アルツハイマー病の予防及び/又は治療のための薬剤
アミロイド仮説とは異なるアルツハイマー病発症メカニズムに基づく、新たなアルツハイマー病の予防及び/又は治療のための薬物・薬剤、並びにそのスクリーニング方法を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルツハイマー病の予防及び/又は治療のための薬剤、並びにアルツハイマー病の予防及び/又は治療のための薬物のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高齢者における痴呆症の主なものであるアルツハイマー病の病態の全容と真の発症原因は未だ解明されておらず、その抜本的な予防・治療法も確立されていない。しかしながら、発症メカニズムについては、「アミロイド仮説」が提唱され、アルツハイマー病患者の病理学的所見、及び家族性アルツハイマー病の遺伝学的解析から、広く受け入れられることとなった(非特許文献1)。
【0003】
これは、アルツハイマー病の発症と進行に、アミロイドと呼ばれる一群のタンパク質の脳(大脳皮質)への異常蓄積が関与するという説である。簡単には、βAPP(β−amyloid precursor protein)と呼ばれる1回膜貫通型タンパク質の細胞外側がβセクレターゼによって切断を受け(βカット)、引き続きそのC末端側断片がγセクレターゼによって切断を受け(γカット)、N末端側断片(β40又はβ42)及びC末端側断片(C60又はC58(以下、集合的にAICDともいう))が産生される。これらの断片のうち、N末端側断片(β40又はβ42)は凝集性が高く、アミロイドを形成し、細胞外に老人斑として蓄積される。このようなアミロイドの産生、凝集及び蓄積が神経細胞障害を引き起こし、神経細胞を細胞死に至らせる。
【非特許文献1】富田泰輔ら、細胞工学、2001年、第20巻、第11号、p.1489−1494
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
「アミロイド仮説」に基づいて、アルツハイマー病の予防法(予防薬)・治療法(治療薬)の開発が行われてきたが、それらは、βセクレターゼ及びγセクレターゼの阻害薬、並びに抗アミロイド抗体などである。しかしながら、アルツハイマー病は多因子性疾患であり、アミロイド仮説のみに基づくドラッグデザインでは、アルツハイマー病の予防法(予防薬)・治療法(治療薬)として十分ではないことも指摘されている。
【0005】
そこで、本発明は、アミロイド仮説とは異なるアルツハイマー病発症メカニズムに基づく、新たなアルツハイマー病の予防及び/又は治療のための薬物・薬剤、並びにそのスクリーニング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明は、神経細胞においてAICD及びp53の相互作用を阻害する候補薬物を、アルツハイマー病の予防及び/又は治療のための薬物として選別するスクリーニング方法を提供する。このスクリーニング方法により、アミロイド仮説とは異なるアルツハイマー病発症メカニズムに基づく、新たなアルツハイマー病の予防及び/又は治療のための薬物・薬剤を得ることができる。
【0007】
上記スクリーニング方法は、
AICD及びp53が発現し、AICD/p53複合体が形成されている神経細胞を、候補薬物とともに培養するステップと、
培養後の神経細胞から調製された細胞溶解液と、抗AICD抗体及び抗p53抗体から選ばれる第1の抗体とを接触させることにより、AICD又はp53と前記第1の抗体との複合体である第1の免疫複合体と、AICD/p53複合体と前記第1の抗体との複合体である第2の免疫複合体とを得るステップと、
前記第1及び第2の免疫複合体と、抗AICD抗体及び抗p53抗体から選ばれ前記第1の抗体とは異なる第2の抗体とを接触させるステップと、
前記第2の免疫複合体と前記第2の抗体との複合体である第3の免疫複合体の存在を検出するステップと、を備えることが好ましい。
【0008】
このようなスクリーニング方法で得ることのできる、アルツハイマー病の予防及び/又は治療のための薬物は、アルツハイマー病の予防及び/又は治療のための薬剤の薬効成分となり得る。
【0009】
このような薬剤として、c−Abl及び/又はp19ARFを有効成分として含有する、アルツハイマー病の予防及び/又は治療のための薬剤が提供される。
【0010】
p53は、核内に存在する転写因子であり、細胞周期の制御やDNAの修復を担い、また、細胞分化、細胞老化、血管新生、細胞死(アポトーシス)等を引き起こす。一方、AICDについては、その細胞内での挙動やアルツハイマー病との関わりはよく知られていなかったが、近年、AICDが核内に移行して転写活性化に関与することが報告された(Xinwei Cao et al.,Science,293,115−120,(2001))。
【0011】
本発明者らは、アルツハイマー病発症の分子生物学的メカニズムの1つとして、AICDが核内に移行してp53との間で何らかの相互作用を引き起こし、その結果、神経細胞が細胞死を受けやすくなり、アルツハイマー病が発症するという仮説を考えた。図1は、アミロイド仮説、並びにアルツハイマー病の発症におけるAICD及びp53の相互作用の関与を説明する模式図である。
【0012】
そして、本発明者らは、AICD及びp53の相互作用によるp53の安定化がp53の転写因子活性や細胞増殖抑制能、細胞死誘導能等のp53特有の活性を高めて、神経細胞の細胞死を誘導することを見出した。この発見に基づいて、AICD及びp53の相互作用を阻害する物質はアルツハイマー病の予防及び/又は治療のための薬物になると考えた。
【0013】
c−Abl及びp19ARFは、Mdm2がp53に結合するのを拮抗的に阻害するタンパク質である(R.V.Sionov et al.,Oncogene,18,6145−6157,(1999))ので、AICD及びp53の相互作用を阻害すると考えられる。
【0014】
本発明はまた、神経細胞においてAICD及びFe65の相互作用を阻害する候補薬物を、アルツハイマー病の予防及び/又は治療のための薬物として選別するスクリーニング方法を提供する。このスクリーニング方法によっても、アミロイド仮説とは異なるアルツハイマー病発症メカニズムに基づく、新たなアルツハイマー病の予防及び/又は治療のための薬物・薬剤を得ることができる。
【0015】
上記スクリーニング方法は、
AICD及びFe65が発現し、AICD/Fe65複合体が形成されている神経細胞を、候補薬物とともに培養するステップと、
培養後の神経細胞から調製された細胞溶解液と、抗AICD抗体及び抗Fe65抗体から選ばれる第1の抗体とを接触させることにより、AICD又はFe65と前記第1の抗体との複合体である第1の免疫複合体と、AICD/Fe65複合体と前記第1の抗体との複合体である第2の免疫複合体とを得るステップと、
前記第1及び第2の免疫複合体と、抗AICD抗体及び抗Fe65抗体から選ばれ前記第1の抗体とは異なる第2の抗体とを接触させるステップと、
前記第2の免疫複合体と前記第2の抗体との複合体である第3の免疫複合体の存在を検出するステップと、を備えることが好ましい。
【0016】
このようなスクリーニング方法で得ることのできる、アルツハイマー病の予防及び/又は治療のための薬物は、アルツハイマー病の予防及び/又は治療のための薬剤の薬効成分となり得る。
【0017】
このような薬剤として、AlcICDを有効成分として含有する、アルツハイマー病の予防及び/又は治療のための薬剤が提供される。また、配列表の配列番号1又は2に記載のアミノ酸配列を含むペプチドを有効成分として含有する、アルツハイマー病の予防及び/又は治療のための薬剤が提供される。
【0018】
核受容体タンパク質Fe65は、AICDと複合体を形成し、Gal4及びヒストンアセチルトランスフェラーゼTip60の融合タンパク質による転写を活性化することが知られている(Xinwei Cao et al.,Science,293,115−120,(2001))。この知見に基づいて、本発明者らは、Fe65がAICDと相互作用してAICDの核内移行を促進する物質であり、AICD及びFe65の相互作用を阻害する物質は、間接的にAICD及びp53の相互作用を阻害し、アルツハイマー病の発症を抑制すると考えた。
【0019】
AlcICDは、AICD及びFe65の相互作用を阻害する物質である(Araki,Y.et al.,J.Biol.Chem.,279,24343−24354(2004))。また、Fe65におけるAICDの結合部位はPTB2ドメインであり、AICDにおけるFe65の結合部位のアミノ酸配列はNPTY配列であることが知られている(Xinwei Cao et al.,Science,293,115−120,(2001))。配列表の配列番号1は、Fe65におけるPTB2ドメインのアミノ酸配列を示す配列である。配列表の配列番号2は、NPTY配列を示す配列である。配列表の配列番号1又は2に記載のアミノ酸配列を含むペプチドは、AICD及びFe65の相互作用を阻害すると考えられる。
【0020】
本発明はまた、神経細胞においてAICD及びTip60の相互作用を阻害する候補薬物を、アルツハイマー病の予防及び/又は治療のための薬物として選別するスクリーニング方法を提供する。このスクリーニング方法によっても、アミロイド仮説とは異なるアルツハイマー病発症メカニズムに基づく、新たなアルツハイマー病の予防及び/又は治療のための薬物・薬剤を得ることができる。
【0021】
上記スクリーニング方法は、
AICD及びTip60が発現し、AICD/Tip60複合体が形成されている神経細胞を、候補薬物とともに培養するステップと、
培養後の神経細胞から調製された細胞溶解液と、抗AICD抗体及び抗Tip60抗体から選ばれる第1の抗体とを接触させることにより、AICD又はTip60と前記第1の抗体との複合体である第1の免疫複合体と、AICD/Tip60複合体と前記第1の抗体との複合体である第2の免疫複合体とを得るステップと、
前記第1及び第2の免疫複合体と、抗AICD抗体及び抗Tip60抗体から選ばれ前記第1の抗体とは異なる第2の抗体とを接触させるステップと、
前記第2の免疫複合体と前記第2の抗体との複合体である第3の免疫複合体の存在を検出するステップと、を備えることが好ましい。
【0022】
このようなスクリーニング方法で得ることのできる、アルツハイマー病の予防及び/又は治療のための薬物は、アルツハイマー病の予防及び/又は治療のための薬剤の薬効成分となり得る。
【0023】
