説明

アルツハイマー病の予防・治療剤

【課題】細胞内凝集機構によるアルツハイマー病の発症抑制に有効な薬剤を提供する。
【解決手段】細胞内蓄積アミロイドβおよび/またはp53依存性の細胞死を抑制することによる、塩酸アポモルフィンを有効成分として含むアルツハイマー病の予防・治療剤。本発明のアルツハイマー病の予防・治療剤は、細胞内でのアミロイドβタンパク質の凝集・沈着の抑制、および細胞内プロテアソームの活性化に基づくため、アルツハイマー病の根治的な治療が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、塩酸アポモルフィンを有効成分として含むアルツハイマー病の予防・治療剤に関する。さらに詳しくは、細胞内蓄積アミロイドβおよび/またはp53依存性の細胞死を抑制することによる、塩酸アポモルフィンを有効成分として含むアルツハイマー病の予防・治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
アルツハイマー病は、その患者数は増加の一途を辿り(2005年現在160〜180万人)、とりわけ少子高齢化が進む我が国において深刻な問題となっている。これに対応すべくアルツハイマー病をめぐる研究は精力的に進められているが、病態成立の中核をなす神経細胞死の抑止を可能とする根治薬は未だ開発されていない。
【0003】
アルツハイマー病の発症のメカニズムとしてアミロイドカスケード仮説が提唱されている。同仮説によれば、アミロイドβタンパク質前駆体(以下、APPと称することがある)が、β−セクレターゼおよびγ−セクレターゼにより切断されてアミロイドβタンパク質(以下、Aβと称することがある)を生成し、このアミロイドβタンパク質が凝集・沈着して脳神経細胞破壊、脳神経の脱落を引き起こすとされている。アミロイドβタンパク質前駆体はアルツハイマー病の主犯とされるβアミロイドタンパク質の生みの親となる糖タンパク質であるが、その機能は未だ不明である。一方、アミロイドβタンパク質は患者の脳に特徴的に見られる染み「老人班」の主成分のペプチドであり、分子量は約4000kDa、アミノ酸の数によりAβ40、Aβ42およびAβ43の3種が知られている。アミロイドβタンパク質はアルツハイマー病発症の主犯であるが、単量体では細胞毒性は低く、凝集してオリゴマーになったときに強い毒性を発揮することがわかっている。アミロイドβタンパク質の凝集により脳神経細胞破壊、脳神経の脱落が引き起こされると、アミロイド班の形成、神経原線維変化が引き金になって脳細胞が細胞死を起こし、アセチルコリン作動性神経細胞等の神経細胞の脱落、ついでアルツハイマー病発症となる。
【0004】
認知障害、記憶障害などアルツハイマー病の中心的な症状に有効として認可されている医薬は、従来よりアルツハイマー病患者の脳内でアセチルコリン作動性神経の障害が病態の原因であるとの考え方から脳内のアセチルコリン量を増加させる薬剤、すなわちコリンエステラーゼ阻害剤が中心であり、国内ではアセチルコリンエステラーゼ阻害剤である「アリセプト(塩酸ドネペジル)」(エーザイ)のみである。2005年3月期のアリセプトの売上げは国内では前期比23%増の351億円、海外を含めると前期比15%増の1629億円となっている。しかしながら、アリセプトは症状悪化を限定的に抑えるだけでアルツハイマー病の根本的治療薬にはなっていない。実際に治療を受けている患者は47%であるという推計からも、今後とも痴呆治療薬の市場は拡大を続けることが見込まれており、薬剤の研究開発は現在急ピッチで進められている。
【0005】
現在、多くの研究者や企業が想定している治療戦略として、細胞外でのアミロイドβタンパク質、特にAβ42の神経毒性により神経変性が進むとの認識から、これを防ぐためのアミロイドβを産生するβ−、γ−セクレターゼの阻害剤、細胞外でアミロイドβタンパク質を分解するネプリライシン(理研)の活性化剤、アミロイドβタンパク質重合阻害剤、特にワクチン治療が治療薬として注目されている。ワクチン治療では、アミロイドβタンパク質をワクチンとして投与し、それに対する抗体を体内で産生させ、抗体が老人斑を除去し、さらに分泌されたアミロイドβタンパク質の凝集・沈着を抑制することにより神経細胞の脱落を防止しようとするものである。しかしながら、脳炎などの重篤な副作用があり、また実際の神経変性を抑制するものではないため、これら治療薬はいずれもアルツハイマー病の根治を可能とするものではない。
