説明

アルキレンオキサイド付加化合物の製造方法

【課題】 本発明は、アルキレンオキサイドのエポキシ環を開裂して当該化合物を付加させる反応に適する含窒素触媒を用いるに当たり、目的化合物に混入する含窒素化合物の量を1ppm以下にまで低減することができるアルキレンオキサイド付加化合物の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明に係るアルキレンオキサイド付加化合物の製造方法は、含窒素触媒の存在下でアルキレンオキサイドの開裂反応を行なう工程、および、当該触媒に由来する含窒素化合物に対し過剰量の酸性化合物を添加して酸性条件下で蒸留することにより精製する工程を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルキレンオキサイド付加化合物を製造するための方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アルキレンオキサイドにフェノール化合物などの活性水素化合物を反応させてエポキシ環を開裂させ、アルキレンオキサイドを付加することによりエーテル化合物等を製造することができる。しかしこの反応の速度は極めて遅く、また、副反応が多い。このため、当該反応では触媒が用いられる。
【0003】
例えば、エチレンオキサイドとフェノール化合物を反応させるβ−フェノキシエタノール類の製法としては、アルカリ金属塩と大量の水を用いて合成する方法が知られている(特許文献1)。しかしながら、大量の水の適用は、オキシラン化合物の使用効率の低下を招くのみならず、多量の工業廃水が発生するという潜在的な問題を抱えている。特にフェノール化合物には殺菌作用を持つものが多いため、廃水が未反応フェノール化合物を含有している場合には、廃水の活性汚泥処理が困難である。その他、上記反応に用いられる触媒としては、ハロゲン化ホスホニウム塩もしくは3級ホスフィンとハロゲン化アルキルからなる触媒(特許文献2)や、ハロゲン化トリアルキルベンジルアンモニウム類が知られている(特許文献3)。
【0004】
ところで、塩基性を示すアミン化合物や第4級アンモニウム塩などの含窒素化合物は、触媒量で用いた場合であっても、含窒素化合物自体やその分解物が精製後の目的化合物にも極微量混入する場合がある。含窒素化合物等は極微量であっても臭気を感じる場合があるため、目的化合物から徹底的に除去する必要がある。
【0005】
含窒素化合物を除去する技術として、特許文献4には、ヒドロキシ化合物からアルカリ成分および/または含窒素化合物を精製処理により除去する技術が記載されている。より具体的には、この精製処理は、ヒドロキシ化合物を得るに当たり触媒として使用した酸を中和するためのアルカリ成分、またはN−メチルピロリドンやN,N−ジメチルホルムアミドを除くために、吸着剤処理、蒸留処理または無機強酸による中和処理を行なうものである。
【0006】
特許文献4には、ヒドロキシ化合物の精製処理について、吸着剤処理、蒸留処理に中和処理を組合せてもよいとの記載がある。しかし好適な精製方法としては、ヒドロキシ化合物が低沸点化合物の場合は蒸留処理が、高沸点化合物の場合は吸着剤処理が挙げられている。また、実施例で用いられている方法は吸着処理のみであり、ヒドロキシ化合物に混入する窒素含量はせいぜい20ppmまで低減できるに過ぎない。さらに特許文献1で規定されている精製方法は原料であるヒドロキシ化合物の精製方法であり、目的化合物である含フッ素エーテル化合物の精製に関しては特に規定されていない。実際、実施例では触媒を濾過した後に原料であるカルボニル化合物を減圧留去するのみで目的化合物を単離している。
【特許文献1】特公昭39−30272号公報
【特許文献2】特公昭50−654号公報
【特許文献3】特公昭49−33183号公報
【特許文献4】特開平11−322651号公報(請求項1〜3、段落[0019]〜[0023]、実施例項)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した様に、アルキレンオキサイドを開裂させてこれを活性水素化合物に付加させる反応に用いられる触媒は知られていた。これら触媒として含窒素触媒も知られているが、目的化合物に混入した含窒素化合物は微量であっても臭気等の原因となり、目的化合物の品質を貶める。また、ヒドロキシ化合物から含窒素化合物を除去するための技術もあったが、斯かる先行技術も含窒素化合物を数十ppm以下に低減できるものに過ぎず、十分ではなかった。