ヒストンアセチルトランスフェラーゼTip60は、核内でAICDと複合体を形成して神経膠腫細胞の細胞死(アポトーシス)を引き起こすことが知られている(Ayae Kinoshita et al.,J.Biol.Chem.,277,28530−28536,(2002))。この知見に基づいて、本発明者らは、Tip60がAICD及びp53の相互作用を促進する物質であり、AICD及びTip60の相互作用を阻害する物質はアルツハイマー病の予防及び/又は治療のための薬物になると考えた。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、アミロイド仮説とは異なるアルツハイマー病発症メカニズムに基づく、新たなアルツハイマー病の予防及び/又は治療のための薬物・薬剤、並びにそのスクリーニング方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】図1は、アミロイド仮説、並びにアルツハイマー病の発症におけるAICD及びp53の相互作用の関与を説明する模式図である。
【図2】図2は、p53発現細胞でβAPPを強制発現させたときのp21プロモーターの活性を示すグラフである。
【図3】図3は、p53発現細胞でβAPPを強制発現させたときのMDM2プロモーターの活性を示すグラフである。
【図4】図4は、p53発現細胞でβAPPを強制発現させたときのBaxプロモーターの活性を示すグラフである。
【図5】図5は、p53発現細胞でβAPP及びp53を強制発現させたときのp21プロモーターの活性を示すグラフである。
【図6】図6は、p53発現細胞でβAPP及びp53を強制発現させたときのMDM2プロモーターの活性を示すグラフである。
【図7】図7は、p53発現細胞でβAPP及びp53を強制発現させたときのBaxプロモーターの活性を示すグラフである。
【図8】図8は、p53非発現細胞でβAPPを強制発現させたときのp21プロモーターの活性を示すグラフである。
【図9】図9は、p53非発現細胞でβAPPを強制発現させたときのMDM2プロモーターの活性を示すグラフである。
【図10】図10は、p53非発現細胞でβAPPを強制発現させたときのBaxプロモーターの活性を示すグラフである。
【図11】図11は、p53発現細胞でp53を強制発現させたときの薬剤耐性コロニー数を示すグラフである。
【図12】図12は、p53発現細胞でβAPPを強制発現させたときの薬剤耐性コロニー数を示すグラフである。
【図13】図13は、p53非発現細胞でβAPPを強制発現させたときの薬剤耐性コロニー数を示すグラフである。
【図14】図14は、シスプラチンの量とSH−SY5Y細胞の細胞生存率との関係を示すグラフである。
【図15】図15は、SH−SY5Y細胞に対するシスプラチン処理によって得られた産物の免疫ブロットの結果を示す図である。
【図16】図16は、C60を強制発現させたU20S細胞の核画分と細胞質画分の免疫ブロットの結果を示す図である。
【図17】図17は、C60を強制発現させたU2OS細胞を抗FLAG抗体を用いて免疫染色したものを共焦点走査顕微鏡で観察した写真に対応する図である。
【図18】図18は、C58又はC60を強制発現させたCOS7細胞の免疫ブロットの結果を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。
【0027】
(AICD及びp53の相互作用)
p53の転写因子活性、細胞死誘導能(アポトーシス活性)などに関する種々のアッセイをβAPP及び/又はAICDの存在下で行うことによって、βAPP又はAICDとp53との相互作用について検討することができる。
【0028】
p53の転写因子活性に対するβAPPの影響:
p53を発現しているU2OS細胞にさらにp53遺伝子を導入すると、p53に反応するプロモーター(p21、MDM2、Bax)活性が上がることが知られている。そこで、p53の代わりにβAPPをコードする遺伝子を導入することによってこれらのプロモーター類の活性が上がるか否かを試験する。試験には、転写因子の機能解析の標準的な手法であるルシフェラーゼアッセイ(ルシフェラーゼリポーターアッセイ)を用いる。
【0029】
具体的には、野性型のp53を発現しているU2OS細胞にβAPPの発現ベクター、及びp53に反応するプロモーター(p21、MDM2、Bax)を含有するレポーターベクターを導入する。48時間後、細胞を回収してそのルシフェラーゼ活性を測定する。このようにして得られたルシフェラーゼ活性測定結果を、各プロモーターについて図2〜4に示す。
【0030】
図2は、p53発現細胞でβAPPを強制発現させたときのp21プロモーターの活性を示すグラフである。図3は、p53発現細胞でβAPPを強制発現させたときのMDM2プロモーターの活性を示すグラフである。図4は、p53発現細胞でβAPPを強制発現させたときのBaxプロモーターの活性を示すグラフである。
【0031】
図2〜4から、βAPPの強制発現によって、p21、MDM2、Bax由来のプロモーターの活性がいずれも顕著に上昇したことが分かる。βAPPは、内在性のセクレターゼによりC60又はC58を産生していると考えられる。さらに、U2OS細胞は野性型p53を発現している。従って、C60又はC58によるp53の活性化が示唆される。
【0032】
次に、p53とβAPPを併用することでp53の活性がさらに上がるか否かを試験する。試験には上述の試験と同様にルシフェラーゼアッセイを用いる。
【0033】
具体的には、野性型のp53を発現しているU2OS細胞にβAPPの発現ベクター、p53の発現ベクター、及びp53に反応するプロモーター(p21、MDM2、Bax)を含有するレポーターベクターを導入する。48時間後、細胞を回収して、そのルシフェラーゼ活性を測定する。このようにして得られたルシフェラーゼ活性測定結果を、各プロモーターについて図5〜7に示す。
【0034】
図5は、p53発現細胞でβAPP及びp53を強制発現させたときのp21プロモーターの活性を示すグラフである。図6は、p53発現細胞でβAPP及びp53を強制発現させたときのMDM2プロモーターの活性を示すグラフである。図7は、p53発現細胞でβAPP及びp53を強制発現させたときのBaxプロモーターの活性を示すグラフである。
【0035】
図5〜7から、βAPP及びp53の強制発現によって、p21、MDM2、Bax由来のプロモーターの活性がいずれも、βAPPを単独で強制発現させた場合に比べて、顕著に上昇したことが分かる。従って、前述の試験の結果と同様に、C60又はC58によるp53の活性化が示唆される。
【0036】
ネガティブコントロ一ルとして、p53を発現しない細胞を用いて、同様の試験を繰り返す。
【0037】
野性型p53を欠くH1299細胞にβAPPの発現ベクター、及びp53に反応するプロモーター(p21、MDM2、Bax)を含有するレポーターベクターを導入する。48時間後、細胞を回収してそのルシフェラーゼ活性を測定する。このようにして得られたルシフェラーゼ活性の測定結果を、各プロモーターについて図8〜10に示す。
【0038】
図8は、p53非発現細胞でβAPPを強制発現させたときのp21プロモーターの活性を示すグラフである。図9は、p53非発現細胞でβAPPを強制発現させたときのMDM2プロモーターの活性を示すグラフである。図10は、p53非発現細胞でβAPPを強制発現させたときのBaxプロモーターの活性を示すグラフである。
【0039】
図8〜10から、βAPPの強制発現によっても、p21、MDM2、Bax由来のプロモーターの活性が上昇しなかったことが分かる。H1299細胞が野性型p53を欠くことから、前記U2OS細胞で観察されたβAPPによるp21、MDM2、Baxプロモーターの活性化はβAPPによるp53の活性化に起因することが示唆される。
【0040】
p53の細胞増殖抑制能及び細胞死誘導能:
上述の試験で用いるU2OS細胞でp53が本来の細胞増殖抑制能及び細胞死誘導能を呈するか否かを試験する。
【0041】
野性型のp53を発現しているU2OS細胞にp53の発現ベクターを導入した後、細胞をG418存在下で培養する。2週間後、G418抵抗性のコロニー数を測定する。得られた結果を図11に示す。図11は、p53発現細胞でp53を強制発現させたときの薬剤耐性コロニー数を示すグラフである。
【0042】
図11から、p53の強制発現によって、G418抵抗性のコロニー数が顕著に減少したことが分かる。従って、U2OS細胞ではp53依存性の細胞増殖抑制又は細胞死が起こっていることが確認される。
【0043】
p53の細胞増殖抑制能及び細胞死誘導能に対するβAPPの影響:
次に、βAPPを導入することで内在性p53の細胞増殖抑制能及び細胞死誘導能に変化があるか否かを試験する。試験には、上述の試験と同様にコロニー形成アッセイを使用する。
【0044】
野性型のp53を発現しているU2OS細胞にβAPPの発現ベクターを導入した後、細胞をG418存在下で培養する。2週間後、G418抵抗性のコロニー数を測定する。得られた結果を図12に示す。図12は、p53発現細胞でβAPPを強制発現させたときの薬剤耐性コロニー数を示すグラフである。
【0045】
図12から、βAPPの強制発現によって、G418抵抗性のコロニー数が減少したことが分かる。従って、U2OS細胞ではβAPP依存性の細胞増殖抑制又は細胞死が起こっていることが分かる。
【0046】
ネガティブコントロールとして、野性型p53を発現しないH1299細胞で同様の試験を繰り返した。すなわち、野性型p53を欠くH1299細胞にβAPPの発現ベクターを導入した後、細胞をG418存在下で培養する。2週間後、G418抵抗性のコロニー数を測定する。得られた結果を図13に示す。図13は、p53非発現細胞でβAPPを強制発現させたときの薬剤耐性コロニー数をを示すグラフである。
【0047】
図13から、βAPPの強制発現によっても、G418抵抗性のコロニー数が減少しなかったことが分かる。従って、上述の試験で観察されたβAPP依存性の細胞増殖抑制又は細胞死誘導には野性型p53の存在が必要であると考えられる。
【0048】
シスプラチンによる細胞死誘導:
腫瘍細胞は、DNA阻害性の薬剤であるシスプラチンで処理すると用量依存的に細胞死を起こすことが認められている。この際、p53が関与していることも分かっている。このように内在性p53を誘導することが知られているシスプラチンを用いて、p53による細胞死誘導とβAPPとの関連を調べる。そのため、まず、シスプラチンによる細胞死の誘導を確認する。
【0049】
