説明

アルコール含有飲食品とその製造方法

【課題】 新しい食感と風味を有し、かつ風味の劣化の少ない新規なアルコール含有の飲料または食品を提供する。
【解決手段】 酵母を含まない清酒等の酒類と、穀類及び米麹、穀類及び米麹及び酵素剤、穀類及び酵素剤、米麹のいずれかによって調製されたデンプン糖化液とを混和し、デンプンの糖化液中の固形分を粉砕する。デンプンの糖化液を、粒径1mm以上の固形分がなくなるように粉砕する。アルコール含有飲食品中のアルコール濃度を1〜5%の範囲とする。アルコール含有飲食品を容器に充填し、これを凍結する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食感と風味に優れたアルコールを含有した新規な飲料または食品であって、特に酒類とデンプンの糖化液とを混和して生成される飲食品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、酒造メーカ等では、飲料アルコール本来の液状の酒類のほか、飲料や食品にアルコールを混ぜ合わせた商品を開発して新たな市場の開拓を図っている。これらのアルコール含有飲食品は、炭酸ソーダや果汁飲料,嗜好品飲料等のほか、特定の成分を混ぜ合わせたり、固形やシャーベット状,ゲル状,液状などと種類も態様も様々である。
このうち、本願発明が対象とするアルコール含有飲食品の一例として、ウィスキーやブランデー,焼酎,ワイン、ビール、清酒等を配合した各種カクテルのほか、
酒粕を残した濁り酒等のアルコール飲料中に含有する微細セルロースの粒径を平均8μm以下とし、かつ10μm以上の粒子の割合を40%以下としたアルコール性飲料が提案されている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
さらに、甘酒を原料とした飲食品として、米,米麹,砂糖,食塩等からなる甘酒の素を所定量包装体により密封包装した甘酒の素体と、加味補助食材を所定量包装体により密封包装した加味補助体と、これら甘酒の素体と加味補助体とを収容する容体と蓋体とからなる容器とを備えた甘酒食品や(例えば特許文献2参照)、米麹及び非還元性の甘味成分を含み、エチルアルコール含量が1%以下、グルコース、マルトース及びイソマルトースからなる還元性糖類の含量が10%以下であり、さらにpHを3.5〜5.0とした密封容器入り甘酒飲料が知られている(例えば特許文献3参照)。
【特許文献1】特開平8−173135号公報
【特許文献2】特開平7−123955号公報
【特許文献3】特開平6−343435号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1にアルコール性飲料として記載される濁り酒は、酒類そのものとして区分される単一物品であって、新しい食味を持つアルコール性飲料ではなく、その特徴は、濁り酒に含まれる微細セルロースの粒径・粒子を小さく特定して、食した際のザラツキ感をなくすだけに過ぎない。また、濁り酒には酵母が存在するため、その自己消化等によって濁り酒の風味を損なったり劣化を早める原因となっている。
さらに、特許文献2の甘酒食品や引用文献3の甘酒飲料は、主たる材料に米と米麹で生成される甘酒を用いることが示されているだけであり、これらはアルコール1%以上を含む酒類ではなく、本願発明が対象とするアルコール含有飲食品とは異なる。
【0005】
そこで本発明は、新しい食感と風味を有し、かつ風味の劣化が少ない新規なアルコール含有の飲料または食品を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の目的を達成するため、請求項1の発明のアルコール含有飲食品は、酵母を含まない清酒等の酒類と、穀類及び米麹、穀類及び米麹及び酵素剤、穀類及び酵素剤、米麹のいずれかによって調製されたデンプンの糖化液とを混和し、該デンプンの糖化液中の固形分を粉砕したことを特徴としている。
請求項2の発明は、請求項1に記載のアルコール含有飲食品において、前記デンプンの糖化液は、粒径1mm以上の固形分がなくなるように粉砕されていることを特徴としている。
