説明

アルコールの製造方法

【課題】一つ以上のC2+アルコールの製造方法を提供する。
【解決手段】特に、本発明は、メタン含有原料からC2+アルコールを製造する方法であって: a.前記メタン含有原料と二酸化炭素を非酸化的改質プロセスに送って、CO、H2及びCO2を含む第一生成物流れを生成させ、必要により、水蒸気の存在下に生成させてもよいが、水蒸気が改質プロセスへの供給に存在する場合、水蒸気とCO2が、5:1未満のモル比で存在する工程、b. CO、H2及びCO2を含む第一生成物流れを細菌発酵段階に送る工程であって、液相に一つ以上のC2+アルコールを含む第二生成物流れとCO、H2及びCO2を含む気体の第三生成物流れを生成させるように変換され、発酵段階が、少なくとも60%のCOが変換するように操作される、前記工程を含み、ここで、CO、H2及びCO2が、気体の第三生成物流れから工程(a)の改質プロセスへ再循環される、前記方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一つ以上のC2+アルコールの製造方法に関する。特に、本発明は、一酸化炭素と水素の形成、続いて一酸化炭素と水素の一つ以上のC2+アルコールへの発酵によって、メタン含有原料から一つ以上のC2+アルコールを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルコールの炭素酸化物と水素からの製造は、従来技術において周知である。例えば、反応を触媒することが既知である触媒を用いる多くの方法が知られ、例えば、US 4,752,623やUS 4,831,060に記載される、VI族金属に基づくもの、特にモリブデンや、例えば、US 4,122,110やUS 4,780,481に記載される混合金属酸化物、特に銅とコバルトを含有する触媒に基づくものが含まれている。より最近の文献には、WO 2007/003909 A1が含まれ、微粒子触媒の存在下に一つ又は複数の炭素酸化物と水素含有原料のアルコールへの変換方法が記載されている。
触媒経路により、一般に、メタノール、エタノール及び重アルコール、特にプロパノールとブタノールを含む、混合アルコール生成物リストが作られる。種々のアルコール生成物に対する選択性は、使われる具体的な触媒とプロセス条件に左右され、メタノールと高級アルコール(エタノール以上)は、通常は、具体的な任意の反応において形成されるが、当該技術は、一般に、その他を犠牲にしてメタノール又は高級アルコールを最大にすることを求めている。
細菌を用いた発酵プロセスに基づき一酸化炭素と水素をC2+アルコールへ変換する方法も既知である。発酵プロセスの例は、例えば、WO 02/08438やWO 00/68407に見ることができ、DOE契約No.DE-AC22-92PC92118によるDOEリポート、例えば“石炭合成ガスからエタノールの生物学的製造のベンチスケールによる証明”、Topical Report 5, November 1995に記載されている。
一般に、このような方法は、触媒プロセスと比較して、エタノールのような個々のアルコールに非常に選択性であり、たとえあるとしても、非常に少量の他のアルコールしか形成されない。
このような方法の一酸化炭素と水素は、メタン含有原料、例えば、天然ガスを改質して、一酸化炭素、水素及び二酸化炭素の混合物(合成ガス)を製造することにより得ることができる。多くのメタン改質プロセスとその変形例が当該技術において既知である、主に:
(1)メタン含有原料が、>2:1モルの水蒸気:メタン比(通常は> 2.5:1)の存在下に外部的に燃焼した改質装置において改質される、水蒸気メタン改質(SMR)、
(2)メタン含有原料が水蒸気と酸素の存在下に改質される、自己熱改質(ATR)、
(3)メタン含有原料が酸素と比較的低い又はゼロ濃度の水蒸気の存在下に改質される、部分酸化(POX)。
【0003】
上記3つのプロセスについて重要な変形例も既知であり、例えば、二酸化炭素を水蒸気メタン改質又は自己熱改質に添加して、得られる水素と一酸化炭素の比率を調整することができる。具体的な例において、乾燥ガス改質は、水蒸気メタン改質の変形例であり、メタン含有原料が有意濃度の二酸化炭素と低又はゼロ濃度の供給水蒸気の存在下に改質される - 供給CO2は、H2:CO比率を低下させる作用を有し、少量の水分は、CO2のCOへのより効果的な変換を可能にする。