神経芽腫由来の細胞株であるSH−SY5Y細胞を腫瘍細胞として使用する。SH−SY5Y細胞をシスプラチンで処理した後、細胞生存率をMTT法で測定する。得られた結果を図14に示す。図14は、シスプラチンの量とSH−SY5Y細胞の細胞生存率との関係を示すグラフである。
【0050】
図14から、SH−SY5Y細胞がシスプラチンの用量に依存して減少したことが分かる。シスプラチンによってSH−SY5Y細胞の細胞死が誘導されることが確認される。
【0051】
次に、SH−SY5Y細胞に対するシスプラチン処理によって得られた産物を免疫ブロット及び免疫沈降により分析する。すなわち、SH−SY5Y細胞をシスプラチンで処理した後、p53、p21、βAPP及びActinの発現量を免疫ブロットで分析する。さらに、βAPP由来の産物とp53との相互作用を免疫沈降及び免疫ブロットによって解析する。得られた結果を図15に示す。図15は、SH−SY5Y細胞に対するシスプラチン処理によって得られた産物の免疫ブロットの結果を示す図である。図中、「IP」は免疫沈降を、「IB」は免疫ブロットを指す。
【0052】
図15の上から2段目の図は、抗p53抗体を用いた免疫ブロットの結果を示す図である。この図から、シスプラチンによる内在性p53の誘導が確認される。図15の上から3段目の図は、抗p21抗体を用いた免疫ブロットの結果を示す図である。この図から、シスプラチン処理の際に発現したp53がその下流のp21の発現を促進していること、すなわち活性型であることが分かる。図15の最上段の図は、細胞溶解液(破砕液)を抗βAPP抗体で免疫沈降させ、沈降物を抗p53抗体で免疫ブロットした結果を示す図である。この図から、シスプラチン処理群にはp53が存在していることが分かり、βAPP由来の産物とp53との物理的な結合が確認される。βAPPは膜上に存在し、p53は核内に存在するため、物理的に両者が結合することは考えられない。従って、これはβAPPの分解産物であるC60又はC58が核内へ移行し、p53と結合していることを示唆している。シスプラチンによるSH−SY5Y細胞の細胞死の誘導は、内在性p53の安定化に伴う活性化によるものであり、その際にβAPP由来の産物とp53との相互作用が機能的に関与していることが示唆される。
【0053】
βAPP由来の産物C60の核への局在化:
C60をコードする遺伝子を人工的に作成して、その発現及び核への局在化を確認する。C60は非常に不安定であることが知られているので、そのC末端側にFLAGエピトープを付加する。
【0054】
U2OS細胞にFLAG標識したC60を強制発現させた後、細胞の核画分及び細胞質画分を調製し、C60の分布を免疫ブロットによって調べる。得られた結果を図16に示す。図16は、C60を強制発現させたU2OS細胞の核画分と細胞質画分の免疫ブロットの結果を示す図である。図中、「C」は細胞質画分を、「N」は核画分を指す。また、「IB」は免疫ブロットを指す。核マトリックスに存在するLaminBは核マーカーとして用いられている。細胞質に存在するrasは細胞質マーカーとして用いられている。図16から、C60が核に局在することが分かる。
【0055】
また、抗FLAG抗体を用いた免疫染色法で、C60の分布を生化学的に観察する。得られた顕微鏡での観察結果を図17に示す。図17は、C60を強制発現させたU2OS細胞を抗FLAG抗体を用いて免疫染色したものを共焦点走査顕微鏡で観察した写真に対応する図である。図中、「FLAG−C60」はC60の分布を、「DAPI」は核マーカーDAPIの分布を示す写真に対応する図であり、「Merge」は上記2種の写真を重ね合わせて合成した写真に対応する図である。図17から、C60の分布がDAPIの分布と重なることが分かり、C60の核への局在化が確認される。
【0056】
βAPP由来の産物C58又はC60とp53との相互作用:
既に上述の試験の結果によりp53がβAPPと相互作用することが示峻されているが、さらにその相互作用がC58又はC60との結合か否かを試験する。
【0057】
FLAG標識したC58又はC60をCOS7細胞に強制発現させた後、p53との相互作用の有無を免疫沈降により検討する。得られた結果を図18に示す。図18は、C58又はC60を強制発現させたCOS7細胞の免疫ブロットの結果を示す図である。図中、「IP」は免疫沈降を、「IB」は免疫ブロットを指す。
【0058】
図18の最上段の図は、細胞溶解液(破砕液)を抗p53抗体で免疫沈降させ、沈降物を抗FLAG抗体で免疫ブロットした結果を示す図である。図18から、C58及びC60とp53とが結合していることが分かる。βAPPによるp53の活性化はβAPP由来の産物C58及びC60とp53との物理的結合を介した現象であることが示唆される。
【0059】
アルツハイマー病はβAPPの分解産物であるβ42又はβ40が細胞膜に沈着して、神経細胞の細胞死が起こる結果生じるというのがこれまでの定説であった。しかしながら、前述の結果により、C末端側に産生するAICDが核内に移行し、核内のp53と相互作用してp53の安定化を高め、転写因子活性や細胞増殖抑制能、細胞死誘導能等のp53特有の活性を高め、神経細胞の細胞死を誘導することが分かる。すなわち、アルツハイマー病の発症にAICD及びp53の相互作用が関与していることが示唆される。
【0060】
上述の知見は、AICD及びp53の核内での相互作用に干渉するような薬物が新たなアルツハイマー病の予防・治療薬になり得ることを示している。AICDが核内に移行しなければ、AICD及びp53の相互作用は生じない。そこで、1つのアプローチとして、AICDの核内移行を阻害する薬物の発見、開発が考えられる。また、別のアプローチとして、AICDを分解する薬物の発見、開発が考えられる。さらに、AICD及びp53の相互作用を阻害する薬物の発見、開発が考えられる。なお、βAPPからAICDを産生する酵素であるβ、γセクレターゼの阻害薬の開発は既に進められている(富田ら、前掲)。ここでいう候補薬物とは、核酸、タンパク質、その他の高分子化合物、低分子化合物(化学合成又は天然由来)などである。
【0061】
(アルツハイマー病の予防及び/又は治療のための薬剤)
本発明は、c−Abl及び/又はp19ARFを有効成分として含有する、アルツハイマー病の予防及び/又は治療のための薬剤を提供する。また、AlcICDを有効成分として含有する、アルツハイマー病の予防及び/又は治療のための薬剤を提供する。さらに、配列表の配列番号1又は2に記載のアミノ酸配列を含むペプチドを有効成分として含有する、アルツハイマー病の予防及び/又は治療のための薬剤を提供する。上記ペプチドは、公知の方法(例えば、Merrifieldの固相合成法)によって合成することができる。
【0062】
これらの薬剤は、有効量の有効成分を薬学的に許容される担体、もしくは希釈剤と混合して、適当な剤形としたものである。投与に適した剤形は、錠剤、丸剤、散剤、液剤、懸濁剤、乳剤、カプセル剤、坐剤、注射剤等である。アルツハイマー病を患う患者又はその前駆症状としての痴呆症状を示す患者に経口的に、又は非経口的に投与される。
【0063】
(アルツハイマー病の予防及び/又は治療のための薬物のスクリーニング方法)
本発明はまた、神経細胞においてAICD及びp53の相互作用を阻害する候補薬物を、アルツハイマー病の予防及び/又は治療のための薬物として選別するスクリーニング方法を提供する。このスクリーニング方法は、例えば、Two−Hybrid System(例えば、Gyuris,J.Cell,75,791−803(1993);Golemis,E.A.,Current Protocols in Molecular Biology(John Wiley & Sions,Inc.)Ch.20.0−20.1,(1996))により実施できる。
【0064】
上記スクリーニング方法は免疫学的手法により実施することが好ましい。すなわち、上記スクリーニング方法は、
AICD及びp53が発現し、AICD/p53複合体が形成されている神経細胞を、候補薬物とともに培養するステップと、
培養後の神経細胞から調製された細胞溶解液と、抗AICD抗体及び抗p53抗体から選ばれる第1の抗体とを接触させることにより、AICD又はp53と前記第1の抗体との複合体である第1の免疫複合体と、AICD/p53複合体と前記第1の抗体との複合体である第2の免疫複合体とを得るステップと、
前記第1及び第2の免疫複合体と、抗AICD抗体及び抗p53抗体から選ばれ前記第1の抗体とは異なる第2の抗体とを接触させるステップと、
前記第2の免疫複合体と前記第2の抗体との複合体である第3の免疫複合体の存在を検出するステップと、を備えることが好ましい。
【0065】
具体的には、神経細胞内でAICD分子及びp53分子を発現させ、一定時間候補薬物とともに培養した後、細胞を粉砕して細胞溶解液を調製する。一方の分子に対する抗体で免疫沈降させ、沈殿中に含まれる他方の分子を免疫学的手法(免疫ブロット等)で検出、定量することで、候補薬物の両分子の相互作用に及ぼす影響を測定する。ここで、上記培養系に適当なアゴニストと候補薬物とを同時に添加して、上記アッセイを行い、候補薬物を含まない細胞からの免疫沈降物と比較することにより、アルツハイマー病の予防及び/又は治療のための薬物のスクリーニングが可能である。
【0066】
本発明はまた、神経細胞においてAICD及びFe65の相互作用を阻害する候補薬物を、アルツハイマー病の予防及び/又は治療のための薬物として選別するスクリーニング方法を提供する。さらに、神経細胞においてAICD及びTip60の相互作用を阻害する候補薬物を、アルツハイマー病の予防及び/又は治療のための薬物として選別するスクリーニング方法を提供する。これらのスクリーニング方法の好適な実施形態は、p53の代わりにFe65又はTip60を用いる他は、前述のスクリーニング方法と同様である。
【0067】
本発明のスクリーニング方法で得ることのできる、アルツハイマー病の予防及び/又は治療のための薬物は、アルツハイマー病を患う患者又はその前駆症状としての痴呆症状を示す患者に経口的に、又は非経口的に投与する。得られる薬物は薬学的組成物として調製される。すなわち、有効量の前記薬物を薬学的に許容される担体、もしくは希釈剤と混合して、適当な剤形とする。投与に適した剤形は、錠剤、丸剤、散剤、液剤、懸濁剤、乳剤、カプセル剤、坐剤、注射剤等である。
【実施例】
【0068】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0069】
(細胞培養及びトランスフェクション)
