説明

アルキン類の選択的水素化方法

炭化水素ストリームからのアセチレン化合物の除去方法であって、最初の濃度のアセチレン化合物およびオレフィン類を含有する対象留分を有する炭化水素供給原料を、アセチレン化合物の水素化に好都合な温度、圧力および水素濃度の条件下の蒸留反応ゾーン内の水素および対象留分の沸点より高い沸点を有する溶媒の存在する中で、アセチレン化合物の水素化に対して選択的な触媒と接触させ、該対象留分を、前記最初の濃度より低いアセチレン化合物の第2の濃度を有する塔頂留出液として、溶媒を塔底液として回収する方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不飽和化合物の混合物からのより高度に不飽和な化合物の選択的除去に関する。より詳細には、本発明は、1,3−ブタジエンのようなジエン類との混合物からのアセチレン化合物の選択的水素化に関する。本発明は、他の不飽和化合物と混和しているアセチレン類の選択的水素化の新規な方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
オレフィン類およびジエン類の工業生産用の粗原料ストリームは、不純物として種々の化合物を含んでいる。アセチレン型不純物は、容認できる品質のオレフィンおよびジエン製品を製造するためにこのストリームから除去する必要がある。アセチレン型不純物を除去するための好ましい技術は、しばしば選択的水素化と呼ばれる部分水素化である。オレフィン類およびジエン類の工業生産に対しては、アセチレン化合物の接触水素化(catalytic hydrogenation)が、粗製品ストリーム中のアセチレン型不純物を除去するために利用される。
【0003】
エチレン、プロピレン、ブタジエン、イソプレンなどのオレフィン類を製造するためには、種々の粗混合C〜Cストリーム中のアセチレン、メチルアセチレン、ビニルアセチレン、エチルアセチレン、2−メチル−1−ブテン−3−インなどを、供給ストリーム中のエチレン、プロピレン、ブテン類、ブタジエン、イソプレンなどの有用な材料の損失を最小限にして除去することが必要である。工業の実際における精製のための好ましい技術は、水素化触媒によるアセチレン化合物の選択的水素化である。
【0004】
アセチレン化合物の接触水素化における困難は、その水素化を大過剰のオレフィン類またはジエン類あるいはその両方の存在する中で行わなければならないことに起因する。産業条件のもとで、粗製品ストリーム中の有用なオレフィンおよびジエン製品は不活性ではない。これは、アセチレン化合物の転化が完了に近づいたときに特に当てはまり、その結果有用な製品の損失をもたらす。したがって、アセチレン化合物の選択的水素化の間、オレフィン類およびジエン類の損失を最小限にすることは、エチレン、プロピレン、およびスチレンなどのオレフィン類ならびに1,3−ブタジエンおよびイソプレンなどのジエン類の工業生産にとって非常に望ましい。触媒の選択性は、しばしば、オレフィン類およびジエン類の生産のための触媒を選択する決定要因である。
【0005】
分子中のアセチレン基を水素化することの困難さは、共役またはオレフィン基が存在するかどうかの分子の三重結合の位置による。孤立した末端三重結合は、選択的に水素化するのに最も容易である。二重結合と共役した三重結合は、選択的水素化がはるかに困難である。G.C.ボンド(Bond)らの、J.Catalysis 174,1962は、アセチレン、メチルアセチレン、およびジメチルアセチレンの水素化において、触媒選択性減少の順序は、Pd>Rh>Pt>Ru>Os>lrであることを報告した。L.Kh.フライドリン(Freidlin)らの、Dokl.Akad.Nauk SSSR 152(6),1383,1962は、触媒選択性減少の順序は、末端アセチレンに対してはパラジウムブラック>白金ブラック>ロジウムブラック>ラネーニッケル>ラネーコバルトであり、内部のアセチレンに対してはパラジウムブラック>ラネーニッケル>白金ブラック>ラネーコバルト>ロジウムブラックであることを報告した。
【0006】
硫酸バリウム上のパラジウムは、液相中のビニルアセチレンの水素化においてラネーニッケルよりさらに選択的であることが報告されている(ポール(Paul) N.ライランダー(Rylander)による「Catalytic Hydrogenation over Platinum Metals」,p.75,Academic Press,1967)。ビニルアセチレンが100%転化した時点の製品分析によれば、ラネーニッケル触媒による製品は、硫酸バリウム担持型パラジウムによる製品と比較して、わずか約半分のブタジエン(35%)および23倍のブタン(23%)を含むことを示している。
【0007】
