説明

アルカリ耐性向上剤、光硬化性液晶組成物、光学フィルム、偏光板、及び液晶表示装置

【課題】硬化性組成物からなる硬化膜のアルカリ耐性の向上。
【解決手段】少なくとも一種のα−アルキルアミンからなる硬化性組成物用アルカリ耐性向上剤である。また、重合開始剤、増感剤、1種以上の重合性液晶化合物、前記アルカリ耐性向上剤を少なくとも含有する硬化性液晶組成物、及び該組成物からなる光学異方性層を有する光学フィルムである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化性組成物からなる硬化膜のアルカリ耐性を向上するのに有用なアルカリ耐性向上剤、及びそれを含有する、光学フィルム等の光学部材の作製に有用な光硬化性組成物、並びにそれを利用した、光学フィルム、偏光板及び液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液晶表示装置の光学補償には、光硬化性液晶組成物から形成される光学異方性層が利用されている。硬化性液晶組成物は、一般的には、液晶化合物とともに、重合反応を開始させるための重合開始剤を含有する。さらに、硬化性組成物の感度を改善することを目的として、又は硬化膜の強度を改善することを目的として、増感剤、共増感剤を組成物中に添加することが提案されている(例えば、特許文献1〜4)。
また、より理想的な光学補償能を達成するために、種々の液晶化合物が提案されている(例えば、特許文献5及び6)。
【0003】
ところで、光学異方性層を有する光学補償フィルムは、一般的には、偏光膜と一体化した偏光板として液晶表示装置に組み込まれる。偏光膜との接着性を改善するために、光学補償フィルムにはアルカリ鹸化処理が施されるのが一般的である。アルカリ鹸化処理では、アルカリ液中に光学補償フィルムを浸漬するため、光学異方性層がアルカリ液によって劣化することが問題になっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−325221号公報の[0035]
【特許文献2】特開2007-86248号公報の[0049]
【特許文献3】特開2008−201912号公報
【特許文献4】特開2009−237362号公報の[0051]
【特許文献5】特開2007−2220号公報
【特許文献6】特開2007−204705号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者が検討したところ、アルカリ鹸化処理によって光学異方性層の膜厚が顕著に減少することがわかった。硬化性組成物中に増感剤や共増感剤を添加することは光感度の改善、及び硬化膜の強度改善に寄与するが、一方で増感剤や共増感剤を添加して硬化膜の強度を向上させても、アルカリ鹸化処理による光学異方性層の劣化を軽減することができない場合があることがわかった。場合によっては、膜強度を向上させると、アルカリ耐性が低下することすらあることがわかった。
本発明は上記問題に鑑みなされたものであって、硬化性組成物からなる硬化膜のアルカリ耐性を向上させ得る剤を提供することを課題とする。
また、本発明は、アルカリ鹸化処理の前後で膜厚の変動が軽減された硬化膜を形成可能な硬化性液晶組成物を提供することを課題とする。
また、本発明は、アルカリ鹸化処理の前後で光学特性の変動が少なく、耐久性が良好な液晶組成物からなる光学異方性層を有する光学フィルム、偏光板、及び液晶表示装置を提供することを課題とする。
【0006】
上記課題を解決するための手段は、以下の通りである。
[1] 少なくとも一種のα−アルキルアミンからなる硬化性組成物用アルカリ耐性向上剤。
[2] 前記α−アルキルアミンが、窒素原子に直接結合する芳香族環を有するα−アルキルアミンである[1]の硬化性組成物用アルカリ耐性向上剤。
[3] 前記α−アルキルアミンが、脂肪族α−アルキルアミンである[1]の硬化性組成物用アルカリ耐性向上剤。
[4] 前記α−アルキルアミンが、窒素原子に連結基を介して結合した芳香族環を含むα−アルキルアミンである[1]の硬化性組成物用アルカリ耐性向上剤。
[5] 前記α−アルキルアミンが、窒素原子に結合した3級アミンである[1]〜[4]のいずれかの硬化性組成物用アルカリ耐性向上剤。
[6] 1種以上の重合開始剤、1種以上の重合性液晶化合物、及び[1]〜[5]のいずれかのアルカリ耐性向上剤を少なくとも含有する硬化性液晶組成物。
[7] 前記1種以上の重合性液晶化合物が、円盤状コアと、該円盤状コアを構成している原子に結合した2以上の側鎖とを有し、該側鎖が、エステル結合を有する[6]の硬化性液晶組成物。
[8] 前記1種以上の重合性液晶化合物が、円盤状コアと、該円盤状コアを構成している原子に結合した2以上の側鎖とを有し、該側鎖が、オキサジアゾール環を1以上有する[6]又は[7]の硬化性液晶組成物。
[9] 前記1種以上の重合性液晶化合物が、1,3,5−置換ベンゼン誘導体、又は1,2,7,8,13,14−置換トリフェニレン誘導体である[6]〜[8]のいずれかの硬化性液晶組成物。
[10] 前記アルカリ耐性向上剤を、前記1種以上の重合性液晶化合物に対してモル比で0.1×102〜2.0×102の割合で含有する[6]〜[9]のいずれかの硬化性液晶組成物。
[11] さらに少なくとも1種の増感剤を含有し、前記アルカリ耐性向上剤を、前記増感剤に対してモル比で0.1〜1.5の割合で含有する[6]〜[10]のいずれかの硬化性液晶組成物。
[12] さらに少なくとも1種の増感剤を含有し、前記重合開始剤及び前記増感剤を合計で0.1〜10質量%含有する[6]〜[11]のいずれかの硬化性液晶組成物。
[13] ポリマーフィルムと、該ポリマーフィルム上に、[6]〜[12]のいずれかの硬化性液晶性組成物を硬化させてなる光学異方性層とを有する光学フィルム。
[14] アルカリ液処理後の前記光学異方性層表面の接触角が60〜95°である[13]の光学フィルム。
[15] アルカリ鹸化処理されている[13]又は[14]の光学フィルム。
[16] [13]〜[15]のいずれかの光学フィルムと、偏光膜とを有する偏光板。
[17] [13]〜[15]のいずれかの光学フィルム、及び/又は[16]の偏光板を有する液晶表示装置。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、硬化性組成物からなる硬化膜のアルカリ耐性を向上させ得る剤を提供することができる。
また、本発明によれば、アルカリ鹸化処理の前後で膜厚の変動が軽減された硬化膜を形成可能な硬化性液晶組成物を提供することができる。
また、本発明によれば、アルカリ鹸化処理の前後で光学特性の変動が少なく、耐久性が良好な液晶組成物からなる光学異方性層を有する光学フィルム、偏光板、及び液晶表示装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施例で使用したα−アルキルアミンの添加量とアルカリ耐性改善効果との関係を示すグラフである。
【図2】実施例で使用したα−アルキルアミンの添加量とアルカリ耐性改善効果との関係を示すグラフである。
【図3】実施例で使用したα−アルキルアミンの添加量とアルカリ耐性改善効果との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0010】
1.硬化性組成物用アルカリ耐性向上剤
本発明は、少なくとも一種のα−アルキルアミンからなる硬化性組成物用アルカリ耐性向上剤に関する。本発明のアルカリ耐性向上剤は、硬化性組成物に添加されることにより、該組成物の硬化膜のアルカリ耐性を向上させ得る剤である。本発明のアルカリ耐性向上剤を含有する硬化性組成物は、アルカリ耐性が改善されているので、アルカリ液中に浸漬された場合も、劣化が抑制される。例えば、ポリマーフィルム上に硬化性組成物からなる硬化膜を形成した光学フィルムを、他の部材(例えば偏光膜等)に接着する際には、アルカリ鹸化処理を行う場合があるが、かかる場合であっても、本発明によれば、アルカリ鹸化処理による硬化膜の劣化を抑制することができる。
【0011】
本発明者は、アルカリ鹸化処理の前後における硬化膜の劣化について検討したところ、アルカリ鹸化処理のためにアルカリ液中に硬化膜を浸漬すると、膜厚が顕著に減少することがわかった。この原因についてさらに検討したところ、硬化反応中に重合性成分が酸化され、酸化物が、アルカリ液中に溶出してしまうことに起因することがわかった。さらに検討した結果、α−アルキルアミンを硬化性組成物中に添加すると、重合性成分の酸化が抑制され、硬化膜のアルカリ耐性が顕著に改善されることを見出し、本発明を完成するに至った。α−アルキルアミンの添加により、硬化膜のアルカリ耐性が向上することの詳細については不明であるが、一因は、α−アルキルアミンの存在下で重合反応を進行させることにより、重合が促進されて、硬化膜の強度が向上することであると推定できる。しかし、硬化膜の強度向上のみでは、アルカリ耐性の改善は達成できず、例えば、重合促進剤であっても、チオール系重合促進剤には、アルカリ耐性向上作用はない。さらに、α−アルキルアミンの添加により酸素が阻害されることが、重合成分の酸化の抑制に寄与し、そのことがアルカリ耐性の改善効果に寄与していることも推測できるが、例えば、酸化防止剤として公知のヒンダードアミンを添加しても、アルカリ耐性の改善は達成できない。即ち、本発明のアルカリ耐性改善剤の作用は、従来の重合促進剤及び酸化防止剤のいずれの作用とも異なる。
【0012】
α−アルキルアミンは、α位がアルキル基であるアミンをいう。α−アルキルアミンの例には、1級アミン、2級アミン、及び3級アミンのいずれも含まれる。α位のアルキル基は置換基を有していてもよく、該置換基の例には、カルボキシル基、ヒドロキシ基、アルコキシ基等が含まれる。前記アルキル基は直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。前記アルキル基は後述のα−アルキルアミンの分子量の観点から炭素原子数1〜14であるのが好ましく、1〜6であるのがより好ましい。α−アルキルアミンが、α位の置換基を2以上有する場合、即ち、α−アルキルアミンが、2級アミン又は3級アミンである場合は、他のα位の置換基は、アルキル基であっても、アルキル基以外の置換基であってもよい。1以上の芳香族環(好ましくはベンゼン環)を有するものが好ましく、窒素原子に直接結合した芳香族環を有するN−アリール−α−アルキルアミンであるのが特に好ましい。
【0013】
本発明に使用可能なα−アルキルアミンは、添加量に対するアルカリ耐性向上作用の程度の傾向によって、以下のI〜III群に分類される。
I群: 窒素原子に直接結合する芳香族環を有するN−アリール−α−アルキルアミン。この群には、2級アミン、3級アミン及びグリシン誘導体のいずれも含まれる。例えば、以下の化合物が例示される。
【0014】
【化1】

