説明

アルドースまたはその誘導体のシッフ塩基の製造方法、およびアルドースまたはその誘導体の製造方法

【課題】 アルドースまたはその誘導体を安定して供給可能な製造方法を提供する。
【解決手段】
アルドースまたはその誘導体のシッフ塩基の製造方法であって、
ケトースまたはその誘導体を異性化させて前記アルドースまたはその誘導体を生成させる異性化工程と、
前記アルドースまたはその誘導体と第1級アミンを反応させて前記アルドースまたはその誘導体のシッフ塩基を生成させるアルドースシッフ塩基生成工程とを含むことを特徴とする、シッフ塩基の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルドースまたはその誘導体のシッフ塩基の製造方法、およびアルドースまたはその誘導体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
希少糖は、天然において、その存在が確認されていないか、または存在量がきわめて少ない糖である。近年、希少糖、中でもケトヘキソースやアルドヘキソースの有効利用が研究されており、食品添加物や医薬中間体としての利用に注目が集まっている。現在、これらの希少糖を合成する際に用いられる方法としては、酵素を使う方法と有機化学的方法の2種類がある(特許文献1、非特許文献1〜3等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭58−039696
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】J Biosci Bioeng, Vol.88, No.5, Page.567−570(1999.11.25)
【非特許文献2】Tetrahedron, Vol.58, No.2, Page.253−259(2002.01.07)
【非特許文献3】Tetrahedron Lett, Vol.40, No.28, Page.5191−5192(1999.07.09)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、アルドースである希少糖、例えば、グロースやイドース等は、化学的な安定性が低いため、安定して供給することが難しい。現在、アルドース系希少糖は、保護基のない遊離形で市販されている。しかし、これらは、溶液状態にするとすぐに安定な異性化体等に転換してしまうという問題がある。
【0006】
そこで、本発明は、アルドースまたはその誘導体を安定して供給可能な製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明の第一の製造方法は、
アルドースまたはその誘導体のシッフ塩基の製造方法であって、
ケトースまたはその誘導体を異性化させて前記アルドースまたはその誘導体を生成させる異性化工程と、
前記アルドースまたはその誘導体と第1級アミンを反応させて前記アルドースまたはその誘導体のシッフ塩基を生成させるアルドースシッフ塩基生成工程とを含むことを特徴とする。
【0008】
さらに、本発明の第二の製造方法は、
アルドースまたはその誘導体の製造方法であって、
前記本発明の第一の製造方法により、前記アルドースまたはその誘導体のシッフ塩基を製造するアルドースシッフ塩基製造工程と、
前記アルドースまたはその誘導体のシッフ塩基を加水分解して前記アルドースまたはその誘導体を生成させるアルドース生成工程とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、アルドースまたはその誘導体を安定して供給可能な製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施例1で合成したシッフ塩基混合物のHPLCチャート図である。
【図2】実施例1で合成した糖のHPLCチャート図である。
【図3】実施例2で合成した糖の混合物のHPLCチャート図である。
【図4】実施例2で合成した糖のHPLCチャート図である。
【図5】実施例3で合成した糖の混合物のHPLCチャート図である。
【図6】実施例3で合成した糖のHPLCチャート図である。
【図7】実施例4で合成したシッフ塩基混合物のHPLCチャート図である。
【図8】実施例4で合成した糖のHPLCチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明についてさらに具体的に説明する。ただし、本発明は、以下の説明により限定されない。
【0012】
本発明の第一の製造方法によれば、前記の通り、ケトースまたはその誘導体を原料として、アルドースまたはその誘導体のシッフ塩基を製造することができる。本発明の第一の製造方法の製造物(生成物)は、アルドースまたはその誘導体のシッフ塩基であることにより、遊離のアルドースよりも化学的に安定な形態で保存可能である。さらに、本発明者らは、前記シッフ塩基を、アルドース自体から製造するのではなく、ケトースまたはその誘導体を原料とし、アルドースまたはその誘導体への異性化を利用して製造することを見出した。このようにして、化学的に安定な原料から化学的に安定な生成物を製造すれば、前記生成物を安定して供給することも可能である。なお、前記ケトースまたはその誘導体を異性化させてアルドースまたはその誘導体を生成させる異性化工程は、例えば、ロブリー転移を用いて行うことができる。ロブリー転移(Lobry転移、またはLobry de Bruyn−Alberda van Ekenstein転位)は、アルドースとケトースとの間の異性化反応である(例えば、Trends in Glycoscience and Glycotechnology Vol.16 No.88 (March 2004) pp.63−85参照)。ロブリー転移は、平衡反応であり、平衡状態は、反応物および生成物の濃度、使用溶媒、反応系のpH、温度等に依存する。ロブリー転移の一例として、フルクトース、グルコースおよびマンノース間の平衡反応がある。この反応は、例えば、下記スキーム1のように、エンジオール中間体を経て進行すると考えられる。ロブリー転移の反応機構は、より具体的には、例えば、下記スキーム2のように推測される。下記スキーム2において、R100は、任意の原子または原子団であり、好ましくは、有機残基である。ただし、下記スキーム1およびスキーム2に示す反応機構は、例示であり、本発明を限定しない。なお、本発明において、ロブリー転移の反応条件は特に制限されないが、例えば、塩基触媒存在下において行うことができる。
【0013】
【化3】

【0014】
【化4】

【0015】
本発明の第一の製造方法において、前記異性化工程と、前記アルドースシッフ塩基生成工程とは、個別に行っても良いが、これらを同時に行うことが簡便で好ましい。すなわち、前記ケトースまたはその誘導体を異性化させて前記アルドースまたはその誘導体を生成させる反応系中で、同時に前記アルドースまたはその誘導体と前記第1級アミンとを反応させることが好ましい。
【0016】
本発明の第一の製造方法において、前記第1級アミンは、下記化学式(I)で表される芳香族アミンが好ましい。
【0017】
【化5】

