説明

アルデヒドの製造方法

【課題】有機ホスファイトを配位子とする金属錯体触媒を用いて、オレフィン系不飽和化合物のヒドロホルミル化反応生成液から触媒液を分離して再び反応に循環使用するアルデヒドの製造方法において、触媒液中にホスファイト配位子が析出することを防止する。
【解決手段】金属−ホスファイト配位子錯体触媒の存在下、オレフィン系不飽和化合物をヒドロホルミル化反応させて対応するアルデヒドを製造する方法において、ヒドロホルミル化反応で得られた反応生成液を、触媒を含有せず、かつ、アルデヒドを含有するアルデヒド含有液(A)と、アルデヒド及び/又はアルデヒドより軽沸点の化合物を含有し、アルデヒド及びアルデヒドより軽沸点の化合物の合計含有量が20重量%以上であり、かつ、触媒を含有する触媒液(B)とが、アルデヒド含有液(A):触媒液(B)=5:1〜1:5(重量比)となる割合で分離し、触媒液(B)を40℃以上に維持してヒドロホルミル化反応工程に循環させることを特徴とするアルデヒドの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアルデヒドの製造方法に関するものであって、より詳細には触媒の存在下にオレフィンを一酸化炭素および水素とヒドロホルミル化反応させ、アルデヒドを製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
オレフィン系不飽和化合物を原料とするアルデヒドの製造は、工業的に大規模に実施されている。具体的には、オレフィン系不飽和炭化水素をロジウム触媒等のヒドロホルミル化触媒の存在下、一酸化炭素および水素と反応(ヒドロホルミル化反応)させて、対応する直鎖状および分岐鎖状アルデヒドを含有するヒドロホルミル化反応生成液を得る。通常、反応生成液はアルデヒド含有液と、高沸点物、軽沸点物、反応溶媒、ヒドロホルミル化触媒の混合物(以下、触媒液とする。)に分離され、触媒液はヒドロホルミル化反応系へ戻され、循環使用される。
【0003】
ヒドロホルミル化触媒の配位子として使用されるホスファイト配位子は高分子量であるため、触媒液への溶解度が極めて低い。したがって、触媒液に対する適切なプロセス条件を見出さなければ、触媒液中のホスファイト配位子濃度が飽和溶解度を超えて触媒液中で析出することになるが、かかる析出はホスファイト配位子を大きく損失することを意味し、プロセスの経済的なロスは大きい。
【0004】
従来から工業的に広く使用されているホスフィン配位子に比べて、ホスファイト配位子は触媒液に対する溶解度が低いことが知られている。例えば特開平6−166694号公報には、該公報に記載の特定のビスホスファイト化合物が、従来慣用の燐リガンドよりも大きい分子量と低い揮発性を有し、ヒドロホルミル化反応媒質に対して低い溶解度を有することが予測されるが、オレフィン系不飽和化合物の均質触媒ヒドロホルミル化に有用なリガンドであることが記載されている。しかしながら、ホスファイト配位子が触媒液中で析出することを防止するためのプロセス条件については何も触れられていない。特開2001−163821号公報には、反応器下流の触媒移動経路を100℃未満にすることが記載されているが、これは触媒の分解を最小にすることが目的で、ホスファイト配位子の析出防止に着目して温度条件を設定していない。また、特開2002-161063号公報にも、循環触媒温度を40〜90℃まで冷却することが記載されているが、触媒の活性低下を抑制することが目的である。さらに、特開2000−229906号公報では、反応混合液からアルデヒド濃度を0.5重量%以上となるように触媒液を分離し、反応帯域に循環使用することが記載されているが、これは有機ホスファイトの分解で生成する有機ホスホネートによるロジウム錯体触媒の被毒を軽減することが目的である。いずれの方法もホスファイト配位子の析出防止については記載されていない。
【特許文献1】特開平6−166694号公報
【特許文献2】特開2001-163821号公報
【特許文献3】特開2002-161063号公報
【特許文献4】特開2000-229906号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
