説明

アルミダイカスト成型機の離型剤廃液の再生方法、再生システム及び再生システム車輌

【課題】水グライコール系油圧作動油を時間・コストをかけて分離除去するまでもなく容易に再利用することができ、離型剤廃液を減らし、地球環境への負荷低減に寄与できる再生技術、特に再生ビジネス用車輌を提供せんとする。
【解決手段】内部電極間に電圧を印加して油水分離を促進する荷電コアレッサー型油水分離装置2と、荷電コアレッサー型油水分離装置2に駆動電源を供給する電力供給手段8と、離型剤廃液のpH値を測定するpH測定手段3と、荷電コアレッサー型油水分離装置2で油分除去処理した離型剤廃液を一時貯留する貯留室7と、離型剤廃液のpHを下げるpH降下液を前記貯留室内に添加するpH降下液供給装置4と、pH測定手段3で得られたpH値に基づき離型剤廃液のpH値が所定範囲内になるようにpH降下液供給装置4によるpH降下液の添加量を制御する添加量制御手段92とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水グライコール系油圧作動油を使用するアルミダイカスト成型機の離型剤廃液の再生方法、再生システム及び再生システム車輌に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミダイカスト成型機の離型剤廃液の再生システムとしては、従来、pHの低下により黒鉛潤滑離型剤の黒鉛の分散性が悪くなり、また微生物が増殖するという課題を解決する黒鉛潤滑離型剤の再生用薬品組成物として、特定量のアルカリ性防腐剤とアンモニア水とからなるものを得、これを離型剤廃液の浄化再生液に添加することで、液中の有効成分である分散液の効力を維持しつつ、同時に防腐剤の寿命を延長し、再生を繰り返しても微生物の殺菌、汚染防止に差障がなくなるものが提案されている(特許文献1)。また、離型剤を回収して再利用するシステムにおいて、金型直下に離型剤を回収する離型剤専用回収手段と、この離型剤専用回収手段によって回収された回収液の濃度を自動測定する自動濃度測定手段と、この濃度測定結果に基づいて濃度調整してから再び金型へ送る濃度調整手段とを備えた離型剤再生システムが提案されている(特許文献2)。
【0003】
しかしながら、アルミダイカスト成型機の離型剤については、環境問題がクローズアップされるなかにあって実際のところ再使用は殆どされていない。これはダイカスト金型の作動油として近年多用されている水溶性の水グライコール系油圧作動油が、金型作動の際に離型剤中に混入し、この離型剤を再使用すると、混入した水グライコール系油圧作動油がダイカスト製品を変色させる原因となるためである。水グライコール系油圧作動油の成分は、エチレングリコール55%、粘度をもたす高分子ポリマーの増粘剤5〜10%、残り水40%であり、難燃性で扱いやすい反面、アルミニウムや亜鉛などの金属や塗料と反応してしまうことが知られている。水グライコール系油圧作動油の離型剤への混入は避けられず、また水溶性であり濾過/分離によって除くことも困難且つ時間・コストがかかり、したがって離型剤の再使用ができずに廃液を増やす原因になっていた。
【0004】
【特許文献1】特開昭61−235036号公報
【特許文献2】特開2005−965号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が前述の状況に鑑み、解決しようとするところは、水グライコール系油圧作動油が使用されるアルミダイカスト成型で発生する離型剤の廃液について、水グライコール系油圧作動油を時間・コストをかけて分離除去するまでもなく変色を生じない液に容易に再生することができ、離型剤廃液を減らし、地球環境への負荷低減に寄与できる再生技術を提供する点にあり、更には、このような再生システムを搭載し、アルミダイカスト成型機を有する各地の工場等に赴いて離型剤廃液再生処理を迅速且つ効率的に行うことのできる再生ビジネス用車輌を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、前述の課題を解決するべく鋭意