【0018】
前記化学式(I)において、
Arは、芳香環または複素芳香環であり、
Rは、任意の置換基であり、1でも複数でも良く、複数の場合、同一でも異なっていても良く、
Rのうち少なくとも1つは、アミノ基(−NH)である。
【0019】
前記化学式(I)において、Arとしては、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ピリジン環、チオフェン環、ピレン環等が挙げられる。また、Rとしては、アミノ基以外には、例えば、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、カルボン酸、カルボン酸エステル、オキソ基(=O)、カルバモイル基(−CONH)、シアノ基、シアノアルキル基、スルホ基(−SOH)、ペルフルオロアルキル基、ハロゲン等が挙げられる。なお、前記「カルボン酸」とは、カルボキシル基または末端にカルボキシル基が付加した基(例えばカルボキシアルキル基等)をいい、「カルボン酸エステル」とは、アルコキシカルボニル基、フェノキシカルボニル基等のカルボン酸エステル基、およびアシルオキシ基をいう。前記アルキル基としては、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキル基が好ましい。前記アルコキシ基、前記シアノアルキル基、および前記アルコキシカルボニル基中のアルキル基において同様である。また、前記アシルオキシ基中のアシル基は、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アシル基が好ましい。また、Rは、例えば、さらに芳香環または複素芳香環を含んでいても良く、より具体的には、例えば、フェニル基、ベンジル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基、ピリジル基、チエニル基、ピレニル基等を含む構造であっても良い。
【0020】
なお、本発明において、アルキル基としては、特に限定されないが、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基等が挙げられる。アルキル基を構造中に含む基(アルキルアミノ基、アルコキシ基等)においても同様である。また、ペルフルオロアルキル基としては、特に限定されないが、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、ネオペンチル基、n-プロピル基等から誘導されるペルフルオロアルキル基が挙げられ、ペルフルオロアルキル基を構造中に含む基(ペルフルオロアルキルスルホニル基、ペルフルオロアシル基等)においても同様である。本発明において、アシル基としては、特に限定されないが、例えば、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、イソブチリル基、バレリル基、イソバレリル基、ピバロイル基、ヘキサノイル基、シクロヘキサノイル基、ベンゾイル基、エトキシカルボニル基等が挙げられ、アシル基を構造中に含む基(アシルオキシ基、アルカノイルオキシ基等)においても同様である。また、本発明において、アシル基の炭素数にはカルボニル炭素を含み、例えば、炭素数1のアルカノイル基(アシル基)とはホルミル基を指すものとする。アリール基とは、ベンゼン環から誘導される基のみならず、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ピリジン環、チオフェン環、ピレン環等の任意の芳香環または複素芳香環から誘導される基も含む。さらに、本発明において、「ハロゲン」とは、任意のハロゲン元素を指すが、例えば、フッ素、塩素、臭素およびヨウ素が挙げられる。また、置換基等に異性体が存在する場合はどの異性体でも良く、例えば、「ナフチル基」という場合は、1-ナフチル基でも2−ナフチル基でも良い。
【0021】
本発明の第一の製造方法において、前記第1級アミンは、下記化学式(II)で表されるピリジン誘導体であることがより好ましい。
【0022】
【化6】

【0023】
前記化学式(II)中、
〜Rは、水素原子または任意の置換基であり、同一でも異なっていても良く、
〜Rの少なくとも一つは、アミノ基(−NH)である。
【0024】
前記化学式(II)において、R〜Rとしては、アミノ基以外には、例えば、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、カルボン酸、カルボン酸エステル、オキソ基(=O)、カルバモイル基(−CONH)、シアノ基、シアノアルキル基、スルホ基(−SOH)、ペルフルオロアルキル基、およびハロゲン等が挙げられる。なお、前記「カルボン酸」とは、カルボキシル基または末端にカルボキシル基が付加した基(例えばカルボキシアルキル基等)をいい、「カルボン酸エステル」とは、アルコキシカルボニル基、フェノキシカルボニル基等のカルボン酸エステル基、およびアシルオキシ基をいう。前記アルキル基としては、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキル基が好ましい。前記アルコキシ基、前記シアノアルキル基、および前記アルコキシカルボニル基中のアルキル基において同様である。また、前記アシルオキシ基中のアシル基は、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アシル基が好ましい。また、R〜Rは、例えば、さらに芳香環または複素芳香環を含んでいても良く、より具体的には、例えば、フェニル基、ベンジル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基、ピリジル基、チエニル基、ピレニル基等を含む構造であっても良い。
【0025】
本発明の第一の製造方法における前記第1級アミンとして、具体的には、例えば、下記の各化学式で表される第1級アミンが挙げられる。
【0026】
【化7】

