説明

アルケンの製造方法

【課題】穏和な条件下でアルカンの脱水素反応を効率的に進行させる方法を提供する。
【解決手段】触媒の存在下、アルカン(飽和炭化水素)を脱水素反応させてアルケン(不飽和炭化水素)を製造する方法であって、前記触媒は、周期表の第8−10族に属する遷移金属元素を含む有機金属化合物触媒であり、前記脱水素反応をアミン化合物の存在下に二酸化炭素雰囲気下で行う。好ましい反応例として、0.2〜30MPaの範囲の圧力の二酸化炭素雰囲気下、遷移金属錯体触媒とアミン化合物の存在下にアルカンの脱水素反応を40〜250℃の範囲でおこなう。副生する水素ガスは二酸化炭素と反応しギ酸誘導体へと誘導されるため、一旦生成したアルケンと水素ガスの反応でもとのアルカンに戻る反応が抑制され、その結果所望のアルケンの収量が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルケン(不飽和炭化水素)の製造方法に関するものである。アルケンは化成品、精密化学品及びプラスチックの原料として広く利用されており、またギ酸及びその誘導体は溶剤、染色助剤、皮なめし剤、スプレー剤などの化学工業原料として広い用途がある。
【背景技術】
【0002】
従来からアルケンの製造方法は様々な方法が提案されており、非常に不活性な炭素−水素結合を効率よく活性化して様々な化合物に変換するための方法が盛んに検討されている。その中でも、穏和な反応条件下でアルカンから水素を脱離させ、アルケンを生成させる方法は盛んに検討されてきた。例えば、非特許文献1には、光照射下でRhCl(CO)[P(CH錯体触媒を用いてアルカンを脱水素する方法が提案されている。この方法では、反応の進行に伴って発生する水素が生成物のアルケンと反応し、もとのアルカンに戻る(逆)反応が起こるため、目的とするアルケンの生成量は十分でないという問題がある。また、生成する水素ガスは反応系外に放出され、無駄になってしまうという問題がある。
【0003】
アルケンの生成の効率を高めるためにいくつかの方法が提案されている。例えば、非特許文献2には、連続的な還流により副生する水素を除去する方法が提案されている。また、非特許文献3には、アルゴンガスを吹き込むことで水素を除去する方法が提案されている。これらの手法では、やはり生成する水素ガスが反応系外に放出され、無駄になってしまうという問題がある。また、経済面からは反応系内に導入するアルゴンガスのコストも無視できない。
【0004】
また、500℃以上の温度において、0.05−0.08MPaの減圧下、鉄、カリウムなどからなる酸化物を触媒としてエチルベンゼンからスチレンなどを製造する際に、反応の効率を向上させるために二酸化炭素を共存させる技術が知られている(非特許文献4)。この場合、二酸化炭素の一部は副生する水素と反応して一酸化炭素と水へと変換され、スチレンの平衡収率の増加や水蒸気を用いる現行プロセスにおける凝縮潜熱の損失の回避による省エネルギー効果が期待されているが、この方法では反応によって有害な一酸化炭素が生成することや、副生成物の水が化学工業原料として利用価値が低いことなどの点で問題がある。
【0005】
このような問題を解決するために、非特許文献5、6には、3,3−ジメチルブテンやノルボルネンなどの水素受容体を共存させて、その受容体に水素を移動させる方法が提案されている。
【非特許文献1】T.Sakakura, T.Sodeyama, Y.Tokunaga, M.Tanaka, Chem. Lett. 1988,263.
【非特許文献2】T.Fujii, Y.Higashino, Y.Saito, J.Chem.Soc., Dalton Trans. 1993,517.
【非特許文献3】T.Aoki, R.H.Crabtree, Organometallics 1993,12,294.
【非特許文献4】M.Sugino, H.Shimada, T.Turuda, H.Miura, N.Ikenaga, T.Suzuki, Appl. Catal. A 1995,121,125.
【非特許文献5】D.Baudry, M.Ephritikhine, H.Felkin, J.Zakrzewski, J.Chem.Soc., Chem. Commun. 1982,1235.
