説明

アルカリ金属フッ化物分散液およびそれを用いる含フッ素有機化合物の製造方法

【課題】フッ素化能が高いフッ化カリウム分散液を提供すること。
【解決手段】下記の工程Aを行い、次いで工程B〜Dを少なくとも1回行った後、工程Eを行うことにより得られるアルカリ金属フッ化物分散液。
A:アルカリ金属フッ化物と、メタノール等のアルコール溶媒とを含むアルカリ金属フッ化物分散液から液相を取り出し、該液相と、特定の沸点の非プロトン性有機溶媒とを混合する工程
B:AまたはDで得られた混合物を濃縮し、濃縮留分と濃縮残分とを得る工程
C:Aで液相を取り出した後のアルカリ金属フッ化物とアルコール溶媒とを含むアルカリ金属フッ化物分散液の残分またはDで液相を取り出した後の混合物の残分と、Bで得られた濃縮留分とを混合する工程
D:Cで得られた混合物から液相を取り出し、該液相とBで得られた濃縮残分とを混合する工程
E:Dで得られた混合物からアルコール溶媒を除去して、アルカリ金属フッ化物分散液を得る工程

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ金属フッ化物分散液およびそれを用いる含フッ素有機化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルカリ金属フッ化物は、有機化合物のフッ素化剤として有用である。アルカリ金属フッ化物を用いた有機化合物のフッ素化反応は、通常、無機塩が析出した不均一な状態で実施するので、アルカリ金属フッ化物の形状によっては反応性が低下することがある。また、アルカリ金属フッ化物は吸湿性を有しているが、該フッ素化反応は求核置換反応であり、水分によって反応性が低下することもある。そこで、フッ化カリウム1g当たり0.5〜0.6mlのメタノールを用いてフッ化カリウムのメタノール溶液を調製し、これに40〜60mlの芳香族化合物と2〜3gの非プロトン性極性溶媒を加えて、蒸留することにより得られるフッ化カリウム分散液を反応に用いる方法が提案された(特許文献1参照。)。しかしながら、かかる方法で得られたフッ化カリウム分散液は、未だそのフッ素化剤としての反応性が十分ではないため、高価な相間移動触媒を用いて反応を実施する必要があり、工業的に実施するためには、さらなる反応性の向上が求められていた。
【0003】
【特許文献1】特表昭63−502181号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような状況の下、本発明者は、より反応性の高いフッ素化剤を開発すべく、鋭意検討を行ったところ、実質的にアルカリ金属フッ化物と、メタノール、エタノールおよびイソプロパノールからなる群から選ばれる少なくとも1つのアルコール溶媒とからなるアルカリ金属フッ化物分散液の上澄み液と、常圧での沸点が85℃以上である非プロトン性有機溶媒とを混合し、得られた混合物を濃縮し、濃縮留分として得られるアルコール溶媒を上記アルカリ金属フッ化物分散液の調製にリサイクル使用することにより得られる実質的にアルカリ金属フッ化物と非プロトン性有機溶媒とからなるアルカリ金属フッ化物分散液が、工業的に満足できるフッ素化剤としての反応性を有しており、該アルカリ金属フッ化物分散液を用いれば、相間移動触媒を用いることなく、効率よく有機化合物のフッ素化反応が進行することを見出し、本発明に至った。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち本発明は、下記の工程Aを行い、次いで工程B〜工程Dを少なくとも1回行った後、工程Eを行うことにより得られる実質的にアルカリ金属フッ化物と非プロトン性有機溶媒とからなるアルカリ金属フッ化物分散液およびそれを用いる含フッ素有機化合物の製造方法を提供するものである。
工程A:アルカリ金属フッ化物と、メタノール、エタノールおよびイソプロパノールからなる群から選ばれる少なくとも1つのアルコール溶媒とを含むアルカリ金属フッ化物分散液から液相を取り出し、該液相と、常圧での沸点が85℃以上である非プロトン性有機溶媒とを混合する工程
工程B:工程Aまたは工程Dで得られた混合物を濃縮し、濃縮留分と濃縮残分とを得る工程
工程C:工程Aで液相を取り出した後のアルカリ金属フッ化物とアルコール溶媒とを含むアルカリ金属フッ化物分散液の残分または工程Dで液相を取り出した後の混合物の残分と、工程Bで得られた濃縮留分とを混合する工程
工程D:工程Cで得られた混合物から液相を取り出し、該液相と工程Bで得られた濃縮残分とを混合する工程
工程E:工程Dで得られた混合物からアルコール溶媒を除去して、実質的にアルカリ金属フッ化物と非プロトン性有機溶媒とからなるアルカリ金属フッ化物分散液を得る工程
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、アルコール溶媒の使用量がアルカリ金属フッ化物に対して5重量倍未満であっても、有機化合物のフッ素化反応に対する反応性が高いアルカリ金属フッ化物分散液を容易に得ることができる。該アルカリ金属フッ化物分散液を用いれば、高価な相間移動触媒を用いなくても、医農薬および電子材料等の各種化学製品やその合成中間体等として重要な含フッ素有機化合物を効率よく製造できるので、工業的に有利である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明を詳細に説明する。まず工程A、すなわち、アルカリ金属フッ化物とアルコール溶媒とを含むアルカリ金属フッ化物分散液から液相を取り出し、該液相と非プロトン性有機溶媒とを混合する工程について説明する。
【0008】
アルカリ金属フッ化物としては、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化セシウムが挙げられる。フッ化カリウムまたはフッ化セシウムが好ましく、フッ化カリウムがより好ましい。これらアルカリ金属フッ化物は市販のものを用いることもできるし、アルカリ金属水酸化物とフッ化水素とを反応させて得たアルカリ金属フッ化物を用いることもできる。市販のものを用いる場合、その性状は特に限定されない。例えば乾燥品、水和物のいずれも使用できる。
【0009】
本発明に用いるアルコール溶媒は、メタノール、エタノールおよびイソプロパノールからなる群から選ばれる少なくとも1つのアルコール溶媒(本明細書において、単にアルコール溶媒と記載することもある。)である。メタノールまたはエタノールが好ましい。アルカリ金属フッ化物としてフッ化カリウムを用いるときはフッ化カリウムの溶解度の点で、また、フッ化セシウムを用いるときはフッ素化能力の点で、いずれの場合もメタノールを用いることがより好ましい。かかるアルコール溶媒は、市販のものを用いることができる。無水品のみならず、5重量%程度まで水を含んでいても使用できる。アルコール溶媒の使用量は、アルカリ金属フッ化物を完全には溶解させない量であれば、特に限定されないが、通常、アルカリ金属フッ化物に対して5重量倍未満、好ましくは0.1〜4.9重量倍である。
【0010】
アルカリ金属フッ化物とアルコール溶媒とを含むアルカリ金属フッ化物分散液とは、アルカリ金属フッ化物とアルコール溶媒とを含む液相と、アルカリ金属フッ化物からなる固相との混合物を意味する。アルカリ金属フッ化物分散液に含まれていてもよいアルカリ金属フッ化物とアルコール溶媒以外の成分としては、水や非プロトン性有機溶媒が挙げられる。かかるアルカリ金属フッ化物分散液から液相を取り出す方法としては、例えば、該アルカリ金属フッ化物分散液を濾過やデカンテーション等の固液分離操作で処理して液相の一部または全部を取り出す方法、抽出管等の容器中の該アルカリ金属フッ化物分散液にアルコール溶媒を加えていくことにより液相の一部をオーバーフローさせる方法等が挙げられる。本工程には、こうして取り出された液相をそのまま用いることができる。また、このようにして液相を取り出して用いた後の残分は、通常、そのまま後述する工程Cに供される。
【0011】
