説明

アルカリ電池用電解液とその製造方法、およびアルカリ電池

【課題】 アルカリ電池の貯蔵中での内部ガスの発生を抑えて、該電池の貯蔵特性を高め得る電解液と、該電解液の製造方法、並びに該電解液を有するアルカリ電池を提供する。
【解決手段】 アルカリ金属の水酸化物、インジウム化合物および水を有するアルカリ電池用電解液であって、インジウム化合物が100ppm以上の濃度で水に溶解していることを特徴とするアルカリ電池用電解液と、該電解液を有するアルカリ電池である。上記アルカリ電池用電解液は、アルカリ金属の水酸化物およびインジウム化合物を水に溶解させる第一工程と、この混合物を希釈する第二工程を有する製法により製造される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ電池用の電解液と、該電解液を用いたアルカリ電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、環境汚染を抑える観点から、負極剤に無水銀の亜鉛を用いたアルカリ電池が開発されているが、こうしたアルカリ電池では、該亜鉛が腐食されて水素ガスが発生するという問題がある。また、上記のアルカリ電池では、負極剤と接する負極内面(負極端子板内面)に集電効果を期待して被覆している銅と、亜鉛との局部電池反応によって水素ガスが発生するという問題もある。例えば、アルカリ電池の貯蔵中に内部でガスが発生すると、電池の膨れや容量劣化が引き起こされる。
【0003】
このような問題を解決するために、電解液にビスマス化合物およびインジウム化合物を添加したアルカリ電池が提案されている(特許文献1)。特許文献1の技術では、電解液に添加したビスマス化合物およびインジウム化合物の作用によって、上記の水素ガス発生を抑制している。
【0004】
【特許文献1】特許第3317526号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、現在では、上記特許文献1の技術を上回るレベルでの水素ガス発生抑制の要請がある。特に、所謂ボタン形電池では、電池自体が小型であることもあり、上記の水素ガス発生量の低減が、強く求められている。
【0006】
本発明は、アルカリ電池の貯蔵中での内部ガスの発生を抑えて、該電池の貯蔵特性を高め得る電解液と、該電解液の製造方法、並びに該電解液を有するアルカリ電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、少なくとも、アルカリ金属の水酸化物、インジウム化合物および水を有するアルカリ電池用電解液において、該インジウム化合物を100ppm以上(質量基準、以下同じ)の濃度で溶解させることにより、上記課題を解決したものである。
【0008】
本発明の電解液では、電池内での水素ガス発生を、インジウム化合物の作用により抑制する。インジウム化合物が電解液中に存在することで、負極剤の亜鉛の腐食による水素ガス発生が抑制されると共に、負極端子板の負極剤と接する面に、インジウムを含む亜鉛合金被膜が形成されて、負極剤中の亜鉛と負極端子板表面の銅との局部電池反応が抑えられて水素ガス発生が抑制される。
【0009】
なお、特許文献1に開示の電解液でも、インジウム化合物が上記のように作用して、電池内での水素ガス発生が抑制されるが、かかる電解液中では、インジウム化合物はほとんど溶解せずに分散している状態である。このように、電解液中に溶解せずに分散しているインジウム化合物は、上記の水素ガス発生抑制に、あまり有効に作用しないことが本発明者らの検討により判明した。従来の電解液製造法では、電解液中のインジウム化合物の溶解量を、例えば20ppm程度にしかできなかった。
【0010】
そこで本発明者らは、電解液中に、より高濃度にインジウム化合物を溶解させる方法について鋭意検討を重ねた結果、本発明の製造方法、すなわち、アルカリ金属の水酸化物およびインジウム化合物を水に溶解させる第一工程と、上記第一工程で得られた混合物に、水を加えて希釈する第二工程とを有するアルカリ電池用電解液の製造方法を採用することで、上記の如く100ppm以上の濃度でインジウム化合物を溶解させた電解液を得ることに成功し、本発明を完成させたのである。
【0011】
また、本発明には、上記本発明のアルカリ電池用電解液を用いたアルカリ電池も包含される。
【発明の効果】
【0012】
