説明

アリールエチニルフタル酸塩化合物、その製造方法、及びアリールエチニルフタル酸無水物の製造方法

【課題】 工業的規模で実施可能な、安定して純度の高いアリールエチニルフタル酸無水物を製造するために有用な新規な化合物、及びそれらの製造方法、並びにそれらを用いたアリールエチニルフタル酸無水物の製造方法を提供すること。
【解決手段】 下記一般式(1)又は(2)で表されるアリールエチニルフタル酸塩化合物、これらの製造方法、及びこれらの塩化合物を下記一般式(4)で表されるアリールエチニルフタル酸に変換した後、脱水する下記一般式(4)で表されるアリールエチニルフタル酸無水物の製造方法である。
【化1】


一般式(1)、(2)、(3)、及び(4)において、Qは置換あるいは無置換のアリール基を表す。M1及びM2は各々独立に水素原子又は1価の金属陽イオンを表すが、M1及びM2がともに水素原子であることはない。Mは2価の金属陽イオンを表す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は医農薬中間体、液晶、電子材料等の機能性材料として有用なアリールエチニルフタル酸誘導体の新規な塩化合物、その製造方法、及びアリールエチニルフタル酸無水物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アリールエチニルフタル酸誘導体は医農薬中間体、液晶、電子材料などの機能性材料原料として重要な化合物であり、特に近年では分子内に存在する炭素−炭素三重結合構造を利用した、様々な機能性材料に関する研究対象として注目されている。例えばポリイミドオリゴマーに熱硬化性とともに耐熱性及び耐酸化性を付与する末端封止材料として、フェニルエチニルフタル酸無水物が用いられている(例えば特許文献1)。またフェニルエチニルフタル酸無水物の製造方法についても種々開示されている(特許文献2〜3、非特許文献1〜4)。
【0003】
【特許文献1】米国特許第5,567,800号明細書
【特許文献2】特開平11−180970号公報
【特許文献3】特開2003−73372号公報
【非特許文献1】Polymer,1994年,第35巻,4857ページ
【非特許文献2】Polymer,1994年,第35巻,4874ページ
【非特許文献3】HighPerform.Polym.,1994年、第6巻、423ページ
【非特許文献4】Polymer Preprints,1995年、第35巻、353ページ
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
フェニルエチニルフタル酸無水物の従来の製造方法は収率、効率の点で未だ満足なものとは言いがたい。さらに本発明者らの検討によれば、ポリイミドの末端封止材料として用いるフェニルエチニルフタル酸無水物の品質が樹脂材料の性能、物性に重大な影響を与えること明らかとなった。例えば前記特許文献2、特許文献3に記載の方法で製造したフェニルエチニルフタル酸無水物を末端封止材料としてポリイミド樹脂を製造すると、場合によって難溶解成分の発生、熱成形時、硬化時の発泡が見られ、安定して樹脂を製造することが困難であった。すなわち従来報告されてきた製造方法は目的物の品質確保、後工程での工程/品質保証という点からも有利な方法とは言えず、安定に純度の高いアリールエチニルフタル酸無水物を大量に製造できる技術が強く求められていた。
従って本発明の目的は、工業的規模で実施可能な、安定して純度の高いアリールエチニルフタル酸無水物を製造するために有用な新規な化合物、及びそれらを用いたアリールエチニルフタル酸無水物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記の事情に鑑み鋭意研究した結果、新規なアリールエチニルフタル酸塩化合物、及びそれらを用いたアリールエチニルフタル酸無水物の製造方法を見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0006】
即ち本発明は、本発明の課題は、下記の手段で達成できることを見出した。
[1] 下記一般式(1)で表されるアリールエチニルフタル酸塩化合物。
一般式(1)
【化1】

一般式(1)中、Qは置換又は無置換のアリール基を表す。M1及びM2は各々独立に水素原子又は1価の金属陽イオンを表わす。ただしM1及びM2がともに水素原子であることはない。
[2] 下記一般式(2)で表されるアリールエチニルフタル酸塩化合物。
一般式(2)
【化2】


