説明

アルミニウムの精製方法、高純度アルミニウム材、電解コンデンサ電極用アルミニウム材の製造方法および電解コンデンサ電極用アルミニウム材

【課題】 アルミニウムの精製において、包晶不純物および共晶不純物を効率良く除去する。
【解決手段】 精製に供する原料として、包晶元素およびホウ素を含み、ホウ素が包晶元素との金属ホウ化物として計算される合計化学当量よりも5〜80質量ppm過剰に含有されてなるアルミニウム精製用原料を使用する。そして、溶解炉1においてアルミニウム精製用原料を溶解して溶湯とし、溶湯を反応室2Aに移動させる。反応室2Aにおいて、溶湯中の包晶元素とホウ素とを反応させて金属ホウ化物を生成させ、生成した金属ホウ化物および前記溶解工程で生成した金属ホウ化物を除去する。さらに溶湯を精製室2Bに移動させ、精製室2B,2C,2D,2Eにおいて、偏析凝固により未反応のホウ素を含む共晶元素が除去された高純度アルミニウムを晶出させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、包晶元素を除去して高純度アルミニウムを得るアルミニウムの精製方法、この精製方法によって製造された高純度アルミニウム材、さらに電解コンデンサ電極用アルミニウム材の製造方法および電解コンデンサ電極用アルミニウム材に関する。
【0002】
なお、この明細書において、「アルミニウム」の語はアルミニウムおよびその合金の両者を含む意味で用いられる。
【背景技術】
【0003】
偏析凝固の原理を利用したアルミニウムの精製方法として、共晶不純物を含むアルミニウム溶湯中に回転冷却体を浸漬し、この冷却体の内部に冷却流体を供給しながら冷却体を回転させてその外周面に高純度アルミニウムを晶出させる方法が知られている。このような方法で高純度アルミニウムを得ることができるのは共晶元素の平衡偏析係数が1よりも小さいためである(例えば、特許文献1)。
【0004】
しかしながら、精製すべきアルミニウム溶湯中には、共晶不純物の他にアルミニウムと包晶を生成するTi,Zr,V等の包晶不純物が含まれている。このような包晶不純物は平衡偏析係数が1よりも大きいため、特許文献1に記載された方法では、精製塊の包晶不純物濃度が元の溶融アルミニウムよりも高くなってしまう。
【0005】
そこで、本出願人は先に、Bを用いて包晶不純物の除去を行い、その後に偏析凝固を行ってアルミニウムを精製する方法を提案した(特許文献2、3)。
【0006】
特許文献2に記載された精製方法は、まず、アルミニウム溶湯を処理ガス吹き込み室に送り、処理ガスを吹き込む前にアルミニウム溶湯中にBを添加する。続いて、処理ガス吹き込み室での攪拌により、Bと包晶不純物を反応させ、反応により生成した不溶性ホウ化物を処理ガス吹き込みによって溶湯表面に浮上させ、浮上したホウ化物を除去することによって包晶不純物を低減させる。そして、包晶不純物を除去した溶湯に対して偏析凝固による精製を行うというものである。
【0007】
また、特許文献3に記載された精製方法は、Bの添加により包晶不純物とのホウ化物が生成された溶湯中で偏析凝固を行って包晶不純物を除去し、この工程で得たアルミニウム塊を溶融させて偏析凝固による精製を繰り返すことによってアルミニウム純度を高めるというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公昭61−3385号公報
【特許文献2】特開平9−194964号公報
【特許文献3】特開平10−102158号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、Ti,Zr,Vのような包晶不純物を数ppmオーダーで除去させる場合には、添加するBはTiB,ZrB,VBとして計算される合計化学当量より多くのBを添加するか、又は、Bを添加した後に長時間保持(又は攪拌)しなければ有効に除去することはできないという問題があった。特に、特許文献2に報告されているような連続的に溶湯を処理する方法では、バッチ処理による方法と比較して、Bと包晶不純物の反応時間に限界があり、有効に包晶不純物を除去するには大量の過剰のBを添加するしかなかった。このように過剰に添加されたBは共晶不純物であり精製室にて偏析凝固の原理により除去されるが、添加量が多いと完全には除去されず、少量のBは中空回転冷却体の外周面に晶出したアルミニウム塊中に残ることとなる。
【0010】
また、特許文献3に記載された精製工程を2回以上繰り返して行う方法では、生産性が悪く、コスト高となるという問題点がある。