【0006】
最近、神経細胞内蓄積アミロイドβ(Aβ42)の毒性が提唱されており、いくつかの論文では、そのメカニズムとして、小胞体、ミトコンドリアやシナプスでの影響が提唱されている(非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3、非特許文献4)。しかしながら、核での作用や直接的にアポトーシスにつながる報告はこれまでになされていない。
【0007】
この神経細胞内蓄積アミロイドβ(Aβ42)は、脳の加齢に伴う過剰の酸化ストレス(過酸化水素等)により生成し、この段階ではニューロンは死なないまでも、アポトーシスに至る危険性が高まっている。この神経細胞内蓄積アミロイドβ(Aβ42)がさらに核へ移行されるとp53発現増加を介して細胞死が促進されることになる。
【0008】
最近、Aβを細胞質から核へ移送するシャペロン分子としてAβ-related Death Inducing Protein(AB-DIP)が同定された(非特許文献5)。この分子の機能が亢進すると細胞のアポトーシスが誘導され、それはAβ依存性であることがわかっている。従って、ミトコンドリア、小胞体やシナプスの傷害だけでなく、Aβの核移行によって直接p53依存性アポトーシスに至る経路が重要と考えられる。
【0009】
このような細胞内Aβ42/p53依存性アポトーシスの亢進が、90%以上にも及ぶとされるアルツハイマー病脳での神経細胞脱落に深く関わるとすると、その経路を抑止することは極めて重要である。その戦略としては、プロテアソーム機能を活性化することで細胞質内蓄積Aβ42やp53分解を促進することが合理的と考えられる。その理由として、1)細胞質内蓄積Aβ42はアポトーシスでなくてもミトコンドリアやシナプス傷害をきたす可能性があること、2)加齢により、あるいはアルツハイマー病で神経細胞のプロテアソーム機能低下が報告されていること(非特許文献6)、3)プロテアソームはAβ42とp53の両方の分解を促進するので効率が良いこと、さらに、4)神経細胞内の異常蛋白蓄積はアルツハイマー病だけでなく、パーキンソン病や脊髄小脳変性症でも想定されており、広く神経変性機序の抑制も期待できること、などが挙げられる。
【0010】
プロテアソームは、分子量約200万、総数約50個のサブユニットから構成された巨大な多成分複合体であり、生化学史上最も巨大で複雑な酵素である。プロテアソームは核と細胞質に局在しており、細胞内タンパク質を選択的に分解している。主たる標的は、細胞周期、増殖、アポトーシスに関与する多くのタンパク質であり、短命のタンパク質の大部分がユビキチン/プロテアソーム経路によって分解される。このユビキチン/プロテアソーム経路は、物質代謝、細胞周期、アポトーシス、正負の信号伝達、タンパク質の品質管理、ストレスおよび免疫応答などの多様な生命現象の制御に深く関与しており、これまでに認識されてきたタンパク質の生合成による制御とは別の新たな生体反応制御系として注目されているものである。この制御系の破綻が様々な病態の発症原因となることは十分に予想されることであり、それゆえ、この制御系を正負に調節できる薬剤の研究は、現在克服が困難な様々な難治疾患に対する有効な治療法開発に資する可能性が期待される。
【0011】
塩酸アポモルフィンは1869年に初めて催吐剤として使用されて以来、20世紀前半には統合失調症患者の鎮静剤として、またアルコール中毒患者や麻薬中毒患者の行動改善薬として使用されてきた。我が国においても日本薬局方初版(1886年発令)から第七改正日本薬局方第2部の改正時(1966年)までの間、日本薬局方あるいは国民医薬品集中に記載されており、高用量(常用量は5mg皮下投与、極量は20mg皮下投与)で催吐剤、低用量(水剤、0.5〜1mg/回)で去痰剤として臨床使用されてきている。1967年にはドパミン作動薬としての効果が認められ、抗パーキンソン病薬として臨床で使用されるようになり、欧州では現在パーキンソン病の治療薬(皮下注射;1.5〜10mg/回、2〜8回/日)等として臨床で使用されている。
【0012】