【0007】
また、請求項3の発明は、請求項1または2に記載のアルコール含有飲食品において、アルコール含有飲食品中のアルコール濃度が1〜5%であることを特徴としている。
請求項4の発明では、請求項1〜3のいずれかに記載のアルコール含有飲食品において、アルコール含有飲食品が、容器に凍結状態で充填されていることを特徴としている。
【0008】
さらに、請求項5の発明は、穀類と米麹または酵素剤と水とを所要温度で混合してデンプンの糖化液を生成し、該デンプンの糖化液中の固形分を粉砕するとともに、このデンプンの糖化液に、酵母を含まない清酒等の酒類を混和して生成されることを特徴としたアルコール含有飲食品の製造方法である。
【0009】
本発明のアルコール含有飲料または食品に用いる酒類は、アルコール度が1%以上あって酒類と区分され、かつ酵母を含まない、例えば清酒や焼酎,ビール,ワイン,ウィスキー、ブランデー、ジン、リキュール、老酒,テキーラ、ウオッカ等であり、これら酒類のいずれかもしくは混合したものを用いるものであって、どぶろくや濁り酒等の酵母入りの酒類は除外する。
また、本発明のアルコール含有飲料または食品に用いるデンプンの糖化液は、穀類と米麹、穀類と米麹と酵素剤、穀類と酵素剤、米麹のうちのいずれかによって製造されたものであり、酒類と同様に酵母は含まない。穀類としては、米や麦,とうもろこし,蕎麦,さつまいも,ジャガイモ,栗等がある。
【0010】
デンプンの糖化液には、酵母が存在しないために糖化液中に酵母の代謝産物がなく、グルコースも分解されずに残存する。このため、デンプンの糖化液には材料由来の甘さが残り、風味も酵母に損なわれることなく自然のまま保たれる。したがって、このような糖化液と、酵母を含まない酒類とを混和したアルコール含有飲料または食品は、従来にはなかった新しい食感と風味を併せ持つ。
デンプンの糖化液を生成する際に、穀類と米麹または酵素剤と水とは50℃〜60℃程度の温度で混合することにより、自然な風味で糖化できて好ましい。
【0011】
デンプンの糖化液は粒状の原料由来の固形分を含んでおり、一般に粒径3mm以上のものが5割ほどの割合で混在していることが多い。この固形分が沈降してデンプン糖化液の固液が分離すると、見た目がわるく食感も全く異なったものとなるため、本発明では、この固形分をミキサーやフードプロセッサ等の細粒化機器を使って粉砕する。これにより、デンプン糖化液中の固形分およびその成分が液中にきめ細かく分散され、アルコール含有飲食品の成分が均一となるので、ザラツキ感のない滑らかな食感が得られるばかりか商品としての品質も安定したものにとなる。
【0012】
なお、本発明で酒類と混和するのはデンプンの糖化液であって、酒粕を原料とする甘酒は除外する。酒粕を原料とする甘酒では酵母が存在し、その自己消化等によって風味を損なったり劣化を早めることから好ましくない。
【0013】
これに対して本発明では、酵母を含まないデンプンの糖化液や酒類を用いるので、上記のような酵母の影響による不具合はなく、アルコール含有飲食品として、原料のよさを生かした自然な風味を長期間維持した商品とすることができる。
また、本発明のアルコール含有飲食品を凍結すると、酒類のアルコール成分が完全凍結を妨げることから、シャーベット状態に半凍結した新しい感覚のアルコール含有食品となる。アルコール含有飲食品の凍結は通常凍結であってもよいが、最大氷結晶生成温度帯を素早く通過させるいわゆる急速凍結を行うことにより、素材本来の食感や風味を極力損なわずに冷凍することができて好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、従来にはなかった新しい食感と風味を持つアルコール含有の飲料やアルコール含有食品が得られ、新規商品としての開拓が大いに見込まれる。またデンプンの糖化液中に存在する固形分を粒径1mm以上のものがなくなるように粉砕することにより、より滑らかで舌触りのよいアルコール含有飲料や食品となる。
【0015】