しかしながら、一般に、得られる水素と一酸化炭素との比率は、(1)>(2)>(3)の順に低下し、典型的なSMR改質装置(1)のH2:COのモル比は約4.5:1であり、ATR改質装置(2)については2:1であり、POX改質装置(3)については1.7又は1.8:1である。(特にことわらない限り、本明細書におけるすべての比はモル比である)
上記プロセスの各々は、また、二酸化炭素を生成する。一酸化炭素と水素との比が最も高いだけでなく、ATRとPOXにより、得られた合成ガスにおける二酸化炭素とメタンが最も低くなる。典型的には、SMRは、CO2:COのモル比が0.35:1の領域にある合成ガスを製造し、ATRについては0.2:1であり、POXについては< 0.1:1である。
理論上は、高級アルコール(エタノールや重アルコール)への触媒経路と発酵経路双方は、高級アルコールの製造のための反応成分としてCO2を用いてもよい。しかしながら、実際には、高級アルコールへの触媒経路と発酵経路双方は、正味の二酸化炭素を製造する傾向がある。
触媒変換の場合、このような反応は、“直接”変換によって又は水-ガスシフト反応、CO2 + H2 ⇔ CO + H2Oの同時発生によって二酸化炭素を用いてもよい。しかしながら、メタノール製造の場合、製造はCO2から直接行うことができ、ほとんどの高級アルコール触媒は、シフト反応によって、また、250 - 400℃の典型的な高級アルコール触媒操作条件においてのみCO2を反応させることができるようであり、シフト平衡は、COよりCO2を支持し、触媒よりCO2の正味の製造になる。
発酵経路の場合、発酵に用いられる細菌は、以下の2反応のいずれかに従ってアルコールを製造することができる
6CO + 3H2O → C2H5OH + 4CO2
2CO2 + 6H2 → C2H5OH + 3H2O
しかしながら、CO変換は、典型的には、一回の通過に対して70-90%であり、H2変換は、典型的には、CO変換より少なく - それ故、発酵もまた、正味のCO2を製造する。
上記に基づき、合成ガスからアルコールを製造するために発酵が用いられる場合、このようなプロセスは、最も有利には最高濃度の一酸化炭素と最低割合のCO2とCOをもった合成ガスで操作し、SMRよりATRやPOXを支持することが予想されることになる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
しかしながら、ここで、この予想に反して、合成ガスの中間体形成とそれに続く発酵により、メタン含有原料からC2+アルコールを一体化して製造する方法によれば、酸素の不在下での改質によって最も効果的に作用することを見出した。
従って、第一実施態様において、本発明は、メタン含有原料からC2+アルコールを製造する方法であって:
a. 前記メタン含有原料と二酸化炭素を非酸化的改質プロセスに送って、CO、H2及びCO2を含む第一生成物流れを生成させ、必要により、水蒸気の存在下に生成させてもよいが、水蒸気が改質プロセスへの供給に存在する場合、水蒸気とCO2が、5:1未満のモル比で存在する工程、
b. CO、H2及びCO2を含む第一生成物流れを細菌の発酵段階に送る工程であって、液相に一つ以上のC2+アルコールを含む第二生成物流れとCO、H2及びCO2を含む気体の第三生成物流れを生成させるように変換され、発酵段階が、少なくとも60%のCOが変換するように操作される、前記工程
を含み、ここで、CO、H2及びCO2が、気体の第三生成物流れから工程(a)の改質プロセスへ再循環される、前記方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【図1】図1は、本発明の方法に従ってメタン含有原料からアルコールを製造する方法を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0006】
本発明は、C2+アルコールの製造方法を提供する。本明細書に定義される“C2+アルコール”は、エタノールや重アルコール、特にC2〜C6アルコール、最も好ましくはC2〜C4アルコール、即ち、エタノール、プロパノール、ブタノール(イソブタノールやn-ブタノール)を意味する。C2+アルコールは、一般に、“高級アルコール”と呼ぶこともできる。
本発明の方法において、発酵プロセスからの生成物流れにおける二酸化炭素と水素は、改質プロセスへの供給の少なくとも一部として用いられる。改質プロセスは、水蒸気の実質的な不在下であるか、この場合には乾燥ガス改質とみなすことができ、或いは限られた量の水蒸気の量を用いることができるが、水蒸気が改質プロセスへの供給に存在する場合、水蒸気とCO2は、5:1未満のモル比で存在する(特にことわらない限り、本明細書に用いられるすべて量と比はモルである)。