本発明に用いる非プロトン性有機溶媒は、常圧での沸点が85℃以上であれば特に限定されない。かかる溶媒を用いることにより、本発明に用いられるアルコール溶媒として、最も沸点の高いイソプロパノールを用いたときであっても、これを除去できる。非極性溶媒を用いてもよいが、後述するフッ素化反応溶媒としてそのまま用いることができる点で、非プロトン性極性溶媒を用いることが好ましい。かかる溶媒は、単独で用いてもよいし、2種以上の混合溶媒として用いてもよい。非プロトン性極性溶媒としては、例えば、ジブチルエーテル、ジオキサン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル溶媒;スルホラン、ジメチルスルホン、メチルエチルスルホン等のスルホン溶媒;ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド、テトラメチレンスルホキシド等のスルホキシド溶媒;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン等のアルキルアミド溶媒;プロピオニトリル、ブチロニトリル、アジポニトリル等のニトリル溶媒;等が挙げられる。好ましくは、スルホン溶媒、スルホキシド溶媒またはアルキルアミド溶媒である。また、非極性溶媒を用いる場合は、例えば、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン等の炭素数7〜10の脂肪族炭化水素溶媒;、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素溶媒;等が挙げられる。
【0012】
かかる非プロトン性有機溶媒の使用量は、アルカリ金属フッ化物に対して、通常1重量倍以上であればよく、その上限は特にないが、あまり多すぎると生産性が低下するため、実用的には20重量倍以下である。
【0013】
アルカリ金属フッ化物とアルコール溶媒とを含むアルカリ金属フッ化物分散液から取り出された液相と、非プロトン性有機溶媒との混合順序は、特に限定されないが、通常、非プロトン性有機溶媒に、該液相を加えることにより実施する。このとき該液相は、一括して加えてもよいし、分割して加えてもよいし、連続的に加えていってもよい。
【0014】
次に、本発明の工程B、すなわち、上記工程Aまたは後述する工程Dで得られた混合物を濃縮し、濃縮留分と濃縮残分とを得る工程について説明する。
【0015】
濃縮時の操作圧力は、通常0.7〜200kPaの範囲であり、操作温度は、通常20〜200℃の範囲である。
【0016】
本工程で得られる濃縮留分は、通常、実質的にアルコール溶媒からなる留分である。濃縮時の操作圧力や操作温度により、用いた非プロトン性有機溶媒とアルコール溶媒との混合留分が得られることもあるが、該混合留分をそのまま次の工程Cに供してもよいし、例えば分液、蒸留等の処理によって該混合留分からアルコール溶媒を取り出して、該アルコール溶媒のみを次の工程Cに供してもよい。
【0017】
本工程で得られる濃縮残分は、通常、非プロトン性有機溶媒とアルカリ金属フッ化物とを含む混合物である。該混合物にはアルコール溶媒が含まれていてもよい。後述する工程Dには、通常、該混合物をそのまま供する。
【0018】
本工程と上記工程Aとを、同時に行ってもよいし、段階的に行ってもよい。得られるアルカリ金属フッ化物分散液のフッ素化反応活性の点から、本工程と工程Aとを同時に行うことが好ましい。ここで、本工程と工程Aとを同時に行う方法としては、例えば、濃縮残分を、操作圧力下におけるアルコール溶媒の沸点より高い温度に調整し、そこに、アルカリ金属フッ化物分散液から取り出された液相を加えながら濃縮することによりアルコール溶媒の一部または全部を留去する方法が挙げられる。本工程と工程Aとを段階的に行う方法としては、例えば、アルカリ金属フッ化物分散液から取り出された液相の一部または全部と濃縮残分とを混合した後に、濃縮操作によりアルコール溶媒の一部または全部を留去する方法や、アルカリ金属フッ化物分散液から取り出された液相の一部と濃縮残分とを混合した後、濃縮操作によりアルコール溶媒の一部または全部を留去し、得られた濃縮残分と該液相の残りの一部または全部とを混合した後、濃縮操作によりアルコール溶媒の一部または全部を留去するという混合操作と濃縮操作を繰り返し行う方法が挙げられる。
【0019】
次に、本発明の工程C、すなわち、上記工程Aで液相を取り出した後のアルカリ金属フッ化物とアルコール溶媒とを含むアルカリ金属フッ化物分散液の残分または後述する工程Dで液相を取り出した後の混合物の残分(以下、工程Aまたは工程Dで得られたアルカリ金属フッ化物残分と略記する。)と、上記工程Bで得られた濃縮留分とを混合する工程について説明する。
【0020】
工程Aまたは工程Dで得られたアルカリ金属フッ化物残分と濃縮留分との混合順序は、特に限定されないが、通常、工程Aまたは工程Dで得られたアルカリ金属フッ化物残分に濃縮留分を加えることにより実施する。このとき濃縮留分は、一括して加えてもよいし、分割して加えてもよいし、連続的に加えていってもよい。
【0021】
かくして得られる混合物は、アルカリ金属フッ化物とアルコール溶媒とを含む液相を含んでおり、アルカリ金属フッ化物からなる固相との混合物であってもよい。該液相には、非プロトン性有機溶媒が含まれていてもよい。
【0022】
次に、本発明の工程D、すなわち、上記工程Cで得た混合物から液相を取り出し、該液相と上記工程Bで得られた濃縮残分とを混合する工程について説明する。
【0023】
工程Cで得られた混合物が固相を含まない、すなわちアルカリ金属フッ化物とアルコール溶媒とを含む溶液であるときは、該溶液の全量をそのまま、工程Cで得られた混合物から取り出された液相として本工程に供すればよい。
【0024】
工程Cで得られた混合物が固相を含む、すなわちアルカリ金属フッ化物とアルコール溶媒とを含むアルカリ金属フッ化物分散液であるときに、該アルカリ金属フッ化物分散液から液相を取り出す方法としては、例えば、該アルカリ金属フッ化物分散液を濾過やデカンテーション等の固液分離操作で処理して液相の一部または全部を取り出す方法、抽出管等の抽出管等の容器中の該アルカリ金属フッ化物分散液に上記工程Bで得られた濃縮留分を加えていくことにより液相の一部をオーバーフローさせる方法等が挙げられ、本工程には、こうして取り出された液相をそのまま用いればよい。また、このようにして液相を取り出して用いた後の残分は、通常、そのまま上記工程Cに供することができる。
【0025】
工程Cで得られた混合物から取り出された液相と、工程Bで得られた濃縮残分との混合順序は、特に限定されないが、通常、該濃縮残分に該液相を加えることにより実施する。このとき、該液相は、一括して加えてもよいし、分割して加えてもよいし、連続的に加えていってもよい。
【0026】
工程Cで得られた混合物が固相を含む場合は、本工程で得られた混合物を次の工程Eに供してもよいが、通常、上記工程Bに供する。このとき、工程Bと本工程とを、同時に行ってもよいし、段階的に行ってもよい。最終的に得られる実質的にアルカリ金属フッ化物と非プロトン性有機溶媒とからなるアルカリ金属フッ化物分散液のフッ素化反応活性の点から、工程Bと本工程とを同時に行うことが好ましい。ここで、工程Bと本工程とを同時に行う方法としては、例えば、濃縮残分を、操作圧力下におけるアルコール溶媒の沸点より高い温度に調整し、そこに、工程Cで得られた混合物から取り出された液相を加えながら濃縮することによりアルコール溶媒の一部または全部を留去する方法が挙げられる。工程Bと本工程とを段階的に行う方法としては、例えば、工程Cで得られた混合物から取り出された液相の一部または全部と濃縮残分とを混合した後に、濃縮操作によりアルコール溶媒の一部または全部を留去する方法や、工程Cで得られた混合物から取り出された液相の一部と濃縮残分とを混合した後、濃縮操作によりアルコール溶媒の一部または全部を留去し、得られた濃縮残分と該液相の残りの一部または全部とを混合した後、濃縮操作によりアルコール溶媒の一部または全部を留去するという混合操作と濃縮操作を繰り返し行う方法が挙げられる。