【0015】
I群に属するα−アルキルアミンは、添加量を増加させてくとアルカリ耐性向上効果が添加量に依存して増加する。但し、添加量が所定の範囲を超えるとその効果が減少していくという特性を示す。好ましい添加量範囲が広く、取り扱い性が良好であるとともに、アルカリ耐性効果に優れるという利点がある。
【0016】
II群:芳香族環を含まない脂肪族α−アルキルアミン。この群には、1級、2級及び3級アミンのいずれも含まれる。例えば、以下の化合物が例示される。
【0017】
【化2】

【0018】
II群に属するα−アルキルアミンは、添加量を増加させてくとアルカリ耐性向上効果が添加量に依存して増加し、添加量が所定の範囲を超えると、その効果が減少していくという特性を示すという点は、I群と共通するが、但し、好ましい添加量範囲がI群より狭く、取り扱い性の観点では、I群のほうが好ましい
【0019】
III群:窒素原子に連結基(例えばアルキレン基等)を介して結合した芳香族環を含むα−アルキルアミン。この群には、2級及び3級アミンが含まれるが、3級アミンが好ましい。例えば、以下の化合物が例示される。
【0020】
【化3】

【0021】
III群に属するα−アルキルアミンは、添加量を増加させてくとアルカリ耐性向上効果が添加量に依存して増加し、添加量が所定の範囲を超えるとその効果が減少していくという特性を示すという点は、I群及びII群と共通するが、I群及びII群と比較して効果が小さく、アルカリ耐性改善効果の観点では、I群及びII群のほうが好ましい。但し、好ましい添加量範囲が広いので、取り扱い性には優れる。また、いずれの群に属するα−アルキルアミンも、窒素原子に結合した水素原子が存在しない、即ち、3級アミンであると、アルカリ耐性改善作用が特に高いという傾向がある。
【0022】
本発明に係わるα−アルキルアミンの分子量については特に制限はないが、硬化膜強度向上の観点から100〜300程度であるのが好ましい。但し、アルカリ耐性改善効果を示す限り、この範囲に限定されるものではない。
【0023】
2.硬化性液晶組成物
本発明は、重合開始剤、増感剤、1種以上の重合性液晶化合物、及び本発明のアルカリ耐性向上剤を少なくとも含有する硬化性液晶組成物にも関する。本発明の硬化性液晶組成物を、所望の配向状態とした後に、硬化させてその配向状態を固定した硬化膜は、配向に基づく光学特性を示す。当該光学特性は、液晶表示装置の光学補償等に利用することができる。
【0024】
重合性液晶化合物:
液晶化合物は、一般的に、その分子の形状に基づいて、棒状および円盤状液晶化合物に分類されるが、本発明に利用可能な重合性液晶化合物の例には、はいずれの形状の液晶化合物も含まれる。
【0025】
・棒状液晶化合物
本発明において前記液晶性化合物として使用可能な棒状液晶性化合物の例には、アゾメチン類、アゾキシ類、シアノビフェニル類、シアノフェニルエステル類、安息香酸エステル類、シクロヘキサンカルボン酸フェニルエステル類、シアノフェニルシクロヘキサン類、シアノ置換フェニルピリミジン類、アルコキシ置換フェニルピリミジン類、フェニルジオキサン類、トラン類およびアルケニルシクロヘキシルベンゾニトリル類が含まれる。また、前記棒状液晶性化合物としては、以上のような低分子液晶性化合物だけではなく、高分子液晶性化合物も用いることができる。
【0026】
・円盤状液晶化合物(ディスコティック液晶性化合物)
ディスコティック液晶化合物には、C.Destradeらの研究報告、Mol.Cryst.71巻、111頁(1981年)に記載されているベンゼン誘導体、C.Destradeらの研究報告、Mol.Cryst.122巻、141頁(1985年)、Physics lett,A,78巻、82頁(1990)に記載されているトルキセン誘導体、B.Kohneらの研究報告、Angew.Chem.96巻、70頁(1984年)に記載されたシクロヘキサン誘導体及びJ.M.Lehnらの研究報告、J.Chem.Commun.,1794頁(1985年)、J.Zhangらの研究報告、J.Am.Chem.Soc.116巻、2655頁(1994年)に記載されているアザクラウン系やフェニルアセチレン系マクロサイクルが含まれる。
【0027】
前記ディスコティック液晶化合物には、分子中心の母核(円盤状コア)に対して、直鎖のアルキル基、アルコキシ基、又は置換ベンゾイルオキシ基が母核の側鎖として放射線状に置換した構造の、液晶性を示す化合物も含まれる。分子又は分子の集合体が、回転対称性を有し、一定の配向を付与できる化合物であることが好ましい。
【0028】
前記円盤状コアの例には、以下の部分構造が含まれるが、これらの限定されるものではない。なお、下記式中、LQは円盤状コアに結合する側鎖であって、Lは二価の連結基及びQは重合性基を表す。
【0029】
【化4】

【0030】
【化5】

【0031】
【化6】

【0032】
ディスコティック液晶化合物の好ましい例は、特開平8−50206号公報、特開2006−76992号公報明細書中の段落番号[0052]、特開2007−2220号公報明細書中の段落番号[0040]〜[0063]に記載されている。例えば下記一般式(DI)、(DII)で表される化合物が高い複屈折性を示すので好ましい。さらに下記一般式(DI)、(DII)表される化合物の中でも、ディスコティック液晶性を示す化合物が好ましく、特に、ディスコティックネマチック相を示す化合物が好ましい。下記化合物の詳細(式中の符号の定義、及びその好ましい範囲)については、上記公報に具体的記載がある。
【0033】
【化7】

【0034】
また、前記円盤状液晶化合物の好ましい例には、特開2005−301206号公報に記載の化合物も含まれる。
【0035】
本発明者が検討した結果、特に、本発明のアルカリ耐性向上剤は、円盤状コアと、該円盤状コアを構成している原子に結合した2以上の側鎖とを有し、該側鎖が、エステル結合を有する重合性液晶化合物を重合成分として用いた硬化性組成物に対して、高い効果を示すことがわかった。また、本発明のアルカリ耐性向上剤は、円盤状コアと、該円盤状コアを構成している原子に結合した2以上の側鎖とを有し、該側鎖が、オキサジアゾール環を1以上有する重合性液晶化合物を重合成分として用いた硬化性組成物に対して、高い効果を示すことがわかった。前記重合性液晶化合物が、1,3,5−置換ベンゼン誘導体、又は1,2,7,8,13,14−置換トリフェニレン誘導体であるのが好ましく、即ち、上記式(DI)又は(DII)で表される重合性液晶化合物が好ましい。これらを併用するのも好ましい。中でも、上記式(DI)で表される化合物は、光学補償能に利用される光学異方性層の材料として、波長分散特性が理想的により近い特性を示すので好ましい。
【0036】
本発明に利用可能な重合性液晶化合物の一例は、以下の式(DIa)及び(DIIa)で表される化合物である。
【0037】
【化8】

【0038】
式中、R1はそれぞれ、エステル結合を1以上含み、末端に重合性基を有する置換基を表し;R2は末端に重合性基を有する置換基を表す。重合性基としては、以下の例が挙げられる。
【0039】
【化9】

