説明

アルカリ電池用正極缶及びその製造方法、アルカリ電池

【課題】アルカリ電池の漏液を確実に防止することができるアルカリ電池用正極缶の製造方法を提供すること。
【解決手段】アルカリ電池10の正極缶11は、開口部16、胴部17及び底部18を有する有底筒状のプレス加工品であり、胴部17には正極合剤12が圧入され、開口部16には封口ガスケット23が装着されている。正極缶11の製造時には、プレス加工前の鋼板において正極缶11の内面となる部分の表面粗さが、プレス加工後の正極缶11の内面の表面粗さよりも大きくなるように、プレス加工を行う。プレス加工前の鋼板の表面粗さRaは、1.5μm以上3.0μm以下であり、プレス加工後の正極缶11の内面の表面粗さRaは、1.0μm以上2.5μm以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼板をプレス加工して有底筒状の正極缶を製造するアルカリ電池用正極缶の製造方法、アルカリ電池用正極缶及びその正極缶を用いて構成されたアルカリ電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、アルカリ電池は、有底筒状の正極缶と、その正極缶内に収納されるリング状の正極合剤と、正極缶の中心部に配置されるゲル状負極合剤と、正極合剤とゲル状負極合剤との間に介在される有底筒状のセパレータと、正極缶の開口部に装着される集電体とを備えている。なお、集電体は、負極端子板、封口板、及び封口ガスケットからなる。また、アルカリ電池の正極缶は、ニッケルめっき鋼板を有底筒状にプレス成形することで作製されている。正極合剤は、二酸化マンガンやオキシ水酸化ニッケルを主成分とする正極合剤粉を整粒した後、円筒状にプレス成形することで作製され、正極缶の内側に圧入されている。
【0003】
従来のアルカリ電池では、プレス加工時に正極缶の内面を粗くして、正極缶と正極合剤との密着性を良くし、放電性能を向上させている。また、特許文献1には、表面粗さRaが0.8μm〜2μmである表面処理鋼板を使用してアルカリ電池用正極缶を製造することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−111243号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、正極缶をプレス加工する際に内面の表面粗さを大きくする場合、その表面のニッケルめっきが割れ、下地の鉄が部分的に露出してしまうことがある。この場合、長期間の保存時において、正極缶の鉄素地がアルカリ電解液によって腐食され、電池内でガスが発生してしまう。このガス発生に伴い、電池内圧が上昇して封口ガスケットに設けられている安全弁が作動し、液漏れを起こす場合があった。
【0006】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、アルカリ電池の漏液を確実に防止することができるアルカリ電池用正極缶の製造方法を提供することにある。また、別の目的は、耐漏液性能に優れ、信頼性の高いアルカリ電池用正極缶及びアルカリ電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための手段[1]〜[5]を以下に列挙する。
【0008】
[1]鋼板をプレス加工して有底筒状のアルカリ電池用正極缶を製造する方法であって、プレス加工前の前記鋼板において正極缶の内面となる部分の表面粗さが、プレス加工後の前記正極缶の内面の表面粗さよりも大きくなるように、プレス加工を行うことを特徴とするアルカリ電池用正極缶の製造方法。
【0009】
手段1に記載の発明によると、プレス加工によって正極缶を成形する際に、比較的表面粗さが大きな鋼板を多段絞りにて正極缶の内面を滑らかにしている。このようにすると、鉄素地の露出が少なくなり、アルカリ電解液に対して正極缶が腐食しにくくなる。この結果、電池の長期保存時において、電池内で発生するガスを抑制することができ、正極缶の耐漏液性能が向上する。
【0010】
[2]手段1において、プレス加工前の前記鋼板の表面粗さRaが1.5μm以上3.0μm以下であることを特徴とするアルカリ電池用正極缶の製造方法。
【0011】
手段2に記載の発明によると、鋼板の表面粗さRaを1.5μm以上3.0μm以下とすることにより、プレス加工後において耐漏液性能に優れた表面粗さの正極缶を製造することができる。