【0027】
工程Cで得られた混合物が固相を含まない場合は、本工程で得られた混合物をそのまま最後の工程Eに供する。
【0028】
本発明において、上記工程A〜工程Dを連続的に行うことにより、操作を簡便にすることができる。また、得られるアルカリ金属フッ化物分散液のフッ素化反応活性の点からも、上記工程A〜工程Dを連続的に行うことが好ましい。ここで、工程A〜工程Dを連続的に行う具体的な方法としては、例えば、還流冷却器と抽出管とを備えた反応容器にアルコール溶媒と非プロトン性有機溶媒とを仕込み、抽出管にアルカリ金属フッ化物を仕込み、アルコール溶媒を還流させることによって、抽出管内でアルカリ金属フッ化物とアルコール溶媒とを含むアルカリ金属フッ化物分散液を得、抽出管からオーバーフローした該アルカリ金属フッ化物分散液の液相を反応容器に移動させる方法が挙げられる。かかるアルコール溶媒の還流操作を継続して行えば、抽出管内の固体状のアルカリ金属フッ化物は消失し、全てのアルカリ金属フッ化物が反応容器に移動させることができる。本発明において、途中で還流操作を中止してもよいが、全てのアルカリ金属フッ化物が反応容器に移動するまでアルコール溶媒の還流操作を継続して行うことが好ましい。以上の操作により得られた反応容器中の混合物を、通常、そのまま最後の工程Eに供する。還流冷却器と抽出管とを備えた反応容器としては、例えば、ソックスレー抽出器等が用いられる。
【0029】
次に、本発明の工程E、すなわち、上記工程Dで得られた混合物からアルコール溶媒を除去して、実質的にアルカリ金属フッ化物と非プロトン性有機溶媒とからなるアルカリ金属フッ化物分散液を得る工程について説明する。
【0030】
工程Dで得られた混合物からアルコール溶媒を除去する操作としては、例えば、濾過、デカンテーション等の固液分離操作や濃縮操作等が挙げられる。また、これらの除去操作を併用してもよい。
【0031】
固液分離操作を行った後、得られた固体を必要により非プロトン性有機溶媒で洗浄処理したり、乾燥処理したりした後、非プロトン性有機溶媒と混合することにより、アルカリ金属フッ化物分散液を得ることができる。該アルカリ金属フッ化物分散液に実質的にアルコール溶媒が残存していない場合は、該アルカリ金属フッ化物分散液をそのまま本発明のアルカリ金属フッ化物分散液としてもよいし、該アルカリ金属フッ化物分散液に濃縮操作を施して本発明のアルカリ金属フッ化物分散液としてもよい。また、該アルカリ金属フッ化物分散液にアルコール溶媒が残存している場合は、該アルカリ金属フッ化物分散液に濃縮操作を施して、本発明のアルカリ金属フッ化物分散液とすることができる。
【0032】
本工程における濃縮操作は、アルカリ金属フッ化物分散液中にアルコール溶媒や水を実質的に残存させない目的において、アルコール溶媒や水と共沸する溶媒を用いて行ってもよい。アルコール溶媒や水と共沸する溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素溶媒;ヘキサン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素溶媒;等が挙げられる。
【0033】
濃縮時の操作圧力は、通常0.7〜200kPaの範囲であり、操作温度は、通常20〜200℃の範囲である。
【0034】
本工程と工程Dとを、同時に行ってもよいし、段階的に行ってもよい。得られるアルカリ金属フッ化物分散液のフッ素化反応活性の点から、本工程と工程Dとを同時に行うことが好ましい。ここで、本工程と工程Dとを同時に行う方法としては、例えば、工程Bで得られた濃縮残分を、操作圧力下におけるアルコール溶媒の沸点より高い温度に調整し、そこに、工程Cで得られた混合物の液相を加えながら濃縮することによりアルコール溶媒を留去する方法が挙げられる。本工程と工程Dとを段階的に行う方法としては、例えば、工程Cで得られた混合物の液相と工程Bで得られた濃縮残分とを混合した後に、濃縮操作によりアルコール溶媒を留去する方法や、工程Cで得られた混合物の液相の一部と工程Bで得られた濃縮残分とを混合した後、濃縮操作によりアルコール溶媒を留去し、得られた濃縮残分と該液相の残りの一部または全部とを混合した後、濃縮操作によりアルコール溶媒を留去するという混合操作と濃縮操作を繰り返し行う方法が挙げられる。
【0035】
かくして得られるアルカリ金属フッ化物分散液は、実質的にアルカリ金属フッ化物と上記非プロトン性有機溶媒からなり、アルカリ金属フッ化物の微粉末が非プロトン性有機溶媒中に分散した混合物である。かかるアルカリ金属フッ化物分散液中のアルカリ金属フッ化物の含有量は、通常5〜70重量%の範囲である。
【0036】
本発明のアルカリ金属フッ化物分散液は、フッ素化反応用組成物としての実用性がある。以下、求核的にフッ素原子で置換され得る基を少なくとも1つ有する有機化合物と、本発明のアルカリ金属フッ化物分散液とを接触させる有機化合物のフッ素化方法(本明細書において、単に「フッ素化反応」と記することもある。)について詳細に説明する。
【0037】
求核的にフッ素原子で置換され得る基を少なくとも1つ有する有機化合物としては、例えば、
置換されていてもよい脂肪族炭化水素化合物上の少なくとも1つの水素原子が求核的にフッ素原子で置換され得る基で置換された有機化合物;
置換されていてもよい芳香族炭化水素化合物上の少なくとも1つの水素原子が求核的にフッ素原子で置換され得る基で置換された有機化合物;
置換されていてもよい複素芳香族化合物上の少なくとも1つの水素原子が求核的にフッ素原子で置換され得る基で置換された有機化合物;
等が挙げられ、本フッ素化反応により、それぞれ対応する、
置換されていてもよい脂肪族炭化水素化合物上の少なくとも1つの水素原子がフッ素原子で置換された有機化合物;
置換されていてもよい芳香族炭化水素化合物上の少なくとも1つの水素原子がフッ素原子で置換された有機化合物;
置換されていてもよい複素芳香族化合物上の少なくとも1つの水素原子がフッ素原子で置換された有機化合物;
に変換される。
【0038】
脂肪族炭化水素化合物としては、例えばメタン、エタン、プロパン、ブタン、イソブタン、ペンタン、デカン、シクロプロパン、2,2−ジメチルシクロプロパン、シクロペンタン、シクロヘキサン等の直鎖状、分枝鎖状または環状の炭素数1〜20のアルカンが挙げられる。かかる脂肪族炭化水素化合物上に置換していてもよい基としては、例えば、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、4−メチルフェニル基、4−メトキシフェニル基、3−フェノキシフェニル基、2,3,5,6−テトラフルオロフェニル基、2,3,5,6−テトラフルオロ−4−メチルフェニル基、2,3,5,6−テトラフルオロ−4−メトキシフェニル基、2,3,5,6−テトラフルオロ−4−メトキシメチルフェニル基、2−ピリジル基等の炭素数5〜20の置換されていてもよいアリール基;メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、トリフルオロメトキシ基等の炭素数1〜20の置換されていてもよいアルコキシ基;フェノキシ基、2−メチルフェノキシ基、4−メチルフェノキシ基、4−メトキシフェノキシ基、3−フェノキシフェノキシ基等の炭素数6〜20の置換されていてもよいアリールオキシ基;ベンジルオキシ基、4−メチルベンジルオキシ基、4−メトキシベンジルオキシ基、3−フェノキシベンジルオキシ基、2,3,5,6−テトラフルオロベンジルオキシ基、2,3,5,6−テトラフルオロ−4−メチルベンジルオキシ基、2,3,5,6−テトラフルオロ−4−メトキシベンジルオキシ基、2,3,5,6−テトラフルオロ−4−メトキシメチルベンジルオキシ基等の炭素数7〜20の置換されていてもよいアラルキルオキシ基;フッ素原子;アセチル基、エチルカルボニル基等の炭素数2〜20の置換されていてもよいアルキルカルボニル基;ベンゾイル基、2−メチルベンゾイル基、4−メチルベンゾイル基、4−メトキシベンゾイル基等の炭素数7〜20の置換されていてもよいアリールカルボニル基;ベンジルカルボニル基、4−メチルベンジルカルボニル基、4−メトキシベンジルカルボニル基等の炭素数8〜20の置換されていてもよいアラルキルカルボニル基;カルボキシ基;等のフッ素化反応に関与しない基が挙げられる。かかる基で置換された脂肪族炭化水素化合物としては、例えばフルオロメタン、トリフルオロメタン、メトキシメタン、エトキシメタン、メトキシエタン、トルエン、4−メトキシトルエン、3−フェノキシトルエン、2,3,5,6−テトラフルオロトルエン、2,3,5,6−テトラフルオロ−パラキシレン、2,3,5,6−テトラフルオロ−4−メトキシトルエン、2,3,5,6−テトラフルオロ−4−メトキシメチルトルエン、2−プロピルナフタレン、メチルイソブチルケトン、アセトフェノン、4−メチルアセトフェノン、フェニルアセトン等が例示される。
