説明

アルミホイールの製造方法

【課題】アルミホイールの製造方法において、鋳造後にノンクロメート表面処理を施した場合であっても、アルミホイールとノンクロメート皮膜との間での十分な密着性と耐食性を達成できる手段の提供。
【解決手段】アルミホイールの製造方法において、当該アルミホイール表面における酸化物Siに対する金属SiのSi原子割合の比が0.01〜9となるまで、アルカリビルダー、有機ビルダー及びキレート剤を含有するアルカリ洗浄液で当該アルミホイール表面をケミカルエッチングする清浄化工程を含む、アルミホイール表面の洗浄に際してショットブラスト処理工程の省略が出来ることを特徴とする方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミホイール、特に高圧鋳造法を除く各鋳造法(低圧・中圧・重鋳法、傾鋳法等)で鋳造されるアルミホイールをアルカリ洗浄液でケミカルエッチングする工程を含む、アルミホイール表面の洗浄に際してショットブラスト処理工程の省略が可能なアルミホイールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋳造後のアルミホイールの表面は、厚い酸化膜や離型剤に覆われている。具体的には、まず、鋳造時の熱処理において、酸化アルミニウムやアルミ原料のバルク中に含まれている多種の金属の酸化物の皮膜がアルミニウム表面に形成される。更には、Siを含有する離型剤を鋳造時に使用した場合には、当該鋳造後の熱処理工程でこのSiが酸化されて酸化膜が更に成長する。ここで、後工程での表面処理剤や塗膜との密着性や耐食性の観点から、当該酸化膜は除去する必要がある。アルマイト処理などでは、塗装処理工程内に苛性ソーダエッチング及び脱スマットとしての酸洗工程を採用することは可能であるが、アルミホイールの製造においては表面の光輝意匠性が求められる場合があるため、塗装工程内に設けられている表面処理工程では、表面清浄化を追求したエッチングが出来ない。
【0003】
そこで、従来は、通常、ショットブラストを用いて表面をまず清浄化し、次工程の表面処理における脱脂、酸洗及び6価クロムを含有するクロメートで表面洗浄化の効果を高めている。しかしながら、ショットブラスト処理を実施すると、ショットブラスト処理後の残留鉄を十分に除去する必要がある。この鉄が残留していると、アルミホイールと塗膜との密着性を阻害する要因となったり、大気中の水分等が塗膜を透過し該水分と鉄と基材であるアルミニウムとが反応して耐食性の低下の原因ともなる。また、クロメート処理に関しても、欧州のELV規制を受けて表面処理システムがノンクロメートに代替されたことにより、特にクロムの強酸化力による表面清浄化は期待できなくなっている。
【特許文献1】特開2004−315864
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、特許文献1には、従来のショットブラスト工程を省略してもアルミホイール鋳物素地の十分な塗膜形成性や耐食性を担保する表面処理方法が記載されている。ここで、当該方法で使用されるエッチング剤(アルカリ)は、例えば、苛性アルカリ等の強アルカリ、アルカリ金属のリン酸塩、アルカリ金属のホウ酸塩である(段落番号0020)。しかしながら、当該組成のエッチング剤を使用した場合、アルミホイールの表面に形成された各種金属酸化膜が均一に除去される訳ではなく、アルミのみが選択的にエッチングされるだけで、異種金属が表面に濃化してしまう。したがって、当該組成のエッチング剤には溶解し難い金属酸化物、例えばMg、Si及びFe等の酸化物が残存した状態で、以後の表面処理(塗布型/化成型のノンクロメート処理)をした場合、当該ノンクロメート皮膜との密着性や耐食性が非常に低くなるという問題を引き続き抱えることとなる。
【0005】
