説明

アルミニウム合金クラッド材の製造方法

【課題】表皮材と芯材との密着性を確保しつつ、深絞り性及び耐応力腐食割れを向上させることができるアルミニウム合金クラッド材の製造方法を提供する。
【解決手段】Al−Mg系アルミニウム合金からなる芯材12の両面に、Al−Mn系アルミニウム合金からなる表皮材11を被覆したアルミニウム合金クラッド材10の製造方法であって、少なくとも対向した表面11dのAl−Mn系アルミニウム合金が固液共存状態にある一対の表皮材11の間に、芯材12となるAl−Mg系アルミニウム合金の溶湯12aを流し込むことにより芯材12を鋳造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芯材の両面に被覆された表皮材からなるアルミニウム合金クラッド材の製造方法に係り、特に、深絞り性及び応力腐食割れに優れたアルミニウム合金クラッド材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車等には、鋼板が用いられることが多いが、近年では、耐環境性の観点から、車両の軽量化を図るべく、一部の部品には、アルミニウム合金の使用されている。このようなアルミニウム合金板(アルミニウム合金)としては、JIS規格で規定するところの5000系のアルミニウム合金(Al−Mg系アルミニウム合金)が用いられている。このAl−Mg系アルミニウム合金は、Mgを他のアルミニウム合金に比べて、高濃度で含有しているので、鋼と同様の強度が得られ、かつ他のアルミニウム合金に比べて、成形性に優れている。
【0003】
しかしながら、Al−Mg系アルミニウム合金は、局部伸び(引張強さから破断までの伸び)が極めて小さいため、曲げ等の加工性が、鋼板に比べて劣ることがある。そこで、例えば、Mgを3.5〜10質量%含有したAl−Mg系アルミニウム合金(JIS規格5000系のアルミニウム合金)を芯材として、その両面に、Mnを0.8〜1.6%含有したAl−Mn系アルミニウム合金(JIS規格3000系のアルミニウム合金)を表皮材として熱間圧延により接合したアルミニウム合金合わせ板(アルミニウム合金クラッド材)が提案されている(たとえば、特許文献1参照)。
【0004】
このようにして得られたアルミニウム合金クラッド材は、表皮材のAl−Mn系アルミニウム合金の局所伸びが、芯材のAl−Mg系アルミニウム合金の局所伸びに比べて大きいので、強度を確保しつつ局所伸びを向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−228691号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、Al−Mg系アルミニウム合金は、Mgの添加量(含有量)を増量させるに従って、深絞り性は向上するが、その背反として応力腐食割れが低下することがある。そこで、特許文献1に記載の如きアルミニウム合金クラッド材を適用することにより、応力腐食割れに対して強いAl−Mn系アルミニウム合金が表皮材として被覆されるので、一見このような課題は解決されたように思われる。
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載のアルミニウム合金クラッド材は、熱間圧延により表皮材と芯材が接合されたクラッド材であるため、表皮材と芯材の強度及び合金成分の違いにより、表皮材と芯材の密着度の確保が困難な場合がある。
【0008】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、表皮材と芯材との密着性を確保しつつ、深絞り性及び耐応力腐食割れを向上させることができるアルミニウム合金クラッド材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、深絞りによる成形性に耐えうる表皮材と芯材の密着性を確保するためには、両者の接合面を溶融状態(少なくとも半溶融状態)で接合することが好ましいと考えた。このような観点から、例えば、(1)Al−Mg系アルミニウム合金からなる芯材を準備し、この芯材に対して、表皮材となるMl−Mn系合金の溶湯で鋳包む方法、(2)ロール間にこれらの溶湯を順次流し込みキャスティングする方法も考えられる。