【0039】
芳香族炭化水素化合物としては、例えばベンゼン、ナフタレン等の炭素数6〜20の芳香族炭化水素化合物が挙げられる。かかる芳香族炭化水素化合物上に置換していてもよい基としては、例えば、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、4−メチルフェニル基、4−メトキシフェニル基、3−フェノキシフェニル基、2,3,5,6−テトラフルオロフェニル基、2,3,5,6−テトラフルオロ−4−メチルフェニル基、2,3,5,6−テトラフルオロ−4−メトキシフェニル基、2,3,5,6−テトラフルオロ−4−メトキシメチルフェニル基、2−ピリジル基等の炭素数5〜20の置換されていてもよいアリール基;メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、トリフルオロメトキシ基等の炭素数1〜20の置換されていてもよいアルコキシ基;フェノキシ基、2−メチルフェノキシ基、4−メチルフェノキシ基、4−メトキシフェノキシ基、3−フェノキシフェノキシ基等の炭素数6〜20の置換されていてもよいアリールオキシ基;ベンジルオキシ基、4−メチルベンジルオキシ基、4−メトキシベンジルオキシ基、3−フェノキシベンジルオキシ基、2,3,5,6−テトラフルオロベンジルオキシ基、2,3,5,6−テトラフルオロ−4−メチルベンジルオキシ基、2,3,5,6−テトラフルオロ−4−メトキシベンジルオキシ基、2,3,5,6−テトラフルオロ−4−メトキシメチルベンジルオキシ基等の炭素数7〜20の置換されていてもよいアラルキルオキシ基;アセチル基、エチルカルボニル基等の炭素数2〜20の置換されていてもよいアルキルカルボニル基;ベンゾイル基、2−メチルベンゾイル基、4−メチルベンゾイル基、4−メトキシベンゾイル基等の炭素数7〜20の置換されていてもよいアリールカルボニル基;ベンジルカルボニル基、4−メチルベンジルカルボニル基、4−メトキシベンジルカルボニル基等の炭素数8〜20の置換されていてもよいアラルキルカルボニル基;カルボキシ基;スルホンアミド基;シアノ基;アミド基;フッ素原子;等のフッ素化反応に関与しない基が挙げられる。また、これらの基のうち、隣接する2つの基が互いに結合して、その結合炭素原子とともに環を形成していてもよい。かかる基で置換された芳香族炭化水素化合物としては、例えばシアノベンゼン、テレフタロニトリル、イソフタロニトリル、オルソフタロニトリル、フルオロベンゼン、1,4−ジフルオロベンゼン、ベンゼンスルホンアミド、ビフェニル、2−フェニルナフタレン、ジフェニルエーテル、ベンゾフェノン、1,2−ジフェニルエタノン等が挙げられる。
【0040】
複素芳香族化合物としては、例えばピリジン、キノリン、ピリミジン等の炭素数5〜20の複素芳香族化合物が挙げられる。かかる複素芳香族化合物上に置換していてもよい基としては、上記した芳香族炭化水素化合物上に置換していてもよい基として例示したフッ素化反応に関与しない基が挙げられる。かかる基で置換された複素芳香族化合物としては、例えば3−メチルピリジン、4−フェニルピリジン等が挙げられる。
【0041】
求核的にフッ素原子で置換され得る基としては、例えば塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、ニトロ基、スルホ基、置換されていてもよいアルキルスルホニルオキシ基、置換されていてもよいアリールスルホニルオキシ基、置換されていてもよいアルキルカルボニルオキシ基または置換されていてもよいアリールカルボニルオキシ基等が挙げられる。かかる基を2以上有する場合には、それらは互いに同一であってもよいし、相異なってもよい。
【0042】
置換されていてもよいアルキルスルホニルオキシ基としては、例えばメタンスルホニルオキシ基、エタンスルホニルオキシ基、トリフルオロメタンスルホニルオキシ基等が挙げられる。置換されていてもよいアリールスルホニルオキシ基としては、例えばパラトルエンスルホニルオキシ基、ベンゼンスルホニルオキシ基、1−ナフタレンスルホニルオキシ基等が挙げられる。置換されていてもよいアルキルカルボオキシ基としては、例えばトリフルオロアセトキシ基、ペンタフルオロエチルカルボニルオキシ基等が挙げられる。置換されていてもよいアリールカルボニルオキシ基としては、例えばテトラフルオロベンゾイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基等が挙げられる。
【0043】
求核的にフッ素原子で置換され得る基を少なくとも1つ有する有機化合物としては、例えば1−クロロブタン、1−ブロモブタン、1−ヨードブタン、1−クロロシクロブタン、1−クロロペンタン、1−ブロモペンタン、1−クロロシクロペンタン、1−クロロ−4−ブロモブタン、1−クロロヘキサン、1−ブロモヘキサン、1,6−ジブロモヘキサン、1−クロロヘプタン、1−ブロモヘプタン、2−クロロへプタン、2−ブロモヘプタン、1−クロロオクタン、1−ブロモオクタン、2−クロロオクタン、2−ブロモオクタン、ベンジルクロライド、ベンジルブロマイド、(1−クロロエチル)ベンゼン、(1−ブロモエチル)ベンゼン、4−メトキシベンジルクロライド、4−メチルベンジルブロマイド、3,4,5−トリフルオロベンジルブロマイド、パラトルエンスルホン酸n−ブチル、メタンスルホン酸n−ブチル、パラトルエンスルホン酸n−ペンチル、メタンスルホン酸n−ペンチル、パラトルエンスルホン酸n−ヘキシル、メタンスルホン酸n−ヘキシル、パラトルエンスルホン酸n−ヘプチル、メタンスルホン酸n−ヘプチル、パラトルエンスルホン酸n−オクチル、メタンスルホン酸n−オクチル、トリフルオロ酢酸n−ブチル、テトラフルオロ安息香酸n−ブチル、トリフルオロ酢酸n−オクチル、4−クロロニトロベンゼン、4−ブロモニトロベンゼン、2−クロロニトロベンゼン、2−ブロモニトロベンゼン、2,4−ジクロロニトロベンゼン、2,6−ジクロロニトロベンゼン、3,5−ジクロロニトロベンゼン、4−シアノクロロベンゼン、4−シアノブロモベンゼン、1−クロロ−2,4−ジニトロベンゼン、テトラクロロテレフタロニトリル、テトラクロロイソフタロニトリル、テトラクロロオルソフタロニトリル、1,3−ジクロロ−4,6−ジニトロベンゼン、2−クロロキノリン、2−クロロ−5−ニトロピリジン、2−クロロ−5−トリフルオロメチルピリジン、4,5,6−トリクロロピリミジン等が挙げられる。
【0044】
かかる求核的にフッ素原子で置換され得る基を少なくとも1つ有する有機化合物と、本発明のアルカリ金属フッ化物分散液とを接触させることにより、含フッ素有機化合物が得られる。ここで、求核的にフッ素原子で置換され得る基を2以上有する有機化合物を用いる場合には、それらは相異なる置換基であってもよく、通常、以下のような反応性を示し、最も反応性が高い基のみがフッ素原子に置換されることもあるし、反応条件によっては同一または相異なる2以上の基がフッ素原子に置換されることもある。
【0045】
