説明

アルコキシヒドロシランの製造方法

【課題】アルコキシヒドロシランの製造方法
【解決手段】(RSiX4−(a+b)
(式中、Rは独立に、水素原子または置換あるいは非置換の炭素原子数1から20の炭化水素基である。Xは独立に、ハロゲン原子である。aは0〜2の数を表わし、bは1〜3の数を表わし、a+bは4未満の数を表す)
で示されるハロヒドロシラン化合物(B)と、ハロヒドロシラン化合物(B)に対し0.50〜0.99モル当量のアルコール(C)とを反応させ(反応1)、次いで、残留するSi−Xに対し1.00モル当量以上のオルトエステル(D)と反応させる(反応2)、
一般式(4)
(RSi(OR4−(a+b) (4)
(式中、R、R、a、b、cは前記と同じ。)で示されるアルコキシヒドロシラン(A)の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルコキシヒドロシランの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般式(4):
(RSi(OR4−(a+b) (4)
(式中、R、R、a、b、cは前記と同じ。)で表わされるヒドロアルコキシシラン(A)は、シリコーン工業における中間体の一つであり、他のシラン化合物製造の中間体として有用であり、またカップリング剤、シリル化剤、表面処理剤として用いることが出来る。アルコキシシラン化合物を製造する一般的な方法として、対応するクロロシランとアルコールを反応させる方法が挙げられる。この反応は平衡反応であり、従って、アルコキシシランの収率を高めるように反応を誘導するためには、反応により生成する塩化水素をそれが反応混合物中に生成した際に除去することが好ましい。また、反応系に塩化水素が存在した場合、様々な副反応が進行することが知られている。例えば、塩化水素とアルコールとの反応により、塩化アルキル化合物と水が生成し、アルコールの損失とともに、生成した水とクロロシラン、アルコキシシランとの加水分解反応により、シラン化合物同士が反応する多量化が起こり、ポリシロキサンを生成し、より多くの塩化水素が発生する。また、珪素上にクロロ基以外の反応性基を有さないクロロシランの場合、上記の副反応が起こるだけであるが、珪素上に水素基を有するクロロヒドロシランの場合、塩化水素存在下、Si−H結合とアルコールとの副反応が進行することが知られている。この副反応を抑制するためにも、反応混合物中の塩化水素を除去する必要があり、特許文献1において反応混合物の加熱による除去方法、特許文献2において化学反応を利用した除去方法、特許文献3、4において反応設備を工夫した除去方法が開示されている。また、これらの副反応は、Si−Cl基の反応性が低下し、また、Si−H基が反応系に残るSi−Cl結合に対し、Si−H結合が過剰になる反応の後半に、より起こりやすい傾向にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭62−32756号公報
【特許文献2】特開平9−157277号公報
【特許文献3】特開昭54−44619号公報
【特許文献4】特開平8−41077号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は前記の課題を解決するためになされたもので、ハロヒドロシラン化合物とアルコールとを反応させ、高品質なアルコキシシランを容易に製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、前記の問題を解決するために鋭意検討した結果、以下の発明を完成させた。
【0006】
すなわち本発明は、
(I).一般式(1):
(RSiX4−(a+b) (1)
(式中、Rは独立に、炭素原子数1から20の炭化水素基である。Xは独立に、ハロゲン原子である。aは0〜2の数を表わし、bは1〜3の数を表わし、a+bは4未満の数を表す)