担持型Pd、Ni、Cu、およびCo触媒は、アセチレン類の水素化に有用であることが知られている(Handbook of Commercial Catalysts,pp.105−138、ハワード(Howard) F.レイズ(Rase)、CRC Press,2000)。
【0008】
アセチレン類の選択的水素化の工業的適用において最も好ましい触媒は、アルミナなどの担体上のPd、Pd/Pb、Pd/AgまたはPd/Auなどのパラジウム系触媒およびアルミナなどの担体上の銅触媒である。Pd系触媒は、高い活性および他の金属触媒と比較して選択性が優れていると思われるために最も好ましい触媒である。
【0009】
先行技術は、パラジウム触媒が選択的水素化に対して第VIII族金属中で最も高い選択性を有することを幅広く証明している。ニッケル触媒がパラジウム触媒を超えるより高い選択性を示す技術は見出されていない。実際に、パラジウム触媒は、粗ブタジエンストリームおよび粗Cオレフィンストリーム中のアセチレン型不純物(ビニルアセチレン、エチルアセチレンおよびメチルアセチレン)の選択的水素化に対するすべての現行の工業的方法の選択の対象である。
【0010】
1,3−ブタジエンは、ブタジエン−スチレンコポリマなどの種々のポリマの生産にとって重要な原料である。1,3−ブタジエンを製造する1つの方法は、石油留分の水蒸気分解による種々のオレフィン類の併産である。水蒸気分解炉からの粗混合Cストリームは、選択的に水素化されてCアセチレン化合物を部分的に除去する。その選択的に水素化されたストリームは、1,3−ブタジエン回収装置に送られ、そこで溶媒抽出蒸留を用いて1,3−ブタジエンを混合ストリーム中の残りの成分から分離する。1,3−ブタジエンの高い回収が得られるストリーム中のCアセチレン化合物の完全な除去が、1,3−ブタジエンの製造コストを下げ、ポリマ生産のための高品質の製品を製造するために大いに望まれる。これまで、選択的水素化により粗混合ストリーム中のCアセチレン類を完全に除去することは、1,3−ブタジエンの過剰な水素化による1,3−ブタジエンの容認し難いほどの損失なしでは技術的に不可能であった。それ故、非常に活性で選択的な触媒による改良された安価な方法が、過剰な水素化による1,3−ブタジエンの大きな損失の不利益を払わずに高品質の1,3−ブタジエンを製造するために大いに望まれる。
【0011】
アセチレン化合物の選択的水素化のためのパラジウム系触媒は、非常に活性である。しかしながら、それらの選択性の程度は、過剰な水素化による1,3−ブタジエンの受け入れられない高い損失なしで、Cアセチレン類を完全に除去するほどのものではない。パラジウム系触媒の別の固有の問題は、水素化が液相の存在下で行われる場合に、触媒表面のPd原子のビニルアセチレンとの反応によって可溶性Pd錯化合物が形成されるためにパラジウムが損失および移行することである。銀および金が、パラジウムの損失を最小限にし、アセチレン化合物の触媒重合を減少させるために使用されている。パラジウム系触媒は、米国特許第5,877,363号(1999年)、および欧州特許第0089252号(1983年)に開示されている。米国特許第5,877,363号(1999年)は、担持型PtおよびPd触媒を使用することによる混合オレフィンが豊富なCストリーム中のアセチレン型不純物および1,2−ブタジエンの選択的水素化方法を開示した。
【0012】
銅系触媒は非常に選択的であり、その結果混合ストリームからの1,3−ブタジエンの回収率はパラジウム系触媒より高い。しかしながら、銅触媒はパラジウム系触媒と比較して活性が非常に低いため大量の触媒および大きな反応器を必要とする。銅触媒は急速にコークス化し、触媒の頻繁な再生が必要である。かかる触媒は、米国特許第4,440,956号(1984年)および同第4,493,906号(1985年)に開示されている。
【0013】
担持型工業用Pd(0.2重量%)−Ag(0.1重量%)触媒による粗ブタジエンストリーム中のCおよびCアセチレン化合物の選択的水素化は、水素化温度が上昇すると共に低下することが、H.ウイグル(Uygur)らによる、「Liquid phase selective hydrogenation of methyl acetylene/propadiene(MAPD)in a mixed C stream」(J.Chem.Eng.Japan,31,p.178,1998)の中に記されている。
【0014】
R.S.マン(Mann)ら(Can.J.Chem.46,p.623,1968)によれば、NiおよびNi−Cu合金の触媒は、メチルアセチレンの水素化に効果的である。その触媒活性は、ニッケルに対して銅を合金触媒中最大25重量%まで添加することにより急速に増大する。プロピレンへの選択性および重合の程度は、合金中の銅の増加と共に増大する。
【0015】
