説明

アルマイト垂直磁気記録媒体およびその製造方法

【課題】 アルマイトの細孔の内壁及び表面をカーボンで被膜した後、アルマイトの表面を被膜しているカーボンを除去せずに、アルマイトの細孔内部に強磁性体金属を充填できるようにする。
【解決手段】 アルマイト15(細孔15aとアルミナ15bから成る)の細孔15aの内壁及び表面をカーボン16で被膜した後、アルマイト15の表面のカーボン16にポリマー2をその軟化点以上の温度で密着し押し当てる。その温度を維持したまま、ポリマー2をカーボン16から引き離すと、アルマイト15の表面を被膜しているカーボン16のみがポリマー2で覆われる。続いて、電解メッキにより、アルマイト15の細孔15aの内部に強磁性体金属(記録層)17を充填する。そして、CMPにより、カーボン16で被膜されたアルマイト15の表面を平坦化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、垂直磁気記録媒体及びその製造方法に係わり、特に、アルマイト垂直磁気記録媒体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
IT(Information Technology)の進展につれ、官公庁や企業などの組織や個人が取り扱う電子データの量が膨大になり、それらの電子データを保管するストレージにも大容量が求められている。現在、ストレージの主役はHDD(ハードディスク装置)であり、その記録方式は面内記録方式(長手記録方式)が主流である。
【0003】
面内記録方式は、ディスク面上に水平に微小な棒磁石を並べて記録する方式である。この方式では、“熱揺らぎ”の影響などにより高密度化には限界がある。熱揺らぎは、周囲の熱によってディスクに記録したデータが消えるという現象である。このため、記録媒体として“パターンドメディア(パターンド・メディア)”を用い、記録方式として垂直記録方式を使用するハードディスク装置が将来、面内記録方式のハードディスク装置に代わって主流になると予想されている。
【0004】
垂直記録方式は、媒体の表面に対して垂直方向に磁性層を磁化させる方式であり、面内記録方式に比べて熱揺らぎに強く、高密度化に優れている。また、パターンドメディアは、非磁性材料の中に、磁性材料を等間隔で規則正しく配設した記録媒体であり、粒子間の磁気的な相互作用が少なくなるため、媒体雑音が低減され、記録密度を大幅に向上できる。
【0005】
ところで、垂直記録方式とパターンドメディアを併用した垂直磁気記録媒体が知られている。この垂直磁気記録媒体は、パターンドメディアとして、アルミニウムを陽極酸化して生成されるアルマイト層を用い、このアルマイト層の細孔(ポア)内部に強磁性材料として強磁性体金属を充填したものである(特許文献1参照)。
【0006】
アルマイト層についてより詳しく説明する。アルミニウムを陽極酸化すると、アルミニウムが溶解した分だけ元のアルミニウムが減り、ほぼ同じ厚さのアルマイト層(ポーラスアルミナ)が生成される。アルマイト層は、バリヤー層とその上に形成された多孔質層の二層から成る。多孔質層は、細孔(ポア)が規則的に配設されたハチの巣状の構造であり、ポア内部に強磁性体金属を充填することにより、パターンドメディアが作成される。
【0007】
このとき、ポア内部の表面をカーボン等の炭素層で被膜してから、電界メッキにより、ポア内部に強磁性体金属を充填する。アルマイト層のポアの内壁をカーボンで被膜するのは、アルマイト層が湿気などの耐環境性や磨耗性に劣るためである。
【特許文献1】特開2002−17561号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
図5は、パターンドメディアとしてアルマイト層を用いた垂直磁気記録媒体(以下、アルマイト垂直磁気記録媒体と表現)の従来の製造方法を説明する図である。
図5を参照しながら、従来のアルマイト垂直磁気記録媒体の製造方法を説明する。
【0009】