COS7及びヒト骨肉種U2OS細胞は、10%熱不活性化ウシ胎児血清(FBS、Life Technologies,Inc.)とペニシリン(100IU/ml)/ストレプトマイシン(100μg/ml)を添加したダルベッコ変法イーグル培地(Dulbecco’s modified Eagle medium:DMEM)に維持した。H1299ヒト肺大細胞癌細胞及びSH−SY5Yヒト神経芽細胞は、10%熱不活性化FBSとペニシリン(100IU/ml)/ストレプトマイシン(100μg/ml)を添加したRPMI1640倍地に維持した。細胞は、空気中水飽和5%炭酸ガス雰囲気下、37℃で培養した。一過的トランスフェクションは、製造者の指示書に従って、FuGENE6トランスフェクション試薬(Roche Molecular Biochemicals社製)を用いて、各発現プラスミド又は所定の組合せで実施した。U2OS細胞とH1299細胞の一過的トランスフェクションは、製造者の指示書に従って、リポフェクトアミン(LipofectAMINE、Life Technologies,Inc.社製)を用いて実施した。
【0070】
(ルシフェラーゼアッセイ)
U2OS細胞を12ウエルのプレート上で増殖させ(5×104細胞/ウエル)、p53とp21WAF1、MDM2又はBaxプロモーターを含むp53反応性ルシフェラーゼレポーター構築体の発現プラスミドの一定量、及び必要な場合にはβAPPの発現プラスミドの漸増量を用いて、細胞を一過的にトランスフェクトした。トランスフェクション当たりプラスミドDNAの全量をpcDNA3(Invitrogen社製)で一定量(510ng)に保った。トランスフェクションの48時間後、トランスフェクトされた細胞を回収し、氷冷1×PBSで洗浄した。ルシフェラーゼ活性は、製造者の指示書に従って、二重ルシフェラーゼレポーターアッセイ系(Promega社製)を用いて測定した。
【0071】
(コロニー形成アッセイ)
U2OS細胞は、p53をコードする発現プラスミドの漸増量の存在下、又は存在なしにトランスフェクトした。トランスフェクション48時間後、G418(400μg/ml(最終濃度))を含む培地中に細胞を維持した。2週間の選択の後、プレートをギムザ染色液(Giemsa)で染色した。薬剤耐性コロニー数をスコアした。
【0072】
(細胞生存アッセイ)
細胞生存率を3−(4、5−ジメチルチアゾリル−2−イル)2、5−ジフェニルテトラゾリウムブロミド(MTT)アッセイ変法で決定した。すなわち、U2OS細胞を96ウエルマイクロタイタープレート(5×103細胞/ウエル)中に100μlの完全培地で植菌し、付着するようにした。翌日、培地を変え、細胞をシスプラスチンで24時間処理した。MTTアッセイでは、10μlのMTT溶液を各ウエルに添加して、37℃で3時間インキュベートした。各ウエルの吸光度は、マイクロプレートリーダー(450型、Bio−Rad Laboratories社製)を用いて570nmで測定した。
【0073】
(免疫沈降及び免疫ブロット)
免疫沈降の実験では、COS7細胞を適当なプラスミドで一過的にトランスフェクトした。トランスフェクションの48時間後、細胞を氷冷リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、氷冷EBC細胞溶解緩衝液[50mM Tris−HCl(pH7.5)、120mM NaCl、0.5%(V/V)Nonidet P−40、及び1mM フェニルメチルスルホニルフロリド(PMSF)]中に溶解し、全細胞溶解物を抗p53モノクローナル抗体(DO−1、Oncogene Reserch Products社製)で免疫沈降させた。免疫沈降物を抗FLAGモノクローナル抗体(M2、Sigma Chemical社製)を用いた免疫ブロットにより解析した。タンパク質シグナルは、製造者の指示書に従って、増強化学発光によって可視化した(ECL、Amersham Pharmacia Biotech社製)。
【0074】
(細胞分画)
細胞を細胞質画分及び核画分に分けた。すなわち、まず、トランスフェクトした細胞を氷冷1×PBSで2回洗浄し、10mM Tris−HCl(pH7.5)、1mM EDTA、0.5%NP−40、及びプロテアーゼ阻害剤ミックス(Sigma Chemical社製)を含む細胞溶解緩衝液中で、4℃、30分間、細胞溶解した。そして、細胞溶解物を15000rpmで、10分間遠心分離して、可溶画分を細胞質抽出物として回収した。不溶物質を細胞溶解緩衝液で洗浄し、さらに1×SDSサンプル緩衝液に溶解して、核画分を回収した。核画分及び細胞質画分を抗FLAG抗体、抗LaminBモノクローナル抗体(Ab−1、Oncogene Research Products社製)又は抗rasモノクローナル抗体(RASK−3、生化学工業社製)を用いる免疫分析に供した。
【0075】
(免疫染色)
U2OS細胞をFLAGで標識したC60をコードする発現プラスミドで一過的にトランスフェクトした。ガラスカバースリップ上で増殖した細胞を1×PBS中、室温で30分間、3.7%ホルムアルデヒドで固定化し、室温で5分間、0.2%Triton X−100を用いて透過性を上げた。3%ウシ血清アルブミンを含む1×PBS中、1時間ブロックした。1×PBSで洗浄した後、細胞を室温で1時間、抗FLAGモノクローナル抗体とともにインキュベートした。一次抗体とともにインキュベーションした後、細胞を洗浄し、ローダミン共役二次抗体(Invitrogen社製)とともに、室温で1時間インキュベートした。細胞核をDAPIで染色した。細胞を最終的に1×PBSで洗浄し、カバースリップを皿から取り除き、スライド上に載せて、Fluoview共焦点レーザ走査顕微鏡(Olympus社製)で観察した。
【産業上の利用可能性】
【0076】
以上に説明したように、本発明により、抗アミロイド抗体、β、γセクレターゼ阻害薬等とは異なる作用メカニズムに基づく、アルツハイマー病の予防及び/又は治療のための薬物・薬剤の開発が可能になり、アルツハイマー病の予防及び/又は治療における新たな選択肢が提供されることになる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルツハイマー病の予防及び/又は治療のための薬剤、並びにアルツハイマー病の予防及び/又は治療のための薬物のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高齢者における痴呆症の主なものであるアルツハイマー病の病態の全容と真の発症原因は未だ解明されておらず、その抜本的な予防・治療法も確立されていない。しかしながら、発症メカニズムについては、「アミロイド仮説」が提唱され、アルツハイマー病患者の病理学的所見、及び家族性アルツハイマー病の遺伝学的解析から、広く受け入れられることとなった(非特許文献1)。
【0003】
これは、アルツハイマー病の発症と進行に、アミロイドと呼ばれる一群のタンパク質の脳(大脳皮質)への異常蓄積が関与するという説である。簡単には、βAPP(β−amyloid precursor protein)と呼ばれる1回膜貫通型タンパク質の細胞外側がβセクレターゼによって切断を受け(βカット)、引き続きそのC末端側断片がγセクレターゼによって切断を受け(γカット)、N末端側断片(β40又はβ42)及びC末端側断片(C60又はC58(以下、集合的にAICDともいう))が産生される。これらの断片のうち、N末端側断片(β40又はβ42)は凝集性が高く、アミロイドを形成し、細胞外に老人斑として蓄積される。このようなアミロイドの産生、凝集及び蓄積が神経細胞障害を引き起こし、神経細胞を細胞死に至らせる。
【非特許文献1】富田泰輔ら、細胞工学、2001年、第20巻、第11号、p.1489−1494
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
「アミロイド仮説」に基づいて、アルツハイマー病の予防法(予防薬)・治療法(治療薬)の開発が行われてきたが、それらは、βセクレターゼ及びγセクレターゼの阻害薬、並びに抗アミロイド抗体などである。しかしながら、アルツハイマー病は多因子性疾患であり、アミロイド仮説のみに基づくドラッグデザインでは、アルツハイマー病の予防法(予防薬)・治療法(治療薬)として十分ではないことも指摘されている。
【0005】
そこで、本発明は、アミロイド仮説とは異なるアルツハイマー病発症メカニズムに基づく、新たなアルツハイマー病の予防及び/又は治療のための薬物・薬剤、並びにそのスクリーニング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明は、神経細胞においてAICD及びp53の相互作用を阻害する候補薬物を、アルツハイマー病の予防及び/又は治療のための薬物として選別するスクリーニング方法を提供する。このスクリーニング方法により、アミロイド仮説とは異なるアルツハイマー病発症メカニズムに基づく、新たなアルツハイマー病の予防及び/又は治療のための薬物・薬剤を得ることができる。
【0007】
上記スクリーニング方法は、
AICD及びp53が発現し、AICD/p53複合体が形成されている神経細胞を、候補薬物とともに培養するステップと、
培養後の神経細胞から調製された細胞溶解液と、抗AICD抗体及び抗p53抗体から選ばれる第1の抗体とを接触させることにより、AICD又はp53と前記第1の抗体との複合体である第1の免疫複合体と、AICD/p53複合体と前記第1の抗体との複合体である第2の免疫複合体とを得るステップと、
前記第1及び第2の免疫複合体と、抗AICD抗体及び抗p53抗体から選ばれ前記第1の抗体とは異なる第2の抗体とを接触させるステップと、
前記第2の免疫複合体と前記第2の抗体との複合体である第3の免疫複合体の存在を検出するステップと、を備えることが好ましい。
【0008】
このようなスクリーニング方法で得ることのできる、アルツハイマー病の予防及び/又は治療のための薬物は、アルツハイマー病の予防及び/又は治療のための薬剤の薬効成分となり得る。
【0009】
このような薬剤として、c−Abl及び/又はp19ARFを有効成分として含有する、アルツハイマー病の予防及び/又は治療のための薬剤が提供される。
【0010】
p53は、核内に存在する転写因子であり、細胞周期の制御やDNAの修復を担い、また、細胞分化、細胞老化、血管新生、細胞死(アポトーシス)等を引き起こす。一方、AICDについては、その細胞内での挙動やアルツハイマー病との関わりはよく知られていなかったが、近年、AICDが核内に移行して転写活性化に関与することが報告された(Xinwei Cao et al.,Science,293,115−120,(2001))。