プロセス条件を厳密にコントロールすることでホスファイト配位子が析出する問題は生じないかもしれないが、ホスファイト配位子の触媒液への溶解度に影響を与えるプロセス因子が変化した場合は、ホスファイト配位子の析出問題が生じる可能性がある。例えば、触媒液組成の変化、あるいはアルデヒド含有液と触媒液に分離する比率が変化すれば、ホスファイト配位子は触媒液中で析出する可能性がある。したがって、触媒液中でホスファイト配位子が析出することのないプロセス条件を見出されることが望まれる。
【0006】
本発明の課題は、ヒドロホルミル化反応の触媒液への溶解度が低いホスファイト配位子を使用しても、触媒液中でホスファイト配位子が析出することのないアルデヒドの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、ヒドロホルミル化反応生成液から分離し再利用される触媒液のプロセス条件を決めること、より具体的には、反応生成液の分離割合及び触媒液の成分をコントロールし、かつヒドロホルミル化反応工程に循環させる触媒液の温度をコントロールすることにより、ヒドロホルミル化反応の触媒液への溶解度が低いホスファイト配位子の析出を防ぐことができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち本発明の要旨は、金属−ホスファイト配位子錯体触媒の存在下、オレフィン系不飽和化合物をヒドロホルミル化反応させて対応するアルデヒドを製造する方法において、ヒドロホルミル化反応で得られた反応生成液を、触媒を含有せず、かつ、アルデヒドを含有するアルデヒド含有液(A)と、アルデヒド及び/又はアルデヒドより軽沸点の化合物を含有し、アルデヒド及びアルデヒドより軽沸点の化合物の合計含有量が20重量%以上であり、かつ、触媒を含有する触媒液(B)とが、アルデヒド含有液(A):触媒液(B)=5:1〜1:5(重量比)となる割合で分離し、触媒液(B)を40℃以上に維持してヒドロホルミル化反応工程に循環させることを特徴とするアルデヒドの製造方法、に存する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ヒドロホルミル化反応の触媒液への溶解度が低いホスファイト配位子を使用しても、触媒液中でホスファイト配位子が析出することのないアルデヒドの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、これらの内容に特定されない。
本発明では、オレフィン系不飽和炭化水素を金属−ホスファイト配位子錯体触媒の存在下、一酸化炭素および水素と反応させて、対応する直鎖状アルデヒドおよび分岐鎖状アルデヒドを含有するヒドロホルミル化反応生成液を得る。
【0011】
オレフィン系不飽和炭化水素としては、通常、直鎖又は分岐鎖状のα−オレフィン又は内部オレフィンが用いられ、好ましくは炭素数2〜8個のオレフィンであり、具体的にはエチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−ドデセン、1−テトラデセン等が挙げられ、より好ましくはエチレン、プロピレン、又は、1−ブテンである。特に好ましいオレフィンはプロピレンである。
【0012】
金属−ホスファイト配位子錯体触媒は、金属と、これと錯体を形成しうるホスファイト配位子から形成され、ヒドロホルミル化反応の触媒として機能するものであればいずれでもよい。金属はこの用途に用いることが知られている金属であれば特に限定されるものではなく、例えば、Co、Rh、Ir、Pd、Pt、OsまたはRuなどの第八金属(本発明において第八金属とは、1983年の周期律表における族金属であり、現在の周期律表における8〜10族の金属である)の金属であり、ヒドロホルミル化反応の触媒として、高い反応活性を持つ点から、好ましくは、Co、Ru、Rh、Pd、Ptであり、より好ましくは、Co、Rh、特にRhである。金属源である金属化合物としては、特に制限されないが、例えば、塩化コバルト、酢酸コバルト、塩化パラジウム、硝酸パラジウム、塩化ルテニウム等が挙げられ、好ましくは酢酸ロジウム、三塩化ロジウム、硝酸ロジウムなどのロジウム化合物が挙げられ、より好ましくは酢酸ロジウムが挙げられる。
【0013】
有機ホスファイト配位子は、単座配位子又は多座配位子のいずれでも良く、ホスファイト配位子の種類は特に限定されない。ホスファイト配位子の具体例として、例えば下記一般式(1)〜(10)で表される化合物が挙げられる。
【0014】
【化1】

