説明

アルミン酸塩蛍光体及びその製造方法、並びに該蛍光体を用いた冷陰極蛍光ランプ

【課題】 真空紫外線や紫外線励起下において、従来のものと同等以上の高輝度の緑色の発光を呈するTb付活のセリウム・マグネシウム・アルミン酸塩蛍光体とTb・Mn共付活のセリウム・マグネシウム・アルミン酸塩蛍光体とを提供する。
【解決手段】 一般式I:(CexTb1-x23・yMgO・nAl23(ただし、式中、x、y及びnはそれぞれ、0<x<1、0.6≦y≦1.8、7≦nの条件を満たす数である)、または一般式II:(CexTb1-x23・y(Mg1-zMnz)O・nAl23(ただし、式中、x、y、z及びnはそれぞれ、0<x<1、0.6≦y≦1.8、0<z≦1、7≦nの条件を満たす数である)で表されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線及び真空紫外線、特に180nm〜300nmの紫外線による励起下で、従来のものと同等以上の高輝度な緑色発光を呈するTb付活のセリウム・マグネシウム・アルミン酸塩蛍光体およびTb・Mn共付活のセリウム・マグネシウム・アルミン酸塩蛍光体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アルミン酸塩系の緑色発光蛍光体の1つとして、Tb付活のセリウム・マグネシウム・アルミン酸塩蛍光体(以下、CAT蛍光体ともいう)やTb・Mn共付活のセリウム・マグネシウム・アルミン酸塩蛍光体(以下、CAT:Mn蛍光体ともいう)が知られている。
これら公知のCAT蛍光体≪(Ce,Tb)MgAl1119≫およびCAT:Mn蛍光体≪(Ce,Tb)(Mg,Mn)Al1119≫の化学量論組成は、通常(Ce+Tb):Mgあるいは(Ce+Tb):(Mg+Mn)がほぼ1:1(すなわち、蛍光体組成中のCe+TbとMgとの各モルの比、またはCe+TbとMg+Mnとの各モルの比がほぼ等しい)となる組成である。
【0003】
例えば、特許文献1では、組成が(Mg1-aMna)O・xAl23・yCe23zTb23であるCAT:Mn蛍光体が提案されており、該組成式において、(Ce+Tb):(Mg+Mn)を1:1に固定させたまま、Mnの置換量を増加させることで明るさの変化を試みている。
また、特許文献2には、組成が(1/2−x−y)Ce23・xLa23・yTb23・MgO・pAl23であるCeの一部をLaで置き換えることができるCAT蛍光体において、化学量論組成からp値(Al23の量)を増加させても、該化学量論組成と匹敵し得るか僅かに高い光束が得られることが開示されている。
【0004】
市場では常に従来品よりもより輝度の高い発光を呈する蛍光体の開発が望まれており、例えば、冷陰極蛍光ランプの蛍光膜用として用いられる緑色発光蛍光体についても、従来のものよりもより高輝度な緑色発光を生じる蛍光体の開発が要望されている。
【特許文献1】特開昭56−86983号公報
【特許文献2】特公昭57−61068号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、真空紫外線や紫外線励起下において、従来のものと同等以上の高輝度の緑色の発光を呈するTb付活のセリウム・マグネシウム・アルミン酸塩蛍光体とTb・Mn共付活のセリウム・マグネシウム・アルミン酸塩蛍光体とを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために、従来公知のCAT蛍光体およびCAT:Mn蛍光体の組成と輝度等の発光特性の関係について詳細に検討を重ねた結果、それら蛍光体の化学量論組成≪(Ce+Tb):Mgあるいは(Ce+Tb):(Mg+Mn)がほぼ1:1になる組成≫からずれた組成とすることによって、緑色発光の輝度が著しく向上することを見出し、本発明に至った。
このように、本発明のCAT蛍光体およびCAT:Mn蛍光体は、これら蛍光体を構成する各金属元素の含有比率が、化学量論組成からずれており、この化学量論組成からのずれ(不定比性)がそれら蛍光体の結晶構造の変化や光学的性質(発光特性)の変化をもたらし、優れた諸特性を有する蛍光体になり得るものと推測される。
【0007】
本発明は、このような知見をもとになし得たものであり、以下を要旨とする。
