグを提供し、ここで約17kDAの断片が、APPのカルボキシ末端アミノ酸配列及びアミロイド-βアミノ酸配列を含み、R、R、R、R、Rの各々がここに定義されたものである。
【0016】
一実施態様では、それを必要とする被験者への本化合物の投与時に、約17kDAの断片が被験者において形成される。
【0017】
さらに本発明は、APPの切断を誘導して、APPの約17キロダルトン(kDa)のカルボキシ末端断片を生成するための医薬を調製するための、一般式(I):

の複素環化合物、又はその薬学的に許容可能な塩、水和物又はプロドラッグの使用を提供し、ここで約17kDAの断片は、APPのカルボキシ末端アミノ酸配列及びアミロイド-βアミノ酸配列を含み、各R、R、R、R、Rがここに定義されたものである。
【0018】
一実施態様では、一般式(I)の複素環化合物を投与することにより、一又は複数のAβ1−42、Aβ1−40、APPのC99断片、及び/又はAPPのC83断片の生成の減少が生じる。
【0019】
他の実施態様では、一般式(I)の化合物が投与される被験者はADを患っている。他の実施態様では、被験者はADであるか又はADを患っていると診断されている。他の実施態様では、被験者は軽度認知障害を患っている。他の実施態様では、被験者は軽度認知障害であるか又は軽度認知障害を患っていると診断されている。
【0020】
他の実施態様では、ADが治療される。他の実施態様では、軽度認知障害が治療される。ここで使用される場合、「治療」とは、病状、疾患又は疾病の徴候が寛解され又は有益に変化させられる態様を意味する。
【0021】
一実施態様では、ADが予防される。他の実施態様では、軽度認知障害が予防される。ここで使用される場合、AD又は認知障害を「予防する」とは、被験者におけるADの一又は複数の徴候の発症を防止することを指す。
【0022】
ここで使用される場合、特定の薬学的組成物を投与することによる特定の疾患の徴候の寛解とは、永続的であるか一時的であるか、持続的であるか一過性であるかにかかわらず、組成物の投与に起因し又は関連しうる、なんらかの緩和を指す。
【0023】
他の実施態様では、被験者がADを患っているかどうかを判定するために被験者がスクリーニングされるか又はスクリーニングされている。スクリーニングは、被験者を検査することにより実施することができる。また、スクリーニングは、ADの一又は複数の生物学的マーカーをアッセイすることにより、実施可能である。
【0024】
他の実施態様では、被験者はADに罹患しやすいと診断されている。他の実施態様では、被験者がADを発症しやすいかどうか判定するために、被験者がスクリーニングされ又はスクリーニングされている。スクリーニングは、被験者を検査することにより実施することができる。また、スクリーニングは、ADの素因の一又は複数の生物学的マーカーをアッセイすることにより、実施可能である。
【0025】
他の実施態様では、被験者はヒト被験者である。
【0026】
また本発明は、APPのカルボキシ末端アミノ酸配列及びアミロイド-βアミノ酸配列含む、単離された約17kDaのAPP断片を提供する。
【0027】
さらに本発明は、本発明の約17kDAの断片を含有する組成物を提供する。他の実施態様では、組成物は細胞培養可溶化液及び/又は培地をさらに含有する。
【0028】
またさらに本発明は、本発明の約17kDAの断片を含有する容器を提供する。他の実施態様では、容器はマイクロチューブである。他の実施態様では、容器は試験管である。他の実施態様では、容器はピペット又はマイクロピペットである。他の実施態様では、容器はマイクロアレイ装置である。他の実施態様では、容器はマイクロタイタープレートである。他の実施態様では、容器はスクリーニングアッセイ装置の部品である。
【0029】
また本発明は、APPの約17kDa断片を生成するためにAPPを切断する化合物をスクリーニングする方法を提供し、該方法は、(a)APP又はその断片を生成する細胞を試験化合物に曝露し、(b)約17kDaの断片の量を検出することを含み、ここで約17kDaの断片が、APPのカルボキシ末端アミノ酸配列及びアミロイド-βアミノ酸配列を含み、化合物に曝露されていない細胞における約17kDaの断片の量に対して、化合物に曝露された細胞中における約17kDaの断片の量が増加していることが、該化合物がAPPの切断を誘導して約17kDaの断片を生成することを示す。
【0030】
さらに、約17kDaの断片の遊離のアミノ末端の存在を検出することができ、又は17kDa断片をつくった切断により生じたAPPの遊離のカルカルボキシ末端を検出することができる。
【0031】
またさらに本発明は、APPの約17kDa断片を生成するためにAPPを切断する化合物をスクリーニングする方法を提供し、該方法は、(a)APP又はその断片を生成する細胞を試験化合物に曝露し、(b)約17kDaの断片を検出することを含み、ここで約17kDaの断片が、APPのカルボキシ末端アミノ酸配列及びアミロイド-βアミノ酸配列を含み、化合物に曝露されていない細胞においては約17kDaの断片が存在しないことに対して、化合物に曝露された細胞における約17kDaの断片が存在していることが、該化合物がAPPの切断を誘導して約17キロダルトンの断片を生成することを示す。
【0032】
一実施態様では、本発明のスクリーニング方法は、(c)化合物に曝露された細胞における一又は複数のAβ1−42、Aβ1−40、APPのC99断片、又はAPPのC83断片の量が、化合物に曝露されていない細胞におけるAβ1−42、Aβ1−40、APPのC99断片、又はAPPのC83断片の量に対して減少しているかどうかを定量することをさらに含む。
【0033】
一実施態様では、本発明のスクリーニング方法は、インビボで実施される。
【0034】
他の実施態様では、本発明のスクリーニング方法は、インビトロで実施される。この実施態様では、細胞培養における約17kDaの断片の存在又はその量を、化合物に曝露された細胞と、化合物に曝露されていないコントロール細胞とに対して測定することができる。例えば、化合物に曝露されていない細胞の細胞培養における約17kDa断片の量に対して、化合物に曝露された細胞の細胞培養における約17kDa断片の量が増加していると、化合物がAPPを切断し、約17kDa断片が生成されたことが示される。また、化合物に曝露されていない細胞の細胞培養においては約17kDaの断片が存在しないことに対して、化合物に曝露された細胞の細胞培養に約17kDaの断片が存在していることで、該化合物がAPPを切断し、約17kDaの断片を生じたことが示される。
【0035】
他の実施態様では、本発明のスクリーニング方法は、培養される細胞中において実施される。
【0036】
他の実施態様では、本発明のスクリーニング方法は、化合物に曝露された細胞の細胞培養可溶化液における一又は複数のAβ1−42、Aβ1−40、APPのC99断片、又はAPPのC83断片の量が、化合物に曝露されていない細胞の細胞培養培地におけるAβ1−42、Aβ1−40、APPのC99断片、又はAPPのC83断片の量に対して減少しているかどうかを定量することをさらに含む。
【0037】
他の実施態様では、本発明のスクリーニング方法は高スループット式で実施される。他の実施態様では、本発明のスクリーニング方法は自動化される。他の実施態様では、本発明のスクリーニング方法はコンピュータ制御される。
【0038】
他の実施態様では、複数の培養細胞が、複数の試験化合物に対して、別々に、例えばマイクロタイタープレートの別個のウェル中において、曝露される。この実施態様では、多数の試験化合物を同時にスクリーニングすることができる。
【0039】
試験化合物は、細胞又は細胞株に対して溶媒に溶解して、提示されうる。溶媒の例には、DMSO、水及び/又はバッファーが含まれる。DMSOは2%未満の量で使用されうる。また、DMSOは1%以下の量で使用されうる。この濃度では、DMSOは、試験化合物の可溶化剤として機能し、透過剤としては機能しない。細胞が許容する溶媒の量は、様々な量の溶媒を単独で用いて細胞生存率を測定することにより最初にチェックし、溶媒の量が、測定される細胞の性質に影響を及ぼさないことを担保しなければならない。
