説明

アミロイド親和性化合物

特殊な設備を必要としなくても、アルツハイマー病におけるAβタンパク質のようなアミロイドの検出を可能とする新しい技術を提供する。 一般式(I)で表されるスチリルベンゼン化合物が開示されている。式(I)中、RおよびRは、それ
ぞれ独立に水酸基またはカルボキシル基であり、Rは、フッ素原子または臭素原子であり、Rが臭素原子の場合は必ず、Rがフッ素原子の場合は随時に、α位、β位、γ位、およびδ位の炭素原子ならびにRおよびRのカルボキシル基を構成する炭素原子の少なくとも1つは炭素13である。式(I)の化合物はアミロイドを蛍光染色するのみならず、アミロイド特異的MRI造影剤としても機能する。 【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体内試験の技術分野に属し、特に、アルツハイマー病の発症・進展などにかかわっているアミロイドに親和性で、その検出に有用な新規な化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
アルツハイマー病の患者数は国内では現在150万人以上と言われ、さらに20年後には高齢者の10人に1人が発症すると予測されており、高齢化にともない国民の経済的負担が増加している。この疾患は遺伝性のものが約1割で、残りの9割が孤発性であり、誰もが発症のリスクを有しているが、発症のリスクは加齢とともに増加する。老人斑の形成、神経原線維変化、脳の萎縮の3つを特徴としており、臨床症状が現れるかなり以前からこれらの器質的な変化が進行していると言われている。
【0003】
現在、アルツハイマー病の確定診断は患者の死後脳の病理組織検査によっており(Z.S.Khachaturian,Arch.Neurol.,1985,42,1097:非特許文献1)、そのための組織染色剤としてコンゴーレッド(Congo Red)が広く用いられてきた。コンゴーレッドは老人斑の成分であるアミロイドβ(Aβと略称されることがある)タンパク質に親和性が高いため、選択的な染色が可能である。これに対して、最も早期の神経病理学的変化である老人斑の形成を生前に捕らえるため、インビボ(in vivo)での脳アミロイドの画像診断用プローブが最近登場してきた。コンゴーレッドはAβタンパク質に親和性を持つ蛍光性の分子で、分子内にスルホン基を有し親水性が高いため血液−脳関門を通過できずインビボでの使用はできない。このため、脳への移行性を高めた疎水性の低分子化合物を放射性核種(特に、11C、13N、15O、18F)で標識し、PET(陽電子断層撮影法)やSPECT(単光子放出核種によるコンピューター断層撮影法)を用いて検出するアプローチが研究されている。このインビボイメージング用プローブとして、チオフラビン誘導体(例えば、C.A.Mathis,et al.,Bioorg.Med.Chem,Lett.,2002,12,295:非特許文献2;M.P.Kung,et al.,J.Mol.Neurosci.,2003,20,15:非特許文献3;Z.−P.Zhuang,et al.,J.Med.Chem,,2003,46,237:非特許文献4)などが報告されているが、検出にはいずれも大がかりな核医学の設備が必要となる。
【0004】
最近開発された化合物BSB[(トランス、トランス)−1−ブロモ−2,5−ビス−(3−ヒドロキシカルボニル−4−ヒドロキシ)スチリルベンゼン]は、タンパク質のβシート構造を認識するためAβタンパク質に対する親和性が高く(Km=0.4μM)、Aβタンパク質を蛍光染色するのでアルツハイマー病を画像診断するための選択的プローブとして期待されている(D.M.Skovronsky et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.,2000,97,7609:非特許文献5)。この非特許文献5による報告ではアルツハイマー病のモデルマウスにBSBを静脈内投与し、マウスを屠殺後、死後脳標本の染色を行ったものであり、脳への良好な移行が確認されている。しかしながら生前診断を行う場合には、やはりPETやSPECTによって検出するための放射標識化が必要となる。BSBはこの他、全身性アミロイドーシスの蛍光染色剤としても優れた染色結果が得られている(Y.Ando et al.,Lab.Invest.,2003,in press.:非特許文献6)。