H.ガットマン(Gutmann)およびH.リンドラー(Lindlar)(Organic Synthesis,Chapter 6)によれば、ビニルアセチレンおよび2−メチル−1−ブテン−3−インは、通常のパラジウム、ニッケルまたはコバルト触媒を用いて1,3−ブタジエンおよびイソプレンに選択的に水素化するのは困難である。しかし、酢酸水銀で処理した炭酸カルシウム担持型パラジウム触媒は、選択的水素化に対して有用である。
【0016】
ニッケル系触媒は、オレフィン類の混合ストリーム中のアセチレン型不純物の選択的水素化に有効であることが技術的に知られている。どんな形態のニッケル触媒もオレフィン類およびベンゼンの水素化に対して非常に活性であることが十分に記されている。オレフィン類の水素化に対してNi触媒は非常に活性であるため、ジエン類またはオレフィン類の混合物中のアセチレンの選択的水素化は、先行技術において知られるように、予備硫化(presulfided)ニッケル触媒によるかニッケル触媒に対する緩和剤(moderating agent)の存在下で好ましくは行われる。
【0017】
触媒が単独で使用されるか、または他のアセチレン選択性触媒との組合せで使用される非硫化金属ニッケルまたは金属Mo、Re、Biまたは混合物で変性された非硫化金属ニッケルは、2002年8月8日に出願され、それが全内容を本願に援用されている米国特許出願第10/215,096号であり、アセチレン化合物の選択的水素化に非常に有利である。
【0018】
米国特許第4,504,593号は、オレフィン混合物中のアセチレン型炭化水素類およびジオレフィン類をモノオレフィン類に選択的に水素化するために、Pt、Pd、NiおよびCoの群から選択される少なくとも1つの第VIII族金属およびGe、Sn、およびPbの群からの少なくとも1つの金属を含む担持型二元金属触媒(bimetallic catalyst)を使用することを教示している。この触媒は、アルミナのような担体(70m/gおよび0.5cc/gの細孔の全容積)に、0.1から10重量%のNi、好ましくは1から5重量%を含む。この触媒は、2つのステップで調製され、触媒の第2成分(Ge、SnまたはPb)を、第1ステップからのNi触媒に導入する。その選択的水素化は、受け入れ可能な改良された選択性を得るために硫黄および窒素化合物の存在下で好ましくは行われる。しかしながら、この特許は、硫黄を存在させない活性化Ni金属触媒による混合ブタジエンストリーム中のCアセチレン類の選択的水素化は示唆してはいない。
【0019】
米国特許第3,793,388号(1974年)は、アルミナ担持型ニッケル触媒の存在下でのオレフィン混合物中のアセチレンの選択的水素化について開示した。アルミナは、細孔が少なくとも120Åの直径および少なくとも2m/gの表面積を有するものが実質的な部分を有していることを特徴とする。触媒を覆うニッケル含量は、全体のアルミナ表面積の平方メートル当り約0.5から約8mgである。
【0020】
英国特許第1,182,929号(1970年)は、粗ブタジエンストリームなどのオレフィン混合物中のアセチレン型炭化水素の選択的水素化に対する有用な触媒を開示した。この触媒は、担体上に担持されたニッケルで増進された型の銅触媒である。触媒上の銅成分の重量は、Niの重量を超え、担体の重量は、活性金属成分の重量を超える。混合酸化物形態の最終的な触媒は、酸化物の混合物を850℃で焼成することによって調製される。この触媒は、水素を含有するガスで180℃から600℃まで温度を下げることによって活性化される。活性化された触媒上の金属活性成分は、活性金属成分の少なくとも25重量%である。残りの百分率は、それらの酸化物の形態である。この選択的水素化は、100℃から250℃の温度および約1の毎時重量空間速度(WHSV)で行われる。サイクル時間は、約420時間である。
【0021】
米国特許第4,748,290号(1988年)は、アセチレンおよびジオレフィン化合物をモノオレフィン化合物に水素化するためのアルミナ担持型ホウ化ニッケル触媒を開示した。担持されたニッケルのヒ酸塩をホウ化水素化合物と反応させることによってこの触媒を活性化させる。
【0022】
米国特許第4,831,200号(1989年)は、粗ブタジエンストリーム中のアセチレン型不純物を2段階で選択的に水素化するための方法を開示した。粗供給ストリーム中のアセチレン型不純物は、米国特許第4,533,779号に開示されているパラジウム系触媒中で部分的に水素化され、次いで残りの不純物は、上で述べた米国特許第4,493,906号および同第4,440,956号に開示されている銅系触媒中で水素化される。
【0023】