【0012】
[3]手段1または2において、プレス加工後の前記正極缶の内面の表面粗さRaが1.0μm以上2.5μm以下であることを特徴とするアルカリ電池用正極缶の製造方法。
【0013】
手段3に記載の発明によると、プレス加工後に正極缶の内面の表面粗さRaを1.0μm以上2.5μm以下とすることにより、鉄素地の露出が少なくなり、電池内で発生するガスを確実に低減することができる。
【0014】
[4]手段1乃至3のいずれか1項の製造方法を用いて製造されたアルカリ電池用正極缶。
【0015】
手段4に記載の発明によると、正極缶の耐漏液性能を向上させることができる。
【0016】
[5]手段4に記載の正極缶を用いて構成されたアルカリ電池。
【0017】
手段5に記載の発明によると、アルカリ電池の耐漏液性能を向上させることができる。
【発明の効果】
【0018】
以上詳述したように、手段1乃至3に記載の発明によると、アルカリ電池の漏液を確実に防止することができるアルカリ電池用正極缶の製造方法を提供することができる。また、手段4に記載の発明によると、耐漏液性能に優れ、信頼性の高いアルカリ電池用正極缶を提供することができる。さらに、手段5に記載の発明によると、耐漏液性能に優れ、信頼性の高いアルカリ電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】一実施の形態のアルカリ電池を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明をアルカリ電池に具体化した一実施の形態を図面に基づき詳細に説明する。図1は、本実施の形態におけるアルカリ電池10の概略構成を示す断面図である。なお、本実施の形態のアルカリ電池10は、LR6タイプ(単3形)の電池である。
【0021】
図1に示されるように、アルカリ電池10は、有底筒状の正極缶11と、リング状の正極合剤12と、有底筒状のセパレータ13と、ゲル状負極合剤14と、集電体15とを備える。アルカリ電池10において、正極合剤12は、正極缶11の内面に沿って嵌着され、正極合剤12の内側にセパレータ13が挿入されている。ゲル状負極合剤14は、正極缶11の中心部となるセパレータ13の中空部に配置される。
【0022】
正極缶11は、ニッケルめっき鋼板製のプレス加工品であり、開口部16、胴部17及び底部18を有する有底筒状にプレス成形されている。この正極缶11の胴部17に正極合剤12が圧入されるとともに、開口部16に集電体15が装着される。また、正極缶11における底部18の中央には正極端子19が突設されている。
【0023】
セパレータ13は、ビニロン・レーヨン不織布やポリオレフィン・レーヨン不織布などのセパレータ原紙を円筒状に巻回し、重なり合う部分を熱融着させることで作製される。ゲル状負極合剤14は、水と酸化亜鉛と水酸化カリウムとを混ぜて溶解し、ポリアクリル酸などのゲル化剤と亜鉛粉とを混合することで作製される。
【0024】
集電体15は、負極端子板21、負極集電子22、及び封口ガスケット23を含んで構成されている。正極缶11の開口部16付近には、集電体15を載置するためのビード部24が形成されている。そして、そのビード部24上に集電体15を載置した状態で、正極缶11の開口部16にカール及び絞り加工を施すことにより、正極缶11が封口されている。
【0025】
集電体15は、真鍮を用いて棒状に形成された負極集電子22をその基端側の頭部で負極端子板21に抵抗溶接するとともに、負極集電子22の首部に封口ガスケット23を嵌着することで、形成されている。そして、負極集電子22の先端側がゲル状負極合剤14に挿入されている。負極端子板21は、正極缶11と同じくニッケルめっき鋼板をプレス成形することで作製され、封口ガスケット23を介して正極缶11の開口部16を封口している。
【0026】
封口ガスケット23は、樹脂材料を用いて射出成形された樹脂成形品である。封口ガスケット23の形成材料としては、ポリプロピレン樹脂が好適であり、6,12ナイロン樹脂、6,10ナイロン樹脂、6,6ナイロン樹脂などのポリアミド樹脂を用いてもよい。
【0027】