【0010】
しかしながら、一般的に、芯材のAl−Mg系アルミニウム合金の融点(568〜652℃程度)は、表皮材のAl−Mn系アルミニウム合金の融点(629℃〜657℃程度)よりも、低いため、(1)に示す方法では、溶融した表皮材に芯材を接触させた時点で、芯材が溶融してしまい、所望の形状に保つことができず、表皮材と芯材との成分が混在してしまう。(2)に示す方法の場合にも、(1)と同様の結果となり、さらに、芯材の両面に同じ加熱条件で表皮材を被覆することが難しい。このような結果、得られたクラッド材は、深絞り性及び耐応力腐食割れを向上させるような効果を充分に発現できないとの新たな知見を得た。
【0011】
本発明は、このような知見に基づくものであり、本発明に係るアルミニウム合金クラッド材の製造方法は、Al−Mg系アルミニウム合金からなる芯材の両面に、Al−Mn系アルミニウム合金からなる表皮材を被覆したアルミニウム合金クラッド材の製造方法であって、該製造方法において、少なくとも対向した表面のAl−Mn系アルミニウム合金が固液共存状態にある一対の表皮材の間に、前記芯材となるAl−Mg系アルミニウム合金の溶湯を流し込むことにより前記芯材を鋳造することを特徴とする。
【0012】
本発明によれば、芯材の接合面となる表皮材の表面が固液共存状態であり、この状態の表面に、芯材となるAl−Mg系アルミニウム合金の溶湯を流し込むことにより芯材を鋳造するので、芯材の両面と表皮材との間には、芯材のMg成分が表皮材の材料に拡散した密着性の高い拡散層が形成される。また、同時に、表皮材の表面にAl−Mg系アルミニウム合金の溶湯を接触させるので、両側の拡散層は略均質な状態にある。さらに、芯材の材料の融点に比べて、表皮材の材料の融点が高いので、芯材の材料となる溶湯を流し込んでも、表皮材は変形することなく、良好な接合状態のクラッド材を得ることができる。
【0013】
さらに、Al−Mg系アルミニウム合金は、Mgの添加により酸化物を形成しやすいが、Al−Mg系アルミニウム合金の溶湯を、直接的に表皮材の表面に接触させるので、界面には酸化物が形成され難く、接合性の高いアルミニウム合金クラッド材を得ることができる。このようにして、得られたアルミニウム系合金クラッド材(インゴット材)を圧延することにより得られる圧延材は、深絞り性が従来のものに比べて優れ、耐応力腐食割れも向上している。
【0014】
ここで、本発明にいうAl−Mg系アルミニウム合金とは、JIS規格に規定するところの5000系アルミニウム合金の成分に相当する材料を意味し、本発明にいうAl−Mn系アルミニウム合金とは、JIS規格に規定するところの3000系アルミニウム合金の成分に相当する材料を意味する。
【0015】
また、固液共存状態の表皮材とは、加熱して固相と液相とが共存する半溶融状態にした表皮材であってもよく、金属材料を溶解した後に、固相と液相とが共存する半凝固状態にした表皮材であってもよく、少なくとも表皮材の表面の温度条件が、固相線と液相線との間の温度を確保されていればよい。
【0016】
しかしながら、より好ましい態様としては、前記表皮材となるAl−Mn系アルミニウム合金の溶湯を、対向する位置において流すことにより、対向した表面が前記固液共存状態にある一対の表皮材を鋳造する。
【0017】
上述した、表皮材を加熱することにより半溶融状態にする場合には、表皮材の表面を固液共存状態に加熱後に、これらを対向配置して溶湯を流し込むことになり、煩雑な作業となるが、この態様によれば、より簡単に連続してアルミニウム合金クラッド材を製造することができる。
【0018】
また、より好ましい態様としては、前記Al−Mg系アルミニウム合金に含有するMgが、4.5〜5.5質量%の範囲内にあるアルミニウム合金を用い、前記Al−Mn系アルミニウム合金に含有するMnが、1.0〜3.0質量%の範囲内にあるアルミニウム合金を用いる。
【0019】
