説明

アルカリ金属硫黄二次電池

【課題】アルカリ金属硫黄二次電池の充放電サイクル特性をより向上する。
【解決手段】このアルカリ金属硫黄二次電池は、窒素原子がドープされた多孔質炭素材料と硫黄とを含む正極20と、アルカリ金属元素であるリチウムを含む負極16と、正極20と負極16との間に介在しリチウムイオンを伝導する非水電解液とを備えている。この窒素ドープ型多孔質炭素材料は、窒素原子と炭素原子との比であるN/Cが0.05以上0.3以下であることが好ましく、BET比表面積が300m2/g以上1200m2/g以下であることが好ましい。この電池では、充放電反応で生成する多硫化物イオンが正極に含まれる多孔質炭素材料に吸着されやすく、硫黄成分が負極に移動しにくい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ金属硫黄二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、硫黄単体を正極活物質に用いたリチウム硫黄二次電池が知られている。リチウムの理論容量密度は約3862mAh/gであり、硫黄の理論容量密度は約1675mAh/gであるため、正極活物質として硫黄を、負極活物質としてリチウムを用いることで、非常にエネルギー密度の高い二次電池の提供が可能となる。
【0003】
通常のリチウム硫黄二次電池では、電解質中の硫化物イオン(S2-)は、正極における充電反応過程において、多硫化物イオン(Sy2-)に酸化される。そして、生成した多硫化物イオン(Sy2-)のうちの大部分は、更に酸化されることにより、正極の表面に硫黄として析出する。正極に析出した硫黄は、下記式(1)に示すように、正極付近に残った多硫化物イオン(S(y-1)2-)と反応することにより、再び多硫化物イオン(Sy2-)として電解液中に溶出する。そして、この電解質中に溶出した多硫化物イオンが負極と反応して還元されることにより、負極で放電現象(自己放電現象)が起きる。この結果、充放電サイクル特性が低下する。
(y-1)2- + S → Sy2- …式(1)
【0004】
こうしたことから、自己放電現象を抑制する技術がいくつか報告されている。例えば、特許文献1に記載のリチウム硫黄二次電池では、ポリマー電解質で被覆された硫黄を含む正極と、リチウムを負極とし、正極とセパレータの間又は負極とセパレータの間にポリマー電解層を備え、電池反応中に正極で生成したリチウム多硫化物が負極へ拡散して生じる自己放電を抑制し充放電サイクル特性を高めたものが提案されている。
【特許文献1】特開2003−242964号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、この特許文献1に記載されたリチウム硫黄二次電池では、ポリマー電解質を用いてリチウム多硫化物が負極へ拡散するのを抑制しているが、それでも十分でなく、充放電サイクル特性、例えば充放電サイクルを行った際の容量が維持される割合を示す容量維持率の低下などをより抑制することが望まれていた。
【0006】
本発明は、このような課題に鑑みなされたものであり、充放電サイクル特性をより向上することができるアルカリ金属硫黄二次電池を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した目的を達成するために鋭意研究したところ、本発明者らは、窒素原子がドープされた多孔質炭素材料を正極に含むものとすると、アルカリ金属硫黄二次電池の充放電サイクル特性をより向上することができることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明のアルカリ金属硫黄二次電池は、
窒素原子がドープされた多孔質炭素材料と硫黄とを含む正極と、
アルカリ金属元素を含む負極と、
前記正極と前記負極との間に介在し前記アルカリ金属イオンを伝導するイオン伝導媒体と、
を備えたものである。
【発明の効果】
【0009】