【非特許文献6】D.Michos, X.-L. Luo, J.W.Faller, R.H.Crabtree. Inorg. Chem. 1993,32,1370.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、このような方法においては、反応系全体では炭素−炭素二重結合の数は増加しておらず、また、犠牲となる水素受容体よりも高価なアルケン(目的物)の製造のときでなければ、経済的に見て意味のあるプロセスとはいえない、などの問題点がある。従来よりもさらにアルケンを効率よく生成し、しかも系内で発生する副生成物を有効に活用する効率的で無駄のないプロセスが求められている。
【0007】
本発明は、前記従来の問題を解決するため、従来よりもさらにアルケンを効率よく生成し、しかも反応系内で発生する副生成物を有効に活用する効率的で無駄のないアルケンの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のアルケンの製造方法は、触媒の存在下、アルカン(飽和炭化水素)を脱水素反応させてアルケン(不飽和炭化水素)を製造する方法であって、前記触媒は、周期表の第8−10族に属する遷移金属元素を含む有機金属化合物触媒であり、前記脱水素反応をアミン化合物の存在下に二酸化炭素雰囲気下で行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明のアルケンの製造方法は、アルケンを効率よく生成し、しかも反応系内で発生する副生成物を有効に活用する効率的で無駄のないアルケンの製造方法を提供できる。さらに、所望のアルケンの生成効率が向上するとともに、副生する水素ガスの一部を有効に利用して産業上有用なギ酸誘導体も合わせて製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明者らは、二酸化炭素中、アミン化合物の存在下で上記の脱水素反応を行うと、系中の水素が有効に利用されギ酸(誘導体)が生成するのに伴い、生成物のアルケンの生成量が向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、特定の有機金属化合物を触媒に用いて、穏和な条件下、二酸化炭素雰囲気下でアルカンを脱水素し効率よくアルケンを生成する反応を行う方法を提供する。副生成物として生じる水素ガスの一部は二酸化炭素と反応し、ギ酸誘導体へと変換される。このため逆反応が抑制され、アルケンの収量が向上する。
【0012】
この反応は下記式(化1)のように進む。
【0013】
【化1】

【0014】
(但し、R,Rはいずれも水素、アルキル基、アリール基またはアラルキル基を示し、R,Rは互いに同じでも異なっていてもよい。)
本発明においては、原料のアルカンは、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン及びこれらの混合物から選ばれる少なくとも一つであることが好ましい。前記の原料に換えて、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、シクロオクタン、エチルベンゼン及びこれらの混合物から選ばれる少なくとも一つを用いることもできる。
【0015】
使用する触媒は、周期表の第8−10族に属する遷移金属元素を含むものである。
【0016】
前記触媒は、
(A1) RhCl(CO)[P(CH
(A2) RhCl[P(CH
(A3) [RhCl[P(CH
(A4) RhCl(CO)[As(CH
(A5) [RhCl[As(CH
(A6) [RhCl[As(C
(A7) RhCl[As(C
(A8) Ir(OCOCF)[P(cyclo−C11
(A9) Ir(OCOCF)[P(C−p−F)
(A10) IrH{C−2,6−[CHP(iso−C]}及び
(A11) IrH{C−2,6−[CHP(tert−C]}からなる群(A群)から選ばれる少なくとも一つの化合物と、
(B1) RuH[P(CH
(B2) RuHCl[P(CH
(B3) RuCl[P(CH
(B4) RuCl(OCOCH)[P(CH
(B5) RuCl(OCOCF)[P(CH及び
(B6) RuCl(OCOCF)[P(Cからなる群(B群)から選ばれる少なくとも一つの化合物を組み合わせることが好ましい。
【0017】
前記触媒の組み合わせは、前記A群に属する錯体触媒として、
(A1) RhCl(CO)[P(CH
(A2) RhCl[P(CH
(A3) [RhCl[P(CH
(A4) RhCl(CO)[As(CH
(A5) [RhCl[As(CH及び
(A6) [RhCl[As(C
から選ばれる少なくとも一つと、
前記B群に属する錯体触媒として、
