説明

アルカリ処理固相担体を用いた不斉アルキル化合物の製造方法およびこの方法で用いられるアルカリ処理固相担体

本発明に係る不斉アルキル化合物の製造方法は、グリシンイミンエステル、ハロゲン化アルキル、および不斉合成反応を進行させる触媒作用を有する不斉触媒を含む反応溶液を、無機化合物からなる固相担体をアルカリ性の物質で処理してなるアルカリ処理固相担体に混合することにより、不斉合成反応を行う合成工程を含むことを特徴としている。こうして取得した混合物を室温で放置すれば、混合物に含まれるアルカリ処理固相担体において、不斉触媒によって触媒されるグリシンイミンエステルとハロゲン化アルキルとの間の不斉アルキル化反応が、約1時間以内に完了し、高収率で高光学純度の不斉アルキル化合物を得ることが出来る。したがって、溶媒の撹拌を必要とせず、不斉アルキル化反応が短時間で効率的かつ安定に完了し、なおかつ高収率で高光学純度の不斉アルキル化合物を合成できる、不斉アルキル化合物の製造方法を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学活性アミノ酸の原料となる不斉アルキル化合物の製造方法に関するものであり、特に、アルカリ処理した固相担体において不斉触媒を用いて不斉アルキル化合物を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光学活性アミノ酸は、食料品の原料や、医薬品の合成中間体として、幅広く用いられている。例えば、L体の光学活性アミノ酸は、動物にとって重要な栄養源であり、その一方、その光学異性体であるD体の光学活性アミノ酸は、医薬品の原料として、近年その必要性や重要性が高まっている。したがって、これらのL体やD体の光学活性アミノ酸を選択的に合成する方法を確立することは、工業的に重要な課題となっている。
【0003】
光学活性アミノ酸を最終的に取得することを目的とした方法として、近年よく用いられている方法に、相間移動触媒(phase−transfer catalysis)を用いた、グリシンイミンエステルの不斉アルキル化反応による、不斉アルキル化合物の合成方法がある。この合成方法では、互いに溶け合わない2種類の溶媒を用い、これらの溶液間を相間移動触媒が行き来することにより、グリシンイミンエステルのアルキル化反応が繰り返し行われ、不斉アルキル化合物が次々と合成される。以下では、天然アルカロイドの一種でありシンコニン塩基を不斉触媒として用い、グリシンイミンエステルとハロゲン化アルキルとを原料として、光学的に純粋なp−(4−クロロフェニル)アラニンを最終生成物として取得する例を挙げて、このような合成方法の詳細を説明する。
【0004】
この合成方法では、互いに溶け合わない溶媒として、水とジクロロエタンを用いる。このとき、水相にはNaOHを溶解し、ジクロロエタン相にはシンコニン塩基とグリシンイミンエステル、さらにハロゲン化アルキルを溶解する。次に、これらの溶媒を撹拌して混ぜ合わせる。すると、ジクロロエタン相において、シンコニン塩基が不斉触媒として働き、グリシンイミンエステルとハロゲン化アルキルとの間に不斉アルキル化反応が起こる。
【0005】
この反応によって、グリシンイミンエステルとハロゲン化アルキルから、高光学純度の不斉アルキル化合物が生成される。また、このとき、シンコニン塩基は共役酸に変換され、イオン性となって水相に移動する。すると、水相に溶解しているNaOHによって、イオン性のシンコニンは中性型のシンコニン塩基に再生され、再びジクロロエタン相に移動する。ジクロロエタン相に戻ったシンコニンは再び、不斉アルキル化反応を触媒する。
【0006】
このような一連の反応プロセスを繰り返し行うことにより、従来技術の不斉アルキル化合物の合成方法では、高収率で高光学純度の不斉アルキル化合物を合成できる。このとき、得られる不斉アルキル化合物は、(R)体または(S)体のうち、一方の光学異性体をより多く含んでいる。したがって、その中から、光学的に純粋な不斉アルキル化合物を、例えば再結晶により分離して取得することが出来る。さらに、こうして取得した光学的に純粋な不斉アルキル化合物を、例えば加水分解することにより、任意のアミノ酸を合成することができる。
【0007】
このような手法を用いた不斉アルキル化合物の合成方法は、例えば、O’Donnell,M.J.;Wu,S.;Hoffman,C.Tetrahedron,Vol 50,4507−4518,1994(以下、従来例1とする)およびLygo,B.;Wainwright,P.G.Tetrahedron Lett.,Vol 38,8595−8598,1997(以下、従来例2とする)に開示されている。
【0008】
しかし、従来例1および2に開示されているような従来技術では、短時間で効率的に不斉アルキル化合物を合成できないという問題点があった。
【0009】
例えば、従来の方法では、ジクロロエタン相と水相の相間(界面)で不斉アルキル化反応が行われる。したがって、この反応が効率的に行われるように界面の面積を出来る限り上昇させる必要があり、その実現のため、水とジクロロエタンとが混在した溶媒を、連続的に激しく撹拌する必要があった。その結果、撹拌の不均一性が原因となって、不斉アルキル化反応が不安定に行われるという問題が生じていた。また、高収率の生成物を取得するために、長時間(20時間以上)の撹拌が必要になるという問題も生じていた。さらに、不斉アルキル化反応によって得られた生成物を抽出する際、反応に用いた溶媒とは異なる多量の別種の溶媒を用いる必要性があったため、抽出作業が煩雑になるという問題も生じていた。
【発明の開示】
【0010】
本発明は上記従来の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、従来技術のように長時間で激しい溶媒の撹拌を必要とせず、不斉アルキル化反応が短時間で効率的かつ安定に完了し、なおかつ高収率で高純度の不斉アルキル化合物を製造できる、不斉アルキル化合物の製造方法およびこの方法に用いられるアルカリ処理固相担体を提供することにある。
【0011】
本発明に係る不斉アルキル化合物の製造方法は、上記課題を解決するために、グリシンイミンエステルとハロゲン化アルキルとの不斉合成反応により不斉アルキル化合物を製造する不斉アルキル化合物の製造方法であって、グリシンイミンエステル、ハロゲン化アルキル、および不斉合成反応を進行させる触媒作用を有する不斉触媒を含む反応溶液を、無機化合物からなる固相担体をアルカリ性の物質で処理してなるアルカリ処理固相担体に混合することにより、不斉合成反応を行う合成工程を含むことを特徴としている。
【0012】
また、本発明に係る不斉アルキル化合物の製造方法は、さらに、上記混合は、上記アルカリ処理固相担体の表面に上記反応溶液が薄膜状に保持されるようになされることを特徴としている。
【0013】
また、本発明に係る不斉アルキル化合物の製造方法は、さらに、上記混合は、上記反応溶液を上記アルカリ処理固相担体に滴下することにより行われることを特徴としている。
【0014】
また、本発明に係る不斉アルキル化合物の製造方法は、さらに、上記アルカリ処理固相担体は粉末状であることを特徴としている。
【0015】
また、本発明に係る不斉アルキル化合物の製造方法は、さらに、上記混合の後、上記反応溶液と上記アルカリ処理固相担体との混合物を乾燥させてからマイクロ波照射処理を行うことを特徴としている。
【0016】
また、本発明に係る不斉アルキル化合物の製造方法は、さらに、上記固相担体として、粘土鉱物および無機酸化物の少なくとも何れかが用いられることを特徴としている。
【0017】
また、本発明に係る不斉アルキル化合物の製造方法は、さらに、上記無機酸化物は金属酸化物およびケイ素酸化物の少なくとも何れかであることを特徴としている。
【0018】
また、本発明に係る不斉アルキル化合物の製造方法は、さらに、上記固相担体は、アルミナ、カオリン、カオリナイト、モンモリロナイト、ベントナイト、セライト、ゼオライト、およびケイ藻土からなる群より選択される少なくとも何れか1種であることを特徴としている。
【0019】
また、本発明に係る不斉アルキル化合物の製造方法は、さらに、上記固相担体を処理するためのアルカリ性の物質として、アルカリ性化合物の水溶液が用いられることを特徴としている。
【0020】
また、本発明に係る不斉アルキル化合物の製造方法は、さらに、上記アルカリ性化合物として、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物が用いられることを特徴としている。
【0021】
また、本発明に係る不斉アルキル化合物の製造方法は、さらに、上記アルカリ処理固相担体は、固相担体をアルカリ性化合物の水溶液で処理する処理段階の後に、処理後の固相担体を乾燥させる乾燥段階を含む調製方法により得られるものであることを特徴としている。
【0022】
また、本発明に係る不斉アルキル化合物の製造方法は、さらに、上記乾燥段階では、処理後の固相担体をマイクロ波照射処理により乾燥することを特徴としている。
【0023】
