説明

アルキレングリコールの精製方法

【課題】不純物として染料に含有されている窒素化合物を含むアルキレングリコールを精製する方法を提供すること。
【解決手段】染料に含有されている窒素化合物を不純物として含むアルキレングリコールを精製するに際し、該アルキレングリコールをオゾンによる酸化剤を用いた酸化処理操作及び蒸留操作を行うことを特徴とするアルキレングリコールの精製方法により達成できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルキレングリコールの精製方法に関し、更に詳しくは、窒素化合物を不純物として含むアルキレングリコールをオゾン分解による酸化分解と蒸留を組み合わせることにより、高純度のアルキレングリコールを得る方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル、例えばポリエチレンテレフタレートはその優れた特性により繊維、フィルム、樹脂等として広く用いられている。これらの使用済み後の廃棄されたポリエチレンテレフタレート(以下、ポリエステル廃棄物と略記することがある。)を解重合によりアルキレングリコール、テレフタル酸ジメチル(以下、DMTと略記することがある。)、テレフタル酸あるいはその誘導体等のモノマーに分解するケミカルリサイクルに関する種々の提案がある。該ケミカルリサイクルには回収したポリエステル廃棄物とメタノール(以下、MeOHと略記することがある。)とを反応させ、DMTとアルキレングリコールを回収する方法が知られている。ペットボトルの回収は広く浸透し、かなりの割合で回収されているが、繊維製品に関してはペットボトルと同じポリエステルを含む素材でありながらリサイクル率は極めて低く、大部分が焼却処理されたり、埋め立て処分されている。繊維製品を回収する場合、染料やその他の添加物がエチレングリコールを汚染し、高品位の製品が回収できない。特に染料や添加物には窒素を含有する化合物が使用されるケースが多く、そのまま回収したエチレングリコールには窒素化合物がコンタミし、この状態のまま重合工程で得られたエチレングリコールを使用するとポリマー品質が低下し、良質のポリエステルを再生することができない。染料等の着色成分を含んだエチレングリコールの精製については吸着処理、イオン交換処理、晶析処理、蒸留処理又はこれらの組み合わせにより精製処理する取り組みがあるが(例えば特許文献1及び特許文献2参照。)、イオン交換処理ではイオン性の物質しか精製処理の対象とできず、また吸着処理ではアルキレングリコールの吸着剤処理は飽和が早いことは公知の事実であり、再生に大きなコストが必要となることから経済的な方法ではなく、染料等の窒素化合物を含むエチレングリコールの精製については効率的且つ、経済的な精製方法が望まれている。回収されたアルキレングリコールを再利用するに際しては、試薬と同程度まで不純物を除去することが好ましいが、不純物の大部分は蒸留により除去可能であるものの、含まれる不純物の極性、分子量、比揮発度が多岐に渡るために、蒸留だけでは分離できない。
【0003】
【特許文献1】特開2005−330444号公報
【特許文献2】特開2006−232701号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、従来技術が有していた問題点を解決し、染料に含有されている不純物として窒素化合物を含むアルキレングリコールを精製する方法を提供することにある。本発明のさらに他の目的及び利点は、以下の説明から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは鋭意検討を行った結果、染料に含有されている不純物として窒素化合物を含むアルキレングリコールを蒸留する前にオゾンにより酸化分解を行うことにより、上記従来技術の有していた問題点を解消できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明の目的は窒素化合物を含むアルキレングリコールを精製するに際し、該窒素化合物を含むアルキレングリコールに酸化剤を用いた酸化処理操作及び蒸留操作を行うことを特徴とするアルキレングリコールの精製方法を実施することにより達成することができる。