説明

アルギニンケイ酸塩イノシトール複合体およびその使用

種々の疾患状態および障害を予防および処置する方法であって、医学的治療を受けている個体または医学的治療を受けていない個体に、アルギニンケイ酸塩イノシトール複合体を投与することを含む方法を提供する。前記疾患状態および障害の例には、骨と軟骨の障害、および心血管疾患、ならびにこれらすべての疾患の感染および炎症を含む微小血管合併症および大血管合併症、またはそれらの組合せが含まれる。1日あたりのアルギニンケイ酸塩イノシトール複合体の投与量は、約2mg/kg体重〜2,500mg/kg体重とするか、正常な代謝機能および健康状態が観察されるように低用量から高用量へと変化させると有利であり、送達は、固体もしくは液体またはその両方により、非経口経路、経口経路または静脈内経路で行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアルギニンケイ酸塩イノシトール複合体ならびに様々な疾患状態および障害の予防および処置におけるその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
最近まで、感染性疾患は、米国および他の先進国における公衆衛生および公共の福祉にとって最大の脅威であった。しかし、最新のワクチンおよび抗生物質の出現と、長寿の増加、食習慣の変化および身体活動の欠如とにより、健康に対する脅威としては変性疾患の重要性が高くなっている。そのような慢性疾患の例には、骨粗鬆症、関節炎、II型糖尿病および心血管疾患などがある。これらの障害の多くでその発症に共通する因子は「代謝症候群」または「X症候群」である。これは耐糖能異常とインスリン抵抗性の増加を特徴とし、高インスリン血症、肥満、異脂肪血症、高血圧、ホルモン機能および免疫機能の障害、ならびにアテローム性動脈硬化症をもたらす。
【0003】
これらの障害を予防し、しばしば処置するための手段は、通常、生活様式と食事の変更から始まる。しかし、処方される養生法の一部は要求が厳しいこともあって、これらの介入の成功度は様々である。このことと、肥満の発生率が全ての年齢群で増加していることに照らして、これらの障害を予防および処置するための薬物および栄養補助剤を見いだすことを目的とする薬剤および栄養補助剤の研究には、大いなる関心が持たれている。
【0004】
そのような障害の一例はアテローム性動脈硬化症である。これは、動脈壁に脂質、コラーゲン、弾性線維およびプロテオグリカンが徐々に蓄積する複雑な慢性疾患である。アテローム性動脈硬化症の現在の管理方法には、低脂肪食、運動および様々なコレステロール低下薬が含まれる。これらの方法はアテローム性動脈硬化症の進行を有意に遅延させることができるものの、全く申し分がないというわけでもない。
【0005】
血管内皮が産生するヘパリン硫酸プロテオグリカン(HSPG)は、アテローム生成過程で中心的な役割を果たす血管平滑筋細胞の移動、増殖および表現型移行を遅延させると考えられており、また、アンチトロンビンIIIを結合して活性化することにより抗凝固的な管腔表面を維持すると考えられている(Clowesら,Nature,265:625-626,1977;Guytonら,Circ.Res.,46:625-634,1980;Edelmanら,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,87:3773-3777,1990)。
【0006】
経口投与または非経口投与された種々のケイ素化合物は、ウサギにおけるコレステロール誘発性内膜肥厚(アテローム性動脈硬化症)を阻害することが実証されている(Loeperら,Athersclerosis,33:397-408,1979;「Biochemistry of Silicon and Related Problems」(Plenum Press,ニューヨーク,1978)の281〜296頁、Loeperらの項;Garsonら,J.Pharm.Sci.,60:1113-1127,1971)。栄養的に有効なケイ素化合物(すなわちモノメチルトリシラノール、リジンケイ酸塩、ケイ酸ナトリウム)を注射または摂取したところ、アテローム性動脈硬化症にみられる特徴的な内膜肥厚および動脈弾性線維の断片化が予防された。また、ケイ素の食事摂取量の増加はヒトにおける冠動脈性心疾患の危険にさらされているの低下と関係することが、いくつかの疫学的研究によって報告されている(Schwarzら,Lancet,i:454-457,1977;Schwarzら,Lancet,i:538-539,1977;Bassler,Brit.Med.J.,1:919,1978;Parr,Lancet,i:1087,1980)。
【0007】
ケイ素摂取量が骨と関節の健康にも影響を及ぼしうることを示唆する証拠がある。重度の食事性ケイ素欠乏症は骨と関節の構造異常をもたらすことが、成長途中の幼若ラットおよび幼若ニワトリを使った研究で示されており、これはコラーゲンとムコ多糖の産生量が正常以下になることが原因であるらしい(Carlisle,J.Nutr. 106:478-484,1976;Carlisle,J.Nutr. 110:1046-1055,1980)。ケイ素はインビトロでコラーゲンとムコ多糖の合成を促進する(Carlisleら,Fed.Proc. 37:404,1978;Carlisleら,Fed.Proc. 39:787,1980)。ケイ素がどのような生化学的方法でこの効果を実現しているのかは、まだわかっていない。ケイ素は骨塩密度を高めることが示されている。有機ケイ素化合物(モノメチルトリシラノール)を閉経後女性に毎週2回50mgの用量で注射により投与したところ、大腿骨密度が、14ヶ月の投与で平均4.7%、有意に増加した(Eisingerら,Magnesium Res. 6:247-249,1993)。卵巣切除ラットでは、経口オルトケイ酸によって骨代謝回転が遅くなり、骨形成速度が増加した(Hottら,Calcif.Tissue Int. 53:174-179,1993)。
【0008】
骨と軟骨は幼若動物でも成体動物でも動的組織である。骨では、破骨細胞がヒドロキシアパタイト骨基質を可溶化し、コラーゲンを分解する一方で、それと並行して、骨芽細胞がコラーゲン合成およびヒドロキシアパタイト沈着によって骨を再建している。同様に、軟骨の軟骨細胞は、コラーゲンおよびプロテオグリカン基質を分解すると同時に、それを再合成している。成体動物における骨形成および軟骨形成にケイ素が及ぼす影響は本質的にはまだわかっていない。しかし、骨代謝および軟骨代謝におけるケイ素の役割が幼若動物に限定されているとは、到底思えない。
【0009】
ケイ素の栄養学的役割は、ムコ多糖、プロテオグリカンおよびコラーゲンの十分な合成を支援することである(Schwarzら,Nature,239:333-334,1972;Carlisle,Science,178:619-621,1972;Carlisle,J.Nutr.,106:478-484,1976;「Biochemistry of Silicon and Related Problems」(Plenum Press,ニューヨーク,1978)の207〜230頁、Schwarzの項)。最適なケイ素栄養摂取は内皮細胞による保護的HSPGの産生を促進しうる。
【0010】
必須アミノ酸アルギニンは、血管内皮が産生する一酸化窒素(NO)の生合成前駆体である(Moncada,New Engl.J.Med.,329:2002-2012,1993)。NOは血管拡張作用、抗アテローム性動脈硬化作用、抗血栓作用および抗酸化作用を発揮し、NOの内皮産生量の不足はアテローム性動脈硬化症、高血圧および糖尿病において病理発生上顕著な役割を果たしうる(Calverら,J.Hypertension,10:1025-1031,1992;Cookeら,Arterioscler.Thromb.,14:653-655,1994;「Cardiovascular Significance of Endothelium-Derived Vasoactive Factors」(Futura Publishing Co,Inc.,ニューヨーク,1991)のxi-xix頁,Rubanyiの項;Bonnefont-Rousselot,Curr.Opin.Clin.Nutr.Metab.Care,5:561-568,2002;McPhersonら,Biochem.Biophys.Res.Comm.,296:413,2002)。全ての臨床試験でというわけではないが、一部の臨床試験では、アルギニンの非経口投与または経口投与により、血管NO合成が増進される(Drexlerら,Lancet,338:1546-1550,1991)。高血圧の動物モデルでは、アルギニン補給により、血圧の増加が緩和されている(Chenら,J.Clin.Invest.,88:1559-1567,1991;Laurantら,Clin.Exp.Hyperten.,17:1009-1024,1995)。したがってアルギニンの利用可能性は、少なくとも一部の状況では、NO産生にとって律速になりうる。最近公表された臨床試験は、高コレステロール血症を持つ若年者における内皮依存性弛緩が経口アルギニンによって増進されうることを示しているが(Creagerら,J.Clin.Invest.,90:1248-1253,1992;Clarksonら,J.Clin.Invest.,97:1989-1994,1996)、これは血管NO産生効率の向上を表している。
【0011】
女性を冒す多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)、別名スタイン・レーベンタール症候群と呼ばれる状態も、代謝症候群に関係している。この症候群は女性の5〜10%を冒すと見積もられている。この状態は、1)月経不順または無月経、2)卵巣上の多数の嚢胞、3)高血圧、4)ざ瘡、5)インスリンレベルの上昇、インスリン抵抗性、またはII型糖尿病、6)不妊、7)顔面または身体の多毛、8)男性型禿頭症、9)腹部肥満、および10)脂質プロフィール異常を特徴とする。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
PCOSの特徴は肥満、インスリン抵抗性、脂質プロフィール異常、過剰な毛髪成長、無排卵および不妊である。インスリン感受性増強剤(「グリタゾン剤」)を使った研究では、これらの特徴に関して、この患者群に対する有益な効果がいくつか実証されている。最近、グリタゾン剤は、肝毒性の頻度が高いことから、その安全性が問題にされている。
【0013】
心血管疾患および心血管障害の進行を予防または減速し、骨および軟骨の形成を促進し、糖尿病を含む代謝症候群に関係する疾患および障害を予防および処置することができる治療剤/予防剤は、常に必要とされている。本発明はこの必要性に対処するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本願発明は、疾患状態および障害の生化学的マーカーを改善する方法および/またはその疾患状態または障害を処置もしくは予防する方法に関する。本方法には、アルギニンケイ酸塩イノシトール複合体を含有する組成物の有効量を、対象に投与することが含まれる。
【0015】