また、本発明に係る不斉アルキル化合物の製造方法は、さらに、上記アルカリ処理固相担体は、固相担体をアルカリ性化合物の水溶液で処理する処理段階の後に、処理後の固相担体を水湿潤状態にする水湿潤段階を含む調製方法により得られるものであることを特徴としている。
【0024】
また、本発明に係る不斉アルキル化合物の製造方法は、さらに、上記水湿潤段階にて、処理後の固相担体の水分が0.1〜50重量%になるように、水分を除去することを特徴としている。
【0025】
また、本発明に係る不斉アルキル化合物の製造方法は、さらに、上記不斉触媒は、シンコニジン系化合物またはシンコニン系化合物であることを特徴としている。
【0026】
また、本発明に係る不斉アルキル化合物の製造方法は、さらに、上記不斉触媒は、シンコニジン系化合物またはシンコニン系化合物であることを特徴としている。
【0027】
また、本発明に係る不斉アルキル化合物の製造方法は、さらに、上記不斉触媒は、シンコニンまたは塩化N−アントラセニルメチルシンコニジウムであることを特徴としている。
【0028】
また、本発明に係る不斉アルキル化合物の製造方法は、さらに、上記不斉触媒は、N−スピロ型四級アンモニウム塩であることを特徴としている。
【0029】
また、本発明に係る不斉アルキル化合物の製造方法は、さらに、上記グリシンイミンエステルは、次に示す式(6)
(RC=N−CH−COO−R・・・(6)
(ただし、式中、RおよびRは1価の有機基を示す)
で表される構造を有するものであることを特徴としている。
【0030】
また、本発明に係る不斉アルキル化合物の製造方法は、さらに、上記式(6)においてRで示される有機基が、芳香族構造を含む芳香族基であることを特徴としている。
【0031】
また、本発明に係る不斉アルキル化合物の製造方法は、さらに、上記式(6)においてRで示される有機基が、炭素数3以上で側鎖を含むことを特徴としている。
【0032】
また、本発明に係る不斉アルキル化合物の製造方法は、さらに、上記Rで示される有機基がt−ブチル基(メチルプロピル基)であることを特徴としている。
【0033】
また、本発明に係る不斉アルキル化合物の製造方法は、さらに、上記グリシンイミンエステルが、N−ジメチルフェニルメチレングリシンt−ブチルエステルであることを特徴としている。
【0034】
また、本発明に係る不斉アルキル化合物の製造方法は、さらに、上記ハロゲン化アルキルは、次に示す式(7)
−X・・・(7)
(ただし、式中、Rは1価の有機基を示し、Xはハロゲン原子を示す)で表される構造を有するものであることを特徴としている。
【0035】
また、本発明に係る不斉アルキル化合物の製造方法は、さらに、上記ハロゲンが臭素(Br)、フッ素(F)、ヨウ素(I)、または、塩素(Cl)であることを特徴としている。
【0036】
また、本発明に係る不斉アルキル化合物の製造方法は、さらに、上記Rで示される有機基が、アルキル基であることを特徴としている。
【0037】
また、本発明に係るアルカリ処理固相担体は、上記の不斉アルキル化合物の製造方法における合成工程に用いられ、無機化合物からなる粉末状の固相担体をアルカリ性化合物の水溶液で処理した後に、マイクロ波照射処理により乾燥してなることを特徴としている。
【0038】
また、本発明に係るアルカリ処理固相担体は、上記の不斉アルキル化合物の製造方法における合成工程に用いられ、無機化合物からなる粉末状の固相担体をアルカリ性化合物の水溶液で処理した後に、水湿潤状態にしてなることを特徴としている。
【0039】
また、本発明に係るアルカリ処理固相担体は、上記の不斉アルキル化合物の製造方法における合成工程に用いられ、無機化合物からなる粉末状の固相担体をアルカリ性化合物の水溶液で処理した後に、水分が0.1〜50重量%になるように除去してなることを特徴としている。
【0040】
また、本発明に係るアルカリ処理固相担体は、さらに、上記合成工程の終了後、洗浄用溶媒で洗浄し乾燥または水湿潤状態にすることによって再利用可能な状態となっていることを特徴としている。
【0041】
また、本発明に係るアルカリ処理固相担体は、さらに、上記洗浄用溶媒が、上記反応溶液に用いられる溶媒であることを特徴としている。
【0042】
以上のように、本発明の不斉アルキル化合物の製造方法は、アルカリ処理した固相担体において不斉アルキル化反応を行う構成であるため、従来技術で必須であった溶液の長時間に及ぶ撹拌を必要とせず、数分から約1時間という短時間で、不斉アルキル化合物を高収率かつ高光学純度で製造できるという効果を奏する。
【0043】
本発明のさらに他の目的、特徴、および優れた点は、以下に示す記載によって十分わかるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0044】
以下に、本発明の一実施形態を詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0045】
本発明による、不斉アルキル化合物の製造方法は、グリシンイミンエステル、ハロゲン化アルキル、および不斉合成反応を進行させる触媒作用を有する不斉触媒を含む反応溶液を、無機化合物からなる固相担体をアルカリ性の物質で処理してなるアルカリ処理固相担体に混合することにより、不斉合成反応を行う合成工程を含むことを特徴としている。そこで、本発明において用いられる(I)アルカリ処理固相担体、(II)反応溶液、および(III)これらの混合について、以下に詳細に説明する。
【0046】
(I)アルカリ処理固相担体
本発明で使用可能なアルカリ処理固相担体は、無機化合物からなる固相担体をアルカリ性の物質で処理してなることを特徴としている。そこで、本発明で使用可能な固相担体、そのアルカリ処理、およびアルカリ処理の際に適用可能な超音波照射処理や乾燥処理について、以下に詳述する。
【0047】
<使用可能な固相担体>
本工程でアルカリ処理される固相担体は、無機化合物からなるものであれば、任意のものでよい。その構造や組成は任意であればよく、表面上に水酸化ナトリウムなどのアルカリが吸着できる性質を有していればよい。また、この固相担体は純物質であってもよく、混合物であってもよい。例えばこの固相担体の具体例としては、金属酸化物、金属フッ化物、半導体(ケイ素等)の酸化物を挙げることができる。これら化合物は単独で用いてもよいし2種類以上を組み合わせた混合物として用いてもよい。混合物の例としては、上記化合物を含む粘土鉱物や、あるいはセラミックスを挙げることができる。
【0048】
固相担体のより具体的な例としては、アルミナ、酸化チタン、カオリン、カオリナイト、モンモリロナイト、ベントナイト、セライト、ゼオライト、ケイ藻土などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。もちろんこれら化合物や鉱物は単独で用いてもよいし2種類以上を組み合わせた混合物として用いてもよい。また、後述する不斉アルキル化反応を効率的かつ速やかに行わせるため、この固相担体の総表面積は出来るだけ広い方が好ましい。そのため、この固相担体は、例えばウレタン状の細かい網目状構造を有していることが好ましい。
【0049】
<固相担体のアルカリ処理>
上記の固相担体をアルカリ性の物質で処理する場合には、公知の手法を用いればよい。このアルカリ処理で使用するアルカリ性の物質は、任意のアルカリ性化合物であればよい。アルカリ化合物の例を挙げると、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物などがあるが、これらに限定されるものではない。
【0050】
また、使用するアルカリ化合物は、強アルカリ性であることが好ましい。これにより、アルカリ処理を確実かつ十分に行うことが出来るからである。このような強アルカリ性の化合物の例を挙げると、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム等があるが、これらに限定されるものではない。
【0051】
また、このアルカリ処理を実現する処理法は、固相担体にアルカリを結果的に吸着させることが出来る手法であれば、任意の処理法でよい。例えば、気化した上記のアルカリ化合物を、固相担体に吹き付けることによって、アルカリ処理を行うことが出来る。
【0052】
なお、固相担体を強アルカリの水溶液に浸すことによってアルカリ処理を行うことが好ましい。その際、水溶液中のアルカリ化合物の濃度は、10%〜50%の範囲内であることが好ましく、20%〜25%の範囲内であることがさらに好ましい。この範囲内の濃度であれば、固相担体に十分にアルカリ処理がなされるからである。なお、固相担体をアルカリ処理する時間は任意でよいが、4時間以上の時間をかけ、固相担体全体に十分にアルカリ処理を行うこと好ましい。このようにすれば、アルカリ処理固相担体における不斉アルキル化反応が、より効率的に行われるからである。
【0053】
また、固相担体に対するアルカリ処理は、一度のみならず何度行ってもよい。固相担体をアルカリ水溶液に浸してアルカリ処理する場合には、後述の乾燥処理を施して固相担体をいったん乾燥させたあと、再びアルカリ水溶液に浸してアルカリ処理を行うことを繰り返せば、後述の不斉アルキル化反応をより効率的かつ短時間に完了させることが可能なアルカリ処理固相担体を得ることができる。