で示されるハロヒドロシラン(B)と、ハロヒドロシラン(B)に対し0.50〜0.99モル当量の一般式(2)
OH (2)
(式中、Rは、置換あるいは非置換の炭素原子数1から20の炭化水素基である。)で表されるアルコール(C)とを反応させ(反応1)、次いで、残留するSi−Xに対し1.00モル当量以上の一般式(3)
C(OR(3)
(式中、Rは前記と同じ。Rは、置換あるいは非置換の炭素原子数1から20の炭化水素基である。)
に示されるオルトエステル(D)と反応させる(反応2)、
一般式(4)
(RSi(OR4−(a−b) (4)
(式中、R、R、a、b、cは前記と同じ。)で示されるアルコキシヒドロシラン(A)の製造方法、
(II).アルコール(C)の残留量が5モル%未満となった後に、(反応2)を行う(I)に記載のシラン化合物の製造方法。
(III).アルコール(C)、オルトエステル(D)の添加方法がアルコール添加終了後に、続いてオルトエステルを添加する方法であり、その添加速度が残留するSi−Xに対し、それぞれ0.1モル当量/分から0.0001モル当量/分、0.001モル当量/分以上である(I)または(II)に記載のシラン化合物の製造方法。
(IV).Xがクロロ基である(I)から(III)のいずれかに記載のシラン化合物の製造方法、
(V).ハロヒドロシランがメチルジクロロシランである(I)から(IV)のいずれかに記載のシラン化合物の製造方法、
(VI).アルコール化合物(C)がメタノールまたはエタノールである(I)から(V)のいずれかに記載のシラン化合物の製造方法、
(VII).オルトエステル(D)がオルトギ酸トリアルキルまたはオルト酢酸トリアルキルである(I)から(VI)に記載のシラン化合物の製造方法、
(VIII).反応2が、オルトエステルに対して、反応1の反応液を添加する方法である(I)から(VII)のいずれかに記載のシラン化合物の製造方法、
に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明のシラン化合物の製造方法は、安全に制御しながら、効率よく目的物を製造でき、経済的にも有利であり、工業化に最適である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明について詳しく説明する。
本発明は、一般式(4)
(RSi(OR4−(a+b) (4)
(式中、Rは、それぞれ独立に、水素原子または置換あるいは非置換の炭素原子数1から20の炭化水素基である。Rは、それぞれ独立に、置換あるいは非置換の炭素原子数1から20の炭化水素基である。aは0〜2の数を表わし、bは1〜3の数を表わし、a+bは4未満の数を表す)で表わされるヒドロアルコキシシラン化合物(A)を製造する方法に関するものである。
【0009】
置換基Rの具体例としては、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、ビニル基、フェニル基などが挙げられるが、これらに限らない。中でも水素原子が、立体障害による影響が小さく、入手性がよいことから好ましい。
置換基Rの具体例としては、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、ビニル基、イソプロペニル基、フェニル基などが挙げられるが、これらに限らない。中でもメチル基はアルコキシ基の加水分解性が高く好ましい。また、エチル基やイソプロペニル基は、アルコキシ基の加水分解によって生成する副生成物がそれぞれエタノール、アセトンであり、環境への影響が小さいことから好ましい。
【0010】
aは0、1、2のいずれかであるが、0もしくは1の方が入手性の点で好ましい。
【0011】
bは1、2、3のいずれかであるが、1の方が入手性の点で好ましい。
【0012】