担持型銅触媒およびパラジウム触媒は、オレフィンストリーム中のアセチレン型不純物を選択的に水素化することによる除去においては好ましい触媒であった。しかし銅触媒の活性度は低く、約2000ppmより高い全アルキン類を含有する供給ストリームに対しては、ポリマ状物質の触媒表面への堆積によって引き起こされる速い失活のために触媒のサイクル時間が短くて好ましくない。この水素化は液相中で行うことができるけれども、銅触媒上に堆積するポリマのいくつかは、選択的水素化の条件下では液体製品ストリーム中で溶解性を殆ど有していない。これら2つの理由によって、銅触媒は、比較的高い濃度の全アルキン類を含む混合オレフィン供給原料の選択的水素化に対して改良が必要である。
【0024】
一般に、オレフィンストリーム中のアセチレン化合物の選択的水素化に対して、パラジウム触媒は銅触媒と比較して非常に活性であるが、銅系触媒よりアセチレン類に対して低い選択性を有している。しかし、パラジウム触媒は、ストリーム中の高濃度(>2000ppm)の全アルキン類を除去して約500ppm未満の全アルキン類に、特にアセチレン類を200ppm未満に低減しようとするとき、1,3−ブタジエンのようなジオレフィン類の保持に対して低い選択性を示す。パラジウム触媒の非選択性は、工業的実施においては、1,3−ブタジエンの損失をもたらすので望ましくない。パラジウム触媒のオレフィン選択性を改良するため、銀または金が変性剤として少量パラジウム触媒に添加されている。
【0025】
米国特許第4,533,779号は、アセチレン化合物の選択的水素化のための、アルミナ(1〜100m/g)のような担体に担持されたパラジウム/金触媒を開示した。触媒中のパラジウムおよび金の含量は、それぞれ0.03〜1重量%および0.003〜0.3重量%の範囲内であった。
【0026】
米国特許第4,831,200号は、1,3−ブタジエンとの混合物などのオレフィンストリーム中のアルキン類の選択的水素化方法を開示した。選択的水素化を、2段階で順次実行した。第1段階において、炭化水素供給原料を、少なくとも部分的に液相中で、上で述べた米国特許第4,533,779号に開示されているものなどのパラジウム触媒上を水素と共に通過させた。第2段階においては、第1段階からの生成物ストリームを再度、少なくとも部分的に液相中で、上で述べた米国特許第4,493,906号および同第4,440,956号に開示されているものなどの銅触媒上を水素と共に通過させて、最終生成物ストリーム中に著しく低下したアルキン濃度を生じさせた。
【0027】
【特許文献1】米国特許第5,877,363号明細書
【特許文献2】欧州特許第0089252号明細書
【特許文献3】米国特許第4,440,956号明細書
【特許文献4】米国特許第4,493,906号明細書
【特許文献5】米国特許第4,504,593号明細書
【特許文献6】米国特許第3,793,388号明細書
【特許文献7】英国特許第1,182,929号明細書
【特許文献8】米国特許第4,748,290号明細書
【特許文献9】米国特許第4,831,200号明細書
【特許文献10】米国特許第4,533,779号明細書
【非特許文献1】G.C.ボンド(Bond)ら、J.Catalysis 174,1962
【非特許文献2】L.Kh.フライドリン(Freidlin)ら、Dokl.Akad.Nauk SSSR 152(6),1383,1962
【非特許文献3】ポール(Paul) N.ライランダー(Rylander)、「Catalytic Hydrogenation over Platinum Metals」,p.75,Academic Press,1967
【非特許文献4】ハワード(Howard) F.レイズ(Rase)、Handbook of Commercial Catalysts,pp.105−138、CRC Press,2000
【非特許文献5】H.ウイグル(Uygur)ら、J.Chem.Eng.Japan,31,p.178,1998
【非特許文献6】R.S.マン(Mann)ら、Can.J.Chem.46,p.623,1968
【非特許文献7】H.ガットマン(Gutmann)およびH.リンドラー(Lindlar)、Organic Synthesis,Chapter 6
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0028】
本方法は、与えられた触媒に対する先行方法よりも所望のオレフィン化合物の収量がより高いことに加えて、炭化水素ストリームからのアセチレン化合物の除去に対してより大きな選択性があるという利点を有する。特に本方法は、粗Cストリームからの高純度の1,3−ブタジエンの高い収率を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0029】