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、染料由来の窒素化合物を不純物として含むアルキレングリコールを精製するに際し、該アルキレングリコールをオゾンによる酸化分解と蒸留を組み合わせることにより、高純度のアルキレングリコールを得ることが可能となりその工業的価値は大である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明においては、窒素化合物を不純物として含むアルキレングリコールを精製する際に酸化剤を用いた酸化処理の後、蒸留精製することを特徴とする。酸化剤としてはオゾンを用いる事が好ましい。具体的には、オゾンによる酸化分解を行った後、蒸留を行う方法が挙げられる。また窒素化合物としてはポリエステルの染色用の染料に由来する化合物であることが好ましい。具体的には、アゾベンゼン化合物、又はアミノ基、イミノ基、アミド基、イミド基若しくは尿素基を含むアントラキノン化合物などを挙げる事ができる。
【0008】
オゾンはその強力な酸化作用を利用し、一般的には殺菌、脱臭、脱色、有機物除去、化学物質合成等の用途に使用されている。特に染料を含有する着色排水の脱色方法として以前よりオゾンによる酸化脱色法は一般的に知られている。一例として排水中でのアゾ染料のオゾン酸化機構について説明する。排水中においてヒドラゾン基として存在している染料分子中のアゾ基をオゾンにより酸化処理し、ケトンを経てカルボン酸変換することにより、一方窒素原子は窒素ガスとして分解し、脱色する技術である。一般に染料などで使用される窒素化合物は酸化処理により上記のように化学構造を変化させるものが多いと推定される。本発明の窒素化合物を含むアルキレングリコールを精製するに際し、該窒素化合物を含むアルキレングリコールをオゾンによる酸化分解工程及び蒸留工程を行うことでアルキレングリコールを精製する方法においても、アルキレングリコール中に含まれている窒素化合物がオゾン酸化により上記のような染料の酸化反応が発生し、エチレングリコールを蒸留した際に染料成分が釜残側に濃縮され、市販品と同様に高純度のエチレングリコールが回収されるものと考えられる。
【0009】
以下に、本発明の実施形態を、実施例等を使用して説明する。なお、これらの実施例等及び説明は本発明を例示するものであり、本発明の範囲を制限するものではない。本発明の趣旨に合致する限り他の実施の形態も本発明の範疇に属し得ることは言うまでもない。
【0010】
本発明の精製方法においては、対象とするアルキレングリコールとしては、典型的には、ポリエチレンテレフタレートよりなる繊維や他のポリアルキレンテレフタレートよりなる繊維、それらのポリエチレンテレフタレート、ポリアルキレンテレフタレートの他の成形品、それらの染色された繊維、染色された成形品の廃棄物を解重合反応により得られたアルキレングリコールを例示することができるが、ナイロンや木綿等の他の素材を、混紡等の形で含んでいてもよく、表面改質等の目的のために使用される他のプラスチック成分を含んでいてもよい。
【0011】
本発明の精製方法の説明に先立ち、ケミカルリサイクルによりポリエステル廃棄物からアルキレングリコールを得る方法についてまず説明する。一般的に多量に使用されているポリエチレンテレフタレートの場合について以下詳細に説明する。解重合反応工程においては、まず対象が繊維の場合については染料で着色されている場合が多いので、染着されたポリエステル繊維から染料抽出工程において、染料を抽出・除去する。染料抽出溶剤としては、キシレン抽出溶剤とアルキレングリコール抽出溶剤を組み合わせて使用することができる。抽出溶剤として用いるアルキレングリコールは、回収・蒸留精製の工程を共通化することができること、他の物質とのコンタミネーションを防ぐ観点からポリエステルを構成しているグリコールと同じグリコール化合物を用いる事が好ましい。染料抽出済みポリエステル繊維は、解重合工程において、解重合触媒の存在下、エチレングリコールと一部の解重合反応液を追加投入して解重合反応させて、ビス(ヒドロキシエチル)テレフタレート(BHET)を含む解重合液とする。次いで、解重合して得られた解重合液から蒸留によりエチレングリコールを留去し回収する。なお、この蒸留は減圧下で実施しても良い。次いで濃縮した解重合液をエステル交換反応槽に供給し、さらにメタノールとエステル交換反応触媒としての炭酸ナトリウムを所定量供給することによって、有用成分としてテレフタル酸ジメチルとエチレングリコールとに転換する。上記の操作によって生成したテレフタル酸ジメチルとエチレングリコールとの混合物は、過剰のメタノールと共に冷却し、ついで固液分離装置を用いて、エチレングリコールとメタノールとの混合液及びテレフタル酸ジメチルのケークに分離し、該混合液からメタノールを留去することによってエチレングリコールを含む釜残を得る。さらに蒸留精製することでエチレングリコールを回収することもできる。本発明の方法においては後述の様に蒸留精製前に酸化処理を行うことができる。以上の操作により、ポリエステル廃棄物からアルキレングリコールを回収することができる。