この態様にとよれば、深絞り性及び耐応力腐食割れに優れたアルミニウム合金クラッド材を好適に製造することができる。すなわち、芯材を構成するAl−Mg系アルミニウム合金に含有するMgの含有量が4.5質量%未満の場合には、深絞りの加工性が低下し、5.5質量%を超えた場合には、溶湯の流動性が低下するおそれがある。また、表皮材を構成するAl−Mn系アルミニウム合金に含有するMnが、1.0質量%未満の場合には、伸びが低下してしまい脆くなり、また、Mnが3.0質量%を超えてしまうと、結晶粒の粗大化を招き、成形性が低下するおそれがある。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、表皮材と芯材との密着性を確保しつつ、アルミニウム合金クラッド材の深絞り性及び耐応力腐食割れを向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本実施形態に係るアルミニウム合金クラッド材の表皮材を製造する工程を説明するための図。
【図2】本実施形態に係るアルミニウム合金クラッド材の芯材の溶湯を流し込む工程を説明するための図。
【図3】本実施形態に係るアルミニウム合金クラッド材の製造工程を説明するための図。
【図4】実施例1及び比較例1に係るアルミニウム合金クラッド材の接合状態を示した写真図であり、(a)は、実施例1に係るアルミニウム合金クラッド材の接合状態を示した写真図であり、(b)は、比較例1に係るアルミニウム合金クラッド材の接合状態を示した写真図。
【図5】実施例1に係るアルミニウム合金クラッド材の接合部分の拡大写真図。
【図6】実施例1及び比較例2及び3の深絞り試験の結果を示した図。
【図7】実施例1及び比較例2及び3の応力腐食割れの結果を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、図面を参照して、本発明に係るアルミニウム合金クラッド材を好適に製造することができる実施形態に基づいて説明する。
【0023】
図1は、本実施形態に係るアルミニウム合金クラッド材の表皮材を製造する工程を説明するための図であり、図2は、本実施形態に係るアルミニウム合金クラッド材の芯材の溶湯を流し込む工程を説明するための図であり、図3は、本実施形態に係るアルミニウム合金クラッド材の製造工程を説明するための図である。
【0024】
図1〜図3に示すように、アルミニウム合金クラッド材を製造する製造装置30であり、いわゆる、複合インゴットキャスティングを行うための装置である。製造装置30は、Al−Mn系アルミニウム合金の溶湯11aを供給する一対の第1の溶湯ノズル31,31と、Al−Mg系アルミニウム合金の溶湯12aを供給する第2の溶湯ノズル32とを備えている。これらのノズル31,32の上部には、溶湯を貯蔵するためのチャンバ(図示せず)と、このチャンバ内の溶湯を加熱及び溶湯の温度制御を行う加熱部(図示せず)と、ノズル31,32へ供給する溶湯の流量を調整するスロットル(図示せず)とが設けられている。
【0025】
第1の溶湯ノズル31,31と第2の溶湯ノズル32との間には、分離板34,34が設けられており、Al−Mn系アルミニウム合金の溶湯11aと、Al−Mg系アルミニウム合金の溶湯12aとが混合しないようになっている。また、分離板34に、溶湯11a,12aの温度を調整するための温度調整装置(図示せず)を設けられている。
【0026】
さらに、第1の溶湯ノズル31,31の外側には、水冷ジャケット36,36が設けられており、第1の溶湯ノズル31から供給されたAl−Mn系アルミニウム合金の溶湯11aに冷却水Wを供給することにより、溶湯11aを冷却するようになっている。
【0027】
水冷ジャケット36の壁面と、分離板34の壁面とは、鋳造時には鋳型として作用し、Al−Mn系アルミニウム合金の溶湯11aから表皮材を所定の厚さに鋳造することが可能となっている。
【0028】
製造装置30の下部には、上下方向に昇降可能なシリンダ39が設けられており、その上部には、Al−Mn系アルミニウム合金及びAl−Mg系アルミニウム合金を受けるブロック37と、このブロック37をシリンダ39に固定するプレート38とを備えている。
【0029】
