説明

アリサイクロバチルス(Alicyclobacillus)属細菌の同定方法

【課題】 A. acidoterrestris以外のAlicyclobacillus属細菌の迅速かつ簡便な同定方法を提供すること。
【解決手段】 gyrB遺伝子中における各Alicyclobacillus属細菌に特徴的な領域の塩基配列に基づいて、核酸増幅反応におけるフォワードプライマーとリバースプライマーを設計し、細菌由来の予測される分子量の断片だけが増幅させるか否かを判定することで行うことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、果汁入り飲食品をはじめとする各種飲食品やその原材料についてのアリサイクロバチルス(Alicyclobacillus)属細菌による汚染の有無を迅速かつ簡便に検査する場合などに適した当該細菌の同定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
1982年に、無菌充填された透明リンゴ果汁飲料が製品の保存・流通時に異臭と濁りを伴って変敗するといった事故が西ドイツで起こった。これは、現在、アリサイクロバチルス・アシドテレストリス(Alicyclobacillus acidoterrestris)(以下、A. acidoterrestrisとも記載する)として知られている細菌が市販の飲料で引き起こした初めての変敗事例である(Cerny et al., 1984)。その後、アメリカ、オーストラリア、ブラジルなど、様々な国でこの細菌に関する報告がされてきている。日本では1991年に丹羽らによって報告された輸入透明リンゴ果汁から分離された耐熱性好酸性菌(後に新種A. maliとして報告されている)を皮切りに(丹羽ら、1991)、アリサイクロバチルス(Alicyclobacillus)属細菌による変敗、分離、制御、検出などに関する報告が幾つかされてきている。1990年代後半までは、それほどAlicyclobacillus属細菌が問題視されることは多くなかったが、近年、特に日本を中心としてAlicyclobacillus属細菌による汚染の問題がクローズアップされてきている。その理由としては諸説有るが、少なくとも検査法や分析技術の向上によりAlicyclobacillus属細菌の汚染が表面化してきたこと、およびこれまで以上に安全な製品を提供したいといった意識の高まりによるものであることは間違いのないことである。このような背景のもと、食品、特に飲料メーカーを中心としてAlicyclobacillus属細菌対策に着手してきており、各社の汚染事故防止に効果を挙げてきている。しかしながら、業界としてみれば相変わらずAlicyclobacillus属細菌に悩まされており、一刻も早い汚染防止策の確立が待ち望まれている。また、ここ数年の内にAlicyclobacillus属細菌に関する情報が多数蓄積され、変敗の主原因である異臭(グアイアコール)を産生する菌種がアリサイクロバチルス・アシディフィルス(A. acidiphilus)、A. acidoterrestrisおよびアリサイクロバチルス・ハーバリウス(A. herbarius)であることが分かってきている。
【0003】
Alicyclobacillus属細菌は、これまでに8種(1亜種および2遺伝種)が正式に認められており、いずれも温度域20〜70℃(至適生育温度:40〜60℃)、pH域2〜6(至適生育pH3.5〜4.5)で生育することができる。絶対好気性であるが、微量の酸素でも生育することができる。しかしながら、これら以外の性状に関しては、菌種レベルあるいは菌株レベルで非常に性状が異なり、種レベルでの共通性状を見いだすことは難しく(多くのバラエティーが存在する)、このようなバラエティーの多さは本属細菌を同定することが難しいことを如実に物語っている。
【0004】
他方、Alicyclobacillus属細菌は土壌を主な生息域としているが、二次汚染的に果実、液糖、ハーブなどから分離されてきている。分離される頻度としてはA. acidocaldariusとアリサイクロバチルス・ゲノミック・スピーシーズ(Alicyclobacillus genomic species)が最も多く(これらはA. acidocaldariusのメンバー菌種である)、次いでA. acidoterrestrisで、その他は極めて低い頻度である。しかしながら、上記三種をはじめとしてAlicyclobacillus属細菌の生息域は基本的に同じと考えられており、複数の菌種が入り交じった状態で生息(存在)するものと考えられている。従って、食品の品質管理・保証を適切に実施するためには、まず異臭を産生する最重要有害菌種であるA. acidoterrestrisをその他のAlicyclobacillus属細菌と区別できる方法が必要不可欠であった。
【0005】
このような背景のもと、下記の特許文献1には、16S rDNA塩基配列の部分領域を用いてAlicyclobacillus属細菌を同定する手法が記載されている。本手法では、Alicyclobacillus属細菌の部分16S rDNA塩基配列を決定し、データベースとの相同性検索によって菌種を決定する。しかしながら、本手法は幅広い細菌に応用することを目的としているため、結果を得るために数日要し、また高額かつ特殊な機械を必要とするため、迅速性が求められる品質管理の現場では活用が難しいのが現状である。
【0006】
これまでに得られた諸知見から、16S rDNAは菌種間の類似性が比較的高く(図29と図30)、諸因子の影響で誤判定を引き起こす可能性が示唆されていたため、本発明者らは、より変異率が高いAlicyclobacillus属細菌のDNAジャイレースのβサブユニットをコードしているgyrB遺伝子に着目し、検討を行った(図31と図32)。その結果、gyrB遺伝子上にA. acidoterrestrisに特徴的な領域が見出され、これらの領域をPCRプライマーとしてPCR反応を行うことにより、A. acidoterrestrisとその他のAlicyclobacillus属細菌を鑑別することが可能であることを明らかにして特許出願を行った(特願2003-204980号)。さらに、近年、栄研化学株式会社より開発されたPCRに代わる増幅法であるLAMP法(Loop-Mediated Isothermal Amplification)にA. acidoterrestrisに特異的な領域を応用したところ、その特異領域に基づき設計されたLAMP法プライマーはA. acidoterrestrisにのみ反応することが分かり、安価、迅速、簡易、正確なA. acidoterrestrisの鑑別法として特許出願を行った(特願2004-280657号)。
【0007】
以上のようにして、最重要有害菌種であるA. acidoterrestrisの鑑別法は提供され、本種による異臭発生などの汚染事故には迅速に対応できるようになったが、食品やその原料からはA. acidoterrestris以外の菌種のほうが一般的に高頻度に検出される。より安全性を追求した高度な品質管理を実現するためには、A. acidoterrestris以外の菌種についても追跡調査をする必要があり、そのような場面ではA. acidoterrestrisの鑑別法だけでは不十分であり、その他のAlicyclobacillus属細菌の正確な鑑別が必要不可欠である。