【0040】
1及びR2としては、以下の具体例が挙げられる。但し、以下の具体例では、末端の重合性基は省略した。「*」は上記式(DIa)及び(DIIa)中の環と結合する位置を示し、「**」は重合性基と結合する位置を示す。また、以下の具体例のうちエステル結合を含まない基は、R2のみの具体例である。以下の式中、ALはアルキレン基(好ましくは炭素原子数1〜20、より好ましくは炭素原子数2〜10のアルキレン基)を表し、1つの炭素原子、又は隣接しない2以上の炭素原子は、酸素原子、−NR−(Rは水素原子又は炭素原子数1〜5のアルキル基)又は硫黄原子によって置換されていてもよい)。また、以下の式中、ARはアリーレン基(芳香族炭素環及び芳香族へテロ環の基を含み、例えば、フェニレン基、オキサジアゾリル基等)を表す。
*−AL−CO−O−AL−**
*−AL−CO−O−AL−O−**
*−AL−CO−O−AL−O−AL−**
*−AL−CO−O−AL−O−CO−**
*−AL−CO−O−AL−O−CO−**
*−CO−AR−O−AL−**
*−CO−AR−O−AL−O−**
*−CO−AR−O−AL−O−CO−**
*−CO−NH−AL−**
*−NH−AL−O−**
*−NH−AL−O−CO−**
*−O−AL−**
*−O−AL−O−**
*−O−AL−O−CO−**
*−O−AL−O−CO−NH−AL−**
*−O−AL−S−AL−**
*−O−CO−AR−O−AL−CO−**
*−O−CO−AR−O−AL−O−CO−**
*−O−CO−AR−O−AL−O−AL−O−CO−**
*−O−CO−AR−O−AL−O−AL−O−AL−O−CO−**
*−S−AL−**
*−S−AL−O−**
*−S−AL−O−CO−**
*−S−AL−S−AL−**
*−S−AR−AL−**
【0041】
1及びR2が、アルキレン鎖を含む場合は、アルキレン鎖の長さも、アルカリ耐性に影響する場合がある。例えば、R1が*−AL−CO−O−AL−O−CO−**を含む場合は、2つのALの合計の炭素原子数が多いほど、アルカリ耐性が改善される傾向がある。2つのALの炭素原子数の合計は、5〜15が好ましく、6〜12が好ましく、6〜10がより好ましい。
【0042】
本発明では、上記式(DIa)及び(DIIa)で表される重合性液晶化合物の少なくとも1種を用いるのが好ましく、上記式(DIa)で表される重合性液晶化合物の少なくとも1種を用いるのがより好ましい。上記式(DIa)及び(DIIa)で表される重合性液晶化合物の双方を用いるのも好ましい。双方を用いる態様では、上記式(DIa)で表される化合物の割合が高いほうが、波長分散特性の観点のみならず、アルカリ耐性の点でも好ましい。
【0043】
重合開始剤:
本発明に利用する重合開始剤は光重合開始剤であるのが好ましく、光照射(好ましくは紫外線照射)により、重合活性ラジカルを発生する機能を有する重合開始剤が好ましい。本発明のアルカリ耐性向上剤は、特に、水素引き抜き型重合開始剤との組み合わせにおいて高い効果を示す。水素引き抜き型重合開始剤の例には、ベンゾフェノン、ミヒラーケトン、ジベンゾスベロン、2−エチルアンスラキノン、イソブチルチオキサンソン等のチオキサンソン系光重合開始剤、α−アミノアルキルフェノン系光重合開始剤等が含まれる。市販品を利用してもよく、例えば、「イルカギュア907」(チバ・ジャパン製)、「C0292」(東京化成工業製)等を好ましく利用することができる。
【0044】
増感剤:
本発明においては重合成液晶化合物の重合反応促進のために、上記の水素引き抜き型重合開始剤とともに他の光重合開始剤を増感剤と称して併用して使用してもよい。例えば「イルカギュア907」(チバ・ジャパン製)と「カヤキュアーDETX」(日本化薬製)とを好ましく併用することができる。
【0045】
本発明の硬化性液晶組成物中の、前記アルカリ耐性向上剤の含有量の好ましい範囲は、用いるアルカリ耐性向上剤の種類によって変動するが、前記1種以上の重合性液晶化合物に対してモル比で0.1×102〜2.0×102であるのが好ましく、0.2×102〜1.5×102であるのがより好ましく、0.2×102〜1.2×102であるのがさらに好ましい。
アルカリ耐性向上剤として上記II群のα−アルキルアミンを用いる態様では、好ましい範囲が狭くなり、より少ない含有量で効果を示すであろう。II群のα−アルキルアミンの好ましい含有量の一例は、前記1種以上の重合性液晶化合物に対してモル比で0.05×102〜1.5×102であり、他の例は0.05×102〜1.2×102であり、他の例は、0.07×102〜1.2×102である。
アルカリ耐性向上剤として上記II群のα−アルキルアミンを用いる態様では、好ましい範囲は上記同様、又はより広くなるであろう。
【0046】
また、本発明の硬化性液晶組成物からなる硬化膜のアルカリ耐性は、本発明のアルカリ耐性向上剤と前記増感剤との割合によって影響される場合がある。本発明のアルカリ耐性向上剤は、前記増感剤に対してモル比で0.1〜1.5の割合であるのが好ましく、0.2〜1.3の割合であるのがより好ましく、0.3〜1.2の割合であるのがさらに好ましい。増感剤の割合が前記範囲より少ないと、光学異方性層の強度が低下する。一方、α−アルキルアミンの割合が前記範囲より少ないと、アルカリ耐性改善効果が減少する傾向がある。
【0047】
また、本発明の硬化性液晶組成物からなる硬化膜のアルカリ耐性は、前記重合開始剤及び前記増感剤の総量によって影響される場合がある。重合開始剤及び増感剤の総量が多いほど形成される光学異方性層の強度は向上するが、一方で、アルカリ耐性は低下する傾向がある。前記重合開始剤及び前記増感剤を合計で0.1〜10質量%含有するのが好ましく、0.5〜8質量%含有するのがより好ましく、0.6〜6質量%含有するのがよりさらに好ましい。
また、前記アルカリ耐性向上剤を0.1〜2.5質量%の範囲で含有するのが好ましく、0.1〜2質量%の範囲で含有するのがより好ましく、0.1〜1.5質量%の範囲で含有するのがさらに好ましい。但し、α−アルキルアミンの種類に応じて好ましい範囲は変動するので、この限りではない。
【0048】
その他の添加剤:
本発明の硬化性液晶組成物は、上記必須成分以外にその他の添加剤を含んでいてもよい。例えば、前記重合性液晶化合物の配向を制御する配向制御剤(空気界面配向制御剤及び配向膜界面配向制御剤を含み、具体的には、フッ素系ポリマー、及びオニウム塩等である)、非液晶性の重合性化合物等である。