検討した結果、水グライコール系油圧作動油が混入した離型剤を濾過・油水分離し、pHを調節するだけで、水グライコール系油圧作動油が残存したままの状態で再使用してもダイカスト製品の変色が生じなく、業界の定説であった変色の原因は、水グライコール系油圧作動油が直接要因ではなく間接要因であったことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち本発明は、水グライコール系油圧作動油を使用するアルミダイカスト成型機の離型剤廃液の再生方法であって、前記離型剤廃液を荷電コアレッサー型の油水分離装置に通し、該油水分離装置内の電極間に電圧を印加して油水分離を促進する油水分離工程と、離型剤廃液のpH値を測定するpH測定工程と、前記測定したpH値に基づき、離型剤廃液のpHを下げるpH降下液を添加するpH調節工程とを備えたことを特徴とするアルミダイカスト成型機の離型剤廃液の再生方法を提供する。
【0008】
ここで、前記油水分離工程の前に、前記離型剤廃液を荷電フィルター装置に通し、該荷電フィルター装置内の電極間に電圧を印加して離型剤廃液中の不純物粒子の濾過を促進する濾過工程を備えることが好ましい。
【0009】
また、水分の補給を含む成分調整を行う成分調整工程を備えることが好ましい。また、前記濾過工程の前に離型剤廃液中の水グライコール系油圧作動油の濃度を測定する作動油濃度測定工程と、前記測定した作動油の濃度に基づき、該作動油が所定の閾値を越えた場合に再生処理の中止を判定する判定工程とを備えることが好ましい。
【0010】
また、本発明は、水グライコール系油圧作動油を使用するアルミダイカスト成型機の離型剤廃液再生システムであって、前記離型剤廃液が流通されるとともに、内部流路に臨む内部の電極間に電圧を印加して油水分離を促進する荷電コアレッサー型油水分離装置と、前記荷電コアレッサー型油水分離装置に駆動電源を供給する電力供給手段と、離型剤廃液のpH値を測定するpH測定手段と、前記荷電コアレッサー型油水分離装置で油分除去処理した離型剤廃液を一時貯留する貯留室と、離型剤廃液のpHを下げるpH降下液を前記貯留室内に添加するpH降下液供給装置と、前記pH測定手段で得られたpH値に基づき、離型剤廃液のpH値が所定範囲内になるように前記pH降下液供給装置によるpH降下液の添加量を制御する添加量制御手段とよりなることを特徴とするアルミダイカスト成型機の離型剤廃液の再生システムをも提供する。
【0011】
ここで、前記離型剤廃液が流通されるとともに、内部流路に臨む内部の電極間に電圧を印加して離型剤廃液中の不純物粒子の濾過を促進する荷電フィルター装置を設けてなり、前記電力供給手段により該荷電フィルター装置に駆動電源が供給されるものが好ましい。
【0012】
また、前記pH測定手段を、前記荷電コアレッサー型油水分離装置の排出口と前記貯留室入口との間の流通路内に設けたものが好ましい。また、離型剤廃液中の水グライコール系油圧作動油の濃度を測定する作動油濃度測定手段と、前記作動油濃度測定手段で得られた作動油の濃度に基づき、該作動油が所定の閾値を越えた場合に再生処理の中止を判定する判定手段とを備えたものが好ましい。
【0013】
また、本発明は、水グライコール系油圧作動油を使用するアルミダイカスト成型機の離型剤廃液収容部に赴き、当該収容部内の離型剤廃液を再生処理するための車輌であって、走行用の原動機及び駆動機構を有する車輌走行手段と、前記離型剤廃液収容部内の離型剤廃液を被処理液として取り込むための吸引手段と、前記離型剤廃液が流通されるとともに、内部流路に臨む内部の電極間に電圧を印加して油水分離を促進する荷電コアレッサー型油水分離装置と、荷電コアレッサー型油水分離装置に駆動電源を供給する電力供給手段と、離型剤廃液のpH値を測定するpH測定手段と、前記荷電コアレッサー型油水分離装置で油分除去処理した離型剤廃液を一時貯留する貯留室と、離型剤廃液のpHを下げるpH降下液を前記貯留室内に添加するpH降下液供給装置と、前記pH測定手段で得られたpH値に基づき、離型剤廃液のpH値が所定範囲内になるように前記pH降下液供給装置によるpH降下液の添加量を制御する添加量制御手段と、再生処理した処理済み液を同一の離型剤廃液収容部又は別の収容部に戻すための送出手段とを備えてなることを特徴とするアルミダイカスト成型機の離型剤廃液の再生システム車輌をも提供する。