本発明は、その必要がある個体において、骨障害または軟骨障害に関係する症状を改善する方法であって、その個体に有効量のアルギニンケイ酸塩イノシトール複合体を投与することを含む方法を提供する。本発明の一側面では、骨障害が骨粗鬆症、骨形成不全症、または骨折である。本発明のもう一つの側面では、軟骨障害が変形性関節症、炎症性関節炎、腱断裂または靱帯断裂である。本発明のもう一つの側面では、骨および軟骨の疾患または障害が、例えば糖尿病、心血管疾患、肥満などの慢性疾患に関係する。投与は、好ましくは、非経口投与または経口投与である。有効量は約2mg〜約2,500mgであると有利である。有効量は、約500mg〜約1,000mgであれば、さらに有利である。平均的な70kgの男性の場合、これは、それぞれ約3.6〜14mg/kg(250〜2,500mg)および約7.1mg/kg〜14mg/kg(500mg〜1,000mg)の投与量に相当する。
【0016】
本発明は、個体、好ましくは哺乳動物におけるI型コラーゲンのレベルを増加させる方法であって、その個体に有効量のアルギニン-ケイ酸塩-イノシトール複合体を投与するステップを含む方法も提供する。この投与ステップは、好ましくは、非経口投与または経口投与である。有効量は約250mg〜約2,500mgであると有利である。また、有効量は、約500mg〜約1,000mgであれば、さらに有利である。
【0017】
本発明のさらにもう一つの側面は、個体、好ましくは哺乳動物における骨長を増加させる方法であって、その個体に有効量のアルギニン-ケイ酸塩-イノシトール複合体を投与するステップを含む方法である。この投与ステップは、好ましくは、非経口投与または経口投与である。
【0018】
本発明は、感染および感染症を改善および軽減し、個体、好ましくは哺乳動物における心血管疾患ならびに骨および関節の健康に関わる疾患または障害に関係する炎症マーカーと、心血管疾患、骨および関節の健康に関わる障害ならびにそれらに付随する合併症に関係する感染とを減少させる方法であって、その個体に有効量のアルギニン-ケイ酸塩-イノシトール複合体を投与するステップを含む方法も提供する。この投与ステップは、好ましくは、非経口投与または経口投与である。有効量は約2mg〜約2,500mgであると有利である。
【0019】
本発明は、脳、心臓、肺、肝臓、腎臓、皮膚および胃腸管の炎症性疾患および感染による損傷の危険にさらされているを軽減する方法も提供する。そのような炎症性疾患および感染には、細菌性、真菌性およびウイルス性疾患、例えば嚢虫症、細菌性髄膜炎、結核、サルコイドーシス、髄膜炎の合併症、単純疱疹ウイルス感染、ライム病、先天性感染、トキソプラズマ症、サイトメガロウイルス(CMV)感染、風疹、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染、後天性免疫不全症候群(AIDS)関連感染、脳炎(感染後脳炎およびHIVまたはCMVが引き起こす脳炎を含む)、クリプトコッカス病および進行性多巣性白質脳症(PML)などが含まれる。処置可能な他の障害には、例えば関節炎、炎症性皮膚状態、移植関連疾患、炎症性腸疾患、癌、アレルギー、心血管疾患、関節リウマチ、喘息、慢性閉塞性肺疾患および内分泌系関連疾患などがあるが、これらに限るわけではない。
【0020】
炎症は、傷害、感染、または免疫系が異物と認識した分子に対する身体の応答の一部である。臨床的には炎症は、痛み、発赤、発熱、腫脹、および患部組織の機能の変化を特徴とする。炎症応答を開始する能力は生存にとって不可欠であるが、炎症を制御する能力も健康にとっては必要である。そのような制御がなければ、過剰な炎症または無制御な炎症が、例えば以下に挙げるようなおびただしい疾患をもたらす:非常によく見られるアレルギー状態、例えばアレルギー性鼻炎/副鼻腔炎、皮膚アレルギー(じんま疹/膨疹、血管性浮腫、アトピー性皮膚炎)、食物アレルギー、薬物アレルギー、昆虫アレルギー、および肥満細胞症などの稀なアレルギー障害;喘息;関節炎、例えば変形性関節炎、関節リウマチ、および脊椎関節症など;自己免疫状態、例えば全身性エリテマトーデス、皮膚筋炎、多発性筋炎、炎症性末梢神経障害(ギラン・バレー、炎症性多発ニューロパシー)、血管炎(ウェゲナー肉芽腫症、結節性多発動脈炎)、ならびにリウマチ性多発筋痛、側頭動脈炎、シェーグレン症候群、ベーチェット病、チャウグ・シュトラウス症候群および高安関節炎(Takayasu's arthritis)などの稀な障害。
【0021】
本発明は、架橋N-テロペプチド(NTx)を減少させ、関節炎および骨粗鬆症の炎症マーカーを低下させ、骨形成のマーカー(血清オステオカルシン、アルカリホスファターゼ)および骨吸収マーカー(ヒドロキシプロリン;総、ペプチド結合型および遊離型ピリジニウム架橋体)を改善する方法であって、個体に有効量のアルギニン-ケイ酸塩-イノシトール複合体を投与するステップを含む方法も提供する。この投与ステップは、好ましくは、非経口投与または経口投与または静脈内投与である。有効量は約2mg〜約2,500mgであると有利である。
【0022】
本発明は、何らかの慢性疾患、好ましくは正常な骨および軟骨の機能に影響を及ぼす疾患が存在する状態または存在しない状態で、骨および軟骨の疾患または障害を予防する方法であって、個体に有効量のアルギニン-ケイ酸塩-イノシトール複合体を投与するステップを含む方法も提供する。この投与ステップは、好ましくは、非経口投与または経口投与または静脈内投与である。有効量は約2mg〜約2,500mgであると有利である。
【0023】
本発明のもう一つの側面は、個体、好ましくは哺乳動物における骨長を増加させる方法であって、その個体に有効量のアルギニン-ケイ酸塩-イノシトール複合体を投与するステップを含む方法である。この投与ステップは、好ましくは、非経口投与、経口投与または静脈内投与である。本発明のもう一つの側面は、骨量減少を予防し、骨塩含量を改善し、健康な骨および軟骨を維持する方法であって、個体に有効量のアルギニン-ケイ酸塩-イノシトール複合体を投与するステップを含む方法である。この投与ステップは、好ましくは、非経口投与、経口投与または静脈内投与である。有効量は約2mg〜約2,500mgであると有利である。
【0024】
本発明のもう一つの側面は、機械的負荷の減少による骨の脆弱化を処置する方法であって、当該個体に有効量のアルギニン-ケイ酸塩-イノシトール複合体を投与するステップを含む方法である。機械的負荷の減少の原因は、好ましくは、無重力への曝露または個体における固定処置である。本発明の一側面では、機械的負荷の減少による骨の脆弱化を処置するためのアルギニンケイ酸塩イノシトール複合体の投与は、予防的に行われる。この投与ステップは非経口投与または経口投与であると有利である。本発明のもう一つの側面は、骨折、軟骨傷害、骨の脆性を処置し、骨および軟骨の構造的完全性を維持する方法であって、当該個体に有効量のアルギニン-ケイ酸塩イノシトール複合体を投与するステップを含む方法である。
【0025】
本発明のさらにもう一つの側面は、個体(好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒト)における冠血管疾患および冠血管疾患に続発する疾患を処置する方法であって、その個体に有効量のアルギニン-ケイ酸塩-イノシトール複合体を投与するステップを含む方法である。本発明のもう一つの側面は、個体、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒトの冠血管の健康状態を改善する方法であって、その個体に有効量のアルギニン-ケイ酸塩-イノシトール複合体を投与するステップを含む方法である。本発明のもう一つの側面は、正常な心血管機能を回復し、心血管の完全性を維持し、虚血性変化を予防し、心筋梗塞を予防し、血管弛緩を改善し、血管収縮性を軽減し、血管機能を正常化する方法であって、当該個体に有効量のアルギニン-ケイ酸塩-イノシトール複合体を投与するステップを含む方法である。心血管疾患、合併症および付随する疾患の既存の状態を処置する方法ならびに代謝症候群を処置する方法であって、その個体に有効量のアルギニン-ケイ酸塩-イノシトール複合体を投与するステップを含む方法も、本発明の側面である。
【0026】
もう一つの側面は、冠血管疾患に続発する疾患、好ましくは腎硬化症、肝脂質濃度異常、微小血管合併症または大血管合併症を処置する方法であって、個体に有効量のアルギニン-ケイ酸塩-イノシトール複合体を投与するステップを含む方法である。
【0027】
本発明のもう一つの態様は、個体、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒトにおけるエストロゲンレベルを増加させ、ホルモン失調を予防し、正常なホルモン機能を維持する方法であって、その個体に有効量のアルギニン-ケイ酸塩-イノシトール複合体を投与するステップを含む方法である。
【0028】
本発明のもう一つの態様は、個体、好ましくは哺乳動物においてホルモン失調が引き起こす障害を処置し、ホルモンレベルの恒常性および正常な代謝機能を回復する方法であって、その個体に有効量のアルギニン-ケイ酸塩-イノシトール複合体を投与するステップを含む方法である。
【0029】
本発明のさらにもう一つの態様は、個体、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒトにおける一酸化窒素産生量を増加させる方法であって、その個体に有効量のアルギニン-ケイ酸塩-イノシトール複合体を投与するステップを含む方法である。いくつかの態様では、この複合体は、迅速放出型アルギニン-ケイ酸塩-イノシトール複合体または持続的放出型アルギニンケイ酸塩イノシトール複合体および/または緩慢放出型アルギニンケイ酸塩イノシトール複合体である。
【0030】
本発明のさらにもう一つの態様は、骨および関節の健康に関わる疾患または障害ならびに心血管疾患、関連障害および合併症の一因となる危険にさらされている因子を調整するアルギニンケイ酸塩イノシトール複合体を制御放出する方法である。いくつかの態様では、アルギニン-ケイ酸塩-イノシトールの制御放出が、骨および関節の疾患および障害を処置するための医薬品または心血管疾患、関連障害および合併症を処置するための医薬品と組み合わされる。いくつかの態様では、アルギニン-ケイ酸塩-イノシトールの制御放出が、骨、関節および/または心血管の疾患、障害または合併症の危険にさらされているを低下させる薬剤と組み合わされる。
【0031】
本発明のさらにもう一つの態様は、個体、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒトにおいて、一酸化窒素レベルの低下によって起こる障害または一酸化窒素レベルの低下によって悪化する障害、好ましくは肺高血圧症、腎臓疾患、アテローム性動脈硬化症、冠動脈性心疾患、心筋梗塞、虚血、脳卒中、高血圧、糖尿病、高コレステロール血症、高血糖症、心不全、ファブリー病、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、炎症性腸疾患、クローン病、潰瘍性大腸炎、周産期仮死、胎便吸引症候群、B群溶連菌敗血症、先天性横隔膜ヘルニア、虚血性心疾患、高ホモシステイン病、多発性硬化症、高安関節炎、常染色体優性多発性嚢胞腎、末期腎不全、癌、肝臓疾患を一酸化窒素の濃度を増加させることによって処置する方法であって、その個体に有効量のアルギニン-ケイ酸塩-イノシトール複合体を投与するステップを含む方法である。
【0032】
本発明のもう一つの側面では、個体、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒトから採取される臨床試料中の骨吸収マーカーの濃度を低下させる方法であって、その個体に有効量のアルギニン-ケイ酸塩-イノシトール複合体を投与するステップを含む方法が提供される。骨吸収マーカーは、C-テロペプチドおよびN-テロペプチドを含むピリジノリン架橋ペプチド、N-テロペプチド架橋体(NTx)、C-テロペプチド架橋体(CTx)およびピリジノリン架橋カルボキシ末端ペプチド(ICTP)、総ペプチド結合型および遊離型ピリジノリン、ヒドロキシプロリン、デオキシピリジノリン、酒石酸耐性酸性ホスファターゼまたは骨シアロタンパク質であることができる。