そこで、本発明は、アルミホイール、特に高圧鋳造法を除く各鋳造法(低圧・中圧・重鋳法、傾鋳法等)で鋳造されるアルミホイールの製造方法において、鋳造後にノンクロメート表面処理を施した場合であっても、アルミホイールとノンクロメート皮膜との間での十分な密着性と耐食性を達成できる手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、まず、アルミニウムのみ除去可能なエッチング剤では無く、高圧鋳造法を除く各鋳造法(低圧・中圧・重鋳法、傾鋳法等)で鋳造されるアルミホイール中に含まれる異種金属及びその酸化物をも除去可能なエッチング剤を選択した。その上で、本発明者らは、当該アルミホイールの表面乃至内部に存在する異種金属の内、最も存在量が多いと考えられるSiをインデックスとした上で、アルミホイール表面における金属Siと酸化物SiとのSi原子割合を所定比に制御することにより、低〜中圧で鋳造されたアルミホイールに関してはショットブラスト工程の省略が出来ることを見出し、本発明を完成させたものである。つまり、酸化物Siに対する金属Si(金属Si/酸化物Si)のSi原子割合を所定比にすることに特徴がある。
【0007】
具体的には、本発明に係るエッチング剤を使用した場合、アルミホイール表面における酸化物Siに対する金属SiのSi原子割合を0.01以上とすれば、表面の金属酸化膜が十分に除去される結果、前述のノンクロメート皮膜との十分な密着性や耐食性を担保することが可能になる。他方、本発明に係るエッチング剤を使用した場合、アルミホイール表面における酸化物Siに対する金属SiのSi原子割合を9以下とすれば、エッチングし過ぎることによる局部電池腐食という密着性や耐食性の低下を防止することが可能になる。アルミホイール表面における酸化物Siに対する金属SiのSi原子割合が0.01未満の場合には、アルミホイールの表面の金属酸化膜の影響により、ノンクロメート皮膜との密着性や耐食性が低下する。また、アルミホイール表面における酸化物Siに対する金属SiのSi原子割合が9を越える場合には、金属Siの濃縮により局部電池が起こるため、その後のホイールの耐食性が低下する。
【0008】
即ち、本発明(1)は、アルミホイール、特に高圧鋳造法を除く各鋳造法(低圧・中圧・重鋳法、傾鋳法等)で鋳造されるアルミホイールの製造方法において、当該アルミホイール表面における酸化物Siに対する金属SiのSi原子割合の比が0.01〜9となるまで、アルカリビルダーと有機ビルダー及びキレート剤を含有するアルカリ洗浄液で当該アルミホイール表面をケミカルエッチングする清浄化工程を含む、アルミホイール表面の洗浄に際してショットブラスト処理工程の省略が出来ることを特徴とする方法である。
【0009】
本発明(2)は、前記アルカリビルダーは、アルカリ金属水酸化物、炭酸アルカリ金属塩、無機リン酸アルカリ金属塩、珪酸アルカリ金属塩及びアルミン酸アルカリ金属塩からなる群より選択される一種以上であり、前記アルカリ洗浄液のpHは、10〜13に調整されている、前記発明(1)の方法である。
【0010】
本発明(3)は、前記有機ビルダーは、有機ホスホン酸又はその塩、及び/又は、分子量が500〜10000であるエチレン性不飽和有機酸モノマーの単独若しくは共重合体(他のエチレン性モノマーとの共重合体も含む)又はその塩である、前記発明(1)又は(2)の方法である。
【0011】
本発明(4)は、前記キレート剤は、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、グリコール酸、グルコン酸、ヘプトグルコン酸、エチレンジアミン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸及びL−グルタミン酸から選択される一種以上である、前記発明(1)〜(3)のいずれか一つの方法である。
【0012】
本発明(5)は、前記清浄化工程において、エッチング量を0.1〜10g/mとする、前記発明(1)〜(4)のいずれか一つの方法である。
【0013】
ここで、本特許請求の範囲及び本明細書における各用語の定義を説明する。まず、酸化物Siとは、X線光電子分光分析装置(ESCA)を用いた際にSiの酸化物として認識されるものを指し、具体的には、SiOやSiOなどに代表されるものが挙げられる。