説明

アルカリ電池

【課題】環境負荷が少なく、十分な放電性能を備えたアルカリ電池を提供する。
【解決手段】正極活物質を含んで環状に成型されてなる正極合剤3が正極集電体を兼ねる有底円筒状の正極缶2a内に配置されてなるインサイドアウト型のアルカリ電池1aであって、前記正極缶は、内面にニッケルメッキ層22と、当該ニッケルメッキ層の表層にニッケルコバルト合金からなる被膜30が形成され、前記ニッケルコバルト合金からなる被膜は、厚さが0.15μm以上、0.25μm以下であるとともに、当該合金中のコバルトの比率が40%以上60%以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はアルカリ電池に関し、とくに、製造時の環境負荷が少なく、生産性の向上も期待できるアルカリ電池に関する。
【背景技術】
【0002】
図1に本発明の対象となるアルカリ電池の一般的な構造を示した。当該図に示したアルカリ電池は、LR14型の円筒形アルカリ電池1であり、図1(A)は、円筒軸10の延長方向を縦方向としたときの縦断面図であり、(B)は、(A)における円100内の拡大図である。このアルカリ電池1は、いわゆる、インサイドアウト型と呼ばれる構造であり、有底筒状の金属製電池缶(正極缶)2、環状に成型された正極合剤3、この正極合剤3の内側に配設された有底円筒状のセパレーター4、亜鉛合金を含んでセパレーター4の内側に充填される負極ゲル5、この負極ゲル5中に挿入された負極集電子6、負極端子板7、封口ガスケット8などにより構成される。この構造において、正極合剤3、セパレーター4、負極ゲル5が、電解液の存在下でアルカリ電池1の発電要素を形成する。なお、正極缶3の内面は強アルカリ性の電解液に晒されるため、正極缶2は、図1(B)に拡大して示したように、0.6〜1.0μm程度の厚さのニッケルメッキ層22が形成された鋼板21を基材として使用し、少なくとも正極缶2の内面側にニッケルメッキ層22を配置することで、鋼板21を構成する鉄が強アルカリ性の電解液によって腐食されることを防止している。
【0003】
ところで、電池ケースを兼ねる正極缶2は、底面に正極端子9を備えるともに、内面にて正極合剤3と直接接触することによって正極集電体として機能する。そのため、正極缶2と正極合剤3との間の接触抵抗を可能な限り低減させる必要がある。そして、その接触抵抗をさらに低減させるために、一般的には、正極缶2の内面に、導電塗料を塗布してなる導電膜23を形成している。
【0004】
なお、以下の特許文献1には、正極缶の内面側に、金属あるいは化合物の形でコバルトが含まれる被覆を形成することで、上記接触抵抗を長期的に低い状態で維持させるための技術について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平7−70320号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、インサイドアウト型のアルカリ電池では、正極缶2と正極合剤3との間の接触抵抗を可能な限り低減させる必要がある。導電膜はその接触抵抗を低減させるための有効な手段であるが、その導電膜を形成するために正極缶内面に塗布される導電塗料は、MEKなどの揮発性有機溶剤(VOC)に導電材を分散あるいは溶解させたものである。そして、近年、VOCは、その排出が規制されつつあり、環境問題の観点からも導電塗料の塗布工程の省略化が望まれる。
【0007】
VOCの問題に鑑み、水を溶媒とした導電塗料に代替することも可能であるが、この場合は、溶媒である水が自然に揮発しないので、導電塗料の塗布工程に続いて、溶媒である水を除去するための乾燥工程が必要となる。そして、この乾燥工程では、余分なエネルギーと時間が消費されることになり、アルカリ電池の生産性が低下する。また、エネルギー消費量の増大は、世界的なCO削減要求にも反し、やはり、環境問題の観点からも望ましくない。しかし、単純に導電膜を省略しただけでは、接触抵抗を十分に低くすることができない。また、正極缶の内面に形成されているニッケルメッキ膜は、正極合剤と直接接触することで酸化し、長期間の保存により接触抵抗がさらに高くなる、という問題がある。
【0008】
