説明

アルコキシ置換シクロトリシロキサン化合物の製造法

【課題】金属不純物含量が極めて少ないアルコキシ置換シクロトリシロキサンの製造法を提供する。
【解決手段】
シクロトリシロキサン化合物(1)にトリフルオロメタンスルホン酸を作用させた後、次いで有機塩基存在下、アルコール類(2)を反応させることによって、金属不純物含量が極めて少ないアルコキシ置換シクロトリシロキサン化合物(3)を製造できる。
【化1】


(式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基または炭素数2〜4のアルケニル基を表し、Rは置換されていても良い炭素数6〜11のアリール基を表し、Rは炭素数1〜4のアルキル基、炭素数3もしくは4のアルケニル基または炭素数3もしくは4のアルキニル基を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電率の低い半導体用絶縁膜成形のためのプリカーサーとして有用な、金属不純物の含有量が極めて低い高純度のアルコキシ置換シクロトリシロキサン化合物の製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体回路の微細化が進むにつれて、配線間の絶縁膜への漏れ電流の影響が無視できなくなってきており、この絶縁膜の更なる低誘電率化が求められている。絶縁膜の作製方法の一つとして、例えば低分子量の有機シラン類など(プリカーサー)をプラズマ促進気相蒸着(PECVD)法によりシリコン基板上に架橋体として堆積させる方法が知られている。プリカーサーには高い蒸気圧や熱安定性などが求められ、さらに得られた絶縁膜には化学的機械洗浄(CMP)プロセスなどに耐え得る強度も必要とされる。これらの要求を満足するためにプリカーサーとしてアルコキシシラン類が検討されている。例えばテトラエチルオルトシリケート(特許文献1)、メチルトリエトキシシラン(非特許文献1)、メチルトリメトキシシラン(非特許文献2)、ビニルトリメトキシシラン(非特許文献3)、ジイソプロピルジメトキシシラン(非特許文献4)がある。さらに最近では、より低い比誘電率(k値)を達成するために、アルコキシシラン類よりも構造を規制し、分子サイズの空孔を形成しやすいと考えられている環状シロキサン類も検討されている(非特許文献5〜7、特許文献2〜4)。特に近年、アルコキシシラン類と環状シロキサン類の化学構造の特徴を合わせ持った、アルコキシ置換環状シロキサン化合物が有用であると期待されている。非特許文献8には、ケイ素原子上にアルコキシ基を有するシクロトリシロキサンの合成について報告されているが、反応により生成した複雑な混合物の一成分としてガスクロマトグラフィー分析によって確認されたに過ぎず、アルコキシ置換シクロトリシロキサン化合物が単離された報告例はない。
【特許文献1】米国特許出願公開第2002/0164868号明細書
【非特許文献1】R. Navamathavan et al, Thin Solid Films, 2007, 515 (12), 5040-5044.
【非特許文献2】Chang Sil Yang et al, Thin Solid Films, 2006, 506-507, 50-54.
【非特許文献3】田島暢夫ら、太陽日酸技報、2006年、25号、12-17ページ
【非特許文献3】Manabu Shinriki et al, Advanced Metallization Conference 2005, Proceedings of the Conference, 303-308.
【非特許文献5】Kazuo Kohmura et al, Matetials Research Society Symposium Proceedings, 2005, 863, 67-72.
【非特許文献6】Alfred Grill, Journal of Applied Physics, 2003, 93 (3), 1785-1790.
【非特許文献7】Sungwoo Lee et al, Japanese Journal of Applied Physics, Part 1, 2007, 46 (2), 536-541.
【特許文献2】韓国特許 KR 2004 1,192.
【特許文献3】特開2005-336391号公報
【特許文献4】特開2006-19377号公報
【非特許文献8】Jack K. Crandall, Christophe Model-Fourrier, Journal of Organometallic Chemistry, 1995, 489, 5-13.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、低いk値と高い機械的強度を示す絶縁膜をPECVDプロセスで作製する上で有用なプリカーサーであって、該プロセスに適用可能な蒸気圧を有し、且つk値に悪影響を及ぼす金属不純物含量が極めて少ないアルコキシ置換シクロトリシロキサン化合物の製造法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、アリール置換シクロトリシロキサンに、トリフルオロメタンスルホン酸を作用させ、次いでアルコール類を作用させることにより、金属不純物含量が極めて少ないアルコキシ置換シクロトリシロキサンを合成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0005】
すなわち本発明は、一般式(1)
【化4】