【0049】
塗布液の態様:
本発明の硬化性液晶組成物は、塗布液として調製してもよい。塗布液の調製に用いられる有機溶媒の例には、アミド(例、N,N−ジメチルホルムアミド)、スルホキシド(例、ジメチルスルホキシド)、ヘテロ環化合物(例、ピリジン)、炭化水素(例、ベンゼン、ヘキサン)、アルキルハライド(例、クロロホルム、ジクロロメタン、テトラクロロエタン)、エステル(例、酢酸メチル、酢酸ブチル)、ケトン(例、アセトン、メチルエチルケトン)、エーテル(例、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン)が含まれる。アルキルハライド及びケトンが好ましい。二種類以上の有機溶媒を併用してもよい。
【0050】
3.光学フィルム
本発明は、ポリマーフィルムと、該ポリマーフィルム上に、本発明の硬化性液晶性組成物を硬化させてなる光学異方性層とを有する光学フィルムに関する。本発明の光学フィルムは、前記光学異方性層の光学特性を調整することにより、種々の用途、例えば、液晶表示装置の光学補償フィルム、偏光板の保護フィルム、等に利用することができる。特に、前記光学異方性層のアルカリ耐性が改善されているので、アルカリ鹸化処理を要する光学部材として適する。
【0051】
本発明の光学フィルムの製造方法の一例は、ポリマーフィルムの表面に硬化性液晶組成物の塗布液を塗布すること、該組成物を所望の配向状態にすること、硬化性液晶組成物の硬化反応を進行させて、前記配向状態を固定すること、を含む製造方法である。前記硬化性液晶組成物を塗布する表面は、配向処理を施されているのが好ましく、例えば、ポリマーフィルム上に配向膜を形成し、当該膜の表面をラビング処理したラビング処理面に、塗布するのが好ましい。配向膜として、未変性又は変性ポリビニルアルコール等を利用することができる。
【0052】
前記硬化性液晶組成物の塗布液の塗布は、公知の方法(例えば、ワイヤーバーコーティング法、押し出しコーティング法、ダイレクトグラビアコーティング法、リバースグラビアコーティング法、ダイコーティング法、カーテンコーティング法、スピンコーテディップコーティング法、ィング法、印刷コーティング法、スプレーコーティング法、スロットコーティング法、ロールコーティング法、スライドコーテティング法、ブレードコーティング法、グラビアコーティング法)により行うことができる。
【0053】
前記硬化性液晶組成物を塗布した後、溶媒を除去し乾燥することによって、光硬化性液晶組成物を所望の配向状態にすることができる。所望により加熱してもよい。硬化性液晶組成物の配向状態については特に制限はなく、用途に応じて所望の光学特性が決定され、それに応じて配向状態も決定されるであろう。水平配向、垂直配向、及びハイブリッド配向等、種々の配向状態から選択することができる。
【0054】
前記硬化性液晶組成物の配向状態を固定化するために、重合反応等の硬化反応を進行させる。光照射により重合反応を進行させるのが好ましく、紫外線を用いることが好ましい。照射エネルギーとしては、特に制限はないが、20mJ/cm2〜50J/cm2が好ましく、20mJ/cm2〜5000mJ/cm2がより好ましく、100mJ/cm2〜800mJ/cm2が更に好ましい。また、光重合反応を促進するため、加熱条件下で光照射を実施してもよい。配向を固定するための温度としては、特に制限はないが、一般的には、100℃以下が好ましく、80℃以下がより好ましい。
【0055】
光照射に利用する光照射システムについては特に制限はないが、形成される光学異方性層のアルカリ耐性をより改善するためには、短波長紫外線(254nm以下の紫外線)が除去された紫外線を照射可能なシステムを利用するのが好ましい。一例としては、短波長紫外線カットフィルタを介して紫外線を照射可能なシステムが挙げられる。
【0056】
前記光学異方性層の厚さとしては、特に制限はないが、一般的には0.1〜20μmが好ましく、0.5〜15μmがより好ましく、1〜10μmが更に好ましい。
【0057】
前記ポリマーフィルムについては特に制限はない。用途に応じて種々のポリマーフィルムから選択することができる。用途によっては、光学性能透明性、機械的強度、熱安定性、水分遮蔽性、等方性などに優れるポリマーフィルムを用いることが要求される。本発明に使用可能なポリマーフィルムの主成分ポリマーの例には、ポリカーボネート系ポリマー、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレート等のポリエステル系ポリマー、ポリメチルメタクリレート等のアクリル系ポリマー、ポリスチレンやアクリロニトリル・スチレン共重合体(AS樹脂)等のスチレン系ポリマーなどがあげられる。また、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、エチレン・プロピレン共重合体の如きポリオレフィン系ポリマー、塩化ビニル系ポリマー、ナイロンや芳香族ポリアミド等のアミド系ポリマー、イミド系ポリマー、スルホン系ポリマー、ポリエーテルスルホン系ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン系ポリマー、ポリフェニレンスルフィド系ポリマー、塩化ビニリデン系ポリマー、ビニルアルコール系ポリマー、ビニルブチラール系ポリマー、アリレート系ポリマー、ポリオキシメチレン系ポリマー、エポキシ系ポリマー、又は前記ポリマーを混合したポリマーが含まれる。
【0058】
また、前記ポリマーフィルムの主成分ポリマーとして、熱可塑性ノルボルネン系樹脂を好ましく用いることができる。熱可塑性ノルボルネン系樹脂としては、日本ゼオン(株)製のゼオネックス、ゼオノア、JSR(株)製のアートン等が挙げられる。
【0059】
また、前記ポリマーフィルムとしては、従来偏光板の透明保護フィルムとして用いられてきた、トリアセチルセルロースに代表される、セルロースアシレートを好ましく用いることができる。
【0060】
セルロースアシレートフィルムは、セルロースの水酸基がアシル基で置換されているので、親水性部材(例えばポリビニルアルコールからなる偏光膜等)との接着性が低い場合がある。かかる場合は、アルカリ鹸化処理により親水性部材との接着性を改善することが通常行われる。本発明の光学フィルムが有する光学異方性層は、アルカリ耐性が改善されているので、アルカリ鹸化処理のためにアルカリ液に浸漬されても劣化を軽減できる。よって、本発明では、光学異方性層の支持体であるポリマーフィルムとして、セルロースアシレートフィルムを用いる態様は、好ましい態様の一つである。