そこで、特許文献1に記載の技術のように、金属や化合物としてコバルトを含む被覆を正極缶の内面に形成することが考えられる。しかし、当該文献には、種々のコバルト含有被覆の形成方法について記載されているものの、実質的には、鉄とニッケルとコバルトの合金である、Vacon10をコバルト含有被覆とした技術のみが開示されているだけである。確かに、コバルトの酸化物は、アルカリ電解液に溶解するために、ニッケルの酸化物のように接触抵抗を増加させる可能性が少ない。しかし、本発明者らの研究によれば、コバルトを含む物質を正極缶の内面に配置した場合、アルカリ電池内における様々な化学反応を十分に考慮しないと、十分に接触抵抗を低減させることができなかったり、長期保存後の放電性能が劣化したりするなど、様々な問題があることが知見された。
【0009】
本発明は、上記知見に鑑みなされたものであり、その目的は、環境負荷を軽減しつつ、電池性能に優れたアルカリ電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するための本発明は、正極活物質を含んで環状に成型されてなる正極合剤が正極集電体を兼ねる有底円筒状の正極缶内に配置されてなるインサイドアウト型のアルカリ電池であって、
前記正極缶は、内面にニッケルメッキ層と、当該ニッケルメッキ層の表層にニッケルコバルト合金からなる被膜が形成され、
前記ニッケルコバルト合金からなる被膜は、厚さが0.15μm以上、0.25μm以下であるとともに、当該合金中のコバルトの比率が40%以上60%以下である、
ことを特徴とするアルカリ電池としている。
【0011】
また、前記有底円筒状の正極缶が、内面における周方向の粗さがRa値で1.0μm以上1.5μm以下であれば、より好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明のアルカリ電池によれば、正極合剤と正極缶内面との接触抵抗や、長期保存性能などの電池としての性能を維持しつつ、環境負荷を軽減することができる。なお、他の効果については、以下の記載で明らかにする。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】一般的なアルカリ電池の構造を示す図である。
【図2】本発明の実施例に係るアルカリ電池の構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
===本発明の実施例===
図2に、本発明の実施例に係るアルカリ電池1aの構造を示した。図2(A)は、当該アルカリ電池の縦断面図であり、(B)は、(A)における円101内の拡大図である。当該アルカリ電池1aの基本的な構造は、図1に示した一般的なアルカリ電池1と同様であるが、本実施例のアルカリ電池1aは、正極缶2aの構造が従来のものとは異なっており、図2(B)に示したように、正極缶2aの内面には導電膜23がなく、その代わりに、正極缶2aの基材におけるニッケルメッキ層22の表層に、不可避的に混入する不純物以外はニッケルとコバルトからなるニッケル−コバルト(Ni−Co)合金の被膜層30が電解メッキにより形成されている。しかし、単純に正極缶2aの内面にNi−Co合金の被膜層(Ni−Co層)30を設けたとしても、アルカリ電池1a内における様々な化学反応を考慮しないと、電池としての性能を十分に発現させることができない。すなわち、Ni−Co合金層30について、各種条件(膜厚、NiとCoの合金比率など)を適切に設定しないと、接触抵抗に関わる初期性能や長期保存後の性能を、従来のアルカリ電池1の性能と同等程度に維持することができなくなる。
【0015】
そこで、従来のアルカリ電池1や、Ni−Co合金層30の条件が異なる種々のアルカリ電池1aをサンプルとして作製し、それらのサンプルの特性を評価することで、Ni−Co合金層の最適条件を規定することとした。なお、サンプルに用いた正極缶(2,2a)は、全て、表面に1.0μm厚のニッケルメッキ層22が形成された鋼板を基材としている。そして、その基材のニッケルメッキ層22の表層に、さらに導電膜23やNi−Co層30が形成された正極缶(2,2a)を用いて各種サンプルを作製した。また、サンプルのサイズは全てLR14型とした。
【0016】
===第1の実施例===
本発明の第1の実施例は、Ni−Co合金層30を正極缶2aの内面に設けたアルカリ電池1aであって、そのNi−Co合金層30についての各種条件が最適化されたものである。以下に、第1の実施例のアルカリ電池1aにおけるNi−Co合金層30の最適条件を規定するために行った試験の方法や、その試験結果を示した。
【0017】
<予備検討>