簡潔に言えば、本発明は、炭化水素ストリームからのアセチレン化合物の除去方法であって、アセチレン化合物の水素化に好都合な温度と圧力と水素濃度の反応条件および蒸留条件下の蒸留反応ゾーン内で、最初の濃度のアセチレン化合物およびオレフィン類を含有する対象留分を含む炭化水素供給原料を、水素および前記対象留分の沸点より高い沸点を有する溶媒の存在下で、アセチレン化合物類の水素化に対して選択性のある触媒と接触させる工程と、前記最初の濃度より低いアセチレン化合物の第2の濃度を有する前記対象留分を回収する工程とを含む方法である。好ましくは、該溶媒は、アセチレン化合物に対して選択的である。好ましくは、該溶媒は、この方法における炭化水素供給原料に対して向流である。溶媒は、反応器流出液ストリーム(reactor effluent stream)からリサイクルするために回収することができる。
【0030】
一実施形態において、溶媒は、選択的水素化の間のオリゴマ化および重合によって生成した重質成分を、例えば装置の立ち上げの間にリサイクルすることによって系中の本来の場所に(in situ)蓄積することができる。
【0031】
好ましくは、アセチレン化合物の第2の濃度を有する対象留分は、塔頂留出液(overheads)として、溶媒は、塔底液(bottoms)として回収する。蒸留/反応状態におけるアセチレン類に対して選択的である溶媒を使用することにより、アセチレン類をそれより高い沸点の溶媒中に抜取ることが可能となる。この溶媒は、触媒床上の蒸気相中でその溶媒と接触した結果減少したアセチレン含量を有する対象留分を保持するように反応/蒸留塔中の温度および圧力の状態を調節することによって水素化触媒と接触させる重要な材料であり得る。所望の不飽和物質(オレフィン類およびジエン類)の触媒床における水素化にさらすことを制限することによって、これらの物質の付随的な水素化は減少する。
【0032】
本方法は、アセチレン化合物に対して選択的であるいずれの触媒であっても有利に使用されるが、好ましい状態においては、その触媒は上記のような非硫化金属ニッケルを含む。
【0033】
実際には、蒸留塔反応器への供給原料は、蒸気、蒸気と液体の混合物または液体であってよく、その供給原料は、触媒床より低いところか触媒床の低い部分にあるであろう。対象留分は、全体の炭化水素供給原料またはアセチレン類および対応するオレフィン類を含むその一部であり得る。全体の炭化水素供給原料は、ほとんどの場合に対象留分、すなわち、Cカットなどの比較的孤立したカットであると考えられるが、その供給原料は、対応する不飽和成分を有したり有さなかったりすることができるより広い範囲の物質、例えばC〜C炭化水素類を含み得る。より軽質の(CおよびC)物質は、溶媒の範囲で沸騰する物質がその溶媒と共に塔底液として抜け出る間に、例えばC類と共に塔頂留出液として出て行くことができる。
【0034】
本発明で使用される用語「対象留分(target fraction)」とは、水素処理した後、塔頂留出液として回収されようとしている供給原料の炭化水素類の一部を意味することは当然である。
【0035】
溶媒は、触媒床の上方に液体として入り、それが通過するとき蒸留塔反応器の条件下では液体のままである。塔頂ドラムから蒸留塔への還流(外部還流)は無いかごくわずかである。最大100%の塔頂留出液が回収され、したがって本方法は、外部還流の実質的な存在なしで行われる。内部還流が働いて、反応/蒸留の系が維持される。外部還流は、反応/蒸留の系を維持することができる最低限であることが望ましい。
【0036】
水素は、触媒床より下の蒸留塔か、場合によっては触媒反応ゾーンに沿った複数の場所に供給する。
【0037】
先行技術の接触蒸留の状態での選択的水素化の実施においては、還流ドラムから蒸留塔に戻る塔頂生成物ストリームの外部還流が常に存在する。塔頂還流は、触媒の耐用時間を延長するが、還流のために過度な水素化があり、オレフィン類またはジエン類などの有益な生成物の損失がもたらされる。本発明は、過度な水素化による有益な生成物の損失を最小にし、さらに液体の溶媒が触媒の全面を洗浄することで触媒の耐用時間を延長する。
【0038】
本発明の目的に対して、用語「接触蒸留(catalytic distillation)」は、それに適用されている呼び名とは関係なく、反応性蒸留および塔内の誘発反応および分別蒸留、すなわち蒸留塔反応の任意のその他のプロセスを含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
