説明

アルミニウム部材のろう付方法

【課題】フラックスを使用しない不活性ガス中でのろう付けにおいて、接合部の隙間のろう材充填性を改善し、密閉性の高いろう付け方法提供する。
【解決手段】アルミニウム合金製ブレージングシートから構成される第1の部材とアルミニウムあるいはアルミニウム合金から構成される第2の部材とをろう付けする方法であって、前記アルミニウム合金製ブレージングシートを構成する少なくとも一つの部位にMgを含有し、前記第1の部材と第2の部材との隙間に、Al−Si系アルミニウム合金の置きろうを配置し、フラックスを塗布しないで不活性ガス中において加熱して両部材をろう付けし、ろう付後において隙間に充填されるろう材のMg含有量が隙間以外のろう材のMg含有量の75%以下となることを特徴とするアルミニウム部材のろう付方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラックスを使用しないアルミニウム合金のろう付方法に関するもので、詳細には、置きろうを使用して密閉性の高いろう付製品を作製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム材料は熱伝導性が高く軽量であるため、自動車をはじめとする熱交換器に多く使用されている。水等の冷媒を流して熱交換を機能させる熱交換器に関しては、タンクとチューブとフィンから構成される熱交換器が多い。冷媒はタンクからチューブへ送り込まれ、チューブと接触するフィンを介して熱交換器外部に熱を放出する。冷媒を流す熱交換器では、熱交換器から冷媒が漏れるとその機能を果たさなくなるため、密閉された構造である必要がある。そのため、熱交換器を構成するタンク、チューブ、フィンはろう付により金属的に接合され、各部材が接触する部位においてはその隙間をろう材で完全に充填する方法がとられている。
【0003】
ろう付により製造される熱交換器を構成するアルミニウム材料としては、心材の片面又は両面にろう材等がクラッドされたブレージングシートが使われる。一般的には、ブレージングシートの心材合金としては固相線温度が600℃以上のアルミニウム合金が使用され、クラッドされるろう材合金としては液相線温度が600℃以下であるAl−Si系合金が使用される。このブレージングシートにより熱交換器の部材を作製して組み合わせ、600℃前後の温度に加熱することより、ブレージングシートのろう材部のみが溶融し、他部材とろう付されるとともに、各部材間の隙間をろう材で充填することで、密閉構造の熱交換器を作製することができる。
【0004】
主に実用化されているろう付方法としては、真空ろう付法とノコロックろう付法が挙げられる。真空ろう付法はAl−Si−Mg系合金からなるろう材が使われ、真空中で加熱することによりろう材中のMgが材料から蒸発し、その際に材料表面の酸化皮膜を破壊してろう付を可能にするものである。しかし、真空ろう付法は高価な真空加熱装置を必要とする欠点があった。
【0005】
一方、ノコロックろう付法はAl−Si系合金からなるろう材が使われ、フラックスを塗布した後に不活性ガス中で加熱することにより、フラックスにより材料表面の酸化皮膜が破壊してろう付を可能にするものである。ノコロックろう付法では、フラックスの作用によりろう材の濡れ性も良好でありろう材により隙間の充填性に優れる。しかし、フラックス塗布工程においてフラックスの塗りムラが発生するとろう付不良の原因となるため、フラックスを必要箇所に均一に塗布することが不可欠であった。
【0006】
これらの方法に対し、フラックスを使わずに不活性ガス中で加熱することによりろう付を可能にするろう付方法が提案されている。特許文献1には、Mgを含有するろう付品を炭素質カバーで覆って加熱し、フラックスを用いずにろう付する方法が記載されている。この方法では、Mgにより炭素質カバー内の酸素濃度を低減し、酸化を防止することでろう付を可能にする。また、特許文献2には、ろう材にMgを含有したクラッド材を使用して熱交換器を構成し、フラックスを用いずにろう付する方法が記載されている。この方法では、ろう材中のMgにより表面の酸化皮膜を除去することで、ろう付を可能にしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−044713号公報
【特許文献2】特開2007−190574号公報
【0008】