まず、基板10上に密着層11を形成する。密着層11は、下地軟磁性層12と基板10との間の密着性を向上させて、アルミニウム膜(アルミニウム層)14の陽極酸化してアルマイト層を生成する工程中に発生する膜はがれを防止するために生成される。また、密着層11は、下地軟磁性層12の結晶方向を制御するために形成される。
【0010】
該陽極酸化時においては、基板10とその上に形成された金属層がはがれる可能性がある。これは、基板10とその上に積層された金属層とがなじみが悪いためである。したがって、密着層11を形成せずに、基板10上に下地軟磁性層12を形成した場合、陽極酸化時に下地軟磁性層12から上の層全てが、基板10から剥がれる場合がある。また、下地軟磁性層12を形成しないで基板10上にアルミニウム膜14を形成した場合には、アルミニウム膜14そのものが剥がれる場合がある。このため、密着層11には、基板10となじみがよい素材が用いられる。基板10がガラス基板である場合には、Nb、W、Ti等の金属が用いられる。基板10としては、ガラス以外に、アルミニウムやシリコンなどが用いられる。
【0011】
続いて、密着層11上に、軟磁性の非晶質層や多結晶層などからなる下地軟磁性層12を生成する。この下地軟磁性層12は、例えば、スパッタ法、CVD法等により生成する。次に、下地軟磁性層12上に酸化停止層13を生成する。
【0012】
酸化停止層13は、酸化することにより緻密で耐酸性の強い酸化膜を形成する金属であり、例えば、Nb、W、Ta、Ti等である。酸化停止層13は、積層膜表面から酸化するアルミニウム膜14の陽極酸化を停止させ、その下層の下地軟磁性層12(パーマロイ等の耐酸性の弱い金属が使用される場合が多い)の腐食を防ぐために設けられる。
【0013】
そして、酸化停止層13上に、アルミニウム膜(アルミニウム層)14を生成する。このアルミニウム膜14は、例えば、蒸着法、スパッタ法、CVD法等により形成する(以上、同図(a)参照)。
【0014】
次に、アルミニウム膜14を陽極酸化して、アルマイト層15を生成する(同図(b)参照)。以後の説明では、便宜上、アルマイト層15は、細孔(ポア)15aとその細孔15aの周囲を取り囲むアルミナ膜15bから構成されるものとして説明する。尚、アルマイト層15の表面と表現した場合、これは、アルミナ膜15bの表面を意味するものとする。
【0015】
続いて、アルマイト層15の細孔(ポア)15aの内壁及びアルミナ膜15bの表面全体をカーボン(炭素層)16で被膜する(同図(c)参照)。
アルミナ膜15bの表面を被膜しているカーボン16を酸素プラズマによるRIE(Reactive Ion Etching)等により除去する。このカーボン16の除去は、アルミナ膜15bの表面にカーボン16を残したまま、アルマイト層15を電解メッキすると、細孔15a内部とアルマイト層15の表面での強磁性体金属イオンの供給速度の違いから、アルマイト層15の表面が優先的にメッキされ、細孔15a内部への強磁性体金属の充填不良が生じる事態を防止するために行う。この除去により、アルミナ膜15bの上面のカーボン16が除去されるが、このとき、その上部側面の一部を被膜していたカーボン16も除去される(同図(d)参照)。ここでは、除去前のカーボン16と除去後のカーボンを区別するために、除去後のカーボンをカーボン16rと表現する。
【0016】
次に、電解メッキにより、アルマイト層15の細孔15a内部に強磁性体金属を充填する。この電解メッキにおいては、アルマイト層15の各細孔15a内部でメッキ速度にバラツキがでるので、最もメッキ速度が遅い細孔15aが完全に強磁性体金属(記録層)17で充填されるまで電解メッキを行う。このため、細孔15a内部だけでなく、アルマイト層15の表面上にも強磁性体金属17が生成される(同図(e)参照)。
【0017】
続いて、CMP(化学的機械研磨)により、アルマイト層15の表面上に生成された強磁性体金属17を除去し、細孔15a内部に強磁性体金属17が充填されたアルマイト層15の表面を平坦化する(同図(f)参照)。
【0018】