【0040】
適切なバッファーには、細胞増殖培地、例えば10%ウシ胎仔血清を含むか又は含まないイスコブ培地(Iscove's media)(インビトロゲン社(Invitrogen Corporation))が含まれる。他の知られている細胞インキュベーションバッファーには、リン酸塩、PIPES又はHEPESバッファーが含まれる。当業者であれば、単なる常套的な実験をすることにより、他の適切なバッファーを特定することができる。
【0041】
APP又はその断片を生成する細胞には、限定されるものではないが、IMR-32、BV-2、T98G、NT2N及びN2A細胞が含まれる。他の実施態様では、細胞はN2A細胞である。
【0042】
他の実施態様では、APP又はその断片を生成する細胞には、APPをコードする核酸又は変異APPが、例えば形質移入により導入されている細胞が含まれる。
【0043】
約17kDaのAPP断片、Aβ1−42、Aβ1−40、APPのC99断片、及び/又はAPPのC83断片は、例えばゲル電気泳動を使用して検出することができる。また、約17kDaのAPP断片、Aβ1−42、Aβ1−40、APPのC99断片、及び/又はAPPのC83断片は、例えば17kDa断片のN末端に対する第1のモノクローナル抗体、及び17kDaの断片の他の領域、例えば17kDa断片のカルボキシ末端に対する第2のモノクローナル抗体を用いる、サンドイッチELISAアッセイを使用して検出することもできる。
【0044】
約17kDaのAPP断片、Aβ1−42、Aβ1−40、APPのC99断片、及び/又はAPPのC83断片は、例えば抗体による先の免疫沈降の有無にかかわらず、質量分析を使用して、検出することもできる。
【0045】
他の実施態様では、約17kDaの断片が単離される。ここで使用される「単離される」とは、被験者の脳から分離されることを意味する。他の実施態様では、約17kDaの断片は、電気泳動ゲル中に存在する。他の実施態様では、約17kDaの断片は、細胞培養可溶化液又は培地中に存在する。
【0046】
APPの「約17kDaの断片」は、APPのC末端配列とAPPのアミロイド-β配列を含む、APP断片である。約17kDaの断片は、APPのC99断片又はAPPのC83断片ではない。
【0047】
また本発明は、被験者においてAPPの約17kDaカルボキシ末端断片を生成するためにAPPの切断を誘導する方法を提供し、該方法は、一般式(I):

を有する化合物、又はその薬学的に許容可能な塩、水和物又はプロドラッグではない化合物を投与することを含み、ここでR、R、R、R、Rの各々はここに定義された通りである。一実施態様では、化合物は、各々が出典明示によりその全体が援用される、米国特許出願第11/872408号 (米国特許出願公開第2008/0103157A1号として公開);米国特許出願第11/872418号 (米国特許出願公開第2008/0103158A1号として公開);米国特許第6635652号;米国特許第7141579号;及び国際特許出願第PCT/JP2007/070962号(国際公開第2008/047951号として公開)のいずれかに開示の化合物ではない。他の実施態様では、化合物はスピロ(イミダゾ(1,2-a)ピリジン-2(3H)-オン-3,2'-インダン)ではない。
【0048】
さらに本発明は、APPの約17キロダルトン(kDa)のカルボキシ末端断片を生成するためにAPPの切断の誘導に使用される次の一般式(I):

の複素環化合物、又はその薬学的に許容可能な塩、水和物又はプロドラッグではない化合物を提供し、ここで約17kDaの断片は、APPのカルボキシ末端アミノ酸配列及びアミロイド-βアミノ酸配列を含み、R、R、R、R、Rの各々はここに定義された通りである。
【0049】
一実施態様では、それを必要とする被験者に一般式(I)を有する化合物ではない化合物を投与することにより、約17kDAの断片が被験者内に形成される。
【0050】
またさらに本発明は、APPの約17キロダルトン(kDa)のカルボキシ末端断片を生成するためにAPPの切断を誘導するための医薬を調製するための、一般式(I):

を有する複素環化合物、又はその薬学的に許容可能な塩、水和物又はプロドラッグではない化合物の使用を提供し、ここで約17kDAの断片は、APPのカルボキシ末端アミノ酸配列及びアミロイド-βアミノ酸配列を含み、R、R、R、R、Rの各々はここに定義された通りである。
【0051】
他の実施態様では、一般式(I)を有する化合物ではない化合物を投与することにより、一又は複数のAβ1−42、Aβ1−40、APPのC99断片、及び/又はAPPのC83断片の生成の減少が生じる。
【0052】
他の実施態様では、一般式(I)を有する複素環化合物が投与される被験者はADを患っている。他の実施態様では、被験者はADであるか又はADを患っていると診断されている。他の実施態様では、被験者は軽度認知障害を患っている。他の実施態様では、被験者は軽度認知障害であるか又は軽度認知障害を患っていると診断されている。
【0053】
他の実施態様では、ADが治療される。他の実施態様では、軽度認知障害が治療される。ここで使用される場合、「治療」とは、病状、疾患又は疾病の徴候が寛解され又は有益に変化させられる態様を意味する。
【0054】
一実施態様では、ADが予防される。他の実施態様では、軽度認知障害が予防される。ここで使用されるAD又は認知障害を「予防する」とは、被験者におけるADの一又は複数の徴候の発症を防止することを指す。
【0055】
ここで使用される場合、特定の薬学的組成物を投与することによる特定の疾患の徴候の寛解とは、永続的であるか一時的であるか、持続的であるか一過性であるかにかかわらず、組成物の投与に起因し又は関連しうる、なんらかの緩和を指す。
【0056】
他の実施態様では、被験者がADを患っているかどうかを判定するために被験者がスクリーニングされるか又はスクリーニングされている。スクリーニングは、被験者を検査することにより実施することができる。また、スクリーニングは、ADの一又は複数の生物学的マーカーをアッセイすることにより、実施可能である。
【0057】
他の実施態様では、被験者はADを発症しやすいと診断されている。他の実施態様では、被験者がADを発症しやすいかどうか判定するために、被験者がスクリーニングされ又はスクリーニングされている。スクリーニングは、被験者を検査することにより実施することができる。また、スクリーニングは、ADの素因の一又は複数の生物学的マーカーをアッセイすることにより、実施可能である。
【0058】
他の実施態様では、被験者はヒト被験者である。
【0059】
本発明の複素環化合物は、体重1kg当たり0.0005mg又はそれ以上の有効経口用量で投与することができる。一実施態様では、化合物は、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、又は100mgの化合物を含む単位投与形態の一部の活性成分として投与される。
【0060】
この発明で使用される組成物は、活性成分が、その意図する目的を達成するのに効果的な量で含められる全ての組成物を含む。個々の必要性は変動するが、各成分の有効量の最適範囲の決定は、当業者の技量の範囲内である。典型的には、活性成分は、ADが処置される哺乳動物の体重の1日当たり、0.001〜3mg/kg、又はその薬学的に許容可能な塩の等価量が、経口的に哺乳動物、例えばヒトに投与されうる。活性成分は、ADが処置される哺乳動物の体重の1日当たり、0.001〜3mg/kg、又はその薬学的に許容可能な塩の等価量が、哺乳動物、例えばヒトに静脈内又は筋肉内投与されうる。約0.001〜約3mg/kgが、このような疾患を治療又は予防するために、経口的に投与されうる。他の薬剤がまた投与される場合、それはその意図する目的を達成するのに効果的な量で投与されうる。
【0061】