一般式(2)中、Qは置換又は無置換のアリール基を表す。Mは2価の金属陽イオンを表す。
[3] アリールエチニルフタル酸化合物を主成分とする反応生成混合物に、金属水酸化物又は金属酸化物を添加し、前記[1]又は[2]に記載のアリールエチニルフタル酸塩化合物を析出させることを特徴とする前記[1]又は[2]に記載のアリールエチニルフタル酸塩化合物の製造方法。
[4] 前記[1]又は[2]に記載のアリールエチニルフタル酸塩化合物を下記一般式(3)で表されるアリールエチニルフタル酸化合物に変換した後、脱水することを特徴とする下記一般式(4)で表されるアリールエチニルフタル酸無水物の製造方法。
一般式(3)
【化3】


一般式(3)中、Qは置換あるいは無置換のアリール基を表す。
一般式(4)
【化4】


一般式(4)中、Qは置換あるいは無置換のアリール基を表す。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、工業的規模で実施可能であり、安定して純度の高いアリールエチニルフタル酸誘導体を製造するために有用な新規な化合物、その製造方法、及びアリールエチニルフタル酸無水物の製造方法が効果的に提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
まず一般式(1)で表されるアリールエチニルフタル酸塩化合物について説明する。
一般式(1)
【化5】

【0009】
一般式(1)中、Qは置換あるいは無置換のアリール基を表す。該アリール基としては芳香族炭化水素基、芳香族複素環基が挙げられるが、好ましくは芳香族炭化水素基である。アリール基の具体的な例としてはフェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、2−アンスリル基、ピリジル基、フリル基、チエニル基等が挙げられるが、これらの中でもフェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、2−アンスリル基、チエニル基が好ましく、フェニル基、1−ナフチル基がより好ましく、フェニル基が特に好ましい。
【0010】
Qで表されるアリール基上には置換基が存在してもよい。存在しうる置換基としてはハロゲン原子、水酸基、シアノ基、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数3〜6のシクロアルキル基、炭素数6〜12のアリール基、炭素数1〜6のアルコキシ基、炭素数6〜12のアリールオキシ基、炭素数1〜10のアシル基、炭素数1〜6のパーフルオロアルキル基、炭素数1〜6のパーフルオロアルコキシ基を挙げることが可能である。これらの中でもフッ素原子、水酸基、シアノ基、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数3〜6のシクロアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、炭素数6〜12のアリール基、炭素数6〜12のアリールオキシ基、炭素数1〜3のパーフルオロアルキル基、炭素数1〜3のパーフルオロアルコキシ基が置換基として好ましく、フッ素原子、シアノ基、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、フェニル基、フェノキシ基がより好ましい。これらの置換基は複数個存在してもよく、複数個存在する場合、これらは各々は同一でも異なっていてもよい。またこれらが連結して炭素環または複素環を形成していてもよい。エチニル基に対して置換基の位置は、いずれであってもよい。本発明においては、該置換基の位置は、オルト位又はパラ位が好ましく、パラ位がより好ましい。
【0011】
Qが置換基を有するアリール基である場合、置換基のより具体的な例としては、フッ素原子、水酸基、シアノ基、メチル基、エチル基、2−プロピル基、tert−ブチル基、1−オクチル基、tert−オクチル基、シクロヘキシル基、シクロペンチル基、シクロプロピル基、2−エチルヘキシル基、メトキシ基、エトキシ基、2−プロポキシ基、tert−ブトキシ基、1−ヘキシルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、1−オクチルオキシ基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、フェニル基、アズレニル基、1−ナフトキシ基、2−ナフトキシ基、フェノキシ基、ペンタフルオロフェニル基、1−ヘプタフルオロプロピル基、トリフルオロメチル基、1−ヘプタフルオロプロポキシ基、トリフルオロメトキシ基、ペンタフルオロフェノキシ基などが挙げられ、これらの中でもフッ素原子、水酸基、シアノ基、エチル基、2−プロピル基、tert−ブチル基、シクロプロピル基、シクロヘキシル基、メトキシ基、エトキシ基、2−プロポキシ基、tert−ブトキシ基、シクロヘキシルオキシ基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、フェニル基、1−ナフトキシ基、2−ナフトキシ基、フェノキシ基、トリフルオロメトキシ基が好ましく、フッ素原子、シアノ基、トリフルオロメチル基、tert−ブチル基、tert−ブトキシ基、フェニル基、フェノキシ基がより好ましい。
本発明においては、無置換のアリール基が好ましく、特に無置換のフェニル基が好ましい。
【0012】
一般式(1)中、M1及びM2は各々独立に水素原子あるいは1価の金属陽イオンを表わす。ただしM1及びM2がともに水素原子であることはない。1価の金属陽イオンとしてはアルカリ金属イオン、Ag(I)イオン、Cu(I)イオン等が挙げられるが、好ましくはアルカリ金属イオンである。アルカリ金属イオンの中でもリチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオンがより好ましく、ナトリウムイオン、カリウムイオンがさらに好ましい。
【0013】
次に一般式(2)で表されるアリールエチニルフタル酸塩化合物について説明する。
一般式(2)
【化6】