【0033】
本発明のさらにもう一つの側面では、個体、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒトから採取される臨床試料中の骨形成マーカーの濃度を増加させる方法であって、その個体に有効量のアルギニン-ケイ酸塩-イノシトール複合体を投与するステップを含む方法が提供される。骨形成マーカーは、オステオカルシン、アルカリホスファターゼまたはI型プロコラーゲンC-/N-延長ペプチド(PICP、PINP)であることができる。
【0034】
本発明のもう一つの側面は、個体、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒトにおける心血管の不健康状態のマーカー、好ましくは尿中アルブミン濃度または血管収縮性を低下させる方法であって、その個体に有効量のアルギニン-ケイ酸塩-イノシトール複合体を投与するステップを含む方法である。本発明のさらなる側面には、個体、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒトにおいて、ブラジキニン応答、冠血流量を改善し、血管の健康状態を改善し、アテローム斑を減少させる方法であって、その個体に有効量のアルギニン-ケイ酸塩-イノシトール複合体を投与するステップを含む方法が包含される。
【0035】
本発明のさらにもう一つの側面は、個体、好ましくは哺乳動物における心血管の良好な健康状態のマーカー、好ましくは血管弛緩を改善する方法であって、その個体に有効量のアルギニン-ケイ酸塩-イノシトール複合体を投与するステップを含む方法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
本発明では、アルギニン、ケイ酸塩およびイノシトールを混合することによって製造されるアルギニンケイ酸塩イノシトール複合体を、多種多様な障害および疾患状態の予防および処置に使用する方法を記述する。本明細書に記載する生成物はアルギニン、ケイ酸塩およびイノシトールを含有するが、本明細書ではこれを「アルギニンケイ酸塩」という場合もある。
【0037】
アルギニンケイ酸塩イノシトールは、実施例1で説明するように、アルギニン(遊離塩基)、ケイ酸カリウムおよびイノシトールを反応させることによって合成される。得られた複合体は完全に可溶性であり、改善された栄養有効性を持つであろう生物学的に利用可能な形態のケイ酸塩になる。ケイ酸塩は典型的には水溶液には不溶である。しかし、アルギニンケイ酸塩含有複合体の合成にイノシトールを使用すると、その複合体は水溶液に溶解するようになる。これに対して、イノシトールの不在下で合成されたアルギニンケイ酸塩は水溶液には不溶である。したがって、この予想外のイノシトールの可溶化効果は、生物学的に利用可能なアルギニンおよびケイ酸塩の供給源としての複合体の使用に役立つ。イノシトールは、アルギニンとケイ酸の間の水素結合を増加させることによって、アルギニンケイ酸塩の可溶化を容易にする。例えばマンニトールやソルビトールなどの他のポリヒドロキシ化合物を使用することもできるが、イノシトールが好ましい。ケイ酸塩の生物学的利用能は実施例3で説明するように確認した。好ましい一態様では、アルギニン対ケイ酸塩の混合モル比が約1:1であり、イノシトールに対するアルギニンおよびケイ酸塩のモル比が約1:3である。ケイ酸カリウムを反応物として使用したが、ケイ酸ナトリウムおよびケイ酸マグネシウムなどの他のケイ酸塩の使用も、本発明の範囲に含まれる。イノシトール、ケイ酸塩およびアルギニンの混合によって得られる混合物は粘性の高い懸濁液であり、加熱することによって清澄になる。好ましい一態様では、清澄化が観察されるまで、懸濁液を約80°C〜約100°C、より好ましくは約95°Cに加熱する。この時点で加熱と撹拌を中止し、ゲル形成を開始させる。ゲル形成が進行するにつれて、アルギニンケイ酸塩複合体の結晶化が起こる。得られた結晶性原末を分散させ、約30分間にわたってアルコールと混合することによって、より完全な結晶化と、より純粋な生成物の回収とを達成する。最終生成物の重金属含量は検出不能とみなされる5ppm未満である。鉄のレベルも極めて低い(10ppm)。これらの知見は、本生成物がそのような汚染物質を事実上含んでいないことを示している。アルギニンケイ酸塩複合体の結晶化にはエタノールを使用することが好ましいが、他のアルコールを使用することも考えられる。任意に第2のアルコール結晶化ステップを行ってもよい。最終生成物、すなわちアルギニン、ケイ酸塩およびイノシトールを含有する複合体は、濾過によって集められ、洗浄され、乾燥される。
【0038】
アルギニンケイ酸塩イノシトールは、必須アミノ酸アルギニンの供給源としても、ケイ酸塩の供給源としても使用することができ、これらはどちらも、抗アテローム性動脈硬化作用を発揮する。この化合物の経口投与は、適当な作用部位にアルギニンおよびケイ酸塩を送達する。アルギニンケイ酸塩イノシトールは、アテローム性動脈硬化症の治療剤または予防剤として有用であり、抗アテローム生成状態を維持するための食物栄養補助剤として提供することもできる。したがってアルギニンケイ酸塩イノシトールの投与は、治療的用途だけでなく、予防的用途も持ちうる。アルギニンケイ酸塩イノシトールは水への溶解度が高く、良好な栄養有効性を持つアルギニンとケイ酸塩を与える。アルギニンケイ酸塩イノシトール複合体は、ケイ酸塩を提供するだけでなく、必須アミノ酸アルギニンの良好な食物栄養補助剤でもある。
【0039】
本明細書では、指定した3成分を含む単一の製剤として説明するが、これら3成分のいずれかを他の2成分とは別個に投与することもできると考えられる。任意の成分を他の2成分と共に任意の組合せまたは順序で使用すること、およびアルギニン以外のアミノ酸を使用して複合体を形成させることも、本発明の企図するところである。
【0040】
本発明のアルギニンケイ酸塩イノシトール複合体は、その必要がある哺乳動物、特にヒトにおける骨および軟骨の形成を促進する。また、本明細書に記載するアルギニンケイ酸塩イノシトール複合体の形態をとっている生物学的に利用可能な栄養的ケイ素は、骨密度を増加させ、骨の脱塩を予防する。好ましい一態様では、骨の脱塩および軟骨の分解を予防するために、本複合体を予防的に投与する。本発明の好ましい用途の一つは、閉経後の女性における骨の脱塩がもたらす骨粗鬆症の予防および処置である。本複合体は、骨粗鬆症および骨形成不全症を含む任意の骨脱塩障害を予防または処置するために使用される。アルギニンケイ酸塩イノシトール複合体は、骨折の処置にも、補助剤として使用される。例えば、骨折がより早く治癒するように、ギプス包帯処置と本発明のアルギニンケイ酸塩イノシトール複合体の経口投与とを併用することによって、骨折した個体を処置する。これにより、ギプス包帯が適用される状況において、ギプス包帯を装着しなければならない期間が短くなる。アルギニンケイ酸塩イノシトール複合体は、骨の分離が実際には起こっていない「若木」骨折の処置に使用することもできる。
【0041】
本発明のアルギニンケイ酸塩イノシトール複合体は、骨および軟骨の疾患および障害の処置を改善するのに役立つ。本複合体は、そのような障害の処置を受ける個体に、疾患の症状をさらに軽減したり、または回復を早めたりする目的で、投与することができる。例えば、骨粗鬆症の処置としてカルシウム栄養補助剤とビスホスホネート剤(骨吸収を減少させる)とを投与されている個体に、カルシウムおよびビスホスホネート剤だけを使用した場合にみられるであろう骨密度の増加よりも大きい骨密度の増加を達成するために、アルギニンケイ酸塩イノシトールを与える。もう一つの例では、関節損傷に関して理学療法を受けている個体に、患部関節組織におけるコラーゲンの修復を補助する目的で、アルギニンケイ酸塩イノシトールを与える。
【0042】
上の段落で使用した「その必要がある哺乳動物」という用語は、骨障害もしくは軟骨障害の症状に苦しんでいるか、そのような症状を示している対象、または骨障害もしくは関節障害の症状に苦しむ危険にさらされているもしくはそのような症状を示す危険にさらされているにさらされている対象を指す。本明細書で使用する「危険にさらされているにさらされている」という用語は、閉経、男性更年期、性腺機能低下症、高齢、そしてヒトの場合は少なくとも60歳であることを含む群の状態を体験している対象を指す。
【0043】
骨の組織形態計測は面倒で、費用が高く、侵襲的であることから、骨粗鬆症の研究者は、患者における骨の代謝回転速度と相関するペプチドおよびタンパク質の存在に関する生化学試験を開発した。これらの試験を使って血清試料または尿試料を分析することにより、研究者は、患者における骨吸収速度および骨形成速度の増減を検出することができる。これらの試験は、多種多様な状態および疾患状態によって起こる筋骨格系の変化を検出し、定量するために使用することができる。
【0044】
本発明のもう一つの好ましい態様では、骨吸収マーカーのレベルが上昇している患者に、本複合体を投与する。これらの骨吸収マーカーには、例えば、C-テロペプチドおよびN-テロペプチドを含むピリジノリン架橋ペプチド、N-テロペプチド架橋体(NTx)、C-テロペプチド架橋体(CTx)およびピリジノリン架橋カルボキシ末端ペプチド(ICTP)、遊離型ピリジノリン、デオキシピリジノリン、酒石酸耐性酸性ホスファターゼおよび骨シアロタンパク質などがあるが、これらに限るわけではない。これらのマーカーのレベルの増加は、患者における骨量減少を示しうる。例えば、尿試料中または血清試料中に測定されるN-テロペプチドのレベルが上昇している患者には、その患者から採取される臨床試料中のその骨吸収マーカーおよび他の骨吸収マーカーの測定レベルを低下させるために、アルギニンケイ酸塩イノシトール複合体が投与されるだろう。
【0045】
もう一つの好ましい態様は、骨形成マーカーのレベルが低下している患者へのアルギニンケイ酸塩イノシトール複合体の投与を特徴とする。これらの骨形成マーカーには、オステオカルシン、アルカリホスファターゼおよびI型プロコラーゲンC-/N-延長ペプチド(PICP、PINP)などがあるが、これらに限るわけではない。これらのマーカーのレベルの低下は、患者における骨量減少を示しうる。例えば、血清オステオカルシンのレベルが低下している患者には、その患者から採取される臨床試料中のその骨形成マーカーおよび他の骨形成マーカーの測定レベルを増加させるために、アルギニンケイ酸塩イノシトール複合体が投与されるだろう。
【0046】
もう一つの態様では、断裂した軟骨または腱を持つ個体に、単独で、または損傷領域を修復するための手術後に、アルギニンケイ酸塩イノシトール複合体を投与する。このアルギニンケイ酸塩イノシトール複合体は、軟骨形成を促進することによって、手術後の回復時間を短くする。
【0047】