【0027】
なお、上記化学式において、略号は、化合物の名称を表し、それぞれ下記の意味である。
ABA:2−Aminobenzoic acid(2−アミノ安息香酸)
2−ABAD:2−Aminobenzamide(2−アミノベンズアミド)
3−ABAD:3−Aminobenzamide(3−アミノベンズアミド)
ABEE:Ethyl p−aminobenzoate(p−アミノ安息香酸エチル)
ABN:p−Aminobenzonitrile(p−アミノベンゾニトリル)
ACP:2−Amino−6−cyanoethylpyridine(2−アミノ−6−シアノエチルピリジン)
AMAC:2−Aminoacridone(2−アミノアクリドン)
AMC:7−Amino−4−methylcoumarin(7−アミノ−4−メチルクマリン)
ANTS:8−Aminonaphthalene−1,3,6−trisulfonic acid(8−アミノナフタレン−1,3,6−トリスルホン酸)
ANDS:7−Aminonaphthalene−1,3−disulfonic acid(7−アミノナフタレン−1,3−ジスルホン酸)
AP:2−Aminopyridine(2−アミノピリジン)
APTS:8−Aminopyrene−1,3,6−trisulfonic acid(8−アミノピレン−1,3,6−トリスルホン酸)
【0028】
本発明の第一の製造方法において、前記第1級アミンが、2−アミノピリジンであることが特に好ましい。
【0029】
本発明の第一の製造方法において、前記アルドースシッフ塩基生成工程の生成物が、複数種類の糖またはその誘導体のシッフ塩基を含む混合物であり、前記混合物から、目的とする前記アルドースまたはその誘導体のシッフ塩基を分離するアルドースシッフ塩基分離工程をさらに含んでいても良い。前記複数種類の糖とは、例えば、ロブリー転移による生成物に含まれるケトースおよびアルドースである。すなわち、ロブリー転移は、前記の通り平衡反応であるため、生成物は、ケトースとアルドースとを含む混合物であることが多い。例えば、この混合物に前記第1級アミンを反応させ、ケトースのシッフ塩基とアルドースのシッフ塩基を含む混合物を得て、前記混合物から、目的とする前記アルドースのシッフ塩基を分離することができる。前記スキーム1に示すロブリー転移であれば、生成物は、例えば、フルクトース、グルコースおよびマンノースを含む混合物となる。この混合物に第1級アミンを反応させると、フルクトースのシッフ塩基、グルコースのシッフ塩基およびマンノースのシッフ塩基を含む混合物を得ることができる。例えば、目的物が、グルコースのシッフ塩基またはグルコースであれば、前記混合物から、グルコースのシッフ塩基を分離すれば良い。
【0030】
本発明の第一の製造方法において、前記ケトースが、ケトヘキソースであり、前記アルドースが、アルドヘキソースであることが好ましい。前記ケトヘキソースとしては、例えば、ソルボース、プシコース、タガトース、フルクトースが挙げられる。前記アルドヘキソースとしては、例えば、イドース、グロース、アロース、アルトロース、ガラクトース、タロース、グルコース、マンノースが挙げられる。本発明の第一の製造方法において、前記ケトースが、ソルボースであり、前記アルドースが、グロースおよびイドースの少なくとも一方であることが特に好ましい。なお、下記化学式(フィッシャー投影式)においては、ヘキソースのD体を例示しているが、本発明の第一および第二の製造方法において、前記ケトースおよび前記アルドースは、D体に限定されず、L体でも良い。前記ケトースおよび前記アルドースが、ヘキソース以外の場合も、同様に、D体でもL体でも良い。
【0031】
【化8】

【0032】
本発明の第二の製造方法は、前記の通り、本発明の第一の製造方法により得た前記アルドースまたはその誘導体のシッフ塩基を加水分解してアルドースまたはその誘導体を生成させる。前記アルドース生成工程において、前記加水分解を行う条件は特に制限されないが、酸性条件下で行うことが好ましく、トリフルオロ酢酸水溶液中で行うことが特に好ましい。
【0033】
なお、本発明の第一および第二の製造方法において、ケトース、アルドースおよびそれらのシッフ塩基は、ケトースの誘導体、アルドースの誘導体、および、ケトース誘導体またはアルドース誘導体のシッフ塩基でも良い。ケトースの誘導体またはアルドースの誘導体は、例えば、下記化学式(III)、(IV)、(V)のいずれかで表される構造を有していても良い。下記化学式(III)、(IV)、(V)において、R100は、任意の原子または原子団であり、好ましくは、有機残基である。下記化学式(III)、(IV)、(V)において、R100以外の部分は、例えば前記スキーム2から分かるように、アルドースとケトースとの間の異性化に関与する部分である。前記ケトースの誘導体、および前記アルドースの誘導体は、具体的には、例えば、ケトースまたはアルドースにおいて、前記異性化に関与する部分以外の任意の水素原子または水酸基が、他の原子または置換基で置換された誘導体でも良い。前記水素原子が、ケトースまたはアルドースの炭素原子に結合した水素原子である場合、前記他の原子または置換基としては、例えば、ハロゲン、水酸基、アルキル基、アルコキシ基、芳香環、フェニル基等が挙げられる。前記アルキル基は、例えば、炭素数1〜6の直鎖または分枝アルキル基であっても良く、前記アルコキシ基は、例えば、炭素数1〜6の直鎖または分枝アルコキシ基であっても良い。前記水素原子が、ケトースまたはアルドースの水酸基の水素原子である場合、前記他の原子または置換基としては、例えば、アルキル基、芳香環、フェニル基等が挙げられる。前記アルキル基は、例えば、炭素数1〜6の直鎖または分枝アルキル基であっても良い。前記水酸基が他の原子または置換基で置換される場合、前記他の原子または置換基としては、例えば、水素原子、ハロゲン、アルキル基等が挙げられる。前記アルキル基は、例えば、炭素数1〜6の直鎖または分枝アルキル基であっても良い。また、前記ケトースの誘導体、および前記アルドースの誘導体は、例えば、前記アルドースまたは前記ケトースの構造を含む二糖、オリゴ糖、多糖、またはそれらの誘導体であっても良い。
【0034】
【化9】