(式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基または炭素数2〜4のアルケニル基を表し、Rは置換されていても良い炭素数6〜11のアリール基を表す。)で表されるシクロトリシロキサン化合物にトリフルオロメタンスルホン酸を作用させ、次いで塩基存在下、一般式(2)
【化5】

(式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基、炭素数3もしくは4のアルケニル基または炭素数3もしくは4のアルキニル基を表す。)で表されるアルコール類と反応させることを特徴とする一般式(3)
【化6】

(式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基または炭素数2〜4のアルケニル基を表し、Rは炭素数1〜4のアルキル基、炭素数3もしくは4のアルケニル基または炭素数3もしくは4のアルキニル基を表す。)で表されるアルコキシ置換シクロトリシロキサン化合物を製造する方法に関するものである。また、アリール基がフェニル基、オルトトリル基、2,6-ジメチルフェニル基、メシチル基または1-ナフチル基である該製造法に関し、塩基が第3級アミン類である該製造法に関する。さらに、金属不純物の総含有量が0.1ppm以下である該製造法に関するものである。
【0006】
以下、本発明について詳細に説明する。
一般式(1)および(3)において、Rで示される炭素数1〜4のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、シクロブチル基、シクロプロピルメチル基を挙げることができ、Rで示される炭素数2〜4のアルケニル基としては、ビニル基、アリル基、1-プロペニル基、イソプロペニル基、2-ブテニル基、3-ブテニル基、1-メチル-1-プロペニル基、2-メチル-1-プロペニル基、2-メチルアリル基を挙げることができる。収率および蒸気圧の点でメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、ビニル基、アリル基、1-プロペニル基、イソプロペニル基が好ましい。一般式(1)において、Rで示される置換されていても良い炭素数6〜11のアリール基としては、フェニル基、オルトトリル基、メタトリル基、パラトリル基、2,6-ジメチルフェニル基、2,5-ジメチルフェニル基、2,4-ジメチルフェニル基、2,3-ジメチルフェニル基、3,4-ジメチルフェニル基、3,5-ジメチルフェニル基、メシチル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、2-メチル-1-ナフチル基などを挙げることができるが、収率および原料入手の容易さにおいてフェニル基、オルトトリル基、2,6-ジメチルフェニル基、メシチル基または1-ナフチル基が好ましい。
【0007】
また、一般式(2)および(3)において、Rで示される炭素数1〜4のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、シクロブチル基、シクロプロピルメチル基を挙げることができ、Rで示される炭素数3もしくは4のアルケニル基としては、アリル基、2-ブテニル基、3-ブテニル基、1-メチルアリル基、2-メチルアリル基をあげることができ、Rで示される炭素数3もしくは4のアルキニル基としては、プロパルギル基、3-ブチニル基、1-メチルプロパルギル基を挙げることができるが、収率および蒸気圧の点でメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、アリル基、プロパルギル基が好ましい。
【0008】
次に、本発明の製造方法について詳細に説明する。まず、本発明の原料であるシクロトリシロキサン化合物(1)は、RおよびRの組み合わせによって入手可能なものもあるが、入手できないものについては例えば以下の方法で合成が可能である。RおよびRを置換基に有するジメトキシシランまたはジエトキシシランを塩酸、硫酸などの無機酸水溶液またはアルカリ金属の水酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物などの無機塩基水溶液を作用させることによってシクロトリシロキサン化合物(1)を得ることができる。あるいはRおよびRを置換基に有するジクロロシランまたはジブロモシランに水を作用させることによってもシクロトリシロキサン化合物(1)を得ることができる。実際の合成例としてMasafumi Unno et al, Organometallics, 2004, 23, 6221-6224.を示す。
【0009】
本発明のアルコキシ置換シクロトリシロキサン化合物(3)は、以下の反応式に示すように、シクロトリシロキサン化合物(1)から[工程1]および[工程2]を経て製造される。
【化7】