【0008】
そこで本発明の目的は、アルキレンオキサイドのエポキシ環を開裂して当該化合物を付加させる反応に適する含窒素触媒を用いるに当たり、目的化合物に混入する含窒素化合物の量を1ppm以下にまで低減することができるアルキレンオキサイド付加化合物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、触媒として含窒素触媒を用いた場合における精製条件につき鋭意研究を重ねた。その結果、酸性条件下で蒸留すれば、目的化合物に混入する含窒素化合物の量を顕著に低減できることを見出して本発明を完成した。
【0010】
即ち、本発明に係るアルキレンオキサイド付加化合物の製造方法は、含窒素触媒の存在下、アルキレンオキサイドの開裂反応を行なう工程、および、反応液中に存在する含窒素化合物に対し過剰量の酸性化合物を添加して酸性条件下で蒸留することにより精製する工程を含むことを特徴とする。当該方法によれば、上記精製により含窒素化合物の残存量を1ppm以下にすることが可能になる。
【0011】
含窒素触媒としては、主鎖または側鎖にアミノ基および/または4級アンモニウム塩構造を有するアニオン交換樹脂が好適である。このアニオン交換樹脂は、アルキレンオキサイドを開裂させこれを付加させる反応において、反応効率を高めると共に副生物の生成を抑え、目的化合物を収率良く製造することができるものである。また、酸性化合物としては、リン酸、ポリリン酸、硫酸、ピロリン酸水素ナトリウムまたはポリカルボン酸が好適である。
【0012】
アルキレンオキサイドを開裂してこれを付加する化合物としては、カルボン酸化合物またはフェノール化合物が好適である。また、上記製造方法は、アルキレンオキサイド付加化合物として、特にフェノール化合物のアルキレンオキサイド付加化合物である芳香族エーテル化合物を製造するために用いることが好ましい。後述する実施例によって、本発明方法がこれら化合物の製造に適することが実証されているからである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の方法によれば、アルキレンオキサイドの開裂反応を効率よく進めることができる上に、目的化合物に混入しがちであった含窒素化合物を効率よく除去することができ、不純物としての含窒素化合物の混入量を顕著に低減することが可能となる。よって本発明方法は、アルキレンオキサイドを効率よく製造できる上に目的化合物製品の品質をより一層高められるものとして、産業上極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明に係るアルキレンオキサイド付加化合物の製造方法は、
含窒素触媒の存在下、アルキレンオキサイドの開裂反応を行なう工程、および
反応液中に存在する含窒素化合物に対し過剰量の酸性化合物を添加して酸性条件下で蒸留することにより精製する工程、
を含むことを特徴とする。
【0015】
本発明方法では、含窒素触媒を用いて反応を行ない、アルキレンオキサイドを開裂させる。当該触媒はアルキレンオキサイドの開裂反応に非常に適するが、当該触媒自体やその分解物が目的化合物に混入する。本発明では、当該反応により目的化合物へ混入する含窒素化合物の量を低減することを目的としている。
【0016】
含窒素触媒は、その構造中に窒素原子を含む触媒を意味する。この含窒素触媒としては、例えば、アンモニア、第1〜3級アミン、第4級アンモニウム塩などの塩基;主鎖または側鎖にアミノ基および/または4級アンモニウム塩構造を有するアニオン交換樹脂を挙げることができる。
【0017】
主鎖または側鎖にアミノ基および/または4級アンモニウム塩構造を有するアニオン交換樹脂は、アルキレンオキサイドの開裂・付加反応において、反応効率を高めると共に副生物の生成を抑え、目的化合物を収率良く製造することができるものとして特に優れている。当該アニオン交換樹脂の形態としては、アニオン交換基が環状構造を有しているものや、アニオン交換基が炭素数4以上のアルキレン鎖を介して主鎖に結合されているものを挙げることができる。環状構造の形態としては、5員環、6員環などであることが好ましく、5員環であることがより好ましい。特に4級アンモニウム塩構造を有する場合には、ピロリジン骨格、ピペリジン骨格またはピリジン骨格を有していることが好ましい。このような環状4級アンモニウム塩構造を有するアニオン交換基を含むアニオン交換樹脂としては、斯かる樹脂が容易に形成される観点から、ビニルピリジンやジアリルジメチルアンモニウムクロライドによって合成されるものが推奨される。また、4級アンモニウム塩構造を有するアニオン交換樹脂としては、特開2001−354777号公報および特開2002−105138号公報に記載されているものを例示することができる。