【0011】
この発明は、上述した技術背景に鑑み、アルミニウムに不純物として含有される包晶元素を効率良く除去し、さらに包晶元素の除去に用いたホウ素の除去を行うことにより、高純度アルミニウムを製造しうるアルミニウムの精製方法、この精製方法によって製造される高純度アルミニウム材、さらに電解コンデンサ電極用アルミニウム材の製造方法および電解コンデンサ電極用アルミニウム材の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成するために、本発明のアルミニウムの精製方法は下記(1)〜(6)の各構成を有する。
(1) アルミニウムと包晶を生成する包晶元素およびホウ素を含み、ホウ素が包晶元素との金属ホウ化物として計算される合計化学当量よりも5〜80質量ppm過剰に含有されてなるアルミニウム精製用原料を溶解して溶湯とする溶解工程と、
溶解工程において得た溶湯を反応室に移動させ、
前記反応室中で、溶湯において包晶元素とホウ素とを反応させて金属ホウ化物を生成させ、生成した金属ホウ化物および前記溶解工程で生成した金属ホウ化物を除去することにより包晶元素を除去する反応工程と、
反応工程において得た溶湯を精製室に移動させ、
前記精製室中で、反応工程において得た溶湯から偏析凝固により未反応のホウ素を含む共晶元素が除去された高純度アルミニウムを晶出させる偏析凝固工程と、
を含むことを特徴とするアルミニウムの精製方法。
(2) 前記アルミニウム精製用原料中の包晶元素がTi,ZrおよびVからなる群から選ばれた少なくとも1種以上である前項1に記載のアルミニウムの精製方法。
(3) 前記アルミニウム精製用原料中のホウ素の過剰量が15〜50質量ppmである前項1または2に記載のアルミニウムの精製方法。
(4) 前記アルミニウム精製用原料は電解コンデンサ電極用アルミニウム材の製造材料である前項1〜3のいずれか1項に記載のアルミニウムの精製方法。
(5) 反応工程において、溶湯中に処理ガスを吹き込んで生成された金属ホウ化物を溶湯表面に浮上させる前項1〜4のいずれかに記載のアルミニウムの精製方法。
(6) 偏析凝固工程において、溶湯中で溶湯の凝固温度以下に保持した冷却体を回転させ、この冷却体の外周面に高純度アルミニウムを晶出させる前項1〜5のいずれかに記載のアルミニウムの精製方法。
【0013】
本発明の高純度アルミニウム材は下記(7)の構成を有する。
(7) 前項1〜6のいずれか1項に記載されたアルミニウムの精製方法により製造されたことを特徴とする高純度アルミニウム材。
【0014】
本発明の電解コンデンサ電極用アルミニウム材の製造方法は下記(8)(9)の構成を有する。
(8) アルミニウムと包晶を生成する包晶元素およびホウ素を含み、ホウ素が包晶元素との金属ホウ化物として計算される合計化学当量よりも5〜80質量ppm過剰に含有されてなるアルミニウム精製用原料を溶解して溶湯とする溶解工程と、
溶解工程において得た溶湯を反応室に移動させ、
前記反応室中で、溶湯において包晶元素とホウ素とを反応させて金属ホウ化物を生成させ、生成した金属ホウ化物および前記溶解工程で生成した金属ホウ化物を除去することにより包晶元素を除去する反応工程と、
反応工程において得た溶湯を精製室に移動させ、
前記精製室中で、反応工程において得た溶湯から偏析凝固により未反応のホウ素を含む共晶元素が除去された高純度アルミニウムを晶出させる偏析凝固工程と、
前記高純度アルミニウムを成形する成形工程と、
を含むことを特徴とする電解コンデンサ電極用アルミニウム材の製造方法。
(9) 成形工程は、最終厚さを10〜200μmに圧延する工程を含む前項8に記載の電解コンデンサ電極用アルミニウム材の製造方法。
【0015】
本発明の電解コンデンサ電極用アルミニウム材は下記(10)の構成を有する。
(10) 前項8または9に記載された方法により製造されたことを特徴とする電解コンデンサ電極用アルミニウム材。
【発明の効果】
【0016】
(1)の発明にかかるアルミニウムの精製方法によれば、アルミニウム精製用原料中のホウ素濃度が包晶元素との金属ホウ化物として計算される合計化学当量よりも5〜80質量ppm過剰となされているため、溶解工程の段階から包晶元素とホウ素とが反応し、反応工程と合わせてより長い反応時間を確保してより多くの金属ホウ化物を生成させ、包晶元素を除去して高純度アルミニウムを得ることができる。また、溶解の熱エネルギーが反応に利用されるためにエネルギーコストを低減させることができる。