本実施の形態の封口ガスケット23は、負極集電子22が挿通されるボス部31と、正極缶11の内周面に接触した状態で固定される缶接触部32と、ボス部31と缶接触部32とを連結すべくボス部31の外周面から径方向に延びるように設けられた円盤状部33とを備える。また、封口ガスケット23におけるボス部31と円盤状部33との連結部分には、安全弁として機能する環状薄肉部34が設けられている。アルカリ電池10内において、ガスの発生により内圧が高まった場合には、その圧力上昇により封口ガスケット23の環状薄肉部34を破断させてガスを外部に放出する。
【0028】
次に、正極缶11の製造方法について詳述する。
【0029】
先ず、厚さが0.25mmであり、正極缶11の内面となる面の表面粗さRaが1.5μm以上3.0μm以下である鋼板を準備する。そして、その鋼板の表面に対してニッケルめっきを施し、1μm〜2μm程度の厚さのニッケルめっき層を有するニッケルめっき鋼板を作製する。その後、ニッケルめっき鋼板を用いて段階的に深絞り加工(多段絞り加工)を行うことにより、開口部16及び胴部17の厚さが0.2mmである有底筒状の正極缶11をプレス成形する。本実施の形態では、多段絞り加工により、表面粗さRaが1μm〜2.5μmの範囲内となるよう胴部17の内面を加工前の鋼板よりも滑らかに形成している。また、底部18に突設された正極端子19の外面の表面粗さRaは、1.5μm以上3.0μm以下であり、加工前の鋼板の表面粗さRaと同じ粗さとなっている。つまり、正極端子19の外面の表面粗さは、胴部17の内面よりも大きくなっている。
【0030】
さらに、正極缶11の胴部17の内面には導電塗料が塗布されており、正極合剤12との接触抵抗が低く抑えられている。また、正極缶11において、封口ガスケット23が装着される開口部16の内面にはシール剤25が塗布されている。本実施の形態では、シール剤25として、アスファルトとポリブデンとを含むシール剤が用いられている。このように、正極缶11の開口部16と封口ガスケット23との間にシール剤25を介在させることで密着性が増し、正極クリープ(正極缶11と封口ガスケット23との間を電解液が這う現象)による漏液が防止される。
[実施例]
【0031】
本実施例では、上記製造方法で作製したLR6タイプ(単3形)のアルカリ電池10のサンプルを13種類用意し、これらを対象として、表1に示す試験を行った。その試験結果を表2に示している。
【表1】

【表2】

【0032】
具体的には、放電性能の評価試験では、アルカリ電池10を60℃で20日間保存した後、1000mAで1分間に10秒、1日に1時間の放電モードで放電を繰り返し行い、最終電圧が0.9Vとなるまでの性能(放電モードのサイクル数)を確認した。そして、試験の判定基準としては、360サイクル以上の放電が行われた場合に「○」、300サイクル以上360サイクル未満の放電が行われた場合に「△」、300サイクル未満の放電では「×」としている。
【0033】
また、耐漏液性能の評価試験では、60℃の温度、90%の湿度で各アルカリ電池10を保存する。そして、試験の判定基準としては、100日間の試験後に安全弁作動による漏液がない場合に「○」、80日以上100日未満の試験期間中に漏液があった場合に「△」、80日未満で漏液がある場合には「×」としている。
【0034】
表2に示されるように、サンプル1〜7では、プレス加工前の鋼板の表面粗さRaを1.0μm〜4.0の範囲で変更し、プレス加工後の缶胴部(正極缶11の胴部17)の内面の表面粗さRaを0.5μm〜3μmの範囲で変更している。また、サンプル1〜7では、鋼板の表面粗さが缶胴部17の表面粗さよりも大きくなっている。
【0035】
サンプル8〜13では、鋼板の表面粗さRaと缶胴部17の内面の表面粗さRaとを0.5μm〜4.0の範囲で変更している。また、サンプル8,10〜13では、鋼板の表面粗さと缶胴部17の表面粗さとがそれぞれ等しくなっており、サンプル9では、鋼板の表面粗さが缶胴部17の表面粗さよりも小さくなっている。
【0036】
サンプル8〜13のように、鋼板の表面よりも缶胴部17の表面を滑らかにしない場合には、耐漏液性能が悪くなっている。これに対し、サンプル1〜7のように、鋼板の表面よりも缶胴部17の内面を滑らかにする場合、耐漏液性能が向上されることが確認された。
【0037】
従って、本実施の形態によれば以下の効果を得ることができる。
【0038】