塩酸アポモルフィンとアルツハイマー病との関連性はこれまで知られていないが、ある種のアポモルフィンアナログがアミロイドβタンパク質のオリゴマー化を促進し、そのアミロイド線維化(fibrillization)を抑制するとの報告がある(非特許文献7)。しかしながら、この報告は、あくまで細胞外アミロイドカスケード仮説における作用機序に関するものである。また、アポモルフィンおよび類縁体の配糖体およびオルトエステル配糖体誘導体をアルツハイマー病ならびに記憶喪失および/または痴呆を含む障害の治療・改善に用いるとの報告もあるが(特許文献1、2)、同報告は専ら勃起機能障害の治療を目的としたものであり、アルツハイマー病に対するその作用機序や薬理効果についても何ら記載されていない。
【0013】
【特許文献1】特表2005−526790号公報
【特許文献2】WO03/080074号公報
【非特許文献1】Lustbader, J.W. et al., Science Vol.304, No.5669, p.448-452, 2004
【非特許文献2】Yan, S.D. & Stern, D.M., Int.J.Exp.Pathol., Vol.86, No.3, p.161-171, 2005
【非特許文献3】Takahashi, R. H. et al., Am. J.Pathol., Vol.161, No.5, p.1869-1879, 2002
【非特許文献4】Borghi, R. et al., J.Alzheimer Dis., Vol.4, No.1, p.31-37, 2002
【非特許文献5】Lakshmana, M.K. et al., FASEB J., Vol.19, No.10, p.1362-1364, 2005
【非特許文献6】Lopez Salon, M. et al., J.Neurosci.Res., Vol.62, No.2, p.302-310, 2000
【非特許文献7】The Journal of Biological Chemistry, Vol.277, No.45, p.42881-42890, 2002
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、これまで根治の可能性が示されていないアルツハイマー病に対して、新たな作用機序に基づくアルツハイマー病の新規予防・治療剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するため、本発明者はまず、Aβ抗体でアルツハイマー脳を染色して観察したときに、古典的な老人斑以外に、注意すると神経細胞内にもAβが蓄積していることを認め、さらに神経細胞内のAβ42蓄積に細胞質の蓄積と核の蓄積との2種類のパターンがあることを見出した。つぎに、早期より細胞質蓄積が生じ、その一部が核に移行する結果、その細胞は短期で死に陥り、老人斑が形成されることを見出した。かかる知見に基づき、本発明者は、アルツハイマー病の発症機構としてこれまで主として対象とされていた細胞外でのアミロイドβタンパク質の凝集・沈着とは別に、細胞内、とりわけ核でのアミロイドβタンパク質の増加、p53カスケードの亢進がアルツハイマー病の発症に重大な役割を果たしていることを初めて見出し、この細胞内蓄積機構によるアルツハイマー病の発症抑制に有効な薬剤を見出すべく鋭意研究した。その結果、驚くべきことに、塩酸アポモルフィンが細胞内蓄積機構に作用してアルツハイマー病における神経細胞死を有効に抑制することを見出し、本発明を完成するに至った。とりわけ、本発明のアルツハイマー病の予防・治療薬の有効成分である塩酸アポモルフィンは、細胞内のプロテアソームに作用してその機能を活性化し、その結果、細胞内Aβおよびp53タンパク質の両者の分解を促進することにより、神経細胞のアポトーシスを抑制するとともにミトコンドリア/シナプス障害をも抑制して、アルツハイマー病を有効に予防・治療すると考えられる。
【0016】
本発明は、塩酸アポモルフィンを有効成分として含むアルツハイマー病の予防・治療剤に関する。さらに詳細には、本発明は、細胞内蓄積アミロイドβおよび/またはp53依存性の細胞死を抑制することによる、塩酸アポモルフィンを有効成分として含むアルツハイマー病の予防・治療剤に関する。
【発明の効果】
【0017】