【0014】
また、前記離型剤廃液が流通されるとともに、内部流路に臨む内部の電極間に電圧を印加して離型剤廃液中の不純物粒子の濾過を促進する荷電フィルター装置を設けてなり、前記電力供給手段により該荷電フィルター装置に駆動電源が供給される車輌が好ましい。
【0015】
さらに、前記電力供給手段として、前記車輌走行手段を構成する走行用の原動機により駆動される発電装置を設けてなる車輌が好ましい実施例である。
【発明の効果】
【0016】
以上にしてなる本願発明に係るアルミダイカスト成型機の離型剤廃液の再生方法、再生システムによれば、水グライコール系油圧作動油が使用されるアルミダイカスト成型で発生する離型剤の廃液について、水グライコール系油圧作動油を時間・コストをかけて分離除去することなく効率よく再利用することができ、コスト削減は勿論のこと離型剤廃液を減らして地球環境負荷低減に寄与できる。また、本再生システムを搭載した離型剤廃液の再生システム車輌によれば、アルミダイカスト成型機を有する各地の工場等に赴いて迅速且つ効率的に再生処理することも可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
次に、本発明の実施形態を添付図面に基づき詳細に説明する。
【0018】
図1は、本発明の第1実施形態にかかる離型剤廃液再生システムSの構成を示す説明図、図3は第2実施形態にかかる第1実施形態の再生システムを搭載した離型剤廃液再生システム車輌であり、図中符号1は荷電フィルター装置、2は荷電コアレッサー型油水分離装置、4はpH降下液供給装置、7は貯留タンクをそれぞれ示している。
【0019】
本発明の離型剤廃液の再生システムSは、水グライコール系油圧作動油を使用するアルミダイカスト成型機の離型剤廃液を再生するシステムであり、図1に示すように、離型剤廃液が内部に流通されるとともに、内部流路に臨む内部の電極間に電圧を印加して離型剤廃液中の不純物粒子の濾過を促進する荷電フィルター装置1と、該荷電フィルター装置1から出た離型剤廃液が内部に流通されるとともに、内部流路に臨む内部の電極間に電圧を印加して油水分離を促進する荷電コアレッサー型油水分離装置2と、荷電フィルター装置1及び荷電コアレッサー型油水分離装置2に駆動電源を供給する電力供給手段8と、荷電コアレッサー型油水分離装置2で油分除去処理した離型剤廃液を一時貯留する貯留室である貯留タンク7とを備えている。
【0020】
荷電フィルター装置1は微細ゴミを除去し、荷電コアレッサー型油水分離装置2は油水分離処理を行う。これら濾過・油水分離の処理装置については、同出願人が既に提案しているシステム(日本国特許公開公報第2001−46805号の第6実施例参照)を用いることができる。とくに荷電フィルター装置1は、フィルターの濾目による物理的濾過作用と油滴粒子または水分子が持つゼータ電位の中和による凝集粗粒化現象を利用した装置であり、同出願人による日本国実用新案登録出願平成3年第98913号や日本国出願公告公報平成8年第210号で開示した技術が利用でき、被処理液中の固形粒子等の不純物粒子の濾過を促進する。
【0021】
また、油水分離装置2は、ゼータ電位の中和による凝集粗粒化現象のほか、コアレッサーにおけるエマルジョン分離による油分と水分との分離を利用した装置であり、本例では、詳しくは荷電凝集フイルターコアレッサー型油水分離装置であり、フィルター層とコアレッサー層とを備えた複合フィルターF2を有し、荷電フィルター装置と油水分離装置の双方の機能を兼ね備え、上記不純物粒子の捕捉と、油滴粒子又は水分子の凝集粗粒化による油水分離を促進する。いずれもフィルターF1や複合フィルターF2に荷電したり、或いはこれらを電界中に配置してフィルターやフィルター表面に電位をあたえることにより、これらの中を通過するゴミ、油等の不純物粒子が保有するゼータ電位に起因したクーロン力による反発力を失わせしめ、これら不純物粒子間に自然力として作用する粒子間引力を利用して、ゴミや油等の不純物粒子を凝集粗大化させて液中から除去するものである。本例のように油水分離装置2として荷電凝集フイルターコアレッサー型油水分離装置を構成すれば、荷電フィルター装置1を省略することもできる。
