説明

アルギン酸ナトリウム含有錠剤の製造方法及び該製造方法により得られる錠剤

【課題】食物繊維含有比率の高い錠剤、精油含有食物繊維錠剤、これら錠剤の製造方法の提供。
【解決手段】アルギン酸ナトリウム粉末を打錠するアルギン酸ナトリウム含有錠剤の製造方法、アルギン酸ナトリウム粉末を打錠して得られる錠剤に精油をしみこませることを特徴とするアルギン酸ナトリウム含有錠剤の製造方法、これら製造方法により製造されるアルギン酸ナトリウム含有錠剤。
【効果】直接粉末圧縮によりアルギン酸ナトリウムを錠剤化できるため、アルギン酸ナトリウムのみの錠剤を調製することができ、単位量あたりの食物繊維量に優れた錠剤を得ることができる。また、他の錠剤成型法と比較して、工程数が少ない点や高温を必要としない点で有利である。さらに、本発明の錠剤は精油との相性が良く、油浮きが抑制され、精油が安定的に錠剤に保持される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルギン酸ナトリウム含有錠剤の製造方法及び該製造方法により得られる錠剤、さらに精油を含有する該錠剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食物繊維は、血圧の上昇の抑制、コレステロール値上昇抑制、血糖値上昇抑制、整腸、便秘抑制などの作用を有する機能性食品として注目されている。このため、食物繊維を配合した食品が数多く市販されている。食物繊維は人の消化酵素によって加水分解されない難消化性の多糖、リグニンなどをいい、水に対する溶解性によって、水溶性食物繊維と不溶性食物繊維とに大別される。このため、食物繊維をサプリメント等の機能性食品で好まれる剤型(特に錠剤)に成型することが求められている。
【0003】
しかしながら、食物繊維粉末は粘着性に乏しいため、結合剤、賦形剤を配合することなく、湿式造粒法等の方法により錠剤を調製しようとしてもそれ自身の結合性が低いため調製が困難であり、食物繊維のみの錠剤は知られていなかった。このため、食物繊維含有錠剤の製造においては、食物繊維を結合させるための結合剤や賦形剤などの結合成分を配合することに重点がおかれていた。例えば、滑沢剤として卵殻粉末を使用し、キトサンを錠剤化する技術(例えば、特許文献1参照)、海草類粉末、笹類粉末に水分とキシロオリゴ糖を配合して造粒し、造粒物を乾燥後、打錠し錠剤化する技術(例えば、特許文献2)などが知られている。しかしながら、結合成分を配合することによって単位量あたりの食物繊維含有量が減少し、所定量の食物繊維を摂取するためには、必然的に、多量の錠剤を摂取する必要があった。また、水分を配合することによって、その後に乾燥工程が必要となったり、食物繊維が膨脹し乾燥しても嵩高いままになる。このため、錠剤単位量あたりの食物繊維含有量、工程数、コストなどの面から、結合成分や水分の配合は極力抑制することが望まれる。
【0004】
一方、アロマ製剤(主として天然精油)の塗擦、散布、吸入、咀嚼などにより、覚醒、睡眠、食欲抑制、食欲促進、嫌煙、制吐、抗失神、催淫性、無性欲化等の効果を得られるとして、アロマテラピーが最近注目されている。しかしながら、精油含有錠剤を製造しようとすると、精油成分は油性であるため、通常の賦形剤、滑沢剤にはなじみにくく、油浮きや精油の安定性などの問題が生じ錠剤化が困難であった。
【特許文献1】特開平10−225285号公報
【特許文献2】特開2002−65213号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、本発明は、結合成分の配合を極力抑制した食物繊維含有錠剤、精油を含有する錠剤、これら錠剤の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記従来技術の問題点に鑑み鋭意検討を重ねた結果、それ自身では打錠による錠剤化が困難であると認識されていた食物繊維であるが、アルギン酸ナトリウムを用いて打錠すると錠剤化が可能であること、さらに、賦形剤や滑沢剤と相性の悪い精油が、アルギン酸ナトリウムを打錠して得られる錠剤に安定的に保持されることを見出し本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明は、下記の製造方法及び錠剤を提供するものである。
項1.アルギン酸ナトリウム粉末を打錠するアルギン酸ナトリウム含有錠剤の製造方法。
項2.アルギン酸ナトリウム粉末の平均粒子径が40μm〜180μmである項1に記載の製造方法。
項3.アルギン酸ナトリウム粉末を打錠して得られる錠剤に精油をしみこませることを特徴とする項1又は2に記載の錠剤の製造方法。