例えば、タンクにチューブを差し込む構造の熱交換器においては、チューブを差し込むための穴をタンクに設け、そこにチューブを差し込んで熱交換器を構成し、タンクとチューブの接続部となる隙間をろう材で埋めて熱交換器を製造する。タンクとチューブの隙間はできるだけ小さい方がろう材による高い密閉性が得られる。しかしながら、熱交換器を工業的に製造するに当たっては隙間を小さくするのに限界があり、ある程度の大きさの隙間をろう材で埋めて密閉する必要がある。しかしながら、特許文献1及び2の方法では、いずれも酸化皮膜の破壊力が弱く、ろう材の流動性が低く、隙間をろうで充填するのは困難であった。そのため、隙間にはボイドが発生し易く、密閉性が損なわれる恐れがあった。
【0009】
隙間におけるろう材の充填性を確保するためには、接合部の隙間を小さくする方法、或いは、ブレージングシートのろう材量を増やす方法が、一般的に有効である。しかしながら、接合部の隙間は材料の加工限界により完全に無くすことはできない。また、ブレージングシートのろう材量を増やすためにろう材のクラッド率を高くすると、心材とろう材の圧着が困難になるため、ブレージングシートのろう材量の増加にも限界がある。
【0010】
ブレージングシートにクラッドされたろう材をできるだけ有効にろう付に使うために、ブレージングシートにおけるろう材の心材への拡散を抑制し、流動するろう材の量を増やす方法もある。そのためには、心材の歪量を制御する必要があるが、様々な形状に加工されるブレージングシートにおいて、歪量を安定して制御することは困難である。
【0011】
前述のタンクとチューブの接合部のように、隙間をろう材で埋めて密閉性を確保する際に、ブレージングシートのろう材だけではろうの量が不足する場合、ろう付部に置きろうを配置してろう材量を増やす方法がある。しかしながら、Mgを含有するブレージングシートを用いてフラックスを使わないろう付方法においては、置きろうで隙間部を埋めることが困難であった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、フラックスを使用しない不活性ガス中でのろう付けにおいて、接合部の隙間のろう材充填性を改善し、密閉性の高いろう付方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討を重ねた結果、Mgを含有するブレージングシートを用いてフラックスを使用しないろう付において、置きろうを使用して隙間をろう付する際に、隙間を充填する置きろうのMg含有量を制御することで、ろう付加熱後の隙間におけるMg含有量が規定量の場合になった時に、隙間におけるろう材の充填性が良好になることを見出した。
【0014】
本発明は請求項1において、アルミニウム合金製ブレージングシートから構成される第1の部材とアルミニウムあるいはアルミニウム合金(以下、「アルミニウム材」と記す)から構成される第2の部材とをろう付けする方法であって、前記アルミニウム合金製ブレージングシートを構成する少なくとも一つの部位にMgを含有し、前記第1の部材と第2の部材との隙間に、Al−Si系アルミニウム合金の置きろうを配置し、フラックスを塗布しないで不活性ガス中において加熱して両部材をろう付けし、ろう付後において隙間に充填されるろう材のMg含有量が隙間以外のろう材のMg含有量の75%以下となることを特徴とするアルミニウム部材のろう付方法とした。
【0015】
本発明は請求項2において、アルミニウム合金製ブレージングシートから構成される第1の部材とアルミニウム材から構成される第2の部材とをろう付けする方法であって、前記アルミニウム合金製ブレージングシートが、Mg:0.2〜1.0mass%を含有し残部Al及び不可避的不純物からなるAl−Mn系アルミニウム合金を心材とし、当該心材の片面又は両面にSi:5〜13mass%、Mg:0.05mass%以下を含有し残部Al及び不可避的不純物からなるAl−Si系アルミニウム合金のろう材がクラッドされた構成を成し、前記第1の部材と第2の部材との隙間に、Si:5〜13mass%、Mg:0.2mass%以下を含有し残部Al及び不可避的不純物からなるAl−Si系アルミニウム合金の置きろうを配置し、フラックスを塗布しないで不活性ガス中において加熱して両部材をろう付し、ろう付後において隙間に充填されるろう材のMg含有量が隙間以外のろう材のMg含有量の75%以下となることを特徴とするアルミニウム部材のろう付方法とした。
【0016】