本発明による塩酸アポモルフィンを有効成分として含むアルツハイマー病の予防・治療剤は、従来から考えられている細胞外のアミロイドβタンパク質の凝集・沈着の抑制に比べて、神経細胞内に蓄積するアミロイドβタンパク質とp53タンパク質を低下させる。細胞内のアミロイドβタンパク質の凝集・蓄積はアルツハイマー病における大量の神経細胞死を直接引き起こすと考えられていることから、本発明のアルツハイマー病の予防・治療剤はかかるアミロイドβタンパク質の分解機構を促進することで、顕著な神経細胞死抑制効果を有している。従って、細胞外アミロイドβタンパク質の凝集阻害薬に比べて、アルツハイマー病における大量の神経細胞死を抑止することで、より根治的な治療や予防が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明のアルツハイマー病の予防・治療剤の有効成分である塩酸アポモルフィンとしては、市販のもの(ユープリマ、武田/アボット)を用いることができる。
【0019】
本発明のアルツハイマー病の予防・治療剤の投与量は治療上有効量であればよく、被験者の病態の重篤度、性別、年齢、体重等によって変わり、最終的には医師の裁量によって決定されるが、通常、1日当たり約0.1mg〜約2mg、より好ましくは約0.3mg〜約1.5mg、最も好ましくは約0.5mg〜約1mgの範囲である。
【0020】
本発明によるアルツハイマー病の予防・治療剤の投与方法は、特段の制約はなく一般的な方法が適用され得るが、たとえば、経口投与、腹腔内注入、気管内注入、気管支内注入および直接的な気管支内滴注、皮下注入、経皮輸送、動脈内注入、静脈内注入、経鼻投与等が例示される。ただし、血液脳関門(BBB)が希薄な部分を通過することから直接脳内に移行しやすい形態として点鼻薬が好ましい。
【0021】
本発明のアルツハイマー病の予防・治療剤は、その投与経路および剤型に応じて、当技術分野において公知の方法により調製することができる。例えば、経口投与のための予防・治療剤としては、カプセル剤、溶液剤等の剤型が使用可能である。従って、本発明による予防・治療剤は、それぞれの剤型に応じて、医薬上許容される担体、希釈剤、保存剤等を含んでいてよい。
【0022】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0023】
(細胞内蓄積Aβ40分解における塩酸アポモルフィンの影響)
(1)細胞質内アミロイドβ蓄積モデルの確立
細胞内プロテアソームの活性化に基づく細胞内でのアミロイドβタンパク質の凝集・沈着を抑制する化合物を検討するため、細胞内蓄積Aβの分解作用をアッセイするシステムを構築した。培養細胞として神経芽細胞腫(neuroblastoma)細胞(SH-SY5Y;ATCC)を用い、人為的に細胞内にAβ40を蓄積させた。ここでAβ42でなくAβ40を採用したのは、Aβ40の方がAβ42よりも水溶性が高く取り扱いやすいためであった。Aβ40分解作用が高いとAβ42分解作用も同様に強いと考えられた。細胞質内にアミロイドβを導入するには高張外液influx法を用いた。その方法を簡単に説明すると、InfluxTM Pinocytic Cell-loading Reagent(Molecular Probe社)を用い、SH-SY5Y(1×106細胞)をAβ40(約200μg;ANASPEC社)に高張液10分/低張液2分で静置して暴露することにより、Aβ40をピノサイトーシス(pinocytosis)現象により細胞内に取り込ませ、細胞質内にびまん性にペプチドを充満させた。Aβ40を細胞内に蓄積させた後、Aβの経時的分解を観察した。MG132(和光純薬)を人為的にプロテアソーム活性を阻害するための活性阻害剤としてDMSOに溶解して用い、塩酸アポモルフィン(以下、APOともいう)(シグマアルドリッチ)は水に溶解して、これら試薬をAβ40蓄積の2時間前に培養液に加えてその作用を検討した。
【0024】
(2)定量的評価
Aβ40処理の0分後および30分後に細胞を回収し、免疫ブロットした。免疫ブロットは一般に使われている方法で、2%SDSで細胞より可溶性タンパク質を抽出し、Tris/TricineゲルSDS-PAGE後、PVDF membraneにトランスブロットし(Semi-dry法)、抗Aβ抗体(4G8、Signet Pathology Systems社)で検出した。定量的評価をアミロイドβの免疫反応の定量評価により行った。定量評価は、写真をphtoshopで取り込み、NIH Imageでバンド密度を測定することで行った。その結果、APO添加により30分後の分解が促進すること、MG132添加で分解が阻害されるものの、APOを加えることでまた分解が回復することがわかった(図1A、B)。それゆえ、細胞内蓄積Aβはプロテアソームによって分解され、APOはそのプロセスを促進すると考えられた。