アルカリビルダーとは、アルカリ洗浄剤の無機成分でpHを10〜13に保持できるアルカリ金属塩などが挙げられる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、様々な金属及び金属酸化物を溶解するアルカリ洗浄液を使用した上で、所定パラメータに着目して当該パラメータ値が所定範囲となるよう管理するので、(1)アルミホイール表面の金属及び金属酸化膜が均一かつ十分に除去される結果、高圧鋳造法を除く各鋳造法(低圧・中圧・重鋳法、傾鋳法等)で鋳造されたアルミホイールに関してはショットブラスト工程を実施しなくとも、ノンクロメート皮膜との十分な密着性や耐食性を担保でき、(2)エッチングし過ぎることによる局部電池腐食を抑制でき、(3)エッチングし過ぎることによるアルミホイール表面の金属Si量過剰を抑制できる結果、アルミホイール表面の反応性を過度に下げることなく、クロメート処理よりも表面の過剰なSiの存在の影響を受けやすいZr系クロムフリー表面処理に代表されるクロムフリー処理に対応でき、(4)更には、エッチングを過剰に行うことによる表面処理コスト及び排水処理コストアップも抑制することが可能になる、という効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明をより詳細に説明する。本発明は、アルミホイール、特に高圧鋳造法を除く各鋳造法(低圧・中圧・重鋳法、傾鋳法等)で製造されるアルミホイールの製造方法において、アルカリビルダー、有機ビルダー及びキレート剤を含有するアルカリ洗浄液に、アルミホイール表面を接触させ、表面の酸化物Siを除去し清浄化することにより、酸化物Siに対する金属SiのSi原子割合の比を0.01〜9に制御する清浄化工程を含む、該アルミホイール表面の洗浄に際してショットブラスト処理工程の省略が出来ることを特徴とする方法である。以下、まず、当該清浄化工程で使用するアルカリ洗浄液について説明し、次いで各工程を説明することとする。
【0016】
《アルカリ洗浄液》
本発明に係るアルカリ洗浄液は、アルカリビルダー、有機ビルダー及びキレート剤を含有する水溶液である。以下、各成分を説明し次いで物性を説明することとする。
【0017】
(アルカリビルダー)
本発明に係るアルカリビルダーとしては、水溶性のアルカリであればいずれのものも使用できる。具体例としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、オルソ珪酸ナトリウム、メタ珪酸ナトリウム、オルソ珪酸カリウム、メタ珪酸カリウム等のアルカリ金属珪酸塩、リン酸ナトリウム、リン酸水素ナトリウム(NaHPO、NaHPO)、リン酸カリウム、リン酸水素カリウム(KHPO、KHPO)等のアルカリ金属のリン酸塩若しくはリン酸水素塩、トリポリリン酸カリウム、トリポリリン酸ナトリウム等のアルカリ金属ポリリン酸塩、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸塩、アルミン酸ナトリウム等が挙げられる。これらは各単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0018】
本発明に係るアルカリビルダー(供給源)は、構成成分としてアルカリ金属水酸化物を必ずしも含まなくてもよいが、通常アルカリ金属水酸化物、特に水酸化ナトリウム1モル%以上と、100モル%でない場合、他のアルカリ剤、好ましくはアルカリ金属珪酸塩、アルカリ金属リン酸塩若しくはアルカリ金属リン酸水素塩、アルカリ金属ポリリン酸塩等の低溶解度アルカリビルダーの少なくとも1種、特にオルソ珪酸ナトリウム、及びリン酸ナトリウム若しくはリン酸水素ナトリウムの少なくとも1種とから構成されるのが好ましい。また、アルカリ金属リン酸塩若しくはアルカリ金属リン酸水素塩、又はアルカリ金属ポリリン酸塩を用いる場合、通常アルカリ金属水酸化物を(通常倍モル以上)併用することが好ましい。
【0019】
本発明に係るアルカリビルダーの総量は、特に限定されないが、好適には10〜100g/Lであり、30〜60.0g/Lがより好適である。10g/L未満では、エッチング不足となりアルミニウム表面が不均一となる。また100g/Lを超えると、エッチング及び性能面からもそれ以上の効果は認められず、またアルミニウム表面がエッチング過剰により肌荒れを起こすため好ましくない。
【0020】
(有機ビルダー)
本発明に係る有機ビルダー(供給源)は、好適には、(X)有機ホスホン酸又はその塩、(Y)分子量が500〜10000であるエチレン性不飽和有機酸モノマーの単独若しくは共重合体(他のエチレン性モノマーとの共重合体も含む)又はその塩、の一種又は二種以上の組み合わせである。以下、詳述する。
【0021】