(B1) RuH[P(CH
(B2) RuHCl[P(CH
(B3) RuCl[P(CH及び
(B4) RuCl(OCOCH)[P(CH
から選ばれる少なくとも一つを任意に組み合わせるのがさらに好ましい。
【0018】
使用するアミン化合物は、ジメチルアミン、トリメチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、ジプロピルアミン、トリプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、ジブチルアミン、ジシクロヘキシルアミン、ピロリジン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、N,N,N’,N’−テトラメチルジアミン、もしくはこれらのアミン化合物と二酸化炭素の複合体(塩)のいずれか又はこれらの混合物であることが好ましい。
【0019】
以下、本発明をさらに詳しく説明する。
【0020】
本発明の方法で使用するアルカンはとくに限定はされず、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカンなどの直鎖状飽和炭化水素、シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、シクロデカンなどの脂環式飽和炭化水素が挙げられるのはもちろん、エチルベンゼン、インダン、1,2,3,4−テトラヒドロナフタレンなど芳香族炭化水素の飽和炭化水素置換基も含まれる。中でも好ましくはヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ドデカン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、シクロデカン、エチルベンゼン、インダンであり、更に好ましくはヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、シクロオクタン、エチルベンゼンである。
【0021】
本発明の目的に合致した触媒は、周期表の第8−10族に属する遷移金属元素を含む。さらに詳細に述べるならば、以下に1群及び2群として例示する化合物(群)の中から、それぞれ少なくとも1つを選んで組み合わせる。1群に属する化合物としては、RhCl(CO)[P(CH、RhCl[P(CH、[RhCl[P(CH、RhBr(CO)[P(CH、RhBr[P(CH、[RhBr[P(CH、RhCl(CO)[P(C、RhCl[P(C、[RhCl[P(C、RhBr(CO)[P(C、RhCl[P(C、[RhBr[P(C、RhCl(CO)[As(CH、RhCl[As(CH、[RhCl[As(CH、RhCl(CO)[As(C、RhCl[As(C、[RhCl[As(Cなどのロジウム錯体、Ir(OCOCH)[P(CH、Ir(OCOCH)[P(cyclo−Cll、Ir(OCOCH)[P(C−p−F)、Ir(OCOCF)[P(CH、Ir(OCOCF)[P(cyclo−C11、Ir(OCOCF)[P(C−p−F)、IrH{C−2,6−[CHP(iso−C]}、IrH{C−2,6−[CHP(tert−C]}、IrH{C−2,6−[CHP(cyclo−C11]}などのイリジウム錯体などが挙げられる。中でも好ましいのは、RhCl(CO)[P(CH、RhCl[P(CH、[RhCl[P(CH、RhCl(CO)[P(C、RhCl[P(C、[RhCl[P(C、RhCl[As(C、[RhCl[As(C、Ir(OCOCH)[P(cyclo−C11、Ir(OCOCH)[P(C−p−F)、Ir(OCOCF)[P(cyclo−C11、Ir(OCOCF)[P(C−p−F)、IrH{C−2,6−[CHP(iso−C]}、IrH{C−2,6−[CHP(tert−C]}、IrH{C−2,6−[CHP(cyclo−C11]}であり、さらに好ましいのはRhCl(CO)[P(CH、[RhCl[P(CH、RhCI[As(C、[RhCl[As(C、Ir(OCOCF)[P(cyclo−C11、Ir(OCOCF)[P(C−p−F)、IrH{C−2,6−[CHP(iso−C]}、IrH{C−2,6−[CHP(tert−C]}である。これらは単独で用いてもよく、また2種類以上を併用してもよい。
【0022】