【0015】
(上記一般式(1)式中、R〜Rはそれぞれ独立して、置換されていてもよい1価の炭化水素基を表す。)
置換されていてもよい1価の炭化水素基としては、アルキル基、アリール基、シクロアルキル基などが挙げられる。式(1)で示される化合物の具体例としては、例えば、トリメチルホスファイト、トリエチルホスファイト、n−ブチルジエチルホスファイト、トリ−n−ブチルホスファイト、トリ−n−プロピルホスファイト、トリ−n−オクチルホスファイト、トリ−n−ドデシルホスファイト等のトリアルキルホスファイト;トリフェニルホスファイト、トリナフチルホスファイト等のトリアリールホスファイト;ジメチルフェニルホスファイト、ジエチルフェニルホスファイト、エチルジフェニルホスファイト等のアルキルアリールホスファイトなどが挙げられる。また、例えば、特開平6-122642号公報に記載のビス(3,6,8−トリ−t−ブチル−2−ナフチル)フェニルホスファイト、ビス(3,6,8−トリ−t−ブチル−2−ナフチル)(4−ビフェニル)フェニルホスファイトなどを用いても良い。これらの中で最も好ましいのはトリフェニルホスファイトである。
【0016】
【化2】

【0017】
(上記一般式(2)中、Rは置換されていてもよい2価の炭化水素基を表し、Rは置換されていてもよい1価の炭化水素基を表す。)
置換されていてもよい2価の炭化水素基としては、炭素鎖の中間に酸素、窒素、硫黄原子などを含んでいてもよいアルキレン基;炭素鎖の中間に酸素、窒素、硫黄原子などを含んでいてもよいシクロアルキレン基;フェニレン、ナフチレンなどの2価の芳香族基;2価の芳香環が直接、又は中間にアルキレン基や酸素、窒素、硫黄などの原子を介して結合した2価の芳香族基;2価の芳香族基とアルキレン基とが直接、又は中間に酸素、窒素、硫黄などの原子を介して結合したものなどが挙げられる。Rで示される置換されても良い1価の炭化水素基としては、アルキル基、アリール基、シクロアルキル基などが挙げられる。
【0018】
上記一般式(2)で表される化合物としては、例えば、ネオペンチル(2,4,6−t−ブチル-フェニル)ホスファイト、エチレン(2,4,6−t−ブチル−フェニル)ホスファイト等の米国特許第3415906号公報記載の化合物などが挙げられる。
また、下記一般式(3)
【0019】
【化3】

【0020】
(上記一般式(3)中、R10は上記一般式(2)におけるRと同義であり、Ar及びArは、それぞれ独立して、置換されていてもよいアリール基を表し、x及びyは、それぞれ独立して、0又は1を表し、Qは−CR1112−,−O−,−S−,−NR13−,−SiR1415−及び−CO−よりなる群から選ばれる架橋基であり、R11及びR12はそれぞれ独立して水素原子、炭素数1〜12のアルキル基、フェニル基、トリル基又はアニシル基を表し、R13、R14およびR15はそれぞれ独立して水素原子又はメチル基を表し、nは0又は1を表す。)で表される化合物、より具体的には1,1’−ビフェニル−2,2’−ジイル−(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ホスファイト等の米国特許第4599206号公報記載の化合物及び3,3’−ジ−t−ブチル−5,5’−ジメトキシ−1,1’−ビフェニル−2,2’−ジイル (2−t−ブチル−4−メトキシフェニル)ホスファイト等の米国特許第4717775号公報記載の化合物等も挙げられる。
【0021】
【化4】