単位経口用量は、約0.001〜約200mg、又は約0.5〜約180mgの本発明の組成物を含みうる。単位用量は、約0.1〜約90mg、簡便には約10〜180mgの組成物又はその溶媒和物をそれぞれ含む一又は複数の錠剤として、毎日、一又は複数回投与されうる。一実施態様では、単位経口用量は、10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、110、120、130、140、150、160、170、又は180mgの化合物である。
【0062】
外用製剤では、活性成分は、担体1グラム当たり約0.01〜100mgの濃度で存在しうる。
【0063】
未加工の化学物質としての活性成分を投与することに加えて、活性成分は、薬学的に使用されうる製剤への活性成分の加工を容易にする賦形剤及び補助剤を含有する適切な薬学的に許容可能な担体を含む薬学的製剤の一部として投与することができる。製剤、特に経口的に投与可能なそれらの製剤、例えば錠剤、糖衣錠、及びカプセル、及び直腸的投与可能な製剤、例えば坐薬、並びに注射又は経口投与に適した溶液は、賦形剤と共に、約0.01〜99パーセント、又は約0.25〜75パーセントの活性成分を含みうる。
【0064】
式(I)の複素環化合物は、薬学的に許容可能な塩として、水和物又は酸付加塩の形態とすることができる。可能な酸付加塩には、無機酸塩、例えば塩酸塩、硫酸塩、臭化水素酸塩、硝酸塩、及びリン酸塩、及び有機酸塩、例えば酢酸塩、シュウ酸塩、プロピオン酸塩、グリコール酸塩、乳酸塩、ピルビン酸塩、マロン酸塩、コハク酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、リンゴ酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、安息香酸塩、ケイ皮酸塩、メタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、及びサリチル酸塩が含まれる。
【0065】
酸付加塩は、本発明の特定の化合物の溶液を、薬学的に許容可能な無毒の酸、例えば塩酸、臭化水素酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酢酸、クエン酸、乳酸、酒石酸、カルボン酸、リン酸、硫酸、シュウ酸等の溶液と混合することにより形成される。塩基性塩は、本発明の特定の化合物の溶液を、薬学的に許容可能な無毒の塩基、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化コリン、炭酸ナトリウム、トリス、N-メチル-グルカミン等の溶液と混合することにより形成される。
【0066】
本発明の薬学的組成物は、活性成分の有益な効果を受けうる任意の動物に投与することができる。このような動物の最も好ましいものは、哺乳動物、例えばヒト及び家畜動物であるが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【0067】
本発明の薬学的組成物は、その意図した目的を達成する任意の手段により投与されうる。例えば、非経口、皮下、静脈、筋肉内、腹腔内、経皮、頬、くも膜下腔内、頭蓋内、鼻腔内、又は局所経路により投与されうる。別法では、あるいは同時に、経口経路により投与することができる。投与される用量は、レシピエントの年齢、健康状態、体重、もしあれば併用療法の種類、処置の頻度、及び所望される効果の性質に依存するであろう。
【0068】
本発明の薬学的製剤は、それ自体知られている様式、例えば一般的な混合、造粒、糖衣錠作製、溶解、又は凍結乾燥プロセスにより製造される。よって、経口使用用の薬学的製剤は、活性成分を固形の賦形剤と組合せ、場合によっては得られた混合物を粉砕し、所望又は必要ならば適当な補助剤の添加後に顆粒の混合物を加工して、錠剤又は糖衣錠コアを得ることにより、得ることができる。
【0069】
適切な賦形剤は、特に、フィラー、例えば糖類、特にラクトース又はスクロース、マンニトール又はソルビトール;セルロース調製物及び/又はリン酸カルシウム、例えばリン酸三カリウム又はリン酸水素カリウム;並びにバインダー、例えばトウモロコシデンプン、小麦デンプン、米デンプン、ジャガイモデンプンを使用するデンプンぺースト、ゼラチン、トラガカント、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、及び/又はポリビニルピロリドンである。所望される場合、崩壊剤、例えば上述したデンプン、さらにカルボキシメチル-デンプン、架橋ポリビニルピロリドン、寒天、又はアルギン酸又はその塩、例えばアルギン酸ナトリウムを添加することもできる。補助剤は、とりわけ流動調整剤及び滑剤、例えばシリカ、タルク、ステアリン酸又はその塩、例えばステアリン酸マグネシウム又はステアリン酸カルシウム、及び/又はポリエチレングリコールである。糖衣錠コアには、所望される場合、胃液に対して耐性のある適切なコーティングが設けられる。この目的のためには、場合によってはアラビアゴム、タルク、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール及び/又は二酸化チタン、ラッカー液及び適切な有機溶媒又は溶媒混合物を含んでいてもよい濃縮した糖溶液を使用することができる。胃液に対して耐性のあるコーティングを作製するためには、適切なセルロール製剤、例えばフタル酸アセチルセルロース又はフタル酸ヒドロキシプロピルメチル-セルロースの溶液が使用される。同定のため又は活性成分の用量の組合せを特徴付けるために、錠剤又は糖衣錠のコーティングに染料又は顔料を添加してもよい。
【0070】
経口的に使用可能な他の薬学的製剤には、ゼラチン製の押し込み型カプセル、並びにゼラチンと可塑剤、例えばグリセロール又はソルビトールから作製される柔らかい密封カプセルが含まれる。押し込み型カプセルは、フィラー、例えばラクトース、バインダー、例えばデンプン、及び/又は滑剤、例えばタルク又はステアリン酸マグネシウム、場合によっては安定剤と混合可能な、顆粒の形態で活性成分を含みうる。柔らかいカプセルでは、活性成分は、適切な液体、例えば脂肪油又は流動パラフィンに溶解又は懸濁させることができる。さらに安定剤を添加することもできる。
【0071】
直腸的に使用可能な薬学的製剤には、例えば一又は複数の活性成分と坐薬基剤の組合せからなる坐薬が含まれる。適切な坐薬基剤は、例えば天然又は合成のトリグリセリド類又はパラフィン炭化水素である。さらに、活性成分と基剤の組合せからなるゼラチン直腸カプセルを使用することもできる。可能な基剤物質には、例えば液状トリグリセリド、ポリエチレングリコール、又はパラフィン炭水化物が含まれる。
【0072】
非経口投与に適した製剤には、水溶性形態の活性成分の水溶液、例えば水溶性の塩及びアルカリ溶液が含まれる。さらに、適切な油性の注射用懸濁液として、活性成分の懸濁液を投与することができる。適切な親油性溶媒又はビヒクルには、脂肪油、例えばゴマ油;又は合成の脂肪酸エステル、例えばオレイン酸エチル又はトリグリセリド類又はポリエチレングリコール-400が含まれる。水性の注射用懸濁液は、懸濁液の粘度を増加させる物質を含有しており、例えばカルボキシメチルセルロースナトリウム、ソルビトール、及び/又はデキストランが含まれる。場合によっては、懸濁液は安定剤をまた含みうる。
【0073】
ここで使用される場合、プロドラッグは、インビボ投与時に生物学的、製薬的又は治療的に活性な形態の化合物に代謝されるか又はそうでなければ転換される化合物である。プロドラッグを製造するためには、薬学的に活性な化合物を、活性化合物が代謝過程で再生されるように修飾する。プロドラッグは、薬剤の代謝安定性又は輸送特性を変え、副作用又は毒性をマスクし、薬剤の風味を改善し、又は薬剤の他の特徴もしくは特性を変えるように設計することができる。インビボでの薬力学的プロセス及び薬剤代謝の知識により、当業者であれば、ひとたび薬学的に活性な化合物が分かれば、化合物のプロドラッグを設計することができる(例えば、Nogrady, Medicinal Chemistry: A Biochemical Approach, Oxford University Press, New York, pages 388 392 (1985)を参照)。
【0074】
