説明

アリルクロライドおよびジクロロヒドリンの製造方法

【課題】プロピレンと塩素との反応によりアリルクロライドを製造するプロセス、特にアリルクロライドを連続的に製造するプロセスで副生する塩化水素を、有効利用しつつ安定的に処理できる方法を提供する。
【解決手段】プロピレンと塩素との反応により、アリルクロライド、未反応プロピレンおよび副生塩化水素を含む反応生成物を得る塩素化工程と、該反応生成物を冷却することにより、アリルクロライドと、未反応プロピレンおよび副生塩化水素を含有する混合ガスとに分離する分離工程と、該混合ガスを未反応プロピレンと副生塩化水素とに分離して、未反応プロピレンを回収する回収工程と、該回収工程で分離された副生塩化水素を酸化して塩素を得る酸化工程とを備え、塩素化工程で用いる塩素の少なくとも一部が酸化工程で得られる塩素であるアリルクロライドの製造方法、および上記酸化工程で得られた塩素を用いたジクロロヒドリンの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアリルクロライドおよびジクロロヒドリンの製造方法に関し、より詳しくは、アリルクロライドの製造において副生する塩化水素をリサイクル原料として有効利用したアリルクロライドおよびジクロロヒドリンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プロピレンと塩素との気相反応によりアリルクロライドを製造する方法は、アリルクロライドの工業的製造法として広く用いられている(たとえば特許文献1参照)。この製造プロセスでは、下記式:
36 + Cl2 → C35Cl +HCl
で示されるように、アリルクロライドと等モルの塩化水素(HCl)が副生される。
【0003】
アリルクロライドの工業生産、特にアリルクロライドの連続的工業生産においては、このように多量に生成する塩化水素を、アリルクロライドの生産と並行して、有効利用しつつ安定的に処理していくことが望ましい。副生する塩化水素の処理方法としては、塩化ビニル等の他の製品を製造するための原料として再利用する方法や、各種製品の製造プロセスで発生するアルカリ液(アルカリ廃液など)の中和処理剤として利用する方法が挙げられるが、これらの処理方法における副生塩化水素の消費量はいずれも、消費先の製品需給バランスに左右されるため、必ずしも安定的な処理方法とはいえない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭60−252434号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで本発明は、プロピレンと塩素との反応によりアリルクロライドを製造するプロセス、特にアリルクロライドを連続的に製造するプロセスで副生する塩化水素を、有効利用しつつ安定的に処理できる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決すべく、本発明は、プロピレンと塩素との反応により、アリルクロライド、未反応プロピレンおよび副生塩化水素を含む反応生成物を得る塩素化工程と、該反応生成物を冷却することにより、該反応生成物をアリルクロライドと、未反応プロピレンおよび副生塩化水素を含有する混合ガスとに分離する分離工程と、該混合ガスを未反応プロピレンと副生塩化水素とに分離して、未反応プロピレンを回収する回収工程と、該回収工程で分離された副生塩化水素を酸化して塩素を得る酸化工程とを備え、塩素化工程で用いる塩素の少なくとも一部が酸化工程で得られる塩素であるアリルクロライドの製造方法を提供する。
【0007】
上記回収工程と酸化工程との間に、回収工程で分離された副生塩化水素から不純物を除去する不純物除去工程をさらに備えることが好ましい。不純物除去工程で除去される不純物は、少なくとも臭素含有成分を含むことが好ましい。不純物除去工程では、臭素含有成分のほか、未反応プロピレン、イソプロパノール、2−クロロプロパンおよびアリルクロライドからなる群から選択される1種以上の有機不純物がさらに除去されてもよい。
【0008】
上記酸化工程は、副生塩化水素を触媒の存在下、酸素ガスによって酸化する工程を含むことが好ましい。また、上記回収工程は、混合ガスと水とを接触させることにより、副生塩化水素を塩酸水として分離する工程を含むことが好ましい。
【0009】