【0022】
(上記一般式(4)中、Rは環状又は非環状の置換されていてもよい3価の炭化水素基を表す。)
上記一般式(4)で表される化合物としては、例えば、4−エチル−2,6,7−トリオキサ−1−ホスファビシクロ−[2,2,2]−オクタン等の米国特許第4567306号公報記載の化合物などが挙げられる。
【0023】
【化5】

【0024】
(上記一般式(5)中、Rは上記一般式 (2)におけるRと同義であるが、R及びRはそれぞれ独立して、置換されても良い炭化水素基を表し、a及びbはそれぞれ0〜6の整数を表し、aとbの和は2〜6であり、Xは(a+b)価の炭化水素基を表す。)
上記一般式(5)で表される化合物のうち、好ましいものとしては、例えば、下記一般式(6)で表される化合物が挙げられる。
【0025】
【化6】

【0026】
(上記一般式(6)中、Xはアルキレン、アリーレンおよび−Ar−(CH)x−Qn−(CH)y−Ar−からなる群から選ばれる2価の基を表し、Ar、Ar、Q、x、y、nは上記一般式(3)におけるAr、Ar、Q、x、y、nと同義である。R16とR17は上記一般式(5)におけるR及びRと同義である)で表される化合物が挙げられ、また、特開昭62-116535号公報および特開昭62-116587号公報に記載の化合物を含有する。
【0027】
【化7】

【0028】
(上記一般式(7)中、X、Ar、Ar、Q、x、y、nは上記一般式(6)におけるX、Ar、Ar、Q、x、y、nと同義であり、R18は上記一般式(2)におけるRと同義である。)
【0029】
【化8】

【0030】
(上記一般式(8)中、R19及びR20はそれぞれ独立して芳香族炭化水素基を表し、かつ少なくとも一方の芳香族炭化水素基は、酸素原子が結合する炭素原子に隣接する炭素原子に炭化水素基を有しており、mは2〜4の整数を表し、各−O−P(OR19)(OR20)基は互いに異なっていてもよく、Xは置換されていてもよいm価の炭化水素基を表す。)
上記一般式(8)で表される化合物の中で、例えば、特開平5-178779号公報に記載の化合物が好ましい。
【0031】
【化9】

【0032】
(上記一般式(9)中、R21〜R24は、それぞれ独立して置換されていても良い炭化水素基を表し、R21とR22、R23とR24は互いに結合して環を形成していてもよく、Wは置換基を有していてもよい2価の芳香族炭化水素基を表し、Lは置換基を有していてもよい飽和又は不飽和の2価の脂肪族炭化水素基を表す。)
上記一般式(9)で表される化合物としては、例えば、特開平8-259578号公報に記載のものが用いられる。
【0033】
【化10】