まず、内面にNi−Co合金層30が設けられた正極缶2aを用いることによる接触抵抗の低減効果を確認するために、3種類のLR14型アルカリ電池をサンプルとして作製した。
【0018】
表1に各サンプルにおける正極缶の内面の条件を示した。
【表1】

【0019】
表1において、サンプルs1〜s3は、いずれも、厚さ1.0μmのニッケルメッキ層22が形成された基材からなる正極缶2を用いて作製されたアルカリ電池であり、サンプルs1は、正極缶2の内面に導電膜23を備えた従来のアルカリ電池1(以下、従来例)であり、サンプルs2は、従来例に対して導電膜がない正極缶2を用いたサンプルである。そして、サンプルs3が導電膜23に代えてNi−Co合金層30を設けた正極缶2aを用いたアルカリ電池1aである。なお、サンプルs3は、Ni−Co合金におけるCoの比率が40%であり、その合金層の厚さは0.20μmである。
【0020】
つぎに、上記サンプルs1〜s3について、電池の性能である放電性能を間欠放電試験により評価した。間欠放電試験は、一日に所定時間、一定の電流、あるいは一定の負荷で放電させ、放電させていない1日の残りの時間を無負荷の状態で放置する、というサイクルを繰り返したときに、終止電圧に至るまでの放電時間を計測することで行う。ここでは、1日に2時間400mAの電流で放電させたとき(定電流間欠放電)、1日に1時間3.9Ωの負荷で放電させたとき(軽負荷間欠放電)、および1日に4時間20Ωの負荷で放電させたとき(高負荷間欠放電)の3通りの試験を行い、各サンプルが終止電圧(例えば、0.9V)に至るまでの時間(h)で評価した。また、3種類のサンプルは、それぞれ、初期の性能を評価するために、組み立て直後に試験されるサンプルと、長期保存後の性能を評価するために、60℃の環境下で20日間放置することで加速劣化させて、長期保存後の状態を再現させた上で試験されるサンプルの二組を作製した。なお、各放電試験は、20℃の雰囲気下で行った。
【0021】
表2に、当該試験結果を示した。
【表2】

【0022】
表2の結果より、Ni−Co合金層30がない正極缶2を用いたサンプルs1とs2において、導電膜23がないサンプルs2は、従来例s1に対して、全ての試験に対して初期の特性と長期保存後の特性がともに劣っていた。特に、定電流間欠放電試験では、従来例s1に対して初期特性が30%、長期保存後特性では1%の性能しか得られなかった。一方、Ni−Co合金層30を設けたサンプルs3では、従来例s1と同等の性能が得られた。したがって、ニッケルメッキ層22の表層にさらにNi−Co合金層30を設けた正極缶2aを用いることで、導電膜23を省略できることが確認された。
【0023】
これは、Coの酸化物がアルカリ溶液である電解液に容易に溶解するため、Ni−Co合金層30に含まれているCoが強酸化剤である正極合剤3中の二酸化マンガンにより酸化されても、その酸化膜自体が溶解して接触抵抗の増加が抑制された、と考えることができる。
【0024】
<Ni−Co合金層の厚さ>
つぎに、Ni−Co合金層30の厚さと、放電性能との相関関係を評価し、Ni−Co合金層30の適正膜厚を規定する。そこで、Ni−Co合金におけるCoの比率が上記サンプルs3と同じ40%としつつ、そのNi−Co合金層の膜厚を変えたサンプルを各種作製した。また、予備検討のときと同様に、製造直後に試験されるサンプルと、長期保存後に試験されるサンプルの二組に分けて、各組のサンプルに対して、定電流間欠放電試験と、軽負荷間欠放電試験とを行った。
【0025】
表3に、Ni−Co合金層30の膜厚と放電性能との関係を示した。
【表3】

【0026】
表3の結果より、Ni−Co合金層30の膜厚が0.15μm未満のサンプルs4、および0.25μmより大きいサンプルs8で、定電流間欠放電試験時の長期保存特性が劣化することが確認できた。また、初期特性も13.0h以下であり、他のサンプルs5〜s7と比較すると定電流間欠放電時の初期特性も劣っていた。これは、Ni−Co合金層30が薄いとCoの絶対量が不足し、合金中のニッケルが酸化することによる接触抵抗の増加を抑止できず、厚すぎると合金自体の抵抗が増加して定電流放電試験による特性が劣化したものと考えられる。したがって、Ni−Co合金層30の適正膜厚は、0.15μm以上、0.25μm以下である、と規定できる。
【0027】
<Ni−Co合金比率:Coの上限比率>