本発明の範囲にまた含まれるものは、経口薬学的製剤が腸溶コーティングを含む活性成分の投与形態である。「腸溶コーティング」なる用語は、酸性媒体における活性成分の溶解を阻害するが、中性からアルカリ性の媒体においては急速に溶解し、長時間にわたる保存に対して良好な安定性を有する、経口用の薬学的投与形態に対するなんらかのコーティングを指すのにここでは使用される。また、腸溶コーティングを有する投与形態は、腸溶コーティングとコアとの間に水溶性の分離層を含みうる。
【0075】
腸溶コーティングされた投与形態のコアは活性成分を含む。場合によっては、コアは薬学的添加剤及び/又は賦形剤をさらに含む。分離層は、フィルムコーティング塗布のための水溶性の不活性な活性成分又はポリマーでありうる。分離層は、当業者に知られている任意の常套的コーティング技術により、コア上に塗布される。分離層の例には、限定されるものではないが、糖類、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセタート、及びヒドロキシプロピルメチルセルロースが含まれる。腸溶コーティングは、任意の常套的コーティング技術により、分離層上に塗布される。腸溶コーティングの例には、限定されるものではないが、酢酸フタル酸セルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ポリビニルアセテートフタレート、カルボキシメチルエチルセルロース、メタクリル酸とメタクリル酸メチルエステルのコポリマー、例えばユードラギット(Eudragit)(登録商標)L12,5、又はユードラギット(登録商標)L100(ローム・ファーマ社(Rohm Pharma))、水系分散液、例えばアクアテリック(Aquateric)(登録商標)(FMCコーポレーション)、ユードラギット(登録商標)L100-55(ローム・ファーマ社)、及びコーティングCE5142(BASF社)、及び水溶性可塑剤を含むもの、例えばシトロフレックス(Citroflex)(登録商標)(ファイザー(Pfizer))が含まれる。最終的な投与形態は腸溶コーティング錠剤、カプセル、又はペレットのいずれかである。
【0076】
本発明の化合物のプロドラッグの例には、カルボン酸含有化合物の単純エステル(例えば、当該分野で知られている方法により、C1−4アルコールとの縮合により得られるもの);ヒドロキシ含有化合物のエステル(例えば、当該分野で知られている方法により、C1−4カルボン酸、C3−6二酸又はその無水物(例えば、コハク酸又はフマル酸の無水物)との縮合により得られるもの);アミノ含有化合物のイミン類(例えば、当該分野で知られている方法により、C1−4アルデヒド又はケトンとの縮合により得られるもの);及びアルコール含有化合物のアセタール及びケタール(例えば、当該分野で知られている方法により、クロロメチルメチルエーテル又はクロロメチルエチルエーテルとの縮合により得られるもの)が含まれる。
【0077】
ADの症状には、錯乱、短期間の記憶の障害、注意力障害、空間的定位障害、人格変化、言語障害、及び気分変動が含まれる。ADの徴候の列挙は、医学が発展し続けるので、将来拡大される場合があることが理解される。よって、「ADの症状」なる用語は、ここに提供される症状の列挙に限定されるものではない。
【0078】
ここで使用される場合、特定の疾患を治療するための化合物の有効量は、疾患に関連した症状を寛解し又はある程度減少させるのに十分な量である。このような量は、単一用量として投与されてもよく、又はそれが有効である治療計画に従って投与されてもよい。その量は、疾患を治癒する場合があるが、典型的には、疾患を寛解させるために投与される。典型的には、症状の所望の寛解を達成するために、繰り返し投与が必要とされる。
【0079】
一般式(I)中、一般式(II)を有する構造単位は、一般式(III)を有する構造単位の複数のタイプから選択される一又は複数の構造単位でありうる。


【0080】
一般式(I)において、Rはメチルであるか、又は存在しない。一般式(I)及び式(II)において、R及びRは、それぞれ、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アミノ基、アセチルアミノ基、ベンジルアミノ基、トリフルオロメチル基、C-Cアルキル基、C-Cアルコキシ基、C-Cアルケニル、C-Cシクロアルキル、ベンジルオキシ、CH-R(ここで、Rはフェニル(これは、C-Cアルキル、ハロゲン原子又はシアノで置換されていてもよい)又はチエニルである)、及び-O-(CH)-R(ここで、Rはビニル基、C-Cシクロアルキル基、又はフェニル基である)からなる群から独立して選択される一又は複数の官能基であり、nは0又は1である。
【0081】
一般式(I)及び式(II)において、R及びRは、それぞれ、水素原子、C-Cアルキル基、C-Cアルケニル、C-Cシクロアルキル基、CH-R(ここで、Rはフェニル(C-Cアルキル、ハロゲン原子又はシアノで置換されていてもよい);ナフチル又はチエニルである)、及び-CH(R)-Rからなる群から独立して選択される一又は複数の官能基である。あるいは、R及びRは、共同して、一般式(IV):

のスピロ環を形成する。
【0082】
は、ビニル基;エチニル基;C-Cアルキル基、C-Cアルコキシ基、ヒドロキシ基、1又は2のハロゲン原子、ジC-Cアルキルアミノ基、シアノ基、ニトロ基、カルボキシ基、又はフェニル基で置換されていてもよいフェニル;フェネチル基;ピリジル基;チエニル基;及びフリル基からなる群から選択される一又は複数の官能基である。上記Rは、水素原子又はC-Cアルキル基である。
【0083】
さらに、一般式(IV)において、構造単位Bは、一般式(V)を有する構造単位の複数のタイプから選択される一又は複数の構造単位でありうる。構造単位Bは、一般式(V)において*の記号が付された位置で結合し、スピロ環を形成する。

ここで、Rは、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、C-Cアルコキシ基、シアノ基、及びトリフルオロメチル基からなる群から選択される一又は複数の官能基である。
【0084】
一般式(I)を有する複素環化合物が構造中に不斉炭素原子を有している場合、不斉炭素原子からのその異性体とその混合物(ラセミ体)が存在する。このような場合、それらの全てが、ここに記載の実施態様で使用される複素環化合物に含まれる。
【0085】
「C-C」なる用語は、別の定義がない場合は、1〜6の炭素原子を指す。「C-C」なる用語は、別の定義がない場合は、3〜8の炭素原子を指す。「C-Cアルキル」なる用語には、直鎖状又は分枝状のアルキル基、例えばメチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、tert-ブチル、sec-ブチル、n-ペンチル、及びn-ヘキシルが含まれる。「C-Cアルコキシ」なる用語には、直鎖状又は分枝状のアルコキシ基、例えばメトキシ、エトキシ、n-プロポキシ、イソプロポキシ、n-ブトキシ、tert-ブトキシ、sec-ブトキシ、n-ペンチルオキシ、及びn-ヘキシルオキシが含まれる。「C-Cシクロアルキル」なる用語には、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、及びシクロオクチルが含まれる。「ハロゲン原子」なる用語には、フッ素、塩素、臭素、及びヨウ素が含まれる。
【0086】
本発明の方法のいずれかの他の実施態様において、本発明の実施に有用な複素環化合物は、
3,3-ジメチルイミダゾ(1,2-a)ピリジン-2(3H)-オン、
3,3-ジプロピルイミダゾ(1,2-a)ピリジン-2(3H)-オン、
3,3-ジブチルイミダゾ(1,2-a)ピリジン-2(3H)-オン、
3,3-ジアリルイミダゾ(1,2-a)ピリジン-2(3H)-オン、
3,3-ジアリル-8-ベンジルオキシイミダゾ(1,2-a)ピリジン-2(3H)-オン、
3,3-ジ(2-プロピニル)イミダゾ(1,2-a)ピリジン-2(3H)-オン、
3,3-ジベンジルイミダゾ(1,2-a)ピリジン-2(3H)-オン、