【0017】
そして、金属ホウ化物を除去する反応工程後に偏析凝固を行うことにより、溶湯から未反応のホウ素を含む共晶元素を除去することができ、さらに純度の高いアルミニウムを得ることができる。
【0018】
さらに、溶解工程で得た溶湯を反応室に移動させて反応工程を行う連続処理を実施するので、高純度アルミニウムの生産性が良い。
【0019】
さらに、反応工程で得た溶湯を精製室に移動させて偏析凝固工程を行う連続処理を実施するので、高純度アルミニウムの生産性が良い。
【0020】
(2)の発明において、アルミニウム精製用原料中の包晶元素はTi,ZrおよびVからなる群から選ばれた少なくとも1種以上であり、これらの元素が精製によって除去される。
【0021】
(3)の発明において、アルミニウム精製用原料中のホウ素の過剰量が15〜50質量ppmとなされているため、包晶元素の除去が効率良く行われる。
【0022】
(4)の発明によれば、高純度アルミニウムに精製できるため、電解コンデンサ電極用アルミニウム材の製造材料の精製方法として好適に用いることができる。
【0023】
(5)にかかる発明により、反応工程において溶湯中に処理ガスを吹き込んだ場合は、生成された金属ホウ化物が浮上するため、容易に金属ホウ化物を除去できる。
【0024】
(6)にかかる発明により、偏析凝固工程において溶湯中で冷却体を回転させることにより、確実に高純度アルミニウムを得ることができる。
【0025】
(7)の発明にかかる高純度アルミニウム材は上述した精製方法で製造されたものであり、包晶元素、あるいはさらに共晶元素が除去された純度の高いものである。このようなアルミニウム材は、高純度が要求される各種電子部材の材料として好適に用いられる。
【0026】
(8)の発明にかかる電解コンデンサ電極用アルミニウム材の製造方法は、溶解工程、反応工程、偏析凝固工程によって得た高純度アルミニウムに対し、所要形状に成形する成形工程を施すものであるから、アルミニウム純度の高い電極材料を製造できる。
【0027】
(9)にかかる発明によれば、最終厚さが10〜200μmの電極材料を製造できる。
【0028】
(10)本発明の電解コンデンサ電極用アルミニウム材は、高純度であってエッチング特性に優れているため、エッチングおよび化成処理を施して高い静電容量を達成できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】この発明のアルミニウムの精製方法の実施に用いられる精製装置を示す一部垂直断面図である。
【図2】図1のII−II線拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
通常アルミニウム精製用原料に含有される不純物として、アルミニウムと包晶を生成するTi、Zr、V等包晶元素や、アルミニウムと共晶を生成するFe、Si、Cu、Mg等の共晶元素がある。本発明のアルミニウムの精製方法は、アルミニウム精製用原料中に含まれる包晶元素をホウ素との金属ホウ化物として除去し、要すればさらにホウ素含む共晶元素を偏析凝固によって除去するものである。そして、ホウ素を溶解後に添加するのではなく、精製に供されるアルミニウム精製用原料として、含有される包晶元素との化合物生成に適したホウ素濃度に調整されたアルミニウム精製用原料を用いる。
【0031】
アルミニウム精製用原料において、包晶元素としてTi,ZrおよびVからなる群から選ばれた少なくとも1種以上を例示でき、それぞれホウ素とTiB、ZrB、VBなる金属ホウ化物を生成する。
【0032】
アルミニウム精製用原料中のホウ素濃度は、これらの金属ホウ化物として計算される合計化学当量よりも5〜80質量ppmの過剰となる濃度に制御されている。過剰量が5質量ppm未満では包晶元素との反応が十分に進行せずに、精製塊中に多くの未反応包晶元素が残留して高純度アルミニウムが得られない。一方過剰量が80質量ppmを越えると、未反応の包晶元素量は減少するものの、多くの未反応ホウ素が残留してやはり高純度アルミニウムを得ることができない。好ましいホウ素の過剰量は15〜50質量ppmである。
【0033】
またアルミニウム精製用原料は、電解コンデンサ電極用アルミニウム材の製造材料として用いられる。
【0034】
上記アルミニウム精製用原料の製造方法は何ら限定されない。例えば精錬後で鋳造前のアルミニウムに所定濃度となるようにAl−B母合金を添加したり、BFガスを吹き込むことにより得られる。