【0012】
次に酸化剤を用いた酸化処理について説明する。この染料成分由来の窒素成分を含有するエチレングリコールを含む釜残をオゾン発生装置を使用してエチレングリコールを含む釜残量75重量部に対してオゾンのフィード量はオゾン濃度5g/Nm以上のオゾンを1重量部から2重量部の範囲でバブリングすることが好ましい。また、本発明の方法においてオゾンとエチレングリコールを含む釜残とを反応させて酸化分解を行う反応装置の形状に特に制限はなく。オゾンとの接触時間を充分に確保できれば問題ないが、概ね30分間から60分間の範囲でオゾンと釜残を接触時間を確保することが好ましい。また、処理温度については特に制限はないが温度が高過ぎるとオゾンの溶解度が下がるため、常温から50℃の範囲が好ましい。上記条件でオゾン酸化処理した後、13.3kPa〜26.7kPaの減圧下、140〜160℃、理論段15段以上の条件で蒸留を行う。あまりに高い温度では該エチレングリコールの脱水反応等の副反応が併発する恐れがあるため、該条件で蒸留を行うことが好ましい。該蒸留操作は回分式、連続式のいずれで行っても良い。回収したエチレングリコールはジエチレングリコール濃度、水分、溶融比色の検査項目において市販品と遜色なく、また、含有する窒素成分も2ppm以下と窒素含有量も検出下限以下となっており、高純度の回収エチレングリコールが得ることができる。
【実施例】
【0013】
以下、実施例により本発明の内容を更に具体的に説明する。なお、実施例中の各数値は以下の方法により求めた。
(窒素含有量)
ポリエステル布帛並びにエチレングリコールを含む釜残、回収エチレングリコールに含まれる窒素含有量は微量全窒素分析装置(三菱化成製TN−110)で測定した。
【0014】
[実施例1]
染着されたポリエステル繊維である、黒色に染色されたポリエチレンテレフタレート布帛(染料抽出前の布帛中の窒素含有量:900ppm)を裁断したもの100gとパラキシレン600gとを2Lのセパラブルフラスコに投入して、温度130℃にて10分間加熱・攪拌することによって染料を抽出する工程を実施した。
抽出終了後、固液分離工程として、アスピレーターによる吸引濾過を行い、染料を含むパラキシレンと染料を抽出した布帛(染料抽出済みポリエステル繊維)とを分離した。
【0015】
その後、染料を抽出除去した布帛と新たなパラキシレン600gとをセパラブルフラスコに投入して、染料の抽出を同条件で実施した。抽出終了後再度固液分離を行い、染料を含むパラキシレンと染料を抽出除去した布帛とを分離した。
【0016】
その後、染料を抽出除去した布帛と新たなエチレングリコール600gとをセパラブルフラスコに投入して、温度170℃にて10分間加熱・攪拌することによって染料を抽出する工程を実施した。この時の加熱により布帛中に含液するパラキシレンの大部分はベント経由で蒸発する。蒸発したパラキシレンは冷却器により回収する。抽出終了後再度固液分離を行い、染料を含むエチレングリコールと染料を抽出除去した布帛とを分離した。
【0017】
その後、解重合反応工程として、この染料抽出済み布帛100gを予め185℃まで加熱しておいたエチレングリコール200g、既に解重合反応を実施した120℃〜180℃へ加熱した解重合反応液200g、解重合触媒としての炭酸カリウム3gの混合物と一緒に解重合反応器に仕込み、常圧で4時間反応させて、ビス−β−ヒドロキシエチルテレフタレート(BHET)を含む解重合液を得た。
【0018】
なお、解重合反応工程の解重合反応後に、目開き350μmの金網ストレーナーにより固形物をろ過除去した。この固形物除去工程では、主に、ポリエステル以外のプラスチックを除去することができた。得られたろ過後の解重合液を塔底温度140〜150℃、圧力13.3kPaの条件でエチレングリコールを100g留去して解重合溶液を濃縮する解重合溶液濃縮工程を実施した。次いで、ろ過され、濃縮された解重合溶液200gに、エステル交換触媒としての炭酸カリウム1.7gとメタノール200gとを添加して、常圧、75〜80℃で1時間、エステル交換反応工程を実施し、エステル交換反応生成混合物を得た。
【0019】