【0018】
上記の4級アンモニウム塩または4級アンモニウム塩構造は、陽イオン化したヘテロ原子と対をなす陰イオンを有する。この陰イオン種は、特に限定されるものではない。例えば水酸化物イオン;フッ素、塩素、臭素、ヨウ素などのハロゲン化物イオン;有機酸のアニオン(カルボン酸アニオン、フェノキシアニオン類など);無機酸のアニオン;などが挙げられる。無機酸のアニオンには、硫酸イオン、亜硫酸イオン、亜硫酸水素イオン、亜リン酸イオン、ホウ酸イオン、シアン化物イオン、炭酸イオン、チオシアン酸イオン、硝酸イオン、リン酸イオン、リン酸水素イオン、メタレートイオン(たとえばモリブデン酸イオン、タングステン酸イオン、リンタングステン酸イオン、メタバナジン酸イオン、ピロバナジン酸イオン、水素ピロバナジン酸イオン、ニオブ酸イオン、タンタル酸イオンなど)などが含まれる。上記例示の陰イオン種の中でも、各種有機酸のアニオン、水酸化物イオン、ハロゲン化物イオンが好ましい。
【0019】
以上説明したアニオン交換樹脂の市販品としては、例えば、アニオン交換基がアルキレン鎖を介して主鎖に結合されているものとして、三菱化学社製「ダイヤイオンTSA1200」、ローム・アンド・ハース社製「アンバーライトIRA400」、Reilly社製「Reillex HPQ547719」等が挙げられる。また、耐熱性は比較的低いが、三菱化学社製「ダイヤイオンPA300シリーズ」、「ダイヤイオンPA400シリーズ」、「ダイヤイオンHPA25,75」;DOW社製「ダウエックス」(SBR、SBR−P−C、SAR、MSA−1、MSA−2、22、マラソンA、マラソンALB、マラソンA2、モノスフィアー550A);ローム・アンド・ハース社製「デュオライト」(A113、A113LF、A113MB、A109D、A116、A116LF、A161TRSO4、A162LF、A368S、A378D、A375LF、A561、A568K、A7);などの市販のアニオン交換樹脂も使用可能である。
【0020】
本発明で原料化合物として用いるアルキレンオキサイドは、エポキシ構造を有する化合物であれば特に制限されないが、例えばエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、1,2−ブチレンオキサイド、2,3−ブチレンオキサイド、イソブチレンオキサイド、ペンチレンオキサイド、エピクロロヒドリン等の鎖状脂肪族アルキレンオキサイド;スチレンオキサイド等の芳香族アルキレンオキサイド;シクロヘキセンオキサイド等の環状脂肪族アルキレンオキサイドなどを挙げることができる。これらのうち、好ましくは炭素数2〜4の鎖状脂肪族アルキレンオキサイドであり、より好ましくはエチレンオキサイドまたはプロピレンオキサイドである。これらアルキレンオキサイドは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよいが、好適には1種を単独で用いる。
【0021】
本発明では、窒素原子を含む触媒の存在下でアルキレンオキサイドの開裂反応を行ない当該化合物を付加させるが、アルキレンオキサイドを開裂させるための原料化合物、即ちアルキレンオキサイドが付加する化合物としては、カルボン酸化合物、フェノール化合物、アルコール化合物、水または二酸化炭素を例示することができる。
【0022】