さらに、アルコール濃度を1〜5%の範囲に設定することにより、アルコール度の高い酒類は苦手な人にも飲用が可能な新しい味覚と食感を持つライトアルコール商品として、一層の購買層の開拓が見込まれる。また、このアルコール含有飲食品を容器に充填して凍結することにより、涼味のあるアルコール含有食品して屋内外で手軽に楽しむことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の一形態例を図面に基づいて説明する。
図1は、本形態例のアルコール含有飲食品の製造手順を示すフローチャートで、ステップS1では、デンプンの原料としての穀類である餅米やうるち米,麦類,とうもろこし,蕎麦,さつまいも,ジャガイモ,栗等と、米麹および/または酵素剤と水とを用意し、炊飯もしくは蒸す等の加熱したデンプン原料に米麹や酵素剤と水とを投入し、50℃〜60℃の温度でグルコース濃度が目標範囲に入るまで糖化することにより、ステップS2に入って、アルコールと酵母を含まないデンプンの糖化液を得る。
【0017】
ステップS3では、デンプンの糖化液に約3mm以上の粒径で5割ほどの割合で含まれる粒状の固形分を、ミキサーやフードプロセッサ等の細粒化機器で粒径1mm以下に粉砕する。このようにして製造されたデンプンの糖化液は、粒状の固形分が液中にきめ細かく分散されて固液分離のない均一な成分となる。
【0018】
つぎに、ステップS4に入って、デンプンの糖化液と酒類とを所望の割合で混和する。酒類には、アルコール度が1%以上あって酒類と区分され、かつ酵母を含まない清酒や焼酎,ビール,ワイン,ウィスキー、ブランデー、ジン、リキュール、老酒,テキーラ、ウオッカ等のいずれかまたはこれらを混合したものを用い、これをデンプンの糖化液とよく攪拌してアルコール含有飲食品を得る。
【0019】
ステップS5では、上述のように製造したアルコール含有飲食品を容器に充填し、ステップS6でこれを急速凍結または通常凍結する。なお、アルコール含有飲食品中の水分量を加減することにより、水分量を多量に含むアルコール含有飲料か水分量を抑えたアルコール含有食品となる。
【0020】
つぎに、本形態例に基づいて行った実験例を説明する。
実験1:アルコール濃度の検討
アルコール含有飲食品として好ましいアルコール濃度を比較した。
実験例1〜実験例4にアルコール度1%,3%,5%,7%を設定すべく、酵母を含まないデンプン糖化液にアルコール度8%の清酒を混和し、これを容器に充填して凍結した。
【0021】
凍結は、最大氷結晶生成温度帯を急速に通過させるいわゆる急速凍結であるが、アルコール含有飲食品中のアルコールから完全には固化しないシャーベット状となった。これを室温に放置すると、半解凍状態となってグラスに移して食べることもでき、さらにストローで飲むことも可能となった。
【0022】
このように、凍結アルコール含有飲食品を、シャーベット状と半解凍,飲用の三態様にして専門の判定員4名に官能評価を実施した。評価は5点法(1:よい、2:ややよい、3:並、4:やや悪い、5:悪い)で行い、その平均点を算出した。
【0023】
【表1】

【0024】
表1に示すごとく、アルコール度が1%,3%,5%の実験例1、2、3は、アルコール度7%の実験例4と比較して、風味と食感の平均点がよい結果となった。実験例1は、アルコールが苦手な人にも新しい食味と食感を持つデザートとして楽しめると思われる。これに対して実験例4では、アルコール度数が高いために解凍が早く、半解凍の状態で食することが難しかった。
【0025】
また実験例4は、甘味を少なく感じ、酒の苦味を強く感じ、さらにライトアルコール商品としてはアルコールが強く感じられ、多く飲むことはできないといったコメントがあった。実験例4は食感、風味の項目について他より大きく劣るものとなった。したがって、アルコール含有飲食品としては、実験例1,2,3で行ったアルコール度1〜5%の範囲が適当であり、実験例4のように、7%を超えると風味・食感が劣るということがいえる。
【0026】
実験2:デンプンの糖化液中の固形分の粉砕の有無
デンプンの糖化液中の固形分の粉砕の有無による風味や食感の違いを比較した。