本発明は請求項3において、アルミニウム合金製ブレージングシートから構成される第1の部材とアルミニウム材から構成される第2の部材とをろう付けする方法であって、前記アルミニウム合金製ブレージングシートがAl−Mn系アルミニウム合金を心材とし、当該心材の片面又は両面にSi:5〜13mass%、Mg:0.2〜1.5mass%を含有し残部Al及び不可避的不純物からなるAl−Si系アルミニウム合金のろう材がクラッドされ、前記ろう材の表面にMg:0.05mass%以下を含有し残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金の皮材が更にクラッドされた構成を成し、前記第1の部材と第2の部材との隙間に、Si:5〜13mass%、Mg:0.2mass%以下を含有し残部Al及び不可避的不純物からなるAl−Si系アルミニウム合金の置きろうを配置し、フラックスを塗布しないで不活性ガス中において加熱して両部材をろう付し、ろう付後において隙間に充填されるろう材のMg含有量が隙間以外のろう材のMg含有量の75%以下となることを特徴とするアルミニウム部材のろう付方法とした。
【0017】
ここで、隙間以外のろう材とは、隙間に流動しないで、ブレージングシートの表面に残存するろう材を指す。すなわち、ろう付後のろう材厚さがろう付前のろう材厚さよりも増加していない部位にあるろう材であり、ろう付によって置きろうとほとんど混じっていないろう材である。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るろう付方法を行うことによって、フラックスを用いずにろう付製品を製造することが可能であり、接合部の隙間をろう材で充填して密閉したろう付製品を製造するに当たり、生産効率を高め安定したろう付性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係るろう付け方法を示す説明図である。
【図2】ろう付後の状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に本発明について詳細に説明する。
本発明に係るアルミニウムのろう付けには、接合材であるろう材を備えるブレージングシートからなる第1の部材と、これにろう付接合される被接合部材であるアルミニウム材からなる第2の部材と、両者の隙間に配置される置きろうとから成るろう付用組付体が用いられる。そして、第1の部材と第2の部材及び置きろうの表面に存在する酸化皮膜を何らかの方法により破壊し、第1の部材のろう材と第2の部材とをろう付して金属的に接合するものである。従来の不活性ガス中でのろう付では、酸化被膜を破壊するためにフラックスが使用される。フラックスは化学反応により酸化皮膜を破壊するものである。これに対して、本発明のろう付方法は、フラックスを塗布せず、Mgを含有した第1の部材を用いて不活性ガス中で加熱してろう付を行うものである。第1の部材中に含有されるMgは、第1の部材のろう材や置きろうの表面、ならびに、第2の部材の表面に存在する酸化皮膜をろう付加熱中に還元してこれを破壊する。その結果、第1の部材と第2の部材はろう付によって金属的に接合することが可能になる。本発明において、第1の部材中に含有されるMgの含有量は0.001%以上とし、好ましくは0.1%以上である。
【0021】
A.置きろうの作用と充填性
ろう付部位に隙間が存在する場合に、ブレージングシートの酸化被膜が十分に破壊されろう材が十分な流動性を有し、隙間から離れた部位からもろう材を供給できれば、隙間をろうで充填することができる。しかしながら、ブレージングシートに含まれるMgによる酸化皮膜破壊のみの作用では、大きな隙間を埋めるのに十分なろう材を供給することができない場合がある。その際は、隙間を埋めるためのろう材を追加して供給する必要があり、本発明では置きろうによりろう材を供給している。
【0022】
置きろうが隙間構成部材の隙間を充填し、金属的に接合する際には、置きろうの表面に存在する酸化皮膜が破壊される必要がある。置きろうの酸化皮膜は、ブレージングシート中のMgによって還元し破壊される。本発明ではMgの存在が必須であるが、置きろう中に過剰のMgが存在すると逆にろう付性が低下してしまう。これは、ろう付前又はろう付昇温途中において、置きろうの表面にマグネシウムの強固な酸化皮膜が形成されるためである。一度形成されたマグネシウム酸化皮膜は、材料中のMgで還元破壊することがもはや不可能である。ろう付加熱中に残存するマグネシウム酸化皮膜は溶融した置きろうの流動性を妨げ、隙間内でのボイド発生の原因となることが多い。そのため、隙間に充填した置きろうのMg含有量は、隙間以外に存するブレージングシートのろう材のMg含有量よりも少なくすることが必要である。