【0034】
(上記一般式(10)中、R25〜R28は、置換されていても良い1価の炭化水素基を表し、R25とR26、R27とR28は互いに結合して環を形成していてもよく、A及びBはそれぞれ独立して、置換基を有していてもよい2価の炭化水素基を表し、nは0又は1の整数を表す。)
ここで、置換されていても良い1価の炭化水素基としては、アルキル基、アリール基、シクロアルキル基などが挙げられる。置換基を有していても良い2価の炭化水素基としては、芳香族、脂肪族又は脂環族のいずれであっても良い。
【0035】
本発明における金属−ホスファイト配位子錯体触媒は、ヒドロホルミル化反応の反応系中で形成させても良く、あらかじめ調製したものを用いても良い。あらかじめ調製する場合、触媒を構成する金属源である金属化合物は、反応器の外で一酸化炭素、水素および上記式(1)〜(10)などのホスファイト配位子と共に溶媒中で反応させる。触媒調製に使用する溶媒は、通常後述するヒドロホルミル化反応溶媒の中から選択されるが、必ずしも反応溶媒と同一の溶媒でなくてもよい。調整条件は、反応温度が通常40℃以上、好ましくは50℃以上、より好ましくは60℃以上であり、通常300℃以下、好ましくは200℃以下、より好ましくは150℃以下である。反応圧力は通常0.0001MPaG以上、好ましくは0.01MPaG以上、より好ましくは0.1MPaG以上であり、通常20MPaG以下、好ましくは10MPaG以下、より好ましくは5MPaG以下である。調製時間は、通常5分以上、好ましくは10分以上、より好ましくは30分以上であり、通常15時間以下、好ましくは5時間以下、より好ましくは3時間以下である。調製時間が短すぎると十分に反応が進まず、触媒活性が得られない可能性がある。一方で、長すぎると触媒活性が低下してしまう。
【0036】
ヒドロホルミル化反応に用いる金属−ホスファイト配位子錯体触媒の量は、ヒドロホルミル化反応液中の金属換算濃度が通常1重量ppm以上、好ましくは10重量ppm以上であり、通常10重量%以下、好ましくは1重量%以下、より好ましくは1000重量ppm以下である。金属濃度が低すぎると反応速度が遅くなるため十分に反応が進まず、高すぎると高沸点物質をパージする時に金属も同伴して抜き出されるため、高価な金属のロスが多くなり経済的でない。
【0037】
ホスファイト配位子と金属の比率は通常モル比で 配位子/金属=0.1〜10000、好ましくは配位子/金属=0.1〜1000、より好ましくは1〜100である。モル比が低すぎるとホスファイト配位子の金属への配位量が少なくなるため、金属が十分に安定化されず失活する恐れがある。高すぎると反応系内でのホスファイト配位子濃度が高くなり、高沸点物質をパージする時にホスファイト配位子も同伴して抜き出されるため、ホスファイト配位子のロスが多くなり経済的ではない。
【0038】
ヒドロホルミル化反応の温度は通常20℃以上、好ましくは40℃以上、より好ましくは50℃以上であり、通常300℃以下、好ましくは200℃以下、より好ましくは150℃以下である。反応温度が低すぎると反応速度が遅くなるため十分に反応が進まず、反応温度が高すぎると副生物の生成が促進され、また触媒が失活する恐れがある。
ヒドロホルミル化反応の圧力は通常0.0001MPaG以上、好ましくは0.01MPaG以上、より好ましくは0.2MPaG以上であり、通常50MPaG以下、好ましくは30MPaG以下、より好ましくは20MPaG以下である。反応圧力が低すぎると反応速度が遅くなるため十分に反応が進まず、反応圧力が高すぎると反応器などの機器の設計圧力が高くなり設備負担が増大する。また、ヒドロホルミル化反応の水素分圧は通常0.0001MPa以上、好ましくは0.01MPa以上、より好ましくは0.1MPa以上であり、通常20MPa以下、好ましくは10MPa以下、より好ましくは5MPa以下である。水素分圧が低すぎると反応速度が低下してしまい、高すぎると副生物の生成が増える。一酸化炭素分圧は通常0.0001MPa以上、好ましくは0.01MPa以上、より好ましくは0.1MPa以上であり、通常20MPa以下、好ましくは10MPa以下、より好ましくは5MPa以下である。一酸化炭素分圧が低すぎると反応が進まず、また高すぎてもオレフィンの分圧が下がるため反応が進まなくなる。水素分圧/一酸化炭素分圧の比は通常0.1〜100、好ましくは0.1〜20、より好ましくは1〜10である。この比が小さすぎると反応が十分に進まなくなり、また高すぎても反応が十分に進まなかったり、副生物の生成が増えたりする。