次に、スパッタ法などにより、細孔15a内部に強磁性体金属17が充填されたアルマイト層15の表面上に保護膜18を形成する(図6(g)参照)。
そして、最後に、保護膜18の表面に、潤滑剤を塗布して潤滑層19を生成する(同図(h)参照)。潤滑層19は、磁気ヘッドが垂直磁気記録媒体に接触する際の衝撃を緩衝させるために生成される。
【0019】
図7は、以上の従来の製造プロセスにより作製されたアルマイト垂直磁気記録媒体100の断面図である。この垂直磁気記録媒体100は円盤状であり、円盤の両面(表面と裏面)に垂直磁気記録が可能な構成となっている。
【0020】
同図に示すように、図5((d)の製造工程でカーボン16を除去したため、アルマイト層15はその露出面全体がカーボン16rで被膜されておらず、その上面及び細孔15a内部の上方がカーボン16rで被膜されない。このため、アルマイト層15が腐食されやすい。また、アルマイト層15の表面が剥き出しとなるため。アルマイト層15の表面が磨耗しやくヘッドのクラッシュに対する耐性(ヘッドクラッシュ耐性)が弱くなるという問題がある。
【0021】
この問題を解決するために、図6(f)のCMP工程の後に、アルマイト層15の露出面全体をカーボンで被膜する工程を行うことも可能であるが、この方法だと、製造工程が増え、製造コストの増加を招く。
【0022】
本発明は、上記従来の製造方法が有していた問題点を解決するものであり、アルマイト表面を被膜しているカーボンを除去せずに、アルマイト層の細孔内部に記録層を充填できるアルマイト垂直磁気記録媒体の製造方法を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明のアルマイト垂直磁気記録媒体の製造方法は、基板と、該基板の上方に形成されたアルマイト層と、該アルマイト層の細孔の内壁を被膜する炭素層と、該炭素層で被膜された細孔の内部に充填された記録層とを備えることを前提とする。
【0024】
本発明のアルマイト垂直磁気記録媒体の製造方法における第一態様は、基板上にアルマイト層を形成する工程と、該アルマイト層の表面及び細孔の内壁を炭素層で被膜する工程と、前記アルマイト層の表面を被膜している炭素層のみをポリマーで覆う工程と、前記アルマイト層の細孔内部に記録層を形成する工程と、を備えることを特徴とするアルマイト垂直磁気記録媒体の製造方法である。
【0025】
前記アルマイト層の細孔以外の表面上にポリマーを形成する工程は、例えば、前記ポリマーを、その軟化点以上の温度で前記アルマイト層の表面に形成された炭素層に密着・プレスし、その後、該温度を維持したまま前記ポリマーを前記カーボンから剥離することにより行う。
【0026】
本発明のアルマイト垂直磁気記録媒体の製造方法における第一態様によれば、アルマイト層の表面及び細孔の内壁を炭素層で被膜した後、アルマイト層の表面を被膜している炭素層をポリマーで覆うので、アルマイト層の表面を被膜している炭素層を除去せずに、アルマイト層の細孔を記録層で充填することができる。
【0027】
したがって、充填不良を招くことなく、アルマイト層の細孔の内壁を記録層で充填できる。また、該記録層の充填後にも、アルマイト層表面は炭素層で被膜されているので、ヘッドクラッシュ耐性に優れたアルマイト垂直磁気記録媒体を製造できる。
【0028】
本発明のアルマイト垂直磁気記録媒体の製造方法における第二態様は、上記第一態様において、基板上にアルマイト層を形成する工程の前に、前記基板上に下地軟磁性層を形成する工程を行い、該下地軟磁性層上に前記アルマイト層を形成することを特徴とする。
【0029】
本発明のアルマイト垂直磁気記録媒体の製造方法における第二態様によれば、下地軟磁性層を設けたことにより、データ書込み時に記録層に磁束が流れやすくなるので、データ書込み特性に優れたアルマイト垂直磁気記録媒体を製造できる。
【0030】
本発明のアルマイト垂直磁気記録媒体の製造方法における第三態様は、上記第二態様において、基板上にアルマイト層を形成する工程の前に、前記基板上に密着層を形成する工程を行い、該密着層上に前記下地軟磁性層を形成することを特徴とする。