【0035】
本発明の第一の製造方法および第二の製造方法は、より具体的には、例えば、以下のようにして行うことができる。
【0036】
すなわち、まず、ケトースまたはその誘導体を、塩基触媒存在下でロブリー転移させ、アルドースまたはその誘導体を生成させる(異性化工程)。前記塩基触媒は、特に制限されず、無機塩基でも有機塩基でも良く、一種類でも、二種類以上併用しても良い。前記無機塩基としては、例えば、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属炭酸水素塩、アルカリ土類金属炭酸塩、アルカリ土類金属炭酸水素塩等が挙げられる。前記アルカリ金属水酸化物としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。前記アルカリ土類金属水酸化物としては、例えば、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等が挙げられる。前記アルカリ金属炭酸塩としては、例えば、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等が挙げられる。前記アルカリ金属炭酸水素塩としては、例えば、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等が挙げられる。前記アルカリ土類金属炭酸塩としては、例えば、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム等が挙げられる。前記アルカリ土類金属炭酸水素塩としては、例えば、炭酸水素マグネシウム、炭酸水素カルシウム等が挙げられる。前記有機塩基としては、例えば、第1級アミン、第2級アミン、第3級アミン等が挙げられるが、第1級アミンが好ましい。ロブリー転移反応の溶媒は特に制限されず、水でも有機溶媒でも良く、一種類でも二種類以上併用しても良い。前記有機溶媒としては、例えば、アルコール、ケトン等が挙げられる。前記アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール等が挙げられる。前記ケトンとしては、例えば、アセトン、エチルメチルケトン、イソブチルメチルケトン等が挙げられる。ロブリー転移反応における反応系のpHは、特に制限されず、好ましい平衡を得る観点等から適宜設定すれば良い。前記pHは、例えば、前記塩基触媒の使用量等により調整可能であり、また、必要に応じ、pH調整剤を加えても良い。前記pH調整剤は、例えば、有機酸でも無機酸でも良く、一種類でも二種類以上併用しても良い。前記有機酸としては、例えば、ギ酸、酢酸等のカルボン酸が挙げられる。前記無機酸としては、例えば、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸等のハロゲン化水素酸、硝酸、硫酸等が挙げられる。前記ケトースの濃度は特に制限されない。ロブリー転移反応の反応温度および反応時間も特に制限されず、原料(ケトース)の反応性等に応じて適宜設定すれば良い。
【0037】
さらに、前記アルドースまたはその誘導体を、第1級アミンと反応させてシッフ塩基を生成させる(アルドースシッフ塩基生成工程)。ここで、前記異性化工程後に前記アルドースシッフ塩基生成工程を行っても良いし、前記異性化工程の生成物を、ケトースとアルドースとに分離後に前記アルドースシッフ塩基生成工程を行っても良い。しかしながら、前記異性化工程と前記アルドースシッフ塩基生成工程を同時に行うことが、シッフ塩基の製造効率、簡便性等の観点から好ましい。前記異性化工程と前記アルドースシッフ塩基生成工程を同時に行うには、例えば、前記異性化工程において、塩基触媒として第1級アミンを用い、同時に、前記第1級アミンを、生成物のアルドースまたはその誘導体と反応させてシッフ塩基とすれば良い。前記アルドースシッフ塩基生成工程において、各種反応条件、反応物質等は、例えば、前記異性化工程と同様である。反応系のpHは、シッフ塩基の生成効率等の観点から適宜選択すれば良い。
【0038】
さらに、前記アルドースまたはそのシッフ塩基を、加水分解して、アルドースまたはその誘導体を得る(アルドース生成工程)。このとき、前記アルドースシッフ塩基生成工程で得られた生成物を、精製せずにそのまま用いても良いし、必要に応じ適宜精製しても良い。前記精製は、例えば、ゲル濾過クロマトグラフィー等を適宜用いることができる。また、前記生成物から、前記ケトースのシッフ塩基、および前記アルドースのシッフ塩基を分離した後に加水分解しても良いし、分離せずにそのまま加水分解しても良い。異性化(ロブリー転移)により生じるアルドースが複数種類である場合は、対応する複数種類のシッフ塩基をそれぞれに分離しても良い。前記分離は、例えば、カラムクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)等を適宜用いて行うことができる。カラムの種類、溶媒等は、特に制限されず、適宜選択可能である。前記加水分解反応は、酸性条件下で行うことが好ましい。酸としては、特に制限されないが、強酸が好ましく、例えば、ハロゲン化水素酸、ペルフルオロアルキルカルボン酸、ペルフルオロアルキルスルホン酸、硫酸、硝酸等が挙げられる。前記ハロゲン化水素酸としては、例えば、塩化水素酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸等が挙げられる。前記ペルフルオロアルキルカルボン酸としては、例えば、トリフルオロ酢酸等が挙げられる。前記ペルフルオロアルキルスルホン酸としては、例えば、トリフルオロメタンスルホン酸等が挙げられる。使用溶媒としては、水でも有機溶媒でも良く、一種類でも二種類以上併用しても良いが、水が好ましい。前記有機溶媒としては、例えば、前記異性化工程で例示したものが挙げられる。前記シッフ塩基の濃度は特に制限されない。加水分解反応の反応温度および反応時間も特に制限されず、原料(シッフ塩基)の反応性等に応じて適宜設定すれば良い。
【0039】
さらに、前記アルドース生成工程により得られたアルドースまたはその誘導体を、必要に応じ、適宜精製しても良い。また、例えば、前記シッフ塩基を、前記ケトースのシッフ塩基と前記アルドースのシッフ塩基とに分離せずにそのまま加水分解させた場合、加水分解後に、ケトースとアルドースとに分離しても良い。アルドースが複数種類である場合は、前記アルドースを一種類ずつに分離しても良い。前記精製および分離は、例えば、カラムクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)等を適宜用いて行うことができる。カラムの種類、溶媒等は、特に制限されず、適宜選択可能である。
【0040】
本発明によれば、例えば、化学的に不安定なアルドースであっても、安定なシッフ塩基の形態で供給することが可能である。前記化学的に不安定なアルドースとしては、例えば、グロース、イドース等の希少糖が挙げられる。前記シッフ塩基の安定性は、前記シッフ塩基を構成するアルドースまたはその誘導体の種類によっても異なるが、一般的なシッフ塩基よりもきわめて安定である傾向がある。例えば、後述の実施例4では、シッフ塩基のC=N二重結合を切断(加水分解)するために、2M トリフルオロ酢酸(TFA)存在下、100℃で3時間加熱した。また、前記シッフ塩基は、通常の保存条件下では前記のように安定であるが、前記トリフルオロ酢酸(TFA)処理等の簡便な処理によって、遊離のアルドースまたはその誘導体に変換できる。このため、前記シッフ塩基は、前記遊離のアルドースまたはその誘導体の供給原料として、きわめて用いやすい。
【0041】
なお、前記異性化工程は、前記ロブリー転移には制限されず、例えば、微生物由来の酵素を利用してケトヘキソースからアルドヘキソースを合成しても良い。しかし、前記ロブリー転移を用いれば、酵素の基質特異性等の問題もなく、簡便である。また、前記ロブリー転移を用いれば、前記異性化工程と前記アルドースシッフ塩基生成工程を同時に行いやすい。また、本発明で用いる反応物質は、特に制限されないが、前述の例示のように、毒性、爆発性等の危険が少ない反応物質のみを用いて行うことが可能である。このようにすることで、本発明の前記第一の製造方法および前記第二の製造方法は、安全性が高いという効果が得られる。また、前述の例示のように、貴金属元素、希土類元素等を含む高価な反応物質、触媒等を用いないことで、低コストに反応を行うことができる。本発明の前記第一の製造方法および前記第二の製造方法は、例えば、化学的に不安定なアルドース系希少糖の製造に好適であるが、これに限定されず、どのようなアルドースまたはその誘導体の製造に用いても良い。
【実施例】
【0042】
次に、本発明の実施例について説明する。
【0043】
[実施例1]
本実施例では、ソルボースを原料として、イドースのシッフ塩基、グロースのシッフ塩基を製造し、さらに、それらからイドースおよびグロースを製造した。
【0044】
まず、下記スキーム3のように、D−ソルボースを原料として、D−ソルボースのシッフ塩基、D−イドースのシッフ塩基、およびD−グロースのシッフ塩基を含む混合物を得た(異性化工程、およびアルドースシッフ塩基生成工程)。さらに、この混合物から、D−イドースのシッフ塩基およびD−グロースのシッフ塩基を分離した(アルドースシッフ塩基分離工程)。さらに、これらのシッフ塩基を加水分解して、D−イドースおよびD−グロースをそれぞれ得ることができた(アルドース生成工程)。
【0045】
【化10】