(1)一般式I:(CexTb1-x23・yMgO・nAl23(ただし、式中、x、y及びnはそれぞれ、0<x<1、0.6≦y≦1.8、7≦nの条件を満たす数である)で表されるアルミン酸塩蛍光体。
(2)一般式Iにおいて、式中のyが、0.8≦y≦1.6であることを特徴とする前記(1)に記載のアルミン酸塩蛍光体。
(3)一般式Iにおいて、式中のxが、0.5≦x≦0.9であることを特徴とする前記(1)または(2)に記載のアルミン酸塩蛍光体。
(4)一般式Iにおいて、式中のnが、11≦nであることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載のアルミン酸塩蛍光体。
【0008】
(5)セリウム(Ce)酸化物又は加熱によりセリウムの酸化物に変わりうるCe化合物、テルビウム(Tb)酸化物又は加熱によりテルビウムの酸化物に変わりうるTb化合物、マグネシウム(Mg)酸化物又は加熱によりマグネシウムの酸化物に変わりうるMg化合物、及びアルミニウム(Al)酸化物又は加熱によりアルミニウムの酸化物に変わりうるAl化合物を、組成式が前記(1)〜(4)のいずれかに記載の一般式Iとなる割合で混合し、焼成することを特徴とするアルミン酸塩蛍光体の製造方法。
(6)前記(1)〜(4)のいずれかに記載のアルミン酸塩蛍光体を蛍光膜として用いた冷陰極蛍光ランプ。
【0009】
(7)一般式II:(CexTb1-x23・y(Mg1-zMnz)O・nAl23(ただし、式中、x、y、z及びnはそれぞれ、0<x<1、0.6≦y≦1.8、0<z≦1、7≦nの条件を満たす数である)で表されるアルミン酸塩蛍光体。
(8)一般式IIにおいて、式中のyが、0.8≦y≦1.6であることを特徴とする前記(7)に記載のアルミン酸塩蛍光体。
(9)一般式IIにおいて、式中のxが、0.5≦x≦0.9であることを特徴とする前記(7)または(8)に記載のアルミン酸塩蛍光体。
(10)一般式IIにおいて、式中のnが、11≦nであることを特徴とする前記(7)〜(9)のいずれかに記載のアルミン酸塩蛍光体。
【0010】
(11)セリウム(Ce)酸化物又は加熱によりセリウムの酸化物に変わりうるCe化合物、テルビウム(Tb)酸化物又は加熱によりテルビウムの酸化物に変わりうるTb化合物、マグネシウム(Mg)酸化物又は加熱によりマグネシウムの酸化物に変わりうるMg化合物、マンガン(Mn)酸化物又は加熱によりマンガンの酸化物に変わりうるMn化合物、及びアルミニウム(Al)酸化物又は加熱によりアルミニウムの酸化物に変わりうるAl化合物を、組成式が前記(7)〜(10)のいずれかに記載の一般式IIとなる割合で混合し、焼成することを特徴とするアルミン酸塩蛍光体の製造方法。
(12)前記(7)〜(10)のいずれかに記載のアルミン酸塩蛍光体を蛍光膜として用いた冷陰極蛍光ランプ。
【発明の効果】
【0011】
本発明のアルミン酸塩蛍光体は、母体を構成する各成分元素自体は従来のCAT蛍光体およびCAT:Mn蛍光体とは同じ構成成分からなるにもかかわらず、(Ce+Tb)に対するMgの比率あるいは(Mg+Mn)の比率が従来の同系のものとは異なるため、従来の同系のものと比較して同等以上の輝度の緑色発光を呈し、しかも、比較的安価なAl23の母体成分に占める割合が高いため、製造コストが低減される利点を有する。
また、本発明のアルミン酸塩蛍光体は、冷陰極蛍光ランプのみならず、通常の水銀ランプに好適に使用することができ、更には真空紫外域の励起源を利用するプラズマディスプレイ等の真空紫外線発光素子に適用しても、その優れた特性が認められる。また、励起波長を適宜選択することにより、LED用等にも好適に使用しうる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の第一の態様としては、一般式I:(CexTb1-x23・yMgO・nAl23(ただし、式中、x、y及びnはそれぞれ、0<x<1、0.6≦y≦1.8、7≦nの条件を満たす数である)で表されるアルミン酸塩蛍光体である。
なお、組成中のMgについては、本発明の効果を大きく阻害しない範囲で、Mgにイオン半径が近い例えばSrやBaのような二価金属によって少量置換されていても何ら差し支えなく、また、Ceは同様にY,Gd,La等に少量置換されていても何ら差し支えなく、Alの一部をGaおよび/またはScにより置き換えてもよい。