【0023】
そこで、本発明者は、隙間におけるろう付後のMg含有量について種々の接合状態で調査した結果、隙間以外のろう材のMg含有量の75%以下であれば、置きろうの流動性が妨げられることなく、そして隙間内でボイドが発生することもなく、良好な隙間充填性を達成できることを見出した。隙間におけるろう材のMg含有量が隙間以外のろう材のMg含有量の75%を超える場合、置きろうに含有されるMgの酸化が進行する。その結果、置きろうの流動性が妨げられ隙間内でボイドが発生し、隙間におけるろうの充填性が低下する。
【0024】
B.2層あるいは3層ブレージングシート
本発明で用いる第1の部材であるアルミニウム合金製のブレージングシートはその第1の実施態様において、Mgを含有した心材とその片面にろう材をクラッドした2層ブレージングシート、又は両面にろう材をクラッドした3層ブレージングシートである。心材に含有されるMgが、ろう付性に重要な影響を与える。すなわち、ろう付加熱の際に心材に含有されるMgがろう材中に拡散し、ろう材溶融時にろう材表面から蒸発しながらろう材表面の酸化皮膜及び置きろうのアルミニウム酸化皮膜を還元、破壊して、第2の部材とのろう付けが達成される。更に、置きろう中にもMgが拡散することで、置きろうと第2の部材とのろう付を促進することができる。なお、ろう材のクラッド率は、片面で2.5〜30%であり、ブレージングシートの厚さは0.4〜3.5mmである。このようなブレージングシートは、例えば熱交換器のタンク壁に用いることができる。
ブレージングシートの製造は以下の方法で行う。心材およびろう材合金を通常のDC鋳造した後、ろう材を熱間圧延により所定の厚さまで圧延する。心材とろう材を重ね合わせて熱間圧延により圧着し、さらに冷間圧延により所定の厚さに圧延して製造する。
【0025】
B−1.心材
本発明の第1の実施態様において、心材は、Mg:0.2〜1.0mass%(以下、成分においては単に「%」と記す)を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるAl−Mn合金が用いられる。心材のMg含有量が0.2%未満ではろう材に拡散するMg含有量が不十分となる。その結果、ろう材や置きろうの酸化皮膜を十分に還元、破壊することができず、ろう付性が低下する。一方、Mg含有量が1.0%を超えると、心材からろう材や置きろうへのMg拡散量が過剰となり、ろう材や置きろうの表面に酸化マグネシウムが形成し、ろう付性が低下する。また、心材のMn含有量としては0.2〜1.6%が好ましい。含有量が0.2%未満では強度が不十分となり、1.6%を超えると成形性が低下する。
【0026】
B−2.ろう材
本発明の第1の実施態様において、ろう材は、Mg:0.05%以下、Si:5〜13を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるAl−Si合金が用いられる。Mgを0.05%以下とすることにより、ろう付の昇温中においては、ろう材表面にMgは少量しか存在しないため酸化マグネシウムの生成はほとんど無く、ろう材表面はほとんどアルミニウムの酸化皮膜で占められる。そこで、ろう材の溶融時に心材から拡散してきたMgによりアルミニウム酸化皮膜が還元、破壊され、ろう付が可能となる。一方、Mg含有量が0.05%を超えると、ろう付加熱時の昇温中にろう材表面に酸化マグネシウムが生成する。この酸化マグネシウムは、ろう材が溶融する温度に達した時点では厚い酸化皮膜となり、ろう付することができなくなる。また、Si含有量が5%未満では十分な量の溶融ろう材が生成せず、13%を超えると心材の浸食が顕著になりろう付性は低下する。
【0027】
心材、ろう材には、不可避的不純物として、各成分として0.05%以下であり総量として0.15%以下のFe、Cu,Tiなどが含有されていても性能に支障をきたすことはない。
【0028】
C.3層あるいは5層ブレージングシート