【非特許文献1】Z.S.Khachaturian,Arch.Neurol.,1985,42,1097
【非特許文献2】C.A.Mathis,et al.,Bioorg.Med.Chem,Lett.,2002,12,295
【非特許文献3】M.P.Kung,et al.,J. Mol.Neurosci.,2003,20,15
【非特許文献4】Z.−P.Zhuang,et al.,J.Med.Chem.,2003,46,237
【非特許文献5】D.M.Skovronsky et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.,2000,97,7609
【非特許文献6】Y.Ando et al.,Lab.Invest.,2003,in press.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、特殊な設備を必要としなくても、アルツハイマー病におけるAβタンパク質のようなアミロイドの検出を可能とする新しい技術を確立することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、研究を重ねた結果BSBを基本骨格としアミロイドに親和性の新規な化合物の開発に成功し、本発明を導き出したものである。
かくして、本発明に従えば、次の一般式(I)で表されるスチリルベンゼン化合物が提供される。
【0007】

【0008】
式(I)中、RおよびRは、それぞれ独立に水酸基またはカルボキシル基である。Rは、フッ素原子または臭素原子である。Rが臭素原子の場合は必ず、Rがフッ素原子の場合は随時に、α位、β位、γ位、およびδ位の炭素原子ならびにRおよびRのカルボキシル基を構成する炭素原子の少なくとも1つは炭素13である。
【0009】
本発明に従う式(I)で表わされる化合物の好ましい具体例としては、式(I)において、Rが水酸基であり、Rがカルボキシル基であり、Rがフッ素原子であるスチリルベンゼン化合物、または、式(I)において、Rが水酸基であり、Rがカルボキシル基であり、Rが臭素原子であり、α位およびβ位の炭素原子が炭素13であるスチリルベンゼン化合物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0010】
上記の一般式(I)の化合物は、アミロイドを蛍光染色することができ、したがって、本発明に従えば、一般式(I)で表される化合物から成るアミロイドの蛍光染色剤が提供される。
【0011】
さらに、上記の一般式(I)の化合物は、アミロイドに特異性を有するMRI造影剤になることもでき、したがって、本発明に従えば、一般式(I)で表される化合物から成るアミロイド特異的MRI造影剤が提供される。
なお、本発明に関連して用いられるアミロイドという語は、よく知られているように、全身性アミロイドーシスまたは局所性アミロイドーシスを招来するβシート構造(β折りたたみ構造)の二次構造から成る沈着性タンパク質を指称し、後者の局所性アミロイドーシスに属する代表例が既述のようにアルツハイマー病患者の脳に沈着するAβタンパク質によるものである。
【発明の効果】
【0012】
式(I)で表される本発明の化合物は、従来から知られたBSBと同様にアミロイドに対する親和性が高く該タンパク質を蛍光染色することができるが、それにとどまらず、アミロイドに特異性を有するMRI造影剤としても機能する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
[図1]本発明の実施例化合物(化合物1および9)を合成する反応スキームを示す。
[図2]化合物1の19F−NMRスペクトル(A)、および化合物9の13C−NMRスペクトル(B)を示す。