【0046】
(1)PA化試薬(1)の調製
2−アミノピリジン(前記スキーム3中の「AP」)552mgおよび酢酸200μLを混合した。この混合物を、2−アミノピリジンのシッフ塩基合成のための試薬とした。以下、この試薬を「PA化試薬(1)」という。なお、PA化試薬(1)のpHを、pH試験紙により確認したところ、7〜8であった。
【0047】
(2)ロブリー転移(異性化工程)およびシッフ塩基の合成(アルドースシッフ塩基生成工程)
D−ソルボース10μmolと、PA化試薬(1)20μLとを混合し、窒素気流下、90℃で1時間加熱した。その後、窒素気流下で、過剰な試薬を減圧留去した。得られた残渣を、TOYOPEARL HW−40F(東ソー株式会社の商品名、Φ7×500mm)カラムでゲル濾過し、不要物を除くことにより精製した。この精製物を、COSMOSIL Sugar−D(Φ4.6×250mm)カラムによる高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分離し、D−ソルボースと2−アミノピリジンとのシッフ塩基、D−イドースと2−アミノピリジンとのシッフ塩基、D−グロースと2−アミノピリジンとのシッフ塩基を、それぞれ分取した。なお、COSMOSILは、ナカライテスク株式会社の登録商標である。また、分取時の条件は、下記の通りとした。

(カラム)COSMOSIL Sugar−D(Φ4.6×250mm)
(流速)1.0mL/min
(溶媒)A:B=95:5(体積比)
A:アセトニトリル
B:100mM 酢酸アンモニウム水溶液(pH 4.0)
(カラム温度)25℃
【0048】
以上のようにして、前記スキーム3により、D−ソルボースのシッフ塩基、D−イドースのシッフ塩基、およびD−グロースのシッフ塩基をそれぞれ得ることができた。図1(チャート1)に、前記シッフ塩基のCOSMOSIL Sugar−DによるHPLC分離のチャートを示す。同図において、横軸は、保持時間であり、縦軸は、蛍光強度である。検出(蛍光強度測定)は、蛍光検出器により行った。測定波長は、励起波長が320nm、蛍光波長が400nmとした。図示の通り、D−ソルボースのシッフ塩基は、保持時間が21.6分であり、D−イドースのシッフ塩基は、保持時間が11.1分であり、D−グロースのシッフ塩基は、保持時間が23.7分であり、これら三つのピークが明確に分離していた。これらの保持時間は、それぞれのシッフ塩基における既知の保持時間と一致した。
【0049】
なお、前記スキーム3で得られたD−ソルボースのシッフ塩基について、その構造をさらに確認するために、下記スキーム4にしたがって還元し、下記化学式(1’)で表される還元体(PA−Sor)を得た。同様に、前記スキーム3で得られたD−イドースのシッフ塩基を、下記スキーム5にしたがって還元し、下記化学式(2’)で表される還元体(PA−Ido)を得た。同様に、前記スキーム3で得られたD−グロースのシッフ塩基を、下記スキーム6にしたがって還元し、下記化学式(2’)で表される還元体(PA−Gul)を得た。なお、スキーム4のフィッシャー投影式(化学式)において、PA−Sorは、2−アミノピリジンが不斉炭素原子の右側に結合した異性体のみ示している。しかし、実際は、2−アミノピリジンが不斉炭素原子の左側に結合した異性体(ジアステレオマー)との混合物である。
【0050】
【化11】