さらに本発明は、アリルクロライドと塩素と水との反応により、ジクロロヒドリンを製造する方法であって、該塩素の少なくとも一部が上記アリルクロライドの製造方法の酸化工程で得られる塩素であるジクロロヒドリンの製造方法を提供する。本発明のジクロロヒドリンの製造方法で用いられる上記アリルクロライドの少なくとも一部は、上記アリルクロライドの製造方法の分離工程で得られるアリルクロライドであることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明のアリルクロライドの製造方法およびジクロロヒドリンの製造方法によれば、プロピレンと塩素との反応によりアリルクロライドを製造するプロセスで副生した塩化水素は、塩素に酸化された後、アリルクロライドまたはジクロロヒドリン製造の原料としてリサイクルされるため、副生塩化水素を有効利用しつつ安定的に処理することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係るアリルクロライドの製造方法の一例を模式的に示すフロー図である。
【図2】本発明に係るジクロロヒドリンの製造方法の一例を模式的に示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<アリルクロライドの製造方法>
図1は、本発明に係るアリルクロライドの製造方法の一例を模式的に示すフロー図である。図1に示されるように、本発明のアリルクロライドの製造方法は、基本的に次の(1)〜(5)の工程を備える。
(1)プロピレンと塩素との反応により、アリルクロライド、未反応プロピレンおよび副生塩化水素を含む反応生成物を得る塩素化工程、
(2)上記反応生成物を冷却することにより、該反応生成物をアリルクロライドと、未反応プロピレンおよび副生塩化水素を含有する混合ガスとに分離する分離工程、
(3)上記混合ガスを未反応プロピレンと副生塩化水素とに分離して、未反応プロピレンを回収する回収工程、
(4)上記回収工程で分離された副生塩化水素から不純物を除去する不純物除去工程、および
(5)不純物が除去された副生塩化水素を酸化して塩素を得る酸化工程。
【0013】
ただし、上記不純物除去工程は任意の工程であり、回収工程で分離された副生塩化水素を直接酸化することにより塩素を得てもよい。以下、各工程について詳細に説明する。
【0014】
(1)塩素化工程
本工程において、プロピレンと塩素とを気相反応させることにより、アリルクロライド、未反応プロピレンおよび副生塩化水素を主に含むガス状の反応生成物を得る。気相反応は、プロピレンガスと塩素ガスを連続的に塩素化反応器へ供給する連続反応であってよい。反応温度は、通常約450〜510℃である。本発明では、プロピレンとの反応に用いられる塩素の少なくとも一部として、後述する酸化工程で得られる塩素を利用する。これにより、当該気相反応によって副生する塩化水素の有効利用が可能になるとともに、副生した塩化水素を安定的に処理することができる。
【0015】
反応により得られるガス状の反応生成物には、アリルクロライド、未反応プロピレンおよび副生塩化水素のほか、副反応で生じるプロピレン多塩素化物、2−クロロプロパン等の不純物が含まれるのが通常である。また、塩素の工業的製法として岩塩、海塩等の食塩または塩化カリウムの電気分解が広く利用されているが、このような製法によって得られる塩素は数十〜数百ppmの臭素(Br2)を含むため、プロピレンとの反応に用いられる塩素として上記電気分解により製造された塩素を用いる場合には、プロピレン臭素化物および臭化水素等の臭素含有成分が不純物として含まれる。
【0016】
(2)分離工程
上記ガス状の反応生成物は、ついで冷却され、凝縮されたアリルクロライドと、未反応プロピレンおよび副生塩化水素を含有する混合ガスとに分離される。冷却温度はたとえば50〜70℃程度とされる。冷却方法としては、たとえば、熱交換器に反応生成物を導入して冷却する方法や、ラインクエンチャー等の急冷設備に反応生成物を導入して冷却する方法、およびこれらの双方を用いる方法などが挙げられる。なかでも、冷却効率および分離効率の観点から、熱交換器を用いて予冷した後、ラインクエンチャー等の急冷設備に導入して急冷する方法が好ましく用いられる。予冷温度はたとえば150〜250℃とすることができる。
【0017】
冷却により生じる、主にアリルクロライドからなる凝縮相は、プロピレン多塩素化物、プロピレン臭素化物等の高沸点不純物が含まれ得るため、アリルクロライドの製品としての純度または原料(たとえば、後述するジクロロヒドリン製造用の原料)としての純度を確保するために、必要に応じて蒸留等の精製処理がなされてもよい。
【0018】
冷却操作後のガス相は、主に未反応プロピレンおよび副生塩化水素を含有する混合ガスからなり、不純物としてアリルクロライド、プロピレン多塩素化物、プロピレン臭素化物、2−クロロプロパンおよび臭化水素等を含み得るが、プロピレン多塩素化物およびプロピレン臭素化物は凝縮相側へほとんどが分配される。
【0019】
上記のような冷却によるアリルクロライドの回収操作は複数回行なわれてもよい。また、未反応プロピレンを回収する回収工程の前に、冷却操作後のガス相を、たとえば高圧下で蒸留することにより、当該ガス相に含まれるアリルクロライドを回収する操作を行なってもよい。