本発明で用いるカルボン酸化合物の種類は特に制限されないが、例えばギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、カプロン酸、ステアリン酸、β−ヒドロキシ酪酸などの飽和脂肪族カルボン酸;(メタ)アクリル酸などの不飽和脂肪族カルボン酸;シュウ酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、マレイン酸、イタコン酸、グルタル酸、α−ブロモグルタル酸などの脂肪族ジカルボン酸;安息香酸、フェニル酢酸、ナフテン酸、トルイル酸、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、サリチル酸、p−クロロ安息香酸、m−メトキシ安息香酸などの芳香族カルボン酸;ポリ(メタ)アクリル酸などの高分子カルボン酸などを例示することができる。これらのうち、(メタ)アクリル酸、テレフタル酸およびコハク酸がより好ましい。
【0023】
本発明で原料として用い得るフェノール化合物とは、分子内にフェノール性水酸基を1以上含有する芳香族化合物を意味し、その種類は得に制限されない。芳香族化合物とは芳香環を有する化合物であり、芳香環には、シクロペンタジエン環などの非ベンゼン系芳香環;ベンゼン環;ナフタレン環、アントラセン環、ピレン環などの縮合芳香環;これら非ベンゼン系芳香環、芳香環あるいは縮合芳香環の1以上の炭素原子が、酸素原子、窒素原子、硫黄原子などのヘテロ原子に置き換えられている複素芳香環(ピロール環、ピリジン環、チオフェン環、フラン環など);などが含まれる。
【0024】
単価のフェノール類としては、フェノール;o−、m−またはp−クレゾール、o−、m−またはp−エチルフェノール、o−、m−またはp−t−ブチルフェノール、o−、m−またはp−オクチルフェノール、2,3−キシレノール、2,6−キシレノール、3,4−キシレノール、3,5−キシレノール、2,4−ジ−t−ブチルフェノールなどの炭化水素置換基を有するフェノール;o−、m−またはp−フェニルフェノール、p−(α−クミル)フェノール、4−フェノキシフェノールなどの芳香族置換基または芳香環を含む置換基を有するフェノール;o−、m−またはp−ヒドロキシベンズアルデヒドなどのアルデヒド基を有するフェノール;グアヤコール、グエトールなどのエーテル結合を含む置換基を有するフェノール;p−ヒドロキシフェネチルアルコールなどのアルコール性水酸基を含む置換基を有するフェノール;p−ヒドロキシ安息香酸メチル、p−ヒドロキシフェニル酢酸メチルエステル、ヘプチルパラベンなどのエステル結合を含む置換基を有するフェノール;2,4,6−トリクロロフェノール、2−アミノ−4−クロロフェノールなどのハロゲン基を有するフェノール;o−またはp−ニトロフェノールなどのニトロ基を有するフェノール;アミノフェノール、2,4,6−トリス(ジメチルアミノフェノール、p−ヒドロキシフェニルアセトアミドなどの窒素原子を含む置換基を有するフェノール;α−ナフトール、β−ナフトール;などが挙げられる。これらの中でもフェノールおよびクレゾールが好ましい。
【0025】
多価フェノール類としては、カテコール類(カテコール、プロトカテキュ酸、クロルアセチルピロカテキン、アドレナロン、アドレナリン、アポモルフィン、ウルシオール、チロン、フェニルフルオロンなど)、レゾルシノール類(レゾルシノール、オルシン、ヘキシルレゾルシンなど)、ハイドロキノン類(2,3,5−トリメチルハイドロキノン、2−t−ブチルハイドロキノン、ホモゲンチジン酸エステルなど)などの2価フェノール;ピロガロール類(ピロガロール、2,3,4−トリヒドロキシベンゾフェノン、没食子酸ラウリル、没食子酸エステル、プルプロガリンなど)、フロログルシン類(フロログルシンなど)、オキシハイドロキノン類(オキシハイドロキノンなど)などの3価フェノール;ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、3,9−ビス(1,1−ジメチル−2(β−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ)エチル−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカン、アルミノン、アトラノリン、エリトリン、カテキン、エピカテキン、イソカルタミン、クルクミン、コクラウリン、シアニジン、シリンギジン、スチルベストロール、タンニン酸エステル、ビスフェノールA、ビスフェノールS、ビスフェノールZ、ビスフェノールフルオレン、ビスクレゾールフルオレン、フェノールレッド、フロリジン、ヘキセストロール、ヘマトキシリン、ペラルゴニジン、モリン、レカノール酸などのビスフェノール類;1,4−ジヒドロキシナフタレン、カルボニルJ酸、(R)−1,1’−ビ−2−