本発明のアルカリ電池用電解液によれば、アルカリ電池貯蔵時の電池内部での水素ガスの発生を高度に抑制できるため、貯蔵性に優れたアルカリ電池を提供することができる。すなわち、本発明のアルカリ電池は、貯蔵性に優れたものである。
【0013】
また、本発明の製造方法によれば、本発明のアルカリ電池用電解液を良好に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の電解液に用いるインジウム化合物としては、例えば、水酸化インジウム[In(OH)]、酸化インジウム(In)、硫酸インジウム[In(SO]、硫化インジウム(InS)、硝酸インジウム[In(NO]、臭化インジウム(InBr)、塩化インジウム(InCl)などが挙げられるが、これらに限定される訳ではない。中でも、水酸化インジウムが好適である。
【0015】
電解液中のインジウム化合物濃度は、100ppm以上、より好ましくは400ppm以上である。インジウム化合物濃度が小さすぎると、アルカリ電池に適用した場合の水素ガス発生抑制効果が小さくなる。他方、電解液中のインジウム化合物濃度の上限については、溶解可能な濃度である限り特に制限はないが、あまりに濃度を大きくしようとすると、インジウム化合物を均一に溶解させるのに非常に時間を必要とするため、電解液製造に手間がかかると共に、溶解させること自体が困難であり、製造条件(温度や攪拌条件など)の影響を大きく受けやすく、ロットごとのばらつきが大きくなって、インジウム化合物が同一濃度の電解液を安定して製造することが非常に困難となることもある。このため、電解液中のインジウム化合物濃度の上限は、例えば、1500ppmであることが望ましい。なお、ここでいう電解液中のインジウム化合物の濃度は、後記実施例で採用した測定法により求められる値である。
【0016】
電解液に用いるアルカリ金属の水酸化物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムなどが挙げられる。これらのアルカリ金属の水酸化物は、1種単独で用いる他、2種以上を混合してもよく、例えば、水酸化ナトリウムと水酸化カリウムを混合して用いたり、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、または水酸化ナトリウムと水酸化カリウムの混合物に、少量の水酸化リチウムを混合して用いる場合などが例示できる。中でも、水酸化ナトリウムを含む態様(すなわち、水酸化ナトリウム単独、あるいは、水酸化ナトリウムと上記例示の各アルカリ金属の水酸化物との混合物)が、インジウム化合物をより効果的に溶解させ得るために好ましい。
【0017】
電解液中のアルカリ金属の水酸化物濃度は、例えば、20質量%以上40質量%以下(より好ましくは35質量%以下)とすることが望ましい。アルカリ金属の水酸化物濃度をこの範囲内に調整することで、電解液の導電性が向上するからである。
【0018】
電解液には、上記の各成分の他に、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて公知の各種添加剤を添加しても良い。例えば、アルカリ電池の負極剤に用いる亜鉛の腐食(酸化)を防止するために、酸化亜鉛を添加するなどしてもよい。
【0019】
本発明の電解液を製造するに当たっては、下記の第一工程および第二工程を有する製造方法が採用される。まず、第一工程では、アルカリ金属の水酸化物およびインジウム化合物を水に溶解させる。この第一工程では、電解液の調製に用いる水の一部に、アルカリ金属の水酸化物およびインジウム化合物を加え、撹拌などにより混合する。すなわち、第一工程では、電解液に使用する水全量ではなく、その一部と、アルカリ金属の水酸化物およびインジウム化合物とを混合することで、最終的に得られる電解液よりも水溶液中のアルカリ濃度を高め(すなわち、高pHとし)、インジウム化合物をより溶解しやすくしている。第一工程で用いる水の量は、電解液の調製に用いる水の全量中、15質量%以上、より好ましくは20質量%以上であって、75質量%以下、より好ましくは60質量%以下とすることが望ましい。第一工程で使用する水の量が少なすぎると、混合するアルカリ金属の水酸化物の全てが溶解し得ないときがあり、インジウム化合物の溶解量が減少することがある。他方、第一工程で使用する水の量が多すぎると、水溶液中のアルカリ濃度が低くなりすぎて、インジウム化合物を効果的に溶解させることができないことがある。更には、アルカリ金属の水酸化物が飽和するような水の量を選択することが推奨される。この場合には、第一工程に係る混合物(水溶液)のアルカリ濃度が最も大きくなるため、インジウム化合物の溶解性をより向上させることができるからである。なお、第一工程では、アルカリ金属の水酸化物とインジウム化合物を同時に水に混合する必要はなく、例えば、水にアルカリ金属の水酸化物を先に混合して高濃度のアルカリ水溶液を作製し、その後にインジウム化合物を添加、混合しても構わない。