【0054】
<超音波照射処理>
なお、上記のようにアルカリ水溶液を用いてアルカリ処理を行う固相担体に対しては、アルカリ処理中に超音波を照射することが好ましい。この超音波照射処理により、固相担体内部にまでアルカリ水溶液が浸透し、固相担体全体にアルカリ処理が行われるからである。超音波照射を行うには、任意の超音波発生器を使用すればよい。また、照射する超音波の周波数や強度、および照射時間は任意で良いが、例えば42kHzの超音波を70Wで4時間、照射すれば、固相担体全体を十分にアルカリ処理することができる。
【0055】
<乾燥処理>
固相担体をアルカリ水溶液でアルカリ処理する場合には、アルカリ処理段階後の固相担体から水分を蒸発させて乾燥させる必要がある。この水分蒸発には、任意の公知手法を用いればよい。例えば、アルカリ処理した固相担体を適当な時間、減圧環境下に放置することによって、固相担体から水分を蒸発させることができる。このとき、減圧環境を実現するには、公知の手法や器具を用いればよく、例えばガラス器具内の密封空間からアスピレーターを用いて空気を吸引することにより、減圧環境を実現できる。
【0056】
他にも、水分子を気化させるために十分な温度の熱を、水分を含んだアルカリ処理固相担体に与えることによっても、水分を蒸発させることができる。その際、アルカリ処理固相担体に対して、例えば、高熱の空気や不活性化ガス等を吹き付けたり、あるいは赤外線やマイクロ波を放射すればよい。
【0057】
その中でも好ましいのは、アルカリ処理後の固相担体に、マイクロ波を照射することである。このマイクロ波照射処理によって、固相担体内部に浸透している水分子がマイクロ波エネルギーを吸収して熱運動を起こして気化するため、固相担体に含まれる水分を完全に蒸発させて乾燥させることができるからである。
【0058】
その際、固相担体にマイクロ波を放射するためには任意の公知手法を用いればよく、例えば家庭用電子レンジを用いて実現できる。なお、アルカリ処理固相担体に照射するマイクロ波のワット数、周波数、および照射時間は任意でよく、マイクロ波照射処理の対象となる固相担体の形状や分量等の諸性質に応じて、適宜最適な条件に設定すればよい。例えば、3gの塊状のアルカリ処理固相担体をマイクロ波照射処理によって乾燥させる場合、500W、2.45GHzのマイクロ波を15分照射すれば、当該担体に含まれる水分を完全に蒸発させることができる。
【0059】
<水湿潤処理>
また、固相担体をアルカリ水溶液でアルカリ処理する場合には、固相担体をアルカリ性化合物の水溶液で処理する処理段階の後に、処理後の固相担体を水湿潤状態にしてもよい。上記「水湿潤状態」とは、アルカリ水溶液でアルカリ処理された固相担体において、水分が部分的に除去された状態のことをいう。この水湿潤状態にするには、任意の公知手法を用いればよい。例えば、アルカリ処理した固相担体を適当な時間、減圧環境下に放置することによって、固相担体から水分を部分的に蒸発させることができる。このとき、減圧環境を実現するには、公知の手法や器具を用いればよく、例えばガラス器具内の密封空間からアスピレーターを用いて空気を吸引することにより、減圧環境を実現できる。
【0060】
また、水湿潤処理においては、アルカリ処理された固相担体の水分が0.1〜50重量%になるように、水分を除去することが好ましい。アルカリ処理された固相担体の水分が50重量%を超えた状態で水分を除去した場合、固相担体がスラリー状になり、反応溶液と混じりあわないため好ましくない。また、アルカリ処理された固相担体の水分を0.1重量%以下にまで除去すると、不斉反応が遅くなるため好ましくない。
【0061】
さらに、アルカリ処理された固相単体の水分は、後述する溶媒の種類に応じて、0.1〜50重量%の範囲内で、適宜設定することができる。例えば、トルエン−トリクロロメタン混合溶媒(5:5)を用いた場合、アルカリ処理された固相担体の水分が0.5〜16重量%になるように水分を除去することがさらに好ましく、4〜14重量%になるように水分を除去することが特に好ましい。
【0062】
なお、アルカリ処理固相担体を減圧環境下で放置する時間は、水湿潤状態になれば、任意でよく、部分的な水分除去の対象となる固相担体の形状や分量等の諸性質に応じて、適宜最適な条件に設定すればよい。例えば、3gの塊状のアルカリ処理固相担体の水分を、ロータリーエバポレーターによって、水分が4〜14重量%になるように除去させる場合、15〜20時間減圧環境下で放置すれば、当該担体に含まれる水分を4〜14重量%にすることができる。
【0063】
他にも、アルカリ処理した固相担体を水湿潤状態にするために(1)マイクロ波を短時間照射する(2)アルカリ処理した固相担体を完全に乾燥した後、水を添加する等の方法が挙げられる。
【0064】
<使用回数>
以上のようにして取得できるアルカリ処理固相担体は、後述する不斉アルキル化反応に、繰り返して何度も使用できる。使用回数に特に制限はなく、固相担体を上記のようにして一度アルカリ処理すれば、不斉アルキル化反応に用いた後、反応溶液を洗い流して乾燥あるいは水湿潤状態にさせれば、例えば10回程度、繰り返して不斉アルキル化反応に使用できる。
【0065】
(II)反応溶液
本発明による不斉アルキル化合物の製造方法では、上記のアルカリ処理固相担体と混合する反応溶液として、グリシンイミンエステル、ハロゲン化アルキル、および不斉合成反応を進行させる触媒作用を有する不斉触媒を含む反応溶液を使用する。そこで、この反応溶液に使用可能な溶媒、グリシンイミンエステル、ハロゲン化アルキル、および不斉触媒、ならびにこれらを使用して調製する反応溶液の調製方法について、以下に詳述する。
【0066】
<不斉触媒等を溶解する溶媒>
反応溶液に使用する溶媒は、後述の不斉触媒、グリシンイミンエステル、およびハロゲン化アルキルを、何れも溶解させることができる性質を有する溶媒であれば、任意のものでよい。このような溶媒として、例えば、ジエチルエーテル、ジメチルエーテル、ビニルエーテル、ジオキサン、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、グリコールジメチルエーテルなどのエーテル類;トルエン、ベンゼン、キシレン、ヘキサン、シクロヘキサンなどの炭化水素類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ヘキサメチルリン酸トリアミドなどのアミド類;氷酢酸、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、ジクロロメタン、トリクロロメタンもしくはピリジン等を使用でき、これら溶媒を2種類以上混合したものも使用可能である。
【0067】
上記溶媒を2種類以上混合したものを用いる場合、溶媒として、トルエン−ジクロロメタン混合溶媒、トルエン−トリクロロメタン混合溶媒、または、トルエン−シアン化メタン混合溶媒などが挙げられる。特に、後述する実施例6に示すように、溶媒としてトルエン−トリクロロメタン混合溶媒を用いる場合、混合比率を5:5とすることで、目的とする不斉アルキル化合物を短時間で、高収率かつ高鏡像体過剰率で製造できる。
【0068】
また、上記溶媒としては、液体状になっていれば、特に限定されるものではなく、液体中に固体粒子が分散して懸濁液の状態であるスラリー状であってもよい。
【0069】
<不斉触媒>
反応溶液に含まれる不斉触媒、すなわち反応溶液に使用する溶媒に溶解する不斉触媒は、不斉合成反応を進行させる触媒作用を有する不斉触媒であれば、任意のものでよい。さらに、グリシンイミンエステルとハロゲン化アルキルとの間の不斉アルキル化反応を促進できる性質の触媒であればよい。このような不斉触媒として、例えばバイナフトール、ロジウム錯体、モリブデン錯体、天然アルカロイドであるシンコニンおよびシンコニジン、あるいは、N−スピロ型四級アンモニウム塩を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0070】
特に、上記不斉触媒は、シンコニジン系化合物またはシンコニン系化合物であることが好ましい。「シンコニジン系化合物」または「シンコニン系化合物」とは、その化学構造中に、シンコニジンまたはシンコニンの化学構造を有する化合物のことをいう。
【0071】
また、これらの不斉触媒に何らかの残基を結合させて塩とし、相間移動型の触媒としてもよい。例えば、シンコニジンにアントラセンを結合した塩化N−アントラセニルメチルシンコニジウム(HCD−ANT)、ナフタレンにシンコニジンを2つ結合したHCD−OH、HCD−OHのOH基をアリル基に置換したHCD−アリル、または、ナフタレンにシンコニンを2つ結合させたHCN−OHを、本発明において不斉触媒として用いることが出来る。なお、ここでいう「HCD」とは、シンコニジン系化合物を表わし、「HCN」とは、シンコニン系化合物を表わす。上記のHCD−ANT、HCD−OH、HCD−アリル、及び、HCN−OHをそれぞれ、以下の構造式(1)、構造式(2)、構造式(3)、構造式(4)に示す。
【0072】
【化1】