【0039】
上記のヒドロホルミル化反応を行う際の反応時間は通常1分以上、好ましくは10分以上、より好ましくは20分以上であり、通常24時間以下、好ましくは10時間以下、より好ましくは5時間以下である。反応時間が短すぎると十分に反応が進まず、長すぎると高沸点物質化が進んでしまう。
ヒドロホルミル化反応は、通常原料オレフィンと反応で生成するアルデヒドに対して不活性な溶媒の存在下に行われる。ヒドロホルミル化反応で使用できる溶媒としては、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素、ヘキサン、オクタン等の脂肪族炭化水素、シクロヘキサン等の脂環式炭化水素、ブタノール、オクタノール、ポリエチレングリコール等のアルコール類、トリグライム等のエーテル類、ジオクチルフタレート等のエステル類などが挙げられる。また、反応で生成するアルデヒドや、その三量体や四量体などのアルデヒド縮合物を用いることもできる。さらに、原料オレフィンと同炭素数を有するパラフィン類を用いることもできる。例えば、プロピレンのヒドロホルミル化であれば、トルエンやブチルアルデヒドまたは3量体や4量体などのアルデヒド縮合物との混合物を用いるのが好ましい。
【0040】
使用できる反応器の種類は特に限定されず、攪拌槽型、気泡塔型、棚段塔型、管型又はガスストリッピング型等を用いることができる。通常連続式の反応器に原料であるオレフィン、オキソガスおよび触媒液を連続的に供給し、上記ヒドロホルミル化反応条件下で実施されるが、回分式の反応器を使用することもできる。また、反応の温度を一定に保つために、内部コイルやジャケット、外部熱交換器などを有しても良い。
【0041】
ヒドロホルミル化反応で得られる反応生成液は連続的に反応器から抜き出される。
本発明では、反応生成液は、触媒を含有せず、かつ、アルデヒドを含有するアルデヒド含有液(A)と、「アルデヒド及び/又はアルデヒドより軽沸点の化合物」を含有し、アルデヒド及びアルデヒドより軽沸点の化合物(以下、アルデヒド及びアルデヒドより軽沸点の化合物を併せて、軽沸点化合物類と略する)を合計で20重量%以上含有し、かつ、触媒を含有する触媒液(B)に分離される。分離の方法は、特に限定されないが、蒸留、蒸発、ガスストリッピング、ガス吸収、抽出等が挙げられるが、この中でも蒸留が好ましい。蒸留の場合、通常アルデヒド含有液(A)は、蒸留塔塔頂からの留出分を冷却することにより得られ、触媒液(B)は塔底から回収される。
【0042】
アルデヒド含有液(A)は、通常、生成したアルデヒドを主成分とし、これより軽沸点の化合物を含み、触媒を含有しない。
触媒液(B)は、通常、生成したアルデヒド及び/又はアルデヒドより軽沸点の化合物、触媒、並びに通常、反応副生成物である高沸点の化合物を含むが、本発明においては、触媒液(B)中の、軽沸点化合物類の合計の濃度は、20重量%以上、好ましくは25重量%以上、より好ましくは30重量%以上であり、通常95重量%以下、好ましくは90重量%以下、より好ましくは85重量%以下、特に好ましくは75重量%以下である。軽沸点の化合物は高沸点の化合物に比べてホスファイト配位子の溶解度が大きいため、軽沸点化合物類の合計濃度が小さ過ぎるとホスファイト配位子が析出する。逆に軽沸点化合物類の合計濃度が大きすぎると、触媒液(B)はヒドロホルミル化反応に循環されるため、反応中に軽沸点の化合物の高沸点物質化が進む恐れがある。
【0043】
本発明では、反応生成液の分離を、アルデヒド含有液(A):触媒液(B)の重量比で、5:1〜1:5とする。好ましくは該重量比が4.5:1以上、より好ましくは4:1以上とし、一方、好ましくは1:4.5以下、より好ましくは1:4以下とする。触媒液(B)の割合が小さくなると、ホスファイト配位子は触媒液に濃縮され、析出することとなる。一方、触媒液(B)の割合が大きくなると、循環触媒量が多くなり、装置が大型化する問題がある。
【0044】