【0051】
【化12】

【0052】
【化13】

【0053】
前記スキーム4は、以下のようにして行った。まず、ボランジメチルアミン((CHNH・BH)を100mg、酢酸を40μL、蒸留水を25μLの割合で混合し、還元試薬を調製した。以下、この試薬を、「還元試薬(1)」と言う。次に、前記反応で得られたアルドースのシッフ塩基(前記化学式(1))に、還元試薬(1)を70μL加え、80℃で35分間加熱して、前記化学式(1’)で表される還元体(PA−Sor)酢酸塩の水溶液を得た。このPA−Sor酢酸塩水溶液を、精製せずに、後述の機器分析に供した。
【0054】
前記スキーム5および6についても、前記スキーム4と同様に行い、それぞれ、前記化学式(2’)で表される還元体(PA−Ido)酢酸塩の水溶液と、前記化学式(3’)で表される還元体(PA−Gul)酢酸塩の水溶液を得た。
【0055】
これら三つの還元体PA−Sor、PA−IdoおよびPA−Gulのそれぞれについて、HPLCで溶出位置(保持時間)を確認したところ、既知のPA−Sor、PA−IdoおよびPA−Gulのデータとそれぞれ一致した。HPLCの条件は、下記の通りとした。前記保持時間は、PA−Sor(ジアステレオマー混合物)においては32.9分および37.0分、PA−Idoにおいては69.0分、PA−Gulにおいては40.8分であった。

(カラム)TSK-GEL Sugar−AX−I(Φ4.6×150mm)
(流速)0.3mL/min
(溶媒)100mM ほう酸−水酸化カリウム水溶液(pH 9.0)+10%アセトニトリル
(カラム温度)73℃
【0056】
さらに、前記スキーム4〜6の生成物について質量分析(MALDI−TOF−MS)を行ったところ、259.420(M+1)というプロトン型の値を示したことからも、PA−Sor、PA−IdoおよびPA−Gulであることが確認された。これらは、前記スキーム3の生成物の還元生成物である。したがって、前記スキーム3で製造し、分取した前記各生成物が、それぞれ、D−ソルボースと2−アミノピリジンとのシッフ塩基、D−イドースと2−アミノピリジンとのシッフ塩基、D−グロースと2−アミノピリジンとのシッフ塩基であることが確認された。
【0057】
(3)加水分解(アルドース生成工程)
COSMOSIL Sugar−Dで分離した前記シッフ塩基を、それぞれ、2M トリフルオロ酢酸(TFA)水溶液50μLとともに70℃で1時間加熱して加水分解した。得られた反応生成物を、それぞれ、COSMOSIL Sugar−D(Φ4.6×150mm)による高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で精製し、D−ソルボース(D−Sor)、D−イドース(D−Ido)、およびD−グロース(D−Gul)をそれぞれ得ることができた。収率は、原料のD−ソルボースに対する物質量比で、D−ソルボース(原料回収)が26.9%、D−イドースが8.8%、D−グロースが16.3%であった。なお、精製条件は、下記の通りとした。

(カラム)COSMOSIL Sugar−D(Φ4.6×150mm)
(流速)1.0mL/min
(溶媒)A:B=80:20(体積比)
A:アセトニトリル
B:水
(カラム温度)25℃
【0058】
図2(チャート2)に、前記COSMOSIL Sugar−DによるHPLC精製のチャートを示す。検出は、RI検出器(示差屈折計)により行った。同図において、横軸は、保持時間であり、縦軸は、RI検出器による検出強度である。図示の通り、D−Sor(D−ソルボース)は、保持時間が5.5分であり、D−Ido(D−イドース)は、保持時間が4.6分であり、D−Gul(D−グロース)は、保持時間が6.0分であった。これらの保持時間は、それぞれの糖における既知の保持時間と一致した。
【0059】
[実施例2]
本実施例では、タガトースを原料として、ガラクトースのシッフ塩基、タロースのシッフ塩基を製造し、さらに、それらからガラクトースおよびタロースを製造した。
【0060】
すなわち、まず、実施例1のスキームに準じ、D−タガトースを原料として、D−タガトースのシッフ塩基、D−ガラクトースのシッフ塩基、およびD−タロースのシッフ塩基を含む混合物を得た(アルドースシッフ塩基生成工程)。この混合物から、前記各シッフ塩基を分離しないまま、これらのシッフ塩基を加水分解し(異性化工程)、生成物を分離して、D−タガトース、D−ガラクトースおよびD−タロースをそれぞれ得ることができた。
【0061】
(1)ロブリー転移(異性化工程)およびシッフ塩基の合成(アルドースシッフ塩基生成工程)
実施例1の前記スキーム3に準じ、D−タガトース10μmolと、PA化試薬(1)20μLとを混合し、窒素気流下、90℃で1時間加熱した。その後、窒素気流下で、過剰な試薬を減圧留去した。得られた残渣を、TOYOPEARL HW−40F(東ソー株式会社の商品名、Φ7×500mm)カラムでゲル濾過し、不要物を除くことにより精製した。この精製物は、D−タガトースのシッフ塩基、D−ガラクトースのシッフ塩基、およびD−タロースのシッフ塩基を含む混合物である。精製物から、溶媒を減圧留去し、前記各シッフ塩基を分離することなく、そのまま次の加水分解(アルドース生成工程)に使用した。
【0062】
なお、前記シッフ塩基混合物に含まれる各成分を、COSMOSIL Sugar−DによるHPLCで確認した。検出は、RI検出器(示差屈折計)により行った。D−タガトースのシッフ塩基は、保持時間が35.2分であり、D−ガラクトースのシッフ塩基は、保持時間が44.3分であり、D−タロースのシッフ塩基は、保持時間が31.1分であり、これら三つのピークが明確に分離していた。これらの保持時間は、それぞれのシッフ塩基における既知の保持時間と一致した。HPLCの条件は、下記の通りとした。