まず、(X)の有機ホスホン酸又はその塩類としては、例えば、アミノトリメチレンホスホン酸、エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸、アルカンジホスホン酸(例えば、エタン−1・1−ジホスホン酸)、ヒドロキシアルカンジホスホン酸(例えば、1−ヒドロキシエチリデンー1,1−ジホスホン酸)が挙げられる。
【0022】
次に、(Y)の分子量が500〜10000であるエチレン性不飽和有機酸モノマーの単独若しくは共重合体(他のエチレン性モノマーとの共重合体も含む)又はその塩としては、まず、スチレンを標準物質として用いるゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定した場合、重量平均分子量が500〜10000であることが必要であり、750〜5000であることが好適であり、1,000〜3000であることがより好適である。分子量が500未満であると異種金属に対する均一エッチング性が劣り、10000を超えると、有機ビルダー自体が極端に高粘度となり水溶液の濃度も高められなくなるため取扱性が非常に悪くなり配合困難となる。
【0023】
ここで、当該エチレン性不飽和有機酸モノマーの単独若しくは共重合体としては、エチレン性不飽和有機酸モノマーの単独重合体若しくはその2種以上からなる共重合体又はエチレン性不飽和有機酸モノマーの少なくとも1種と他のエチレン性モノマーの少なくとも1種との共重合体が挙げられる。このうち他のエチレン性モノマーとの共重合体としては、エチレン性不飽和有機酸モノマーの単位を70モル%以上、更には90モル%以上含有する共重合体が、耐食性、密着性のために好ましい。
【0024】
上記エチレン性不飽和有機酸モノマーの単独若しくは共重合体としてより詳しくは、例えば下記(1)に示すエチレン性不飽和有機酸モノマーの単独重合体若しくはその2種以上からなる共重合体又は下記(1)に示すエチレン性不飽和有機酸モノマーの少なくとも1種と下記(2)〜(6)のモノマーの少なくとも1種との共重合体が挙げられる。下記(1)のモノマーと下記(2)〜(6)のモノマーとの共重合体としては、下記(1)のモノマーの単位を70モル%以上、更には90モル%以上含有する共重合体が、安定分散効果をもたらすために好ましい。エチレン性不飽和有機酸モノマーとしては、下記(1)に示すようなエチレン性不飽和カルボン酸モノマー及びエチレン性不飽和スルホン酸モノマーが挙げられるが、エチレン性不飽和カルボン酸モノマーがより好ましい。
【0025】
かくしてこれらのエチレン性不飽和有機酸モノマーの単独若しくは共重合体又はその塩中、好ましいものは、下記(1)のエチレン性不飽和カルボン酸モノマーの単独重合体若しくはその2種以上からなる共重合体、若しくは下記(1)のエチレン性不飽和カルボン酸モノマーの少なくとも1種と下記(2)〜(6)のモノマーの少なくとも1種との共重合体であって、該カルボン酸モノマーの単位を70モル%以上、更には90モル%以上含有する共重合体、又はそれらのアルカリ金属塩であり、更に好ましいものは、アクリル酸若しくはマレイン酸の単独重合体若しくは両者の任意割合の共重合体、若しくはアクリル酸及びマレイン酸の少なくとも1種と下記(2)〜(6)のモノマーの少なくとも1種との共重合体であって、該カルボン酸モノマーの単位を70モル%以上、更には90モル%以上含有する共重合体、又はそれらのアルカリ金属塩である。
【0026】
エチレン性不飽和有機酸モノマーの単独若しくは共重合体の塩としては、上記単独若しくは共重合体のアルカリ金属塩(例えばナトリウム塩、カリウム塩)若しくはアンモニウム塩若しくは低級アミン塩(例えばトリエチルアミン塩)等が挙げられる。また重合体中の有機酸モノマー単位はそのすべてが塩になっていても一部が塩になっていてもよい。尚、上述のエチレン性不飽和有機酸モノマーの単独若しくは共重合体又はその塩として市販のものを用いることは可能であり、一般には水溶液として入手できる。
【0027】
(1)アクリル酸、マレイン酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、フマル等、これらのうち2塩基酸のハーフエステル等のエチレン性不飽和カルボン酸モノマー、ビニルスルホン酸、メタリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸等のエチレン性不飽和スルホン酸モノマー