【0013】
一般式Iで表されるアルミン酸塩蛍光体は、従来のCAT蛍光体の化学量論組成≪(Ce+Tb)の総モル:Mgのモルの比がほぼ1:1であるもの≫と比較して、緑色発光の輝度や所望とする色度等に応じて、(Ce+Tbの総モル):(Mgのモル)を2:0.6〜1.8とずらす(すなわち、前記一般式Iにおけるy値を2より小とする)ことに特徴を有する。
なお、前記のように従来のCAT蛍光体の化学量論組成とは、一般式Iにおけるxが任意の数であり、y値は2であり、n値は11である。
【0014】
また、一般式I中のx(蛍光体中のTbを置換するCeの比率)は、0<x<1の範囲内で適宜選択すればよいが、より高輝度を得るためには、前述の範囲のうちxが0.5以上が好ましく、更に好ましくは0.9以下である。
そして、一般式I中のy(蛍光体におけるCe23とTb23との総和に対するMgOの比率)が、0.6未満であると、十分な発光が得られにくい。一方、1.8を超えると、従来の化学量論組成に近づくことになり、発光輝度の向上が達成できない。y値の好ましい範囲としては、下限値が0.8以上、より好ましくは1.1以上であり、上限値が1.6以下である。
【0015】
また、一般式I中のn(蛍光体におけるCe23とTb23との総和に対するAl23の比率)は7以上である。このように、本発明の蛍光体では、化学量論組成からAl23の含有量を増加させても輝度の変化が小さいことに着目し(前述の特許文献2参照)、Al23の量を増加させることができる。他方、このn値が7未満であると、輝度特性が低下するので好ましくない。
ただし、n値が11以上になると、結晶の形状が丸みを帯びて、塗布した際の蛍光膜の膜質を向上させることが容易になるため好ましく、一方、20を超えると、輝度が下がり始めるため、発光輝度の点でn値としては、11≦n≦20がより好ましい。
【0016】
本発明の第二の態様としては、一般式II:(CexTb1-x23・y(Mg1-zMnz)O・nAl23(ただし、式中、x、y、z及びnはそれぞれ、0<x<1、0.6≦y≦1.8、0<z≦1、7≦nの条件を満たす数である)で表されるアルミン酸塩蛍光体である。
なお、MgとMnについては、上記第一の態様と同様、本発明の効果を大きく阻害しない範囲で、MgやMnにイオン半径が近い例えばSrやBaのような二価金属によって少量置換されていても何ら差し支えなく、また、Ceは同様にY,Gd,La等に少量置換されていても何ら差し支えなく、Alの一部をGaおよび/またはScにより置き換えてもよい。
【0017】
一般式IIで表されるアルミン酸塩蛍光体は、従来のCAT:Mn蛍光体の化学量論組成≪((Ce+Tb)の総モル:(Mg+Mn)の総モルとの比がほぼ1:1である組成≫と比較して、緑色発光の輝度や所望とする色度等に応じて、(Ce+Tbの総モル):(Mg+Mnの総モル)を2:0.6〜1.8とずらすことに組成上の特徴を有する。
なお、従来のCAT:Mn蛍光体の化学量論組成とは、一般式IIにおけるxが任意の数であり、y値は2であり、n値は11である。
【0018】
一般式II中のx(蛍光体中のTbを置換するCeの比率)は、0<x<1の範囲内で適宜選択すればよいが、より高輝度の蛍光体を得るには、0.5≦x≦0.9が好ましい。
一般式II中のy(蛍光体におけるCe23とTb23との総和に対する(MgO+MnO)の比率)が、0.6未満であると、十分な発光が得られにくい。一方、1.8を超えると、従来の化学量論組成に近づくことになり、発光輝度の向上が達成できない。y値の好ましい範囲としては、下限値が0.8以上、より好ましくは1.1以上であり、上限値が1.6以下である。
一般式II中のz(蛍光体中のMg+MnにおけるMnの比率)は、0<z≦1の範囲内で適宜選択すればよいが、色度点や輝度の点から、0<z≦0.2が好ましい。
【0019】
また、一般式II中のn(蛍光体におけるCe23とTb23との総和に対するAl23の比率)は7以上である。前記したように、本発明の蛍光体では、Al23の量を増加させることができる。他方、このn値が7未満であると、輝度特性が低下するので好ましくない。