【0011】
本発明者らは、アルツハイマー病発症の分子生物学的メカニズムの1つとして、AICDが核内に移行してp53との間で何らかの相互作用を引き起こし、その結果、神経細胞が細胞死を受けやすくなり、アルツハイマー病が発症するという仮説を考えた。図1は、アミロイド仮説、並びにアルツハイマー病の発症におけるAICD及びp53の相互作用の関与を説明する模式図である。
【0012】
そして、本発明者らは、AICD及びp53の相互作用によるp53の安定化がp53の転写因子活性や細胞増殖抑制能、細胞死誘導能等のp53特有の活性を高めて、神経細胞の細胞死を誘導することを見出した。この発見に基づいて、AICD及びp53の相互作用を阻害する物質はアルツハイマー病の予防及び/又は治療のための薬物になると考えた。
【0013】
c−Abl及びp19ARFは、Mdm2がp53に結合するのを拮抗的に阻害するタンパク質である(R.V.Sionov et al.,Oncogene,18,6145−6157,(1999))ので、AICD及びp53の相互作用を阻害すると考えられる。
【0014】
本発明はまた、神経細胞においてAICD及びFe65の相互作用を阻害する候補薬物を、アルツハイマー病の予防及び/又は治療のための薬物として選別するスクリーニング方法を提供する。このスクリーニング方法によっても、アミロイド仮説とは異なるアルツハイマー病発症メカニズムに基づく、新たなアルツハイマー病の予防及び/又は治療のための薬物・薬剤を得ることができる。
【0015】
上記スクリーニング方法は、
AICD及びFe65が発現し、AICD/Fe65複合体が形成されている神経細胞を、候補薬物とともに培養するステップと、
培養後の神経細胞から調製された細胞溶解液と、抗AICD抗体及び抗Fe65抗体から選ばれる第1の抗体とを接触させることにより、AICD又はFe65と前記第1の抗体との複合体である第1の免疫複合体と、AICD/Fe65複合体と前記第1の抗体との複合体である第2の免疫複合体とを得るステップと、
前記第1及び第2の免疫複合体と、抗AICD抗体及び抗Fe65抗体から選ばれ前記第1の抗体とは異なる第2の抗体とを接触させるステップと、
前記第2の免疫複合体と前記第2の抗体との複合体である第3の免疫複合体の存在を検出するステップと、を備えることが好ましい。
【0016】
このようなスクリーニング方法で得ることのできる、アルツハイマー病の予防及び/又は治療のための薬物は、アルツハイマー病の予防及び/又は治療のための薬剤の薬効成分となり得る。
【0017】
このような薬剤として、AlcICDを有効成分として含有する、アルツハイマー病の予防及び/又は治療のための薬剤が提供される。また、配列表の配列番号1又は2に記載のアミノ酸配列を含むペプチドを有効成分として含有する、アルツハイマー病の予防及び/又は治療のための薬剤が提供される。
【0018】
核受容体タンパク質Fe65は、AICDと複合体を形成し、Gal4及びヒストンアセチルトランスフェラーゼTip60の融合タンパク質による転写を活性化することが知られている(Xinwei Cao et al.,Science,293,115−120,(2001))。この知見に基づいて、本発明者らは、Fe65がAICDと相互作用してAICDの核内移行を促進する物質であり、AICD及びFe65の相互作用を阻害する物質は、間接的にAICD及びp53の相互作用を阻害し、アルツハイマー病の発症を抑制すると考えた。
【0019】
AlcICDは、AICD及びFe65の相互作用を阻害する物質である(Araki,Y.et al.,J.Biol.Chem.,279,24343−24354(2004))。また、Fe65におけるAICDの結合部位はPTB2ドメインであり、AICDにおけるFe65の結合部位のアミノ酸配列はNPTY配列であることが知られている(Xinwei Cao et al.,Science,293,115−120,(2001))。配列表の配列番号1は、Fe65におけるPTB2ドメインのアミノ酸配列を示す配列である。配列表の配列番号2は、NPTY配列を示す配列である。配列表の配列番号1又は2に記載のアミノ酸配列を含むペプチドは、AICD及びFe65の相互作用を阻害すると考えられる。
【0020】
本発明はまた、神経細胞においてAICD及びTip60の相互作用を阻害する候補薬物を、アルツハイマー病の予防及び/又は治療のための薬物として選別するスクリーニング方法を提供する。このスクリーニング方法によっても、アミロイド仮説とは異なるアルツハイマー病発症メカニズムに基づく、新たなアルツハイマー病の予防及び/又は治療のための薬物・薬剤を得ることができる。
【0021】
上記スクリーニング方法は、
AICD及びTip60が発現し、AICD/Tip60複合体が形成されている神経細胞を、候補薬物とともに培養するステップと、
培養後の神経細胞から調製された細胞溶解液と、抗AICD抗体及び抗Tip60抗体から選ばれる第1の抗体とを接触させることにより、AICD又はTip60と前記第1の抗体との複合体である第1の免疫複合体と、AICD/Tip60複合体と前記第1の抗体との複合体である第2の免疫複合体とを得るステップと、
前記第1及び第2の免疫複合体と、抗AICD抗体及び抗Tip60抗体から選ばれ前記第1の抗体とは異なる第2の抗体とを接触させるステップと、
前記第2の免疫複合体と前記第2の抗体との複合体である第3の免疫複合体の存在を検出するステップと、を備えることが好ましい。
【0022】
このようなスクリーニング方法で得ることのできる、アルツハイマー病の予防及び/又は治療のための薬物は、アルツハイマー病の予防及び/又は治療のための薬剤の薬効成分となり得る。
【0023】
ヒストンアセチルトランスフェラーゼTip60は、核内でAICDと複合体を形成して神経膠腫細胞の細胞死(アポトーシス)を引き起こすことが知られている(Ayae Kinoshita et al.,J.Biol.Chem.,277,28530−28536,(2002))。この知見に基づいて、本発明者らは、Tip60がAICD及びp53の相互作用を促進する物質であり、AICD及びTip60の相互作用を阻害する物質はアルツハイマー病の予防及び/又は治療のための薬物になると考えた。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、アミロイド仮説とは異なるアルツハイマー病発症メカニズムに基づく、新たなアルツハイマー病の予防及び/又は治療のための薬物・薬剤、並びにそのスクリーニング方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】図1は、アミロイド仮説、並びにアルツハイマー病の発症におけるAICD及びp53の相互作用の関与を説明する模式図である。
【図2】図2は、p53発現細胞でβAPPを強制発現させたときのp21プロモーターの活性を示すグラフである。
【図3】図3は、p53発現細胞でβAPPを強制発現させたときのMDM2プロモーターの活性を示すグラフである。
【図4】図4は、p53発現細胞でβAPPを強制発現させたときのBaxプロモーターの活性を示すグラフである。
【図5】図5は、p53発現細胞でβAPP及びp53を強制発現させたときのp21プロモーターの活性を示すグラフである。
【図6】図6は、p53発現細胞でβAPP及びp53を強制発現させたときのMDM2プロモーターの活性を示すグラフである。
【図7】図7は、p53発現細胞でβAPP及びp53を強制発現させたときのBaxプロモーターの活性を示すグラフである。
【図8】図8は、p53非発現細胞でβAPPを強制発現させたときのp21プロモーターの活性を示すグラフである。
【図9】図9は、p53非発現細胞でβAPPを強制発現させたときのMDM2プロモーターの活性を示すグラフである。
【図10】図10は、p53非発現細胞でβAPPを強制発現させたときのBaxプロモーターの活性を示すグラフである。
【図11】図11は、p53発現細胞でp53を強制発現させたときの薬剤耐性コロニー数を示すグラフである。
【図12】図12は、p53発現細胞でβAPPを強制発現させたときの薬剤耐性コロニー数を示すグラフである。
【図13】図13は、p53非発現細胞でβAPPを強制発現させたときの薬剤耐性コロニー数を示すグラフである。
【図14】図14は、シスプラチンの量とSH−SY5Y細胞の細胞生存率との関係を示すグラフである。
【図15】図15は、SH−SY5Y細胞に対するシスプラチン処理によって得られた産物の免疫ブロットの結果を示す図である。
【図16】図16は、C60を強制発現させたU20S細胞の核画分と細胞質画分の免疫ブロットの結果を示す図である。
【図17】図17は、C60を強制発現させたU2OS細胞を抗FLAG抗体を用いて免疫染色したものを共焦点走査顕微鏡で観察した写真に対応する図である。
【図18】図18は、C58又はC60を強制発現させたCOS7細胞の免疫ブロットの結果を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。
【0027】
(AICD及びp53の相互作用)
p53の転写因子活性、細胞死誘導能(アポトーシス活性)などに関する種々のアッセイをβAPP及び/又はAICDの存在下で行うことによって、βAPP又はAICDとp53との相互作用について検討することができる。
【0028】
p53の転写因子活性に対するβAPPの影響:
p53を発現しているU2OS細胞にさらにp53遺伝子を導入すると、p53に反応するプロモーター(p21、MDM2、Bax)活性が上がることが知られている。そこで、p53の代わりにβAPPをコードする遺伝子を導入することによってこれらのプロモーター類の活性が上がるか否かを試験する。試験には、転写因子の機能解析の標準的な手法であるルシフェラーゼアッセイ(ルシフェラーゼリポーターアッセイ)を用いる。
【0029】
具体的には、野性型のp53を発現しているU2OS細胞にβAPPの発現ベクター、及びp53に反応するプロモーター(p21、MDM2、Bax)を含有するレポーターベクターを導入する。48時間後、細胞を回収してそのルシフェラーゼ活性を測定する。このようにして得られたルシフェラーゼ活性測定結果を、各プロモーターについて図2〜4に示す。
【0030】
図2は、p53発現細胞でβAPPを強制発現させたときのp21プロモーターの活性を示すグラフである。図3は、p53発現細胞でβAPPを強制発現させたときのMDM2プロモーターの活性を示すグラフである。図4は、p53発現細胞でβAPPを強制発現させたときのBaxプロモーターの活性を示すグラフである。