(1)本実施の形態のアルカリ電池10では、プレス加工によって正極缶11を成形する際に、比較的表面粗さが大きな鋼板をしごいて正極缶11の内面を滑らかにしている。このようにすると、鉄素地の露出が少なくなり、アルカリ電解液に対して正極缶11が腐食しにくくなる。従来技術では、プレス加工によって正極缶11の内面を粗くしているため、耐蝕性を高めるために鋼板表面のニッケルめっき層を厚く(例えば、3μm以上の厚さで)形成する必要がある。これに対して、本実施の形態のように正極缶11の内面を滑らかにすると、ニッケルめっき層を厚くしなくても耐蝕性を高めることができる。この結果、アルカリ電池10の長期保存時において、電池内で発生するガスを抑制することができ、正極缶11の耐漏液性能が向上する。また、ニッケルめっき鋼板のニッケルめっき層を1μm〜2μm程度と薄くできることから、正極缶11の製造コストを抑えることができる。
【0039】
(2)本実施の形態のアルカリ電池10では、加工前の鋼板の表面粗さRaを1.5μm以上3.0μm以下とし、プレス加工後に正極缶11の内面の表面粗さRaを1.0μm以上2.5μm以下(サンプル2〜6)としている。このようにすると、放電性能及び耐漏液性能を十分に確保することができ、信頼性の高いアルカリ電池10を製造することができる。
【0040】
(3)本実施の形態のアルカリ電池10において、正極缶11の底部18に突設された正極端子19の外面の表面粗さが、正極缶11の内面の表面粗さよりも大きくなっている。このように正極端子19の外面を粗くすることにより、正極端子19と外部機器との接触面積が増し、アルカリ電池10の放電性能を十分に確保することが可能となる。
【0041】
なお、本発明の実施の形態は以下のように変更してもよい。
【0042】
・上記実施の形態では、ニッケルめっき鋼板を用いて正極缶11を成形していたが、ニッケルめっき鋼板に熱処理を施すことで下地の鉄とめっき層の界面にFe−Ni拡散層を形成した鋼板を用いて正極缶11を成形してもよい。このようにすれば、正極缶11の耐蝕性をより高めることができる。
【0043】
・上記実施の形態では、LR6タイプ(単3形)のアルカリ電池10に具体化したが、LR20タイプ(単1形)、LR14タイプ(単2形)、LR03タイプ(単4形)等の他の電池に具体化してもよい。
【0044】
次に、特許請求の範囲に記載された技術的思想のほかに、前述した実施の形態によって把握される技術的思想を以下に列挙する。
【0045】
(1)手段1乃至3のいずれか1項において、プレス加工前の前記鋼板に対してニッケルめっきを施した後にプレス加工を行うことで、加工前の前記鋼板の表面よりも加工後の前記正極缶の内面を滑らかにすることを特徴とするアルカリ電池用正極缶の製造方法。
【0046】
(2)手段5において、前記正極缶の底部に突設された正極端子の外面の表面粗さが、前記正極缶の内面の表面粗さよりも大きいことを特徴とするアルカリ電池。
【符号の説明】
【0047】
10…アルカリ電池
11…正極缶
12…正極合剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板をプレス加工して有底筒状のアルカリ電池用正極缶を製造する方法であって、
プレス加工前の前記鋼板において正極缶の内面となる部分の表面粗さが、プレス加工後の前記正極缶の内面の表面粗さよりも大きくなるように、プレス加工を行うことを特徴とするアルカリ電池用正極缶の製造方法。
【請求項2】
プレス加工前の前記鋼板の表面粗さRaが1.5μm以上3.0μm以下であることを特徴とする請求項1に記載のアルカリ電池用正極缶の製造方法。
【請求項3】
プレス加工後の前記正極缶の内面の表面粗さRaが1.0μm以上2.5μm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のアルカリ電池用正極缶の製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項の製造方法を用いて製造されたアルカリ電池用正極缶。
【請求項5】
請求項4に記載の正極缶を用いて構成されたアルカリ電池。

【図1】
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【公開番号】特開2012−104452(P2012−104452A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−254312(P2010−254312)
【出願日】平成22年11月12日(2010.11.12)
【出願人】(000237721)FDK株式会社 (449)
【Fターム(参考)】