【0020】
(3)回収工程
ついで、上記分離工程で分離された、主に未反応プロピレンおよび副生塩化水素を含有する混合ガスは、未反応プロピレンと副生塩化水素とに分離される。分離・回収された未反応プロピレンは、上記塩素化反応の原料として再利用することができる(図1参照)。
【0021】
上記混合ガスを未反応プロピレンと副生塩化水素とに分離する方法としては、図1に示されるような、混合ガスと水とを接触させて、混合ガスに含まれる副生塩化水素を水に吸収させることにより副生塩化水素を塩酸水(以下、副生塩酸水とも称する)として分離するとともに、未反応プロピレンを未吸収ガスとして回収する方法が挙げられる。この方法において、混合ガスに接触させる水の代わりに希塩酸水を用いることもできる。混合ガスと水または希塩酸水との接触は、たとえば吸収塔を用いて行なうことができる。この場合、未反応プロピレンは、吸収塔の塔頂から回収され、缶出液として副生塩酸水を得る。
【0022】
接触副生塩化水素を水または希塩酸水に吸収させて得られる副生塩酸水の塩化水素濃度は特に限定されないが、たとえば25〜37質量%程度とすることができる。上記副生塩酸水は、不純物として未反応プロピレン、アリルクロライド、プロピレン多塩素化物、プロピレン臭素化物、イソプロパノール、2−クロロプロパンおよび臭化水素等を含み得る。
【0023】
なお、上記混合ガスを高圧条件下で蒸留することによっても、混合ガスを未反応プロピレンと副生塩化水素とに分離することができる。
【0024】
(4)不純物除去工程
本工程は、上記回収工程で分離された副生塩化水素から不純物を除去する工程である。不純物除去工程は本発明において必須の工程ではないが、次の理由から不純物除去工程を設けることが好ましい。すなわち上述のように、アリルクロライド製造用原料として食塩または塩化カリウムの電気分解により製造された塩素を用いると、これに含まれる臭素による臭素化反応が副反応として起こるため、プロピレン臭素化物等の不純物が生じ、アリルクロライドの収率低下を招く。また、臭素とプロピレンとの反応により、プロピレン臭素化物とともに臭化水素が生成するが、この臭化水素は、上記副生塩酸水に同伴して後述の酸化工程にて臭素に変換され、再利用される塩素とともに塩素化工程に再供給される場合がある。このような非意図的な臭素のリサイクルもまた、不純物の生成およびアリルクロライドの収率低下を招く。同様に、酸化工程で得られる塩素をジクロロヒドリンの原料に使用する場合においても、不純物の生成およびジクロロヒドリンの収率低下を招く。
【0025】
回収工程と酸化工程との間に、少なくともプロピレン臭素化物、臭化水素等の臭素含有成分を除去する不純物除去工程を設けることにより、酸化工程にて臭素を含まないか、もしくは電気分解により製造される塩素と比較して臭素含有量が極めて微量である塩素を得ることができる。したがって、このような不純物除去工程を経て得られる塩素をアリルクロライドまたはジクロロヒドリン製造の原料として用いることにより、臭素含有不純物の生成を抑制することができ、収率の改善を図ることが可能となる。
【0026】
プロピレン臭素化物、臭化水素等の臭素含有成分を除去する方法として、特開2009−001459号公報に記載の方法を挙げることができる。具体的には、副生塩酸水を第一分離塔に導入し、蒸留するかまたは不活性ガスを用いて放散させることにより、プロピレン臭素化物等の有機不純物の多くを留出ガスとして除去するとともに、缶出液として第一塩酸水を得る第一工程と、この第一塩酸水を第二分離塔にて蒸留することにより、塔頂から留出ガスとして、少なくとも臭素含有成分が除去された高純度の塩化水素ガスを得る第二工程とを含む方法である。この方法の場合、不純物としての臭化水素は、第二分離塔での蒸留の缶出液である希塩酸水中に残存し除去される。
【0027】
第一工程における蒸留圧力は、特に制限されないが、大気圧(0MPaG、ゲージ圧)程度とすることができる。プロピレン臭素化物等の有機不純物を選択的に塔頂側に分配するために蒸留温度は低めに設定することが好ましく、塔頂温度は、蒸留圧力が大気圧の場合、10〜90℃程度とすることが好ましい。塔内温度は、上記好ましい塔頂温度となるように適宜設定され、蒸留圧力が大気圧の場合、30〜100℃程度とすることができる。
【0028】
第一工程において不活性ガスを用いた放散を行なう場合、放散時の圧力は、通常、大気圧程度とされる。また、放散時の塔内温度は、通常20〜50℃程度である。不活性ガスを用いた放散の具体的手法としては、副生塩酸水のシャワーに対し、下から不活性ガスを吹き込む方法を挙げることができる。不活性ガスとしては、特に限定されず、たとえば窒素ガス、空気、ヘリウムガス、アルゴンガス等を挙げることができる。不活性ガスの供給量(kg)は、第一分離塔内に供給される副生塩酸水(kg)に対して、0.1〜0.5程度とすることが好ましい。