項4.精油がパチュリー油、ジャスミン油、サンダルウッド油、バジル油、メリッサ油、ジュニパー油、ラベンダー油及びクローブ油からなる群から選択される少なくとも1種である項3に記載の製造方法。
項5.精油配合量がアルギン酸ナトリウム100重量部に対し0.01〜30重量部である、項3又は4に記載の製造方法。
項6.項1〜5のいずれかの製造方法により得られるアルギン酸ナトリウム含有錠剤。
項7.アルギン酸ナトリウムの含有量が30〜100重量%である項6に記載の錠剤。
本発明はさらに下記の錠剤も包含しうる。
項8.項1〜6のいずれかに記載の錠剤を含有する食品組成物。
項9.項1〜6のいずれかに記載の錠剤を含有する医薬組成物。
【0008】
本発明の製造方法は、アルギン酸ナトリウム粉末を打錠することによりアルギン酸ナトリウム含有錠剤を製造することを特徴とする。なお、本明細書において、アルギン酸ナトリウム粉末を打錠することにより得られる錠剤を「素錠」と称することがある。素錠には、精油をしみこませたり、コーティング、糖衣などを施すことによって様々な形態の錠剤、コーティング錠、糖衣錠、食品組成物、医薬組成物とすることが可能である。
【0009】
アルギン酸ナトリウムは公知物質であり、食品添加物としても知られ、例えば海草類から公知の方法で抽出することにより製造できる。また、アルギン酸ナトリウムは市販されており、株式会社キミカ製、共成製薬株式会社製のものなどが知られている。本発明において使用されるアルギン酸ナトリウムはこれらも使用できるが、これらに限定されず、公知のアルギン酸ナトリウムを広く使用できる。本製造方法においてアルギン酸ナトリウムの分子量(重量平均)は、錠剤化できる範囲内であれば特に制限されないが、通常2万〜12万、好ましくは4万〜7万である。また、アルギン酸ナトリウム粉末の平均粒子径も特に制限されるものではないが、通常10μm〜850μm、好ましくは40μm〜180μmである。
【0010】
次に、本発明の製造方法ではアルギン酸ナトリウム粉末を打錠(直接粉末圧縮、直打)する。食物繊維は打錠によって成型することが困難であると認識されていたが、アルギン酸ナトリウムではそれが可能である。打錠することにより、顆粒物を圧縮する乾式顆粒圧縮法や湿式顆粒圧縮法(間接圧縮法)と比較して工程数を省略できる。打錠にあたっては公知の打錠方法を広く採用することができる。例えば、1又はそれ以上のきね、うすがターンテーブルに取り付けられ、ターンテーブルの1回転により、取り付けられているきね、うすの組数だけ錠剤ができるロータリー(回転式)打錠機、傾斜ローラ型打錠機などを採用することができる。打錠圧は、錠剤の形状や大きさ、アルギン酸ナトリウムの粒径、打錠機の種類などに応じて適宜設定することができるが、通常0.5トン(ton)/cm〜3トン(ton)/cm、好ましくは1トン(ton)/cm〜2トン(ton)/cmである。
【0011】
なお、本発明の製造方法では、打錠性を損なわない範囲であれば、アルギン酸ナトリウム粉末に、賦形剤(乳糖、白糖、D−マンニトール、でんぷん、リン酸水素カルシウムなど)、崩壊剤(でんぷん、カルメロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウムなど)、滑沢剤(ステアリン酸マグネシウム、精製タルク、ステアリン酸、ショ糖脂肪酸エステルなど)、結合剤(結晶セルロース、でんぷんのり液、ヒドロキシプロピルセルロース、カルメロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、アラビアゴム、ゼラチン、トラガント、水、エタノールなど)、その他の適当な添加剤を混合し打錠することもできる。打錠のための原料粉末中のアルギン酸ナトリウム粉末含有量は、通常90重量%以上、好ましくは95重量%以上である。
【0012】
このようにして得られるアルギン酸ナトリウム含有錠剤(素錠)は、それ自身が食物繊維錠として有用である。このため、健康食品、機能性食品、特定保健用食品、病者用食品等としても有用である。錠剤の形状、大きさは、服用に適した形状、大きさであれば特に限定されず、例えば円型、楕円型、角型などで重量が100〜800mg、大きさが6〜12mmφであり、好ましくは、円型で重量が400〜600mgであり、大きさが7〜10mmφである。
【0013】
前記のように、素錠には、精油をしみこませたり、コーティング、糖衣などを施すことによって様々な形態の錠剤、コーティング錠、糖衣錠、食品組成物、医薬組成物とすることが可能である。これらの形態におけるアルギン酸ナトリウム含有量は通常、30〜100重量%、好ましくは50〜100重量%、より好ましくは80〜100重量%、よりいっそう好ましくは90〜100重量%である。単位量あたりのアルギン酸ナトリウム量を大きくすることが求められる場合には上記の範囲のうち、狭い範囲を選択することができる。