ATRとPOXのプロセスは、一般に、高割合の一酸化炭素と二酸化炭素を製造し、二酸化炭素/水素より一酸化炭素/水をエタノールに変換するのにより効果的である発酵プロセスとより良好に適合すると予想される。しかしながら、ここで、発酵システムがATR又はPOXの装置と一体化される場合、システムが水素不足で作動し、プロセスにおいて二酸化炭素の蓄積が生じることを見出した。この二酸化炭素によって、関連するエネルギー使用を伴った再循環がより多くなり、最終結果は、正味の二酸化炭素生成の増加と望ましいC2+アルコール生成物に対する原料選択性がより不充分であることを示すシステムから二酸化炭素が最後にはパージされることになることである。
対照的に、本発明の一体化した方法は、水素の過剰量で操作するとともに改質プロセスへの供給における二酸化炭素を一酸化炭素に効率的に変換し、実際に、二酸化炭素のプロセス残量が少なくなる。従って、本発明は、下記の3つの機序によって正味の二酸化炭素製造を著しく低下させるものである:
1. 過剰の水素を、改質装置内でCO2と反応させて、COと水を形成する(COは、大気に放出されるCO2よりむしろエタノールに発酵され得る)
2. CO2の残渣量が少ないと再循環流れにおけるエネルギー使用が少なくなる
3. 改質装置の水蒸気使用が減少すると、改質装置の必要熱量が減少する。
【0007】
特に、発酵反応から改質装置へすべてのCO2を再循環させるとともになおシステムを水素過剰量で作動させることが可能である。
本発明は、また、合成ガスのアルコールへの細菌発酵を相対的に高い一酸化炭素変換によって操作させることができ、生成物流れがその中に相対的に少量の一酸化炭素を有するという事実を利用する。このことは、一酸化炭素がより早期の改質プロセスに経済的に再循環される得ることを意味する。最も好ましい実施態様において、このことにより、再循環前の生成物流れにおいて二酸化炭素から一酸化炭素を特異的に分離するための要求も避けられる。好ましくは、発酵段階は、COが少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%変換するように操作される。
細菌発酵プロセスにおける一酸化炭素変換は、プロセスのオペレータによって制御され得る多くの因子の組み合わせの結果である。一般に、高CO変換(>60%)を得るのに重要な要求は、健康的な細菌と、細菌と反応物との適切に接触を確実にすることである。具体的な細菌について、このことは、実際上、細菌に充分な栄養が与えられることを確実にすること、発酵が正しい温度範囲で行われることを確実にすること、また、細菌との充分なガス接触を確実にすることを意味し、これは、発酵反応におけるガス圧、発酵反応の滞留時間及び反応撹拌の関数である。
具体的な反応と所望の生産速度について、このような因子は、当業者が最適化することができる。変換が60%(又は必要とされる場合にはより高い閾値)より下がる場合には、必要であり得るこれらのパラメーターの一つに作用することによって、例えば、撹拌速度を増加させ、それにより、細菌と接触するガスを増加させることによって、変換を再び増加させることができる。
【0008】
典型的には、発酵プロセスの高級アルコールへの選択性(変換される全COや非CO2ベースに基づく)は、少なくとも60%、特に少なくとも75%、最も好ましくは少なくとも90%である。(CO2は、COのエタノールへの変換における正味の反応生成物である、例えば、6CO + 3H2O → C2H5OH + 4CO2。非CO2に基づく選択性は、メタノール又はアルカンと比較されるCOのエタノールへの変換に関する)。
適切には、気体の第三生成物流れにおける少なくとも60%の一酸化炭素と60%の二酸化炭素が再循環され、より好ましくは、気体の第三生成物流れにおける少なくとも80%の一酸化炭素と80%の二酸化炭素が再循環され、最も好ましくは、気体の第三生成物流れにおける少なくとも90%の一酸化炭素と90%の二酸化炭素が工程(a)の改質プロセスに再循環される。(少量は、存在することがあり得るパージに失われてもよく又は任意の水素分離の間に失われてもよい。)
合成ガスからアルコールを製造する“高変換”触媒プロセスについての文献に多くの“要求”があるが、このようなプロセスが高級アルコールへの高変換と高選択性で操作され得るとは考えられない。特に、変換が増加するにつれて、アルカンに比べてアルコールへの触媒システムの選択性が低下する。