本発明のシラン化合物の製造方法によって得られるヒドロアルコキシシラン(A)を具体的に例示すると、メチルジメトキシシラン(HSiCH(OCH)、メチルジエトキシシラン(HSiCH(OC)、メチルジイソプロペノキシシラン(HSiCH(OC(CH)=CH)、ジメチルメトキシシラン(HSi(CH(OCH))、エチルジメトキシシラン(HSiC(OCH)、エチルジエトキシシラン(HSiC(OC)などが挙げられるが、これらに限らない。シランの有用性から、メチルジメトキシシラン、メチルジエトキシシラン、メチルジイソプロペノキシシラン、ジメチルメトキシシラン、エチルジメトキシシラン、エチルジエトキシシランが好ましく、メチルジメトキシシラン、メチルジエトキシシランがより好ましい。
【0013】
本発明では、ヒドロアルコキシシラン化合物(A)を製造する方法として、先ず、
・ 一般式(1)
(RSiX4−(a+b) (1)
(式中、Rは独立に、水素原子または置換あるいは非置換の炭素原子数1から20の炭化水素基である。Xは独立に、ハロゲン原子である。aは0〜2の数を表わし、bは1〜3の数を表わし、a+bは4未満の数を表す)
で示されるハロヒドロシラン(B)と、ハロヒドロシラン(B)に対し0.50〜0.99当量の一般式(2):
OH (2)
(式中、Rは、置換あるいは非置換の炭素原子数1から20の炭化水素基である。)で表わされるアルコール(C)を反応させる(反応1)。
【0014】
ハロヒドロシラン(B)のXはフッ素、塩素、臭素、ヨウ素のハロゲン元素のいずれかであるが、入手の容易さから塩素が好ましい。
【0015】
アルコール(C)は目的とするアルコキシヒドロシランによって、選択される。具体的には、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、フェノールなどが使用できる。アルコール(C)を反応させる際に、水分が混入していると、ハロヒドロシラン(B)が縮合してしまう傾向があり、目的のアルコキシヒドロシラン(A)の収率が低下することから、脱水されたアルコールを用いることが好ましい。
【0016】
アルコール(C)とハロヒドロシランの反応性は高く、速やかにクロロシリル基がアルコキシシリル基に変換される。しかしながら、ヒドロシリル基がアルコキシ化される副反応も起こりやすい。そこで、本発明の製造方法において、反応1はハロヒドロシラン化合物(B)に対して、アルコール(C)の添加速度を制御しながら添加するのが好ましい。アルコールの添加量はクロロシリル基の総量に対して、0.1モル当量/分から0.0001モル当量/分が好ましく、0.05モル当量/分から0.0005モル当量/分がより好ましい。添加速度が速すぎると、反応が暴走したり、発生ガスが高すぎて危険性が高まる可能性がある。また、ヒドロシリル基がアルコキシ化される副反応が起こりやすくなる。添加速度が遅すぎると、反応に時間がかかり生産性が低下する。反応を効率よく進行させるため、アルコールの添加速度を変化させる方法が有効である。
【0017】
反応1の温度は下限は0℃が好ましく、20℃がより好ましく、40℃が特に好ましい。上限は100℃が好ましく、80℃がより好ましく、60℃が特に好ましい。温度が下限より低いと、反応性が低下し、アルコールの残留量が多くなる可能性がある。また、生成するハロゲン化水素の除去効率が低下し、これにより副反応が起こりやすくなる可能性がある。温度が上限より高い場合は、ヒドロシリル基がアルコキシ化されやすくなる。
反応1ではアルコールの添加速度を調整し、発生する塩化水素を効率よく除去することで、副反応を抑えながら反応を進行させることができる。より塩化水素除去を効率的に行うため、アルコール添加を中断し一定時間加熱を行うことは有効である。加熱温度は下限は0℃が好ましく、20℃がより好ましく、40℃が特に好ましい。上限は100℃が好ましく、80℃がより好ましく、60℃が特に好ましい。温度が低いと除去効率が上がりにくい。温度が高すぎると不均化などの副反応が進行する可能性がある。又、除去操作の時間は下限は1分が好ましく、10分がより好ましく、30分が特に好ましい。上限は24時間が好ましく、12時間がより好ましく、6時間が特に好ましい。除去操作の時間が短いと、塩化水素が十分に除去されない可能性があり、除去操作の時間が長いと、シラン混合物の不均化が進行する可能性がある。