【0061】
前記ポリマーフィルムの厚さについては特に制限はないが、一般的には、10〜1000μmであることが好ましく、40〜500μmであることがより好ましく、40〜200μmであることが特に好ましい。
【0062】
本発明の光学フィルムが有する光学異方性層は、高いアルカリ耐性を示す。アルカリ耐性の程度を示す指標の一つとして、アルカリ処理液後の光学異方性層表面の接触角が挙げられる。より大きな接触角は、より高いアルカリ耐性を示す。前記光学異方性層は、疎水性の材料からなるので、親水性が低く、通常、水の接触角が100°程度になっている。アルカリ耐性が低いと、アルカリ液によって処理すると、該光学異方性層の接触角は顕著に低下する。本発明の光学フィルムは、アルカリ液処理(本明細書では、1.5モル/Lの水酸化ナトリウム溶液に2分間浸漬する処理をいうものとする)した後も、光学異方性層表面の水の接触角の低下は少なく、接触角60〜95°を達成可能であり、70〜95°を達成可能である。
なお、接触角の測定は、協和界面科学(株)製接触角計DM500を用い、JIS K6768に準じるものとする。
【0063】
また、アルカリ耐性の程度を示す指標の他の例として、上記アルカリ液処理前後での光学異方性層の膜厚変化が小さいこと、上記アルカリ液処理前後での光学異方性層の面内レターデーションReの変化が小さいこと、が挙げられる。本発明の光学フィルムは、アルカリ液処理後の膜厚減少20nm未満を達成可能である。また、本発明の光学フィルムは、アルカリ液処理後のRe変化が2nm以下を達成可能である。
【0064】
4.偏光板
本発明は、本発明の光学フィルムと偏光膜とを少なくとも含む偏光板にも関する。本発明の光学フィルムは、偏光膜との接着性を改善するためにアルカリ鹸化処理が施されているのが好ましい。アルカリ鹸化処理については、特に制限はなく、一般的な方法により行うことができる。例えば、特開2001−100033号公報等に記載の方法により行うことができる。
【0065】
偏光膜:
本発明には、一般的な直線偏光膜(本明細書では、単に「偏光膜」という場合もある)を用いることができる。例えば、ヨウ素や二色性色素によって染色されたポリビニルアルコールフィルム等からなる偏光子膜を用いることができる。
【0066】
粘着層または接着剤:
本発明では、光学フィルムと偏光膜との間には、粘着層が配置されていてもよい。粘着剤については特に制限はなく、例えば、ポリビニルアルコール系粘着剤を用いることができる。また、貼り合せには接着剤を用いてもよく、例えば、ポリビニルアルコール系樹脂(アセトアセチル基、スルホン酸基、カルボキシル基、オキシアルキレン基による変性ポリビニルアルコールを含む)やホウ素化合物水溶液を接着剤として用いることができる。中でも、ポリビニルアルコール系樹脂が好ましい。
粘着剤層及び接着剤層の厚みは、乾燥後に0.01〜10μmの範囲にあることが好ましく、0.05〜5μmの範囲にあることが特に好ましい。
【0067】
保護膜:
偏光膜の光学フィルムを貼合しない他方の表面には、保護フィルムを配置するのが好ましい。保護膜として利用可能なポリマーフィルムの例としては、光学フィルムの透明支持体として利用可能なポリマーフィルムの例と同様である。
【0068】
その他の層:
また、本発明の偏光板は、反射防止層、ハードコート層、前方散乱層、プライマー層、帯電防止層、下塗り層等、他の機能層を有していてもよい。
【0069】
5.本発明の光学フィルム及び偏光板の用途
本発明の光学フィルム及び偏光板は、画像表示装置、特には液晶表示装置に利用することができる。前記光学フィルム及び偏光板は、TN(Twisted Nematic)、IPS(In−Plane Switching)、FLC(Ferroelectric Liquid Crystal)、AFLC(Anti−ferroelectric Liquid Crystal)、OCB(Optically Compensatory Bend)、STN(Supper Twisted Nematic)、VA(Vertically Aligned)、及びHAN(Hybrid Aligned Nematic)等、いずれの表示モードの液晶表示装置にも利用することができる。
【実施例】
【0070】
以下に実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す実施例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0071】
1.光学フィルムの作製
1−(1)ポリマーフィルムの準備
セルロースアセテート(酢化度60.9%)を主成分とするセルロースアセテートフィルムを準備した。このセルロースアセテートフィルムを、温度60℃の誘電式加熱ロールを通過させ、フィルム表面温度を40℃に昇温した後に、フィルムの片面に下記に示す組成のアルカリ溶液を、バーコーターを用いて塗布量14mL/m2で塗布し、110℃に加熱したスチーム式遠赤外ヒータ(ノリタケカンパニーリミテッド製)の下に10秒間滞留させた。続いて、同じくバーコーターを用いて、純水を3mL/m2塗布した。次いで、ファウンテンコーターによる水洗とエアナイフによる水切りを3回繰り返した後に、70℃の乾燥ゾーンに5秒間滞留させて乾燥し、鹸化処理したセルロースアシレートフィルムを作製した。
アルカリ溶液の組成:
・水酸化カリウム 4.7質量部
・水 15.7質量部
・イソプロパノール 64.8質量部
・界面活性剤(C1633(CH2CH2O)10H) 1.0質量部
・プロピレングリコール 14.9質量部
【0072】
1−(2)配向膜の形成
上記セルロースアセテートフィルムの鹸化処理面に、下記に示す組成の配向膜形成用塗布液をワイヤーバーコーターで24mL/m2塗布し、100℃の温風で120秒乾燥した。次に、フィルムの長手方向(搬送方向)に平行に、配向膜表面をラビング処理した。
配向膜形成用塗布液の組成:
・下記に示す変性ポリビニルアルコール 28質量部
・クエン酸エステル(AS3、三共化学製) 1.2質量部
・光開始剤(イルカギュア2959、チバ・ジャパン製) 0.84質量部
・グルタルアルデヒド 2.8質量部
・水 699質量部
・メタノール 226質量部
【0073】
【化10】