【0031】
本発明のアルマイト垂直磁気記録媒体の製造方法における第三態様によれば、基板と下地軟磁性層の間に密着層を形成するので、陽極酸化法によりアルマイト層を形成する工程中に下地軟磁性層が基板から剥がれる(リフトオフする)事態を防止できる。また、下地軟磁性層の結晶方向を制御することができる。
【0032】
本発明のアルマイト垂直磁気記録媒体は、基板と、該基板上方に形成されたアルマイトと、該アルマイトの細孔の内壁を被覆する第1の炭素層と、該第1の炭素層で被覆された細孔の内部に充填された記録層と、該記録層と該アルマイトの表面を被覆する第2の炭素層と、を有することを特徴とする。
【0033】
本発明のアルマイト垂直磁気記録媒体によれば、上記本発明のアルマイト垂直磁気記録媒体の製造方法を用いて、アルマイト表面を被膜している第1の炭素層を除去せずに、アルマイトの細孔内部に記録層を充填できる。また、第2の炭素層(例えば、DLC膜)で、記録層及びアルマイトの表面上の第1の炭素層を被膜するため、記録層の耐蝕性の向上及び耐久性を高めることができる。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、アルマイト層の表面及び細孔の内壁を被膜しているカーボンを除去することなく、アルマイト層の細孔内部に強磁性体金属等の記録層を形成できる。また、アルマイト層の細孔内部への記録層の充填不良を防止できるため、製造歩留まりを向上できる。また、さらに、アルマイト層の表面全体及び細孔内壁をカーボンで完全に被膜できるため、ヘッドクラッシュ耐性に優れたアルマイト垂直磁気記録媒体を製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
図1〜図3は、本発明の実施形態であるアルマイト垂直磁気記録媒体の製造方法を説明する図である。尚、図1〜図3において、図5及び図6と同一の構成要素には同じ符号を付与している。
【0036】
図1〜図3に示す製造方法において、上述した図5及び図6に示す従来の製造方法と異なる工程は、図2(d)、(e)、(f)、(g)である。本実施形態の製造方法では、従来の製造方法の図5(d)、(e)、(f)の工程を、図2(d)、(e)、(f)、(g)に置き換えている。以後の、製造方法の説明では、従来と同様の工程については簡単に説明する。
【0037】
まず、図5(a)と同様な方法により、基板10上に、密着層11、下地軟磁性層12、酸化停止層13及びアルミニウム膜14を、順に積層形成する。下地軟磁性層12には、例えば、NiFe(パーマロイ)、NiFeNb、CoCrNb、FeSiNi、FeC、FeCoB、CoZrNb等の材料を用いる。(図1(a)参照)。
【0038】
次に、図5(b)と同様な方法により、アルミニウム膜14を陽極酸化して、細孔(ポア)15aを有するアルマイト層15を生成する(図1(b)参照)。
続いて、例えばメタンガスやアルコールを原料としたCVD法により、アルマイト層15の表面(アルミナ膜15bの表面)及び細孔15a内壁にカーボン(炭素層)16を形成する(図1(c)参照)。
【0039】
次に、第2の基板3上にポリマー2を形成する。そして、該ポリマー2を軟化点以上の温度に熱してから、該ポリマー2をアルマイト層15の表面に形成されたカーボン16上に押し付ける。ポリマー2は、例えば、PMMA(polymethyl methaolylate)、ノラポリック系レジスト、ポリ乳酸、AZレジスト等の軟化点が100〜200℃の範囲にある有機ポリマーである。基板3は、平坦な部材であり、例えば、シリコンである(図2(d)参照)。
【0040】
上記軟化点以上の温度を維持したまま、基板3を持ち上げ、カーボン16からポリマー2を剥離する。この結果、アルマイト層15表面のカーボン16上に一部のポリマー2が残る。これは、カーボン16とポリマー2のなじみがよいためである。これにより、アルマイト層15の細孔15aの内壁全体はカーボン16で被膜されたまま、アルマイト層15の細孔15a以外の表面を被膜しているカーボン16がポリマー2で覆われる。(図2(e)参照)。