(式中、R、RおよびRは先に示したものと同じであり、Tfはトリフルオロメタンスルホニル基を示す。)
【0010】
シクロトリシロキサン化合物(1)にトリフルオロメタンスルホン酸を作用させ[工程1]、次いで塩基存在下、アルコール類(2)を作用させることによって[工程2]、アルコキシ置換シクロトリシロキサン(3)を製造することができる。
【0011】
[工程1]において、トリフルオロメタンスルホン酸の使用量に特に制限はないが、シクロトリシロキサン化合物(1)に対して3〜10モル当量、好ましくは3〜6モル当量用いることにより、収率良く目的物を得ることができる。反応温度は-50〜100℃、好ましくは-20℃〜60℃の範囲から適宜選択される。反応時間は、反応のスケールや反応温度によるが、概ね0.5〜4時間反応させることにより反応は終了し、上記反応式中に示した中間体(4)が生成する。[工程1]は必要に応じて有機溶媒中で行うことができ、溶媒としては反応を阻害しなければ特に制約はないが、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、1,2-ジメトキシエタン、クロロホルム、ジクロロメタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、アニソール、クロロベンゼン、ジクロロベンゼンなどの有機溶媒を単独または2種以上混合して用いることができる。
【0012】
[工程2]においてアルコール類(2)を作用させる際、塩基の存在下に反応を実施することが必須である。塩基としては、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸二水素カリウムなどの無機塩基を使用することが可能であるが、生成物中の金属不純物含量を低減する点で、および収率が良い点で有機塩基を用いるのが好ましい。有機塩基としては反応を阻害せず、生成物を精製する際、悪影響を及ぼさなければ特に制限はないが、第3級アミン類が好ましい。第3級アミン類としてトリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリイソプロピルアミン、トリブチルアミン、ピリジン、ピコリン、N,N-ジメチルアニリン、1,4-ジメチルピペラジン、N-メチルピペリジン、N-メチルイミダゾール、テトラメチルエチレンジアミン、ペンタメチルジエチレントリアミン、トリエチレンジアミンなどを例示することができる。
【0013】
塩基の使用量に特段制限はないが、シクロトリシロキサン化合物(1)に対して1〜20モル当量、好ましくは3〜6モル当量用いることにより、収率良く目的物を得ることができる。塩基はあらかじめ加えておいても、アルコール類(2)と同時に添加しても良いし、アルコール類(2)を加えた後に速やかに加えても良い。アルコール類(2)の使用量に特段制限はないが、シクロトリシロキサン化合物(1)に対して1〜1000モル当量、好ましくは1〜100モル当量、さらに好ましくは3〜10モル当量用いることにより、収率良く目的物を得ることができる。本アルコール類(2)を作用させる際の反応温度としては-50〜100℃、好ましくは-20〜60℃の範囲から適宜選択される。反応時間はスケール、反応温度により異なるが、概ね0.5〜4時間で反応が終了する。[工程2]は必要に応じて有機溶媒中で行うことができ、溶媒として[工程1]で示したものと同じものを使用できる。
【0014】
[工程1]および[工程2]はそれぞれ別途に実施することが可能であるが、収率の点で連続して行うことが好ましい。
【0015】
本製造法を用いれば、各工程において金属試薬を用いていないので、得られるアルコキシ置換シクロトリシロキサン化合物(3)中の金属不純物の総含量を0.1ppm以下に抑えることが可能であり、さらに粗生成物を再結晶精製法、カラムクロマトグラフィー精製法、蒸留精製法、昇華精製法など公知の精製方法を単独あるいは2つ以上の方法を組み合わせて精製することによって、好ましくは蒸留精製法を用いることによって、純度が95%以上であるアルコキシ置換シクロトリシロキサン化合物を製造することができる。蒸留精製方法に特段制限は無く、単蒸留でもビグリュー管などを用いた精密蒸留でも多段蒸留でも良い。蒸留精製条件はRおよびRの置換基の種類によって至適な蒸留時の圧力および留出温度は異なるが、概ね蒸留時の温度が40℃〜200℃、好ましくは60℃〜160℃となるように蒸留時の圧力を調節すれば良い。金属不純物の含量はプラズマ発光分析装置を用いて調べることができ、また、製造されたアルコキシ置換シクロトリシロキサン化合物(3)の純度はガスクロマトグラフィー分析装置または高速液体クロマトグラフィー分析装置を用いて調べることができる。
【発明の効果】
【0016】
シクロトリシロキサン化合物(1)にトリフルオロメタンスルホン酸を作用させ、次いで有機塩基存在下、アルコール類(2)を反応させることにより、金属不純物含量が極めて少ないアルコキシ置換シクロトリシロキサン化合物(3)を製造できる。さらにこれを蒸留精製することによって、純度95%以上であるアルコキシ置換シクロトリシロキサン(3)を収率良く製造できる。
【実施例】
【0017】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0018】
初めに原料であるシクロトリシロキサン化合物(1)の合成例として、以下の反応式を示し、具体的に参考例-1〜3に詳細を示した。
【化8】