【0035】
図1および図2に本発明のアルミニウムの精製方法を実施する精製装置(S)の一例を示すとともに、精製方法について詳述する。
【0036】
前記精製装置(S)は、アルミニウムを精製して高純度アルミニウムを連続的に得る装置であって、共晶不純物および包晶不純物とホウ素とを含有するアルミニウム精製用原料を溶解する溶解炉(1)と、溶解炉(1)に続いて直列に配置された複数のるつぼ(2A)(2B)(2C)(2D)(2E)とを備えている。本発明の精製方法においては溶解段階でも金属ホウ化物の生成反応が起こっているため、前記溶解炉(1)は原料を溶解して溶湯とするだけでなく、反応室としての役割も担っている。溶解炉(1)に隣接する第1るつぼ(2A)は包晶元素とホウ素との反応をさらに進行させる反応室であり、他の第2るつぼ(2B)、第3るつぼ(2C)、第4るつぼ(2D)および第5るつぼ(2E)は偏析凝固を行って高純度アルミニウムを形成する精製室である。隣り合うるつぼ(2A)(2B)、(2B)(2C)、(2C)(2D)、(2D)(2E)どうしは上端部において連結樋(3)により連通状に接続されている。また、第1るつぼ(2A)の上端部に溶解炉(1)から供給される溶湯を受ける受け樋(4)が設けられ、溶解炉(1)から最も離れた第5るつぼ(2E)の上端部に溶湯排出樋(5)が設けられている。
【0037】
第1るつぼ(2A)内には、図示しない駆動手段によって上下駆動するとともに回転するものとなされた回転軸(7)と、この回転軸(7)の下端に固定状に設けられた分散用回転体(8)とを備える分散装置(6)が配置されている。前記回転軸(7)には内部に長さ方向に伸びる処理ガス通路(15)が形成され、前記分散用回転体(8)の下端面には処理ガス通路(15)に連通する処理ガス吹出口(16)が設けられているとともに、複数の攪拌促進用の突起(9)が周方向に間隔をおいて形成されている。そして、回転軸(7)を回転させながら処理ガス通路(15)に処理ガスを供給すると、貯留された溶湯が攪拌されるとともに、処理ガスが処理ガス吹出口(16)から溶湯中に微細な気泡として放出され、溶湯全体に分散される。なお、前記処理ガスは生成された金属ホウ化物を溶湯から除去することに効果があり、必ずしも必要とするものではない。
【0038】
また、第1るつぼ(2A)の出湯口(10)と対応する位置において、出湯口(10)の第1るつぼ(2A)内側端部および第1るつぼ(2A)内面における出湯口(10)の下方に連なる部分を覆うような水平断面略U字形の垂直隔壁(11)が設けられている。この垂直隔壁(11)により、ホウ素と包晶元素の反応で生成した不溶性金属ホウ化物が精製用の第2るつぼ(2B)に流出するのを防止することができる。
【0039】
前記処理ガスとしては、Ar等の希ガスやN等のアルミニウムに対して不活性なガス、あるいはこれらの不活性ガスにClを混入したものが用いられる。
【0040】
第2〜第5るつぼ(2B)〜(2E)内には、図示しない駆動手段によって上下駆動するとともに回転するものとなされた回転軸(13)と、回転軸(13)の下端に設けられた冷却体(14)とを備える回転冷却装置(12)が配置されている。前記回転軸(13)には内部に長さ方向に伸びる冷却流体通路(17)が形成されている。また、前記冷却体(14)は下方に向かって断面積が減少する有底の逆円錐台形状であり、前記冷却流体通路(17)に連通する内部空間(18)が形成され、冷却流体を冷却流体通路(17)を介して内部空間(18)に供給することによって溶湯に接触する外周面を凝固点以下の温度に保持し得るものとなされている。従って、前記冷却体(14)は、アルミニウム溶湯と反応により溶湯を汚染しないことはもとより、熱伝導性のよい材料、たとえば黒鉛等により形成されていることが好ましい。また、前記冷却体(14)は、上端部を除いた部分がアルミニウム溶湯中に浸漬する高さに設定される。
【0041】
上述したアルミニウムの精製装置(S)において、アルミニウムの精製は下記の工程(i)〜(vi)を経て行われる。
(i) 第1るつぼ(2A)における分散装置(6)、および第2〜第5るつぼ(2B)〜(2E)における回転冷却装置(12)を上昇させて各るつぼ(2A)〜(2E)の上方に待機させる。
(ii) 本発明の精製方法における溶解工程を実施する。
【0042】
アルミニウム精製用原料を溶解炉(1)で溶解する。この溶解工程において、溶湯中の包晶元素とホウ素との反応が始まり、これらの化合物である金属ホウ化物(TiB、ZrB、VB等)の生成が始まる。