置換されていてもよい芳香族炭化水素化合物上の少なくとも1つの水素原子が求核的にフッ素原子で置換され得る基で置換された有機化合物の場合は、通常、パラ位やオルト位に電子吸引性の基を有する求核的にフッ素原子で置換され得る基が優先的にフッ素原子に置換される。例えば、4−クロロニトロベンゼンの反応において、塩素原子とニトロ基はともに求核的にフッ素原子で置換され得る基であるが、より電子吸引性の高いニトロ基をパラ位に持つ塩素原子が優先的にフッ素原子に置換され、通常は4−フルオロニトロベンゼンが選択的に生成する。もちろん、例えば、本発明のアルカリ金属フッ化物分散液を大過剰量用いる等、反応条件を適宜選択すればニトロ基もフッ素原子に置換され、パラジフルオロベンゼンを得ることもできる。
【0046】
また、置換されていてもよい複素芳香族化合物上の少なくとも1つの水素原子が求核的にフッ素原子で置換され得る基で置換された有機化合物の場合は、通常、複素芳香環を構成するヘテロ原子に対して、2位、4位または6位の求核的にフッ素原子で置換され得る基が優先的にフッ素原子に置換される。例えば、2−クロロ−3−ニトロピリジンでは、通常、2位のクロル基が置換され2−フルオロ−3−ニトロピリジンが生成する。もちろん、例えば、本発明のアルカリ金属フッ化物分散液を大過剰量用いる等、反応条件を適宜選択すればニトロ基もフッ素原子に置換され、2,3−ジフルオロピリジンを得ることもできる。
【0047】
本発明のアルカリ金属フッ化物分散液の使用量は、通常、求核的にフッ素原子で置換され得る基を少なくとも1つ有する有機化合物上のフッ素化反応を所望する基に対し、アルカリ金属フッ化物を1モル倍以上含む量であればよい。その上限は特にないが、求核的にフッ素原子で置換され得る基を1つのみ有する場合は、反応効率の観点から好ましくは1.5〜5モル倍である。また、求核的にフッ素原子で置換され得る基を2以上有する場合は、上記反応性の優先順位に基づき、フッ素反応を所望する基が優先的にフッ素原子で置換される範囲で使用量を適宜設定すればよい。
【0048】
フッ素化反応は、溶媒の存在下に実施する。溶媒としては、通常、本発明のアルカリ金属フッ化物分散液に含まれる溶媒をそのまま使用することができるが、フッ素化反応において、それと同一または別種の溶媒を、さらに追加して用いてもよい。かかる溶媒としては、上述の非プロトン性極性溶媒と同一のものが例示される。
【0049】
接触温度があまり低いとフッ素化反応が進行しにくく、また接触温度があまり高いと原料や生成物の分解等副反応が進行するおそれがあるため、実用的な接触温度は、通常20〜250℃の範囲である。
【0050】
フッ素化反応は、求核的にフッ素原子で置換され得る基を少なくとも1つ有する有機化合物と、本発明のアルカリ金属フッ化物分散液とを接触させることにより実施され、それらの混合順序は特に限定されない。例えば、反応温度条件下で求核的にフッ素原子で置換され得る基を少なくとも1つ有する有機化合物に本発明のアルカリ金属フッ化物分散液を加えていってもよいし、その逆でもよい。また、両試剤を同時に混合した後に反応温度を調整してもよい。
【0051】
フッ素化反応は、常圧条件下で実施してもよいし、加圧条件下で実施してもよい。また、反応の進行は、例えばガスクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、NMR、IR等の通常の分析手段により確認することができる。
【0052】
フッ素化反応終了後、得られた反応混合物に、晶析処理や蒸留処理等を施したり、必要に応じて水および/または水と混和しない有機溶媒を加えて抽出処理し、得られる有機層に濃縮処理を施したりすることにより、含フッ素有機化合物を単離することができる。単離した含フッ素有機化合物を、例えば蒸留、カラムクロマトグラフィー等の通常の精製手段によりさらに精製してもよい。
【0053】
ここで、水と混和しない有機溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、クロロベンゼン等の芳香族炭化水素溶媒;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素溶媒;ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素溶媒;ジエチルエーテル、メチルtert−ブチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル溶媒;酢酸エチル等のエステル溶媒;等が挙げられる。
【0054】
かくして得られる含フッ素有機化合物としては、例えば1−フルオロブタン、1−フルオロシクロブタン、1−フルオロペンタン、1−フルオロシクロペンタン、1,4−ジフルオロブタン、1−クロロ−4−フルオロブタン、1−フルオロヘキサン、1,6−ジフルオロヘキサン、1−フルオロヘプタン、2−フルオロへプタン、1−フルオロオクタン、2−フルオロオクタン、ベンジルフルオライド、(1−フルオロエチル)ベンゼン、4−メトキシベンジルフルオライド、4−メチルベンジルフルオライド、3,4,5−トリフルオロベンジルフルオライド、4−フルオロニトロベンゼン、2−フルオロニトロベンゼン、2,4−ジフルオロニトロベンゼン、2,6−ジクロロフルオロベンゼン、3,5−ジフルオロニトロベンゼン、4−シアノフルオロベンゼン、1−フルオロ−2,4−ジニトロベンゼン、テトラフルオロテレフタロニトリル、テトラフルオロイソフタロニトリル、テトラフルオロオルソフタロニトリル、1,3−ジフルオロ−4,6−ジニトロベンゼン、2−フルオロキノリン、2−フルオロ−5−ニトロピリジン、2−フルオロ−5−トリフルオロメチルピリジン、4,6−ジフルオロ−5−クロロ−ピリミジン、4,5,6−トリフルオロピリミジン等が挙げられる。
【0055】
以下、本発明のフッ素化方法の具体例として、テトラフルオロテレフタル酸ジフルオライドの製造方法について、さらに説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。
【0056】
テトラクロロテレフタル酸ジクロライドと本発明のアルカリ金属フッ化物分散液とを接触させれば、通常、テトラフルオロテレフタル酸ジフルオライドが得られる。該生成物は、医農薬原料等として利用できる有用な化合物である(例えば、中国特許公開第1458137号明細書および特許第2606892号公報参照。)。
【0057】
テトラクロロテレフタル酸ジクロライドは、例えば特公平2−11571号公報等に記載の公知の方法により製造することができる。
【0058】
本発明のアルカリ金属フッ化物分散液の使用量は、通常、テトラクロロテレフタル酸ジクロライドに対して、アルカリ金属フッ化物を6モル倍以上含む量であればよく、その上限は特にないが、経済的な観点から好ましくは10モル倍以下の範囲で用いる。
【0059】
通常の接触温度は上述のとおりであるが、好ましくは120〜200℃の範囲である。
【0060】
フッ素化反応終了後、例えば減圧蒸留等の通常の単離操作により、テトラフルオロテレフタル酸ジフルオライドを単離することができる。得られたテトラフルオロテレフタル酸ジフルオライドは、例えば精留等の通常の精製方法により、さらに精製してもよい。
【0061】
また、得られたテトラフルオロテレフタル酸ジフルオライドとアルコールとを反応させることにより、テトラフルオロテレフタル酸ジエステルを製造することもできる。以下、該反応をエステル化反応と記載することもある。
【0062】
テトラフルオロテレフタル酸ジフルオライドは、フッ素化反応により得られる混合物から単離した後に用いてもよいし、フッ素化反応により得られる混合物をそのまま用いてもよい。
【0063】
アルコールとしては、例えばメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、tert−ブタノール、シクロヘキサノール等の炭素数1〜6のアルコールが挙げられる。
【0064】
アルコールとして、例えば式(1)
R’OH (1)