【0074】
1−(3) 硬化性液晶組成物の塗布液の調製
以下の組成の硬化性液晶組成物の塗布液をそれぞれ調製した。
硬化性液晶組成物塗布液組成:
下記に示すDLC1 95質量%
下記に示すDLC2 5質量%
下記に示すフルオロ脂肪族基含有ポリマー1 0.64質量%
下記に示すフルオロ脂肪族基含有ポリマー2 0.16質量%
光重合開始剤(イルガキュア907、チバ・ジャパン(株)製) 2.25質量%
増感剤(カヤキュアーDETX、日本化薬(株)製) 2.25質量%
下記表に示すα−アルキルアミン 下記表に示す量
メチルエチルケトン 382.6質量%
【0075】
【化11】

【0076】
1−(4)光学異方性層の形成
セルロースアセテートフィルム上の配向膜のラビング処理面に、各硬化性液晶組成物塗布液を、ワイヤーバーコーターで塗布した。その後、120℃の恒温槽中で120秒間加熱し、液晶性組成物を配向させた。次に、硬化性液晶組成物の塗布層に、フィルタ(WG280、SCHOTT製)を介して、塗布層温度を80℃に維持した状態で、紫外線を照射し、重合反応を進行させ、配向状態を固定して光学異方性層をそれぞれ形成した。用いたフィルタは、波長185nmでの透過率が0%、波長254nmでの透過率が0%、及び波長300nmでの透過率が80%のフィルタである。また紫外線照射には、通常の石英ガラス(波長185nmでの透過率が7%であり、且つ波長300nmでの透過率が90%である石英ガラス)製の発光管を有するメタルハライドランプを使用した。紫外線照射時の酸素濃度は20%(20万ppm)であった。上記フィルタを透過した紫外線の365nmにおける照度は220mW/cm2であり、照射量は350mJ/cm2であった。
形成した光学異方性層の厚み、及び波長550nmの面内レターデーションRe(550)を下記表に示す。
この様にして、各硬化性液晶組成物塗布液からなる光学異方性層を有する光学フィルムを作製し、以下の評価を行った。
【0077】
2.光学フィルムの評価
作製した各光学フィルムを、温度55℃の1.5モル/Lの水酸化ナトリウム水溶液中に2分間浸漬し、その後十分に水酸化ナトリウムを水で洗い流した。その後、温度35℃の0.05モル/Lの希硫酸水溶液に1分間浸漬した後、水に浸漬して希硫酸水溶液を十分に洗い流し、最後に120℃で十分に乾燥させた。
このアルカリ液処理の前後で、光学異方性層の膜厚、表面の接触角、及び波長550nmの面内レターデーションRe(550)を測定し、その結果を以下の表にまとめた。なおRe(550)は、特開2007−155942公報明細書などに記載されているように、KOBRA 21ADH(王子計測機器製)を用いて測定し、算出された値を記載した。また、光学異方性層のみのRe(550)はセルロースアセテートフィルムの寄与分を差し引くことで算出した。
【0078】
【表1】