3,3-ジベンジル-8-メチルイミダゾ(1,2-a)ピリジン-2(3H)-オン、
3,3-ジベンジル-5,7-ジメチルイミダゾ(1,2-a)ピリジン-2(3H)-オン、
3,3-ジベンジル-8-ヒドロキシイミダゾ(1,2-a)ピリジン-2(3H)-オン、
3,3-ジベンジル-8-メトキシイミダゾ(1,2-a)ピリジン-2(3H)-オン、
3,3-ジベンジル-8-エトキシイミダゾ(1,2-a)ピリジン-2(3H)-オン、
8-アリルオキシ-3,3-ジベンジルイミダゾ(1,2-a)ピリジン-2(3H)-オン、
3,3-ジベンジル-8-イソプロポキシイミダゾ(1,2-a)ピリジン-2(3H)-オン、
3,3-ジベンジル-8-シクロプロピルメチルオキシイミダゾ(1,2-a)ピリジン-2(3H)-オン、
3,3-ジベンジル-8-シクロヘプチルオキシイミダゾ(1,2-a)ピリジン-2(3H)-オン、
3,3-ジベンジル-6-クロロイミダゾ(1,2-a)ピリジン-2(3H)-オン、
3,3-ジベンジル-6,8-ジクロロイミダゾ(1,2-a)ピリジン-2(3H)-オン、
3,3-ジベンジル-8-クロロ-6-トリフルオロメチルイミダゾ(1,2-a)ピリジン-2(3H)-オン、
3,3-ジベンジル-8-ベンジルオキシイミダゾ(1,2-a)ピリジン-2(3H)-オン、
8-アミノ-3,3-ジベンジルイミダゾ(1,2-a)ピリジン-2(3H)-オン、
8-アセチルアミノ-3,3-ジベンジルイミダゾ(1,2-a)ピリジン-2(3H)-オン、
3,3-ジベンジル-8-ベンジルアミノイミダゾ(1,2-a)ピリジン-2(3H)-オン、
3,3-ビス(3-クロロベンジル)イミダゾ(1,2-a)ピリジン-2(3H)-オン、
3,3-ビス(3-フルオロベンジル)イミダゾ(1,2-a)ピリジン-2(3H)-オン、
3,3-ビス(4-フルオロベンジル)イミダゾ(1,2-a)ピリジン-2(3H)-オン、
3,3-ビス(2,4-ジクロロベンジル)イミダゾ(1,2-a)ピリジン-2(3H)-オン、
3,3-ビス(4-ジメチルアミノベンジル)イミダゾ(1,2-a)ピリジン-2(3H)-オン、
3,3-ビス(4-メトキシベンジル)イミダゾ(1,2-a)ピリジン-2(3H)-オン、
3,3-ビス(4-ビフェニルメチル)イミダゾ(1,2-a)ピリジン-2(3H)-オン、
3,3-ビス(4-シアノベンジル)イミダゾ(1,2-a)ピリジン-2(3H)-オン、
3,3-ビス(4-ヒドロキシ-ベンジル)イミダゾ(1,2-a)ピリジン-2(3H)-オン、
3,3-ビス(3-フェニル-1-プロピル)イミダゾ(1,2-a)ピリジン-2(3H)-オン、
3,3-ビス(2,4-ジフルオロベンジル)イミダゾ(1,2-a)ピリジン-2(3H)-オン、
3,3-ビス(4-ニトロベンジル)イミダゾ(1,2-a)ピリジン-2(3H)-オン、
3,3-ビス(4-カルボキシベンジル)イミダゾ(1,2-a)ピリジン-2(3H)-オン、
8-ベンジルオキシ-3,3-ビス(1-フェニルエチル)イミダゾ(1,2-a)ピリジン-2(3H)-オン、
8-ベンジルオキシ-3,3-ビス(3-メチルベンジル)イミダゾ(1,2-a)ピリジン-2(3H)-オン、
8-ベンジルオキシ-3,3-ビス(4-メチルベンジル)イミダゾ(1,2-a)ピリジン-2(3H)-オン、
3-ベンジル-3-(4-フルオロベンジル)イミダゾ(1,2-a)ピリジン-2(3H)-オン、
3-エチル-3(4-フルオロベンジル)イミダゾ(1,2-a)ピリジン-2(3H)-オン、
8-メチル-3,3-ビス(3-ピリジルメチル)イミダゾ(1,2-a)ピリジン-2(3H)-オン、
8-メチル-3,3-ビス(4-ピリジルメチル)イミダゾ(1,2-a)ピリジン-2(3H)-オン、
3,3-ビス(2-チエニルメチル)イミダゾ(1,2-a)ピリジン-2(3H)-オン、
3,3-ビス(2-フリルメチル)イミダゾ(1,2-a)ピリジン-2(3H)-オン、
スピロ(イミダゾ(1,2-a)ピリジン-2(3H)-オン-3,2'-インダン)、
スピロ(イミダゾ(1,2-a)ピリジン-2(3H)-オン-3,2'-(2,3)ジヒドロフェナレン)、
スピロ(イミダゾ(2,1-b)チアゾール-6(5H)-オン-5,2'-ベンゾ(f)インダン)、
スピロ(イミダゾ(1,2-b)チアゾール-6(5H)-オン-5,2'-インダン)、
スピロ(2-メチルイミダゾ(1,2-b)チアゾール-6(5H)-オン-5,2'-ベンゾ(f)インダン)、
5,5-ビス(4-フルオロベンジル)イミダゾ(2,1-b)チアゾール-6(5H)-オン、
5,5-ジベンジルイミダゾ(2,1-b)チアゾール-6(5H)-オン、
5,5-ビス(4-メチルベンジル)イミダゾ(2,1-b)チアゾール-6(5H)-オン、
5,5-ビス(4-シアノベンジル)イミダゾ(2,1-b)チアゾール-6(5H)-オン、
5,5-ジベンジル-2-メチルイミダゾ(2,1-b)チアゾール-6(5H)-オン、
5,5-ビス(4-フルオロベンジル)-2-メチルイミダゾ(2,1-b)チアゾール-6(5H)-オン、
5,5-ジシクロヘキシル-2-メチルイミダゾ(2,1-b)チアゾール-6(5H)-オン、
5,5-ビス(4-シアノベンジル)-2-メチルイミダゾ(2,1-b)チアゾール-6(5H)-オン、
5,5-ジ(2-ブテニル)イミダゾ(2,1-b)チアゾール-6(5H)-オン、
5,5-ジブチルイミダゾ(2,1-b)チアゾール-6(5H)-オン、
5,5-ジシクロヘキシルイミダゾ(2,1-b)チアゾール-6(5H)-オン、
5,5-ビス(2-チエニルメチル)イミダゾ(2,1-b)チアゾール-6(5H)-オン、
スピロ(2,3-ジヒドロイミダゾ(2,1-b)チアゾール-6(5H)-オン-5,2'-ベンゾ(f)インダン)、
5,5-ジブチル-2,3-ジヒドロイミダゾ(2,1-b)チアゾール-6(5H)-オン、
5,5-ジ(2-ブテニル)-2,3-ジヒドロイミダゾ(2,1-b)チアゾール-6(5H)-オン、
5,5-ビス(4-メチルベンジル)-2,3-ジヒドロイミダゾ(2,1-b)チアゾール-6(5H)-オン、
5,5-ビス(2-チエニルメチル)-2,3-ジヒドロイミダゾ(2,1-b)チアゾール-6(5H)-オン、
5,5-ビス(4-フルオロベンジル)-2,3-ジヒドロイミダゾ(2,1-b)チアゾール-6(5H)-オン、
5,5-ジベンジル-2,3-ジヒドロイミダゾ(2,1-b)チアゾール-6(5H)-オン、
スピロ(イミダゾ(1,2-a)ピリジン-2(3H)-オン-3,2'-ベンゾ(f)インダン)、
2-ヒドロキシ-3-(2-ナフチルメチル)-イミダゾ(1,2-a)ピリジン、
3-ベンジルイミダゾ(1,2-a)ピリジン-2(3H)-オン、
スピロ(5,6,7,8-テトラヒドロイミダゾ(1,2-a)ピリジン-2(3H)-オン-3,2'-ベンゾ(f)インダン)、
3,3-ジシクロヘキシル-5,6,7,8-テトラヒドロイミダゾ(1,2-a)ピリジン-2(3H)-オン、
3,3-ビス(2-チエニルメチル)-5,6,7,8-テトラヒドロイミダゾ(1,2-a)ピリジン-2(3H)-オン、
3,3-ジブチル-5,6,7,8-テトラヒドロイミダゾ(1,2-a)ピリジン-2(3H)-オン、
3,3-ジプロピル-5,6,7,8-テトラヒドロイミダゾ(1,2-a)ピリジン-2(3H)-オン、
スピロ(イミダゾ(1,2-a)ピリミジン-2(3H)-オン-3,2'-ベンゾ(f)インダン)、
3,3-ジ(2-ブテニル)イミダゾ(1,2-a)ピリミジン-2(3H)-オン、
3,3-ビス(2-チエニルメチル)イミダゾ(1,2-a)ピリミジン-2(3H)-オン、
3,3-ビス(4-フルオロベンジル)イミダゾ(1,2-a)ピリミジン-2(3H)-オン、
3,3-ジシクロヘキシルイミダゾ(1,2-a)ピリミジン-2(3H)-オン、
3,3-ビス(4-シアノベンジル)イミダゾ(1,2-a)ピリミジン-2(3H)-オン、
3,3-ビス(4-メチルベンジル)イミダゾ(1,2-a)ピリミジン-2(3H)-オン、
4,4-ジベンジル-1-メチル-5-オキソ-4,5-ジヒドロイミダゾール、