さらに、N−スピロ型四級アンモニウム塩に属するN−スピロ型C2対称キラル四級アンモニウムブロマイド(以下、s,s−NASBと記す)を以下の構造式(5)に示す。
【0073】
【化2】

なお、本工程で溶媒に溶解する不斉触媒の絶対配置によって、後述の混合工程において不斉合成される不斉アルキル化合物の、絶対配置((R)体または(S)体)が決定される。例を挙げると、合成される不斉アルキル化合物は、不斉相間移動触媒としてシンコニン、HCN−OH、または、s,s−NASBを使用した場合には(R)体となり、HCD−ANT、HCD−OH、または、HCD−アリルを使用した場合には(S)体となる。
【0074】
目的とする不斉アルキル化合物が(S)体である場合、後述する実施例3に示すように、不斉触媒としてHCD−アリルを用いることが好ましい。こうすることで、目的とする不斉アルキル化合物を短時間で、高収率かつ高鏡像体過剰率で製造できる。目的とする不斉アルキル化合物が(R)体である場合、後述する実施例3及び13に示すように、不斉触媒として、HCN−OH、または、S,S−NASBを用いることが好ましい。
【0075】
なお、本発明で使用する不斉触媒は、市販品を入手するか、または公知の手法で合成することにより、調製することができる。
【0076】
<グリシンイミンエステル>
反応溶液に含まれるグリシンイミンエステル、すなわち反応溶液に使用する溶媒に溶解するグリシンイミンエステルは、以下の化学式(6)で表される化合物であることが好ましい。
【0077】
(RC=N−CH−COO−R・・・(6)
ただし、式(6)中、RおよびRは、1価の有機基を示す。また、Rで示される有機基は、合成される不斉アルキル化合物のアミノ基を保護できる任意の置換基であることが好ましい。例えばRで示される有機基は、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、フリル基、アルキル基、ニトロ基、あるいはシアノ基であればよいが、これらに限定されるものではない。その中でも、アミノ基を安定して保護できるため、フェニル基やビフェニル基などの、芳香族構造を有するアルキル基であることが好ましい。
【0078】
また、式(6)中、Rで示される有機基は、合成される不斉アルキル化合物のカルボキシル基を保護できる任意の置換基であることが好ましい。例えばRで示される有機基は、ブチル基、プロピル基、ベンジル基、あるいはナフチルメチル基であればよいが、これらに限定されるものではない。
【0079】
また、Rで示される有機基は、置換基の中でも、炭素数が3以上で側鎖を含むことが好ましい。このような、立体構造に三次元的な広がりを有した置換基であれば、不斉アルキル化合物のカルボキシル基をより安定して保護できるからである。このような置換基の挙を挙げると、カルボキシル基に直接結合する炭素原子に、3つの他の置換基が結合した構造を有する、第三級置換基がある。この第三級置換基には、例えばt−ブチル基が該当する。
【0080】
なお、式(6)によって表されるグリシンイミンエステルは、以下に説明するハロゲン化アルキルと共に不斉アルキル化反応が起こる化合物であれば、どのような組成であってもよい。例えば、本発明では、グリシンイミンエステルとしてN−ジフェニルメチレングリシンt−ブチルエステルや、あるいはN−ビス(4−フェニル)メチレングリシン−iso−プロピルエステル等を使用できる。
【0081】
また、本発明で使用するグリシンイミンエステルは、市販品を入手するか、または公知の手法で合成することにより、調製することができる。
【0082】
<ハロゲン化アルキル>
反応溶液に含まれる、すなわち、反応溶液に使用する溶媒に溶解するハロゲン化アルキルは、以下の式(7)で表される化合物であることが好ましい。
【0083】
−X・・・(7)
ただし、式(7)中、Rは1価の有機基を示し、Xはハロゲン原子を示す。Rで示される有機基は、任意のアルキル基であることが好ましい。また、なかでも、Rで示される有機基を、本発明で合成する不斉アルキル化合物を基に、最終的に取得したいアミノ酸に含まれる置換基に合わせたアルキル基にすることが好ましい。すなわち、Rで示される有機基は、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、アミル基、ヘキシル基、ベンジル基、ナフチルメチル基、またはエステル基とすることができるが、これらに限定されるものではない。
【0084】
なかでも、Rで示される有機基は、芳香族構造を含むアルキル基(ベンジル基、ナフチルメチル基等)であることが好ましい。さらに、Rで示される有機基は、上記のアルキル基に含まれる水素が、任意の他の置換基やハロゲン元素に置換されたものであってもよい。例えば、Rで示される有機基は、フェニル基のパラ位置にある水素が塩素(Cl)に置換されているパラクロロベンジル基とすることもできる。
【0085】
また、式(7)中、Xで示される原子は、任意のハロゲン原子であればよい。すなわち、Xで示される原子は、フッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)、またはヨウ素(I)とすることができる。不斉アルキル化反応が効率的に行われるため、このHで示される原子は臭素(Br)であることが好ましい。すなわち、本発明で用いるハロゲン化アルキルは、アルキルブロミドことが好ましい。
【0086】
なお、式(7)によって表されるハロゲン化アルキルは、上述のグリシンイミンエステルと共に不斉アルキル化反応を起こす化合物であれば、任意のものであってよい。本発明で使用可能なハロゲン化アルキルの例を挙げると、2−(ブロモメチル)ナフタレン、1−(ブロモメチル)−4−クロロベンゼン、またはブロモメチルベンゼン等がある。
【0087】
また、本発明で使用するハロゲン化アルキルは、市販品を入手するか、または公知の手法で合成することにより、調製することができる。
【0088】
<反応溶液の調製>
反応溶液を調製するには、上記の溶媒に、不斉触媒、グリシンイミンエステル、およびハロゲン化アルキルを、公知手法を用いて溶解すればよい。このとき使用する溶媒は、一種類の純粋溶媒として用いてもよく、また、互いに溶け合うなら、複数の溶媒を混合した混合溶媒として用いても良い。一方、溶媒に溶解させるグリシンイミンエステルおよびハロゲン化アルキルは、それぞれ複数種類ずつであってもよいが、それぞれ一種類ずつに限定する方が、得られる不斉アルキル化合物を分離して精製する手間を単純化できるため好ましい。
【0089】
また、溶媒に溶解する不斉触媒の量は任意でよいが、最終濃度が0.01M〜0.05Mの範囲内に収まるようにすることが好ましい。さらに、溶媒に溶解するグリシンイミンエステルの量も任意でよいが、最終濃度が0.1M〜0.5Mの範囲内に収まるようにすることが好ましい。なお、溶媒に溶解するハロゲン化アルキルの量も任意でよいが、最終濃度が0.12M〜0.6Mの範囲内に収まるようにすることが好ましい。
【0090】
このとき、溶媒に溶解するグリシンイミンエステルとハロゲン化アルキルとの比率は、任意の比率であって良いが、モル濃度において1対1にすることが好ましい。この比率にすることによって、両者を無駄に余らせることなく不斉アルキル反応に供与させることができるからである。また、溶媒に溶解する不斉触媒の、グリシンイミンエステルまたはハロゲン化アルキルに対する比率は、任意の比率で良いが、1mol%〜20mol%の範囲内であることが好ましい。この範囲内の比率にすることによって、不斉アルキル化反応を効率よく触媒できるからである。
【0091】
また、以上にようにして調製した反応溶液は、調製直後に使用することが好ましい。溶解した不斉触媒、グリシンイミンエステル、およびハロゲン化アルキルが、溶媒中に安定して存在しているからである。なお、調製直後の反応溶媒を極低温(例えば、−80℃以下)で保存するなど、保存方法を工夫することによって、調製した後に保存した反応溶液をいつでも使用することができる。
【0092】
(III)アルカリ処理固相担体と反応溶液との混合
本発明では、上述のようにして取得できるアルカリ処理固相担体と反応溶液とを混合する。この混合処理により、不斉合成反応を行う合成工程が実施され、混合物中のアルカリ処理固相担体において、不斉触媒によって触媒される、グリシンイミンエステルとハロゲン化アルキルとの間の不斉アルキル化反応が行われる。そこで以下では、この混合処理において用いるアルカリ処理固相担体の形状および量等の、詳しい条件について説明する。
【0093】
<アルカリ処理固相担体の形状および量>
反応溶液と混合するアルカリ処理固相担体の形状は、任意のものでもよい。例えば、塊状、粒子状、あるいは粉体状にすることができる。その中でも、総表面積が出来るだけ広くなるような形状であることが好ましい。このような形状にすれば、不斉アルキル化反応を効率的かつ速やかに行わせることができるからである。このような形状の例を挙げると、粉体状がある。なお、アルカリ処理固相担体を粉体状にするには、例えば乳鉢等で細かく砕けばよい。
【0094】
また、反応溶液と混合するアルカリ処理固相担体の使用量も任意であってよく、目的とする不斉アルキル化合物の製造量に合わせて、適宜最適な量とすればよい。
【0095】
<反応溶液の量>
アルカリ処理固相担体と混合する反応溶液の量は、任意でよい。すなわち、目的とする不斉アルキル化合物の製造量に合わせて、適宜最適な量を選択すればよい。このとき、アルカリ処理固相担体と反応溶液との混合比は任意でよいが、1gのアルカリ処理固相担体に対して0.4mlの反応溶液を使用することが、不斉アルキル化反応を短時間で完了させることができるため好ましい。
【0096】
なお、本工程でアルカリ処理固相担体と反応溶液とを混合した後、反応溶液は、アルカリ処理固相担体の表面に、出来るだけ薄く、かつ均一に塗布された状態になっていることが好ましい。例えば、反応溶液は、アルカリ処理固相担体の表面に、薄膜状に保持されていることが好ましい。このような状態を取ることによって、アルカリ処理固相担体における不斉アルキル化反応が、効率的かつ速やかに進行するからである。
【0097】
<混合手法>
また、アルカリ処理固相担体と反応溶液とを混合する手法も、任意の公知手法でよい。例えば、粉砕して粉状にしたアルカリ処理固相担体に、反応溶液を滴下して、そのまま放置するだけでもかまわない。あるいは、任意形状のカラムに粉状のアルカリ処理固相担体を詰めたものを用意し、このカラムに反応溶液を連続的に流入してもよい。本発明では、アルカリ処理固相担体と反応溶液とを混合した混合物を放置して静止状態におくだけで、不斉アルキル化反応が速やかに行われ、完了する。しかし、混合物をそのまま放置しておくのではなく、ミキサーを使用して撹拌したり、あるいは振盪機を使用して振盪したりしてもよい。
【0098】
<その他の条件>
混合物において不斉アルキル化反応が完了するには、室温では最低1時間あればよい。なお、その間、混合物に含まれる反応溶液の溶媒が蒸発して、アルカリ処理固相担体が乾燥しない状態に保つことが好ましい。溶媒が蒸発すると、不斉アルキル化反応の完了に著しく長い時間(6日以上)が必要となるからである。なお、例えば−20℃の温度下に混合物を保持しても、不斉アルキル化反応は行われるが、その場合、反応の完了に必要な時間が、室温下での反応に比べて約5倍以上に増加する。また、混合物は大気圧に保持することが好ましいが、溶媒が蒸発しない程度の圧力下であれば、任意の圧力下に保持してもかまわない。
【0099】
<マイクロ波照射処理>
なお、混合物を、反応溶液の溶媒が乾燥しない条件下に保持する代わりに、溶媒を乾燥させた上で、さらにマイクロ波照射処理を行うことによっても、不斉アルキル化反応を行わせることが出来る。こうすることにより、アルカリ処理固相担体における不斉アルキル化反応は、5〜10分程度で完了する。なお、このとき照射するマイクロ波のワット数、周波数、および照射時間は任意でよく、マイクロ波照射処理するアルカリ処理固相担体の形状や分量等に応じて、適宜最適な条件を設定すればよい。例えば、3gのアルカリ処理固相担体に対してマイクロ波照射処理を行うことにより、この担体における不斉アルキル化反応を促進させる場合、500W、2.45GHzのマイクロ波を7分間、照射すれば、当該担体における不斉アルキル化反応を完了させることができる。
【0100】
<抽出処理>
上述の不斉アルキル化反応が完了したアルカリ処理固相担体から、目的の生成物、すなわち不斉アルキル化合物を抽出するためには、公知の抽出手法を用いればよい。例えば、反応完了後のアルカリ処理固相担体を、不斉アルキル化合物を溶解できる任意の溶液で洗い流すことによって、生成物である不斉アルキル化合物を抽出できる。
【0101】
なお、その際、不斉アルキル化反応に用いた反応溶液の溶媒と同一溶液を用いることが好ましい。洗い流した溶液に含まれる不斉アルキル化合物の精製作業を簡略化できるからである。また、洗い流しに使用する溶媒の量は、出来るだけ少なくすることが好ましい。例えば、使用した反応溶液の、約10〜50倍の溶媒を用いることが好ましい。この範囲内の溶液で洗い流すことによって、溶液に含まれている、生成物である不斉アルキル化合物の濃縮を、簡略化できるからである。
【0102】
(IV)その他
<生成物の分離精製>
以上のようにして、アルカリ処理固相担体と反応溶液とを混合すると、以下の式(8)に示す不斉アルキル化反応が生じ、目的の不斉アルキル化合物が合成される。
【0103】
【化3】