アセチレン化合物は、すべての第VIII族金属および銅触媒によって水素化されてきている。特にアセチレン化合物のオレフィン化合物への触媒部分水素化はそうである。すべての第VIII族金属(Pd、Pt、Rh、IrおよびOs)および非貴金属(Fe、CoおよびNi)、およびCu触媒は、アセチレン化合物およびオレフィン類の水素化に対して活性であることが知られてきた。すべての第VIII族貴金属触媒およびNi触媒は、工業的水素化方法における応用に対して満足な触媒活性を有する。本方法は、上で論じたものを含むその目的のためにこれまでに使用されたすべての先行技術の触媒および運転の好ましい様式としての新たな触媒のもとで有用である。好ましくは、本方法は、上記の触媒が単独で使用されるかまたは他のアセチレン選択性触媒との組合せで使用される非硫化金属ニッケルまたは金属Mo、Re、Biまたは混合物で変性された非硫化金属ニッケルを使用する。
【0040】
溶媒は、炭化水素供給原料の対象留分の沸点によって決定される。その沸点は対象留分より高くなければならない。その溶媒は、アセチレン対オレフィンまたはジエンのヘンリー定数の比率が1未満(KAC/K<1、ただし、K=P/X;PおよびXは、それぞれ液相における成分の分圧およびモル分率である)ということで定義されるジエン類よりアセチレン類に対してより大きい親和性を好ましくは有するであろう。溶媒としては、C〜C10パラフィン系炭化水素、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、およびテトラヒドロフランなどのエーテル類が挙げられる。そのような溶媒の例は、ジエチルエーテル、メチルエチルエーテル、ジメチルエーテル、エチルアミン、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、イソペンタン、ベンゼン、シクロヘキサン、ビニルシクロヘキサン、リーンオイル2、フルフラール、非環式ケトン類またはこれらの2つもしくは3つの混合物である。
【0041】
任意の満足できるリーンオイルを使用することができ、それは不飽和有機化合物を吸収することができる。このオイルは、例えばパラフィン系または芳香族系であり得る。リーンオイルは、例えば、炭素、水素、酸素、窒素、ハロゲン、およびこれらの混合物からなる群から選択される元素を有する化合物で構成することができ、好ましくは基本的にこれらの元素からなる。勿論、リーンオイルは、特に処理過程が一定時間実施された後は不純物を含み得る。リーンオイルとして特に好ましいのは、式CxHyであってxが6から9を含めた数であり、yが6から18を含めた数である式を有する炭化水素類である。リーンオイルとして使用するための適当な化合物としては、メチルシクロヘキサン、2’,4,4−トリメチル−1−ペンテン、3,4,4−トリメチル−1−ペンテン、2,4,4−トリメチル−2−ペンテン、3,3,4−トリメチル−1−ペンテン、2,3,4−トリメチル−1−ペンテン、2,3,3−トリメチル−1−ペンテン、2,5−ジメチルヘキサン、2,4−ジメチルヘキサン、2,2,3−トリメチルペンタン、ベンゼン、トルエン、3,4,4−トリメチル−2−ペンテン、2,3,4−トリメチルペンタン、2,3,3−トリメチルペンタン、2,3,4−トリメチル−2−ペンテン、ブタジエンダイマ、ジイソブチレン、アルキル化プラントから得られるものなどの8個の炭素原子を含有するパラフィン類、アミルアミン、3−クロロペンタン、n−ブチルアミン、ジオキサン−ニトロ−エタン、これらの混合物などが挙げられる。このリーンオイルは、例えば、標準気圧において約170°F(76.7℃)から320°F(160℃)の沸点を有することができる。
【0042】
溶媒は、ケトン類などの補助溶媒と共にフルフラールを含むことができる。乾燥溶媒を基準として好ましくは少なくとも約3重量%、好ましくは最大で約10重量%までのケトンが補助溶媒として使用される。フルフラールは、溶媒の主たる量を構成し、乾燥溶媒の88〜99重量パーセントを一般に構成するであろう。いくつかの適当なC〜Cケトン類は、シクロペンタノン、2−メチルシクロペンタノン、3−メチルシクロペンタノン、シクロヘキサノン、3−メチル−2−ヘキサノン、4−メチル−2−ヘキサノン、4−メチル−3−ヘキサノン、5−メチル−3−ヘキサノン、2−ペプタノン、3−ヘプタノン、4−ヘプタノン、3−エチル−4−メチル−2−ペンタノン、3,3−ジメチル−2−ヘキサノン、3,4−ジメチル−2−ヘキサノン、2,2−ジメチル−3−ヘキサノン、2,5−ジメチル−3’−ヘキサノン、4,4−ジメチル−3−ヘキサノン、2−メチル−4−ヘプタノン、3−オクタノン、4−オクタノンである。フルフラールとの単一の組合せと同様に、種々の適当なケトン類の混合物を、本発明の利点を提供するために使用することができる。ケトン類の好ましい群は、6〜7個の炭素原子を有するものである。2つの好ましいケトンは、シクロヘキサノンと2−ヘプタノンである。
【0043】
