説明

アルコールの酸化用触媒、およびそれを酸化する方法

【課題】 短時間かつ高収率、高選択的に、アルコールを酸化してカルボニル化合物を得ることができ、また触媒も高度に再使用することができる方法を提供する。
【解決手段】 担体に担持された周期律表第6族金属化合物を含む、アルコールの酸化用触媒;およびアルコールを酸化する方法であって、該酸化用触媒、および相関移動触媒の存在下、加熱下で、アルコールを酸化剤で処理する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルコールの酸化用触媒、およびアルコールを酸化する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アルコールを酸化してアルデヒド、ケトン、カルボン酸などのカルボニル化合物を得る方法は、有機化学工業において非常に重要な反応である。そしてこのようにして得られるカルボニル化合物は、医薬、農薬、香料などとして、またそれを得るための合成中間体として有用である。
【0003】
アルコールを酸化してカルボニル化合物を得るための方法の一つとして、酸化剤として過酸化水素を用い、タングステン酸類および第四級アンモニウム塩の存在下で酸化反応を行う方法が提案されている(特許文献1〜3)。しかし、これらの方法では、分解しやすい過酸化水素を使用するため高温での反応が困難であるため反応時間が数時間と長くなってしまうという欠点があった。また、タングステン酸類は、過酸化水素水、第四級アンモニウム塩、アルコールなどを含む反応溶液中に溶解して使用するため、反応に用いたタングステン酸類を回収して再使用することが困難であるという欠点もあった。
一方、過酸化水素による2,2,6,6−テトラメチルピペリジンの酸化反応において、触媒である過タングステン酸をシリカ、シリカアルミナ、アルミナ、活性白土などの固体上に固定して用いる方法が提案されている(特許文献4)。しかし、この方法は、2,2,6,6−テトラメチルピペリジンを酸化してN−オキシルとする方法であり、アルコールを酸化する方法ではない。また、過酸化水素および反応生成物が高温では分解してしまうため、90℃を超える温度での反応は好ましくなく、そのため反応時間が長いという欠点があった。
【特許文献1】特開平11−158107号公報
【特許文献2】特開2000−86574号公報
【特許文献3】特開2002−20375号公報
【特許文献4】特開2001−19674号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、上記の欠点を有さず、短時間でかつ高収率、高選択的に、アルコールを酸化してカルボニル化合物を得ることができ、また触媒も高度に再使用することができる方法を提供することを目的として鋭意研究を行った結果、担体に担持された周期律表第6族金属化合物を含む酸化用触媒を用い、相関移動触媒の存在下、加熱下で、アルコールを酸化剤で処理することにより目的を達成できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、担体に担持された周期律表第6族金属化合物を含む、アルコールの酸化用触媒に関する。本発明はまた、アルコールを酸化する方法であって、担体に担持された周期律表第6族金属化合物を含むアルコールの酸化用触媒、および相関移動触媒の存在下、加熱下で、アルコールを酸化剤で処理する方法に関する。
【発明の効果】
【0006】
本発明のアルコールの酸化用触媒を用い、本発明の方法によりアルコールを酸化することにより、非常に短時間でかつ高収率、高選択的に、目的とするカルボニル化合物を得ることができる。また、担体に担持された周期律表第6族金属化合物を含む触媒は、触媒充填塔(マイクロリアクター)に充填して用いることができるため、充填塔にアルコールと酸化剤を通過させることにより簡単に酸化生成物を得ることができる。更にまた、担体に担持されている触媒は、反応完了後容易に反応系から除去することができるため、高度に再使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の、担体に担持された周期律表第6族金属化合物を含む、アルコールの酸化用触媒は、周期律表第6族金属化合物およびそれを担持する担体からなる。
本発明の酸化用触媒において、周期律表第6族金属化合物とは、周期律表第6族金属であるタングステン、クロム、およびモリブデンから選択される少なくとも1種類の金属を含む水溶性の化合物を意味する。