【0041】
尚、本発明においては、アルミナ膜15bの表面を被膜しているカーボン16のみをポリマー2で覆う方法は、上記の方法に限定されるものではない。
次に、電解メッキにより、アルマイト層15の細孔15a内部に強磁性体金属(記録層)17を充填する(図2(f)参照)。強磁性体金属17は、例えば、Co、Ni、CoPt、FePt、CoCrPt等である。この電解メッキにおいて、例えば、細孔15aの底面側から負の電極をとる。
【0042】
CMPにより、アルマイト層15の細孔15a内部以外の余分な強磁性体金属17を除去し、アルマイト層15の表面を平坦化する。このとき、同時に、ポリマー2も除去する。この結果、細孔15a内部に強磁性体金属17が充填されたアルマイト層15の表面が平坦化される。ポリマー2の除去については、強磁性体金属17をCPMで除去する前に、有機溶媒で除去する、または、酸素プラズマ等を用いたアッシングにより除去するなどの他の方法を用いてもよい。(図2(g)参照)。
【0043】
細孔15a内部に強磁性体金属17が充填されたアルマイト層15上に、スパッタ法により、保護膜(保護層)18を形成する。保護膜18は、例えば、DLC(Diamond Like Carbon),アモルファスカーボン、水素化カーボンなどの炭素層であり、強磁性体金属17の耐蝕性の向上及び耐久性を高めるために形成される。(図3(h)参照)。
【0044】
そして、保護膜18上に潤滑材を塗布し潤滑層19を形成する(図3(i)参照)。
図4は、上記製造方法により作製されたアルマイト垂直磁気記録媒体の模式図である。
同図に示すアルマイト垂直磁気記録媒体1は、円盤状の両面記録媒体である。図7の従来のアルマイト垂直磁気記録媒体100と比較すれば明らかなように、本実施形態のアルマイト垂直磁気記録媒体1では、アルマイト層15の細孔15a内壁を含むアルマイト層15の表面全体がカーボン16で完全に覆われている。このため、湿気などの耐環境性に弱いアルマイト層15の耐腐食性が向上する。また、磁気ヘッドのクラッシュに対する耐性が向上する。また、本実施形態の製造方法では、アルマイト層15(アルミニウム膜15b)の表面を被膜しているカーボン16をエッチング等により除去する工程が不要になる。アルマイト垂直磁気記録媒体1において、強磁性体金属(記録層)17の膜厚は、例えば、100nm以下である。
【0045】
尚、上記実施形態においては、密着層11及び酸化停止層13を形成すようにしているが、本発明においては、これらの層の形成を省略してもよい。また、下地軟磁性層12は、垂直磁気記録において、データ書込み時に記録層に磁束が流れやすくし、データの書込み特性を向上させるために有効であるが。本発明においては、下地軟磁性層12の生成を翔省略してもよい。
【0046】
例えば、密着層11、下地軟磁性層12及び酸化停止層13を省略した場合、陽極酸化前のアルミニウム膜の生成で、アルミニウム膜の厚さを大きくしておき、時間制御によりアルミニウム膜の陽極酸化を制御し、まだ酸化されていないアルミニウム膜を「下部電極層」として使用することで、アルマイト垂直磁気記録媒体を作製することが可能である。
【0047】
但し、酸化停止層13を省略するとアルマイト層の膜厚制御が難しくなり、下地軟磁性層12が腐食する可能性がある。また、下地軟磁性層12を省略すると、データの書込み特性が劣化する。密着層11を省略すると、アルミニウム膜の陽極酸化してアルマイト層15を形成する工程において、上述したように、膜はがれが発生しやすい、下地軟磁性層12の結晶方向の制御ができなくなるなどの問題が生じる可能性がある。
【0048】