ナフトール、(S)−1,1’−ビ−2−ナフトール、エリオクロムブラックT、α−ビナフトール、β―ビナフトール、γ―ビナフトールなどのヒドロキシナフタレン類;1,4−ジヒドロキシアントラキノン、ロイコ−1,4−ジアミノアントラキノン、ロイコ−1,4−ジヒドロキシアントラキノン、アントラヒドロキノン、アリザリン、アリザリンS、エモジン、キニザリン、ケルメス酸エステル、酸性アントラキノン染料(アリザリンサフィロールBなど)、プルプリン、プルプロキサンチンなどのヒドロキシアントラセン類またはヒドロキシアントラキノン類;シトラジン酸;1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタン;1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ヒドロキシベンジル)ベンゼン;ポリフェノール類、ノボラック樹脂、レゾール樹脂、アトロメンチン、アントラキノン染料(建て染め紫)、ウスニン酸、ロウルシオール、エキノクロム、オルセリン酸エステル、カルタミン、酸性媒染染料(ダイヤモンドブラックF、クロムファストネビーブルB、パラチンファストブルーなど)、ジヒドロフェニルアラニンエステル、ジロホール酸エステル、デルフィニジン、ビタミンP、フルオレセイン、ポリポル酸などの高分子系フェノール類;などが挙げられる。
【0026】
これら多価フェノール類の中でも、フェノール性水酸基を有する芳香族エーテル類の原料として好ましいのは、カテコール類、レゾルシノール類、ハイドロキノン類であり、より好ましいのはカテコール、レゾルシノール、ハイドロキノンである。また、フェノール性水酸基が実質的に残存しない芳香族エーテル類の原料として好ましいのはビスフェノール類であり、より好ましいのはビスフェノールA、ビスフェノールS、ビスフェノールフルオレン、ビスクレゾールフルオレンである。
【0027】
本発明で原料として用い得るアルコール化合物の種類は特に制限されないが、例えば炭素数1〜22の直鎖状または分枝鎖状の飽和または不飽和脂肪族アルコール;炭素数3〜12のシクロアルカノール;炭素数2〜10のジオールを挙げることができる。
【0028】
水とオキシラン化合物とを反応させてオキシラン化合物を開裂させた場合、用いたオキシラン化合物に対応するアルコール化合物が得られる。
【0029】
二酸化炭素とオキシラン化合物とを反応させてオキシラン化合物を開裂させた場合、環状アルキレンカーボネートが得られる。具体的には、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、クロロメチルエチレンカーボネート、シクロヘキサンカーボネート、シクロペンタンカーボネート、スチレンカーボネート等である。
【0030】
本発明の製造方法は、アルキレンオキサイド付加化合物として、特にアルキレンオキサイドとカルボン酸化合物またはフェノール化合物との反応生成物であるヒドロキシアルキルカルボン酸エステル化合物または芳香族エーテルを製造するために用いることが好ましく、芳香族エーテルを製造するために用いることがより好ましい。
【0031】
使用する触媒の量、用いる溶媒の種類や量、反応時間や反応温度は、目的化合物の種類等により適宜調整すればよい。
【0032】
本発明では、アルキレンオキサイドの開裂反応を行なった後、反応液中に存在する含窒素化合物に対して過剰量の酸性化合物を添加して酸性条件下で蒸留することによって、目的化合物を精製する。斯かる精製によって、当該触媒自体または当該触媒が分解して生成した含窒素化合物の目的化合物への混入を顕著に抑制できる。
【0033】
本発明で使用できる酸性化合物の種類は特に制限されないが、例えば無機酸、無機酸酸性塩、有機酸などを例示できる。無機酸としては、例えばリン酸、亜リン酸、次亜リン酸、ピロリン酸、ポリリン酸、ヘテロポリ酸、硫酸などを挙げることができる。無機酸酸性塩としては、例えばリン酸二リチウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸一水素リチウム、リン酸一水素ナトリウム、リン酸一水素カリウム、硫酸水素リチウム、硫酸水素ナトリウム、硫酸水素カリウム、酸性ピロリン酸ナトリウム(例えば、ピロリン酸水素ナトリウムなど)等を挙げることができる。有機酸としては、例えばギ酸、シュウ酸、コハク酸、酢酸、マレイン酸、安息香酸、パラトルエンスルホン酸、ポリアクリル酸やポリメタクリル酸などのポリカルボン酸などを挙げることができる。これらの中で特に好ましくはリン酸、ポリリン酸、硫酸、ピロリン酸水素ナトリウムまたはポリカルボン酸である。