[図3]化合物1、化合物9およびBSBの蛍光スペクトルを示す。
[図4]アルツハイマー病患者の死後脳の側頭皮質切片(エタノール固定)の染色像であり、(A)は化合物1、(B)は化合物9、および(C)はBSBを用いて染色した場合を示す。
[図5]アルツハイマー病患者の死後脳の前頭皮質切片(エタノール固定)の染色像であり、(A)は化合物1、(B)は化合物9を用いて染色した場合を示す。
[図6]本発明に従う化合物1をアミロイド前駆体蛋白トランスジェニックマウスに投与した場合のインビボの19F−MR脳画像を示す。
[図7]19F−MRI測定したマウスの脳を摘出し固定後のH−MR脳画像を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
式(I)で表される本発明のスチリルベンゼン化合物は、種々の反応を工夫することによって合成することができる。図1は、本発明のスチリルベンゼン化合物を合成するための好ましい反応スキームを例示するものであり、略述すれば、図示のように、3位および4位が−OMeまたは−COMe(Meはメチル基)で置換されたベンズアルデヒド(図1中、8で示される化合物)と、フッ素または臭素で置換され且つ両末端にホスホン酸誘導基−P(O)(OEt)(Etはエチル基)が導入されたp−キシレン−α,α’−ジイル化合物とを反応させて、骨格となるジスチリルベンゼン構造を形成(図1中、dで示す工程)した後、逐次、脱メチル化を行うことにより式(I)の化合物が得られる。
【0015】
式(I)において、Rが臭素原子の場合、α位、β位、γ位、およびδ位の炭素原子ならびにRおよびRのカルボキシル基を構成する炭素原子の少なくとも1つは炭素13(13C)である。一方、Rがフッ素原子の場合は、必ずしもそれらの炭素原子の少なくとも1つが炭素13でなくてもよく、すなわち、α位、β位、γ位およびδ位の炭素原子ならびにRおよびRのカルボキシル基を構成する炭素原子は通常の炭素12であってもよい。このようにして得られる式(I)で表される本発明の化合物は、分子内にフッ素および/または炭素13をもち、アミロイドに特異性を有するMRI(磁気共鳴映像法)の造影剤となる点において、従来から知られたBSBにはない特徴を有する。
【0016】
さらに、式(I)で表される本発明の化合物は、BSBと同様に、脳アミロイド(Aβタンパク質)や全身性アミロイドーシスによるアミロイドに対する親和性が高く、それらのアミロイドを蛍光染色することもできる。この場合、Rがフッ素原子である式(I)は、特に蛍光強度が高く、BSBに比べて蛍光強度が約2倍増加しているものも見出されている。これは、分子内にフッ素原子をもつ化合物(I)は、BSBに比較し重原子効果による蛍光消光がなくなるためと理解される。
以下に、本発明の特徴を更に具体的に示すために実施例を記すが、本発明はこれらの実施例によって制限されるものではない。
【実施例1】
【0017】
合成例1:式(I)で表される本発明の化合物の1例として、式(I)中、Rが水酸基、Rがカルボキシル基、Rがフッ素原子である化合物1を図1に示すスキームに従って合成した。各工程における操作および得られた生成物の同定データを以下に逐次示す。
<中間体3の合成>
2,5−ジメチルアニリン(10g、82mmol)を水(30ml)に懸濁させ、濃塩酸(17ml)を少しずつ加えた。5℃程度まで冷却し、亜硝酸ナトリウム水溶液(7.0gを水10mlに溶解した溶液;101mmol)を滴下した。そのまま1時間攪拌し、不溶物を濾別、濾液にホウフッ化ソーダ(11.0g、101mmol)を加え析出したジアゾニウム塩をろ取した。これを加熱分解し、分離してきたオイルをシリカゲルカラム精製(ヘキサン)後、目的物1.51g(収率15%)を得た。無色オイル。H NMR(CDCl):δ2.22(s,3H)、2.30(s,3H)、6.79−6.83(m,2H)、7.03(t,J=8.0Hz,1H);19F−NMR(CDCl):−118.5ppm。
【0018】
<中間体4の合成>