【特許文献1】特開平11−137259号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで本発明は、A. acidoterrestris以外のAlicyclobacillus属細菌の迅速かつ簡便な同定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の点に鑑み、本発明者らは、今回、A. acidoterrestris以外の菌種についても迅速な鑑別方法を構築するため、A. acidoterrestrisを除く菌種由来gyrB遺伝子の塩基配列を決定し、種内および種間で相同性解析を実施した。その結果、A. acidoterrrestrisの場合と同様に、gyrB遺伝子の塩基配列はそれぞれの種において極めて高度に保存されており、また、それぞれの種に特徴的な領域も複数見出すことができた。次に、これらの特徴的な領域の塩基配列に基づいて、核酸増幅反応におけるフォワードプライマーとリバースプライマーを設計し、Alicyclobacillus属細菌由来のDNAを用いて核酸増幅を行い、その反応産物を電気泳動で解析した。その結果、設計したPCRプライマーセットは、その由来となった菌種に対してのみ、予測される分子量の断片だけを増幅させることが確認できた。
【0010】
上記の知見に基づいてなされた本発明のアリサイクロバチルス(Alicyclobacillus)属細菌の同定方法は、請求項1記載の通り、細菌のDNAを調製し、調製されたDNAを鋳型として、配列番号1に記載のオリゴヌクレオチドをフォワードプライマーに、配列番号2に記載のオリゴヌクレオチドをリバースプライマーに用いた核酸増幅を行い、増幅産物が認められた場合に、同定対象となる細菌が、アリサイクロバチルス・アシドカルダリウス(A. acidocaldarius)であると同定することを特徴とする。
また、本発明のアリサイクロバチルス(Alicyclobacillus)属細菌の同定方法は、請求項2記載の通り、細菌のDNAを調製し、調製されたDNAを鋳型として、配列番号3に記載のオリゴヌクレオチド,配列番号4に記載のオリゴヌクレオチドから選ばれる少なくとも1つをフォワードプライマーに、配列番号5に記載のオリゴヌクレオチド,配列番号6に記載のオリゴヌクレオチドから選ばれる少なくとも1つをリバースプライマーに用いた核酸増幅を行い(但し、配列番号4に記載のオリゴヌクレオチドと配列番号5に記載のオリゴヌクレオチドの組み合わせは除く)、増幅産物が認められた場合に、同定対象となる細菌が、アリサイクロバチルス・ゲノミック・スピーシーズ1(A. genomic species 1)であると同定することを特徴とする。
また、本発明のアリサイクロバチルス(Alicyclobacillus)属細菌の同定方法は、請求項3記載の通り、細菌のDNAを調製し、調製されたDNAを鋳型として、配列番号7に記載のオリゴヌクレオチド,配列番号8に記載のオリゴヌクレオチドから選ばれる少なくとも1つをフォワードプライマーに、配列番号9に記載のオリゴヌクレオチド,配列番号10に記載のオリゴヌクレオチドから選ばれる少なくとも1つをリバースプライマーに用いた核酸増幅を行い(但し、配列番号8に記載のオリゴヌクレオチドと配列番号9に記載のオリゴヌクレオチドの組み合わせは除く)、増幅産物が認められた場合に、同定対象となる細菌が、アリサイクロバチルス・アシドカルダリウス(A. acidocaldarius),アリサイクロバチルス・ゲノミック・スピーシーズ1(A. genomic species 1),アリサイクロバチルス・ゲノミック・スピーシーズ2(A. genomic species 2),アリサイクロバチルス・センダイエンシス(A. sendaiensis),アリサイクロバチルス・アシドカルダリウス・サブスピーシーズ・リットマンニイ(A. acidocaldarius subsp. rittmannii)のいずれかであると同定することを特徴とする。
また、本発明のアリサイクロバチルス(Alicyclobacillus)属細菌の同定方法は、請求項4記載の通り、細菌のDNAを調製し、調製されたDNAを鋳型として、配列番号11に記載のオリゴヌクレオチド,配列番号12に記載のオリゴヌクレオチド,配列番号13に記載のオリゴヌクレオチドから選ばれる少なくとも1つをフォワードプライマーに、配列番号14に記載のオリゴヌクレオチド,配列番号15に記載のオリゴヌクレオチド,配列番号16に記載のオリゴヌクレオチドから選ばれる少なくとも1つをリバースプライマーに用いた核酸増幅を行い(但し、配列番号13に記載のオリゴヌクレオチドと配列番号14に記載のオリゴヌクレオチドの組み合わせは除く)、増幅産物が認められた場合に、同定対象となる細菌が、アリサイクロバチルス・ハーバリウス(A. herbarius)であると同定することを特徴とする。
また、本発明のアリサイクロバチルス(Alicyclobacillus)属細菌の同定方法は、請求項5記載の通り、細菌のDNAを調製し、調製されたDNAを鋳型として、配列番号17に記載のオリゴヌクレオチド,配列番号18に記載のオリゴヌクレオチド,配列番号19に記載のオリゴヌクレオチドから選ばれる少なくとも1つをフォワードプライマーに、配列番号20に記載のオリゴヌクレオチド,配列番号21に記載のオリゴヌクレオチド,配列番号22に記載のオリゴヌクレオチドから選ばれる少なくとも1つをリバースプライマーに用いた核酸増幅を行い(但し、配列番号19に記載のオリゴヌクレオチドと配列番号20に記載のオリゴヌクレオチドの組み合わせは除く)、増幅産物が認められた場合に、同定対象となる細菌が、アリサイクロバチルス・アシディフィルス(A. acidiphilus)であると同定することを特徴とする。
また、本発明のアリサイクロバチルス(Alicyclobacillus)属細菌の同定方法は、請求項6記載の通り、細菌のDNAを調製し、調製されたDNAを鋳型として、配列番号23に記載のオリゴヌクレオチド,配列番号24に記載のオリゴヌクレオチドから選ばれる少なくとも1つをフォワードプライマーに、配列番号25に記載のオリゴヌクレオチド,配列番号26に記載のオリゴヌクレオチド,配列番号27に記載のオリゴヌクレオチドから選ばれる少なくとも1つをリバースプライマーに用いた核酸増幅を行い(但し、配列番号24に記載のオリゴヌクレオチドと配列番号25に記載のオリゴヌクレオチドの組み合わせは除く)、増幅産物が認められた場合に、同定対象となる細菌が、アリサイクロバチルス・シクロヘプタニカス(A. cycloheptanicus)であると同定することを特徴とする。
また、本発明のアリサイクロバチルス(Alicyclobacillus)属細菌の同定方法は、請求項7記載の通り、細菌のDNAを調製し、調製されたDNAを鋳型として、配列番号28に記載のオリゴヌクレオチド,配列番号29に記載のオリゴヌクレオチド,配列番号30に記載のオリゴヌクレオチドから選ばれる少なくとも1つをフォワードプライマーに、配列番号31に記載のオリゴヌクレオチド,配列番号32に記載のオリゴヌクレオチド,配列番号33に記載のオリゴヌクレオチドから選ばれる少なくとも1つをリバースプライマーに用いた核酸増幅を行い、増幅産物が認められた場合に、同定対象となる細菌が、アリサイクロバチルス・ポモラム(A. pomorum)であると同定することを特徴とする。