【0022】
荷電フィルター装置1の流入側は、ポンプ10、電磁切替弁11、圧力計12、圧力スイッチ13を経由して接続され、排出液は油水分離装置2に流入されるように構成されている。荷電フィルター装置1及び油水分離装置2には、それぞれ荷電源80、81が設けられており、電力供給手段8より電源供給されている。油水分離装置2からの排出液はポンプ31を備えた流通路30を経て貯留タンク7に供給され、貯留タンク7から排出される処理液は、電磁開閉弁72及び積算流量計73を備えた送出路71より流出口74に送出される。
【0023】
貯留タンク7には、処理後の離型剤廃液の水分の補給を含む成分調整手段6として、補給用タンク60から電磁弁61を介して貯留タンク7内に水分等を補給できるように構成され、制御装置9には電磁弁61の開閉を制御して補給量を自動的に制御する補給量制御処理部91が設けられている。また、同じく貯留タンク7には、後述する離型剤廃液に添加するpH降下液供給装置4としてのpH降下液用タンク41や電磁弁42が設けられている。更には、これら補給される水分やpH降下剤が撹拌されるように攪拌手段として攪拌装置70が設けられ、これら薬剤等の添加に合わせてタンク内の処理液を攪拌するように構成されている。尚、上記成分調整手段6は、本例のように貯留タンク7に設けること以外に、濾過処理前、油水分離処理前、pH値測定前などに設けることも可能である。
【0024】
そして、再生システムSには、離型剤廃液のpH値を測定するpH測定手段としてのpHセンサ3と、離型剤廃液のpHを下げるpH降下液を貯留タンク7内の離型剤廃液に添加するpH降下液供給装置4とが備えられており、制御装置9には、pHセンサ3で得られたpH値に基づき、離型剤廃液のpH値が所定範囲内になるように前記pH降下液供給装置4によるpH降下液の添加量を自動的に制御する添加量制御手段として添加量制御処理部92が設けられている。具体的には、添加量制御処理部92により電磁弁42が開閉制御され、pH降下液用タンク41からのpH降下液供給量が制御される。
【0025】
pHセンサ3は、本例では荷電コアレッサー型油水分離装置2の排出口と前記貯留タンク7の入口との間の流通路30に設けられ、油水分離処理後にpHを測定しているが、荷電フィルター装置1と荷電コアレッサー型油水分離装置2との間の流通路や、荷電フィルター装置1の流入口の手前側の流通路に設け、油水分離前や荷電濾過前にpH測定を行うことも可能である。また、貯留タンク7にpHセンサー3を設けることも好ましい実施例である。また、貯留タンク7を複数に分け、前段のタンクで水分等の成分調整を行い、該前段のタンク又は前段のタンクから後段のタンクへの流通路にpHセンサを設け、後段のタンクでpH降下液を添加するようにしても勿論よい。
【0026】
再生システムSには、さらに離型剤廃液中の水グライコール系油圧作動油の濃度を測定する作動油濃度測定手段としての濃度センサ50と、流入口14から流入した離型剤廃液を荷電フィルター装置1側と中止・回収口15側とに切り替える電磁切替弁51を備えており、制御装置9には、濃度センサ50で得られた作動油の濃度に基づき、該作動油が所定の閾値を越えた場合に電磁切替弁51を中止・回収口15側に自動的に切り替えることで再生処理の中止を行う判定処理部93が設けられている。これは、離型剤廃液中の作動油濃度が余りに高すぎると、pH降下剤でpH値を調整することでダイカスト製品の変色を防止できることができなくなるため、作動油濃度が高い場合には再生処理を中止することができるようにするためである。1回の成型で混入する作動油の濃度は0.2%程度であり、2.5%でもpH値調整で変色を防止できることが確認されているので、再生回数をあらかじめ10回程度に限定しておけば、このような中止判定処理は必ずしも必要でない。