スピロ(イミダゾ(1,2-a)ピリジン-2(3H)-オン-3,2'-(4'-フルオロインダン))、
スピロ(イミダゾ(1,2-a)ピリジン-2(3H)-オン-3,2'-(5'-メトキシインダン))、
スピロ(イミダゾ(1,2-a)ピリジン-2(3H)-オン-3,2'-(5'-ヨードインダン))、
スピロ(イミダゾ(1,2-a)ピリジン-2(3H)-オン-3,2'-(4'-シアノインダン))、
スピロ(イミダゾ(2,1-a)イソキノリン-2(3H)-オン-3,2'-インダン)、
スピロ(イミダゾ(1,2-a)ピリジン-2(3H)-オン-3,2'-((1,2,5-チアジアゾ)(4,5-c)インダン))、
スピロ(イミダゾ(2,1-a)イソキノリン-2(3H)-オン-3,2'-((1,2,5-チアジアゾ)(4,5-c)インダン))、
スピロ(イミダゾ(1,2-a)ピリミジン-2(3H)-オン-3,4'-(1-シクロペンテン))、
スピロ(イミダゾ(1,2-a)ピリミジン-2(3H)-オン-3,2'-インダン)、
スピロ(イミダゾ(1,2-a)ピリミジン-2(3H)-オン-3,2'-((1,2,5-チアジアゾ)(4,5-c)インダン))、
スピロ(イミダゾ(1,2-a)ピリジン-2(3H)-オン-3,2'-(5'-トリフルオロメチルインダン))、
スピロ(イミダゾ(1,2-a)ピリジン-2(3H)-オン-3,2'-ベンゾ(e)インダン)、
スピロ(イミダゾ(2,1-a)イソキノリン-2(3H)-オン-3,1'-(3'-シクロペンテン))、
スピロ(8-ベンジルオキシイミダゾ(1,2-a)ピリジン-2(3H)-オン-3,1'-(3'-シクロペンテン))、
スピロ(7,8,9,10-テトラヒドロイミダゾ(2,1-a)イソキノリン-2(3H)-オン-3,1'-シクロペンタン)、
スピロ(イミダゾ(2,1-a)イソキノリン-2(3H)-オン-3,1'-シクロペンタン)、及び
スピロ(5,6,7,8-テトラヒドロイミダゾ(1,2-a)ピリジン-2(3H)-オン-3,2'-インダン)
からなる群から選択される。
【0087】
他の実施態様では、化合物は、スピロ(イミダゾ(1,2-a)ピリジン-2(3H)-オン-3,2'-インダン)である。
【0088】
他の実施態様では、本発明の方法は、それぞれその全体が出典明示により援用される、米国特許出願第11/872408号 (米国特許出願公開第2008/0103157A1号として公開);米国特許出願第11/872418号 (米国特許出願公開第2008/0103158A1号として公開);米国特許第6635652号;米国特許第7141579号;及び国際出願第PCT/JP2007/070962号(国際公開第2008/047951号として公開)に開示されている化合物のいずれかを使用して実施することができる。
【0089】
ZSET1446としてもまた知られている化合物ST101は、急性(単回投与)投与後及び長期投与後の双方において、ADに関連する学習及び記憶の齧歯類モデルにおける薬理活性を示す。ST101の化学名は、スピロ(イミダゾ(1,2-a)ピリジン-2(3H)-オン-3,2'-インダン)である。
【0090】
例えば、ST101は、加齢で損なわれる記憶を有意に改善し、メタンフェタミン、グルタメートレセプターアンタゴニストのMK-801、及びムスカリンアンタゴニストのスコポラミン等、化学的健忘剤により誘発される記憶欠損を減弱する。(Yamaguchi Yら, J. Pharmacol. Exp. Ther. 317:1079-87 (2006); Ito Yら, J. Pharmacol. Exp. Ther. 320: 819-27 (2007))。
【0091】
ST101がアセチルコリン(ACh)のニコチン刺激放出を増強し、大脳皮質中の細胞外ACh濃度を増加させ、海馬におけるACh及びドーパミン双方の細胞外濃度を増加させることが実験により示されている。ST101がその効果を奏するモデルの幅により、これらのプロセスに関連したシグナル伝達経路における上流標的での関与の可能性が示唆される。
【0092】
またST101は、老化促進マウス8(SAMP8)、つまり脳組織におけるAβ様沈着物の蓄積を伴い学習及び記憶において加齢性欠損を発症するマウス系における効果が証明されている。SAMP8マウスは、Morley, J.E., Biogerontology 3: 57-60 (2002)において検討されている。ST101はAβ様沈着物の蓄積を減少させ、学習及び記憶機能を改善させており、ST101の行動的影響が、Aβ生成及び/又は沈着の減少に関連していることが示唆される。米国特許出願公開第2008/103158A1号を参照。
【0093】
ここで検討された全ての特許、特許出願、及び刊行物は、出典明示によりその全体がここに援用される。
【実施例】
【0094】
実施例1
N2a培養細胞におけるインビトロでのβアミロイドに対するST101の効果
N2aは、ELISAアッセイにより測定可能な量で、アミロイドペプチドAβ1−40及びAβ1−42を生成することが知られているマウス神経芽細胞腫細胞株である。Aβのこれらの形態は、AD脳における病態と相関しており、特にAβ1−42はα7ニコチンレセプターをブロックし、直接の神経毒作用を生じる能力を有していると仮定されている。N2a細胞を、組織培養培地に添加したST101で24時間処理した。組織培養培地を収集し、Aβの存在についてELISAにより分析した。
【0095】
図1A及び1Bは、N2a細胞によるAβ生成に対する化合物ST101の効果を表す棒グラフである。図1Aは、コントロールと比較して、ST101濃度の作用による、細胞培養培地中におけるAβ濃度を示す棒グラフである。図1Bは、コントロールと比較して、ST101濃度の作用による、Aβ1−40に対するAβ1−42の比を示す棒グラフである。図1A及び1Bに示されるように、ST101は、Aβ1−40に対して目立った影響なしに、Aβ1−42を有意に減少させた(図1)。
【0096】
実施例2
モーリス水迷路での3xTg-ADマウスにおけるST101の効果
カルフォルニア大学アーバイン分校のフランク・ラフェルア博士の研究室(Dr. Frank LaFerla's laboratory)では、アルツハイマー病態に関する3種の変異を含むトランスジェニックマウスを開発している(βAPPSwe、PS1M146V、及びtauP301L)(Oddoら, 「Triple-transgenic model of AD with plaques and tangles: intracellular Aβ and synaptic dysfunction, Neuron 39(3):409-21 (2003))。これらの変異は、APP切断をα-からβ-セクレターゼにシフトし、Aβ1−42の生成を増加させ、タウの凝集を対らせん状細線維に追い込む。3xTg-AD動物は、年齢に依存した形でADの本質的な特徴を発症し、記憶に関連した行動機能における障害、プラーク及びタングル病態、及びシナプス機能障害で、長期間増強における欠陥を含むもの、記憶に対して重要であると考えられている活動を伴う(Oddo et al., 2003)。さらに、プラーク形成はタングル形成に先行し、よってヒトにおけるADの発症を模倣している。3xTg-ADマウスは、今日までに開発されているADに最も近い動物モデルの一つである。
【0097】
ST101の投与及び試験方法
約1歳の3xTg-ADマウスを、ST101で2ヶ月処置した。飲用水にて、5mg/kg/日の平均用量を投与した(平均水分消費量に基づき算出した用量)。行動的影響を、モーリス水迷路における成績を評価することにより試験した。生化学的効果は、ELISA及びウエスタンブロットにより、Aβ及びAPPの脳内含有量を測定することにより試験した。
【0098】
行動的影響:モーリス水迷路(MWM)における3xTg-ADマウスの成績、Roozendaalら, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 100: 1328-1333 (2003)を改変。
【0099】