このアルカリ金属硫黄二次電池では、充放電サイクル特性をより向上することができる。このような効果が得られる理由は明らかではないが、以下のように推察される。例えば、多孔質炭素材料の窒素原子のドープされた部位に分極などが存在し、正極で生じた多硫化物イオンがこの部位に吸着しやすく、この多硫化物イオンが多孔質炭素材料に吸着されることにより、この多硫化物イオンが負極へ移動してしまうのを抑制されたためであると推測される。このため、硫黄成分が負極側へ移動しにくく、正極で繰り返し充放電反応するため、例えば容量維持率の低下がより抑制されたものと推測される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明のアルカリ金属硫黄二次電池は、窒素原子がドープされた多孔質炭素材料と硫黄とを含む正極と、アルカリ金属元素を含む負極と、正極と負極との間に介在しアルカリ金属イオンを伝導するイオン伝導媒体と、を備えている。アルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム及びカリウムなどが挙げられ、このうち理論容量密度が高いリチウムが好ましい。説明の便宜のため、以下リチウムを用いて説明する。即ちリチウム硫黄二次電池について説明する。
【0011】
本発明のリチウム硫黄二次電池において、負極は、リチウムを吸蔵放出する材料を含むものとしてもよい。ここで、リチウムを吸蔵放出する材料としては、例えば金属リチウムやリチウム合金のほか、金属酸化物、金属硫化物、リチウムを吸蔵放出する炭素質物質などが挙げられる。リチウム合金としては、例えば、アルミニウムやシリコン、スズ、マグネシウム、インジウム、カルシウムなどとリチウムとの合金が挙げられる。金属酸化物としては、例えばスズ酸化物、ケイ素酸化物、リチウムチタン酸化物、ニオブ酸化物、タングステン酸化物などが挙げられる。金属硫化物としては、例えばスズ硫化物やチタン硫化物などが挙げられる。リチウムを吸蔵放出する炭素質物質としては、例えば黒鉛、コークス、メソフェーズピッチ系炭素繊維、球状炭素、樹脂焼成炭素などが挙げられる。
【0012】
本発明のリチウム硫黄二次電池において、正極は、硫黄を正極活物質とし、正極材中に窒素原子がドープされた多孔質炭素材料を含むものであれば、特に限定されるものではない。この正極は、例えば正極活物質と導電材と結着材とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の正極材としたものを、集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成してもよい。ここで、導電材としては、導電性を有する材料であれば特に限定されず、例えば、ケッチェンブラックやアセチレンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック等のカーボンブラック類でもよいし、鱗片状黒鉛のような天然黒鉛や人造黒鉛、膨張黒鉛などのグラファイト類でもよいし、炭素繊維や金属繊維などの導電性繊維類でもよいし、銅や銀、ニッケル、アルミニウムなどの金属粉末類でもよいし、ポリフェニレン誘導体などの有機導電性材料でもよい。また、これらを単体で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。結着材としては、特に限定されるものではないが、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂などが挙げられる。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、スチレンブタジエンゴム、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−クロロトリフルオロエチレン共重合体、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE樹脂)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、フッ化ビニリデン−ペンタフルオロプロピレン共重合体、プロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−パーフルオロメチルビニルエーテル−テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体などが挙げられる。これらの材料は単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。集電体としては、ステンレス鋼やアルミニウム、銅、ニッケルなどの金属板や金属メッシュを用いることもできる。
【0013】