【0020】
次の第二工程で、電解液の調製に用いる水のうち、第一工程で用いなかった残りを、第一工程で得られた混合物に添加し、撹拌などにより混合することで該混合物を希釈して、本発明の電解液とする。この第二工程により、電解液中のアルカリ金属の水酸化物の濃度を調整する。なお、第二工程で加える水は、一度に添加してもよく、複数回(例えば、2回、3回など)に分けて添加しても構わない。
【0021】
電解液を製造する際(すなわち、第一工程および第二工程の際)の温度は、特に限定されないが、例えば液温を40〜100℃とすることで、より効果的にインジウム化合物を溶解させることができる。液温を上記範囲とするには、加熱によってもよいが、アルカリ金属の水酸化物の溶解時に発生する反応熱を利用しても構わない。また、第一工程および第二工程での混合時間および撹拌条件については特に制限はないが、例えば、第一工程終了時に、加えたアルカリ金属の水酸化物およびインジウム化合物が全て溶解するか、あるいは飽和するまで溶解するような条件とすることが好ましい。なお、第二工程後にインジウム化合物の溶け残りがある場合には、ろ過したり、上澄み液だけを採取するなどして除去すればよい。
【0022】
なお、電解液にアルカリ金属の水酸化物およびインジウム化合物以外の成分(例えば、上記の酸化亜鉛)を添加する場合のタイミングは特に制限はなく、第一工程や第二工程の際に添加することが例示できるが、例えば、酸化亜鉛を添加する場合には、溶解性を高める観点からは、液中のアルカリ濃度が高いことが好ましく、第一工程で添加することが望ましい。
【0023】
次に本発明のアルカリ電池について説明する。本発明のアルカリ電池は、本発明のアルカリ電池用電解液を有している他は特に制限はなく、従来公知のアルカリ電池に採用されている構成が適用できる。なお、本発明のアルカリ電池が、無水銀の亜鉛または無水銀の亜鉛合金を負極活物質とする負極剤を用い、さらには、負極端子板の表面(負極剤と接する面)が銅または銅合金で被覆されているアルカリ電池(特にボタン形アルカリ電池)であれば、本発明のアルカリ電池用電解液を有することで、貯蔵時における電池内での水素ガス発生による容量低下などが抑制されるため、貯蔵特性の向上効果が顕著となる。
【0024】
例えば、上述の、電解液中に溶解しているインジウム化合物によって負極端子板表面に形成されるインジウムを含む亜鉛合金被膜は、通常のアルカリ電池において亜鉛の溶解・析出反応によって負極端子板の銅面に形成される亜鉛メッキの厚みと同等の薄いものである。
【0025】
本発明のアルカリ電池の好適な一例を、図面を参照しながら説明する。ただし、本発明のアルカリ電池は、図面に例示のものに限定される訳ではない。
【0026】
図1は本発明のアルカリ電池(ボタン形アルカリ電池)の一例を概略的に示す部分断面図であり、図2は図1中の要部拡大図である。
【0027】
図中、1は酸化第一銀、二酸化マンガン、酸化第二銀、水酸化ニッケルなどの正極活物質と、カーボンブラック、グラファイト、黒鉛のような導電助剤との混合粉末を円板状に加圧成形することによって作製され、これにアルカリ電解液の一部を含浸させてなる正極合剤であり、2はこの正極合剤1と負極剤3との間に介在するセパレータであって、このセパレータ2は、例えば親水処理された微孔性ポリプロピレンフィルムとセロファンフィルムとビニロン−レーヨン混抄紙のような吸液層とを積み重ねたものである。3は無水銀の亜鉛または無水銀の亜鉛合金からなる負極活物質(例えば、粉末状のもの)を含み、これにアルカリ電解液の大半量を注入してなる負極剤である。
【0028】
4は正極合剤1およびセパレータ2を内填させた鉄製で表面にニッケルメッキを施した正極缶で、その開口部に負極剤3が内填された負極端子板5をポリエチレン、ポリプロピレンなどの各種樹脂またはゴムからなる断面L字状の環状ガスケット6を介装して嵌合させ、正極缶4の開口端部を内方に締め付けて環状ガスケット6を負極端子板5に当接させることによって封口し、電池内部を密閉構造にしている。つまり、このボタン形アルカリ電池では、正極缶4、負極端子板5および環状ガスケット6で形成される密閉空間内に、正極合剤1、負極剤3、アルカリ電解液などを含む発電要素が収容されている。