【0028】
(2)N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、N−ブトキシメチルアクリルアミド、N−ブトキシメチルメタクリルアミド等のN−非置換若しくは低級アルキル置換メチロール基を有する(メタ)アクリルアミド;(メタ)アクリルアミド;N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N−n−プロピル(メタ)アクリルアミド、N−t−ブチル(メタ)アクリルアミド、N−t−オクチル(メタ)アクリルアミド等のN−アルキル(C=1〜8、特にC=1〜4)(メタ)アクリルアミド;N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド等のN,N−ジ低級アルキル(メタ)アクリルアミド;N−ベンジル(メタ)アクリルアミド;N−シクロヘキシル(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド系モノマー
【0029】
(3)ホスホニルオキシメチルアクリレート、ホスホニルオキシエチルアクリレート、ホスホニルオキシプロピルアクリレート、ホスホニルオキシメチルメタクリレート、ホスホニルオキシエチルメタクリレート、ホスホニルオキシプロピルメタクリレート等のホスホニルオキシ低級アルキル(メタ)アクリレート
【0030】
(4)メトキシメチルアクリレート、メトキシエチルアクリレート、エトキシメチルアクリレート、エトキシエチルアクリレート、メトキシメチルメタクリレート、メトキシエチルメタクリレート、エトキシメチルメタクリレート、エトキシエチルメタクリレート、メトキシブチルアクリレート等の低級アルコキシ低級アルキル(メタ)アクリレート;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等のヒドロキシ低級アルキル(メタ)アクリレート
【0031】
(5)メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n−ブチルアクリレート、n−ブチルメタクリレート、t−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、オクチルアクリレート等のアルキル(C=1〜8)(メタ)アクリレート
【0032】
(6)スチレン、メチルスチレン、酢酸ビニル、アクリロニトリル、α位で分岐した飽和カルボン酸のビニルエステル、塩化ビニル、ビニルトルエン、エチレン等のその他のエチレン性モノマー
【0033】
尚、上記(1)〜(6)において低級アルキル、低級アルコキシにおける「低級」は炭素数1〜4、特に1〜2であることを示す。
【0034】
本発明に係る有機ビルダーの総量は、特に限定されないが、例えば(X)及び/又は(Y)成分を用いる場合には、好適には0.2〜20.0g/Lであり、1.0〜10.0g/Lがより好適である。0.2g/L未満では、通常の苛性ソーダエッチングなどで発生する水酸化アルミなどの表面に吸着するスマット発生の抑制効果が認められず、20.0g/Lを超える量を含有させても著しい効果が認められず、またコスト高になり好ましくない。
【0035】
(キレート剤)
本発明に係るキレート剤としては、例えばL−グルタミン酸、ニトリロトリ酢酸、エチレンジアミン四酢酸、エチレンジアミン二酢酸、トリエチレンテトラミン六酢酸等のアミノカルボン酸又はそのアルカリ金属塩(例えばナトリウム塩、カリウム塩)若しくはアンモニウム塩若しくは低級アミン塩(例えばトリエチルアミン塩)等の塩、リンゴ酸、クエン酸、グルコン酸、ヘプトグルコン酸等のオキシカルボン酸又はそのアルカリ金属塩(例えばナトリウム塩、カリウム塩)若しくはアンモニウム塩若しくは低級アミン塩(例えばトリエチルアミン塩)等の塩等が挙げられる。これらの中ではオキシカルボン酸若しくはその塩、特にオキシカルボン酸のアルカリ金属塩を用いるのが好ましい。上記キレート剤は単独若しくは2種以上組み合わせて用いることができる。
【0036】
本発明に係るキレート剤の総量は、アルカリ洗浄液の全重量を基準として、0.1〜10g/Lが好適であり、0.5〜5g/Lがより好適である。この配合量が0.1g/L未満では洗浄効果の向上が不充分であり、10g/Lより多くても、その効果が飽和してしまい不経済である。