本発明のリチウム硫黄二次電池において、正極に含まれる多孔質炭素材料は、窒素がドープされている。こうすれば、例えば多硫化物イオンが多孔質炭素材料に吸着されやすくなり、充放電のサイクル特性を高めることができる。この多孔質炭素材料は、窒素原子と炭素原子との比であるN/Cが0.05以上の範囲で窒素がドープされていることが好ましく、N/Cが0.3以下であることがより好ましく、N/Cが0.15以上0.25以下であることが更に好ましい。N/Cが0.05以上であれば、より高いサイクル特性を得ることができ、N/Cが0.3以下であれば比表面積の高い多孔質炭素材料を作製しやすい。また、窒素がドープされた多孔質炭素材料は、液体窒素温度(77K)における窒素吸着測定から算出されたBET比表面積が20m2/g以上であることが好ましく、300m2/g以上であることがより好ましく、1200m2/g以下であることがより好ましい。BET比表面積が300m2/g以上であれば、放電容量をより高めることができ好ましく、BET比表面積が1200m2/g以下であれば、多孔質炭素材料を作製しやすい。この窒素がドープされた多孔質炭素材料は、正極中に20重量%以上含むことが好ましく、40重量%以上含むことがより好ましい。正極中に含まれる硫黄の量を考慮すると50重量%を超えないことが望ましい。また、この窒素がドープされた多孔質炭素材料は、カルボキシ基又はヒドロキシ基を有する含窒素複素環式化合物を原料として作成されているのが好ましい。こうすれば、窒素をドープした多孔質炭素材料を比較的容易に作製することができる。
【0014】
本発明のリチウム硫黄二次電池において、正極と負極との間でリチウムイオンを伝導するイオン伝導媒体は、電解質を溶解した非水電解液としてもよいし、ゲル電解質、固体電解質を用いることができる。電解質としては、例えば、LiPF6,LiClO4,LiBF4,Li(CF3SO22Nなどの公知の支持塩を用いることができる。電解液の溶媒には、特に限定されるものではないが、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)などのカーボネート類、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、3−メチル−γ−ブチロラクトン、2−メチル−γ−ブチロラクトンなどの環状エステル類、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、3−メチル−1,3−ジオキソラン、2−メチル−1,3−ジオキソランなどの環状エーテル類、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、ジエチルエーテル、ジメチルエーテル、メチルエチルエーテル、ジプロピルエーテルなどの鎖状エーテル類など、従来の二次電池やキャパシタに使われる有機溶媒又はそれらの混合溶媒を用いることができる。また、1−メチル−3−プロピルイミダゾリウムビス(トリフルオロスルホニル)イミド、1−エチル−3−ブチルイミダゾリウムテトラフルオロボレートなどのイオン液体を用いることもできる。ゲル電解質としては、特に限定されるものではないが、例えば、ポリフッ化ビニリデンやポリエチレングリコール、ポリアクリロニトリルなどの高分子類又はアミノ酸誘導体やソルビトール誘導体などの糖類に、支持塩を含む電解液を含ませてなるゲル電解質が挙げられる。固体電解質としては、無機固体電解質や有機固体電解質などが挙げられる。無機固体電解質としては、例えば、Liの窒化物、酸素酸塩などがよく知られている。なかでも、Li4SiO4、Li4SiO4−LiI−LiOH、xLi3PO4−(1−x)Li4SiO4、Li2SiS3、Li3PO4−Li2S−SiS2、硫化リン化合物などが挙げられる。有機固体電解質としては、例えば、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリビニルアルコール、ポリフッ化ビニリデン、ポリホスファゼン、ポリエチレンスルフィド、ポリヘキサフルオロプロピレンなどやこれらの誘導体が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。
【0015】
本発明のリチウム硫黄二次電池は、負極と正極との間にセパレータを備えていてもよい。セパレータとしては、リチウム硫黄二次電池の使用範囲に耐えうる組成であれば特に限定されないが、例えば、ポリプロピレン製不織布やポリフェニレンスルフィド製不織布などの高分子不織布、ポリエチレンやポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂の微多孔フィルムが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、複合して用いてもよい。