また、本発明のアリサイクロバチルス(Alicyclobacillus)属細菌の同定方法は、請求項8記載の通り、細菌のDNAを調製し、調製されたDNAを鋳型として、配列番号34に記載のオリゴヌクレオチド,配列番号35に記載のオリゴヌクレオチド,配列番号36に記載のオリゴヌクレオチドから選ばれる少なくとも1つをフォワードプライマーに、配列番号37に記載のオリゴヌクレオチド,配列番号38に記載のオリゴヌクレオチド,配列番号39に記載のオリゴヌクレオチド,配列番号40に記載のオリゴヌクレオチドから選ばれる少なくとも1つをリバースプライマーに用いた核酸増幅を行い(但し、配列番号35に記載のオリゴヌクレオチドと配列番号38に記載のオリゴヌクレオチドの組み合わせ、および、配列番号35に記載のオリゴヌクレオチドと配列番号39に記載のオリゴヌクレオチドの組み合わせは除く)、増幅産物が認められた場合に、同定対象となる細菌が、アリサイクロバチルス・ヘスペリダム(A. hesperidum)であると同定することを特徴とする。
また、本発明の請求項1乃至8のいずれかに記載のアリサイクロバチルス(Alicyclobacillus)属細菌の同定方法を実施するためのキットは、請求項9記載の通り、各Alicyclobacillus属細菌に応じたフォワードプライマーとリバースプライマーを少なくとも含んでなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、A. acidoterrestris以外のAlicyclobacillus属細菌として、A. acidocaldariusA. genomic species 1,A. acidocaldariusグループ(A. acidocaldariusA. genomic species 1,A. genomic species 2,A. sendaiensisA. acidocaldarius subsp. rittmannii),A. herbariusA. acidiphilusA. cycloheptanicusA. pomorumA. hesperidumを迅速かつ簡便に同定することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明のAlicyclobacillus属細菌の同定方法において、同定対象となる細菌のDNAを調製する方法は特段制限されるものではなく、自体公知の方法で調製することができる。もちろん市販のDNA抽出キットを用いて調製してもよい。核酸増幅を行う際に用いるフォワードプライマーとリバースプライマーの組み合わせが複数存在する場合、核酸増幅はそのうちのいずれかの組み合わせにて行えばよいが、より精度の高い結果を得るためには、核酸増幅は複数のフォワードプライマーとリバースプライマーの組み合わせにて行うことが望ましい。また、複数のフォワードプライマーおよび/または複数のリバースプライマーを1度に組み合わせて核酸増幅を行ってもよい。プライマーは、自体公知の方法で化学合成してもよいし、設計の由来となった菌種の遺伝子から制限酵素などを利用して直接切り出すことも可能であり、また、それらの遣伝子をE. coliなどのプラスミドにクローニングし、細菌の増殖の後にプラスミドを回収し、切り出して利用することも可能である。核酸増幅に用いるDNAポリメラーゼや反応条件は特段制限されるものでない。本発明においてプライマーとして用いるオリゴヌクレオチドは、自体公知の種々の核酸増幅方法を利用するのに十分な長さを有するので、Alicyclobacillus属細菌の同定を短時間で精度よく行うことができる。核酸増幅を変性・アニーリング・伸長の三工程で行う場合、温度サイクル条件としては、例えば、90℃〜96℃で1秒〜60秒→50℃〜70℃で1秒〜120秒→65℃〜75℃で1秒〜120秒といった条件を標準的な条件として挙げることができるが、この条件に限定されるものではない。所定の断片長を有する増幅産物の有無は、例えば、Agilent 2100 Bioanalyzer (Agilent Technologies)を用いた電気泳動により行えばよいが、この方法に限定されるものではない。
【0013】
本発明は、果汁入り飲食品をはじめとする各種飲食品やその原材料についてのAlicyclobacillus属細菌による汚染の有無を迅速かつ簡便に検査する場合に適したものであるが、この場合、本発明が適用される飲食品やその原材料は、Alicyclobacillus属細菌に汚染される可能性のあるものであれば特に制限されるものではない。飲食品としては、例えば、酸性飲食品が挙げられる。ここで酸性飲食品とはpH5.5以下の食品および飲料を意味する。酸性飲食品の代表例としては、果汁入り飲食品が挙げられる。ここで果汁入り飲食品とは果汁が最終濃度として0.01重量%以上含まれる食品および飲料を意味し、100%果汁飲料を含む果汁入り清涼飲料、果汁入りのゼリーやヨーグルトやガムや飴などが例示される。果汁入り飲食品の原材料としては、原果汁が挙げられるが、これは、例えば、果実から搾取した果汁またはその水分を除去して濃縮したものであり、濃縮果汁還元して使用されたりするものである。代表的に例示される果汁としては、オレンジ果汁、アップル果汁、グレープフルーツ果汁、グレープ果汁、パイン果汁、レモン果汁、ピーチ果汁、ベリー果汁、マンゴ果汁などが挙げられる。酸性飲食品としては、果汁入り飲食品の他にも、炭酸飲料、果実飲料、酸性紅茶飲料、スポーツ飲料、トマトジュースや人参ジュースなどの各種野菜ジュース、栄養ドリンク、乳性飲料、ヨーグルト、果肉入りゼリー、リキュール、ジャム、マーマレード、ドレッシングなどが挙げられる。酸性飲食品の原材料としては、果実や野菜の他にも、糖類(ブドウ糖や果糖などの単糖類、砂糖や麦芽糖などの二糖類、果糖・ブドウ糖液糖、デキストリン、各種オリゴ糖、蜂蜜、糖アルコールなど)、酸味料、着色料、香料、増粘多糖類、ゲル化剤、脱脂粉乳、加糖乳糖、乳酸菌飲料、発酵乳、ビタミン類などが挙げられる。また、穀類、いも及びでんぷん類、豆類、種実類、茶類、きのこ類、藻類、魚介類、肉類、卵類、乳類、油脂類、菓子類、し好飲料類、調味料及び香辛料類、調味加工食品などの飲食品や、これら飲食品の中で原材料を使用して製造されるものにおける当該原材料が検査対象となることができる。
【0014】
なお、本発明が適用される検査対象は、飲食品やその原材料に限定されるものではなく、Alicyclobacillus属細菌が生息しうるものであれば、例えば、土壌などであってもよい。
【0015】
本発明はまた、Alicyclobacillus属細菌の同定用キットを提供する。このキットは、フォワードプライマーとリバースプライマーを少なくとも含んでなるものであるが、その他に、DNAポリメラーゼ、dATP,dCTP,dTTP,dGTPの各溶液、バッファーなどを含んでいてもよい。
【実施例】
【0016】
以下、実施例をあげて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の記載に限定して解釈されるものではない。
【0017】
実施例1:
1.実験方法
(1)実験に用いた菌株について
A. herbarius(グアイアコール産生菌種):IAM 14883T,5A239-2O-her
A. acidocaldarius:ATCC 27009T,HP2,DSM 11297T,DSM 448,DSM 451,B2011,3B,SO6
A. hesperidum:DSM 12489T,DSM 12766
A. acidiphilus(グアイアコール産生菌種):IAM 14935T(=TA-67T