【0037】
(他の成分)
本発明に係るアルカリ洗浄液は、必要に応じ、他の成分を含有してもよく、例えば、洗浄用界面活性剤、消泡剤、を挙げることができる。
【0038】
(アルカリ洗浄液の物性)
本発明に係るアルカリ洗浄液のpHは、10〜13であることが好適であり、11〜12.5であることがより好適である。
【0039】
《アルミホイールの製造方法》
次に、本発明に係るアルミホイールの製造方法を説明する。まず、アルミホイールの製造方法には、金型に溶かしたアルミニウム合金(溶湯)等を流し込み、それを固めてホイールの形にする製法(鋳造)と、型に合わせて軽合金を何千トンもの力でプレスする製法(鍛造)があるが、本発明に係るアルミホイールの製造方法は、鋳造に係る方法である。そして、本発明に係るアルミホイールの製造方法は、高圧鋳造法を除く各鋳造法(低圧・中圧・重鋳法、傾鋳法等)で鋳造された後のショットブラスト工程の省略が特徴的である。尚、本発明に係るアルミホイールの製造方法において、新規な工程はケミカルエッチング工程のみであり、それ以外の工程は従来法と変わらない。したがって、以下で記載した工程はあくまで一例に過ぎず、本発明は、鋳造によるアルミホイール製造法として公知であるすべての製造法を対象としている。したがって、以下では具体的に記載していない、アルミホイールの製造方法に組み込まれ得る工程(例えば、溶体化処理、水焼入れ、時効処理等)を含む製造方法についても、鋳造工程後に当該ケミカルエッチング工程を含むアルミホイールの製造方法である限り、本発明の技術的範囲内である。
【0040】
(鋳造工程)
本発明に係る鋳造工程は、離型剤を塗布した金型にアルミホイールの素材を流し込む高圧鋳造法を除く各鋳造法(低圧・中圧・重鋳法、傾鋳法等)で鋳造される工程である。ここで、アルミホイールの素材としては、例えば、アルミニウム合金基材(例えば、AC−4C若しくはAC−4CH)が使用可能である。例えば、AC−4CHは、Siを6.5〜7.5wt%、Mgを0.2〜0.4wt%を含み、Feを0.2wt%以下としたアルミニウム合金である。このように、前述のアルミニウム合金基材は、アルミニウム以外の異種金属として、Siを最も多く含有する。尚、上述した異種金属の他、CuやNiも含有している。
【0041】
(ケミカルエッチング工程)
本発明に係るケミカルエッチング工程は、前述のアルカリ洗浄液を、高圧鋳造法を除く各鋳造法(低圧・中圧・重鋳法、傾鋳法等)で鋳造された後のアルミホイール表面に適用する工程である。工程については特に限定されるものではないが、処理液の温度としては、30〜60℃の処理温度で、30秒〜10分程度の浸漬処理で実施され、その後表面に残存したアルカリ液を水洗において除去することが望ましい。当該アルカリ洗浄液により、アルミホイール表面がエッチングされ、アルミホイール表面に付着している酸化アルミニウムやその他の金属酸化物の皮膜や機械油や切削油等の有機不純物等が除去される。この際、アルミホイール表面における酸化物Siに対する金属SiのSi原子割合の比を0.01〜9、好適には0.05〜5、より好適には0.1〜1に制御することがよい。このようにSi原子割合の比を0.01以上とすることにより、表面の金属酸化膜が十分に除去される結果、後で形成させるノンクロメート皮膜との十分な密着性や耐食性を担保することが可能になる。他方、Si原子割合の比を9以下とすることにより、エッチングし過ぎることによる局部電池腐食を防止することが可能になる。ここで、酸化物Siに対する金属SiのSi原子割合の比は、X線光電子分光分析装置(ESCA)を用いて、酸化物Siと金属Siの強度より算出したものである。この際、エッチング量を0.1〜10g/mとすることが好適であり、5〜7g/mとすることがより好適である。ここで、「アルミホイール表面における酸化物Siに対する金属SiのSi原子割合の比」における「アルミニウム表面」とは、必ずしも限定されないが、通常、最表面を軽くスパッタリングした後の表面を対象とすることにする。この場合、「アルミニウム表面」は、その分析条件により多少変化すると考えられるが、通常アルミニウムの最表面から数nm〜200nm位、一例を挙げれば、6〜200nmの深さ部分を測定することが望ましい。このように、最表面を測定対象から外す意味は、表面処理後のアルミニウムの最表面を測定してもコンタミ成分や酸化などを回避できないためであり、今回は、最表面と最表層(1層目)の情報は対象外としている。尚、酸化物Siに対する金属SiのSi原子割合の比は、実施例で説明しているように6〜200nmの深さ部分における各層で測定された当該比の平均値を意味する。