【0029】
第一分離塔における蒸留または放散により缶出液として得られた第一塩酸水は、第一分離塔の塔底から排出されて第二分離塔に供給され、第二工程に供される。
【0030】
第二工程における蒸留圧力は、特に制限されるものではないが、塔頂から出た留出ガスをそのまま次の酸化工程に導入する場合には、酸化工程は、通常0.1〜1MPaG(ゲージ圧)程度で運転されることから、同じく0.1〜1MPaG程度とすることが好ましい。より好ましくは、0.1〜0.7MPaG程度である。塔内温度は、蒸留圧力に対応する温度となり、通常100〜180℃程度である。塔頂にて還流を行なうことにより、さらに高純度の塩化水素ガスを得ることができる。
【0031】
なお、特開2009−001459号公報に記載されるように、不純物除去工程における塩化水素の回収率を向上させるために、第一工程において塔頂から回収される留出ガスや第二工程の缶出液をリサイクルすることもできる。
【0032】
本工程では、上述のように少なくともプロピレン臭素化物、臭化水素等の臭素含有成分が除去されることが好ましく、酸化工程で用いられる触媒の活性維持および不純物低減の観点から、臭素含有成分以外の不純物も併せて除去されることが好ましい。臭素含有成分以外の不純物としては、未反応プロピレン、アリルクロライド、プロピレン多塩素化物、イソプロパノールおよび2−クロロプロパンなどの有機不純物が挙げられる。好ましくは、これら有機不純物のうち少なくとも1種または2種以上が臭素含有成分とともに除去され、より好ましくは、これら有機不純物のすべてが臭素含有成分とともに除去される。上記のような第一および第二工程を含む方法によれば、通常、臭素含有成分とともに、これらの有機不純物も除去することが可能である。
【0033】
(5)酸化工程
ついで、本工程において副生塩化水素を酸化して塩素を得る。ここでいう副生塩化水素とは、回収工程における未反応プロピレンの回収を水等への吸収によって行なった場合には、得られる副生塩酸水またはこれから蒸留等により回収される塩化水素を意味し、回収工程における未反応プロピレンの回収を高圧蒸留により行なった場合には、当該蒸留により得られる塩化水素を意味する。また、不純物除去工程を設け、その手段として上記のような第一および第二工程を含む方法を採用する場合には、第二工程で得られた高純度の塩化水素ガスからなる留出ガスを意味する。
【0034】
副生塩化水素を酸化する方法としては、たとえば、1)副生塩酸水を電気分解する方法、および2)副生塩酸水またはこれから蒸留等により回収される塩化水素または不純物除去工程を経て得られた留出ガスを、酸化ルテニウム等の酸化触媒を用いて酸化する方法が挙げられる。なかでも、後者の触媒酸化による方法は、反応熱を回収しスチームを発生させるなど熱回収を図ることができるためエネルギー効率に優れており、電気分解による方法と比べて高い塩化水素純度が要求されないという点で有利である。一方、電気分解による方法は、電力消費量が大きく、また、安全上問題となる水素を生成するため、特に工業上、触媒酸化による方法と比べて有利性が低い傾向にある。また、塩酸水中のごく微量の有機物により電気分解が干渉されるため、極めて高純度の塩酸水が必要とされる。
【0035】
触媒酸化の具体的方法としては、従来公知の方法を採用することができ、たとえば特開2009−001459号公報に記載の方法を好ましく用いることができる。当該公報には、塩化水素ガスを酸素で酸化することにより塩素を含むガスを得る酸化工程、酸化工程で得られた塩素を含むガスを水または塩酸水と接触させ、塩化水素および水を主成分とする溶液として未反応塩化水素を回収するとともに、塩素および酸素を主成分とするガスを得る吸収工程、吸収工程で得られたガスを乾燥する乾燥工程、および乾燥工程で得られたガスを塩素を主成分とする液体またはガスと、未反応酸素を主成分とするガスとに分離する精製工程を含む塩素の製造プロセスが開示されている。
【0036】
本工程で得られた塩素は、プロピレンの塩素化反応の原料として上記塩素化工程へリサイクルされる。以上のような本発明のアリルクロライドの製造方法によれば、副生する塩化水素の有効利用が可能になるとともに、副生した塩化水素を安定的に処理することができる。また、臭素含有成分が除去された塩素をリサイクルすれば、臭素含有成分に由来する不純物の生成を抑制することができるため、アリルクロライドの純度および収率を向上させることができる。
【0037】
<ジクロロヒドリンの製造方法>
図2は、本発明に係るジクロロヒドリンの製造方法の一例を模式的に示すフロー図である。図2には、得られたジクロロヒドリンを用いてエピクロロヒドリンを製造するフローを併せて示している。本発明のジクロロヒドリンの製造方法は、下記式:
35Cl + HOCl → C36OCl2
で示されるアリルクロライドと塩素と水との反応により、ジクロロヒドリンを製造する方法において、原料である塩素の少なくとも一部として、上記本発明のアリルクロライドの製造方法における酸化工程で得られる塩素を使用するものである。このように、上記本発明のアリルクロライドの製造方法により得られる副生塩化水素由来の塩素を、ジクロロヒドリン製造の原料として用いることによっても、副生塩化水素を有効利用しつつ安定的に処理することができる。クロロヒドリン化における不純物生成の低減およびジクロロヒドリンの収率向上の観点から、アリルクロライド製造プロセスから供給される塩素は、上記した不純物除去工程を経て生成された塩素であることが好ましい。
【0038】
また、本発明のジクロロヒドリンの製造方法においては、原料であるアリルクロライドの少なくとも一部として、上記本発明のアリルクロライドの製造方法により得られるアリルクロライド、すなわち、塩素化工程および分離工程を経て得られるアリルクロライドが用いられてもよい。このアリルクロライドは、クロロヒドリン化に先立ち、必要に応じて、不純物の除去等のための精製処理(蒸留等)がなされてもよい。
【0039】
アリルクロライドと塩素と水との反応により、ジクロロヒドリンを製造する方法としては、たとえば、アリルクロライドと塩素とをほぼ等モル量含み、水を溶媒とする混合物を、10〜60℃の温度で反応させる方法を挙げることができる。これにより、ジクロロヒドリンを含む水溶液が得られる。
【0040】
得られたジクロロヒドリンは、エピクロロヒドリンを製造するための原料として好適に用いることができる(図2参照)。エピクロロヒドリンは、上記ジクロロヒドリン水溶液とアルカリとを反応させた後、得られたエピクロロヒドリン水溶液を蒸留し、エピクロロヒドリンを塔頂成分として回収する方法によって製造することができる。上記アルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム等のアルカリ金属、アルカリ土類金属の水酸化物および炭酸塩が挙げられる。
【0041】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロピレンと塩素との反応により、アリルクロライド、未反応プロピレンおよび副生塩化水素を含む反応生成物を得る塩素化工程と、
前記反応生成物を冷却することにより、前記反応生成物をアリルクロライドと、未反応プロピレンおよび副生塩化水素を含有する混合ガスとに分離する分離工程と、
前記混合ガスを未反応プロピレンと副生塩化水素とに分離して、未反応プロピレンを回収する回収工程と、
前記回収工程で分離された副生塩化水素を酸化して塩素を得る酸化工程と、
を備え、
前記塩素化工程で用いる塩素の少なくとも一部は、前記酸化工程で得られる塩素である、アリルクロライドの製造方法。
【請求項2】
前記回収工程と前記酸化工程との間に、前記回収工程で分離された副生塩化水素から不純物を除去する工程をさらに備える、請求項1に記載のアリルクロライドの製造方法。
【請求項3】
前記不純物は、少なくとも臭素含有成分を含む、請求項2に記載のアリルクロライドの製造方法。
【請求項4】
前記不純物は、未反応プロピレン、イソプロパノール、2−クロロプロパンおよびアリルクロライドからなる群から選択される1種以上の有機不純物をさらに含む、請求項3に記載のアリルクロライドの製造方法。
【請求項5】
前記酸化工程は、前記副生塩化水素を触媒の存在下、酸素ガスによって酸化する工程を含む、請求項1〜4のいずれかに記載のアリルクロライドの製造方法。
【請求項6】
前記回収工程は、前記混合ガスと水とを接触させることにより、前記副生塩化水素を塩酸水として分離する工程を含む、請求項1〜5のいずれかに記載のアリルクロライドの製造方法。
【請求項7】
アリルクロライドと塩素と水との反応により、ジクロロヒドリンを製造する方法であって、
前記塩素の少なくとも一部は、請求項1に記載の酸化工程で得られる塩素である、ジクロロヒドリンの製造方法。
【請求項8】
前記アリルクロライドの少なくとも一部は、請求項1に記載の分離工程で得られるアリルクロライドである、請求項7に記載のジクロロヒドリンの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−105637(P2011−105637A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−261591(P2009−261591)
【出願日】平成21年11月17日(2009.11.17)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】