【0027】
制御装置9は、マイクロプロセッサを主体に構成され、図示しないRAM、ROMからなる記憶部を有して各種処理動作の手順を規定するプログラムや処理データが記憶される処理部を有し、必要に応じて記憶装置等が接続されたコンピュータであり、処理部の機能として、補給量制御処理部91、添加量制御処理部92、判定処理部93、その他ポンプや弁の動作を制御する機能などを備えており、これら各機能は上記プログラムにより自動的に実現される。たとえば、制御装置9では、各圧力計から送信されたデータを記憶装置に記憶し、異常を検出すれば警告灯等に警告信号を出力するなども好ましい実施例である。
【0028】
本実施形態の再生システムは、アルミダイカスト成型機に付設してもよいし、本再生システムを有する再生装置を別途構成してもよい。また、後述する第2実施形態のように車輌に搭載することも好ましい例である。流入口14および流出口74は同じ離型剤廃液収容部に設けて循環処理するようにしてもよいし、流出口74を別の収容部に収容するようにしてもよい。
【0029】
次に、図2のフロー図に基づき、本実施形態の再生システムSにおいて離型剤廃液が再生される工程の代表例を説明する。
【0030】
まず、アルミダイカスト成型機の離型剤廃液をポンプ10で取り込んだ後(S1)、取り込んだ離型剤廃液の水グライコール系油圧作動油の濃度を濃度センサで測定する(S2)。制御装置の判定処理部93は、濃度センサからの作動油濃度の値に基づき、該作動油が所定の閾値を越えた場合に再生処理の中止を判定し(S3)、電磁切替弁11を作動させて、取り込んだ離型剤廃液を再生処理することなく中止・回収口15から排出させる(S4)。S3で作動油濃度が閾値を越えなかった場合には、電磁切替弁11で離型剤廃液を荷電フィルター装置1に通して濾過させ(S5)、更にその処理液を荷電コアレッサー型の油水分離装置2に圧入して油水分離する(S6)。この際、電磁切替弁11は荷電フィルター装置1に圧入される離型剤廃液の量を定流量に調整する。また、ポンプ10による吸引状態は圧力計12によって、荷電フィルター装置1のフィルターの目詰まりは圧力計12によって監視される。
【0031】
油水分離装置内に入った被処理液は複合フィルター内に入り、フィルター内周面から外周面に向かって流れ、フィルターを通過する過程で荷電効果によるゴミや油等の不純物粒子を除去するとともに、油滴粒子の凝集粗粒化が促進されてエマルジョン状態が破壊される。粗粒化した油滴粒子を含む被処理液は環状の仕切り板によって形成された迂回路を昇降し、この過程で油分が比重差により浮上分離して容器内上層に浮上油層が形成される。浮上油層と分離水層との界面レベルが低くなると、この状態を検知した油水界面センサー(図示せず)が自動弁を開栓して分離油の排出を行う。一方、油水分離処理された処理液(分離水)は容器底部から取り出され、ポンプ31により流通路30に排出される。
【0032】
そして、該流通路30に設けられたpHセンサ3によりpH値が測定された後(S7)、貯留タンク7に一時収容される(S8)。制御装置の添加量制御処理部92は測定されたpH値に基づき、pH降下液供給装置4によるpH降下液の添加量を制御する(S9)。具体的には、水グライコール系油圧作動油の混入によりアルカリ性となっている離型剤廃液のpH値を中性〜弱酸性の範囲になるようにpH降下液供給量が制御される。
【0033】
また、貯留タンクでは、上記pH調節とともに、水分の補給を含む成分調整が行われる(S10)。離型剤は成型機で使用される過程で水分が大量に蒸発しており、成分調整を行う必要がある。尚、これは本再生システム内で行うのではなく別途行ってもよい。また、pH調節工程で同時に行ってもよい。すなわち、pH降下剤に混入して添加することも可能である。そして、貯留タンクから適当なタイミングで流出口74から処理された再生液が排出される(S11)。
【0034】
次に、図3、4に基づき、本発明の第2実施形態を説明する。
【0035】