(式中、R’は炭素数1〜6のアルキル基を表す。)
で示されるアルコールを用いれば、式(2)

(式中、R’は上記と同一の意味を表す。)
で示されるテトラフルオロテレフタル酸ジエステルが得られる。
【0065】
Rで示される炭素数1〜6のアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の直鎖状、分枝鎖状または環状のアルキル基が挙げられる。
【0066】
アルコールの使用量は特に制限されず、溶媒を兼ねて過剰量用いてもよいが、テトラフルオロテレフタル酸ジフルオライドに対して、通常2〜50モル倍の範囲である。
【0067】
テトラフルオロテレフタル酸ジフルオライドとして、フッ素化反応後の混合物をそのまま用いる場合は、有機溶媒を新たに使用することなく実施することができるが、単離されたものを用いる場合は、有機溶媒の存在下に実施することが好ましい。かかる有機溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、クロロベンゼン等の芳香族炭化水素溶媒;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素溶媒;ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素溶媒;ジエチルエーテル、メチルtert−ブチルエーテル等のエーテル溶媒;酢酸エチル等のエステル溶媒;等が挙げられる。有機溶媒の使用量は、特に限定されない。
【0068】
エステル化反応は、必要により有機溶媒の存在下に、テトラフルオロテレフタル酸ジフルオライドとアルコールとを混合することにより実施され、その混合順序は特に限定されない。
【0069】
エステル化反応の温度は特に限定されず、通常0〜100℃の範囲である。
【0070】
エステル化反応は、通常、常圧条件下で実施されるが、加圧条件下に実施してもよい。反応の進行は、例えばガスクロマトグラフィーや液体クロマトグラフィー等の通常の分析手段により確認することができる。
【0071】
エステル化反応終了後、反応混合物に、以下に例示する単離手段を施すことにより、テトラフルオロテレフタル酸ジエステルを単離することができる。なお、反応混合物中には、通常、塩化カリウム等の無機塩が析出するので、必要によりろ過処理等を施し、無機塩を除去した後に単離処理を施すことができる。
【0072】
<単離手段例1>
例えば、反応混合物を濃縮処理し、得られた残渣と水とを混合することにより、テトラフルオロテレフタル酸ジエステルを結晶として析出させることができる。かかる結晶をろ過処理により分取すれば、テトラフルオロテレフタル酸ジエステルを単離することができる。
【0073】
<単離手段例2>
例えば、反応混合物と水とを、必要により水と混和しない有機溶媒の存在下に混合し、分液処理を施すことにより、テトラフルオロテレフタル酸ジエステルを有機層として取り出すこともできる。かかる有機層を濃縮処理すれば、テトラフルオロテレフタル酸ジエステルを単離することができる。ここで、水と混和しない有機溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、クロロベンゼン等の芳香族炭化水素溶媒;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素溶媒;ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素溶媒;ジエチルエーテル、メチルtert−ブチルエーテル等のエーテル溶媒;酢酸エチル等のエステル溶媒;等が挙げられ、その使用量は特に限定されない。
【0074】
単離されたテトラフルオロテレフタル酸ジエステルは、例えば晶析、カラムクロマトグラフィー等の通常の精製手段により、さらに精製してもよい。
【0075】
かくして得られるテトラフルオロテレフタル酸ジエステルとしては、例えば2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジメチル、2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジエチル、2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジ(n−プロピル)、2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジイソプロピル、2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジ(n−ブチル)、2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジ(tert−ブチル)等が挙げられる。
【実施例】
【0076】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例により限定されるものではない。
【0077】
実施例1
還流冷却管およびソックスレー抽出管を付した200mlフラスコに、メタノール30gとトルエン100gを仕込んだ。また、ソックスレー抽出管部位にはフッ化カリウム(ナカライテスク社から購入:商品コード28611−95)20gを仕込み、フラスコ内容物を常圧下で100℃に加熱し、同温度でメタノールを18時間還流させたところ、ソックスレー抽出管部位のフッ化カリウムは完全に消失し、フラスコ中にフッ化カリウム分散液を得た。該フッ化カリウム分散液を、常圧下で90〜100℃に加熱し、メタノール/トルエン混合液を30g留去した。さらにフラスコ内にトルエン100gを加え、さらにメタノール/トルエン混合液を100g留去した。得られた混合物を濾過処理し、得られた微粉末を乾燥処理して、フッ化カリウム19.7gを得た。得られたフッ化カリウムの粒径は、ソックスレー抽出管部位に仕込んだフッ化カリウムの粒径よりも小さいことを、目視で確認した。
還流冷却管および水分離管を付した50mlフラスコに、上記で調製したフッ化カリウム960mgとスルホラン3gとトルエン3gとを仕込み、フラスコ内容物を常圧下で130℃に加熱し、同温度でトルエンの還流脱水を30分間行った後、140℃に昇温してトルエンを留去することにより、フッ化カリウム分散液を得た。
該フッ化カリウム分散液を100℃まで冷却し、テトラクロロテレフタル酸ジクロライド680mgと混合した。得られた混合物を150℃に昇温し、同温度で4時間保温・攪拌した。反応後、室温まで冷却し、メタノールを5g加え、室温で1時間攪拌した。酢酸エチルを10g加え、ガスクロマトグラフィー内部標準法により分析して収率を求めた。
2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジメチルの収率:70%
2,3,5−トリフルオロ−6−クロロテレフタル酸ジメチルの収率:16%
ジフルオロ−ジクロロテレフタル酸ジメチルの収率(3異性体合計):11%
【0078】
実施例2
還流冷却管を付した1Lフラスコにスルホラン500gを仕込み、内温140℃まで昇温した。また、2Lの三角フラスコにフッ化カリウム(ナカライテスク社から購入:商品コード28611−95)150gとメタノール500g仕込み、室温で攪拌したが、フッ化カリウムは完全には溶解しなかった。該混合物の液相をデカンテーションにより取り出し、上記の内温140℃に加熱された1Lフラスコ中のスルホランに該液相を滴下しながら、メタノールを留去することにより、1Lフラスコ中にフッ化カリウムとスルホランとを含む混合物を得た。
留出したメタノールと、デカンテーションにより液相を取り出した後の残分とを混合し、該混合物から液相を取り出し、該液相を、内温140℃に加熱された1Lフラスコ中のフッ化カリウムとスルホランとを含む混合物に滴下しながらメタノールを留去した。この操作をフッ化カリウムの全量を1Lフラスコ中に仕込み終わるまで繰り返した。メタノールがほとんど留出しなくなった後、160℃/2.7kPaの条件で、さらにメタノールを留去することにより、フッ化カリウム分散液を得た。得られた分散液中のフッ化カリウムの粒径は、2Lの三角フラスコに仕込んだフッ化カリウムの粒径よりも小さいことを、目視で確認した。