【0014】
一般式(2)中、Qは前記一般式(1)において説明したものと同義であり、好ましい具体例、範囲も同一である。Mは2価の金属陽イオンを表わす。2価の金属陽イオンとしてはアルカリ土類金属イオン、Cu(II)イオン、Fe(II)イオン、Zn(II)イオン、Cd(II)イオン、Sn(II)イオン、Hg(II)イオン等が挙げられるが、好ましくはアルカリ土類金属イオンである。アルカリ土類金属イオンの中でもマグネシウムイオン、カルシウムイオンがより好ましく、マグネシウムイオンがなおより好ましい。
【0015】
次に一般式(3)で表されるアリールエチニルフタル酸化合物について説明する。
一般式(3)
【化7】


一般式(3)中、Qは前記一般式(1)、(2)において説明したものと同義であり、好ましい具体例、範囲も同一である。
【0016】
最後に一般式(4)で表されるアリールエチニルフタル酸無水物について説明する。
一般式(4)
【化8】

一般式(4)中、Qは前記一般式(1)、(2)、(3)において説明したものと同義であり、好ましい具体例、範囲も同一である。
【0017】
本発明のアリールエチニルフタル酸塩化合物は、例えば対応するアリールエチニルフタル酸化合物を金属水酸化物あるいは金属酸化物と反応させて造塩することにより製造することができる。アリールエチニルフタル酸化合物は、例えばパラジウム(II)錯体を触媒とするカップリング反応などの公知の方法により製造できる。アリールエチニルフタル酸化合物と金属水酸化物あるいは金属酸化物の反応は、水あるいは水/アルコール(例えばメタノール、2−プロパノール等)からなる混合媒体中で好ましく実施される。反応混合物からアリールエチニルフタル酸塩化合物がそのまま析出する場合は、通常の固液分離によりアリールエチニルフタル酸塩化合物を単離することができる。あるいは反応混合物に貧溶剤を添加してアリールエチニルフタル酸塩化合物を析出せしめ、これを固液分離により単離することも可能である。精製効果を考慮すると、貧溶剤を添加してアリールエチニルフタル酸塩化合物を析出、単離する方法が有利である。アリールエチニルフタル酸塩化合物を析出させる貧溶剤としては炭素数1〜4の低級アルコール類、アセトンあるいはメチルエチルケトン等のケトン系溶剤、アセトニトリル、プロピオニトリル等が挙げられるが、好ましく使用される溶剤はメタノール、2−プロパノール、アセトン、アセトニトリルである。
【0018】
本発明のアリールエチニルフタル酸塩化合物を経由し、これを晶析、単離することによって前工程に由来する不純物や着色成分が効果的に除去され、高い精製効果を得ることができる。得られた本発明のアリールエチニルフタル酸塩化合物は、通常これ以上の精製を行うことなく以降の工程に進めるほどの高い純度を有する。
【0019】
次に、一般式(1)あるいは一般式(2)で表されるアリールエチニルフタル酸塩化合物から一般式(4)で表されるアリールエチニルフタル酸無水物を製造する方法について説明する。
本発明は一般式(1)あるいは一般式(2)で表されるアリールエチニルフタル酸塩化合物を一般式(3)で表されるアリールエチニルフタル酸化合物に変換し、これを閉環して一般式(4)で表されるアリールエチニルフタル酸無水物に誘導することを特徴とする。
本発明のアリールエチニルフタル酸塩化合物からアリールエチニルフタル酸化合物への塩から酸への変換は、アリールエチニルフタル酸塩化合物の水溶液あるいは水懸濁液に酸を作用させることで好ましく実施される。
