説明

アルコール飲料醗酵液の膜濾過方法

【課題】アルコール飲料醗酵液の濾過に起因する着香を防止した膜濾過方法の提供。
【解決手段】アルコール飲料の醗酵液を有機膜からなる膜濾過モジュールで濾過し、清澄化するに際し、該モジュールをあらかじめ該飲料のアルコール濃度以上のアルコール水溶液で洗浄することを特徴とするアルコール飲料醗酵液の膜濾過方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアルコール飲料醗酵液の清澄化を目的とした膜濾過方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルコール飲料であるワインを例にとると、ワインはその醗酵液を濾過等により清澄化することにより得られる。ワイン醗酵液は酵母及び蛋白をはじめとする原料由来の濁質を含んでおり、これらを除去する方法として珪藻土濾過法が用いられてきた。ところが、珪藻土濾過は大量の珪藻土を必要とし、同時に分離捕捉された不純物を含むスラッジが大量に排出される問題があった。また、スラッジは焼却処理ができないため産業廃棄物として埋め立て処分する必要があり、環境保全の観点からも珪藻土濾過法に代わる濾過技術が待ち望まれてきた。その後、代替技術として膜濾過法が注目され、現在では膜濾過法が広く用いられている(特許文献1:特表20002−525196号公報)。
【0003】
しかしながら、有機膜からなる膜濾過モジュールでワイン醗酵液を濾過すると、時として風味が変化する着香現象が生じる。着香現象が生じると、元々のワインにはない香りが着いてしまい、商品価値が大きく低下する。ところで、ワインに限らずアルコール飲料の着香に関しては化学分析では検出できない超微量成分が影響することが知られている。
これに対して人間の臭覚感度は高く、極く微量でも嗅ぎ出すことができるので通常、着香の有無は官能試験で判定される。有機膜の場合、シール材やポッティング材としてエポキシ樹脂やウレタン樹脂等が使用される。また、モジュール部材として各種プラスチック材料が用いられるが、官能試験において膜及びまたは前記部材に起因する風味の変化が指摘されることがある。かくして、ワインに限らずアルコール飲料の醗酵液の濾過に用いられる膜濾過モジュールは、着香の元を除去しておくことが強く求められる。
【特許文献1】特表20002−525196号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、アルコール飲料醗酵液の濾過に起因する着香を防止した膜濾過方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、通液前に膜濾過モジュールをアルコール水溶液で洗浄することで、前記目的を達成しうることを見出し、本発明に到達した。
すなわち、本発明は下記の通りである。
1.アルコール飲料の醗酵液を有機膜からなる膜濾過モジュールで濾過し、清澄化するに際し、該モジュールをあらかじめ該飲料のアルコール濃度以上のアルコール水溶液で洗浄することを特徴とするアルコール飲料醗酵液の膜濾過方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明の方法に依れば、アルコール飲料醗酵液の濾過に起因する着香を防止した膜濾過方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明について、特にその好ましい形態を中心に、具体的に説明する。
本発明は、アルコール飲料の醗酵液を有機膜からなる膜濾過モジュールで濾過し、清澄化するに際し、該モジュールをあらかじめ該飲料のアルコール濃度以上のアルコール水溶液で洗浄することを特徴とするアルコール飲料醗酵液の膜濾過方法である。
本発明において、アルコール洗浄は循環洗浄を用いることもできるが、モジュールの一次側及び二次側にアルコール水溶液を充填する方法、いわゆる浸漬洗浄が好ましい。
浸漬洗浄は循環洗浄のようにポンプを使う必要がないため引火等の危険がない。また、タンクを必要としないので使用するアルコール水溶液が少量で済む。浸漬洗浄は特に振とうの必要もなく、室温で静置するだけよい。
【0008】