【0019】
参考例-1
オルトトリルジクロロシランの合成 (5)
アルゴン雰囲気下、マグネシウム(削状) 5.78g(238mmol)をジエチルエーテル40mLに分散し、氷浴上で冷却しながらo-ブロモトルエン29.7g(174mmol)のジエチルエーテル(20mL)溶液をゆっくりと加えた。滴下後、40℃で1時間の加熱還流を行い、グリニャール試薬を調製した。このグリニャール試薬をテトラクロロシラン44.3g(261mmol)に室温で滴下を行った後、反応溶液を40℃で2時間の加熱還流を行った。これを室温まで冷却した後、生成した無機塩の沈殿を不活性雰囲気でろ過することにより除去した。得られたケーキも充分にジエチルエーテルで洗浄し、合わせて回収したろ液を濃縮した。得られた粗体を蒸留(49℃/0.4kPa)することにより、無色の液体として化合物(5)を21.1g(93.3mmol)得た。収率53.6%。
H-NMR δ(ppm,CDCl):2.34(s,3H),6.95〜6.98(m,2H),7.13〜7.17(m,1H),7.56(d,J=7.3Hz,1H).
【0020】
参考例-2
イソプロピルオルトトリルジクロロシラン(6)の合成
化合物(5)21.1g(93.3mmol)のTHF(67mL)溶液に、市販のイソプロピルマグネシウムクロリドのTHF溶液(2.0M)を氷浴上で冷却しながら4時間かけて滴下した。滴下後、80℃で2時間加熱還流を行った後、室温まで冷却した。生成した無機塩の沈殿を不活性雰囲気でろ過することにより除去した。回収したろ液を濃縮した後、ヘキサンを加えてさらに沈殿してきた無機塩を再び除去した。ケーキも充分にヘキサンで洗浄し、回収したろ液を再び濃縮した。生じた粗体を蒸留(85℃/0.5kPa)することにより、無色の液体として化合物(6)を18.1g(77.6mmol)得た。収率83.2%。
H-NMR δ(ppm,CDCl):1.13(d,J=7.3Hz,6H),1.55〜1.73(q,J=7.3Hz,1H),2.57(s,3H),7.22〜7.26(m,2H),7.35〜7.39(m,1H),7.50(d,J=7.3Hz,1H).
【0021】
参考例-3
1,3,5-トリイソプロピル-1,3,5-トリオルトトリルシクロトリシロキサン(1-a)の合成
化合物(6)27.3g(117mmol)のTHF(135mL)溶液に、4.6Mの水酸化カリウム水溶液136mLを加えて、反応溶液を80℃で36時間加熱還流した。これを室温まで冷却後、水およびジエチルエーテルを加え、分液ろうとを用いて有機層の抽出を行なった。回収した有機層を無水硫酸マグネシウムにより乾燥させ、濃縮した。得られた粗体をヘキサン/酢酸エチル=9/1を溶離液として、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製することにより、油状物としてシクロトリシロキサン化合物(1-a)を14.8g(27.6mmol)得た。収率70.8%。
H-NMR δ(ppm,CDCl):0.69(d,J=7.0Hz,6H),0.91〜0.96(m,15H),2.56(s,6H),2.59(s,3H),7.05〜7.32(m,9H),7.65(d,J=7.0Hz,2H),7.75(d,J=7.0Hz,1H).
【0022】
実施例-1
1,3,5-トリメトキシ-1,3,5-トリイソプロピルシクロトリシロキサン(3-a)の合成
【化9】