したがって、アルマイト垂直磁気記録媒体1のデータ書込み特性を向上させるためには、下地軟磁性層12を設けたほうが望ましい。また、アルマイト垂直磁気記録媒体1の製造歩留まり向上の観点から、密着層11と酸化停止層13も設けたほうが望ましい。尚、上述したように、密着層11と酸化停止層13には同一の素材を使用できるので、下地軟磁性層12を省略する場合には、密着層11が酸化停止層13を兼ねることも可能である。すなわち、この場合は、密着層11のみを形成するだけでよく、製造工程が簡略化される。
【0049】
また、アルマイト層の細孔内部に下地軟磁性層を形成するような構成にしてもよい。この場合、アルマイト層の細孔内部には、下部に下地軟磁性層が形成され、その上部に記録層である強磁性体金属が形成される構成となる。
【0050】
(付記1)
基板と、該基板の上方に形成されたアルマイトと、該アルマイトの細孔の内壁を被膜する炭素層と、該炭素層で被膜された細孔の内部に充填された記録層とを備えるアルマイト垂直磁気記録媒体の製造方法であって、
基板上にアルマイトを形成する工程と、
該アルマイトの表面及び細孔の内壁を炭素層で被膜する工程と、
前記アルマイトの表面を被膜している炭素層のみをポリマーで覆う工程と、
前記アルマイトの細孔内部に記録層を形成する工程と、
を備えることを特徴とするアルマイト垂直磁気記録媒体の製造方法。
(付記2)
付記1記載のアルマイト垂直磁気記録媒体の製造方法であって、
前記アルマイトの細孔以外の表面上にポリマーを形成する工程は、
前記ポリマーを、その軟化点以上の温度で前記アルマイトの表面に形成された炭素層に密着・プレスし、その後、該温度を維持したまま前記ポリマーを前記カーボンから剥離することにより行うことを特徴とする。
(付記3)
付記2記載のアルマイト垂直磁気記録媒体の製造方法であって、
前記ポリマーの軟化点の温度は、100℃〜200℃の範囲内であることを特徴とする。
(付記4)
付記2記載のアルマイト垂直磁気記録媒体の製造方法であって、
前記ポリマーは、有機ポリマーであることを特徴とする。
(付記5)
付記1記載のアルマイト垂直磁気記録媒体の製造方法であって、
基板上にアルマイトを形成する工程の前に、前記基板上に下地軟磁性層を形成する工程を行い、該下地軟磁性層上に前記アルマイトを形成することを特徴とする。
(付記6)
付記5記載のアルマイト垂直磁気記録媒体の製造方法であって、
基板上にアルマイトを形成する工程の前に、前記基板上に密着層を形成する工程を行い、該密着層上に前記下地軟磁性層を形成することを特徴とする。
(付記7)
付記6記載のアルマイト垂直磁気記録媒体の製造方法であって、
基板上にアルマイトを形成する工程の前に、前記下地軟磁性層上に酸化停止層を形成する工程を行い、前記アルマイトは、該酸化停止層上に形成することを特徴とする。
(付記8)
付記1記載のアルマイト垂直磁気記録媒体であって、
前記アルマイトの細孔内部に記録層を形成する工程に続いて、前記アルマイトの表面を平坦化する工程を行うことを特徴とする。
(付記9)
付記8記載のアルマイト垂直磁気記録媒体の製造方法であって、
前記アルマイトの表面を平坦化する工程に続いて、前記アルマイトの表面上に保護層を形成する工程を行うことを特徴とする。
(付記10)
付記9記載のアルマイト垂直磁気記録媒体の製造方法であって、
前記アルマイトの表面上に保護層を形成する工程に続いて、該保護層上に潤滑層を形成する工程を行うことを特徴とする。
(付記11)
基板と、該基板上方に形成されたアルマイトと、該アルマイトの細孔の内壁を被覆する第1の炭素層と、該第1の炭素層で被覆された細孔の内部に充填された記録層と、該記録層と該アルマイトの表面上の該第1の炭素層を被膜する第2の炭素層と、を有するアルマイト垂直磁気記録媒体。
(付記12)前記第1の炭素層が、CVD法により成膜されたことを特徴とする付記11記載のアルマイト垂直磁気記録媒体。
(付記13)前記第2の炭素層は、DLC膜であることを特徴とする付記11記載のアルマイト垂直磁気記録媒体。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、パーソナルコンピュータや携帯端末、携帯電話、さらには、携帯型音楽プレーヤーなどに搭載されるHDD(Hard Disk Drive)などの大容量化の実現に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の実施形態であるアルマイト垂直磁気記録媒体の製造方法を説明する図(その1)である。