US 4,831,060は、例えば、わずかに40%未満のCO変換を例示している。しかしながら、高CO変換せずに本発明の気体の第三生成物流れに残存している一酸化炭素の量は相対的に高く、再循環の前に二酸化炭素から一酸化炭素の少なくとも一部を分離して、改質プロセスにおけるCOへのCO2変換のための推進力を維持することが必要である。このことは、例えば、SRIリポート“合成ガスから混合アルコールのためのダウ/ユニオンカーバイドプロセス”、PEP Review Number 85-1-4に記載され、一酸化炭素が再循環流れから分離され、触媒アルコール製造プロセスに再循環される。
【0009】
本発明の方法の工程(a)における“非酸化的改質プロセス”とは、(分子)酸素が供給において(意図的に)存在しないプロセスを意味する。従って、自己熱改質プロセスと部分酸化プロセスは、本発明の方法から明確に除外される。本発明の好ましい改質プロセスは、乾燥ガス改質や(定義したように水蒸気が制限された)水蒸気メタン改質である。特に好ましいプロセスは、硫黄不動態化改質である。硫黄不動態化改質(SPARG)は、Hydrocarbon Processing, January 1986, p. 71-74 or Oil & Gas Journal, Mar 9, 1992, p. 62-67に記載されている。このようなプロセスにおいて、硫黄は、改質触媒を不動態化するために添加される。硫黄はコークス形成を低下させ、さもなければこれは問題であり得る。硫黄は大きな部位(コークスを形成するために必要とされる)を遮断するが、改質を続けることを可能にする小さな部位を開放しておくことが報告されている。
SPARGプロセスが合成ガスの形成に広範囲に用いられてきたとは考えられない。理論によって縛られることを望まないが、このことは以下の通りであり得ると考えられる:
(1)合成ガスを用いるほとんどの方法がSPARG改質によって得られるより高いH2:CO比を必要とするため、また、
(2)硫黄が一般的には触媒毒であり、形成される合成ガスの続いての任意の処理の前に除去されることを必要とすることを意味するため。
対照的に、細菌発酵プロセスは、供給に存在する硫黄に耐性があることがわかった。このことは、例えば、DOEリポート“木炭合成ガスからエタノールの生物学的製造のベンチスケールによる証明”(Topical Report 5, November 1995(DOE契約No.DE-AC22-92PC92118)に記載されている。
発酵段階の前に硫黄を除去する必要がないだけでなく、それ故、硫黄を気体の第三生成物流れに容易に再循環させることができる。
水蒸気が存在する場合、好ましい水蒸気:CO2モル比は、2:1未満、最も好ましくは1:1未満である。水蒸気:CO2モル比が低くなると、更に、改質段階の間のCO2変換の効率が増加し、進行中の定常状態CO2濃度が低くなり(H2Oも非常に少なくなる)、プロセスへの残量全体が減少することがわかった。
【0010】
非酸化的改質プロセスは、また、H2Oを生成する。有利には、この水は、続いての発酵段階における発酵培地の一部として用いることもできる。従って、本発明の方法において、合成ガス製造の生成物のすべてを、発酵段階に用いることができ、又は発酵段階に少なくとも送ることができ、分離の必要が減少する。
本発明の方法は、過剰の水素によって操作する。一実施態様において、気体の第三生成物流れにおける水素の少なくとも一部を分離することが好ましい。燃料ガス源を供給する(改質装置に電力を供給することができる、例えば、更にエネルギーコストが節約される)だけでなく、このことにより、改質装置に対する再循環率が正味の減少になる。適切な任意の分離技術が用いられてもよい。膜、特に水素選択膜が最も好ましい。適切な任意のメタン含有原料が用いられてもよい。
最も好ましい原料は、天然ガス(二酸化炭素、窒素及び高級炭化水素の固有の量を含んでも含まなくてよい)であるが、他の適切な原料としては、埋立地ガス、生物消化ガス及び石油生産及び処理から関連するガスが挙げられる。
前述のように、本発明は、また、合成ガスのアルコールへの細菌の発酵を相対的に高い一酸化炭素変換によって操作させることができ、生成物流れがその中に相対的に少量の一酸化炭素を有するという事実を利用する。このことは、一酸化炭素の気体の第三生成物流れがより早期の改質プロセスに経済的に再循環される得ることを意味するだけでなく、更に、改質平衡状態(CO2 + CH4 ⇔ 2CO + 2H2)による二酸化炭素の変換を支持する。