本発明で用いる第1の部材であるアルミニウム合金製のブレージングシートはその第2の実施態様において、心材とその片面又は両面にMgを含有するろう材をクラッドし、該ろう材表面に皮材をクラッドした3層又は5層ブレージングシートである。すなわち、皮材/ろう材/心材の3層、或いは、皮材/ろう材/心材/ろう材/皮材の5層のブレージングシートである。この態様では、ろう付性に寄与するMg源は、ブレージングシートの心材ではなくろう材である。したがって、第1の実施態様に比べて、心材におけるMg含有量は少量であって、ろう材におけるMg含有量が増大する。なお、ろう材のクラッド率は片面で2.5〜30%であり、皮材のクラッド率は片面で0.1〜10%である。ブレージングシートの厚さは0.4 〜3.5mmである。ブレージングシートの製造は以下の方法で行う。心材、ろう材および皮材合金を通常のDC鋳造した後、ろう材と皮材を熱間圧延により所定の厚さまで圧延する。心材とろう材と皮材を重ね合わせて熱間圧延により圧着し、さらに冷間圧延により所定の厚さに圧延して製造する
【0029】
C−1.心材
本発明の第2の実施態様において、心材は、Al−Mn合金が用いられる。心材のMn含有量は0.2〜1.6%が好ましい。Mn含有量が0.2%未満では強度が不十分となり、1.6%を超えると成形性が低下する。
【0030】
C−2.ろう材
本発明の第2の実施態様において、ろう材は、Mg:0.2〜1.5%、Si:5〜13を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるAl−Si合金が用いられる。Mg含有量が0.2%未満では、ろう材および置きろう表面の酸化皮膜を十分に還元、破壊することができず、ろう付性が低下する。一方、Mg含有量が1.5%を超えると、ブレージングシートをろう付加熱した際に、昇温中にろう材表面に酸化マグネシウムが生成する。この酸化マグネシウムは、ろう材が溶融する温度に達した時点では厚い酸化皮膜となり、ろう付することができなくなる。更に、ろう材から置きろうへのMg拡散量が過剰となり、置きろうの表面に酸化マグネシウムが形成し、ろう付性が低下する。また、Si含有量が5%未満では十分な量の溶融ろう材が生成せず、13%を超えると心材の浸食が顕著になりろう付け性は低下する。
【0031】
C−3.皮材
本発明の第2の実施態様において、皮材は、ろう材が溶融するまでの昇温中にろう材表面の酸化防止層として機能する。つまり、ろう付加熱によりろう材が溶融すると、皮材を破ってろう材が露出することにより、フラックスを使用しないでろう付することができる。ろう材中に含有されるMgは、第2の部材の酸化皮膜を還元、破壊するとともに、置きろうの酸化皮膜を破壊し金属的に接合するろう付けを可能とする。更に、置きろう中にMgが拡散し、置きろうと第2の部材のろう付を促進することができる。皮材は、0.05%以下のMgを含有するアルミニウム合金からなる。0.05%を超えると皮材表面に酸化マグネシウムが形成するため、ろう付性が低下する。
【0032】
なお、心材、ろう材、皮材には、不可避的不純物として、各成分として0.05%以下であり総量として0.15%以下のFe、Cu、Mg、Tiなどが含有されていても性能に支障をきたすことはない。
【0033】
皮材厚さは、5〜50μmとするのが好ましい。5μm未満では、短時間にろう材のMgが皮材中を拡散していき、ろう材が溶融する前に皮材表面に酸化マグネシウムが形成して、ろう付性を低下させる場合がある。皮材厚さが50μmを超えると、ろう材が溶融しても皮材を破ってろう材が露出し難くなりろう付性が低下する場合がある。
【0034】
D.置きろう
本発明で用いる置きろうとしては、Mg含有量を0.2mass%以下に制限し、Si含有量が5〜13mass%で残部がAlと不可避的不純物からなるAl−Si系アルミニウム合金が適用できる。さらに、Mg含有量は0.05mass%以下であることが、より好ましい。溶融した置きろう材が隙間を充填していくためには、Mgにより第2の部材の酸化皮膜を破壊する必要がある。本発明では、Mgはろう付加熱中にブレージングシート中から供給されるため、置きろう中のMg含有量は0.2%以下とする。0.2%を超えると置きろう表面における酸化マグネシウムの形成が顕著になり、ろう付性が低下する。置きろう中のSi含有量は5〜13%とする。Si含有量が5%未満では十分な量の溶融ろう材が生成せず、13mass%を超えると置きろうから部材へのSi浸食が顕著になり良好なろう付性が得られず、製造性も低下する。
【0035】