ただし、式(8)中、R、R、およびRは、上記の式(6)および(7)に示すR、R、およびRと同一である。また、*は不斉中心を表す。
【0104】
この式(8)で示される不斉アルキル化反応によって合成される不斉アルキル化合物は、鏡像体過剰率が高い状態(例えば、80%前後)となっている。言い換えると、合成される不斉アルキル化合物は、含まれる(S)体または(R)体のうち、一方がもう一方よりも多い状態となっている。この不斉アルキル化合物を光学的に純粋な不斉アルキル化合物にする、すなわち鏡像体過剰率を100%にするためには、得られた不斉アルキル化合物から、目的の(S)体または(R)体のどちらか一方を分離して精製すればよい。
【0105】
この分離精製を行うためには、得られた不斉アルキル化合物に対して、公知の分離手法を適用すればよい。例えば、得られた不斉アルキル化合物を、キラルカラム等を用いる液相クロマトグラフィーや高速液体クロマトグラフィー等によって、目的の光学異性体に分離できる。また、(S)体と(R)体とが異なる温度で結晶化されることを利用した、結晶化による自然分離法によっても、得られた不斉アルキル化合物から、目的の光学異性体を分離することができる。他にも、得られた不斉アルキル化合物に含まれる(S)体または(R)体のどちらか一方のみを分解する酵素を使用して、目的でない方の光学異性体を完全に分解することにより、目的の光学異性体を分離してもよい。あるいは、得られた不斉アルキル化合物に旋光性塩基(キニン、ストリキニン、ブルシンなど)または旋光性酸(酒石酸、プロモカンファースルホン酸など)を加えてジアステレオマー塩を得る手法も利用できる。この場合、これらの塩を分別晶出によって分離してから、酸またはアルカリで分離して、目的の光学異性体を精製できる。他にも、(S)体と(R)体に対する吸着力の差を利用した、合成高分子化合物を用いた分離方法も使用できる。
【0106】
<光学活性アミノ酸の取得>
上述のようにして得られる不斉アルキル化合物は、収率、鏡像体過剰率ともに高いため、高純度の光学活性アミノ酸の良質な前駆体となる。すなわち、本発明の工程を経て合成し、さらに分離して精製した不斉アルキル化合物は、加水分解処理を施すことで、各種のアミノ酸に変換できる。なお、このとき加水分解に用いる手法は、任意の公知手法のものでよい。
【0107】
以下、本発明の好ましい様態を実施例においてより詳細に説明するが、これらの実施例は、本発明を説明するためのものであり、本発明がこれに限定されるものではないことは言うまでもない。当業者は、本発明の範囲を逸脱することなく種々の変更、修正、および改変を行うことができる。
【実施例1】
本実施例では、アルカリ処理固相担体と反応溶液とを取得してから、これらを混合し、室温または−20℃の条件下で安静に放置することにより、不斉アルキル化合物を製造した。
【0108】
まず、アルカリ処理固相担体を次のようにして調製した。3gの担体(アルミナ、モンモリロナイトK−10、カオリン)を、25%KOH水溶液4mlに加えた。この混合物に超音波(42kHz)を4時間、照射した。次に、アスピレーター(東京理科器機製)を用いて、この混合物から水を減圧環境下で濾過を行い除去した。こうして得た固相担体に対して、500Wの家庭用電子レンジ(EM−LAI、三洋電機)を用いて2.45GHzのマイクロ波を15分間、照射した。この後、マイクロ波照射処理を行ったアルカリ処理固相担体を、乳鉢で細かく粉砕した。このようにして、三種のアルカリ処理固相担体(アルミナ/KOH、モンモリロナイトK−10/KOH、およびカオリン/KOH)を得た。
【0109】
次に、反応溶液を以下のようにして調製した。
【0110】
2mlのジクロロメタンに、不斉触媒を0.005mmol、グリシンイミンエステルを0.05mmol、そしてハロゲン化アルキルを0.063mmol、それぞれ溶解して、反応溶液を調製した。このとき、不斉触媒には塩化N−アントラセニルメチルシンコニジウムを用いた。また、グリシンイミンエステルにはN−ジメチルメチレングリシン−t−ブチルエステルを用いた。さらに、ハロゲン化アルキルには、2−(ブロモメチル)ナフタレン、2−(ブロモメチル)パラクロロベンゼン、または2−(ブロモメチル)ベンゼンのうち、いずれか1種類を用いた。
【0111】
こうして調製した反応溶液に、上記三種類のアルカリ処理固相担体のいずれか1種類を0.5g加えて両者を混合した。混合物は室温で60分、安静に放置して、不斉アルキル化反応を行わせた。反応の進行状況は、薄層クロマトグラフィー(TLC)で確認した。なお、TLCは、プレートにシリカゲルプレートを用い、溶媒にヘキサン、酢酸エチル、およびジエチルエーテルを9:1:1の割合で混合した混合溶媒を用いた条件で行った。TLCの結果を基にして、不斉アルキル化反応が完了したことを確認した後、反応混合物に5mlのジクロロエタンを混合し、固相担体から生成物(不斉アルキル化合物)を抽出した。この抽出処理は二回行った。抽出物はエバポレーター(東京理科器機製)を使用して濃縮した。
【0112】
このようにして抽出して濃縮した反応溶液から、C18カラム(長さ15cm、直径19mm)を備えた高速液体クロマトグラフィー(HPLC、Waters社製)によって、目的の(S)体または(R)体の生成物を分離して精製した。その際、このHPLCでは、メタノール:水(v:v)のの比率を、初期条件60:40から最終条件100:0へと段階的に変化させて、生成物の分離を行った。その際、得られた生成物の鏡像体過剰率は、キラルカラム(DaicelChiralcelOD、長さ25cm、直径4.6cm)を備えたHPLC(Waters社製)によって決定した。このとき、ヘキサン:2−プロパノールを99:1の割合で混合した溶液を、1分間に1mLカラムに流して、カラムの温度が35℃の際の220nmの吸光度を測定することによって、鏡像体過剰率を決定した。また、得られた生成物に含まれる主な(過剰な)光学異性体の絶対配置((R)または(S))は、純粋な(R)体と(S)体の光学異性体をそれぞれHPLCで処理した際の保持時間を基準にして決定した。
【0113】
結果を次の表1に示す。
【0114】
【表1】

ここで、表1中、「R−Br」はハロゲン化アルキルを意味し、「a」、「b」、および「c」は、ハロゲン化アルキルを示す上記式(7)に含まれるRで示される置換基の種類を表している。これら「a」、「b」、および「c」に該当する置換基を、以下の式(9)内に示す。また、「担体」とはアルカリ処理の対象とした固相担体を意味し、「Mont−K10」はモンモリロナイトK−10のことである。
【0115】
【化4】

表1に示すように、本実施例では、六種類の異なる条件で不斉アルキル化反応を行い、生成物を取得した。このとき、得られた生成物は、いずれも上記の式(8)によって合成される生成物であり、なおかつ、生成物に含まれるRで示される置換基が、それぞれ使用したハロゲン化アルキルに含まれる「a」、「b」、または「c」で示される置換基に合致する結果となった。
【0116】
なお、表1に示す4番目の条件では、他の条件と異なり、反応溶液にカオリン/KOHを加えた混合物を−20℃で放置して、不斉アルキル化反応を行わせている。
【0117】
表1に示す結果から、生成物に含まれる主な(過剰な)光学異性体は、六種類の異なる条件の全てにおいて、いずれも(S)体であった。
【0118】
また、反応の完了に必要な時間は、室温では30〜60分であり、−20℃では300分であった。さらに、生成物の収率は93〜95%であり、鏡像体過剰率は72〜79%であった。
【0119】
以上の結果は、本発明の不斉アルキル化合物の製造方法によって、目的とする不斉アルキル化合物を短時間で、高収率かつ高鏡像体過剰率で製造できることを示している。さらに、以上の結果は、アルカリ処理した固相担体の構造や種類の違いが、生成物の収率や光学異性体選択性にほとんど影響しないことも示している。
【実施例2】
反応溶液とアルカリ処理固相担体と混合させた後、溶媒であるジクロロエタンを完全に蒸発させてから、不斉アルキル化反応中に500Wで2.45GHzのマイクロ波を照射した点以外は、実施例1と同様にして、不斉アルキル化合物を合成した。結果を次の表2に示す。
【0120】
【表2】

ここで、表2に示す「R−Br」等が意味する具体物は、実施例1の表1に示すものと同一である。
【0121】
表2に示すように、本実施例では、五種類の異なる条件で不斉アルキル化反応を行い、生成物を取得した。このとき、得られた生成物は、いずれも上記の式3によって合成される生成物であり、なおかつ、生成物に含まれるRで示される置換基が、それぞれ使用したハロゲン化アルキルに含まれる「a」、「b」、または「c」で示される置換基に合致する結果となった。
【0122】
また、表2に示す結果から、生成物に含まれる主な(過剰な)光学異性体は、五種類の異なる条件の全てにおいて、いずれも(S)体であった。なお、表2には示していないが、不斉触媒としてシンコニンを使用した場合、得られた生成物に含まれる主な(過剰な)光学異性体は(R)体となった。
【0123】
以上の結果は、不斉アルキル化反応の最中に、アルカリ処理固相担体に対してマイクロ波照射処理を行っても、得られる生成物の構造や、あるいは主な(過剰な)光学異性体に変化は生じないことを示している。
【0124】
一方、表2に示すように、不斉アルキル化反応の完了に必要な時間は4〜7分となり、実施例1に比較して約10分の1近くまで減少した。また、生成物の収率は58〜68%であり、鏡像体過剰率は32〜58%であった。
【0125】
以上の結果は、アルカリ処理固相担体に反応溶液を混合させた後、溶媒を蒸発させてマイクロ波照射処理を行うと、不斉アルキル化反応の反応速度が、マイクロ波照射処理を行わない場合に比べて、約10倍近く増加することを示している。
【実施例3】
本実施例では、反応溶液として、0.2mlのジクロロメタンに、不斉触媒を0.005mmol、グリシンイミンエステルを0.05mmol、そしてハロゲン化アルキルを0.084mmol、それぞれ溶解したものを用いた。このとき、グリシンイミンエステルにはN−ジメチルメチレングリシン−t−ブチルエステルを用いた。さらに、ハロゲン化アルキルには、2−(ブロモメチル)ベンゼンを用いた。また、不斉触媒には、シンコニジン系化合物に属するHCD−OH、HCD−アリル、または、シンコニン系化合物に属するHCN−OHのうち、いずれか1種類を用いた。
【0126】
また、アルカリ処理固相担体としてカリオン/KOHを用いた。上記反応溶液にカオリン/KOHを0.51g加えて両者を混合し20℃で放置して、実施例1と同様にして、不斉アルキル化合物を合成した。結果を次の表3に示す。
【0127】
【表3】

表3に示すように、本実施例では、三種類の異なる不斉触媒で不斉アルキル化反応を行い、生成物を取得した。その結果、反応の完了に必要な時間は1〜6.5時間であった。さらに、生成物の収率は86〜97%であり、鏡像体過剰率は81〜84%であった。特に、不斉触媒として、シンコニジン系化合物に属するHCD−アリルを用いた場合、反応の完了に必要な時間、生成物の収率、及び、鏡像体過剰率ともに良好であった。
【0128】
なお、表3に示すように、不斉触媒としてシンコニン系化合物に属するHCN−OHを使用した場合、得られた生成物に含まれる主な(過剰な)光学異性体は(R)体となった。
【0129】
以上の結果は、不斉触媒として、シンコニジン系化合物に属するHCD−アリルを用いた場合、目的とする不斉アルキル化合物を短時間で、高収率かつ高鏡像体過剰率で製造できることを示している。
【実施例4】
本実施例では、反応溶液として、0.2mlのジクロロメタンに、不斉触媒を0.005mmol、グリシンイミンエステルを0.05mmol、そしてハロゲン化アルキルを0.084mmol、それぞれ溶解したものを用いた。このとき、グリシンイミンエステルにはN−ジメチルメチレングリシン−t−ブチルエステルを用いた。さらに、ハロゲン化アルキルには、2−(ブロモメチル)ベンゼンを用いた。また、不斉触媒には、HCD−アリルを用いた。
【0130】
また、アルカリ処理固相担体として、カオリン/KOH、アルミナ/KOH、モンモリロナイトK−10/KOH、または、セライト/KOHの何れか1種を用いた。上記反応溶液に上記四種類のアルカリ処理固相担体のいずれか1種類を0.51g加えて両者を混合し20℃で放置して、実施例1と同様にして、不斉アルキル化合物を合成した。結果を次の表4に示す。
【0131】
【表4】