本実施形態は、図3に示すように上記第1実施形態と同様の離型剤廃液の再生システムSを搭載した再生システム車輌Aを構成したものであり、図4に示すように、各地の工場(水グライコール系油圧作動油を使用するアルミダイカスト成型機を有する工場や離型剤廃液回収場など)に赴き、そこの収容タンク19等に収容されている離型剤廃液を再生処理するサービスを提供するための車輌として用いられるものである。
【0036】
再生システム車輌Aは、第1実施形態と同様、荷電フィルター装置1や油水分離装置2、貯留タンク7、電力供給手段を構成する発電装置83、濃度センサ50、pHセンサ3、pH降下液供給装置4、成分調整手段6、記憶装置や操作部を備えたコンピュータからなる制御装置9、その他各種の電磁弁や流量計、ポンプ等からなる再生システムSを備えており、これらは、移動用トラックの荷台部分に設けられ、本例では箱型荷物室Cをもつバンタイプの移動用トラックBの当該荷物室に設置されている。荷物室の周囲を囲む側板のうちの左右の横側板及び後方のあおり板が水平軸芯周りで開閉揺動自在に構成されており、それらを単独又は全部開放することにより再生システムSを効率よく使用できる構造を有している。
【0037】
発電装置83は、車輌走行手段の原動機により駆動されるものであってもよいし、該原動機から独立した駆動部を備えたものであってもよい。発電装置を用いて再生システムSを駆動しているが、車輌Aのバッテリからの電圧を利用して駆動することも可能である。
【0038】
その他、再生システム車輌Aには、走行用の原動機及び駆動機構を有する車輌走行手段や、工場の離型剤廃液収容部内の離型剤廃液を取り込むための吸引手段16、再生処理した再生液を同一の離型剤廃液収容部又は別の収容部に戻すための送出手段17、車輌−営業所間の通信を行う通信装置18など備えており、吸引手段16としては、再生システムSを構成している図1の流入口14及びポンプ10が設けられ、送出手段17として、図1の電磁開閉弁72だけでなく送出路71にポンプを設けて強制排出することが好ましい。
【0039】
そして、作業開始時に作業者が制御パネルから作業者ID、顧客ID、処理単価等を入力し、制御装置9は、所定の情報入力が確認されると再生システムSの動作を制御し、離型剤廃液の再生処理作業を開始する。作業完了の際は、図1で示した送出路71の積算流量計73で廃液処理量を計測して売上額を算出し、作業単位毎に作業報告データを作成して、これを前記通信装置18より営業所に送信することで作業完了する。この車輌−営業所間の通信は、例えば携帯電話や簡易型携帯電話等で利用される移動体通信網を経由して行われる。
【0040】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこうした実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【実施例】
【0041】
次に、実際にアルミダイカスト成型機で使用された離型剤廃液を用いて再生処理の実験を行った結果を説明する。
【0042】
(サンプル)
まず、離型剤廃液を水で2倍に希釈し、水グライコール系油圧作動油を2.5%投入したサンプル(pH9)を比較例1とし、同じく作動油2.5%投入したうえ更にpH降下剤を添加して中和させたサンプル(pH7)を実施例1とした。また、同じく離型剤廃液を水で2倍に希釈し、水グライコール系油圧作動油を5.0%投入したうえ更にpH降下剤を添加して中和させたサンプル(pH7)を比較例2とした。尚、過去、油圧ホースの破裂等の事故で混入したようなケースでも、水グライコール系油圧作動油の混入量は1%以下であり、通常の金型作動時の混入量は、0.2〜0.3%程度であると考えられ、2.5%というのは通常では有り得ないレベルの混入量であり、5%になることは到底考えられない。
【0043】
(実験)