(iii) 本発明の精製方法における反応工程を実施する。
【0043】
溶解炉(1)から溶湯を第1るつぼ(2A)に供給する。次いで、分散装置(6)の回転軸(7)を下降させて分散用回転体(8)を溶湯中に浸漬し、回転軸(7)を回転させるとともに処理ガス通路(15)に処理ガスを供給する。これにより、溶湯が攪拌されるとともに、処理ガスが分散用回転体(8)の処理ガス吹出口(16)からの微細な気泡として放出される。この工程において、引き続き包晶元素とホウ素とが反応し、金属ホウ化物を生成する反応がさらに進行する。生成される金属ホウ化物は不溶性であり、溶湯の攪拌と処理ガス気泡によって溶湯表面に浮上して浮滓となる。浮滓は公知の手段により適宜除去すれば良く、これにより溶湯から包晶元素が除去される。また、溶湯に含まれる他の不純物のうち不溶性のものは処理ガス気泡によって浮上し、金属ホウ化物とともに浮滓として除去される。
【0044】
本発明においては所要量のホウ素を含有するアルミニウム精製用原料を用いるため、この工程でホウ素を添加する必要はないが、添加を禁止するものではない。本工程でホウ素を添加する場合は、アルミニウム精製用原料中のホウ素濃度との合計で、過剰量が80質量ppmを越えない範囲とする。過剰量が80質量ppmを越えると精製塊中の未反応のB濃度が高くなるためである。ホウ素は、例えばAl−B母合金として添加することができる。なお、Al−B母合金中に含有されるKFやAlFに起因して溶湯中のアルミニウム酸化物量が増加したとしても、アルミニウム酸化物は処理ガス気泡とともに浮上し、金属ホウ化物とともに浮滓として除去される。
【0045】
また、浮滓は前記隔壁(11)に阻まれて出湯口(10)への流出が防止される。
(iv) 第1るつぼ(2A)において浮滓を除去された溶湯は出湯口(10)を介して第2るつぼ(2B)内に供給され、さらに連結樋(3)を介して順次第3るつぼ(2C)、第4るつぼ(2D)および第5るつぼ(2E)内に供給される。
(v) 本発明の精製方法の偏析凝固工程を実施する。
【0046】
第2〜第5るつぼ(2B)〜(2E)内の溶湯量が所定量に達すれば、回転冷却装置(12)の回転軸(13)を下降させて冷却体(14)を溶湯中に浸漬する。次いで、回転軸(13)の冷却流体通路(17)を介して回転冷却体(14)の内部空間(18)に冷却流体を供給してその外周面の温度をアルミニウムの凝固点以下に保持しつつ回転軸(13)および冷却体(14)を回転させる。またこのとき、図示しないヒータにより各るつぼ(2B)〜(2E)内の溶湯をその凝固点を越える温度に加熱保持しておく。すると、偏析凝固の原理により、冷却体(14)の外周面に溶湯よりも純度の高いアルミニウムが晶出し、高純度アルミニウム塊が形成される。また、前記冷却体(14)の回転によって、前工程で除去されなかった金属ホウ化物を遠心力によって凝固界面から遠ざけて冷却体(14)表面に晶出するアルミニウム塊に混入することを防止できる。一方、凝固せず共晶不純物濃度の高くなった溶湯は溶湯排出樋(5)から排出される。
(vi) 各冷却体(14)に所定量の高純度アルミニウム塊が形成されれば、精製作業を終了する。
【0047】
なお、第1るつぼ(2A)において浮滓が除去されているので、溶湯通過時に連結樋(3)および溶湯排出樋(5)に詰まるのが防止される。
【0048】
本発明のアルミニウムの精製方法においては、アルミニウム精製用原料に包晶元素のホウ化物として計算される化学当量よりも過剰のホウ素が含有されているため、溶解の段階から金属ホウ化物生成反応が始まっている。このため、溶解炉での滞留時間も金属ホウ化物生成に寄与してより長い反応時間を確保し、より多くの包晶元素を金属ホウ化物に変換させて未反応の包晶元素を可及的に減少させることができる。また、十分な反応時間の確保によってホウ素の過剰量も抑えることができ、ひいては未反応で残留するホウ素濃度も低減できる。さらに、溶解に要する熱エネルギーは金属ホウ化物生成反応に有効利用され、エネルギーコストを低減させることができる。
【0049】
なお、本発明のアルミニウムの精製方法において、各工程の詳細は上記例に限定されない。
【0050】
例えば、溶解工程および反応工程を実施すれば包晶元素の除去が可能であり、共晶元素を除去する偏析凝固工程を実施しない精製方法も本発明に含まれる。偏析凝固工程は包晶元素の除去には寄与しないためである。溶解工程および反応工程によって精製されたアルミニウムは、アルミニウム精製用原料中の共晶元素濃度が許容される用途において使用される。