このような化合物として、具体的には、タングステン化合物としては、タングステン酸、三酸化タングステン、三硫化タングステン、六塩化タングステン、リンタングステン酸、タングステン酸アンモニウム、タングステン酸カリウム二水和物、タングステン酸ナトリウム二水和物などを挙げることができるが、なかでもタングステン酸ナトリウム二水和物を好ましく用いることができる。
【0008】
またクロム化合物としては、クロム酸、三酸化クロム、三硫化クロム、六塩化クロム、リンクロム酸、クロム酸アンモニウム、クロム酸カリウム二水和物、クロム酸ナトリウム二水和物などを挙げることができるが、なかでもクロム酸、三酸化クロム、リンクロム酸を好ましく用いることができる。
【0009】
またモリブデン化合物としては、モリブデン酸、三酸化モリブデン、三硫化モリブデン、六塩化モリブデン、リンモリブデン酸、モリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸カリウム二水和物、モリブデン酸ナトリウム二水和物などを挙げることができるが、なかでもモリブデン酸、三酸化モリブデン、リンモリブデン酸を好ましく用いることができる。
本発明の酸化用触媒において、担体とは、酵素を担持するために通常用いられている任意の担体を意味する。このような担体としては、シリカゾル、シリカゲル、アルミナ、シリカアルミナ、モレキュラーシーブ、活性炭、およびシリコンカーバイドなどの合成担体、ならびにケイソウ土、ボーキサイト、セライト、ベントナイト、および活性白土などの天然担体を挙げることができる。
【0010】
なかでも、酸処理により吸着能、脱色能、触媒能を高めた粘土であって、大きな比表面積、高い吸着能を有し、多孔質構造を有し、安価である層状粘土である活性白土(Al23・4SiO2・nH2O)は、酸塩基点の両方を持ち合わせる触媒であり、その層間は、酸点においては最大10Å、塩基点では40μmの平均粒径を維持していることが知られている。このため、本発明においては、活性白土を好ましく用いることができる。
【0011】
本発明の酸化用触媒においては、上記の担体が、上記の周期律表第6族金属化合物を、触媒全体に対して1〜10重量%担持しているのが望ましい。例えば周期律表第6族金属化合物としてタングステン酸ナトリウム(Na2WO4)を用いる場合には、本発明の酸化用触媒は、触媒全体に対して1〜10重量%、特に5〜8重量%のタングステン酸ナトリウムを担持しているのが望ましい。
【0012】
担持させるに際しては、担持させる方法は、用いる金属化合物および用いる担体の種類に応じて適宜選択することができ、例えば含浸法、共沈法、沈着法等を用いることができる。また、担持させるための条件も、用いる金属化合物および用いる担体の種類に応じて適宜選択することができる。例えば、担体である活性白土に、金属化合物としてタングステン酸ナトリウム二水和物(Na2WO4・2H2O)を担持させる場合には、1〜10(w/v)%タングステン酸ナトリウム二水和物水溶液を調製し、活性白土をその10〜20(w/v)倍量の該水溶液中に懸濁させ、混合、撹拌し、遠心分離後、濾過、洗浄し、乾燥することにより、タングステン酸二水和物担持活性白土を得ることができる。
【0013】
本発明の酸化用触媒は、アルコールの酸化に用いることができる。本発明の酸化用触媒により酸化することができるアルコールは、分子内に1以上のヒドロキシル基を有する炭化水素化合物である任意のアルコールであるが、分子内に1以上の炭素炭素二重結合および1以上のヒドロキシル基を有する炭化水素化合物も、本発明の酸化用触媒により酸化することができる。
【0014】
分子内に1以上のヒドロキシル基を有する炭化水素化合物
本発明の酸化用触媒により酸化することができる分子内に1以上のヒドロキシル基を有する炭化水素化合物としては、分子内に脂環式基または芳香族炭化水素基を有していてもよい一級の直鎖もしくは分岐鎖状の脂肪族アルコール、分子内に脂環式基または芳香族炭化水素基を有していてもよい二級の直鎖もしくは分岐鎖状の脂肪族アルコール、および二級の脂環式アルコールを挙げることができる。このような一級または二級アルコールは、ハロゲン、アルキル、アルコキシ、アルコキシカルボニル、アシル、シアノ、ニトロなどの置換基で置換されていてもよい。
【0015】