中間体3(1.02g,8.2mmol)をクロロホルム(100ml)に溶解し、N−ブロモスクシンイミド(3.1g,17.4mmol)と2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)(10mg,0.06mmol)を加え、100分間加熱還流した。放冷後、クロロホルム層を水で洗浄し、乾燥(MgSO)、減圧濃縮した。残渣にヘキサンを加えて結晶化した。収量0.99g(収率43%)。白色結晶性粉末。H NMR(CDCl):δ4.43(s,2H)、4.49(s,2H)、7.08−7.41(m,3H);19F−NMR(CDCl):−115.9ppm;MS:m/z281(M+1)。
【0019】
<中間体5の合成>
中間体4(0.99g,3.5mmol)とトリエチルホスファイト(1.16g,7.0mmol)とを混合し、160℃で4時間加熱した。反応終了後、減圧濃縮して得られたオイルをシリカゲルカラム精製(塩化メチレン:メタノール=95:5(v/v))し、目的物1.18g(収率85%)を得た。無色オイル。H NMR(CDCl):δ1.23−1.29(m,12H)、3.11(d,J=20.3Hz,2H)、3.17(d,J=20.6Hz,2H)、3.98−4.10(m,8H)、7.04(d,J=9.9Hz,1H)、7.27−7.34(m,2H);19F−NMR(CDCI):−117.1ppm;MS:m/z397(M+1)。
【0020】
<中間体6の合成>
中間体5(1.18g,3.0mmol)を無水メタノール(5ml)に溶解し、化合物8(1.16g,6.0mmol)を加えた。0℃に冷却し、28%ナトリウムメトキサイドメタノール溶液(2ml)を滴下後、一晩加熱還流した。放冷後、沈殿をろ取した。得られた黄色固体を水(100ml)に懸濁し、1M塩酸でpH3程度にした。クロロホルムで抽出し、クロロホルム層を水洗、乾燥(MgSO)後、濃縮乾固した。シリカゲルカラム精製(クロロホル厶:酢酸エチル=9:1(v/v))後、目的物0.42g(収率30%)を得た。黄色粉末。H NMR(CDCl):δ3.93(s,6H)、3.94(s,6H)、6.94−7.26(m,8H)、7.55(t,J=7.9Hz,1H)、7.61(dd,J=9.1,2.2Hz,1H)、7.64(dd,J=9.3,2.2Hz,1H)、7.97(d,J=2.2Hz,1H)、7.98(d,J=2.2Hz,1H);19F−NMR(CDCl):−118.1ppm;MS:m/z476(M)。
【0021】
<中間体7の合成>
中間体6(0.42g,0.87mmol)を塩化メチレン(50ml)に溶解し、−78℃に冷却した。1.0M三臭化ホウ素−ジクロロメタン溶液(9ml,9.0mmol)を滴下し、室温で終夜攪拌した。氷浴で冷却し、水(30ml)を加え、さらにメタノールを約10%加え、塩化メチレン層を分取した。さらに水層を塩化メチレンで抽出した。塩化メチレン層を合わせ、乾燥(MgSO)後、減圧濃縮し、目的物0.39g(収率100%)を得た。黄色粉末。H NMR(DMSO−d):δ3.93(s,6H)、7.03(d,J=8.7Hz,1H)、7.04(d,J=8.5Hz,1H)、7.15(d,J=16.5Hz,1H)、7.16(d,J=16.5Hz,1H)、7.36(d,J=16.5Hz,1H)、7.37(d,J=16.5Hz,1H)、7.43−7.52(m,2H)、7.75−7.89(m,3H)、7.98(s,2H)、10.59(s,2H);19F−NMR(DMSO−d):−118.6ppm。
【0022】
<化合物1の合成>
中間体7(0.42g,0.94mmol)を0.06M水酸化カリウム水溶液(150ml,9.3mmol)に懸濁し、4時間加熱還流をした。6M塩酸(10ml)を少しずつ加え、pH2程度に調整した。冷却後、沈殿をろ取し、目的物0.23g(中間体6からの収率64%)を得た。黄色粉末。