また、2群に属する錯体触媒の具体例としては、RuH[P(CH、RuHCl[P(CH、RuH[P(C、RuCl[P(CH、RuCl[P(C、RuCl(OCOCH)[P(CH、RuCl(OCOCH)[P(C、RuCl(OCOCF)[P(CH、RuCl(OCOCF)[P(C、TpRuH(CHCN)[P(CH](ただし、Tpはヒドリドトリス(ピラゾリル)ボレート基を表す)、TpRuH(CHCN)[P(C]、[RuCl(CO)]n(nは不特定の自然数を表す)、Ru(CO)(DPPM)(DPPMはビス(ジフェニルホスフィノ)メタンを表す)などのルテニウム化合物、RhCl[P(C、RhCl[P(C−m−SONa)などのロジウム化合物、[RhH(COD)]とDPPB(CODは1,5−シクロオクタジエンを表し、DPPBは1,4−ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタンを表す)を混合して得られる化合物、ならびに、[RhCl(COD)]とDPPBを混合して得られるロジウム化合物、PdCl、PdBrなどのパラジウム化合物が挙げられる。中でも好ましくはRuH[P(CH、RuHCl[P(CH、RuH[P(C、RuCl[P(CH、RuCl[P(C、RuBr[P(C、[RuCl(CO)]n、Ru(CO)(DPPM)、RhCl[P(C、RhCl[P(C−m−SONa)であり、とくに好ましいものはRuH[P(CH、RuHCl[P(CH、RuCl[P(CH、RuCl(OCOCH)[P(CH、RuCl(OCOCF)[P(CH、RuCl(OCOCF)[P(Cである。これらは単独で用いてもよく、また2種類以上を併用してもよい。
【0023】
上記の各群に属する触媒の組み合わせについては、組み合わせることにより各触媒のもつ触媒作用を阻害しあうことがない限り制約を受けない。その中でも好ましい組み合わせとしては、1群に属する錯体触媒として、RhCl(CO)[P(CH、RhCl[P(CH、[RhCl[P(CH、RhCl(CO)[As(CH、[RhCl[As(CH、[RhCl[As(C、Ir(OCOCH)[P(cyclo−C11、Ir(OCOCH)[P(C−p−F)、Ir(OCOCF)[P(cyclo−C11、Ir(OCOCF)[P(C−p−F)を選び、また2群に属する錯体触媒として、RuH[P(CH、RuHCl[P(CH、RuCl[P(CH、RuCl(OCOCH)[P(CH、RuCl(OCOCF)[P(CH、RuCl[P(C、RuBr[P(Cを選び、これらを任意に組み合わせて用いる。さらに好ましい組み合わせは、1群に属する錯体触媒として、RhCl(CO)[P(CH、RhCl[P(CH、[RhCl[P(CH、RhCl(CO)[As(CH、[RhCl[As(CH、[RhCl[As(Cを選び、また2群に属する錯体触媒として、RuH[P(CH、RuHCl[P(CH、RuCl[P(CH、RuCl(OCOCH)[P(CHを選び、これらを任意に組み合わせて用いる。
【0024】
上記の触媒を用いる場合には、触媒の活性を向上させるために適正な波長の光の照射下に反応をおこなってもよい。この場合、好ましい光の波長は用いる触媒の種類に応じて適宜選択される。
【0025】
本発明においては、アルケンの生成量を増大させるために、アルカンの脱水素反応の進行にともなって生成する水素ガスを二酸化炭素と反応させてギ酸又はその誘導体に変換することにより除去する。ギ酸の生成量を増大させるためには、アミン化合物などの塩基性化合物を反応系に添加しておく必要がある。
【0026】
本発明の目的に合致したアミン化合物としては、特に限定はされず、具体例として、ジメチルアミン、トリメチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、ジブチルアミン、ジシクロヘキシルアミン、ピロリジン、ピペリジン、モルホリン、N−メチルモルホリンなどの脂肪族アミン類、イミダゾール、1−メチルイミダゾール、2−メチルイミダゾール、4−メチルイミダゾール、ピリジン、2−メチルピリジン、3−メチルピリジン、4−メチルピリジン、2,3−ジメチルピリジン、2,4−ジメチルピリジン、2,5−ジメチルピリジン、2,6−ジメチルピリジン、3,4−ジメチルピリジン、3,5−ジメチルピリジン、2−(ジメチルアミノ)ピリジン、3−(ジメチルアミノ)ピリジン、4−(ジメチルアミノ)ピリジンなどのピリジン類、エチレンジアミン、N,N−ジメチルエチレンジアミン、N,N’−ジメチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタンなどのジアミン類などが挙げられる。