表4に示すように、本実施例では、四種類の異なる担体で不斉アルキル化反応を行い、生成物を取得した。その結果、反応の完了に必要な時間は0.5〜140時間であった。さらに、生成物の収率は50〜97%であり、鏡像体過剰率は62〜86%であった。特に、担体として、カオリンを用いた場合、反応の完了に必要な時間、生成物の収率、及び、鏡像体過剰率ともに良好であった。
【0132】
以上の結果は、担体として、カオリンを用いた場合、目的とする不斉アルキル化合物を短時間で、高収率かつ高鏡像体過剰率で製造できることを示している。
【実施例5】
本実施例では、反応溶液として、0.2mlのジクロロメタンに、不斉触媒を0.005mmol、グリシンイミンエステルを0.05mmol、そしてハロゲン化アルキルを0.084mmol、それぞれ溶解したものを用いた。このとき、グリシンイミンエステルにはN−ジメチルメチレングリシン−t−ブチルエステルを用いた。さらに、ハロゲン化アルキルには、2−(ブロモメチル)ベンゼンを用いた。また、不斉触媒には、HCD−アリルを用いた。
【0133】
また、アルカリ処理固相担体については、3gの担体(カオリン)を、アルカリ水溶液4mlに加え、上記実施例1と同様の方法で調製した。このとき、アルカリ溶液には、25%NaOH水溶液、10%KOH水溶液、15%KOH水溶液、20%KOH水溶液、25%KOH水溶液、30%KOH水溶液の何れか1種類を用いた。
【0134】
上記反応溶液に上記六種類のアルカリ処理固相担体のいずれか1種類を0.51g加えて両者を混合して、実施例1と同様にして、不斉アルキル化合物を合成した。結果を次の表5に示す。
【0135】
【表5】

表5に示すように、本実施例では、濃度また種類が異なる六種類のアルカリ溶液を用いて不斉アルキル化反応を行い、生成物を取得した。その結果、反応の完了に必要な時間は0.75〜12時間であった。さらに、生成物の収率は75〜89%であり、鏡像体過剰率は81〜91%であった。特に、アルカリ溶液として、20%または25%のKOH溶液を用いた場合、反応の完了に必要な時間、生成物の収率、及び、鏡像体過剰率ともに良好であった。
【0136】
以上の結果は、アルカリ溶液として、20%〜25%のKOH溶液を用いた場合、目的とする不斉アルキル化合物を短時間で、高収率かつ高鏡像体過剰率で製造できることを示している。
【実施例6】
本実施例では、反応溶液として、所定量の溶媒に、不斉触媒を0.005mmol、グリシンイミンエステルを0.05mmol、そしてハロゲン化アルキルを0.084mmol、それぞれ溶解したものを用いた。このとき、グリシンイミンエステルにはN−ジメチルメチレングリシン−t−ブチルエステルを用いた。さらに、ハロゲン化アルキルには、2−(ブロモメチル)ベンゼンを用いた。また、不斉触媒には、HCD−アリルを用いた。また、上記所定量の溶媒には、0.2mlのジクロロメタン(CHCl)、0.1mlのトルエン(PhCH)−ジクロロメタン混合溶媒(3:7)、0.1mlのトルエン−ジクロロメタン混合溶媒(4:6)、0.1mlのトルエン−トリクロロメタン混合溶媒(5:5)、0.15mlのトルエン−トリクロロメタン混合溶媒(6:4)、0.1mlのトルエン−トリクロロメタン混合溶媒(6:4)、0.15mlのトルエン−トリクロロメタン混合溶媒(7:3)、0.1mlのトルエン−シアン化メタン(CHCN)混合溶媒(7:3)、または0.1mlのトルエン−シアン化メタン混合溶媒(8:2)のうち何れか1種類を用いた。
【0137】
また、アルカリ処理固相担体として、カオリン/KOHを用いた。上記反応溶液にアルカリ処理固相担体を0.51g加えて両者を混合して、実施例1と同様にして、不斉アルキル化合物を合成した。結果を次の表6に示す。
【0138】
【表6】

ここで、表6中の5番目及び7番目は、アルカリ処理された固相担体と反応溶液との混合物がスラリー状となった場合における結果である。
【0139】
表6に示すように、本実施例では、混合比率、種類または添加量が異なる九種類の溶媒を用いて不斉アルキル化反応を行い、生成物を取得した。その結果、反応の完了に必要な時間は0.5〜23時間であった。さらに、生成物の収率は71〜97%であり、鏡像体過剰率は84〜91%であった。特に、溶媒として、トルエン−トリクロロメタン混合溶媒を用いた場合、鏡像体過剰率が良好であった。さらに0.1mlのトルエン−トリクロロメタン混合溶媒(5:5)を用いた場合、反応の完了に必要な時間、生成物の収率、及び、鏡像体過剰率ともに良好であった。
【0140】
以上の結果は、溶媒として、トルエン−トリクロロメタン混合溶媒を用いた場合、特にトルエン−トリクロロメタン混合溶媒(5:5)を用いた場合、目的とする不斉アルキル化合物を短時間で、高収率かつ高鏡像体過剰率で製造できることを示している。
【実施例7】
本実施例では、反応溶液として、0.2mlの溶媒に、不斉触媒を0.005mmol、グリシンイミンエステルを0.05mmol、そしてハロゲン化アルキルを0.084mmol、それぞれ溶解したものを用いた。このとき、グリシンイミンエステルにはN−ジメチルメチレングリシン−t−ブチルエステルを用いた。さらに、ハロゲン化アルキルには、2−(ブロモメチル)ベンゼンを用いた。また、不斉触媒には、シンコニン系化合物に属するHCN−OHを用いた。また、上記溶媒には、ジクロロメタン(CHCl)、トルエン−ジクロロメタン混合溶媒(3:7)、トルエン−トリクロロメタン混合溶媒(5:5)またはトルエン−シアン化メタン混合溶媒(8:2)のうち何れか1種類を用いた。
【0141】
また、アルカリ処理固相担体として、カオリン/KOHを用いた。上記反応溶液にアルカリ処理固相担体を0.51g加えて両者を混合して、実施例1と同様にして、不斉アルキル化合物を合成した。結果を次の表7に示す。
【0142】
【表7】

表7に示すように、本実施例では、不斉触媒として(R)体の光学異性体の生成物を生成するHCN−OHを使用した場合、混合比率または種類が異なる四種類の溶媒を用いて不斉アルキル化反応を行い、生成物を取得した。その結果、反応の完了に必要な時間は0.33〜2時間であった。さらに、生成物の収率は82〜97%であり、鏡像体過剰率は57〜79%であった。特に、トルエン−ジクロロメタン混合溶媒(3:7)を用いた場合、反応の完了に必要な時間、生成物の収率、及び、鏡像体過剰率ともに良好であった。
【0143】
以上の結果は、溶媒として、トルエン−ジクロロメタン混合溶媒(3:7)を用いた場合、目的とする(R)体の光学異性体の不斉アルキル化合物を短時間で、高収率かつ高鏡像体過剰率で製造できることを示している。
【実施例8】
本実施例では、反応溶液として、0.2mlの溶媒に、不斉触媒を0.005mmol、グリシンイミンエステルを0.05mmol、そしてハロゲン化アルキルを0.084mmol、それぞれ溶解したものを用いた。このとき、グリシンイミンエステルにはN−ジメチルメチレングリシン−t−ブチルエステルを用いた。さらに、ハロゲン化アルキルには、2−(ブロモメチル)ベンゼンを用いた。また、不斉触媒には、HCD−アリルを用いた。
【0144】
また、アルカリ処理固相担体として、カオリン/KOHを用いた。上記反応溶液にアルカリ処理固相担体を0.51g加えて両者を混合して、20℃、0℃、または−30℃の温度のうち何れかの条件下で安静に放置し、実施例1と同様にして、不斉アルキル化合物を合成した。結果を次の表8に示す。
【0145】
【表8】

表8に示すように、本実施例では、反応温度が異なる三種類の条件下で、不斉アルキル化反応を行い、生成物を取得した。その結果、反応の完了に必要な時間は2〜130時間であった。さらに、生成物の収率は89〜98%であり、鏡像体過剰率は91〜96%であった。特に、反応温度が0℃または−30℃である場合、生成物の収率が良好であった。さらに、反応温度が−30℃である場合、反応の完了に必要な時間、生成物の収率、及び、鏡像体過剰率ともに良好であった。
【0146】
以上の結果は、反応温度が0℃または−30℃である場合、特に反応温度が−30℃である場合、目的とする不斉アルキル化合物を、高収率かつ高鏡像体過剰率で製造できることを示している。
【実施例9】
本実施例では、反応溶液として、0.2mlのトルエン−トリクロロメタン混合溶媒(5:5)に、不斉触媒を0.005mmol、グリシンイミンエステルを0.05mmol、そしてハロゲン化アルキルを0.084mmol、それぞれ溶解したものを用いた。このとき、グリシンイミンエステルにはN−ジメチルメチレングリシン−t−ブチルエステルを用いた。さらに、ハロゲン化アルキルには、2−(ブロモメチル)ナフタレン、2−(ブロモメチル)パラクロロベンゼン、または2−(ブロモメチル)ベンゼンのうち、いずれか1種類を用いた。また、不斉触媒には、HCD−アリルを用いた。
【0147】
また、アルカリ処理固相担体として、カオリン/KOHを用いた。上記反応溶液にアルカリ処理固相担体を0.51g加えて両者を混合して、実施例1と同様にして、不斉アルキル化合物を合成した。結果を次の表9に示す。
【0148】
【表9】