以上より、Ni−Co合金層30の膜厚には適正値があることが確認できた。ところで、Ni−Co合金は、Co単体と比較すると、Coがイオン化し難く、Coが電解液中に溶出し難い。しかし、合金中のCoの比率が高まれば、Coが電解液中に溶出してしまう可能性がある。Coが電解液中に溶出すれば、そのイオン化したCoが負極で析出し、負極剤の亜鉛を腐食させてガスを発生させる。ガスの発生は漏液の原因となる。したがって、合金中のNiとCoの比率についても適正範囲を規定する必要がある。
【0028】
そこで、所定の面積を有する正極缶2aの基材を用意し、その基材のニッケルメッキ層22の表層に、NiとCoの比率が異なるNi−Co合金層30をメッキにより被膜した。そして、そのNi−Co合金層30が被膜された所定面積の基材をアルカリ電池(1,1a)の電解液であるKOHに浸漬した。そして、基材およびNi−Co合金中のNiが耐アルカリ性であることから、浸漬前後で減少した単位面積あたりの重量をCoの溶出量として求めた。なお、KOHヘの浸漬条件は、液温60℃で10日間とした。
【0029】
表4に、Ni−Co合金におけるCoの比率と、KOHへの浸漬前後におけるCoの量(g/m)量との関係を示した。
【表4】

【0030】
表4では、Ni−Co合金がメッキされる所定面積の基材の重量と、Ni−Co合金におけるCoの比率とに基づいて、Ni−Co合金被膜におけるCoのみの重量を計算している。そして、表4に示した結果より、Ni−Co合金中のCoの比率が60%より大きくなるとCoの溶出が確認された。すなわち、Ni−Co合金は、Coの比率が60%以下であるときに安定した合金となることが確認できた。したがって、Ni−Co合金層30におけるCoの比率は60%以下とすることが条件となる。
【0031】
<Ni−Co合金比率:Coの下限比率>
上述したように、Ni−Co合金層30におけるCoの比率には上限値があることが判明した。一方、下限値については、Coの比率が低下すれば、正極缶2aの内面におけるNiの比率が高まり、電解液によって酸化されたNiが接触抵抗を増加させることが懸念される。そこで、下限値を規定するために、正極缶2aの内面に、Coの比率が異なるNi−Co合金層30を備えた種々のアルカリ電池1aをサンプルとして作製し、各サンプルに対して、定電流間欠放電試験と、軽負荷間欠放電試験とを行い、初期特性と長期保存特性とを評価した。なお、Ni−Co合金層30の厚さは0.20μmとした。
【0032】
表5に、当該評価結果を示した。
【表5】

【0033】
表5において、サンプルs9は、に示したように、Coの比率が40%未満のサンプルs9〜s11では、長期保存特性が劣化していることが確認できた。したがって、Ni−Co合金層30に含まれるCoの比率は40%以上とすることが条件となる。すなわち、上限値とあわせて、Ni−Co合金層30におけるCoの比率は40%以上60%以下と規定される。
【0034】
以上より、本発明の第1の実施例に係るアルカリ電池1aは、ニッケルメッキ層が形成された鋼板を基材として作製された正極缶2を用いたアルカリ電池であって、正極缶2の内面側のニッケルメッキ層の表層に、さらにNi−Co合金のメッキ層が形成されているものである。そして、そのNi−Co合金のメッキ層は、厚さが0.15μm以上、0.25μm以下であり、Coの含有率が40%以上60%以下である。
【0035】
この第1の実施例に係るアルカリ電池では、正極缶2の内面に導電膜を設けなくても、正極合剤との接触抵抗が増加せず、従来と同様の放電性能を備えている。したがって、電池としての性能を維持しつつ、環境負荷を少なくすることができる。また、本実施例では、Coを含む被膜として、Co以外は実質的にNiしか含まれていないNi−Co合金を採用しており、その被膜を形成するために、例えば、Vacon10のように、正極缶2の基材に含まれているニッケルや鉄にコバルトを含有させて合金化するわけではなく、一般のアルカリ電池1の正極缶2用に用意されているニッケルメッキされた鋼板を基材として、その基材表面にNi−Co合金をメッキするだけである。そして、第1の実施例のアルカリ電池1aに用いられる正極缶2aは、そのNi−Co合金メッキされた基材を多段深絞り加工などによって製造するだけであり、容易に正極缶2aを製造することができる。また、基材自体の調達も容易であることから、第1の実施例に係るアルカリ電池1aは、大きなコストアップを招くことなく製造することができる。導電膜23となる材料とその導電膜23の形成工程を省略することによるコストダウンを考慮すれば、従来と同様、あるいは従来よりも製造コストを低減させることも期待できる。