【0051】
反応工程において、溶湯の攪拌および処理ガスの導入は反応を促進して処理時間を短縮するとともに、生成した金属ホウ化物を浮滓として分離して浮滓の除去を容易にする。攪拌方法および処理ガスの導入方法は限定されない。例えば、攪拌と処理ガスの導入とを別の装置によって行うこともできる。また、第1るつぼ(2A)の底壁にセラミックス等の耐熱性多孔質体を嵌め止め、多孔質体を介して処理ガスを導入することもできる。さらに、生成した金属ホウ化物の分離除去方法も処理ガスによる浮上分離法に限定されず、沈降分離、フィルター分離等の手段を用いても良い。
【0052】
偏析凝固工程において、高純度アルミニウムの取り出し方法は母液から晶出したアルミニウムを回収できれば良く、上記実施形態の冷却体表面への凝固に限定されない。また、冷却体の形状、冷却方法も問わない。
【0053】
また、上記実施形態では溶解炉および複数のるつぼ(反応室、精製室)を用いて溶解工程、反応工程、偏析凝固工程を溶湯を移動させながら連続処理を行っている。このような連続処理は生産性が良好である。
【0054】
本発明の高純度アルミニウム材は、上述した方法で精製されたものであるから高純度が達成される。本発明の高純度アルミニウム材は、不純物として含有される包晶元素濃度および共晶元素濃度にもよるが、化学組成例としてアルミニウム純度が99.5質量%以上、Ti濃度が20質量ppm以下、Zr濃度が15質量ppm以下、V濃度が20質量ppm以下となされたものを挙示できる。また、偏析凝固による共晶元素の除去まで行った場合は、B濃度が20質量ppm以下である。このような高純度アルミニウム材は例えば各種電子部材の製造材料や電解コンデンサ電極用アルミニウム材の製造材料として好適に用いられる。
【0055】
電解コンデンサ電極用アルミニウム材は、上述した溶解工程、反応工程、偏析凝固工程を行って得た高純度アルミニウムに対し、要すれば成分調整を行い、さらに所要形状に成形する成形工程を行うことによって製造される。現状では電解コンデンサの電極材料として15〜120μm程度のアルミニウム箔が用いられているが、近年では静電容量の増大を図るために前記範囲のうちでも厚箔を用いる傾向がある。そして、今後はさらに厚箔化の方向に進むことが予想される。かかる現状と今後の傾向に鑑み、本発明においてはアルミニウム材の厚さとして10〜200μmを推奨する。従って、前記成形工程としては、最終厚さを10〜200μmとする圧延を含む工程を例示できる。また、前記最終圧延前の工程、例えば、成分調整を含む鋳塊製作、熱間圧延、冷間圧延、熱処理、あるいは前記最終圧延後の熱処理等は周知の方法により任意に行う。なお、前記アルミニウム材は、JISにおいて「箔」と称される200μm以下のものと、200μmを超える厚いものの両者を含むものである。
【0056】
また、本発明における電解コンデンサ電極用アルミニウム材は、上述した厚さに圧延されて最終的に電極材料に供される厚さに加工されたアルミニウム材のみならず、圧延に供する鋳塊、圧延途中の厚板等も含むものであり、その形状や該形状への成形方法は上述したものに限定されない。また、成形工程において熱処理を施すことも任意である。
【0057】
そして、上述した方法で製造された電解コンデンサ電極用アルミニウム材は高純度であってエッチング特性に優れているため、エッチングおよび化成処理を施して高い静電容量を達成できる。
【実施例】
【0058】
図1および図2に示したアルミニウム精製装置(S)を用い、上述した工程に基づいてアルミニウム精製用原料の精製を行った。
【0059】
表1および表2に、実施例1〜7および比較例8〜10で用いたアルミニウム精製用原料塊におけるTi濃度、Zr濃度、V濃度、B濃度を示す。全ての実施例および比較例において、アルミニウム精製用原料中のTi、Zr、V濃度は共通であり、Ti:51質量ppm、Zr:30質量ppm、V:48質量ppmである。またB濃度は、実施例1〜7および比較例8、9において、TiB、ZrV、VBとして計算される合計化学当量(50.4質量ppm)よりも3〜90質量ppmの範囲で過剰量を含有するものとし、比較例10は原料塊中のB濃度を10質量ppmとし、反応工程中に過剰のBを添加するものとした。なお、表1において、実施例1〜7および比較例8、9はアルミニウム精製用原料塊中の過剰のB濃度を示し、比較例10は原料塊中の実際のB濃度および溶湯における過剰添加量を併記した。