置きろうには、Mg、Si以外の添加成分として各成分が6%以下のFe、Cu、Zn等を添加してもよい。更に、不可避的不純物として、各成分として0.05%以下であり総量として0.15%以下のTi、Biなどが含有されていても性能に支障をきたすことはない。置きろうは、ワイヤー、箔等の形態をとることが可能であり、それらを必要な形状に加工して接合部に設置する。製造方法は、置きろう合金を鋳造した後、ろうワイヤーは引き抜き加工により線引きし、ろう箔は圧延により所定サイズまで加工することにより製造する。
【0036】
E.アルミニウム材から構成される第2の部材
本発明に用いるアルミニウム材から構成される第2の部材は、上述の第1の部材であるアルミニウム合金製のブレージングシートと、その隙間をろう材で充填するようにろう付接合される。第2部材の材質は、純アルミニウム材、あるいはAl−Mn合金、Al−Zn合金などのアルミニウム合金が用いられる。このような第2の部材は、例えば熱交換器のチューブ材として用いられる。なお、本発明では、第1の部材と第2の部材のろう付と同時に、第1の部材及び第2の部材の少なくともいずれかに第3の部材もろう付されるようにしてもよい。例えば、第1の部材を熱交換器のタンク材とし、第2の部材を熱交換器のチューブ材とし、第3の部材をコルゲートフィン材とし、第1と第2の部材をろう付すると共に、コルゲートフィン材をチューブ間に挟みこんでこれとチューブとをろう付するようにしたろう付用組付体を作製し、次いで、この組付体をろう付することによって熱交換器を作製するものである。
【0037】
F.ろう付け
ろう付けは、ろう材の溶融温度以上の温度に加熱すればよく、本発明においては590〜610℃に加熱することによりろう付けが可能となる。保持時間は3〜10分が適当である。ろう付加熱する雰囲気には、不活性ガスが用いられる。不活性ガスとしては、工業的に使用される窒素ガスやアルゴンガスが挙げられる。ろう付を可能にするためには雰囲気中の酸素濃度を250ppm以下とするのが適当であり、酸素濃度がより低い方が安定したろう付が可能となる。本発明でも、雰囲気中の酸素濃度は極力低くし、Mgの酸化をできるだけ抑制してろう付性を向上させることが必要である。
【0038】
低酸素雰囲気とするには、ろう付炉内の不活性ガスと接触する炉の構成部材に炭素材料を用いたろう付加熱炉を使用するのが望ましい。このような構成部材としては、炉内壁、バッフル、被ろう付物搬送用のメッシュベルト等が挙げられる。炭素材料は、非酸化性ガス中に微量に存在する酸素と反応してCOを生成するため、炉内の酸素濃度を下げることができる。既存のろう付炉でろう付する場合は、炉内に炭素材料を別途設置する方法も可能である。
【0039】
また、炉内への微量な酸素の混入は、主に被ろう付物によって取り込まれることが多い。特に熱交換器のように被ろう付物内部に中空構造を有する場合は、内部に存在する酸素は十分に置換されないために、炉内雰囲気中の酸素濃度低減の妨げとなる。そのため、予熱室、ろう付加熱室からなる複数の炉室を備えたろう付炉を使用し、予熱中に酸素濃度を十分に低減することで、ろう付け加熱時には低酸素の雰囲気が達成できる。また、被ろう付物を挿入後、炉内を真空脱気し、その後で非酸化性ガスを吹き込むことにより炉内の酸素濃度上昇を防ぐことができる。さらに、雰囲気ガス置換装置を備えたろう付炉を使用することにより、工業的により安定したろう付性を得ることができる。
【実施例】
【0040】
次に、本発明を実施例及び比較例に基づいて詳細に説明する。
【0041】
ブレージングシートの心材、ろう材、皮材成分の合金を金型鋳造により製造し、表面を面削して厚さ50mmとした。ろう材および皮材を510℃で1時間の予備加熱後、熱間圧延により所定の厚さとした。鋳造した心材とろう材をクラッドした2層ブレージングシート、或いは、鋳造した心材とろう材と皮材をクラッドした3層ブレージングシートを調製し、480℃で1時間の予備加熱を行い、熱間圧延により3mmまで圧延した。さらに1mmまで冷間圧延を行った後、380℃で3時間の焼鈍を行い、板厚1mmのアルミニウム合金製のブレージングシートを作製した。ブレージングシートの構成、クラッド率、心材、ろう材、皮材の合金組成を表1、2に示す。
【0042】
【表1】

【0043】
【表2】

【0044】