最も好ましい実施態様において、本発明の方法は、改質段階と発酵段階双方において高圧で操作する。好ましくは、圧力は、双方の段階について2〜12 bargの範囲にある。圧力は、好ましくは、発酵段階に最適な圧力に基づいて設定され、改質プロセスは、本質的に同じ圧力(段階間の小さな固有の圧力低下を除く)で操作されて、発酵段階に必要とされた圧力で、また、気体の第三生成物流れの改質プロセスへの再循環に必要とされる最小限の圧縮によって第一生成物流れを得る。SPARG技術の一つの利点は、更に、例えば、生成物分配が有意な変更をせずに必要とされる下流処理による広範囲の圧力全体に操作させることができることである。
【0011】
発酵プロセスは、任意の適切な細菌を用いることができる。好ましい発酵プロセスは、嫌気性酢酸生成細菌、特に桿状グラム陽性非好熱性嫌気性菌を用いる。本発明の有効な細菌としては、アセトゲニウム・キブイ(Acetogenium kivui)、アセトバクテリウム・ウッディ(Acetobacterium woodii)、アセトアネロビウム・ノテラエ(Acetoanaerobium noterae)、クロストリジウム・アセチクム(Clostridium Aceticum)、ブチリバクテリウム・メチロトロフィクム(Butyribacterium methylotrophicum)、クロストリジウム・アセトブチリクム(Clostridium acetobutylicum)、クロストリジウム・サーモアセチクム(Clostridium thermoaceticum)、ユウバクテリウム・リモスム(Eubacterium limosum)、ペプトストレプトコッカス・プロダクタス(Peptostreptococcus productus)、クロストリジウム・リュングダリイ(Clostridium ljungdahlii)及びクロストリジウム・カルボキシジボランス(Clostridium carboxydivorans)が挙げられる。特に適切な一つの細菌は、クロストリジウム・カルボキシジボランスであり、特に適切な株は、“P7”や“P11”を示すものである。このような細菌は、例えば、US 2007/0275447やUS 2008/0057554に記載されている。更に特に適切な細菌は、クロストリジウム・リュングダリイであり、特に適切な株は、クロストリジウム・リュングダリイPETC、クロストリジウム・リュングダリイERI2、クロストリジウム・リュングダリイC01、クロストリジウム・リュングダリイO-52である。クロストリジウム・リュングダリイ及びこのような細菌を用いたプロセスは、DOEリポート“木炭合成ガスからエタノールの生物学的製造のベンチスケールによる証明”(Topical Report 5, November 1995(DOE契約No.DE-AC22-92PC92118)や特許出願WO 98/00558、WO 00/68407、WO 02/08438に記載されている。プロセスは、一般に、適切な反応器内、例えば、連続撹拌槽反応器(CSTR)で栄養培地の存在下にCO、H2及びCO2を含む第一生成物流れと細菌とを接触させることを含む。適切な温度と圧力は、当業者が決定することができ、用いられる細菌や他のプロセス条件に左右されるが、発酵の典型的な温度は、25℃〜85℃、特に35℃〜45℃であり、典型的な圧力は、大気圧〜12 barg、好ましくは2〜12 bargの範囲である。
“栄養培地”は、一般に、選ばれた対象細菌の増殖を可能にするのに充分なビタミンとミネラルを含有する慣用の細菌増殖培地を記載するために用いられる。適切な栄養は、例えば、US 2003/211585、WO 08/00558、US 5,807,722、US 5,593,886、US 5,821,111に記載されるように周知である。
【0012】
撹拌速度は、当業者によって選ばれてもよく、反応容器や細菌の頑丈さに左右される。特に、反応混合物は、一般に、任意の可動部品、例えば、スターラチップによって引き起こされる細菌細胞への損傷を最小にしつつ、充分なガス分散と、分散した気泡の凝集を実質的に避けることを確実にするために適切な速度で撹拌される。
実際には、このことは、通常、スターラによって攪拌されるより大きな装置の場合、対応するより小さな装置よりより少ないRPM(毎分回転数)が用いられることを意味する(一定のRPMの場合、より大きなかきまぜ機の先端速度は、より小さなかきまぜ機より高速である)。20〜1000RPMの速度が典型的であり、より大きな装置はより低速で作動させる。