【0018】
反応1で使用するアルコールの量は、ハロヒドロシラン化合物(B)のXに対して、0.50から0.99モル当量である。下限は0.60モル当量がより好ましく、0.70モル当量が特に好ましい。上限は0.95モル当量がより好ましい。アルコールの量が下限より少ないと、後述する反応2で使用するオルトエステルの使用量が増え、経済的に不利となる。また、反応2における副反応の抑制効果が得られにくい。アルコールの量が上限より多いと、反応1での副反応が起こりやすく生成物の収率が低下する可能性がある。
【0019】
本発明では、反応1に続いて、残留するSi−Xに対して1.00モル当量以上のオルトエステル(D)を反応させる(反応2)。これにより、ヒドロシリル基がアルコキシ化される副反応を抑えながら、反応を完結させることができる。
【0020】
前述したように、アルコールのみでハロヒドロシラン(B)をアルコキシ化した場合には、副反応により、効率よく目的のアルコキシヒドロシラン(A)を得られない。一方、オルトエステルのみを用いて、アルコキシヒドロシラン(A)を製造できることが開示されている。しかしながら、この製法はオルトエステルが高価であること、また、反応時に副生成物が多量に生成し、目的性生物の単離に精度の高い蒸留を必要とするため、経済的に不利である。
【0021】
オルトエステル(D)の使用量は、残留するSi−Xに対して1.00モル当量異常必要である。好ましくは1.05モル当量から5.0モル当量、さらに好ましくは1.1モル当量から2.0モル当量使用する。
残留するSi−Xの量やアルコールの残留量は、ガスクロマトグラフィーやNMR測定などによって確かめることができる。本発明では、残留するSi−Xの量はNMRで求めた値を用いることとする。
【0022】
また、反応2においてオルトエステル(D)の添加速度が遅すぎると、結局副反応が進行しやすくなる。よって、反応2のオルトエステルの添加速度は、総クロロシリル基量に対して0.001モル当量/分以上であることが好ましい。これより遅いと副反応が進行しやくすなり、本発明の効果が得られにくくなる。
【0023】
残留クロロシリル基の量が多く、反応2の温度制御や発生ガス量の調整が困難である場合には、次の方法を用いることが好ましい。ここで、反応1終了後の反応液を反応液1と記載する。(1)オルトエステル(D)に対して反応液1を添加する。(2) 分割した反応液1に対して、オルトエステルを添加する。(3)反応液1とオルトエステル(D)の反応を連続反応で行う。これらの方法を用いることで、反応温度やガス発生量を制御しながら、副反応を抑えて、収率よくアルコキシヒドロシラン(A)を製造することができる。
【0024】
オルトエステル(D)の使用量は、残留するSi−Xに対して1.00モル当量以上必要である。好ましくは1.05モル当量から5.0モル当量、さらに好ましくは1.1モル当量から2.0モル当量使用する。
【0025】
反応2の反応温度の上限は80℃であることが好ましく、60℃であることが好ましい。下限は0℃であることが好ましく、20℃であることがより好ましく、40℃であることが特に好ましい。反応温度が上限を超えると、ヒドロシリル基がアルコキシ化されやすくなり、アルコキシヒドロシラン(A)の収率が低下する傾向がある。また、反応温度が下限より低いと、反応性が低下し、反応の完結に時間がかかったり、クロロシリル基が残留し反応が完結しない場合がある。
【0026】
オルトエステル(D)は一般式(3):
C(OR(3)
(式中、Rは前記と同じ。Rは、置換あるいは非置換の炭素原子数1から20の炭化水素基である。)で表わされる化合物である。オルトエステル(D)のRは、目的とするアルコキシシラン(A)によって選択される。Rとしては、水素、メチル基、エチル基、フェニル基などが挙げられるが、これらに限定されない。Rとして、水素およびメチル基が入手性がよく、メチル基は特に活性が高く好ましい。