【0079】
【化12】

【0080】
上記表に示す結果から、α−アルキルアミンを含有する硬化性液晶組成物からなる光学異方性層は、アルカリ液処理による膜厚の減少、及びReの減少が小さく、且つアルカリ処理液後も高い接触角を維持していることが理解できる。
一方、本発明のアルカリ耐性改善剤の代わりにチオール系重合促進剤を添加した比較例2、及びヒンダードアミン系酸化防止剤を添加した比較例3では、アルカリ耐性改善効果は得られなかった。
【0081】
なお、I群のα−アルキルアミンの例として、N,N−ジエチルアニリン及びN−フェニルグリシンについて、II群のα−アルキルアミンの例として、2−アミノエタノール及びN−メチルジエタノールアミンについて、並びにIII群のα−アルキルアミンの例として、トリベンジルアミンについて、その添加量に対して膜厚変化をプロットしたグラフを図1〜図3にそれぞれ示す。それぞれの群に属する他のα−アルキルアミンも、同様の傾向を示した。
【0082】
3.TNモード液晶表示装置の作製及び評価
3−(1) 偏光板の作製
厚さ80μmのポリビニルアルコール(PVA)フィルムを、ヨウ素濃度0.05質量%のヨウ素水溶液中に30℃で60秒間浸漬して染色し、次いでホウ酸濃度4質量%濃度のホウ酸水溶液中に60秒間浸漬しつつ、元の長さの5倍に縦延伸した。その後、50℃で4分間乾燥させて、厚さ20μmの偏光膜を得た。
上記アルカリ液で鹸化処理した各実施例の光学フィルムのセルロースアセテートフィルムの裏面(光学異方性層が形成されていない側の面)を、PVA系接着剤を用い、この偏光膜の一方の面に貼り合わせ、同じく上記と同様のアルカリ液による鹸化処理を行った市販のセルロースアセテートフィルムをPVA系接着剤を用い、この偏光膜の他方の面に貼り合わせ、偏光板を得た。市販のセルロースアセテートフィルムとして、フジタックTF80UL(富士フイルム社製)を用いた。
この様にして、各光学フィルムを有する偏光板をそれぞれ作製した。
比較例1で作製した光学フィルムを用いて、同様にして比較例用偏光板を作製した。
【0083】
3−(2) TN−モード液晶表示装置の作製
TNモード液晶セルを使用した液晶表示装置(AL2216W、日本エイサー製)に設けられている一対の偏光板を剥がし、代わりに上記で作製した各偏光板を、光学異方性層を液晶セル側にして接着剤を介して、観察者側及びバックライト側に一枚ずつ貼り付けた。観察者側の偏光板の吸収軸と、バックライト側の偏光板の吸収軸とが直交するように配置した。この様にして各偏光板を有するTNモード液晶表示装置をそれぞれ作製した。
【0084】
3−(3) 評価結果
作製した液晶表示装置のそれぞれについてコントラスト100以上となる視野角領域を評価したところ、実施例の光学フィルムを有する偏光板を備えた液晶表示装置はいずれも、比較例1の光学フィルムを有する偏光板を備えた液晶表示装置と比較して、明らかに視野角領域が広い結果が得られた。
【0085】
4.光学フィルムの作製
以下の組成の硬化性液晶組成物の塗布液をそれぞれ調製した。
硬化性液晶組成物塗布液組成:
上記DLC1 95質量%
上記DLC2 5質量%
上記フルオロ脂肪族基含有ポリマー1 0.64質量%
上記フルオロ脂肪族基含有ポリマー2 0.16質量%
光重合開始剤(イルガキュア907、チバ・ジャパン(株)製) 2.25質量%
増感剤(カヤキュアーDETX、日本化薬(株)製) 下記表に示す量
N−フェニルグリシン 0.75質量%
メチルエチルケトン 382.6質量%
【0086】
調製した各塗布液を使用した以外は、上記実施例と同様にして光学フィルムを作製した。さらに上記と同様にして、各光学フィルムのアルカリ液処理を行い、その前後の膜厚変化を測定した。また、以下の方法で引っ掻き耐性についても評価した。なお、一般的に、液晶表示装置の部材として利用するためには、光学異方性層の引っ掻き耐性は33g以上であることを望まれている。
引っ掻き耐性の測定方法:
連続荷重式引掻強度試験機(新東科学(株)製)Type18を用い、ダイヤモンド針(0.025mm径)で荷重を連続的に増やしながら、300mm/minの速度で上記光学フィルムの塗布表面を引っ掻いて、塗布膜面に引っ掻き傷が付き始めた点での荷重値を引っ掻き耐性値として測定した。
結果を下記表に示す。
【0087】
【表2】

【0088】
上記表に示す結果から、増感剤の添加量を増加させていくと光学異方性層の強度が向上するが、一方で、アルカリ耐性は低下することが理解できる。N−フェニルグリシンの添加量が増感剤の添加量に対してモル比で0.3〜1.5であると、十分な強度で、且つ高いアルカリ耐性の光学異方性層が得られることが理解できる。
【0089】
5.光学フィルムの作製と評価
以下の組成の硬化性液晶組成物の塗布液をそれぞれ調製した。
硬化性液晶組成物塗布液組成:
上記DLC1 95質量%
上記DLC2 5質量%
上記フルオロ脂肪族基含有ポリマー1 0.64質量%
上記フルオロ脂肪族基含有ポリマー2 0.16質量%
光重合開始剤(イルガキュア907、チバ・ジャパン(株)製) 下記表に示す量
増感剤(カヤキュアーDETX、日本化薬(株)製) 下記表に示す量
N−フェニルグリシン 0.75質量%
メチルエチルケトン 382.6質量%
【0090】
調製した各塗布液を使用した以外は、上記実施例と同様にして光学フィルムを作製した。さらに上記と同様にして、各光学フィルムのアルカリ液処理を行い、その前後の膜厚変化を測定した。また、上記と同様の方法で引っ掻き耐性についても評価した。結果を下記表に示す。
【0091】
【表3】