【0031】
図2〜4から、βAPPの強制発現によって、p21、MDM2、Bax由来のプロモーターの活性がいずれも顕著に上昇したことが分かる。βAPPは、内在性のセクレターゼによりC60又はC58を産生していると考えられる。さらに、U2OS細胞は野性型p53を発現している。従って、C60又はC58によるp53の活性化が示唆される。
【0032】
次に、p53とβAPPを併用することでp53の活性がさらに上がるか否かを試験する。試験には上述の試験と同様にルシフェラーゼアッセイを用いる。
【0033】
具体的には、野性型のp53を発現しているU2OS細胞にβAPPの発現ベクター、p53の発現ベクター、及びp53に反応するプロモーター(p21、MDM2、Bax)を含有するレポーターベクターを導入する。48時間後、細胞を回収して、そのルシフェラーゼ活性を測定する。このようにして得られたルシフェラーゼ活性測定結果を、各プロモーターについて図5〜7に示す。
【0034】
図5は、p53発現細胞でβAPP及びp53を強制発現させたときのp21プロモーターの活性を示すグラフである。図6は、p53発現細胞でβAPP及びp53を強制発現させたときのMDM2プロモーターの活性を示すグラフである。図7は、p53発現細胞でβAPP及びp53を強制発現させたときのBaxプロモーターの活性を示すグラフである。
【0035】
図5〜7から、βAPP及びp53の強制発現によって、p21、MDM2、Bax由来のプロモーターの活性がいずれも、βAPPを単独で強制発現させた場合に比べて、顕著に上昇したことが分かる。従って、前述の試験の結果と同様に、C60又はC58によるp53の活性化が示唆される。
【0036】
ネガティブコントロ一ルとして、p53を発現しない細胞を用いて、同様の試験を繰り返す。
【0037】
野性型p53を欠くH1299細胞にβAPPの発現ベクター、及びp53に反応するプロモーター(p21、MDM2、Bax)を含有するレポーターベクターを導入する。48時間後、細胞を回収してそのルシフェラーゼ活性を測定する。このようにして得られたルシフェラーゼ活性の測定結果を、各プロモーターについて図8〜10に示す。
【0038】
図8は、p53非発現細胞でβAPPを強制発現させたときのp21プロモーターの活性を示すグラフである。図9は、p53非発現細胞でβAPPを強制発現させたときのMDM2プロモーターの活性を示すグラフである。図10は、p53非発現細胞でβAPPを強制発現させたときのBaxプロモーターの活性を示すグラフである。
【0039】
図8〜10から、βAPPの強制発現によっても、p21、MDM2、Bax由来のプロモーターの活性が上昇しなかったことが分かる。H1299細胞が野性型p53を欠くことから、前記U2OS細胞で観察されたβAPPによるp21、MDM2、Baxプロモーターの活性化はβAPPによるp53の活性化に起因することが示唆される。
【0040】
p53の細胞増殖抑制能及び細胞死誘導能:
上述の試験で用いるU2OS細胞でp53が本来の細胞増殖抑制能及び細胞死誘導能を呈するか否かを試験する。
【0041】
野性型のp53を発現しているU2OS細胞にp53の発現ベクターを導入した後、細胞をG418存在下で培養する。2週間後、G418抵抗性のコロニー数を測定する。得られた結果を図11に示す。図11は、p53発現細胞でp53を強制発現させたときの薬剤耐性コロニー数を示すグラフである。
【0042】
図11から、p53の強制発現によって、G418抵抗性のコロニー数が顕著に減少したことが分かる。従って、U2OS細胞ではp53依存性の細胞増殖抑制又は細胞死が起こっていることが確認される。
【0043】
p53の細胞増殖抑制能及び細胞死誘導能に対するβAPPの影響:
次に、βAPPを導入することで内在性p53の細胞増殖抑制能及び細胞死誘導能に変化があるか否かを試験する。試験には、上述の試験と同様にコロニー形成アッセイを使用する。
【0044】
野性型のp53を発現しているU2OS細胞にβAPPの発現ベクターを導入した後、細胞をG418存在下で培養する。2週間後、G418抵抗性のコロニー数を測定する。得られた結果を図12に示す。図12は、p53発現細胞でβAPPを強制発現させたときの薬剤耐性コロニー数を示すグラフである。
【0045】
図12から、βAPPの強制発現によって、G418抵抗性のコロニー数が減少したことが分かる。従って、U2OS細胞ではβAPP依存性の細胞増殖抑制又は細胞死が起こっていることが分かる。
【0046】
ネガティブコントロールとして、野性型p53を発現しないH1299細胞で同様の試験を繰り返した。すなわち、野性型p53を欠くH1299細胞にβAPPの発現ベクターを導入した後、細胞をG418存在下で培養する。2週間後、G418抵抗性のコロニー数を測定する。得られた結果を図13に示す。図13は、p53非発現細胞でβAPPを強制発現させたときの薬剤耐性コロニー数をを示すグラフである。
【0047】
図13から、βAPPの強制発現によっても、G418抵抗性のコロニー数が減少しなかったことが分かる。従って、上述の試験で観察されたβAPP依存性の細胞増殖抑制又は細胞死誘導には野性型p53の存在が必要であると考えられる。
【0048】
シスプラチンによる細胞死誘導:
腫瘍細胞は、DNA阻害性の薬剤であるシスプラチンで処理すると用量依存的に細胞死を起こすことが認められている。この際、p53が関与していることも分かっている。このように内在性p53を誘導することが知られているシスプラチンを用いて、p53による細胞死誘導とβAPPとの関連を調べる。そのため、まず、シスプラチンによる細胞死の誘導を確認する。
【0049】
神経芽腫由来の細胞株であるSH−SY5Y細胞を腫瘍細胞として使用する。SH−SY5Y細胞をシスプラチンで処理した後、細胞生存率をMTT法で測定する。得られた結果を図14に示す。図14は、シスプラチンの量とSH−SY5Y細胞の細胞生存率との関係を示すグラフである。
【0050】
図14から、SH−SY5Y細胞がシスプラチンの用量に依存して減少したことが分かる。シスプラチンによってSH−SY5Y細胞の細胞死が誘導されることが確認される。
【0051】
次に、SH−SY5Y細胞に対するシスプラチン処理によって得られた産物を免疫ブロット及び免疫沈降により分析する。すなわち、SH−SY5Y細胞をシスプラチンで処理した後、p53、p21、βAPP及びActinの発現量を免疫ブロットで分析する。さらに、βAPP由来の産物とp53との相互作用を免疫沈降及び免疫ブロットによって解析する。得られた結果を図15に示す。図15は、SH−SY5Y細胞に対するシスプラチン処理によって得られた産物の免疫ブロットの結果を示す図である。図中、「IP」は免疫沈降を、「IB」は免疫ブロットを指す。
【0052】
図15の上から2段目の図は、抗p53抗体を用いた免疫ブロットの結果を示す図である。この図から、シスプラチンによる内在性p53の誘導が確認される。図15の上から3段目の図は、抗p21抗体を用いた免疫ブロットの結果を示す図である。この図から、シスプラチン処理の際に発現したp53がその下流のp21の発現を促進していること、すなわち活性型であることが分かる。図15の最上段の図は、細胞溶解液(破砕液)を抗βAPP抗体で免疫沈降させ、沈降物を抗p53抗体で免疫ブロットした結果を示す図である。この図から、シスプラチン処理群にはp53が存在していることが分かり、βAPP由来の産物とp53との物理的な結合が確認される。βAPPは膜上に存在し、p53は核内に存在するため、物理的に両者が結合することは考えられない。従って、これはβAPPの分解産物であるC60又はC58が核内へ移行し、p53と結合していることを示唆している。シスプラチンによるSH−SY5Y細胞の細胞死の誘導は、内在性p53の安定化に伴う活性化によるものであり、その際にβAPP由来の産物とp53との相互作用が機能的に関与していることが示唆される。
【0053】
βAPP由来の産物C60の核への局在化:
C60をコードする遺伝子を人工的に作成して、その発現及び核への局在化を確認する。C60は非常に不安定であることが知られているので、そのC末端側にFLAGエピトープを付加する。
【0054】
U2OS細胞にFLAG標識したC60を強制発現させた後、細胞の核画分及び細胞質画分を調製し、C60の分布を免疫ブロットによって調べる。得られた結果を図16に示す。図16は、C60を強制発現させたU2OS細胞の核画分と細胞質画分の免疫ブロットの結果を示す図である。図中、「C」は細胞質画分を、「N」は核画分を指す。また、「IB」は免疫ブロットを指す。核マトリックスに存在するLaminBは核マーカーとして用いられている。細胞質に存在するrasは細胞質マーカーとして用いられている。図16から、C60が核に局在することが分かる。
【0055】
また、抗FLAG抗体を用いた免疫染色法で、C60の分布を生化学的に観察する。得られた顕微鏡での観察結果を図17に示す。図17は、C60を強制発現させたU2OS細胞を抗FLAG抗体を用いて免疫染色したものを共焦点走査顕微鏡で観察した写真に対応する図である。図中、「FLAG−C60」はC60の分布を、「DAPI」は核マーカーDAPIの分布を示す写真に対応する図であり、「Merge」は上記2種の写真を重ね合わせて合成した写真に対応する図である。図17から、C60の分布がDAPIの分布と重なることが分かり、C60の核への局在化が確認される。
【0056】
βAPP由来の産物C58又はC60とp53との相互作用:
既に上述の試験の結果によりp53がβAPPと相互作用することが示峻されているが、さらにその相互作用がC58又はC60との結合か否かを試験する。
【0057】
FLAG標識したC58又はC60をCOS7細胞に強制発現させた後、p53との相互作用の有無を免疫沈降により検討する。得られた結果を図18に示す。図18は、C58又はC60を強制発現させたCOS7細胞の免疫ブロットの結果を示す図である。図中、「IP」は免疫沈降を、「IB」は免疫ブロットを指す。
【0058】
図18の最上段の図は、細胞溶解液(破砕液)を抗p53抗体で免疫沈降させ、沈降物を抗FLAG抗体で免疫ブロットした結果を示す図である。図18から、C58及びC60とp53とが結合していることが分かる。βAPPによるp53の活性化はβAPP由来の産物C58及びC60とp53との物理的結合を介した現象であることが示唆される。
【0059】