いくつかの態様では、骨および軟骨の疾患または障害、例えば骨粗鬆症、変形性関節症、軟骨肉腫、内軟骨腫、骨軟骨腫、オリエ病、多発性外骨症、マフッチ症候群、無血管性壊死、線維性骨異形成、骨形成不全症、骨髄炎、骨のパジェット病、副甲状腺機能亢進症、心血管疾患(微小血管合併症および大血管合併症と関係する心血管疾患を含む)、安定狭心症、不安定狭心症、肺動脈弁狭窄症、産褥性心筋症、僧帽弁閉鎖不全症(急性または慢性)、虚血性心筋症、肥大型心筋症、特発性肥大、心臓腫瘍、心臓発作、先天性心疾患、拡張型心筋症、心不全、心内膜炎、心原性ショック、三尖弁逆流、アルコール性心筋症、大動脈弁閉鎖不全、大動脈弁狭窄症、不整脈、心拍数異常、EKG変化、脳卒中、高血圧、虚血性心疾患、冠動脈疾患、心筋梗塞、慢性心不全、うっ血性心不全、拡張型心筋症、リウマチ性心疾患、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、冠動脈バイパス移植(CABG)に起因する合併症、心機能の薬物誘発性またはアルコール誘発性変化、心臓弁の異常機能、心臓の異常電気調律、駆出率の低下(感染または毒素曝露が引き起こす低下を含む)、外科的処置、栄養欠乏、過剰栄養、栄養不足、炎症マーカーレベルの増加、感染および免疫系機能不全に起因する炎症の増加などを含む、様々な疾患および/または障害のいずれか一つまたは多くを持つ個体にアルギニンケイ酸塩イノシトール複合体を投与する。
【0048】
感染または傷害に対する宿主応答は、白血球の動員と複数の炎症媒介物質の放出とを伴うイベントのカスケードを開始させる。内皮細胞層は分布した器官の特徴を示し、例えば凝固と線維素溶解の間の恒常性を維持すること、免疫系の細胞のための接着分子の発現、ノルアドレナリンおよび5-ヒドロキシトリプタミンの代謝、ならびにアンギオテンシンIおよびブラジキニンの変換など、様々な生物学的機能を持っている。また内皮は、一酸化窒素(NO)、プロスタグランジン類、および内皮由来過分極因子(EDHF)などの内皮由来弛緩因子、ならびにエンドセリン、スーパーオキシド(O(2))およびトロンボキサンなどの血管収縮因子を放出することによって、下層の平滑筋層および血管緊張も調節する。
【0049】
EDHFの候補は、カリウムイオン、過酸化水素、エポキシエイコサトリエン酸など、いくつか提案されている。プロスタサイクリンやプロスタグランジンE2などのプロスタグランジン類が特異的受容体に結合すると、環状アデノシン一リン酸の増加および血管緊張低下が起こり、一方、収縮性プロスタグランジン類は、トロンボキサン受容体およびエンドペルオキシダーゼ受容体の活性化によって、血管を収縮させる。スーパーオキシドアニオンは、NOを補集することによって、血管平滑筋細胞を収縮させる。エンドセリンは強力な内皮由来収縮因子である。エンドセリン-1の合成は、低酸素、トロンビン、インターロイキン-1、トランスフォーミング成長因子β1、バソプレシン、およびカテコールアミン類によって誘導される。
【0050】
正常齧歯動物では、その普通食に1%のアルギニンHClを加えると(L-Arg含量1.8%)、総胸腺Tリンパ球数の増加に付随して、胸腺重量が増加した。この胸腺向性作用は、分裂刺激に対する細胞性免疫およびTリンパ球応答の増進と、機能的に相関関係にあった。無胸腺マウスでは、アルギニンの補給によってT細胞数が増加し、遅延型過敏反応が増進したことから、アルギニンは胸腺内のリンパ球だけでなく、末梢リンパ球にもその作用を発揮できることがわかった。健康なヒトボランティアと重症集中治療患者の両方で行われた他の研究では、30g/日の用量で投与した場合、末梢血リンパ球の分裂応答がアルギニンによって同様に増加することが、示された。傷害後は、アルギニンは、外傷の胸腺退縮作用および免疫抑制作用を軽減または阻止し、同種異系皮膚移植の拒絶を増進することができた。健康な動物およびヒトでは、食物への準必須アミノ酸アルギニンの補給によって、T細胞性免疫機能が強化され、創傷治癒および修復コラーゲン合成が刺激された。細胞レベルでは、アルギニンは異なる酵素によって、免疫調節に関与する様々な最終生成物に代謝される。
【0051】
L-アルギニン(L-Arg)は、構造準必須アミノ酸としてのその重要性と、様々な生理学的機能におけるその役割に加えて、マクロファージ機能の強力な調節物質であると推論されている。なぜなら、これらの食細胞は、2つの主要経路、すなわちa)グアニジノ窒素を尿素に組込むアルギナーゼ経路(この場合、もう一方の生成物はL-オルニチンである)と、b)グアニジノ窒素を酸化して、一酸化窒素(NO)を産生し、安定な最終生成物として亜硝酸塩、硝酸塩およびシトルリンを与える一酸化窒素シンターゼ経路とによって、L-Argを代謝することができるからである。NOは親油性が高く、それゆえに細胞膜を迅速に横断して、効果的な細胞内および細胞間メッセンジャーになる。NOは半減期が非常に短く(3〜9秒)、これが持続的な生物学的作用を持つには、大量にまたは長期間にわたって産生されなければならない。マクロファージによって産生されると、NOは微生物および腫瘍細胞に迅速に進入し、環状GMP合成量を増加させること、ならびに宿主のミトコンドリア電子伝達およびDNA複製を阻害することによって、細胞分裂抑制作用および細胞傷害作用を発揮することができる。しかしマクロファージは、特異免疫および非特異免疫の調節にも、直接的に、またはサイトカイン分泌[すなわちインターロイキン-1(IL-1)および腫瘍壊死因子(TNF-α)]によって、中心的役割を果たし、食作用、殺腫瘍活性および抗細菌活性などの免疫学的機能にも実際に関与している。上記の概念に基づけば、マクロファージ機能の改変は他の免疫細胞に対してカスケード効果を持ちうると推断することできる。
【0052】
炎症反応中は、病変部位への骨髄由来単球の流入により、また局所分裂細胞による炎症性滲出液におけるマクロファージの産生によって、マクロファージ数の増加が起こっている。創傷やある種の腫瘍など、顕著なマクロファージ浸潤を伴う炎症部位では、遊離アルギニンの不足が観察された。これに関してAlbinaら(1988)は、培養培地中のL-Arg濃度が低いと(<0.1mM)、腫瘍細胞に対する細胞傷害性、スーパーオキシド産生および食作用を含むラット腹腔在住マクロファージ中の活性化関連機能が強化されると報告した。これに対して、L-Argを血漿濃度(約0.1mM)〜1.2mM(RPMI1640中の濃度)の濃度で培養培地に加えると、スーパーオキシド産生、細胞傷害性、食作用およびタンパク質合成の抑制が、腹腔在住マクロファージに観察された。さらに、同じ補給L-Arg濃度で、コリネバクテリウム・パルブム(Corynebacterium parvum)誘導マクロファージにおける細胞傷害性の増加を誘発することができた。
【0053】
特に、アルギニン利用可能性の低下は、炎症部位に移動する非感作マクロファージの活性化に貢献しうる。炎症環境で観察される遊離L-Argの減少は、L-アルギニン/NO経路よりはむしろ、マクロファージ由来アルギナーゼの活性によるものである。なぜなら、細胞外間隙には、L-Arg/NO経路の生成物であるシトルリンではなく、アルギナーゼ活性の生成物であるオルニチンが蓄積するからである。これらの結果は、最大マクロファージ浸潤時の炎症部位では、NO経路は、著しく低い細胞外L-Arg濃度がその活性にとって律速になるので、優先的には利用されないであろうことを示す証拠になる。
【0054】
インビトロ培養条件下で、またおそらくはインビボでも、L-Argは、マクロファージの抗細菌機能および抗腫瘍機能の調節における極めて重要な成分の一つである。細胞傷害性マクロファージ中のいくつかの酵素のうち、NOSとアルギナーゼは、L-Argの代謝に最も重要な役割を果たしているようである。数多くの生理学的および病態生理学的イベントにおいて重要な調節物質であり媒介物質であるNOは、L-Argのグアニジノ窒素の一つがNOSアイソフォームのファミリーで酸化されることによって、産生される。いくつかのNOSアイソフォームは構成的に発現されCa2+依存性であるが、マクロファージ(Mφ)で発現されるNOSは、誘導性NOS(iNOS)と呼ばれて、Ca2+には依存せず、ある種のサイトカイン類およびLPSによって誘導することができ、L-Argの供給源の存在下でNOを産生する。NOのL-Arg依存的な産生は、酵母、蠕虫類、原生動物、マイコバクテリアを含む様々な病原体や、腫瘍細胞を含む様々な細胞標的に対する活性化マクロファージの細胞傷害作用の媒介に、関係があるとされている。
【0055】
L-Arg補給は、例えば末梢血リンパ球有糸分裂誘発の増加、Tヘルパー対T細胞傷害性(c)細胞比の増加、微生物および腫瘍細胞に対するマクロファージ活性の増加、ならびにTc細胞数の減少など、免疫系に対して数多くの作用を持っている。遅延型過敏応答も循環NK数およびリンホカイン活性化キラー細胞数と同様に増加する。したがってL-Argの補給は、外傷後の大手術を受けた患者および敗血症患者に有用である。
【0056】
さらに、炎症や敗血症など、多くの病態生理学的状態では、NOの増加が明白である。この産生には細胞外L-Argが必要なので、NOSの基質利用可能性の操作は、治療的介入の魅力的な標的になりうる。アルギニンケイ酸塩イノシトール複合体におけるアルギニンとケイ酸塩との組合せは、感染の危険にさらされているを低下させるのに役立ち、炎症マーカーを減少させる。
【0057】
アルギナーゼ活性を変化させると、おそらくNO産生量が変化するだろう。NOSによるL-Argの代謝はマクロファージの抗腫瘍活性にとって重要であり、アルギナーゼ活性の強化は、NO産生量を減少させることによって、この殺腫瘍活性を損なう可能性がある。オルニチンを経てポリアミンに至るL-Argの代謝はアルギナーゼによって誘発されるものであり、腫瘍細胞増殖を惹起こしうる。腫瘍でのマクロファージにおけるL-Arg代謝は、NOS経路が優勢であるかアルギナーゼ経路が優勢であるかに依存して、腫瘍の阻害または成長を促進しうる。
【0058】
アルギニンは一酸化窒素合成を促進し、それは細菌感染に対する防御に役立つと考えられている。アルギニンは免疫系の抗細菌成分を刺激することができる。肺の肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)感染に対する宿主防御における一酸化窒素の役割が研究されている。その結果から、一酸化窒素は、一つにはマクロファージの食作用活性および殺微生物活性を調節することによって、K. pneumoniaeに対する抗細菌宿主防御に決定的な役割を果たすことが示唆された(Wangら,J.Biomed.Sci. 6:28-35,1999)。
【0059】
シリカ補給は、生命維持に必要な肺組織を修復し維持するのに役立ち、それらを汚染から保護する。シリカは鎮咳剤としても作用する。シリカは上気道(鼻、咽頭、喉頭)を強化し、リンパ系に対するその正の作用によって腫脹を軽減し、閉経期のストレスを軽減し、他の酸化防止剤と共に早老を予防するように働き、腎結石の予防を助けることができ、尿路感染の治癒を促進することができる。シリカは尿の排泄を30%増加させることができる天然の利尿薬である。腸内に十分なシリカが存在すると、腸管の炎症が軽減されるだろう。胃腸カタルおよび胃腸潰瘍の場合は消毒にもなりうる。シリカは下痢と便秘の両方を予防または処置することができ、痔核組織および腸機能の正常化を助けることができる。シリカは腰痛を軽減することができ、陰部および子宮頚部における女性の排泄物、膿瘍および潰瘍、ならびに乳腺炎の処置にも有効だった。シリカは中耳炎の補助的処置としても作用する。シリカ補給の他の特質には、免疫系の刺激、循環の正常化、高血圧の調節、ならびに眩暈、頭痛、耳鳴(耳鳴り)および不眠の軽減を含めることができる。シリカは、膵臓によるエラスターゼ阻害剤の合成を促進することにより、糖尿病の処置を助けることができ、血管を強化することにより、動脈疾患に役立つことができ、結核の予防を助けることができる。また、関節の弾力性を改善し、リウマチの処置を助けることができる。
【0060】