該フッ化カリウム分散液を100℃まで冷却し、テトラクロロテレフタル酸ジクロライド110gと混合した。得られた混合物を145℃に昇温し、同温度で攪拌しながら10時間保温・攪拌した。反応後、100℃まで冷却し、トルエン300gを加えた後、室温まで冷却した。メタノール75gを滴下し、窒素ガスを用いて副生するフッ化水素ガスをフラスコ外へ除きながら、室温で12時間攪拌した。析出した結晶を濾別し、該結晶をトルエン30gで洗浄した。濾液と洗液とを合一し、水500gを加えた後、炭酸カリウム4gを加えて、水層のpHを8に調整した。該混合物を分液し、得られた有機層をエバポレーター(減圧度10〜100kPa、水浴30〜50℃)で濃縮することにより、オイル状の残渣を得た。かかる残渣と水400gとを混合したところ、混合物から結晶が析出した。エバポレーター(減圧度10〜100kPa、水浴30〜50℃)で、該混合物から5g程度の水を留去することにより、上記残渣に含まれていたトルエンを共沸除去した。室温まで冷却し、結晶を濾過・乾燥することにより、82.2gの薄黄色結晶を得た。該結晶をガスクロマトグラフィー面積百分率法により分析したところ、2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジメチルの純度は89%であった。
単離収率:85%。
【0079】
実施例3
還流冷却管および水分離管を付した50mlフラスコに、実施例1で調製したフッ化カリウム700mgとジメチルスルホキシド4gとトルエン5gとを仕込み、フラスコ内容物を常圧下で130℃に加熱し、同温度でトルエンの還流脱水を30分間行った後、140℃に昇温してトルエンを留去することにより、フッ化カリウム分散液を得た。
該フッ化カリウム分散液を100℃まで冷却し、4−クロロニトロベンゼン1.2gと混合した。得られた混合物を185℃まで昇温し、同温度で5時間保温・攪拌した。反応後、100℃まで冷却し、トルエン100gを加えた後、室温まで冷却した。析出した結晶を濾別し、該結晶をトルエン10gで洗浄した。濾液と洗液とを合一し、得られた溶液をガスクロマトグラフィー内部標準法により分析して収率を求めた。
4−フルオロニトロベンゼンの収率:85%
4−クロロニトロベンゼンの回収率:15%
【0080】
比較例1
還流冷却管を付した50mlフラスコに、フッ化カリウム(ナカライテスク社から購入;商品コード28611−95)960mgとメタノール2gを加え、30分還流したが、フッ化カリウムは完全には溶解しなかった。得られた混合物にスルホラン3gおよびトルエン3gを加え、常圧下130℃で、メタノール/トルエン混合液を留去した。メタノールがほとんど留出しなくなった後、140℃に昇温し、トルエンを留去することにより、フッ化カリウム分散液を得た。
該フッ化カリウム分散液を100℃まで冷却し、テトラクロロテレフタル酸ジクロライド680mgと混合した。得られた混合物を150℃に昇温し、同温度で攪拌しながら4時間保温・攪拌した。反応後、室温まで冷却し、メタノールを5g加え、室温で1時間攪拌した。酢酸エチルを10g加え、ガスクロマトグラフィー内部標準法により分析して収率を求めた。
2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジメチルの収率:0%
2,3,5−トリフルオロ−6−クロロテレフタル酸ジメチルの収率:0%
ジフルオロ−ジクロロテレフタル酸ジメチルの収率(3異性体合計):0%
2−フルオロ−3,5,6−トリクロロテレフタル酸ジメチルの収率:1%
2,3,5,6−テトラクロロテレフタル酸ジメチルの収率:98%
【0081】
実施例4
還流冷却管を付した100mlフラスコにスルホラン15gを仕込み、内温120℃まで昇温した。また、100mlの三角フラスコにフッ化セシウム(関東化学社から購入:商品コード07186−33)4.3gとメタノール10g仕込み、室温で攪拌したが、フッ化セシウムは完全には溶解しなかった。該混合物の液相をデカンテーションにより取り出し、上記の内温120℃に加熱された100mlフラスコ中のスルホランに該液相を滴下しながら、メタノールを留去することにより、100mlフラスコ中にフッ化セシウムとスルホランとを含む混合物を得た。
留出したメタノールと、デカンテーションにより液相を取り出した後の残分とを混合し、該混合物から液相を取り出し、該液相を、内温120℃に加熱された100mlフラスコ中のフッ化セシウムとスルホランとを含む混合物に滴下しながらメタノールを留去した。この操作をフッ化セシウムの全量を100mlフラスコ中に仕込み終わるまで繰り返した。メタノールがほとんど留出しなくなった後、140℃/2.7kPaの条件で、さらにメタノールを留去することにより、フッ化セシウム分散液を得た。得られた分散液中のフッ化セシウムの粒径は、100mlの三角フラスコに仕込んだフッ化セシウムの粒径よりも小さいことを、目視で確認した。
該フッ化セシウム分散液を100℃まで冷却し、4−クロロニトロベンゼン3.0gと混合した。得られた混合物を140℃に昇温し、同温度で2時間保温・攪拌した。反応後、室温まで冷却し、ジクロロメタン20gで希釈した後、得られた混合物をガスクロマトグラフィー内部標準法により分析して収率を求めた。
4−フルオロニトロベンゼンの収率:64%
4−クロロニトロベンゼンの回収率:35%
【0082】
実施例5
還流冷却管を付した100mlフラスコにスルホラン15gを仕込み、内温140℃まで昇温した。また、100mlの三角フラスコにフッ化セシウム(関東化学社から購入:商品コード07186−33)4.3gとエタノール10g仕込み、室温で攪拌したが、フッ化セシウムは完全には溶解しなかった。該混合物の液相をデカンテーションにより取り出し、上記の内温140℃に加熱された100mlフラスコ中のスルホランに該液相を滴下しながら、エタノールを留去することにより、100mlフラスコ中にフッ化セシウムとスルホランとを含む混合物を得た。
留出したエタノールと、デカンテーションにより液相を取り出した後の残分とを混合し、該混合物から液相を取り出し、該液相を、内温140℃に加熱された100mlフラスコ中のフッ化セシウムとスルホランとを含む混合物に滴下しながらエタノールを留去した。この操作をフッ化セシウムの全量を100mlフラスコ中に仕込み終わるまで繰り返した。エタノールがほとんど留出しなくなった後、160℃/2.7kPaの条件で、さらにエタノールを留去することにより、フッ化セシウム分散液を得た。得られた分散液中のフッ化セシウムの粒径は、100mlの三角フラスコに仕込んだフッ化セシウムの粒径よりも小さいことを、目視で確認した。
該フッ化セシウム分散液を100℃まで冷却し、4−クロロニトロベンゼン3.0gと混合した。得られた混合物を140℃に昇温し、同温度で2時間保温・攪拌した。反応後、室温まで冷却し、ジクロロメタン20gで希釈した後、得られた混合物をガスクロマトグラフィー内部標準法により分析して収率を求めた。
4−フルオロニトロベンゼンの収率:57%
4−クロロニトロベンゼンの回収率:42%
【0083】
比較例2
還流冷却管を付した50mlフラスコにスルホラン7.5g、フッ化セシウム(関東化学社から購入:商品コード07186−33)2.2g、4−クロロニトロベンゼン1.5gを仕込み、140℃に昇温し、同温度で2時間保温・攪拌した。反応後、室温まで冷却し、ジクロロメタン20gで希釈した後、得られた混合物をガスクロマトグラフィー内部標準法により分析して収率を求めた。
4−フルオロニトロベンゼンの収率:25%
4−クロロニトロベンゼンの回収率:74%

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の工程Aを行い、次いで工程B〜工程Dを少なくとも1回行った後、工程Eを行うことにより得られる実質的にアルカリ金属フッ化物と非プロトン性有機溶媒とからなるアルカリ金属フッ化物分散液。