アリールエチニルフタル酸塩化合物を溶液あるいは懸濁液状態にするのに用いる水の量は、原料に対して質量比で1〜20倍、好ましくは1.5〜10倍、より好ましくは1.5〜4倍である。使用する酸の量は塩を形成しているカルボキシル基に対して1当量以上、好ましくは1当量から1.5当量である。酸の種類としては鉱酸が好ましく、具体的にはハロゲン化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸等が挙げられるが、通常は塩酸あるいは硫酸が用いられる。塩から酸に変換することによりアリールエチニルフタル酸化合物が析出するので、通常の固液分離を行って目的物を単離することができる。
【0020】
本発明のアリールエチニルフタル酸塩化合物の塩から酸への変換によるアリールエチニルフタル酸化合物への変換では、水と2層分離する有機溶剤を共存させてもよく、本発明の好ましい実施形態の1つである。水と2層分離する有機溶剤としては、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、メチル−t−ブチルエーテル、メトキシベンゼン、エトキシベンゼン等のエーテル系溶剤、酢酸エチル、酢酸n−ブチル等のエステル系溶剤、ヘキサン、へプタンに代表される脂肪族系炭化水素溶剤、芳香族炭化水素溶剤等が挙げられる。工業的規模での大量製造適性、入手の容易さ等の観点から好ましく使用される有機溶剤の具体的としては、メチル−t−ブチルエーテル、トルエン、キシレン(o−体、m−体、p−体あるいはこれらの任意の割合の混合物のいずれであってもよい)、メシチレン、エチルベンゼン、t−ブチルベンゼン、イソプロピルベンゼン(クメン)、クロロベンゼン、酢酸エチル、酢酸n−プロピル、酢酸n−ブチル等が挙げられるが、これらの中でもメチル−t−ブチルエーテル、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、酢酸エチル、酢酸n−ブチルがより好ましく、メチル−t−ブチルエーテル、トルエン、キシレン、酢酸エチルがなおより好ましい溶剤である。これらは複数併用することも可能である。
有機溶剤を共存させることにより、塩から酸への変換で生成するアリールエチニルフタル酸化合物を効果的に有機層に抽出することができる。一方、無機塩等の成分は水層に移行・除去される。2層分離した反応混合物から分取したアリールエチニルフタル酸化合物を含有する有機層はそのまま次の閉環工程に進むことが可能であり、工業上優れた利点である。
【0021】
一般式(3)で表されるアリールエチニルフタル酸化合物を脱水して閉環させ、一般式(4)で表されるアリールエチニルフタル酸無水物に誘導する方法は特に限定されない。化学的または熱的に脱水することが好ましく、例えば、溶剤の存在下に無水酢酸と加熱することで容易に脱水することができる。あるいは110℃〜150℃に加熱して脱水することも可能であり、この場合はトルエンなど共沸により水を除去する性質を有する溶剤を使用することが好ましい。
反応終了後は反応液を冷却することで多くの場合一般式(4)で表されるアリールエチニルフタル酸無水物が結晶として析出するので、通常の固液分離を行って目的物を単離することができる。あるいは貧溶剤を併用することも可能である。かかる方法で得られるアリールエチニルフタル酸無水物は極めて高純度であり、ポリイミド樹脂等の末端封止材料として好適に使用することができる。
【0022】
以下に、本発明の一般式(1)または一般式(2)で表されるアリールエチニルフタル酸塩化合物、一般式(3)で表されるアリールエチニルフタル酸化合物、一般式(4)で表されるアリールエチニルフタル酸無水物の具体例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
一般式(1)または(2)で表される塩化合物
【0023】
【化9】