【0042】
(水洗い工程)
ケミカルエッチング工程後、2回以上水洗い処理を行なうことが好適である。これにより、アルカリ洗浄液を希釈して反応を停止させる。更に、当該水洗い処理により、次の工程に持ち込まれる前記工程のアルカリ洗浄液の量を減少させることもできる。
【0043】
(塗装の前処理工程)
前記水洗い工程後、別工程において塗装の表面処理を行う。この塗装の表面処理は、脱脂処理、酸洗処理、化成処理で構成される。各工程の間には水洗処理が行なわれる。尚、化成処理後に後処理を行ってもよい。また、本最良形態では化成での表面処理例を記載するが、これには限定されず、塗布型での表面処理でもよい。
【0044】
先ず、該脱脂処理は、特に限定されず、通常のアルミホイールの処理で用いられているアルカリ脱脂洗浄等を挙げることができる。この脱脂処理により、油脂性物質を除去したり、表面に浮き上がらせることが可能になる。加えて、引き続いて実施される酸洗処理に使用される酸性水溶液のアルミホイールに対する濡れ性が向上し、より確実に酸洗を行うことが可能になる。
【0045】
上記脱脂処理を行なった後に、2回以上の水洗い処理を行なうことが好適である。これにより、脱脂処理に用いる処理剤を希釈して反応を停止させることができる。加えて、この水洗い処理により、次の工程に持ち込まれる前記工程の処理剤の量を減少させることもできる。
【0046】
上記水洗い処理を行った後に、酸洗処理を実施する。当該酸洗処理としては、アルミホイールにおけるノンクロメート処理を有する塗装の前処理において用いられる方法で行なうことができる。当該酸洗を実施すると、アルミホイールの表面の汚れや酸化膜を除去することができる。加えて、当該酸洗いを実施すると、アルミホイール表面が活性化し、化成皮膜が形成しやすくなる。
【0047】
上記酸洗処理を行なった後に、水洗い処理を行なう。この水洗い処理を2回以上行なうことが好ましい。これにより、酸洗処理に用いる処理剤を希釈して反応を停止させることができる。加えて、この水洗い処理を実施すると、次の工程に持ち込まれる前記工程の処理剤の量を減少させることもできる。
【0048】
次に、化成処理や必要に応じて後処理を施すことにより、アルミホイール表面に化成皮膜を形成する。該化成処理や後処理としては、例えば、特開2003−313681号公報、特開2003−27253号公報記載等のアルミホイールの塗装の前処理に用いられるノンクロメート処理の方法で行なうことができる。ノンクロメート処理において、クロムイオンを代替する金属としては、コバルト、亜鉛、チタン、シリカ、バナジウム、セリウム、モリブデン、タングステン、ジルコニウム等からなる単金属塩、又はそれらの組み合わせた複合金属塩を使用し、その塩として、硫酸塩、リン酸塩、硝酸塩、フッ酸塩、塩化塩、アルミニウム塩、酢酸塩等が使用可能である。
【0049】
前記化成処理を行った後、2回以上の水洗処理を行なうことが好適である。そして、当該水洗処理後、エアブロー等により水切りを行った後に、水切り乾燥を実施する。
【0050】
(塗装工程)
塗装の前処理工程を実施した後、アルミホイールの表面に塗装を行う。当該塗装工程としては、ノンクロメート処理を有する表面処理が施されたアルミホイールに用いられる通常の塗装方法が採用し得る。
【0051】
実施例
実施例及び比較例については、表1の通りの洗浄液を作製し、表2に記載されている方法で浸漬処理を実施し、その後純水処理及びドライヤーにより表面に残存している水を除去した。その後、エッチング量、金属Si/酸化物Siの比(ESCA強度比)、塗装後のCASS(JIS Z 8502に準拠)240時間後の塗膜の状態について調査し、その結果を表3に整理した。ここで、アクリル樹脂の重量平均分子量は、GPCによる測定装置(HPC−220 トーソー株式会社製)によりRI(屈折差)を測定することにより決定した。尚、分子量の計算は、ポリスチレン換算で行った。
【0052】
また、塗装前処理と塗装は下記条件で実施した。
(1)塗装前処理:脱脂、水洗、酸洗、水洗、化成処理、水洗、純水洗、乾燥(120℃、20分)の順に従い処理を行った。