工程A:アルカリ金属フッ化物と、メタノール、エタノールおよびイソプロパノールからなる群から選ばれる少なくとも1つのアルコール溶媒とを含むアルカリ金属フッ化物分散液から液相を取り出し、該液相と、常圧での沸点が85℃以上である非プロトン性有機溶媒とを混合する工程
工程B:工程Aまたは工程Dで得られた混合物を濃縮し、濃縮留分と濃縮残分とを得る工程
工程C:工程Aで液相を取り出した後のアルカリ金属フッ化物とアルコール溶媒とを含むアルカリ金属フッ化物分散液の残分または工程Dで液相を取り出した後の混合物の残分と、工程Bで得られた濃縮留分とを混合する工程
工程D:工程Cで得られた混合物から液相を取り出し、該液相と工程Bで得られた濃縮残分とを混合する工程
工程E:工程Dで得られた混合物からアルコール溶媒を除去して、実質的にアルカリ金属フッ化物と非プロトン性有機溶媒とからなるアルカリ金属フッ化物分散液を得る工程
【請求項2】
下記の工程Aを行い、次いで工程B〜工程Dを少なくとも1回行った後、工程Eを行うことを特徴とする実質的にアルカリ金属フッ化物と非プロトン性有機溶媒とからなるアルカリ金属フッ化物分散液の製造方法。
工程A:アルカリ金属フッ化物と、メタノール、エタノールおよびイソプロパノールからなる群から選ばれる少なくとも1つのアルコール溶媒とを含むアルカリ金属フッ化物分散液から液相を取り出し、該液相と、常圧での沸点が85℃以上である非プロトン性有機溶媒とを混合する工程
工程B:工程Aまたは工程Dで得られた混合物を濃縮し、濃縮留分と濃縮残分とを得る工程
工程C:工程Aで液相を取り出した後のアルカリ金属フッ化物とアルコール溶媒とを含むアルカリ金属フッ化物分散液の残分または工程Dで液相を取り出した後の混合物の残分と、工程Bで得られた濃縮留分とを混合する工程
工程D:工程Cで得られた混合物から液相を取り出し、該液相と工程Bで得られた濃縮残分とを混合する工程
工程E:工程Dで得られた混合物からアルコール溶媒を除去して、実質的にアルカリ金属フッ化物と非プロトン性有機溶媒とからなるアルカリ金属フッ化物分散液を得る工程
【請求項3】
工程Aにおけるアルコール溶媒の使用量が、アルカリ金属フッ化物に対して5重量倍未満である請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
工程Bで得られた濃縮留分が、実質的にアルコール溶媒からなる留分である請求項2または3に記載の製造方法。
【請求項5】
工程A〜工程Dを連続的に行う請求項2〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
アルカリ金属フッ化物が、フッ化カリウムまたはフッ化セシウムである請求項2〜5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
アルコール溶媒が、メタノールまたはエタノールである請求項2〜6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
アルカリ金属フッ化物がフッ化カリウムであり、アルコール溶媒がメタノールである請求項2〜5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項9】
常圧での沸点が85℃以上である非プロトン性有機溶媒が、非プロトン性極性溶媒である請求項2〜8のいずれかに記載の製造方法。
【請求項10】
非プロトン性極性溶媒が、スルホン溶媒またはスルホキシド溶媒である請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
求核的にフッ素原子で置換され得る基を少なくとも1つ有する有機化合物と、請求項1に記載のアルカリ金属フッ化物分散液とを接触させることを特徴とする含フッ素有機化合物の製造方法。
【請求項12】
求核的にフッ素原子で置換され得る基を少なくとも1つ有する有機化合物が、
置換されていてもよい脂肪族炭化水素化合物上の少なくとも1つの水素原子が求核的にフッ素原子で置換され得る基で置換された有機化合物である請求項11に記載の製造方法。
【請求項13】
求核的にフッ素原子で置換され得る基を少なくとも1つ有する有機化合物が、
置換されていてもよい芳香族炭化水素化合物上の少なくとも1つの水素原子が求核的にフッ素原子で置換され得る基で置換された有機化合物である請求項11に記載の製造方法。
【請求項14】
求核的にフッ素原子で置換され得る基を少なくとも1つ有する有機化合物が、
置換されていてもよい複素芳香族化合物上の少なくとも1つの水素原子が求核的にフッ素原子で置換され得る基で置換された有機化合物である請求項11に記載の製造方法。
【請求項15】
求核的にフッ素原子で置換され得る基が、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、ニトロ基、スルホ基、置換されていてもよいアルキルスルホニルオキシ基、置換されていてもよいアリールスルホニルオキシ基、置換されていてもよいアルキルカルボニルオキシ基または置換されていてもよいアリールカルボニルオキシ基である請求項11〜14のいずれかに記の製造方法。
【請求項16】
テトラクロロテレフタル酸ジクロライドと請求項1に記載のアルカリ金属フッ化物分散液とを接触させることを特徴とするテトラフルオロテレフタル酸ジフルオライドの製造方法。
【請求項17】
請求項16に記載の製造方法により得られたテトラフルオロテレフタル酸ジフルオライドとアルコールとを反応させるテトラフルオロテレフタル酸ジエステルの製造方法。
【請求項18】
有機化合物をフッ素化するための請求項1に記載のアルカリ金属フッ化物分散液の使用。
【請求項19】
有機化合物をフッ素化するための請求項2〜10のいずれかに記載の製造方法により得られたアルカリ金属フッ化物分散液の使用。
【請求項20】
求核的にフッ素原子で置換され得る基を少なくとも1つ有する有機化合物と請求項1に記載のアルカリ金属フッ化物分散液とを接触させることを特徴とする有機化合物のフッ素化方法。
【請求項21】
求核的にフッ素原子で置換され得る基を少なくとも1つ有する有機化合物と請求項2〜10のいずれかに記載の製造方法により得られたアルカリ金属フッ化物分散液とを接触させることを特徴とする有機化合物のフッ素化方法。
【請求項22】
下記の工程Aを行い、次いで工程B〜工程Dを少なくとも1回行った後、工程Eを行うことにより得られる実質的にアルカリ金属フッ化物と非プロトン性有機溶媒とからなるフッ素化反応用組成物。
工程A:アルカリ金属フッ化物と、メタノール、エタノールおよびイソプロパノールからなる群から選ばれる少なくとも1つのアルコール溶媒とを含むアルカリ金属フッ化物分散液から液相を取り出し、該液相と、常圧での沸点が85℃以上である非プロトン性有機溶媒とを混合する工程
工程B:工程Aまたは工程Dで得られた混合物を濃縮し、濃縮留分と濃縮残分とを得る工程
工程C:工程Aで液相を取り出した後のアルカリ金属フッ化物とアルコール溶媒とを含むアルカリ金属フッ化物分散液の残分または工程Dで液相を取り出した後の混合物の残分と、工程Bで得られた濃縮留分とを混合する工程
工程D:工程Cで得られた混合物から液相を取り出し、該液相と工程Bで得られた濃縮残分とを混合する工程
工程E:工程Dで得られた混合物からアルコール溶媒を除去して、実質的にアルカリ金属フッ化物と非プロトン性有機溶媒とからなるアルカリ金属フッ化物分散液を得る工程

【公開番号】特開2009−73725(P2009−73725A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−214981(P2008−214981)
【出願日】平成20年8月25日(2008.8.25)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】