このような装置30を用いて、本実施形態に係るアルミニウム合金クラッド材を製造する。具体的には、まず、図1に示すように、シリンダ39を上昇限に移動させ、水冷ジャケット36、分離板34、及びブロック37に形成された空間に、一対の第1の溶湯ノズル31、31からAl−Mn系アルミニウム合金の溶湯11aを供給する。
【0030】
これにより、ブロック37に隣接する部分には、溶湯11aが冷却されて、Al−Mn系アルミニウム合金の固相部11cが形成され、溶湯11aと固相部11cとの間には、Al−Mn系アルミニウム合金の固相と液相が共存した固液共存部11bが形成される。なお、この固液共存部11bの温度は、Al−Mn系アルミニウム合金の固相線の温度と、液相線の温度との間の温度である。
【0031】
次に、図2に示すように、分離板34の下方に、表皮材となる表面11dに、固液共存部11bが形成されるように(表面11dが固液共存状態になるように)、シリンダ39を下降させ、溶湯11aを垂下させる。
【0032】
なお、この際に、水冷ジャケット36から冷却水Wを流し、溶湯11aを冷却する。このようにして、表皮材となるAl−Mn系アルミニウム合金の溶湯11aを、対向する位置において流すことにより、対向した表面11dが固液共存状態にある一対の表皮材を鋳造することができる。この表面11dは、半凝固状態であるので、表皮材の形状を保持するための自立面となる。
【0033】
このような状態で、第2の溶湯ノズル32から、Al−Mg系アルミニウム合金の溶湯12aを供給する。これにより、ブロック37に隣接する部分には、溶湯12aが冷却されて、Al−Mg系アルミニウム合金の固相部12cが形成され、溶湯12aと固相部12cとの間には、Al−Mg系アルミニウム合金の固相と液相が共存した固液共存部12bが形成される。なお、この固液共存部12bの温度は、Al−Mg系アルミニウム合金の固相線の温度と、液相線の温度との間の温度である。
【0034】
このようにして、図2に示すように、少なくとも対向した表面11d,11dのAl−Mn系アルミニウム合金が固液共存状態にある一対の表皮材11の間に、芯材となるAl−Mg系アルミニウム合金の溶湯を流し込むことにより芯材12を鋳造される。
【0035】
さらに、図3に示すように、シリンダ39を下降させることにより、Al−Mg系アルミニウム合金からなる芯材12の両面に、Al−Mn系アルミニウム合金からなる表皮材11を被覆したアルミニウム合金クラッド材(インゴット材)10が連続して鋳造される。
【0036】
このようにして、芯材12の接合面となる表皮材11の表面11dが固液共存状態であり、この状態の表面11dに、芯材12となるAl−Mg系アルミニウム合金の溶湯12aを流し込むことにより芯材12を鋳造するので、芯材12と表皮材11,11との間には、芯材のMg等の成分が表皮材11の表面層に拡散した密着性の高い拡散層12dが形成され、両側の拡散層12dは略均質な状態にある。
【0037】
また、Al−Mg系アルミニウム合金は、Mgの添加により酸化物を形成しやすいが、直接Al−Mg系アルミニウム合金の溶湯12aを、直接的に表皮材11の表面11dに接触させるので、界面には酸化物が形成され難く、接合性の高いアルミニウム合金クラッド材10を得ることができる。
【0038】
なお、実施形態では、Al−Mn系アルミニウム合金とは、JIS規格に規定するところの3000系アルミニウム合金の成分に相当する材料であり、Al−Mn系アルミニウム合金に含有するMnが、1.0〜3.0質量%の範囲内にあるアルミニウム合金を用いることが好ましい。
【0039】
一方、Al−Mg系アルミニウム合金は、JIS規格に規定するところの5000系アルミニウム合金の成分に相当する材料であり、Al−Mg系アルミニウム合金に含有するMgが、4.5〜5.5質量%の範囲内にあるものを用いることが好ましい。このような範囲の合金材料を用いることのより、深絞り性及び耐応力腐食割れに優れたアルミニウム合金クラッド材10を好適に製造することができる。
【0040】
なお、アルミニウム合金クラッド材(インゴット材)10の表皮材の厚みは、全板厚の5〜10%の厚みの範囲内にあることが好ましい。このような範囲にすることにより、表皮材による耐応力腐食割れの効果を向上させ、芯材による深絞り性の効果を向上させることができる。このようなアルミニウム合金クラッド材は、分離板34と水冷ジャケット36との位置(間隔)を調整することにより製造することができる。