(1−1)脱脂:市販のアルカリ系脱脂剤FC−359(日本パーカライジング(株)製)を用い、50℃で2分間スプレー処理を行った。
(1−2)酸洗:市販の酸洗剤PL−5552(日本パーカライジング(株)製)を用い、50℃で1分間スプレー処理を行った。
(1−3)化成処理:市販のジルコニウム系(Zr系)クロムフリー化成処理剤(日本パーカライジング(株)製)を用い、45℃で1分間スプレーにてZr系クロムフリー処理を行った。
(2)塗装:市販の粉体塗料エバクラッド5600(関西ペイント(株)社製)を用いて膜厚100μm、焼き付け160℃20分を行った後、市販の溶剤塗料マジクロンALCベースクリアー(関西ペイント(株)社製)を用いて膜厚30μmで塗装し、次いで、市販の溶剤塗料マジクロンALCクリアー(関西ペイント(株)社製)を用いて膜厚で30μm塗装した後、焼き付け140℃20分を行った。
【0053】
尚、アルミホイール表面の酸化物Si及び金属Siの強度比の測定に際しては、以下の装置を用いて以下の条件で実施した。本実施例においては、最表層(1層目)を除いた2〜15層目(6〜200nm)における強度比を測定した上、これら強度比の平均値を「強度比」とした(図1参照)。
X線光電子分光分析装置(ESCA)
型式:ESCA-850M型(島津製作所製)
励起X線:Mg-Kα
励起エネルギー:8kV-30mA
分析径:6mmφ
スパッタリングレート:80nm/min(SiO2換算)
スパッタリング時間:トータル35秒
【表1】

【表2】

【表3】

【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】図1は、実施例に係るアルミホイール表面の酸化物Si及び金属Siの各層での強度比の測定チャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミホイールの製造方法において、当該アルミホイール表面における酸化物Siに対する金属SiのSi原子割合の比が0.01〜9となるまで、アルカリビルダー、有機ビルダー及びキレート剤を含有するアルカリ洗浄液で当該アルミホイール表面をケミカルエッチングする清浄化工程を含む、アルミホイール表面の洗浄に際してショットブラスト処理工程の省略が出来ることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記アルカリビルダーは、アルカリ金属水酸化物、炭酸アルカリ金属塩、無機リン酸アルカリ金属塩、珪酸アルカリ金属塩及びアルミン酸アルカリ金属塩からなる群より選択される一種以上であり、前記アルカリ洗浄液のpHは、10〜13に調整されている、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記有機ビルダーは、有機ホスホン酸又はその塩、及び/又は、分子量が500〜10000であるエチレン性不飽和有機酸モノマーの単独若しくは共重合体(他のエチレン性モノマーとの共重合体も含む)又はその塩である、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
前記キレート剤は、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、グリコール酸、グルコン酸、ヘプトグルコン酸、エチレンジアミン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸及びL−グルタミン酸から選択される一種以上である、請求項1〜3のいずれか一項記載の方法。
【請求項5】
前記清浄化工程において、エッチング量を0.1〜10g/mとする、請求項1〜4のいずれか一項記載の方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−59464(P2010−59464A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−225644(P2008−225644)
【出願日】平成20年9月3日(2008.9.3)
【出願人】(391006430)中央精機株式会社 (128)
【出願人】(000229597)日本パーカライジング株式会社 (198)
【Fターム(参考)】