もう一つの好ましい態様では、アルギニンケイ酸塩イノシトール複合体を、骨障害または軟骨障害の危険にさらされている個体に投与する。この障害は、骨粗鬆症、骨形成不全症、骨折、変形性関節症、炎症性関節炎、腱断裂または靱帯断裂であることができる。危険にさらされている個体にアルギニンケイ酸塩イノシトール複合体を投与することにより、骨組織を予防的に強化することができ、障害の症状を回避することができる。
【0061】
もう一つの好ましい態様では、アルギニンケイ酸塩イノシトール複合体の投与により、個体におけるI型コラーゲンのレベルが維持されるか、または増加する。I型コラーゲンは細胞外非無機質骨基質の95%を占め、骨芽細胞によるこのタンパク質の合成は、骨物質の形成における重要な一ステップである。I型コラーゲンのレベルを維持することにより、骨物質が減少する危険にさらされている個体において、そのような減少を軽減することができる。
【0062】
もう一つの好ましい態様では、骨重量または大腿骨長の増加を刺激するために、アルギニンケイ酸塩イノシトール複合体を個体、好ましくは哺乳動物に投与する。
【0063】
もう一つの好ましい態様では、身体、特に骨格系に対する機械的負荷の減少による骨量減少を予防または処置するために、アルギニンケイ酸塩イノシトール化合物を個体に投与する。機械的負荷の減少は、骨形成を促進する骨芽細胞と骨吸収および骨基質の脆弱化を促進する破骨細胞との恒常的平衡を変化させることによって、個体における骨量の減少をもたらしうる。機械的負荷は、固定処置によって、例えば骨折を治癒させるために肢部にギプス包帯が装着されている場合に、または宇宙飛行の際に起こる無重力状態中に、減少しうる。アルギニンケイ酸塩イノシトール化合物を投与することにより、骨形成が刺激され、機械的負荷の減少が持つ骨消耗作用を回避または処置することができる。
【0064】
上述のようにアルギニンは、一酸化炭素シンターゼ(NOS)でアルギニンを酸化することによってNOを産生する血管内皮による一酸化窒素の生成に、極めて重要な役割を果たしている。血管内皮によって産生されるNOは血管保護作用、抗炎症作用および抗酸化作用を持つ。血管内皮NO産生またはその調節は、研究により、様々な疾患および障害、例えば腎臓疾患、肺高血圧、心血管系の全身性硬化症、慢性心不全、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、高血圧、糖尿病、慢性高血糖、炎症および高コレステロール血症などに関連づけられている。例えば、糖尿病患者でも、健常な個体でも、NO合成を阻害すると、運動中のグルコース取り込みが減少する。
【0065】
本発明のもう一つの好ましい態様には、患者におけるインスリン抵抗性の処置または予防およびインスリンに対する応答の改善に、アルギニンケイ酸塩イノシトール複合体を使用することが含まれる。
【0066】
もう一つの態様では、インスリン抵抗性に関連する疾患状態および障害の症状を処置または軽減するために、またはそのような疾患状態および障害の発生を予防するために、アルギニンケイ酸塩イノシトール複合体を患者に投与する。
【0067】
本発明のもう一つの側面は、インスリン抵抗性に起因する続発症の発症を阻止する方法に関する。本発明のこの側面の好ましい一態様では、インスリン抵抗性を誘発する医薬品、または患者をインスリン抵抗性の危険にさらされているにさらす医薬品による処置を受けている患者に、アルギニンケイ酸塩イノシトール複合体を与える。
【0068】
多くの薬物療法が薬物誘発性インスリン抵抗性を引き起こすとされている。例えばスタチン剤、非ステロイド抗炎症薬(NSAID)、ステロイド、経口避妊薬、ホルモン補充療法(HRT)、β遮断薬、カリウムチャネル開口薬、および利尿薬の使用は、インスリン抵抗性の発生率の増加と関連づけられている。
【0069】
本明細書で使用する「インスリン抵抗性を誘発する薬物」という表現は、ヒトまたは他の動物に投与された場合にインスリン抵抗性を誘発する可能性のある任意の物質を意味する。インスリン抵抗性を誘発する薬物の例には、シンバスタチン、セリバスタチン、プラバスタチン、アトルバスタチン、フルバスタチン、およびロバスタチンなどのスタチン薬;シミシフーガ、サリチル酸コリン-サリチル酸マグネシウム、ジクロフェナクナトリウム、ジクロフェナクカリウム、ジフルニサル、エトドラク、フェノプロフェンカルシウム、フロクタフェニン、フルルビプロフェン、イブプロフェン、インドメタシン、ケトプロフェン、ケトロラクトロメタミン、サリチル酸マグネシウム、メフェナム酸、ナブメトン、ナプロキセン、ナプロキセンナトリウム、オキシフェンブタゾン、フェニルブタゾン、ピロキシカム、サルサレート、サリチル酸ナトリウム、スリンダク、テノキシカム、チアプロフェン酸(taiprofenic acid)、およびトルメチンナトリウムなどの非ステロイド抗炎症薬;ヒドロコルチゾン、デキサメタゾン、およびメチルプレドニゾロンなどのステロイド剤;エストロゲン、プロゲステロンおよびプロゲスチンなどの経口避妊薬ならびにレボノルゲストレル、エトノゲストレル、酢酸ノメゲストロール(nomegestrol acetate)およびネストロン(nestorone)などの植込型避妊薬を含む避妊薬;結合型ウマエストロゲン、エステル化エストロゲン、エストラジオール、エストロン、合成結合型エストロゲン、エストロピペート(estropipate)、エストロピペート、エチニルエストラジオール、ノルエチンドロン、酢酸メドロキシプロゲステロン、プロゲスチン、天然プロゲステロン、タモキシフェン、テストステロン、およびラロキシフェンなどのホルモン補充療法(HRT)薬;アセブトロール、アテノロール、ベタキソロール、ブシノドール(bucinodol)、カルテオロール、ラベタロール、メトプロロール、ナドロール、ペンブトロール、ピンドロール、プロパノロール、およびチモロールなどのβ遮断薬;ならびに利尿薬などがあるが、これらに限るわけではない。利尿薬には大別して3つのタイプがあり、これにはチアジド系利尿薬、ループ利尿薬およびカリウム保持性利尿薬が含まれる。本明細書で使用する「利尿薬」という用語には、ヒドロクロロチアジド、クロルタリドン、クロロチアジド、インダパミド、メトラゾン、アミロライド、スピロノラクトン、トリアムテレン、フロセミド、ブメタミド、エタクリン酸、およびトルセミドなどが含まれるが、これらに限るわけではない。プレドニゾロン、シクロスポリンAおよびタクロリムス(tacromlimus)などの一定の免疫抑制薬、ならびにニコランジルなどのカリウムチャネル調節薬も、インスリン抵抗性を誘発する薬物の定義に包含される。上記の一覧は例示を目的として記載したものであり、「インスリン抵抗性を誘発する薬物」の定義には、インスリン抵抗性を誘発する薬物であって上記の一覧には特に挙げられていないものや、既存の薬物であるか、将来開発される薬物であるかを問わずインスリン抵抗性を誘発することが見いだされる薬物も包含されると理解される。
【0070】
インスリン抵抗性の発生と関連づけられている薬物を摂取している対象に、有効量のアルギニンケイ酸塩イノシトール複合体を投与すると、インスリン抵抗性の発生が実際に阻止されるか、または減弱される。インスリン抵抗性を誘発する薬物を摂取している対象へのアルギニンケイ酸塩複合体の補給は、薬物誘発性インスリン抵抗性の発生率を低下させることになる。まず第一に、インスリン抵抗性を発達させないことにより、患者は関連する疾患および危険にさらされているにさらされなくなる。また患者は、インスリン抵抗性および関連する疾患を処置するために追加の、そして時には高くつく投薬を受ける必要もなくなる。
【0071】
特定の理論にこだわるわけではないが、アルギニンケイ酸塩イノシトール複合体の補給は、空腹時インスリンレベルを下げ、血糖を低下させることによって、薬物誘発性インスリン抵抗性が発達するのを阻止すると、本発明者らは考える。したがって、一態様として、アルギニンケイ酸塩イノシトール複合体の補給によって薬物誘発性インスリン抵抗性を阻止する方法が提供される。
【0072】
所望の効果を得るため、すなわちインスリン抵抗性の発達を妨害するために必要なアルギニンケイ酸塩イノシトール複合体の量は、個々のインスリン抵抗性誘発性薬物と、対象が摂取することを求められているその薬物の量に依存するだろう。一般的に、薬物誘発性インスリン抵抗性の発生を阻止するための補給に使用されるアルギニンケイ酸塩イノシトール複合体の量は、少なくとも約50μg/日である。アルギニンケイ酸塩イノシトール複合体の量は、好ましくは約50μg/日〜7,500mg/日である。より好ましくは、アルギニンケイ酸塩イノシトールを約250mg〜約2,500mgの量で1日3回投与する。特に好ましい一態様では、本化合物を約500mg〜約1,000mgの量で1日3回投与する。処置される症状の重症度に応じて、本化合物を1日3回ではなく1日1回または2回投与することもできると考えられる。これらの投与量は70kgの成人に基づく値であり、体重が異なるヒトまたは動物には、1キログラムあたりの値に基づいてこの用量を適用できることに注意されたい。
【0073】
薬物誘発性インスリン抵抗性の阻止は、インスリン抵抗性を誘発する薬物と有効量のアルギニンケイ酸塩イノシトール複合体とを、個別に、または単一の組成物として、個体に投与することによって、達成される。対象は、インスリン抵抗性誘発性薬物による処置の開始時にアルギニンケイ酸塩イノシトール補給を開始することができる。もう一つの選択肢として、対象は、インスリン抵抗性誘発性薬物による対象の処置を開始した後に、ただしインスリン抵抗性が発達する前に、アルギニンケイ酸塩イノシトール複合体の補給を開始することもできる。
【0074】
インスリン抵抗性は2型糖尿病の重要な病原パラメータであり、インスリン感受性を改善する臨床的介入は、この疾患の管理における基礎であるみなされている。また、インスリン抵抗性と心血管疾患およびその関連危険にさらされている因子との関係も、過去数年間の間に確立された。したがって好ましい一態様として、アルギニンケイ酸塩イノシトール複合体とメトホルミンなどの血糖降下薬との投与によってインスリン抵抗性の発達を阻止することからなる、インスリン抵抗性の発達を妨害するための方法および組成物が提供される。薬剤の組合せ(例えばスルホニル尿素剤/メトホルミン、スルホニル尿素剤/グリタゾン剤、メトホルミン/グリタゾン剤)は、グルコースレベルとインスリンレベルを両方とも低下させると思われる極めて有効な薬理学的介入である。さらに、三剤療法(例えばスルホニル尿素剤/メトホルミン/グリタゾン剤)が、インスリンレベルを低下させるだけでなく、臨床的血糖を低下させうることを示す証拠もある。したがって、いくつかの態様では、アルギニンケイ酸塩イノシトール複合体とメトホルミン、スルホニル尿素剤、グリタゾン剤またはそれらの組合せとを含む組成物を、インスリン抵抗性を誘発する薬物を摂取している対象に、そのようなインスリン抵抗性の発生を阻止するために投与する。
【0075】
もう一つの好ましい態様では、個体の冠血管の健康状態を改善するために、アルギニンケイ酸塩イノシトール複合体を使用する。また、そのような複合体は、冠血管の健康状態を改善することによって、例えば腎臓の硬化症、肝脂質代謝異常ならびに小規模および大規模な血管系の合併症などの疾患または障害を予防するためにも使用することができる。
【0076】
アルギニンケイ酸塩イノシトール複合体は、心血管の不健康状態のマーカーを低下させ、冠血管の良好な健康状態のマーカーを増加させるためにも使用することができる。例えば、尿中アルブミン濃度が上昇している患者、または血管収縮性のレベルの上昇が検査によって示されている患者に、心血管の不健康状態を示すこれらのマーカーを低下させるために、アルギニンケイ酸塩イノシトール複合体を投与する。もう一つの例として、血管弛緩などの、心血管の良好な健康状態のマーカーを改善するために、アルギニンケイ酸塩イノシトール複合体を患者に投与する。