アルツハイマー病はβAPPの分解産物であるβ42又はβ40が細胞膜に沈着して、神経細胞の細胞死が起こる結果生じるというのがこれまでの定説であった。しかしながら、前述の結果により、C末端側に産生するAICDが核内に移行し、核内のp53と相互作用してp53の安定化を高め、転写因子活性や細胞増殖抑制能、細胞死誘導能等のp53特有の活性を高め、神経細胞の細胞死を誘導することが分かる。すなわち、アルツハイマー病の発症にAICD及びp53の相互作用が関与していることが示唆される。
【0060】
上述の知見は、AICD及びp53の核内での相互作用に干渉するような薬物が新たなアルツハイマー病の予防・治療薬になり得ることを示している。AICDが核内に移行しなければ、AICD及びp53の相互作用は生じない。そこで、1つのアプローチとして、AICDの核内移行を阻害する薬物の発見、開発が考えられる。また、別のアプローチとして、AICDを分解する薬物の発見、開発が考えられる。さらに、AICD及びp53の相互作用を阻害する薬物の発見、開発が考えられる。なお、βAPPからAICDを産生する酵素であるβ、γセクレターゼの阻害薬の開発は既に進められている(富田ら、前掲)。ここでいう候補薬物とは、核酸、タンパク質、その他の高分子化合物、低分子化合物(化学合成又は天然由来)などである。
【0061】
(アルツハイマー病の予防及び/又は治療のための薬剤)
本発明は、c−Abl及び/又はp19ARFを有効成分として含有する、アルツハイマー病の予防及び/又は治療のための薬剤を提供する。また、AlcICDを有効成分として含有する、アルツハイマー病の予防及び/又は治療のための薬剤を提供する。さらに、配列表の配列番号1又は2に記載のアミノ酸配列を含むペプチドを有効成分として含有する、アルツハイマー病の予防及び/又は治療のための薬剤を提供する。上記ペプチドは、公知の方法(例えば、Merrifieldの固相合成法)によって合成することができる。
【0062】
これらの薬剤は、有効量の有効成分を薬学的に許容される担体、もしくは希釈剤と混合して、適当な剤形としたものである。投与に適した剤形は、錠剤、丸剤、散剤、液剤、懸濁剤、乳剤、カプセル剤、坐剤、注射剤等である。アルツハイマー病を患う患者又はその前駆症状としての痴呆症状を示す患者に経口的に、又は非経口的に投与される。
【0063】
(アルツハイマー病の予防及び/又は治療のための薬物のスクリーニング方法)
本発明はまた、神経細胞においてAICD及びp53の相互作用を阻害する候補薬物を、アルツハイマー病の予防及び/又は治療のための薬物として選別するスクリーニング方法を提供する。このスクリーニング方法は、例えば、Two−Hybrid System(例えば、Gyuris,J.Cell,75,791−803(1993);Golemis,E.A.,Current Protocols in Molecular Biology(John Wiley & Sions,Inc.)Ch.20.0−20.1,(1996))により実施できる。
【0064】
上記スクリーニング方法は免疫学的手法により実施することが好ましい。すなわち、上記スクリーニング方法は、
AICD及びp53が発現し、AICD/p53複合体が形成されている神経細胞を、候補薬物とともに培養するステップと、
培養後の神経細胞から調製された細胞溶解液と、抗AICD抗体及び抗p53抗体から選ばれる第1の抗体とを接触させることにより、AICD又はp53と前記第1の抗体との複合体である第1の免疫複合体と、AICD/p53複合体と前記第1の抗体との複合体である第2の免疫複合体とを得るステップと、
前記第1及び第2の免疫複合体と、抗AICD抗体及び抗p53抗体から選ばれ前記第1の抗体とは異なる第2の抗体とを接触させるステップと、
前記第2の免疫複合体と前記第2の抗体との複合体である第3の免疫複合体の存在を検出するステップと、を備えることが好ましい。
【0065】
具体的には、神経細胞内でAICD分子及びp53分子を発現させ、一定時間候補薬物とともに培養した後、細胞を粉砕して細胞溶解液を調製する。一方の分子に対する抗体で免疫沈降させ、沈殿中に含まれる他方の分子を免疫学的手法(免疫ブロット等)で検出、定量することで、候補薬物の両分子の相互作用に及ぼす影響を測定する。ここで、上記培養系に適当なアゴニストと候補薬物とを同時に添加して、上記アッセイを行い、候補薬物を含まない細胞からの免疫沈降物と比較することにより、アルツハイマー病の予防及び/又は治療のための薬物のスクリーニングが可能である。
【0066】
本発明はまた、神経細胞においてAICD及びFe65の相互作用を阻害する候補薬物を、アルツハイマー病の予防及び/又は治療のための薬物として選別するスクリーニング方法を提供する。さらに、神経細胞においてAICD及びTip60の相互作用を阻害する候補薬物を、アルツハイマー病の予防及び/又は治療のための薬物として選別するスクリーニング方法を提供する。これらのスクリーニング方法の好適な実施形態は、p53の代わりにFe65又はTip60を用いる他は、前述のスクリーニング方法と同様である。
【0067】
本発明のスクリーニング方法で得ることのできる、アルツハイマー病の予防及び/又は治療のための薬物は、アルツハイマー病を患う患者又はその前駆症状としての痴呆症状を示す患者に経口的に、又は非経口的に投与する。得られる薬物は薬学的組成物として調製される。すなわち、有効量の前記薬物を薬学的に許容される担体、もしくは希釈剤と混合して、適当な剤形とする。投与に適した剤形は、錠剤、丸剤、散剤、液剤、懸濁剤、乳剤、カプセル剤、坐剤、注射剤等である。
【実施例】
【0068】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0069】
(細胞培養及びトランスフェクション)
COS7及びヒト骨肉種U2OS細胞は、10%熱不活性化ウシ胎児血清(FBS、Life Technologies,Inc.)とペニシリン(100IU/ml)/ストレプトマイシン(100μg/ml)を添加したダルベッコ変法イーグル培地(Dulbecco’s modified Eagle medium:DMEM)に維持した。H1299ヒト肺大細胞癌細胞及びSH−SY5Yヒト神経芽細胞は、10%熱不活性化FBSとペニシリン(100IU/ml)/ストレプトマイシン(100μg/ml)を添加したRPMI1640倍地に維持した。細胞は、空気中水飽和5%炭酸ガス雰囲気下、37℃で培養した。一過的トランスフェクションは、製造者の指示書に従って、FuGENE6トランスフェクション試薬(Roche Molecular Biochemicals社製)を用いて、各発現プラスミド又は所定の組合せで実施した。U2OS細胞とH1299細胞の一過的トランスフェクションは、製造者の指示書に従って、リポフェクトアミン(LipofectAMINE、Life Technologies,Inc.社製)を用いて実施した。
【0070】
(ルシフェラーゼアッセイ)
U2OS細胞を12ウエルのプレート上で増殖させ(5×104細胞/ウエル)、p53とp21WAF1、MDM2又はBaxプロモーターを含むp53反応性ルシフェラーゼレポーター構築体の発現プラスミドの一定量、及び必要な場合にはβAPPの発現プラスミドの漸増量を用いて、細胞を一過的にトランスフェクトした。トランスフェクション当たりプラスミドDNAの全量をpcDNA3(Invitrogen社製)で一定量(510ng)に保った。トランスフェクションの48時間後、トランスフェクトされた細胞を回収し、氷冷1×PBSで洗浄した。ルシフェラーゼ活性は、製造者の指示書に従って、二重ルシフェラーゼレポーターアッセイ系(Promega社製)を用いて測定した。
【0071】
(コロニー形成アッセイ)
U2OS細胞は、p53をコードする発現プラスミドの漸増量の存在下、又は存在なしにトランスフェクトした。トランスフェクション48時間後、G418(400μg/ml(最終濃度))を含む培地中に細胞を維持した。2週間の選択の後、プレートをギムザ染色液(Giemsa)で染色した。薬剤耐性コロニー数をスコアした。
【0072】
(細胞生存アッセイ)
細胞生存率を3−(4、5−ジメチルチアゾリル−2−イル)2、5−ジフェニルテトラゾリウムブロミド(MTT)アッセイ変法で決定した。すなわち、U2OS細胞を96ウエルマイクロタイタープレート(5×103細胞/ウエル)中に100μlの完全培地で植菌し、付着するようにした。翌日、培地を変え、細胞をシスプラスチンで24時間処理した。MTTアッセイでは、10μlのMTT溶液を各ウエルに添加して、37℃で3時間インキュベートした。各ウエルの吸光度は、マイクロプレートリーダー(450型、Bio−Rad Laboratories社製)を用いて570nmで測定した。
【0073】
(免疫沈降及び免疫ブロット)
免疫沈降の実験では、COS7細胞を適当なプラスミドで一過的にトランスフェクトした。トランスフェクションの48時間後、細胞を氷冷リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、氷冷EBC細胞溶解緩衝液[50mM Tris−HCl(pH7.5)、120mM NaCl、0.5%(V/V)Nonidet P−40、及び1mM フェニルメチルスルホニルフロリド(PMSF)]中に溶解し、全細胞溶解物を抗p53モノクローナル抗体(DO−1、Oncogene Reserch Products社製)で免疫沈降させた。免疫沈降物を抗FLAGモノクローナル抗体(M2、Sigma Chemical社製)を用いた免疫ブロットにより解析した。タンパク質シグナルは、製造者の指示書に従って、増強化学発光によって可視化した(ECL、Amersham Pharmacia Biotech社製)。
【0074】
(細胞分画)
細胞を細胞質画分及び核画分に分けた。すなわち、まず、トランスフェクトした細胞を氷冷1×PBSで2回洗浄し、10mM Tris−HCl(pH7.5)、1mM EDTA、0.5%NP−40、及びプロテアーゼ阻害剤ミックス(Sigma Chemical社製)を含む細胞溶解緩衝液中で、4℃、30分間、細胞溶解した。そして、細胞溶解物を15000rpmで、10分間遠心分離して、可溶画分を細胞質抽出物として回収した。不溶物質を細胞溶解緩衝液で洗浄し、さらに1×SDSサンプル緩衝液に溶解して、核画分を回収した。核画分及び細胞質画分を抗FLAG抗体、抗LaminBモノクローナル抗体(Ab−1、Oncogene Research Products社製)又は抗rasモノクローナル抗体(RASK−3、生化学工業社製)を用いる免疫分析に供した。