滞留時間も、反応の詳細に依存して、また、所望の変換を得るために、当業者によって選ばれてもよい。滞留時間は、通常5秒〜20分の範囲に、最も典型的には10秒〜5分の範囲にある。
一般に、発酵段階によって、CO、H2及びCO2を含む気相生成物(本発明の気体の第三生成物流れを形成する)と>95%水中に発酵細菌、栄養素、アルコール及び副生成物、例えば、酢酸の混合物を含む液体反応ブイヨンが生成される。液体反応ブイヨンは、通常は、発酵槽から取り出され、ろ過されて、細胞と他の固形物が除去され、次に、蒸留されて、より濃縮されたアルコール/水生成混合物(本発明の第二生成物流れを形成する)と発酵槽に戻される栄養素、水及び酢酸を含む再循環流れが得られる。
本発明は、ここで、本発明の方法に従ってメタン含有原料からアルコールを製造する方法を示す概略図である、図1に関して記載する。
特に、図1は、非酸化的改質プロセス(1)を示し、これにメタン含有原料(2)と二酸化炭素、一酸化炭素及び水素を含む再循環流れ(3)を送る。必要とされる場合には、水蒸気がライン(4)を通って供給されてもよい。メタン含有原料の改質は、CO、H2及びCO2を含む第一生成物流れ(5)を生じるように行われ、これを細菌発酵段階(6)に送り、ここで、適切な細菌の存在下に変換され、液相に一つ以上のアルコールを含む第二生成物流れ(7)とCO、H2及びCO2を含む気体の第三生成物流れ(8)を生じ、発酵段階は少なくとも60%のCOの変換を得るように操作される(発酵槽の分離段階は図示せず)。CO、H2及びCO2を含む気体の第三生成物流れ(8)を膜セパレータ(9)に送り、その中の水素の一部を分離して(10)、二酸化炭素、一酸化炭素及び流れ(3)として再循環される残りの水素を含む流れが残る。再循環流れに不活性成分、例えば、窒素やアルゴンの蓄積を防止するために小さなパージ(図示せず)も用いられる。
【0013】
実施例
図1による改質と発酵の一体化方法を、Aspen.を用いてモデル化した:
・改質装置が、945℃の出口温度に指定されるSMRと1030℃の出口温度に指定されるATRによる平衡反応器としてモデル化される
・発酵槽の中で以下の反応がモデル化される
6CO + 3H2O → C2H5OH + 4CO2
2CO2 + 6H2 → C2H5OH + 3H2O
本実施例において、CO変換の半分のH2変換が用いられ、以下の正味の反応を示す:
6CO + 1.5 H2O + 3H2 → 1.5 C2H5OH + 3CO2
用いられるCO変換は、90%である。
すべてのモデル化は、毎時100キロモルのプロセスに対する正味メタン導入、簡単にするために、ゼロモルの窒素又はアルゴンのような不活性ガス(実際は、これらのある割合が、常にメタンに存在する)を前提とし、毎時約40キロモルのエタノールを製造する。
【0014】
比較例
本比較例において、自己熱改質装置が用いられる。メタン(毎時100キロモル)の供給量と水素(毎時26キロモル)、一酸化炭素(毎時17キロモル)、二酸化炭素(毎時227キロモル)、水(毎時1キロモル)の再循環流れと少量のメタン(毎時< 1キロモル)とが予備改質装置に送られ、そこで、触媒の存在下に、また、水蒸気の存在下に(毎時60キロモル)>500℃まで加熱して、メタンより大きいすべての有機化合物を改質させる。次に、ガスが自己熱改質装置に送られ、ここで、酸素(毎時76キロモル)の添加によって自己熱改質が行われる。改質により、水素(毎時110キロモル)、一酸化炭素(毎時182キロモル)、二酸化炭素(毎時162キロモル)、水(毎時178キロモル)及び少量のメタン(毎時< 1キロモル)からなる生成物流れが気相で得られる。最初の生成物流れを冷却し、大部分の水(毎時175キロモル)を分離して、残りの成分を含む第一生成物流れが残る(図1に図示されていない分離)。次に、分離された水と第一生成物流れ双方を発酵段階に送り(改質からの生成物流れと同じ全供給量)、ここで、発酵は、下記の2つの生成物流れを生じるように行われる:
- 水素(毎時28キロモル)、一酸化炭素(毎時18キロモル)、二酸化炭素(毎時245キロモル)及び少量のメタン(毎時< 1キロモル)からなるガス流れ(8)。
- 水(毎時137キロモル)、エタノール(毎時41キロモル)からなる液体流れ。