【0077】
本発明の化合物は、所望により、適当な投薬単位で、非経口投与、経口投与、静脈内投与、動脈内投与または筋肉内投与するか、他の全身的方法で投与することができる。本明細書で使用する「非経口」という用語には皮下、静脈内、動脈内の注射または注入技術が限定されることなく包含される。しかし経口投与が好ましい。本発明の化合物は粉末状、液状または粉末状と液状の組合せであることができる。経口投与の場合は、本化合物を錠剤、水性または経口懸濁剤、分散性粉末剤または分散性顆粒剤、乳剤、硬質もしくは軟質カプセル剤、シロップ剤またはエリキシル剤として提供することができる。経口用組成物は、当技術分野で知られている任意の医薬組成物製造方法に従って製造することができ、そのような組成物は以下の薬剤の1つ以上を含有しうる:甘味剤、着香剤、着色剤、保存剤、可溶化剤、湿潤剤、安定剤、着色材、酸化防止剤、コーティング材および希釈剤。甘味剤および着香剤は調製物を飲みやすくするだろう。錠剤の製造に適した無毒性の医薬的に許容できる賦形剤と混合されたアルギニンケイ酸塩イノシトールを含有する錠剤は容認できる。そのような賦形剤には、例えば、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、ラクトース、リン酸カルシウムまたはリン酸ナトリウムなどの不活性希釈剤;トウモロコシデンプンまたはアルギン酸などの造粒剤および崩壊剤;デンプン、ゼラチンまたはアラビアゴムなどの結合剤;ならびにステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸またはタルクなどの潤滑剤などがある。錠剤は被覆されていなくてもよいし、胃腸管における崩壊と吸収を遅らせて、より長時間にわたって持続的作用が得られるように、既知の技術で被覆してもよい。例えば、モノステアリン酸グリセリンまたはジステアリン酸グリセリンなどの時間遅延材を単独で、またはロウと共に、使用することができる。
【0078】
経口用製剤は、活性成分が例えば炭酸カルシウム、リン酸カルシウムもしくはカオリンなどの不活性固形希釈剤と混合されている硬質ゼラチンカプセル剤か、または活性成分が水もしくは油性媒体、例えばラッカセイ油、液体パラフィンまたはオリーブ油と混合されている軟質ゼラチンカプセル剤として提供することもできる。
【0079】
水性懸濁剤は、水性懸濁剤の製造に適した賦形剤と混合された本発明の化合物を含有することができる。そのような賦形剤には、懸濁化剤、分散剤または湿潤剤、1つ以上の保存剤、1つ以上の着色剤、1つ以上の着香剤、および1つ以上の甘味剤、例えばスクロースまたはサッカリンなどがある。
【0080】
油性懸濁剤は、ラッカセイ油、オリーブ油、ゴマ油もしくはヤシ油などの植物油、または液体パラフィンなどの鉱油に活性成分を懸濁することによって、製剤化することができる。油性懸濁液は、ミツロウ、固形パラフィンまたはセチルアルコールなどの増粘剤を含有することができる。飲みやすい経口調製物を得るために、上述のような甘味剤と着香剤を加えてもよい。これらの組成物はアスコルビン酸などの酸化防止剤を添加して提供してもよい。水の添加による水性懸濁液の調製に適した本発明の分散性粉末剤および分散性顆粒剤は、分散剤または湿潤剤、懸濁化剤および1つ以上の保存剤と混合された活性成分を与える。追加の賦形剤、例えば甘味剤、着香剤、着色剤も存在しうる。シロップ剤およびエリキシル剤は、グリセロール、ソルビトールまたはスクロースなどの甘味剤を使って製剤化することができる。そのような製剤は、粘滑薬、保存剤、着香剤または着色剤も含みうる。本発明の組成物を製剤化する際の補助として「Remington's Pharmaceutical Sciences」(第15版,Mack Publishing Co.,ペンシルバニア州イーストン)を参照することができる。
【0081】
非経口投与用のアルギニンケイ酸塩イノシトール調製物は、滅菌注射可能調製物、例えば滅菌注射可能水性懸濁液または油性懸濁液などの形態をとりうる。この懸濁液は、当技術分野で周知の方法により、適当な分散剤または湿潤剤および懸濁化剤を使って製剤化することができる。滅菌注射可能調製物は、無毒性の非経口的に許容できる希釈剤または溶媒中の滅菌注射可能溶液または懸濁液、例えば1,3-ブタンジオール中の溶液であってもよい。好適な希釈剤には、例えば水、リンゲル液、生理食塩水などがある。また、滅菌不揮発性油も、溶媒または懸濁媒として便利に使用することができる。この目的には、合成モノグリセリドまたはジグリセリドを含めて、任意の無刺激油を使用することができる。また同様に、オレイン酸などの脂肪酸も、注射可能な調製物を製造するために使用することができる。
【0082】
本発明の化合物は吸入によって投与することもできる。この投与経路では、アルギニンケイ酸塩イノシトール複合体を、水または他の何らかの医薬的に許容できる吸入用担体液に溶解するか、乾燥粉末として用意し、次に、所定の量のアルギニンケイ酸塩イノシトール複合体が患者に与えられるように、適当な体積で患者に吸入される気体または粉末中に、それらを導入することができる。吸入による治療組成物の投与の例は米国特許第6,418,926号、第6,387,394号、第6,298,847号、第6,182,655号、第6,132,394号および第6,123,936号に記載されている。
【0083】
本発明の化合物は、注入装置を使って送達することができる。好適な装置には、シリンジポンプ、自動注入システムおよびミニポンプなどがある。代表的な装置には、ユタ州ソルトレークシティのMicroject Corp.から入手できるAmbulatory Infusion Pump Drive,Model 30や、コロラド州イングルウッドのBaxa Corporationから入手できるBaxa Syringe Infuserなどがある。本明細書に開示する方法に従って本発明の化合物を送達することができる装置であれば、どれでも使用することができる。
【0084】
好適な注入装置は、好ましくは、有効量のアルギニンケイ酸塩イノシトール複合体をその中に含有している。装置には製造時に所望の物質を予め充填しておくか、使用直前に物質を充填することができる。充填済み注入ポンプおよびシリンジポンプは、当業者にはよく知られている。活性物質は、所望であれば制御放出担体を含む製剤の一部であることができる。投与速度と物質の投与量とを制御するために、装置と共にコントローラを使用する。コントローラは装置と一体化していてもよいし、別個の物体であってもよい。コントローラは製造時に前もって設定しておくか、使用直前に使用者が設定することができる。そのようなコントローラと、それらを注入装置と共に使用する方法は、当業者にはよく知られている。
【0085】
制御放出賦形剤は薬学の当業者にはよく知られている。この技術分野の技術と製品は、制御放出、徐放、長時間作用、デポー、レポジトリ、遅延作用、遅延放出および持続放出と、様々な呼ばれ方をする。本明細書で使用する「制御放出」という用語は、上述した各技術を包含するものとする。
【0086】
ポリ乳酸、ポリグリコール酸および再生コラーゲンなどの生分解性または生体分解性ポリマーを含めて、数多くの制御放出賦形剤が知られている。既知の制御放出薬物送達装置には、クリーム剤、ローション剤、錠剤、カプセル剤、ゲル剤、マイクロスフェアー、リポソーム、眼内挿入物、ミニポンプおよび他の注入装置、例えばポンプおよび注射器などがある。活性成分をゆっくりと放出する植込可能なまたは注射可能なポリマーマトリックスおよび経皮製剤もよく知られており、本発明の方法に使用することができる。
【0087】
ある態様では、局所送達システムによって本発明の化合物を投与する。上述の制御放出成分を、本発明化合物を送達する手段として使用することができる。好適な局所送達システムは、本明細書に記載した濃度の本発明化合物、溶媒、乳化剤、医薬的に許容できる担体材料、浸透促進化合物、および保存剤を含む。局所適用組成物の例には、米国特許第5,716,610号および第5,804,203号などがある。本組成物はさらに、適用される製剤の安定性または有効性を改善するような成分、例えば保存剤、酸化防止剤、皮膚浸透促進剤、および徐放性材料などを含むことができる。そのような成分の例は次の参考文献に記載されている:「Martindale-The Extra Pharmacopoeia」(Pharmaceutical Press,ロンドン,1993)およびMartin編「Remington's Pharmaceutical Sciences」。
【0088】
制御放出調製物は、ポリマーを使ってアルギニンケイ酸塩イノシトール複合体との複合体を形成させるか、ポリマーを使ってアルギニンケイ酸塩イノシトール複合体を吸収することによって得ることができる。制御送達は、ポリエステル、ポリアミノ酸、ポリビニルピロリドン、エチレンビニルアセテート、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、およびプロタミン硫酸などの適当な高分子とそれら高分子の濃度を選択することによって行われると共に、活性化合物を制御放出するために組込み方法が選択される。
【0089】
本発明の範囲に包含される活性化合物の制御放出は、任意の持続的放出剤形を意味すると解釈することができる。以下の用語は、本発明の目的において、制御放出と実質的に等価であるとみなしうる:継続的放出、制御放出、遅延放出、デポー、漸進的放出、長期放出、プログラム放出、長時間放出、プログラム放出、比例放出、遷延放出、レポジトリ、遅延、緩慢放出、分散放出、徐放、持続コート、持続放出、遅延作用、持続的作用、積層持続作用、長期作用、長時間作用、持効性医薬品および持続的放出、腸内のpHレベルからみた放出、分子の分解、ならびに吸収および生物学的利用能に基づく。
【0090】
ある期間にわたって徐々に放出されるようにアルギニンケイ酸塩イノシトール複合体が水性成分に溶解しているヒドロゲルは、エチレングリコールメタクリレートなどの親水性モノオレフィン系モノマーを共重合することによって製造することができる。アルギニンケイ酸塩イノシトール複合体が担体材料のマトリックス中に分散されているマトリックス装置を使用することができる。担体は多孔性、非多孔性、固形、半固形、透過性または不透過性であることができる。もう一つの選択肢として、アルギニンケイ酸塩イノシトール複合体のレザバーが中心にあって、その周りを速度制御膜が取り囲んでいる装置を使用して、複合体の放出を制御することもできる。速度制御膜には、エチレンビニルアセテートコポリマーまたはブチレンテレフタレート/ポリテトラメチレンエーテルテレフタレートなどがある。シリコンゴムデポーの使用も考えられる。
【0091】
制御放出経口製剤もよく知られている。ある態様では、活性化合物を可溶性または分解性マトリックス、例えば丸剤またはトローチ剤などに組み込む。そのような製剤は当技術分野ではよく知られている。医薬活性化合物を投与するために使用されるトローチ剤の一例は米国特許第5,662,920号である。もう一つの例では、経口製剤が、舌下投与に使用される液体である。本発明化合物を液体舌下投与するための医薬組成物の一例は、米国特許第5,284,657号に教示されている。これらの液体組成物はゲル剤またはペースト剤の形態をとることもできる。ヒドロキシメチルセルロースなどの親水性ゴムがよく使用される。錠剤化工程を助けるために、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸またはステアリン酸カルシウムなどの潤滑剤を使用することができる。好ましい一態様として、経皮パッチ、不浸透性裏層と膜面とに挟まれた定常状態レザバー、および経皮製剤も、アルギニンケイ酸塩イノシトール複合体を送達するために使用することができる。経皮投与システムは当技術分野ではよく知られている。皮膚または粘膜に活性剤を投与するための密封経皮パッチは、米国特許第4,573,996号、第4,597,961号および第4,839,174号に記載されている。経皮パッチの一タイプは、活性剤がポリマーマトリックスに溶解されていて、そのマトリックスを通して、活性成分が皮膚に拡散するポリマーマトリックスである。そのような経皮パッチは米国特許第4,839,174号、第4,908,213号および第4,943,435号に開示されている。