【0023】
1,3,5-トリイソプロピル-1,3,5-トリオルトトリルシクロトリシロキサン(1-a)2.22g(4.15mmol)をアルゴン雰囲気下ベンゼン41.5mLに溶解させた。この溶液を約5℃の氷水浴で冷却し、トリフルオロメタンスルホン酸1.47mL(16.6mmol)を反応液に滴下し室温で2時間撹拌した。得られた薄黄色の溶液を再び約5℃の氷水浴で冷却し、メタノール0.55mL(14mmol)、トリエチルアミン2.32mL(16.6mmol)を速やかに順に反応液に滴下し、室温で30分撹拌した。その後溶媒および揮発性成分を室温で減圧留去し、得られたオイルにヘキサン20mLを加えて可溶部を回収した。濃縮して得られた無色透明の液体1.46gを蒸留精製(89℃/0.5kPa)することにより、842mg(2.37mmol)の1,3,5-トリメトキシ-1,3,5-トリイソプロピルシクロトリシロキサン(3-a)を無色液体として得た。収率57%、GC純度99%。ICP発光分析の結果、金属不純物は検出限界以下であった。
H-NMR δ(ppm,CDCl):1.00〜1.08(m,21H),3.56,3.58,3.61(s,total 9H).
13C{H}-NMR δ(ppm,CDCl):12(m),17(br),51(m).
MS(m/z,EI):311(M - i-Pr),283,269,255,241.
【0024】
実施例-2
1,3,5-トリエトキシ-1,3,5-トリイソプロピルシクロトリシロキサン(3-b)の合成
【化10】

1,3,5-トリイソプロピル-1,3,5-トリオルトトリルシクロトリシロキサン(1-a)14.1g(26.4mmol)をアルゴン雰囲気下トルエン264mLに溶解させた。この溶液を約5℃の氷水浴で冷却し、トリフルオロメタンスルホン酸9.35mL(106mmol)を反応液に滴下した。これを徐々に室温まで昇温し2時間撹拌した。得られた薄黄色の溶液を再び約5℃まで冷却し、エタノール 5.09mL(87.2mmol)、トリエチルアミン14.7mL(106mmol)を速やかに順に反応液に滴下し、室温で1時間撹拌した。その後溶媒および揮発性成分を室温で減圧留去し、得られたオイルにヘキサン130mLを加えて可溶部を回収した。濃縮残渣を蒸留精製(110℃/0.1kPa)することにより、5.23g(13.2mmol)の1,3,5-トリエトキシ-1,3,5-トリイソプロピルシクロトリシロキサン(3-b)を得た。収率50%、GC純度97%。ICP発光分析の結果、不純物金属種は検出限界以下であった。
H-NMR δ(ppm,CDCl):0.86〜1.11(m,21H),1.84,1.21,1.24(t,J=1.5〜2.0Hz,total 9H),3.78〜3.91(m,6H).
MS(m/z,EI):353(M - i-Pr),309,281.
【0025】
比較例-1
【化11】

アルゴン雰囲気下1,3,5-トリイソプロピル-1,3,5-トリオルトトリルシクロトリシロキサン(1-a)のベンゼン溶液に5.3モル当量の塩化アルミニウムを加え、さらに塩化水素ガスを吹き込みながら室温で1時間撹拌し、系中でクロロシラン中間体を発生させた。この溶液に過剰量のアセトンとメタノールを加えてアルゴンガスを通気しながら室温で1時間撹拌した後、ヘキサン可溶分を抽出した。溶媒を溜去した後減圧蒸留精製することにより、1,3,5-トリメトキシ-1,3,5-トリイソプロピルシクロトリシロキサン(3-a)が収率37%、GC純度99%で得られた。ICP発光分析の結果、アルミニウムが不純物として44μg/g含まれていた。
【0026】
比較例-2
【化12】