【0036】
===第2の実施例===
本発明の第2の実施例に係るアルカリ電池は、その構造自体は、第1の実施例のアルカリ電池1aと同じである。したがって、以下では、図2に示した符号を用いて第二の実施例に係るアルカリ電池1aについて説明する。
【0037】
上述した本発明の1の実施例は、Ni−Co合金層を正極缶2の内面に設けたアルカリ電池であって、そのNi−Co合金層についての各種条件が最適化されたものであり、環境負荷を軽減させた上で、従来の正極缶2の内面に導電膜23を備えたアルカリ電池1と同等の性能を備えていた。一方、本発明の第2の実施例に係るアルカリ電池1aは、各種条件が最適化されたNi−Co合金層30を備えつつ、正極缶2a自体の物理的な構造が最適化されている。
【0038】
具体的には、アルカリ電池1aの正極缶2aを含め、円筒型電池の電池缶は、多段深絞り加工によって成形されるのが一般的である。そして、その多段深絞り加工時のしごきダイRを調整することで、円筒状の正極缶の内面の円周方向の表面粗さを制御することができる。そして、その粗さを制御すれば、正極合剤3と正極缶2aの内面との接触面積を増大させて接触抵抗を低減させることが期待できる。そこで、内面にNi−Co合金層30を備えるとともに、その内面の円周方向の粗さ(以下、内面粗さ)が異なる正極缶2a用いて各種サンプルを作製し、放電性能を評価した。なお、当該評価に用いたサンプルは、一律に、Ni−Co合金層30の厚さを0.20μとし、当該合金中のCoの比率を40%としている。また、粗さはRa値を指標として用いた。
【0039】
表6に、正極缶2の内面粗さと各サンプルの放電特性との関係を示した。なお、本発明の実施例に係るアルカリ電池1aにおいて、物性的な特徴であるNi−Co合金やそのメッキ層30についての各種条件は、第1の実施例によって規定されている。一方、第2の実施例は、内面粗さという物理的な構造を規定するものであるから、ここでは、定電流間欠放電試験の初期特性によって放電性能を評価した。
【表6】

【0040】
表6に示したように、正極缶2aの内面の円周方向の粗さがRa値で1.0μm以上のサンプルs14〜s17で、初期の定電流間欠放電特性が優れており、これらのサンプルでは、良好な電気的・物理的接触が得られていると考えることができる。なお、深絞り加工では、経験上、Ra値が1.5μmより大きな表面粗さを得ることが難しいことが判明している。したがって、正極缶2aの内面の円周方向の平均粗さは、Ra値で1.0μm以上、1.5μm以下であることが望ましい。
【符号の説明】
【0041】
1 従来のアルカリ電池、1a 本発明の実施例におけるアルカリ電池、
2,2a 電池缶(正極缶)、3 正極合剤、4 セパレーター、5 負極ゲル、
6 負極集電子、7 負極端子板、8 ガスケット、9 正極端子、21 鋼鈑、
22 ニッケルメッキ層、23 導電膜、30 Ni−Co合金層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質を含んで環状に成型されてなる正極合剤が正極集電体を兼ねる有底円筒状の正極缶内に配置されてなるインサイドアウト型のアルカリ電池であって、
前記正極缶は、内面にニッケルメッキ層と、当該ニッケルメッキ層の表層にニッケルコバルト合金からなる被膜が形成され、
前記ニッケルコバルト合金からなる被膜は、厚さが0.15μm以上、0.25μm以下であるとともに、当該合金中のコバルトの比率が40%以上60%以下である、
ことを特徴とするアルカリ電池。
【請求項2】
請求項1において、前記有底円筒状の正極缶は、内面における周方向の粗さがRa値で1.0μm以上1.5μm以下であることを特徴とするアルカリ電池。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−48958(P2012−48958A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−189769(P2010−189769)
【出願日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【出願人】(503025395)FDKエナジー株式会社 (142)
【Fターム(参考)】