A. acidoterrestris(グアイアコール産生菌種):ATCC 49025T
A. pomorum:IAM 14988T(=3AT
A. cycloheptanicus:DSM 4006T,DSM 4005,DSM 4007
Alicyclobacillus genomic species 1:DSM 11983,DSM 11984,DSM 454,B2027,B2008,P2,B2071,B2001,DSM 6481
A. sendaiensis:JCM 11817T
Alicyclobacillus genomic species 2:IAM 14934
Alicyclobacillus sp.(グアイアコール産生菌種):DSM 11985
Alicyclobacillus sp.:B2073
Sulfobacillus disulfidooxidans:DSM 12064T
【0018】
(2)菌株の培養条件について
菌株は全てYSG寒天培地あるいはYSG液体培地を用いて培養した。培養期間は2〜5日、培養温度は45〜60℃である。YSG培地の詳細は次の通りである。
組成A:酵母エキス(DIFCOまたはMERCK)0.2g、可溶性デンプン(DIFCOまたはMERCK)0.2gおよびグルコース(和光特級)0.1gを水50mlに溶解し2N硫酸(和光)または1/10N硫酸(和光)でpH3.7±0.1に調整する(pHが下がりすぎた場合4%NaOHで調整する。)。その後、高圧滅菌する(121℃ 15min)。
組成B:寒天(DIFCOまたはMERCK)1.5gを水50mlに溶解し高圧滅菌する(121℃で15min間)。
組成Aと組成Bを混合し、90mm径プレートに約20ml流し込み固化させて寒天培地とする。液体培地の場合には組成Aを更に水で2倍に希釈し、高圧滅菌する。
【0019】
(3)菌株のDNA調製について
菌株のDNA調製は、High Pure PCR Template Preparation Kit (Roche)を用いて行った。方法はキット添付の方法に準じた。
【0020】
(4)菌株の部分gyrB遺伝子の塩基配列の決定および解析について
菌株の部分gyrB遺伝子の増幅は山本&原山の方法で行った(Yamamoto, S. & Harayama, S.(1995). PCR amplification and direct sequencing of gyrB genes with universal primers and their application to the detection and taxonomic analysis of Pseudomonas putida strains. Appl Environ Microbiol 61, 1104-1109.)。増幅用プライマーは配列番号41で示されるUP-1G(forward)と配列番号42で示されるUP-2r(reverse)を用いた。増幅した目的の断片は0.8% low-melting-point agarose(SeaPlaque GTG; FMC Bioproducts)を用いて電気泳動し、目的のバンド部分をナイフで切り取った。このアガロースゲル片からQIAquick gel extraction kit(QIAGEN)を用いて目的の増幅産物を回収した。回収したPCR産物を鋳型とし、配列番号43で示されるUP-1S(forward:positions 274-296)、配列番号44で示されるgyrS-2F(reverse:positions 577-599)、配列番号45で示されるgyr-Int-R(reverse:positions 1021-1040)、配列番号46で示されるgyrS-4R(reverse:positions 1177-1199)および配列番号47で示されるUP-2rS(reverse:positions 1507-1529)のシークエンスプライマーとABI PRISM Dye Terminator Cycle Sequencing Kitを用いてシークエンス反応を行った(ナンバリングはE. coligyrB遺伝子の番号に準ずる)。反応産物の精製はAutoSeq G-50(Amersham Biosciences)を用いて行った。精製反応産物の塩基配列はABI PRISM 3100 Genetic Analyzer System(Applied Biosystems)を用いて決定した。決定した塩基配列の解析はGene Works(version 2.0, IntelliGenetics, Inc.)およびCLUSTAL W version 1.8(Thompson, J. D., Higgins, D. G. & Gibson, T. J.(1994). CLUSTAL W: Improving the sensivity of progressive multiple sequence weighing, position-specific gap penalties and weight matrix choice. Nucleic Acid Res 76, 4350-4354.)を用いて行った。
【0021】
(5)PCR反応条件
設計した各Alicyclobacillus属細菌特異プライマーの検定のために、各種菌株由来DNAを用い、PCRを行った(PCR条件の詳細は各図の注釈に記載の通り)。PCR産物の電気泳動はAgilent 2100 Bioanalyzer (Agilent Technologies)を用いて行った。
【0022】
2.実験結果
(1)A. acidocaldarius
A. acidocaldariusについてgyrB遺伝子の塩基配列を決定し、種内および種間で相同性解析を実施した。その結果、gyrB遺伝子はA. acidocaldariusにおいて高度に保存されていることが分かった。また、gyrB遺伝子の5’末端側および中流域にA. acidocaldariusに特徴的な領域が見出された(図1のATCC 27009Tの塩基配列における下線領域)。次に、これらの領域に基づいて設計した、配列番号1で示されるフォワードプライマーGC-F1-2と配列番号2で示されるリバースプライマーGC-R2を、PCRプライマーセットとして用いて、Alicyclobacillus属細菌由来のDNAを鋳型としてPCR反応を行った。その結果、A. acidocaldarius以外の菌種においてはPCRによる増幅が見られず、A. acidocaldariusにのみ推定される約560bpのPCR産物が見出された(図2)。従って、このPCRプライマーセットを用いることによりA. acidocaldariusを検出することが可能であることが示された。
ATCC 27009TgyrB遺伝子の塩基配列を配列番号48に、HP2のgyrB遺伝子の塩基配列を配列番号49にアミノ酸配列を配列番号50に、DSM 448のgyrB遺伝子の塩基配列を配列番号51にアミノ酸配列を配列番号52に、DSM 451のgyrB遺伝子の塩基配列を配列番号53にアミノ酸配列を配列番号54に、B2011のgyrB遺伝子の塩基配列を配列番号55にアミノ酸配列を配列番号56に、3BのgyrB遺伝子の塩基配列を配列番号57にアミノ酸配列を配列番号58に、SO6のgyrB遺伝子の塩基配列を配列番号59にアミノ酸配列を配列番号60に示す。
【0023】
(2)Alicyclobacillus genomic species 1