実験は、各サンプルの実施例1、比較例2、3について、各々10ショット成形を行い、ダイカスト製品の外観から変色・クスミの程度を観察した。実験の結果、まず比較例1では、製品の窪みとなる部分や製品外周部に変色が集中し、多くの箇所に変色が見られた。とくにフライス面の変色が顕著であった。結果として、外観の汚れ(変色)が発生し、外観品質上問題があると判定された。一方、実施例1では、外観的には通常量産レベルであり、若干の変色は見られるが許容範囲であった。比較例2では、製品の窪みとなる部分や製品外周部の変色が比較例1と比べても濃くなっており、フライス面の変色もより顕著になり、不合格である。
【0044】
(考察)
比較例1では、やはり水グライコール系油圧作動油が混入しているとダイカスト製品が変色してしまい、製品としては不合格。従来は、0.2%程度の混入量でもダイカスト製品が変色し、製品レベルに達しない結果だったことから考えると、当然である。一方、実施例1では、製品も全く変色がなく、合格。全く新液と変わらない結果が出た。比較例2については、pHを調整しても、水グライコール系油圧作動油の増粘剤等が5%も混入すると、pH調節ではもはや対処できないことが分かる。作動油の高分子ポリマーを構成している炭素が焼けて変色したとも考えられる。以上の実験結果から、業界の定説である水グライコール系油圧作動油は直接要因ではなく、間接要因であったことが分かる。また、2.5%でも調整により変色を避けられることが確認されたので、作動油の濃度センサ等で濃度を確認するまでもなく、例えば再使用回数を管理するだけでも十分対応できると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の第1実施形態に係る離型剤廃液再生システムの構成を示す説明図。
【図2】同じく離型剤廃液再生システムの処理手順を示すフロー図。
【図3】第2実施形態に係る離型剤廃液再生システム車輌の構成を示す説明図。
【図4】同じく離型剤廃液再生システム車輌を利用した処理サービスの構成を示す説明図。
【符号の説明】
【0046】
S 離型剤廃液再生システム 1 荷電フィルター装置
2 油水分離装置 3 pHセンサ
4 降下液供給装置 6 成分調整手段
7 貯留タンク 8 電力供給手段
9 制御装置 10 ポンプ
11 電磁切替弁 12 圧力計
13 圧力スイッチ 14 流入口
15 中止・回収口 16 吸引手段
17 送出手段 18 通信装置
19 収容タンク 30 流通路
31 ポンプ 41 pH降下液用タンク
42 電磁弁 50 濃度センサ
51 電磁切替弁 60 補給用タンク
61 電磁弁 70 攪拌装置
71 送出路 72 電磁開閉弁
73 積算流量計 74 流出口
80,81 荷電源 83 発電装置
91 補給量制御処理部 92 添加量制御処理部
93 判定処理部 A 再生システム車輌
B 移動用トラック C 箱型荷物室
F1 フィルター F2 複合フィルター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水グライコール系油圧作動油を使用するアルミダイカスト成型機の離型剤廃液の再生方法であって、
前記離型剤廃液を荷電コアレッサー型の油水分離装置に通し、該油水分離装置内の電極間に電圧を印加して油水分離を促進する油水分離工程と、
離型剤廃液のpH値を測定するpH測定工程と、
前記油水分離装置で油水分離処理した離型剤廃液に対して、前記測定したpH値に基づき離型剤廃液のpHを下げるpH降下液を添加するpH調節工程とを備えたことを特徴とするアルミダイカスト成型機の離型剤廃液の再生方法。
【請求項2】
前記油水分離工程の前に、前記離型剤廃液を荷電フィルター装置に通し、該荷電フィルター装置内の電極間に電圧を印加して離型剤廃液中の不純物粒子の濾過を促進する濾過工程を備えた請求項1記載のアルミダイカスト成型機の離型剤廃液再生方法。
【請求項3】
水分の補給を含む成分調整を行う成分調整工程を備えた請求項1又は2記載のアルミダイカスト成型機の離型剤廃液再生方法。
【請求項4】
少なくとも前記油水分離工程の前に、離型剤廃液中の水グライコール系油圧作動油の濃度を測定する作動油濃度測定工程と、前記測定した作動油の濃度に基づき、該作動油が所定の閾値を越えた場合に再生処理の中止を判定する判定工程とを備えた請求項1〜3の何れか1項に記載のアルミダイカスト成型機の離型剤廃液の再生方法。