【0016】
本発明のリチウム硫黄二次電池の形状は、特に限定されないが、例えばコイン型、ボタン型、シート型、積層型、円筒型、偏平型、角型などが挙げられる。また、電気自動車等に用いる大型のものなどに適用してもよい。
【0017】
本発明の窒素をドープした多孔質炭素材料は、以下の方法により製造するものとしてもよい。窒素をドープした多孔質炭素材料の製造方法は、カルボキシ基又はヒドロキシ基を有する含窒素複素環式化合物と金属イオンとの混合物を不活性雰囲気下で焼成することにより焼成物を得る焼成物生成工程と、焼成物中のアルカリ土類金属イオンに由来する成分を溶解可能な洗浄液で焼成物を洗浄して該成分を除去することにより多孔質炭素材料を得る除去工程とを含んでいる。
【0018】
ここで、含窒素複素環式化合物は、カルボキシ基又はヒドロキシ基を1つだけ有していてもよいし、2つ以上有していてもよい。2つ以上有しているときには、カルボキシ基及びヒドロキシ基のいずれか一方だけを有していてもよいし、両方を有していてもよい。なお、ヒドロキシ基よりもカルボキシ基の方が好ましい。また、含窒素複素環式化合物としては、ピロールやピリジンなどのように1つの窒素を含む複素環式化合物;ピラゾールやイミダゾール、ピラジン、ピリミジン、ピリダジンなどのように2つの窒素を含む複素環式化合物;1,2,3−トリアジンや1,2,4−トリアジン、1,3,5−トリアジンなどのように3つの窒素を含む複素環式化合物などが挙げられるが、これらのうちピリジンが好ましい。つまり、含窒素複素環式化合物として好ましいものは、カルボキシ基を有するピリジンであり、例えばピリジン−3−カルボン酸(ニコチン酸)、ピリジン−2−カルボン酸、ピリジン−4−カルボン酸、ピリジン−2,3−ジカルボン酸、ピリジン−2,4−ジカルボン酸、ピリジン2,5−ジカルボン酸、ピリジン−2,6−ジカルボン酸、ピリジン−3,4−ジカルボン酸、ピリジン−3,5−ジカルボン酸、ピリジン−2,4,5−トリカルボン酸などが挙げられる。アルカリ土類金属イオンとしては、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、ストロンチウムイオン、バリウムイオンなどが挙げられる。含窒素複素環式化合物と金属イオンとの混合物を得るには、例えば両者を水溶液中で混合したあと水を蒸発乾固することにより得るようにしてもよい。両者の使用量は、中和反応式に基づく化学量論量だけ用いてもよいし、一方が他方に対して過剰になるように用いてもよい。こうして得られる混合物を不活性雰囲気下で焼成するのであるが、不活性雰囲気としては窒素雰囲気やアルゴン雰囲気などが挙げられる。また、焼成温度は、焼成する混合物にもよるが、例えば400〜1000℃で焼成する。
【0019】
また、除去工程において、洗浄液としては、アルカリ土類金属イオンに由来する成分を溶解可能であれば特に限定されないが、例えばアルカリ土類金属イオンがカルシウムイオンの場合には水や酸性水溶液を用いることが好ましい。こうした洗浄を行うことにより、焼成物中のアルカリ土類金属イオンに由来する成分が存在していた箇所は空洞になるため、多孔質炭素材料となる。このようにして得られる多孔質炭素材料は、比表面積が20m2/g以上、あるいは300m2/g以上、炭素原子に対する窒素原子の比(N/C)が0.02〜0.3程度となることが多い。ちなみに、洗浄前の焼成物の比表面積は10m2/g以下である。こうした洗浄の効率(つまりアルカリ土類金属に由来する成分の除去効率)を考慮すると、こうした成分の溶解度が高い洗浄液を用いることが好ましい。この点で、アルカリ土類金属イオンがカルシウムイオンの場合には、マグネシウムイオンやバリウムイオンなどと比べて水や酸性水溶液に対する溶解度が高いため、好ましい。
【0020】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【実施例】
【0021】
以下には、本発明のアルカリ金属硫黄二次電池としてのリチウム硫黄二次電池を具体的に作製した例を、実験例として説明する。
【0022】
[実験例1]
(窒素ドープ多孔質炭素材料の合成)