【0029】
負極端子板5は、図2に示すように、ステンレス鋼板5aの外面側に美観ないし耐腐食性を満足させるニッケル層5bを設け、内面側、すなわち負極剤3と接する面に銅層5cを設けたものである。そして、この負極端子板5は、通常、ステンレス鋼板5a、ニッケル層5bおよび銅層5cからなるクラッド板を絞り加工することによって周辺折り返し部5Zを有する形状に作製されたものである。そして、上記負極端子板5の銅層5cの負極剤3と接する面に、インジウムを含む亜鉛合金被膜7が形成されている。なお、このインジウムを含む亜鉛合金被膜7は、図面上での視認を容易にするために、厚く図示されているが、実際には、負極端子板5の厚みに比べてもっと薄いものである。
【0030】
また、図2に示すように、この負極端子板5の周辺折り返し部5Zにおいて、液状パッキング材(例えば、アスファルトピッチ、脂肪族ポリアミド、フッ素系オイルなど)を介して環状ガスケット6を圧接させることも好ましく、さらに負極端子板5の、環状ガスケット6を圧接させる面8には、下記一般式(I)で示されるベンゾトリアゾール系化合物のN−アミノメチル誘導体からなる被膜9を形成しておくことも好ましい。この被膜9は、はベンゾトリアゾール系化合物の銅に対する強い活性により銅層5cの表面に化学的に強固かつ緻密に結合し、銅層5cの表面の電気化学的なクリープ現象に基づくアルカリ電解液の漏出を強力に防止する。そして、図示していないが、上記被膜9と環状ガスケット6との間には液状パッキング材が介在していて、該液状パッキング材が上記被膜9と環状ガスケット6との間からアルカリ電解液の漏出が生じるのを防止している。
【0031】
【化1】

(式中、R1 は水素、ハロゲンまたはアルキル基、R2 およびR3 は水素またはアルキル基であり、R2 とR3 とは同一でもよくまた異なっていてもよい。)
【実施例】
【0032】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に述べる。ただし、下記実施例は本発明を制限するものではなく、前・後記の趣旨を逸脱しない範囲で変更実施をすることは、全て本発明の技術的範囲に包含される。
【0033】
実施例1
<電解液の作製>
水酸化ナトリウム(純度96%):550g、酸化亜鉛(純度99%):100g、および水酸化インジウム:10gを、水:340g(所定量の25質量%)に加え20分撹拌(撹拌速度:1500rpm)した後、残りの水:1010g(所定量の75質量%)を加えて20分撹拌(撹拌速度:1500rpm)した。この混合液を室温で3日間静値し、上澄み液を採取することにより溶け残った水酸化インジウムを除去した。そして採取した上澄み液をアルカリ電池用電解液とした。
【0034】
<アルカリ電池の作製>
ニッケル層/ステンレス鋼(SUS−304)板/銅層からなるクラッド板をプレス機で打ち抜き、図1に示すように周辺折り返し部を有する形状に加工して、負極端子板を作製した。
【0035】
正極には、正極活物質である酸化第一銀を110mg、同じく正極活物質である二酸化マンガンを20mg、導電助剤である黒鉛を2mg混合したものを、円盤状(外径6.3mm、厚み0.9mm)に加圧成形したものを用いた。負極剤には、負極活物質である無水銀の亜鉛粉末37mgを用いた。上記の電解液、正極、負極剤および負極端子板を用い、図1に示す構造で、外径:6.8mm、厚さ:2.6mmのボタン形アルカリ電池を作製した。
【0036】
実施例2
以下のようにして作製した電解液を用いた以外は、実施例1と同様にしてアルカリ電池を作製した。水酸化ナトリウム(純度96%):550g、酸化亜鉛(純度99%):100g、および水酸化インジウム:10gを、水:675g(所定量の50質量%)に加え20分撹拌(撹拌速度:1500rpm)した後、残りの水:675g(所定量の50質量%)を加えて20分撹拌(撹拌速度:1500rpm)した。この混合液を室温で3日間静値し、上澄み液を採取することにより溶け残った水酸化インジウムを除去した。そして採取した上澄み液をアルカリ電池用電解液とした。
【0037】
実施例3