Alicyclobacillus genomic species 1についてgyrB遺伝子の塩基配列を決定し、種内および種間で相同性解析を実施した。その結果、gyrB遺伝子はAlicyclobacillus genomic species 1において高度に保存されていることが分かった。また、gyrB遺伝子の5’末端側に1箇所、および中流域に2箇所、Alicyclobacillus genomic species 1に特徴的な領域が見出された(図3のDSM 11983の塩基配列における下線領域)。次に、これらの領域に基づいて設計した、配列番号3で示されるフォワードプライマーGG1-F1と配列番号5で示されるリバースプライマーGG1-R4、および、配列番号4で示されるフォワードプライマーGG1-F4と配列番号6で示されるリバースプライマーGG1-R5を、PCRプライマーセットとして用いて、Alicyclobacillus属細菌由来のDNAを鋳型としてPCR反応を行った。その結果、Alicyclobacillus genomic species 1以外の菌種においてはPCRによる増幅が見られず、Alicyclobacillus genomic species 1にのみ推定される約520bpおよび約165bpのPCR産物が見出された(図4)。従って、このPCRプライマーセットを用いることによりAlicyclobacillus genomic species 1を検出することが可能であることが示された。
DSM 11983のgyrB遺伝子の塩基配列を配列番号61にアミノ酸配列を配列番号62に、DAM 454のgyrB遺伝子の塩基配列を配列番号63にアミノ酸配列を配列番号64に、B2027のgyrB遺伝子の塩基配列を配列番号65にアミノ酸配列を配列番号66に、B2008のgyrB遺伝子の塩基配列を配列番号67にアミノ酸配列を配列番号68に、P2のgyrB遺伝子の塩基配列を配列番号69にアミノ酸配列を配列番号70に、B2071のgyrB遺伝子の塩基配列を配列番号71にアミノ酸配列を配列番号72に、B2001のgyrB遺伝子の塩基配列を配列番号73にアミノ酸配列を配列番号74に、DSM 6481のgyrB遺伝子の塩基配列を配列番号75にアミノ酸配列を配列番号76に示す。
【0024】
(3)A. acidocaldariusグループ(A. acidocaldariusAlicyclobacillus genomic species 1および2,A. sendaiensisおよびA. acidocaldarius subsp. rittmannii
A. acidocaldariusおよびAlicyclobacillus genomic species 1に近縁であまり分離されない種(Alicyclobacillus genomic species 2,A. sendaiensisおよびA. acidocaldarius subsp. rittmannii)について、A. acidocaldariusグループとしてA. acidocaldariusおよびAlicyclobacillus genomic species 1とともに検出できる系を構築するため、それぞれの菌株についてgyrB遺伝子の塩基配列を決定し、グループ内および種間で相同性解析を実施した。その結果、gyrB遺伝子はA. acidocaldariusグループにおいて比較的高度に保存されていることが分かった。また、gyrB遺伝子の中流域に3箇所、A. acidocaldariusグループに特徴的な領域が見出された(図5のATCC 27009Tの塩基配列における下線領域)。次に、これらの領域に基づいて設計した、配列番号7で示されるフォワードプライマーGcg-F2と配列番号9で示されるリバースプライマーGcg-R3、および、配列番号8で示されるフォワードプライマーGcg-F3と配列番号10で示されるリバースプライマーGcg-R4を、PCRプライマーセットとして用いて、Alicyclobacillus属細菌由来のDNAを鋳型としてPCR反応を行った。その結果、A. acidocaldariusグループ以外の菌種においてはPCRによる増幅が見られず、A. acidocaldariusグループにのみ推定される約160bpおよび約150bpのPCR産物が見出された(図6)。従って、このPCRプライマーセットを用いることによりA. acidocaldariusグループを検出することが可能であることが示された。
A. sendaiensis JCM 11817TgyrB遺伝子の塩基配列を配列番号77にアミノ酸配列を配列番号78に示す。
【0025】
(4)A. herbarius
A. herbariusについてgyrB遺伝子の塩基配列を決定し、種内および種間で相同性解析を実施した。その結果、gyrB遺伝子はA. herbariusにおいて高度に保存されていることが分かった。また、gyrB遺伝子の5’末端側から中流域にかけて6箇所、A. herbariusに特徴的な領域が見出された(図7のIAM 14883Tの塩基配列における下線領域)。次に、これらの領域に基づいて設計した、配列番号11で示されるフォワードプライマーGHER-F1と配列番号14で示されるリバースプライマーGHER-R4、配列番号12で示されるフォワードプライマーGHER-F2とGHER-R4、GHER-F2と配列番号15で示されるリバースプライマーGHER-R5、GHER-F2と配列番号16で示されるリバースプライマーGHER-R6、配列番号13で示されるフォワードプライマーGHER-F3とGHER-R5、および、GHER-F3とGHER-R6を、PCRプライマーセットとして用いて、Alicyclobacillus属細菌由来のDNAを鋳型としてPCR反応を行った。その結果、A. herbarius以外の菌種においてはPCRによる増幅が見られず、A. herbariusにのみ推定される約200bp,約105bp,約275bp,約450bp,約205bpおよび約370bpのPCR産物が見出された(図8〜図10)。従って、このPCRプライマーセットを用いることによりA. herbariusを検出することが可能であることが示された。
IAM 14883TgyrB遺伝子の塩基配列を配列番号79に、5A239-2O-herのgyrB遺伝子の塩基配列を配列番号80にアミノ酸配列を配列番号81に示す。
【0026】
(5)A. acidiphilus
A. acidiphilus基準株についてgyrB遺伝子の塩基配列を決定し、種間での相同性解析を実施した。その結果、gyrB遺伝子の中流域に5箇所、A. acidiphilusに特徴的な領域が見出された(図11のIAM 14935Tの塩基配列における下線領域)。次に、これらの領域に基づいて設計した、配列番号18で示されるフォワードプライマーGACI-F3と配列番号20で示されるリバースプライマーGACI-R4、GACI-F3と配列番号21で示されるリバースプライマーGACI-R5、配列番号19で示されるフォワードプライマーGACI-F4と配列番号22で示されるリバースプライマーGACI-R6、配列番号17で示されるフォワードプライマーGACI-F2とGACI-R4、GACI-F2とGACI-R6、および、GACI-F3とGACI-R6を、PCRプライマーセットとして用いて、Alicyclobacillus属細菌由来のDNAを鋳型としてPCR反応を行った。その結果、A. acidiphilus以外の菌種においてはPCRによる増幅が見られず、A. acidiphilusにのみ推定される約260bp,約415bp,約340bp,約380bp,約700bpおよび約580bpのPCR産物が見出された(図12〜図14)。従って、このPCRプライマーセットを用いることによりA. acidiphilusを検出することが可能であることが示された。