n値が11以上になると、結晶の形状が丸みを帯びて、塗布した際の蛍光膜の膜質を向上させることが容易になるため好ましく、一方、20を超えると、輝度が下がり始めるため、発光輝度の点でn値としては、11≦n≦20がより好ましい。
【0020】
一般式Iで表されるアルミン酸塩蛍光体は、(i)酸化セリウム、または炭酸セリウム、硝酸セリウムなどの加熱によりセリウム(Ce)の酸化物に変わりうるCe化合物、(ii)酸化テルビウム、または炭酸テルビウム、硝酸テルビウム、塩化テルビウムなどの加熱によりテルビウム(Tb)の酸化物に変わりうるTb化合物、(iii)酸化マグネシウム、または炭酸マグネシウムなどの加熱によりマグネシウム(Mg)の酸化物に変わりうるMg化合物、及び(iv)酸化アルミニウム、または硫酸アルミニウムなど加熱によりアルミニウム(Al)の酸化物に変わりうるAl化合物を、組成式が該一般式I:(CexTb1-x23・yMgO・nAl23(ただし、式中、x、y及びnはそれぞれ、0<x<1、0.6≦y≦1.8、7≦nの条件を満たす数である)となる割合で混合し、焼成することによって製造することができる。
【0021】
また、前記一般式IIで表されるアルミン酸塩蛍光体は、前記(i)〜(iv)の化合物に加えてさらに(v)酸化マンガン、または塩化マンガン、炭酸マンガン、水酸化マンガンなどの加熱によりマンガン(Mn)の酸化物に変わりうるMn化合物を、組成式が該一般式II:(CexTb1-x23・y(Mg1-zMnz)O・nAl23(ただし、式中、x、y、z及びnはそれぞれ、0<x<1、0.6≦y≦1.8、0<z≦1、7≦nの条件を満たす数である)となる割合で混合し、焼成することを特徴とする以外は上記の一般式Iで表されるアルミン酸塩蛍光体と同様にして製造すればよい。
【0022】
本発明の製造方法は、例えば、以下のような手順で行うことができる。
1)上記のような原料を所定量秤取し、ボールミル、V型混合機などの混合手段により十分に混合する。
2)得られた混合物をアルミナ坩堝等の耐熱容器に充填して、還元雰囲気において1400〜1600℃で、高温炉中において炉の昇降温に要する時間も含めて10〜26時間焼成する。
3)得られた焼成物に、通常の蛍光体製造時に適用される後処理工程と同様の分散、洗浄、乾燥の諸処理を施す。
本発明では、焼成に供される蛍光体原料化合物の混合物中に、公知のアルミン酸塩蛍光体を得る場合と同様に、反応促進のためにフッ化アルミニウムなどのフッ化物またはホウ酸や酸化ホウ素等をフラックスとして添加してもよい。
【0023】
本発明のアルミン酸塩蛍光体の粒径に関しては、特に限定されないが、本発明の冷陰極蛍光ランプの蛍光膜などに適用する場合には、取り扱いや色の均一性の点から、FSSS粒度で1〜20程度の範囲から任意に選択すればよく、好ましくは2〜8である。
【0024】
本発明の冷陰極蛍光ランプは、このようにして得られた本発明のアルミン酸塩蛍光体を蛍光膜として用いる以外は、従来の冷陰極蛍光ランプと同様にして製造される。
すなわち、本発明のアルミン酸塩蛍光体を、必要に応じ他色の蛍光体とともに、例えば、低融点ガラス粉末、微粒子金属酸化物、あるいは微粒子金属硼酸塩または燐酸塩等の結着剤とともに水または酢酸ブチル、イソプロピルアルコール等有機溶媒の溶媒中に懸濁させて蛍光体塗布スラリーを調製し、これをガラス管内壁に塗布し乾燥させ蛍光膜を形成した後、これをベーキングしてから水銀封入、減圧、封止、電極装着すればよい。
【実施例】
【0025】
〔CAT蛍光体〕
実施例1〜8、比較例1〜2
6種の原料(CeO2、Tb47、MgCO3、Al23(アルファタイプ)、H3BO3、AlF3)を、それぞれ表1に示す組成になるよう十分に混合した後、坩堝に充填し、更に黒鉛の塊を蛍光体原料の上にのせ、蓋をして水蒸気を含んだ窒素雰囲気中で最高温度1550℃にて昇降温時間を含めて24時間かけて焼成した。原料中のH3BO3とAlF3は蛍光体の製造に一般的に用いられるフラックスである。
次いで、焼成粉について、分散、洗浄、乾燥、篩の処理を行い、実施例1〜8および比較例1〜2のTb付活アルミン酸塩蛍光体を得た。なお、組成に関しては、ICPにて確認した。
【0026】
得られた各蛍光体の発光色(色度)、相対輝度およびFSSS法(フィッシャーサブシーブサイザー法)により測定された平均粒子径について、併せて表1に示す。