ニコチン酸(ピリジン−3−カルボン酸:東京化成)と水酸化カルシウム粉末(和光純薬)との中和塩を蒸発乾固法で調製した。中和当量に相当する試薬を水に分散したのち、80℃の湯浴で加熱することで透明溶液を得た。透明溶液を蒸発乾固することで、ニコチン酸カルシウムの中和塩を得た。この中和塩を石英反応管中、不活性雰囲気(窒素気流中)で加熱することで炭素化した。窒素の流量は1L/分、炭素化温度は500℃であった。所定の温度に到達後、3時間の温度保持を行った。炭素化後の試料を水洗し、そこへ過剰量の酢酸(和光純薬)を加え、炭素化に伴い生成したカルシウム塩を溶解した。ろ別後、水洗および乾燥を行い、メノウ乳鉢にて磨砕することで、実験例1の窒素原子をドープした多孔質炭素材料を得た。この多孔質炭素材料を用いて液体窒素温度における窒素吸着測定を行ったところ、そのBET比表面積は、407m2/gであった。また、この多孔質炭素材料のN/C比(窒素原子と炭素原子の量比)は、元素分析から0.22と計算された。なお、多孔質炭素材料の元素分析は、全自動元素分析装置(エレメンタール社製、VarioEL)による燃焼法によって決定した。以上の結果から、合成された多孔質炭素材料は、大きな比表面積を有し、また炭素骨格内に多量の窒素原子がドープされた、窒素ドープ型の多孔質炭素材料であることが示された。
【0023】
(評価セルの作製)
硫黄を50重量部、上記得られた多孔質炭素材料を43重量部、導電助剤(ケッチェンブラック:ライオン(株)ECP600)を2重量部、およびバインダー(ポリテトラフルオロエチレン粉末)を5重量部の割合で、エタノールを分散媒に用いてメノウ乳鉢で混練し、シート状の正極を形成した。非水電解液は、1,3−ジオキソランとジメトキシエタンとを1:9の体積比で混合した溶媒に、リチウムビス(トリフルオロメチルスルホン)イミド{LiN(CF3SO22}を1.0mol/lの濃度となるように溶解させた溶液を用いた。図1に示す構成で、評価セル10を作製した。図1は評価セル10の説明図であり、上段が評価セル10の組立前の断面図、下段が評価セル10の組立後の断面図である。評価セル10を組み立てるにあたり、まず、外周面にねじ溝が刻まれたステンレス製の円筒基体12の上面中央に設けられたキャビティ14に、負極16と、セパレータ18と、上述した正極20(合材重量として5mg)とをこの順に積層した。本実施例では、負極16として直径16mm、厚さ0.4mmのリチウム金属箔、セパレータ18としてポリエチレン製セパレータ(東燃化学製、微多孔性ポリエチレン膜)を用いた。そして、上述した非水系電解液をキャビティ14に注入したあと、ポリプロピレン製の絶縁リング29を入れ、次いでポリプロピレン製のリング22の穴に液密に固定されたステンレス製の円柱24を正極20の上に配置し、ステンレス製のコップ状の蓋26を円筒基体12にねじ込んだ。更に、円柱24の上にPTFE製の絶縁用樹脂リング27を配置し、蓋26の上面中央に設けられた開口26aの内周面に刻まれたねじ溝に貫通孔25aを持つ加圧ボルト25をねじ込み、負極16とセパレータ18と正極20とを加圧密着させた。評価セル10の組み立ては全てアルゴングローブボックス中で行った。このようにして、評価セル10を組み立てた。なお、蓋26の上面中央に設けられた開口26aの径は円柱24の径よりも大きいことから、蓋26と円柱24とは非接触な状態となっている。また、キャビティ14の周辺にはパッキン28が配置されているため、キャビティ14内に注入された電解液が外部に漏れることはない。この評価セル10では、蓋26と加圧ボルト25と円筒基体12とが負極16と一体化されて全体が負極側となり、円柱24が正極20と一体化されると共に負極16と絶縁されているため正極側となる。このようにして組み立てた評価セル10を用いて、充放電特性の評価を行った。
【0024】
[実験例2〜3]
実験例1の窒素ドープ多孔質炭素材料の合成における、炭素化温度を600℃とした以外は、実験例1と同様の工程を経て得られた窒素ドープ多孔質炭素材料及び評価セルを実験例2とした。この多孔質炭素材料のBET比表面積は344m2/gであった。また、元素分析によるN/C比は、0.15であった。実験例2と同じく、炭素化温度を800℃とした以外は、実験例1と同様の工程を経て得られた窒素ドープ多孔質炭素材料及び評価セルを実験例3とした。この多孔質炭素材料のBET比表面積は386m2/gであった。また、元素分析によるN/C比は、0.06であった。
【0025】
[実験例4]
実験例1の窒素ドープ多孔質炭素材料の合成における、ニコチン酸をニコチン酸Nオキシドとした以外は実験例1と同様の工程を経て得られた窒素ドープ多孔質炭素材料及び評価セルを実験例4とした。この多孔質炭素材料のBET比表面積は39m2/gであった。また、元素分析によるN/C比は、0.18であった。
【0026】