IAM 14935TgyrB遺伝子の塩基配列を配列番号82に示す。
【0027】
(6)A. cycloheptanicus
A. cycloheptanicusについてgyrB遺伝子の塩基配列を決定し、種内および種間で相同性解析を実施した。その結果、gyrB遺伝子はA. cycloheptanicusにおいて高度に保存されていることが分かった。また、gyrB遺伝子の中流域から3’末端側にかけて3箇所、A. cycloheptanicusに特徴的な領域が見出された(図15のDSM 4006Tの塩基配列における下線領域)。次に、これらの領域に基づいて設計した、配列番号24で示されるフォワードプライマーGCYL-F3と配列番号26で示されるリバースプライマーGCYL-R4、GCYL-F3と配列番号27で示されるリバースプライマーGCYL-R5、配列番号23で示されるフォワードプライマーGCYL-F2と配列番号25で示されるリバースプライマーGCYL-R3、および、GCYL-F2とGCYL-R4を、PCRプライマーセットとして用いて、Alicyclobacillus属細菌由来のDNAを鋳型としてPCR反応を行った。その結果、A. cycloheptanicus以外の菌種においてはPCRによる増幅が見られず、A. cycloheptanicusにのみ推定される約320bp,約430bp,約275bpおよび約570bpのPCR産物が見出された(図16と図17)。従って、このPCRプライマーセットを用いることによりA. cycloheptanicusを検出することが可能であることが示された。
DSM 4006TgyrB遺伝子の塩基配列を配列番号83に、DSM 4005のgyrB遺伝子の塩基配列を配列番号84にアミノ酸配列を配列番号85に、DSM 4007のgyrB遺伝子の塩基配列を配列番号86にアミノ酸配列を配列番号87に示す。
【0028】
(7)A. pomorum
A. pomorum基準株についてgyrB遺伝子の塩基配列を決定し、種間での相同性解析を実施した。その結果、gyrB遺伝子の5’末端側から中流域にかけて6箇所、A. pomorumに特徴的な領域が見出された(図18のIAM 14988Tの塩基配列における下線領域)。次に、これらの領域に基づいて設計した、配列番号28で示されるフォワードプライマーGPO-F1と配列番号31で示されるリバースプライマーGPO-R4、配列番号29で示されるフォワードプライマーGPO-F2とGPO-R4、GPO-F2と配列番号32で示されるリバースプライマーGPO-R5、GPO-F1とGPO-R5、GPO-F1と配列番号33で示されるリバースプライマーGPO-R6、GPO-F2とGPO-R6、配列番号30で示されるフォワードプライマーGPO-F3とGPO-R5、および、GPO-F3とGPO-R6を、PCRプライマーセットとして用いて、Alicyclobacillus属細菌由来のDNAを鋳型としてPCR反応を行った。その結果、A. pomorum以外の菌種においてはPCRによる増幅が見られず、A. pomorumにのみ推定される約295bp,約170bp,約650bp,約770bp,約900bp,約775bp,約560bpおよび約690bpのPCR産物が見出された。GPO-F2とGPO-R4の組み合わせ(B)およびGPO-F2とGPO-R5の組み合わせ(C)では、目的の断片以外に非特異的な断片が検出されたが、予想される長さとは大きく異なるため、判別の支障にはならないと考えられた(図19〜図22)。従って、このPCRプライマーセットを用いることによりA. pomorumを検出することが可能であることが示された。
IAM 14988TgyrB遺伝子の塩基配列を配列番号88に示す。
【0029】
(8)A. hesperidum
A. hesperidumについてgyrB遺伝子の塩基配列を決定し、種内および種間で相同性解析を実施した。なお、DSM 11985はA. hesperidumと同種あるいは亜種であることが示唆されているため、ここではA. hesperidumとして取り扱った。その結果、gyrB遺伝子はA. hesperidumにおいて高度に保存されていることが分かった。また、gyrB遺伝子の中流域から3’末端側にかけて6箇所、A. hesperidumに特徴的な領域が見出された(図23のDSM 12489Tの塩基配列における下線領域)。次に、これらの領域に基づいて設計した、配列番号34で示されるフォワードプライマーGHES-F10と配列番号38で示されるリバースプライマーGHES-R13、配列番号35で示されるフォワードプライマーGHES-F13と配列番号37で示されるリバースプライマーGHES-R14、GHES-F10と配列番号39で示されるリバースプライマーGHES-R4、および、配列番号36で示されるフォワードプライマーGHES-F11と配列番号40で示されるリバースプライマーGHES-R17を、PCRプライマーセットとして用いて、Alicyclobacillus属細菌由来のDNAを鋳型としてPCR反応を行った。その結果、A. hesperidum以外の菌種においてはPCRによる増幅が見られず、A. hesperidumにのみ推定される約210bp,約110bp,約200bpおよび約510bpのPCR産物が見出された(図24と図25)。従って、このPCRプライマーセットを用いることによりA. hesperidumを検出することが可能であることが示された。
DSM 12489TgyrB遺伝子の塩基配列を配列番号89に示す。
【0030】
なお、Alicyclobacillus sp. DSM 11985のgyrB遺伝子の塩基配列を配列番号90にアミノ酸配列を配列番号91に、Alicyclobacillus sp. B2073のgyrB遺伝子の塩基配列を配列番号92にアミノ酸配列を配列番号93に、Sulfobacillus disulfidooxidans DSM 12064TgyrB遺伝子の塩基配列を配列番号94にアミノ酸配列を配列番号95に示す。
【0031】
3.まとめ
以上の実験から、各Alicyclobacillus属細菌に特異的なPCRプライマーを用いてPCR反応を行うことにより、Alicyclobacillus属細菌を種レベルで約5時間以内に(一般的な装置を使用した場合の概算値:DNA調製:1時間、PCR反応:3時間、電気泳動:1時間)で鑑別することが可能となった。従来はこの鑑別に何日も費やしていたため、本技術開発により所要時間が大幅に短縮された。一般的にAlicyclobacillus属細菌の検査には、YSG培地で45℃培養の条件が使用されており、この条件で生育するものはほぼAlicyclobacillus属細菌であることが分かっている。従って、検査の結果得られたコロニーを少量用い、本技術と組み合わせることによって、短時間かつ簡便にターゲット菌か否かを確認することができるため、品質管理への応用が期待される。
【0032】
試験例1:
以下に、輸入冷凍濃縮リンゴ果汁の微生物検査例を示す。