【0092】
本発明の化合物と共に使用される定常状態リザバーは、適切な用量の本発明化合物を、所定の期間にわたって送達する。粘膜組織を通して吸収されうる組成物と、そのような組成物を製造する方法は、米国特許第5,288,497号に教示されている。当業者であれば本発明の化合物および関連組成物を容易に含めることができるだろう。
【0093】
アルギニンシリカ複合体の放出を制御するもう一つの方法は、ポリエステル、ポリアミノ酸、ヒドロゲル、ポリ乳酸、またはエチレンビニルアセテートコポリマーなどのポリマー材料の粒子に複合体を組み込むことである。
【0094】
もう一つの選択肢として、これらのポリマー粒子にアルギニンケイ酸塩イノシトール複合体を組み込む代わりに、例えばコアセルベーション技術または界面重合などによって製造したマイクロカプセル、例えばそれぞれヒドロキシメチルセルロースマイクロカプセルまたはゼラチンマイクロカプセルに複合体を封入するか、コロイド薬物送達システム、例えばリポソーム、アルブミンマイクロスフェア、マイクロエマルジョン、ナノ粒子およびナノカプセルなどに複合体を封入するか、マクロエマルジョンに複合体を封入する。そのような技術は薬学の当業者にはよく知られている。
【0095】
要すれば、本発明の医薬組成物は、異なる活性を示す1つ以上の化合物、例えばカルシウム栄養補助剤、メトホルミンなどの抗糖尿病薬、または他の薬理活性物質と混合されたアルギニンケイ酸塩イノシトール複合体を含んでもよい。
【0096】
単一の剤形を製造するために担体材料と混合できるアルギニンケイ酸塩イノシトールの量は、処置される宿主および個々の投与形態に応じて変動するだろう。
【0097】
好ましい一態様では、骨および軟骨の障害、心血管障害または代謝症候群に関係する障害の予防剤または治療剤として、アルギニンケイ酸塩イノシトールを、約2mg〜約2,500mgの量で、1日に3回投与する。特に好ましい一態様では、本化合物を約500mg〜約1,000mgの量で、1日に3回投与する。これらの投与量は70kgの成人に基づく値であり、体重が異なるヒトまたは動物には、1キログラムあたりの値に基づいてこの用量を適用できることに注意されたい。例えば、もう一つの態様では、アルギニンケイ酸塩イノシトールを、約2mg/kg体重〜約2,500mg/kg体重の量で、1日3回投与する。処置される症状の重症度に応じて、本化合物を1日3回ではなく1日1回または2回投与することもできると考えられる。
【0098】
上記の説明では本発明の特定の態様を詳述した。しかし、上記の説明がいかに詳細であっても、本発明を様々な方法で実施できることは、理解されるだろう。本発明の特定の特徴または側面を説明する際に特定の用語を使用しても、それは、その用語に関係する本発明の特徴または側面の特定の特質を含むように、その用語が本明細書において限定的に再定義されていることを含意すると解釈すべきではないことに注意すべきであることも、上述したとおりである。したがって本発明の範囲は、本願の請求項およびその等価物に従って解釈されべきである。
【実施例】
【0099】
以下の実施例ではアルギニンケイ酸塩イノシトール化合物の合成および使用を説明する。
【0100】
(実施例1)
アルギニンケイ酸塩イノシトールの製造
ケイ酸カリウム[5ml,29.8°Be,8.3%K2O(0.52g,5.5mmol),20.8%SiO2(1.3g,21.8mmol)]中のイノシトール(1.25g,6.9mmol)の溶液を激しく撹拌したものに、アルギニン(3.8g,21.8mmol)を加えて、粘度の高い懸濁液を得た。その懸濁液を95°Cに加熱した。混合物が透明になってゲルを形成し始めた時に、加熱と撹拌を中止した。その混合物を室温で終夜放置し、結晶化させた。得られた結晶性原末をエタノール(5ml)で分散、混合し、30分間放置した。得られた結晶に対してこの処置を新たに5mlのエタノールで繰り返して、結晶化を完了させるために終夜放置した。最終アルギニンケイ酸塩イノシトール生成物を濾過によって集め、エタノールで洗浄し、減圧下で乾燥した。生成物の量は水和物として得た7.7gだった(使用した試薬類の総質量の111%)。
【0101】
90°Cで1時間減圧下に保った分析用試料は水分の除去によりその質量の11.5%を失った。元素分析は25.13%C、6.24%H、14.11%N、8.25%Si(17.68%SiO2)を示した。カリウム含量(5.4%)は、周知のテトラフェニルホウ酸法に基づくキット(HACH Co.,コロラド州ラブランド,カタログ番号234394)を使って定量した。これらの結果は、アルギニンケイ酸塩イノシトール生成物中の元素の含量計算値と合致している。
【0102】
(実施例2)
アルギニンケイ酸塩イノシトール生成物の動態
アルギニンケイ酸塩生成物の水溶液における動態の研究により、使用した濃度の関数として、非解離性アルギニンケイ酸塩複合体の形成が示された。解離型アルギニンケイ酸塩と非解離型アルギニンケイ酸塩との比の測定は、452nmでの吸光度が酸性条件下で形成されるシリコモリブデン酸塩の濃度の関数になり、シリカ(SiO2)の%として表されるHACHキット(カタログ番号24296-00)を使って行った。アルギニンケイ酸塩生成物の水溶液(10g/l)を適当な時点で0.5g/Lに希釈し、シリカの含量をHACH法で測定した。時刻0におけるシリカのレベルは17.5%、1時間では11.8%、2時間で10.8%、および24時間で9.2%だった。0.5g/lのアルギニンケイ酸塩の水溶液では、シリカのレベルは17.5%であり、24時間後に安定であったことから、生成物の安定性が確認された。
【0103】
(実施例3)
アルギニンケイ酸塩イノシトールの生物学的利用能
アルギニンケイ酸塩の溶液(8g/l)を調製し、あるヒトボランティアが、ベースライン24時間蓄尿を行ってから、毎日3杯ずつ3日間消費した。3日目に、再び24時間蓄尿を行った。ケイ素測定により、尿中ケイ素排出量はベースラインの10倍以上に増加していることがわかった。3日目の尿中のケイ素量は、アルギニンケイ酸塩溶液から1日に摂取されたケイ素の約25%に相当した。これにより、可溶化されたアルギニンケイ酸塩中のケイ素が持つ改善された生物学的利用能が証明された。
【0104】
(実施例4)
インスリン抵抗性ラットモデルの代謝および血管機能に対するアルギニンケイ酸塩イノシトール複合体の効果
この研究では、食物へのアルギニンケイ酸塩イノシトールの補給が、JCR:LA-cp系統のラットの健康状態に及ぼす効果を調べる。JCR:LA-cpラットは、ヒトにおいて代謝症候群に関係する一連の機能不全および病態生理、例えば肥満、著しいインスリン抵抗性、血管収縮性の増大を伴うアテローム性動脈硬化症、および血管弛緩の低下などを自発的に発症することが知られている。また、肥満オスラットは心臓の虚血性病変を自発的に発症し、致命的になりうるストレス誘発性心筋梗塞を起こしやすい。インスリン抵抗性は4週齢〜7週齢の幼若ラットで迅速に発達し、心血管疾患と高い相関関係にある。オスラットは、インスリンレベルが極めて高い12週齢では尿中アルブミン排泄量が著しく多いが、インスリンレベルが26週齢で認められるピーク値から低下した後の39週齢では、尿中アルブミン排泄量は多くない。高齢ラットに糸球体硬化症が存在することは、この知見と合致する。
【0105】
3週齢または7週齢のオスJCR:LA-cpラットを逆照明サイクルで維持し、1週間にわたって馴化させる。これにより、概日周期の活動(暗)期中に弱い照明下で、代謝研究を行うことができる。
【0106】
インスリン抵抗性が発達してしまう前およびインスリン抵抗性症候群が完全に確立された後の4週齢または8週齢から13週齢まで、ラットをアルギニンケイ酸塩イノシトールを添加した飼料で処置する。市販の飼料(PMI InternationalのLab Diet 5001)に、飼料1キログラムあたりアルギニンケイ酸塩として500mgのアルギニン、飼料1キログラムあたりアルギニンケイ酸塩として3gのアルギニン、および飼料1キログラムあたりアルギニンケイ酸塩として9gのアルギニン濃度で、アルギニンケイ酸塩イノシトールを組み込む。ラットを4つの群に分け、上記3つの飼料濃度または無添加飼料のうちの1つを与える。投与量は、mg/kg体重ベースで維持するか(この場合は、各ラットがmg/kgベースで意図した投与量を摂取することが保証されるように、飼料を1週間単位で調製する)、または飼料中の指定濃度を維持する。食物消費量と体重は毎週2回測定する。
【0107】
12週齢の時点で、明(非活動)期の間、ラットを絶食させる。空腹時血液試料を尾から採取し、標準食物負荷試験(MTT)を行う。2日間の回復期間後に、ラットを24時間にわたって代謝ケージに入れて、蓄尿を行う。
【0108】
13週齢の時点で、摂食状態にあるラットを、酸素中のハロタンによる麻酔下で屠殺し、次に挙げる組織を摘出して、後述のように処理した:
1.血管機能研究用の胸部大動脈、
2.心臓;横方向に切断して急速冷凍したもの、脂肪酸測定用の心底および分子生物学用の心尖、
3.組織学用の腎臓、肝臓および膵臓、
4.肝臓急速冷凍物、分子生物学および生化学的測定用の試料、
5.遺伝子およびタンパク質発現用の片側ヒラメ筋急速冷凍物、反対側は脂質測定用、
6.TEMによる細胞内脂質の可視化に備えてグルタルアルデヒド中に固定した片側上腕滑車上筋、
7.腎周囲脂肪パッド、2つの試料で急速冷凍したもの、
8.血清および血漿を分離するための血液。
【0109】
以下のパラメータを測定した:食物摂取量および体重、グルコースおよびインスリン応答(食物負荷試験による)、血漿総脂質プロフィール、尿中アルブミン/クレアチニン比、レプチンの血漿レベル、C反応性タンパク質および腫瘍壊死因子α(TNFα)、大動脈リングでの血管機能試験(収縮性/弛緩)、ペルオキシソーム増殖剤活性化受容体(PPAR)のレベルおよび活性の調節、血漿コレステロールエステル、肝臓、膵臓、筋肉および脂肪組織の脂肪酸組成、ならびにホスファチジルイノシトール-3(PI-3)キナーゼシグナル伝達。組織学的分析を、糸球体硬化症、膵島形態計測、肝臓−肝損傷および脂質含量、ならびに筋肉(脂質に関する潜在的電子顕微鏡検査)のために得た。表1、2および3に、それぞれ血管収縮性、反応性充血およびブラジキニン応答、ならびに弛緩剤応答に関するデータを示す。
【0110】
【表1】

【0111】
【表2】

【0112】
【表3】

【0113】