[実験例5]
正極は、硫黄を50重量部、ケッチェンブラック(ライオン(株)ECP600)を45重量部、およびバインダー(ポリテトラフルオロエチレン粉末)を5重量部の割合で、エタノールを分散媒に用いてメノウ乳鉢で混練することにより得た。即ち、窒素ドープ多孔質炭素材料を用いずにシート状の正極を形成した以外は上述した実験例1と同様の工程を経て得られたものを実験例5とした。このケッチェンブラックのBET比表面積は1270m2/gであった。
【0027】
(充放電試験)
実験例1〜5の評価セルの充放電特性は北斗電工製HJ1001SM8Aを用い、定電流法で評価した。充放電の条件は、100mA/g(正極合材重量あたり)の放電電流で、評価セルの端子間電圧が1.5Vとなるまで定電流で放電を行った。端子間電圧が放電終止電圧1.5Vに達した後、直ちに100mA/g (正極合材重量あたり)の充電電流で端子間電圧2.8Vになるまで充電を行った。この充放電サイクルを10回繰り返した。第1サイクルの放電容量と、第10サイクルの放電容量から、以下の式(2)を用いて容量維持率を算出した。
容量維持率(%)=第10サイクルの放電容量(mAh/g)/第1サイクルの放電容量(mAh/g)×100 … 式(2)
【0028】
(実験結果)
実験例1〜5の多孔質炭素材料の比表面積及びN/C値、実験例1〜5の評価セルの第1サイクルの放電容量、第10サイクルの放電容量、容量維持率を表1に示す。また、図2にN/C値に対する容量維持率の関係を示し、図3に多孔質炭素材料の比表面積に対する第1サイクルの放電容量の関係を示した。表1及び図2に示すように、実験例1〜4に示す窒素ドープした多孔質炭素材料を正極に有する評価セル(リチウム硫黄二次電池)では、窒素ドープしていない多孔質炭素材料を正極に有するもの(実験例5)に比して高い容量維持率を示した。容量維持率を高める観点からは、N/C値が0.05以上であることが好ましく、0.15以上であることが、より好ましいことがわかった。この理由は定かでないが、窒素ドープされた部位に分極などが存在し、多硫化物イオンが吸着しやすいためであると推察された。また、図3に示すように、多孔質炭素材料の比表面積が高いほど第1サイクルの放電容量が高いことが明らかとなり、比表面積が300m2/g以上であることが好ましいことがわかった。なお、窒素をドープすると、窒素をドープしないものに比して第1サイクルでの放電容量が減少する傾向にあることが明らかとなった。放電容量及び容量維持率をより高めるべく、好適範囲の窒素をドープすると共に、比表面積がより高い多孔質炭素材料を合成することが、今後の課題である。
【0029】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】評価セル10の説明図である。
【図2】N/C値に対する容量維持率の関係を表す図である。
【図3】多孔質炭素材料の比表面積に対する第1サイクルの放電容量の関係を表す図である。
【符号の説明】
【0031】
10 評価セル、12 円筒基体、14 キャビティ、16 負極、18 セパレータ、20 正極、22 リング、24 円柱、25 加圧ボルト、25a 貫通孔、26 蓋、26a 開口、27 絶縁用樹脂リング、28 パッキン、29 絶縁リング。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒素原子がドープされた多孔質炭素材料と硫黄とを含む正極と、
アルカリ金属元素を含む負極と、
前記正極と前記負極との間に介在し前記アルカリ金属イオンを伝導するイオン伝導媒体と、
を備えたアルカリ金属硫黄二次電池。
【請求項2】
前記正極は、窒素原子と炭素原子との比であるN/Cが0.05以上0.3以下である前記多孔質炭素材料を含んでいる、請求項1に記載のアルカリ金属硫黄二次電池。
【請求項3】
前記正極は、比表面積が300m2/g以上1200m2/g以下である前記多孔質炭素材料を含んでいる、請求項1又は2に記載のアルカリ金属硫黄二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−146908(P2010−146908A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−324317(P2008−324317)
【出願日】平成20年12月19日(2008.12.19)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】