【0041】
さらに、鋳造されたアルミニウム合金クラッド材(インゴット材)10を圧延することにより、5000系アルミニウム合金からなる芯材の両面に、3000系アルミニウム合金からなる表皮材を被覆したアルミニウム合金クラッド材(圧延材)を得ることができる。この圧延材は、従来のものに比べて、深絞り性及び耐応力腐食割れに優れている。
【実施例】
【0042】
以下に、本発明を実施例により説明する。以下の実施例は、上に示した本実施形態に沿って行われたものであるが、本発明を限定するものではない。
【0043】
(実施例1)
図1に示す装置を用いたアルミニウム合金クラッド材を製造した。具体的には、Al−Mg系アルミニウム合金の溶湯としてMgを5.5質量%含有した溶湯(JIS規格:5023アルミニウム合金に相当)と、Al−Mn系アルミニウム合金の溶湯としてMnを1.0質量%含有した溶湯(JIS規格:3003アルミニウム合金に相当)を準備した。
【0044】
次に、分離板の下方における表面が固液共存状態となるように、温度620℃のAl−Mn系アルミニウム合金の溶湯を流し、シリンダを下降させた。この状態で、温度580℃のAl−Mg系アルミニウム合金の溶湯を、対向した表面のAl−Mn系アルミニウム合金が固液共存状態にある一対の表皮材の間に、流し込んで、表皮材を芯材に接合させながら、これらを鋳造した。なお、Al−Mn系アルミニウム合金の表面温度は、液相線温度と固相線温度との間の温度であり、ここでは、610℃となるように、Al−Mn系アルミニウム合金の溶湯の温度を管理することにより調整した。
【0045】
なお、表皮材の厚みは、全板厚の10%の厚みにした。このようにして得られた鋳造したアルミニウム合金クラッド材(インゴット材)を1mmに熱間圧延、冷間圧延することにより、Al−Mg系アルミニウム合金からなる芯材の両面に、Al−Mn系アルミニウム合金からなる表皮材を被覆したアルミニウム合金クラッド材(圧延材)を得た。
【0046】
(比較例1)
実施例1と同じように、アルミニウム合金クラッド材を製造した。実施例と相違する点は、Al−Mn系アルミニウム合金の溶湯の温度を管理することにより、表面温度を580℃にした、固相状態のAl−Mn系アルミニウム合金の表面に、実施例1と同じ条件で、Al−Mg系アルミニウム合金の溶湯を流し込んでインゴット材を製造した点である。
【0047】
(比較例2及び3)
比較例2は、実施例1の芯材に相当するMgを5.5質量%含有したアルミニウム合金材を製造した。比較例3は、実施例1の芯材に相当するMgを4.5質量%含有したアルミニウム合金材を製造した。なお、これらのアルミニウム合金材は、実施例1のアルミニウム合金クラッド材と同じ厚みである。
【0048】
<接合部分の顕微鏡観察>
実施例1及び比較例1の表皮材と芯材との接合部分を顕微鏡で観察した。この結果を、図4及び図5に示す。なお、図4(a)は、実施例1に係るアルミニウム合金クラッド材の接合状態を示した写真図であり、図4(b)は、比較例1に係るアルミニウム合金クラッド材の接合状態を示した写真図である。図5は、実施例1に係るアルミニウム合金クラッド材の接合部分の拡大写真図である。
【0049】
<深絞り試験>
エリクセン試験機を用いて、実施例1及び比較例2、3の深絞り試験を実施した。具体的には、絞りスピード:20mm/min、しわ押さえ力:30kN、型:ブランクφ120mm、絞り型t=1.2、ポンチ径50mmの条件でそれぞれの材料に対して、深絞り試験を行い、深絞り加工ができる(破壊するまでの)絞り高さ(絞り深さ)を測定した。この結果を、図6に示す。
【0050】
<応力腐食割れ試験>
実施例1及び比較例2、3の応力腐食割れ試験を実施した。具体的には、所定の塩水噴霧条件下で、ASTEMG39−99に準拠して3点曲げジグを用いて、繰り返し曲げ荷重を作用させた。この結果を、図7に示す。
【0051】
〔結果及び考察〕
図4(a),(b)に示すように、実施例1のアルミニウム合金クラッド材では、表皮材であるAl−Mnアルミニウム合金と、芯材であるAl−Mgアルミニウム合金とは良好に接合されていたが、比較例1のアルミニウム合金クラッド材には、未接合部分があった。