中でも好ましくはジメチルアミン、トリメチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、ジブチルアミン、ジシクロヘキシルアミン、ピロリジン、ピペリジン、モルホリン、N−メチルモルホリン、イミダゾール、1−メチルイミダゾール、2−メチルイミダゾール、4−メチルイミダゾール、ピリジン、2−メチルピリジン、3−メチルピリジン、4−メチルピリジン、2−(ジメチルアミノ)ピリジン、4−(ジメチルアミノ)ピリジン、エチレンジアミン、N,N−ジメチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.O]−7−ウンデセン、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタンであり、更に好ましくは、ジメチルアミン、トリメチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、ジプロピルアミン、トリプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、ジブチルアミン、ジシクロヘキシルアミン、ピロリジン、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタンである。これらのアミン化合物は単独で用いてもよく、また2つ以上の塩基性化合物を組み合わせて用いてもよいが、用いる触媒によっては当該アミン化合物自体が反応に関与する場合があるので、この点を回避すべく適宜選択する。
【0027】
添加するアミン化合物によっては、生成するギ酸はアミン化合物との塩として単離されることもあり、またホルムアミド及びその誘導体として単離される場合もある。
【0028】
これらのアミン化合物はそのままで用いてもよく、また予め二酸化炭素と複合体(塩)を形成させ、この複合体(塩)として反応系内に導入してもよい。
【0029】
アミン化合物として1級又は2級アミンを用いる場合には、それらが生成物であるアルケンと反応して別なアミンやイミンを生成する可能性があるが、当該反応系では1級又は2級アミンは二酸化炭素と複合体を形成するので、このような副反応は起こることなく反応が進行する。
【0030】
アミン化合物の使用量は、上記のいずれを用いる場合においても特に制約はなく、満足する反応速度とアルケンおよびギ酸誘導体の収率を達成するよう適宜決める。一般的にはアルカン1モルに対して0.001〜1モルの範囲、好ましくは0.005〜0.1モルの範囲である。
【0031】
触媒のうちA群に属する有機金属化合物の使用量は、上記のいずれを用いる場合においても特に制約はなく、満足する反応速度と目的物の収率を達成するよう適宜決める。一般的にはアルカン1モルに対して0.0001〜1モルの範囲、好ましくは0.0005〜0.1モルの範囲である。
【0032】
また、触媒のうちB群に属する有機金属化合物の使用量は、上記のいずれを用いる場合においても特に制約はなく、満足する反応速度と目的物の収率を達成するよう適宜決める。一般的にはアルカン1モルに対して0.0001〜1モルの範囲、好ましくは0.0005〜0.1モルの範囲である。
【0033】
アミン化合物とB群に属する有機金属化合物の添加量の比は、上記のいずれを組み合わせる場合においても特に制約はなく、満足する反応速度と目的物の収率を達成するよう適宜決める。
【0034】
本発明の方法で使用する二酸化炭素は炭酸ガス、液体炭酸、固体炭酸のいずれの状態のものでも使用することができる。使用される二酸化炭素の量は特に制限されるものではないが、反応圧力は好ましくは2〜30MPa、更に好ましくは8〜20MPaである。
【0035】
本発明の方法では、40℃以上に加熱して反応させる。好ましくは50〜250℃であり、更に好ましくは80〜200℃である。反応の際の時間及び圧力は、用いる原料の量や反応温度等により異なり一様ではないが、反応時間は通常200時間以内であり、好ましくは0.1〜150時間、更に好ましくは1〜100時間である。
【0036】
本発明の方法では、通常、当該アルカン中で反応を行うが、場合によっては他の溶媒を併用することもできる。使用できる溶媒としては、反応を阻害しなければどのような溶媒でも構わず、そのような溶媒としては、2,2,4,4−テトラメチルヘキサン、2,2,5,5−テトラメチルヘキサン、2,2,6,6−テトラメチルヘプタン、1,4−ジーtert−ブチルベンゼン、1,3,5−トリーtert−ブチルベンゼン、1,3,5−トリーtert−ブチルピリジンなどを例示することができる。また、これらの溶媒は単独でも、又は二種以上を同時に用いることもできる。
【0037】
これらの溶媒の使用量としては、使用する原料の少なくとも何れかを溶解させるに充分な量であり、通常、原料であるアルカンに対して200重量比以下、好ましくは50重量比以下である。
【0038】
反応条件によっては、反応系は均一一相系、気液二相系、気液固三相系などさまざまな相状態を取りうるが、目的物の満足できる収率が確保される限りにおいてこの相状態は問題とならない。
【0039】