輸入冷凍濃縮リンゴ果汁10gをはかり取り、YSG液体培地90mlに懸濁した。この検体を45℃で3日間前培養した。前培養液の1mlを約20mlのYSG寒天培地とよく混ぜ、固化後、45℃で5日間培養した。生じたコロニーがAlicyclobacillus属細菌のいずれの種かを確かめるため、以下の試験を実施した。生じたコロニーを、YSG寒天培地を用いて純化した。純化したコロニーの一白金耳を取り、市販のキットを用いて染色体DNAを調製した。このDNAを鋳型とし、9種のAlicyclobacillus属細菌の検出が可能なPCRプライマーセット(詳細は図の注釈の通り。なお、A. acidoterrestrisの検出に使用するフォワードプライマーPF1の塩基配列は配列番号96の通りであり、リバースプライマーPR1の塩基配列は配列番号97の通りである)を用いてPCR反応を行った。反応産物を電気泳動で確認したところ、A. acidocaldariusのPCRプライマーセットにおいて予測されるバンド長に目的の増幅断片(560bp)が確認され、および、A. acidocaldariusグループのPCRプライマーセットにおいて予測されるバンド長に目的の増幅断片(160bp)が確認された(図26)。以上のことから、今回分離された菌株はA. acidocaldariusであることが判明し、輸入冷凍濃縮リンゴ果汁中には本菌種が存在していたことが明らかになった。なお、この菌株については、16S rDNAのHV領域の解析によりA. acidocaldariusであることを確かめた。
【0033】
試験例2:
以下に、果汁シロップの微生物検査例を示す。
果汁シロップ10gをはかり取り、滅菌水90mlに懸濁した。この検体を0.45μmのメンブレンフィルターで濾過し、そのメンブレンフィルターをYSG寒天培地上に載せ、45℃で5日間培養した。生じたコロニーがAlicyclobacillus属細菌のいずれの種であるかを確かめるため、以下の試験を実施した。生じた2コロニーを、YSG寒天培地を用いてそれぞれ純化した。純化したコロニーの一白金耳を取り、市販のキットを用いて染色体DNAを調製した。このDNAを鋳型とし、9種の検出が可能なPCRプライマーセット(試験例1に同じ)を用いてPCR反応を行った。反応産物を電気泳動で確認したところ、コロニーAは、A. pomorumのPCRプライマーセットにおいて予測されるバンド長に目的の増幅断片(295bp)が確認された(図27)、また、コロニーBは、A. acidocaldariusグループのPCRプライマーセットにおいて予測されるバンド長に目的の増幅断片(160bp)が確認され、および、Alicyclobacillus genomic species 1のPCRプライマーセットにおいて予測されるバンド長に目的の増幅断片(520bp)が確認された(図28)。以上のことから、今回分離された菌株はA. pomorum(コロニーA)およびAlicyclobacillus genomic species 1(コロニーB)であることが判明し、液糖中には2菌種が存在していたことが明らかになった。なお、これらの菌株については、16S rDNAのHV領域の解析により、それぞれA. pomorumおよびAlicyclobacillus genomic species 1であることを確かめた。
【0034】
試験例3:
静岡県藤枝市宮原の茶畑の土壌10gを用いて試験例2と同様にして微生物検査を行うことで、この土壌中にA. acidocaldariusAlicyclobacillus genomic species 1が生息していたことを確かめた。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、A. acidoterrestris以外のAlicyclobacillus属細菌の迅速かつ簡便な同定方法を提供することができる点において産業上の利用可能性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】gyrB遺伝子中におけるA. acidocaldariusに特徴的な領域を示す図。
【図2】本発明のPCRプライマーセットを用いてA. acidocaldariusを特異的に検出することができることを示す電気泳動像。
【図3】gyrB遺伝子中におけるAlicyclobacillus genomic species 1に特徴的な領域を示す図。
【図4】本発明のPCRプライマーセットを用いてAlicyclobacillus genomic species 1を特異的に検出することができることを示す電気泳動像。
【図5】gyrB遺伝子中におけるA. acidocaldariusグループに特徴的な領域を示す図。
【図6】本発明のPCRプライマーセットを用いてA. acidocaldariusグループを特異的に検出することができることを示す電気泳動像。
【図7】gyrB遺伝子中におけるA. herbariusに特徴的な領域を示す図。
【図8】本発明のPCRプライマーセットを用いてA. herbariusを特異的に検出することができることを示す電気泳動像。
【図9】同上
【図10】同上
【図11】gyrB遺伝子中におけるA. acidiphilusに特徴的な領域を示す図。
【図12】本発明のPCRプライマーセットを用いてA. acidiphilusを特異的に検出することができることを示す電気泳動像。
【図13】同上
【図14】同上
【図15】gyrB遺伝子中におけるA. cycloheptanicusに特徴的な領域を示す図。
【図16】本発明のPCRプライマーセットを用いてA. cycloheptanicusを特異的に検出することができることを示す電気泳動像。
【図17】同上
【図18】gyrB遺伝子中におけるA. pomorumに特徴的な領域を示す図。
【図19】本発明のPCRプライマーセットを用いてA. pomorumを特異的に検出することができることを示す電気泳動像。
【図20】同上
【図21】同上
【図22】同上
【図23】gyrB遺伝子中におけるA. hesperidumに特徴的な領域を示す図。
【図24】本発明のPCRプライマーセットを用いてA. hesperidumを特異的に検出することができることを示す電気泳動像。
【図25】同上
【図26】試験例1におけるコロニーの電気泳動パターン。
【図27】試験例2におけるコロニーAの電気泳動パターン。
【図28】試験例2におけるコロニーBの電気泳動パターン。
【図29】16S rDNA塩基配列に基づくAlicyclobacillus属細菌の系統樹を示す図。
【図30】Alicyclobacillus属細菌基準株間の16S rDNAの塩基配列の相同性を示す表。
【図31】gyrB遺伝子の塩基配列に基づくAlicyclobacillus属細菌の系統樹を示す図。
【図32】Alicyclobacillus属細菌基準株間のgyrB遺伝子の塩基配列の相同性を示す表。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アリサイクロバチルス(Alicyclobacillus)属細菌の同定方法であって、細菌のDNAを調製し、調製されたDNAを鋳型として、配列番号1に記載のオリゴヌクレオチドをフォワードプライマーに、配列番号2に記載のオリゴヌクレオチドをリバースプライマーに用いた核酸増幅を行い、増幅産物が認められた場合に、同定対象となる細菌が、アリサイクロバチルス・アシドカルダリウス(A. acidocaldarius)であると同定することを特徴とする方法。