次に、アルコールとしては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールを単独で用いることもできるし、これらの混合液を用いることもできる。但し、再生アルコールはアルコール以外の溶剤が微量含まれている場合があるので注意が必要であり、ガスクロマトグラフィー分析等で確認することが好ましい。また、洗浄に用いるアルコール水溶液はその都度、更新することが好ましい。アルコール洗浄後は充分に水洗することが好ましく、特にメタノールやイソプロピルアルコール、または変性アルコールを用いた場合は残留がないよう、充分に水洗することが好ましい。水洗の終点は、ガスクロマトグラフィーやTOC分析で把握するのが便利であり、実際には事前に水洗量とアルコール残存濃度あるいはTOC減衰速度の関係を調べておき、これを目安にするのが効率的である。
【0009】
また、水洗の際は図1に示すように、洗浄水を一次側(内圧型モジュールの場合のチューブ側に相当)及び二次側(内圧型モジュールの場合のシェル側に相当)の両方から流し、連続的に排出することが好ましく、一次側と二次側の排出量の比は1:10程度が好ましい。何故ならば、膜表面に付着しているアルコールを洗い流すのは比較的容易であるのに対して、膜の厚み方向に残留しているアルコールは基本的に希釈により除去することになるので、多量の水を通過させねばならない。また、水洗水としてはイオン交換水、飲料水等が使用できる。
【0010】
次に、アルコールの濃度は、好ましくはそれぞれの被処理飲料のアルコール濃度以上であり、それ以下の濃度では洗浄効果が小さい。また、アルコール濃度の上限は、膜及びモジュール部材の耐アルコール性を勘案して決定すればよい。また、洗浄時間は15時間以上が好ましく、より好ましくは20時間以上である。
本発明は、膜の材質や孔径、形状さらにはモジュールの構造や形態に関係なく、有機膜及びプラスチック製部材からなるUF、MFモジュールに広範に用いることができるが、特に膜材質がポリフッ化ビニリデンであるモジュールに効果的である。
なお、本発明の対象であるアルコール飲料としてはワインの他、ビール、清酒等が挙げられる。
【実施例】
【0011】
(実施例1)
旭化成ケミカルズ(株)製、商品名マイクローザMFモジュールUSP−143(中空糸膜材質ポリフッ化ビニリデン、内径1.4mm、公称孔径0.1μ、膜面積0.12m)の一次側及び二次側に20vol%のエタノール水溶液を封入し、室温で20hr静置した。次いで、エタノール水溶液を抜き出し、イオン交換水で1時間水洗した。このモジュールを膜濾過試験機に装着し、入口圧力0.11MPa、出口圧力0.09MPaでワイン醗酵液(赤ワイン、アルコール濃度11.9%、濁度53NTU)を循環濾過した。透過液を官能試験に供した結果、3人のパネラーとも判定は風味の変化なし(着香なし)だった。
【0012】
(比較例1)
通液前にモジュールをエタノールで洗浄しなかった以外は実施例1と同様の試験を行った。官能試験の結果は、3人のパネラーの判定とも着香ありだった。
【0013】
(比較例2)
膜濾過モジュールとして旭化成ケミカルズ(株)製、商品名マイクローザMFモジュールWSP−143(中空糸膜材質ポリオレフィン、内径1.4mm、公称孔径0.1μ、膜面積0.09m)を用い、通液前にモジュールをエタノール水溶液で洗浄しなかった以外は実施例1と同様の試験を行った。官能試験の結果は、3人中1人のパネラーの判定が着香ありだった。
【0014】
(比較例3)
エタノールの濃度を5vol%、封入時間を20時間とした以外は実施例1と同様の試験を行った。官能試験の結果は、3人中2人のパネラーの判定が着香ありだった。
【産業上の利用可能性】
【0015】
本発明は、アルコール飲料を膜濾過する工程で好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】アルコール洗浄後の水洗方法の一例を示す断面模式図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコール飲料の醗酵液を有機膜からなる膜濾過モジュールで濾過し、清澄化するに際し、該モジュールをあらかじめ該飲料のアルコール濃度以上のアルコール水溶液で洗浄することを特徴とするアルコール飲料醗酵液の膜濾過方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−136278(P2006−136278A)
【公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−330637(P2004−330637)
【出願日】平成16年11月15日(2004.11.15)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】