デンプンの糖化液と清酒とをアルコール3%になるように混和したものを2種類用意し、一方は実験例5として、デンプン糖化液中の固形分をフードプロセッサで粒径1mm以下に粉砕し、他方は固形分を粉砕せずにそのまま実験例6として、それぞれを容器に充填して凍結。その後、半解凍状態で判定員6名により官能評価を実施した。
【0027】
【表2】

【0028】
表2にあるように、実験例5と実験例6とでは、風味については大きく変わらないが、食感の平均点に違いが生じた。実験例5では、デンプン糖化液中の固形分を粉砕することで食感が滑らかになって見た目もよいが、実験例6では固形分が米粒で残り、見た目も悪くストローなどで吸引しにくい結果となった。したがって、デンプン糖化液中の固形分を粉砕することで見た目がよくなり、また食感も向上することがわかった。
【0029】
実験3:固液比の検討
デンプンの糖化液の固体部分と液体部分との比率を変えて固液比率を検討した。
デンプンの糖化液を12,000rpmで10分間遠心分離機にかけて固液分離し、固体と液体とを以下の比率に設定した。
実験例 7の固液比…2:8
実験例 8の固液比…3:7
実験例 9の固液比…1:9
実験例10の固液比…4:6
実験例11の固液比…5:5
その後、実験例7〜11のそれぞれの固形分を、フードプロセッサで粒径が1mm以下になるように粉砕し、アルコール度3%になるように酒類と混和した。しかるのち容器に充填して凍結。半解凍状態で判定員6名により官能評価を実施した。
【0030】
【表3】

【0031】
表3に示すように、実験例7,8では風味,食感で平均点が他の実験例9〜11よりもよい結果となった。実験例9では液体部分が多いと溶けが早まって、アルコール感を強く感じるものとなった。実験例10では糊的な粘性を感じ、味が全体的に重くなっていた。実験例11では固体部分がもっとも多いために糊感が一層強まり、もたつき感が指摘された。
これらの結果から、実験例7,8は食感が滑らかでクリーミーという感想であり、糊感は少なくアルコール感を強く感じるとの指摘もないことから好ましい状態にあるといえる。したがって、デンプンの糖化液の固体と液体の比率は固体:液体=2:8〜3:7が好ましい範囲と判断される。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本形態例の一形態例を示すアルコール含有飲食品の製造手順を示すフローチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酵母を含まない清酒等の酒類と、穀類及び米麹、穀類及び米麹及び酵素剤、穀類及び酵素剤、米麹のいずれかによって調製されたデンプンの糖化液とを混和し、
該デンプンの糖化液中の固形分を粉砕した
ことを特徴とするアルコール含有飲食品。
【請求項2】
前記デンプンの糖化液は、粒径1mm以上の固形分がなくなるように粉砕されている
ことを特徴とする請求項1に記載のアルコール含有飲食品。
【請求項3】
前記アルコール含有飲食品中のアルコール濃度が1〜5%である
ことを特徴とする請求項1または2に記載のアルコール含有飲食品。
【請求項4】
前記アルコール含有飲食品が、容器に凍結状態で充填されている
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のアルコール含有飲食品。
【請求項5】
穀類と米麹または酵素剤と水とを所要温度で混合してデンプンの糖化液を生成し、
該デンプンの糖化液中の固形分を粉砕するとともに、
このデンプンの糖化液に、酵母を含まない清酒等の酒類を混和して生成された
ことを特徴とするアルコール含有飲食品の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−282561(P2007−282561A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−112968(P2006−112968)
【出願日】平成18年4月17日(2006.4.17)
【出願人】(396021391)株式会社一ノ蔵 (2)
【Fターム(参考)】