尚、触媒液(B)中の軽沸点化合物類の合計濃度と、アルデヒド含有液(A):触媒液(B)の比を、例えば蒸留塔を使って変更しようとすると、塔頂のアルデヒド含有液はアルデヒドが主成分であるため、フィード組成が決まってしまえばそれらを独立して変化させることはできない。このような場合は、触媒液を反応器に循環する途中で一部の触媒液をパージすれば、軽沸点物質濃度を変化させることができるため、上記二つのパラメーターを独立して変化させることができる。
【0045】
本発明では、触媒液(B)の少なくとも一部をヒドロホルミル化反応工程に循環させるが、循環させる触媒液(B)は、40℃以上に維持され、好ましくは45℃以上、より好ましくは50℃以上に維持される。触媒液(B)の温度の上限は特に限定されないが、反応生成物の分離を蒸留で行うのが好ましいことから、通常、蒸留塔の缶出液温度以下であり、通常200℃以下、好ましくは150℃以下、より好ましくは120℃以下程度である。ホスファイト配位子の触媒液(B)への溶解度は温度が高いほど大きくなるため、温度が低くなるとホスファイト配位子は触媒液(B)中で析出することとなる。一方、温度が高すぎると触媒の失活や高沸点物質化が進む。
【0046】
尚、40℃以上に維持するとは、反応生成液から分離した後、ヒドロホルミル化反応工程に循環するまでの、いずれの段階においても40℃以上であることを言い、又、ヒドロホルミル化反応工程に循環するまでとは、触媒液(B)がヒドロホルミル化反応器に直接供給されるまで、又は、反応溶媒、或いは他の原料等と混合されるまでをいう。本発明における反応生成液の上記分離条件を満たすためには、アルデヒド含有液(A)と触媒液(B)の分離を蒸留で行うのが好ましく、蒸留条件は、触媒液の条件が上記範囲になるように選定すればよいが、塔底温度が通常40〜200℃、好ましくは50〜150℃である。塔底温度を低くするためには蒸留塔を高真空で操作する必要があり経済的ではない。塔底温度を高くすると、触媒の失活や高沸点物質化が進む。塔頂圧力は塔底温度が上記範囲になるような条件で行えばよいが、通常50mmHg以上、好ましくは100mmHg以上、通常大気圧以下である。還流比は0.1〜10、好ましくは0.5〜5で実施する。
【実施例】
【0047】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
プロピレンを完全混合槽型の反応器に連続供給してブチルアルデヒドを生成するヒドロホルミル化反応を行った。内径400mm、高さ1500mmで攪拌翼を持つ完全混合槽型反応器へ、原料としてプロピレンを7.1kg/Hrで供給し、触媒液としてはブチルアルデヒド、酢酸ロジウムと後述の配位子Aとをあらかじめ調整して得た錯体触媒を含む液と、循環される触媒液(B)とを合わせて、36.7kg/Hrで供給した。反応器のジャケットに冷却水を流して、反応温度を70℃に調整した。圧力が0.98MpaGとなるように、H2/CO=1の合成ガスを反応器へ供給した。反応液中のロジウム濃度は162重量ppm、配位子/Rhのモル比は4、遊離の配位子濃度は0.44重量%であった。配位子は下記に示す配位子Aを使用した。反応器の攪拌動力は2kW/m3、H分圧は.0.42MPa、CO分圧は0.14MPaであった。反応器の液面が一定になるように反応生成液を抜き出し、抜き出した反応生成液と反応器へ供給する合成ガスを向流接触させて未反応のプロピレンを回収した。プロピレンを除去した反応生成液を蒸留塔(内径151mm、高さ8600mm)に供給し、アルデヒド含有液(A):触媒液(B)=1:3.2 になるように分離した。蒸留塔の塔底温度72℃、塔頂圧力は0.067 MPa、還流比は1であった。蒸留塔には、不規則充填物が7500mmの充填長まで充填してあった。留出したアルデヒド含有液(A)は11.6kg/Hrであった。缶出した触媒液(B)から47g/Hrで触媒液の一部をパージし、残部を反応器へ循環した。缶出した触媒液(B)の温度は72℃で、反応器へ供給される際の温度は72℃であり、触媒液(B)は50℃以上に維持されていた。又、触媒液(B)中のブチルアルデヒド及びこれより軽沸点の化合物の濃度は、合計で50.6重量%であった。このとき、触媒液に配位子の析出は確認されなかった。
【0048】
【化11】