【0025】
(3)細胞培養における細胞質内Aβ40の経時的変化
Aβ40を上記(1)と同様にしてピノサイトーシス現象により細胞内に取り込ませ、10μMのAPOを2時間前に培養液に加えた後、上記(2)と同様にして免疫ブロットし、細胞質内Aβ40の経時的変化を観察した。その結果を図2に示す。図2の上段は、Aβ40を緑色蛍光(Alexa-Fluor488)により蛍光標識(AlexaFluorTMタンパク質標識キット;Molecular Probe社)したものを共焦点レーザー顕微鏡(オリンパス)で観察したものである。図2の結果から明らかなように、APOの添加により細胞質内のAβ40が経時的に分解されることが確認された。
【実施例2】
【0026】
(過酸化水素誘導性アポトーシスにおけるAPOの保護効果)
(1)APO添加による細胞生存促進作用
過酸化水素によって誘導される細胞死に対する塩酸アポモルフィンの細胞死抑制作用を調べた。過酸化水素処理は、通常のSH-SY5Y細胞の培地(10%血清含有)に適量(0mM、1mM、および3mMの過酸化水素)添加し、24時間後の細胞生存を検討することにより行った。残存細胞の状態がよくわかるように、メタノール/アセトン(50%/50%)で10分間固定後、抗APP-C末抗体(シグマアルドリッチ社)で免疫染色(ユニバーサルキット、DAKO社)を行った。その結果、過酸化水素によって細胞死が誘導された(図3上段)。つぎに、0mM、1mM、および3mMの過酸化水素とともに10μMのAPOで処理した。その結果、APOで処理した場合には残存細胞数や形態的な面から、APO添加による明らかな細胞生存促進が認められた(図3下段)。
【0027】
(2)APO添加によるp53レベルと細胞生存率の変化
さらに、過酸化水素添加による細胞傷害におけるp53レベルと細胞生存率を調べるため、p53のウエスタンブロット分析およびCell Titer-Blueアッセイキット(プロメガ社)を用いた生存率アッセイを行った。過酸化水素処理は、上記と同様、通常のSH-SY5Y細胞の培地(10%血清含有)に適量(0mM、1mM、および3mMの過酸化水素)添加することにより行った。24時間後、過酸化水素添加によるp53レベルの上昇がAPO添加により抑制された(図4A)。また、細胞生存率もAPO添加により回復し、過酸化水素によって誘導される細胞死に対しAPOが細胞死抑制作用を示すことが確認された。特に、10μMのAPOの添加で著しい生存率改善効果が認められた(図4B、p<0.0001)。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】図1は、細胞質内アミロイドβ蓄積モデルにおいて細胞内蓄積Aβ40の分解に対する塩酸アポモルフィンの作用を調べた結果を免疫反応の定量評価により示すグラフである。
【0029】
【図2】図2は、塩酸アポモルフィンの添加により細胞培養における細胞質内Aβ40が経時的に分解されることを示す。
【0030】
【図3】図3は、過酸化水素によって誘導される細胞死に対する塩酸アポモルフィンの細胞死抑制作用を示す。
【0031】
【図4】図4は、過酸化水素によって誘導される細胞死に対する塩酸アポモルフィンの細胞死抑制作用を示す。パネルAは塩酸アポモルフィン添加によるp53レベルの変化、パネルBは塩酸アポモルフィン添加による細胞生存率の変化を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩酸アポモルフィンを有効成分として含むアルツハイマー病の予防・治療剤。
【請求項2】
細胞内蓄積アミロイドβおよび/またはp53依存性の細胞死を抑制することによる、請求項1に記載のアルツハイマー病の予防・治療剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−149524(P2009−149524A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−73054(P2006−73054)
【出願日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】