分離して再循環流れに必要な水素と炭素酸化物との比率を維持するのに二酸化炭素(毎時15キロモル)が必要であり、このガスパージにより、少量の水素(毎時2キロモル)と一酸化炭素(毎時1キロモル)が除去され、流れ8の各成分の濃度が反映されることになる。残りの成分(水素(毎時26キロモル)、一酸化炭素(毎時17キロモル)、二酸化炭素(毎時228キロモル)、水(毎時1キロモル)及び少量のメタン(毎時< 1キロモル))は、改質段階に再循環される。
【実施例1】
【0015】
メタン(毎時100キロモル)の供給量を水蒸気(毎時285キロモル)と水素(毎時92キロモル)、一酸化炭素(毎時19キロモル)、二酸化炭素(毎時181キロモル)、メタン(毎時2キロモル)の再循環流れを有する水蒸気メタン改質装置に送る。改質における水蒸気:CO2比は、1.56:1である。改質により、気相において水素(毎時318キロモル)、一酸化炭素(毎時193キロモル)、二酸化炭素(毎時107キロモル)、メタン(毎時2キロモル)及び水(毎時259キロモル)からなる生成物流れが得られる。生成物流れを冷却し、大部分の水(毎時256キロモル)を残りの成分を含む第一生成物流れから分離する(図1に図示されていない分離)。次に、分離された水と第一生成物流れを発酵段階に送り(改質からの生成物流れと同じ全供給量)、ここで、発酵は、下記の2つの生成物流れを生じるように行われる
- 水素(毎時231キロモル)、一酸化炭素(毎時19キロモル)、二酸化炭素(毎時194キロモル)、メタン(毎時2キロモル)からなるガス流れ、
- 水(毎時216キロモル)とエタノール(毎時44キロモル)からなる液体流れ。
システムは、過剰水素になるので、水素(毎時139キロモル)は、膜分離によって分離される。膜分離は、不完全であり、以下の優先順序H2 >> CO2 >> COでガスを除去するので、少量の二酸化炭素(毎時12キロモル)も必ず水素と除去される。残りの成分(水素(毎時92キロモル)、一酸化炭素(毎時19キロモル)、二酸化炭素(毎時181キロモル)及びメタン(毎時2キロモル))は、改質段階に再循環される。
実施例1は、非酸化的改質段階を用いる利点を示すものである。特に、実施例1と比較例共に同量のメタンを供給するが、実施例1は、多くのエタノールだけでなく、有用に分離され燃料ガスとして用いることができる量の水素を生成する。
【実施例2】
【0016】
メタン(毎時100キロモル)の供給量を、水蒸気(毎時70キロモル)と、水素(毎時82キロモル)、一酸化炭素(毎時20キロモル)、二酸化炭素(毎時109キロモル)、メタン(毎時20キロモル)の再循環流れと共に水蒸気メタン改質装置に送る。改質における水蒸気:CO2比は、0.65:1である。改質により、気相において水素(毎時298キロモル)、一酸化炭素(毎時205キロモル)、二酸化炭素(毎時25キロモル)、メタン(毎時20キロモル)及び水(毎時54キロモル)からなる生成物流れが得られる。生成物流れを冷却し、大部分の水(毎時51キロモル)を残りの成分を含む第一生成物流れから分離する(図1に図示されていない分離)。次に、分離された水と第一生成物流れを発酵段階に送り(改質からの生成物流れと同じ全供給量)、ここで、発酵は、下記の2つの生成物流れを生じるように行われる
- 水素(毎時206キロモル)、一酸化炭素(毎時20キロモル)、二酸化炭素(毎時117キロモル)、メタン(毎時20キロモル)からなるガス生成物流れ、
- 46キロモルのエタノールと8キロモルの水からなる液体流れ。
ガス流れから膜分離によって水素(毎時124キロモル)が分離される。実施例1のように、少量の二酸化炭素(毎時7キロモル)も水素と除去される。残りの成分(水素(毎時82キロモル)、一酸化炭素(毎時20キロモル)、二酸化炭素(毎時109キロモル)及びメタン(毎時20キロモル)は、改質段階に再循環される。
実施例2は、比較例に比べて実施例1と同じ利点を有するが、実施例1と比較して改質段階における水蒸気減少の利点を示すものである。特に、実施例1と実施例2は共に同量のメタンを供給するが、実施例2は、わずかにより多くのエタノールを生成する。実施例2において燃料ガス用にわずかに少ない水素が分離されるが、実際に改質装置における水蒸気の要求が少ないことは、燃料としての水素燃焼が実施例1の場合より大きな割合の改質装置必要熱量に関与し得ることを意味する。