【図2】本実施形態のアルマイト垂直磁気記録媒体の製造方法を説明する図(その2)である。
【図3】本実施形態のアルマイト垂直磁気記録媒体の製造方法を説明する図(その3)である。
【図4】本実施形態の製造方法により作製されたアルマイト垂直磁気記録媒体の模式図である。
【図5】従来のアルマイト垂直磁気記録媒体の製造方法を説明する図(その1)である。
【図6】従来のアルマイト垂直磁気記録媒体の製造方法を説明する図(その2)である。
【図7】従来の製造方法で作製されたアルマイト垂直磁気記録媒体の模式図である。
【符号の説明】
【0053】
1 アルマイト垂直磁気記録媒体
2 ポリマー
3 基板(第2の基板)
10 基板(第1の基板)
11 密着層
12 下地軟磁性層
13 酸化停止層
15 アルマイト層
15a 細孔(ポア)
15b アルミナ膜
16 カーボン
17 強磁性体金属(記録層)
18 保護膜(保護層)
19 潤滑剤(潤滑層)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、該基板の上方に形成されたアルマイト層と、該アルマイト層の細孔の内壁を被膜する炭素層と、該炭素層で被膜された細孔の内部に充填された記録層とを備えるアルマイト垂直磁気記録媒体の製造方法であって、
基板上にアルマイト層を形成する工程と、
該アルマイト層の表面及び細孔の内壁を炭素層で被膜する工程と、
前記アルマイト層の表面を被膜している炭素層のみをポリマーで覆う工程と、
前記アルマイト層の細孔内部に記録層を形成する工程と、
を備えることを特徴とするアルマイト垂直磁気記録媒体の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載のアルマイト垂直磁気記録媒体の製造方法であって、
前記アルマイト層の細孔以外の表面上にポリマーを形成する工程は、
前記ポリマーを、その軟化点以上の温度で前記アルマイト層の表面に形成された炭素層に密着・プレスし、その後、該温度を維持したまま前記ポリマーを前記カーボンから剥離することにより行うことを特徴とする。
【請求項3】
請求項1記載のアルマイト垂直磁気記録媒体の製造方法であって、
基板上にアルマイト層を形成する工程の前に、前記基板上に下地軟磁性層を形成する工程を行い、該下地軟磁性層上に前記アルマイト層を形成することを特徴とする。
【請求項4】
請求項3記載のアルマイト垂直磁気記録媒体の製造方法であって、
基板上にアルマイト層を形成する工程の前に、前記基板上に密着層を形成する工程を行い、該密着層上に前記下地軟磁性層を形成することを特徴とする。
【請求項5】
基板と、該基板上方に形成されたアルマイトと、該アルマイトの細孔の内壁を被覆する第1の炭素層と、該第1の炭素層で被覆された細孔の内部に充填された記録層と、該記録層と該アルマイトの表面上の該第1の炭素層を被覆する第2の炭素層と、を有するアルマイト垂直磁気記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−277907(P2006−277907A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−100041(P2005−100041)
【出願日】平成17年3月30日(2005.3.30)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成16年度、独立行政法人科学技術振興機構、「ナノホール垂直パターンドメディアの開発に関する研究」委託研究、産業再生法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(505088765)株式会社山形富士通 (14)
【Fターム(参考)】