【0014】
上記のアルギン酸ナトリウム含有錠剤(素錠)は精油との相性が良く、この素錠に精油をしみこませることによって、精油が油浮きせず、安定に精油が保持された錠剤を得ることができる。精油をしみこませる方法としては、素錠に精油を滴下する方法、素錠に精油を噴霧する方法、素錠に精油を含浸する方法、素錠と精油に対して減圧・昇圧を組み合わせて含浸する方法、中空状膨化処理した素錠の少なくとも内部表面に精油を含浸させる方法など、液体を錠剤に保持させる公知の方法を採用することができる。好ましくは、素錠に精油を滴下する方法、素錠に精油を噴霧する方法、素錠に精油を含浸する方法である。
【0015】
精油としては、パチュリー油、アニス油、サイプレス油、シダーウッド油、ショウノウ油、ジュニパー油、タイム油、ヒソップ油、ベルガモット油、ユーカリ油、安息香油、乳香油、ターペンタイン油、パイン油、セージ油、オレガノ油、カミルレ油、クラリセージ油、シナモン油、ゼラニウム油、バラ油、マージョラム油、ラベンダー油、没薬油などが挙げられ、これらのうち1種単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。好ましくはパチュリー油、ジャスミン油、サンダルウッド油、バジル油、メリッサ油、ジュニパー油、ラベンダー油、クローブ油である。特にパチュリー油はアルギン酸ナトリウムに保持された場合に安定性に優れる。また、パチュリー油は排便に効果のあることが知られているためアルギン酸ナトリウムの有する便通作用を増強する。さらに本発明者はパチュリー油がアルギン酸ナトリウムによるお腹のはりを抑制することを確認しており、その点でもパチュリー油は好ましい。また、精油の配合量は素錠中のアルギン酸ナトリウム100重量部に対し、通常0.01〜30重量部、好ましくは1〜5重量部である。
なお、素錠には精油の他の成分を添加することもでき、例えば、精油以外の香料、着色料、賦形剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤などの食品組成物、医薬組成物で使用されている添加物が挙げられる。素錠にこれら他の成分を添加し、常法により食品組成物、医薬組成物を製造することができる。また、素錠(精油をしみこませられた素錠も含む)は必要に応じて、コーティング錠(例えば、圧縮コーティング錠、膠衣錠、糖衣錠、フィルムコーティング錠など)とすることも可能である。コーティングの方法は常法により可能であり、コーティングのための成分(例えば、エチルセルロース、カゼイン、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、メタアクリル酸コポリマー、酢酸フタル酸セルロース、セラック、ゼラチン、アラビアゴム末、白糖、白ロウ、カルナウバロウなど)も公知のものを広く採用できる。
【0016】
本発明の錠剤及び組成物の摂取量は、摂取する人の年齢、体重、性別、摂取の目的、体調等に応じて適宜決定でき、特に限定されるものではないが、通常、アルギン酸ナトリウムの摂取量が1日成人1人当たり、0.01〜4g程度、好ましくは1〜3g程度となるような量を、1日に1回又は数回に分けて摂取することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、直接粉末圧縮によりアルギン酸ナトリウムを錠剤化できるため、アルギン酸ナトリウムのみの錠剤を調製することができる。その結果、単位量あたりの食物繊維量に優れた錠剤を得ることができる。また、他の錠剤成型法と比較して、工程数が少ない点や高温を必要としない点で有利である。さらに、本発明の錠剤は精油との相性が良く、油浮きが抑制され、精油が安定的に錠剤に保持される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を実施例及び比較例を用いて、より詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0019】
実施例1
1kgのアルギン酸ナトリウム粉末(平均粒子径80μm、キミカアルギン、株式会社キミカ製)を単発打錠機(菊水製作所製)にて打錠圧2トン/cmで打錠した。500mg/個の錠剤(円型)が得られた。
この錠剤を指でつまんでも崩壊することなく、また 、歯でも噛み砕けない程度に硬く、チャック袋で携帯し通常の生活を行っても割れ、ひび、欠け等も確認されず、さらに、1ヶ月チャック袋で保存しても、割れ、ひび、欠け等が無かったことから、実用に際して十分な硬度及び保形性を有していた。