オルトエステルを具体的に例示すると、オルトぎ酸トリメチル、オルトぎ酸トリエチル、オルトぎ酸トリイソプロピル、オルト酢酸トリメチル、オルト酢酸トリエチル、オルトプロピオン酸トリメチル、オルト安息香酸トリメチルなどが挙げられるが、これらに限定されない。入手性の点から、オルトぎ酸トリメチル、オルトぎ酸トリエチル、オルト酢酸トリメチルが好ましく、オルトぎ酸トリメチル、オルト酢酸トリメチルがより好ましい。反応性が高い点から、オルトぎ酸トリメチル、オルトぎ酸トリエチル、オルト酢酸トリメチル、オルト酢酸トリエチルが好ましく、オルト酢酸トリメチルが最も好ましい。
本発明のシラン化合物の製造方法では、溶媒を使用してもよい。
【0027】
反応を行う雰囲気としては特に限定されないが、乾燥した空気、窒素、アルゴンなどの雰囲気下で反応を行うことが好ましい。管理の容易さ、経済的観点から、乾燥した窒素を用いることがより好ましい。
本発明により製造されるヒドロアルコキシシラン(A)は、上記したように、Si−Hを利用したヒドロシリル化反応、Si−ORを利用した加水分解、縮合反応などに使用することができる。
ヒドロアルコキシシラン化合物(A)の具体的用途を例示するが、これらに限定されるものではない。ヒドロアルコキシシラン化合物(A)を不飽和基含有化合物にヒドロシリル化反応により付加させることで、高い加水分解性を有する反応性ケイ素基含有化合物を得る。例えば、塩化アリルにクロロメチルジメトキシシランをヒドロシリル化により付加させて、3−クロロプロピルメチルジメトキシシランが得られる。これは、加水分解性ケイ素基とその他の反応性基を両方有する、いわゆるシランカップリング剤およびシランカップリング剤の原料として利用できる。また、不飽和基含有化合物は高分子量の化合物であってもよい。例えば、特開昭52−73998号公報などに記載されている反応性ケイ素基含有重合体の反応性ケイ素基の導入に、本発明により製造されたヒドロアルコキシシラン(A)を利用することで、非常に高い反応性を有し、かつ、取扱い性の良好な反応性ケイ素基含有重合体が得られる。反応性ケイ素基含有重合体はシーリング材や接着剤に用いることができる。ハロヒドロシラン化合物(A)のSi−H、Si−ORの利用は、どの順番で行ってもよい。
【実施例】
【0028】
つぎに実施例および比較例によってこの出願発明を具体的に説明する。しかしながら本発明はこれらに限定されない。
【0029】
(実施例1)
温度計、メカニカルスターラー、ジムロート冷却管を備え付け、乾燥窒素雰囲気下に置換した容量200mlの3つ口フラスコに、メチルジクロロシラン(信越化学工業(株)製)300mmolを仕込み、フラスコ内容物を攪拌しながら41℃に加熱し、これにメタノール(和光純薬工業(株)製)をシリンジポンプを用いて、メチルジクロロシランのSi−Clに対して0.5モル当量までは0.004mol当量/分、0.75mol当量までは0.002mol当量/分、0.95モル当量までは0.0015mol当量/分の添加速度でクロロシラン中に添加した。なお、メタノール添加時、反応液を加熱し徐々に温度を上げ、0.5モル当量添加時に51℃、0.75当量添加時に56℃、0.85当量添加時に58℃、0.95当量添加時には60℃に加熱した。また、メタノールの添加速度を変更する際に、メタノール添加を一時中断し、加熱による塩化水素除去操作を30分間行った。添加終了後のNMRスペクトルを測定した結果、生成比はメチルジメトキシシラン(HSiCH(OCH)が86mol%、メチルトリメトキシシラン(CHSi(OCH)が3mol%、メチルクロロメトキシシラン(HSiCH(Cl)(OCH))が11mol%の混合物であり、メタノールが残留していないことを確認した。この混合物に、メチルクロロメトキシシランに対し1.5モル当量のオルトぎ酸トリメチルを添加し、添加終了後の反応液のNMRスペクトルを測定した結果、生成比はメチルジメトキシシラン97mol%、メチルトリメトキシシラン3mol%であった。