食物アルギニンケイ酸塩複合体を補給したラットは、対照群と比較して、代謝症候群および心血管疾患(CVD)症状の減少を示す。代謝症候群およびCVD症状が発生する前に4週齢で処置を開始したラットの場合、12週齢での尿中アルブミン排出量および血清インスリン濃度の増加は、対照群での極めて大きな増加と比較して減少する。実験群の動物は、対照動物と比較して、インスリン感受性の増加、耐糖能の増加、体重、インスリン抵抗性、冠疾患危険にさらされている脂質およびリポタンパク質の低下、血管収縮性および糸球体硬化症の減少、血管弛緩の増加、虚血性病変およびストレス誘発性心筋梗塞の減少、膵島細胞過形成レベルの低下、構造的リモデリング(例えば心拡大および他の視覚的に明らかな血管異常)の減少、ならびに内皮機能の改善、炎症マーカーのレベルの低下、遺伝子発現およびPPAR(a,a)活性の増加、およびインスリンシグナル伝達経路の増進を示す。図1は冠血流量の変化とブラジキニン応答の改善を示している。
【0114】
(実施例5)
骨代謝回転のマーカーを改善し骨障害の危険にさらされているを低下させるためのアルギニンケイ酸塩イノシトール複合体の使用
年齢、閉経、男性更年期、固定処置または他の原因によって骨量減少の危険にさらされているにさらされている対象が、その対象の血清検査で、正常な濃度範囲よりも高いコラーゲンI型のN-テロペプチドレベル、および正常濃度範囲よりも低いオステオカルシンのレベルを示した。その対象に1日あたり合計500mgのアルギニンケイ酸塩イノシトール複合体を毎日処方する。数週間が経過してから血液検査を繰り返すと、それら骨吸収マーカーおよび骨形成マーカーの濃度が、正常範囲まで戻っていることがわかる。この養生法で数ヶ月が経過した後に骨塩密度を測定すると、その患者の年齢の個体にとって最適な骨密度レベル、骨折または他の有害事象に関する平均未満の危険にさらされていると相関する密度レベルが明らかになる。
【0115】
(実施例6)
代謝症候群の症状を処置するためのアルギニンケイ酸塩イノシトール複合体の使用
過体重の対象が検査を受けると、グルコース代謝異常と、その対象の年齢群の正常範囲を上回る血清コレステロール濃度および血清トリグリセリド濃度とを示す。その対象に、1日あたり合計500mgのアルギニンケイ酸塩イノシトール複合体を毎日処方する。数週間が経過してから、血液検査を繰り返すと、グルコース代謝が正常化していること、および当初正常値より高かった血中脂質濃度が低下していることがわかる。
【0116】
本発明の特定の態様を詳細に説明したが、これらの態様が限定ではなくむしろ典型例であって、本発明の真の範囲が本願の請求項によって定義されることは、当業者には明らかだろう。
【0117】
(実施例7)
薬物誘発性インスリン抵抗性の発生およびCVDの危険にさらされているを阻止するためのアルギニンケイ酸塩イノシトール複合体を含む薬物製剤
経口避妊薬および精神病薬は古くからグルコース抵抗性および/またはCVDの危険にさらされていると関連づけられてきた。経口避妊薬を摂取している女性は薬物誘発性インスリン抵抗性を発達させる危険にさらされているが高まっており、CVDリスクも高くなっている。したがって、薬物誘発性CVDリスクならびにCVDに付随する疾患、例えば動脈血栓症、脳卒中、糖尿病、および高コレステロール血症などの発生を妨害するために、アルギニンケイ酸塩イノシトール複合体を含む経口避妊薬および精神病薬の製剤を開発すれば、ヒトの健康にとって非常に有益だろう。
【0118】
有効薬理量の経口避妊薬をアルギニンケイ酸塩イノシトール複合体と組合せて錠剤として製剤化する。この錠剤は5mg/kg体重のアルギニンケイ酸塩イノシトール複合体を含有する。アルギニンケイ酸塩イノシトールを含有する経口避妊薬は、アルギニンケイ酸塩イノシトール複合体を含まない経口避妊薬よりも、薬物誘発性インスリン抵抗性とCVDリスクの増加を引き起こす割合が低い。
【図面の簡単な説明】
【0119】
【図1】相対冠血流量対logブラジキニン濃度を表す実施例4で得たデータのグラフである。試料はJCR:LA-cpラット(対照群およびアルギニン処置群)のランゲンドルフ灌流心臓から採取した。値は平均±SEM(各群10匹のラット)である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨障害または軟骨障害の危険にさらされているにさらされている個体における骨障害または軟骨障害の症状を改善するための医薬品の製造を目的とする、有効量のアルギニンケイ酸塩イノシトール複合体を含む組成物の使用。
【請求項2】
前記アルギニンケイ酸塩イノシトールが、粉末、液体、および粉末と液体の組合せからなる群より選択される形態で投与される、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記骨障害が、骨粗鬆症、骨形成不全症、および骨折からなる群より選択される、請求項1に記載の使用。
【請求項4】
前記軟骨障害が、変形性関節症、炎症性関節炎、腱断裂、および靱帯断裂からなる群より選択される、請求項1に記載の使用。
【請求項5】
前記投与が非経口的、経口的または静脈内的に行われる、請求項1に記載の使用。
【請求項6】
他の通常の骨治療と併用してアルギニン-ケイ酸塩-イノシトールが投与される、請求項1に記載の使用。
【請求項7】
前記他の骨治療が、手術、ギプス包帯処置、カルシウム補給および抗骨吸収薬からなる群より選択される、請求項6に記載の使用。
【請求項8】
前記アルギニンケイ酸塩イノシトール複合体の前記有効量が、約2:2:1、2:2:1、2:2:1.5、1:1:1、2:2:3および3:3:2からなる群より選択されるモル比でアルギニン、ケイ酸塩およびイノシトールを含む、請求項1に記載の使用。
【請求項9】
個体におけるコラーゲンレベルを増加させるための医薬品の製造を目的とする、有効量のアルギニンケイ酸塩イノシトール複合体を含む組成物の使用。
【請求項10】
前記アルギニンケイ酸塩イノシトール複合体が非経口的、経口的、静脈内的、または局所的に投与される、請求項9に記載の使用。
【請求項11】
個体における骨長を増加させるための医薬品の製造を目的とする、有効量のアルギニンケイ酸塩イノシトール複合体を含む組成物の使用。
【請求項12】
前記増加が大腿骨長の増加である、請求項11に記載の使用。
【請求項13】
機械的負荷の減少による骨の脆弱化を好転させるための医薬品の製造を目的とする、有効量のアルギニンケイ酸塩イノシトール複合体を含む組成物の使用。
【請求項14】
機械的負荷の減少の原因が、無重力への曝露および固定処置からなる群より選択される、請求項13に記載の使用。
【請求項15】
個体におけるインスリン抵抗性を減少させるための医薬品の製造を目的とする、有効量のアルギニンケイ酸塩イノシトール複合体を含む組成物の使用。
【請求項16】
冠血管疾患に続発する疾患を処置するための医薬品の製造を目的とする、有効量のアルギニンケイ酸塩イノシトールを含む組成物の使用。
【請求項17】
前記疾患が、腎硬化症、肝脂質濃度異常、微小血管合併症、および大血管合併症からなる群より選択される、請求項16に記載の使用。
【請求項18】
代謝機能を改善する必要がある個体における代謝機能を改善するためにホルモンレベルを安定化するための医薬品の製造を目的とする、有効量のアルギニンケイ酸塩イノシトールを含む組成物の使用。
【請求項19】
一酸化窒素産生量を増加させる必要がある個体における一酸化窒素産生量を増加させるための医薬品の製造を目的とする、有効量のアルギニンケイ酸塩イノシトール複合体を含む組成物の使用。
【請求項20】
一酸化窒素レベルの低下によって起こる障害または一酸化窒素レベルの低下によって悪化する障害を処置するための医薬品の製造を目的とする、有効量のアルギニンケイ酸塩イノシトール複合体を含む組成物の使用。
【請求項21】
前記障害が、肺高血圧症、腎臓疾患、アテローム性動脈硬化症、高血圧、糖尿病、高コレステロール血症、高血糖症、心不全、ファブリー病、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、炎症性腸疾患、クローン病、潰瘍性大腸炎、周産期仮死、胎便吸引症候群、B群溶連菌敗血症、先天性横隔膜ヘルニア、虚血性心疾患、高ホモシステイン血症、多発性硬化症、高安関節炎、常染色体優性多発性嚢胞腎、末期腎不全、癌、および肝臓疾患からなる群より選択される、請求項20に記載の使用。
【請求項22】
前記医薬品が、NOレベルの低下によって起こる障害またはNOレベルの低下によって悪化する障害の処置に有効な第2の有益薬剤と同時投与するための医薬品であり、前記第2の有益薬剤がNO欠乏の通常の治療法である、請求項20に記載の使用。
【請求項23】
個体の組織における骨吸収マーカーの濃度を低下させるための医薬品の製造を目的とする、有効量のアルギニンケイ酸塩イノシトール複合体を含む組成物の使用。
【請求項24】
前記骨吸収マーカーが、C-テロペプチドおよびN-テロペプチドを含むピリジノリン架橋ペプチド、N-テロペプチド架橋体(NTx)、C-テロペプチド架橋体(CTx)およびピリジノリン架橋カルボキシ末端ペプチド(ICTP)、総ペプチド結合型および遊離型ピリジノリン、ヒドロキシプロリン、デオキシピリジノリン、酒石酸耐性酸性ホスファターゼ、ならびに骨シアロタンパク質からなる群より選択される、請求項23に記載の使用。
【請求項25】
個体の組織における骨形成マーカーの濃度を増加させるための医薬品の製造を目的とする、有効量のアルギニンケイ酸塩イノシトール複合体を含む組成物の使用。
【請求項26】
前記骨形成マーカーが、オステオカルシン、アルカリホスファターゼ、およびI型プロコラーゲンC-/N-延長ペプチド(PICP、PINP)からなる群より選択される、請求項25に記載の使用。
【請求項27】
心血管の不健康状態のマーカーを低下させるための医薬品の製造を目的とする、有効量のアルギニンケイ酸塩イノシトール複合体を含む組成物の使用。
【請求項28】
前記心血管の不健康状態のマーカーが、尿中アルブミン濃度の上昇および血管収縮性の増加からなる群より選択される、請求項27に記載の使用。
【請求項29】
心血管の健康を増進する必要がある個体における心血管の健康を増進するための医薬品の製造を目的とする、有効量のアルギニンケイ酸塩イノシトール複合体を含む組成物の使用。
【請求項30】
医薬品が約2〜約2,500mgの前記アルギニンケイ酸塩イノシトール複合体を含有する、請求項1、9、11、13、15、16、18、19、20、23、25、27または29に記載の使用。
【請求項31】
前記アルギニンケイ酸塩イノシトール複合体の前記有効量が約2mg/kg体重〜約2,500mg/Kg体重である、請求項1、9、11、13、15、16、18、19、20、23、25、27または29に記載の使用。
【請求項32】
前記アルギニンケイ酸塩イノシトール複合体の前記有効量が約5mg/Kg体重〜約1,000mg/Kg体重である、請求項31に記載の使用。
【請求項33】
前記個体が哺乳動物である、請求項1、9、11、13、15、16、18、19、20、23、25、27または29に記載の使用。
【請求項34】
前記アルギニンケイ酸塩イノシトール複合体が経口的、静脈内的、または非経口的に投与される、請求項11、13、15、16、18、19、20、23、25、27または29に記載の使用。

【図1】
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【公表番号】特表2006−501224(P2006−501224A)
【公表日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−529869(P2004−529869)
【出願日】平成15年8月22日(2003.8.22)
【国際出願番号】PCT/US2003/026370
【国際公開番号】WO2004/017913
【国際公開日】平成16年3月4日(2004.3.4)
【出願人】(503109673)ニュートリション 21、インコーポレイテッド (1)
【Fターム(参考)】