【0024】
【化10】

【0025】
一般式(3)で表されるアリールエチニルフタル酸化合物
【0026】
【化11】

【0027】
一般式(4)で表されるアリールエチニルフタル酸無水物
【0028】
【化12】

以下に、実施例、比較例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0029】
<4−フェニルエチニルフタル酸ジナトリウム塩の合成>
前述の非特許文献2に記載の方法に従い、4−ブロモフタル酸無水物とフェニルアセチレンを反応させた。析出した不溶物を濾過して除去した後、適当量まで濃縮、残渣に水及び過剰量の水酸化ナトリウム水溶液を加え、反応混合物を40℃で5時間攪拌した。室温まで冷却した後、2−プロパノールを添加すると4−フェニルエチニルフタル酸ジナトリウム塩が結晶として析出した。このものを濾過し、2−プロパノール/水からなる混合溶媒、次いで2−プロパノールで洗浄し、乾燥して4−フェニルエチニルフタル酸ジナトリウム塩を無色粉末として得た。収率は、4−ブロモフタル酸無水物を基準として、95%以上であった。融点: 250℃以上(分解)
【実施例2】
【0030】
<4−フェニルエチニルフタル酸ジカリウム塩の合成>
水酸化ナトリウム水溶液の替わりに水酸化カリウム水溶液を用いて実施例1に記載の方法にほぼ従って合成を行い、4−フェニルエチニルフタル酸ジカリウム塩を無色粉末として得た。収率は、4−ブロモフタル酸無水物を基準として、95%以上であった。
融点:250℃以上(分解)
【実施例3】
【0031】
<4−フェニルエチニルフタル酸モノカリウム塩の合成>
前述の非特許文献2に記載の方法に従い、4−ブロモフタル酸無水物とフェニルアセチレンを反応させた。析出した不溶物を濾過して除去した後、適当量まで濃縮、残渣に水及び用いた4−ブロモフタル酸無水物と当量の水酸化カリウム水溶液を加え、反応混合物を40℃で7時間攪拌した。室温まで冷却した後、2−プロパノールを添加し、内温5℃まで冷却すると4−フェニルエチニルフタル酸モノカリウム塩が結晶として析出した。このものを濾過、2−プロパノール/水からなる混合溶媒で洗浄し、乾燥して4−フェニルエチニルフタル酸をモノカリウム塩をやや吸湿性を有する無色結晶として得た。収率は、4−ブロモフタル酸無水物を基準として、87%であった。
【実施例4】
【0032】
<4−フェニルエチニルフタル酸マグネシウム塩の合成>
前述の非特許文献2に記載の方法に従い、4−ブロモフタル酸無水物とフェニルアセチレンを反応させた。析出した不溶物を濾過して除去した後、適当量まで濃縮、残渣にメタノール、水、小過剰の水酸化マグネシウムを加え、反応混合物を6時間加熱還流した。室温まで冷却すると4−フェニルエチニルフタル酸マグネシウム塩が析出したので、メタノールを添加・希釈した後、濾過し、メタノールで洗浄し、乾燥して4−フェニルエチニルフタル酸マグネシウム塩を無色粉末として得た。収率は、4−ブロモフタル酸無水物を基準として、92%であった。融点:250℃以上(分解)
【実施例5】
【0033】
<4−(4'−フルオロフェニル)エチニルフタル酸ジナトリウム塩の合成>
フェニルアセチレンの替わりに4−フルオロフェニルアセチレンを用いて実施例1に記載の方法にほぼ従って合成を行い、4−(4'−フルオロフェニル)エチニルフタル酸ジナトリウム塩を無色粉末として得た。収率は、4−ブロモフタル酸無水物を基準として、89%であった。融点:250℃以上(分解)
【実施例6】
【0034】
<4−(3',4'−ジフルオロフェニル)エチニルフタル酸ジカリウム塩の合成>
フェニルアセチレンの替わりに3,4−ジフルオロフェニルアセチレンを、水酸化ナトリウム水溶液の替わりに水酸化カリウム水溶液を用いて実施例1に記載の方法にほぼ従って合成を行い、4−(3',4'−ジフルオロフェニル)エチニルフタル酸ジカリウム塩を無色粉末として得た。収率は、4−ブロモフタル酸無水物を基準として、86%であった。融点:250℃以上(分解)