【0034】
酸性化合物の添加量は、蒸留するに当たり反応液中に存在する含窒素化合物に対して過剰量であり、反応系を酸性にできれば特に制限されない。ここでの含窒素化合物は、蒸留直前の反応液中に存在し、蒸留される目的化合物に伴って混入し得るものであれば特に限定されるものではない。考えられる含窒素化合物としては、例えば、反応系に使用した含窒素触媒がそのまま残っている場合はその含窒素触媒、目的化合物を蒸留により精製する前に濾過などで含窒素触媒を除去した場合には除去しきれず残留した含窒素触媒、これら含窒素触媒が分解等した結果生じた含窒素化合物、過剰量使用した含窒素原料化合物、原料化合物に混入していた含窒素化合物、或いは合成器具に付着していた含窒素化合物などを挙げることができる。よって酸性化合物は、目的化合物を蒸留する直前に反応系に存在する含窒素触媒またはその分解物等に対して過剰量添加する。
【0035】
添加すべき酸性化合物の好適な添加量は、例えば反応液中に存在する全窒素含有量を微量全窒素分析装置等の分析装置で測定し、得られた含有量に対する重量比で100〜300倍とすることができ、より好ましくは200〜300倍とすることができる。
【0036】
蒸留の条件は、目的化合物の物性値等に従って適宜調整すればよい。但し、工業的には120〜200℃の範囲で蒸留できる様に圧力を定めるとよい。120℃未満であると圧力を低くしなければならず設備費が高くなる場合があり、200℃を超えると変色など目的化合物の品質が低下するおそれがある。
【0037】
蒸留する際、即ち蒸留直前または蒸留中に、酸性化合物に加えて上記含窒素化合物を吸着するための吸着剤を添加してもよい。斯かる吸着剤処理によって、含窒素化合物の量が非常に多い場合などに酸性化合物の添加量を低減できたり、最終的に目的物化合物へ混入する含窒素化合物の量をさらに低減することも可能になる。斯かる吸着剤としては、例えば珪酸マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、炭酸アルミニウム、合成珪酸塩(例えば、合成珪酸アルミニウムや合成珪酸マグネシウムなど)、ハイドロタルサイト、酸化マグネシウムアルミニウム、白土類(例えば、酸性白土や活性白土など)、活性アルミナ、ゼオライト、合成ゼオライト、カチオン交換樹脂、珪藻土、シリカゲルなどを例示することができる。
【0038】
本発明方法によれば、アルキレンオキサイドの開裂反応と付加反応を効率よく進行させることができる上に、目的化合物であるアルキレンオキサイド付加化合物に混入する含窒素触媒の量を顕著に低減でき、品質のよい目的化合物を得ることができる。
【0039】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に述べる。ただし、下記実施例は本発明を制限するものではなく、前・後記の趣旨を逸脱しない範囲で変更実施をすることは、全て本発明の技術的範囲に包含される。なお、本実施例において、「ppm」は質量基準である。
【実施例】
【0040】
実施例1−1 粗2−フェノキシエタノールの製造
主鎖に環状4級アンモニウム塩構造を含むアニオン交換樹脂(特開2002−105138号公報を参照)とフェノールを反応器に仕込み、系内を窒素置換した後に初期圧を0.1MPaに調節した。反応温度95±5℃で、フェノールに対して1.05当量のエチレンオキサイドを3.5時間かけて圧入した。圧入後から4時間熟成した後、アニオン交換樹脂を分離した。反応液をガスクロマトグラフィで分析したところ、フェノールのエチレンオキサイド1付加体である2−フェノキシエタノールの含有量は92.9%であった。また、全窒素含有量を微量全窒素分析装置(三菱化学社製、TN−05型)により分析したところ、15.4ppmだった。以下の実施例1−2〜4では、この粗2−フェノキシエタノールを用いた。
【0041】
実施例1−2 2−フェノキシエタノールの精製