最後に、実施例2の改質段階に供給されるのに必要な水蒸気が著しく少ないだけでなく、プロセスにおける二酸化炭素の定常状態濃度も実施例1と比べて低く、改質段階に送られる成分の全残量が毎時680キロモルから毎時402キロモルに減少し、発酵段階に送られる成分の全残量が、毎時880キロモルから毎時602キロモルに減少し、再循環流れの全残量が、毎時295キロモルから毎時232キロモルに減少することを意味する。
本発明の方法の具体的な利点は、特に乾燥改質の場合、方法全体からのCO2放出がかなり減少することである。水蒸気使用が相対的に高いSMRからのCO2放出は、ATRと同様であるか又は少ないが、乾燥改質フローシートは明らかに有利である。
特に、以下の値は、(エネルギー必要量と任意の正味のCO2生成に基づき)推定された:
・ATRプロセスからCO2の放出は、Te C2H5OHに対して0.52 - 0.75 Te CO2と推定される(酸素生成のエネルギー必要量と正味のCO2生成を含む。下限は、熱い合成ガスが存在することがあり得る任意の予備改質装置に充分な熱を与えることを前提とし、上限は、予備改質装置が存在し、外部燃焼を必要とする場合にあてはまる)
・SMRプロセスから二酸化炭素の放出は、Te C2H5OHに対して0.6 Te CO2と推定される(乾燥改質より増加の主な理由は、水蒸気による改質装置効率の増加と再循環流れの増加である(水蒸気を組み込むのに改質装置内により多くの推進力を必要とするのでCO2がより多い)
・乾燥ガス改質例からCO2の放出は、Te C2H5OHに対して0.33 Te CO2と推定される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタン含有原料からのC2+アルコールの製造方法であって:
a. 前記メタン含有原料と二酸化炭素を非酸化的改質プロセスに送って、CO、H2及びCO2を含む第一生成物流れを生成させ、必要により、水蒸気の存在下に生成させてもよいが、水蒸気が前記改質プロセスへの供給に存在する場合、水蒸気とCO2が、5:1未満のモル比で存在する工程、
b. CO、H2及びCO2を含む第一生成物流れを細菌発酵段階に送る工程であって、液相に一つ以上のC2+アルコールを含む第二生成物流れと、CO、H2及びCO2を含む気体状の第三生成物流れとを生成させるように変換され、発酵段階が、少なくとも60%のCOが変換するように操作される、前記工程
を含み、ここで、CO、H2及びCO2が、気体状の第三生成物流れから工程(a)の改質プロセスへ再循環される、前記方法。
【請求項2】
改質プロセスが、乾燥ガス改質又は水蒸気メタン改質である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
改質プロセスが、硫黄不動態化改質である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
再循環前に、生成物流れにおいて二酸化炭素から一酸化炭素を特異的に分離しない、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
気体の第三生成物流れにおいて少なくとも80%の一酸化炭素と80%の二酸化炭素が再循環される、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
気体の第三生成物流れにおける水素の少なくとも一部が分離され、燃料ガスとして用いられる、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
水蒸気が存在する場合、好ましい水蒸気:CO2モル比が<1:1である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
改質段階と発酵段階の双方が、2〜12 bargの範囲の圧力で操作される、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2010−533481(P2010−533481A)
【公表日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−516440(P2010−516440)
【出願日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際出願番号】PCT/EP2008/057407
【国際公開番号】WO2009/010347
【国際公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【出願人】(507391775)イネオス ユーロープ リミテッド (19)
【Fターム(参考)】