このような一級の直鎖もしくは分岐鎖状の脂肪族アルコールとしては、例えば、エタノール、1−プロパノール、1−ブタノール、1−ペンタノール、1−ヘキサノール、1−ヘプタノール、1−オクタノール、1−ノナール、1−デカノール、2−メチル−1−ヘキサノール、3−メチル−1−ヘキサノール、4−メチル−1−ヘキサノール、5−メチル−1−ヘキサノール、2−エチル−1−ヘキサノール、3−エチル−1−ヘキサノール、4−エチル−1−ヘキサノール、2,2−ジメチル−1−プロパノール、1,2−エポキシ−10−デカノールなどの一価の一級脂肪族アルコール;1,8−オクタンジオールなどの二価の一級脂肪族アルコール;ベンジルアルコール、2−フルオロベンジルアルコール、3−フルオロベンジルアルコール、4−フルオロベンジルアルコール、4−クロロベンジルアルコール、4−ブロモベンジルアルコール、4−メトキシベンジルアルコール、3,4−ジメトキシベンジルアルコール、4−メトキシカルボニルベンジルアルコール、4−アセチルベンジルアルコール、4−シアノベンジルアルコールなどの一級アラルキルアルコールが挙げられる。上記一級の直鎖もしくは分岐鎖状の脂肪族アルコールの炭素数は、例えば2〜30、好ましくは2〜20、さらに好ましくは2〜16程度である。
【0016】
また、上述のような二級の直鎖もしくは分岐鎖状の脂肪族アルコールとしては、例えば2−プロパノール、2−ブタノール、2−ペンタノール、3−ペンタノール、2−ヘキサノール、3−ヘキサノール、2−ヘプタノール、3−ヘプタノール、4−ヘプタノール、2−オクタノール、3−オクタノール、4−オクタノール、2−ノナール、3−ノナール、4−ノナール、5−ノナール、2−デカノール、3−デカノール、4−デカノール、5−デカノールなどの一価の二級脂肪族アルコール;2−メチル−1,3−ヘキサンジオール、2−メチル−1,4−ヘキサンジオール、2−メチル−1,5−ヘキサンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2−エチル−1,4−ヘキサンジオール、2−エチル−1,5−ヘキサンジオールなどの二価の二級脂肪族アルコール;1−フェニルエタノールなどの二級アラルキルアルコールを挙げることができる。上記二級の直鎖もしくは分岐鎖状の脂肪族アルコールの炭素数は、例えば2〜30、好ましくは2〜20、さらに好ましくは2〜16程度である。
【0017】
また、上述のような二級の脂環式アルコールとしては、シクロブタノール、シクロペンタノール、シクロヘキサノール、シクロヘプタノール、シクロオクタノール、シクロドデカノール、2−メチルシクロヘキサノール、3−メチルシクロヘキサノール、4−メチルシクロヘキサノール、2−tert−ブチルシクロヘキサノール、3−tert−ブチルシクロヘキサノール、4−tert−ブチルシクロヘキサノール、2−イソプロピル−5−メチルシクロヘキサノール、メントールなどを挙げることができる。上記二級の脂環式アルコールの環の員数は、例えば3〜30、好ましくは3〜20、さらに好ましくは3〜12(特に5〜10)程度である。
【0018】
分子内に1以上の炭素炭素二重結合および1以上のヒドロキシル基を有する炭化水素化合物
本発明の酸化用触媒を用いて酸化することができる、分子内に1以上の炭素炭素二重結合および1以上のヒドロキシル基を有する炭化水素化合物としては、具体的には3,7−ジメチルー2,6−ジエニル−オクタノール、3−ヘキセンー1−オール、2−ヘキセン−1−オール、1−オクテン−3−オール、11−ドデセン−2−オール、1−ドデセン−3−オール、ゲラニオールなどを挙げることができる。
【0019】
本発明の酸化方法について
本発明のアルコールを酸化する方法は、担体に担持された周期律表第6族金属化合物を含む触媒、および相関移動触媒の存在下、加熱下で、アルコールを酸化剤で処理することによって実施する。
【0020】
相間移動触媒
本方法において、相関移動触媒としては、二相間を移動して酸化反応を促進することができる任意の触媒を用いることができる。例えば一般式R1234+-(R1〜R4は、それぞれ同一または異なっていてもよく、ヒドロキシ、アリール、もしくはヘテロアリールで置換されていてもよいC1-50アルキル基であるか、またはR1〜R4のうち2もしくは3つは、それらが結合する窒素原子またはリン原子と一緒になって架橋を有していてもよい飽和もしくは不飽和5〜8員環(該環は、更にメチル基、エチル基、プロピル基などのC1-6アルキル基;またはエテニル基、1−プロペニル基、2−プロペニル基などのC2-6アルケニル基で置換されていてもよく、これらのアルキル基またはアルケニル基は更にヒドロキシ基、C1-6アルコキシ基、C2-6アルケニルオキシ基、置換されていてもよいアリール基、または置換されていてもよいヘテロアリール基で置換されていてもよい)を形成し;Mは、窒素原子またはリン原子を表し;Q-は、ハロゲンイオンまたは無機アニオンを示す)で表される4級アンモニウム塩や4級ホスホニウム塩などのオニウム塩を用いることができる。
【0021】