上記のようにして作製したブレージングシートを、50mm角に切断した。図1に示すように、切断したブレージングシート1を熱交換器のタンク壁に模した(第1の部材)。図1に示す例では、ブレージングシート1は、心材3の片面にろう材2をクラッドした2層ブレージングシートとした。このブレージングシート1の中央には、直径10.2mmの穴10が設けられている。直径10mm、肉厚1mmのJISA3003のパイプを用意し、熱交換器のチューブ4に模した(第2の部材)。このチューブ4をブレージングシート1の穴10に差し込み、これらの隙間に置きろう5を配置した。置きろう5には、ろうワイヤーを用いた。ろうワイヤーは表3に示す成分の合金を鋳造してインチバーを作製し、これを線引きによりφ1.0mmとし、さらに380℃で3時間の焼鈍を行い、ろうワイヤーとした。ブレージングシート1の内面であるろう材2面に、チューブ4の外周面に沿って置きろう5を1周巻きつけて配置した。このようにして、熱交換器のタンクとチューブのろう付部を模擬した試料を作製した。
【0045】
【表3】

【0046】
作製した試料について、フラックスを塗布せずにろう付を行なった。ろう付は、炉内に不活性ガスとして窒素ガスを流通させ、炉内の酸素濃度を30ppm以下に調整した炉中で加熱して実施した。試料の温度を測定し、試料温度が600℃に到達後この温度に5分間保持し、その後冷却して炉外に取出した。
【0047】
ろう付後の試料について、下記の評価を行なった。
(1)フィレット形成状態
図2に示すように、フィレット形成状態を外観より観察した。全周に渡って安定したサイズのフィレット6が形成されたものを(○)とし、全周にわたってフィレットが形成されたがフィレットの大きさが小さいものを(△)とし、ろう切れ箇所が発生したものを(×)とした。○と△を合格とし、×を不合格とした。
【0048】
(2)フィレット長さ
図2に示すように、フィレット形成状態が合格の試料についてろう付部の断面を観察した。フィレット6におけるフィレット長さ7は、ろう付後のブレージングシート表面を基準としてチューブ4にろうが濡れ拡がった距離とした。
【0049】
(3)Mg含有量
図2に示すように、ブレージングシート平坦部におけるろう材内部8のMg含有量(隙間以外のろう材のMg含有量)と、フィレット6のろう材内部9のMg含有量(隙間に充填されるろう材のMg含有量)とをEPMAによって測定した。
【0050】
表1〜3に示すブレージングシートと置きろう、フィレット形成状態、フィレット長さ、ブレージングシート平坦部のろう材内部におけるMg含有量(A)、フィレットのろう材内部におけるMg含有量(B)、B/A(%)を表4、5に示す。
【0051】
【表4】

【0052】
【表5】

【0053】
実施例1〜33では、フィレットにろう切れの発生箇所は無く、かつ、ろう付後において隙間に充填されるろう材のMg含有量が隙間以外のろう材のMg含有量の75%以下(B/Aが75%以下)となって良好なろう付が得られた。
【0054】
(比較例34〜比較例37)
これらの比較例では置きろうがMgを含まず、ブレージングシートの心材のMg量あるいはろう材のSi量、Mg量の影響を示す。
比較例34では、2層ブレージングシートの心材及びろう材中のMg含有量が少な過ぎたので、置きろうを設置してもフィレットは形成されず、ろう付できなかった。
ットは形成されず、ろう付けできなかった。
比較例35では、2層ブレージングシートのろう材のSi含有量が多過ぎたのでフィレットは形成されず、ろう付けできなかった。
比較例36では、3層ブレージングシートのろう材のSi含有量が多過ぎたのでフィレットは形成されず、ろう付けできなかった。
比較例37では、3層ブレージングシートのろう材のMg含有量が低過ぎたのでフィレットは形成されず、ろう付けできなかった。
【0055】
(比較例38〜比較例42)
これらの比較例では2層ブレージングシートにおいて、置きろうのMg量、Si量の影響を示す。
比較例38では、置きろうのSi含有量が低過ぎたのでフィレットは形成されず、B/Aが75を超えてろう付性に劣った。
比較例39では、置きろうのSi含有量が多過ぎたのでフィレットは形成されず、B/Aが75を超えてろう付性に劣った。
比較例40では、置きろうのMg含有量が多過ぎたのでフィレットは形成されず、B/Aが75を超えてろう付性に劣った。
比較例41では、置きろうのMg含有量が多過ぎたのでフィレットは形成されず、B/Aが75を超えてろう付性に劣った。
比較例42では、置きろうを設置しなかったためフィレットは形成されず、B/Aが75を超えてろう付性に劣った。
【0056】
(比較例43〜比較例45)
これらの比較例では、3層ブレージングシートにおいて、置きろうのMg量の影響を示す。
比較例43では、置きろうのMg含有量が多過ぎたのでフィレットは形成されず、B/Aが75を超えてろう付性に劣った。