【0030】
(実施例2)
温度計、メカニカルスターラー、ジムロート冷却管を備え付け、乾燥窒素雰囲気下に置換した容量200mlの3つ口フラスコに、メチルジクロロシラン300mmolを仕込み、フラスコ内容物を攪拌しながら41℃に加熱し、これにメタノールをシリンジポンプを用いて、メチルジクロロシランのSi−Clに対して0.5モル当量までは0.004mol当量/分、0.75mol当量までは0.002mol当量/分、0.95モル当量までは0.0015mol当量/分の添加速度でクロロシラン中に添加した。なお、メタノール添加時、反応液を加熱し徐々に温度を上げ、0.5モル当量添加時に51℃、0.75当量添加時に56℃、0.95当量添加時には60℃に加熱した。メタノールの添加速度を変更する際に、メタノール添加を一時中断し、加熱による塩化水素除去操作を30分間行った。添加終了後のNMRスペクトルを測定した結果、生成比はメチルジメトキシシラン(HSiCH(OCH)が83mol%、メチルトリメトキシシラン(CHSi(OCH)が2mol%、メチルクロロメトキシシラン(HSiCH(Cl)(OCH))が15mol%の混合物であり、メタノールが残留していないことを確認した。この混合物に、メチルクロロメトキシシランに対し1モル当量のオルト酢酸トリメチルを添加し、添加終了後の反応液のNMRスペクトルを測定した結果、生成比はメチルジメトキシシラン97mol%、メチルトリメトキシシラン3mol%であった。
【0031】
(比較例1)
温度計、メカニカルスターラー、ジムロート冷却管を備え付け、乾燥窒素雰囲気下に置換した容量200mlの3つ口フラスコに、メチルジクロロシラン300mmolを仕込み、フラスコ内容物を攪拌しながら41℃に加熱し、これにメタノールをシリンジポンプを用いて、メチルジクロロシシランのSi−Clに対して0.5モル当量までは0.004mol当量/分、0.75mol当量までは0.002mol当量/分、0.95モル当量までは0.0015mol当量/分の添加速度でクロロシラン中に添加した。なお、メタノール添加時、反応液を加熱し徐々に温度を上げ、反応液を加熱し徐々に温度を上げ、0.5モル当量添加時に51℃、0.75当量添加時に56℃、0.85当量添加時に58℃、0.95当量添加時には60℃に加熱した。添加終了後のNMRスペクトルを測定した結果、生成比はメチルジメトキシシラン(HSiCH(OCH)が85mol%、メチルトリメトキシシラン(CHSi(OCH)が3mol%、メチルクロロメトキシシラン(HSiCH(Cl)(OCH))が12mol%の混合物であった。この混合物に、さらにメタノールをシリンジポンプを用いて0.0015mol当量/分の添加速度で、メチルクロロメトキシシランに対し1mol当量添加した。添加終了後の反応液のNMRスペクトルを測定した結果、生成比はメチルジメトキシシラン86mol%、メチルトリメトキシシラン7mol%、メチルクロロメトキシシランが7mol%であり、目的生成物であるメチルジメトキシシランの収率が低下する結果となった。
【0032】
(比較例2)
温度計、メカニカルスターラー、ジムロート冷却管を備え付け、乾燥窒素雰囲気下に置換した容量200mlの3つ口フラスコに、メチルジクロロシラン300mmolを仕込み、フラスコ内容物を攪拌しながら41℃に加熱し、これにオルトぎ酸トリメチルをシリンジポンプを用いて、メチルジクロロシランのSi−Clに対して1当量を0.005mol当量/分かけて添加した。この混合物に、仕込み時のメチルジクロロシランのSi−Clに対して1当量のメタノールを、0.005mol当量/分かけて添加した。添加終了後の反応液のNMRスペクトルを測定した結果、シラン化合物の生成比はメチルジメトキシシラン96mol%、メチルトリメトキシシラン4mol%であったが、混合液中にはシラン成分に対して90mol%のメタノールが残留していた。