【0092】
上記表に示す結果から、重合開始剤及び増感剤の添加量の合計が増加すると、光学異方性層の強度が向上するが、一方で、アルカリ耐性は低下することが理解できる。N−フェニルグリシンを用いた上記例では、重合開始剤及び増感剤の添加量の合計が、0.89〜5.33質量%であると、特に、十分な強度で、且つ高いアルカリ耐性の光学異方性層が得られることが理解できる。
【0093】
6.光学フィルムの作製と評価
以下の組成の硬化性液晶組成物の塗布液をそれぞれ調製した。
硬化性液晶組成物塗布液組成:
上記DLC1 下記表に示す量
上記DLC2 下記表に示す量
上記フルオロ脂肪族基含有ポリマー1 0.64質量%
上記フルオロ脂肪族基含有ポリマー2 0.16質量%
光重合開始剤(イルガキュア907、チバ・ジャパン(株)製) 2.25質量%
増感剤(カヤキュアーDETX、日本化薬(株)製) 0.75質量%
N−フェニルグリシン 0.75質量%
メチルエチルケトン 382.6質量%
【0094】
調製した各塗布液を使用した以外は、上記実施例と同様にして光学フィルムを作製した。さらに上記と同様にして、各光学フィルムのアルカリ液処理を行い、その前後の膜厚変化を測定した。また、上記と同様にして、各光学異方性層の波長450nmのRe及び波長550nmのReをそれぞれ測定し、波長分散特性を示す指標であるRe(450)/Re(550)を算出した。なお、光学補償において理想的な波長分散特性は、Re(450)/Re(550)=1.53〜1.70である。結果を下記表に示す。
【0095】
【表4】

【0096】
上記表に示す結果から、DLC1の割合を高めると、波長分散特性の観点のみならず、アルカリ耐性の観点でも好ましい特性が得られることが理解できる。
【0097】
7.光学フィルムの作製と評価
以下の組成の硬化性液晶組成物の塗布液をそれぞれ調製した。
硬化性液晶組成物塗布液組成:
DLC1(下記に示すDLC1a〜DLC1dのいずれか) 95.0質量%
上記DLC2 5.0質量%
上記フルオロ脂肪族基含有ポリマー1 0.64質量%
上記フルオロ脂肪族基含有ポリマー2 0.16質量%
光重合開始剤(イルガキュア907、チバ・ジャパン(株)製) 2.25質量%
増感剤(カヤキュアーDETX、日本化薬(株)製) 0.75質量%
N−フェニルグリシン 0.75質量%
メチルエチルケトン 382.6質量%
【0098】
調製した各塗布液を使用した以外は、上記実施例と同様にして光学フィルムを作製した。さらに上記と同様にして、各光学フィルムのアルカリ液処理を行い、その前後の膜厚変化を測定した。
【0099】
【表5】

【0100】
【化13】

【0101】
上記表に示す結果から、側鎖のアルキレン鎖が長いほうが、アルカリ耐性がより改善することが理解できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一種のα−アルキルアミンからなる硬化性組成物用アルカリ耐性向上剤。
【請求項2】
前記α−アルキルアミンが、窒素原子に直接結合する芳香族環を有するα−アルキルアミンである請求項1に記載の硬化性組成物用アルカリ耐性向上剤。
【請求項3】
前記α−アルキルアミンが、脂肪族α−アルキルアミンである請求項1に記載の硬化性組成物用アルカリ耐性向上剤。
【請求項4】
前記α−アルキルアミンが、窒素原子に連結基を介して結合した芳香族環を含むα−アルキルアミンである請求項1に記載の硬化性組成物用アルカリ耐性向上剤。
【請求項5】
前記α−アルキルアミンが、窒素原子に結合した3級アミンである請求項1〜4のいずれか1項に記載の硬化性組成物用アルカリ耐性向上剤。
【請求項6】
1種以上の重合開始剤、1種以上の重合性液晶化合物、及び請求項1〜5のいずれか1項に記載のアルカリ耐性向上剤を少なくとも含有する硬化性液晶組成物。
【請求項7】
前記1種以上の重合性液晶化合物が、円盤状コアと、該円盤状コアを構成している原子に結合した2以上の側鎖とを有し、該側鎖が、エステル結合を有する請求項6に記載の硬化性液晶組成物。
【請求項8】
前記1種以上の重合性液晶化合物が、円盤状コアと、該円盤状コアを構成している原子に結合した2以上の側鎖とを有し、該側鎖が、オキサジアゾール環を1以上有する請求項6又は7に記載の硬化性液晶組成物。
【請求項9】
前記1種以上の重合性液晶化合物が、1,3,5−置換ベンゼン誘導体、又は1,2,7,8,13,14−置換トリフェニレン誘導体である請求項6〜8のいずれか1項に記載の硬化性液晶組成物。
【請求項10】
前記アルカリ耐性向上剤を、前記1種以上の重合性液晶化合物に対してモル比で0.1×102〜2.0×102の割合で含有する請求項6〜9のいずれか1項に記載の硬化性液晶組成物。
【請求項11】
さらに少なくとも1種の増感剤を含有し、前記アルカリ耐性向上剤を、前記増感剤に対してモル比で0.1〜1.5の割合で含有する請求項6〜10のいずれか1項に記載の硬化性液晶組成物。
【請求項12】
さらに少なくとも1種の増感剤を含有し、前記重合開始剤及び前記増感剤を合計で0.1〜10質量%含有する請求項6〜11のいずれか1項に記載の硬化性液晶組成物。
【請求項13】
ポリマーフィルムと、該ポリマーフィルム上に、請求項6〜12のいずれか1項に記載の硬化性液晶性組成物を硬化させてなる光学異方性層とを有する光学フィルム。
【請求項14】
アルカリ液処理後の前記光学異方性層表面の接触角が60〜95°である請求項13に記載の光学フィルム。
【請求項15】
アルカリ鹸化処理されている請求項13又は14に記載の光学フィルム。
【請求項16】
請求項13〜15のいずれか1項に記載の光学フィルムと、偏光膜とを有する偏光板。
【請求項17】
請求項13〜15のいずれか1項に記載の光学フィルム、及び/又は請求項16に記載の偏光板を有する液晶表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−87197(P2012−87197A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−234199(P2010−234199)
【出願日】平成22年10月19日(2010.10.19)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】