【実施例7】
【0035】
<4−(4'−シアノフェニル)エチニルフタル酸ジナトリウム塩の合成>
フェニルアセチレンの替わりに4−シアノフェニルアセチレンを用いて実施例1に記載の方法にほぼ従って合成を行い、4−(4'−シアノフェニル)エチニルフタル酸ジナトリウム塩を無色粉末として得た。収率は、4−ブロモフタル酸無水物を基準として、80%であった。融点:250℃以上(分解)
【実施例8】
【0036】
<4−フェニルエチニルフタル酸ジナトリウム塩を用いた4−フェニルエチニルフタル酸無水物の合成>
4−フェニルエチニルフタル酸ジナトリウム塩(62g)を水に懸濁し、攪拌しながら4−フェニルエチニルフタル酸ジナトリウム塩に対して2.4倍モルの濃塩酸を滴下した。反応混合物を室温で30分攪拌の後、析出した結晶を濾過して集め、洗浄、乾燥し、4−フェニルエチニルフタル酸を無色結晶(融点:211.0〜211.6℃)として得た。
得られた結晶全量をトルエンに懸濁し、無水酢酸(25g)を加えた後、反応混合物を3時間加熱還流した。反応終了後冷却すると4−フェニルエチニルフタル酸無水物が結晶として析出したのでこれを濾過、洗浄、乾燥して47gの4−フェニルエチニルフタル酸無水物を淡黄緑色結晶として得た。収率は、4−フェニルエチニルフタル酸ジナトリウム塩を基準にして、95%であった。得られた物質の物性は、以下の通りであった。
・融点:152.1〜152.3℃
・IR νmax(KBr):3070(w),2200(m),1775(w),1770(s),1755(vs),1620(s),1495(m),1340(m),1240(vs),940(m),900(vs)cm-1
・濁度:0.1ppm(100mg試料/25mL酢酸エチル溶液)
・可視吸収:0.015(400nm),0.004(450nm)(100mg試料/25mL酢酸エチル溶液)
・GC純度:99.9%以上(測定条件は、次の通りである。カラム:DB−5MS、0.53mm×30m,キャリアーガス:ヘリウム、70kPa,検出:FID,カラム温度:100℃→300℃(昇温 10℃/分))
【実施例9】
【0037】
<4−フェニルエチニルフタル酸ジナトリウム塩を用いた4−フェニルエチニルフタル酸無水物の合成(ジカルボン酸を単離しない一貫法)>
4−フェニルエチニルフタル酸ジナトリウム塩(62g)を水、トルエン、酢酸エチルからなる混合媒体に懸濁し、攪拌しながら4−フェニルエチニルフタル酸ジナトリウム塩に対して2.4倍モルの濃塩酸を滴下した。反応混合物を室温で1時間攪拌の後、静置し、4−フェニルエチニルフタル酸を含有する有機層を分取した。有機層を部分的に濃縮した後、無水酢酸(25g)を加え、反応混合物を4時間加熱還流した。反応終了後冷却すると4−フェニルエチニルフタル酸無水物が結晶として析出したのでこれを濾過、洗浄、乾燥して48gの4−フェニルエチニルフタル酸無水物を淡黄緑色結晶として得た。収率は、4−フェニルエチニルフタル酸ジナトリウム塩を基準にして、97%であった。得られた物質の物性は、以下の通りであった。
・融点:152.0〜152.2℃
・IR:実施例8で得られたものと一致した。
・濁度:0.1ppm(条件は実施例8に記載の条件と同一)
・可視吸収:0.014(400nm),0.002(450nm)(測定条件は、実施例8と同一)
・GC純度:99.9%以上(測定条件は実施例8と同一)
【実施例10】
【0038】
<4−フェニルエチニルフタル酸マグネシウム塩を用いた4−フェニルエチニルフタル酸無水物の合成>
4−フェニルエチニルフタル酸ジナトリウム塩の替わりに4−フェニルエチニルフタル酸マグネシウム塩を用いて実施例9に記載の方法にほぼ従って合成を行い、4−フェニルエチニルフタル酸無水物を淡黄緑色結晶として得た。収率は、4−フェニルエチニルフタル酸カリウム塩を基準にして、96%であった。