また、打錠機のきね及びうすへのアルギン酸ナトリウム粉末の付着はほとんどなく、量産可能なレベルであった。
【0020】
実施例2
実施例1で得られた錠剤に1錠当たり26mgのパチュリミントオイル(稲畑香料株式会社製)を滴下し1〜2時間静置し、浸透させた。
得られた錠剤を指でつまんでもオイルが指に付着することはなかった。また、この錠剤を常温で1ヶ月間チャック付きビニール袋中で保存した後、オイル量を測定(錠剤重量を電子天秤(ザルトリウス株式会社製)にて測定し、重量変化をみた)したところ、ほとんど変化しておらず、精油の保持が確認された。
また 、歯でも噛み砕けない程度に硬く、チャック袋で携帯し通常の生活を行っても割れ、ひび、欠け等も確認されず、さらに、1ヶ月チャック袋で保存しても、割れ、ひび、欠け等が無かったことから、実用に際して十分な硬度及び保形性を有していた。
【0021】
比較例1
アルギン酸ナトリウム粉末に代えてソルビトール(賦形剤、平均粒子径120μm)を使用し、実施例1と同じ条件で打錠し、得られた錠剤に実施例2と同じ条件でパチュリミントオイルを滴下した。
打錠により一応、成型できたが、表面は粘性を有し、打錠機のきね及びうすにソルビトールが付着しスティッキングを生じており、打錠毎にきね及びうすの清掃が必要となり、量産性がよくなかった。また、オイルを滴下された錠剤は、3時間後及び24時間後も表面にオイル分が浮いており、指でつまむとベタベタしていた。この錠剤を常温でチャック付きビニール袋中に保存し、3日後に観察すると錠剤が袋に付着した。
【0022】
比較例2
651gのアルギン酸ナトリウム、35gのパチュリミントオイル及び14gショ糖脂肪酸エステル(滑沢剤、平均粒子径120μm、DKエステルF−20W、第一製薬工業株式会社製)を混合した。この混合物を実施例1と同条件で打錠したところ、混合物の粉が非常にさらさらであり、錠剤として成型できなかった。
【0023】
比較例3
38gのアルギン酸ナトリウム及び2gのパチュリミントオイルを混合した。混合物の粉は流動性が悪かったため、安息角を測定(三輪式円筒回転法安息角測定器(筒井理化学器械株式会社製))したところ65度であった。安息角が45度を超えると粉の流動性が悪くなり、打錠機への供給がスムーズに行われない。このため打錠機による量産は困難であった。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明は食物繊維錠剤、食物繊維含有組成物の分野で有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルギン酸ナトリウム粉末を打錠するアルギン酸ナトリウム含有錠剤の製造方法。
【請求項2】
アルギン酸ナトリウム粉末の平均粒子径が40μm〜180μmである請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
アルギン酸ナトリウム粉末を打錠して得られる錠剤に精油をしみこませることを特徴とする請求項1又は2に記載の錠剤の製造方法。
【請求項4】
精油がパチュリー油、ジャスミン油、サンダルウッド油、バジル油、メリッサ油、ジュニパー油、ラベンダー油及びクローブ油からなる群から選択される少なくとも1種である請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
精油配合量がアルギン酸ナトリウム100重量部に対し0.01〜30重量部である、請求項3又は4に記載の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかの製造方法により得られるアルギン酸ナトリウム含有錠剤。
【請求項7】
アルギン酸ナトリウムの含有量が30〜100重量%である請求項6に記載の錠剤。

【公開番号】特開2006−273826(P2006−273826A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−100266(P2005−100266)
【出願日】平成17年3月30日(2005.3.30)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2005年2月1日 日本薬学会年会Webページ(http://nenkai.pharm.or.jp/125/pc/ipdfview.asp?i=200)にて発表
【出願人】(000186588)小林製薬株式会社 (518)
【Fターム(参考)】