なお、色度の測定には、色彩輝度計(コニカミノルタ社製 商品名“CS200”)を使用した。発光輝度については、標準品として、各実施例の蛍光体と同様にして測定された、市販の冷陰極蛍光ランプ用テルビウム付活リン酸ランタン蛍光体(化成オプトニクス社製 商品名“LP−G2”)の輝度を100としたときの相対値で示した。
【0027】
【表1】

【0028】
また、表1の結果(実施例1〜8及び比較例1、2)を基に、n値(Ce+Tbの総モルに対するAl23量のモル数)がそれぞれ11.0(×印)、及び13.0(●印)である蛍光体について、y値((Ce+Tb)の総モルに対するMg量)の変化に伴う各蛍光体の発光輝度の変化について、図1に示す。
なお、図示していないが、本発明の蛍光体において、前記のn値が11.0、あるいは13.0以外の値である場合にも、y値とその発光輝度との相関関係は、ほぼ図1に示す相関と類似の関係にあることが確認された。
【0029】
図2は、実施例1〜5および比較例1の各蛍光体を、波長254nmの紫外線で励起した時の発光スペクトルを例示するグラフであり、図3に、図2のスペクトルのメインピーク付近の波長域のスペクトルを拡大したものを示す。
図2,3からわかるように実施例の蛍光体の発光スペクトルは、542nmの発光強度に対し、545nmの発光強度が大きくなっており、また、490nm、580nm、620nm近傍のサブピークの発光強度には変化が見られないので、相対的に不要な発光が減り、発光ディスプレイ用の蛍光体として使用した場合、クロストークの改善が予測される。この理由は、青の発光である450nmに近い490nmのサブピークは、青のフィルターでカットしきれず、青の色純度が悪化してしまう。同様に580nmの発光は赤の色純度を悪化させる。本発明の蛍光体は、これらのサブピークの絶対的な強度は変わらないが、緑として使用されるメインの発光(542nm及び545nmの合計)は強度が上がっているので、相対的にはサブピークが低くなるのと同じ効果が得られるためである。
【0030】
〔CAT:Mn蛍光体〕
実施例9〜10、比較例3〜4
7種の原料(CeO2、Tb47、MgCO3、MnCO3、Al23(アルファタイプ)、H3BO3、AlF3)を、それぞれ表1に示す組成になるよう十分に混合した後、実施例1〜8および比較例1〜2と同様にして、焼成、分散、洗浄、乾燥、篩の処理を行い、実施例9〜10、及び比較例3〜4のTb・Mn共付活アルミン酸塩蛍光体を得た。なお、組成に関しては、ICPにて確認した。
【0031】
得られた蛍光体の発光色(色度)、相対輝度およびFSSS法(フィッシャーサブシーブサイザー法)により測定された平均粒子径について、併せて表1に示す。
色度、相対輝度、粒子径の測定方法については、実施例1〜8および比較例1〜2と同様である。
【0032】
図4は、実施例9〜10および比較例3〜4の蛍光体を、波長254nmの紫外線で励起した時の発光スペクトルを例示するグラフである。
図4からわかるように、実施例の蛍光体は、CAT蛍光体の場合と同様に、542nmに対する545nmの発光強度が向上すると同時に、517nm付近のMnの発光強度も向上していることがわかる。なお、図4は、この変化を明確にするため、542nmの発光強度を1とする規格化を行った図である。
【0033】
また、図5に示すように、本発明のアルミン酸塩蛍光体(実施例9〜10)は、化学量論組成のもの(比較例3〜4)に対し、水銀の発光に対する吸収も改善されている。
図5から、化学量論組成(y=2.0)からyを減少する方向にずらした本発明のアルミン酸塩蛍光体が、化学量論組成の従来の蛍光体に比べて、波長172nmを含むVUVの波長域でも、波長254nmの水銀線の波長域範囲でも、励起強度が上昇していることがわかり、特に140nmから300nmが好ましく、より好ましくは160nmから300nmである。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明のアルミン酸塩蛍光体は、従来公知のTb付活のセリウム・マグネシウム・アルミン酸塩蛍光体やTb・Mn共付活のセリウム・マグネシウム・アルミン酸塩蛍光体と同等以上の高輝度の緑色の発光を呈する。