mp294°C(decomp.);H NMR(DMSO−d):δ6.95(d,J=8.5Hz,1H)、6.96(d,J=8.5Hz,1H)、7.12(d,J=16.2Hz,1H)、7.13(d,J=16.5Hz,1H)、7.33(d,J=16.5Hz,1H)、7.34(d,J=16.2Hz,1H)、7.42−7.49(m,2H)、7.74−7.76(m,1H)、7.79(d,J=8.8Hz,1H)、7.80(d,J=8.8Hz,1H)、7.98(d,J=2.2Hz,1H)、8.00(d,J=2.2Hz,1H);19F NMR(DMSO−d):−118.7ppm(s);MS:m/z419(M−1);IR(KBr):3430(OH)、3025(COH)、1670(C=O)、1210、1190、955cm−1
【0023】
上記のデータおよび図2のAに示されるように、化合物1は、19F−NMRにおいて−118.5ppmに単一の大きなピークを発現しており、19F−NMRによる造影(イメージング)が可能であることが確認された。
【実施例2】
【0024】
合成例2:式(I)で表される本発明の化合物の1例として、式(I)中、Rが水酸基、Rがカルボキシル基、Rが臭素原子であり且つα位およびβ位の炭素原子が炭素13である化合物9を図1に示すスキー厶に従って合成した。各工程における操作および得られた生成物の同定データを以下に逐次示す。
【0025】
<中間体8の合成>
5−ホルミルサリチル酸(22.0g,132.4mmol)をアセトン(1.1L)に加温溶解し、炭酸カリウム(36.5g,264.1mmol)を加え、ヨウ化メチル(253.4g,1.78mol)を2時問おきに分けて加え、50℃で12時間攪拌した。放冷後、溶媒を留去し、水(200ml)を加え不溶物を濾取した。エタノール(300ml)から再結晶後、目的物16.59g(収率65%)を得た。白色針状結晶。H NMR(CDCl):δ3.93(s,3H)、4.06(s,3H)、7.12(d,J=8.7Hz,1H)、8.03(dd,J=8.5,2.2Hz,1H)、8.33(d,J=2.1Hz,1H)、9.92(s,1H)。
【0026】
<中間体11の合成>
錯体フェロセニウム・テトラキス[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]ボレートの合成は、文献(H.Kitagawa et al.,Bull.Chem.Soc.Jpn.,2002,75,339)記載の方法により、フェロセニウム・テトラフロオロボレートより収率64%で合成した。フェロセニウム・テトラキス[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]ボレート(0.49g,0.46mmol)と酸化亜鉛(0.84g,10.3mmol)を塩化メチレン(5ml)に溶解し、臭素(1.65g,10.3mmol)を加え、室温で約1時間攪拌した。p−キシレン−α,α’−13(1.0g,9.2mmol)を塩化メチレン(10ml)に溶解後、−50℃に冷却して、上記溶液を滴下した。氷浴に変えて1時間半攪拌した。酢酸エチルを加え、飽和チオ硫酸ナトリウムで洗浄した。酢酸エチル層を水で洗浄、乾燥(MgSO)後、溶媒を留去した。残渣をシリカゲルカラム精製(ヘキサン)し、目的物1.03g(収率59%)を得た。無色オイル。H NMR(CDCl):δ2.28(d,J=127.0Hz,3H)、2.33(d,J=127.0Hz,3H)、6.99(dd,J=7.7,4.1Hz,1H)、7.09(dd,J=7.7,4.7Hz,1H)、7.34(d,J=4.4Hz,1H)。
【0027】
<中間体12の合成>
中間体4と同様の方法で、中間体11より合成した(収率43%)。白色結晶性粉末。H NMR(CDCl):δ4.41(d,J=l54.0Hz,2H)、4.58(d,J=154.0Hz,2H)、7.32(ddd,J=7.7,4.7,1.7Hz,1H)、7.43(dd,J=7.7,4.7Hz,1H)、7.61(dd,J=5.5,1.7Hz,1H)。
【0028】
<中間体13の合成>