上記オニウム塩中のC1-50アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、オクチル基などの直鎖もしくは分岐鎖状のアルキル基が挙げられる。該オニウム塩中の窒素原子またはリン原子と一緒になって形成される架橋を有していてもよい飽和もしくは不飽和5〜8員環としては、ピリジル、ピロリジニル、イミダゾリル、ピペリジニル、1−アザビシクロ[2.2.2]オクチル、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エニルなどが挙げられる。
また該ハロゲンイオンとしては、塩素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオンおよびフッ素イオンを挙げることができ、なかでも、塩素イオン、臭素イオンおよびヨウ素イオンが好ましい。また、該無機アニオンとしては、水酸イオン、硫酸水素イオン、亜硫酸イオンなどが挙げられる。
【0022】
4級アンモニウム塩の具体例としては、テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、テトラプロピルアンモニウム塩、テトラブチルアンモニウム塩、テトラペンチルアンモニウム塩、トリオクチルメチルアンモニウム塩、テトラヘキシルアンモニウム塩などのテトラアルキルアンモニウム塩;テトラベンジルアンモニウム塩;セチルピリジニウム塩;アルキルピロリジニウム塩;アルキルピコリニウム塩;アルキルイミダゾリニウム塩;N−ベンジルシンコニジウムブロミドもしくはクロリド、N−[4−(トリフルオロメチル)ベンジルシンコニジウム]ブロミドもしくはクロリドなどのシンコニウム塩;更には(R,R)−3,4,5−トリフルオロフェニル−NAS−ブロミド、(R,R)−3,5−ビスフルオロメチルフェニル−NAS−ブロミド、ベンジルトリアルキルアンモニウム塩などが挙げられる。
【0023】
また、4級ホスホニウム塩の具体例としては、テトラブチルホスホニウム塩、テトラプロピルホスホニウム塩、トリオクチルメチルホスホニウム塩、トリオクチルエチルホスホニウム塩、テトラヘキシルホスホニウム塩などを挙げることができる。
【0024】
具体的には、以下の化合物を相間移動触媒として好ましく用いることができる。
【0025】
【化1】

【0026】
また、上記のテトラブチルアンモニウム硫酸水素塩のようなテトラアルキルアンモニウム塩としては、アルキルがメチル、エチル、プロピル、ブチルまたはペンチルであって、対イオンが、硫酸水素イオン、塩素イオン、臭素イオンまたはヨウ素イオンであるものを好ましく用いることができる。
これらの相間移動触媒は、1種または2種以上で用いることができる。
【0027】
酸化剤
本発明の方法において、酸化剤としては、アルコールを酸化することができる任意の酸化剤を用いることができる。具体的には、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カリウムなどの次亜塩素酸塩;t−ブチルヒドロペルオキシド、シクロヘキセンヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシドなどの有機過酸化物;過ギ酸、過酢酸、過プロピオン酸、トリフルオロ過酢酸、m−クロロ過安息香酸などの過カルボン酸類;過酸化水素;および分子状酸素などが挙げられる。なかでも、反応性、選択性が高く、精製が容易であり、使用後に有害な化合物を残さないなどの点で、過酸化水素を好ましく使用することができる。過酸化水素を用いる場合には、適当な溶媒、例えば水に希釈した形態(例えば、10〜60%(w/v)、好ましくは35%(w/v)の過酸化水素水)で用いるのが好ましい。過酸化水素水を用いる場合には、後述するように、別途溶媒を用いる必要がないために使用後の溶媒を処理する必要がなく、この点においても、酸化剤として過酸化水素水溶液を用いるのが好ましい。
【0028】
酸化の方法
酸化に際しては、基質である上記アルコール、上記に記載のように調製した担体に担持された周期律表第6族金属化合物を含む触媒、上記の相間移動触媒、上記の酸化剤、そして必要であれば溶媒を反応容器に入れ、撹拌しながら加熱する。
【0029】
基質に対する担体に担持された周期律表第6族金属化合物を含む触媒の量は、基質に対し、好ましくは、2〜15%(重量)、更に好ましくは3〜10%(重量)、特に好ましくは8%(重量)である。また、基質に対する相関移動触媒の量は、基質1molに対し、好ましくは0.1〜1mol、特に好ましくは0.5molである。
【0030】
基質に対する酸化剤の量は、基質の種類、基質をどの程度に酸化するか、酸化剤の種類などに応じて適宜決定することができる。