【0060】
これらのアルミニウム精製用原料塊を下記の工程によって精製した。
【0061】
なお、前記アルミニウム精製装置(S)において、第1るつぼ(2A)に供給する処理ガスとしてArガスを用いた。また、第2〜第5るつぼ(2B)〜(2E)の回転冷却装置(12)の冷却体(14)として、上端の外径が150mm、下端の外径が100mmの逆円錐台形のものを用いた。
〔実施例1〜7、比較例8、9〕
溶解炉(1)においてアルミニウム精製用原料塊を約750℃で溶解し、溶湯を第1るつぼ(2A)に供給した。次いで、溶湯中に分散装置(6)の分散用回転体(8)を浸漬し、回転軸(7)の回転により溶湯を攪拌するとともに、処理ガスを3l/分の割合で供給した。溶湯の攪拌および処理ガス供給によって浮上した浮滓(TiB、ZrB、VB)は適宜除去した。そして、浮滓を除去した溶湯を順次第2〜第5るつぼ(2B)〜(2E)に供給した。
【0062】
第2〜第5るつぼ(2B)〜(2E)内に供給した溶湯を670℃に加熱保持し、溶湯中に回転冷却装置(12)の冷却体(14)を浸漬し、内部空間(18)に冷却流体を供給して外周面を溶湯の凝固温度以下に保持しつつを回転数:400rpmで回転させた。このような操作を30分行ったところ、各冷却体(14)の外周面に5〜6kgの精製アルミニウム塊が形成されていた。
【0063】
上述したアルミニウム精製用原料塊の溶解から精製アルミニウム塊の形成に至る工程は連続的に行うものとし、溶解炉(1)にてアルミニウム精製用原料塊の溶解に要した時間は約3時間であり、アルミニウムの溶解炉(1)中の平均滞留時間は約15分であった。
【0064】
その後、精製アルミニウム塊を採取し、Ti、Zr、V、B濃度の元素分析を行った。また、アルミニウム純度の分析も行った。その結果を併せて表1に示す。
〔比較例10〕
第1るつぼ(2A)において、分散装置(6)を稼働させる前に、溶湯中のB濃度がTiB、ZrV、VBとして計算される合計化学当量よりも50質量ppm過剰となるようにAl−B合金を添加した。その他の工程は上述の実施例等と同様の処理を行った。その結果、中空冷却体(14)の外周面には5〜6kgの精製アルミニウム塊が形成されていた。その後、精製アルミニウム塊を採取し、Ti、Zr、V、B濃度の元素分析およびアルミニウム純度の分析を行った。その結果を併せて表1に示す。
【0065】
【表1】

【0066】
表1の結果より、過剰のホウ素を含有する原料を用いて精製を行うことにより、高純度のアルミニウムを得られることを確認した。
【0067】
また、溶湯中のB濃度がほぼ等しい実施例5と比較例10とを比較すると、原料の段階で過剰量のBを含有させることでより多くのTi、Zr、Vを除去できることがわかる。これは、原料の溶解の段階からTi、Zr、VとBの反応が進行するために、未反応で残留する元素量が少ないためであると推測される。
【0068】
さらに、実施例1〜7と比較例8、9とを比較すると、原料中の過剰B量を5〜80質量%とすることによって、Ti、Zr、Vを有効に除去しかつB濃度も抑制できることがわかる。即ち、原料中の過剰B量が少なすぎる比較例8ではTi、Zr、Vを有効に除去できず、過剰B量が多すぎる比較例9ではTi、Zr、Vを除去できてもB濃度が高くなっている。
【0069】
さらに、各精製アルミニウム塊を溶解した後、Fe:20質量ppm、Si:20ppm、Cu:50質量ppm、Pb:1質量ppmに調製し、アルミニウム鋳塊を得た。この鋳塊に対して、面削を行い、610℃×10hの均質化処理を施した。次いで、熱間圧延、冷間圧延、箔圧延、中間焼鈍(270℃×5h)、最終箔圧延(圧下率17%)、最終焼鈍(550℃×5h)を実施し、厚さ110μmのアルミニウム材(箔)を作製した。
【0070】
上記アルミニウム材について、塩酸:1mol/lと硫酸:3.5mol/lを含む液温75℃の混合水溶液に浸漬した後、電流密度0.2A/cmで電解処理を施した。電解処理後のアルミニウム材をさらに前記組成の塩酸−硫酸混合水溶液に90℃にて360秒間浸漬し、ピット径を太くし、エッチングされたアルミニウム材を得た。次いで、エッチング処理されたアルミニウム材を、化成電圧270VにてEIAJ規格に従い化成処理を施して静電容量を測定したところ、各実施例の精製アルミニウム鋳塊から製作したアルミニウム材は高い静電容量を達成しうることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明のアルミニウム精製用原料を用いることにより、高純度のアルミニウムを精製することができる。精製された高純度アルミニウムは、各種電子部材の製造材料や電解コンデンサ電極用アルミニウム材の製造材料として好適に用いられる。