物性データは実施例8に記載のものといずれも一致した。
【実施例11】
【0039】
<4−(4'−シアノフェニル)エチニルフタル酸ジナトリウム塩を用いた4−(4'−シアノフェニル)エチニルフタル酸無水物の合成>
4−フェニルエチニルフタル酸ジナトリウム塩の替わりに4−(4'−シアノフェニル)エチニルフタル酸ジナトリウム塩を用いて実施例9に記載の方法にほぼ従って合成を行い、4−(4'−シアノフェニル)エチニルフタル酸無水物をごく淡い黄緑色結晶として得た。4−(4'−シアノフェニル)エチニルフタル酸ジナトリウム塩を基準にして、ほぼ定量的に得られた。得られた物質の物性は、以下の通りであった。
・融点:223.0〜223.3℃
・MS:M+/z 273
・GC純度:99.9%以上(測定条件は実施例8と同一)
(比較例1)
【0040】
<前述の特許文献3の方法による4−フェニルエチニルフタル酸無水物の合成>
特許文献3(特開2003−73372号公報)に記載の方法に従い、4−ブロモフタル酸無水物とフェニルアセチレンから4−フェニルエチニルフタル酸無水物を合成した。 得られた4−フェニルエチニルフタル酸無水物は黄褐色結晶性粉末であった。物性値は以下の通りである。測定条件は実施例8と同一で行った。
・融点:149.1〜149.8℃
・濁度:8.1ppm
・可視吸収:0.058(400nm),0.015(450nm)
・GC純度:97.5%
(比較例2)
【0041】
<前述の特許文献2の方法による4−フェニルエチニルフタル酸無水物の合成>
特許文献2(特開平11−180970号公報)の実施例1に記載の方法に従い、4−ブロモフタル酸無水物とフェニルアセチレンから4−フェニルエチニルフタル酸無水物を合成した。得られた4−フェニルエチニルフタル酸無水物は淡黄色結晶性粉末であった。物性値は以下の通りである。測定条件は実施例8と同一で行った。
・融点:151.1〜151.8℃
・濁度:10.5ppm
・可視吸収:0.050(400nm),0.022(450nm)
・GC純度:98.7%
(比較例3)
【0042】
<非特許文献1の方法による4−フェニルエチニルフタル酸無水物の合成>
非特許文献1(Polymer,1994年,第35巻,4858頁)に記載の方法に従い、4−ブロモフタル酸無水物とフェニルアセチレンから4−フェニルエチニルフタル酸無水物を合成した。得られた4−フェニルエチニルフタル酸無水物は淡黄色結晶性粉末であった。物性値は以下の通りである。測定条件は実施例8と同一で行った。
・融点:150.5〜151.1℃
・濁度:12.1ppm
・可視吸収:0.049(400nm),0.023(450nm)
・GC純度:98.8%
【実施例12】
【0043】
<実施例9、10、比較例1〜3で得られた4−フェニルエチニルフタル酸無水物を末端基として用いたイミドオリゴマーの合成>
非特許文献1に記載の方法に従い、実施例9、10、比較例1〜3で得られた各4−フェニルエチニルフタル酸無水物、3,4’−オキシジアニリン及び4,4’−オキシジフタル酸無水物のN−メチルピロリドン溶液から、平均分子量約9000のアミド酸オリゴマー溶液を調製し、得られたアミド酸オリゴマーを遠心分離後、塗布、乾燥、及び順に100℃・225℃・350℃で各1時間熱処理を行う過程を経て、イミドオリゴマー架橋物のフィルムをそれぞれ得た。また一方で、アミド酸オリゴマーのN−メチルピロリドン溶液にトルエンを加え、共沸脱水工程、冷却、濾過、順に水・メタノールで洗浄、及び乾燥工程を経て、各イミドオリゴマーを単離した。
実施例9、10、比較例1〜3で得られた各4−フェニルエチニルフタル酸無水物に対応する上記記載の方法によって調製されたフィルムのTg及び23℃での力学特性をアメリカ材料試験協会(ASTM) D882項の方法にて、またイミドオリゴマーの5%減量に至る温度を熱天秤にて測定した。これらの結果を以下に示す。
【0044】
【表1】