【0031】
一級アルコールを酸化するには、酸化する一級アルコール1当量に対して1.5当量以上の量の酸化剤を用いれば、主生成物としてカルボン酸が得られ、1〜1.5当量未満の量の酸化剤を用いれば、主生成物としてアルデヒド類が得られる。二級アルコールを酸化するには、酸化剤の量は、酸化する二級アルコール1当量に対して好ましくは1〜30当量、特に好ましくは1.1〜20当量である。
【0032】
本酸化反応は、溶媒の存在下または非存在下で行うことができる。溶媒としては、反応に悪影響を及ぼさない限り特に制限されるものではなく、例えば水;トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素系溶媒;ヘプタンなどの脂肪族炭化水素系溶媒などが挙げられる。その使用量は、特に制限はないが、基質に対して通常0.5〜10重量倍、好ましくは1〜5重量倍の範囲である。
【0033】
酸化剤として過酸化水素水を用いる場合には、特に有機溶媒は必要とされない。この場合は、基質と過酸化水素水との二相の不均一反応系で酸化反応は進行する。
【0034】
反応は、加熱下で行う。加熱温度は、基質の種類に応じて適宜決定することができるが、基質の沸点までの温度で加熱することができる。具体的には100℃〜200℃、好ましくは120℃〜180℃で、2分〜10分、好ましくは3分〜5分行う。このような高温で反応を行うことにより、速やかに酸化反応が進行し、数分程度の短時間で酸化反応が完了する。具体的には、反応容器にマイクロ波を照射することにより、反応系が上記のような高温に短時間で達するため、数分間という短時間で酸化反応を完了させることができる。マイクロ波照射条件としては、反応系を基質の沸点までの温度に短時間で到達させることができる条件を適宜選択することができ、例えば30〜1000W、1〜5GHz、好ましくは700W、2.5GHzの条件で照射することができる。
【0035】
上記のようにして得られたカルボニル化合物は、反応終了後の混合物を分液、洗浄後、蒸留、再結晶やカラムクロマトグラフィーなどの方法によって分離、精製することができる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0037】
製造例1
担体に担持された周期律表第6族金属化合物を含む触媒の調製
4(w/v)%タングステン酸ナトリウム二水和物(Na2WO4・2H2O)水溶液250mlに、活性白土(5.0g)(和光純薬株式会社)を混合し、20分間撹拌した。遠心分離後、濾過し、エタノールで洗浄した。乾燥後、担体に担持されたタングステン酸ナトリウムを含む触媒(5.38g)が得られた。
得られた触媒のタングステン酸ナトリウムの担持量は、触媒全体の重量に対して7.1%(重量)であった。
得られた触媒の蛍光X線スペクトルを図1に示す。また、活性白土のみの蛍光X線スペクトルを図2に示す。図1および2からは、上記の方法で得られた触媒では、タングステン酸ナトリウムが活性白土に担持されているのが示された。
【0038】
実施例1
1−フェニルエタノール0.31g(2.5mmol)、35%過酸化水素水0.27g(基質に対して110mol%)、テトラブチルアンモニウム硫酸水素塩0.002g、および調製例1で調製した活性白土触媒0.01gを試験管に入れ、スターラーにて撹拌後、電子レンジに入れ、3分間、マイクロ波(700W、2.5GHz)を照射した。
反応終了後、活性白土触媒を濾去し、クロロホルムにて有機相を抽出し、硫酸マグネシウムで乾燥し、ロータリーエバポレーターにて溶媒を除去して、粗生成物0.29g(変換率96%)を得た。酸化反応直後の未精製物のHPLCおよび1H−NMRスペクトルをそれぞれ図3および図4に示す。これらの結果から、1−フェニルエタノールのほぼ100%が酸化されてアセトフェノンが生成したことが示された。
【0039】
実施例2
ベンジルアルコール0.27g(2.5mmol)、34.5%過酸化水素水0.27g(110mol%)、テトラブチルアンモニウム硫酸水素塩0.002g、および調製例1で調製した活性白土触媒0.01g(基質に対する割合:3.70(w/w)%)を試験管に入れ、懸濁液を激しく撹拌しながら、電子レンジ中で、3分間、マイクロ波(700W、2.5GHz)を照射した。
反応終了後、水とクロロホルムを適量加え、遠心分離させて活性白土触媒を沈殿させた。上清をデカンテーションし、その水溶液から有機相を分離し、硫酸マグネシウムで乾燥し、ロータリーエバポレーターにて溶媒を除去して、粗生成物0.19gを得た。粗生成物のHPLC、1H−NMRスペクトル、IRにより、ベンズアルデヒドが生成したことが示された(変換率:80%)。HPLCスペクトルを図5に示す。