触媒は、適切に担持され、接触蒸留構造部材(catalytic distillation structure)として作用するように塔内に間隔をおいて配置されなければならない。本目的のために有用な接触蒸留構造部材は、すべて本願に引用して援用される米国特許第4,215,011号、同第4,439,350号、同第4,443,559号、同第4,731,229号、同第5,057,468号、同第5,073,236号、同第5,189,001号、同第5,262,012号、同第5,266,546号、同第5,348,710号、同第5,431,890号、および同第5,730,843号に開示されている。
【0044】
本発明は、いずれの蒸留におけるときも蒸気相および幾分かの液相を含有しているものと認めることができる接触蒸留構造部材の1つまたは複数の反応蒸留ゾーンを含んでいる塔内で水素化を行う。この蒸留塔反応は、反応混合物(溶媒および抽出されたアセチレン類を含む)を触媒床において沸騰が続くような(蒸留状態)圧力で運転される。
【0045】
オレフィン飽和のための本方法は、0と350ゲージpsi(24.1MPa)、好ましくは250(17.2MPa)以下、適切には35〜120ゲージpsi(2.4〜8.3MPa)の間の前記蒸留塔反応器の塔頂圧と、150〜230°F(65.6〜110℃)、好ましくは175〜200°F(79.4〜93.3℃)、例えば175〜180°F(79.4〜82.2℃)の範囲の前記蒸留反応塔底ゾーン中の温度において、必要な水素の分圧は、0.1から100psi(690Pa〜6.9MPa)未満の範囲で運転する。供給原料の毎時重量空間速度(WHSV:weight hourly space velocity)は、本明細書では、当然、接触蒸留構造部材中の触媒の単位重量当り反応蒸留塔に入る1時間当りの供給原料の単位重量を意味し、他の条件パラメータの範囲内で、非常に広い範囲、例えば0.1〜35hr−1にわたって変動し得る。
【0046】
現下の方法においては、温度は、反応混合物の部分的な蒸発を可能にする所定の圧力で反応器を運転することによって制御される。反応の発熱は、かくして、混合物の蒸発の潜熱によって消散される。蒸発した部分(アセチレン含量の減少した対象留分)は、ほとんど無いまたは無い外部還流を用いて塔頂留出液として獲得する。下方に流れる液体は、いずれの蒸留においても普通であるように反応器内でのさらなる凝縮を引き起こす。塔内の凝縮液の接触によって反応液中の水素の溶解に対する優れた物質移動および反応混合物の触媒部位への同時移動が提供される。運転のこの凝縮形態により、本方法の優れた転化率および選択性がもたらされ、言及した低めの水素分圧および反応器温度が可能となるものと考えられる。この反応が接触蒸留から得ることができるさらなる利点は、内部還流(L/D=触媒床直下の液体重量/蒸留液重量比)が触媒に提供する洗浄効果であって、それによってポリマの堆積およびコークス化が低減される。
【0047】
接触蒸留の成功は、蒸留と関係する本質を理解することにある。第1に、反応は蒸留と同時に起こっているため、最初の反応生成物(アセチレン類の水素化物)は、反応ゾーンからそれが形成されるや否や除去される。生成物のその除去は、アセチレン類の水素化によって生じたいずれのオレフィン類およびジオレフィン類のオリゴマ化も最小限にする。第2に、反応混合物は沸騰しているため、反応の温度は、系の圧力における混合物の沸点によって制御される。反応の熱は、沸騰をより盛んにするのみで温度の上昇は引き起こさない。第3に、反応生成物が除去されており、逆反応に寄与し得ないためにこの反応は増大した推進力を有する(ルシャトリエの原理)。
【0048】
結果として、反応の速度および生成物の分配についての多大な調整が、系の圧力を調節することにより達成することができる。また、処理量(滞留時間=液体の1時間当りの空間速度)の調節によりさらなる制御がもたらされる。反応器中の温度は、任意の所定の圧力で存在する液体混合物の沸点によって決定される。塔の低い部分における温度は、塔のその部分における物質の構成を反映して塔頂より高いであろう。すなわち、一定圧力での系の温度の変化は塔内の組成の変化を示す。温度を変化させるには圧力を変化させる。反応ゾーンにおける温度制御は、したがって、圧力によって制御され、圧力を増すことによって系の温度は上昇し、逆の場合も同じである。接触蒸留においても、任意の蒸留におけるように、液相(内部還流)および蒸気相の両方が存在することもまた当然であり得る。したがって、反応原系(reactant)は、部分的に液相の状態であって反応のための分子のより濃密な濃度を可能にし、一方で、同時に起こる分留により生成物と未反応物質とを分離して、液相系(および蒸気相系)の利点を提供し、同時に、反応系成分の平衡への転化率を抑える触媒と持続的に接触した状態の反応系の全ての成分を有することの損害を避ける。
【0049】