MWMは、齧歯類における空間記憶(すなわち、海馬依存性)と合図学習(cued learning)(すなわち、非海馬性)の双方を試験する。迷路は不透明な水が満たされた円形タンクである。マウスは水に配され、水面の下1.5cmに沈められたプラットフォームを見つけて泳ぎ、そこまで逃げなければならない。プラットフォームを見つけるのに必要な時間(秒)を記録する。連続した試行でプラットフォームを発見するために、動物は、タンクが収容されている部屋における視覚的合図に頼る。訓練を、連続して7日間、毎日実施した。
【0100】
最後の訓練試行から24及び72時間後の2回、訓練の保持力を評価した。プラットフォームを取り除き、動物をタンク中で60秒、自由に泳がせた。測定されるパラメーターには、(1)潜時:先のプラットフォーム位置に達するのに必要とされた時間、及び(2)横断:動物が先のプラットフォーム位置を横断して泳いだ回数が含まれる。潜時の減少及び横断の増加は、改善した空間記憶及び合図学習を示す。
【0101】
図2A、2B及び2Cは、MWMでの3xTg-ADマウスにおけるST101の効果を表すグラフである。図2Aは、コントロールマウスと比較した、7日間にわたる訓練中の潜時(秒)を表す折れ線グラフである。図2B及び2Cは、ST101で処理された動物とコントロールマウスの訓練後24及び72時間での、潜時(秒)を表す棒グラフである。
【0102】
図2Aに示されるように、ST101及びコントロール動物は、訓練の初日には類似した潜時を有していた。しかしながら、ST101で処置されたマウスは、コントロールと比較して、連続した日数の訓練で、潜時がより大きく減少したことが示された。また、図2B及び2Cも、24及び72時間の双方において、保持試験中、潜時の減少及び横断の増加の双方を示した。これらのデータにより、ST101が、ヒトADに非常に似ている3xTg-ADマウス系における学習及び記憶成績を改善することが確認される。
【0103】
実施例3
3xTgマウス-ADからの脳組織でのAβにおけるST101の効果
生化学的効果:ST101及びアミロイドプロセシング経路
2ヶ月の処置期間の終わりに、3xTgマウスを屠殺し、脳組織を処理した。第一セットの分析では、可溶性Aβ1−40及びAβ1−42、並びに不溶性Aβ(ギ酸抽出後)を、ELISAにより定量した。可溶性Aβは、完全長APPからプロセシングされ、放出されたタンパク質を表す。不溶性Aβは、最終的にアミロイドプラークに沈着した原線維凝集体を表す。
【0104】
図3A及び3Bは、3xTg-ADマウスからの脳組織での、Aβに対するST101の効果を示す棒グラフである。図3Aは、コントロールマウスに対する、ST101で処置されたマウスの脳組織における可溶性Aβ1−40とAβ1−42の量を表す。図3Bは、コントロールマウスに対する、ST101で処置されたマウスにおける不溶性Aβ1−40とAβ1−42(ギ酸抽出)の量を表す棒グラフである。パネルAにおけるST101で処置された群の一匹の動物は分析的アーチファクトのために除外した。
【0105】
図3A及び3Bに示されるように、ST101で処置されたマウスでは、可溶性Aβ1-42のレベルが有意に減少し、可溶性Aβ1−40が穏やかに減少した。不溶性Aβは影響を受けなかった。これらの結果により、ST101がAβの生成又は放出に影響を与える可能性があるが、既に形成された不溶性の凝集体を有するAβに対しては検出可能な効果を有していないことが示唆される。
【0106】
実施例4
抗体CT20により検出されるAPP C末端断片
Aβのプロセシング/放出経路のどの部分でST101が活性でありうるのかを判定する試みで、同じマウスからの脳抽出物の一連のウエスタンブロット分析を実施した。これらのウエスタンブロットにより、無傷のAPP並びにその翻訳後プロセシング及び次の分解産物を検査した。
【0107】
図4は、未処置(C)の3xTgマウス-ADに対する、ST101で処置された(S)3xTg-ADマウスの脳における抗体CT20により検出されたAPP C末端断片を表すウエスタンブロットである。
【0108】
図4に示されるように、抗体CT20(APPのC末端に対して作られた)は、C99及びC83のC末端APP断片における大幅な減少を明らかにした。これらの断片は、それぞれβ-セクレターゼ及びα-セクレターゼ切断の副生成物である。また示されるのは、約17kDaの分子量の、新規でより長いC末端断片の出現である(*により示す)。
【0109】
実施例5
抗体CT20により検出されるAPP及び分解断片
図5は、未処置(C)の3xTg-ADマウスに対する、ST101で処置された(S)3xTg-ADマウスの脳における、抗体CT20により検出されたAPP及び分解断片を表すウエスタンブロットである。「CT20」は完全長APP種を示し、「アクチン」は、タンパク質添加コントロールとしての抗β-アクチン抗体を表す。
【0110】
ウエスタンブロット分析により、全ての抽出物において、プロセシングされていない完全長APPが検出された(図5、*)。わずかなバンドのシフトにより、APPのさらなるST101誘導性修飾、例えばいくつかの完全長種のわずかに低下した分子量(グリコシル化、リン酸化、又は他の翻訳後修飾における可能な変化)、及び主要なAPP分解中間体(〜50kDa)の消失又は有意な減少が示唆された(図5、**)。
【0111】
実施例6
別のアミロイドプロセシング経路
図6は、新規のAPP C末端断片を生じる提案されたアミロイドプロセシング経路を示す図である。提案された経路は、図4からのウエスタンブロットに示された、新規な約17kDの断片の出現を説明している。この断片は、β-セクレターゼ切断部位に対して約60アミノ酸のN末端の特徴付けられていない部位の切断により生成されている。
【0112】
該新規の経路は、これらの切断事象の通常の生成物が大きく減少する場合に、α-及びβ-セクレターゼ切断の双方に先行すると思われ(それぞれ、α-及びβ-セクレターゼについてはC83及びC99)、よって、これらの酵素の標的である切断部位は、無傷のままである。
【0113】
ST101により誘導されるAPP代謝のこの変化には、臨床的ADを近似するものであるとほぼ間違いなく考えられている動物モデルにおける、学習及び記憶課題の際だった改善が伴っている。先の非臨床データと併せて考察すると、ST101は、既知の作用機序の市販の薬剤及び現在研究下にある薬剤のものの上流の生理学的プロセスで作用すると思われ、よって、ADの治療に対する新規な途を表す。
【0114】
実施例7
抗体CT20により検出されるAPP C末端断片
月齢約3ヶ月の3xTg-ADマウスを、ST101で10ヶ月処置した。飲用水にて、5又は1又は0.1mg/kg/日の平均用量を投与した(平均水分消費量に基づき算出した用量)。
【0115】
図7A−Cは、未処置(C)の3xTg-ADマウスに対する、ST101で処置された(S)3xTg-ADマウスの脳における、抗体CT20により検出されたAPP C末端断片を表すウエスタンブロットである。
【0116】
図7A−7Cに示されるように、抗体CT20(APPのC末端に対して作られた)は、図5の**で見られる効果に類似したいくつかの試料において、主要なAPP分解中間体(〜50kDa)の消失又は有意な減少を明らかにした。また見られるのは、図4に見られる効果に類示したいくつかの試料における約17kDaの分子量の新規のより長いC末端断片の出現である。
【0117】
実施例8
抗体1565-1により検出されるAPP C末端断片
月齢約12ヶ月の3xTg-ADマウスを、ST101で2.5ヶ月処置した。飲用水にて、5mg/kg/日の平均用量を投与した(平均水分消費量に基づき算出した用量)。
【0118】
図8は、未処置(C)の3xTgマウス-ADに対する、ST101で処置された(S)3xTg-ADマウスの脳における、抗体1565-1(Epitomics Inc)により検出されたC末端断片を表すウエスタンブロットである。
【0119】
図8に示されるように、抗体1565-1(APPのC末端近傍のペプチドに対して作られた)は、APPのC99断片の消失又は有意な減少を明らかにした。約17kDaの分子量のより長いC末端断片は観察されなかった。