【0052】
また、図5に示すように、実施例1の場合には、表皮材であるAl−Mnアルミニウム合金と、芯材であるAl−Mgアルミニウム合金との間において、芯材のMg成分が表皮材の表面層に拡散した拡散層が形成されていた。なお、このMgの元素拡散は、EPMAにより確認した。
【0053】
上述の如く、実施例1のアルミニウム合金クラッド材が良好に接合されていたのは、Al−Mn系アルミニウム合金が固液共存状態にある一対の表皮材の間に、芯材となるAl−Mg系アルミニウム合金の溶湯を流し込むことにより、拡散層が形成されたからであると考えられる。
【0054】
また、図6に示すように、実施例1のアルミニウム合金クラッド材は、比較例2及び3のアルミニウム合金材に比べて、深絞り高さが高く、比較例2に比べて、約8%深絞り高さが高く、深絞り性が良いといえる。この理由は、表皮材に、Al−Mnアルミニウム合金を用いることにより、一様伸び(引張り強さまでの伸び)が向上したことによると考えられる。
【0055】
さらに、図7に示すように、実施例1のアルミニウム合金クラッド材は、100回の繰り返し荷重を作用させても応力腐食割れは発生せず、比較例2及び3は、30回以下で、応力腐食割れが発生した。この理由は、実施例1の場合、表皮材に、Al−Mnアルミニウム合金を用いることにより、応力腐食割れが向上したことによると考えられる。
【0056】
以上、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更があっても、それらは本発明に含まれるものである。
【符号の説明】
【0057】
10…アルミニウム合金クラッド材、11…表皮材,11a:溶湯(Al−Mnアルミニウム合金)、11b:固液共存部(Al−Mnアルミニウム合金)、11c:固相部(Al−Mnアルミニウム合金)、11d:固液共存状態の表面、12…芯材,12a:溶湯(Al−Mgアルミニウム合金)、12b:固液共存部(Al−Mgアルミニウム合金)、12c:固相部(Al−Mgアルミニウム合金)、30:アルミニウム合金クラッド材の製造装置、31:第1の溶湯ノズル、32:第2の溶湯ノズル、34:分離板、36:水冷ジャケット、37:ブロック、38:プレート、39:シリンダ、W:冷却水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Al−Mg系アルミニウム合金からなる芯材の両面に、Al−Mn系アルミニウム合金からなる表皮材を被覆したアルミニウム合金クラッド材の製造方法であって、
該製造方法において、少なくとも対向した表面のAl−Mn系アルミニウム合金が固液共存状態にある一対の表皮材の間に、前記芯材となるAl−Mg系アルミニウム合金の溶湯を流し込むことにより前記芯材を鋳造することを特徴とするアルミニウム合金クラッド材の製造方法。
【請求項2】
前記表皮材となるAl−Mn系アルミニウム合金の溶湯を、対向する位置において流すことにより、前記対向した表面が前記固液共存状態にある一対の表皮材を鋳造することを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム合金クラッドの製造方法。
【請求項3】
前記Al−Mg系アルミニウム合金に含有するMgが、4.5〜5.5質量%の範囲内にあるアルミニウム合金を用い、前記Al−Mn系アルミニウム合金に含有するMnが、1.0〜3.0質量%の範囲内にあるアルミニウム合金を用いることを特徴とする請求項1または2に記載のアルミニウム合金クラッド材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−86250(P2012−86250A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−235671(P2010−235671)
【出願日】平成22年10月20日(2010.10.20)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】