本発明の方法の実施形態としては特に制限されるものではなく、使用される原料が他の原料と効果的に混合され接触しうる方法であればいかなる方法でも良く、回分式、半回分式又は連続流通式の何れでも構わない。例えば、すべての原料を一括して反応器に仕込む方法、少なくとも一つの原料に他の原料を連続的又は間欠的に供給する方法、又はすべての原料を連続的又は間欠的に供給する方法等を使用することができる。
【0040】
本発明の一例の製造プロセスを図1に示す。図1において、1はオートクレーブ型反応器、2は観察窓、3はカートリッジヒーター、4は攪拌子、5はマグネチックスターラー、V1,V2はストップバルブである。図1の反応装置を使用して、反応器1を0.2〜30MPaの範囲の圧力の二酸化炭素雰囲気とし、遷移金属錯体触媒とアミン化合物の存在下にアルカンの脱水素反応を40〜250℃の範囲でおこなう。副生する水素ガスは二酸化炭素と反応しギ酸誘導体へと誘導されるため、一旦生成したアルケンと水素ガスの反応でもとのアルカンに戻る反応が抑制される。その結果所望のアルケンの収量が向上する。
【実施例】
【0041】
以下に実施例及び比較例を示し、本発明をより具体的に説明する。但し、本発明は実施例に限定されない。なお、以下の実施例では、照射する紫外線はウシオ電機社製スポットUV照射装置、型式SP7−250Dを用いて発生させた。アルケン及びギ酸誘導体の生成量はいずれもH NMR測定から評価した。
【0042】
(比較例1)
サファイアガラス製の窓がついたSUS316ステンレス製オートクレーブ(内容積30mL)にシクロオクタンを4.2g、RhCl(CO)[P(CHを0.017g加え、紫外線の照射下に50℃で60時間加熱した。オートクレーブを0℃に冷却したのち、反応混合物を単離し、H NMRで分析した。シクロオクテンの収量は0.30gであった。
【0043】
(実施例1)
比較例1と同じ反応容器にシクロオクタンを4.2g、トリエチルアミンを0.50g、RhCl(CO)[P(CHを0.017g、RuCl(OCOCH)[P(CHを0.007g加え、反応系の圧力が15MPaになるまで二酸化炭素を加えたのち、紫外線の照射下に50℃で60時間加熱した。オートクレーブを0℃に冷却したのち、反応混合物を単離し、H NMRで分析した。シクロオクテンの収量は0.61g、ギ酸の生成量は0.20gであった。
【0044】
(実施例2)
比較例1と同じ反応容器にシクロオクタンを4.2g、トリエチルアミンを1.0g、RhCl(CO)[P(CHを0.051g、RuCl[P(CHを0.021g加え、反応系の圧力が15MPaになるまで二酸化炭素を加えたのち、紫外線の照射下に50℃で60時間加熱した。オートクレーブを0℃に冷却したのち反応混合物を単離し、H NMRで分析した。シクロオクテンの収量は1.4g、ギ酸の生成量は0.48gであった。
【0045】
(実施例3)
比較例1と同じ反応容器にシクロオクタンを4.2g、ジメチルアンモニウム N,N−ジメチルカルバメートを4.0g、RhCl(CO)[P(CHを0.017g、RuCl[P(CHを0.007g加え、反応系の圧力が8MPaになるまで二酸化炭素を加えたのち、紫外線の照射下に100℃で60時間加熱した。オートクレーブを0℃に冷却したのち、反応混合物を単離し、H NMRで分析した。シクロオクテンの収量は0.47g、N,N−ジメチルホルムアミドの生成量は0.21gであった。
【0046】
(実施例4)
比較例1と同じ反応容器にシクロオクタンを4.2g、ジメチルアンモニウム N,N−ジメチルカルバメートを4.0g、RhCl(CO)[P(CHを0.017g、RuCl[P(CHを0.007g加え、反応系の圧力が15MPaになるまで二酸化炭素を加えたのち、紫外線の照射下に100℃で60時間加熱した。オートクレーブを0℃に冷却したのち、反応混合物を単離し、H NMRで分析した。シクロオクテンの収量は0.61g、N,N−ジメチルホルムアミドの生成量は0.31gであった。
【0047】
(比較例2)
比較例1と同じ反応容器にシクロオクタンを4.2g、アセトンを0.29g、RhCl(CO)[P(CHを0.017g、RuCl[P(CHを0.007g加え、反応系の圧力が15MPaになるまで二酸化炭素を加えたのち、紫外線の照射下に50℃で60時間加熱した。オートクレーブを0℃に冷却したのち、反応混合物を単離し、H NMRで分析した。シクロオクテンの収量は0.27gであった。
【0048】
(比較例3)
RhCl(CO)[P(CH0.017gの代わりに下記化学式(化2)に示すロジウム化合物0.026gを用い、反応温度を150℃に変えた以外は比較例1と同様の操作をおこなった。
【0049】
【化2】

【0050】
冷却後に単離した反応混合物を1H NMRで分析したところ、シクロオクテンの収量は0.27gであった。
【0051】
(比較例4)