また対照としてマイクロ波照射は行わずに95℃で24時間加熱した以外は上記と同様の方法で酸化反応を行った。その結果、ベンズアルデヒドが生成したことが示された(変換率:90%)。
上記より、マイクロ波照射により、95℃で24時間加熱した場合と同様の変換率で、わずか3分間と短時間で酸化反応が完了して、ベンズアルデヒドが生成したことが示された。
【0040】
実施例3
各種アルコールを用いて実施例2と同様の条件で、酸化反応を行った。その結果を表に示す。
【表1】


このうち、シクロヘキサノールを本発明の方法により、またはマイクロ波照射は行わずに95℃で24時間加熱した以外は同様の方法で酸化反応に付した後のNMRスペクトルをそれぞれ図6および7に示す。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明のアルコールの酸化用触媒を用い、本発明の方法によりアルコールを酸化することにより、短時間かつ高収率、高選択的に、目的とするカルボニル化合物を得ることができる。また、担体に担持された周期律表第6族金属化合物を含む触媒は、触媒充填塔(マイクロリアクター)に充填して用いることができるため、充填塔にアルコールと酸化剤を通過させることにより簡単に酸化生成物を得ることができる。更にまた、担体に担持されている触媒は、反応完了後容易に反応系から除去することができるため、高度に再使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】触媒の蛍光X線スペクトルである。
【図2】活性白土のみの蛍光X線スペクトルである。
【図3】1−フェニルエタノールの酸化反応直後の未精製物のHPLCスペクトルである。
【図4】1−フェニルエタノールの酸化反応直後の未精製物の1H−NMRスペクトルである。
【図5】ベンジルアルコールの酸化反応後のHPLCスペクトルである。
【図6】シクロヘキサノールの酸化反応後の1H−NMRスペクトルである。
【図7】シクロヘキサノールをマイクロ波照射は行わずに95℃で24時間加熱して酸化反応に付した後の13C−NMRスペクトルである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
担体に担持された周期律表第6族金属化合物を含む、アルコールの酸化用触媒。
【請求項2】
周期律表第6族金属化合物が、タングステン化合物である、請求項1記載のアルコールの酸化用触媒。
【請求項3】
周期律表第6族金属化合物が、タングステン酸、三酸化タングステン、三硫化タングステン、六塩化タングステン、リンタングステン酸、タングステン酸アンモニウム、タングステン酸カリウム二水和物、およびタングステン酸ナトリウム二水和物から選択される、請求項1記載のアルコールの酸化用触媒。
【請求項4】
周期律表第6族金属化合物が、タングステン酸ナトリウム二水和物である、請求項1記載のアルコールの酸化用触媒。
【請求項5】
担体が、活性白土である、請求項1〜4のいずれか1項記載のアルコールの酸化用触媒。
【請求項6】
アルコールを酸化する方法であって、請求項1〜5のいずれか1項記載のアルコールの酸化用触媒、および相関移動触媒の存在下、加熱下で、アルコールを酸化剤で処理する方法。
【請求項7】
相関移動触媒が、4級アンモニウム塩または4級ホスホニウム塩である、請求項6記載のアルコールを酸化する方法。
【請求項8】
相関移動触媒が、テトラブチルアンモニウム硫酸水素塩である、請求項7記載のアルコールを酸化する方法。
【請求項9】
100℃〜200℃で2分〜10分加熱する、請求項6〜8のいずれか1項記載のアルコールを酸化する方法。
【請求項10】
加熱を、マイクロ波照射により行う、請求項6〜9のいずれか1項記載のアルコールを酸化する方法。
【請求項11】
酸化剤が、次亜塩素酸塩;有機過酸化物;過カルボン酸類;過酸化水素;および分子状酸素から選択される、請求項6〜10のいずれか1項記載のアルコールを酸化する方法。
【請求項12】
酸化剤が、過酸化水素である、請求項6〜10のいずれか1項記載のアルコールを酸化する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−36510(P2008−36510A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−212826(P2006−212826)
【出願日】平成18年8月4日(2006.8.4)
【出願人】(802000020)財団法人浜松科学技術研究振興会 (63)
【Fターム(参考)】