【符号の説明】
【0072】
1…溶解炉
2A…第1るつぼ(反応室)
2B〜2E…第2〜第5るつぼ(精製室)
6…分散装置
7…回転軸
8…分散用回転体
12…回転冷却装置
13…回転軸
14…冷却体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウムと包晶を生成する包晶元素およびホウ素を含み、ホウ素が包晶元素との金属ホウ化物として計算される合計化学当量よりも5〜80質量ppm過剰に含有されてなるアルミニウム精製用原料を溶解して溶湯とする溶解工程と、
溶解工程において得た溶湯を反応室に移動させ、
前記反応室中で、溶湯において包晶元素とホウ素とを反応させて金属ホウ化物を生成させ、生成した金属ホウ化物および前記溶解工程で生成した金属ホウ化物を除去することにより包晶元素を除去する反応工程と、
反応工程において得た溶湯を精製室に移動させ、
前記精製室中で、反応工程において得た溶湯から偏析凝固により未反応のホウ素を含む共晶元素が除去された高純度アルミニウムを晶出させる偏析凝固工程と、
を含むことを特徴とするアルミニウムの精製方法。
【請求項2】
前記アルミニウム精製用原料中の包晶元素がTi,ZrおよびVからなる群から選ばれた少なくとも1種以上である請求項1に記載のアルミニウムの精製方法。
【請求項3】
前記アルミニウム精製用原料中のホウ素の過剰量が15〜50質量ppmである請求項1または2に記載のアルミニウムの精製方法。
【請求項4】
前記アルミニウム精製用原料は電解コンデンサ電極用アルミニウム材の製造材料である請求項1〜3のいずれか1項に記載のアルミニウムの精製方法。
【請求項5】
反応工程において、溶湯中に処理ガスを吹き込んで生成された金属ホウ化物を溶湯表面に浮上させる請求項1〜4のいずれかに記載のアルミニウムの精製方法。
【請求項6】
偏析凝固工程において、溶湯中で溶湯の凝固温度以下に保持した冷却体を回転させ、この冷却体の外周面に高純度アルミニウムを晶出させる請求項1〜5のいずれかに記載のアルミニウムの精製方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載されたアルミニウムの精製方法により製造されたことを特徴とする高純度アルミニウム材。
【請求項8】
アルミニウムと包晶を生成する包晶元素およびホウ素を含み、ホウ素が包晶元素との金属ホウ化物として計算される合計化学当量よりも5〜80質量ppm過剰に含有されてなるアルミニウム精製用原料を溶解して溶湯とする溶解工程と、
溶解工程において得た溶湯を反応室に移動させ、
前記反応室中で、溶湯において包晶元素とホウ素とを反応させて金属ホウ化物を生成させ、生成した金属ホウ化物および前記溶解工程で生成した金属ホウ化物を除去することにより包晶元素を除去する反応工程と、
反応工程において得た溶湯を精製室に移動させ、
前記精製室中で、反応工程において得た溶湯から偏析凝固により未反応のホウ素を含む共晶元素が除去された高純度アルミニウムを晶出させる偏析凝固工程と、
前記高純度アルミニウムを成形する成形工程と、
を含むことを特徴とする電解コンデンサ電極用アルミニウム材の製造方法。
【請求項9】
成形工程は、最終厚さを10〜200μmに圧延する工程を含む請求項8に記載の電解コンデンサ電極用アルミニウム材の製造方法。
【請求項10】
請求項8または9に記載された方法により製造されたことを特徴とする電解コンデンサ電極用アルミニウム材。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2009−280918(P2009−280918A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−198574(P2009−198574)
【出願日】平成21年8月28日(2009.8.28)
【分割の表示】特願2004−70896(P2004−70896)の分割
【原出願日】平成16年3月12日(2004.3.12)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】