比較例44では、置きろうのMg含有量が多過ぎたのでフィレットは形成されず、B/Aが75を超えてろう付性に劣った。
比較例45では、置きろうを設置しなかったためフィレットは形成されず、B/Aが75を超えてろう付性に劣った。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明のろう付方法、ならびに、それに用いるろう付用組付体によれば、フラックスを用いずにろう付製品を製造することが可能であり、接合部の隙間をろう材で充填して密閉したろう付製品を製造するに当たり、生産効率よく安定したろう付性を確保することができる。
【符号の説明】
【0058】
1 ブレージングシート
2 ブレージングシートのろう材
3 ブレージングシートの心材
4 チューブ材
5 置きろう
6 フィレット
7 フィレット長さ
8 ブレージングシート平坦部のろう材内部のMg含有量分析位置
9 フィレットのろう材内部のMg含有量分析位置
10 ブレージングシートの穴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム合金製ブレージングシートから構成される第1の部材とアルミニウムあるいはアルミニウム合金から構成される第2の部材とをろう付けする方法であって、前記アルミニウム合金製ブレージングシートを構成する少なくとも一つの部位にMgを含有し、前記第1の部材と第2の部材との隙間に、Al−Si系アルミニウム合金の置きろうを配置し、フラックスを塗布しないで不活性ガス中において加熱して両部材をろう付けし、ろう付後において隙間に充填されるろう材のMg含有量が隙間以外のろう材のMg含有量の75%以下となることを特徴とするアルミニウム部材のろう付方法。
【請求項2】
アルミニウム合金製ブレージングシートから構成される第1の部材とアルミニウムあるいはアルミニウム合金から構成される第2の部材とをろう付けする方法であって、前記アルミニウム合金製ブレージングシートが、Mg:0.2〜1.0mass%を含有し残部Al及び不可避的不純物からなるAl−Mn系アルミニウム合金を心材とし、当該心材の片面又は両面にSi:5〜13mass%、Mg:0.05mass%以下を含有し残部Al及び不可避的不純物からなるAl−Si系アルミニウム合金のろう材がクラッドされた構成を成し、前記第1の部材と第2の部材との隙間に、Si:5〜13mass%、Mg:0.2mass%以下を含有し残部Al及び不可避的不純物からなるAl−Si系アルミニウム合金の置きろうを配置し、フラックスを塗布しないで不活性ガス中において加熱して両部材をろう付し、ろう付後において隙間に充填されるろう材のMg含有量が隙間以外のろう材のMg含有量の75%以下となることを特徴とするアルミニウム部材のろう付方法。
【請求項3】
アルミニウム合金製ブレージングシートから構成される第1の部材とアルミニウムあるいはアルミニウム合金から構成される第2の部材とをろう付けする方法であって、前記アルミニウム合金製ブレージングシートがAl−Mn系アルミニウム合金を心材とし、当該心材の片面又は両面にSi:5〜13mass%、Mg:0.2〜1.5mass%を含有し残部Al及び不可避的不純物からなるAl−Si系アルミニウム合金のろう材がクラッドされ、前記ろう材の表面にMg:0.05mass%以下を含有し残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金の皮材が更にクラッドされた構成を成し、前記第1の部材と第2の部材との隙間に、Si:5〜13mass%、Mg:0.2mass%以下を含有し残部Al及び不可避的不純物からなるAl−Si系アルミニウム合金の置きろうを配置し、フラックスを塗布しないで不活性ガス中において加熱して両部材をろう付し、ろう付後において隙間に充填されるろう材のMg含有量が隙間以外のろう材のMg含有量の75%以下となることを特徴とするアルミニウム部材のろう付方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−230128(P2011−230128A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−99828(P2010−99828)
【出願日】平成22年4月23日(2010.4.23)
【出願人】(000107538)古河スカイ株式会社 (572)