(カラム)COSMOSIL Sugar−D(Φ4.6×150mm)
(流速)1.0mL/min
(溶媒)A:B=80:20(体積比)
A:アセトニトリル
B:水
(カラム温度)25℃
【0063】
また、実施例1と同様に、蛍光による検出、または、シッフ塩基還元体のHPLC検出もしくはMS測定によっても、前記D−タガトースのシッフ塩基、D−ガラクトースのシッフ塩基、およびD−タロースのシッフ塩基を検出することが可能である。
【0064】
(2)加水分解(アルドース生成工程)
前記シッフ塩基の混合物を、2M トリフルオロ酢酸(TFA)水溶液0.2mLとともに65℃で1時間加熱して加水分解した。得られた反応生成物を、COSMOSIL Sugar−D(Φ4.6×150mm)による高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で精製し、図3(チャート3)に示すとおり、D−タガトース(D−Tag)、D−ガラクトース(D−Gal)、およびD−タロース(D−Tal)をそれぞれ得ることができた。検出は、RI検出器(示差屈折計)により行った。同図において、横軸は、HPLCの保持時間であり、縦軸は、RI検出器による検出強度である。収率は、原料のD−ソルボースに対する物質量比で、D−タガトース(原料回収)が23.0%、D−ガラクトースが9.5%、D−タロースが12.5%であった。なお、HPLCによる精製条件は、下記の通りとした。

(カラム)COSMOSIL Sugar−D(Φ4.6×250mm)
(流速)1.0mL/min
(溶媒)A:B=80:20(体積比)
A:アセトニトリル
B:水
(カラム温度)25℃
【0065】
さらに、単離(分取)した各生成物を、COSMOSIL Sugar−DによるHPLCで確認した。検出は、RI検出器(示差屈折計)により行った。図4(チャート3−2)に、そのチャートを示す。同図において、横軸は、保持時間であり、縦軸は、RI検出器による検出強度である。図示の通り、D−Tag(D−タガトース)は、保持時間が5.4分であり、D−Gal(D−ガラクトース)は、保持時間が6.3分であり、D−Tal(D−タロース)は、保持時間が4.5分であった。これらの保持時間は、それぞれの糖における既知の保持時間と一致した。なお、図4において、HPLCの条件は、下記の通りとした。

(カラム)COSMOSIL Sugar−D(Φ4.6×150mm)
(流速)1.0mL/min
(溶媒)A:B=80:20(体積比)
A:アセトニトリル
B:水
(カラム温度)25℃
【0066】
[実施例3]
本実施例では、プシコースを原料として、アロースのシッフ塩基、アルトロースのシッフ塩基を製造し、さらに、それらからアロースおよびアルトロースを製造した。
【0067】
(1)ロブリー転移(異性化工程)およびシッフ塩基の合成(アルドースシッフ塩基生成工程)
D−タガトース10μmolに代えてD−プシコース10μmolを用いる以外は実施例2と同様にして、ロブリー転移とシッフ塩基合成とを同時に行い、ゲル濾過で生成した。これにより、D−プシコースのシッフ塩基、D−アロースのシッフ塩基、およびD−アルトロースのシッフ塩基を含む混合物を得た。精製物から、溶媒を減圧留去し、前記各シッフ塩基を分離することなく、そのまま次の加水分解(アルドース生成工程)に使用した。
【0068】
なお、前記シッフ塩基混合物に含まれる各成分を、COSMOSIL Sugar−DによるHPLCで確認した。検出は、RI検出器(示差屈折計)により行った。D−プシコースのシッフ塩基は、保持時間が29.5分であり、D−アロースのシッフ塩基は、保持時間が37.9分であり、D−アルトロースのシッフ塩基は、保持時間が34.3分であり、これら三つのピークが明確に分離していた。これらの保持時間は、それぞれのシッフ塩基における既知の保持時間と一致した。HPLCの条件は、下記の通りとした。