【請求項2】
アリサイクロバチルス(Alicyclobacillus)属細菌の同定方法であって、細菌のDNAを調製し、調製されたDNAを鋳型として、配列番号3に記載のオリゴヌクレオチド,配列番号4に記載のオリゴヌクレオチドから選ばれる少なくとも1つをフォワードプライマーに、配列番号5に記載のオリゴヌクレオチド,配列番号6に記載のオリゴヌクレオチドから選ばれる少なくとも1つをリバースプライマーに用いた核酸増幅を行い(但し、配列番号4に記載のオリゴヌクレオチドと配列番号5に記載のオリゴヌクレオチドの組み合わせは除く)、増幅産物が認められた場合に、同定対象となる細菌が、アリサイクロバチルス・ゲノミック・スピーシーズ1(A. genomic species 1)であると同定することを特徴とする方法。
【請求項3】
アリサイクロバチルス(Alicyclobacillus)属細菌の同定方法であって、細菌のDNAを調製し、調製されたDNAを鋳型として、配列番号7に記載のオリゴヌクレオチド,配列番号8に記載のオリゴヌクレオチドから選ばれる少なくとも1つをフォワードプライマーに、配列番号9に記載のオリゴヌクレオチド,配列番号10に記載のオリゴヌクレオチドから選ばれる少なくとも1つをリバースプライマーに用いた核酸増幅を行い(但し、配列番号8に記載のオリゴヌクレオチドと配列番号9に記載のオリゴヌクレオチドの組み合わせは除く)、増幅産物が認められた場合に、同定対象となる細菌が、アリサイクロバチルス・アシドカルダリウス(A. acidocaldarius),アリサイクロバチルス・ゲノミック・スピーシーズ1(A. genomic species 1),アリサイクロバチルス・ゲノミック・スピーシーズ2(A. genomic species 2),アリサイクロバチルス・センダイエンシス(A. sendaiensis),アリサイクロバチルス・アシドカルダリウス・サブスピーシーズ・リットマンニイ(A. acidocaldarius subsp. rittmannii)のいずれかであると同定することを特徴とする方法。
【請求項4】
アリサイクロバチルス(Alicyclobacillus)属細菌の同定方法であって、細菌のDNAを調製し、調製されたDNAを鋳型として、配列番号11に記載のオリゴヌクレオチド,配列番号12に記載のオリゴヌクレオチド,配列番号13に記載のオリゴヌクレオチドから選ばれる少なくとも1つをフォワードプライマーに、配列番号14に記載のオリゴヌクレオチド,配列番号15に記載のオリゴヌクレオチド,配列番号16に記載のオリゴヌクレオチドから選ばれる少なくとも1つをリバースプライマーに用いた核酸増幅を行い(但し、配列番号13に記載のオリゴヌクレオチドと配列番号14に記載のオリゴヌクレオチドの組み合わせは除く)、増幅産物が認められた場合に、同定対象となる細菌が、アリサイクロバチルス・ハーバリウス(A. herbarius)であると同定することを特徴とする方法。
【請求項5】
アリサイクロバチルス(Alicyclobacillus)属細菌の同定方法であって、細菌のDNAを調製し、調製されたDNAを鋳型として、配列番号17に記載のオリゴヌクレオチド,配列番号18に記載のオリゴヌクレオチド,配列番号19に記載のオリゴヌクレオチドから選ばれる少なくとも1つをフォワードプライマーに、配列番号20に記載のオリゴヌクレオチド,配列番号21に記載のオリゴヌクレオチド,配列番号22に記載のオリゴヌクレオチドから選ばれる少なくとも1つをリバースプライマーに用いた核酸増幅を行い(但し、配列番号19に記載のオリゴヌクレオチドと配列番号20に記載のオリゴヌクレオチドの組み合わせは除く)、増幅産物が認められた場合に、同定対象となる細菌が、アリサイクロバチルス・アシディフィルス(A. acidiphilus)であると同定することを特徴とする方法。
【請求項6】
アリサイクロバチルス(Alicyclobacillus)属細菌の同定方法であって、細菌のDNAを調製し、調製されたDNAを鋳型として、配列番号23に記載のオリゴヌクレオチド,配列番号24に記載のオリゴヌクレオチドから選ばれる少なくとも1つをフォワードプライマーに、配列番号25に記載のオリゴヌクレオチド,配列番号26に記載のオリゴヌクレオチド,配列番号27に記載のオリゴヌクレオチドから選ばれる少なくとも1つをリバースプライマーに用いた核酸増幅を行い(但し、配列番号24に記載のオリゴヌクレオチドと配列番号25に記載のオリゴヌクレオチドの組み合わせは除く)、増幅産物が認められた場合に、同定対象となる細菌が、アリサイクロバチルス・シクロヘプタニカス(A. cycloheptanicus)であると同定することを特徴とする方法。
【請求項7】
アリサイクロバチルス(Alicyclobacillus)属細菌の同定方法であって、細菌のDNAを調製し、調製されたDNAを鋳型として、配列番号28に記載のオリゴヌクレオチド,配列番号29に記載のオリゴヌクレオチド,配列番号30に記載のオリゴヌクレオチドから選ばれる少なくとも1つをフォワードプライマーに、配列番号31に記載のオリゴヌクレオチド,配列番号32に記載のオリゴヌクレオチド,配列番号33に記載のオリゴヌクレオチドから選ばれる少なくとも1つをリバースプライマーに用いた核酸増幅を行い、増幅産物が認められた場合に、同定対象となる細菌が、アリサイクロバチルス・ポモラム(A. pomorum)であると同定することを特徴とする方法。
【請求項8】
アリサイクロバチルス(Alicyclobacillus)属細菌の同定方法であって、細菌のDNAを調製し、調製されたDNAを鋳型として、配列番号34に記載のオリゴヌクレオチド,配列番号35に記載のオリゴヌクレオチド,配列番号36に記載のオリゴヌクレオチドから選ばれる少なくとも1つをフォワードプライマーに、配列番号37に記載のオリゴヌクレオチド,配列番号38に記載のオリゴヌクレオチド,配列番号39に記載のオリゴヌクレオチド,配列番号40に記載のオリゴヌクレオチドから選ばれる少なくとも1つをリバースプライマーに用いた核酸増幅を行い(但し、配列番号35に記載のオリゴヌクレオチドと配列番号38に記載のオリゴヌクレオチドの組み合わせ、および、配列番号35に記載のオリゴヌクレオチドと配列番号39に記載のオリゴヌクレオチドの組み合わせは除く)、増幅産物が認められた場合に、同定対象となる細菌が、アリサイクロバチルス・ヘスペリダム(A. hesperidum)であると同定することを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれかに記載のアリサイクロバチルス(Alicyclobacillus)属細菌の同定方法を実施するためのキットであって、各Alicyclobacillus属細菌に応じたフォワードプライマーとリバースプライマーを少なくとも含んでなることを特徴とするキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【公開番号】特開2006−223160(P2006−223160A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−39761(P2005−39761)
【出願日】平成17年2月16日(2005.2.16)
【出願人】(303044712)三井農林株式会社 (72)
【出願人】(591001949)株式会社海洋バイオテクノロジー研究所 (33)
【Fターム(参考)】