【0075】
(免疫染色)
U2OS細胞をFLAGで標識したC60をコードする発現プラスミドで一過的にトランスフェクトした。ガラスカバースリップ上で増殖した細胞を1×PBS中、室温で30分間、3.7%ホルムアルデヒドで固定化し、室温で5分間、0.2%Triton X−100を用いて透過性を上げた。3%ウシ血清アルブミンを含む1×PBS中、1時間ブロックした。1×PBSで洗浄した後、細胞を室温で1時間、抗FLAGモノクローナル抗体とともにインキュベートした。一次抗体とともにインキュベーションした後、細胞を洗浄し、ローダミン共役二次抗体(Invitrogen社製)とともに、室温で1時間インキュベートした。細胞核をDAPIで染色した。細胞を最終的に1×PBSで洗浄し、カバースリップを皿から取り除き、スライド上に載せて、Fluoview共焦点レーザ走査顕微鏡(Olympus社製)で観察した。
【産業上の利用可能性】
【0076】
以上に説明したように、本発明により、抗アミロイド抗体、β、γセクレターゼ阻害薬等とは異なる作用メカニズムに基づく、アルツハイマー病の予防及び/又は治療のための薬物・薬剤の開発が可能になり、アルツハイマー病の予防及び/又は治療における新たな選択肢が提供されることになる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
c−Abl及び/又はp19ARFを有効成分として含有する、アルツハイマー病の予防及び/又は治療のための薬剤。
【請求項2】
神経細胞においてAICD及びp53の相互作用を阻害する候補薬物を、アルツハイマー病の予防及び/又は治療のための薬物として選別するスクリーニング方法。
【請求項3】
神経細胞においてAICD及びp53の相互作用を阻害する候補薬物を、アルツハイマー病の予防及び/又は治療のための薬物として選別するスクリーニング方法であって、
AICD及びp53が発現し、AICD/p53複合体が形成されている神経細胞を、候補薬物とともに培養するステップと、
培養後の神経細胞から調製された細胞溶解液と、抗AICD抗体及び抗p53抗体から選ばれる第1の抗体とを接触させることにより、AICD又はp53と前記第1の抗体との複合体である第1の免疫複合体と、AICD/p53複合体と前記第1の抗体との複合体である第2の免疫複合体とを得るステップと、
前記第1及び第2の免疫複合体と、抗AICD抗体及び抗p53抗体から選ばれ前記第1の抗体とは異なる第2の抗体とを接触させるステップと、
前記第2の免疫複合体と前記第2の抗体との複合体である第3の免疫複合体の存在を検出するステップと、を備える方法。
【請求項4】
AlcICDを有効成分として含有する、アルツハイマー病の予防及び/又は治療のための薬剤。
【請求項5】
配列表の配列番号1又は2に記載のアミノ酸配列を含むペプチドを有効成分として含有する、アルツハイマー病の予防及び/又は治療のための薬剤。
【請求項6】
神経細胞においてAICD及びFe65の相互作用を阻害する候補薬物を、アルツハイマー病の予防及び/又は治療のための薬物として選別するスクリーニング方法。
【請求項7】
神経細胞においてAICD及びFe65の相互作用を阻害する候補薬物を、アルツハイマー病の予防及び/又は治療のための薬物として選別するスクリーニング方法であって、
AICD及びFe65が発現し、AICD/Fe65複合体が形成されている神経細胞を、候補薬物とともに培養するステップと、
培養後の神経細胞から調製された細胞溶解液と、抗AICD抗体及び抗Fe65抗体から選ばれる第1の抗体とを接触させることにより、AICD又はFe65と前記第1の抗体との複合体である第1の免疫複合体と、AICD/Fe65複合体と前記第1の抗体との複合体である第2の免疫複合体とを得るステップと、
前記第1及び第2の免疫複合体と、抗AICD抗体及び抗Fe65抗体から選ばれ前記第1の抗体とは異なる第2の抗体とを接触させるステップと、
前記第2の免疫複合体と前記第2の抗体との複合体である第3の免疫複合体の存在を検出するステップと、を備える方法。
【請求項8】
神経細胞においてAICD及びTip60の相互作用を阻害する候補薬物を、アルツハイマー病の予防及び/又は治療のための薬物として選別するスクリーニング方法。
【請求項9】
神経細胞においてAICD及びTip60の相互作用を阻害する候補薬物を、アルツハイマー病の予防及び/又は治療のための薬物として選別するスクリーニング方法であって、
AICD及びTip60が発現し、AICD/Tip60複合体が形成されている神経細胞を、候補薬物とともに培養するステップと、
培養後の神経細胞から調製された細胞溶解液と、抗AICD抗体及び抗Tip60抗体から選ばれる第1の抗体とを接触させることにより、AICD又はTip60と前記第1の抗体との複合体である第1の免疫複合体と、AICD/Tip60複合体と前記第1の抗体との複合体である第2の免疫複合体とを得るステップと、
前記第1及び第2の免疫複合体と、抗AICD抗体及び抗Tip60抗体から選ばれ前記第1の抗体とは異なる第2の抗体とを接触させるステップと、
前記第2の免疫複合体と前記第2の抗体との複合体である第3の免疫複合体の存在を検出するステップと、を備える方法。
【請求項10】
請求項3、7又は9に記載のスクリーニング方法で得ることのできる、アルツハイマー病の予防及び/又は治療のための薬物。
【請求項1】
c−Abl及び/又はp19ARFを有効成分として含有する、アルツハイマー病の予防及び/又は治療のための薬剤。
【請求項2】
神経細胞においてAICD及びp53の相互作用を阻害する候補薬物を、アルツハイマー病の予防及び/又は治療のための薬物として選別するスクリーニング方法。
【請求項3】
神経細胞においてAICD及びp53の相互作用を阻害する候補薬物を、アルツハイマー病の予防及び/又は治療のための薬物として選別するスクリーニング方法であって、
AICD及びp53が発現し、AICD/p53複合体が形成されている神経細胞を、候補薬物とともに培養するステップと、
培養後の神経細胞から調製された細胞溶解液と、抗AICD抗体及び抗p53抗体から選ばれる第1の抗体とを接触させることにより、AICD又はp53と前記第1の抗体との複合体である第1の免疫複合体と、AICD/p53複合体と前記第1の抗体との複合体である第2の免疫複合体とを得るステップと、
前記第1及び第2の免疫複合体と、抗AICD抗体及び抗p53抗体から選ばれ前記第1の抗体とは異なる第2の抗体とを接触させるステップと、
前記第2の免疫複合体と前記第2の抗体との複合体である第3の免疫複合体の存在を検出するステップと、を備える方法。
【請求項4】
AlcICDを有効成分として含有する、アルツハイマー病の予防及び/又は治療のための薬剤。
【請求項5】
配列表の配列番号1又は2に記載のアミノ酸配列を含むペプチドを有効成分として含有する、アルツハイマー病の予防及び/又は治療のための薬剤。
【請求項6】
神経細胞においてAICD及びFe65の相互作用を阻害する候補薬物を、アルツハイマー病の予防及び/又は治療のための薬物として選別するスクリーニング方法。
【請求項7】
神経細胞においてAICD及びFe65の相互作用を阻害する候補薬物を、アルツハイマー病の予防及び/又は治療のための薬物として選別するスクリーニング方法であって、
AICD及びFe65が発現し、AICD/Fe65複合体が形成されている神経細胞を、候補薬物とともに培養するステップと、
培養後の神経細胞から調製された細胞溶解液と、抗AICD抗体及び抗Fe65抗体から選ばれる第1の抗体とを接触させることにより、AICD又はFe65と前記第1の抗体との複合体である第1の免疫複合体と、AICD/Fe65複合体と前記第1の抗体との複合体である第2の免疫複合体とを得るステップと、
前記第1及び第2の免疫複合体と、抗AICD抗体及び抗Fe65抗体から選ばれ前記第1の抗体とは異なる第2の抗体とを接触させるステップと、
前記第2の免疫複合体と前記第2の抗体との複合体である第3の免疫複合体の存在を検出するステップと、を備える方法。
【請求項8】
神経細胞においてAICD及びTip60の相互作用を阻害する候補薬物を、アルツハイマー病の予防及び/又は治療のための薬物として選別するスクリーニング方法。
【請求項9】
神経細胞においてAICD及びTip60の相互作用を阻害する候補薬物を、アルツハイマー病の予防及び/又は治療のための薬物として選別するスクリーニング方法であって、
AICD及びTip60が発現し、AICD/Tip60複合体が形成されている神経細胞を、候補薬物とともに培養するステップと、
培養後の神経細胞から調製された細胞溶解液と、抗AICD抗体及び抗Tip60抗体から選ばれる第1の抗体とを接触させることにより、AICD又はTip60と前記第1の抗体との複合体である第1の免疫複合体と、AICD/Tip60複合体と前記第1の抗体との複合体である第2の免疫複合体とを得るステップと、
前記第1及び第2の免疫複合体と、抗AICD抗体及び抗Tip60抗体から選ばれ前記第1の抗体とは異なる第2の抗体とを接触させるステップと、
前記第2の免疫複合体と前記第2の抗体との複合体である第3の免疫複合体の存在を検出するステップと、を備える方法。
【請求項10】
請求項3、7又は9に記載のスクリーニング方法で得ることのできる、アルツハイマー病の予防及び/又は治療のための薬物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【国際公開番号】WO2005/023286
【国際公開日】平成17年3月17日(2005.3.17)
【発行日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−513698(P2005−513698)
【国際出願番号】PCT/JP2004/012955
【国際出願日】平成16年9月6日(2004.9.6)
【出願人】(000160522)久光製薬株式会社 (121)
【出願人】(591014710)千葉県 (49)
【Fターム(参考)】
【国際公開日】平成17年3月17日(2005.3.17)
【発行日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【国際出願番号】PCT/JP2004/012955
【国際出願日】平成16年9月6日(2004.9.6)
【出願人】(000160522)久光製薬株式会社 (121)
【出願人】(591014710)千葉県 (49)
【Fターム(参考)】
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