【0120】
本発明の広さ及び範囲は、上述の例示的実施態様のいずれによっても限定されないが、以下の特許請求の範囲及びその均等物に従ってのみ定められるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
APPの約17キロダルトン(kDa)のカルボキシ末端断片を生成するためにAPPの切断の誘導に使用される一般式(I):

の複素環化合物、又はその薬学的に許容可能な塩、水和物又はプロドラッグであって、
ここで、約17kDAの断片が、APPのカルボキシ末端アミノ酸配列及びアミロイド-βアミノ酸配列を含み、
ここで、R、R、R、R、Rの各々が明細書に定義された通りである使用。
【請求項2】
複素環化合物が、スピロ(イミダゾ(1,2-a)ピリジン-2(3H)-オン-3,2'-インダン)である請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記複素環化合物の前記使用が、一又は複数のAβ1−42、Aβ1−40、アミロイド前駆体タンパク質のC99断片、及び/又はアミロイド前駆体タンパク質のC83断片の生成の減少を生じる請求項1に記載の使用。
【請求項4】
化合物が投与される被験者が、アルツハイマー病を患っている請求項1に記載の使用。
【請求項5】
被験者がアルツハイマー病と診断されている請求項4に記載の使用。
【請求項6】
アミロイド前駆体タンパク質のカルボキシ末端アミノ酸配列及びアミロイド-βアミノ酸配列を含む、単離された約17kDaのアミロイド前駆体タンパク質断片。
【請求項7】
請求項6に記載の断片を含有する組成物。
【請求項8】
アミロイド前駆体タンパク質の約17キロダルトンの断片を生成するためにアミロイド前駆体タンパク質を切断する化合物をスクリーニングする方法であって、
(a)アミロイド前駆体タンパク質又はその断片を生成する細胞を試験化合物に曝露し、
(b)約17キロダルトンの断片の量を検出する
ことを含んでなり、
ここで、約17キロダルトンの断片が、アミロイド前駆体タンパク質のカルボキシ末端アミノ酸配列及びアミロイド-βアミノ酸配列を含み、
化合物に曝露されていない細胞における約17キロダルトンの断片の量に対して、化合物に曝露された細胞中における約17キロダルトンの断片の量が増加していることが、該化合物がアミロイド前駆体タンパク質の切断を誘導して約17キロダルトンの断片を生成することを示す方法。
【請求項9】
(c)化合物に曝露された細胞中における一又は複数のAβ1−42、Aβ1−40、アミロイド前駆体タンパク質のC99断片、又はアミロイド前駆体タンパク質のC83断片の量が、化合物に曝露されていない細胞におけるAβ1−42、Aβ1−40、アミロイド前駆体タンパク質のC99断片、又はアミロイド前駆体タンパク質のC83断片の量に対して減少しているかどうかを定量することをさらに含む請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記スクリーニング方法がインビトロで実施される請求項1に記載の方法。
【請求項11】
(c)化合物に曝露された細胞の細胞培養可溶化液における一又は複数のAβ1−42、Aβ1−40、アミロイド前駆体タンパク質のC99断片、又はアミロイド前駆体タンパク質のC83断片の量が、化合物に曝露されていない細胞の細胞培養培地におけるAβ1−42、Aβ1−40、アミロイド前駆体タンパク質のC99断片、又はアミロイド前駆体タンパク質のC83断片の量に対して減少しているかどうかを定量することをさらに含む、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
前記スクリーニング方法が高スループット式で実施される請求項8に記載の方法。
【請求項13】
APPの約17キロダルトンの断片を生成するためにアミロイド前駆体タンパク質を切断する化合物をスクリーニングする方法であって、
(a)アミロイド前駆体タンパク質又はその断片を生成する細胞を試験化合物に曝露し、
(b)約17キロダルトンの断片を検出する
ことを含んでなり、
ここで、約17キロダルトンの断片が、アミロイド前駆体タンパク質のカルボキシ末端アミノ酸配列及びアミロイド-βアミノ酸配列を含み、
化合物に曝露されていない細胞においては約17キロダルトンの断片が存在しないことに対して、化合物に曝露された細胞における約17キロダルトンの断片が存在していることが、該化合物がアミロイド前駆体タンパク質の切断を誘導して約17キロダルトンの断片を生成することを示す方法。
【請求項14】
(c)化合物に曝露された細胞における一又は複数のAβ1−42、Aβ1−40、アミロイド前駆体タンパク質のC99断片、又はアミロイド前駆体タンパク質のC83断片の量が、化合物に曝露されていない細胞におけるAβ1−42、Aβ1−40、アミロイド前駆体タンパク質のC99断片、又はアミロイド前駆体タンパク質のC83断片の量に対して減少しているかどうかを定量することをさらに含む請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記スクリーニング方法がインビトロで実施される請求項13に記載の方法。
【請求項16】
(c)化合物に曝露された細胞の細胞培養可溶化液における一又は複数のAβ1−42、Aβ1−40、アミロイド前駆体タンパク質のC99断片、又はアミロイド前駆体タンパク質のC83断片の量が、化合物に曝露されていない細胞の細胞培養培地におけるAβ1−42、Aβ1−40、アミロイド前駆体タンパク質のC99断片、又はアミロイド前駆体タンパク質のC83断片の量に対して減少しているかどうかを定量することをさらに含む請求項13に記載の方法。
【請求項17】
前記スクリーニング方法が高スループット式で実施される請求項13に記載の方法。
【請求項18】
APPの約17キロダルトン(kDa)のカルボキシ末端断片を生成するためにAPPの切断の誘導に使用される一般式(I):

の複素環化合物、又はその薬学的に許容可能な塩、水和物又はプロドラッグではない化合物であって、
ここで、約17kDAの断片が、APPのカルボキシ末端アミノ酸配列及びアミロイド-βアミノ酸配列を含み、
、R、R、R、Rの各々が明細書に定義された通りである使用。
【請求項19】
前記化合物が、一又は複数のAβ1−42、Aβ1−40、アミロイド前駆体タンパク質のC99断片、又はアミロイド前駆体タンパク質のC83断片の生成の減少を生じる請求項18に記載の使用。
【請求項20】
化合物が投与される被験者がアルツハイマー病を患っている請求項1に記載の使用。
【請求項21】
被験者がアルツハイマー病と診断されている請求項20に記載の使用。

【図1A】
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【図1B】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図7C】
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【図8】
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【公表番号】特表2012−512173(P2012−512173A)
【公表日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−540964(P2011−540964)
【出願日】平成21年12月15日(2009.12.15)
【国際出願番号】PCT/US2009/068010
【国際公開番号】WO2010/077852
【国際公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【出願人】(511144491)ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニア (2)
【出願人】(591163694)全薬工業株式会社 (10)
【Fターム(参考)】