【請求項5】
水グライコール系油圧作動油を使用するアルミダイカスト成型機の離型剤廃液再生システムであって、
前記離型剤廃液が流通されるとともに、内部流路に臨む内部の電極間に電圧を印加して油水分離を促進する荷電コアレッサー型油水分離装置と、
前記荷電コアレッサー型油水分離装置に駆動電源を供給する電力供給手段と、
離型剤廃液のpH値を測定するpH測定手段と、
前記荷電コアレッサー型油水分離装置で油分除去処理した離型剤廃液を一時貯留する貯留室と、
離型剤廃液のpHを下げるpH降下液を前記貯留室内に添加するpH降下液供給装置と、
前記pH測定手段で得られたpH値に基づき、離型剤廃液のpH値が所定範囲内になるように前記pH降下液供給装置によるpH降下液の添加量を制御する添加量制御手段とよりなることを特徴とするアルミダイカスト成型機の離型剤廃液の再生システム。
【請求項6】
前記離型剤廃液が流通されるとともに、内部流路に臨む内部の電極間に電圧を印加して離型剤廃液中の不純物粒子の濾過を促進する荷電フィルター装置を設けてなり、前記電力供給手段により該荷電フィルター装置に駆動電源が供給される請求項5記載のアルミダイカスト成型機の離型剤廃液の再生システム。
【請求項7】
前記pH測定手段を、前記荷電コアレッサー型油水分離装置の排出口と前記貯留室入口との間の流通路内に設けてなる請求項5又は6記載のアルミダイカスト成型機の離型剤廃液の再生システム。
【請求項8】
離型剤廃液中の水グライコール系油圧作動油の濃度を測定する作動油濃度測定手段と、前記作動油濃度測定手段で得られた作動油の濃度に基づき、該作動油が所定の閾値を越えた場合に再生処理の中止を判定する判定手段とを備えた請求項5〜7の何れか1項に記載のアルミダイカスト成型機の離型剤廃液の再生システム。
【請求項9】
水グライコール系油圧作動油を使用するアルミダイカスト成型機の離型剤廃液収容部に赴き、当該収容部内の離型剤廃液を再生処理するための車輌であって、
走行用の原動機及び駆動機構を有する車輌走行手段と、
前記離型剤廃液収容部内の離型剤廃液を被処理液として取り込むための吸引手段と、
前記離型剤廃液が流通されるとともに、内部流路に臨む内部の電極間に電圧を印加して油水分離を促進する荷電コアレッサー型油水分離装置と、
前記荷電コアレッサー型油水分離装置に駆動電源を供給する電力供給手段と、
離型剤廃液のpH値を測定するpH測定手段と、
前記荷電コアレッサー型油水分離装置で油分除去処理した離型剤廃液を一時貯留する貯留室と、
離型剤廃液のpHを下げるpH降下液を前記貯留室内に添加するpH降下液供給装置と、
前記pH測定手段で得られたpH値に基づき、離型剤廃液のpH値が所定範囲内になるように前記pH降下液供給装置によるpH降下液の添加量を制御する添加量制御手段と、
再生処理した処理済み液を同一の離型剤廃液収容部又は別の収容部に戻すための送出手段とを備えてなることを特徴とするアルミダイカスト成型機の離型剤廃液の再生システム車輌。
【請求項10】
前記離型剤廃液が流通されるとともに、内部流路に臨む内部の電極間に電圧を印加して離型剤廃液中の不純物粒子の濾過を促進する荷電フィルター装置を設けてなり、前記電力供給手段により該荷電フィルター装置に駆動電源が供給される請求項9記載のアルミダイカスト成型機の離型剤廃液の再生システム車輌。
【請求項11】
前記電力供給手段として、前記車輌走行手段を構成する走行用の原動機により駆動される発電装置を設けてなる請求項9又は10記載のアルミダイカスト成型機の離型剤廃液の再生システム車輌。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−64105(P2010−64105A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−232301(P2008−232301)
【出願日】平成20年9月10日(2008.9.10)
【出願人】(508264519)株式会社ゼオテック (2)
【Fターム(参考)】