【0045】
上記表1から明らかなように、本発明の製造方法により得られた4−フェニルエチニルフタル酸無水物はいずれも、極めて高い純度であって不純物が極めて少なく、これを末端封止材料として使用することにより、得られたフイルムは引張り強度、弾性率、破断伸び率及び5%原料温度のいずれも高く、優れていることがわかる。なお、実施例9や10で得られた4−フェニルエチニルフタル酸無水物を用いて上記のフイルム作成を10回行ったが、難溶解成分の発生、熟成形時や硬化時の発泡は、いずれも観測されなかったのに対し、比較例1〜3の4−フェニルエチニルフタル酸無水物を使用した場合、いずれも、難溶解成分の発生、熟成形時や硬化時の発泡が認められる場合があった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるアリールエチニルフタル酸塩化合物。
一般式(1)
【化1】


一般式(1)中、Qは置換又は無置換のアリール基を表す。M1及びM2は、各々独立に水素原子又は1価の金属陽イオンを表す。ただし、M1及びM2がともに水素原子であることはない。
【請求項2】
下記一般式(2)で表されるアリールエチニルフタル酸塩化合物。
一般式(2)
【化2】

一般式(2)中、Qは置換又は無置換のアリール基を表す。Mは、2価の金属陽イオンを表す。
【請求項3】
アリールエチニルフタル酸化合物を主成分とする反応生成混合物に、金属水酸化物又は金属酸化物を添加し、請求項1又は請求項2に記載のアリールエチニルフタル酸塩化合物を析出させることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のアリールエチニルフタル酸塩化合物の製造方法。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載のアリールエチニルフタル酸塩化合物を下記一般式(3)で表されるアリールエチニルフタル酸化合物に変換した後、脱水することを特徴とする下記一般式(4)で表されるアリールエチニルフタル酸無水物の製造方法。
一般式(3)
【化3】


一般式(3)中、Qは置換又は無置換のアリール基を表す。
一般式(4)
【化4】


一般式(4)中、Qは置換又は無置換のアリール基を表す。

【公開番号】特開2006−45150(P2006−45150A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−230433(P2004−230433)
【出願日】平成16年8月6日(2004.8.6)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】