アルゴン雰囲気下1,3,5-トリイソプロピル-1,3,5-トリオルトトリルシクロトリシロキサン(1-a)のメタノール溶液に蒸留精製した臭素を4モル当量加え、-30℃で2時間撹拌した。不溶物をトルエンを加えて溶解しさらにそのままの温度で2時間撹拌した。溶媒を溜去した後、残った橙色粘性液体をGC-MS分析したところ1,3,5-トリメトキシ-1,3,5-トリイソプロピルシクロトリシロキサン(3-a)の生成を確認し、GC収率は33%であった。ICP発光分析の結果、金属不純物は検出限界以下であった。
【0027】
比較例-3
アルゴン雰囲気下1,3,5-トリイソプロピル-1,3,5-トリオルトトリルシクロトリシロキサン(1-a)に対し、3モル当量のトリフルオロ酢酸を室温で加え、3時間撹拌した。反応液のH-NMRスペクトルを測定したところ、原料のピークのみが確認され、全く反応が進行していないことが確認された。
【0028】
比較例-4
アルゴン雰囲気下1,3,5-トリイソプロピル-1,3,5-トリオルトトリルシクロトリシロキサン(1-a)の1.5mol/Lのメタノール溶液を調整し、ここへ3モル当量のトリフルオロ酢酸を室温で加えて3時間撹拌した。反応液のH-NMRスペクトルを測定したところ、原料のピークのみが確認され、全く反応が進行していないことが確認された。
【0029】
比較例-5
アルゴン雰囲気下1,3,5-トリイソプロピル-1,3,5-トリオルトトリルシクロトリシロキサン(1-a)の0.73mol/Lのメタノールとトルエンの1:1(体積比)溶液を調整し、ここへ3モル当量のトリフルオロ酢酸を室温で加えて3時間撹拌した。反応液のH-NMRスペクトルを測定したところ、原料のピークのみが確認され、全く反応が進行していないことが確認された。
【0030】
比較例-6
アルゴン雰囲気下1,3,5-トリイソプロピル-1,3,5-トリオルトトリルシクロトリシロキサン(1-a)に対し、3モル当量のトリフルオロメタンスルホン酸を0℃で加え、20分間撹拌した。さらに5モル当量のメタノールを加えて、室温で1.5時間撹拌した。反応液のH-NMRスペクトルを測定したところ、脱アリール化反応の進行は確認できたものの、重合反応が起きており、1,3,5-トリメトキシ-1,3,5-トリイソプロピルシクロトリシロキサン(3-a)の生成は認められなかった。
【0031】
比較例-7
1,3,5-トリイソプロピル-1,3,5-トリオルトトリルシクロトリシロキサン(1-a)をアルゴン雰囲気下トルエンに融解させた。この溶液を約5℃の氷水溶で冷却し、3.3モル当量のメタンスルホン酸を反応液に滴下した。これを徐々に室温まで昇温し12時間撹拌した。再び約5℃まで冷却し、4モル当量のメタノール、3.3モル当量のトリエチルアミンを速やかに順に反応液に滴下し、室温で5時間撹拌した。原料は完全に消費され、反応液のH-NMRスペクトルから脱アリール化反応は一部進行していると推定されたが、重合反応が起きており、1,3,5-トリメトキシ-1,3,5-トリイソプロピルシクロトリシロキサン(3-a)の生成は認められなかった。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明によれば、これまで単離例の無かったアルコキシ置換シクロトリシロキサン化合物を、金属不純物の含量が極めて少なく且つ高純度で製造できるので、これをPECVDプロセス用プリカーサーとして用いることにより、比誘電率が低く且つ機械的強度に優れた半導体用絶縁膜を作製できると期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
【化1】

(式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基または炭素数2〜4のアルケニル基を表し、Rは置換されていても良い炭素数6〜11のアリール基を表す。)で表されるシクロトリシロキサン化合物にトリフルオロメタンスルホン酸を作用させ、次いで塩基存在下、一般式(2)
【化2】

(式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基、炭素数3もしくは4のアルケニル基または炭素数3もしくは4のアルキニル基を表す。)で表されるアルコール類を反応させることを特徴とする一般式(3)
【化3】

(式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基または炭素数2〜4のアルケニル基を表し、Rは炭素数1〜4のアルキル基、炭素数3もしくは4のアルケニル基または炭素数3もしくは4のアルキニル基を表す。)で表されるアルコキシ置換シクロトリシロキサン化合物の製造法。
【請求項2】
アリール基がフェニル基、オルトトリル基、2,6-ジメチルフェニル基、メシチル基または1-ナフチル基である請求項1に記載の製造法。
【請求項3】
塩基が第3級アミン類である請求項1乃至2に記載の製造法。
【請求項4】
金属不純物の総含有量が0.1ppm以下の純度であることを特徴とする請求項1乃至3に記載の製造法。



【公開番号】特開2009−23966(P2009−23966A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−189825(P2007−189825)
【出願日】平成19年7月20日(2007.7.20)
【出願人】(000173762)財団法人相模中央化学研究所 (151)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】