比較例1と同じ反応容器にシクロオクタンを4.2g、トリエチルアミンを0.50g、RuCl(OCOCH)[P(CHを0.007g、及び前記化学式(化2)に示すロジウム化合物を0.026g加え、反応系の圧力が15MPaになるまで二酸化炭素を加えたのち、紫外線の照射下に150℃で60時間加熱した。オートクレーブを0℃に冷却したのち、反応混合物を単離し、H NMRで分析したところ、シクロオクテンの収量は0.25gであった。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】図1は本発明の一例の製造プロセスを示す概略図である。
【符号の説明】
【0053】
1 オートクレーブ型反応器
2 観察窓
3 カートリッジヒーター
4 攪拌子
5 マグネチックスターラー
V1,V2 ストップバルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒の存在下、アルカン(飽和炭化水素)を脱水素反応させてアルケン(不飽和炭化水素)を製造する方法であって、
前記触媒は、周期表の第8−10族に属する遷移金属元素を含む有機金属化合物触媒であり、
前記脱水素反応をアミン化合物の存在下に二酸化炭素雰囲気下で行うことを特徴とするアルケンの製造方法。
【請求項2】
前記アミン化合物は、ジメチルアミン、トリメチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、ジプロピルアミン、トリプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、ジブチルアミン、ジシクロヘキシルアミン、ピロリジン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、N,N,N’,N’−テトラメチルジアミン、及びこれらのアミン化合物と二酸化炭素の複合体(塩)から選ばれる少なくとも一つである請求項1に記載のアルケンの製造方法。
【請求項3】
前記アルカンは、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、シクロオクタン及びエチルベンゼンから選ばれる少なくとも一つである請求項1に記載のアルケンの製造方法。
【請求項4】
前記触媒は、
(A1) RhCl(CO)[P(CH
(A2) RhCl[P(CH
(A3) [RhCl[P(CH
(A4) RhCl(CO)[As(CH
(A5) [RhCl[As(CH
(A6) [RhCl[As(C
(A7) RhCl[As(C
(A8) Ir(OCOCF)[P(cyclo−C11
(A9) Ir(OCOCF)[P(C−p−F)
(A10) IrH{C−2,6−[CHP(iso−C]}及び
(A11) IrH{C−2,6−[CHP(tert−C]}からなる群(A群)から選ばれる少なくとも一つの化合物と、
(B1) RuH[P(CH
(B2) RuHCl[P(CH
(B3) RuCl[P(CH
(B4) RuCl(OCOCH)[P(CH
(B5) RuCl(OCOCF)[P(CH
(B6) RuCl(OCOCF)[P(Cからなる群(B群)から選ばれる少なくとも一つの化合物を組み合わせる請求項1に記載のアルケンの製造方法。
【請求項5】
前記触媒の組み合わせは、前記A群に属する錯体触媒として、
(A1) RhCl(CO)[P(CH
(A2) RhCl[P(CH
(A3) [RhCl[P(CH
(A4) RhCl(CO)[As(CH
(A5) [RhCl[As(CH及び
(A6) [RhCl[As(C
から選ばれる少なくとも一つと、
前記B群に属する錯体触媒として、
(B1) RuH[P(CH
(B2) RuHCl[P(CH
(B3) RuCl[P(CH及び
(B4) RuCl(OCOCH)[P(CH
から選ばれる少なくとも一つを任意に組み合わせる請求項1に記載のアルケンの製造方法。
【請求項6】
前記アルケンを製造する条件は、0.2〜30MPaの範囲の圧力の二酸化炭素雰囲気下、遷移金属錯体触媒とアミン化合物の存在下にアルカンの脱水素反応を40〜250℃の範囲でおこない、副生する水素ガスは二酸化炭素と反応しギ酸誘導体へと誘導する請求項1〜5のいずれかに記載のアルケンの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−342137(P2006−342137A)
【公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−171356(P2005−171356)
【出願日】平成17年6月10日(2005.6.10)
【出願人】(000156938)関西電力株式会社 (1,442)
【Fターム(参考)】