したがって、真空紫外域や紫外域の励起を利用する冷陰極蛍光ランプ、水銀ランプ、プラズマディスプレイ、LEDなどの広範な分野に好適に使用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】一般式I:(CexTb1-x23・yMgO・nAl23で表されるアルミン酸塩蛍光体における該一般式I中のyと発光輝度との相関、およびnと発光輝度との相関を示したグラフである。
【図2】実施例1〜5および比較例1の蛍光体の各発光スペクトルを例示するグラフである。
【図3】図2に示したグラフのメインピークを拡大したグラフである。
【図4】実施例9〜10および比較例3〜4の蛍光体の各発光スペクトルを例示するグラフである。
【図5】実施例9〜10および比較例3〜4の蛍光体の各励起スペクトルを例示するグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式I:(CexTb1-x23・yMgO・nAl23(ただし、式中、x、y及びnはそれぞれ、0<x<1、0.6≦y≦1.8、7≦nの条件を満たす数である)で表されるアルミン酸塩蛍光体。
【請求項2】
前記一般式Iにおいて、式中のyが、0.8≦y≦1.6であることを特徴とする請求項1に記載のアルミン酸塩蛍光体。
【請求項3】
前記一般式Iにおいて、式中のxが、0.5≦x≦0.9であることを特徴とする請求項1または2に記載のアルミン酸塩蛍光体。
【請求項4】
前記一般式Iにおいて、式中のnが、11≦nであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のアルミン酸塩蛍光体。
【請求項5】
セリウム(Ce)酸化物又は加熱によりセリウムの酸化物に変わりうるCe化合物、テルビウム(Tb)酸化物又は加熱によりテルビウムの酸化物に変わりうるTb化合物、マグネシウム(Mg)酸化物又は加熱によりマグネシウムの酸化物に変わりうるMg化合物、及びアルミニウム(Al)酸化物又は加熱によりアルミニウムの酸化物に変わりうるAl化合物を、組成式が請求項1〜4のいずれか一項に記載の一般式Iとなる割合で混合し、焼成することを特徴とするアルミン酸塩蛍光体の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のアルミン酸塩蛍光体を蛍光膜として用いた冷陰極蛍光ランプ。
【請求項7】
一般式II:(CexTb1-x23・y(Mg1-zMnz)O・nAl23(ただし、式中、x、y、z及びnはそれぞれ、0<x<1、0.6≦y≦1.8、0<z≦1、7≦nの条件を満たす数である)で表されるアルミン酸塩蛍光体。
【請求項8】
前記一般式IIにおいて、式中のyが、0.8≦y≦1.6であることを特徴とする請求項7に記載のアルミン酸塩蛍光体。
【請求項9】
前記一般式IIにおいて、式中のxが、0.5≦x≦0.9であることを特徴とする請求項7または8に記載のアルミン酸塩蛍光体。
【請求項10】
前記一般式IIにおいて、式中のnが、11≦nであることを特徴とする請求項7〜9のいずれか一項に記載のアルミン酸塩蛍光体。
【請求項11】
セリウム(Ce)酸化物又は加熱によりセリウムの酸化物に変わりうるCe化合物、テルビウム(Tb)酸化物又は加熱によりテルビウムの酸化物に変わりうるTb化合物、マグネシウム(Mg)酸化物又は加熱によりマグネシウムの酸化物に変わりうるMg化合物、マンガン(Mn)酸化物又は加熱によりマンガンの酸化物に変わりうるMn化合物、及びアルミニウム(Al)酸化物又は加熱によりアルミニウムの酸化物に変わりうるAl化合物を、組成式が請求項7〜10のいずれか一項に記載の一般式IIとなる割合で混合し、焼成することを特徴とするアルミン酸塩蛍光体の製造方法。
【請求項12】
請求項7〜10のいずれか一項に記載のアルミン酸塩蛍光体を蛍光膜として用いた冷陰極蛍光ランプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−95687(P2010−95687A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−270155(P2008−270155)
【出願日】平成20年10月20日(2008.10.20)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】