ここで、表9に示す「R−Br」等が意味する具体物は、実施例1の表1に示すものと同一である。
【0149】
表9に示すように、本実施例では、種類の異なるハロゲン化アルキルを用いて不斉アルキル化反応を行い、生成物を取得した。このとき、得られた生成物は、いずれも上記の式3によって合成される生成物であり、なおかつ、生成物に含まれるRで示される置換基が、それぞれ使用したハロゲン化アルキルに含まれる「a」、「b」、または「c」で示される置換基に合致する結果となった。
【0150】
また、反応の完了に必要な時間は2〜7時間であった。さらに、生成物の収率は67〜89%であり、鏡像体過剰率は81〜91%であった。特に、ハロゲン化アルキルとして、2−(ブロモメチル)ベンゼンを用いた場合、反応の完了に必要な時間、生成物の収率、及び、鏡像体過剰率ともに良好であった。
【実施例10】
本実施例では、反応溶液として、0.2mlの溶媒に、不斉触媒を10mol%、グリシンイミンエステルを0.05mmol、そしてハロゲン化アルキルを0.084mmol、それぞれ溶解したものを用いた。このとき、グリシンイミンエステルにはN−ジメチルメチレングリシン−t−ブチルエステルを用いた。さらに、ハロゲン化アルキルには、2−(ブロモメチル)ベンゼンを用いた。また、不斉触媒には、シンコニジン系化合物に属するHCD−アリルを用いた。また溶媒には、トルエン−トリクロロメタン混合溶媒(5:5)を用いた。
【0151】
また、アルカリ処理固相担体として、カオリン/KOHを用いた。以下に、本実施例におけるアルカリ処理固相担体の調製方法について説明する。3gの担体(カオリン)を、25%KOH水溶液4mlに加えた。この混合物に超音波(42kHz)を4時間、照射した。次に、ロータリーエバポレーター(東京理科器機製)を用いて、この混合物から減圧環境下で、95℃で2時間水分除去を行い、水分を部分的に除去した。このようにして、水湿潤状態のアルカリ処理固相担体を得た。また、このとき、水湿潤状態のアルカリ処理固相担体における水分の割合は、12%であった。さらに、一方で上記実施例1と同様にして、アスピレーターを用いて減圧環境下で水分を除去して、乾燥状態のアルカリ処理固相担体を得た。
【0152】
上記反応溶液にこれら2種類のアルカリ処理固相担体を0.51g加えて両者を混合して、実施例1と同様にして、不斉アルキル化合物を合成した。また、このときの反応温度は、0℃または20℃である。結果を次の表10に示す。
【0153】
【表10】

ここで、表10中「固相」は、上記乾燥状態のアルカリ処理固相担体に相当する。また「固相(wet)」は、上記水湿潤状態のアルカリ処理固相担体に相当する。さらに、「液−液」は、アルカリ処理固相担体を用いず、従来の方法で溶媒相と水相の相間(界面)で不斉アルキル化反応を行なった場合に相当する。
【0154】
表10に示すように、アスピレーターを用いて減圧環境下で水分を部分的に除去した水湿潤状態のアルカリ処理固相担体を用いても、得られる生成物の構造や、あるいは主な(過剰な)光学異性体に変化は生じないことを示している。
【0155】
また、表10に示すように、上記水湿潤状態のアルカリ処理固相担体を用いた場合、不斉アルキル化反応の完了に必要な時間は0.12時間(反応温度20℃)となり、上記乾燥状態のアルカリ処理固相担体を用いた場合と比較して約20分の1近くまで減少した。特に、反応温度が0℃である場合、不斉アルキル化反応の完了に必要な時間は0.5時間(反応温度20℃)となり、上記乾燥状態のアルカリ処理固相担体を用いた比較して約50分の1近くまで減少した。また、生成物の収率は、反応温度20℃、0℃ともに、90%であり、鏡像体過剰率は84〜90%であった。
【0156】
なお、本実施例において、反応温度20℃で、アルカリ処理固相担体を用いず、従来の方法で溶媒相と水相の相間(界面)で不斉アルキル化反応を行なった場合、上記乾燥状態のアルカリ処理固相担体を用いた場合と比較して、不斉アルキル化反応の完了に必要な時間が短くなっているが、これは、不斉触媒としてHCD−アリルを用いた場合に限ってのことである。
【0157】
以上の結果は、アルカリ処理固相担体の水分を部分的に除去すると、不斉アルキル化反応の反応速度が、アルカリ処理固相担体の水分を完全に除去する場合に比べて、約20〜50倍近く増加することを示している。
【実施例11】
本実施例では、反応溶液として、0.2mlの溶媒に、不斉触媒を10mol%、グリシンイミンエステルを0.05mmol、そしてハロゲン化アルキルを0.084mmol、それぞれ溶解したものを用いた。このとき、グリシンイミンエステルにはN−ジメチルメチレングリシン−t−ブチルエステルを用いた。さらに、ハロゲン化アルキルには、2−(ブロモメチル)ベンゼンを用いた。また、不斉触媒には、シンコニジン系化合物に属するHCD−アリルを用いた。また溶媒には、トルエン−トリクロロメタン混合溶媒(5:5)またはトルエン−ジクロロメタン混合溶媒(3:7)を用いた。
【0158】
また、アルカリ処理固相担体として、カオリン/KOHを用いた。以下に、本実施例におけるアルカリ処理固相担体の調製方法について説明する。3gの担体(カオリン)を、25%KOH水溶液4mlに加えた。この混合物に超音波(42kHz)を4時間、照射した。次に、ロータリーエバポレーター(東京理科器機製)を用いて、この混合物から減圧環境下で、95℃で2時間水分除去を行い、水分を部分的に除去した。このようにして、水湿潤状態のアルカリ処理固相担体を得た。このとき、水湿潤状態のアルカリ処理固相担体における水分の割合は、12%であった。また、一方で上記実施例1と同様にして、ロータリーエバポレーターを用いて減圧環境下で水分を除去して、乾燥状態のアルカリ処理固相担体を得た。
【0159】
上記反応溶液にこれら2種類のアルカリ処理固相担体を0.51g加えて両者を混合して、実施例1と同様にして、不斉アルキル化合物を合成した。結果を次の表11に示す。
【0160】
【表11】

ここで、表10中「固相」は、上記乾燥状態のアルカリ処理固相担体に相当する。また「固相(wet)」は、上記水湿潤状態のアルカリ処理固相担体に相当する。
なお、表11中の1番目及び2番目では、溶媒としてトルエン−トリクロロメタン混合溶媒(5:5)を用い、表11中の3番目及び4番目では、トルエン−ジクロロメタン混合溶媒(3:7)を用いた。
【0161】
表11に示すように、上記水湿潤状態のアルカリ処理固相担体を用いた場合、不斉アルキル化反応の完了に必要な時間は0.12時間となり、上記乾燥状態のアルカリ処理固相担体を用いた場合と比較して約20分の1近くまで減少した。また、溶媒としてトルエン−ジクロロメタン混合溶媒(3:7)を用いた場合、不斉アルキル化反応の完了に必要な時間は0.08時間となり、上記乾燥状態のアルカリ処理固相担体を用いた場合と比較して約6分の1近くまで減少した。さらに、上記の何れの溶媒を用いた場合であっても、生成物の収率は、89〜90%であり、鏡像体過剰率は83〜84%であった。
【実施例12】
本実施例では、反応溶液として、所定の溶媒に、不斉触媒を2mol%(0.001mmol)、または10mol%(0.005mmol)、グリシンイミンエステルを0.05mmol、そしてハロゲン化アルキルを0.084mmol、それぞれ溶解したものを用いた。このとき、グリシンイミンエステルにはN−ジメチルメチレングリシン−t−ブチルエステルを用いた。さらに、ハロゲン化アルキルには、2−(ブロモメチル)ベンゼンを用いた。また、不斉触媒には、HCD−アリルを用いた。また、上記所定量の溶媒には、ジクロロメタン(CHCl)、トルエン(PhCH)−ジクロロメタン混合溶媒(3:7)、トルエン−ジクロロメタン混合溶媒(5:5)、またはトルエン−トリクロロメタン(CHCl)混合溶媒(5:5)のうち何れか1種類を用いた。
【0162】
また、アルカリ処理固相担体として、カオリン/KOHを用いた。上記実施例11と同様の方法で、水湿潤状態のアルカリ処理固相担体の調製を行った。なお、本実施例では、水湿潤状態のアルカリ処理固相担体における水分の割合が0〜18%になるように、ロータリーエバポレーターによる減圧環境下での水分除去時間を適宜設定した。
【0163】
上記反応溶液に上記アルカリ処理固相担体を0.51g加えて両者を混合して、実施例1と同様にして、不斉アルキル化合物を合成した。結果を次の表12に示す。
【0164】
【表12】

ここで、表12中の4番目及び9番目は、不斉触媒2mol%で反応溶液を調製した場合における結果である。また、表12中の1〜3番目、5〜8番目、及び、10〜16番目は、不斉触媒10mol%で反応溶液を調製した場合における結果である。
【0165】
表12に示すように、本実施例では、混合比率または種類が異なる三種類の溶媒、及び、水分の割合が異なるアルカリ処理固相担体を用いて不斉アルキル化反応を行い、生成物を取得した。その結果、反応の完了に必要な時間は0.033〜4時間であった。さらに、生成物の収率は85〜97%であり、鏡像体過剰率は80〜91%であった。また、溶媒として、ジクロロメタンを用いた場合、水分の割合12%の水湿潤状態、または、乾燥状態に関わらず、反応の完了に必要な時間、生成物の収率及び鏡像体過剰率は同程度であった。また、溶媒として、トルエン(PhCH)−ジクロロメタン混合溶媒(3:7)、または、トルエン−ジクロロメタン混合溶媒(5:5)を用いた場合、アルカリ固相担体の水分の割合が12%である水湿潤状態において、反応の完了に必要な時間は0.08時間となり、乾燥状態のアルカリ処理固相担体を用いた場合と比較して約6分の1近くまで減少した(表12中3番目及び5番目参照)。
【0166】
さらに、溶媒として、トルエン−トリクロロメタン混合溶媒(5:5)を用いた場合、アルカリ固相担体の水分の割合が0.6〜16%である水湿潤状態において、反応の完了に必要な時間は0.033〜0.5時間となり、乾燥状態のアルカリ処理固相担体を用いた場合と比較して有意に減少した(表12中6〜15番目参照)。特に、アルカリ固相担体の水分の割合が4.3〜14%である水湿潤状態においては、反応の完了に必要な時間は0.033〜0.25時間となり、乾燥状態のアルカリ処理固相担体を用いた場合と比較してさらに顕著に減少した(表12中10〜14番目参照)。特に、アルカリ固相担体の水分の割合が6.8%または9.6%である水湿潤状態においては、反応の完了に必要な時間は0.033時間となり、乾燥状態のアルカリ処理固相担体を用いた場合と比較して60分の1近く減少した。
【0167】
また、表12中の4番目または9番目に示すように、不斉触媒2mol%で反応溶液を調製した場合であっても、反応の完了に必要な時間は0.5時間となり、不斉触媒10mol%で反応溶液を調製した場合とほぼ同等の結果が得られた。
【0168】
以上の結果は、アルカリ処理固相担体の水分を、割合が0.6〜16%になるように除去することで、不斉アルキル化反応の反応速度が、アルカリ処理固相担体の水分を完全に除去する場合に比べて、顕著に増加することを示している。さらに、アルカリ処理固相担体の水分を部分的に除去することで、不斉触媒の量を減少させて、不斉反応を行うことが可能になることを示している。
【実施例13】
本実施例では、反応溶液として、溶媒に、不斉触媒を2mol%(0.001mmol)、グリシンイミンエステルを0.05mmol、そしてハロゲン化アルキルを0.084mmol、それぞれ溶解したものを用いた。このとき、グリシンイミンエステルにはN−ジメチルメチレングリシン−t−ブチルエステルを用いた。さらに、ハロゲン化アルキルには、2−(ブロモメチル)ベンゼンを用いた。また、不斉触媒には、S,S−NASBを用いた。また、上記溶媒には、トルエン(PhCH)−ジクロロメタン混合溶媒(7:3)、またはトルエン−ジクロロメタン混合溶媒(5:5)を用いた。
【0169】
また、アルカリ処理固相担体として、カオリン/KOHを用いた。上記実施例11と同様の方法で、水湿潤状態のアルカリ処理固相担体の調製を行った。なお、本実施例では、水湿潤状態のアルカリ処理固相担体における水分の割合が0〜18%になるように、ロータリーエバポレーターによる減圧環境下での水分除去時間を適宜設定した。
【0170】
上記反応溶液に上記アルカリ処理固相担体を0.51g加えて両者を混合して、実施例1と同様にして、不斉アルキル化合物を合成した。結果を次の表13に示す。
【0171】
【表13】