(カラム)COSMOSIL Sugar−D(Φ4.6×150mm)
(流速)1.0mL/min
(溶媒)A:B=80:20(体積比)
A:アセトニトリル
B:水
(カラム温度)25℃
【0069】
また、実施例1と同様に、蛍光による検出、または、シッフ塩基還元体のHPLC検出もしくはMS測定によっても、前記D−プシコースのシッフ塩基、D−アロースのシッフ塩基、およびD−アルトロースのシッフ塩基を検出することが可能である。
【0070】
(2)加水分解(アルドース生成工程)
加熱温度を75℃とする以外は実施例2と同様にして、前記シッフ塩基の混合物を加水分解し、HPLCで精製した。さらに、実施例2(図3、チャート3)と同条件の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で精製し、図5(チャート4)に示すとおり、D−プシコース(D−Psi)、D−アロース(D−All)、およびD−アルトロース(D−Alt)をそれぞれ得ることができた。同図において、横軸は、HPLCの保持時間であり、縦軸は、RI検出器による検出強度である。収率は、原料のD−プシコースに対する物質量比で、D−プシコース(原料回収)が9.0%、D−アロースが28.5%、D−アルトロースが10.5%であった。
【0071】
さらに、単離(分取)した各生成物を、COSMOSIL Sugar−DによるHPLCで確認した。図6(チャート4−2)に、そのチャートを示す。検出は、RI検出器(示差屈折計)により行った。同図において、横軸は、保持時間であり、縦軸は、RI検出器による検出強度である。図示の通り、D−Psi(D−プシコース)は、保持時間が4.3分であり、D−アロース(D−All)は、保持時間が5.9分であり、D−Alt(D−アルトロース)は、保持時間が5.0分であった。これらの保持時間は、それぞれの糖における既知の保持時間と一致した。なお、図6において、HPLCの条件は、実施例2(図4に示すチャート3−2)と同じとした。
【0072】
[実施例4]
本実施例では、フルクトースを原料として、グルコースのシッフ塩基、マンノースのシッフ塩基を製造し、さらに、それらからグルコースおよびマンノースを製造した。
【0073】
(1)ロブリー転移(異性化工程)およびシッフ塩基の合成(アルドースシッフ塩基生成工程)
D−タガトース10μmolに代えてD−フルクトース10μmolを用いる以外は実施例2と同様にして、ロブリー転移とシッフ塩基合成とを同時に行い、ゲル濾過で生成した。これにより、D−フルクトースのシッフ塩基、D−グルコースのシッフ塩基、およびD−マンノースのシッフ塩基を含む混合物を得た。精製物から、溶媒を減圧留去し、前記各シッフ塩基を分離することなく、そのまま次の加水分解(アルドース生成工程)に使用した。
【0074】
前記シッフ塩基混合物に含まれる各成分を、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で確認した。図7(チャート5)に、その結果を示す。同図において、横軸は、保持時間であり、縦軸は、蛍光強度である。検出(蛍光強度測定)は、蛍光検出器により行った。測定波長は、励起波長が320nm、蛍光波長が400nmとした。図7(チャート5)において、前記高速液体クロマトグラフィー(HPLC)の条件は、実施例1の図1(チャート1)と同様とした。図示の通り、D−フルクトースのシッフ塩基は、保持時間が19.2分であり、D−グルコースのシッフ塩基は、保持時間が33.9分であり、D−マンノースのシッフ塩基は、保持時間が26.4分であり、これら三つのピークが明確に分離していた。これらの保持時間は、それぞれのシッフ塩基における既知の保持時間と一致した。
【0075】
また、実施例1と同様に、シッフ塩基還元体のHPLC検出もしくはMS測定によっても、前記D−フルクトースのシッフ塩基、D−グルコースのシッフ塩基、およびD−マンノースのシッフ塩基を検出することが可能である。
【0076】
(2)加水分解(アルドース生成工程)
加熱温度を100℃とし、加熱時間を3時間とする以外は実施例1と同様にして、前記シッフ塩基の混合物を加水分解し、HPLCで分離した。HPLC分離の条件は、実施例2の図3(チャート3)および実施例3の図5(チャート4)と同様とした。
【0077】
さらに、分離(分取)した糖を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で確認した。図8(チャート5−2)に、その結果を示す。図示のとおり、D−グルコース(D−Glu)、およびD−マンノース(D−Man)をそれぞれ得ることができた。同図において、横軸はHPLCの保持時間であり、縦軸はRI検出器による検出強度である。収率は、原料のD−フルクトースに対する物質量比で、D−フルクトース(原料回収)が0%、D−グルコースが6.5%、D−マンノースが11.3%であった。なお、フルクトース(D−Fru)が検出されていないのは、グルコースおよびマンノースの加水分解条件が強力なため、フルクトースが分解したことが原因である。また、D−Glc(D−グルコース)は、保持時間が5.4分であり、D−Man(D−マンノース)は、保持時間が4.9分であった。これらの保持時間は、それぞれの糖における既知の保持時間と一致した。なお、図8(チャート5−2)において、前記高速液体クロマトグラフィー(HPLC)の条件は、実施例1の図2(チャート2)と同様とした。
【産業上の利用可能性】
【0078】
以上説明したとおり、本発明の製造方法によれば、アルドースまたはその誘導体を安定して供給可能である。本発明の製造方法は、例えば、アルドース系希少糖の製造に有用であるが、これに限定されず、種々のアルドースまたはその誘導体の製造に利用できる。本発明の製造方法により製造したアルドースまたはその誘導体は、特に制限されず、その性質に応じて、例えば、各種試薬、工業原料、医薬品またはその原料等、種々の用途に使用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルドースまたはその誘導体のシッフ塩基の製造方法であって、
ケトースまたはその誘導体を異性化させて前記アルドースまたはその誘導体を生成させる異性化工程と、
前記アルドースまたはその誘導体と第1級アミンを反応させて前記アルドースまたはその誘導体のシッフ塩基を生成させるアルドースシッフ塩基生成工程とを含むことを特徴とする、シッフ塩基の製造方法。
【請求項2】
前記異性化工程と、前記アルドースシッフ塩基生成工程とを同時に行う請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
前記第1級アミンが、下記化学式(I)で表される芳香族アミンである請求項1または2記載の製造方法。
【化1】

前記化学式(I)において、
Arは、芳香環または複素芳香環であり、
Rは、任意の置換基であり、1でも複数でも良く、複数の場合、同一でも異なっていても良く、
Rのうち少なくとも1つは、アミノ基(−NH)である。
【請求項4】
前記第1級アミンが、下記化学式(II)で表されるピリジン誘導体である請求項1または2記載の製造方法。
【化2】

前記化学式(II)中、
〜Rは、水素原子または任意の置換基であり、同一でも異なっていても良く、
〜Rの少なくとも一つは、アミノ基(−NH)である。
【請求項5】
前記第1級アミンが、2−アミノピリジンである請求項1または2記載の製造方法。
【請求項6】
前記アルドースシッフ塩基生成工程の生成物が、複数種類の糖またはその誘導体のシッフ塩基を含む混合物であり、
前記混合物から、目的とする前記アルドースまたはその誘導体のシッフ塩基を分離するアルドースシッフ塩基分離工程をさらに含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記ケトースが、ケトヘキソースであり、前記アルドースが、アルドヘキソースである請求項1から6のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記ケトースが、ソルボースであり、前記アルドースが、グロースおよびイドースの少なくとも一方である請求項1から6のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項9】
アルドースまたはその誘導体の製造方法であって、
請求項1から8のいずれか一項に記載の製造方法により、前記アルドースまたはその誘導体のシッフ塩基を製造するアルドースシッフ塩基製造工程と、
前記アルドースまたはその誘導体のシッフ塩基を加水分解して前記アルドースまたはその誘導体を生成させるアルドース生成工程とを含むことを特徴とする製造方法。
【請求項10】
前記アルドース生成工程において、前記加水分解を酸性条件下で行う請求項9記載の製造方法。
【請求項11】
前記アルドース生成工程において、前記加水分解を、トリフルオロ酢酸水溶液中で行う請求項9記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−140466(P2011−140466A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−2412(P2010−2412)
【出願日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度 文部科学省 地域科学技術振興施策都市エリア産学官連携促進事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(304028346)国立大学法人 香川大学 (285)
【出願人】(591286270)株式会社伏見製薬所 (50)
【Fターム(参考)】