中間体5と同様の方法で、中間体12より合成した(収率94%)。黄色オイル。H NMR(CDCl):δ1.25(t,J=7.1Hz,12H)、3.08(dd,J=128.0,21.0Hz,2H)、3.37(dd,J=128.0,21.0Hz,2H)、3.98−4.09(m,8H)、7.20−7.26(m,1H)、7.39−7.43(m,1H)、7.50−7.52(m,1H)。
【0029】
<中間体14の合成>
中間体6と同様の方法で、中間体13より合成した(収率50%)。黄色粉末。H NMR(CDCl):δ3.93(s,6H)、3.94(s,6H)、6.94(dd,J=154.0,16.0Hz,1H)、6.98−7.14(m,4H)、7.43−7.45(m,1H)、7.60−7.72(m,5H)、7.97(s,1H)、7.98(s,1H)。
上記のデータおよび図2のBに示されるように、化合物9は、13C−NMRにおいて124.8ppmと125.5ppmに大きなピークを発現しており、13C−MRIによる造影(イメージング)が可能であることが確認された。なお、図2のBにおける40ppm付近のピークは溶媒(DMSO−d)のピークである。
【実施例3】
【0030】
蛍光特性の測定:実施例1で合成した化合物1および実施例2で合成した化合物9、ならびに比較のためにBSBについて蛍光スペクトルを測定した。測定に用いた装置は、
HITACHI社製F−4500である。測定濃度は、それぞれ1μM(DMSO中)とし、励起光の波長は390nmである。
図3に測定結果を示す。図3に示されるように、本発明の化合物1および9は、BSBと同様に、511nmおよび521nmにおいて強い蛍光を発現している。特に、分子内にフッ素を持つ化合物1は、BSBと比較し蛍光強度が約2倍増加している。
【実施例4】
【0031】
脳アミロイド染色:実施例1で合成した化合物1および実施例2で合成した化合物9、ならびに比較のためにBSBを用いて、脳アミロイドの染色を行った。
染色は非特許文献5(D.M.Skovronsky et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.,2000,97,7609)に記載の方法に準じて行った。すなわち、アルツハイマー病患者の死後脳(4例)を、150mM NaCl含有70%エタノール、あるいは10%中性バッファー中ホルマリン(NBF)で固定し、常法により6−μmパラフィン切片を作成した。切片を0.01%の化合物1、化合物9またはBSBの50%エタノール溶液に30分浸漬したのち、飽和炭酸リチウム水溶液に浸漬した。50%エタノールで洗浄し、蛍光顕微鏡(V励起UV光)で観察した。
図4および図5に蛍光顕微鏡で観察した染色像(写真)を示す。図4はエタノール固定した側頭皮質切片の染色像を示し、図5はエタノール固定した前頭皮質切片(準隣接切片)の染色像を示す。図4および図5の像は実際にはカラー像であり、像の特徴を明暸に示すために、発蛍光している領域をなぞったものをそれぞれの写真像の下方に併記している。本発明の化合物1および9は、老人斑を構成するAβタンパク質に親和性を有し該タンパク質を選択的に蛍光染色することが理解される。なお、図5は、化合物1および9を用いて同一のサンプルを染色したものであり、図中の同一番号は同じ場所の老人斑に由来することを示している。
【実施例5】
【0032】
この実施例は、式(I)で表わされる本発明の化合物がアミロイド特異的なMRI造影剤として機能することを示すものである。実施例1で合成した化合物1(以下、本実施例ではFSBと称する)を用いて以下のようにMRI測定を行なった。
アミロイド前駆体蛋白トランスジェニックマウス(Tg2576。作製法についてはK.Hsiao他、Science,274,99(1996)に記載されている)に麻酔をかけ、20mg/kgの用量で0.2%FSB、10%DMSOをふくむPBS 500μlを150分かけて尾静脈より投与した。3時間後にマウス頭部の19F−MRIスキャンをin vivo(マウスが生きた状態)で施行した。19F−MRの脳画像は3D−RARE(3D spin echo Rapid Acquisition with Relaxation Enhancement)によって得た。なお、用いたMRI装置は、Bruker AVANCE 400WB imaging spectrometer(Bruker BioSpin GmbH製)である。