【0049】
実施例2
実施例1と同様にして得られた触媒液(B)とアルデヒド含有液(A)とを、該触媒液(B)に含まれる「アルデヒド及びこれより軽沸点の化合物」の濃度が下記表1に記載の濃度となるように混合し、エバポレーターに仕込んだ。このときの仕込液の量は400gで、その中に含まれる遊離配位子濃度と「アルデヒド及びこれより軽沸点の化合物」の濃度は、それぞれ0.45重量%、82.5重量%であった。エバポレーターを加熱し、アルデヒド含有液(A)を300[g]留出させることで、残液(触媒液(B))100gに含まれる「アルデヒド及びこれより軽沸点の化合物」の濃度が30重量%、遊離配位子濃度1.80重量%となるように調整した。その後、エバポレーターの残液の温度を50℃として、残液に析出物が存在するか確認したところ、配位子の析出は無かった。
【0050】
実施例3
実施例2において、仕込液中の「アルデヒド及びこれより軽沸点の化合物」の濃度、留出させたアルデヒド含有液(A)の量、残液の量、及び残液中の遊離配位子濃度を表1に示す値に変えた以外は、同様に実施した。結果を表2に示す。
【0051】
比較例1
実施例2において、残液の温度を表1に示す値に変えた以外は、同様に実施した。結果を表2に示す。
【0052】
比較例2
実施例2において、仕込液中の「アルデヒド及びこれより軽沸点の化合物」の濃度、及び残液中の「アルデヒド及びこれより軽沸点の化合物」の濃度を表1に示す値に変えた以外は、同様に実施した。結果を表2に示す。
【0053】
比較例3
実施例2において、仕込液中の「アルデヒド及びこれより軽沸点の化合物」の濃度、留出させたアルデヒド含有液(A)の量、残液量、及び残液中の遊離配位子濃度を表1に示す値に変えた以外は、同様に実施した。結果を表2に示す。
【0054】
比較例4
実施例3において、仕込液中の「アルデヒド及びこれより軽沸点の化合物」の濃度、留出させたアルデヒド含有液(A)の量、残液量、残液中の遊離配位子濃度、及び残液の温度を表1に示す値に変えた以外は、同様に実施した。結果を表2に示す。
【0055】
【表1】



【0056】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属−ホスファイト配位子錯体触媒の存在下、オレフィン系不飽和化合物をヒドロホルミル化反応させて対応するアルデヒドを製造する方法において、ヒドロホルミル化反応で得られた反応生成液を、触媒を含有せず、かつ、アルデヒドを含有するアルデヒド含有液(A)と、アルデヒド及び/又はアルデヒドより軽沸点の化合物を含有し、アルデヒド及びアルデヒドより軽沸点の化合物の合計含有量が20重量%以上であり、かつ、触媒を含有する触媒液(B)とが、アルデヒド含有液(A):触媒液(B)=5:1〜1:5(重量比)となる割合で分離し、触媒液(B)を40℃以上に維持してヒドロホルミル化反応工程に循環させることを特徴とするアルデヒドの製造方法。
【請求項2】
反応生成液の分離を、蒸留により行うことを特徴とする請求項1に記載の製造方法。

【公開番号】特開2007−262019(P2007−262019A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−91387(P2006−91387)
【出願日】平成18年3月29日(2006.3.29)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】