【0033】
(比較例3)
温度計、メカニカルスターラー、ジムロート冷却管を備え付け、乾燥窒素雰囲気下に置換した容量200mlの3つ口フラスコに、メチルジクロロシラン300mmolを仕込み、フラスコ内容物を攪拌しながら41℃に加熱し、これに、メチルジクロロシランのSi−Clに対して0.95当量のメタノールと、0.15当量のオルトギ酸トリメチルの混合物を、シリンジポンプを用いて、メチルジクロロシランのSi−Clに対して0.5モル当量までは0.004mol当量/分、0.75mol当量までは0.002mol当量/分、1.10モル当量までは0.002mol当量/分の添加速度でクロロシラン中に添加した。なお、メタノール添加時、反応液を加熱し徐々に温度を上げ、反応液を加熱し徐々に温度を上げ、0.5モル当量添加時に51℃、0.75当量添加時に56℃、1.00当量添加以降は61℃に加熱した。添加終了後の反応液のNMRスペクトルを測定した結果、シラン化合物の生成比はメチルジメトキシシラン57mol%、メチルトリメトキシシラン24mol%、メチルクロロメトキシシランが16%、その他メチルジメトキシシランの縮合物が3%であり、目的生成物であるメチルジメトキシシランの収率が低下する結果となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1):
(RSiX4−(a+b) (1)
(式中、Rは独立に、炭素原子数1から20の炭化水素基である。Xは独立に、ハロゲン原子である。aは0〜2の数を表わし、bは1〜3の数を表わし、a+bは4未満の数を表す)
で示されるハロヒドロシラン(B)と、ハロヒドロシラン(B)のXに対し0.50〜0.99モル当量の一般式(2)
OH (2)
(式中、Rは、置換あるいは非置換の炭素原子数1から20の炭化水素基である。)で表されるアルコール(C)とを反応させ(反応1)、次いで、残留するSi−Xに対し1.00モル当量以上の一般式(3)
C(OR(3)
(式中、Rは前記と同じ。Rは、置換あるいは非置換の炭素原子数1から20の炭化水素基である。)
に示されるオルトエステル(D)と反応させる(反応2)、
一般式(4)
(RSi(OR4−(a+b) (4)
(式中、R、R、a、b、cは前記と同じ。)で示されるアルコキシヒドロシラン(A)の製造方法。
【請求項2】
アルコール(C)の残留量が5モル%未満となった後に、(反応2)を行う請求項1に記載のシラン化合物の製造方法。
【請求項3】
アルコール(C)、オルトエステル(D)の添加方法がアルコール添加終了後に、続いてオルトエステルを添加する方法であり、その添加速度が残留するSi−Xに対し、それぞれ0.1モル当量/分から0.0001モル当量/分、0.001モル当量/分以上である請求項1または2に記載のシラン化合物の製造方法。
【請求項4】
Xがクロロ基である請求項1から3のいずれかに記載のシラン化合物の製造方法。
【請求項5】
ハロヒドロシランがメチルジクロロシランである請求項1から4のいずれかに記載のシラン化合物の製造方法。
【請求項6】
アルコール化合物(C)がメタノールまたはエタノールである請求項1から5のいずれかに記載のシラン化合物の製造方法。
【請求項7】
オルトエステル(D)がオルトギ酸トリアルキルまたはオルト酢酸トリアルキルである請求項1から6のいずれかに記載のシラン化合物の製造方法。
【請求項8】
(反応2)がオルトエステルに対して、(反応1)の反応液を添加する方法である請求項1から7のいずれかに記載のシラン化合物の製造方法。


【公開番号】特開2012−6844(P2012−6844A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−141701(P2010−141701)
【出願日】平成22年6月22日(2010.6.22)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】