以下のようにして作製した電解液を用いた以外は、実施例1と同様にしてアルカリ電池を作製した。水酸化ナトリウム(純度96%):550g、酸化亜鉛(純度99%):100g、および水酸化インジウム:10gを、水:900g(所定量の67質量%)に加え20分撹拌(撹拌速度:1500rpm)した後、残りの水:450g(所定量の33質量%)を加えて20分撹拌(撹拌速度:1500rpm)した。この混合液を室温で3日間静値し、上澄み液を採取することにより溶け残った水酸化インジウムを除去した。そして採取した上澄み液をアルカリ電池用電解液とした。
【0038】
実施例4
以下のようにして作製した電解液を用いた以外は、実施例1と同様にしてアルカリ電池を作製した。水酸化ナトリウム(純度96%):550g、酸化亜鉛(純度99%):100gを水:900g(所定量の67質量%)に加えて20分撹拌(撹拌速度:1500rpm)した。その後、水酸化インジウム:10gを加え20分撹拌(撹拌速度:1500rpm)した後、残りの水:450g(所定量の33質量%)を加えて20分撹拌(撹拌速度:1500rpm)した。この混合液を室温で3日間静値し、上澄み液を採取することにより溶け残った水酸化インジウムを除去した。そして採取した上澄み液をアルカリ電池用電解液とした。
【0039】
実施例5
以下のようにして作製した電解液を用いた以外は、実施例1と同様にしてアルカリ電池を作製した。水酸化カリウム(純度85%):850g、酸化亜鉛(純度99%):110g、および水酸化インジウム:10gを、水:260g(所定量の25質量%)に加え20分撹拌(撹拌速度:1500rpm)した後、残りの水:790g(所定量の75質量%)を加えて20分撹拌(撹拌速度:1500rpm)した。この混合液を室温で3日間静値し、上澄み液を採取することにより溶け残った水酸化インジウムを除去した。そして採取した上澄み液をアルカリ電池用電解液とした。
【0040】
実施例6
以下のようにして作製した電解液を用いた以外は、実施例1と同様にしてアルカリ電池を作製した。水酸化カリウム(純度85%):850g、酸化亜鉛(純度99%):110g、および水酸化インジウム:10gを、水:525g(所定量の50質量%)に加え20分撹拌(撹拌速度:1500rpm)した後、残りの水:525g(所定量の50質量%)を加えて20分撹拌(撹拌速度:1500rpm)した。この混合液を室温で3日間静値し、上澄み液を採取することにより溶け残った水酸化インジウムを除去した。そして採取した上澄み液をアルカリ電池用電解液とした。
【0041】
実施例7
以下のようにして作製した電解液を用いた以外は、実施例1と同様にしてアルカリ電池を作製した。水酸化カリウム(純度85%):850g、酸化亜鉛(純度99%):110g、および水酸化インジウム:10gを、水:700g(所定量の67質量%)に加え20分撹拌(撹拌速度:1500rpm)した後、残りの水:350g(所定量の33質量%)を加えて20分撹拌(撹拌速度:1500rpm)した。この混合液を室温で3日間静値し、上澄み液を採取することにより溶け残った水酸化インジウムを除去した。そして採取した上澄み液をアルカリ電池用電解液とした。
【0042】
比較例1
以下のようにして作製した電解液を用いた以外は、実施例1と同様にしてアルカリ電池を作製した。水酸化ナトリウム(純度96%):550g、酸化亜鉛(純度99%):100gに、水:1350g(所定量の100質量%)を加え、20分撹拌(撹拌速度:1500rpm)した後、室温で冷却した。これに水酸化インジウム:10gを加え、20分撹拌(撹拌速度:1500rpm)した。この混合液を室温で3日間静値し、上澄み液を採取することにより溶け残った水酸化インジウムを除去した。そして採取した上澄み液をアルカリ電池用電解液とした。
【0043】
比較例2
以下のようにして作製した電解液を用いた以外は、実施例1と同様にしてアルカリ電池を作製した。水酸化ナトリウム(純度96%):550g、酸化亜鉛(純度99%):100gに、水:1350g(所定量の100質量%)を加え、20分撹拌(撹拌速度:1500rpm)した後、室温で冷却し、これをアルカリ電池用電解液とした。
【0044】
比較例3
以下のようにして作製した電解液を用いた以外は、実施例1と同様にしてアルカリ電池を作製した。水酸化カリウム(純度85%):850g、酸化亜鉛(純度99%):110gに、水:1050g(所定量の100質量%)を加え、20分撹拌(撹拌速度:1500rpm)した後、室温で冷却した。これに水酸化インジウム:10gを加え、20分撹拌(撹拌速度:1500rpm)した。この混合液を室温で3日間静値し、上澄み液を採取することにより溶け残った水酸化インジウムを除去した。そして採取した上澄み液をアルカリ電池用電解液とした。