表13に示すように、本実施例では、不斉触媒としてS,S−NASBを用いている。さらに、本実施例では、水分量、または、溶媒の種類が異なるアルカリ処理固相担体を用いて不斉アルキル化反応を行い、生成物を取得した。その結果、反応の完了に必要な時間は0.17〜6時間であった。さらに、生成物の収率は90〜91%であり、鏡像体過剰率は86〜94%であった。さらに、水湿潤状態のアルカリ処理固相担体を用いて不斉アルキル化反応を行った場合でも、反応の完了に必要な時間は0.5時間または0.17時間であり、乾燥状態のアルカリ処理固相担体を用いた場合と比較して顕著に減少した。
【0172】
また、表13に示す結果から、生成物に含まれる主な(過剰な)光学異性体は、四種類の異なる条件の全てにおいて、いずれも(R)体であった。
【0173】
以上の結果は、上記S,S−NASBは、HCD−アリルと同等の不斉触媒としての性能(生成物の収率、及び、鏡像体過剰率)を有することを示している。
【0174】
尚、発明を実施するための最良の形態の項においてなした具体的な実施態様または実施例は、あくまでも、本発明の技術内容を明らかにするものであって、そのような具体例にのみ限定して狭義に解釈されるべきものではなく、本発明の精神と次に記載する特許請求の範囲内で、いろいろと変更して実施することができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0175】
本発明の不斉アルキル化合物の製造方法は、不斉アルキル化合物等の製造に利用することができる。不斉アルキル化合物は、例えば、高光学純度のアミノ酸の前駆体とすることができる。そのため、本発明は、医薬産業、食品産業、および農産業等の各種産業に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリシンイミンエステルとハロゲン化アルキルとの不斉合成反応により不斉アルキル化合物を製造する不斉アルキル化合物の製造方法であって、
グリシンイミンエステル、ハロゲン化アルキル、および不斉合成反応を進行させる触媒作用を有する不斉触媒を含む反応溶液を、無機化合物からなる固相担体をアルカリ性の物質で処理してなるアルカリ処理固相担体に混合することにより、不斉合成反応を行う合成工程を含むことを特徴とする不斉アルキル化合物の製造方法。
【請求項2】
上記混合は、上記アルカリ処理固相担体の表面に上記反応溶液が薄膜状に保持されるようになされることを特徴とする請求項1に記載の不斉アルキル化合物の製造方法。
【請求項3】
上記混合は、上記反応溶液を上記アルカリ処理固相担体に滴下することにより行われることを特徴とする請求項1に記載の不斉アルキル化合物の製造方法。
【請求項4】
上記アルカリ処理固相担体は粉末状であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の不斉アルキル化合物の製造方法。
【請求項5】
上記混合の後、上記反応溶液と上記アルカリ処理固相担体との混合物を乾燥させてからマイクロ波照射処理を行うことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の不斉アルキル化合物の製造方法。
【請求項6】
上記固相担体として、粘土鉱物および無機酸化物の少なくとも何れかが用いられることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の不斉アルキル化合物の製造方法。
【請求項7】
上記無機酸化物は金属酸化物およびケイ素酸化物の少なくとも何れかであることを特徴とする、請求項6に記載の不斉アルキル化合物の製造方法。
【請求項8】
上記固相担体は、アルミナ、カオリン、カオリナイト、モンモリロナイト、ベントナイト、セライト、ゼオライト、およびケイ藻土からなる群より選択される少なくとも何れか1種であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の不斉アルキル化合物の製造方法。
【請求項9】
上記固相担体を処理するためのアルカリ性の物質として、アルカリ性化合物の水溶液が用いられることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の不斉アルキル化合物の製造方法。
【請求項10】
上記アルカリ性化合物として、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物が用いられることを特徴とする請求項9に記載の不斉アルキル化合物の製造方法。
【請求項11】
上記アルカリ処理固相担体は、固相担体をアルカリ性化合物の水溶液で処理する処理段階の後に、処理後の固相担体を乾燥させる乾燥段階を含む調製方法により得られるものであることを特徴とする請求項9または10に記載の不斉アルキル化合物の製造方法。
【請求項12】
上記乾燥段階では、処理後の固相担体をマイクロ波照射処理により乾燥することを特徴とする請求項11に記載の不斉アルキル化合物の製造方法。
【請求項13】
上記アルカリ処理固相担体は、固相担体をアルカリ性化合物の水溶液で処理する処理段階の後に、処理後の固相担体を水湿潤状態にする水湿潤段階を含む調製方法により得られるものであることを特徴とする請求項9または10に記載の不斉アルキル化合物の製造
方法。
【請求項14】
上記水湿潤段階にて、処理後の固相担体の水分が0.1〜50重量%になるように、水分を除去することを特徴とする請求項13に記載の不斉アルキル化合物の製造方法。
【請求項15】
上記不斉触媒は、シンコニジン系化合物またはシンコニン系化合物であることを特徴とする請求項1〜14のいずれか1項に記載の不斉アルキル化合物の製造方法。
【請求項16】
上記不斉触媒は、シンコニンまたは塩化N−アントラセニルメチルシンコニジウムであることを特徴とする請求項1〜15のいずれか1項に記載の不斉アルキル化合物の製造方法。
【請求項17】
上記不斉触媒は、N−スピロ型四級アンモニウム塩であることを特徴とする請求項1〜14のいずれか1項に記載の不斉アルキル化合物の製造方法。
【請求項18】
上記グリシンイミンエステルは、次に示す式(6)
(RC=N−CH−COO−R・・・(6)
(ただし、式中、RおよびRは1価の有機基を示す)
で表される構造を有するものであることを特徴とする請求項1〜17のいずれか1項に記載の不斉アルキル化合物の製造方法。
【請求項19】
さらに、上記式(6)においてRで示される有機基が、芳香族構造を含むアルキル基であることを特徴とする請求項18に記載の不斉アルキル化合物の製造方法。
【請求項20】
さらに、上記式(6)においてRで示される有機基が、炭素数3以上で側鎖を含むことを特徴とする請求項18または19に記載の不斉アルキル化合物の製造方法。
【請求項21】
上記Rで示される有機基がt−ブチル基(メチルプロピル基)であることを特徴とする請求項20に記載の不斉アルキル化合物の製造方法。
【請求項22】
上記グリシンイミンエステルが、N−ジメチルフェニルメチレングリシンt−ブチルエステルであることを特徴とする請求項18に記載の不斉アルキル化合物の製造方法。
【請求項23】
上記ハロゲン化アルキルは、次に示す式(7)
−X・・・(7)
(ただし、式中、Rは1価の有機基を示し、Xはハロゲン原子を示す)
で表される構造を有するものであることを特徴とする請求項1〜22のいずれか1項に記載の不斉アルキル化合物の製造方法。
【請求項24】
上記ハロゲンが臭素(Br)、フッ素(F)、ヨウ素(I)、または、塩素(Cl)であることを特徴とする請求項23に記載の不斉アルキル化合物の製造方法。
【請求項25】
上記Rで示される有機基が、アルキル基であることを特徴とする請求項23または24に記載の不斉アルキル化合物の製造方法。
【請求項26】
請求項1〜25のいずれか1項に記載の不斉アルキル化合物の製造方法における合成工程に用いられ、
無機化合物からなる粉末状の固相担体をアルカリ性化合物の水溶液で処理した後に、マイクロ波照射処理により乾燥してなることを特徴とするアルカリ処理固相担体。
【請求項27】
請求項1〜25のいずれか1項に記載の不斉アルキル化合物の製造方法における合成工程に用いられ、
無機化合物からなる粉末状の固相担体をアルカリ性化合物の水溶液で処理した後に、水湿潤状態にしてなることを特徴とするアルカリ処理固相担体。
【請求項28】
請求項1〜25のいずれか1項に記載の不斉アルキル化合物の製造方法における合成工程に用いられ、
無機化合物からなる粉末状の固相担体をアルカリ性化合物の水溶液で処理した後に、水分が0.1〜50重量%になるように除去してなることを特徴とするアルカリ処理固相担体。
【請求項29】
上記合成工程の終了後、洗浄用溶媒で洗浄し乾燥または水湿潤状態にすることによって再利用可能な状態となっていることを特徴とする請求項26〜28の何れか1項に記載のアルカリ処理固相担体。
【請求項30】
上記洗浄用溶媒が、上記反応溶液に用いられる溶媒であることを特徴とする請求項29に記載のアルカリ処理固相担体。

【国際公開番号】WO2005/040096
【国際公開日】平成17年5月6日(2005.5.6)
【発行日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−514907(P2005−514907)
【国際出願番号】PCT/JP2004/007393
【国際出願日】平成16年5月28日(2004.5.28)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】