実施例1−1で得た粗2−フェノキシエタノール(2005.3g)に85%リン酸(和光純薬工業社製、特級試薬、10.5g)を加えて十分に攪拌した。次いで、50mmφ、10段のオルダーショウ蒸留装置を用いて、トップ圧力2kPa、還流比0.3、ボトム温度140〜180℃の範囲で蒸留を行なった。その結果、1601.0gの2−フェノキシエタノールが得られた。得られた目的化合物について、微量全窒素分析装置(三菱化学社製、TN−05型)により全窒素含有量を測定したところ、0.14ppmであった。
【0042】
実施例2
実施例1−1で得た粗2−フェノキシエタノール(2000.8g)に85%リン酸(和光純薬工業社製、特級試薬、7.8g)を加えて十分に攪拌した後、実施例1−2と同様の条件で精製した。その結果、1606.4gの2−フェノキシエタノールが得られた。得られた目的化合物について、実施例1−2と同様に全窒素含有量を測定したところ、0.15ppmであった。
【0043】
実施例3
実施例1−1で得た粗2−フェノキシエタノール(2011.7g)に85%リン酸(和光純薬工業社製、特級試薬、5.2g)を加えて十分に攪拌した後、実施例1−2と同様の条件で精製した。その結果、1603.9gの2−フェノキシエタノールが得られた。得られた目的化合物について、実施例1−2と同様に全窒素含有量を測定したところ、0.24ppmであった。
【0044】
実施例4
実施例1−1で得た粗2−フェノキシエタノール(2007.4g)に85%リン酸(和光純薬工業社製、特級試薬、2.6g)を加えて十分に攪拌した後、実施例1−2と同様の条件で精製した。その結果、1602.1gの2−フェノキシエタノールが得られた。得られた目的化合物について、実施例1−2と同様に全窒素含有量を測定したところ、0.38ppmであった。
【0045】
比較例1
濃度5.6ppmの含窒素化合物を含む粗2−フェノキシエタノール(1542.8g)を、酸性化合物を加えることなく上記実施例1−2と同様の条件で蒸留した。その結果、1073.3gの2−フェノキシエタノールが得られた。得られた目的化合物について、実施例1−2と同様に全窒素含有量を測定したところ、2.0ppmであった。
【0046】
以上の結果の通り、酸性条件で蒸留を行なわなければ目的化合物に混入する含窒素化合物の量を1ppm以下に低減することはできない。しかし酸性条件で蒸留した例では、何れも含窒素化合物の量を全窒素含有量で1ppm以下に低減することができた。従って、本発明方法によれば高品質なアルキレンオキサイド付加化合物が得られることが実証された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
含窒素触媒の存在下、アルキレンオキサイドの開裂反応を行なう工程、および
反応液中に存在する含窒素化合物に対し過剰量の酸性化合物を添加して酸性条件下で蒸留することにより精製する工程、
を含むことを特徴とするアルキレンオキサイド付加化合物の製造方法。
【請求項2】
上記精製により含窒素化合物の残存量を1ppm以下にするものである請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
含窒素触媒として、主鎖または側鎖にアミノ基および/または4級アンモニウム塩構造を有するアニオン交換樹脂を用いる請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
酸性化合物として、リン酸、ポリリン酸、硫酸、ピロリン酸水素ナトリウムまたはポリカルボン酸を用いる1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
カルボン酸化合物またはフェノール化合物を反応させることによりアルキレンオキサイドを開裂させる請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
アルキレンオキサイド付加物が芳香族エーテル類である請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。

【公開番号】特開2007−55954(P2007−55954A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−245040(P2005−245040)
【出願日】平成17年8月25日(2005.8.25)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】