得られた19F−MRの脳画像写真を図6(1)に示す。老人班と推定される斑点が19F−MR画像で高信号領域として検出された(図6(1)中の白い斑点状部分)。なお、図6(1)は実際にはカラー像であり、上記斑点状部分は鮮明な赤色発光部分として観察される。図6(2)は、図6(1)の理解を容易にするため、図6(1)の写真を手でなぞって示したものである。
【0033】
さらに、上記のように、19F−MRIスキャンしたマウスの脳を摘出し、4%パラホルムアルデヒドで終夜固定後、3%水性アガロースゲルで包埋し、T2−強調RAREH−MR画像を得た。得られたH−MRの脳画像写真を図7(1)に示す。なお、図7(2)は、図7(1)の理解を容易にするため、図7(1)の写真を手でなぞって示したものである。図7に示されるように、H−MRIによっても、図6に対応する部分(図6および図7で矢頭で示される部分)にT2強調画像信号が得られており、図6に示す斑点状部分が老人斑であることが理解される。さらに、脳の部位によってはin vivoの19F−MRIが死後脳のH−MRI以上に高感度で老人斑を検出しうることが示された(例えば、図6の円内部分)。また、上記のようにMRI測定をした脳を凍結し、40μm厚の凍結切片を作成し、蛍光顕微鏡でFSBの脳内分布を観察したところ、図6に示されるような19F−MRIで見出された異常部分(斑点状部分)は、形態上老人斑と確定できる病変にFSBが集積した結果検出されたことが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の化合物は、全身性アミロイドーシスおよび局所性アミロイドーシスに由来するアミロイドの蛍光染色剤として、アルツハイマー病に代表されるアミロイドが関連する疾病の病理組織検査などに利用することができる。
さらに、本発明の化合物は、アミロイドに特異性を有するMRI造影剤としても機能するので、医療機関に広く普及しているMRIを用いる簡便な方法として、アルツハイマー病をはじめとするアミロイド相関性疾病の生前診断にも利用することができる。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の一般式(I)で表されるスチリルベンゼン化合物。

〔式(I)中、RおよびRは、それぞれ独立に水酸基またはカルボキシル基であり、Rは、フッ素原子または臭素原子であり、Rが臭素原子の場合は必ず、Rがフッ素原子の場合は随時に、α位、β位、γ位、およびδ位の炭素原子ならびにRおよびRのカルボキシル基を構成する炭素原子の少なくとも1つは炭素13である。〕
【請求項2】
式(I)において、Rが水酸基であり、Rがカルボキシル基であり、Rがフッ素原子である請求項1のスチリルベンゼン化合物。
【請求項3】
式(I)において、Rが水酸基であり、Rがカルボキシル基であり、Rが臭素原子であり、α位およびβ位の炭素原子が炭素13である請求項1のスチリルベンゼン化合物。
【請求項4】
請求項1の一般式(I)で表される化合物から成るアミロイドの蛍光染色剤。
【請求項5】
請求項1の一般式(I)で表される化合物から成るアミロイド特異的MRI造影剤。

【国際公開番号】WO2005/042461
【国際公開日】平成17年5月12日(2005.5.12)
【発行日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−515170(P2005−515170)
【国際出願番号】PCT/JP2004/016101
【国際出願日】平成16年10月29日(2004.10.29)
【特許番号】特許第3877754号(P3877754)
【特許公報発行日】平成19年2月7日(2007.2.7)
【出願人】(590005081)株式会社同仁化学研究所 (9)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【Fターム(参考)】