また、蒸留反応においては、圧力の調節によって物質の任意の留分の場所を塔内の所望の場所に設置することができる。したがって、本方法においては、対象留分は、下方に流れる溶媒と接触した後急速に沸騰して塔の上方に行き、一方アセチレン類を含有するそれより沸点の高い溶媒は、水素化のために触媒床内に保持することができる。
【0050】
水蒸気分解した粗ブタジエンストリームの組成の一例は、70重量%の1,3−ブタジエン、10,000重量ppmのビニルアセチレン、2000重量ppmのエチルアセチレンおよび2000重量ppmのメチルアセチレンを含む。先行技術系の多くにおいて、このストリーム中のビニルアセチレンは、選択的に水素化されて約200重量ppmのビニルアセチレンとなり、望ましくない水素化による1,3−ブタジエンの損失は既に十分に高い。それ故、完了に向けたビニルアセチレンのさらなる水素化は、1,3−ブタジエンの損失によって引き起こされる耐え難い経済的な不利益のために容認できなくなる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化水素ストリームからのアセチレン化合物の除去方法であって、
アセチレン化合物の水素化に好都合な温度と圧力と水素濃度の反応条件および蒸留条件下の蒸留反応ゾーン内で、最初の濃度のアセチレン化合物およびオレフィン類を含有する対象留分を含む炭化水素供給原料を、水素および前記対象留分の沸点より高い沸点を有する溶媒の存在下で、アセチレン化合物の水素化に対して選択性のある触媒と接触させる工程と、
前記最初の濃度より低いアセチレン化合物の第2の濃度を有する前記対象留分を回収する工程と、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、前記溶媒がアセチレン化合物に対して選択的であることを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法であって、アセチレン化合物の第2の濃度を有する前記対象留分を塔頂留出液として回収することを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法であって、前記溶媒を塔底液として回収することを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項2に記載の方法であって、アセチレン化合物の第2の濃度を有する前記対象留分を塔頂留出液として回収し、前記溶媒を塔底液として回収することを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項1に記載の方法であって、前記炭化水素供給原料が液体であることを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項1に記載の方法であって、前記炭化水素供給原料が蒸気であることを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項1に記載の方法であって、前記炭化水素供給原料が混合された液体と蒸気であることを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項1に記載の方法であって、前記溶媒が、向流の前記炭化水素供給原料と接触することを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項9に記載の方法であって、前記溶媒がダウンフローであることを特徴とする方法。
【請求項11】
請求項1に記載の方法であって、反応/蒸留としての系を維持するためにできるだけ低い内部還流を有することを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項1に記載の方法であって、前記溶媒が前記方法において液体のままであることを特徴とする方法。
【請求項13】
請求項1に記載の方法であって、前記溶媒が、選択的水素化の間のオリゴマ化および重合によって生成した重質成分をリサイクルすることによって系中の本来の場所に蓄積されることを特徴とする方法。

【公表番号】特表2008−526847(P2008−526847A)
【公表日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−550353(P2007−550353)
【出願日】平成17年8月9日(2005.8.9)
【国際出願番号】PCT/US2005/028099
【国際公開番号】WO2006/073507
【国際公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【出願人】(599003073)キャタリティック・ディスティレイション・テクノロジーズ (28)
【Fターム(参考)】