【0045】
比較例4
以下のようにして作製した電解液を用いた以外は、実施例1と同様にしてアルカリ電池を作製した。水酸化カリウム(純度85%):850g、酸化亜鉛(純度99%):110gに、水:1050g(所定量の100質量%)を加え、20分撹拌(撹拌速度:1500rpm)した後、室温で冷却し、これをアルカリ電池用電解液とした。
【0046】
作製した電解液中のインジウム化合物の溶解量、およびアルカリ電池の容量保持率を、下記手法によって測定した。結果を表1に示す。
【0047】
[電解液中のインジウム化合物の溶解量]
測定装置に、日本ジャーレル・アッシュ株式会社製「IRIS 1000」を用いた。予め、インジウム化合物濃度が既知の溶液(0ppm、0.1ppm、1ppmおよび10ppm)を用いて、Inに関する325.609nmの波長の発光強度とインジウム化合物濃度との関係を表す検量線を作成した。そして、各電解液について、325.609nmの波長の発光強度を測定し、上記検量線を用いてインジウム化合物濃度を求めた。
【0048】
[アルカリ電池の容量保持率]
アルカリ電池の容量保持率は、貯蔵前の各電池10個ずつを、20℃、15kΩで終止電圧1.2Vまで放電させて放電容量を測定し、また上記とは別の電池10個ずつを60℃で40日間貯蔵した後、20℃、15kΩで終止電圧1.2Vまで放電させて放電容量を測定し、次式により求められる貯蔵前の放電容量に対する貯蔵後の放電容量の割合とした。
容量保持率(%)=100×(貯蔵後の放電容量)/(貯蔵前の放電容量)
【0049】
【表1】

【0050】
表1から分かるように、電解液中のインジウム化合物の溶解量が好適な実施例1〜7のアルカリ電池では、ガス発生が良好に抑制されており、容量保持率が高く、優れた貯蔵特性が確保できている。これに対し、電解液中にインジウム化合物が溶解していないか或いは溶解量が少ない比較例1〜4のアルカリ電池では、実施例1〜7のアルカリ電池に比べると、容量保持率が低く、貯蔵特性が劣っている。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明のアルカリ電池の一例を示す部分断面図である。
【図2】図1の要部拡大図である。
【符号の説明】
【0052】
1 正極合剤
2 セパレータ
3 負極剤
4 正極缶
5 負極端子板
5a ステンレス鋼板
5b ニッケル層
5c 銅層
5Z 周辺折り返し部
6 環状ガスケット
7 亜鉛合金被膜
8 液状パッキング材を介して環状ガスケットを圧接させる負極端子板の面
9 一般式(I)で示されるベンゾトリアゾール系化合物のN−アミノメチル誘導体か
らなる被膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、アルカリ金属の水酸化物、インジウム化合物および水を有するアルカリ電池用電解液であって、
インジウム化合物が100ppm以上の濃度で溶解していることを特徴とするアルカリ電池用電解液。
【請求項2】
上記アルカリ金属の水酸化物の濃度が20〜40質量%である請求項1に記載のアルカリ電池用電解液。
【請求項3】
請求項1または2に記載のアルカリ電池用電解液を有することを特徴とするアルカリ電池。
【請求項4】
アルカリ金属の水酸化物、インジウム化合物および水を有するアルカリ電池用電解液を製造する方法であって、
アルカリ金属の水酸化物およびインジウム化合物を水に溶解させる第一工程と、
上記第一工程で得られた混合物に、水を加えて希釈する第二工程
とを有することを特徴とするアルカリ電池用電解液の製造方法。
【請求項5】
電解液の調製に用いる水の全量中15〜75質量%を上記第一工程で使用し、残りの水を上記第二工程で使用する請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
上記第一工程において、アルカリ金属の水酸化物を飽和させる請求項5に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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