反応終了後、エステル交換反応生成混合物を40℃まで冷却し、遠心分離により粗テレフタル酸ジメチルを主成分とするケークとメタノール、粗エチレングリコールを主成分とするろ液とに固液分離した。次いで粗テレフタル酸ジメチルを圧力6.7kPa、塔底温度180〜200℃にて蒸留精製して高純度テレフタル酸ジメチルを収率85%重量で得た。また、ろ液を常圧下、塔頂温度60〜70℃の条件で蒸留により精製して、最終的に有用成分としてのテレフタル酸ジメチルを、次いでエチレングリコールとメタノールとの混和液からメタノールを留去することによってエチレングリコールを含む釜残を得た。さらに、該エチレングリコールを含む釜残に含まれる窒素含有量は微量全窒素分析装置(三菱化成製TN−110)で測定した結果、11ppmであった。
【0020】
この染料成分由来の窒素成分を11ppm含有するエチレングリコールを含む釜残150gをオゾン発生装置PZ−1A/KOFLOC製を使用して常温でオゾン発生濃度8.4g/Nmで2.0g/Hrの流量で60分間バブリングを実施した。バブリング後のエチレングリコールを含む釜残150gを塔低温度140〜150℃、圧力13.3kPa、理論段数15段の条件で蒸留し、エチレングリコール100gを留去した。回収したエチレングリコールはジエチレングリコール濃度、水分、溶融比色の検査項目において市販品と遜色なく、また、窒素成分も2ppm以下と窒素含有量も検出下限以下となっており、高純度のエチレングリコールが得られた。
【0021】
[実施例2]
実施例1で得たエステル交換反応後の生成混合物から固液分離によりテレフタル酸ジメチルケークを分離し、濾液からメタノールを留去して得たエチレングリコールを含む釜残(窒素含有量11ppm)を用いて実施例2の操作を以下行った。そのエチレングリコールを含む釜残150gを塔低温度140〜150℃、圧力13.3kPa、理論段数15段の条件で蒸留し、エチレングリコール100gを留去した。その後、回収したエチレングリコールをオゾン発生装置PZ−1A/KOFLOC製を使用して常温でオゾン発生濃度8.4g/Nmで2.0g/Hrの流量で60分間バブリングを実施した。回収したエチレングリコールはジエチレングリコール濃度、水分、溶融比色の検査項目において市販品と遜色はなかったが、5ppmの窒素を含有しており、若干の品位の低下が認められた。
【0022】
[比較例1]
実施例1で得たエチレングリコールを含む釜残150gをオゾン発生装置PZ−1A/KOFLOC製を使用して常温でオゾン発生濃度8.4g/Nmで2.0g/Hrの流量で60分間バブリングを実施し、蒸留は行わなかった。バブリング後の釜残窒素農度は11ppmとオゾンバブリング前と変化がなかった。
【0023】
[比較例2]
実施例1で得たエチレングリコールを含む釜残150gをオゾン発生装置PZ−1A/KOFLOC製を使用して常温で2.0g/Hrの流量で60分バブリングを実施し、バブリング後のエチレングリコールを含む釜残を液相用の活性炭にSV=2(20g/Hr)で吸着させたが回収した釜残の窒素濃度は11ppmとオゾンバブリングと活性炭による吸着効果は認められなかった。
【0024】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明により、染料由来の窒素化合物を不純物として含むアルキレングリコールを精製するに際し、該アルキレングリコールをオゾンによる酸化分解と蒸留を組み合わせることにより、高純度のアルキレングリコールを得ることが可能となりその工業的価値は大である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒素化合物を含むアルキレングリコールを精製するに際し、該窒素化合物を含むアルキレングリコールに酸化剤を用いた酸化処理操作及び蒸留操作を行うことを特徴とするアルキレングリコールの精製方法。
【請求項2】
窒素化合物を含むアルキレングリコールが、窒素化合物を含むポリアルキレンテレフタレート廃棄物の解重合反応により得られたものである請求項1記載のアルキレングリコールの精製方法。
【請求項3】
窒素化合物がポリエステル染色用染料に由来するものである請求項1又は2記載のアルキレングリコールの精製方法。
【請求項4】
酸化剤としてオゾンを用いる請求項1〜3のいずれか1項記載のアルキレングリコールの精製方法。

【公開番号】特開2009−120568(P2009−120568A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−298149(P2007−298149)
【出願日】平成19年11月16日(2007.11.16)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】